特許訂正審判
2017-390124
1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体
- 審判番号
- 2017-390124
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2007-542886
- 登録番号
- 特許第6097946号(P6097946)
- 請求日
- 2017年11月20日
- 審決日
- 2018年05月08日
- 公報発行日
- 2019年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】レクサン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 【請求人】コーリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 佐藤 健史
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P141 .851-Z (C07D) / P141 .852-Z (C07D) / P141 .853-Z (C07D) / P141 .857-Z (C07D) / P141 .855-Z (C07D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第3項、特許法第126条第6項、特許法第184条の4第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6097946号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6097946号(以下「本件特許」という。)は、2005年10月18日(優先権主張2004年11月17日(KR)韓国2件)を国際出願日とする出願(特願2007-542886号)であって、その請求項1~8に係る発明について、平成29年3月3日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、平成29年11月20日に本件訂正審判の請求がなされ、平成30年1月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年3月1日に、意見書及び甲第1号証が提出されたものである。
第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判請求の趣旨は「特許第6097946号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
1 請求項1に係る訂正について
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1において、
「X及びYは各々NまたはC-R7であり」とあるのを、
「X及びYはC-Hであり」と訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1において、
「R2は塩素であり」とあるのを、
「R2は水素であり」と訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項1において、
「R3はC1-C3アルキルであり」とあるのを、
「R3はメチルであり」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項1において、
「R4、」とあるのを、
「R4はメトキシであり、」と訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項1において、
「R5、」とあるのを、
「R5は水素であり、」と訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の請求項1において、
「R6及び」とあるのを、
「そしてR6はメトキシである」と訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項1において、
「R7は」との記載を削除する。
(8)訂正事項8
訂正前の請求項1において、
「各々水素、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、C1-C3アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。」との記載を削除する。
(9)訂正事項9
訂正前の請求項1において、
「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない」との記載を削除する。
2 請求項2~5に係る訂正について
(1)訂正事項10
請求項2を削除する。
(2)訂正事項11
請求項3を削除する。
(3)訂正事項12
請求項4を削除する。
(4)訂正事項13
請求項5を削除する。
第3 訂正の適否
1 一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
本件訂正は、二以上の請求項が記載された特許請求の範囲の訂正を請求するものであるので、本件訂正が、特許法第126条第3項に規定する要件を満たすものであるかを検討する。
訂正事項1~9は訂正前の請求項1について訂正するものであるところ、請求項2~8は、いずれも直接的・間接的に請求項1を引用するから、実質的に訂正事項1~9により訂正されるものであり、これらの請求項は、特許法第126条第3項に規定する一群の請求項である。
そして、本件訂正は、上記の一群の請求項がある特許請求の範囲について、当該一群の請求項ごとに訂正を請求するものであるから、特許法第126条第3項の規定に適合する。
2 請求項1に係る訂正のうち訂正事項2について
本件訂正のうち、訂正事項2について検討する。
(1)訂正の目的について
訂正事項2が、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げられた目的とするものであるか否かについて検討する。
上記ただし書各号に掲げられた目的とするものであるか否かについての検討は、事案に鑑み、まず、明瞭でない記載の釈明について検討し、次いで、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正について検討し、最後に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることについて検討する。
ア 明瞭でない記載の釈明(特許法第126条第1項ただし書第3号)について
(ア)判断
訂正が、明瞭でない記載の釈明を目的としたものとして認められるには、特許がされた明細書又は特許請求の範囲のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、特許がされた明細書又は特許請求の範囲の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載を正し、その本来の意味を明らかにするものであることが必要であるといえる。
そこで、訂正事項2について検討すると、特許がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体において、「R2は、塩素であり」という記載は、それ自体からみて明らかな内容であり、不明瞭な記載ではない。また、この化学式1で表される化合物において、この化合物に置換する置換基であるR2が塩素であることは、特許がされた明細書に、「R2」は、「水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり」と記載され、「前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」と記載されており(【0009】を参照)、そして、「R2」が塩素である具体的な化合物として、化合物番号106~126、176~182が記載されていることからしても、不合理を生じている記載であるとはいえない。
また、特許請求の範囲の請求項1には、「ただし、R1とR2が同時に水素原子であることはない。」と記載がされているが、これは、後記カ(ア)b(a)で述べるように、ただし書に先立つ記載で特定される化学式1で表される化合物の構造を表現するものとして矛盾するものではないから、このただし書の記載は、この化合物を重畳的に特定する記載であり、改めてその範囲を限定する記載とはなっていない記載と解するべきであるものであるから、ただし書があることにより、化学式1で表される化合物が不明瞭になると解することはできない。
よって、ただし書の記載があることにより、「R2は、塩素であり」という記載が、不合理を生じているとはいえない。
上記したように、訂正事項2は、それ自体意味の不明瞭な記載とはいえず、また、特許がされた明細書又は特許請求の範囲の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載ではないが、訂正事項2が、本来の意味を明らかにするものであるかを、念のため検討する。
発明の詳細な説明には、化学式1で表される化合物において、「R2」は、「水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり」と記載され、「前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」と記載されており(【0009】を参照)、そして、実施例においても、R2として、多数の具体的な置換基の具体例が記載されていることからすると、それら多くの可能性が存在し、R2を「水素」とすることが、本来の意味を明らかにする訂正であるとはいえない。また、発明の詳細な説明の実施例において、R1が「フッ素」で、R2が「水素」である組合せの化合物が優れた効果を奏すること自体は、後記カ(エ)bで述べるように、R1が「フッ素」で、R2が「水素」であることが、本来の意味を明らかにするものであることの理由にはならない。
よって、訂正事項2が不明瞭となっている記載を正し、その本来の意味を明らかにする訂正であるとはいえない。
(イ)小括
以上のとおり、訂正事項2が、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であると認めることはできない。
イ 特許請求の範囲の減縮(特許法第126条第1項ただし書第1号)について
(ア)判断
訂正が、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとして認められるには、請求項の記載事項を限定することにより、特許請求の範囲を減縮することが必要であるといえる。
一方、訂正事項2は、請求項1において、化合物1中の置換基である「R2は塩素であり」とあるのを「R2は水素であり」と訂正するものであり、その範囲が変更されているのであるから、明らかに特許請求の範囲を減縮するものではない。
(イ)小括
以上のとおり、訂正事項2が、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であると認めることはできない。
ウ 誤記又は誤訳の訂正(特許法第126条第1項ただし書第2号)について
(ア)誤記の訂正について
訂正が、誤記の訂正を目的としたものとして認められるには、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることが必要である。
上記前提に立って訂正事項2を検討する。
a 請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであるかについて
(a)特許請求の範囲の記載について
特許がされた特許請求の範囲の請求項1は、以下のように記載されている。
「下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。
前記化学式1において、
X及びYは各々NまたはC-R7であり、
R1はフッ素であり、
R2は塩素であり、
R3はC1-C3アルキルであり、
R4、R5、R6及びR7は各々水素、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、C1-C3アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。
ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」
(b)特許がされた明細書の記載について
特許がされた明細書には、以下のように一般的な記載がされている。
「【0008】
本発明による方法で使用される化合物
本発明による方法で使用される化合物は化学式1で表される1-[6,7-置換アルコキシキノキサリニル]アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体を有するキノキサリン-ピペラジン誘導体を含む。
【0009】
化学式1
前記化学式1において、X及びYは各々NまたはC-R7であり、R1及びR2は各々水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり、R3はC1-C6アルキルであり、R4、R5、R6及びR7は各々水素、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C1-C6アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。
前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。
前記アルコキシとはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ及びt-ブトキシを含む C1-C6アルコキシを意味する。
前記アルキルはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル及びシクロヘキシルを含むC1-C6アルキルを意味する。
前記ハロアルキルはトリフルオロメチルのようにF、Clなどのハロゲンで置換されたC1-C6アルキルを意味する。
前記アルキルカルボニルはメチルカルボニルまたはエチルカルボニルのようにアルキルによりケトン化されたカルボニルを意味する。
【0010】
本発明による前記化学式1で表される化合物において、特に好ましくは、X及びYは各々N、C-H、C-F、C-Cl、C-CN、C-CH3またはC-OCH3であり、R1及びR2は水素原子、F、Cl,メチルまたはメトキシであり、R3はメチルであり、R4、R5及びR6は各々水素原子、Cl、Br、ニトロ、メチル、トリフルオロメチル、メトキシまたはアセチルであり、R7は水素原子、F、Cl、シアノ、メチルまたはメトキシである。」
また、段落【0023】以降の実施例においては、具体的に化学式1で表される化合物1~196を製造することが記載され、同【0248】~【0253】に記載された表1には、一般式(1)とともに、それぞれの置換基における具体的な部分構造式が記載されている。
(c)判断
まず、特許請求の範囲の記載をみると、本件訂正前の化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体において、この化合物に置換する置換基であるR2が塩素であることは、技術的に何ら不合理な点はなく、前述のとおり、ただし書の記載と両立するものであるから、請求項中の記載が、それ自体で、誤りであることが明らかであるとはいえない。
さらに、発明の詳細な説明の記載をみてみても、化学式1について、一般的な記載として、「R2」は、「水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであ」ることが記載され、「前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」とも記載されており(【0009】を参照)、これらの記載を総合すると、「R2」が塩素であることが記載されているといえ、また、実施例においても、化合物106~126、化合物176~182は、R2が塩素である化合物が具体的な製造方法とともに記載されている。
そうすると、特許がされた明細書には、一般式1において、「R2」が塩素であることは、具体的な記載を伴って記載されているといえるから、請求項中の記載が、特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであるとは到底いえない。
b 特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるか否かについて
本件訂正前の請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであるとはいえないことは、上記a(c)で述べたとおりであるが、仮に、R2は塩素であることが誤りであるとした上で、念のため、特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるか否かについて以下に検討を行う。
(a)訂正後の「R2は水素であり」という記載が、正しい記載として自明な事項として定まるか否かについての判断
上記a(b)で示したように、特許がされた明細書には、その段落【0009】において、「R1及びR2は各々水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり」と記載され、「前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」と記載されており、これらの記載を総合すると、「R2」が塩素であることが記載されているといえ、また、実施例では、「R2」は、「水素、フッ素、塩素、メチル基、メトキシ基」である化合物が具体的にそれぞれ記載されている。
そして、「R1」と「R2」の組合せの具体例としては、「R1」が「フッ素」の場合には、「R2」は、「水素又はフッ素」である2つに区分けされる化合物群が記載されている(「R2」が「水素」である具体例は化合物1~化合物21を参照。また、「R2」が「フッ素」である具体例は化合物169~化合物175を参照。)。
これらの記載をみる限り、「R2」の選択肢として、特許がされた明細書には、水素原子を含め様々な置換基が記載され、実施例であっても、水素、フッ素、塩素、メチル基、メトキシ基の化合物が記載されている。そして、具体的な化合物のうち「R1」が「フッ素」の場合であっても、「R2」は「水素又はフッ素」の2つの種類の化合物群が記載されていることからすれば、「R2は水素であり」という記載が、正しい記載であり、それが自明な事項として定まるとまではいえない。
(イ)誤訳の訂正について
訂正が、誤訳の訂正を目的としたものとして認められるには、特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載の意味が特許法第184条の4第1項の国際出願日における明細書及び請求の範囲(以下「国際出願日における国際出願の明細書等」という。)に対応する記載の意味と異なり、この記載を国際出願日における国際出願の明細書等の意味を表す記載に訂正する場合である必要がある。
ここで、R2について、国際出願日における国際出願の明細書等の請求の範囲第1項には、「・・・R2 are independently hydrogen, C1-C6alkoxy, C1-C6alkyl or halogen;」と記載され、同明細書の段落[22]及び[23]には、「・・・R2 are independently hydrogen, C1-C6alkoxy, C1-C6alkyl or halogen;・・・
In the above definitions, the designation 'halogen' represents F, Cl, Br, or I」と記載されており、その特許がされた特許請求の範囲には、「R2は塩素であり」と記載され、段落【0009】には、「・・・R2は各々水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり・・・
前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」と記載されているから、特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載の意味が国際出願日における国際出願の明細書等に対応する記載の意味と異なるところはなく、誤訳の訂正でないことは明らかである。
(ウ)小括
以上のとおり、訂正事項2が、誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正であると認めることはできない。
エ 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正(特許法第126条第1項ただし書第4号)について
訂正事項2が、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正でないことは明らかである。
オ 訂正の目的に関する審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書及び意見書において以下のような主張をしている。
(ア)訂正前の請求項1は、「R2は塩素であり」と記載され、同時に「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」と記載されており、これらの記載を併せてみると、R2の記載は文言上水素を包含しないからただし書と矛盾し不明瞭な記載であるとし、このただし書の記載からみて、R1及びR2は、それぞれ水素を含むから、R1の実質的に理解される定義は「水素又はフッ素」であり、R2の実質的に理解される定義は「水素又は塩素」であって、R2の定義に水素を文言上明確に記載して明瞭にし、そして、塩素を削除して上記実質的に理解されるR2の定義の範囲を減縮するものであるとし、特許法第126条第1項ただし書第3号(明瞭でない記載の釈明)及び第1号(特許請求の範囲の減縮)で規定される目的とするものであると主張する(審判請求書第6頁第23行~第7頁第15行、意見書第2頁第16行~第3頁第9行、第3頁第16行~第4頁第14行)(以下「主張a」という。)。
(イ)上記主張aのうち、「R2は塩素であり」との記載と「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との記載は矛盾するから不明瞭な記載であり、このただし書の記載からみて、R1の実質的に理解される定義は「水素又はフッ素」であり、R2の実質的に理解される定義は「水素又は塩素」であることを前提に、以下の主張をしている。
a 主張b-1
ただし書の記載からみて、R1の選択肢は「水素又はフッ素」であり、R2の選択肢は「水素又は塩素」であり、請求項1は、R1とR2の組合せとして
a)R1はフッ素であり、R2は塩素である
b)R1はフッ素であり、R2は水素である
c)R1は水素であり、R2は塩素である
が考えられ、a)の選択肢は、実施例において具体的な化合物が記載されておらず、c)の選択肢は、実施例に記載された具体的な化合物115が、顕著な効果を示さないとして拒絶されていることから、b)の選択肢が唯一合理的な選択肢であると主張している(意見書第4頁第20行~第5頁第2行、第5頁第9~25行)。
また、拒絶査定において高い活性を有すると認めた化合物10は、R1は「フッ素」、R2は「水素」の組合せであるから、R1は「フッ素」、R2は「水素」の組合せは、合理的な選択肢であるとも主張する(意見書第6頁第20行~第7頁第1行)。
b 主張b-2
次に、R1が「フッ素」である場合に関し、R2は、「フッ素又は水素」の具体例が記載されており、R2が「フッ素」である化合物172が、顕著な効果を示さないことからみて、R1は「フッ素」、R2は「水素」の組合せは、合理的な選択肢であると主張している(意見書第4頁第20行~第5頁第8行、甲第1号証第5頁第27行~第6頁の表まで)。
(ウ)訂正前の請求項の記載と明細書の詳細な説明との間の関係に誤認があり、明細書の実施例には、R1が「フッ素」、R2が「塩素」の組合せの具体的な化合物は記載されていない旨を主張する(意見書第4頁第15~19行、第5頁第17~19行)(以下「主張c」という。)。
(エ)甲第1号証(本件出願の代理人であった弁理士 小川信夫氏の平成24年1月27日付け陳述書)に記載された、本件特許出願に関する特許査定後の現地代理人とのやりとりを含めた経過を考慮すれば、訂正前の本件請求項1に係る発明は不明瞭であり、R2は水素を含むべきであることは明らかである旨の主張をする(意見書第6頁第1~19行)(以下「主張d」という。)。
カ 訂正の目的に関する審判請求人の主張についての検討
(ア)主張aについて
主張aを検討するにあたっては、特許請求の範囲の記載の検討に加えて、審査経過を含めて特許請求の範囲の請求項1の記載を検討することにより、請求項1に記載された化学式1中の「R2は塩素であり」の記載及び「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない」の記載について検討する。
a 本願の審査経過にともなう特許請求の範囲の請求項1の記載について
(a)国際出願の特許請求の範囲の翻訳文の記載
i 請求項1の記載
「下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。
前記化学式1において、X及びYは各々NまたはC-R7であり、R1及びR2は各々水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり、R3はC1-C6アルキルであり、R4、R5、R6及びR7は各々水素、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C1-C6アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。」
ii R2等の記載
「R2」は、「水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり」と記載されている。
(b)平成20年3月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載
i 請求項1の記載
「下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。
前記化学式1において、X及びYは各々NまたはC-R7であり、R1及びR2は各々水素原子、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキルまたはハロゲンであり、R3はC1-C3アルキルであり、R4、R5、R6及びR7は各々水素、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、C1-C3アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。」
ii R2等の記載
「R2」は、「水素原子、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキルまたはハロゲンであり」と記載されている。
(c)平成22年7月8日付け拒絶理由通知について
本願請求項1に係る発明に対する拒絶理由は、上記拒絶理由通知に記載された拒絶理由1(新規性)及び2(進歩性)に関するものであって、引用文献3(特表2002-538153号公報)が引用され、備考の項目に以下の事項が示されている。
「【理由1について】
・・・
・備考)引用文献3には、本願の化学式1に該当する化合物が記載され、さらに該化合物が抗腫瘍活性を示すことも記載されている(化合物:実施例36等、抗腫瘍活性:段落【0332】~【0334】)。
【理由2について】
・・・
・備考)請求項1-6,9,10に係る発明と引用文献3に記載された発明を対比すると、同項に係る発明はキノキサリン環の6位、7位の置換基としてアルコキシ、アルキル、ハロゲンといった水素原子以外の官能基を有する化合物が含まれる点で、引用文献3に記載された発明と相違する。
しかしながら、創薬化学の技術分野において、活性向上を期待して、中心骨格構造を固定し、その周辺の置換基を種々改変した化合物を創製することは、当業者が一般的に行う技術的事項に過ぎないから、引用文献3記載のキノキサリン化合物において、キノキサリン環の6位、7位にアルコキシ、アルキル、ハロゲンといった創薬化学で汎用される置換基を導入した化合物を創製し、その抗腫瘍活性を確認することは、当業者が容易に想到するものである。また、明細書の記載をみても、本願発明の奏する効果が当業者にとって進歩性を推認するに足る格別顕著なものとは認められない。」
(d)平成23年1月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載
i 請求項1の記載
この補正により、請求項1は、以下のように記載されている。
「下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。
前記化学式1において、X及びYは各々NまたはC-R7であり、R1及びR2は各々水素原子、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキルまたはハロゲンであり、R3はC1-C3アルキルであり、R4、R5、R6及びR7は各々水素、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、C1-C3アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」
ii R2等の記載
「R2」は、「水素原子、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキルまたはハロゲンであり」と記載され、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」という記載が付加された。
iii 平成23年1月20日付け意見書における主張
引用文献3に記載された化合物は、キノキサリン環の6、7位に置換基を有していないので、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」と規定された本願発明と明確に区別される旨の主張をし、また、本願発明の化合物(R1及びR2が同時に水素原子であることはない化合物)は、引用文献3に記載された化合物(R1及びR2が同時に水素原子である化合物)と比較して、顕著な効果を奏する旨の主張をしている。
(e)平成23年2月14日付け拒絶査定について
平成23年2月14日付け拒絶査定には、「この出願については、平成22年7月8日付け拒絶理由の理由2によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、備考の項目に以下の事項が示されている。
「出願人は意見書にて本願発明の奏する効果について、引用文献3の化合物42との比較試験結果を示し、キノキサリン環の6位、7位にアルコキシ、アルキル、ハロゲン等の置換基を導入した本願発明の化学式1で表される化合物は当業者が予測し得ない程度の優れた抗腫瘍活性を奏する旨主張する。
確かに意見書中の比較試験結果に使用される本願発明の化合物10は、引用文献3の化合物42に比して優れた抗腫瘍活性を示すものと認められる。
しかしながら、本願明細書の表2に記載される薬理試験結果をみると、引用文献3の化合物42と同程度の活性又は劣る活性を示す化合物も存在する(例えば化合物52,73,115,136,157,172,193など)ことから、化学式1で表される化合物全体についてまで格別顕著な効果を奏するものと認めることができない。
したがって、上記出願人の主張は採用することができない。」
(f)平成23年6月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載(本件訂正前の特許請求の範囲の記載)
i 請求項1の記載
「下記化学式1で表される1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体又は薬剤学的に許容可能なそれらの塩。
前記化学式1において、
X及びYは各々NまたはC-R7であり、
R1はフッ素であり、
R2は塩素であり、
R3はC1-C3アルキルであり、
R4、R5、R6及びR7は各々水素、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、C1-C3アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。
ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」
ii R2等の記載
「R2は塩素であり」と記載され、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」という記載は付加されたままである。
b 検討
(a)まず、特許請求の範囲の記載をみてみると、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、化学式1で表される化合物について、ただし書以外の記載として、「化学式1
前記化学式1において、
X及びYは各々NまたはC-R7であり、
R1はフッ素であり、
R2は塩素であり、
R3はC1-C3アルキルであり、
R4、R5、R6及びR7は各々水素、C1-C3アルコキシ、C1-C3アルキル、C1-C3ハロアルキル、C1-C3アルキルカルボニル、ハロゲン、シアノまたはニトロである。」
と記載されており、ただし書の記載がなくても化学的にみて化合物自体として何ら不合理な点はなく明確に記載されている。
次に、特許請求の範囲の請求項1の「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との記載により、特許請求の範囲の記載が不明瞭となるかについて、ただし書の記載がなされた経緯を含めて検討する。
請求項1に、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」が記載されたのは、平成23年1月20日付け手続補正による補正であり(上記(d)i、iiを参照)、これは、同日付の意見書での主張からみて(上記(d)iiiを参照)、平成22年7月8日付け拒絶理由通知の理由1(新規性)及び2(進歩性)(上記(c)を参照)を回避するために化学式1で表される化合物を限定する記載であるといえる。
その後、平成23年2月14日付けで拒絶査定され、そして、平成23年6月20日付け手続補正により、化学式1で表される化合物が、「R1はフッ素であり、R2は塩素であり、」と特定がなされ、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との特定はそのまま補正されなかったものである。
この化学式1で表される化合物は、上述したとおり、ただし書の記載がなくても化学的にみて化合物自体として何ら不合理な点はなく明確であり、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」という特定は、ただし書に先立つ記載で特定される化学式1で表される化合物の構造を表現するものとして矛盾するものではないから、このただし書の記載は、この化合物を重畳的に特定する記載であり、改めてその範囲を限定する記載とはなっていない記載と解するべきである。
よって、ただし書の記載があることによって、化学式1で表される化合物において他の元素ないし置換基の組合せを容れる余地が生じ、化学式1で表される化合物が不明確になると解することはできない。
したがって、本件訂正前の請求項1の、「R2は塩素であり」という記載と、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」という記載について、R2の記載は文言上水素を包含しないから上記ただし書と矛盾しており、R2が不明瞭な記載であるなどとはいえない。
(b)次に、R1は「水素又はフッ素」、R2は「水素又は塩素」が本来の意味であるかについて検討するが、上記(a)で述べたように、特許請求の範囲の記載からみて、「R2は塩素であり」との記載と「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との記載は矛盾せず、不明瞭な記載であるとはいえないから、このただし書の記載からみて、R1の実質的に理解される定義は「水素又はフッ素」であり、R2の実質的に理解される定義は「水素又は塩素」であるとはいえない。また、発明の詳細な説明の記載をみても、化学式1で表される化合物として、「R1及びR2」は、「各々水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり」と記載され、「前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」と記載されており(【0009】を参照)、また、実施例には、R1及びR2とも、それぞれ「水素、フッ素、塩素、メチル基又はメトキシ基」とする具体的な化合物が記載されており、ただし書の記載があるからといって、R1の本来の意味が「水素又はフッ素」であり、R2の本来の意味が「水素又は塩素」であるとはいえない。
c 小括
以上のとおり、本件訂正前の請求項1の、「R2は塩素であり」という記載は明確であり、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」という記載との関係において、文言上水素を包含しないからただし書と矛盾し不明瞭な記載であるとはいえない。
よって、R2の実質的に理解される定義が「水素又は塩素」であるとはいえず、R2の定義に水素を文言上明確に記載して明瞭にしたとの主張を採用することはできない。
そして、R2の定義に水素を文言上明確に記載して明瞭にしたとの主張は採用することができないのであるから、R2として実質的に理解される定義である「水素又は塩素」から、水素を削除したとする主張も当然採用することはできない。
したがって、訂正事項2が、特許法第126条第1項ただし書第3号(明瞭でない記載の釈明)及び第1号(特許請求の範囲の減縮)で規定される目的とするものであるという審判請求人の主張aは採用することはできない。
(イ)主張bについて
a 上記(ア)b(a)及び(b)で述べたように、「R2は塩素であり」との記載と「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」との記載は矛盾するものではなく、この何ら矛盾することのないただし書の記載からみて、R1の実質的に理解される定義は「水素又はフッ素」であり、R2の実質的に理解される定義は「水素又は塩素」であるとはいえないから、これらを前提とする主張bはいずれも採用できない。
上述のとおり、主張bの前提となる主張aは採用できないものであるから主張bは採用できないものであるが、以下、念のため審判請求人が主張するR1は「フッ素」でR2は「水素」が合理的な組合せであることについても一応検討しておく。
b 主張b-1について
審判請求人の主張b-1は、特許請求の範囲の記載の、R1の実質的に理解される定義は「水素又はフッ素」であり、R2の実質的に理解される定義は「水素又は塩素」であり、R1とR2の組合せは3つの選択肢が考えられるとしているが、特許請求の範囲の記載から、R1の実質的に理解される定義は「水素又はフッ素」であり、R2の実質的に理解される定義は「水素又は塩素」であるといえないことは、上記(ア)b(b)で述べたとおりであるから、R1とR2の組合せに3つの選択肢があるとはいえない。また、発明の詳細な説明には、化学式1で表される化合物として、「R1及びR2」は、「各々水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり」と記載され、「前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」と記載されており(【0009】を参照)、また、実施例の記載をみても、「R1」及び「R2」の選択肢の組合せとして、多数の組合せの具体的な化合物が記載されていることからみて、R1とR2の組合せが、上記した3つの選択肢に限られるものとはそもそも解釈できない。
さらに、R1とR2の組合せに関して、a)の組合せについて、実施例において具体的な化合物が記載されていないこと、c)の組合せについて、実施例に記載された具体的な化合物が、顕著な効果を示さないことが指摘されていること、及び、b)の組合せについて、優れた効果を奏することは、特許がされた特許請求の範囲に記載された化学式1で表される化合物において、「R1はフッ素であり」と「R2は塩素であり」と明確に特定されている置換基の組合せに水素を含めた他の置換基の組合せを含みうる余地が生じて、この化学式1で表される化合物が不明瞭になることと何ら関係のないことであり、かつ、「R1はフッ素」で「R2は水素」の組合せが合理的な選択肢であるとはいえない。
したがって、実施例の有無や実施例における効果の程度が、「R1はフッ素」であり「R2は水素」であることが本来の意味を明らかにするものであることの理由にはならない。
c 主張b-2について
上記(ア)b(b)で述べたとおり、R1とR2の組合せに3つの選択肢があるとはいえない。そして、R1とR2の組合せに関する審判請求人の主張b-2は、実施例で示されたR1は「フッ素」で、R2は「フッ素」である具体的な化合物が、顕著な効果を奏さないことを指摘しているだけにすぎない。そしてこのことは、特許がされた特許請求の範囲に記載された化学式1で表される化合物において、「R1はフッ素であり」と「R2は塩素であり」と明確に特定されている置換基の組合せに水素を含めた他の置換基の組合せを含みうる余地が生じて、この化学式1で表される化合物が不明瞭になることと何ら関係のないことであり、かつ、R1はフッ素で、R2はフッ素である化合物が顕著な効果を奏さないことが、「R1はフッ素」で「R2は水素」の組合せが合理的な選択肢であることを示すことにはならず、そして、「R1はフッ素」であり「R2は水素」であることが本来の意味を明らかにするものであることの理由にもならない。
d 小括
以上のとおり、R1は「フッ素」、R2は「水素」の組合せが合理的な選択肢であるとする主張bはいずれも採用できない。
(ウ)主張cについて
審判請求人の主張は、要すれば、特許された特許請求の範囲に記載されたR1が「フッ素」で、R2が「塩素」である組合せの具体例が、発明の詳細な説明の実施例に記載されていない点を指摘するものである。
しかしながら、そもそも特許法では、「特許請求の範囲には、・・・特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」(第36条第5項)と規定されていて、発明の詳細な説明の「実施例」として記載されていることは、特許請求の範囲に記載されるために必要な事項ではない。そして、化学式1で表される化合物は、ただし書がなくても化合物として不合理な点はなく、ただし書とも両立することは、すでに述べたことである。さらに、特許がされた明細書にも、「R1及びR2」は、「各々水素原子、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルまたはハロゲンであり」と記載され、「前記ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨー素を意味する。」と記載されており(【0009】を参照)、また、R1がフッ素である化合物の具体例やR2が塩素である化合物の具体例が記載されており、特許請求の範囲にR1が「フッ素」で、R2が「塩素」であると記載しても、不合理な点はない。
よって、主張cを採用することはできない。
(エ)主張dについて
審判請求人は、甲第1号証(本件出願の代理人であった弁理士 小川信夫氏の平成24年1月27日付け陳述書)に記載された、本件特許出願に関する特許査定後の現地代理人とのやりとりを含めた経過を考慮すれば、訂正前の特許請求の範囲に記載された化学式1で表される化合物には、優れた効果を奏する化合物は含まれておらず、本件請求項1に係る発明が不明瞭であり、R2は水素を含むべきであることは明らかである旨の主張をしているが、この主張dは、上記(ア)及び(イ)で述べたとおりの理由により採用することはできない。
(オ)まとめ
以上のとおりであるから、審判請求人の主張はいずれも採用できない。
キ 訂正の目的についてのまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれを目的とするものではない。
(2)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
ア 判断
訂正が、実質上特許請求の範囲を変更するとは、特許請求の範囲の記載自体を訂正することによって特許請求の範囲を変更するものをいう。
そこで、訂正事項2をみると、訂正事項2は、本件訂正前の請求項1において、「R2は塩素であり」とあるのを、「R2は水素であり」と訂正しようとするものであり、その訂正の前の請求項1に記載される化合物1の置換基である「R2」が塩素であるとする化合物群から、「R2」が水素である化合物に訂正されるものである。
そうすると、訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲に記載された化合物群を、本件訂正後の異なる化合物群に変更するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明らかであるといえる。
イ 審判請求人の主張
審判請求人は、訂正前の請求項1において実質的に理解されるR2の定義は塩素および水素であるから、訂正事項2においてR2の定義に水素を記載することは実質的に理解される定義を文言上明確にするのに過ぎないとし、また、訂正事項2において塩素を削除することは、R2の選択肢のうちの1つの削除に過ぎないから、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合するものである、と主張する(審判請求書第7頁第22行~第8頁第6行、意見書第7頁第15~26行)。
ウ 審判請求人の主張の検討
上記(1)カ(ア)b(a)で述べたように、本件訂正前の化学式1で表される化合物は、ただし書の記載がなくても化学的にみて化合物自体として何ら不合理な点はなく明確であり、「ただし、R1及びR2が同時に水素原子であることはない。」という特定は、ただし書に先立つ記載で特定される化学式1で表される化合物の構造を表現するものとして矛盾するものではないから、このただし書の記載は、この化合物を重畳的に特定する記載であり、改めてその範囲を限定する記載とはなっていない記載と解するべきであって、これによって、化学式1で表される化合物において他の元素ないし置換基の組合せを容れる余地が生じ、化学式1で表される化合物が不明瞭になると解することはできない。
よって、これらの記載は不明瞭であるとはいえず、これを前提として、R1およびR2は水素も包含すること、すなわち訂正前のR2は塩素及び水素と定義されると実質的に理解されるというR2の定義を前提とした主張はそもそも採用することはできない。
したがって、R2は塩素と定義されている以上、この定義からR2は水素であるとする訂正は、実質上特許請求の範囲の変更であると解する他なく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないとする審判請求人の主張は採用することはできない。
エ 小括
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項に規定する要件に適合していない。
(3)まとめ
以上のとおり、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれを目的とするものではなく、また、同法同条第6項に規定する要件に適合しないから、訂正事項2による請求項1についての訂正を認めることはできない。
3 訂正事項1、3~13について
上記「第2 1」で示したとおり、訂正事項1、3~9は請求項1に係る訂正であり、また、訂正事項10~13は請求項2~5に係る訂正であって、上記1で述べたとおり、請求項1~8は一群の請求項である。
ここで、上記2(3)で述べたとおり、訂正事項2による請求項1についての訂正は認めることはできないから、一群の請求項である請求項1~5に係る訂正事項1、3~13による訂正も認めることはできない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれを目的とするものでなく、また、同条第6項に規定する要件に適合しないから、本件訂正を認めることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-390124