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特許拒絶査定不服審判

2017-010581

医薬的および栄養補助食品的アブシジン酸組成物

審判番号
2017-010581
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-041232外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年07月14日
審決日
2019年02月13日
公報発行日
2019年08月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2016- 41232「医薬的および栄養補助食品的アブシジン酸組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月15日出願公開、特開2016-166188〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 この出願は、2011年9月19日(パリ条約による優先権主張 2010年9月17日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-529395号の一部を平成28年3月3日に新たな特許出願としたものであって、平成28年3月24日に上申書及び手続補正書が提出され、同年12月13日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月29日付けで拒絶査定がされ、同年7月14日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年11月16日に上申書が提出され、平成30年6月26日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年8月6日に意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 この出願の発明は、平成29年7月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 医薬的有効量として、50mg/kg/日~1000mg/kg/日のアブシジン酸、および/またはその塩を含む、血中トリグリセリド値を低下させる薬剤。」 第3 当審の拒絶理由 当審において、平成30年6月26日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の理由1の概要は、「この出願の請求項1~3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」は、引用文献1として提示された米国特許出願公開第2010/0216883号明細書(以下「刊行物1」という。) 、及び引用文献2として提示された新医薬品の臨床評価に関する一般指針について、平成4年6月29日、薬新薬第43号、各都道府県衛生主管部長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知(以下「刊行物2」という。)である。 第4 判断 当審は、当審拒絶理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 刊行物 刊行物1:米国特許出願公開第2010/0216883号明細書 (2010年8月26日公開) 刊行物2:新医薬品の臨床評価に関する一般指針について、平成4年6月      29日、薬新薬第43号、各都道府県衛生主管部長あて厚生省      薬務局新医薬品課長通知 2 刊行物の記載事項 (1)刊行物1 刊行物1には、以下の事項が記載されている。なお、原文は外国語であるため、(1i)以外は訳文で示す。 (1a)「疾患及び障害を治療及び予防するためのアブシジン酸の使用方法」(表題) (1b)「アブシジン酸(ABA)は、インビトロでPPARγ活性を増加させ(5)、肥満のトランスジェニックモデルであるdb/dbマウス、及び高脂肪食(5, 6)を与えた野生型C57BL6/Jマウスにおいて、耐糖能を改善し、脂肪組織炎症を改善する。ABAによる耐糖能の改善は、造血細胞において発現されるPPARγに依存することが示された(6)。本発明者らはまた、ABAがApoE欠損マウスの大動脈における免疫細胞浸潤及び炎症を減少させることを以前に実証した(7)。この研究において、ABAのメカニズムは、細胞内メッセンジャーcAMPの上方調節とより合致していたが(7)、他の最近の研究は、cAMPの上方調節が、哺乳動物細胞におけるABAの作用機序に関与していることを示している(8, 9)。ABAを用いて行われた全ての研究において、副作用は観察されなかった。」([0007]) (1c)「図9は、体重、飼料摂取量、空腹時血糖及び血漿脂質に対するABAの効果を示すプロットを示す。パネルAは体重を示す;パネルBは飼料摂取量を示す;パネルCは空腹時血糖(FBG、ミリグラム/デシリットル)を示し、パネルDは血漿トリグリセリド(TG、mg/ml)を示す。データは、最小二乗平均+-マウス10匹の標準偏差として提示される。いくつかの時点におけるエラーバー(図9A及び9B)は記号よりも小さく、図では見ることができない。アスタリスクを有するデータ点は有意に異なる(p<0.05)。」([0027]) (1d)「一般に、本発明は、PPARγ発現及びリンパ球活性に関連する疾患及び障害の治療及び予防において、アブシジン酸及び構造的に関連する化合物、例えば、アブシジン酸、そのエステル、薬学的に適切なその塩、それらの代謝物、構造的に関連する化合物、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物の使用を提供する。例えば、特定の実施形態では、本発明は、高血糖、耐糖能異常、インスリン抵抗性、糖尿病前症、及び2型糖尿病の予防及び/又は治療に関する。本発明は、少なくとも部分的に、アブシジン酸がPPARγの発現に影響を及ぼすことができるという発見に基づいており、その効果は、PPARγの発現又は活性に関与するすべての疾患及び障害に関連する。」([0043]1~14行) (1e)「db/dbマウス:レプチン受容体の長いアイソフォームの両方の対立遺伝子を欠くマウスのタイプを定義するために使用される用語。この欠損は、2型糖尿病を発症する素因となる。」([0072]1~4行) (1f)「例えば、動物における2型糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、又はインスリン抵抗性を治療又は予防するために有効なアブシジン酸の量は、0.1-10,000mg/kg/日の範囲であり得る。アブシジン酸の好ましい有効量は、1~5,000mg/kg/日であり、より好ましい用量は、2~100mg/kg/日である。投与されるべき有効量の上限は重要ではなく、レシピエントの食事が必要な必須栄養素を含有する限り、アブシジン酸は比較的非毒性である。アブシジン酸の有効量は、約7~100日間、好ましくは15~50日間、最も好ましくは30~42日間の期間動物に投与した場合、動物の2型糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、及びインスリン抵抗性を治療又は予防するのに最も有効である。」([0104]) (1g)「実施例9 PPAR-活性におけるABAの役割のさらなる特徴付け 肥満は、白色脂肪組織(WAT)へのマクロファージ浸潤によって特徴付けられる低悪性度慢性炎症に関連する。しかしながら、脂肪組織マクロファージ(ATM)サブセットの表現型、及びインスリン感作化合物がサブセット特異的マクロファージ浸潤を調節するメカニズムは、未知のままである。以下の実験セットにおいて、本発明者らは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γアゴニスト、アブシジン酸(ABA)が、免疫細胞PPARγに依存する機構によってインスリン抵抗性を改善するかどうかを調査するための機能喪失アプローチを使用した。 ・・・ 材料及び方法 マウス及び飼料処置 BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/01aHsd(db/db)、C57BL16JバックグラウンドのPPAR Yflfl; MMTV-Cre+及びPPARγflfl; MMTV-Cre-マウスを、バージニア工科大学で動物施設において、22℃に維持された部屋で、6:00AMから開始する12:12H光:暗サイクルで飼育した。・・・ db/dbマウス(n=10)に、0mg又は100mgのラセミABA(Sigma-Aldrich,St.Louis,MS)/kg飼料を含有する前述の成分組成物(48)を伴う高脂肪食を36日間給餌した。36日目に、絶食したマウス(12 h)を炭酸ガスナルコーシスにより屠殺し、 Accu-Chek(R)(審決注:原文は○中R)グルコメーター(Roche,Indianapolis,Ind)による空腹時血糖値の評価のために、心臓から直接採血した。血漿はまた、MCP-1タンパク質レベル及び血漿トリグリセリド(TGs)の分析のために収集された。」([0172]5行~[0173]11行、[0175]~[0178]9行) (1h)「ABAは、体重の影響を受けることなく、空腹時グルコースをdb/dbマウスにおいて低下させ、血漿トリグリセリドを低下させる 図9は、ABAが体重増加を誘発することなく空腹時グルコース濃度を改善することを示す。体重、飼料摂取量、空腹時血糖及び血漿脂質に対するABAの効果が図に示されている。db/dbマウスに、対照又はABA補充(100mg/kg飼料)高脂肪食を36日間与えた。パネル(A):体重及びパネル(B):飼料摂取量は毎週評価した。食事処理後、絶食したマウス(12 h)から血漿を採取し、空腹時血糖(図9C; FBG、ミリグラム/デシリットル)及び血漿トリグリセリド(図9D; TG、mg/ml)を得た。データは、最小二乗平均±マウス10匹の標準偏差として提示される。いくつかの時点におけるエラーバー(図9A及び9B)は記号よりも小さく、図では見ることができない。アスタリスクを有するデータ点は有意に異なる(p<0.05)。 db/dbマウスへの36日間のABA補充は、空腹時グルコースレベルを有意に低下させ、腹腔内グルコース耐性試験に対するそれらの応答を改善する(48)。これらの以前の知見と同様に、ABAは実験過程全体を通じてdb/dbマウスの食物摂取量又は体重を変化させなかった(図9A及びB)。この研究では、ABA補充飼料を与えたdb/dbマウスは、対照高脂肪食を給餌したマウスと比較した場合、空腹時血糖(FBG)及び血漿TG濃度が有意に低かった(図9C及びD)。」([0192]~[0194]) (1i)「 」(図9) (2)刊行物2 刊行物2には、以下の事項が記載されている。 (2a)「臨床試験の目的は、治療薬の疾患又は症候に対する治療的ないし予防的効果や、さらにその使用に際しての危険性や副作用をヒトについて検討し、最終的には治療効果と副作用の相対的評価などに基づいて、臨床における有用性を評価することにある。」(1頁2~4行) (2b)「ごく初期の臨床試験の目的は、薬効又は副作用の面から投与量を徐々に上げながら決定して行くことである。」(8頁11~12行) (2c)「最小有効量のみならず、有効で安全な最大値をできるだけ検討し、有効量と安全量の範囲を明らかにしておくことが望ましい。」(10頁4~5行) (2d)「3)用法・用量 非臨床試験での全成績を詳細に検討、整理記録し、同効薬、類似構造薬に関する従来の知識、経験をも加味し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して、初回投与量とする。次に段階的に用量を増し、推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、可能ならば有効性の初期徴候を集める。これらの成績に基づいて反復投与量、投与期間を決定する。反復投与試験は、血中濃度が測定可能な治験薬については、血中濃度が定常状態に達するまで行う。血中濃度が測定し得ない治験薬については、臨床における将来の使用状況を推定し、薬効や副作用の出現に注意しながら適切な期間行われるべきである。いわゆる有害反応発現までの用量の範囲を求めることは行い難い状況にあることが少なくないが、その場合には、それまでに得られている非臨床試験成績との関連において、ヒトでの忍容性についての十分な根拠を綿密に検討しておくべきである。」(14頁下から5行~15頁8行) 3 刊行物に記載された発明 刊行物1は、「アブシジン酸を用いて疾患及び障害を治療及び予防するための方法」と題する特許文献であり(摘示(1a))、その疾患及び障害として、高血糖、耐糖能異常、インスリン抵抗性、糖尿病前症、及び2型糖尿病が記載されている(摘示(1d))。 そして、実施例9には、ラセミアブシジン酸(ABA)を0又は100mg/kg飼料の割合で含む高脂肪飼料を、糖尿病発症モデルであるdb/dbマウス(摘示(1e))に36日間与えた後、心臓から採取した血液の血漿トリグリセリドを分析したこと(摘示(1g))、及び、その結果、100mg/kg飼料のラセミアブシジン酸を含む飼料を与えたマウスが、含まない飼料を与えたマウスと比較して、有意に低い血漿トリグリセリド値を有していたこと(摘示(1c)、(1h)、(1i)の図9D)が記載されている。 そうすると、刊行物1には、上記のラセミアブシジン酸を含む飼料が、db/dbマウスにおける血漿トリグリセリド値を低下させたことが記載されているといえるから、 「ラセミアブシジン酸を100mg/kg飼料の割合で含む、db/dbマウスにおける血漿トリグリセリド値を低下させる飼料」(以下「引用発明」という。) の発明が記載されているということができる。 4 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ラセミアブシジン酸」は、本願発明における「アブシジン酸、および/またはその塩」に該当する。 また、血中トリグリセリド値は、通常、血漿又は血清を用いて測定されるものであるから、引用発明における「血漿トリグリセリド値」は、本願発明における「血中トリグリセリド値」に相当するものといえる。 さらに、引用発明における「飼料」は、「血漿トリグリセリド値を低下させる」という薬理作用を有するものであるから、本願発明における「薬剤」に相当するものといえる。 そうすると、両者は、 「アブシジン酸、および/またはその塩を含む、血中トリグリセリド値を低下させる薬剤」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) アブシジン酸及び/又はその塩の量について、本願発明においては、「医薬的有効量として、50mg/kg/日~1000mg/kg/日のアブシジン酸、および/またはその塩を含む」と特定されるのに対し、引用発明は、「100mg/kg飼料の割合で含む」点 5 相違点に係る容易想到性について 引用発明における血中トリグリセリド値は、db/dbマウスにおけるものであるが、動物で確認された薬理作用に基づいて医薬の開発を行うことはごく一般的であるから、刊行物1に接した当業者であれば、db/dbマウスにおいて確認されたアブシジン酸の血中トリグリセリド値低下作用を、ヒトにも適用して医薬とすることは、自然に思い至ることである。 また、医薬とするにあたり、臨床における有用性を評価するために、薬理作用や副作用、安全性等の観点から臨床試験を行い、薬効成分の用量を検討することは、当業者が当然に行う範囲内の事項である(摘示(2a)~(2c))。 そして、医薬の分野において、薬効成分の用量の増加に伴い、薬理作用が向上することは広く認識されているところ、臨床試験における用量を検討する際には、十分に安全と見込まれる低用量から始めて、段階的に用量を増していき、薬理作用、薬物動態、副作用を確認する手法が一般的に行われている(摘示(2d))。 一方、刊行物1には、「動物における2型糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、又はインスリン抵抗性を治療又は予防するために有効なアブシジン酸の量は、0.1-10,000mg/kg/日の範囲であり得る」(摘示(1f))と記載されており、この記載は血中トリグリセリド値を低下させるための用量についてのものとはいえないものの、続けて「投与されるべき有効量の上限は重要ではなく、レシピエントの食事が必要な必須栄養素を含有する限り、アブシジン酸は比較的非毒性である」と記載されることや、摘示(1b)に「ABAを用いて行われた全ての研究において、副作用は観察されなかった」と記載されることからすれば、少なくとも副作用等の安全性の面からみて、アブシジン酸は「0.1-10,000mg/kg/日」の範囲で投与し得ると当業者は理解するものといえる。 以上のことを考え合わせると、引用発明を医薬に適用し、薬効成分であるアブシジン酸の用量を上記一般的な手法により検討すること、特に、血中トリグリセリド値低下作用の向上を期待して、「100mg/kg飼料」との用量について、上記「0.1-10,000mg/kg/日」の範囲内で適切な用量を検討することにより本願発明における用量範囲に至ることは、当業者であれば容易になし得ることである。 ここで、引用発明における「100mg/kg飼料」との用量につき、審判請求人は、平成30年8月6日付けの意見書において、「引用文献1では、平均体重25グラムのマウスが、1kgあたり100mgのアブシジン酸を含む飼料を、平均3グラム/日摂取し、該マウスは、12 mg/体重kg/日のアブシジン酸を投与されることになる」と主張している。 当該体重及び飼料摂取量は、摘示(1i)の図9A及び9Bのデータと合致するものではないが、仮に、引用発明における「100mg/kg飼料」との用量が12mg/kg体重/日であるとすると、引用発明におけるアブシジン酸の用量の検討にあたり、12mg/kg体重/日周辺の用量から始めて段階的に用量を増していき、より高い本願発明の「50mg/kg/日~1000mg/kg/日」なる用量範囲に至ることに、格別の困難性を見いだすことはできない。 6 効果について 本願の実施例には、S-アブシジン酸を0、2000、6000、又は20000ppm含む飼料を13週間与えたラットにおいて、トリグリセリドレベルを測定した結果、S-アブシジン酸処置に応じてトリグリセリドレベルの用量依存性の低下を示したことが記載されており(【0069】、【0071】、【0072】)、その具体的な測定データである表5からは、S-アブシジン酸の用量依存的にトリグリセリドレベルが低下することが読み取れる。そして、上記実施例には、トリグリセリドレベルが「血中」のものであることの記載はないものの、同時に血糖値の検討を行っていること(【0069】~【0070】)や、段落【0010】に「医薬的有効量のABAを患者に投与することを含む、・・・血中のトリグリセリド値を低下させる方法」と記載されることからみれば、上記トリグリセリドレベルは血中のものであると解されるといえる。 そうすると、本願発明の効果は、S-アブシジン酸を含む飼料が血中トリグリセリド値低下作用を有すること、及び、その作用が用量依存的であることにあるものと認められる。 しかし、上記3で説示したとおり、アブシジン酸を含む飼料が血中トリグリセリド値低下作用を有することは、すでに刊行物1に記載されており、また、上記5で説示したとおり、医薬の分野において、薬効成分の用量依存的に薬理作用が向上することは、広く一般に認識されていることからすれば、上記の本願発明の効果はいずれも、当業者の予想を超える顕著なものであるとすることはできない。 さらに、本願の実施例には、ラットの体重や飼料摂取量についての開示がなく、本願発明における「50mg/kg/日~1000mg/kg/日」なる用量と、実施例における2000、6000、又は20000ppmなる飼料含有割合との対応関係が不明であるところ、本願の実施例で示される上記結果から「50mg/kg/日~1000mg/kg/日」の範囲の上限及び下限に臨界的意義を見いだすことはできず、まして、ヒトをはじめとするラット以外の対象において、上記範囲とすることにより格別顕著な効果を奏するものとすることはできない。 7 審判請求人の主張について (1)審判請求人は、平成30年8月6日付けの意見書の中で、以下の主張をしている(「引用文献1」は「刊行物1」に相当する。)。 「審判官殿は、引用文献1によって教示された12 mg/体重kg/日を、さらに増加させることは当業者にとって自明であると主張される。また。審判官殿は、以下の理由から、投与量を増加させることが、自明であると説明される: 1)引用文献1は、アブシジン酸に副作用がないと述べている。 2)「薬理作用は、医薬成分の投与量の増加に伴い増加する」;および 3)「用量依存的な薬理学的効果は、本出願の実施例にも示される」。 しかしながら、副作用がないことは、アブシジン酸の投与量を増やすための理由にはならない。さらに、投与量の増加に伴い薬理作用が必ずしも増加するとは限らない。実際、トリグリセリド試験のモデルとして引用文献1のパラグラフ0178で(48)として引用された研究(参考資料1として提出する)・・・では、アブシジン酸100、200、400または800mg/飼料kgを与えたdb/dbマウスの耐糖性に差異がないことが見出された。この知見に基づいて、Guriらは、100mg/飼料kgのみについて研究を進めた(・・・)。したがって、引用文献1がそのトリグリセリド研究の基礎とした研究(すなわち、参考資料1)が、投与量増加による効果の増加はないと決定したので、先行技術に照らせば、当業者がアブシジン酸の用量(すなわち、100mg/飼料kg)を増加するように動機付けされることはない。さらに、当業者(すなわち、医師)は、その最低有効用量を超えて薬剤の用量を増加させることはない。」 (2)そこで、以下に検討する。 上記5で説示した容易想到性は、上記1)のアブシジン酸に副作用がないことを理由として、投与量を増やすことが自明であることをいうものではない。上記1)は、刊行物1に記載される「0.1-10,000mg/kg/日」の範囲が、副作用等の安全性の観点からみても、アブシジン酸の用量の検討対象となり得ることを説示するものである。 また、参考資料1で示される「アブシジン酸100、200、400または800mg/飼料kgを与えたdb/dbマウスの耐糖性に差異がないことが見出された」との知見は、「耐糖性」についてのものであり、「血中トリグリセリド値」に関するものではない。 ここで、一般に、薬効成分の有効用量や有効血中濃度は、目的とする薬理作用によって異なるものであり、「耐糖性」と「血中トリグリセリド値」が表裏一体に変化するといった事情も見いだせないから、上記の「耐糖性」についての知見は、「血中トリグリセリド値」についても同様の結果が生じると当業者に認識させるものとはいえず、「血中トリグリセリド値」低下作用の増加を期待してアブシジン酸の用量を増加することを妨げる理由になるとはいえない。 そして、上記5で説示したとおり、医薬において、薬効成分の用量を検討することは当業者が当然に行う事項であり、その手順として、低用量から始めて段階的に用量を増していき、薬理作用や副作用等を確認する手法が一般的であることも踏まえれば、引用発明において、「血中トリグリセリド値」低下作用の向上を期待して、薬効成分であるアブシジン酸の用量を、上記「0.1-10,000mg/kg/日」の範囲内で増やして検討することには十分な動機付けがあるといえる。 したがって、上記審判請求人の主張は採用できない。 8 まとめ したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2017-010581

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