特許拒絶査定不服審判
2017-007852
トウモロコシ作製物およびその作製方法
- 審判番号
- 2017-007852
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-520389外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年05月31日
- 審決日
- 2018年04月17日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アグリジェネティクス,インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】大森 規雄
- 【請求人代理人】藤田 尚
- 【請求人代理人】鈴木 康仁
- 分類
- P18 .536-Z (A01H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-520389「トウモロコシ作製物およびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月17日国際公開、WO2013/010133、平成26年 8月25日国内公表、特表2014-520557〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成24年7月13日(パリ条約による優先権主張 平成23年7月14日 米国)を国際出願日とする出願であって、 平成28年6月14日付け拒絶理由通知に対して同年12月20日に意見書および同日付の手続補正書が提出され、平成29年1月16日付けで拒絶査定がなされ、同年5月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
本願の請求項1~16に係る発明は、平成28年12月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載の事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ホモ接合のbrown-midrib-3(bm3)遺伝子型およびホモ接合のfloury-2(fl2)遺伝子型を含む自殖トウモロコシ植物であって、前記トウモロコシ植物が、5%の有意水準で決定された、表1に示される全ての生理学的および形態学的特徴を有する、自殖トウモロコシ植物
【表1】
。」
第2 原査定の理由
平成29年1月16日付け拒絶査定は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。
第3 当審の判断
1.本願明細書の記載
本願明細書には、本願発明の「自殖トウモロコシ植物」に関して、以下の事項が記載されていると認められる。
ア 「【0005】
COMT遺伝子は、リグニン生合成に関与するコーヒー酸O-メチルトランスフェラーゼをコードする。COMT遺伝子におけるbrown-midrib-3(bm3)変異はリグニン含有量における低下をトウモロコシ植物の根、茎および葉において生じさせ、赤褐色の色素沈着を葉の中肋において生じさせる。低下したリグニンは、飼料のために使用されるトウモロコシ作物における望ましい形質である。これは、家畜に与えられたとき、低下したリグニンはそのような飼料の消化率を増大させるからである。
【0006】
ゼインは、トウモロコシ種子の内乳におけるプロラミン貯蔵タンパク質である。トウモロコシにおけるfloury-2(fl2)対立遺伝子はゼインタンパク質の生合成における低下を生じさせ、粉質の内乳をもたらす。この粉質内乳は、増大した消化率のために、動物飼料におけるもう1つの望ましい形質である。粉質内乳はガラス質内乳よりも迅速かつ完全に消化される。
【0007】
bm3およびfl2についての遺伝子は、トウモロコシの第4染色体においておよそ5cMの遺伝子距離で離れて強く連鎖しており、bm3およびfl2の対立遺伝子がトウモロコシの生殖質の間においてトランス連鎖不平衡にある。これら2つの遺伝子座の間における減数分裂での乗換えはまれである。bm3およびfl2の個々の劣性対立遺伝子は1つの遺伝子型においてホモ接合のシス形態で以前には固定されておらず、また、それらは、これらの対立遺伝子についてホモ接合であり、従って、褐色中肋の形質および粉質内乳の形質の両方を発現するトウモロコシハイブリッドを生じさせるために一緒に交差するように育種系統にこのシス形態で一緒に分散されていない。トウモロコシの生殖質は、これら2つの密接に連鎖した劣性対立遺伝子の間における強い連鎖不平衡を有するので、褐色中肋の遺伝子型および粉質内乳の遺伝子型の両方を含むトウモロコシ種子はこれまで知られていない。」
イ 「【0044】
好ましい実施形態において、自殖トウモロコシ種子およびその植物体は自殖トウモロコシ系統09SMA31BFの種子および植物体である。トウモロコシ植物09SMA31BFの生理学的特徴および形態学的特徴(bm3およびfl2の遺伝子型に関連する特徴を含む)の記述が表1に示される。
【表1】
【0045】
表1において特定される量的特徴については、示される値は典型的な値であることが、当業者によって理解されなければならない。これらの値は環境に起因して変化する場合があり、従って、実質的に同等である他の値もまた本発明の範囲内である。
【0046】
自殖トウモロコシ系統09SMA31BFは、表1に記載される形質については環境的影響の限界内にある均一性および安定性を示す。自殖体09SMA31BFは、大規模な商業的生産において使用するために必要なホモ接合性および表現型安定性を保証するために植物タイプの均一性に対して払われる細心の注意とともに、十分な世代数にわたって自家受粉されており、かつ、雌穂に粒列が形成されている。この系統は、均一性についての継続した観察とともに、隔離された農場において、手作業によって、また、同胞受粉されて、両方で増大している。変種形質が09SMA31BFでは何ら認められておらず、また、何ら予想されない。
【0047】
本出願人らは、自殖トウモロコシ植物09SMA31BFの少なくとも2,500個の種子の寄託を、American Type Culture Collection(ATCC)(Manassas,VA 20110、米国)にATCCアクセション番号 で行っている。ATCCに に寄託されたこれらの種子は、Mycogen Seedsの名称で事業するAgrigenetics,Inc.によって本出願の出願日前から管理される寄託物から採られたものである。この寄託物に対するアクセスが、本出願の係属期間中において、特許商標庁長官、および、当該アクセスに対する資格があると同長官によって決定される人に対して請求により得られるであろう。本出願におけるいずれかの請求項が特許査定されたとき、本出願人らはブダペスト条約に従ってこの寄託物を管理することになり、かつ、この寄託物を公開することになる。」
2.当審の判断
発明の詳細な説明の記載が本願発明について実施可能要件を満足するためには、当業者が発明の詳細な説明の記載から、請求項1に特定される、「ホモ接合のbrown-midrib-3(bm3)遺伝子型およびホモ接合のfloury-2(fl2)遺伝子型」を含み(要件A)、かつ、「5%の有意水準で決定された、表1に示される全ての生理学的および形態学的特徴」を有する(要件B)という2つの要件を満足する自殖トウモロコシ植物を作出することができる必要がある。
(1)“自殖トウモロコシ植物09SMA31BF”について
本願発明は、要件A、Bを満足する自殖トウモロコシ植物が、“自殖トウモロコシ植物09SMA31BF”やその子孫である場合を包含していると認められる。
しかし、“自殖トウモロコシ植物09SMA31BF”は市販などされておらず、当業者が容易に入手できるとは認められない。また、上記1.イの【0047】のとおり、“自殖トウモロコシ系統09SMA31BF”は、ATCCの受託番号により特定されておらず、受託証の写しも提出されていないから、当業者が“自殖トウモロコシ系統09SMA31BF”をATCCから入手できるとは認められない。
したがって、本願発明に係る自殖トウモロコシ植物を当業者が“自殖トウモロコシ植物09SMA31BF”に基づいて作出できるとは認められない。
(2)“自殖トウモロコシ植物09SMA31BF”に基づかずに、要件A、Bを満足する自殖トウモロコシ植物を作出することについて
発明の詳細な説明には、上記要件A、Bを満足する自殖トウモロコシ植物を作出するための親植物として、“自殖トウモロコシ系統09SMA31BF”以外のものが記載されているとは認められない。
また、“自殖トウモロコシ系統09SMA31BF”を親植物として用いることなく、要件A、Bを満足する自殖トウモロコシ植物を新たに作出することが、発明の詳細な説明の記載から当業者に明らかであるとも認められない。
すなわち、仮に、当業者がホモ接合のbm3遺伝子型のトウモロコシ系統とホモ接合のfl2遺伝子型のトウモロコシ系統を入手できたとしても、発明の詳細な説明(段落【0007】、上記ア)にも記載されているとおり、bm3遺伝子座とfl2遺伝子座とはゲノム上でおよそ5cMしか離れていないから、交配により両遺伝子型がホモ接合のトウモロコシ系統を作出することは困難であると考えられる。まして、両遺伝子型がホモ接合であるうえに、さらに表1に記載された、両遺伝型と関連しない、系統09SMA31BF特有の性質のすべてを兼ね備えた系統を得ることは極めて困難である。
遺伝子に変異を含む新たな植物を作出するには、多くの時間と手間を要するという出願時の技術常識、および、上記の交配による作出に関する事項を考慮すると、要件A、Bを満足する自殖トウモロコシ植物を新たに作出するには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があると認められる。
したがって、発明の詳細な説明の記載から、“自殖トウモロコシ系統09SMA31BF”に基づかずに当業者が要件A、Bを満足する自殖トウモロコシ植物を作出できるとはいえない。
よって、上記(1)、(2)のとおり、発明の詳細な説明に要件A、Bを満足するものとして唯一記載されている“自殖トウモロコシ系統09SMA31BF”について、ATCCの受託番号により特定され、受託証の写しが提出されることなく、当業者が要件A、Bを満足する自殖トウモロコシ植物、すなわち、本願発明に特定される自殖トウモロコシ植物を作出できるとはいえない。
(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、本願発明(請求項1に係る発明)に関して概ね以下の点を主張している。
表1に示される特徴的な形質およびそのような形質の評価方法は、当該分野で周知である。表1は、当業者が本願発明のトウモロコシ植物を他の植物および材料から区別するために十分である。したがって、当業者は、例えば、自殖系統O9SMA31BFから、本出願人が補正後の請求項1に記載される特徴を含むトウモロコシ植物を有していた(were in possession)ことを容易に認識することができる。
上記審判請求人の主張について検討する。
当審が通知した実施可能要件に関する拒絶理由の趣旨は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明に係る自殖トウモロコシ植物を作出できる程度に明確かつ十分ではないというものであって、請求人が本願発明に係る自殖トウモロコシ系統を有していた(were in possession)か否かを問うものではない。
本願発明に該当する植物を請求人が有しており、他の植物と区別できるだけで、発明の詳細な説明が本願発明について実施可能要件を満足する訳ではない。
3.小括
以上のとおり、請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
第4 むすび
この出願の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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