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特許無効審判

2016-800044

電磁弁

審判番号
2016-800044
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願平9-310149外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年04月07日
審決日
2017年01月31日
公報発行日
2017年08月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P1123.537-YAA(F16K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第6項、特許法第126条、特許法第123条第1項第4号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第3575251号発明「電磁弁」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 特許第3575251号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2、3〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件特許第3575251号に係る出願は,平成9年11月12日の特許出願であって,平成16年7月16日にその特許権が設定登録(請求項の数3)された。 そして,本件特許無効審判請求に係る手続の経緯は,以下のとおりである。 平成28年4月7日  本件特許無効審判請求 同年6月17日  審判事件答弁書提出 同年6月17日  訂正請求書提出 同年7月26日  審判事件弁駁書提出(受付日:7月27日) 同年9月12日  審理事項通知(発送日:9月14日) 同年10月14日 両当事者より口頭審理陳述要領書提出 同年10月28日 両当事者より口頭審理陳述要領書(2)提出 同年10月28日 口頭審理 第2 訂正について 1.訂正請求の内容 平成28年6月17日付けの訂正請求は,特許請求の範囲の請求項1~3からなる訂正前の一群の請求項に係る訂正をすることを求めるものであり,訂正事項は以下のとおりである。 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「供給ポート,排出ポート,これら供給ポートと排出ポートの間に配置された制御ポートを備え,スプールを摺動可能に嵌挿したスプール弁部と,前記スプールの一端に係合するプランジャを電磁吸引力によって変位する電磁部とからなり,これらスプール弁部と電磁部の各端部を接合し,前記電磁吸引力によるプランジャの変位によってスプールを摺動させ,供給ポートと制御ポートおよび制御ポートと排出ポートの各間の流路を制御して制御ポートを流れる作動油の圧力を制御する電磁弁において,この電磁部の両端部に前記プランジャの変位によって作動油が行き来する油溜り室(42,43)を形成し,この油溜り室の一方を取り囲むように前記スプール弁部の端面に環状溝(45)を形成し,この環状溝の円周上1個所に開口する第1の通路(46)が半径方向内方に向けて前記スプール弁部に形成されて前記環状溝と油溜り室とが連通され,また前記第1の通路と直径方向に対向する位置において前記環状溝に開口する第2の通路(47)が前記スプール弁部に形成されて前記環状溝を外部に開口させたことを特徴とする電磁弁。」と記載されているのを, 「供給ポート,排出ポート,これら供給ポートと排出ポートの間に配置された制御ポートを備え,スプールを摺動可能に嵌挿したスプール弁部と,前記スプールの一端に係合するプランジャを電磁吸引力によって変位する電磁部とからなり,前記スプール弁部には,前記電磁部側から順に前記供給ポート,前記制御ポートおよび前記排出ポートを備え,これらスプール弁部と電磁部の各端部を接合し,前記電磁吸引力によるプランジャの変位によってスプールを摺動させ,供給ポートと制御ポートおよび制御ポートと排出ポートの各間の流路を制御して制御ポートを流れる作動油の圧力を制御する電磁弁において,この電磁部の両端部に前記プランジャの変位によって作動油が行き来する油溜り室(42,43)を形成し,この油溜り室の一方を取り囲むように前記スプール弁部の端面に環状溝(45)を形成し,この環状溝の円周上1個所に開口する第1の通路(46)が半径方向内方に向けて前記スプール弁部に形成されて前記環状溝と油溜り室とが連通され,また前記第1の通路と直径方向に対向する位置において前記環状溝に開口する第2の通路(47)が前記スプール弁部に形成されて前記環状溝を外部に開口させたことを特徴とする電磁弁。」と訂正する(下線は,訂正個所を示し,当審にて付与した。以下同様。)。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記スプール弁部と電磁部とを,前記第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ前記第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに設置してなる請求項1に記載の電磁弁。」と記載されているのを, 「供給ポート,排出ポート,これら供給ポートと排出ポートの間に配置された制御ポートを備え,スプールを摺動可能に嵌挿したスプール弁部と,前記スプールの一端に係合するプランジャを電磁吸引力によって変位する電磁部とからなり,これらスプール弁部と電磁部の各端部を接合し,前記電磁吸引力によるプランジャの変位によってスプールを摺動させ,供給ポートと制御ポートおよび制御ポートと排出ポートの各間の流路を制御して制御ポートを流れる作動油の圧力を制御する電磁弁において,この電磁部の両端部に前記プランジャの変位によって作動油が行き来する油溜り室(42,43)を形成し,この油溜り室の一方を取り囲むように前記スプール弁部の端面に環状溝(45)を形成し,この環状溝の円周上1個所に開口する第1の通路(46)が半径方向内方に向けて前記スプール弁部に形成されて前記環状溝と油溜り室とが連通され,また前記第1の通路と直径方向に対向する位置において前記環状溝に開口する第2の通路(47)が前記スプール弁部に形成されて前記環状溝を外部に開口させ,前記スプール弁部と電磁部とを,前記第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ前記第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに設置してなる電磁弁。」と訂正する。 ウ.訂正事項3 特許明細書の段落【0007】に「【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に記載の発明は,供給ポート,排出ポート,これら供給ポートと排出ポートの間に配置された制御ポートを備え,スプールを摺動可能に嵌挿したスプール弁部と,前記スプールの一端に係合するプランジャを電磁吸引力によって変位する電磁部とからなり,これらスプール弁部と電磁部の各端部を接合し,前記電磁吸引力によるプランジャの変位によってスプールを摺動させ,供給ポートと制御ポートおよび制御ポートと排出ポートの各間の流路を制御して制御ポートを流れる作動油の圧力を制御する電磁弁において,この電磁部の両端部に前記プランジャの変位によって作動油が行き来する油溜り室を形成し,この油溜り室の一方を取り囲むように前記スプール弁部の端面に環状溝を形成し,この環状溝の円周上1個所に開口する第1の通路が半径方向内方に向けて前記スプール弁部に形成されて前記環状溝と油溜り室とが連通され,また前記第1の通路と直径方向に対向する位置において前記環状溝に開口する第2の通路が前記スプール弁部に形成されて前記環状溝を外部に開口させたものである。」と記載されているのを, 「【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に記載の発明は,供給ポート,排出ポート,これら供給ポートと排出ポートの間に配置された制御ポートを備え,スプールを摺動可能に嵌挿したスプール弁部と,前記スプールの一端に係合するプランジャを電磁吸引力によって変位する電磁部とからなり,前記スプール弁部には,前記電磁部側から順に前記供給ポート,前記制御ポートおよび前記排出ポートを備え,これらスプール弁部と電磁部の各端部を接合し,前記電磁吸引力によるプランジャの変位によってスプールを摺動させ,供給ポートと制御ポートおよび制御ポートと排出ポートの各間の流路を制御して制御ポートを流れる作動油の圧力を制御する電磁弁において,この電磁部の両端部に前記プランジャの変位によって作動油が行き来する油溜り室を形成し,この油溜り室の一方を取り囲むように前記スプール弁部の端面に環状溝を形成し,この環状溝の円周上1個所に開口する第1の通路が半径方向内方に向けて前記スプール弁部に形成されて前記環状溝と油溜り室とが連通され,また前記第1の通路と直径方向に対向する位置において前記環状溝に開口する第2の通路が前記スプール弁部に形成されて前記環状溝を外部に開口させたものである。」と訂正する。 2.訂正請求の適否 (ア)訂正事項1 (a)訂正の目的について 上記訂正事項1は,訂正前の請求項1の「電磁弁」を構成する「スプール弁部」について,「前記スプール弁部には,前記電磁部側から順に前記供給ポート,前記制御ポートおよび前記排出ポートを備え」るものと特定したものであって,発明特定事項を直列的に付加するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (b)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正前の段落【0010】に「前記3つの環状溝17Aには,電磁部30側から順に供給ポート21,制御ポート22および排出ポート23の各一端が開口され」との記載がなされていることから,訂正事項1は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (c)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は,スプール弁部を限定する訂正であり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (イ)訂正事項2 (a)訂正の目的について 訂正事項2は,訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを,請求項間の引用関係を解消し,請求項1の記載を引用しないものとし,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。 (b)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は,何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5,6項の規定に適合するものである。 (ウ)訂正事項3 (a)訂正の目的について 訂正事項3は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。よって,訂正事項3は特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (b)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は,訂正事項1と同じ内容の訂正であり,当該訂正事項3は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (c)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は,訂正事項1と同じ内容の訂正であり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 3.まとめ したがって,平成28年6月17日付けの訂正請求は,特許法第134条の2第1項並びに同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,当該訂正を認める。 第3 本件発明 本件特許の請求項1に係る発明(以下,「本件訂正発明」という。)は,平成28年6月17日付けの訂正請求により訂正された訂正事項1として記載されたとおりのものと認める。 本件訂正発明の分説を,答弁書に記載された以下のとおりとする。 A 「供給ポート,排出ポート,これら供給ポートと排出ポートの間に配置された制御ポートを備え,スプールを摺動可能に嵌挿したスプール弁部と,」 B 「前記スプールの一端に係合するプランジャを電磁吸引力によって変位する電磁部とからなり,」 H 「前記スプール弁部には,前記電磁部側から順に前記供給ポート,前記制御ポートおよび前記排出ポートを備え,」 C 「これらスプール弁部と電磁部の各端部を接合し,前記電磁吸引力によるプランジャの変位によってスプールを摺動させ,供給ポートと制御ポートおよび制御ポートと排出ポートの各間の流路を制御して制御ポートを流れる作動油の圧力を制御する電磁弁において,」 D 「この電磁部の両端部に前記プランジャの変位によって作動油が行き来する油溜り室(42,43)を形成し,」 E 「この油溜り室の一方を取り囲むように前記スプール弁部の端面に環状溝(45)を形成し,」 F 「この環状溝の円周上1個所に開口する第1の通路(46)が半径方向内方に向けて前記スプール弁部に形成されて前記環状溝と油溜り室とが連通され,」 G 「また前記第1の通路と直径方向に対向する位置において前記環状溝に開口する第2の通路(47)が前記スプール弁部に形成されて前記環状溝を外部に開口させたことを特徴とする電磁弁。」 第4 請求人の主張(概要) 請求人は,審判請求書において,請求項1に係る発明の特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求めている。その無効理由と証拠方法は以下のとおりである。 1.無効理由1 (第1回口頭審理調書の請求人の欄を参照のこと。) 本件訂正発明は,依然として,発明の詳細な説明に記載された発明の効果を奏しない発明を含むものであり,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるから,特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)に適合していないので,訂正後の請求項1に記載された発明の特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。 (1-1)本件訂正発明は,平成28年6月17日付け審判事件答弁書の第3頁~第4頁に記載された構成AないしHからなるものであるが,本件特許明細書に記載された発明の効果である下記の効果1,効果2及び効果3の3つの効果を奏するための構成イ,すなわち「スプール弁部と電磁部とを,第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに配置する」構成を備えることが特定されていない。この点は,訂正前の請求項1の発明と変わらない。 そして,本件訂正発明が,「スプール弁部と電磁部とを,第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに配置する」構成を備えないにもかかわらず,「油溜り室内に作動油を保持し続けることができる」(効果1)とともに,「作動油に混入した異物をプランジャの摺動部に入り込まないようにすることができる」(効果2),従って,「従来のように排出ポートの向きを上方にする必要がないので,車両搭載上の制約を受けることがなく,また構成も簡素化できる」(効果3),という3つの効果を全て奏することができることは,訂正後の本件特許明細書及び図面の中には記載されておらず,当業者が技術常識に照らしても理解することができない。 従って,訂正後の請求項1に係る本件訂正発明は,依然として,発明の詳細な説明に記載された発明の効果を奏しない発明を含むものであり,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。 (1-2)本件訂正発明は,段落【0023】に記載された「油溜り室43が弁スリーブ11とコア31との接合面に形成した第1の通路46,環状溝45および第2の通路47を介して外部上方に開口されている」との構成を備えることが特定されていない。そして,「・・・外部上方に開口されている」ではなく「・・・外部に開口されている」という構成では,段落【0023】に記載された「電磁弁の全長を大きくすることなく,かつ構成も簡素化できるとともに,排出ポート23の向きも上向き,下向きに限定されることがないため,車両搭載上制約を受けることがない。」という作用効果を奏するとはいえないことは明らかである。 (1-3)被請求人の「油溜り室43には,隙間から漏れてきた高圧の作動油が補給されており,油溜り室にプランジャの変位によって作動油が行き来する限りにおいては,その際の作動油の粘性作用により,プランジャ38の動作にダンピングが付与される」との主張は誤りであると共に,本件訂正発明が,本件特許明細書に記載された「本発明は,電磁部内にダンピング用の作動油を常時貯溜できるようにした電磁弁に関するものである」(【0001】)等の記載事項と矛盾することを自認したものであり,結局,本件訂正発明は,本件特許明細書に記載された「油溜り室内に作動油を保持し続けることができる」(【0025】)という効果を奏することができないものである。 (1-4)本件訂正発明は,発明例2(審判請求書第11頁7~12行参照。)を含むことから,本件特許明細書に記載された発明の効果のうち,「作動油に混入した異物をプランジャの摺動部に入り込まないようにすることができる」(効果2)との作用効果を奏しないおそれがあるものである。 (1-5)本件訂正発明は,発明例1(審判請求書第10頁1~6行参照。)を含むことから,本件特許明細書に記載された発明の効果のうち,「油溜り室内に作動油を保持し続けることができる」(効果1)という作用効果を奏しないおそれがあるものである。 (1-6)本件訂正発明は,発明例3(審判請求書第12頁14~19行参照。)を含むことから,本件特許明細書に記載された発明の効果のうち,「油溜り室内に作動油を保持し続けることができる」(効果1)という作用効果を奏しないおそれがあるものである。 2.証拠方法 請求人は,審判請求書に添付して甲第1号証ないし甲第2号証を提出している。 甲第1号証: 特許第3575251号公報 甲第2号証: 平成28年2月16日付け判定請求書 第5 被請求人の主張(概要) 一方,被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めている。証拠方法は以下のとおり。 乙第1号証: 実公平3-2069号公報 第6 当審の判断 1.無効理由1について 本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載された発明の効果を奏しない発明を含むものであり,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるから,特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)に適合していないか否かについて請求人の具体的主張(1-1)~(1-6)の順に検討する。 (1)(1-1)について ア.本件特許明細書には,発明が解決しようとする課題として以下の記載がある。 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 上記した従来の電磁弁においては,油溜り室5内に作動油を貯溜するために,排出ポート7を上向きに設けなければならないので,車両搭載上制約を受ける場合があり,しかもその上向きの排出ポート7にドレンポート6を連通路8を介して接続する必要があるため,構成が複雑となるとともに,ドレンポート6を追加した分電磁弁の全長が大きくなって小形化の障害となる問題がある。 【0006】 本発明は,上記した従来の問題点を解決するためになされたもので,電磁弁の小形化および簡素化を可能にでき,しかもプランジャの動作にダンピングを付与できるとともに,プランジャの摺動部に異物が侵入しない電磁弁を提供することを目的とするものである。」 そうすると,発明が解決しようとする課題は, 課題1.電磁弁の小形化および簡素化を可能とすること 課題2.プランジャの動作にダンピングを付与できること 課題3.プランジャの摺動部に異物が侵入しない電磁弁を提供すること の3点である。 イ.本件訂正発明の構成と各課題との関係 (ア)「課題2.プランジャの動作にダンピングを付与できること」について 課題2に対して,本件訂正発明は,構成A~C,E~Gを有するとともに,次の構成Dを有している。 構成Dには「この電磁部の両端部に前記プランジャの変位によって作動油が行き来する油溜り室(42,43)を形成し,」とあり,油溜り室にプランジャの変位によって作動油が行き来するものであることが,構成要件として特定されており,プランジャの変位によって作動油が行き来しないものは,本件訂正発明ではない。 そして,構成A~Dに対応して,本件特許明細書の段落0021には,本件訂正発明は以下の効果を奏することが記載されている。 「作動油は,プランジャ38の変位によるポンプ作用により軸受ブッシュ37および隙間39を介して2つの油溜り室42,43間を行き来し,その際の作動油の粘性作用により,プランジャ38の動作にダンピングが付与される。」(以下,「作用効果1」という。) そうすると,作用効果1は,請求人が主張する「スプール弁部と電磁部とを,第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに配置する」構成を備えているか否かに関わりなく,本件訂正発明が奏する効果である。 請求人は,平成28年10月28日付け口頭審理陳述要領書(2)にて,以下のように主張する。 ・「請求人が弁駁書第19頁第9~13行で既に述べたように,油溜り室43と供給ポート21との間には,環状溝17Bが存在するので,油溜り室43は供給ポート21に隣接していない。また,環状溝17Bは,フィードバック圧導入孔24を介して,連通路51と連通し,さらに制御ポート22と連通しているため,供給ポート21への供給圧のままで作動油が環状溝17Bから油溜り室43へ漏れることはない。 従って,『油溜り室は,供給ポートに隣接する』との被請求人の主張は誤りであり,これを前提とした『供給ポートには供給する上で充分高圧の供給圧が供給される』という被請求人の主張も,根拠がなく,誤りである。 また,供給ポート21から供給された作動油が,スプールとスリーブの隙間から漏れて油溜り室43に供給され,油溜り室43から第1の通路46を経て環状溝45に押し出され,環状溝45の中に流動して,第2の通路47から外部に排出されるとしても,例えば,発明例3の場合に,油溜り室43を作動油で常時満たすためには,作動油が油溜り室43の出口である第1の通路46及び第2の通路47から流出する以上に,供給ポート21からの作動油が,スプールとスリーブの隙間から漏れて油溜り室43に供給されることが必要である。 しかしながら,そのような大量の漏れが生ずる隙間をスリーブとスプールの間に設けたり,そのような大量の漏れが生ずる程の高圧な作動油を供給ポート21から供給したりすることは,供給ポート21からの作動油が環状溝17Bを経由し大量に油溜り室43に流出することになるので,環状溝17Bの圧力精度の悪化や,作動油の一部を外部に捨てることによる効率悪化を招くため,この種の電磁弁における技術常識からみて到底ありえないことである。 従って,『油溜り室43には,隙間から漏れてきた高圧の作動油が補給されており,油溜り室にプランジャの変位によって作動油が行き来する限りにおいては,その際の作動油の粘性作用により,プランジャ38の動作にダンピングが付与される』という被請求人の主張は,この種の電磁弁における技術常識からみて到底ありえないものであり,失当である。」 ・「弁駁書における請求人の本来の主張は『油溜り室43には隙間から漏れてきた高圧の作動油が補給されるという被請求人の主張は誤りである』というものであるから,被請求人の上記イ)の主張は,逆に言えば,油溜り室43に『高圧の作動油』が補給されないことを,否定できず,認めたものである。 従って,被請求人は,請求人主張の肝心な部分への反論ができておらず,結局,『油溜り室43には隙間から漏れてきた高圧の作動油が補給されるという被請求人の主張は誤りである』という請求人の主張を否定できていない。」 ・「自動車のエンジンが作動中であって,供給ポート21に作動油が供給されていても,例えば,走行停止中は,電磁弁の制御圧が一定時間『0kPa』になる作動形態が生じる場合があるのであり,かかる場合には,やはり供給ポート21から油溜り室43へ作動油が補給されない。 従って,本件訂正発明は,『電磁部内にダンピング用の作動油を常時貯溜できるようにした電磁弁』(【0001】)ではないのである。 既に,上記(1)ウ)で述べたとおり,自動車のエンジンが作動中であって,供給ポート21に作動油が供給されていても,例えば,走行停止中は,電磁弁の制御圧が一定時間『0kPa』になる作動形態が生じる場合があるのであり,かかる場合には,供給ポート21から油溜り室43へ作動油が補給されない。 従って,本件訂正発明は,『電磁部内にダンピング用の作動油を常時貯溜できるようにした電磁弁』(【0001】)ではない。」 たしかに,請求人が主張するように,本件訂正発明には,油溜り室43に隙間から漏れてきた作動油が供給されることは,特定されていない。 しかしながら,本件訂正発明は,先に検討したとおり,油溜り室42,43にプランジャの変位によって作動油が行き来するものであって,その際の作動油の粘性作用により,プランジャ38の動作にダンピングが付与される。 また,本件訂正発明は構成E~Gを備えることにより,本件特許明細書の段落【0024】に記載されるように,「電磁弁への作動油の供給が停止されたされた状態においても,油溜り室42,43内に作動油を保持し続けることができる」ものである。 そして,本件訂正発明が,前述の作用効果1を奏するものであることには変わりはない。 (イ)「課題1.電磁弁の小形化および簡素化を可能とすること」について 被請求人は,答弁書において,「構成Eに示す『この油溜り室の一方を取り囲むように前記スプール弁部(10)の端面に環状溝(45)を形成し』ており,第1の通路46,環状溝45および第2の通路47が,スプール弁部の長手方向に対し概ね垂直面内に形成されているので,電磁弁の全長を大きくすることなく,かつ構成も簡素化できるとともに,排出ポート23の向きも上向き,下向きに限定されることがないため,車両搭載上制約を受けることがない。」旨主張する。 また,被請求人は,平成28年10月14日付け口頭審理陳述要領書にて,以下のように主張する。 ・「本件訂正発明は,図4の『従来の電磁弁』において,連通路8とドレンポート6が存在する場合に『構成が複雑となるとともに,ドレンポート6を追加した分電磁弁の全長が大きくなって小形化の障害となる問題がある』という課題に対応してなされた発明である。本件訂正発明には,連通路8とドレンポート6が存在しないとともに構成Eを有するからこそ,『電磁弁の全長を大きくすることなく,かつ構成も簡素化できるとともに,排出ポート23の向きも上向き,下向きに限定されることがないため,車両搭載上制約を受けることがない。』との効果を奏するものである。このように,本件訂正発明においては,油溜り室43が,第2の通路47を介して外部上方に開口している構成と,小形化,簡素化,排出ポートの向きに対する効果とは技術的に関連性がない。」 さらに,被請求人は,平成28年10月28日付け口頭審理陳述要領書(2)にて,以下のように主張する。 ・「従来技術の一例に比較すれば,本件訂正発明では,排出ポート54は油溜り室43には連通しておらず,油溜り室43内の作動油は排出ポート54から排出されることはなく,しかも油溜り室43は作動油が補給される。このため,図1に示すように排出ポート54は現に下向きに設置されている。したがって,本件訂正発明は,段落0026の『従来のように排出ポートの向きを上方にする必要がないので,車両搭載上の制約を受けることがなく,また構成も簡素化できる効果がある。』という作用効果を奏するものである。」 ・「したがって,請求人が主張する『スプール弁部と電磁部とを,第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに配置する』構成は,本件訂正発明の作用効果に示す車両搭載上の制約の排出ポートの向きとは関係のないことであり,請求人の主張は誤りである。」 しかしながら,「油溜り室43が,第2の通路47を介して外部上方に開口している構成と,小形化,簡素化,排出ポートの向きに対する効果とは技術的に関連性がない。」としても,或いは,「『スプール弁部と電磁部とを,第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに配置する』構成は,本件訂正発明の作用効果に示す車両搭載上の制約の排出ポートの向きとは関係がない」としても,本件訂正発明は,本件特許明細書及び図面に実施の形態として記載されているような,第1の通路46,環状溝45および第2の通路47が概ね垂直面内に形成されている構成以外に,制御ポート22とフィードバック圧導入孔24間に連通路51を有するものを包含するから,必ずしも,電磁弁の全長を大きくすることなく,かつ構成も簡素化できるとはいえない。 そうすると,第1の通路46,環状溝45および第2の通路47が概ね垂直面内に形成されていたとしても,本件訂正発明が,常に,電磁弁の小型化や構成の簡素化ができるものとはいいきれない。 (ウ)「課題3.プランジャの摺動部に異物が侵入しない電磁弁を提供すること」について 請求人の主張する<発明例1>(下記i)ii))の場合を想定する。 i)「タンクの油面より上方に装着(気中装着)される電磁弁である」。 ii)「スプール弁部と電磁部とを,第1の通路が油溜り室の上方位置に開口し,かつ第2の通路が環状溝の下方位置に開口するように横向きに配置する」。 この発明例1の場合には,環状溝45の作動油は下方位置に開口した第2の通路より外部に排出されることになる一方,シャフト部36まわりの油溜り室43に残った作動油中に存在する異物は油溜り室43の下方に沈殿することになって,プランジヤ38の変位によるポンプ作用によってプランジヤ38の摺動部に進入する可能性がある。 そうすると,請求人が主張する「スプール弁部と電磁部とを,第1の通路が油溜り室の下方位置に開口し,かつ第2の通路が環状溝の上方位置に開口するように横向きに配置する」構成が特定されていないため,上記<発明例1>は,課題3を解決できるとはいいきれない。 してみれば,本件訂正発明が,プランジャの摺動部に異物が侵入しない電磁弁を提供するとはいいきれない。 ウ.本件訂正発明が発明の詳細な説明に記載されたものか否かについて 本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題2を少なくとも解決し,発明の作用効果1を奏するものであるから,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。 したがって,本件訂正発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 また,課題1,3については,発明の実施の態様によっては,当該課題も解決し得ることが記載されていると解するのが相当である。 よって,請求人の主張する(1-1)によって本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。。 (2)(1-2)について (i)車両搭載上の排気ポートの向きについて 従来技術の一例に比較すれば,本件訂正発明は,排出ポート54が油溜り室43には連通していることを必ずしも要しない。このため,本件特許明細書の図1に示すように排出ポート54は下向きに設置されている。 したがって,本件訂正発明は,段落0026の「従来のように排出ポートの向きを上方にする必要がないので,車両搭載上の制約を受けることがな」いという作用効果を奏するものである。 (ii)電磁弁の小型化および構成の簡素化について 前記(1)イ.(イ)において検討したとおり,本件訂正発明は,電磁弁の小型化および構成の簡素化ができるものとはいいきれない。 しかし,前記(1)ウ.において検討したように,小型化及び構成の簡素化が本件訂正発明の特定の実施態様においてのみ奏されるものであるとしても,そのことのみをもって,本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 したがって,請求人の主張する(1-2)によって本件訂正発明が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。 よって,請求人の主張する(1-2)によって本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 (3)(1-3)について 前記(1)イ.(ア)において検討したように,本件訂正発明は,油溜り室42,43にプランジャの変位によって作動油が行き来し,その際の作動油の粘性作用により,プランジャ38の動作にダンピングが付与されるものであるから,作動油が行き来できる程度の油が油溜り室43には保持されていると解するのが相当である。 また,本件訂正発明は構成E~Gを備えることにより,本件特許明細書の段落【0024】に記載されるように,「電磁弁への作動油の供給が停止されたされた状態においても,油溜り室42,43内に作動油を保持し続けることができる」ものである。 したがって,請求人の主張する(1-3)によって本件訂正発明が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。 よって,請求人の主張する(1-3)によって本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 (4)(1-4)について プランジャの動作に伴うポンプ作用によってプランジャ摺動部に異物を侵入しないようにする従来からの課題に対しては,特許明細書の段落0003及び0004の記載のように,従来技術において,「作動油に混入した異物を油溜り室5よりも下方に位置する連通路8に堆積させ,プランジャ4の摺動部に入り込まないようにしている。」とあって,本件訂正発明はポンプ作用がこの程度であることを前提とするものである。 そして,発明例2において,油溜り室43の異物は,自重により第1の開口46を介して環状溝45の下部に沈殿するとともに,自重により環状溝45の下部に沈殿した異物は,従来技術と同程度のポンプ作用であれば,第1の通路46から吸い上げられて油溜まり室43を経由してプランジヤの摺動部に進入することはない。 したがって,請求人の主張する(1-4)によって本件訂正発明が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。 よって,請求人の主張する(1-4)によって本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 また,前記(1)イ.(ウ)において検討したとおり,本件訂正発明が常に,プランジヤの摺動部に異物が侵入しない電磁弁を提供することができるものとはいいきれないとしても,そのことで,前記(1)ウ.において検討したように,本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 (5)(1-5)について 前記(1)イ.(ア)において検討したように,本件訂正発明は,油溜り室42,43にプランジャの変位によって作動油が行き来し,その際の作動油の粘性作用により,プランジャ38の動作にダンピングが付与されるものであるから,作動油が行き来できる程度の油が油溜り室43には保持されていると解するのが相当である。 また,発明例1のものでは,環状溝45の下部に開口した第2の通路47より下方に作動油が流出するものの,シャフト部36まわりの油溜り室43には,作動油が保持されることになる。 したがって,請求人の主張する(1-5)によって本件訂正発明が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。 よって,請求人の主張する(1-5)によって本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 (6)(1-6)について 前記(1)イ.(ア)において検討したように,本件訂正発明は,油溜り室42,43にプランジャの変位によって作動油が行き来し,その際の作動油の粘性作用により,プランジャ38の動作にダンピングが付与されるものであるから,作動油が行き来できる程度の油が油溜り室43には保持されていると解するのが相当である。 発明例3に対し,油溜り室にプランジャの変位によって作動油が行き来する限りにおいては,作用効果1を奏するものであり,発明例3が,電磁部内に空気が充満して油溜り室にプランジャの変位によって作動油が行き来しなくなるような事例となれば,本件訂正発明に含まれない。 したがって,請求人の主張する(1-6)によって本件訂正発明が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえない。 よって,請求人の主張する(1-6)によって本件訂正発明が,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 (7)そうすると,請求人の各主張について検討しても,本件特許発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず,特許法第36条第6項第1号の要件に適合していないとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件発明の特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。

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2016-800044

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