特許異議申立
2016-701203
ポリオレフィン微多孔膜、及び蓄電デバイス
- 審判番号
- 2016-701203
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2010-250272外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年12月28日
- 審決日
- 2017年06月05日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5942127号発明「ポリオレフィン微多孔膜、及び蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5942127号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
特許第5942127号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5942127号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成22年11月8日に出願され、平成28年6月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、同年12月28日に特許異議申立人 特許業務法人藤央特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがされ、平成29年2月22日付けで取消理由が通知され、同年4月14日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものである。
第2 特許異議申立人が主張する取消理由
特許異議申立人が特許異議申立書において主張する取消理由の概要は、次のとおりである。
・本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。
・請求項1ないし4に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
・請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
甲第1、2号証は、次のとおりである。
・甲第1号証:国際公開第2009/123015号
・甲第2号証:特開2008-106237号公報
第3 本件訂正請求の適否
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1ないし3のとおりである。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)」と記載されているのを「εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)」に訂正する。
また、当該請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし4も併せて訂正する。
・訂正事項2
明細書の段落【0007】に「εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)」と記載されているのを「εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)」に訂正する。
・訂正事項3
明細書の段落【0067】の【表1】に「個/cm2」と記載されているのを「個/μm2」に訂正する。
2.検討
訂正事項1について、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0006】、【0007】、【0010】、【0011】、及び願書に添付した特許請求の範囲の請求項1のいずれにも、αで示されるブルッグマン指数を定義する式(2)として「εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)」が記載されているように、当該式(2)の左辺はεのα乗で表されるものであるから、訂正前の請求項1の「εα」との記載は、本来は「εα」であることが明らかな、字句の誤りといえる。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項2も、訂正事項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項3について、孔数の単位として、訂正前の段落【0067】の【表1】には「個/cm2」が記載されているが、本件特許明細書及び本件特許請求の範囲のそれ以外の箇所においては、一貫して「個/μm2」が記載されている(段落【0007】、【0038】、【0051】、請求項1)。また、請求項1には孔数が60個/μm2以上であることが規定されているところ、段落【0067】の【表1】において実施例1~9の孔数が72~355個/cm2であるとすると、実施例1~9の孔数は請求項1の規定を満たさないことになる。してみると、訂正前の段落【0067】の【表1】の「個/cm2」との記載は、それ以外の箇所で一貫して記載されているように本来は「個/μm2」であることが明らかな、字句の誤りといえる。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして、誤記を訂正する訂正事項1ないし3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件訂正請求による訂正は、訂正後の請求項1ないし4、及びそれらに関係する明細書についての訂正であるが、訂正前の請求項2ないし4は訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるので、訂正前の請求項1ないし4は、一群の請求項である。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求の訂正事項1ないし3による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第4項、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正請求による訂正を認める。
第4 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
磁場勾配NMR法によって測定されたポリオレフィン微多孔膜の厚み方向の拡散係数をD(Z)、前記磁場勾配NMR法の測定に用いた電解液の拡散係数をD0、ポリオレフィン微多孔膜の気孔率をεとした場合に、下式(1)で示される実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effが4.20×10-11以上でかつ、下式(2)中のαで示されるブルッグマン指数が2.60≦α≦5.00であり、気液法で求められる孔数が60(個/μm2)以上であり、気孔率が50%以上90%以下である、ポリオレフィン微多孔膜(ただし、5万以上30万未満の粘度平均分子量を有する第1のポリプロピレンと、30万以上の粘度平均分子量を有する第2のポリプロピレンと、を含むポリオレフィン組成物から形成されたポリオレフィン製微多孔膜を除く)。
D(Z)eff=D(Z)×ε・・(1)
εα=D(Z)eff/D0・・・・・(2)
【請求項2】
前記ポリオレフィン微多孔膜を形成するポリオレフィン樹脂が高密度ポリエチレンを含む、請求項1記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
突刺強度が2.4N/20μm以上20.0N/20μm以下である請求項1又は請求項2記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして備える蓄電デバイス。」
第5 当審が通知した取消理由
当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
「第1 本件特許に係る請求項に記載された事項
・・・(略)・・・
第2 取消理由
本件特許は、当審が職権により新たに発見した以下の取消理由を有するものである。
1)本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2)本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
記
1.特許法第36条第6項第2号について
・・・(略)・・・
してみると、ブルッグマン指数の意味するところについて、本件特許明細書を参照しても明確でない。
よって、請求項1、及び請求項1を引用する請求項2ないし4に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2.特許法第36条第4項第1号について
・・・(略)・・・
してみると、請求項1に係る発明においても規定される孔数についての記載が矛盾しており、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。
よって、請求項1、及び請求項1を引用する請求項2ないし4に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」
第6 当審の判断
1.特許法第36条第6項第2号について
αで示されるブルッグマン指数を定義する式(2)における「εα」との誤記が「εα」に訂正されたことにより、ブルッグマン指数の意味するところは明確であり、特許請求の範囲の記載が不備であるとはいえない。
2.特許法第36条第4項第1号について
段落【0067】の【表1】の「個/cm2」との誤記が「個/μm2」に訂正されたことにより、孔数についての記載に矛盾はなく、明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるとはいえない。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由について
特許異議申立人は特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし4に係る発明は甲第1号証である国際公開第2009/123015号又は甲第2号証である特開2008-106237号公報に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当する旨を主張している(3(4)イ、ウ)。
しかしながら、国際公開第2009/123015号、特開2008-106237号公報のいずれにも、ポリオレフィン微多孔膜において、訂正後の請求項1ないし4に係る発明の発明特定事項である、D(Z)eff=D(Z)×εで示される実効の厚み方向の拡散係数D(Z)effが4.20×10-11以上であり、かつ、εα=D(Z)eff/D0中のαで示されるブルッグマン指数が2.60≦α≦5.00であることについて何ら記載も示唆もなく、当該発明特定事項を採用する動機付けとなる記載もないことから、かかる主張は理由がない。
また、特許異議申立人は特許異議申立書において、孔数について、特許請求の範囲や明細書中の記載と、実施例の結果とが整合しておらず、記載が不明確となっており、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している(3(4)エ(ア))。
しかしながら、段落【0067】の【表1】の「個/cm2」との誤記が「個/μm2」に訂正されたことにより、それらの記載は明確であるから、かかる主張は理由がない。
さらに、特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許明細書の段落【0005】には、解決課題として「本発明は、寿命特性(サイクル試験で評価)と高出力特性(ハイレート特性で評価)を両立させ得る蓄電デバイスを実現し得る、ポリオレフィン微多孔膜を提供することを目的とする。」ことが記載されているが、実施例では、サイクル試験の試験方法や評価基準の記載は一切なく、ハイレート特性は段落【0048】に評価方法の記載があるが、評価基準の記載は一切なく、サイクル特性及びハイレート特性がどの程度優れるのかが不明であり、発明の課題が解決できることを当業者が認識することができず、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している(3(4)エ(イ))。
しかしながら、技術常識からみて、サイクル試験は充放電を繰り返した際の性能変化の試験を意味していると認められ、また、サイクル特性及びハイレート特性の評価については、段落【0067】の【表1】の実施例においては◎又は○、比較例においては○、△又は×と記載され、総合的には実施例の方が優れていることが理解されるから、「寿命特性(サイクル試験で評価)と高出力特性(ハイレート特性で評価)を両立させ得る蓄電デバイスを実現し得る、ポリオレフィン微多孔膜を提供する」という課題が解決できることを当業者が認識することができるといえる。したがって、かかる主張は理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-701203