特許異議申立
2016-701173
ガラス基板の製造方法
- 審判番号
- 2016-701173
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-559763
- 登録番号
- 特許第5981570号(P5981570)
- 請求日
- 2016年12月22日
- 審決日
- 2017年04月26日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】AvanStrate株式会社
- 【権利者代理人】グローバル・アイピー東京特許業務法人
- 【異議申立人】出口 歓一
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 瀧口 博史
- 審判官 中澤 登
- 分類
- P1651.121-Y (C03B)
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5981570号発明「ガラス基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5981570号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第5981570号の請求項1ないし5に係る特許についての出願(特願2014-559763号)は、平成26年1月31日(優先権主張 平成25年1月31日 日本国(JP))を国際出願日としたものであって、平成28年8月5日に特許権の設定登録がされたものである。
その後、本件特許に対し、特許異議申立人出口歓一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められる。
3 申立ての理由の概要
特許異議申立人は、以下の甲第1号証~甲第2号証を提出し、本件特許発明1~5は、当業者であれば甲第1号証~甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:実用新案登録第2530060号公報
甲第2号証:国際公開第2012/026136号
4 甲号証の記載
(1) 甲第1号証
甲第1号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 炉室を形成する炉壁と、
前記炉室内に設けられ、溶融ガラスを板状に形成するための断面がほぼくさび状の成形体と、
成形体により成形されたガラス板が通過できる孔を有し、成形体の下方に設けられて前記炉室を上室と下室に分離する隔壁と、
前記上室内に複数設けられた発熱体と、
前記発熱体と前記成形体とを仕切る内部隔壁と、
を備えることを特徴とするガラス板の製造装置。」
イ 「【0016】成形体2の凹部2aには、図の前後方向(紙面に垂直な方向)に水平に配置された図示していない溶融ガラス供給管が接続されている。この溶融ガラス供給管から凹部2a内へ供給された溶融ガラス3は、凹部2aの上側のスリット状の開口2bから溢れ、成形体2の両側面に沿って流下し、成形体2の下端部で合流する。合流した溶融ガラス3は冷却されてガラス板3Aとなり、図示しない駆動装置で回転駆動される一対のガラス板搬送ローラ4によって下方へ搬送される。…」
ウ 「【0025】…内部隔壁9a,9bの材質としては、熱伝導率の大きな材質で、かつ均質度の高いものが望ましく、たとえばSiC製の板が使用できる。…」
エ 「【0028】成形体2と発熱体7とを内部隔壁9a,9bにより分離しているので発熱体7からの熱は熱伝導率の高い内部隔壁9a,9bに吸収される。内部隔壁9a,9b内の熱は内部で伝達されて内部隔壁9a,9b自身の熱が均質化されると共に、成形体室12へ輻射され、この輻射熱により成形体2上の溶融ガラス3が加熱される。したがって、各発熱体7の温度がばらついていても内部隔壁9a,9bの均熱効果により成形体2上の溶融ガラス3の温度にはほとんど影響を及ぼすことがなく、均質な加熱が実現できる。」
オ 図1に、以下の、一実施例によるガラス板の製造装置の断面図が記載されている。
(2) 甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 「…ガラス製造装置10は、炉室12と、成形体14と、ローラ16と、断熱板18と、を有する。図3(a)中の紙面に垂直方向が、帯状ガラスの幅方向であり、図1(a)中紙面内の上下方向が、高さ方向である。
炉室12は、耐火物レンガやブロック状の電鋳柱耐火物等により組み立てられた炉壁12aで囲まれた空間である。炉室12内には、成形体14と、ローラ16と、断熱板18とが設けられている。…」([0019]-[0020])
イ 「枠部材18a~18dには、セラミックファイバボード18e~18gのアルミナファイバに比べて熱伝導率の高いSiCやSiCを主成分とした材料(例えば、SiC焼結体など)が用いられる。…」([0025])
ウ 「本実施形態では、枠部材18a~18dの材料にSiCを用いた例を挙げて説明したが、上部空間の温度における熱伝導率が、25W/m・K以上、より好ましくは、45W/m・K以上、特に好ましくは50W/m・K以上の熱伝導率を有する材料であるとよい。そのため、枠部材18a~18dの材料としては、上部空間の温度における熱伝導率が、25~200W/m・K、より好ましくは、45~200W/m・K、特に好ましくは50~200W/m・Kの熱伝導率を有する材料であるとよい。また、枠部材18a~18dの材料としては、断熱材と比較して、上部空間の温度における放射率の大きな材料を適用することが好ましい。例えば、枠部材18a~18dの材料の放射率が、好ましくは0.8~1、より好ましくは0.95~1であるとよい。また、帯状ガラスの温度分布のばらつきを抑制するために、枠部材18a~18dの材料の気泡含有率は0~15%であり、好ましくは0~5%、より好ましくは0~2.5%である。…」([0027])
エ 「(変形例5)
本実施形態において、成形炉内の上部空間を構成する部材のうち、成形体14(溶融ガラス)と面する部材、例えば、炉壁12a(図3(a)参照)の部材あるいは炉壁12aの上部空間に面する表面部材において、温度分布のばらつきや放射率のばらつきが生じてしまうと、成形体14に接している溶融ガラスの温度分布にもバラツキが生じてしまい、ひいては帯状ガラス及びガラス基板に板厚偏差が生じる。本変形例では、成形炉内の上部空間を構成する部材のうち成形体14(溶融ガラス)と面する部材に、熱伝導率が25~200W/m・Kであり、放射率が0.8~1である材料が用いられる。成形炉内の上部空間を構成する部材のうち、成形体14(溶融ガラス)と面する部材には、上記枠部材18aなどと同様の材料(例えば、SiC等)を適用することができる。また、成形炉内の上部空間を構成する部材のうち成形体14(溶融ガラス)と面する部材の厚さを5mm以上とすることで、帯状ガラス及びガラス基板の板厚偏差を、よりいっそう抑制することができる。」([0059])
オ 「…一方、実施例である本実施形態の断熱板18は、図4(a),(b)に示すように、セラミックファイバボード18e~18gの周りを囲むように、SiCからなる中空状の四角柱の枠部材18a~18dを用いて枠を作った。…」([0064])
カ 「実施例である断熱板18の枠部材18aの上部空間温度(1300℃)における熱伝導率は約45W/m・Kであり、気泡含有率は約0.6%であり、放射率は0.95であった。…」([0065])
5 判断
(1) 本件特許発明1について
上記4(1)の記載事項を、本件特許発明1の記載に則して整理すると、甲第1号証には、
「成形体の凹部内へ供給された溶融ガラスが、凹部の上側のスリット状の開口から溢れ、成形体の両側面に沿って流下し、成形体の下端部で合流し、冷却されるガラス板の製造方法であって、
炉室に、発熱体と、前記成形体と、前記発熱体と前記成形体とを仕切る内部隔壁と、を設け、
前記内部隔壁に、熱伝導率の大きな材質で、かつ均質度の高い、SiC製の板を用い、
前記発熱体からの熱は前記内部隔壁に吸収され、内部隔壁内の熱は内部で伝達されて内部隔壁自身の熱が均質化されると共に、成形体室へ輻射され、この輻射熱により前記成形体上の溶融ガラスが加熱されることを特徴とするガラス板の製造装置
によるガラス板の製造方法。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
本件特許明細書の【0002】に記載された「ダウンドロー法では、成形体の溝に溶融ガラスを流し込んだ後、溶融ガラスを溝からオーバーフローさせる。」との事項に基づけば、甲1発明は、凹部(「溝」に相当すると認める。)から、溶融ガラスが溢れる方法であり、ダウンドロー法によるものといえる。
また、甲1発明の「板ガラス」は、本件特許発明1の「シートガラス」に相当する。
さらに、甲1発明の「前記発熱体からの熱は前記内部隔壁に吸収され、内部隔壁内の熱は内部で伝達されて内部隔壁自身の熱が均質化されると共に、成形体室へ輻射され、この輻射熱により前記成形体上の溶融ガラスが加熱」は、本件特許発明1の「前記発熱体により前記内部隔壁を介して前記成形体を流れる前記溶融ガラスを加熱」に相当する。
そうすると、両者は、「ダウンドロー法により溶融ガラスをシートガラスに成形する工程を有する製造方法であって、
成形炉室に、発熱体と、前記成形体と、前記発熱体と前記成形体とを仕切る内部隔壁と、を設け、
前記内部隔壁に、SiCを用い、
前記発熱体により前記内部隔壁を介して前記成形体を流れる前記溶融ガラスを加熱することを特徴とする製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件特許発明1は、内部隔壁に用いられるSiCが、「SiCの含有率が95重量%以上であって、熱伝導率が1200℃で20W/(m・K)以上であって、開気孔率が1%以下のSiC焼結体」であるのに対し、甲1発明は、内部隔壁に用いられるSiCが、「熱伝導率の大きな材質で、かつ均質度の高い、SiC製の板」である点。
相違点2:本件特許発明1は、「ガラス基板」の製造方法であるのに対し、甲1発明は、ガラス基板を製造しているか明らかでない点。
ここで、甲第2号証には、溶融ガラスと面する炉壁12aの熱伝導率と放射率とにより、溶融ガラスの温度分布のバラツキを抑える技術的事項が記載されていると認められる。また、そのような熱伝導率と放射率を有する材料として、「SiC焼結体」、「1300℃における熱伝導率は約45W/m・Kであり、気泡含有率は約0.6%であり、放射率は0.95であるSiC」が示されているといえる。
そこで、相違点1について検討するに、本件特許明細書の【0031】、【0039】に記載された事項によれば、本件特許発明1は、内部隔壁にSiC焼結体の開気孔率が1%以下のSiC焼結体を用いたことで、「内部隔壁の内部酸化による異常膨張が抑制され、変形、表面の亀裂、割れの発生を抑制する」ことができるという効果を見出したものである。
これに対し、甲第1号証~甲第2号証には、当該効果に関する記載も示唆もない。
してみると、仮に、溶融ガラスの温度分布のバラツキを抑えることなどを動機として、甲1発明に甲第2号証の技術的事項を適用したとしても、この「内部隔壁の内部酸化による異常膨張が抑制され、変形、表面の亀裂、割れの発生を抑制する」ことの予測性がない。
してみると、甲1発明において、内部隔壁に「SiCの含有率が95重量%以上であって、熱伝導率が1200℃で20W/(m・K)以上であって、開気孔率が1%以下のSiC焼結体」を用いることは当業者が容易になし得たこととはいえず、相違点2についての検討をするまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証~甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ここで、特許異議申立人は、「甲第1号証及び甲第2号証には、本件特許発明1のような「気孔率が高い材料で作られた内部隔壁の場合は、成形炉室内の高温雰囲気長時間曝されると内部隔壁の内部に、内部の気孔によりSiが酸化してSiO2が形成されることで異常膨張し、変形したり、表面に亀裂が入ったり、割れたりすることがある。」という課題は示されていない。
しかしながら、甲第1号証の内部隔壁に甲第2号証記載の前記材料を適用することにより、当然に前記課題は解決されるものであり、何ら格別な効果ではない。
したがって、かかる点を考慮しても、創作困難性は認められない。」(特許異議申立書17頁29行-18頁6行目)と主張しているが、当然であるといえる証拠が示されていない。
なお、本件特許明細書の記載を根拠とするならば、本件特許について出願された事項を知らずして当業者が容易になし得たとはいえないものといわざるを得ない。
したがって、かかる主張は採用できない。
(2) 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、本件特許発明1の発明特定事項を含むものである。
してみると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2~5は、甲第1号証~甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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