特許異議申立
2017-700339
潤滑剤組成物およびそれを用いた成形方法
- 審判番号
- 2017-700339
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-214580
- 登録番号
- 特許第6002523号(P6002523)
- 請求日
- 2017年04月05日
- 審決日
- 2017年08月31日
- 公報発行日
- 2017年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JXTGエネルギー株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】平野 裕之
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【異議申立人】出口 歓一
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 日比野 隆治
- 審判官 佐々木 秀次
- 分類
- P1652.121-Y (C10M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6002523号発明「潤滑剤組成物およびそれを用いた成形方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6002523号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許異議申立に係る特許第6002523号は、平成28年9月9日、発明の名称を「潤滑剤組成物およびそれを用いた成形方法」、請求項の数を「6」として設定登録され、その後、その特許について、特許異議申立人である出口歓一により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年6月9日付けで取消理由を通知し、同年8月9日付けで特許権者であるJXTGエネルギー株式会社から意見書が提出されたものである。
第2 本件特許1・本件発明1
上記特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、本件特許異議申立の対象とされた請求項1に係る発明は、次のとおりである(以下、当該請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、その特許を「本件特許1」という。)。
「【請求項1】
40℃における動粘度が20mm2/s以上のポリアルキレングリコール、40℃における動粘度が20mm2/s以上の多価アルコールエステル、40℃における動粘度が40mm2/s以上のコンプレックスエステル、25℃における動粘度が5mm2/s以上の変性シリコーンおよび40℃における動粘度が80mm2/s以上、引火点が200℃以上の鉱油から選ばれる少なくとも1種を含有し、熱可塑性炭素繊維強化プラスチックの成形に用いられる潤滑油組成物。」
第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審において、本件特許1に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1は、審査段階で引用された特開平8-267488号公報(以下「引用刊行物」という。)に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲第1~3号証(順に、特開2008-75059号公報、特開2008-88301号公報、特開2003-253281号公報、以下「甲1」~「甲3」という。)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許1は、同法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。
2 取消理由についての当審の判断
(1) 引用刊行物に記載された発明(引用発明)
引用刊行物には、「繊維強化熱可塑性樹脂発泡体の製造方法」(発明の名称)に関する技術的事項が開示されており、その請求項1には、次のような記載がある。
「【請求項1】 繊維強化熱可塑性樹脂シートを連続的に中空状体に賦形しつつ、その内部に発泡性熱可塑性樹脂組成物を発泡させながら供給するとともに、その全体を外周規制部材へと導き、この規制部材と中空状体外周面との間に潤滑剤を介在させた状態で、上記発泡性熱可塑性樹脂組成物の発泡圧により中空状体外周面を規制部材に沿わせることで所望断面形状に賦形する、繊維強化熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。」
そうすると、引用刊行物には、繊維強化熱可塑性樹脂シートを所望の形状に賦形するために使用する潤滑剤について記載されているといえる。
そして、当該繊維強化熱可塑性樹脂シートに用いる繊維として、引用刊行物の【0022】には、炭素繊維が例示され、当該潤滑剤として、同【0043】には、シリコンオイル、ポリアルキレングリコール類、多価アルコール、多価アルコールと脂肪酸とのエステル、原油を精製して得られる鉱油などが挙げられている。
以上をまとめると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「炭素繊維などの繊維を用いた繊維強化熱可塑性樹脂シートを所望の形状に賦形するために使用する、シリコンオイル、ポリアルキレングリコール類、多価アルコール、多価アルコールと脂肪酸とのエステル、原油を精製して得られる鉱油などの潤滑剤。」
(2) 本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違するといえる。
・相違点:本件発明1は、潤滑油組成物の含有成分につき「40℃における動粘度が20mm2/s以上のポリアルキレングリコール、40℃における動粘度が20mm2/s以上の多価アルコールエステル、40℃における動粘度が40mm2/s以上のコンプレックスエステル、25℃における動粘度が5mm2/s以上の変性シリコーンおよび40℃における動粘度が80mm2/s以上、引火点が200℃以上の鉱油」(以下、単に「本件潤滑油成分」という。)と特定しているのに対して、引用発明は、動粘度などの特性については何ら特定していない点。
(3) 相違点の検討
ア はじめに、金属材料などの成形に使用されている一般的な加工油剤についてみると、特許異議申立人が提出した甲1~3の記載(要すれば、特許異議申立書の4~15頁において摘記された事項参照)から、当該一般的な加工油剤として、本件発明1が特定する上記「本件潤滑油成分」と重複するものが種々使用されていることを理解することができる。
しかしながら、特許権者が意見書に添付して提出した乙第1~3号証(順に、特開2004-263056号公報、特開2004-315669号公報、特開2009-197183号公報)の記載を斟酌すると、当該一般的な加工油剤に使用されているものが、必ずしも上記「本件潤滑油成分」に該当するわけではないこと(当該一般的な加工油剤として使用されているものは広範にわたり、「本件潤滑油成分」と重複するものはその一部にすぎないこと)が分かる。
イ そうすると、本件発明1において採用されている上記「本件潤滑油成分」は、金属材料などの成形に用いられる一般的な加工油剤を、単純に列挙したものではなく、そのうちの一部を選択的に特定したものと解するのが相当である。
ウ 上記の点を踏まえて、引用発明において、上記「本件潤滑油成分」を転用して使用すること、さらには、引用発明の潤滑剤の特性を当該「本件潤滑油成分」のように最適化することの容易想到性について検討する。
(ア) 引用発明は、既に、熱可塑性CFRPの成形に、シリコンオイル、ポリアルキレングリコール類などの潤滑剤を用いることまでを具備するものの、引用刊行物を仔細にみても、これらの潤滑剤の特性(動粘度、引火点)についてまで教示する記載は見当たらない。
また、当業者であれば、実際に、引用発明における潤滑剤として具体的なものを選定するにあたり、広く一般に使用されているシリコンオイル、ポリアルキレングリコール類などの潤滑剤(例えば、金属材料などの成形に用いられるような上記一般的な加工油剤)を参考にすると考えるのが合理的である。しかしながら、これを前提にしても、本件発明1が特定している上記「本件潤滑油成分」は、当該一般的な加工油剤の中から、甲1~3にみられるような特定のものを選択したものであるから、引用発明において当該選択を動機付ける論拠が必要になるところ、引用刊行物の記載や技術常識に照らしても、そのような論拠を見いだすことはできない。
(イ) さらに、引用発明の潤滑剤の特性を「本件潤滑油成分」のように最適化することについて考えても、「本件潤滑油成分」が規定している動粘度などの特性が、単に、引用発明の潤滑剤の特性を、加工温度などの条件に応じて最適化した結果にすぎないと認めるに足りる証拠は見当たらない。
(ウ) そして、本件発明1は、当該「本件潤滑油成分」を採用することにより、本件特許明細書の【0014】や【実施例】に記載された効果を奏するものである。
(エ) 以上の点からみて、引用発明において、上記「本件潤滑油成分」を転用して使用すること、及び、引用発明の潤滑剤の特性を当該「本件潤滑油成分」のように最適化することはともに、容易想到の事項ということはできないから、本件発明1は、引用発明及び甲1~3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 小括
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によって、本件特許1を取り消すことはできない。
第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由は、おおよそ次のとおりである。
本件発明1は、上記甲1~3及び甲第4号証(「超音波振動を付与した複合材料の切削加工」、日本機械学会論文集(C編)、69巻、682号、pp.1707~1712、以下「甲4」という。)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件特許1は、同法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである。
2 特許異議申立理由についての当審の判断
(1) 特許異議申立人が提出した甲4には、炭素繊維強化プラスチックの振動切削に使用する切削液に関する記載を認めることができる(要すれば、特許異議申立書の16頁において摘記された事項参照)。
しかしながら、当該炭素繊維強化プラスチックが熱可塑性であることを示す記載は見当たらない。
また、甲1~3にも、熱可塑性炭素繊維強化プラスチックの成形に用いられる潤滑油組成物に関する記載はない。
したがって、本件発明1の発明特定事項である「熱可塑性炭素繊維強化プラスチックの成形に用いられる潤滑油組成物」については、甲1~4のいずれの証拠にも記載されていないといわざるを得ない。
(2) さらに、上記「第3 2(3)」において検討したとおり、確かに、甲1~3は、金属材料などの成形に使用されている一般的な加工油剤として、本件発明1において採用されている上記「本件潤滑油成分」と重複するものが使用されていることを示している。
しかしながら、当該甲1~3にみられるような「本件潤滑油成分」と重複するものを、甲4に記載された上記切削液において選択することの動機付けとなるような根拠は、甲1~4の記載や技術常識に照らしても、見いだすことができない。
(3) 以上の点からみて、本件発明1は、甲1~4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 小括
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、本件特許1を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許1を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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