特許異議申立
2016-701111
点火コイル
- 審判番号
- 2016-701111
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-126204
- 登録番号
- 特許第5928531号(P5928531)
- 請求日
- 2016年11月30日
- 審決日
- 2018年03月12日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社デンソー
- 【権利者代理人】特許業務法人あいち国際特許事務所
- 【異議申立人】中條 澄子
- 審判長/審判官
- 審判長 冨岡 和人
- 審判官 金澤 俊郎
- 審判官 佐々木 芳枝
- 分類
- P1651.121-YAA(F02P) / P1651.537-YAA(F02P) / P1651.841-YAA(F02P) / P1651.851-YAA(F02P) / P1651.852-YAA(F02P) / P1651.853-YAA(F02P) / P1651.857-YAA(F02P) / P1651.854-YAA(F02P) / P1651.855-YAA(F02P)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5928531号発明「点火コイル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5928531号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第5928531号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5928531号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年5月13日付けでその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成28年6月1日)がされ、その後、平成28年11月30日に特許異議申立人 中條澄子(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがされ、平成29年2月21日付けで取消理由が通知され、平成29年4月25日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年6月8日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成29年7月12日付けで特許異議申立人から意見書が提出され、平成29年9月22日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年11月1日に面接がされ、平成29年11月21日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年12月8日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成30年1月12日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する。なお、下線部は訂正箇所を示す(訂正事項2以降についても同様。)。
「【請求項1】
少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a~101d)によって、前記側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体(10、10a~10d)を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a~103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていないことを特徴とする点火コイル(1a、1d)」
(2)訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を以下の事項により特定されるとおりの請求項2として訂正することを請求する。
「【請求項2】
少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
前記側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a~101d)によって覆った側面鉄心モールド体(10、10a~10d)を具備し、
その一部を前記絶縁樹脂から露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a~103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記絶縁樹脂を充填したときに、前記成型特異点の表面を覆うように前記絶縁樹脂を引き上げるべく、前記成型特異点の近傍に前記コアカバーの一部を外側に向かって突出せしめた突起部(104、1041、1042、1043)を具備する、点火コイル(1b)」
(3)訂正事項3
特許権者は、明細書の段落【0011】を以下のとおり訂正することを請求する。
「【0011】
本発明の点火コイル(1a、1d)では、少なくとも、一次巻線(11)と、二次巻線(12)と、前記一次巻線(11)の内側に配置した中心鉄心(13)と、前記二次巻線(12)の外側に配置した側面鉄心(100)と、前記中心鉄心(13)と前記側面鉄心(100)とを含む昇圧トランス(16)と、前記二次巻線(12)の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子(121)と、をハウジング(30)の内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂(40)によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー(101、101a~101d)によって、前記側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体(10、10a~10d)を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめると共に、
前記コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕(102、102b)、
及び/又は、
ゲート痕(103、103a~103d)、
及び/又は、
可動式押さえピン痕、
及び/又は、
固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、
のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、
該成型特異点を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂の樹脂表面(41)よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、
かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていない。」
(4)訂正事項4
特許権者は、明細書の段落【0013】に、「【図1A】本発明の第1の実施形態における点火コイル1の上面図」と記載されているのを、「【図1A】本発明の基本構成を示す第1の形態における点火コイル1の上面図」に訂正することを請求する。
(5)訂正事項5
特許権者は、明細書の段落【0014】に、「本発明の第1の実施形態のける点火コイル1」と記載されているのを、「本発明の基本構成を示す第1の形態における点火コイル1」に訂正することを請求する。
(6)訂正事項6
特許権者は、明細書の段落【0015】に、「本発明の点火コイル1は、」と記載されているのを、「本形態の点火コイル1は、」に訂正することを請求する。
(7)訂正事項7
特許権者は、明細書の段落【0021】に、「本発明の点火コイル1」と記載されているのを、「本形態の点火コイル1」に訂正し、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。
(8)訂正事項8
特許権者は、明細書の段落【0023】に、「本発明の要部」と記載されているのを、「本形態の要部」に訂正することを請求する。
(9)訂正事項9
特許権者は、明細書の段落【0025】に、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。
(10)訂正事項10
特許権者は、明細書の段落【0026】に、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。
(11)訂正事項11
特許権者は、明細書の段落【0028】に、「本実施形態における」と記載されているのを、「本形態における」に訂正し、「本実施形態においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。
(12)訂正事項12
特許権者は、明細書の段落【0030】に、「本実施例においては」と記載されているのを、「本形態においては」に訂正することを請求する。
(13)訂正事項13
特許権者は、明細書の段落【0033】に、「上記実施形態と」と記載されているのを、「上記形態と」に訂正することを請求する。
(14)訂正事項14
特許権者は、明細書の段落【0034】に、「第1の実施形態においては」と記載されているのを、「第1の形態においては」に訂正することを請求する。
(15)訂正事項15
特許権者は、明細書の段落【0037】に、「第1の実施形態と」と記載されているのを、「第1の形態と」に訂正することを請求する。
(16)訂正事項16
特許権者は、明細書の段落【0049】に、「第1の実施形態と」と記載されているのを、「第1の形態と」に訂正することを請求する。
(17)訂正事項17
特許権者は、明細書の段落【0051】に、「第1の実施形態と」と記載されているのを、「第1の形態と」に訂正することを請求する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2の、請求項2に係る訂正は、引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項1ないし4は、請求項2ないし4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
訂正事項3、4及び6ないし17の、明細書に係る補正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5の、明細書に係る補正は、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正を認める。
また、本件訂正請求による訂正事項3ないし17は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の明細書について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)訂正後の請求項1に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、上記第2 1 (1)において示したとおりのものである。
(2)刊行物の記載
ア 甲第3号証
取消理由通知(決定の予告)において引用した刊行物である甲第3号証(実願平2-46352号(実開平4-5626号)のマイクロフィルム)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「本考案は、エンジンの点火コイル装置に関する。」(第2ページ第7行)
(イ)「従来、この種のエンジンの点火コイル装置にあっては、第14図に示すように、コイルケース5内に収納された各コイルユニット1,2,3の全体を覆うように、コイルケース5内に樹脂37を注入するようにしている。
(中略)
そのため、各コイルユニット1,2,3におけるコアの熱膨張,熱収縮による応力が厚みの薄くなった樹脂部分に集中して、クラックが生じやすくなっている。」(第2ページ第17行ないし第3ページ第15行)
(ウ)「本考案に係るエンジンの点火コイル装置にあっては、第5図および第6図に示すように、その構成部分が、3つのコイルユニット1,2,3と、その各コイルユニット1,2,3が並列的に設置されるコイルベース4と、そのコイルベース4の上に装着されるコイルケース5とからなっており、そのコイルケース5内における余地部分にエポキシなどの絶縁性をもった熱硬化性の樹脂がポッティングされて、各構成部分がー体となるように成形されている。
各コイルユニット1,2,3は、それぞれ第7図に示すように構成されている。
C型コア61の一辺に、一次コイル7が巻装されている一次側ボビン8がはめ込まれ、さらにその上から重ねて二次コイル9が巻装されている二次側ボビン10がはめ込まれている。
C型コア61は、一次側ボビン8がはめ込まれる一辺が裸出するように、コアカバー111内に入れられている。
そして、そのC型コア61の開放端の部分に、コアカバー112内に入れられたI型コア62が圧入によってはめ込まれて、1つの閉磁路型のコアが形成されている。
各コアカバー111,112は、コア61,62に生ずる熱ひずみを吸収できる比較的柔軟性のあるPP樹脂などによってモールド成形されている。」(第4ページ第17行ないし第6ページ第3行)
(エ)「また、二次側ボビン10の両側の鍔部には、それぞれ端子ホルダ13が設けられ、その各ホルダ13内には二次端子14がそれぞれ装着される。」(第6ページ第14行ないし第16行)
(オ)「そして、二次端子14には、二次端子ピン15のプラグ部151と共働するバネ性をもったソケット部141が形成されており、第6図および第1図に示すように、そのソケット部141に二次端子ピン15のプラグ部151が差し込まれて両者間の電気的な接続がとられるようになっている。」(第7ページ第5行ないし第10行)
(カ)「コイルケース5内には、第1図に示すように、その内部に配設される各コイルユニット1,2,3の各収納部分をそれぞれ仕切る隔壁33がコイルケース5側に一体に設けられて、それぞれ独立した各コイルユニット1,2,3の収納室34,35,36が形成されている。
そして、第2図に示すように、コイルベース4とコイルケース5とが組み合せられた状態で、各収納室34,35,36内に樹脂が注入され、その注入された樹脂37の硬化によって全体が一体となるように成形される。」(第12ページ第9行ないし第19行)
(キ)「このようなものにあって、本考案では、コイルケース5内を樹脂37によって充満させることなく、コイルベース4における閉塞部16の中途のレベルLまで樹脂を注入させるようにしたことを特徴としている。
しかして、各コイルユニットにおけるコアカバー111の一部が樹脂37の外部に露出していても、その露出部分がコイルベース4側の閉塞部16によって完全に封じ込められて、防水性が確保される。」(第13ページ第6ないし15行)
(ク)上記(ア)ないし(キ)及び第1図ないし第9図の記載からみて、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「少なくとも、一次コイル7と、二次コイル9と、前記一次コイル7の内側に配置したC型コア61の中心部と、前記二次コイル9の外側に配置したC型コア61の外側部及びI型コア62と、前記C型コア61の中心部と前記C型コア61の外側部及びI型コア62とを含むコイルユニット1,2,3と、前記二次コイル9の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図るプラグ部151と、をコイルベース4及びコイルケース5の内側に収容し、前記コイルケース5内に充填された樹脂37によって封止した点火コイル装置であって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバー111,112によって、前記C型コア61の外側部及びI型コア62を覆ったコイルユニット1,2,3の外側部を具備し、
その一部を、前記コイルケース5内に充填された前記樹脂37から該樹脂37の外部に露出せしめる、
点火コイル装置。」
イ 甲第1号証
取消理由通知(決定の予告)において引用した刊行物である甲第1号証(特開2012-146896号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0027】
また、前記外周鉄芯32の前記中心鉄芯30及び前記マグネット38との接続面を除いた周囲はPBTで成形されたモールド樹脂と接着するカバー50で覆われている。さらに、当該モールド樹脂と接着するカバー50のカバー側コイル対向面51a,51bにPET(ポリエチレンテレフタレート)で成形したモールド樹脂と剥離するテープ52を貼り付けている。」(段落【0027】)
(イ)「【0046】
また、前記モールド樹脂と接着するカバー50及び前記モールド樹脂と剥離するカバー54は係止等を用いて一体化してもよい。さらに、前記モールド樹脂と接着するカバー50を第1成形段階とし、前記モールド樹脂と剥離するカバー54を第2成形段階として二色成形で形成してもよい。」(段落【0046】)
(ウ)上記(ア)、(イ)及び図1ないし図7の記載からみて、甲第1号証には、次の技術(以下、「甲1技術」という。)が記載されているといえる。
「点火コイルにおいて、外周鉄芯32の一部を、成形されたカバー50によって覆った構成を具備する技術。」
(エ)また、上記(ア)、(イ)及び図1ないし図7の記載からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証に記載の発明」という。)が記載されているといえる。
「少なくとも、1次巻線12と、2次巻線22と、前記1次巻線12の内側に配置した中心鉄心30と、前記2次巻線22の外側に配置した外周鉄心32と、前記中心鉄心30と前記外周鉄心32とを含む電磁回路と、前記2次巻線22の出力端と内燃機関に設けた点火プラグとの接続を図る高圧端子60と、をケース40の内側に収容し、前記ケース内に充填されたモールド樹脂90によって封止した点火コイル100であって、
PBTを用いた成形によって形成したカバー50によって、前記外周鉄心32の一部を覆った外周鉄心カバー体を具備し、
その一部を、前記ケース内に充填された前記モールド樹脂90から該モールド樹脂の外部に露出せしめる、点火コイル100。」
ウ 甲第2号証
取消理由通知(決定の予告)において引用した刊行物である甲第2号証(特開2008-277535号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0003】
点火コイルの構成部材としてのコアは、その耐食性を向上させるために、例えばインサート成形して絶縁樹脂中に埋没させた形式のものが主流となっている。」(段落【0003】)
(イ)「【0006】
図7において、長尺又は大面積のインサート71の少なくとも片面を、溶融材料の注入充填時におけるインサート71の正位置からのずれを防止するために複数のインサートピン72で支持し、成形金型の製品キャビティ73内にインサート71を中空保持したまま、例えばゲート74から製品キャビティ内に溶融材料を注入、充填してインサート成形品が成形される。
【特許文献1】特開平10-258442号公報
【特許文献2】特開昭58-018222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、点火コイルの構成部材であるコアとしてインサート成形品を適用する場合、以下のような問題がある。すなわち、コア表面に形成されたインサート時の固定ピンを抜いたピン跡の凹状部がそのままになっていると、コアを含むコイル組立体をコイルケース内に嵌挿し、注型材として絶縁樹脂を注入したとき、ピン跡の凹状部と絶縁樹脂との界面に歪が生じ、この歪みに起因して絶縁樹脂にクラックが発生するという問題がある。」(段落【0006】及び【0007】)
(ウ)「【0038】
一次モールド樹脂被膜が形成されたコア部材は、図4中、上部平面1815と、下部の傾斜接合面181a及び凸状接合面181b、並びに6箇所の固定ピン跡1814a~1814f部分及び表裏12箇所の鍵穴形状のピン跡1816a~1816f部分に方向性珪素鋼板1811が露出したものとなる。
【0039】
本実施の形態においては、一次モールド樹脂被膜を有するコア部材の固定ピン跡1814a~1814f及び1816a~1816fをモールド樹脂によって埋めるために、一次モールド樹脂被膜を更にモールド樹脂で覆って二次モールド樹脂被膜を形成する。すなわち、一次モールド樹脂被膜の形成時と同様、図4における上部平面1815、下部の傾斜接合面181a及び凸状接合面181bをそれぞれ金型の一部で支持し、必要に応じて一次モールド樹脂被膜面上の任意の部分を支持し、この状態で製品キャビティ内に溶融材料を注入、充填し、一次モールド樹脂被膜の表面に、例えば厚さ0.5mm~2.0mmの二次モールド樹脂被膜を形成し、これによってピン跡1814a~1814f及びピン跡1816a~1816fをモールド樹脂で埋める。このとき、例えば鍵穴状のピン跡1816a~1816fがモールド樹脂によって埋められた、上記鍵穴状の円弧部分の中心部が押し出しピンによる押し出し部となる。
【0040】
コア部材182(図3参照)についても、コア部材181と同様に処理し、一次モールド樹脂被膜を二次モールド樹脂被膜によって覆い、一次モールド樹脂被膜形成時の固定ピン跡が塞がれる。
【0041】
このようにして形成された二つのコア部材181と182を組み合わせることによってコア18が形成され、コア18は、点火コイルにおけるコイル組立体の構成部材として適用される。
【0042】
すなわち、一次コイルが巻装された円筒状の一次コイルボビン11の外側に、一次コイルボビン11よりも径が大きく、二次コイルが巻装された円筒状の二次コイルボビン12を配置してコイル対を形成し、次いで、コア部材181の傾斜接合面181aに板状のマグネット20を接合し、コの字状のコア部材181の傾斜接合面側の端部を、コイル対の上方から、一次コイルボビン11の中心空間に嵌挿し、もう一つのコア部材182の傾斜接合面182a側の端部をコイル対の下方から同様に一次コイルボビン11の中心空間に嵌挿し、コイルボビン11の中心空間内で傾斜接合面181aと182aを接合させ、このとき、コイル対の外側で、凹凸状の接合面181bと182bとを嵌合させ、これによってコア18としての閉磁路を形成する。このようにして一次コイルと二次コイルとが同心円状に配置されたコイル対の中心空間にコア18のセンターコア部位分18aが嵌挿され、センターコア18aと平行なサイドコア18bが二次コイルボビン12の外表面に沿って配置されたコイル組立体10が形成される。コイル組立体10は、図1に示したように、ハウジング1に嵌挿され、各構成部材相互間に絶縁樹脂が充填されて点火コイルとなる。
【0043】
本実施の形態において、一次モールド樹脂被膜形成時のピン跡1814a~1814f及び1816a~1816fである凹状部にモールド樹脂を充填して凹状部を塞いだことによって、コア部材181及び182の表面における凹凸が緩和されるので、このコア部材181と182を組み合わせたコア18を構成部材としたコイル組立体10(図1参照)をハウジング1内に嵌挿し、絶縁樹脂を注入、充填した点火コイルにおいて、コア181、182の表面のピン跡の凹状部と注型材としての絶縁樹脂との界面における歪みを抑制し、これによって絶縁樹脂におけるクラックの発生を防止することができる。
【0044】
本実施の形態において、二次モールド樹脂の被膜厚さを0.5~2.0mmとしたので、ピン跡1814a~1814f及び1816a~1816fである凹状部をモールド樹脂で塞ぐ工程を簡素化できると共に、モールド樹脂の使用量を適量にすることができる。
【0045】
本実施の形態においては、一次モールド樹脂被膜を形成する際に被膜面に形成される固定ピン跡を樹脂で塞ぐために、一次モールド樹脂被膜を樹脂で覆って二次モールド樹脂被膜を形成したが、本発明は、これに限定されるものではなく、ピン跡の凹状部のみをモールド樹脂で塞ぐようにしてもよい。」(段落【0038】ないし【0045】)
(エ)「【0063】
本実施の形態によれば、点火コイルの構成部材であるコアが、モールド樹脂によって被覆されており、且つモールド樹脂被膜に形成された該モールド樹脂被膜形成時のコア固定ピンが抜かれたピン跡1814a~1814f及び1816a~1816fに、さらにモールド樹脂を充填してピン跡の凹状部が埋められているので、コア表面のピン跡の凹状部と注型材としての絶縁樹脂との界面における歪を抑制して絶縁樹脂におけるクラックの発生を防止することができる。」(段落【0063】)
(オ)上記(ア)ないし(エ)及び図1ないし図7の記載からみて、甲第2号証には、次の技術が記載されているといえる。
「鉄心に一次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した時点で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹状部を絶縁樹脂によって埋める技術。」(段落【0007】に記載された従来技術。以下、「甲2技術1」という。)
「固化した一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹凸を二次モールド樹脂被膜のモールド樹脂によって緩和する技術。」(段落【0043】に記載された技術。以下、「甲2技術2」という。)
「一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した状態で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、二次モールド樹脂被膜の表面に残存する凹状部を絶縁樹脂によって埋めて塞ぐ技術。」(段落【0043】及び【0063】に記載された技術。以下、「甲2技術3」という。)
(3)対比・判断
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「一次コイル7」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「一次巻線」に相当し、以下同様に、「二次コイル9」は「二次巻線」に、「C型コア61の中心部」は「中心鉄心」に、「C型コア61の外側部及びI型コア62」は「側面鉄心」に、「コイルユニット1,2,3」は「昇圧トランス」に、「プラグ部151」は「高圧端子」に、「コイルベース4及びコイルケース5」は「ハウジング」に、「樹脂37」は「絶縁樹脂」に、「点火コイル装置」は「点火コイル」に、「コアカバー111,112」は「コアカバー」に、「コイルユニット1,2,3の外側部」は「側面鉄心モールド体」に、それぞれ相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致する。
「少なくとも、一次巻線と、二次巻線と、前記一次巻線の内側に配置した中心鉄心と、前記二次巻線の外側に配置した側面鉄心と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランスと、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子と、をハウジングの内側に収容し、前記ハウジング内に充填された絶縁樹脂によって封止した点火コイルであって、
モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバーによって、前記側面鉄心を覆った側面鉄心モールド体を具備し、
その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめる、
点火コイル装置。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
〔相違点〕
ア 本件発明1においては、「モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバーによって、側面鉄心の一部を覆った側面鉄心モールド体を具備」するのに対し、甲3発明においては、「モールド樹脂材料を用いたモールド成形によって形成したコアカバーによって、C型コアの外側部及びI型コアを覆ったコイルユニットの外側部を具備」するものの、「側面鉄心の一部」を覆ったか否か明らかでない点(以下、「相違点1」という)。
イ 本件発明1においては、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、該成型特異点を、ハウジング内に充填された絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設し、かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する一部には、前記成型特異点が設けられていない」のに対し、甲3発明においては、そのような構造を有するか否か明らかでない点(以下、「相違点2」という)。
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
相違点1について検討すると、甲第1号証には、上記のように、
「点火コイルにおいて、外周鉄心の一部を成形されたカバーによって覆った構成を具備する技術。」(甲1技術)が記載されている。
そして、甲3発明と甲1技術とは、ともに、エンジンの点火コイル装置において、コイルを絶縁樹脂で覆う技術に関するものである。
してみれば、甲3発明において、甲1技術を参照して、「C型コアの外側部及びI型コア」の「一部」を「モールド成形によって形成したコアカバーによって覆ったコイルユニットの外側部を具備」するように設計変更することにより、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。
(イ)相違点2について
相違点2について検討する。
a 甲2技術1の適用について
本件発明1における「絶縁樹脂」は、一次巻線、二次巻線、中心鉄心、側面鉄心等、ハウジング内に収容された構成部品を封止するものであって、「ハウジング内に充填された絶縁樹脂」である。
これに対し、甲第2号証には、従来技術として、
「鉄心に一次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した時点で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹状部を絶縁樹脂によって埋める技術。」(甲2技術1)
が記載されている。
しかし、甲2技術1は、
「コアを含むコイル組立体をコイルケース内に嵌挿し、注型材として絶縁樹脂を注入したとき、ピン跡の凹状部と絶縁樹脂との界面に歪が生じ、この歪みに起因して絶縁樹脂にクラックが発生するという問題がある。」(甲第2号証の段落【0007】)という問題を有するものであるから、当業者は、甲3発明において甲2技術1を適用することには、阻害要因がある。
また、甲第2号証の段落【0003】等の記載から、甲2技術1においては、鉄心はその全体が注型材としての絶縁樹脂中に埋没しているものと解される。
したがって、甲2技術1には、本件発明における「その一部を、前記ハウジング内に充填された前記絶縁樹脂から該絶縁樹脂の外部に露出せしめる」という構成が記載されていない
それに対し、本件発明1は、その発明の前提として、
「従来の点火装置のように、昇圧トランスの全てを外装ケース内に収容し、その周囲を注形絶縁樹脂で覆って、密封した場合、昇圧トランスやケース内に収容されたスイッチングモジュールから放出された熱の廃熱性が低下して、スイッチング素子の応答性を低下させたり、冷熱ストレスによる熱応力が高くなり注形絶縁樹脂や外装ケース等に亀裂を生じたりする問題があった。」(本件特許明細書の段落【0002】)という課題があり、
「このような問題に対して、昇圧トランスの一部を収容ケースから露出させることにより、放熱性の向上と、熱応力の抑制を図ることにより、注形絶縁樹脂や外装ケース等に亀裂を抑制できると考えられる。」(同段落【0003】)という解決手段により、
「放熱性を向上させ、冷熱ストレスに対する耐久性を向上できる」(同段落【0004】)という作用効果を有するものである。
ところが、甲3発明において、甲2技術1を適用すると、鉄心全体が注型材としての絶縁樹脂に埋没されることになるから、本件発明1の前提となる課題を解決できないものとなる。
したがって、この点からも、甲3発明において甲2技術1を適用することには阻害要因がある。
よって、甲3発明において、甲2技術1を適用することは容易ではなく、仮に甲2技術1を適用したとしても、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることはできない。
なお、この点につき、異議申立人は、平成30年1月12日付け意見書において、「また、「埋没」という用語自体で、コア全体が絶縁樹脂内に埋められ、その結果、そのコアは、絶縁樹脂の表面から外部に露出する部分を有しないと解釈するのはいささか強引である。・・・甲2号証において、「コアが、絶縁樹脂中に埋没、つまり、絶縁樹脂の樹脂表面から露出することなく、全体が絶縁樹脂に埋まっている」と解釈するのは強引であり、不合理である。」(第35ページ第7行ないし第18行)と主張するが、「埋没」とは、一般的に、「埋れかくれること。埋れて見えなくなること。」という意味であるから、上記のように、コア全体が絶縁樹脂内に埋められ、その結果、そのコアは、絶縁樹脂の表面から外部に露出する部分を有しないと解釈することは、ごく自然なことである。
b 甲2技術2の適用について
甲第2号証には、
「固化した一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それにより、一次モールド樹脂被膜の表面の凹凸を二次モールド樹脂被膜のモールド樹脂によって緩和する技術。」(甲2技術2)
が記載されている。
しかしながら、甲2技術2における二次モールド樹脂被膜は、ハウジング内に充填するものではないから、技術的な意義からみて、本件発明1における「ハウジング内に充填された絶縁樹脂」には相当しない。
したがって、甲3発明において、甲2技術2を適用しても、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることはできない。
c 甲2技術3の適用について
甲第2号証には、
「一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆し、それが固化した状態で、注型材としての絶縁樹脂を注入し、それにより、二次モールド樹脂被膜の表面に残存する凹状部を絶縁樹脂によって埋めて塞ぐ技術。」(甲2技術3)
が記載されている。
しかしながら、甲2技術3における「一次モールド樹脂被膜の表面に二次モールド樹脂被膜を被覆」したものは、一次モールド樹脂被膜の表面のピン跡の凹状部が二次モールド樹脂被膜により埋められたものであるから、その技術的意義からみて、本件発明1における「側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバーによって覆った側面鉄心モールド体」に相当しない。
したがって、甲3発明において、甲2技術3を適用しても、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることはできない。
d まとめ
したがって、甲3発明において、甲2技術1ないし3を適用することにより、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到することができたとはいえない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、コアカバーの一部を絶縁樹脂の表面から露出させることで放熱性を良好にすると共に、冷熱ストレスを開放し易くし、コアカバーや、絶縁樹脂、ハウジング等に亀裂を生じ難くするとともに、コアカバーの成形用イジェクタピンの位置等の成型特異点に発生する亀裂への水分侵入を抑制したり、亀裂の進展を阻止することで、信頼性の高い点火コイルを提供するという、格別な作用効果を奏するものである。
(4)結び
よって、本件発明1は、甲3発明、甲1技術及び甲2技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び3に係る特許について、甲第1号証ないし甲第16号証を提出し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものであり、訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載の事項及び甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨を主張する。
訂正前の請求項1に係る発明と、甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、
「少なくとも、一次巻線と、二次巻線と、一次巻線の内側に配置した中心鉄心と、二次巻線の外側に配置した側面鉄心と、中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランスと、前記二次巻線の出力端と内燃機関に設けた点火栓との接続を図る高圧端子と、をハウジングの内側に収容し、絶縁樹脂によって封止した点火コイルであって、
側面鉄心の一部を成形によって形成したカバーによって覆った側面鉄心体を具備し、
その一部を絶縁樹脂から外部に露出せしめる、点火コイル。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
訂正前の請求項1に係る発明においては、「側面鉄心の一部をモールド成形によって形成したコアカバーによって覆った側面鉄心モールド体を具備し」、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、成型特異点を、絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、絶縁樹脂により成型特異点を埋設し、かつ、側面鉄心モールド体において、外部に露出する前記一部には、成型特異点が設けられていない」のに対し、
甲第1号証に記載の発明においては、「外周鉄心の一部を成形によって形成したカバーによって覆った外周鉄心カバー体を具備」するものの、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの一又は複数を、成型特異点と称し、成型特異点を、絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり該樹脂表面から露出しない位置に設け、絶縁樹脂により成型特異点を埋設し、かつ、側面鉄心モールド体において、外部に露出する前記一部には、成型特異点が設けられていない」とはいえない点(以下、「相違点A」という。)。
相違点Aについて判断する。
甲第1号証には、「【0027】
また、前記外周鉄芯32の前記中心鉄芯30及び前記マグネット38との接続面を除いた周囲はPBTで成形されたモールド樹脂と接着するカバー50で覆われている。さらに、当該モールド樹脂と接着するカバー50のカバー側コイル対向面51a,51bにPET(ポリエチレンテレフタレート)で成形したモールド樹脂と剥離するテープ52を貼り付けている。」と記載されている。ここで、「PBTで成形されたモールド樹脂と接着するカバー50」という記載は、「PBTで成形され、モールド樹脂と接着するカバー50」という意味であって、PBTでどのようにして成形されたか不明であるから、甲第1号証に記載の発明における「成形によって形成したカバー50」は、モールド成形によるものかどうか不明である。
そうすると、甲第1号証に記載の発明における「成形によって形成したカバー50」には、「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位」である「成型特異点」が生じるかどうかも不明であるから、「成型特異点を、絶縁樹脂の樹脂表面よりも内側となり樹脂表面から露出しない位置に設け、絶縁樹脂により成型特異点を埋設し、かつ、側面鉄心モールド体において、外部に露出する一部には、成型特異点が設けられていない」とすることもできない。
また、甲第1号証に記載の発明には「コアカバーを形成する際に生じるイジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位」が生じるかどうかも不明であるから、甲第1号証に記載の発明に、甲第2号証に記載の事項を適用することはできない。
よって、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものとはいえず、同様に、訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載の事項及び甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明及び訂正前の請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び2に係る特許について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨を主張する。
ア 異議申立の内容
(ア)「少なくとも、・・・中心鉄心(13)と、・・・側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、・・・をハウジング(30)の内側に収容し、」という記載が不明である。
(イ)「その一部」という記載が不明である。
(ウ)「・・・イジェクタピン痕(102、102b)、及び/又は、ゲート痕(103、103a~103d)、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの又は複数を、成型特異点と称し、」という記載が不明である。
(エ)「ゲート痕に対向する部位」という記載が不明である。
(オ)「前記絶縁樹脂により前記成型特異点を埋設している」という記載において、「埋設」という用語の意味が不明である。
(カ)成型特異点が複数存在する場合にその一部でも絶縁樹脂により埋設されていれば足りると解釈できる余地のある請求項1の記載では、本件明細書に記載された発明の効果を達成することができないから、発明が不明確である。
イ 判断
(ア)について
請求項1において、中心鉄心(13)と側面鉄心(100)の配置について記載されており、「少なくとも、・・・中心鉄心(13)と、・・・側面鉄心(100)と、前記中心鉄心と前記側面鉄心とを含む昇圧トランス(16)と、・・・をハウジング(30)の内側に収容し、」という記載が不明確とはいえない。
(イ)について
請求項1において、「その一部」とは、「側面鉄心モールド体の一部」であり、記載が不明確とはいえない。
(ウ)について
モールド成形の際にイジェクタピン、ゲート、可動式押さえピン、固定式押さえピンのいずれを使用するかによって、イジェクタピン痕、及び/又は、ゲート痕、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕が生じるから、それらのいずれかの又は複数を、成型特異点と称するものである。
したがって、「・・・イジェクタピン痕(102、102b)、及び/又は、ゲート痕(103、103a~103d)、及び/又は、可動式押さえピン痕、及び/又は、固定式押さえピン痕、若しくは、ゲート痕に対向する部位、のいずれかの又は複数を、成型特異点と称し、」という記載が不明確とはいえない。
(エ)について
訂正明細書を参照すると、「本形態においては、ゲート痕103は、表面に露出しているが、ウェルドラインWLが形成され易い、側面鉄心100を挟んでゲート痕103に対向する部位は、絶縁樹脂40の内側に埋設されている。」(段落【0026】)と記載されており、「ゲート痕に対向する部位」とは、「側面鉄心100を挟んでゲート痕103に対向する部位」であると解される。
したがって、請求項1における「ゲート痕に対向する部位」という記載が不明確とはいえない。
(オ)について
訂正明細書を参照すると、「本発明では、ウェルドラインやボイド等の内部欠陥を生じ易い成型特異点を所定の絶縁樹脂で覆うことで、内部への浸水を阻止したり、クラックの進展を抑制したりして、点火コイルの耐久性の向上を図ろうとするものである。」(段落【0014】)、「本形態においては、コアカバー101の表面に形成されたイジェクタピン痕102が、絶縁樹脂40から露出しないよう、樹脂表面41よりも内側となる位置に設けてある。」(段落【0021】)、「本形態においては、イジェクタピン痕102は、絶縁樹脂40の樹脂表面41から露出しない位置となっており、絶縁樹脂40によって封止されている。」(段落【0025】)と記載されているから、請求項1における「絶縁樹脂により成型特異点を埋設している」とは、成型特異点が、絶縁樹脂から露出しないよう、絶縁樹脂の表面よりも内側となる位置に設けてある、という意味であることが分かる。
また、一般的な用語として、「埋設」とは、「地中に埋めてとりつけること」という意味であるから、上記の解釈と整合している。
したがって、請求項1における「埋設」という記載が不明確とはいえない。
(カ)について
請求項1については、「かつ、前記側面鉄心モールド体において、前記絶縁樹脂の外部に露出する前記一部には、前記成型特異点が設けられていない 」と限定する訂正がされ、絶縁樹脂の外部に露出する部分には成型特異点が設けられていないことが明らかになった。
また、請求項2について検討すると、成型特異点が複数存在する場合にその一部でも絶縁樹脂により埋設されていれば、その部分について、内部への浸水を阻止したり、クラックの進展を抑制したりして、点火コイルの耐久性の向上を図ることができ、訂正明細書に記載された発明の効果を達成することができるから、請求項2の記載が不明確とはいえない。
ウ 小括
したがって、請求項1及び2は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、特許異議申立人の主張は理由がない。
(3)特許異議申立人は、訂正前の請求項3及び4に係る特許について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨を主張する。
ア 異議申立の内容
(ア)請求項3に係る発明は、本件明細書中、第4の実施形態(図9A-9B,図10A-10B)に関する記載によってサポートされているように見えるが、請求項3の記載が請求項1の記載を引用する形式で記載されている以上、請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明をサポートする第1、第5および第6の実施形態に関する記載によってサポートされることが必要であるところ、そのようなサポートがない。
(イ)請求項4に係る発明は、本件明細書中、第3の実施形態(図7A-7C,図8A-8B)に関する記載によってサポートされているように見えるが、請求項2または3の記載を介在させて請求項1の記載を引用する形式で記載されている以上、請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明をサポートする第1、第5および第6の実施形態に関する記載によってサポートされることが必要であるところ、そのようなサポートがない。
イ 判断
(ア)について
請求項3に係る発明は、訂正明細書の段落【0046】ないし【0048】の記載並びに図9A、9B、10A及び10Bによってサポートされているのであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
(イ)について
請求項4に係る発明は、訂正明細書の段落【0037】ないし【0045】の記載並びに図7A、7B、7C、8A及び8Bによってサポートされているのであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
(4)小括
したがって、請求項3及び4に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、特許異議申立人の主張は理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-701111