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特許異議申立

2016-701077

エアゾール組成物

審判番号
2016-701077
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2011-099213外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年11月22日
審決日
2017年05月29日
公報発行日
2017年08月25日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(C09K) / P1651.16 -YAA(C09K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法29条の2特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5921818号発明「エアゾール組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5921818号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。 特許第5921818号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯等 1 本件特許異議の申立てに係る特許 本件特許異議の申立てに係る特許第5921818号は、特許権者である東洋エアゾール工業株式会社より、平成23年4月27日、特願2011-99213号として出願され、平成28年4月22日、発明の名称を「エアゾール組成物」、請求項の数を「1」として特許権の設定登録を受けたものである。 2 手続の経緯 本件特許に対して、平成28年11月22日、特許異議申立人である株式会社ダイゾー(以下、「異議申立人」という。)より、全請求項に対して特許異議の申立てがなされ、平成29年1月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月3日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して異議申立人から同年5月18日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記平成29年4月3日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「液状油脂類よりなる引火性成分を15.00~99.50質量%含有する原液」と記載されているのを、「液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する原液」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%であることを特徴とする」と記載されているのを、「前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%であり、前記噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上であることを特徴とする」に訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の段落【0006】に「液状油脂類よりなる引火性成分を15.00~99.50質量%含有する原液」と記載されているのを、「液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する原液」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0006】に「前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%であることを特徴とする」と記載されているのを、「前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%であり、前記噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上であることを特徴とする」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 上記訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「原液」が「液状油脂類よりなる引火性成分を15.00~99.50質量%含有する」と特定されていたものを、訂正後の請求項1において、「原液」が「液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する」との記載により、液状油脂類よりなる引火性成分の含有割合を限定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 上記「ア」で述べたように、上記訂正事項1は、液状油脂類よりなる引火性成分の含有割合を限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない。 ウ 上記訂正事項1に係る「液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する」ことは、願書に添付した明細書に記載の実施例における「処方6」、「処方7」及び「処方9」に基づくものであるから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 エ よって、上記訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ事実上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。 (2)訂正事項2について ア 上記訂正事項2は、訂正前の請求項1において、噴射剤中のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合について限定がなされていなかったのを、訂正後の請求項1において、「前記噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上である」との記載により、噴射剤中のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合を限定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 上記「ア」で述べたように、上記訂正事項2は、噴射剤中のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合を限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない。 ウ 上記訂正事項2に係る「前記噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上である」ことは、願書に添付した明細書に記載の実施例における「処方6」、「処方7」及び「処方9」に基づくものであるから、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 エ よって、上記訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ事実上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。 (3)訂正事項3について ア 上記訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 上記(1)の「ア」と同様に、上記訂正事項3は、液状油脂類よりなる引火性成分の含有割合を限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない。 ウ 上記訂正事項3に係る「液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する」ことは、願書に添付した明細書に記載の実施例における「処方6」、「処方7」及び「処方9」に基づくものであるから、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 エ よって、上記訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ事実上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、当該明細書の訂正に係る全ての請求項について行うものであるから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。 (4)訂正事項4について ア 上記訂正事項4は、上記訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 上記(2)の「ア」と同様に、上記訂正事項4は、噴射剤中のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合を限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない。 ウ 上記訂正事項4に係る「前記噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上である」ことは、願書に添付した明細書に記載の実施例における「処方6」、「処方7」及び「処方9」に基づくものであるから、上記訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 エ よって、上記訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ事実上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、当該明細書の訂正に係る全ての請求項について行うものであるから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。 3 小括 したがって、上記訂正請求による訂正事項1ないし4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 第3 本件発明 上記「第2」のとおり、本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、「本件発明1」に係る特許を「本件特許1」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものと認める。 「【請求項1】 液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する原液と、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤とよりなり、 エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%であり、 前記噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上であることを特徴とするエアゾール組成物。」 第4 当審の判断 1 取消理由(特許法第29条の2)について (1)取消理由(特許法第29条の2)の概要 『(1)刊行物等 甲第1号証:特開2012-46482号公報(以下、「甲1」という。) 先願:特願2010-172865号(甲第1号証の優先権基礎出願) (2)先願に記載の事項(下線は当審が付与した。当該記載事項は、甲1の出願公開時に出願公開されたものとみなし得る。) (a) 「【請求項1】 水性成分と、油性成分と、液化ガスとを含むエアゾール組成物・・・」(甲1の【特許請求の範囲】【請求項1】参照。) (b) 「【0047】 実施例16 表1に記載の配合により水性成分と、油性成分とを調製し、調製された水性成分と、油性成分とをポリエチレンテレフタレート製耐圧容器に充填した。耐圧容器にエアゾールバルブを固着し液化ガスとして重質液化ガスを充填した。さらに、前記エアゾールバルブに噴射部材を取り付けエアゾール製品を製造した。」(甲1の【0048】参照。) (c) 「【0050】 【表1】 」(甲1の【0052】【表1】参照。) (3)先願に記載された発明 上記摘示事項(a)~(c)によれば、先願の実施例16には、 「合計量を100質量%とした場合に、水性成分としての精製水27.1質量%及びエタノール3.7質量%、油性成分としてのコハク酸ジエトキシエチル27.1質量%及びジメチルポリシロキサン27.1質量%、並びに、液化ガスとしてのトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン15.0質量%を含む、エアゾール組成物。」(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 (4)対比・検討 本件発明1と先願発明とを対比する。 ア 先願発明の「コハク酸ジエトキシエチル」は、技術常識に照らせば、液状であり、181℃付近に引火点があることから、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火性成分」に相当する。 イ 先願発明の「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン」及び「液化ガス」は、それぞれ本件発明1の「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」及び「噴射剤」に相当する。 ウ 先願発明の「コハク酸ジエトキシエチル」の含有割合を原液(水性成分及び油性成分)中に換算すると、27.1(質量%)/(27.1(質量%)+3.7(質量%)+27.1(質量%)+27.1(質量%))×100=31.9(質量%)であるから、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火成分」の原液中の含有割合と重複する。 エ 先願発明の「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン」のエアゾール組成物100質量%における含有割合は、15.0質量%であり、本件発明1の「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」のエアゾール組成物100質量%における含有割合と重複する。 オ 以上のことから、本件発明1と先願発明とは、 「液状油脂類よりなる引火性成分を15.00~99.50質量%含有する原液と、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤とよりなり、 エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%である、エアゾール組成物。」である点で一致し、相違点はない。 したがって、本件発明1は先願発明である。 (5)まとめ よって、本件発明1は、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当するため、取り消されるべきものである。 』 (2)取消理由(特許法第29条の2)についての判断 この理由に対し、「原液」が「液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する原液」と訂正された本件発明1と先願発明とを対比すると、両発明は、本件発明1が、原液中における液状油脂類よりなる引火成分の含有割合が50.00~99.50質量%であるのに対し、先願発明では、原液中における液状油脂類よりなる引火成分の含有割合が31.9質量%である点で、少なくとも相違する。 したがって、本件発明1は、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一の発明とはいえないから、本件特許1は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 2 取消理由(特許法第29条第2項)について (1)取消理由(特許法第29条第2項)の概要 『(1)刊行物等 甲第2号証:特開昭61-243001号公報 甲第3号証:特表2009-513813号公報 甲第4号証:特表2010-531924号公報 甲第5号証:特表2007-535611号公報 (以下、「甲2」などという。) (2)刊行物等に記載の事項 ア 甲2には、以下の記載がある(下線は当審が付与した。以下、同じ。)。 (a) 「特許請求の範囲 1 有害生物防除成分と該成分の可燃性溶剤を含む引火性成分中にトリクロロトリフルオロエタンを5~20重量%添加して非引火性とした原液を使用することを特徴とするエアゾール剤。」(特許請求の範囲) (b) 「本発明で用いる有害生物防除成分の可燃性溶剤としては、たとえばケロシンなどを用いることができる。 本発明で用いるトリクロロトリフルオロエタンは、上記えられた有害生物防除成分および該成分の可燃性溶媒からなる引火性成分を非引火性とするためにこの引火性成分中に5~20重量%添加して用いられる・・・」(第2頁右上欄第2~9行) (c) 「 」(第3頁「第1表」) イ 甲3には、以下の記載がある。 (a) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (i)・・・を有するヒドロフルオロカーボン、および(ii)・・・CF3CH=CHF・・・から選択されたフルオロカーボンまたはヒドロフルオロカーボンからなる群から選択された少なくとも1種のフルオロカーボンまたはヒドロフルオロカーボンを含む噴射剤。 ・・・ 【請求項6】 請求項1に記載の噴射剤を含むことを特徴とする噴霧可能な組成物。」 (b) 「【0016】 従って、環境責任を達成しつつエアゾールの有利な噴霧特性および他の特性を保持するパーソナルケア製品および他の製品のためのエアゾール分配装置中で有用な、燃焼性が限定的で、均質、可溶性且つ毒性でない組成物を開発することが望ましい。」 (c) 「【0019】 前述した目的は、本明細書で開示された不飽和フルオロカーボン噴射剤および不飽和ヒドロフルオロカーボン噴射剤により達成される。組成物は、約1~15重量%以上の活性成分と合わせて配合してもよい。全噴射剤は15%から95%まで異なる場合がある。」 (d) 「【0043】 【表3】 」 (e) 「【0064】 組成物は、地球温暖化の一因に実質的にならない不燃性液化ガス噴射剤およびエアゾールを提供することができる。」 (f) 「【0075】 (実施例3) (香気) 香気を次の通り配合した。 【0076】 【表10】 」 (g) 「【0078】 (実施例4) (エアゾール制汗薬) エアゾール制汗薬を次の通り配合した。 【0079】 【表11】 」 ウ 甲4には、以下の記載がある。 (a) 「【0001】 本発明は、安定化ヒドロクロロフルオロオレフィンおよびヒドロフルオロオレフィン組成物に関し、その組成物は、フルオロオレフィンおよび少なくとも1種類の安定化成分を含む。本発明の組成物は、冷却または加熱をもたらすプロセスにおいて、熱伝達流体、発泡体用発泡剤、エアロゾル噴射剤、火炎抑制剤、消火剤として、および溶剤用途において有用である。 【背景技術】 【0002】 1987年10月に調印されたオゾン層保護のためのモントリオール議定書によって、クロロフルオロカーボン(CFC)の使用の廃止が規定されている。ヒドロフルオロカーボン(HFC)、例えばHFC-134aなどのオゾン層により「優しい」材料がクロロフルオロカーボンに取って代わった。後者の化合物は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスであることが判明しており、気候変動に関する京都議定書によって規制された。新たに出現しつつある代替材料、ヒドロフルオロプロペンは、環境上許容できることが示され、すなわちオゾン層破壊係数(ODP)ゼロおよび150よりもかなり低い低地球温暖化係数(GWP)を有する。 【0003】 HFC-134aなどの、現在提案されているヒドロフルオロカーボンの代替冷媒としては、HFC-152a、ブタンまたはプロパンなどの純炭化水素、またはCO2などの「天然」冷媒が挙げられる。提案されているこれらの代替品の多くは、引火性であり、かつ/またはエネルギー効率が低い。したがって、新規な他の冷媒が求められている。ヒドロフルオロプロペンおよび/またはヒドロクロロフルオロプロペンなどのフルオロオレフィン材料は、HFCの代替品として関心を集めている。低い気圧におけるこれらの材料の固有の化学的不安定性によって、求められている低い地球温暖化係数およびゼロまたはゼロに近いオゾン破壊特性が提供される。しかしながら、かかる固有の不安定性はまた、保存、取り扱い、および使用中に分解するであろう、かかる材料の工業用途に影響を及ぼすと思われる。」 (b) 「【0006】 ・・・ 直鎖ヒドロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンの例としては、限定されないが、単独での、または組み合わせての、1225ye EおよびZ異性体(CF3-CF=CFH)、1234ze EおよびZ異性体(CF3-CH=CHF)、・・・が挙げられる。」 (c) 「【0034】 3.エアロゾル噴射剤: 本発明の他の実施形態は、噴霧可能な組成物において噴射剤として使用される、本明細書に記載の安定剤の組み合わせを有するヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンの使用に関する。さらに、本発明は、本明細書に記載の安定剤の組み合わせを有するヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンを含む噴霧可能な組成物に関する。」 (d) 「【0036】 4.消火剤: 更なる実施形態では、本発明の安定剤の組み合わせと共にヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンを含む薬剤を提供すること;加圧放出システムに薬剤を入れること;ある区域に薬剤を放出してその区域の火を消火または鎮火すること;を含む、トータルフラッド(total-flood)用途において消火または鎮火する方法を提供する。他の実施形態では、火災または爆発を防止するために、ある区域を不活性にする方法であって、本発明の安定剤の組み合わせと共にヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンを含む薬剤を提供すること;加圧放出システムに薬剤を入れること;その区域に薬剤を放出して、火災または爆発が起こるのを防ぐこと;を含む方法を提供する。」 (e) 「【0037】 ・・・ 。(3)爆発鎮静において、本発明の安定剤の組み合わせを有するヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンが、既に開始している爆発を鎮静するために放出される。爆発は一般に自己制限的であることから、「鎮静」という用語が通常、本出願で使用される。しかしながら、この用語の使用は、爆発が薬剤によって消されることを必ずしも意味しない。本出願において、爆発から広がる火の玉を検出するために、検出器が通常使用され、爆発を鎮静するために薬剤が迅速に放出される。爆発鎮静は、防御用途において単独ではないが、主として使用される。(4)不活性化において、本発明の安定剤の組み合わせを有するヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンが、爆発または火災が起こるのを防ぐために空間内に放出される。トータルフラッド式消火または鎮火に使用されるシステムと同様な、または同一のシステムが使用される。通常、危険な条件(例えば、危険な濃度の引火性または爆発性ガス)の存在が検出され、次いで、条件を軽減することができるまで、爆発または火災が起こるのを防ぐために、本発明の安定剤の組み合わせを有するヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンが放出される。 」 (f) 「【0042】 【表1】 」 エ 甲5には、以下の記載がある。 (a) 「【請求項52】 噴射剤組成物であって、 (a)式Iで表わされる少なくとも1つのフルオロアルケン: XCFzR3-z (I) (ここでXはC2またはC3不飽和置換または非置換アルキル基であり、Rは独立してCl、F、Br、IまたはHであり、そしてZは1~3である)を含み、 約1000以下の地球温暖化可能性(GWP)を有する、前記組成物。」 (b) 「【0036】 噴射剤およびエアゾール組成物 別の面において、本発明は、本発明の組成物を含むかまたは本質的にこの組成物からなる噴射剤組成物を提供し、そのような噴射剤組成物は好ましくは霧化しうる組成物である。本発明の噴射剤組成物は好ましくは、噴射されるべき材料と、本発明に従う組成物を含む(あるいは本質的にその組成物からなる、またはその組成物からなる)噴射剤とを含む。不活性成分、溶剤、およびその他の物質も、霧化可能混合物中に存在していてもよい。好ましくは、この霧化しうる組成物はエアゾール(aerosol)である。噴射されるべき適当な材料としては、限定するものではないが、消臭剤、香料、ヘアスプレー、クレンザーなどの化粧品、および磨き剤、さらには抗喘息成分、口臭除去成分、および好ましくは吸入することが意図される他の全ての薬物または薬剤を含む他の全ての薬品などの医薬物質がある。薬物またはその他の治療剤は、組成物中に治療量で存在するのが好ましく、組成物の残りの本質的な部分は本発明の式Iの化合物、好ましくはHFO-1234、さらに好ましくはHFO-1234zeを含む。 【0037】 ・・・ 大部分の市販用のエアゾールは液化ガスの噴射剤を用いる。最も一般的に用いられる液化ガス噴射剤は、ブタン、イソブタン、およびプロパンなどの炭化水素である。ジメチルエーテルとHFC-152a(1,1-ジフルオロエタン)も、単独で、または炭化水素の噴射剤と混合して用いられる。あいにくと、これらの液化ガス噴射剤の全てがかなり可燃性なので、それらをエアゾール配合物の中に組み入れることによって、可燃性のエアゾール製品がしばしば得られるだろう。 【0038】 出願人は、エアゾール製品に配合するための不燃性の液化ガス噴射剤に対する継続的な要求を認識するに至った。本発明は、本発明の組成物、特にそして好ましくはHFO-1234、さらに好ましくはHFO-1234zeを含む組成物であって、例えばスプレー式クリーナーや潤滑剤、およびそれらの類似物を含む特定の工業用エアゾール製品、および例えば薬品を肺や粘膜に供給するためのものを含む医薬用エアゾールにおいて用いるための組成物を提供する。 ・・・ 【0039】 本発明の組成物、特にHFO-1234zeを含むかあるいは本質的にHFO-1234zeからなる組成物は、地球温暖化に実質的に寄与しない不燃性の液化ガス噴射剤およびエアゾールを提供することができる。」 (c) 「【0049】 可燃性低減方法 特定の他の好ましい態様によれば、本発明は流体の可燃性を低減するための方法を提供し、前記方法は、前記流体に本発明の化合物または組成物を添加することを含む。広い範囲で可燃性を有する流体のいかなるものに関する可燃性も、本発明に従って低減するだろう。例えば、エチレンオキシド、可燃性ヒドロフルオロカーボン、およびHFC-152a、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、ジフルオロメタン(HFC-32)、プロパン、ヘキサン、オクタン、および類似物を含めた炭化水素などの流体に関する可燃性は、本発明に従って低減させることができる。本発明の目的に関して、可燃性流体とは、例えばASTM E-681などのあらゆる標準的で一般的な試験方法によって測定されて空気中で可燃性範囲を示すあらゆる流体であろう。 【0050】 本発明に従って流体の可燃性を低減するために、いかなる適当な量の本化合物または組成物も添加することができるだろう。当業者であれば認識できるであろうが、添加する量は、少なくとも一部は、対象の流体の可燃性の程度、およびその可燃性がどの程度まで低減されるのが望ましいか、に依存するだろう。特定の好ましい態様においては、可燃性流体に添加される化合物または組成物の量は、得られる流体を実質的に不燃性にするのに有効な量である。」 (3)刊行物等に記載の発明 ア 甲2に記載された発明(甲2発明) (ア) 甲2の(a)及び(b)から、甲2に記載された技術は、エアゾール剤において、引火性成分中にトリクロロトリフルオロエタンを添加して非引火性とする技術に関するものであることがわかる。 (イ) (ア)及び甲2の(c)から、甲2のエアゾール剤に関する「実施例2」には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 「有害生物防除成分としてのネオビナミン0.5部及びクリスロンフォルテ0.05部、1号灯油104.4部、及びトリクロロトリフルオロエタン20部からなる原液、並びに、噴射剤(LPG)75部を含有する、エアゾール剤。」 イ 甲3に記載された発明(甲3発明) (ア) 甲3の(a)の請求項1を引用する請求項6、(b)、及び(e)から、甲3に記載された技術は、エアゾール組成物に関するものであることがわかる。 (イ) (ア)及び甲3(g)の【表11】から、甲3のエアゾール組成物に関する「実施例4」には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。 「アルミニウムクロロハイドレート10.0重量%、ミリスチン酸イソプロピル6.0重量%、シリコーン流体6.0重量%、「クアテルニウム(Quaternium)」-18ヘクトライト0.5重量%、及びエタノール2.0重量%からなる原液、並びに、噴射剤75.0重量%及び噴射剤2.0重量%を含有する、エアゾール組成物。」 (4)対比・判断 ア 甲2発明を主引用発明とした場合 (ア) 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (a) 甲2発明の「1号灯油」及び「エアゾール剤」は、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火性成分」及び「エアゾール組成物」に相当する。 (b) 甲2発明において、原液は124.95部(0.5部+0.05部+104.4部+20部)であり、原液の合計量を100質量%とした場合に、「1号灯油」の含有割合は、104.4/124.95×100=83.6(質量%)であるから、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火成分」の原液中の含有割合と重複する。 (c) 甲2発明の「トリクロロトリフルオロエタン」のエアゾール剤100質量%における含有割合は、20/(0.5+0.05+104.4+20+75)×100=10(質量%)である。 (d) 以上のことから、本件発明1と甲2発明とは、 「液状油脂類よりなる引火性成分を15.00~99.50質量%含有する原液を含有する、エアゾール組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。 【相違点】 引火性成分を有するエアゾール組成物の安全性を高めるために、エアゾール組成物に対して、本件発明1は、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤」を配合し、「エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%である」のに対し、甲2発明は、「トリクロロトリフルオロエタンを含有する原液」を配合し、「エアゾール組成物100質量%においてトリクロロトリフルオロエタンを10質量%配合」している点。 (イ) 上記相違点について検討する 従来、オゾン層破壊係数、地球温暖化係数、引火性等を考慮して、フロン類に代えて、不燃性のヒドロクロロフルオロオレフィンを採用することは周知である(甲4の(a)、甲5の(b)参照)。そして、甲4には、フロン類の代替物であるヒドロフルオロオレフィンの一例として、HFO-1234zeのE及びZ異性体(すなわち、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのトランス体及びシス体)が挙げられ(甲4(b))、組成物の一例として、HFO-1234ze(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)を10.57重量%含む組成物が例示されている(甲4(f))。また、甲5には、地球温暖化に実質的に寄与しない不燃性の液化ガス噴射剤として、HFO-1234ze(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)が記載されている。(甲5(a)、(b))。 してみれば、甲2発明において、引火性成分を有するエアゾール組成物の安全性を高めるために、オゾン層破壊係数、地球温暖化係数、引火性等を考慮して、トリクロロトリフルオロエタン10質量%に代えて、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのトランス体やシス体を同量程度用いることは、周知技術の転換に過ぎない。また、原液成分であるトリクロロトリフルオロエタンを、噴射剤である1,3,3,3-テトラフルオロプロペンへと置き換えることの容易想到性については、異議申立書の22~24頁「フロン類に関する付言」に記載のとおり、フロン類には原液として区分けされるものもあれば噴射剤として区分けされるものもあることは周知であることを参酌するに、甲2発明において、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを噴射剤として用いることは、周知技術の転換に過ぎない。 そして、甲4及び甲5には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが、火災や爆発を防ぎ得ること及び流体の可燃性を低減し得ることが記載されているのであるから(甲4の(c)~(e)、甲5の(c))、本件特許明細書記載の効果(【0049】【表1】に示された爆発下限濃度に至るまでの噴射量を大きくする効果など)が格別顕著なものであるとは到底いえない。 (ウ) よって、本件発明1は、当業者が甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものである。 イ 甲3発明を主引用発明とした場合 (ア) 本件発明1と甲3発明とを対比する。 (a) 甲3発明の「ミリスチン酸イソプロピル」は、技術常識に照らせば、液状であり、110℃付近に引火点があることから、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火性成分」に相当する。 (b) 甲3発明において、原液は24.5重量%(10.0重量%+6.0重量%+6.0重量%+0.5重量%+2.0重量%)であり、原液の合計量を100質量%とした場合に、「ミリスチン酸イソプロピル」の含有割合は、6/24.5×100=24.5(質量%)であるから、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火性成分」の原液中の含有割合と重複する。 (c) 以上のことから、本件発明1と甲3発明とは、 「液状油脂類よりなる引火性成分を15.00~99.50質量%含有する原液と、噴射剤とよりなる、エアゾール組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。 【相違点1】 本件発明1は、噴射剤として「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を含有するのに対し、甲3発明は噴射剤の種類が特定されていない点。 【相違点2】 本件発明1は、エアゾール組成物100質量%におけるトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が「6~20質量%」であるのに対し、甲3発明は当該特定のない点。 (イ) 上記相違点について検討する。 (a) 相違点1について 甲3には、噴射剤として使用できる化合物として1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが記載されており(甲3(d)の【表3】の「HFC-1234ze」参照)、また、上記(4)ア(イ)で述べたとおり、不燃性の液化ガス噴射剤として、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのトランス体やシス体を用いること、及び、それにより火災や爆発を防ぎ得ることは周知である。 してみれば、甲3発明において、噴射剤として、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのトランス体やシス体を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (b) 相違点2について 甲3には、噴射剤を「15%から95%まで」配合してもよいこと(甲3(c))、及び、実施例3として例示されているように、全組成物の合計量を100質量%とした場合に、噴射剤を12質量%配合する態様も記載されている(甲3(f)の【表10】)。 してみれば、甲3発明において、噴射剤の配合量を、上記範囲において適宜変更することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (ウ) よって、本件発明1は、当業者が甲3発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものである。 (5)まとめ 以上検討のとおり、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当するため、取り消されるべきものである。 』 (2)取消理由(特許法第29条第2項)についての判断 この理由に対し、先ず、甲2発明を主引用発明とした場合を検討する。 ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (a) 甲2発明の「1号灯油」及び「エアゾール剤」は、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火性成分」及び「エアゾール組成物」に相当する。 (b) 甲2発明において、原液は124.95部(0.5部+0.05部+104.4部+20部)であり、原液の合計量を100質量%とした場合に、「1号灯油」の含有割合は、104.4/124.95×100=83.6(質量%)であるから、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火成分」の原液中の含有割合と重複する。 (c) 甲2発明の「トリクロロトリフルオロエタン」のエアゾール剤100質量%における含有割合は、20/(0.5+0.05+104.4+20+75)×100=10(質量%)である。 (d) 以上のことから、本件発明1と甲2発明とは、 「液状油脂類よりなる引火性成分を83.6質量%含有する原液を含有する、エアゾール組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。 【相違点1】 引火性成分を有するエアゾール組成物の安全性を高めるために、エアゾール組成物に対して、本件発明1は、「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含有する噴射剤」を配合し、「エアゾール組成物100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が6~20質量%である」のに対し、甲2発明は、「トリクロロトリフルオロエタンを含有する原液」を配合し、「エアゾール組成物100質量%においてトリクロロトリフルオロエタンを10質量%配合」している点。 【相違点2】 本件発明1は、「噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上である」のに対し、甲2発明は当該特定のない点。 イ 上記相違点について検討する。 (ア)上記相違点1について検討する 従来、オゾン層破壊係数、地球温暖化係数、引火性等を考慮して、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンのトランス体及びシス体は周知であるものの(甲4の(a)及び(b)、甲5の(a)及び(b))、当該1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは液化ガス噴射剤として使用されるものである。一方、甲2発明のトリクロロトリフルオロエタンは、原液の引火性を抑制するため、原液中に添加されるものであるから、甲2発明において、原液中に添加されるトリクロロトリフルオロエタンに代わり、噴射剤である1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを適用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。 また、甲3ないし甲5を参照しても、原液として用いられるトリクロロトリフルオロエタンに代えて、噴射剤を用いることができるとする記載や示唆も見当たらない。 (イ)上記相違点2について検討する。 仮に、甲2発明において、原液中に添加されるトリクロロトリフルオロエタンに代わり、噴射剤である1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを適用することが可能であったとしても、得られるエアゾール組成物は、噴射剤100質量%における1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合は、20/(20+75)×100=21.1質量%であり、本件発明1において規定する「40質量%以上」という構成を満たさない。 また、甲2は、原液中に所定量(5~20重量%)のトリクロロトリフルオロエタンを添加することにより、極めて優れた効力を維持することができ、しかも引火性が低い、有害生物を防除するためのエアゾール剤に関するものであり(甲2の第4頁左下欄「効果」)、また、「20重量%をこえると殺虫能力が低下し・・・好ましくない。」(甲2の第2頁右上欄第9~12行)ことも記載されていることから、甲2発明において、トリクロロトリフルオロエタンに代わり、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを適用することが可能であったとしても、その含有割合を適宜増やし、本件発明1の範囲とすることができるとはいえない。 ウ 異議申立人の意見について 異議申立人は、「甲第5号証には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが、噴射剤に相当する炭化水素(たとえばプロパン)の可燃性だけでなく、原液に相当する炭化水素(たとえばヘキサンやオクタン)の可燃性に関しても、低減させ得ることが明記されている」ことを指摘し、本件特許権者による「原液の成分として使用されているものを、原液とは全く役割が異なる噴射剤の成分に置き換えることは、周知技術の転換ではない」等の主張は失当であること、及び、「1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、その低GWP性および不燃性が着目されており、噴射剤中に40質量%以上となるように含有させることが周知であった」ことを指摘し、上記訂正事項2に関する発明特定事項を具備することは、当業者であれば容易に想到し得るものであると主張する。 しかしながら、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが噴射剤及び原液の可燃性を低減させることが知られていたとしても、上記(2)イ(ア)で検討したとおり、役割(可燃性の低減化)が同じだからといって、そもそも原液の成分を噴射剤の成分に置き換えることを、当業者が容易に想到するということはできない。また、仮に、置き換えが可能であったとしても、上記(2)イ(イ)で検討したとおり、異議申立人が挙げた周知技術のように、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを噴射剤中に40質量%以上とする動機が、甲2に記載又は示唆されているとはいえない。 エ 小括 よって、本件発明1は、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 (3)次に、甲3発明を主引用発明とした場合を検討する。 ア 本件発明1と甲3発明とを対比する。 (a) 甲3発明の「ミリスチン酸イソプロピル」は、技術常識に照らせば、液状であり、110℃付近に引火点があることから、本件発明1の「液状油脂類よりなる引火性成分」に相当する。 (b) 甲3発明において、原液は24.5重量%(10.0重量%+6.0重量%+6.0重量%+0.5重量%+2.0重量%)であり、原液の合計量を100質量%とした場合に、「ミリスチン酸イソプロピル」の含有割合は、6/24.5×100=24.5(質量%)である。 (c) 以上のことから、本件発明1と甲3発明とは、 「液状油脂類よりなる引火性成分を含有する原液と、噴射剤とよりなる、エアゾール組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。 【相違点1】 本件発明1は、噴射剤として「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を含有するのに対し、甲3発明は噴射剤の種類が特定されていない点。 【相違点2】 本件発明1は、エアゾール組成物100質量%におけるトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が「6~20質量%」であるのに対し、甲3発明は当該特定のない点。 【相違点3】 本件発明1は、「噴射剤100質量%における前記トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合が40質量%以上」であるのに対し、甲3発明は当該特定のない点。 【相違点4】 液状油脂類よりなる引火性成分について、本件発明1は、原液中に「液状油脂類よりなる引火性成分を50.00~99.50質量%含有する」のに対し、甲3発明は、24.5質量%含有する点。 イ 事案に鑑み、上記相違点2及び4について検討する。 甲3には、噴射剤の一般的な使用割合は示されているものの、当該使用割合は、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの使用割合を特に示したものではない。したがって、仮に、甲3発明において、噴射剤としてトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを適用することが可能であったとしても、エアゾール組成物100質量%におけるトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有割合を6~20質量%とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。 また、甲3には、原液中における液状油脂類よりなる引火性成分の含有割合が50.00~99.50質量%であることについては全く記載されておらず、これらの範囲を示唆する記載もない。したがって、甲3発明において、液状油脂類よりなる引火性成分であるミリスチン酸イソプロピルの配合量を増やし、原液中におけるその含有割合を50.00~99.50質量%とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。 ウ 小括 よって、上記相違点1及び3を検討するまでもなく、上記相違点2及び4が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲3発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 第5 むすび 上記「第4」で検討したとおり、本件特許1は、特許法第29条の2又は第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当するものではないから、上記取消理由によっては、本件特許1を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-701077

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  • 2017-701174異議申立 / 2019-05-10 / 訂正認容HFCとHFOとを含有する組成物
    共通の審決分類: 121・C09K、16・C09K

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