特許異議申立
2016-701014
積層フィルムおよび包装体
- 審判番号
- 2016-701014
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-224205
- 登録番号
- 特許第5907437号(P5907437)
- 請求日
- 2016年10月25日
- 審決日
- 2018年03月30日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ベークライト株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 クレイア特許事務所
- 【異議申立人】中西 恒裕
- 審判長/審判官
- 審判長 千壽 哲郎
- 審判官 谿花 正由輝
- 審判官 蓮井 雅之
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.55 -YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第6項、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5907437号発明「積層フィルムおよび包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5907437号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第5907437号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第5907437号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成22年7月22日(優先権主張 平成22年7月16日)に出願した特許出願第2010-165358号の一部を平成26年11月4日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立て期間内である同年10月25日に特許異議申立人中西恒裕(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月10日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して申立人から同年3月22日に意見書が提出され、同年5月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月27日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年9月19日に意見書が提出され、同年11月10日に取消理由通知(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年1月11日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年2月21日に意見書提出がされたものである。
なお、平成29年2月10日付け訂正請求書及び平成29年7月27日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2.訂正の適否についての判断
平成30年1月11日付け訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正は、次のとおりである。
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1隣接層と接して積層されるバリア層とを備え、前記第1隣接層は、前記バリア層と前記酸素吸収層とを接着する接着層であり、」を追加する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記バリア層はエチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物を含み、」を追加する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記酸素吸収層の前記酸化防止剤の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で35ppm以下であり」と記載されているのを、「前記酸素吸収層の前記酸化防止剤の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で5ppm以上35ppm以下であり」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「5℃環境下で7日間保管された場合における酸素吸収量が0.042cc/cm2以上0.099cc/cm2以下」を追加する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2から「ガスバリア性を有するバリア層をさらに備え、前記第1隣接層は、前記バリア層と前記酸素吸収層とを接着する接着層であり、」を削除する。
(6)訂正事項6
明細書の段落0032において、「酸素吸収層150の酸化防止剤の含有量は、酸素吸収層150に対して重量比率で0ppm以上170ppm以下であることが好ましく、5ppm以上120ppm以下であることがより好ましく、35ppm以上60ppm以下であることがさらに好ましい。」と記載されているのを「酸素吸収層150の酸化防止剤の含有量は、酸素吸収層150に対して重量比率で0ppm以上170ppm以下であることが好ましく、5ppm以上120ppm以下であることがより好ましい。」に訂正する。
2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、バリア層の存在及び第1隣接層の内容を具体的に特定しさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)の請求項2の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、同法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、バリア層の内容を具体的に特定しさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書等の段落0023、0036の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、同法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、酸素吸収層の酸化防止剤の含有量の数値範囲を、酸素吸収層に対して重量比率で「35ppm以下」から「5ppm以上35ppm以下」と下限値を定めてその範囲を狭めて限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書等の0032、0060の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、同法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、積層フィルムについて、「5℃環境下で7日間保管された場合における酸素吸収量が0.042cc/cm2以上0.099cc/cm2以下」であることを特定しさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書等の段落0042、0114の表1の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、同法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1において請求項1に「前記第1隣接層と接して積層されるバリア層とを備え、前記第1隣接層は、前記バリア層と前記酸素吸収層とを接着する接着層であり、」を追加することに伴って、当該請求項1を引用する請求項2から「ガスバリア性を有するバリア層をさらに備え、前記第1隣接層は、前記バリア層と前記酸素吸収層とを接着する接着層であり、」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項6について
ア.訂正事項6は、訂正事項3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項6は、願書に添付した明細書等の段落0032の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、同法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
イ.申立人の主張について
平成30年2月21日付け意見書の「3(6-2)」において申立人は、本件訂正前の段落0032の「35ppm以上60ppm以下であることがさらに好ましい。」との記載と、酸化防止剤の含有量の上限値が35ppmであるとする根拠とされる表1等の記載と、どちらが正しいかは当業者にとって明らかではないから、「35ppm以上60ppm以下であることがさらに好ましい。」との記載を削除する訂正は、新規事項を追加するものである旨を主張する。
しかし、本件発明1は、酸素吸収層の酸化防止剤の含有量は、酸素吸収層に対して重量比率で0ppm以上170ppm以下とすることで、積層フィルムの酸素吸収量が多くなるという効果を得るものである(段落0032、0117参照)。0ppm以上170ppm以下の範囲であれば、35ppm以上60ppm以下の範囲以外であっても一定の効果を得られることは明らかであるから、訂正前の段落0032から「35ppm以上60ppm以下であることがさらに好ましい。」との記載を削除する訂正は、新たな技術的事項を導入するものとまではいうことはできない。
よって、申立人の主張は当を得たものではなく、採用することができない。
(7)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3は、請求項2、3が訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正事項1~3に係る訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。また、本件訂正は、訂正事項6による明細書の訂正に係る請求項1~3の全てについて行われたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
(8)小括
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。
第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記第2.のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおり、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
酸素吸収性樹脂と、酸素吸収反応触媒とを含む酸素吸収層と、
前記酸素吸収層の一方の面と接して積層される第1隣接層と、
前記酸素吸収層の他方の面と接して積層される第2隣接層と、
前記第1隣接層と接して積層されるバリア層とを備え、
前記第1隣接層は、前記バリア層と前記酸素吸収層とを接着する接着層であり、
前記酸素吸収反応触媒の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で10ppm以上であり、
前記酸素吸収層は酸化防止剤を含み、
前記バリア層はエチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物を含み、
前記第1隣接層と前記第2隣接層とにはいずれも酸化防止剤を含まず、かつ、
前記酸素吸収層の前記酸化防止剤の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で5ppm以上35ppm以下であり、
前記酸素吸収性樹脂が、エチレン系不飽和炭化水素ポリマー、主鎖エチレン系不飽和炭化水素ポリマー、ポリエーテルユニットポリマー、エチレンと歪んだ環状アルキレンのコポリマー、ポリアミド樹脂、酸変性ポリブタジエン、およびヒドロキシアルデヒドポリマーからなる群から選ばれ、
5℃環境下で7日間保管された場合における酸素吸収量が0.042cc/cm2以上0.099cc/cm2以下であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記第2隣接層は、シール層である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層フィルムを備えることを特徴とする包装体。」
2.取消理由の概要
請求項1~3に係る特許に対して平成28年12月8日付け、平成29年5月31日付け及び同年11月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載された申立理由は、すべて通知した。
以下、甲第1号証等、甲第1号証等に記載された発明、甲第1号証等に記載された事項を、それぞれ「甲1」等、「甲1発明」等、「甲1事項」等という。
《取消理由1》
平成27年9月25日付け手続補正書による、請求項1及び請求項1を引用する請求項2、3について「前記酸素吸収層の前記酸化防止剤の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で35ppm以下であり、」とする補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
《取消理由2》
本件発明1~3は、甲1発明又は甲2発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
《取消理由3》
本件発明1~3は、甲1発明に基いて、又は甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件発明1~3は、甲2発明に基いて、又は甲2発明及び甲1事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《取消理由4》
本件発明1~3は、特許権者(出願人)が主張した効果を奏さない範囲のものを含むもので、発明の詳細な発明に記載した範囲を超えるものであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
甲1:国際公開第2009/032418号
(訳文として、パテントファミリーの甲3:特表2010-537849号公報を参照)
甲2:国際公開第2007/126157号
3.当審の判断
(1)取消理由1について
ア.平成27年9月25日付け手続補正書による、請求項1及び請求項1を引用する請求項2、3についての補正は、「前記酸素吸収層の前記酸化防止剤の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で120ppm以下であり、」を「前記酸素吸収層の前記酸化防止剤の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で35ppm以下であり、」に減縮するものである。出願当初の明細書の段落0114の表1には酸素吸収層の酸化防止剤の含有量を酸素吸収層に対して重量比率で0ppm、35ppm、60ppm、120ppm、170ppmとする実施例が記載されているところ、表1に実施例として開示した範囲のうち35ppmを上限範囲として、補正前の120ppm以下から35ppm以下へと減縮するものであって、新たな技術的事項を導入するものではないから、この補正は当初明細書等に記載した事項の範囲においてしたものであるといえる。
したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものではなく、特許法第113条第1号に該当しない。
イ.申立人の主張について
平成30年2月21日付け意見書の「3(6-1)」において申立人は、下記のように主張する。
「このように、本件出願当初明細書には、酸化防止剤の含有量の境界値としての35ppmは、好適な下限値としての記載があるのみである。すなわち、「酸化防止剤の含有量の上限値が35ppmであるという技術的事項」、換言すれば・・・(中略)・・・は、本件出願当初明細書の表1等の記載に基づいて、出願後に始めて導き出された技術的事項である。」
しかし、当該補正は、上記ア.に示したとおり表1に実施例として開示した範囲のうち35ppmを上限範囲として、補正前の120ppm以下から35ppm以下へと減縮するものであって、35ppmが好適な上限値であることを新たな技術的事項として追加するものではない。
よって、申立人の主張は当を得たものではなく、採用することができない。
(2)取消理由2
ア.甲1を主たる引用例とする取消理由2について
(ア)甲1の記載
甲1の第9頁第18~30行、第12頁第12~21行、第15頁第1~2行、第32頁第11行~第33頁第24行、第35頁の表、第43頁第1~18行、第44頁第17~19行、第46頁第23行~第47頁第12行等の記載から、甲1には以下の甲1発明が記載されていると認められる。
《甲1発明》
「2つの対向するパッシブ酸素バリヤー層の間に配置されているアクティブ酸素バリヤー層を含む多層酸素バリヤー構成要素を含み、
前記アクティブ酸素バリヤー層は
(A)実質的に主鎖中に炭素-炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂、
(B)遷移金属塩、及び
(C)酸素バリヤーポリマー
のブレンドである脱酸素組成物からなり、
前記多層酸素バリヤー層構成要素が外側シーラント層と外側酷使層の間に配置されており、
遷移金属塩(B)は鉄塩、ニッケル塩、銅塩、マンガン塩及びコバルト塩、並びにその組合せからなる群から選択される少なくとも1つの金属塩を含み、
組成物中に含まれる遷移金属塩(B)の量は熱可塑性樹脂(A)の重量に対して金属元素に換算して約10から5,000ppmの比率で含まれているものであり、
熱可塑性樹脂(A)はポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン及びポリオクテニレンからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である、
多層アクティブ酸素バリヤーフィルム。」
(イ)本件発明1について
a.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも下記の点で相違する。
《相違点1》
本件発明1が「前記酸素吸収層の前記酸化防止剤の含有量は、前記酸素吸収層に対して重量比率で5ppm以上35ppm以下」であるのに対し、甲1発明は、アクティブ酸素バリヤー層(本件発明1における「酸素吸収層」に相当。)が抗酸化剤(本件発明1における「酸化防止剤」に相当。)を含有することは明らかでない点。
b.判断
上記a.のとおり、本件発明1と甲1発明とは少なくとも相違点1で相違し、相違点1は、酸化防止剤の含有の有無及びその含有量という物理量の相違についてのものであるから実質的な相違点であるから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(ウ)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1についてと同様の理由で、甲1発明であるとはいえない。
イ.甲2を主たる引用例とする取消理由2について
(ア)甲2の記載
甲2の請求の範囲1、第9頁第9~13行、第10頁第24行~第11頁第6行、第118頁第17~18行、第23頁第11行~第24頁第12行、第26頁第7~16行、第45頁第18行~第47頁第16行、第98頁第13~16行、第99頁第22~26行、第100頁の表8等の記載、及び参考例3.1に着目すると、甲2には、以下の甲2発明が記載されていると認められる。
《甲2発明》
「酸素吸収機能を有する熱可塑性樹脂(A)と、触媒として酸素掃去機能を果たす遷移金属塩(B)とを含む酸素吸収性樹脂組成物からなる層を含む多層フィルムおよび当該多層フィルムからなる多層容器であって、
機械的特性、水蒸気バリア性、さらなる酸素バリア性などの特性を付与するという観点から、他の層と積層して多層構造体として用いるものであり、層構成としては、本発明の樹脂組成物以外の樹脂からなる層をx層、本発明の樹脂組成物層をy層、接着性樹脂層をz層とすると、x/z/y/z/xであり、
遷移金属塩(B)は熱可塑性樹脂(A)の質量を基準として10~5000ppmの範囲で含有され、
熱可塑性樹脂層(A)は酸化防止剤(C)を含み、
x層に使用される樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン一プロピレン共重合体、エチレンまたはプロピレン共重合体(エチレンまたはプロピレンと次の単量体の少なくとも1種との共重合体:1-ブテン、イソブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-へキセン、1-オタテン等のα-オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アタリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルオクタノエート、ビニルドデカノエート、ビニルステアレート、ビニルアラキドネート等のカルポン酸ビニルエステル類;ビュルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;ビュルピロリドン類等)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン) 等のポリオレフイン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリε-力プロラタタム、ポリへキサメチレンアジパミド、ポリメタキシリレンアジパミド等のポリアミ ド;ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の熱可塑性樹脂が使用され、
熱可塑性樹脂(A)は酸化防止剤(C)を10ppm含み、
熱可塑性樹脂(A)がポリオクテニレンである、
多層フィルム。」
(イ)本件発明1について
a.対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも下記の点で相違する。
《相違点2》
本件発明1は、第1隣接層と接して積層されるバリア層が「エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物」を含むものであるのに対し、甲2発明は、x層(本件発明1における「バリア層」に相当。)が「エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物」を含むことは明らかでない点。
b.判断
上記a.のとおり、本件発明1と甲2発明とは少なくとも相違点2で相違し、相違点2は、「エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物」の有無という含有物質の相違についてのものであるから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
(ウ)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1についてと同様の理由で、甲2発明であるとはいえない。
(3)取消理由3について
ア.甲1を主たる引用例とする取消理由3について
(ア)本件発明1について
a.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は上記(2)ア.(イ)a.に示した《相違点1》について少なくとも相違する。
b.判断
甲1には、アクティブ酸素バリヤー層(本件発明1における「酸素吸収層」に相当。)において、抗酸化剤(本件発明1における「酸化防止剤」に相当。)の含有量を、アクティブ酸素バリヤー層に対して重量比率で5ppm以上35ppm以下とすることは、記載されていないし、示唆もされていない。
甲2には、参考例3.1として、熱可塑性樹脂(A)(本件発明1における「酸素吸収性樹脂」に相当。)と、遷移金属塩(B)(同、「酸素吸収反応触媒」に相当。)とを含む酸素吸収性樹脂組成物からなる層(本件発明1における「酸素吸収層」に相当。)において、熱可塑性樹脂(A)が酸化防止剤(C)を10ppm含むことが記載されている。
しかし、甲1発明は、アクティブバリヤー組成物中に存在させる抗酸化剤の量は、通常はアクティブバリヤー組成物の全重量に基づいて約0.01から1重量%、特に約0.02から0.5重量%とするものであり、抗酸化剤の量が多すぎると、アクティブ酸素バリヤー組成物と酸素の反応が阻害され、本発明の樹脂組成物の脱酸素機能が製造時にすぐに不活性となり得るものである(甲1の第15頁第10~23行)。
よって、このような甲1発明において、アクティブバリヤー組成物中の酸化防止剤の含有量を10ppmにまで高めるという甲2事項を組み合わせることには、阻害事由がある。
これに対し、本件発明1は、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物を含むバリア層の存在によって酸素吸収層が単位時間あたりに吸収すべき酸素吸収量を低減させながら(段落0012、0023)、酸素吸収層における酸化防止剤の量を5~35ppmとすることで、「5℃環境下で7日間保管された場合における酸素吸収量が0.042cc/cm2以上0.099cc/cm2以下」(段落0114の表1)という、酸素吸収層の酸素吸収性が長時間維持される格別な作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、又は甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1についてと同様の理由で、甲1発明に基いて、又は甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ.甲2を主たる引用例とする取消理由3について
(ア)本件発明1について
a.対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は上記(2)イ.(イ)a.に示した《相違点2》について少なくとも相違する。
b.判断
甲2には、x層(本件発明1における「バリア層」に相当。)について、「エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物」を含むものとすることは記載はされていないし、示唆する記載もない。
ここで、甲2発明は、熱可塑性樹脂(A)(本件発明1における「酸素吸収性樹脂」に相当。)が酸化防止剤(C)を10ppm含むものであるが、甲2においては参考例としての位置づけである参考例3.1として示されたものであり、当該参考例3.1は、シート外観について、着色が×(シートが著しく着色)、ゲルが△(シート中に多少ゲルが存在する)というものである(第100頁の表8)。
このような参考例としての位置づけである参考例3.1に着目した甲2発明については、当業者はその組成や機能を変更して性能を高めようとする対象とはしないものといえる。そうすると、甲2発明について、そのx層(本件発明1における「バリア層」に相当。)に「エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物」を含むものとするような変更を施そうとする動機づけは生じ得ない。
また、甲1にも、甲2発明を変更することの動機づけとなる記載があるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲2発明に基いて、又は甲2発明及び甲1事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、甲2に実施例として記載されているものは、いずれも熱可塑性樹脂(A)が酸化防止剤(C)を500~5,000ppm含むものであり(第100頁の表8、第102頁の表9)、これらを引用発明とした場合には、本件発明1とは少なくとも上記相違点1において相違することとなるから、上記相違点1について示した判断と同様に、やはり当業者が容易に想到し得たものとはならない。
(イ)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1についてと同様の理由で、甲2発明に基いて、又は甲2発明及び甲1事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)申立人の意見について
平成30年2月21日付け意見書の「3(5-2)」において申立人は、甲2にはガスバリア性や酸素バリア性などの特性を付与するために、ガスバリア性に優れる樹脂の層を設けた多層構造体とする動機づけとなる記載があり、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)がガスバリア性に優れることは周知である旨を主張する。
しかし、甲2には、y層(本件発明1における酸素吸収層に相当。)やz層(本件発明1における隣接層に相当。)にEVOHを用いることは記載されているが(第27頁第10行~第29頁第6行、第47頁第3~16行参照)、x層(本件発明1におけるバリア層に相当。)にEVOHを用いることは記載されてない(第46頁第6行~第47頁第2行参照)。
また、平成30年2月21日付け意見書の「3(5-2)」において申立人は、甲1にも本件発明1のバリア層に相当するパッシブバリヤー層の成分としてEVOHが挙げられている旨を主張する。
しかし、上記(ア)b.に示したとおり、甲2においては参考例としての位置づけである参考例3.1に着目した甲2発明については、当業者はその組成や機能を変更して性能を高めようとする対象とはしないものといえる。そうすると、甲2発明について、そのx層(本件発明1における「バリア層」に相当。)に「エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物」を含むものとするような変更を施そうとする動機づけは生じ得ない。
よって、申立人が提出した証拠によっては、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、平成30年2月21日付け意見書の「3(5-5-2)」、「3(5-5-3)」において申立人は、本件発明1の酸化防止剤の含有量を5ppm以上35ppm以下とすることによる効果は、際立って優れた効果ではなく、数値範囲に臨界的意義があるものでもないこと、またバリア層にエチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物を選択して用いたことによる効果は実施例などにおいて裏付けられたものではない旨を主張する。
しかし、本件発明1は、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化物を含むバリア層の存在によって酸素吸収層が単位時間あたりに吸収すべき酸素吸収量を低減させながら(段落0012、0023)、酸素吸収層における酸化防止剤の量を5~35ppmとすることで、「5℃環境下で7日間保管された場合における酸素吸収量が0.042cc/cm2以上0.099cc/cm2以下」(段落0114の表1)という、酸素吸収層の酸素吸収性が長時間維持される格別な作用効果を奏するものである。
よって、申立人の主張は当を得たものではなく、採用することはできない。
(4)取消理由4について
本件訂正により、本件発明1~3は、酸素吸収層の酸化防止剤の含有量は、酸素吸収層に対して重量比率で5ppm以上であることが特定され、よって、本件発明の効果を奏する範囲内といえるものとなった。
また、本件発明1~3は、酸素吸収層の酸化防止剤にヒンダードフェノール系酸化防止剤以外のものが用いられる場合であっても、酸素吸収量が多くなるという効果自体は得られるものと認められる。
以上のことから、本件発明1~3は、発明の詳細な発明に記載した範囲を超えるものということはできず、本件発明1~3に係る請求項1~3の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
したがって、本件発明1~3に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当せず、取り消すことはできない。
第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-701014