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特許異議申立

2016-700955

ジフルオロメタン(HFC32)と2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を含む冷媒組成物

審判番号
2016-700955
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-204344
登録番号
特許第5900572号(P5900572)
請求日
2016年10月05日
審決日
2017年04月13日
公報発行日
2017年06月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ダイキン工業株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
  • 【異議申立人】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
  • 【異議申立人代理人】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 豊永 茂弘
  • 審判官 日比野 隆治
  • 審判官 長部 喜幸
分類
P1651.113-Y (C09K) / P1651.121-Y (C09K) / P1651.537-Y (C09K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5900572号発明「ジフルオロメタン(HFC32)と2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を含む冷媒組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5900572号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件特許異議申立に係る特許第5900572号の請求項1ないし7に係る特許(以下、各請求項に係る特許を「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成23年1月27日(優先権主張 平成22年1月27日 米国(US))を国際出願日とする特願2012-507753号の一部を、平成26年10月2日に新たな特許出願としたものであって、平成28年3月18日に、その特許権の設定登録がされ、同年4月6日に特許掲載公報が発行され、当該発行の日から六月以内にあたる同年10月5日に、特許異議申立人 ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニーより特許異議の申立てがされ、当審において、平成29年1月24日付けで取消理由が通知され、これに対して同年3月28日に、特許権者 ダイキン工業株式会社から意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を項番に合わせて「本件発明1」などという。)。 「【請求項1】 熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策及び圧力損失の影響を低減する対策を施した冷凍装置で用いる冷媒組成物であって、 (1)前記冷凍装置は、業務用エアコン;家庭用エアコン;海上輸送のコンテナ内を冷却する冷凍機;チラーユニット;床暖房装置;又は融雪装置であり、 (2)前記冷媒組成物は、ジフルオロメタン(HFC32)及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を含有し、HFC32とHFO1234yfとの合計量を100質量%とした場合にHFC32を30~50質量%含有し、HFO1234yfを70~50質量%含有する、 冷媒組成物。 【請求項2】 熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策が、対向流により空気との温度差ムラをなくすこと、蒸発器入口付近の着霜を防止すること、及び、熱交換器の熱伝達率を増加させること、の少なくとも一つである、請求項1に記載の冷媒組成物。 【請求項3】 圧力損失の影響を低減する対策が、熱交換器の管径を大きくしたりパス数を最適化すること、空調機内配管及び連絡管の管径を大きくしたり長さを短くすること、膨張機構としてエジェクタを利用すること、及び、エコノマイザーサイクルを利用すること、の少なくとも一つである、請求項1に記載の冷媒組成物。 【請求項4】 HFC32とHFO1234yfとの合計量を100質量%とした場合にHFC32を30~45質量%含有し、HFO1234yfを70~55質量%含有する、請求項1に記載の冷媒組成物。 【請求項5】 更に重合防止剤を含む、請求項1に記載の冷媒組成物。 【請求項6】 更に安定剤を含む、請求項1に記載の冷媒組成物。 【請求項7】 更に冷凍機油を含む、請求項1に記載冷媒組成物。」 第3 取消理由の概要 当審において、本件特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1 本件発明1~7は、特許法第29条第2項の規定(進歩性)により特許を受けることができないものであるから、本件特許1~7は、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 本件特許1~7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項第4号に該当し取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 平成29年3月28日に特許権者から提出された意見書の内容を踏まえ、当審は次のとおり判断する。 本件特許1~7は、取消理由通知に記載した上記取消理由、及び、特許異議申立書に記載されたものであって、当該取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。 その判断理由は、以下のとおりである。 1 取消理由通知に記載した取消理由(進歩性)についての判断 (1) 進歩性の判断において参照した証拠一覧 ア 異議申立人が提出した証拠 甲第1号証:特表2008-531836号公報 甲第2号証:特開2009-222362号公報 甲第3号証:国際公開第2010/002016号 甲第4号証:野中正之ら著「非共沸冷媒用熱交換器の性能評価」、N         o.97-25 日本機械学会熱工学講演会講演論文集         [1997-11.5~7、つくば] 甲第5号証:特開2008-256314号公報 甲第6号証:特開2009-222360号公報 甲第8号証:Reinhard Radermacherら著「Va         por Compression Heat Pump         s with Refrigerant Mixtur         es」、Taylor&Francis、2005年発         行,p.135、142-145 (以下、「甲1」などという。) イ 審査段階で引用された証拠 特開2010-2074号公報(以下、「引用刊行物」という。) (2) 甲1に記載された発明(甲1発明) 異議申立人が主引例とする甲1には、異議申立書の8~13頁に摘示された技術的事項が記載されている。 特に、実施例1の結果を示す表9(【0150】【表26】)には、HFC32とHFO1234yfとの合計量を100質量%とした場合に、HFC32を42質量%含有し、HFO1234yfを58質量%含有する冷媒組成物が記載されている(以下、当該冷媒組成物を「特定冷媒組成物」という。なお、この「特定冷媒組成物」は、甲1の【請求項3】、【請求項15】、【請求項16】及び【0030】【表2】に記載された組成物の具体例にあたるものと解される。)。 そして、当該「特定冷媒組成物」を使用する装置についてみると、甲1の【0128】~【0130】の記載からみて、エアコン(業務用エアコンや家庭用エアコンなどを含む一般的なものと解するのが合理的である。)や海上輸送のコンテナ内を冷却する冷凍機といった冷凍装置(冷凍サイクルを利用する広義の装置)での使用を予定したものと解することができる。 なお、甲1には、多様な冷媒組成物が示され、その用途・装置についても多岐にわたるものが列挙されていること(冷媒組成物と用途・装置の組合せが無数に存在すること)に加え、上記「特定冷媒組成物」を特定の装置において使用した実施例が存在しないことから、当該「特定冷媒組成物」の使用を予定する装置の認定に際しては、異議申立人が摘記した上記【0128】~【0130】のほかに、甲1の【請求項59】、【請求項60】の記載なども参酌した。 そうすると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(異議申立書14頁参照。ただし、質量%の数値には誤りがある。)。 「冷凍装置で用いる冷媒組成物であって、 (1)前記冷凍装置は、業務用エアコン;家庭用エアコン;海上輸送のコンテナ内を冷却する冷凍機であり、 (2)前記冷媒組成物は、ジフルオロメタン(HFC32)及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を含有し、HFC32とHFO1234yfとの合計量を100質量%とした場合にHFC32を42質量%含有し、HFO1234yfを58質量%含有する、 冷媒組成物。」 ここで、上記「特定冷媒組成物」が非共沸組成物であるか否かについて触れておくと、当該「特定冷媒組成物」が掲載された上記実施例1の表9は、甲1の【0167】の記載からみて、擬共沸(共沸)組成物を列記したものとも解されるが、同【0054】の記載からして、表5(【0046】【表12】)の擬共沸範囲外(つまりHFO1234yf/HFC32=1-57/99-43という範囲の外)の組成物である当該「特定冷媒組成物」は、非共沸組成物であると捉えられていることが分かる。加えて、仮に甲1において、当該「特定冷媒組成物」が擬共沸と位置づけられているとしても、これが非共沸組成物としての挙動を示す組成物であることは、当業者であれば容易に理解するのであるから(引用刊行物の【0012】、【図1】も参照した。)、当該「特定冷媒組成物」を非共沸組成物として理解することに何ら問題はない。 (3) 引用刊行物に記載された発明(引用発明) 引用刊行物には、少なくとも圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を備える冷凍サイクル装置において用いる混合冷媒として、テトラフルオロプロパン(HFO-1234yf)とジフルオロメタン(R32)(HFC32)を混合した冷媒であって、R32の混合冷媒全体に占める質量割合が20質量%以上としたことを特徴とする混合冷媒が記載され(【請求項1】【請求項2】)、当該混合冷媒の具体例として、HFO-1234yf/R32=70/30、60/40、50/50の混合冷媒が記載されている(【図2】)。 そして、当該混合冷媒は、R410A、R404Aなど、他の混合冷媒が使用されている空調、冷凍冷蔵設備同等の耐圧強度を有する機器での代替を可能とすることを目的とするものであるから(【0008】)、使用装置として、R410A、R404Aなどが現行冷媒として使用されている業務用エアコン、家庭用エアコン、海上輸送のコンテナ内を冷却する冷凍機といった冷凍サイクル装置(冷凍装置)を予定したものであると解するのが合理的である。 そうすると、引用刊行物にも、上記甲1発明と同様の、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「冷凍装置で用いる冷媒組成物であって、 (1)前記冷凍装置は、業務用エアコン;家庭用エアコン;海上輸送のコンテナ内を冷却する冷凍機であり、 (2)前記冷媒組成物は、ジフルオロメタン(HFC32)及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を含有し、HFC32とHFO1234yfとの合計量を100質量%とした場合に、HFC32及びHFO1234yfをそれぞれ、30質量%及び70質量%、40質量%及び60質量%、50質量%及び50質量%の割合で含有する、 冷媒組成物。」 ここで、当該引用発明に係る冷媒組成物は、引用刊行物の【0012】、【図1】から明らかなとおり、非共沸組成物として位置づけられているものである。 (4) 本件発明1~7と、甲1発明あるいは引用発明との対比 本件発明1は、冷凍装置の種類(請求項1において(1)として特定された事項)、及び、冷媒組成物の成分組成(請求項1において(2)として特定された事項)に加え、当該冷凍装置が、熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策及び圧力損失の影響を低減する対策を施したものである点を発明特定事項とするものである。 そして、本件発明2、3は、当該本件発明1の対策をより具体的なものとして特定し、本件発明4は、当該本件発明1の成分組成をさらに限定するものである。 また、本件発明5~7はそれぞれ、追加成分として、重合防止剤、安定剤、冷凍機油を含むことを特定するものである。 一方、甲1発明及び引用発明はともに、本件発明1~4が特定している冷凍装置の種類及び成分組成に関する規定を満足するものである。 そうすると、甲1発明あるいは引用発明と、本件発明1~4との相違点は、上記対策の有無にあるということができ、また、甲1発明あるいは引用発明と、本件発明5~7との相違点は、上記対策の有無に加え、上記追加成分の有無にあるといえ、その余の点においては、両者は一致するといえる。 (5) 相違点について 上記相違点を検討するにあたり、あらかじめ、上記の対策と追加成分に関する周知技術について整理しておく。 ア 熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策及び圧力損失の影響を低減する対策に関する周知技術の整理 上記(4)のとおり、本件発明1~3は、熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策及び圧力損失の影響を低減する対策について特定するものであるところ、本件特許明細書においても説明されているように、これらの対策自体は、当業者が既に熟知するところというべきである。すなわち、本件特許明細書の【0022】及び【0034】によれば、「圧力損失の影響を低減する対策」及び「熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策」の具体例については、特開2009-222362号公報、特開2009-222360号公報(異議申立人が提出した甲2、甲6に該当)などに記載されている。 また、当該対策については、上記甲2、甲6のほか、甲3(配管長さの調整について)、甲4(対向流・着霜防止について)、甲5(着霜防止について)、甲8(エコノマイザーサイクルについて)などにも記載されているとおりである(異議申立書31~38頁参照)。 さらに、上記した「熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策」(対向流など)は、温度グライドを有する非共沸冷媒において、より効果的に機能するものではあるが、当該非共沸冷媒のみにしか適用できないという類いの対策ではなく、冷凍装置に期待される一般的な課題である、熱交換器における熱交換効率の向上に寄与するものとして、冷媒が非共沸か否かにかかわらず、広く適用されている対策と解すべきである。 同様に、上記「圧力損失の影響を低減する対策」(エジェクタやエコノマイザーサイクルなど)も、HFO1234yfのような低圧冷媒を使用する場合において、大きな効果を発揮するものではあるが、当該低圧冷媒のみにしか適用できないという類いの対策ではなく、冷凍サイクルにおける冷凍能力の向上や圧縮仕事の低減など、冷凍装置全般の性能向上に寄与するものとして、冷媒が低圧冷媒か否かにかかわらず、広く適用されている対策と解すべきである。 イ 冷媒組成物の追加成分に関する周知技術の整理 重合防止剤、安定剤、冷凍機油といった追加成分は、冷凍装置で用いる冷媒組成物において、普通に使用されている慣用の成分にすぎないといえる。すなわち、重合防止剤については、甲1の【0071】、甲3の[Claim 3]などに、安定剤については、甲1の【0071】、甲3の[Claim 5]などに、冷凍機油については、甲1の【0066】、【0067】などに、それぞれ記載されている。 ウ 相違点についての検討 上記ア、イのとおり、本件発明1~3において特定される対策、及び、本件発明5~7において特定される追加成分は、当業者間で既によく知られた事項といえる。 また、当該対策は、特に、非共沸組成物を冷媒として使用する際に有効な技術であるとともに、圧力損出の影響を受けやすいHFO1234yfのような低圧冷媒に対する効果的な手段であることから(もちろん、冷媒が非共沸冷媒か否か、HFO1234yfを含むか否かにかかわらず、当該対策が効果的であることは先に述べたとおりである。)、甲1発明あるいは引用発明に係る、非共沸組成物であり、低圧冷媒であるHFO1234yfを含むような冷媒組成物を、当該対策を施した冷凍装置において使用すること(当該冷媒組成物を使用するにあたり、冷凍装置に当該対策を施すこと)により、相応の効果が予測できるということができる。 しかしながら、本件特許明細書の【0020】や、平成29年3月28日に特許権者が提出した意見書における実験結果を斟酌すると、上記の対策を施した特定の冷凍装置と、本件発明1に係る特定組成の冷媒組成物(HFC32:30~50質量%、HFO1234yf:70~50質量%という成分組成のもの)との組合せによる相乗的な効果、すなわち、当該特定組成の範囲における、APFについての有意な効果(標準ユニットでのAPFと比較した場合の上昇率の高さ)を認めることができ、このような効果についてまで予測することは困難であるというべきである。 したがって、甲1発明あるいは引用発明の冷媒組成物を、上記対策を施した冷凍装置に適用することは、当業者にとって容易なこととは言い難い。 (6) 小括 以上検討のとおり、本件特許1~7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。 2 取消理由通知に記載した取消理由(明確性要件)についての判断 本件発明1~7は、「熱交換器内での温度グライドによる熱交換効率の低下を防ぐ対策及び圧力損失の影響を低減する対策」を施した冷凍装置で用いる冷媒組成物に関する発明であるが、これらの対策自体は、当業者が既によく知る事項にすぎないから、その内容が不明確であるとはいえない。また、当該対策を具体的に表記するに際し、「熱交換器の熱伝達率を増加させること」、「熱交換器の管径を大きくしたりパス数を最適化すること」といった、相対的な表現が用いられており、若干、判然としないところもあるが、当業者であれば、当該対策の有無をおおよそ区別して判断することは可能であると解されるから、このような表記のため特許請求の範囲の記載が不明確であるとまではいえない。 したがって、本件特許1~7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとまではいえないから、取り消すことはできない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断 異議申立人は、上記1、2において検討した取消理由のほかに、特許法第29条第1項第3号所定の規定違反との主張(甲1発明により新規性なしとの主張)もしているが、上記1のとおり、本件発明1~7は、甲1発明に対して、実質的な相違点を有しているのであるから、当該主張を採用して、本件特許1~7を取り消すこともできない。 第5 結び 以上のとおりであるから、本件特許1~7は、特許法第29条の規定に違反してされたものとも、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとも認められないから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。 よって、結論のとおり決定する。

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