特許異議申立
2016-700429
中性子線減速材用フッ化物焼結体及びその製造方法
- 審判番号
- 2016-700429
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-561664
- 登録番号
- 特許第5813258号(P5813258)
- 請求日
- 2016年05月16日
- 審決日
- 2017年04月11日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】国立大学法人 筑波大学
- 【権利者代理人】井内 龍二
- 【権利者】株式会社大興製作所
- 【権利者代理人】井内 龍二
- 【異議申立人】齋藤 慎二
- 【異議申立人代理人】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1652.111-YAA(C04B) / P1652.113-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.536-YAA(C04B) / P1652.537-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5813258号発明「中性子線減速材用フッ化物焼結体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5813258号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4〕、2について訂正することを認める。
特許第5813258号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5813258号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成26年5月27日(優先権主張 平成25年7月8日)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1、2に係る特許について、特許異議申立人齋藤慎二(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月31日付けで意見書が提出され、同年11月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月31日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、同年2月10日付けで申立人に、上記両取消理由通知の写し、訂正請求書及びこれに添付された訂正した明細書、特許請求の範囲の副本、上記取消理由通知に対応する特許権者の上記両意見書の副本を送付し、その指定期間内である同年3月16日付けで申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア 特許請求の範囲について
(ア)訂正事項1
請求項1の「緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下であることを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」を「緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」に訂正する。
請求項1の訂正に伴い、請求項3の「・・・請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。」及び請求項4の「・・・請求項3記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。」についても訂正することになる。
(イ)訂正事項2
請求項2の「緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下で、曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体。」に訂正する。
イ 明細書について
(ア)訂正事項3
【0061】の「上記目的を達成するために、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)は、緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下であることを特徴としている。」を「上記目的を達成するために、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)は、緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴としている。」に訂正する。
(イ)訂正事項4
【0063】の「また、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(2)は、緻密な多結晶構造のMgF2からなり、嵩密度が嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下で、曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有するものであることを特徴としている。」を「また、本発明に係る中性子線減速材用フッ化物焼結体(2)は、上記中性子線減速材用フッ化物焼結体(1)において、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有するものであることを特徴としている。」に訂正する。
(ウ)訂正事項5
【0144】の「[比較例1]上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で550℃、10時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から750℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した。その後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、195mm×195mm×t64mm、嵩密度2.90g/cm3(相対密度92.1%)であり、焼結状態は良好であった。」を「[比較例1]上記実施例1の場合と同じ出発原料を用い、同様に一軸プレス成形、冷間等方圧力成形(CIP)を施した成形体に、大気雰囲気中で530℃、5時間の仮焼結を実施し、208mm×208mm×t73mmの仮焼結体を得た。この仮焼結体を窒素ガス雰囲気中で室温から750℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持した。その後、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持し、この後、取り出し温度に設定した100℃まで炉冷し、その後、取り出した。焼結体の概略寸法は、195mm×195mm×t64mm、嵩密度2.88g/cm3(相対密度91.4%)であり、焼結状態は良好であった。」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、「緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下である中性子線減速材用フッ化物焼結体」において、さらに「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」焼結体に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
同様に、請求項1を引用する請求項3、さらにその請求項3を引用する請求項4に対しても、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、「緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下で、曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体。」と訂正するものであるが、ここで引用する請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体は、上記訂正事項1のとおり「緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。」である。
してみれば、訂正事項2は、重複する記載を避けるために引用形式として請求項の記載を明瞭にしたものといえることから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
ウ 訂正事項3及び4について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
エ 訂正事項5について
訂正前の【0144】には、[比較例1]における仮焼結温度及びその時間として「550℃」及び「10時間」、そして嵩密度及び相対密度として「嵩密度2.90g/cm3(相対密度92.1%)」と記載されているのに対し、本件特許の願書に添付されている図6の【表2】には、[比較例1]における仮焼結の加熱温度(℃)×保持時間(hr)として「530×5」、焼結体の密度である嵩密度(g/cm3)及び相対密度(%)として「2.88」、「91.4」が記載されており、比較例1について【0144】の記載と【表2】の記載は一致していなかった。ここで、前者の「嵩密度2.90g/cm3(相対密度92.1%)」は、請求項1の「嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下」の範囲に入るのに対し、後者の嵩密度(g/cm3)「2.88」はその範囲に入らないことから、実施例ではない比較例としては、後者の値が正しい値であり、前者の値は誤記であると判断するのが適当である。
してみれば、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえる。
(3)新規事項の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」焼結体に限定するものであるが、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の請求項2、【0063】等に「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」焼結体が記載されており、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、重複する記載を避けるために引用形式として請求項の記載を明瞭にしたものであり、その発明は、特許明細書等の特許請求の範囲の請求項2に記載されていたものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 訂正事項3及び4について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであり、上記ア及びイで説示したとおり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 訂正事項5について
上記(2)のオで説示したとおり、訂正事項5は、【0144】の[比較例1]における誤記を、特許明細書等の図6の【表2】の記載に合わせて訂正したものであるが、この表は、願書に最初に添付した図6にも【表2】として記載されている、
したがって、訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
特許請求の範囲についての訂正事項1及び2並びに明細書についての訂正事項3~5は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(5)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1、3及び4は、互いに引用、被引用の関係にあるから一群の請求項であり、これらの訂正は、特許法120条の5第4項に適合する。また、明細書についての訂正事項3~5は、当該一群の請求項の全てに対する訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
(6)独立特許要件
上記(1)ア(ア)の訂正事項1で述べたように、請求項1について特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされることにより、請求項1を引用する請求項3、さらにその請求項3を引用する請求項4に対しても、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正が行われたことになる。ここで、請求項3及び4は特許異議の申立がなされていない請求項であることから、請求項3及び4に係る発明が、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第7項で規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か検討する。
請求項3及び4に係る発明は
「【請求項3】
MgF2焼結体からなる中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法であって、
高純度のMgF2原料を微粉砕し、焼結助剤を0.1~1wt.%添加して混合する工程、
一軸プレス機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、
冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧5MPa以上で成形する工程、
大気雰囲気中、550~600℃の温度範囲、4~10時間の条件で仮焼結させる工程、
不活性ガス雰囲気中で、750~840℃の温度範囲で、5~12時間加熱する工程、
前工程と同じ雰囲気中で900~1100℃の温度範囲で、0.5~3時間加熱して緻密な構造のMgF2焼結体を形成する本焼結工程、
を含むことを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記本焼結工程における不活性ガス雰囲気が、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びネオンの中から選択される1種類のガス、または複数種類のガスを混合させたものからなることを特徴とする請求項3記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法。」
であるが、これらの発明は、請求項1に係る発明の中性子線減速材用フッ化物焼結体の製造方法であり、後述するように、請求項1に係る発明が、新規性・進歩性を有することから、同様に新規性・進歩性を有する。また、記載不備等の不特許事由もない。
したがって、これらの発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第7項に適合するものである。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、3、4〕、2について訂正を認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1及び2」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
緻密な多結晶構造のMgF2焼結体からなり、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下で、曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有することを特徴とする中性子線減速材用フッ化物焼結体。
【請求項2】
ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の中性子線減速材用フッ化物焼結体。」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲1号証~甲9号証(以下「甲1~甲9」という。)を提示し、訂正前の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号の規定に該当し取り消されるべきものであると主張している。
甲1:平成24年度課題解決型医療機器等開発事業「再発がん治療のための新素材ターゲット技術を用いた加速器型中性子捕捉療法システムの開発」研究成果報告書(要約版)、平成25年2月、1~23頁
甲2:「加速器を用いた熱外中性子源の最適中性子エネルギー特性とスペクトラムの再評価 -PHITSによる解析とモデレータの試作-」第15回国際中性子捕捉療法学会 2012年9月10日-14日 つくば国際会議場
甲3:欧州特許出願公開第1895819号明細書
甲4:M.Nofa, H.R.Madaah Hosseini, H.A.Shivaee「The dependency of optical properties on density for hot pressed MgF2」Infraed Physics & Technology 51(2008), 546-549
甲5:原田保、白川洋一、宮田昇、塚本恵三「高密度MgF2焼結体の作製と特性評価」粉末冶金協会講演概要集、粉体粉末冶金協会、1998年11月20日(当審注:会期を記載)、275頁
甲6:M.H. Moghim, M.H. Paydar「Hot-pressing of bimodally distributed magnesium fluoride powder」Infraed Physics & Technology 53(2010), 430-433
甲7:特許第5577287号公報
甲8:特開2000-302553号公報
甲9:原田保、指田則和、宮田昇「常温焼結とカプセルフリーHIPを用いたMgF2焼結体の作製」太平洋セメント研究研究報告、第139号、太平洋セメント株式会社、2000年11月30日、66-71頁
申立理由をまとめれば、以下のとおりである。
(1)申立理由1
訂正前の請求項1及び2に係る特許について、訂正前の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、甲2の内容により公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号に規定する発明に該当し、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)申立理由2
訂正前の請求項2に係る特許について、本件発明2は、甲5に記載された発明、あるいは、甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(3)申立理由3
訂正前の請求項2に係る特許について、本件発明2の「曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有する」との発明特定事項の点において、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願であり、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願であり、本件発明2は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。
第5 取消理由の概要について
1 平成28年9月1日付け取消理由
(1)特許法第29条第1項第3号について
本件発明1および2は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、同項の規定に違反して特許されたものである。
(2)特許法第29条第2項について
本件発明1および2は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもある。
2 平成28年11月25日付け取消理由
本件発明1および2は、甲2の内容により公然知られた発明であるか、その公然知られた発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもある。
第6 甲号証の記載事項等
1 甲1について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲1発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲1ア)
「サブテーマ3:減速体系の開発
・低エネルギー陽子線とリチウムターゲットを用いて得られた中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)の開発を行った。
○1モデレータの素材はフッ化マグネシウムを用い、その焼結化に関する検討を行った。○2焼結化に最適な条件の洗い出しを行い、徐々に試作品を大きくしていった。
○3現在、実使用での直径の大きさ(300mm)までのフッ化マグネシウム焼結体の製作が可能となった(厚さ:30mm)。」(11頁左欄1~12行)
なお、「○数字」は、丸囲み数字を表す。
(甲1イ)
「2.フッ化マグネシウム焼結体生成に最適な条件設定の確立
フッ化マグネシウム焼結体を再現性のある条件設定を行いながら、目標とするΦ350mmまで徐々に焼結技術の確立を行った。」(19頁21~23行)
(甲1ウ)
「<φ350×30t焼結体>
【焼結体外観】全体的に白色、割れ等の損傷無し
【実寸値】厚さ:(任意4ヵ所)31.28,31.59,31.36,31.12
(平均31.34mm)
直径:348mm
質量:約10kg
【焼結条件】 加圧20Mpa
【計算密度】 3.053g/cm^3⇒約97%」(19頁24~31行)
ここで、「g/cm^3」は「g/cm3」を意味するものである。
してみれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「フッ化マグネシウム焼結体からなり、計算密度が3.053g/cm3⇒約97%である、中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)として用いるフッ化マグネシウム焼結体。」(以下「甲1発明」という。)
2 甲2について
甲2の文書の内容は、本件特許に係る出願の優先日前の2012年9月10日-14日、つくば国際会議場において、不特定の者に秘密でないものとして、その内容が発表されたものといえることから、その内容に基づく発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内において公然知られた発明といえる。
甲2の文書(訳文)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲2発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲2ア)
「イントロダクション
目的
1.加速器を用いたBNCT用熱外中性子源の減速材の評価
2.減速材の試作」(4頁)
(甲2イ)
「フッ化マグネシウムの焼結
SPS(Spark Plasma Sintering)
放電プラズマ焼結
SPSとは通電過熱と機械的加圧によって短時間で高品質な焼結体を作る新しく開発されたプロセスです。」(11頁)
(甲2ウ)
「フッ化マグネシウムの焼結
フッ化マグネシウム,99%
(試薬グレード)
焼結条件
・加圧:20MPa
・真空度:40Pa以下」(12頁)
(甲2エ)「フッ化マグネシウムの焼結
・No.1:焼結状態確認のための試作品
・No.2-4:No.1から得られたデータに基づき700℃で焼結
焼結体の密度
No.理論密度(g/cm3) 密度(g/cm3) 密度比(%)
1 3.150 3.117 99.0
2 3.150 3.168 100.6
3 3.150 3.169 100.6
4 3.150 3.167 100.5 」(13頁)
(甲2オ)
「フッ化マグネシウムの焼結
フッ化マグネシウム,99%
(工業用グレード)
No.理論密度(g/cm3) 密度(g/cm3) 密度比(%)
5 3.150 3.059 97.1
6 3.150 2.807 89.1 」(15頁)
(甲2カ)
「フッ化マグネシウムの焼結
・No.5と同じ原料で製作(工業用グレード)」
・直径:155mm(設計の半分のサイズ)/厚さ:21.5mm
・密度:2.96g/cm3(94%)」(17頁)
してみれば、甲2を用いて、以下の発明が発表されたと認められる。
「フッ化マグネシウムの焼結体からなり、密度が2.96又は3.059g/cm3であるBNCT用熱外中性子源の減速材用フッ化マグネシウムの焼結体。」(以下「甲2発明」という。)
3 甲3について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲3には、以下の事項が記載されている。なお、訳文において下線は以下の甲3発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲3ア)
「[0031]According to a more preferred embodiment of the invention, the device for generating neutrons further comprises a beam shaping assembly. The beam shaping assembly comprises a moderator. The moderator is preferably made of magnesium fluoride (MgF2). Preferably, the length of the moderator is determined as the smallest length leading to a dose at skin level (D tissue (0 cm)) lower than or equal to 8 Gy-eq.」
「訳文:この発明のより好ましい態様によれば、中性子製造装置は、更に、ビーム成型部品を備えている。ビーム成型部品は、減速材を備えている。減速材は、好ましくは、フッ化マグネシウム(MgF2)でできている。好ましくは、減速材の長さは、表皮レベル(Dtissue(0cm))で8グレイエクィバレント以下の被爆となるような最小限の長さに決められる。」
(甲3イ)
「[0066]Results presented in figure 7 correspond to a MgF2 density of 2.54 g/cm3. This density is a critical parameter as demonstrated in figure 9. For a density of 3.1 g/cm3 (corresponding to the maximal density of a MgF2 crystal), the optimal length is reduced to 27 cm and the corresponding maximal thermal flux is increased to 3.2 109 n/cm2.s.
[0067]Another critical parameter for the beam shaping assembly is the moderator radius. As shown in figure 10 for MgF2 (density of 3.1 g/cm3), the moderator optimal length is significantly smaller when the moderator radius is increased from 15 cm to 20 cm. This length reduction is directly translated into a thermal flux increase of about 50%. The increase in thermal flux for radius values beyond 20 cm becomes minor.」
「訳文:第7図に示された結果は、密度2.54g/cm3のMgF2に相当する。この密度は、第9図で示されているように重要なパラメータである。密度3.1g/cm3(MgF2結晶の最高の密度に相当する)に対して、最適の長さは、27cmまでに短くでき、それに対応する最大の熱中性子フラックスは、3.2×109n/cm2・sに増大する。
ビーム成型部品に対する他の重要なパラメータは、減速材の直径である。MgF2(密度3.1g/cm3)のための第10図に示されているように、減速材の最適の長さは、減速材の直径が15cmから20cmに長くなる時に、著しく短くなる。この長さが短くなるということは、直接的には、熱中性子フラックスが約50%増加することに言い換えられる。20cmを超える直径の値に対して熱中性子フラックスが増加することは、少なくなる。」
(甲3ウ)
「[0072]The moderator is preferably made of MgF2, with a density of at least 2.54 g/cm3 . 」
「減速材は、少なくとも2.54g/cm3の密度を有するMgF2からなることが好ましい。」
(甲3エ)Fig.9として、以下の図面が記載されている。
ここで、「g/cc」は「g/cm3」であり、2.54g/cm3、3.10g/cm3の密度を有するMgF2が記載されている。
してみれば、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「MgF2からなり、少なくとも2.54g/cm3の密度である、中性子製造装置における減速材として用いるMgF2。」(以下「甲3発明」という。)
4 甲4について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)
「MgF2 powders with an average particle size of 10μm were produced by the Fast Mill method. The powders were hot pressed at 650, 750,and 800℃ under 200, 250,and 270MPa pressures for 20, 30,and 40 min.」(546頁右欄26~29行)
(訳文:平均粒径が10μmのMgF2粉末を高速ミル法により生成した。この粉末を20、30、および40分間、200、250、および270MPaの圧力下で、650、750、および800℃にてホットプレスした。)
(甲4イ)
「Fig.4 shows transparency in IR region for three samples with relative density of 98.7%, 97.4%, and 93.8%. 」(548頁左欄45~46行)
「訳文:図4は、相対密度が98.7%、97.4%、および93.8%である3つの試料のIR領域の透過性を示す。」
5 甲5について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲5には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲5発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲5ア)
「【はじめに】
MgF2は赤外透過性の良さから赤外線機器の窓材や赤外線フィルターとして用いられている。しかし、緻密なMgF2焼結体を得るためのにホットプレス焼結やカプセルHIP焼結法が行われており、これらの作製方法では焼結体の形状に制限が生じるために実用性に問題がある。そこで本研究では、作製できる形状に制限のない常圧焼結とHIP焼結法を組み合わせて緻密なMgF2焼結体を作製し、その特性を評価することを目的とした。
【実験方法】
原料であるMgF2粉末(試薬1級)に焼結助剤としてLiF(試薬1級)を添加し、エタノールによる湿式ボールミル混合をおこなった。その後、一軸加圧75MPa、CIP150MPaで成形体を作製し、常圧焼結した後に、HIP処理を行った。表1にLiF添加量、焼結温度等の作製条件を示す。得られた焼結体の嵩密度の測定および走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を行った後、試料番号2のMgF2に関して、機械的、熱的特性としてビッカース硬度、ヤング率、破壊靭性、曲げ強度、熱膨張係数を、電気的特性として誘電率、誘電損失、体積抵抗率を測定した。
【実験結果および考察】
表2に各試料の常圧焼結後、HIP処理後の相対密度を、表3に材料特性を示す。なお、相対密度はLiF添加を考慮したMgF2の理論密度からそれぞれ求めた。これより、今回作製したMgF2の常圧焼結後の相対密度は96%~100%となった。」(275頁1~18行)
(甲5イ)
Tab1e2には、試料番号1の常圧焼結体相対密度が96%、試料番号2の常圧焼結体相対密度が100%、HIP焼結体相対密度が100%、試料番号3の常圧焼結体相対密度が97%であることが記載されている。
(甲5ウ)
Tab1e3には、試料番号2のビッカース硬度が325、曲げ強度が室温で98MPa、200℃で93MPa、400℃で63MPa、500℃で82MPa、600℃で71MPaであることが記載されている。
なお、原文では試料番号は○数字で記載されている。
してみれば、甲5には、以下の発明が記載されていると認められる。
「赤外線機器の窓材や赤外線フィルターとして用いられる常圧焼結とHIP焼結法を組み合わせた緻密なMgF2焼結体であって、
HIP焼結体相対密度が100%、ビッカース硬度が325、曲げ強度が室温で98MPaであるMgF2焼結体。」(以下「甲5発明」という。)
6 甲6について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6ア)
「Fig.2 shows the relative density of the consolidated samples as a function of weight percent of the ultrafine powder used. As it can be seen, the samples including partially ultrafine powder were densified to near theoretical density, 3.17-3.18g/cm3. 」(431頁左欄20~23行)
(訳文:図2は、使用した超微粒子の質量分率に応じた固化試料の相対密度を示す。図に示されているとおり、超微粒子を一部に含む試料は、3.17-3.18g/cm3の理論密度付近まで高密度化された。」
(甲6イ)
「Fig.5 shows relation between the hardness and percentage of the ultrafine component used in the initial MgF2 powder mixtures.」(431頁右欄39~40行)
(訳文:図5は、硬さと、MgF2粉末の混合物について初めに使用された超微粒子の分率との関係を示す。)
(甲6ウ)Fig.2及びFig.5として、以下の図面が記載されている。
7 甲7について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7ア)
「【0001】
本発明は、フッ化マグネシウム焼結体、その製法及び半導体製造装置用部材に関する。」
(甲7イ)
「【0034】
[2-6]曲げ強度
JIS R 1601に準拠した曲げ強度試験によって測定した値である。」
(甲7ウ)
「【0037】
[3]実施例及び比較例
実施例1~24,比較例1~7につき、上記[1]の作製方法に準じて、表2に示す調合条件、焼成条件にしたがって焼結体を作製した。得られた焼結体につき、開気孔率、フッ化マグネシウムの平均粒径(焼結粒径)、分散粒子の平均粒径、曲げ強度及びエッチングレート(対イットリア焼結体比)を上記[2-3]~[2-7]に準じて測定し、その結果を表2に示した。」(当審注:甲7には「表2」がないことから、「表1」の誤記といえる。)
(甲7エ)【表1】として、以下の表(一部抜粋)が記載されている。
8 甲8について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8ア)
「【請求項1】フッ化物70~85重量%と、アルミナ30~15重量%とから実質的になることを特徴とする耐蝕性フッ化物基複合セラミックス焼結体。」
(甲8イ)
「【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらフッ化物セラミックス焼結体の最も大きな欠点は、機械的強度が低いことである。MgF2、CaF2、YF3等のフッ化物セラミックス焼結体の曲げ強度は100MPa前後であり、従来から耐蝕部材用として利用されている石英ガラスの約150MPa、現在利用が広がりつつあるAl2O3セラミックスの約400MPaに比べて低い。以上のような現状で、半導体製造装置内の部品としてのフッ化物セラミックスの用途を拡大するために機械的強度を向上させることが大きな課題である。」
9 甲9について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲9には、以下の事項が記載されている。なお、下線は以下の甲9発明の認定に関連する箇所に付与した。
(甲9ア)
「1.まえがき
MgF2は、赤外領域での光透過性が優れることから赤外線透過窓等の光学材料として、またプラズマ耐蝕性に優れることからプラズマプロセス中の構造部材として利用されている。代表的な製造方法としては、MgO表面を直接弗化してMgF2化したり金属やセラミックスの表面に真空蒸着法によりMgF2膜を付けるといった薄膜によるコーティング法、MgF2を溶融固化して所望の形状品に仕上げる方法や、MgF2粉末に適当な焼結助剤を添加した粉末を放電プラズマ焼結、ホットプレス焼結やカプセルHIP焼結法により焼結体を作製する方法が用いられている。」(67頁左欄1~11行)
(甲9イ)
「3.結果と考察
3.1 常圧焼結によるMgF2の緻密化
・・・
3.2 MgF2の緻密化に及ぼすHIP処理の効果
・・・
次に、HIP処理体の緻密化に及ぼす常圧焼結温度の影響を調べた。LiFを0.2mass%以上添加した常圧焼結体を、823K、180MPa、アルゴン雰囲気中、2時間の条件でカプセルフリーHIP処理した場合について、常圧焼結温度とHIP処理体の嵩密度との関係をFig.5に示す。常圧焼結温度が798~923Kの焼結体について、HIP処理することで嵩密度が3.17~3.18g/cm3とほぼ理論密度まで緻密化した。常圧焼結温度が923~1023Kと高くなると、HIP処理体の密度は低下する傾向を示した。常圧焼結温度が923K以上の焼結体については、HIP処理温度を873Kにしてもこの傾向は変わらなかった。したがって、HIP処理により理論密度のMgF2焼結体を得るためには、常圧焼結体の嵩密度は、相対密度で97%以上必要であることが明らかになった。
3.3 MgF2機械的性質等
得られたMgF2焼結体のうち、873Kで常圧焼結した後にHIP処理したものについて、4点曲げ強度、ビッカース硬度、破壊靭性値、ヤング率、熱膨張率を測定した結果をTable1に示す。直径80mm、厚さ1mmの焼結体は、高い透光性を示した(Fig.6)。」
(甲9ウ)
Table1には、ビッカース硬度が3.19GPa、4点曲げ強度が98MPaであることが記載されている。
してみれば、甲9には、以下の発明が記載されていると認められる。
「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材として利用されるMgF2焼結体あって、
LiFを0.2mass%以上添加し873Kで常圧焼結した後にHIP処理し、
HIP処理することで嵩密度が3.17~3.18g/cm3とほぼ理論密度まで緻密化した、ビッカース硬度が3.19GPa、4点曲げ強度が98MPaであるMgF2焼結体。」(以下「甲9発明」という。)
第7 取消理由についての判断
1 本件訂正発明1
(1)甲1を主引用例とする場合について
ア 対比
(ア)甲1発明の「フッ化マグネシウム焼結体」は、 本件訂正発明1の「MgF2焼結体からな」る「フッ化物焼結体」に相当する。
(イ)甲1発明の「中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)として用いる」ことは、 本件訂正発明1の「中性子線減速材用」に相当する。
してみれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「MgF2焼結体からなり、中性子線減速材用フッ化物焼結体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件訂正発明1は、「緻密な多結晶構造」のMgF2焼結体であるのに対し、甲1発明のフッ化マグネシウム焼結体は、そのように特定されていない点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、「嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下」であるフッ化物焼結体であるのに対し、甲1発明のフッ化マグネシウム焼結体は、「計算密度が3.053g/cm3⇒約97%」である点。
(相違点3)
本件訂正発明1は、「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものであるのに対し、甲1発明の曲げ強度について不明である点。
イ 判断
まず、相違点2について検討する。
甲1発明の「計算密度が3.053g/cm3⇒約97%」について、摘記(甲1ウ)に「【計算密度】3.053g/cm^3⇒約97%」との記載がある一方で、「【実寸値】厚さ:(任意4ヵ所)31.28,31.59,31.36,31.12(平均31.34mm)直径:348mm 質量:約10kg」との記載があり、これらの寸法から体積を求め嵩密度を計算すると約3.355g/cm3となり、MgF2の真密度である3.15g/cm3を超えており、さらに、「【計算密度】3.053g/cm^3⇒約97%」とも異なる。
してみれば、「【計算密度】3.053g/cm^3⇒約97%」はどのように計算された値であるのか不明であり、これが、本件訂正発明1の嵩密度に相当するとはいえない。
よって、相違点2は、実質的な相違点である。
ウ 小括
したがって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。
(2)甲2を主引用例とする場合について
ア 対比
(ア)甲2発明の「フッ化マグネシウムの焼結体」は、 本件訂正発明1の「MgF2焼結体からな」る「フッ化物焼結体」に相当する。
(イ)甲2発明の「BNCT用熱外中性子源の減速材用」は、 本件訂正発明1の「中性子線減速材用」に相当する。
してみれば、本件訂正発明1と甲2発明とは、
(一致点)
「MgF2焼結体からなり、中性子線減速材用フッ化物焼結体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件訂正発明1は、「緻密な多結晶構造」のMgF2焼結体であるのに対し、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は、そのように特定されていない点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、「嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下」であるフッ化物焼結体であるのに対し、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は、「密度が2.96又は3.059g/cm3」である点。
(相違点3)
本件訂正発明1が「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものであるのに対し、甲2発明の曲げ強度について不明である点。
イ 判断
まず、相違点3について検討する。
甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は「BNCT用熱外中性子源の減速材用」であり、BNCT用熱外中性子源の減速材として用いる焼結体の大きさは摘記(甲2カ)に「直径:155mm(設計の半分のサイズ)/厚さ:21.5mm」と記載されており、設計の半分のサイズとしてもその直径は155mm(設計とおりなら310mm)にも及ぶ大形部材といえる。そして、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体は、摘記(甲2イ)に「フッ化マグネシウムの焼結 SPS(Spark Plasma Sintering)放電プラズマ焼結」と記載されているように、SPS法で製造されたものである。
ところで、例えば、特許権者が提出した乙第7号証である鴇田正雄「特集 焼成 放電プラズマ焼結(SPS)法によるセラミックス焼結の現状と将来性」セラミックス第49巻第2号、平成26年2月1日発行の95頁右欄16~25行に「3.7 大形セラミックス材料の均質SPS焼結技術 SPS法では急速加熱・迅速焼結を特徴とするため『大形化・均質焼結』は加工技術・ノウハウ開発の代表的課題である。φ15~50mm以下程度の小片試料作製では比較的容易に均熱化が得られるためこの種の問題は顕在化しない。しかしながらφ100~350mmの大形材料ではバラツキが生じる。材料の熱伝導率、粒子の再配列、均等プレス加圧力負荷、接触面積周長などに起因し偏荷重と偏熱現象が発生しやすく迅速・均質焼結に困難さが伴う。」と記載されているように、大形部材をSPS法で均質に焼結することは困難であるとされている。なお、上記刊行物は本件特許に係る出願の優先日の後に頒布されたものであるから、本件特許に係る出願の優先日前にもそのような状況下にあったことは明らかである。
してみると、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体の大きさは、上記のとおり大形部材といえることから、それをSPS法で製造した焼結体が均質なものとはいえない。すなわち、結晶粒径等の微細組織や表面性状等が均一とはいえず、焼結体の曲げ強度が、嵩密度より結晶粒径等の微細組織や表面性状等に影響を受けるものであることを考慮すると、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体が、本件訂正発明1のフッ化物焼結体と同等に「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものとはいえない。
よって、相違点3は、実質的な相違点である。そして、上記SPS法による焼結の課題に鑑みるに、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体の曲げ強度を10MPa以上とすることが当業者において容易になし得たことともいえない。
ウ 小括
したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明である公然知られた発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第1号に規定する発明に該当せず、さらに、その公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもない。
(3)甲3を主引用例とする場合
ア 対比
(ア)甲3発明の「MgF2」は、 本件訂正発明1の「MgF2からな」る「フッ化物」に相当する。
(イ)甲3発明の「中性子をBNCTに最適な特性に導くための減速材(モデレータ)として用いる」ことは、 本件訂正発明1の「中性子線減速材用」に相当する。
してみれば、本件訂正発明1と甲3発明とは、
(一致点)
「MgF2からなり、中性子線減速材用フッ化物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件訂正発明1は、「緻密な多結晶構造の」MgF2「焼結体」からなるフッ化物「焼結体」であるのに対し、甲3発明は焼結体であるか不明な点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、「嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下」であるのに対し、甲3発明は、「少なくとも2.54g/cm3の密度」である点。
(相違点3)
本件訂正発明1が「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものであるのに対し、甲3発明の曲げ強度について不明である点。
イ 判断
まず、相違点2について検討する。
甲3には、2.54g/cm3を超えるMgF2として、3.1g/cm3密度を有するものが記載されているが、これは、摘記(甲3イ)に「MgF2 crystal」(MgF2結晶)と記載されていることから、単結晶と認められる。
してみると、甲3発明の2.54g/cm3という密度が、 MgF2の真密度である3.15g/cm3より大幅に小さいことから、単結晶ではなく焼結体であるとしても、甲3には、「嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下」の焼結体について記載も示唆もない。
ウ 小括
したがって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて、あるいは、甲3発明及び甲1発明、さらには上記第6の「甲号証の記載事項等」で摘記した他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
2 本件訂正発明2
本件訂正発明2は、上記第3で記載したように、本件訂正発明1を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有すること」でさらに限定した発明であるから、本件訂正発明2についても、甲1に記載された発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当せず、甲2発明である公然知られた発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第1号に規定する発明に該当せず、さらに、その公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないことから特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもなく、甲3発明に基づいて、あるいは、甲3発明及び甲1発明、さらには上記第6の「甲号証の記載事項等」で摘記した他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
3 取消理由についてのまとめ
以上のことより、取消理由によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった申立理由としては、上記第4の「特許異議申立理由の概要」で述べた申立理由2及び申立理由3があるので、以下これらについて検討する。
1 申立理由2について
(1)本件訂正発明1
ア 甲5を主引用例とする場合について
本件訂正発明1と甲5発明(第6の5「甲5について」参照。)とを対比すると、少なくとも、本件訂正発明1が「中性子線減速材用」フッ化物焼結体であるのに対し、甲5発明は「赤外線機器の窓材や赤外線フィルターとして用いられる」MgF2焼結体である点で相違する。
当該相違点について検討するに、「赤外線機器の窓材や赤外線フィルター」と「中性子線減速材」とでは用途として全く異なるものであり、「赤外線機器の窓材や赤外線フィルター」を構成する材料を「中性子線減速材」を構成する材料に転用することは甲1~9に記載されておらず、その転用が本件特許に係る出願の優先日前に周知であるともいえない。
してみれば、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
イ 甲9を主引用例とする場合について
本件訂正発明1と甲9発明(第6の9「甲9について」参照。)とを対比すると、少なくとも、本件訂正発明1が「中性子線減速材用」フッ化物焼結体であるのに対し、甲9発明は「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材として利用される」MgF2焼結体である点で相違する。
当該相違点について検討するに、「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材」と「中性子線減速材」とでは用途として全く異なるものであり、「赤外線透過窓等の光学材料又はプラズマプロセス中の構造部材」を構成する材料を「中性子線減速材」を構成する材料に転用できることは甲1~9に記載されておらず、その転用が本件特許に係る出願の優先日前に周知であるともいえない。
してみれば、本件訂正発明1は、甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
(2)本件訂正発明2
本件訂正発明2は、上記第3で記載したように、本件訂正発明1を「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有すること」でさらに限定した発明であるから、本件訂正発明2についても、甲5に記載された発明あるいは甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
(3)小括
以上のことより、申立理由2によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由3について
(1)申立人は、特許異議申立書で
「本件の請求項2には、『曲げ強度が10MPa以上、ビッカース硬度が71以上の機械強度を有する』と記載されているところ、本件の発明の詳細な説明の記載には、曲げ強度が『10MPa』よりも極めて大きい中性子線減速材用フッ化物焼結体について、何ら記載されてなく、当該中性子線減速材用フッ化物焼結体及びこれを作る方法は周知でもない。また、ビッカース硬度が『71』よりも極めて大きい中性子線減速材用フッ化物焼結体についても同様に、何ら記載されてなく、周知でもない。
したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている、とはいえない。
また、本件の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものである、とはいえない。
また、本件の請求項2には、『10MPa以上』、『71以上』と記載されており、当該数値範囲について上限が限定されていない。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確である、とはいえない。」と主張している。
(2)本件特許明細書には実施例1~11として、本件訂正発明1及び2のフッ化物焼結体の詳細な製造方法が記載されており、その実施例1~11のフッ化物焼結体について全て曲げ強度とビッカース強度を測定し、その結果を図6として以下の【表2】に記載されている。
この結果を参酌するに、曲げ強度は11~25MPa、ビッカース硬度は71~120となっている。申立人が述べる「曲げ強度が『10MPa』よりも極めて大きい」とは、どの程度の曲げ強度のことをいっているのか、「ビッカース硬度が『71』よりも極めて大きい」とは、どの程度のビッカース硬度のことをいっているのか不明であるものの、本件訂正発明1で特定される「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有すること」、本件訂正発明2で特定される「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有すること」は、特段の事情がない限り、上記実施例で示される曲げ強度、ビッカース硬度を基に解することが相当である。
してみれば、本件訂正発明1のフッ化物焼結体において「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」と特定すること、本件訂正発明2のフッ化物焼結体でさらに「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有する」と特定することが、曲げ強度及びビッカース硬度について上限値が特定されていないことをもってして不明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
さらに、上記【表2】に曲げ強度が11~25MPa、ビッカース硬度が71~120のフッ化物焼結体が記載されており、「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」こと、「ビッカース硬度が71以上の機械的強度を有する」ことについてサポートされていることから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
そして、【表2】に記載されている曲げ強度が11~25MPa、ビッカース硬度が71~120のフッ化物焼結体を製造する方法が、発明の詳細な説明の【0128】~【0143】に[実施例1]~[実施例11]の各々として具体的に詳細に記載されているのであるから、曲げ強度が11~25MPa、ビッカース硬度が71~120のフッ化物焼結体を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
(3)小括
以上、本件訂正発明1及び2について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願でもなく、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願でもなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願でもないことから、申立理由3によっては、本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
第9 本件訂正発明に対する申立人の主張
申立人は、平成29年3月16日付けの意見書で、本件訂正発明1に対して、
「本件訂正明細書の実施例等の記載を参酌するに、本件訂正特許発明1の嵩密度を満たす焼結体はいずれも曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有しているから、嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3のMgF2焼結体は、曲げ強度が10MPaの機械的強度を有すると言える。
一方、甲第2号証のMgF2焼結体は、嵩密度について本件訂正特許発明1のものと差異がない。してみると、甲第2号証のMgF2焼結体も曲げ強度が10MPaの機械的強度を有すると判断される。
・・・「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度」は、MgF2焼結体における新規な特性ではなく、緻密なMgF2焼結体の特性として一般的な特性であるから、本件訂正特許発明1と同等の嵩密度を有する甲第2号証のMgF2焼結体も、曲げ強度が10Mpa以上である蓋然性が極めて高い。
仮に、甲第2号証のMgF2焼結体の曲げ強度が10MPa未満であったとしても、曲げ強度が10MPa以上のMgF2焼結体は、ありふれた存在であるから(甲5,7,8,9号証参照)、甲第2号証のMgF2焼結体の曲げ強度を10MPa以上とすることは、当業者において格別困難なことではない。」と主張している。
しかしながら、上記第7の1の(2)「甲2を主引用例とする場合について」のイ判断で説示したように、甲2発明のフッ化マグネシウムの焼結体が、仮に本件訂正発明1の「嵩密度が2.90g/cm3以上3.07g/cm3以下」を満たすとしても、製造方法の異なる本件訂正発明1のフッ化物焼結体と同等に「曲げ強度が10MPa以上の機械的強度を有する」ものとはいえない。さらに、曲げ強度が10MPa以上のMgF2焼結体が本件特許に係る出願の優先日前に存在していたとしても、BNCT用熱外中性子源の減速材用として使用できる大きさのものを製造することが当業者において容易になし得たことともいえない。
したがって、上記申立人の主張をもってしても、本件訂正発明1及び2係る特許を取り消すことはできない。
第10 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700429