特許異議申立
2016-700398
向上した耐擦傷性を提供する反射防止コーティング用組成物、これを用いた反射防止フィルムおよびその製造方法
- 審判番号
- 2016-700398
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-527091外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年05月06日
- 審決日
- 2017年01月25日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
- 【異議申立人】尾田 久敏
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5808492号発明「向上した耐擦傷性を提供する反射防止コーティング用組成物、これを用いた反射防止フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5808492号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし16〕について訂正することを認める。
特許第5808492号の請求項1、2及び4ないし16に係る特許を維持する。
特許第5808492号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5808492号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)9月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年9月29日、韓国、2012年9月28日、韓国)を国際出願日とする特許出願として出願され、平成27年9月18日にその特許権の設定登録がされ、同年11月10日に特許公報が発行され、その後、その特許について、特許異議申立期間内である平成28年5月6日付けで特許異議申立人尾田 久敏により特許異議の申立てがされ、平成28年8月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年11月9日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人尾田 久敏から平成28年12月13日付けで意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1ないし14のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
訂正事項1:請求項1に係る「420~1000の第2分子量」を「430~1000の第2分子量」に訂正する。
訂正事項2:請求項1に係る「溶媒を含むことを特徴とする、反射防止コーティング用組成物」を「溶媒を含み、前記(メタ)アクリレート系化合物は、官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート系化合物、およびフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を含み、前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、および前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部を含むことを特徴とする、反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項3:請求項2に係る「前記中空粒子5~50重量部、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部、および前記溶媒100~500重量部を含む」を「前記中空粒子5~50重量部、および前記溶媒100~500重量部を含む」に訂正する。
訂正事項4:請求項3を削除する。
訂正事項5:請求項4に係る「請求項3に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項6:請求項5に係る「請求項3または4に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1または4に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項7:請求項6に係る「請求項3~5のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1、4および5のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項8:請求項7に係る「請求項3~6のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1および4~6のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項9:請求項8に係る「請求項1~7のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1、2および4~7のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項10:請求項9に係る「請求項1~8のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1、2および4~8のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項11: 請求項10に係る「請求項1~9のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1、2および4~9のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項12:請求項11に係る「請求項1~10のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1、2および4~10のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項13:請求項12に係る「請求項1~11のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」を「請求項1、2および4~11のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物」に訂正する。
訂正事項14:発明の詳細な説明の段落【0013】の「本発明の一実施形態によれば、(メタ)アクリレート系化合物;中空粒子;第1分子量を有する開始剤;第1分子量より大きい第2分子量を有する開始剤;および溶媒を含む、反射防止コーティング用組成物が提供される。」という記載を「本発明の一実施形態によれば、(メタ)アクリレート系化合物;中空粒子;420未満の第1分子量を有する開始剤;第1分子量より大きい430~1000の第2分子量を有する開始剤;および溶媒を含み、、前記(メタ)アクリレート系化合物は、官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート系化合物、およびフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を含み、前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、および前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部を含む反射防止コーティング用組成物が提供される。」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正事項1に関連する記載として、本件特許の明細書(以下、単に「明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0071】には「・・・このような本発明の一実施形態によれば、前記第1分子量は420未満であり、第2分子量は420~1000になるとよく;好ましくは、第1分子量が420未満であり、第2分子量が430~950になるとよく・・・」と記載されていることから、「第2分子量」の下限を430とする発明、すなわち「430~1000の第2分子量を有する開始剤」を含む発明は明細書に記載されているものと認められる。
(イ)上記訂正事項1の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において上記「第2分子量」の範囲を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正事項2に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明の段落【0045】には「特に、本発明によれば、組成物の塗布時、より円滑な相分離が誘導できながらも、十分な架橋重合が起こることができるようにするために、前記(メタ)アクリレート系化合物は、官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート化合物、およびフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を含むことができる。」と記載されており、また訂正前の請求項3にも「前記(メタ)アクリレート系化合物は、官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート系化合物、およびフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の反射防止コーティング用組成物。」と記載されている。
(イ)さらに、明細書の発明の詳細な説明の段落【0073】及び段落【0074】には、それぞれ「そして、前記第1分子量を有する開始剤は、前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、1~30重量部、好ましくは1~25重量部、より好ましくは1~20重量部で含まれるとよい。」(段落【0073】)及び「そして、前記第2分子量を有する開始剤は、前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、1~20重量部、好ましくは1~15重量部、より好ましくは2~15重量部で含まれるとよい。」(段落【0074】)と記載されており、また訂正前の請求項2にも「前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部」と記載されている。
(ウ)上記(ア)及び(イ)からてみて、「反射防止コーティング用組成物」として「溶媒を含み、前記(メタ)アクリレート系化合物は、官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート系化合物、およびフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を含み、前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、および前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部を含むことを特徴とする、反射防止コーティング用組成物」とする発明は明細書に記載されているものと認められる。
(エ)上記訂正事項2の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において上記「反射防止コーティング用組成物」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正事項3の訂正は、上記イ(イ)に示したように、訂正前の請求項2において「前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部」と特定していた事項を、訂正後の請求項1において限定したことに伴い、訂正後の請求項1の記載との整合をとるために前記事項を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)上記訂正事項3の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内においてしたもので、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正事項4の訂正は、訂正前の請求項3の記載を削除するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)上記訂正事項4の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内においてしたもので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5ないし8について
(ア)訂正事項5ないし8の訂正は、訂正前の請求項1または請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4ないし7において、訂正後の請求項2を引用する請求項から削除することで、選択肢を限定するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)上記訂正事項5ないし8の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内においてしたもので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項9ないし13について
(ア)訂正事項9ないし13の訂正は、上記エで示した訂正前の請求項3の記載を削除することに伴い、引用する請求項について整合をとるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)上記訂正事項9ないし13の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内においてしたものといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 一群の請求項について
上記アないしカで示した訂正事項1ないし13の訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
ク 訂正事項14について
(ア)訂正事項14の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】の記載を、上記ア及びイで示した訂正事項1及び訂正事項2の訂正と整合をとるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)上記訂正事項14の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内においてしたものといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし16〕について訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし16に係る発明(以下「本件発明1ないし16」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
請求項1「(メタ)アクリレート系化合物;
中空粒子;
420未満の第1分子量を有する開始剤;
前記第1分子量より大きい430~1000の第2分子量を有する開始剤;および
溶媒を含み、
前記(メタ)アクリレート系化合物は、官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート系化合物、およびフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を含み、
前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、および前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部を含むことを特徴とする、反射防止コーティング用組成物。」
請求項2「前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、
前記中空粒子5~50重量部、および
前記溶媒100~500重量部を含むことを特徴とする、請求項1に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項3「(削除)」
請求項4「前記(メタ)アクリレート系化合物は、前記フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物、および前記官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート系化合物を1:10~300の重量比で含むことを特徴とする、請求項1に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項5「前記フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物と、前記多官能性(メタ)アクリレート系化合物とは、表面エネルギーの差が5mN/m以上であることを特徴とする、請求項1または4に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項6「前記多官能性(メタ)アクリレート系化合物は、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチレンプロパントリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、9,9-ビス(4-(2-アクリロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、およびビス(4-メタクリロキシチオフェニル)スルフィドからなる群より選択される1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項1、4および5のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項7「前記フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物は、下記の化学式1~5からなる群より選択される1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項1および4~6のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物。
【化6】
前記化学式1において、R1は、水素基または炭素数1~6のアルキル基であり、aは、0~7の整数であり、bは、1~3の整数である;
【化7】
前記化学式2において、cは、1~10の整数である;
【化8】
前記化学式3において、dは、1~11の整数である;
【化9】
前記化学式4において、eは、1~5の整数である;
【化10】
前記化学式5において、fは、4~10の整数である。」
請求項8「前記中空粒子は、数平均粒径が1~200nmであることを特徴とする、請求項1、2および4~7のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項9「前記中空粒子は、中空シリカ粒子であることを特徴とする、請求項1、2および4~8のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項10「前記溶媒は、誘電定数(25℃)が20~30であり、双極子モーメントが1.7~2.8であることを特徴とする、請求項1、2および4~9のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項11「前記溶媒は、メチルエチルケトン、エチルアセテート、アセチルアセトン、イソブチルケトン、メタノール、エタノール、n-ブタノール、i-ブタノール、およびt-ブタノールからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1、2および4~10のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項12「数平均粒径1~50nmの無機微粒子をさらに含むことを特徴とする、請求項1、2および4~11のいずれか一項に記載の反射防止コーティング用組成物。」
請求項13「請求項1に記載の反射防止コーティング用組成物を準備する工程;
前記組成物を基材フィルムの少なくとも一面に塗布する工程;
前記塗布された組成物を乾燥する工程;および
前記乾燥した組成物層を硬化する工程を含むことを特徴とする、反射防止フィルムの製造方法。」
請求項14「前記基材フィルム上に塗布された組成物は、前記基材フィルムから順次に、前記第1分子量を有する開始剤を含む第1層と;前記中空粒子および前記第2分子量を有する開始剤を含む第2層とに自発的に相分離されることを特徴とする、請求項13に記載の反射防止フィルムの製造方法。」
請求項15「前記組成物の乾燥は、5~150℃の温度で0.1~60分間行われることを特徴とする、請求項13または14に記載の反射防止フィルムの製造方法。」
請求項16「前記組成物の硬化は、紫外線照射量0.1~2J/cm2で1~600秒間行われることを特徴とする、請求項13~15のいずれか一項に記載の反射防止フィルムの製造方法。」
(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし16に係る特許に対して平成28年8月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1ないし16に係る特許は、発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、取り消されるべきものである。
イ 請求項1及び請求項1を引用する請求項3、6、8~13、15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、請求項1及び請求項1を引用する請求項2、8~11、13、15に係る発明は、甲第4号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号のに該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1及び請求項1を引用する請求項2、3、6、8~13、15に係る特許は、取り消されるべきものである。
ウ 請求項1及び請求項1を引用する請求項2、3、6、8~13、15、16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、請求項1及び請求項1を引用する請求項2、8~13、15、16に係る発明は、甲第1号証及び甲第4号証に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び請求項1の記載を引用する請求項1を引用する請求項2、3、6、8~13、15、16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(3)甲号証の記載
ア 甲第1号証
甲第1号証(特開2007-262124号公報)の段落【0001】、【0011】~【0015】、【0056】~【0066】、【0099】~【0110】、【0113】~【0115】、【0126】~【0150】の記載によれば、甲第1号証の実施例1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「紫外線を遮蔽した容器において、アクリロイル基含有含フッ素重合体60.4g、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート(SR399E、サートマー製)6.7g、アクリル変性シリカ粒子28.3g、KIP150(サートマー製)4.6g、MIBK115gを加え攪拌して得られた(段落【0139】)、反射防止膜に用いる硬化性樹脂組成物。(段落【0001】)」
イ 甲第4号証
甲第4号証(特開2011-133843号公報)の段落【0001】、【0007】、【0030】~【0047】、【0056】~【0074】、【0084】、【0085】の記載によれば、甲第4号証の実施例1には以下の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「紫外線を遮蔽した容器中において、中空シリカ粒子(商品名「JX-1009SIV」、20質量%メチルイソブチルケトンゾル、日揮触媒化成工業株式会社製)5質量部(固形分として1質量部)、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(商品名「アロニックスM-520」、東亜合成株式会社製)96質量部、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリホリノプロパン-1-オン(商品名「イルガキュア(登録商標)907」、チバジャパン株式会社製)3質量部、サイラプレーンFM0725(チッソ株式会社製)0.1質量部、さらにメチルイソブチルケトンを適量加えて室温で2時間撹拌することで溶液を得て、得られた溶液を175℃のホットプレート上で30分間乾燥させて得られた(段落【0084】)、反射防止用積層体に用いる硬化性組成物。(段落【0001】)」
(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)特許法第36条第6項第1号について
a 明細書の発明の詳細な説明には、分子量の異なる開始剤を用いることで、組成物の相分離時に、相対的に分子量の大きい開始剤がコーティング層の下部に浸透せず、上部に留まり、光硬化過程でコーティング層上部の十分な効果を誘導し、耐擦傷性に優れた反射防止フィルムを提供することが記載されているところ(段落【0041】)、本件発明1の「反射防止コーティング用組成物」は、「420未満の第1分子量を有する開始剤;前記第1分子量より大きい430~1000の第2分子量を有する開始剤」を含有しており、2つの開始剤の間で分子量が少なくとも10以上異なっているものである。そして、少なくとも10以上異なる分子量を開始剤として用いることは、発明の詳細な説明の段落【0071】に「好ましくは」として記載されているので、上記の分子量の異なる開始剤を含有する本件発明1に係る反射防止コーティング用組成物は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
b 上記aより、本件発明1及び本件発明1の記載を引用する本件発明2ないし16は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(イ)特許法第29条第1項第3号について
a 本件発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1は、硬化性樹脂組成物に開始剤として分子量が657である「KIP150(サートマー製)」(分子量について、必要であれば、甲第2号証(国際公開2011/001713号、特に段落[0049]を参照。)を「4.6g」を用いてはいるが、「420未満の第1分子量を有する開始剤」を含有するとともに、「(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部」含有する構成を有していないので、本件発明1は引用発明1と同一ではない。
b 本件発明と引用発明4とを対比すると、引用発明4は、硬化性組成物中の(メタ)アクリレート系化合物(引用発明4の「コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート」。)が、「フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物」を含んでおらず、甲第4号証には(メタ)アクリレート系化合物に「フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物」を含有させることについて記載されていないので、本件発明1は引用発明4と同一ではない。
c 上記a及びbに示したように、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明または甲第4号証に記載された発明と同一ではないので、本件発明1の記載を引用する本件発明2、6、8~13、15も、甲第1号証または甲第4号証と同一ではない。
(ウ)特許法第29条第2項について
a 本件発明1と引用発明1とを対比すると、上記(イ)aで示したように、引用発明1は硬化性樹脂組成物に、「420未満の第1分子量を有する開始剤」を含有するとともに、「(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部」含有する構成を有していない。
b 甲第1号証には、硬化性樹脂組成物に「(F)添加剤」を含有させること、及び当該「(F)添加剤」の例の一つとして、引用発明1の開始剤(KIP150)以外の重合開始剤が記載されている(段落【0106】)。さらに、甲第1号証の段落【0109】、【0110】、【0112】には、前記引用発明1の開始剤(KIP150)以外の重合開始剤の具体例として、分子量が420未満である開始剤を含む多くの重合開始剤が列記されている。
c しかしながら、甲第1号証には、引用発明1の硬化性樹脂組成物に、引用発明1の開始剤(KIP150)と併用する「(F)添加剤」として、前記開始剤(KIP150)以外の重合開始剤を選択し、かつ、列記された多くの重合開始剤の中から、分子量420未満の開始剤を選択することについて、記載ないし示唆がなく、前記選択を行うことについての動機があるとはいえない。そして、引用発明1の硬化性樹脂組成物に、開始剤(KIP150)と併用する「(F)添加剤」として、引用発明1の開始剤(KIP150)以外の重合開始剤を選択し、かつ、列記された多くの重合開始剤の中から、分子量420未満の開始剤を選択することが、本件特許の出願時において技術常識であるとも言えない。
d さらに、甲第1号証には、引用発明1の開始剤(KIP150)と併用する「(F)添加剤」として、実施例3で「スリップ剤」である「両末端メタクリル変成ポリジメチルシロキサン」を1.9重量%添加することが記載されている(段落【0149】【表1】、【0150】)ものの、引用発明1の開始剤(KIP150)以外の重合開始剤1~30重量部を含み、かつ、引用発明1の開始剤(KIP150)の分量を1~20重量部の範囲内に維持することについての記載ないし示唆はない。
e 上記aないしdから、引用発明1において、開始剤(KIP150)と併用する「(F)添加剤」として、引用発明1の開始剤(KIP150)以外の重合開始剤を選択し、かつ、列記された多くの重合開始剤の中から、分子量420未満の開始剤を選択し、さらに当該重合開始剤を(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、1~30重量部含有させることは、当業者が容易に想到し得たことではないので、本件発明1は、引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
f 本件発明1と引用発明4とを対比すると、上記(イ)bで示したように、引用発明4は、硬化性組成物中の(メタ)アクリレート系化合物(コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)が、「フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物」を含んでいない。
g さらに、甲第4号証には、引用発明4の(メタ)アクリレート系化合物に、「フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物」を含有させることについての記載ないし示唆がなく、「フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物」を含有させることの動機があるとは言えない。
h 上記f及びgから、引用発明4において、硬化性組成物中の(メタ)アクリレート系化合物(コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)に、「フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物」を含ませることは、当業者が容易に想到し得たことではないので、本件発明1は、引用発明4から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
i 上記aないしhに示したように、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明または甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、本件発明1の記載を引用する本件発明2、6、8~13、15、16も、甲第1号証に記載された発明または甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)特許異議申立人の意見について
a 特許異議申立人尾田 久敏は、訂正事項1で本件発明1に追加された「430~1000の第2分子量」という事項について、本件発明1において発明の効果を奏することができるのか明らかではないと主張しているが、明細書の段落【0039】~【0041】には、分子量が異なる2つの開始剤を用いることで耐擦傷性に優れた反射防止フィルムを形成できることが記載され、さらに、段落【0067】~【0075】において、420未満の分子量を有する開始剤と、430以上の分子量を有する開始剤とを併用することが好ましく、これら開始剤をそれぞれ所定の含有量で用いることにより、耐擦傷性に優れた反射防止フィルムを形成できることが記載されているのであるから、前記主張は認めることができず、本件発明1及び本件発明1の記載を引用する本件発明2ないし16は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
b 特許異議申立人尾田 久敏は、訂正事項2で本件発明1に追加された「前記(メタ)アクリレート系化合物は、官能基2~10の多官能性(メタ)アクリレート系化合物、およびフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を含み、前記(メタ)アクリレート系化合物100重量部に対して、前記第1分子量を有する開始剤1~30重量部、前記第2分子量を有する開始剤1~20重量部を含むことを特徴とする、反射防止コーティング用組成物」という事項について、当業者であれば、甲第1号証または甲第4号証に記載された発明から容易に想到し得ることであると主張しているが、上記(ウ)で示したとおり、前記事項は、甲第1号証または甲第4号証に記載された発明から、当業者が容易に想到し得たことではないので、前記主張は認めることできず、本件発明1及び本件発明1の記載を引用する本件発明2、6、8~13、15、16は、甲第1号証に記載された発明または甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)特許異議申立人尾田 久敏は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、請求項2及び16に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であると主張しているが、甲第1号証には、「(F)添加剤」として、引用発明の開始剤(KIP150)以外の重合開始剤を選択すること、及びその際の含有量についての記載はなく、また、甲第1号証には、硬化性樹脂組成物の紫外線照射による硬化を行う際の、照射時間について記載されていないので、かかる主張は理由がない。
(イ)特許異議申立人尾田 久敏は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、請求項16に記載された発明は、甲第4号証に記載された発明と同一であると主張しているが、甲第4号証には、硬化性組成物の紫外線照射による硬化を行う際の、照射時間について記載されていないので、かかる主張は理由がない。
(ウ)特許異議申立人尾田 久敏は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、請求項4に記載された発明は、甲第4号証に記載された発明に甲第1号証に記載された事項を適用して、当業者が容易に発明し得たものであると主張しているが、甲第4号証には、そもそも(メタ)アクリレート系化合物に「フッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物」を含ませることについて、記載ないし示唆はなく、甲第4号証に記載された発明に、甲第1号証に記載されたフッ素含有置換基を有する(メタ)アクリレート系化合物を適用することについての動機がないので、かかる主張は理由がない。
4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1及び本件発明1の記載を引用する本件発明2、4ないし16に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件発明1、2及び4ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件発明3は、削除されている。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700398