特許拒絶査定不服審判
2016-015939
薄膜太陽電池用ガラス板
- 審判番号
- 2016-015939
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-232528外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年10月26日
- 審決日
- 2017年08月22日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本電気硝子株式会社
- 分類
- P18 .121-Z (C03C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-232528「薄膜太陽電池用ガラス板」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月12日出願公開、特開2014-84237〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月22日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 5月20日付け:拒絶理由の通知
同年 5月31日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月29日付け:拒絶査定
同年10月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 平成28年10月26日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
1.補正の却下の決定の結論
平成28年10月26日にされた手続補正を却下する。
2.理由
(1)請求項1に対する補正の内容
本件補正により、請求項1の記載は、以下のとおり補正されるものである。(下線部は請求人が示した補正箇所である。)
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO2 45~70%、Al2O3 8.0超~20%、Li2O+Na2O+K2O 5~20%、Na2O 4.3超~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~40%、ZrO2 0.1~10%を含有し、質量比(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.2~1.0であり、且つ歪点が600℃以上であることを特徴とする薄膜太陽電池用ガラス板。
これに対し、本件補正前の請求項1の記載は、平成28年5月31日付けの手続補正書によって補正された請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO2 40~70%、Al2O3 8.0超~20%、Li2O+Na2O+K2O 5~20%、Na2O 4.3超~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~40%、ZrO2 0.1~10%を含有し、質量比(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.2~1.0であり、且つ歪点が600℃以上であることを特徴とする薄膜太陽電池用ガラス板。
(2)補正の目的、新規事項の追加の有無
上記補正は、ガラス組成におけるSiO2の含有量を、質量%で「40~70%」から「45~70%」とし、数値範囲を限定するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)との産業上の利用分野、及び解決しようとする課題は同一であると認められる。
よって、上記補正は、特許法第17条の2第5項2号に掲げる、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正されたSiO2の下限値は、本願の願書に最初に添付された明細書の【0021】に記載されていた事項であるから、上記補正は、特許法第17条の2第3項に規定する、いわゆる新規事項の追加にあたるものではない。
(3)独立特許要件
そこで、本件補正発明が、独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて検討したが、本件補正発明は、原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願日(平成24年10月22日)前に頒布された刊行物である、特開2008-280189号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができない。
以下、その理由について詳述する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記(1)に記載されたとおりのものである。
イ 引用例の記載事項
引用例には、以下の記載がある。
a 「【0001】
本発明は、太陽電池用ガラス基板に関し、特に、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、薄膜化合物太陽電池等に好適な太陽電池用ガラス基板に関する。なお、本発明でいう「太陽電池用ガラス基板」には、太陽電池用カバーガラスと太陽電池用基材の双方が含まれる。」
b 「【0004】
太陽電池用ガラス基板には、次の特性が要求される。
(1)ガラス基板上に形成される薄膜化合物との熱膨張差による膜の剥離などを防ぐために、周辺部材と適合する熱膨張係数を有すること。
(2)薄膜化合物形成時の熱処理工程では、高温で処理することにより高品位の膜が形成できるため、このような熱処理に耐える高い耐熱性を有すること。より具体的には耐熱性の指標となるガラスの歪点が高いこと。
(3)光電変換効率に悪影響を及ぼすような内部欠陥が存在しないこと、特に泡欠陥が存在しないこと。
(4)太陽電池全体の重量を軽減するために、低密度であること。」
c 「【0033】
Na2Oは、高温粘性を低下させるとともに、熱膨張係数を調整する成分であり、その含有量は0~10%、好ましくは0~8%、より好ましくは0~6%、更に好ましくは0~5%である。Na2Oの含有量が10%より多くなると、歪点が低下したり、熱膨張係数が高くなりすぎる。また、アルカリ成分が薄膜化合物中に拡散してガラス基板に反りを発生させたり、膜の品位を悪化させる場合がある。一方、高温粘性を低下させる効果および熱膨張係数を調整する効果を的確に享受するために、Na2Oを0.1%以上(好ましくは0.5%以上、1%以上)含有させることが望ましい。
【0034】
K2Oは、高温粘性を低下させ熱膨張係数を調整する成分であり、その含有量は0~10%、好ましくは0~8%、より好ましくは0~6%である。K2Oの含有量が10%より多くなると、歪点が低下したり、熱膨張係数が高くなりすぎる。また、アルカリ成分が薄膜化合物中に拡散して基板の反りを発生させたり、膜の品位を悪化させる場合がある。一方、高温粘性を低下させる効果および熱膨張係数を調整する効果を的確に享受するために、K2Oを0.1%以上(好ましくは0.1%以上、0.5%以上、2%以上、3%以上)含有させることが望ましい。」
d 「【0037】
さらに、Al2O3/BaOのモル分率を0.1~2の範囲に設定して、耐失透性を抑制しつつ歪点を高くする効果は、モル分率でNa2O/K2Oの値を0~2(好ましくは、0.3~1.5、0.5~1.3、0.7~1.1、0.8~0.9)の範囲に調整することで、より的確に享受することができる。Na2O/K2Oのモル分率が小さくなると、Al2O3/BaOのモル分率を調整することによる上記効果が若干得られにくくなるため、Na2O/K2Oのモル分率を0.3以上にすることがより好ましい。また、Na2O/K2Oのモル分率が2を超えると、歪点が低下したり、ガラス組成のバランスを欠いて、失透が生じやすくなる。
【0038】
ガラスの歪点を高く保ち、熱膨張係数を高くしすぎない観点から、質量分率で(Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値を0~0.5に設定することが好ましく、0.1~0.4に設定することがより好ましく、0.2~0.4に設定することが更に好ましい。質量分率で(Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.5より大きいと、上記効果を的確に享受できないおそれがある。」
e 「【0054】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラスの耐熱性の指標となる歪点が500℃以上(より好ましくは550℃以上、更に好ましくは600℃以上、特に好ましくは630℃以上)であることが好ましい。歪点が高い程、ガラスの耐熱性が高くなり、薄膜化合物太陽電池等の成膜工程(例えば、ガラス基板上に透明電極を形成するための熱CVD工程)でガラス基板に熱変形や反りや熱収縮等が生じ難くなる。また、高温での成膜が可能になるため、膜品位が向上し、太陽電池の変換効率向上に寄与することができる。」
f 「【0074】
【表2】
」
ウ 引用発明の認定
引用例の実施例8(摘示箇所f)には、「ガラス組成(wt%)」として、SiO2 55.7%、Al2O3 9.2%、Na2O 4.3%、K2O 4.1%、MgO 0%、CaO 0%、SrO 11.1%、BaO 10.4%、ZrO2 4.5%を含有し、歪点が609℃であることを特徴とするガラスが記載されている。
そして、摘示箇所a、b、eより、上記ガラス組成を有するガラス基板は、薄膜化合物太陽電池用ガラス基板に適するものである。
したがって、これを本件補正発明の記載ぶりに即して整理すると、引用例には、
「ガラス組成として、wt%で、SiO2 55.7%、Al2O3 9.2%、Na2O 4.3%、K2O 4.1%、MgO 0%、CaO 0%、SrO 11.1%、BaO 10.4%、ZrO2 4.5%を含有し、歪点が609℃であることを特徴とする薄膜化合物太陽電池用ガラス基板。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
エ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明のガラス組成は「wt%」で表され、本件補正発明のガラス組成は「質量%」で表されているが、これらが実質的に同じであることは当業者の技術常識である。
(イ)摘示箇所fの表にはLi2Oについて記載がなく、また、表の実施例8に記載された「ガラス組成(wt%)」の合計が100wt%になることからみて、引用発明のガラス組成は、実質的にLi2Oを含有しないものといえるから、Li2O+Na2O+K2Oは「8.4%(=4.3+4.1)」と求められ、MgO+CaO+SrO+BaOは「21.5%(=11.1+10.4)」と求められる。
そして、上記の値から(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値を計算すると、0.39(=8.4/21.5)と求められる。
したがって、引用発明の、「ガラス組成として、wt%で、SiO2 55.7%、Al2O3 9.2%、Na2O 4.3%、K2O 4.1%、MgO 0%、CaO 0%、SrO 11.1%、BaO 10.4%、ZrO2 4.5%を含有」することは、本件補正発明の、「ガラス組成として、質量%で、SiO2 45~70%、Al2O3 8.0超~20%、Li2O+Na2O+K2O 5~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~40%、ZrO2 0.1~10%を含有し、質量比(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.2~1.0であ」ることに相当する。
そして、引用発明の「歪点が609℃であること」、「薄膜化合物太陽電池用ガラス基板」は、本件補正発明の「歪点が600℃以上であること」、「薄膜太陽電池用ガラス板」に相当する。
(ウ)したがって、本件補正発明と引用発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。
・一致点
「ガラス組成として、質量%で、SiO2 45~70%、Al2O3 8.0超~20%、Li2O+Na2O+K2O 5~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~40%、ZrO2 0.1~10%を含有し、質量比(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.2~1.0であり、且つ歪点が600℃以上であることを特徴とする薄膜太陽電池用ガラス板。」
・相違点
本件補正発明は、質量%で「Na2O 4.3超~20%」であるのに対し、引用発明はwt%で「Na2O 4.3%」である点。
オ 判断
以下、上記相違点について検討する。
(ア)引用例の摘示箇所c、dから、引用発明におけるNa2OとK2Oは、いずれも高温粘性を低下させるとともに、熱膨張係数を調整(高く)する成分である一方、歪点を低下させる成分であるという点で、略同等の作用効果を奏するものであるといえる。
してみれば、引用発明において、摘示箇所cに記載されたNa2O、K2Oの含有量、そして摘示箇所dに記載されたNa2O/K2Oのモル分率を満足する範囲で、Na2Oの含有量を僅かに増やし、一方で略同等の作用効果を奏するK2Oの含有量を僅かに減らすことにより、Na2Oの含有量を4.3質量%超とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
そして、これにより質量比(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が変化するものでもない。
(イ)本件補正発明の奏する作用効果についても検討する。
まず、本件補正発明は「薄膜太陽電池用ガラス板」であって、形成される薄膜の種類を限定するものではない。
したがって、本件補正発明の奏する作用効果は、明細書【0007】、【0015】、【0049】に記載された、歪点が高いことにより、高温で光電変換膜を成膜することが可能になり、光電変換膜の結晶品位が改善されて、薄膜太陽電池の光電変換効率が向上するとともに、熱処理工程でガラス板に熱変形や熱収縮が生じ難くなること、にとどまる。
そして、引用例の摘示箇所eには、引用発明の作用効果として、太陽電池用ガラス基板の歪点が高いほど、高温での成膜が可能になるため、膜品位が向上し、太陽電池の変換効率向上に寄与できること、及び、薄膜化合物太陽電池の成膜工程で、ガラス基板に熱変形や反りや熱収縮などが生じ難くなることが記載されている。
してみれば、上記本件補正発明が奏する作用効果は、引用例の記載から、引用発明が奏する作用効果として当業者が予測可能な範囲のものである。
(ウ)なお、請求人は審判請求書の4.(1)において、本願発明は、Na2Oの含有量を4.3質量%超に規制することにより、カルコパイライト結晶等の成長を促進することができるとも主張しているので、かかる主張について以下に検討する。
まず、請求人は、カルコパイライト結晶「等」の成長を促進することができると主張しているが、本願明細書に記載されているのは、CIS系薄膜太陽電池におけるカルコパイライト結晶の成長が促進されることのみであって、その他の薄膜太陽電池については何ら記載も示唆もなく、また、その他の薄膜太陽電池でも同等の作用効果を奏することが、当業者の技術常識から明らかなものであるともいえない。
したがって、上記請求人の主張する効果が、カルコパイライト結晶以外も包含する、本件補正発明の薄膜太陽電池一般における効果であるとはいえない。
また、カルコパイライト結晶の成長の促進に限定したとしても、CIS系薄膜太陽電池において、アルカリ金属成分の拡散、添加によりカルコパイライト結晶の成長が促進され、発電効率を向上させることは、例えば下記文献A、Bにも記載のとおり、当業者の技術常識である。
そして、本願明細書の記載を参照しても、本願明細書【0024】~【0027】には、Li2O、Na2O、及びK2Oが、いずれもカルコパイライト結晶の成長を促進する成分として同様に記載されており、また、本願明細書の実施例をみても、ガラス組成とカルコパイライト結晶の結晶成長との関係については、何ら具体的に示されていない。
してみれば、本願明細書に記載された発明におけるカルコパイライト結晶の成長を促進する効果は、アルカリ金属成分による効果であると理解されるにとどまり、請求人が主張するように、特にNa2Oの含有量を4.3質量%超とすることにより初めて得られる臨界的作用効果であるとはいえない。
文献A:国際公開第2012/102346号(【0036】~【0038】)
文献B:特開2001-44464号公報(【0002】)
カ 本件補正発明の独立特許要件についてのむすび
したがって、本件補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができないものである。
3.本件補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 原査定の理由について
1.原査定の理由
本件補正前の請求項1に対する原査定の理由のひとつは、引用例(特開2008-280189号公報)に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
2.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~5に係る発明は、平成28年5月31日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO2 40~70%、Al2O3 8.0超~20%、Li2O+Na2O+K2O 5~20%、Na2O 4.3超~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~40%、ZrO2 0.1~10%を含有し、質量比(Li2O+Na2O+K2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.2~1.0であり、且つ歪点が600℃以上であることを特徴とする薄膜太陽電池用ガラス板。
3.引用例の記載事項、引用発明の認定
引用例の記載事項は、前記「第2 2.(3)イ」に記載したとおりであり、該引用例に記載された発明、すなわち引用発明は、同「第2 2.(3)ウ」に記載したとおりである。
4.対比、判断
本件補正発明は、前記「第2 2.(2)」で検討したとおり、本願発明1から、ガラス組成におけるSiO2の含有量を更に限定したものであるから、本願発明1は、本件補正発明を包含するものである。
そして、前記「第2 2.(3)エ、オ」で検討したとおり、本件補正発明は、引用例に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明1も、引用例に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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