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特許拒絶査定不服審判

2024-014289

表面処理剤

審判番号
2024-014289
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2023-169482外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年09月06日
審決日
2026年01月07日
公報発行日
2026年03月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C03C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法49条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2023-169482「表面処理剤」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年 4月10日出願公開、特開2024- 50521〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和5年 9月29日(優先権主張 令和4年9月29日)の出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。 令和5年12月12日付け 拒絶理由通知 令和6年 3月14日 意見書、手続補正書の提出 同年 6月 4日付け 拒絶査定 同年 9月 6日 審判請求書、手続補正書(以下、同手続補正書によりなされた補正を「本件補正」という。)の提出 同年11月27日 上申書の提出 第2 本件補正についての補正の却下の決定 1 補正の却下の決定の結論 本件補正を却下する。 2 理由 (1)本件補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであって、本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 ア 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された。 「 【請求項1】 ガラス基材と、該ガラス基材の表面を式(1): 【化1】 [図:0001432689000001.jpg] [式中: R1は、CmH2m+1であり、 mは、1以上の整数であり、 R2は、CnH2n+1であり、 nは、1以上の整数であり、 mとnの少なくとも一方は、4以上である。] で表される化合物で処理して形成されるシロキサン層と、を含み、 前記シロキサン層の厚みは、5.7nm以上である、物品。」 イ 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載 本件補正前、すなわち、令和6年3月14日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「 【請求項1】 ガラス基材と、該ガラス基材の表面を式(1): 【化1】 [図:0001432689000002.jpg] [式中: R1は、CmH2m+1であり、 mは、1以上の整数であり、 R2は、CnH2n+1であり、 nは、1以上の整数であり、 mとnの少なくとも一方は、4以上である。] で表される化合物で処理して形成されるシロキサン層と、を含み、 前記シロキサン層の厚みは、4nm以上である、物品。」 (2)本件補正の目的要件について 本件補正は、請求項1において、「前記シロキサン層の厚みは、4nm以上である」を「前記シロキサン層の厚みは、5.7nm以上である」とするものである。 本件補正は、「シロキサン層の厚み」について、より限定された値にするものであり、いわゆる限定的減縮にあたるものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。 (3)本件補正の独立特許要件について 上記(2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、当該補正が適法にされたものでるというためには、さらに、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合する必要がある。 そこで、上記(1)アで記載した本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下、検討する。 ア 引用文献1に記載された事項 下記第3の2で述べる原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開平8-291183号公報)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の1つの目的は、長い分枝アルキル鎖を有する化学的に均一なシランを提供することであった。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、一般式 【0007】 【化2】 [図:0001432689000003.jpg] 【0008】[式中nは1~5の整数であり、基Rの少なくとも1つは、ハロゲン、アルコキシ、第二級アミノおよびオキシカルボニル水素またはオキシカルボニルアルキルからなる置換基の群から選択された加水分解可能基を表わし、他の基はアルキル、シクロアルキル、アリールまたは該加水分解可能基の1つを表わす]で示される新規シランに関する。 ・・・ 【0012】本発明によるシランIは、分枝アルキル基のほかに、少なくとも1つが加水分解可能である置換基Rを有する。用語“加水分解可能基”は水の存在においてケイ素原子と加水分解可能基の間の結合の切断下に反応し、これによりシラノールが形成し、これがさらにたとえばシロキサンに反応する基を表わす。」 (イ)「【0040】シランは、電子装置に薄い絶縁皮膜を形成するために使用することもできる。この適用の間、ケイ素基板または装置上に単分子層が形成する。これらの単分子層は、反応からの安定性およびケイ素上に存在する酸化ケイ素の層中に存在するシラノール基と本発明による化合物との反応から誘導される共有結合の形成を集成する自己集成性単層である。 【0041】これらの層は、種々の方法により形成することができる。好ましくは、これらの層は、浸漬法を用いるかまたは物質を支持体上にスプレーする事により形成される。一般に、本発明による化合物、好ましくはトリクロロシリル基を有する化合物1種または数種0.5~2gを、エタノールのような有機溶剤100gに溶解し、次いで被覆すべき物品を溶液中に数分間浸漬する。次に、浸漬浴から装置を取り出し、溶剤ですすぎ洗いし、最後に乾燥する。場合により、乾燥のため増加温度を適用することができる。被覆のために、トリアルコキシシリル基を有するシランIを使用する場合には、被覆工程の数時間前に少量の水(たとえば5~10g)を加え、酸、好ましくは酢酸を使用することにより溶液のpHを付加的に4.5~5.5に調節することが推奨され、これによりアルコキシ基は加水分解され、支持体表面と反応しうるシラノール基が生成する。 【0042】シランは、ガラス、反射防止層を有するガラスおよびSiO2またはMgF2により被覆されたプラスチックガラスの疎水性皮膜として適用することができる。」 (ウ)「【0046】 【実施例】 ・・・ 【0055】例6 ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシランの製造 16個の炭素原子を有する化合物少なくとも98重量%を含有する、ポリイソブテン合成からの副生成物の画分100gに、イソプロパノール中のH2PtCl.6H2Oの0.1M溶液0.1mlを加え、混合物を120℃に加熱した。加熱したオレフィンにジクロロメチルシラン(50g,合計0.44モル)を加え、温度を120℃で3時間維持した。引き続き、真空蒸留を実施した。 【0056】収率:104g 29Si-NMRデータ,δ=31.7ppm 沸点=114℃/0.3mbr,含量(GC):96% 元素分析:C60.1%(計算値60.15),H10.4%(計算値10.69),Cl20.5%(計算値20.89)。」 イ 引用文献1に記載された発明 (ア)上記ア(ア)によると、引用文献1の【0012】には、「本発明によるシランIは、分枝アルキル基のほかに、少なくとも1つが加水分解可能である置換基Rを有する。用語“加水分解可能基”は水の存在においてケイ素原子と加水分解可能基の間の結合の切断下に反応し、これによりシラノールが形成し、これがさらにたとえばシロキサンに反応する基を表わす。」と記載されていることから、引用文献1に記載のシランは、水の存在において、ケイ素原子と加水分解可能基の間の結合の切断下に反応し、これによりシラノールが形成し、これがさらに反応してシロキサンが形成するものといえる。 (イ)さらに、上記ア(イ)によると、引用文献1の【0040】~【0042】には、「シランは、電子装置に薄い絶縁皮膜を形成するために使用することもできる。」、「一般に、本発明による化合物、好ましくはトリクロロシリル基を有する化合物1種または数種0.5~2gを、エタノールのような有機溶剤100gに溶解し、次いで被覆すべき物品を溶液中に数分間浸漬する。次に、浸漬浴から装置を取り出し、溶剤ですすぎ洗いし、最後に乾燥する。場合により、乾燥のため増加温度を適用することができる。被覆のために、トリアルコキシシリル基を有するシランIを使用する場合には、被覆工程の数時間前に少量の水(たとえば5~10g)を加え、酸、好ましくは酢酸を使用することにより溶液のpHを付加的に4.5~5.5に調節することが推奨され、これによりアルコキシ基は加水分解され、支持体表面と反応しうるシラノール基が生成する。」、「シランは、ガラス、反射防止層を有するガラスおよびSiO2またはMgF2により被覆されたプラスチックガラスの疎水性皮膜として適用することができる。」と記載されていることから、引用文献1に記載のシランは、加水分解を経て、ガラス物品の疎水性被膜として適用することができるといえる。 (ウ)そして、上記ア(ウ)によると、引用文献1に記載のシランの具体例として、「ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシラン」がその製造方法と共に記載されている。 (エ)上記(ア)~(ウ)によれば、引用文献1には、ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシランを加水分解することでシロキサンへ反応させ、ガラス物品の疎水性被膜として適用することが記載されているといえる。 そこで、疎水性被膜として適用されたガラス物品に着目すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。 「ガラスと、ガラスの疎水性被膜である、ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシランを加水分解して得られるシロキサンからなる疎水性被膜とを含むガラス物品。」 ウ 引用文献2に記載されている事項 周知技術を示すために新たに引用する引用文献2(特開2021-20831号公報)には、以下の事項が記載されている。 「【0026】 <1-2.第1機能膜> 次に、第1機能膜2について説明する。本実施形態に係る第1機能膜2は、撥水機能を有する撥水膜によって形成されている。 【0027】 この撥水膜は、ガラス板1とのカップリング剤であるアルコキシシリル基を含有することを特徴としている。・・・ ・・・ 【0034】 <2.第1機能の物性及び性能> <2-1.膜厚> 第1機能膜2の厚みは、特には限定されないが、例えば、5~50nmであることが好ましく、10~30nmであることがさらに好ましい。第1機能膜2の膜厚が50nmを超えるとコストが高くなるおそれがある。一方、第1機能膜2は、単分子膜のような薄い膜厚でも撥水機能を奏するが、例えば、5nmより小さくなると、乾燥前に外力が加わったときに、ガラス板1から剥がれるおそれがある。したがって、第1機能膜2の膜厚は5nm以上であることが好ましい。膜厚は、種々の方法で算出することができるが、例えば、膜厚を測定したい箇所でサイドガラスを切断し、断面をSEM等で観察することで測定することができる。」 エ 対比・判断 (ア)補正発明と引用1発明との対比 a 引用1発明の「ガラス」、「ガラス物品」は、それぞれ、補正発明の「ガラス基材」及び「物品」に相当する。 b 引用1発明の「ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシラン」の「2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル」、「メチル」は、それぞれ化学式で「C16H33-」、「CH3-」と表せるものであるから、補正発明の「R1は、CmH2m+1であり、mは、1以上の整数であり」、「R2は、CnH2n+1であり、nは、1以上の整数であり」に相当する。そして、引用1発明の「2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル」(C16H33-)は、CmH2m+1で表すと、mが16に対応するので、補正発明の「mとnの少なくとも一方は、4以上である」を満たしているといえる。 そうすると、引用1発明の「ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシラン」は、補正発明の「式(1): 【化1】 [図:0001432689000004.jpg] [式中: R1は、CmH2m+1であり、 mは、1以上の整数であり、 R2は、CnH2n+1であり、 nは、1以上の整数であり、 mとnの少なくとも一方は、4以上である。] で表される化合物」に相当する。 c 引用1発明の「ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシランを加水分解して得られるシロキサンからなる疎水性被膜」は、「ガラスの疎水性被膜」であって、ガラス表面に形成されていることは明らかであるから、補正発明の「該ガラス基材の表面」に「式(1)」からなる「化合物で処理して形成されるシロキサン層」に相当する。 d 上記a~cの対応関係を踏まえると、補正発明と引用1発明は、「ガラス基材と、該ガラス基材の表面を式(1): 【化1】 [図:0001432689000005.jpg] [式中: R1は、CmH2m+1であり、 mは、1以上の整数であり、 R2は、CnH2n+1であり、 nは、1以上の整数であり、 mとnの少なくとも一方は、4以上である。] で表される化合物で処理して形成されるシロキサン層と、を含」む「物品。」の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点] 補正発明は「前記シロキサン層の厚みは、5.7nm以上である」のに対し、引用1発明は、シロキサンからなる疎水性被膜の厚みについて記載されていない点。 (イ)判断 引用1発明には、「シロキサンからなる疎水性被膜」をガラスに設けることで、ガラスの疎水性を高めるものであることから、具体的に「シロキサン」の厚みについては言及されないものの、疎水性被膜としての機能を奏する厚みを備えているものといえる。 また、上記ウによると、引用文献2には、ガラス板に設けられる撥水膜としての第1機能層について、膜厚が5nm以上の例が記載されているとおり、一般的に5nm以上の撥水膜、すなわち疎水性被膜は周知なものである。 また、シロキサンからなる疎水性被膜の厚みを調整することは、成膜時間を調整することや、成膜に用いる原料の量を調整すること等で、通常行われていることであり、その際に膜厚を「5.7nm以上」とすることに、何ら困難性があるものとはいえない。 したがって、引用1発明において、シロキサンからなる疎水性被膜の厚みを5.7nm以上とすること、すなわち、相違点に係る補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 よって、補正発明は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ)審判請求人の主張について a(a)審判請求書における主張は次のとおりである(3.(2)、(2-1))。 「(a)請求項1 (ai)・・・ 本件発明では、シロキサン層の厚みが5.7nm以上であることにより、初期接触角が良好な値を示し、かつ、摩擦耐久性の優れた表面処理層を得ることができる。実際に、段落[0071]表1に示すように、シロキサン層の厚みが5.7nm以上であると、初期の水の接触角の値が良好であり、かつ、摩耗試験後においても接触角が良好であることが分かる。 引用例1の明細書段落[0040]には「シランは、電子装置に薄い絶縁皮膜を形成するために使用することもできる。」と記載されている。しかしながら、引用例1には、厚みについては記載されていない。引用例1の実施例において、例6:ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシランを用いて真空蒸留を行った例、及び、例9:ジクロロ(2、4、4、6、6-ペンタメチルヘプチル)イソ-プロピルシランを用いて真空蒸留を行った例が記載されているが、これらの実施例においても、真空蒸留で得られた層の厚みは記載されていない。 以上のように、引用例1には、シロキサン層の厚みが5.7nm以上であることは記載も示唆もされていない。 (aii)出願人は、本件の対比実験として、以下に示すように追加比較例3の検討を行った。追加比較例3では、シロキサン層の厚みが3.3nmであった。以下に示すように、追加比較例3では、初期接触角が低く、かつ、摩擦耐久性が低いである表面処理層が得られた。なお、追加比較例3は、2024年3月8日付け意見書に記載したものと同じである。 比較のために、追加比較例3とともに、明細書に記載している実施例1及び5の結果も示す。 段落[0062] 実施例1 [飽和蒸気処理] 化学強化ガラス(コーニング社製、ゴリラガラス、厚さ0.7mm)をUV/O3処理した後、ジクロロ(メチル)n-オクチルシラン0.1mLを用いて、50℃で1時間飽和蒸気処理した。その後、ホットプレート上で150℃、1分間加熱し、表面処理層を得た。 段落[0066] 実施例5 [飽和蒸気処理] 飽和蒸気処理時間を30分とした以外は、実施例3と同様の条件で成膜し、表面処理層を得た。 (注:実施例3では、実施例1のジクロロ(メチル)n-オクチルシランの代わりに、ジクロロメチルドデシルシランを使用した。) 追加比較例3 [飽和蒸気処理] 飽和蒸気処理時間を30分とした以外は、実施例1と同様の条件で成膜し、表面処理層を得た。 実施例1、5の結果と追加比較例3の結果とを以下の表1に示す。また、初期の水の接触角を100%としたときの接触角の比率を表2に示す。 【表1】 [図:0001432689000006.jpg] 【表2】 [図:0001432689000007.jpg] 実施例1及び5では、膜厚が5.7nm以上である表面処理層を有する。これらの表面処理層は、初期の水の接触角が100°以上の高い値を有した。さらに、表1及び2に示すように400回の摩擦を与えても、水の接触角は高い値を維持でき、摩擦耐久性が良好であることが分かった。 これに対し、追加比較例3では、膜厚3.3nmである表面処理層を有する。追加比較例3の表面処理層は、初期の水の接触角の値が実施例1及び5よりも低くなった。さらに、表1及び2に示すように400回の摩擦を与えると水の接触角は大幅に低下した。 以上のように、シロキサン層の下限値5.7nmの上下で得られる効果に量的に顕著な差異があり、該下限値と、初期接触角及び摩擦耐久性との関係において、臨界的意義を有することは明確であると思料する。 (aiii)拒絶査定において、審査官殿は「引用例1は、得られる皮膜が疎水性のものであることを教示しているところ(段落[0042]参照)、皮膜が極端に薄くなれば、その機械的耐久性の減少や、疎水性という特性が発揮されにくくなるような一般的な傾向は当業者であれば予測し得る事項である」と述べられている。 しかしながら、皮膜がどの程度まで薄くなった場合に、機械的耐久性の減少や、疎水性という特性が発揮されにくくなるかについては、引用例1には、記載も示唆もされておらず、たとえ当業者といえども引用例1に基づいて、本件発明の下限値に想到することは容易でないと思料する。」 (b)また、令和6年11月27日付けの上申書において、下記の請求項1に対する補正案を示した上で、上記(a)と同様の主張をしている。 「(3-1)審判請求人が検討している特許請求の範囲の補正案を以下に示します(下線は補正箇所を示します)。 [請求項1] 「ガラス基材と、該ガラス基材の表面を式(1): [図:0001432689000008.jpg] [式中: R1は、CmH2m+1であり、 mは、1~24の整数であり、 R2は、CnH2n+1であり、 nは、1~24の整数であり、 mとnの少なくとも一方は、5~26である。] で表される化合物で処理して形成されるシロキサン層と、を含み、 前記シロキサン層の厚みは、5.7nm以上である、物品。」 b 上記aの主張に対する当審の判断 (a)本願明細書の【課題を解決するための手段】【0006】には、「本開示は、下記の態様を含む。 [1]ガラス基材と、該ガラス基材の表面を式(1): 【化1】 [図:0001432689000009.jpg] [式中: R1は、CmH2m+1であり、 mは、1以上の整数であり、 R2は、CnH2n+1であり、 nは、1以上の整数であり、 mとnの少なくとも一方は、4以上である。] で表される化合物で処理して形成されるシロキサン層と、を含む物品。」と記載されており、また、当該記載は、出願時の請求項1の記載と同じである。そして、本願明細書の【発明の効果】【0007】には、「本開示によれば、摩擦耐久性に優れた処理表面を有する処理基材が提供される。」と記載されている。 また、本願明細書の【実施例】には、【0006】に記載の上記構成を備える実施例の摩耗耐久性が、当該構成を備えない比較例の摩耗耐久性より優れていることが記載されている。 つまり、本願明細書には、【0006】に記載の上記構成を備えることで、【0007】の「摩擦耐久性に優れた処理表面を有する処理基材が提供される。」との効果を奏するとの技術思想が記載されているといえる。 (b)また、本願明細書には、表面処理層であるシロキサン層の膜厚について、【0038】に「上記シロキサン層の厚みは、好ましくは2nm以上、より好ましくは4nm以上、さらに好ましくは6nm以上、さらにより好ましくは10nm以上であり得る。上記シロキサン層の厚みは、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下であり得る。」、【0039】に「一の態様において、上記シロキサン層の厚みは、好ましくは2~300nm、より好ましくは4~100nm、さらに好ましくは4~50nmであり得る。」、【0040】に「上記シロキサン層の厚みは、エリプソメーター(J.A.Woollam社製)による分光エリプソメトリー法により測定することができる。」と記載されて、単にシロキサン層の厚みの値、及び測定方法の記載はあるものの、その作用効果の記載はされていない。 そうすると、表面処理層の膜厚を変化させることで、初期接触角及び摩擦耐久性に顕著な差異が生じることについては、本願明細書に記載されているとはいえない。 (c)これに対して、審判請求書で主張されている追加比較例3は、実施例1と同様の「ジクロロ(メチル)n-オクチルシラン」を用いていることから明らかなとおり、【0006】に記載の上記構成を備えているものであるから、審判請求書の「実施例1及び5では、膜厚が5.7nm以上である表面処理層を有する。これらの表面処理層は、初期の水の接触角が100°以上の高い値を有した。さらに、表1及び2に示すように400回の摩擦を与えても、水の接触角は高い値を維持でき、摩擦耐久性が良好であることが分かった。これに対し、追加比較例3では、膜厚3.3nmである表面処理層を有する。追加比較例3の表面処理層は、初期の水の接触角の値が実施例1及び5よりも低くなった。さらに、表1及び2に示すように400回の摩擦を与えると水の接触角は大幅に低下した。以上のように、シロキサン層の下限値5.7nmの上下で得られる効果に量的に顕著な差異があり、該下限値と、初期接触角及び摩擦耐久性との関係において、臨界的意義を有することは明確であると思慮する。」との主張は、その前提が上記(a)の技術思想と異なるものである。 また、審判請求書では、上記のとおり、表面処理層の膜厚の下限値が奏する効果の顕著性を主張しているが、当該主張は、上記(b)のとおり、本願明細書の記載に基づかないものであるし、さらに、一般的に、表面処理層は摩耗すれば消失する可能性が高くなり、表面処理層が消失すると、表面処理層の機能も消失するものであるため、表面処理層の膜厚は大きいほど摩耗耐久性が向上することは明らかであることから、当該効果は、当業者が予測し得ない程の顕著な効果であるものであるとはいえない。 したがって、上記a(a)の主張は採用できない。 (d)さらに、補正発明が、上記a(b)の補正案に記載された発明であるとしても、引用1発明の「ジクロロ(2,4,4,6,6,8,8-ヘプタメチルノニル)メチルシラン」は、上記エ(ア)aでの検討と同様に、補正案に記載された「式(1): 【化1】 [図:0001432689000010.jpg] [式中: R1は、CmH2m+1であり、 mは、1~24の整数であり、 R2は、CnH2n+1であり、 nは、1~24の整数であり、 mとnの少なくとも一方は、5~26である。] で表される化合物」に相当するから、当該補正案を前提とする上記a(b)の主張も、上記(a)~(c)での検討と同様に採用できない。 (ウ)本件補正についてのむすび 以上のとおり、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることできないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記1の「補正の却下の決定の結論」のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和6年 3月14日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記第2の2(1)イに記載されたとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、令和5年12月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由2であって、本願発明1は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 引用文献1:特開平08-291183号公報 3 引用文献1に記載された発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された事項は、上記第2の2(3)アに記載したとおりであり、引用文献1に記載された発明は、上記第2の2(3)イ(エ)のとおりである。 4 対比・判断 本願発明1は、前記第2の2(2)での検討を踏まえると、補正発明の「前記シロキサン層の厚みは、5.7nm以上である」に対して、「前記シロキサン層の厚みは、4nm以上である」との、「シロキサン層の厚み」の数値範囲を拡張したものにあたる。 そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらなる数値範囲が減縮されたものに相当する補正発明が、前記第2の2(3)エで述べたとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、補正発明と同様に、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者であれば容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第49条第2号に該当するから、その他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり、審決する。

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2024-014289

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決726件(ダイキン工業株式会社)
  • 2025-000523拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)撥剤
    同じ当事者: ダイキン工業株式会社
  • 2025-000820拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)撥剤
    同じ当事者: ダイキン工業株式会社
  • 2025-002484拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)撥剤
    同じ当事者: ダイキン工業株式会社
  • 2025-002485拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)撥剤
    同じ当事者: ダイキン工業株式会社
  • 2024-007053拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)機器性能値予測方法、システム、およびプログラム
    同じ当事者: ダイキン工業株式会社
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同じ根拠条文の審決7,679件(特許法29条2項、特許法49条2号)
  • 2019-011145拒絶査定不服審判 / 2021-03-30 / 請求不成立金属酸化物濃度勾配を有するガラスおよびガラスセラミック
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法49条2号
  • 2024-017241拒絶査定不服審判 / 2026-07-08 / 請求不成立ろ過方法およびろ過装置
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法49条2号
  • 2024-015753拒絶査定不服審判 / 2026-03-31 / 請求不成立気体分離方法、及び気体分離膜
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法49条2号
  • 2024-018479拒絶査定不服審判 / 2026-03-24 / 請求不成立硫黄を注入する方法およびその結果として生じる組成物
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法49条2号
  • 2024-007738拒絶査定不服審判 / 2026-01-26 / 請求不成立過酸化リチウムの粒度調節方法および粒度が調節されたリチウム酸化物の製造方法
    共通の条文: 特許法29条2項、特許法49条2号
同じ論点・分野の審決(審決分類)345件(121・C03C)
  • 2025-010586拒絶査定不服審判 / 2026-08-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)車両のフロントガラス用の特有の破壊挙動を備えたガラス
    共通の審決分類: 121・C03C
  • 2025-010756拒絶査定不服審判 / 2026-07-29 / 原査定取消(特許/登録すべき)接合体の製造方法及び接合体の製造装置
    共通の審決分類: 121・C03C
  • 2024-018907拒絶査定不服審判 / 2026-06-16 / 原査定取消(特許/登録すべき)機能被覆の上の保護層
    共通の審決分類: 121・C03C
  • 2025-000949拒絶査定不服審判 / 2026-06-08 / 原査定取消(特許/登録すべき)無アルカリガラス基板
    共通の審決分類: 121・C03C
  • 2024-014168拒絶査定不服審判 / 2026-05-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)自動車用合わせガラス
    共通の審決分類: 121・C03C

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