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特許拒絶査定不服審判

2023-018633

窒化ケイ素及び/又は酸窒化ケイ素を含む保護コーティングを有するコーティングされた物品

審判番号
2023-018633
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-543483
請求日
2023年11月02日
審決日
2025年06月11日
公報発行日
2025年11月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ビトロ フラット グラス エルエルシー
  • 【請求人代理人】弁理士法人浅村特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 宮澤 尚之
  • 審判官 河本 充雄
分類
P18 .121-WZ (C03C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
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特願2020-543483「窒化ケイ素及び/又は酸窒化ケイ素を含む保護コーティングを有するコーティングされた物品」拒絶査定不服審判事件〔令和1年8月22日国際公開、WO2019/160950、令和3年6月3日国内公表、特表2021-513950〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 1 手続の経緯 本件拒絶査定不服審判事件に係る特願2020-543483号の出願(以下、「本願」という。)は、2019年(平成31年)2月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2018年2月15日(以下、「優先日」という。)(US)アメリカ合衆国、2018年9月21日(US)アメリカ合衆国、2019年2月13日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和2年10月15日に手続補正書が提出され、令和4年12月27日付けで拒絶理由が通知され、令和5年3月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月29日付けで拒絶査定がされ、同年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、令和6年12月4日付けで拒絶理由が通知され、令和7年3月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1~9に係る発明は、令和7年3月21日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 基材、 前記基材の少なくとも一部の上に第1の機能層、及び 前記機能層の少なくとも一部の上に第1の保護層、 を含むコーティングされた物品であって、 前記第1の機能層が、 前記基材の少なくとも一部の上にスズ酸亜鉛の第1の層、 前記スズ酸亜鉛の前記層の少なくとも一部の上に酸化亜鉛の層、 前記酸化亜鉛の層の少なくとも一部の上に銀の金属層、 前記金属層の少なくとも一部の上にプライマー層、及び 前記プライマー層の少なくとも一部の上に金属酸化物膜の最上層を、 を含み、 前記第1の保護層が、前記第1の機能層の最上層の前記金属酸化物膜の一部の上に接触する金属酸窒化物膜と、 前記金属酸窒化物膜の一部の上に接触する金属窒化物膜とを含み、 前記金属酸窒化物膜が酸窒化ケイ素から形成され、前記金属窒化物膜が窒化ケイ素から形成されていて、 前記第1の保護層上に少なくとも部分的に配設された第2の保護層をさらに含み、 前記第2の保護層が、チタニア、アルミナ、シリカ、又はジルコニアの金属酸化物、チタニア、アルミナ、シリカ、及びジルコニアのいずれか2つ以上の金属酸化物からなる混合物、又はチタン、アルミニウム、シリコン、及びジルコニウムの1つ以上の金属を含む合金を含む、 コーティングされた物品。」 3 拒絶理由 令和6年12月4日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由4は、概略、次のとおりである。 本件補正前の請求項1~12に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1 独国特許出願公開第102013108215号明細書 引用文献2 特開平10-34794号公報 4 引用文献の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載 引用文献1には、「Transparente Schutzschichtanordnung eines optisch wirksamen Schichtsystems, IR-reflektierendes Schichtsystem und Verfahren zu deren Herstellung」(当審訳:光学的に有効な層システムの透明保護層配置、IR反射層システム、及びその製造方法)(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 ア 「 [図:0001428534000001.jpg] 」 (当審訳:[0001] 本発明は、層システムの最上部の機能層の上に配置され、特に層システムを機械的に保護するように機能する、光学的に有効な層システムのための保護層配置に関する。本発明はまた、そのような保護層配置を使用する透明な赤外線(IR)反射層システム、及びその層システムを製造する方法にも関する。) イ 「 [図:0001428534000002.jpg] 」 (当審訳:[0009] あるいは、銅及びその合金などの他の材料も使用される。これらの材料は、層システムに属する他の層の調整を必要とする。機能層配置の追加層には、特に、機能層における拡散及び移動のプロセスを防止するか、少なくとも大幅に低減するブロッカー層が含まれる。) ウ 「 [図:0001428534000003.jpg] 」 (当審訳:[0019] 本発明による保護層配置を用いると、一方では層システムの光学性能に関連する変更を加えることなく、また他方ではシステム構成を変更することなく既存のコーティングシステムを用いて既知の層システムを改変することができる。) エ 「 [図:0001428534000004.jpg] 」 (当審訳:[0020] 既に述べたように、酸窒化シリコンとその上の窒化シリコンの一連の混合層として保護層配置を形成することにより、すなわち窒化シリコンの一部を酸窒化シリコンに置き換えることにより、光学的に有効な層システムの機械的耐性が大幅に改善される。特に接着性と耐傷性において、達成することができる。屈折率が低から中程度であることにより、光学的有効性が低下するため、同じ光学的厚さでより厚い層の厚さを使用できる。) オ 「 [図:0001428534000005.jpg] 」 (当審訳:[0026] 本発明による保護層配置は、IR反射層システム用の金属又は混合金属酸化物と窒化ケイ素又は少なくともその一部の層順序を有する既存のカバー層配置の代わりに好ましく使用することができる。このような層システムは、製造、熱処理及び使用中の光学特性及びそれらの保護のための多数の個別の層を備えた非常に複雑であることが多いため、カバー層を本発明による保護層配置に置き換えると、保護層の有効性に直接影響を与え、性能を損なうことなく生産できる。本発明によれば、比較的密度の高い窒化ケイ素を混合層の最上層又は最上領域として使用することができるが、従来技術による層システムでは剥離を引き起こし、その結果として層システム全体に損傷を与えることが多かったことに伴う機械的応力は観察されない。) カ 「 [図:0001428534000006.jpg] [図:0001428534000007.jpg] 」 (当審訳:[0038] 図1は、IR反射層システムとしての単一低E層システムを表しており、保護層配置SAは、下部カバー層D1を挿入して層システムの1つの機能層配置FAの上に配置されている。 [0039] 単一低E層システムを製造するには、マグネトロンスパッタリングによって、4mmフロートガラスでできた洗浄済みの基板Sに次の層を形成する: a)ベース層配置GAは、唯一のベース層としての25~30nmのSi3N4、あるいは、TiO2、SnO2又は互いの上にある2つのベース層; b)機能層配置FAは、 - シード層Kとして、7~10nmのZnO、 - 機能層Fとして、12~15nmのAg、及び、 - ブロッカー層Bとして、ニッケルとクロムを含む化合物、例示的な実施形態では、準化学量論的酸化物、窒化物、又はその酸窒化物:例えば、0.5~3nmのNiCrOx; c)カバー層配置DAは、スズ酸亜鉛からなる下部カバー層D1と、2つの部分層T1、T2からなる保護層配置SAとからなり、 - 下部カバー層D1として、10~15nmのZnSnO3、 - 第1部分層T1として、反応性ガス中に0.1~25%のO2を含む、5~15nmのSiOxNy、及び、 - 第2部分層T2として、10~35nmのSi3N4、 - ここで、部分層T1、T2は、アルミニウムを含むこともできる。) キ 「 [図:0001428534000008.jpg] 」 (当審訳:[0040] あるいは、第1のカバー層D1は、スズ酸亜鉛の代わりにSnO2を含むこともでき、あるいは両方の層を互いに組み合わせることができる(図2)。図2によるカバー層配置DAは、3つの部分層を有する保護層配置をさらに備え、図1の保護層配置と比較して、第3部分層T3が層システムの最上層として追加される。この例示的な実施形態では、それは、2~5nmの範囲の厚さを有するTiO2からなり、あるいは、別の金属、半導体、又は金属もしくは半導体合金の酸化物、窒化物、酸窒化物又は酸炭化物から構成することもできる。) ク 「 [図:0001428534000009.jpg] 」 ケ 「 [図:0001428534000010.jpg] 」 (2) 引用文献1に記載された発明 ア 引用文献1には、前記(1)アによれば、層システムを機械的に保護するように機能する保護層配置、及び、当該保護層配置を使用する透明な赤外線(IR)反射層システムが記載されており、前記(1)カによれば、図1のIR反射システムとして、フロートガラスでできた基板S、Si3N4のベース層配置GA、ZnOのシード層K、Agの機能層F、及び、NiCrOxのブロッカー層Bからなる機能層配置FA、ZnSnO3の下部カバー層D1、並びに、SiOxNyの第1部分層T1、及び、Si3N4の第2部分層T2からなる保護層配置SAからなるIR反射層システムが記載されているといえる。そして、前記(1)クの図1からは、基板S、前記基板Sの上面に接触するベース層配置GA、前記ベース層配置GAの上面に接触するシード層K、前記シード層Kの上面に接触する機能層F、前記機能層Fの上面に接触するブロッカー層B、前記ブロッカー層Bの上面に接触する下部カバー層D1、前記下部カバー層D1の上面に接触する第1部分層T1、前記第1部分層T1の上面に接触する第2部分層T2が見て取れる。 これらの記載を図1に記載された「赤外線反射層システム」に注目して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「フロートガラスでできた基板S、 前記基板Sの上面に接触するSi3N4のベース層配置GA、 前記ベース層配置GAの上面に接触する機能層配置FAであって、 前記ベース層配置GAの上面に接触するZnOのシード層K、 前記シード層Kの上面に接触するAgの機能層F、及び、 前記機能層Fの上面に接触するNiCrOxのブロッカー層Bからなる機能層配置FA、 前記ブロッカー層Bの上面に接触するZnSnO3の下部カバー層D1、並びに、 前記下部カバー層D1の上面に接触する保護層配置SAであって、 前記下部カバー層D1の上面に接触するSiOxNyの第1部分層T1、及び、 前記第1部分層T1の上面に接触するSi3N4の第2部分層T2からなる保護層配置SA からなる赤外線反射層システム。」 (3) 引用文献2の記載 引用文献2には、「被覆済み物品」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 高透過率、低放射率の被覆済み物品であって、 a.透明な非金属性基体と; b.1つのレベルが他のレベルよりも低い、2つのレベルの電気抵抗を有し、2つのレベルの中の低い方のレベル状態にある赤外線反射性の金属フィルムと; c.前記基体と前記金属フィルムとの間の誘電性非反射性のベースフィルムとを含み、該ベースフィルムが、 d.前記金属フィルムと接触する第1物質の結晶質金属接触フィルム部分であって、前記金属フィルムと調和する結晶質フィルム部分と、 e.第1物質以外の第2物質を含むサポートフィルム部分とを含む被覆済み物品。 ・・・ 【請求項3】 金属フィルムが銀を含む、請求項2記載の被覆済み物品。」 イ 「【0047】 【実施例】 実施例1 熱処理可能な単一スタック スズ酸亜鉛フィルム/酸化亜鉛フィルム/銀/チタン/スズ酸亜鉛/二酸化チタンから構成された多層被膜を、後に焼き入れすることができる被覆済みガラス板(glass pane)を提供する目的で、次のように基体上に付着させた。基体は透明なアニーリング済みソーダ石灰ガラスの3.3mm(0.13インチ)厚さの板であった。 ・・・ 【0049】ガラス基体に隣接する非晶質スズ酸亜鉛の257±13Å厚さのフィルムの第1サポート部分と、このスズ酸亜鉛フィルム上に付着した58±7Å厚さの結晶質酸化亜鉛フィルムの第2金属接触フィルム部分とから成る二部非反射性誘電性ベースフィルムを最初に付着させることによって、被膜を形成した。酸化亜鉛は単結晶ではなく多結晶状(multigrained)であった。厚さはスチルスプロファイラー(stylus profiler) によって測定した。これらの光学的指数(optical index)が近接しているために、上記2部分は共に、約82%の透過率を有する単一光学的フィルムとして作用する。 ・・・ 【0051】基体を酸化物付着チャンバーから金属付着チャンバーに移して、多結晶銀の約115Å厚さフィルムをベースフィルムの結晶質酸化亜鉛上部の上に付着させた。ベースフィルム+銀フィルムの測定された厚さは合計で434±9Åであり、インライン透過モニターによって測定された、被覆済みガラスの透過率は反射性銀フィルムのために63.5%に減少した。銀フィルムの厚さはX線蛍光分析によって測定して、cm2当りのこの金属約10.0μgに相当した。 【0052】次に、1.1μg/cm2(約24Åの厚さに相当)に等しい厚さを有する防食用(sacrificial) チタンプライマーフィルムを銀の上部に付着させた。チタンプライマーフィルムの付着後に、230±7Åの厚さを有するスズ酸亜鉛の非反射性トップコートフィルムと36±6Åの厚さを有する最終二酸化チタンオーバーコートフィルムとを付着させた。・・・」 5 対比 (1) 本願発明と引用発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりである。 ア 引用発明の「フロートガラスでできた基板S」は、本願発明の「基材」に相当する。 イ 引用発明の「ZnOのシード層K」、「Agの機能層F」は、それぞれ、本願発明の「酸化亜鉛の層」、「銀の金属層」に相当する。 ウ 本願発明の「プライマー層」は、本願の願書に添付された明細書(以下、「本願明細書」という。)の【0037】に「任意のプライマー層328は、スパッタリングプロセス又はその後の加熱プロセス中の金属層334の劣化又は酸化を防ぐために、堆積プロセス中に犠牲にすることができる酸素捕捉材料を含むことができる」と記載されているように、スパッタリングや加熱のプロセス中に移動する酸素を捕捉することで、酸化を防止する機能を有するものである。 他方、引用発明の「NiCrOxのブロッカー層B」は、前記4(1)イによれば、機能層における拡散及び移動を防止又は抑制する機能を有するものであり、本願発明の「プライマー層」と機能が共通している。 したがって、引用発明の「NiCrOxのブロッカー層B」は、本願発明の「プライマー層」に相当する。 エ 本願発明の「金属酸化物の最上層」は、本願明細書の【0035】に「非限定的な一実施形態では、最上部誘電体層322は、スズ酸亜鉛などの金属酸化物からなっていてもよい」と記載されているように、スズ酸亜鉛の最上層を含むものであるから、引用発明の「ZnSnO3の下部カバー層D1」は、本願発明の「金属酸化物の最上層」に相当する。 オ 本願発明の「機能層」は、本願明細書の【0028】に「機能層220、320、420、520は、任意の機能性コーティングであることができる。例えば、それは1つ以上の誘電体膜及び/又は1つ以上の金属膜を含むことができる」、【0031】に「機能層320の最上層が、機能層320の最上膜として最上部誘電体層322と呼ばれる誘電体層を含む例を示す」、【0037】に「機能層320はまた、誘電体層322の下に配設された任意のプライマー層328を含み得る」と記載されているように、誘電体膜、金属層、プライマー層、最上部誘電体層を含むものである。 他方、引用発明の「Si3N4のベース層配置GA」や「ZnOのシード層K」が誘電体膜であること、及び、前記イ~エで検討した対応関係を踏まえると、引用発明の「Si3N4のベース層配置GA」、「ZnOのシード層K」、「Agの機能層F」、及び「NiCrOxのブロッカー層B」からなる「機能層配置FA」、並びに「ZnSnO3の下部カバー層D1」からなる層は、本願発明の「前記基材の少なくとも一部の上」の「第1の機能層」に相当する。 カ 引用発明の「前記基板Sの上面に接触するSi3N4のベース層配置GA、 前記ベース層配置GAの上面に接触する機能層配置FAであって、 前記ベース層配置GAの上面に接触するZnOのシード層K、 前記シード層Kの上面に接触するAgの機能層F、及び、 前記機能層Fの上面に接触するNiCrOxのブロッカー層Bからなる機能層配置FA、 前記ブロッカー層Bの上面に接触するZnSnO3の下部カバー層D1」は、前記イ~オでの対応関係を踏まえると、本願発明の「前記基材の少なくとも一部の上」の「第1の機能層」であって、「前記第1の機能層が、 前記基材の少なくとも一部の上に」「酸化亜鉛の層、 前記酸化亜鉛の層の少なくとも一部の上に銀の金属層、 前記金属層の少なくとも一部の上にプライマー層、及び 前記プライマー層の少なくとも一部の上に金属酸化物膜の最上層を、 を含」むことに相当する。 キ 引用発明の「保護層配置SA」、「SiOxNyの第1部分層T1」、「Si3N4の第2部分層T2」は、それぞれ、本願発明の「第1の保護膜」、「酸窒化ケイ素から形成され」ている「金属酸窒化物膜」、「窒化ケイ素から形成されている」「金属窒化物膜」に相当する。 ク 引用発明の「前記下部カバー層D1の上面に接触する保護層配置SAであって、 前記下部カバー層D1の上面に接触するSiOxNyの第1部分層T1、及び、 前記第1部分層T1の上面に接触するSi3N4の第2部分層T2からなる保護層配置SA」は、前記エ、オ、キで検討した対応関係を踏まえると、本願発明の「前記機能層の少なくとも一部の上」の「第1の保護層」であって、「前記第1の保護層が、前記第1の機能層の最上層の前記金属酸化物膜の一部の上に接触する金属酸窒化物膜と、 前記金属酸窒化物膜の一部の上に接触する金属窒化物膜とを含み、 前記金属酸窒化物膜が酸窒化ケイ素から形成され、前記金属窒化物膜が窒化ケイ素から形成されてい」ることに相当する。 ケ 引用発明の「赤外線反射層システム」は、本願発明の「コーティングされた物品」に相当する。 (2) 前記(1)の対応関係を踏まえると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 ア 一致点 「基材、 前記基材の少なくとも一部の上に第1の機能層、及び 前記機能層の少なくとも一部の上に第1の保護層、 を含むコーティングされた物品であって、 前記第1の機能層が、 前記基材の少なくとも一部の上に酸化亜鉛の層、 前記酸化亜鉛の層の少なくとも一部の上に銀の金属層、 前記金属層の少なくとも一部の上にプライマー層、及び 前記プライマー層の少なくとも一部の上に金属酸化物膜の最上層を、 を含み、 前記第1の保護層が、前記第1の機能層の最上層の前記金属酸化物膜の一部の上に接触する金属酸窒化物膜と、 前記金属酸窒化物膜の一部の上に接触する金属窒化物膜とを含み、 前記金属酸窒化物膜が酸窒化ケイ素から形成され、前記金属窒化物膜が窒化ケイ素から形成されている、 コーティングされた物品。」 イ 相違点 (ア) 相違点1 本願発明は、「基材」と「酸化亜鉛の層」の間に「前記基材の少なくとも一部の上にスズ酸亜鉛の第1の層」を含んでいるのに対して、引用発明は、「基板S」と「ZnOのシード層K」の間に「Si3N4のベース層配置GA」を有している点。 (イ) 相違点2 本願発明は、「前記第1の保護層上に少なくとも部分的に配設された第2の保護層をさらに含み、前記第2の保護層が、チタニア、アルミナ、シリカ、又はジルコニアの金属酸化物、チタニア、アルミナ、シリカ、及びジルコニアのいずれか2つ以上の金属酸化物からなる混合物、又はチタン、アルミニウム、シリコン、及びジルコニウムの1つ以上の金属を含む合金を含」んでいるのに対して、引用発明では、その点が明らかでない点。 6 判断 (1) 相違点1について ア 引用文献1の[0019](前記4(1)ウ参照)には、「本発明による保護層配置を用いると」、「システム構成を変更することなく既存のコーティングシステムを用いて既知の層システムを改変することができる」ことが記載され、引用発明において、保護層配置以外の層システムを既存の層システムに変更できることが示唆されている。 イ また、引用文献2には、前記4(3)アによれば、透明な非金属性基体と、銀を含む赤外線反射性の金属フィルムと、前記基体と前記金属フィルムとの間の誘電性非反射性のベースフィルムとを含み、該ベースフィルムが、前記金属フィルムと接触する第1物質の結晶質金属接触フィルム部分であって、前記金属フィルムと調和する結晶質フィルム部分と、第1物質以外の第2物質を含むサポートフィルム部分とを含む、高透過率、低放射率の被覆済み物品が記載され、前記4(3)イによれば、その具体例として、ガラス基体と、前記ガラス基体に隣接する非晶質スズ酸亜鉛のフィルムの第1サポート部分と、前記スズ酸亜鉛フィルム上に付着した結晶質酸化亜鉛フィルムの第2金属接触フィルム部分とからなる非反射性誘電性ベースフィルムと、前記結晶質酸化亜鉛上部の上に付着させた多結晶銀のフィルムと、前記銀フィルムの上部に付着させた防食用チタンプライマーフィルムと、前記チタンプライマーフィルムに付着させたスズ酸亜鉛の非反射性トップコートフィルムと、前記非反射性トップコートフィルムに付着させた最終二酸化チタンオーバーコートフィルムとからなる被覆済み物品が記載されている。 これらの記載によれば、引用文献2には、赤外線反射層システムの積層構造として、ガラス基体、スズ酸亜鉛ベースフィルム、酸化亜鉛ベースフィルム、銀赤外線反射フィルム、防食用チタンプライマーフィルム、スズ酸亜鉛トップコートフィルム、二酸化チタンオーバーコートフィルムが、この順で積層している積層構造が示されているといえる。 そして、引用文献2に記載された前記赤外線反射層システムのガラス基体と二酸化チタンオーバーコートフィルムを除いた積層構造は、本願発明の「前記基材の少なくとも一部の上にスズ酸亜鉛の第1の層、前記スズ酸亜鉛の前記層の少なくとも一部の上に酸化亜鉛の層、前記酸化亜鉛の層の少なくとも一部の上に銀の金属層、前記金属層の少なくとも一部の上にプライマー層、及び、前記プライマー層の少なくとも一部の上に金属酸化物膜の最上層を含」む「第1の機能層」に相当するものである。 ウ 前記ア、イを踏まえると、引用発明において、保護層配置以外の積層構造である「ベース層配置GA」、「機能層配置FA」、及び「下部カバー層D1」からなる部分を、引用文献2に記載された赤外線反射層システムのガラス基体と二酸化チタンオーバーコートフィルムを除いた積層構造、すなわち、本願発明の「前記基材の少なくとも一部の上にスズ酸亜鉛の第1の層、前記スズ酸亜鉛の前記層の少なくとも一部の上に酸化亜鉛の層、前記酸化亜鉛の層の少なくとも一部の上に銀の金属層、前記金属層の少なくとも一部の上にプライマー層、及び、前記プライマー層の少なくとも一部の上に金属酸化物膜の最上層を含」む「第1の機能層」に代えて、前記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2) 相違点2について ア 引用文献1には、前記4(1)キによれば、「カバー層配置DAは、3つの部分層を有する保護層配置をさらに備え」、「第3部分層T3が層システムの最上層として追加され」、「それは、2~5nmの範囲の厚さを有するTiO2からな」ることが記載されており、前記4(1)ケの図2からは、前記「3つの部分層を有する保護層配置」として、「第1部分層T1」、「第2部分層T2」、「第3部分層T3」がこの順で積層した「保護層配列SA」が見て取れる。 そして、引用文献1に記載された「層システムの最上層として追加され」た「TiO2からなる第3部分層T3」は、「第2部分層T2」上に積層されていることから、本願発明の「前記第1の保護層上に少なくとも部分的に配設された第2の保護層」であって、「前記第2の保護層が、チタニア、アルミナ、シリカ、又はジルコニアの金属酸化物、チタニア、アルミナ、シリカ、及びジルコニアのいずれか2つ以上の金属酸化物からなる混合物、又はチタン、アルミニウム、シリコン、及びジルコニウムの1つ以上の金属を含む合金を含む」ことに相当するものである。 イ したがって、引用文献1の前記アの記載に基づき、引用発明において、「前記下部カバー層D1の上面に接触するSiOxNyの第1部分層T1、及び、前記第1部分層T1の上面に接触するSi3N4の第2部分層T2からなる保護層配置SA」の「第2部分T2」の上に、「TiO2からなる第3部分層T3」を設けること、すなわち、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 (3) 本願発明が奏する効果について ア 本願明細書の「保護コーティングを含むコーティングスタックに関する追加の既知の問題は、銀ベースのコーティングスタックで生じる。特定のコーティングされた物品において、機能性コーティングの上層は、酸化亜鉛層などの金属酸化物層を含み、機能性コーティングの終端金属-プライマー層の上に配置される。これは、結露した湿気のある環境に長時間さらされると、スタックに腐食又は光輝性欠陥を引き起こす可能性がある。したがって、コーティングスタックにおけるこれらの欠陥を低減又は回避するさらなる必要性が存在する。」(【0004】)、及び、「図4Bを参照すると、保護コーティング350は、機能層320の最上部誘電体層322の上に接触して配設された金属酸窒化物354、例えばSiONの膜の上に接触して配設された金属窒化物356、例えば窒化ケイ素の膜で構成され得る。金属酸窒化物膜354の例はまた、又は代替的に、2つ以上の金属窒化物及び/又は1つ以上の金属窒化物の合金を含み得る。金属窒化物膜356の例はまた、又は代替として、2つ以上の金属酸窒化物及び/又は1つ以上の金属酸窒化物の合金の混合物を含み得る。保護コーティング350は、機能層320の耐久性を向上させ得る。」(【0040】)との記載によれば、本願発明が奏する効果は、機能層の耐久性を向上させることであるといえる。 そして、本願明細書の「図3及び図4Bを参照すると、保護コーティング350の金属酸窒化物膜354は、金属窒化物膜356と、機能層320の最上部誘電体層322の第2の膜326の金属酸化物との間に強い結合を作り出す。この開示と一致する例には、スズ酸亜鉛最上部誘電体層322の少なくとも一部の上に接触して配設された酸窒化ケイ素膜354の少なくとも一部の上に接触して配設された窒化ケイ素膜356が含まれる。」(【0049】)との記載によれば、前記効果は、本願発明の「前記第1の保護層が、前記第1の機能層の最上層の前記金属酸化物膜の一部の上に接触する金属酸窒化物膜と、前記金属酸窒化物膜の一部の上に接触する金属窒化物膜とを含み、前記金属酸窒化物膜が酸窒化ケイ素から形成され、前記金属窒化物膜が窒化ケイ素から形成されてい」ることで強い結合を作り出すことによって奏されるものといえる。 イ 他方、引用発明は、「ZnSnO3の下部カバー層D1、並びに、前記下部カバー層D1の上面に接触する保護層配置SAであって、前記下部カバー層D1の上面に接触するSiOxNyの第1部分層T1、及び、前記第1部分層T1の上面に接触するSi3N4の第2部分層T2からなる保護層配置SA」を備えるものであり、さらに、引用文献1には、前記4(1)エ、オに摘記したとおり、「酸窒化シリコンとその上の窒化シリコンの一連の混合層として保護層配置を形成することにより、すなわち窒化シリコンの一部を酸窒化シリコンに置き換えることにより、光学的に有効な層システムの機械的耐性が大幅に改善される」こと([0020])、及び、「カバー層を本発明による保護層配置に置き換えると、保護層の有効性に直接影響を与え、性能を損なうことなく生産できる。本発明によれば、比較的密度の高い窒化ケイ素を混合層の最上層又は最上領域として使用することができるが、従来技術による層システムでは剥離を引き起こし、その結果として層システム全体に損傷を与えることが多かったことに伴う機械的応力は観察されない」こと([0026])が記載され、前記「下部カバー層D1の上面に接触するSiOxNyの第1部分層T1、及び、前記第1部分層T1の上面に接触するSi3N4の第2部分層T2からなる保護層配列SA」とすることで、下部カバー層D1、SiOxNyの第1部分層T1、及びSi3N4の第2部分層T2の各層間の密着性が向上して、これらの層間の剥離や損傷を抑制できることが示唆されているから、本願発明が奏する上記効果は、当業者が容易に予測できるものある。 (4) 請求人の主張について ア 請求人の主張 請求人は、令和7年3月21日提出の意見書の「5.」において、 「上記引用文献1と2はいずれも、本願発明の上記構成要件、すなわち、2つの異なる保護層を含むコーティングスタックを開示も教示もしていません。 本出願人は、上記引用文献1を検討しましたが、これは、保護膜として酸窒化ケイ素を使用することに主眼を置くものです。上記引用文献1によれば、窒化ケイ素は大規模な工業加工には耐スクラッチ性が不十分であることが分かったとのことであり、加えて、窒化ケイ素は屈折率が高く光学効率が高いため、その保護効果には限界があるとのことであり、その結果、上記引用文献1では、これらの欠点を解決するために、窒化ケイ素の上に酸窒化ケイ素を配置することを主眼としています。 これに対し、本願発明では、上述の通り、金属酸窒化物膜の上に金属窒化物膜を配置し、金属酸窒化物膜の少なくとも一部と接触させるものですから、上記引用文献1とは逆の配置となります。 ・・・ そのうえ、上記引用文献1には、本願発明のように第1の保護層の金属窒化膜の上に第2の異なる保護層を設けることを教示や示唆する記載がありません。 言うまでもなく、上記引用文献1には、本願発明に記載されている特定の順序で2つの異なる保護層を設けることによって何らかの利点をもたらすことについての教示や示唆もありません。 ・・・ 従って、本願発明は、当業者が、上記引用文献1に記載された発明に基いて、あるいは、当該引用文献に記載された発明、および上記引用文献2に記載された事項に基いても容易に発明することができるものでは決してないことを本出願人は謹んで申し上げます。」 と主張している。 イ 請求人の主張に対する判断 引用文献1には、前記4(1)カ、クによれば、「下部カバー層D1」の直上に「SiOxNy」の「第1部分層T1」、「第1部分層T1」の直上に「Si3N4」の「第2部分層T2」が配置される「保護層配置」とすることが記載されている。 また、前記(2)アで検討したとおり、引用文献1には、本願発明の「第2の保護層」に相当する「TiO2からなる第3部分層T3」を「第2部分層T2」上に設けることも記載されている。 そして、前記(3)イで検討したとおり、引用文献1には、引用発明の「保護層配置」により、層間の密着性が向上して、層間の剥離や損傷を抑制できるとの利点も記載されている。 したがって、請求人の前記アの主張は採用できない。 (5) 小括 したがって、本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-018633

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