特許拒絶査定不服審判
2024-000379
透明導電性酸化物で被覆された物品のシート抵抗を低下させる方法
- 審判番号
- 2024-000379
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-505834
- 請求日
- 2024年01月11日
- 審決日
- 2025年03月04日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ビトロ フラット グラス エルエルシー
- 【請求人代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 小野 久子
- 審判官 河本 充雄
- 分類
- P18 .121-Z (C03C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-505834「透明導電性酸化物で被覆された物品のシート抵抗を低下させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日国際公開、WO2019/028290、令和 2年10月 8日国内公表、特表2020-529385〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)8月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2017年8月4日(以下、「優先日」という。))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 4月 3日 :翻訳文提出書
令和4年 6月14日付け:拒絶理由通知書
同年 9月15日 :意見書、手続補正書
同年12月19日 :拒絶理由通知書
令和5年 6月15日付け:意見書、手続補正書
同年 9月 8日付け:拒絶査定
令和6年 1月11日 :審判請求書、手続補正書
同年 3月12日付け:前置報告書
同年 5月28日 :上申書
第2 令和6年1月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年1月11日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(当審注:下線は補正箇所を示すため当審が付与した。)。
「【請求項1】
被覆物品のシート抵抗を低減させる方法であって、室温で127.9nm~950nmの厚さを有する透明導電性酸化物層を含む被覆を基材に付着させるステップと、前記透明導電性酸化物層が224℃(435°F)以上かつ470℃(878°F)を超えない温度に到達するように、前記透明導電性酸化物層をフラッシュ・アニーリングにより処理するステップとを含み、前記透明導電性酸化物層がフラッシュ・アニーリングされることにより、前記透明導電性酸化物層の表面が加熱され、フラッシュ・アニーリングされた後の前記被覆物品のシート抵抗は、20Ω/□以下である方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和5年6月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
被覆物品のシート抵抗を低減させる方法であって、室温で125nm~950nmの厚さを有する透明導電性酸化物層を含む被覆を基材に付着させるステップと、前記透明導電性酸化物層が224℃(435°F)以上かつ470℃(878°F)を超えない温度に到達するように、前記透明導電性酸化物層をフラッシュ・アニーリングにより処理するステップとを含み、前記透明導電性酸化物層がフラッシュ・アニーリングされることにより、前記透明導電性酸化物層の表面が加熱され、フラッシュ・アニーリングされた後の前記被覆物品のシート抵抗は、20Ω/□以下である方法。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「透明導電性酸化物層」の厚さの下限について、上記1(1)、(2)のとおり「125nm」を「127.9nm」に限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載及び引用発明等
ア 引用文献2について
(ア)本願の優先日前に公開され、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された特開2010-067558号公報(平成22年3月25日出願公開)には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、基板と、前記基板上に形成された透明電極膜とを備える透明電極膜付基板における透明電極膜の改質方法において、基板の熱劣化や熱ひずみを十分に抑制しつつ、透明電極膜の抵抗率を短時間で効率よく且つ十分に低下させることが可能な透明電極膜の改質方法、並びにその方法を用いた透明電極膜付基板の製造方法を提供することを目的とする。」
「【0022】
本発明においては、前記透明電極膜にフラッシュランプを用いて光パルス持続時間が0.1~10msecのフラッシュ光を照射して前記透明電極膜を加熱することによりアニール処理を施す。
・・・
【0024】
また、前記アニール処理を施した際には、前記透明電極膜は通常150~600℃に加熱される。前記アニール処理においては、基板の熱劣化や熱ひずみを十分に抑制しつつ透明電極膜を改質するという観点から、透明電極膜の温度は200~300℃となるように、光パルス持続時間や光照射量を調整することが好ましい。」
「【0029】
(実施例1)
基板(材質:ガラス、厚み:0.7mm)をスパッタ装置内(FTSコーポレーション社製、製品名「FTS対向スパッタ装置」)に導入し、基板の表面上にスパッタ法により、以下に示す条件で透明電極膜(材質:ITO、厚み:150nm)を形成して、透明電極膜付基板を得た。得られた透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率は51.7Ω/□であった。
成膜圧力:0.5Pa
Ar流量:40scc/m
酸素流量:0.5scc/m
投入電力:DC1kW
成膜レート:11nm/m
ターゲット:ITO(10質量%SnO2)。
【0030】
次に、得られた透明電極膜付基板の透明電極膜の表面に、ウシオ電機社製のフラッシュアニール装置を用いて、フラッシュ光を照射して、透明電極膜にフラッシュランプによるアニール処理を施して、改質後の透明電極膜付基板を得た。なお、アニール処理におけるフラッシュ光の光パルス持続時間は0.2msecであった。また、アニール処理に用いたフラッシュランプの光照射量は5J/cm2であった。アニール処理に用いたフラッシュランプの発光スペクトルを図1に示す。
【0031】
改質後の透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率を測定したところ、18.4Ω/□であった。したがって、本発明の透明電極膜の改質方法によれば、短時間のアニール処理により、透明電極膜の表面抵抗率を十分に低下させることができることが確認された。」
(イ)引用発明
上記(ア)によれば、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる(当審注:括弧内は根拠となる引用文献2の段落番号である。)。
「基板(材質:ガラス、厚み:0.7mm)をスパッタ装置内に導入し、基板の表面上にスパッタ法により、透明電極膜(材質:ITO、厚み:150nm)を形成して、透明電極膜付基板を得て、ここで、得られた透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率は51.7Ω/□であり、(【0029】)
得られた透明電極膜付基板の透明電極膜の表面に、ウシオ電機社製のフラッシュアニール装置を用いて、フラッシュ光を照射して、透明電極膜にフラッシュランプによるアニール処理を施して、改質後の透明電極膜付基板を得て、(【0030】)
改質後の透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率は18.4Ω/□である、(【0031】)方法であって、
前記アニール処理を施した際には、前記透明電極膜は通常150~600℃に加熱され、前記アニール処理においては、基板の熱劣化や熱ひずみを十分に抑制しつつ透明電極膜を改質するという観点から、透明電極膜の温度は200~300℃となるように、光パルス持続時間や光照射量を調整することが好ましい(【0024】)、方法」
イ 周知技術
(ア)本願の優先日前に公開され、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された米国特許出願公開第2014/0242746号明細書(平成26年8月28日出願公開)には、以下の記載がある。なお、引用文献1の記載は、当審の訳文で示す。
「[0031] 一実施形態では、層108の厚さは、60-120nmの範囲であり、好ましくは80-100nmの範囲とすることができる。1つの特に有用な実施形態では、ITO層の厚さは約90nmである。層108は、150℃よりも低い温度で無線周波数(RF)、直流(DC)スパッタリング又はパルスDCスパッタリングによって堆積させることができる;特に有用な実施形態において、ITO層108は50℃未満、及び特に室温(20℃程度)の温度で、RF、DC又はパルスDCスパッタリングによって堆積させることができる。」
(イ)本願の優先日前に公開され、令和4年6月14日付けの拒絶理由で引用文献2として引用された特表2015-504035号公報(出願公開平成27年2月5日)には、以下の記載がある。
「【0081】
図8は、特定の実施形態例により、IRヒータを含むシステムの概略図である。図8例のシステムは、基板上に1つ以上の薄膜層を、例えば、スパッタリングによって物理的に蒸着するためのコータ102を含む。コータ102の下流にはIRヒータ104がある。特定の実施形態例において、室温スパッタリング装置は、ガラス基板にITOを蒸着することに用いてもよい。コンベアベルトシステム106は、層又は層スタックを蒸着する蒸着コータ102を介して、基板をIRヒータ104に伝達する。IRヒータ104は、次に、コーティングされた基板でNIR-SWIR照射に焦点を合わせるように調整される。例えば、多層コーティング内に基板及び/又は任意のその他の層に比べて、コーティング又は好ましくはコーティング内の特定の層を加熱するためのIR照射波長が選択される。」
(ウ)本願の優先日前に公開され、令和4年6月14日付けの拒絶理由で引用文献4として引用された特表2013-522147号公報(出願公開平成25年6月13日)には、以下の記載がある。
「【0023】
TCO層及び/または不活性トップコーティングの堆積を好ましくはPVD(物理蒸着)またはCVD(化学蒸着)により、特に好ましくはスパッタリングにより、とりわけ好ましくはカソードスパッタリング及び/またはマグネトロンスパッタリングにより行う。堆積を室温で行うことが好ましい。」
「【0027】
好ましくは、TCO層はスズをドープした酸化インジウム(ITO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO,SnO2:F)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO,SnO2:Sb)、アルミニウム、亜鉛、インジウム、ガリウム、銀、金、スズ、タングステン、銅、カドミウム、ニオブ、ストロンチウム、ケイ素、亜鉛[sic]、セレン、及び/またはその混合物または合金を含有している。」
(エ)以上から、ITOをスパッタ法により形成する際に室温で行うことは、本願の優先日前における周知技術である。
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「透明電極膜付基板」は、「基板(材質:ガラス、厚み:0.7mm)をスパッタ装置内に導入し、基板の表面上にスパッタ法により、透明電極膜(材質:ITO、厚み:150nm)を形成して」得られるものであるから、上記「透明電極膜付基板」は、「基板」が「透明電極膜」により被覆される物品、すなわち、被覆物品であるといえる。
したがって、引用発明の「透明電極膜付基板」は、本件補正発明の「被覆物品」に相当する。
また、引用発明において、「得られた透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率は51.7Ω/□であり」、「改質後の透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率は18.4Ω/□である」から、改質前の「透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」は「51.7Ω/□」であり、「改質後の透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」は「18.4Ω/□」であるといえる。
そうすると、引用発明は、「透明電極膜付基板」の表面抵抗率を低減させる方法であるといえる。
そして、引用発明の「表面抵抗」の単位と、本件補正発明の「シート抵抗」の単位は、いずれも「Ω/□」であるから、引用発明の「表面抵抗」は、本件補正発明の「シート抵抗」に相当する。
以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、「被覆物品のシート抵抗を低減させる方法」である点で共通する。
イ 引用発明は、「基板(材質:ガラス、厚み:0.7mm)をスパッタ装置内に導入し、基板の表面上にスパッタ法により、透明電極膜(材質:ITO、厚み:150nm)を形成」するものであるから、「150mm」の厚さを有し、材質が「ITO」である「透明電極膜」を「基板の表面上」に形成させるステップを有しているといえる。そして、「ITO」が透明導電性酸化物であることは技術常識であり、「基板の表面上」に形成される「透明電極膜」は、「基板」を被覆するものであるから、「透明導電膜」は、透明導電性酸化物層であって、当該透明導電性酸化物層を含む被覆であるといえる。
また、引用発明において、「透明電極膜」を「基板の表面上」に形成することは、「透明電極膜」を「基板」に付着させることといえる。
そして、引用発明における「透明電極膜」の厚さである「150nm」は、本件補正発明の「透明導電性酸化物層を含む被覆」の厚さである「127.9nm~950nm」の範囲に含まれているから、引用発明の「透明電極膜」は、「127.9nm~950nm」の厚さを有するといえる。
以上から、引用発明の「透明電極膜(材質:ITO、厚み:150nm)」は、本件補正発明の「透明導電性酸化物層」及び「透明導電性酸化物層を含む被覆」に相当し、引用発明の「基板」は、本件補正発明の「基材」に相当し、本件補正発明と引用発明とは、「127.9nm~950nmの厚さを有する透明導電性酸化物層を含む被覆を基材に付着させるステップ」を含んでいる点で共通する。
ウ 引用発明は、「得られた透明電極膜付基板の透明電極膜の表面に、ウシオ電機社製のフラッシュアニール装置を用いて、フラッシュ光を照射して、透明電極膜にフラッシュランプによるアニール処理を施して、改質後の透明電極膜付基板を得て」いるから、「透明電極膜」を「フラッシュランプ」により「アニール処理」するステップを有しているといえる。
そうすると、引用発明の「フラッシュランプ」により「アニール処理」することは、本件補正発明の「フラッシュ・アニーリングにより処理する」ことに相当し、引用発明と本件補正発明とは、「前記透明導電性酸化物層をフラッシュ・アニーリングにより処理するステップ」を含んでいる点で共通する。
エ 引用発明は、「得られた透明電極膜付基板の透明電極膜の表面に、ウシオ電機社製のフラッシュアニール装置を用いて、フラッシュ光を照射して、透明電極膜にフラッシュランプによるアニール処理を施して、改質後の透明電極膜付基板を得て、
改質後の透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率は18.4Ω/□」であり、「前記アニール処理を施した際には、前記透明電極膜は通常150~600℃に加熱され」るものである。
ここで、上記アで検討したとおり、「改質後の透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」は「18.4Ω/□」であるといえる。
そうすると、引用発明は、「透明電極膜」が「フラッシュランプ」により「アニール処理」されることにより、「透明電極膜」の表面は加熱され、「フラッシュランプ」により「アニール処理」された後の「透明電極膜付基板」の「表面抵抗率は18.4Ω/□」であるといえる。
そして、引用発明の「アニール処理」された後の「透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」である「18.4Ω/□」は、本件補正発明の「フラッシュ・アニーリングされた後の前記被覆物品のシート抵抗」である「20Ω/□以下」の範囲に含まれているから、引用発明の「アニール処理」された後の「透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」は、「20Ω/□以下」であるといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、「前記透明導電性酸化物層がフラッシュ・アニーリングされることにより、前記透明導電性酸化物層の表面が加熱され、フラッシュ・アニーリングされた後の前記被覆物品のシート抵抗は、20Ω/□以下である」点で共通する。
オ 以上から、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「被覆物品のシート抵抗を低減させる方法であって、127.9nm~950nmの厚さを有する透明導電性酸化物層を含む被覆を基材に付着させるステップと、前記透明導電性酸化物層をフラッシュ・アニーリングにより処理するステップとを含み、前記透明導電性酸化物層がフラッシュ・アニーリングされることにより、前記透明導電性酸化物層の表面が加熱され、フラッシュ・アニーリングされた後の前記被覆物品のシート抵抗は、20Ω/□以下である方法。」
<相違点>
相違点1:「127.9nm~950nmの厚さを有する透明導電性酸化物層を含む被覆を基材に付着させるステップ」について、本件補正発明は「室温」で行うのに対し、引用発明は、室温で行うかどうか不明である点。
相違点2:「前記透明導電性酸化物層をフラッシュ・アニーリングにより処理するステップ」について、本件補正発明は、「前記透明導電性酸化物層が224℃(435°F)以上かつ470℃(878°F)を超えない温度に到達するように」行うのに対し、引用発明は、「前記アニール処理を施した際には、前記透明電極膜は通常150~600℃に加熱され、前記アニール処理においては、基板の熱劣化や熱ひずみを十分に抑制しつつ透明電極膜を改質するという観点から、透明電極膜の温度は200~300℃となるように、光パルス持続時間や光照射量を調整することが好ましい」点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
上記(2)イ(エ)で示したとおり、ITOをスパッタ法により形成する際に室温で行うことは、本願の優先日前における周知技術であるから、引用発明において、「基板の表面上にスパッタ法により、透明電極膜(材質:ITO、厚み:150nm)を形成」するステップを、室温で行うことは、当業者であれば適宜なし得るものである。
イ 相違点2について
本願明細書の【0004】(上記(2)ア(ア))の記載によれば、引用発明が解決しようとする課題は、「基板と、前記基板上に形成された透明電極膜とを備える透明電極膜付基板における透明電極膜の改質方法において、基板の熱劣化や熱ひずみを十分に抑制しつつ、透明電極膜の抵抗率を短時間で効率よく且つ十分に低下させることが可能な透明電極膜の改質方法、並びにその方法を用いた透明電極膜付基板の製造方法を提供すること」である。
そして、引用発明は、「前記アニール処理を施した際には、前記透明電極膜は通常150~600℃に加熱され、前記アニール処理においては、基板の熱劣化や熱ひずみを十分に抑制しつつ透明電極膜を改質するという観点から、透明電極膜の温度は200~300℃となるように、光パルス持続時間や光照射量を調整することが好ましい」ものであるから、引用発明において、「アニール処理を施した際」の「透明電極膜」の温度は、「通常150~600℃」の温度範囲であり、この温度範囲は、相違点2に係る本件補正発明の「前記透明導電性酸化物層をフラッシュ・アニーリングにより処理するステップ」における温度範囲である「224℃(435°F)以上かつ470℃(878°F)を超えない温度」を包含している。
また、引用発明においては、「透明電極膜にフラッシュランプによるアニール処理を施して、改質後の透明電極膜付基板を得て、
改質後の透明電極膜付基板における透明電極膜の表面抵抗率は18.4Ω/□」であり、ここで、上記(3)アで検討したとおり、「改質後の透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」は「18.4Ω/□」であるといえるから、「フラッシュランプによるアニール処理を施し」た後の「透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」は「18.4Ω/□」である。
そうすると、引用発明において、「フラッシュランプによるアニール処理を施し」た後の「透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」を「18.4Ω/□」とするために、「アニール処理を施した際」の「透明電極膜」の温度を、通常の温度範囲である「150~600℃」の範囲内で調整することは、当業者であれば当然に行うものであり、「基板(材質:ガラス、厚み:0.7mm)」の熱劣化や熱ひずみを十分に抑制しつつ、透明電極膜の抵抗率を短時間で効率よく且つ「18.4Ω/□」に低下させるために、「透明電極膜」の温度を224℃(435°F)以上かつ470℃(878°F)を超えない温度とすること、すなわち、本件補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば格別困難なこととはいえない。
ウ 本件補正発明の「ITOの結晶形成を増大させるために必要とされる最小表面温度に集中することによって、エネルギーの節約による大きな利益が得られる」(本願明細書【0120】)、「より薄い透明導電性酸化物層のシート抵抗を改善する費用効果の高い手法を提供」(同【0134】)するという効果について検討するに、引用発明においては、「透明電極膜の表面抵抗率」が「51.7Ω/□」であったのを、「透明電極膜にフラッシュランプによるアニール処理を施」すことによって「18.4Ω/□」とするものであり、ここで、「フラッシュランプによるアニール」が、短時間の局所アニールであることは技術常識であるから、引用発明において、エネルギーが節約され、薄くても表面抵抗率が低い透明電極膜が得られることは、当業者にとって自明の事項であるといえる。
そうすると、本件補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
(5)請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の【請求の理由】【本願発明が特許されるべき理由】「(6)理由4(特許法第29条第2項)について」の(ホ)において、「本発明は、透明導電性酸化物被覆基板の抵抗率を低減するための時間と費用を節約する結果となる特定の範囲のパラメータ(TCO層の厚さおよびフラッシュアニールの温度)を決定するものである。これらのパラメータは、引用文献1-3のいずれにも開示も示唆もされておらず、また当業者が容易になし得るものでもない。したがって、当業者がいかに引用文献1-3を組み合わせたとしても、本発明が得られることはない。」と主張している。
しかし、上記(3)イ及びエで検討したとおり、本件補正発明の「透明導電性酸化物層」が「127.9nm~950nmの厚さを有する」こと、及び、「フラッシュ・アニーリングされた後の前記被覆物品のシート抵抗」が「20Ω/□以下である」ことについては、いずれも、引用発明との相違点ではない。
また、上記(4)イで検討したとおり、引用発明において、「フラッシュランプによるアニール処理を施し」た後の「透明電極膜付基板」の「表面抵抗率」を「18.4Ω/□」とするために、「アニール処理を施した際」の「透明電極膜」の温度を、通常の温度範囲である「150~600℃」の範囲内で調整することは、当業者であれば当然に行うものであるから、その温度を224℃(435°F)以上かつ470℃(878°F)を超えない温度とすること、すなわち、本件補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば格別困難なこととはいえない。
そして、請求人が主張している本件補正発明の「透明導電性酸化物被覆基板の抵抗率を低減するための時間と費用を節約する」との効果は、上記(4)ウの検討を参酌すると、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
イ 請求人は、令和6年5月28日提出の上申書の【上申の内容】(5)において、本発明は、特定の範囲の厚さを有する透明導電性酸化物層を、特定の範囲の温度でフラッシュ・アニーリングすることで、透明導電性酸化物層のシート抵抗が20Ω/□未満となるという知見に基づくものであり、本発明はまた、シート抵抗を20Ω/□未満に低減させるためには、透明導電性酸化物層を構成する材料の種類によらず、フラッシュ・アニーリングの温度範囲が重要であるという知見に基づくものであり、透明導電性酸化物層のシート抵抗を20Ω/□未満に低減させるための具体的な構成材料、厚さ範囲、及びフラッシュ・アニーリングの温度範囲は、以下の表に示される。
[図:0001425252000001.jpg]
引用文献1-3には、透明導電性酸化物層の厚さ及びフラッシュ・アニーリングの温度について、上記の表と部分的に重なる条件の記載があるかもしれないが、上記の表に示すような特定の厚さ範囲及び特定の温度範囲は記載されていない旨主張している。
しかし、上記の表の透明導電性酸化物層のうち、ITOについては、層の厚さが127.9nm~950nm、フラッシュ・アニーリングの温度が224℃~470℃で、シート抵抗が20Ω/□未満に低減することは、本願明細書【0117】の【表2】に記載されているといえるものの、GZO及びAZOについては、フラッシュ・アニーリングの温度は、本願明細書には記載されていないから、フラッシュ・アニーリングの温度が224℃~470℃で、シート抵抗が20Ω/□未満に低減するとはいえない。
なお、本願明細書【0121】の【表4】では、GZOの厚さが160nmの場合(フラッシュ・アニーリングの温度は不明)、フラッシュ・アニーリング済みのシート抵抗は36.6Ω/□であり、20Ω/□未満にはなっていないし、また、同【0128】の【表5】(当審注:【表5】の「フラッシュ・アニーリングされず」は、【0129】~【0131】の記載を参酌すると、「フラッシュ・アニーリング済み」の誤記である。)では、AZOの厚さが172nmの場合(フラッシュ・アニーリングの温度は不明)、フラッシュ・アニーリング済みのシート抵抗は46.9Ω/□であり、20Ω/□未満にはなっていない。
そうすると、透明導電性酸化物層の厚さが127.9nm~950nmであり、フラッシュ・アニーリングの温度が224℃~470℃であれば、透明導電性酸化物層のシート抵抗が必ず20Ω/□未満になるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は、本願明細書の記載に基づくものではないから、採用できない。
(6)以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和6年1月11日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~13に係る発明は、令和5年6月15日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~6、8~13に係る発明は、本願の優先日前に頒布された以下の引用文献2に記載された発明及び周知技術(引用文献1、3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:米国特許出願公開第2014/0242746号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献2:特開2010-067558号公報
引用文献3:特表2010-514666号公報(周知技術を示す文献)
3 引用文献の記載及び引用発明等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2の記載、引用文献2に記載された発明及び周知技術は、上記第2[理由]2(2)ア(ア)、(イ)、及び、イ(エ)に示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明の「透明導電性酸化物層を含む被覆」の厚さの下限である「127.9nm」を「125nm」に拡張したものであるところ、上記第2[理由]2(3)イの検討を参酌すると、引用発明における「透明電極膜」の厚さである「150nm」は、本願発明の「透明導電性酸化物層を含む被覆」の厚さである「125nm~950nm」の範囲に含まれているから、引用発明の「透明電極膜」は、「125nm~950nm」の厚さを有するといえ、本願発明の「125nm~950nmの厚さを有する透明導電性酸化物層を含む被覆を基材に付着させるステップ」は、引用発明との相違点とはならない。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記相違点1、2で相違し、これらの相違点については、上記第2[理由]2(4)で検討したとおりであるから、本願発明は、本件補正発明と同様に、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-000379