特許拒絶査定不服審判
2016-005487
幹細胞集合体懸濁液組成物、その分化方法
- 審判番号
- 2016-005487
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-211900外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月13日
- 審決日
- 2018年03月05日
- 公報発行日
- 2018年09月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイアサイト インク
- 【請求人代理人】辻永 和徳
- 分類
- P18 .113-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-211900「幹細胞集合体懸濁液組成物、その分化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日出願公開、特開2014- 36660〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成20年11月4日を国際出願日とする特願2011-534478号の一部を新たな特許出願として平成25年10月9日に出願されたもので、平成成27年12月4日付けで拒絶査定がなされた。本件拒絶査定不服審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成28年4月13日 審判請求書、手続補正書
平成28年5月9日 手続補正書(審判請求の理由)
平成29年6月16日 拒絶理由通知
平成29年12月15日 意見書、手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項1~9に係る発明は、平成29年12月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるものであり、このうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 生理的に許容できる媒体中に懸濁された、霊長類多能性細胞から分化された霊長類細胞の集合体であって、該分化された霊長類細胞の集合体は、SOXl7、HNF3beta、HNFlbeta、PDXl、NKX6.1、PTF1A、NGN3、およびNKX2.2から成る群から選択される少なくとも1つのマーカーを発現する、分化された霊長類細胞の集合体。」(以下、「本願発明」という。)
第3 当審の判断
1 刊行物1に基づく新規性欠如
(1)刊行物1の記載事項
平成29年6月16日付け拒絶理由で引用文献2として引用された、本願の原出願の日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/131209号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、以下の日本語訳による摘記は、刊行物1に対応する日本語出願の公表公報である特表2009-536035号公報の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。下線は当審にて付記したものである。)
ア 「本明細書では、膵島様細胞または単球由来島細胞(MDI)を生成する方法が提供される。」(段落【0006】)
イ 「本明細書ではまた、糖尿病を治療する方法であって、MDIを必要とする患者に投与することを含む場合がある、方法も提供される。」(段落【0008】)
ウ 「(実施例1)MDIの分化
単離末梢血単球を・・・一晩培養した。・・・24時間後、培養培地を除去し、細胞を・・・洗浄した。・・・脱分化培地を添加した。3日後、培地を除去し、新鮮な脱分化培地と交換した。培養6日後、細胞は単球由来幹細胞(MDSC)に脱分化した。
MDSCは、1×HBSSで2回洗浄した。細胞に膵臓分化培地を添加し、それらを培養した。・・・
膵臓分化培地において、18時間後に細胞の集合体を認めた(図1)。集合体の数とサイズは、その後数日にわたって増大した(図2)。膵島集合体または集塊は、種々の異なるサイズの細胞から構成され、これは1つの集合体または集塊につき総数が約10個から数百個の細胞の範囲であった。・・・
培養6日後、集合体はプレートから分離し、浮遊集塊となった。4~6日に始まり、インスリン、c‐ペプチド、およびglut2などの、膵臓因子またはホルモンが、まず膵臓分化条件下で培養したMDSCに由来するMDIにおいて検出されたが、脱分化MDSC培養物においては膵臓因子またはホルモンは検出されなかった。」(段落【0024】~【0027】)
エ 「(実施例2)膵臓遺伝子発現
MDSCのMDIへの分化を監視するために、リアルタイムPCRによって膵臓特異的遺伝子の発現を分析した。・・・MDSCは、実施例1に記載の通り生成した。1組のMDSCを脱分化培地中に維持した。第2の組は、膵臓分化培地で6日間培養した後、高グルコース条件で検証した。
・・・図4は、種々の条件下におけるngn3、PDX1、およびソマトスタチンの相対的遺伝子発現の割合を示す。」(段落【0028】~【0031】)
オ 「【図4】膵臓分化1~12日目の膵臓遺伝子の発現を示すグラフである。遺伝子発現はリアルタイムPCRにより分析した。低濃度または高濃度グルコースの存在下における脱分化培地(de‐diff)または膵臓分化培地(Pan diff)で成長させた細胞の発現プロファイルが示されている。」(段落【0088】)
カ 「図4
」
キ 「(実施例9)単球由来島細胞がインスリンおよびグルカゴン発現の増加を示す
以下では、高グルコースレベルの膵臓培地を使用するMDSCに由来するMDIが、増殖速度の増加に関連して、内分泌特異的マーカーを発現することを明らかにする。・・・
上記の結果は、MDIが内分泌特異的マーカーを発現し、主要膵臓細胞型(α、β、およびδ)から構成されることを明らかにしている。・・・MDIの組成は、およそβ細胞60%超、α細胞10~25%、およびδ細胞1~5%であった。MDIは、ヒトの膵島で見られるものと類似する細胞組成を示した。」(段落【0045】~【0048】)
ク 「(実施例12)ヒト単球由来島細胞は糖尿病マウスを治療できる
以下では、ヒト被験体から単離したMDSCに由来するMDIが、マウスにおける糖尿病を治療できることを明らかにする。・・・
マウスの右腎皮膜下空間に、約500個のインスリン産生集塊(または約1×106個の細胞を含む懸濁液)またはヒト被験体由来の5×106個のMDSCを移植した。・・・
A~D群を以下に記載の通りに処置した(マウス合計24匹)。
(A)・・・
(B)500個の島集塊(初期)(高グルコース条件下で3~6日間培養)(15日目すなわち「15日目」のMDI)を移植して3~12週間監視し、移植片を摘出した後、さらに2週間のグルコースモニタリングを継続した。15日目MDIは高グルコース条件に3日間暴露されており、PDX1、ソマトスタチン、およびngn3発現の増加を示した。」(段落【0064】~【0069】)
(2)引用発明1
刊行物1は、糖尿病患者に投与するために、単離単球由来幹細胞(以下、「MDSC」という。)から膵島様細胞または単球由来島細胞(以下、「MDI」という。)を分化誘導することを開示したものであって(上記(1)ア、イ)、実施例1には、単離末梢血単球を脱分化してなるMDSCを膵臓分化培地で6日培養することにより、MDIが浮遊凝集塊として得られたことが(上記(1)ウ)、実施例2には、実施例1と同様にして得られた培養6日目以降のMDIがngn3およびPDX1を発現したことが(上記(1)エ、オ、カ)、それぞれ示されているから、MDI浮遊凝集塊がngn3およびPDX1を発現することがわかる。実施例1および2に示されたMDI浮遊凝集塊がどのような動物種のものであるかについては明記こそないものの、刊行物1が糖尿病患者の治療を目的としており、MDI生成のための出発材料である末梢血をヒトから採取することは広く行われるごく平易な医療行為であることに照らすと、ヒトのものであると考えるのが自然である。
また、実施例12のB群の移植に用いられたヒトMDIは、ヒトMDSCから得られた培養15日目の集塊であって、PDX1およびngn3を発現するものであり(上記(1)ク)、実施例1に照らすと培養中に浮遊凝集塊になっていると認められるし、移植前には懸濁液状態にあると認められる。
したがって、刊行物1には次のとおりの発明が記載されているに等しいといえる。
「培地中に浮遊する、ヒトMDSCから分化されたヒトMDI凝集塊であって、該凝集塊は、ngn3およびPDX1を発現する、凝集塊。」(以下、「引用発明1」という。)
(3)対比判断
引用発明1の「培地」、「浮遊する」、「ヒト」、「MDI凝集塊」および「ngn3」が、それぞれ、本願発明の「生理的に許容できる媒体」、「懸濁された」、「霊長類」、「細胞の集合体」および「NGN3」に該当することは明らかである。
また、引用発明1の「MDSC」は、上記(1)キのとおり、α細胞、β細胞及びγ細胞といった、膵島で見られる様々な種類の細胞に分化できる幹細胞である。一方、本願発明の「多能性細胞」は、本願明細書(段落【0078】)によれば、multipotent cellであって、「部分的に成熟している細胞(partially mature cells)」、「前駆細胞(progenitor cells)」、「未熟細胞(immature cells)」、及び「前駆体細胞(precusor cells)」と同等で、内胚葉細胞、PDXl陰性前腸内胚葉細胞、PDXl陽性プレ膵性内はい葉細胞、PDXl陽性の膵性内はい葉細胞、PDXl陽性膵性内胚葉端細胞などを含む用語である。したがって、引用発明1の「MDSC」は、本願発明の「多能性細胞」に該当するものである。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、相違するところがない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 刊行物2に基づく新規性欠如
(1)刊行物2の記載事項
平成29年6月16日付け拒絶理由で引用文献5として引用された、本願の原出願の日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/103282号(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。(実施例については、実施例20の一部のみ摘記するが、実施例1~19には、ヒト胚性幹細胞を成熟膵臓内分泌細胞まで段階的に分化させたことを示す具体的データが詳細に記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、刊行物2に対応する日本語出願の公表公報である特表2009-528066号公報の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。下線は当審にて付記したものである。)
ア 「未分化hESCを内分泌前駆細胞及び未熟膵島ホルモン発現細胞に、並びに最終的にin vitroでインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド、PPY及びグレリンを合成することができる成熟膵臓内分泌細胞(成熟膵島ホルモン発現細胞)に変換する工程の進行が本明細書に記載される。」(段落【0393】)
イ 「図1で示されるように、膵臓内分泌細胞は、一連の発生段階でhESCから効率的に産生することができる。第1段階は、Tボックス遺伝子ブラキュリの移行発現を特徴とする内胚葉系中胚葉(ME)の形成である。hESCはDEに分化するにつれ、E-カドヘリン及び、上皮性外胚葉状態から間葉性DE細胞への移行を下方調節する(D 'Amour et al. Nat. Biotech. 23, 1534-1541,(2005))。初期DE細胞を規定する主なマーカーは、FOXA2、GSC、N-カドヘリン、CXCR4及びSOX17である。本発明者らの以前の米国特許出願第11/021,618号で説明されたように、DEはさらに、或る特定の他のマーカー、例えばSOX1、SOX7、トロンボモジュリン(TM)、SPARC及びαフェトプロテイン(AFP)の有意な発現の欠如を特徴とする。新生DEは、アクチビンのシグナル伝達の除去によって、その強い前部特徴からより後部へさらにパターン形成されるが、依然として前腸内胚葉である。このような前腸内胚葉は、HNF1b及びFOXA1遺伝子マーカーの発現を特徴とする。この内胚葉は展開し(expands)、FGF10、レチノイン酸及びシクロパミン(ソニックヘッジホッグ(SHH)阻害剤)に曝されることによってより背部の表現型になると考えられる。前腸胚後部(前腸胚の後部領域)パターン形成細胞は、PDX1、PTF1a、HNF1b、Onecut1/2及びHB9を発現する。内分泌前駆細胞を示すこれらの膵臓内胚葉細胞は、NGN3の一時的発現によって示されるように(潜在的にノッチ経路シグナル伝達の阻害による)γ-セクレターゼシグナル伝達の調節によって内分泌系統に優先的に補充される。hESC由来内分泌前駆細胞は、ペアードボックス遺伝子4(PAX4)及びNKX2.2も発現する。内分泌前駆細胞のさらなるインキュベートによって、未熟膵島ホルモン発現細胞が発生する。未熟膵島ホルモン発現細胞は、V-maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子ホモログB(MAFB)並びにNKX2.2を発現し、膵島ホルモン発現細胞はNKX2.2を発現する。最終的に、未熟膵島ホルモン発現細胞のさらなるインキュベートによって、未熟細胞から、内分泌ホルモンである、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、-PPY、グレリン及び膵臓転写因子NKX2.2/6.1、PAX6、NEUROD1、PDX1、ISL1の他に、V-maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子ホモログA(MAFA)を発現することができる成熟膵島ホルモン発現細胞に移行される。」(段落【0396】)
ウ 「[実施例20]膵臓上皮のin vivo成熟
hESC由来材料が、機能的なインスリン産生細胞にさらに分化する能力をさらに研究するために、本発明者らは、in vitro分化細胞を免疫不全マウス(SCID/Bg)に移植した。これを達成するために、改良したマキルベン組織チョッパーを用いて、様々な分化プロセスの段階でのコンフルエント(confluent)細胞を機械的にスコア付けし(Joannides et al., (2006). Stem Cells 24:230-235(その開示内容全体が参照により本明細書に援用される)を参照されたい)、その後培養のために非接着プレートに移した。得られた集合体をゼラチンスポンジ足場(Gelfoam、Pharmacia)上にピペッティングし、マトリゲル(BD)で被覆した。それぞれ直径8mm×2mmの足場に集合体25μl~40μlを入れた。続いて、2つのこれらの組織構築物をそれぞれのマウスの精巣上体脂肪体に移植した。移植片材料をin vivoで分化及び成熟させた。」(段落【0710】~【0711】)
エ 「図1
」(図のタイトルは「ヒト胚性幹細胞から膵島細胞までの段階的な分化」で、図中の「ESC」、「ME」、「Ant.DE」、「Foregut endoderm」、「Pancreatic endoderm」、「Endocrine」、および「Islet cells」は、それぞれ「胚性幹細胞」、「内胚葉系中胚葉」、「前胚体内胚葉」、「前腸内胚葉」、「膵臓内胚葉」、「内分泌腺」、および「膵島細胞」である。)
(2)引用発明2
刊行物2は、hESC(ヒト胚性幹細胞)から成熟膵臓内分泌細胞まで段階的に分化させることを開示したものであって(上記(1)ア、イ、エ)、実施例20には、様々な分化プロセスの段階のin vitro分化細胞を非接着プレートで培養して集合体を得て、移植用の組織構築物の材料にしたことが記載されている(上記(1)ウ)。
したがって、刊行物2には、次のとおりの発明が記載されているといえる。
「非接着プレートでの培養で得られた、ヒト胚性幹細胞から分化されたヒト細胞の集合体であって、機能的なインスリン産生細胞に至るまでの様々な分化プロセスの段階にある、分化されたヒト細胞の集合体。」(以下、「引用発明2」という。)
(2)対比判断
引用発明2は、「非接着プレートでの培養で得られた」ものであるから、プレートに接着せず、培地中に懸濁状態にあるものと認められる。そして、培地は、本願発明の「生理的に許容できる媒体」に該当するから、引用発明2は「生理的に許容できる媒体中に懸濁された」ものであるといえる。
また、引用発明2の「ヒト」が、本願発明の「霊長類」に該当することは明らかである。
次に、本願発明の「多能性細胞」は、上記1(3)のとおり、multipotent cellであって、pluripotent cellである引用発明2の「胚性幹細胞」とは区別されると解釈する余地があるが、胚性幹細胞を出発しても、分化の途中で内胚葉系中胚葉の前駆細胞等のpluripotent cellを経由することは明らかだから、引用発明2の「霊長類多能性細胞から分化された」と本願発明の「ヒト多能性幹細胞から分化された」とは、どの段階を出発細胞とみるかの表現上の差異にすぎず、実質的な相違ではない。
さらに、引用発明2の「機能的なインスリン産生細胞に至るまでの様々な分化プロセスの段階」が具体的にどのような段階であるかについて刊行物2には明記されていない。しかし、引用発明2は、機能的なインスリン産生細胞に分化する能力を研究するために免疫不全マウスに移植し、in vivoで分化及び成熟させるためのものであって(上記(1)ウ)、「様々な分化プロセスの段階」、すなわち、異なる複数の段階にあるものだから、引用文献2の「機能的なインスリン産生細胞に至るまでの様々な分化プロセスの段階」は、図1(上記(1)エ)の各段階のうち分化プロセスの途上にある、内胚葉系中胚葉、前胚体内胚葉、前腸内胚葉、膵臓内胚葉及び内分泌腺のうちの複数であると認められる。そして、そのような段階にある細胞が発現するマーカー(上記(1)エ)は、本願発明の選択肢に挙げられたマーカーに即して認定すると、SOX17、HNF1beta、PDX1のいずれか1つ、または、NGN3及びNKX2.2ということになるから、引用発明2の「機能的なインスリン産生細胞に至るまでの様々な分化プロセスの段階にある」は、本願発明の「SOXl7、HNF3beta、HNFlbeta、PDXl、NKX6.1、PTF1A、NGN3、およびNKX2.2から成る群から選択される少なくとも1つのマーカーを発現する」に該当するといえる。
以上によれば、本願発明と引用発明2とは、相違するところがない。
したがって、本願発明は、刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-005487