特許拒絶査定不服審判
2023-016143
組換え微生物を用いて炎症性皮膚疾患を処置するための方法および組成物
- 審判番号
- 2023-016143
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-513607
- 請求日
- 2023年09月25日
- 審決日
- 2025年08月14日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アジトラ インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 田中 晴絵
- 審判官 荒木 英則
- 分類
- P18 .113-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-513607「組換え微生物を用いて炎症性皮膚疾患を処置するための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月14日国際公開、WO2019/050898、令和 2年12月17日国内公表、特表2020-536499〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年9月5日(パリ条約による優先権主張 2017年9月5日及び2018年6月15日、いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 8月31日付け 拒絶理由通知書
令和5年 3月 6日 意見書、手続補正書の提出
同 年 5月10日付け 拒絶査定
同 年 9月25日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年9月25日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和5年9月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、
(補正前)「【請求項1】
フィラグリン(FLG)ポリペプチドを分泌することができる組換え微生物であって、該フィラグリンポリペプチドを発現することができる遺伝子を含む第1のコード配列と、細胞透過性ペプチドを発現することができる遺伝子を含む第2のコード配列とを含む発現ベクターを含み、該フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を含む、組換え微生物。」
から
(補正後)「【請求項1】
フィラグリン(FLG)ポリペプチドを分泌することができる組換え微生物であって、該フィラグリンポリペプチドを発現することができる遺伝子を含む第1のコード配列と、細胞透過性ペプチドを発現することができる遺伝子を含む第2のコード配列とを含む発現ベクターを含み、該フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を含み、
前記FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])は、配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有し、
前記組換え微生物は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ブレヴィバクテリウム(Brevibacterium)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)、ラクトコッカス(Lactococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、もしくはオエノコッカス(Oenococcus)、およびその組合せからなる群から選択される、
前記組換え微生物。」(以下、「本件補正発明」という。)
に補正された。(下線部は補正箇所である。)
2 補正の適否
本件補正は、
「FLGドメイン[9-10]」について、本願の願書に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の段落0009、0056~0057、実施例、及び配列表、並びに、本願の願書に添付した図面(以下、「本願図面」という。)の図13の記載に基づき、「配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有」する場合に限定し、
「組換え微生物」について、本願明細書の段落0010、及び、拒絶査定時の請求項8(拒絶理由通知時の請求項9に相当)の記載に基づき、「ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ブレヴィバクテリウム(Brevibacterium)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)、ラクトコッカス(Lactococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、もしくはオエノコッカス(Oenococcus)、およびその組合せからなる群から選択される」場合に限定するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものを含むと認められる。
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)(以下、「独立特許要件」という。)について、以下、検討する。
3 独立特許要件の検討
(1) 特許法第29条第1項第3号(いわゆる新規性の欠如)について
ア 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2017-518370号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(ア) 特許請求の範囲
「……
【請求項11】
異常な皮膚状態の治療又は予防を必要とするヒトの当該状態の治療又は予防方法であって、以下、当該ヒトに、ビフィドバクテリウム、ブレビバクテリウム、プロピオニバクテリウム、ラクトコッカス、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、ラクトバチルス、エンテロコッカス、ペディオコッカス、ロイコノストック、又はオエノコッカス、及びそれらの混合物から選択される細菌株を含有する細胞培養組成物を投与することを含み、ここで、当該細胞培養組成物が、異常な皮膚状態を治療し又は予防するための(a)フィラグリンのアミノ酸配列、(b)分泌シグナル、及び(c)細胞膜透過性ペプチド(cell penetrating peptide)を含む組換えポリペプチドの治療上有効量を産生する少なくとも1つの操作された細菌株を含有する、方法。
【請求項12】
前記細胞培養組成物が表皮ブドウ球菌を含有する、請求項11に記載の方法。
……
【請求項15】
前記フィラグリンのアミノ酸配列が配列番号1を含む、請求項11に記載の方法。
……
【請求項29】
異常な皮膚状態の治療又は予防を必要とするヒトの当該状態の治療又は予防用の医薬組成物であって、以下、(I)ビフィドバクテリウム、ブレビバクテリウム、プロピオニバクテリウム、ラクトコッカス、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、ラクトバチルス、エンテロコッカス、ペディオコッカス、ロイコノストック、又はオエノコッカス、及びそれらの混合物から選択される細菌株を含有する細胞培養組成物であって、異常な皮膚状態を治療し又は予防するための、(a)フィラグリンのアミノ酸配列、(b)分泌シグナル、及び(c)細胞膜透過性ペプチドを含む組換えポリペプチドの治療上有効量を産生する少なくとも1つの操作された細菌株を含有する、細胞培養組成物、ならびに、(II)薬学的に許容される担体、を含有する、医薬組成物。
【請求項31】
前記細胞培養組成物が表皮ブドウ球菌を含有する、請求項29に記載の医薬組成物。
……
【請求項34】
前記フィラグリンのアミノ酸配列が配列番号1を含む、請求項29に記載の医薬組成物。
……
【請求項43】
異常な皮膚状態の治療又は予防を必要とするヒトの当該状態の治療又は予防用の医薬の製造のための細胞培養組成物の使用であって、当該細胞培養組成物が、ビフィドバクテリウム、ブレビバクテリウム、プロピオニバクテリウム、ラクトコッカス、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、ラクトバチルス、エンテロコッカス、ペディオコッカス、ロイコノストック、又はオエノコッカス、及びそれらの混合物から選択される細菌株を含有し、異常な皮膚状態を治療し又は予防するための(a)フィラグリンのアミノ酸配列、(b)分泌シグナル、及び(c)細胞膜透過性ペプチドを含む組換えポリペプチドの治療上有効量を産生する少なくとも1つの操作された細菌株を含有する、使用。」
(イ) 段落0070(図面の簡単な説明)
「【0070】
……
【図5】図5は、プラスミドpJB38のベクター設計(Cheung,AL.ら(2004))を示す。制限部位はベクターのマルチクローニングサイト(MCS)に組み込まれる。ベクターのMCSには、キシロース誘導性プロモーター、リボソーム結合部位、輸出シグナル(例えばSecA輸出シグナル)、フィラグリンモノマーに隣接する部分的FLG(フィラグリン)リピート、及び細胞浸透シグナルを有するフィラグリン発現ベクターが挿入される。pAZT-01のインサートはバイオ・ベーシック・インク(Bio Basic,Inc.)(マーカム、ON、カナダ)によって構築され、pJB38にクローニングされた。
……」
(ウ) 段落0073~0083
「【0073】
1.細菌株
細胞培養組成物
広い範囲の細菌が本発明での使用に適している。例としては、非病原性及び片利共生細菌が挙げられるが、これらに限定されない。本発明での使用に適している細菌には、ビフィドバクテリウム、ブレビバクテリウム、プロピオニバクテリウム、ラクトコッカス、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス(例えば、表皮ブドウ球菌)、ラクトバチルス(例えば、L.アシドフィルス)、ペディオコッカス、ロイコノストック、又はオエノコッカスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
特定の実施形態は細菌の表皮ブドウ球菌の使用を含む。使用されることになる表皮ブドウ球菌の株はバイオフィルムを生成することができない。この例は表皮ブドウ球菌株ATCC12228である。
【0075】
しかしながら、皮膚に見られる他の関連又は類似の種を使用することもできる。
【0076】
2.フィラグリン及びフィラグリン遺伝子
本発明の実施形態で選択された有用な遺伝子はフィラグリン(FLG)をコードする哺乳動物遺伝子である。フィラグリンはケラチノサイトを分化させることによって産生されるタンパク質であり、そして、ケラチンフィラメントを他の成分と組み合わせて周辺帯を含む細胞骨格へと凝集させる役割を果たす。FLGは染色体1q21上に位置する大きな遺伝子であり、タンパク質分解されて機能性フィラグリンモノマーを放出する不要性ポリタンパク質であるプロフィラグリンを産生する(Armengot-Carboら、2014)。本発明のための遺伝子は任意の哺乳動物由来のものとすることができる。非限定的な例としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、イヌ、霊長類、またはヒト遺伝子配列が挙げられる。好ましい実施形態では、当該遺伝子配列はヒト遺伝子配列である。フィラグリンタンパク質の非限定的な例は表1に記載され、その配列はさらに対応する配列表に記載される。
【0077】
【表1】
[図:0001430426000001.jpg]
【0078】
3.分泌シグナル
分泌シグナル又は輸出シグナルは、タンパク質が分泌経路に向かうことになっており、そのため細胞から分泌されることを示す、タンパク質上のペプチドである。細菌細胞の外にタンパク質、例えばフィラグリン分子の排出を促進する任意の分泌シグナルは、分泌シグナルとして考えられる。分泌シグナルの非限定的な例を表2に記載する。
【0079】
【表2】
[図:0001430426000002.jpg]
【0080】
4.細胞膜透過性ペプチド
細胞膜透過性ペプチドは、受容体を使用することなく、そして著しい膜の損傷を引き起こすことなく、イン・ビボでのカーゴ(cargo)の輸送を媒介するために使用することができる。皮膚ケラチノサイトへの侵入を促進する細胞膜透過性ペプチドは本発明の細胞膜透過性ペプチドとして考えられる。非限定的な例を表3に記載する。
【0081】
【表3】
[図:0001430426000003.jpg]
【0082】
5.遺伝子コンストラクト
本発明は標準的な分子生物学技術、例えば(Sambrookら、2001)に記載されるものを利用する。本発明に使用される遺伝子コンストラクトの例は、プラスミドベクターpBT-2(図2)、大腸菌とブドウ球菌(Staphylococcal)種との間の対立遺伝子交換シャトルベクターに基づく(Nakanishi、Oshidaら、1986)。図3のプラスミドは、治療用タンパク質をコードする遺伝子のcDNAをpBT-2のMCSの制限部位に挿入することによって構築される。インサートはプロモーターによって駆動されるコーディング配列を含む。このようなプロモーターは構成的又は誘導性のいずれかとすることができる。誘導性プロモーターの例としては、化学化合物、例えばアルコール、糖類、金属、又はテトラサイクリンによって、あるいは物理的要因、例えば光又は高温によって活性化されるものが挙げられる。
【0083】
遺伝子コンストラクトはプラスミドベクターpJB38、大腸菌とブドウ球菌種との間の対立遺伝子交換シャトルベクターに基づくことができる。(Cheung ALら、2004)参照。ヒトFLGのmRNA配列はジーンバンクアクセッション番号NM_002016を有し、上記配列番号1として再現される。プラスミドpAZT-01(図5)は、FLGのcDNAの一部をpJB38の制限部位に挿入することによって構築することができる。インサートは構成的キシロースプロモーターによって駆動されるコーディング配列を含む。当該コンストラクトは分泌シグナル及び細胞膜透過性ペプチドもコードし、したがってフィラグリン融合タンパク質をもたらす。」
(エ) 実施例1(段落0112~0125)
「【0112】
実施例1 ベクターpAZT-01を用いてエレメントのフィラグリンを発現する表皮ブドウ球菌
A.細菌
黄色ブドウ球菌RN4220株の細菌をベクターの調製に使用した(Kreiswirth、BN.ら、1983)。当該株のストック溶液をブレインハートフュージョン培地(brain heart fusion broth)(BHI)中の50%グリセロール中に、-20℃で保存した。
【0113】
表皮ブドウ球菌株ATCC12228の細菌を使用した(Zhang,YQ.ら、2003)。当該株のストック溶液をブレインハートフュージョン培地(BHI)中の50%グリセロール中に、-20℃で保存した。細菌をブレインハートフュージョン培地(BHI)で培養した。16時間のインキュベーション後、細菌を遠心分離により回収し、ブレインハートフュージョン培地(BHI)中で2×109細菌/100μlに10倍濃縮した。細菌のストック調製物を、5mLの培養液にスラントからの細胞を接種することによって調製した。細胞を30℃で一晩増殖させた。次いで、3mLの十分に増殖した培養物を1mlの60%グリセロールに添加し、-80℃で保存した。
【0114】
B.ベクターへのゲノムの組込
プラスミドAZT-01は、フィラグリン発現インサートを有するシャトルベクターpJB38からなる(図5)(Cheung、AL.ら、2004)。pJB38へのインサートはフィラグリンDNA配列(Genbankアクセッション番号NM_002016)についての完全なオペロン、キシロース-誘導性プロモーターを含み、目的の化合物の生産に使用された。pJB38-FLGベクター(図5)はバイオ・ベーシック・インク(マーカム、ON、カナダ)によって構築され、クローニングされた。
【0115】
C.形質転換
フィラグリン配列を含むベクター、又は異常なヒトの皮膚の治療処置の目的で構築された任意のベクターを以下のステップを含む以下のプロトコルに従って、表皮ブドウ球菌株に形質転換した:黄色ブドウ球菌細菌細胞の調製、黄色ブドウ球菌の形質転換、黄色ブドウ球菌からのプラスミドDNAの単離、表皮ブドウ球菌細菌細胞の調製、表皮ブドウ球菌の形質転換、細菌の増殖、及び形質転換された細菌の保存。代替の中間株も形質転換、及び表皮ブドウ球菌への形質転換のための調製におけるプラスミドDNAの単離に使用することができる。これらの株にはメチル化を欠損した株を含む黄色ブドウ球菌及び大腸菌株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
黄色ブドウ球菌の調製及び形質転換:細胞の調製:黄色ブドウ球菌RN4220細胞を、50mlの培養物を37℃、BHI培地中で一晩増殖させ、次いで100mlの新鮮なBHI培地に一晩培養物の10mlを接種することによって、エレクトロコンピテントにした。OD600が0.2~0.3に達したら、細胞をペレット化し(pelleted)、1x容量の4℃10%スクロースで再懸濁した。本工程を3回繰り返し、次いで細胞を0.1x容量の4℃10%スクロースで再懸濁し、ペレット化し、そして1mlの10%スクロースで再懸濁した。
【0117】
RN4220の形質転換のために、200~500mgのpAZT-01を先に調製したエレクトロコンピテントセルと混合し、そしてMicroPulser Electroporator(バイオ-ラッド(Bio-Rad)、ハーキュリーズ、CA)を使用して2.5kVで室温でのエレクトロポレーションを用いて形質転換した。形質転換された細胞を選択BHI培地上に28℃で一晩プレーティングし、選択BHI培地で一晩増殖させ、次いでDNAを単離するために使用した。
【0118】
表皮ブドウ球菌の調製及び形質転換:エレクトロコンピテント表皮ブドウ球菌ATCC12228を以下の方法を使用して作製した。まず、-80℃のストックからのATCC12228の50mlの一晩培養物をB2培地(1.0%トリプトン、2.5%酵母エキス、0.5%グルコース、2.5%NaCl、0.1%K2PO4、pH7.5)中で、37℃で増殖させた。一晩培養物の10mlを新鮮な予熱した(pre-warmed)B2培地に希釈し、OD600が0.5~0.6に達するまで振とうし、次いで10分間4℃でペレット化した。次に、細胞を1、1/2、1/20、及び1/50容量の冷やした10%グリセロールで洗浄し、洗浄の間に4℃でペレット化した。最終ペレットを700μlの冷やした10%グリセロールに再懸濁した。
【0119】
エレクトロコンピテントATCC12228を、2.5kV、25uF、100Ωでのエレクトロポレーション(Micropulser Electroporator(バイオ-ラッド、ハーキュリーズ、CA)を使用して、通常の読み取りは4.5~5ミリ秒である)を用いて、黄色ブドウ球菌から単離されたpAZT-01で形質転換した。次いで細胞を28℃で選択BHI培地にプレーティングした。
【0120】
細菌の形質転換は、代替の中間株、バクテリオファージ形質導入、及びヒートショックを含むがこれらに限定されない、形質転換の代替方法によって行うこともできる。
【0121】
D.タンパク質発現の誘導
フィラグリン発現を以下の方法でpAZT-01により形質転換されたATCC12228において誘導した。まず、選択BHI培地中で形質転換されたATCC12228の28℃での一晩培養物の5mlを採取して、抗生物質を含む新鮮なBHIの100mlに接種した。細胞をOD600が0.5~0.65に達するまで増殖させ、次いで細胞を最終濃度の1.5%キシロースを用いて4.5時間誘導した。
【0122】
E.タンパク質発現及び分泌の分析
分析のために細胞を分画し、SDS-PAGE電気泳動及びウェスタンブロッティングにより分析した。非誘導試料及び誘導試料からの細菌細胞をペレット化し、CelLytic B細胞溶解試薬(シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)、セントルイス、MO)で溶解した。誘導試料からの上清も回収し、濃縮した。試料を還元試料緩衝液中に再懸濁し、次いでTris-HCLランニングバッファーを用いて4~15%Trisゲル上で電気泳動した。電気泳動後に、ゲルをPVDF膜に転写し、フィラグリンに対する一次ヤギモノクローナル抗体(sc-25897、サンタ・クルズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology,Inc))で順次プローブした。次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ロバ抗ヤギ(anti-goal)抗体(sc-2020)をプローブし、二次抗体を、増強化学発光基質(enhanced chemiluminescence substrate)(SuperSignal West Pico、サーモ・サイエンティフィック(Thermo Scientific))を使用してオートラジオグラフィー(Syngene GeneGnome Bio Imaging System)によって検出した。
【0123】
上清及び細胞溶解物の分析は、目的のタンパク質を含むプラスミドによる形質転換、続くタンパク質発現の誘導にあたり、治療用ポリペプチドの成功した発現及び分泌を実証する。
【0124】
タンパク質発現及び分泌の検出は代替方法を用いても可能であり、現在の実施例は本発明の限定として解釈されるべきではない。
【0125】
F.前述の組成物によるヒト対象の治療
pAZT-01を含む表皮ブドウ球菌の約1x109コロニー形成単位(CFU)を薬学的に許容される担体に加えることができる。前述の組成物は、異常な皮膚状態の治療又は予防を必要とする対象、例えば湿疹などの異常な皮膚状態を有するヒト対象の、当該状態の治療又は予防に有用である。当該組成物は、1日当たり少なくとも1回から、例えば1日当たり約3~4回まで、又は必要に応じてもしくは処方通りに、適用することができる。当該組成物は状態の治療を確実にするため、又は状態を予防し続けるために必要とされる限り使用することができる。治療期間は約1日から約10~14日まで又はそれ以上に変化させることができる。特定の例では、長期又は慢性治療を施すことができる。」
(オ) 図5
「【図5】
[図:0001430426000004.jpg]
」
イ 引用発明
引用文献の「ベクターpAZT-01を用いてエレメントのフィラグリンを発現する表皮ブドウ球菌」に係る実施例1には、フィラグリンDNA配列(Genbankアクセッション番号NM_002016)についての完全なオペロン、キシロース-誘導性プロモーター、輸出シグナル、細胞膜透過性ペプチドをシャトルベクターpJB38マルチクローニングサイト(MCS)に挿入したpJB38-FLGベクター、すなわちプラスミドAZT-01(pAZT-01)が記載され(ア(エ)【0114】、ア(オ)図5、ア(イ))、エレクトロコンピテント表皮ブドウ球菌ATCC12228をpAZT-01で形質転換し(ア(エ)【0119】)、pAZT-01により形質転換されたATCC12228においてフィラグリン発現を誘導したこと(ア(エ)【0121】)が記載されている。
そして、引用文献には「ヒトFLGのmRNA配列はジーンバンクアクセッション番号NM_002016を有し、上記配列番号1として再現される。」(ア(ウ)【0083】)と記載されているから、上記実施例1に係る「フィラグリンDNA配列(Genbankアクセッション番号NM_002016)についての完全なオペロン」とは、ヒトFLGのmRNA配列である配列番号1をコードするフィラグリンDNA配列に相当する。また、引用文献には「分泌シグナル又は輸出シグナルは、タンパク質が分泌経路に向かうことになっており、そのため細胞から分泌されることを示す、タンパク質上のペプチドである。」(ア(ウ)【0078】)と記載されているから、上記実施例1に係る「輸出シグナル」は「分泌シグナル」に相当する。
以上のことから、引用文献には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「フィラグリン発現が誘導される、pAZT-01により形質転換された、スタフィロコッカス細菌株である表皮ブドウ球菌株ATCC12228であって、pAZT-01は配列番号1で表されるヒトフィラグリンをコードする配列、並びに、分泌シグナル及び細胞膜透過性ペプチドをコードする配列を含む、細菌株。」
ウ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の「pAZT-01」はエレクトロポレーションを用いた細胞株への形質転換に使用されたプラスミドベクターである(ア(エ)【0114】及び【0119】、ア(オ)図5、ア(イ))から、本件補正発明の「発現ベクター」に相当する。また、このようなベクターによる形質転換は遺伝子組換えの一種であるから、引用発明の「細菌株」は本件補正発明の「組換え微生物」に相当する。
また、引用発明では、「pAZT-01」に「分泌シグナル」を含むことが記載されるところ、引用文献をみると、分泌シグナルは「タンパク質が分泌経路に向かうことになっており、そのため細胞から分泌されることを示す、タンパク質上のペプチドである」ことが記載される(ア(ウ)【0078】)とともに、実施例1でもタンパク質発現や分泌を分析対象としていることから、引用発明の「細菌株」は本件補正発明における「フィラグリン(FLG)ポリペプチドを分泌することができる」ものといえる。
(イ) 引用発明の「細胞膜透過性ペプチド」について、引用文献では「受容体を使用することなく、そして著しい膜の損傷を引き起こすことなく、イン・ビボでのカーゴ(cargo)の輸送を媒介するために使用することができる」ものとして記載され(ア(ウ)【0080】)、これは本願明細書の段落0062で「受容体を使用することなく、また、有意な膜損傷を引き起こすことなく、in vivoで生体分子(例えば、タンパク質)の送達を容易にする、または媒介するペプチド配列である」と説明される「細胞透過性ペプチド」と同様の機能を有するものといえるから、引用発明の「細胞膜透過性ペプチドをコードする配列」は、本件補正発明の「細胞透過性ペプチドを発現することができる遺伝子を含む第2のコード配列」に相当する。
(ウ) 引用発明の「配列番号1で表されるヒトフィラグリン」に関し、本件補正発明の「配列番号46」で表される「FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])」との配列同一性を検討すると、両者の重複する部分のアミノ酸配列(1文字表記)のアラインメントは以下で図示されるとおりであり、本件補正発明の「配列番号46」で表される「FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])」のアミノ酸配列の全長は、引用発明の配列番号1で表される「ヒトフィラグリン」のアミノ酸配列中1441番目~1767番目の残基に相当し、引用発明の「配列番号1で表されるヒトフィラグリンをコードする配列」は、本件補正発明の「フィラグリンポリペプチドを発現することができる遺伝子を含む第1のコード配列」であって、「フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を含み」、「FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])は、配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有」するものに相当する。
[図:0001430426000005.jpg]
[図:0001430426000006.jpg]
(注:図中、引用発明の「配列番号1」は、「JP2017-518370A_Seq1」と記載し、本件補正発明の「配列番号46」は、「JP2020-513607_Seq46」と記載している。
★印のある部分が「配列番号1」と「配列番号46」が重複する部分であり、当該部分とその前後を抜粋した。
引用発明の「配列番号1」で表されるアミノ酸配列は、図示部分の前後にそれぞれ続いている。)
上記(ア)~(ウ)の点を踏まえると、本件補正発明と引用発明とは
「フィラグリン(FLG)ポリペプチドを分泌することができる組換え微生物であって、該フィラグリンポリペプチドを発現することができる遺伝子を含む第1のコード配列と、細胞透過性ペプチドを発現することができる遺伝子を含む第2のコード配列とを含む発現ベクターを含み、該フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を含み、
前記FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])は、配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有し、
前記組換え微生物は、スタフィロコッカス(Staphylococcus)である、
前記組換え微生物。」
である点で一致し、本件補正発明と引用発明との間で、実質的な相違点は見出せない。
エ 小括
以上からすると、本件補正発明は、他の選択肢の「微生物」について検討するまでもなく、引用文献に記載された発明であるといえるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(2) 審判請求人の主張
ア 審判請求人は、審判請求書において、新規性に係る査定理由に対して、以下の点を主張している。
引用文献1にはフィラグリンの記載はある(表1等)が、引用文献1は、FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])に着目したものではない。また、引用文献1には配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有する配列の記載はなく、本願発明は引用文献1に記載された発明ではない。
少なくとも本願の新請求項1は、フィラグリン(FLG)ポリペプチドを分泌することができる組換え微生物であって、該フィラグリンポリペプチドを発現することができる遺伝子を含む第1のコード配列と、細胞透過性ペプチドを発現することができる遺伝子を含む第2のコード配列とを含む発現ベクターを含み、該フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を含み、前記FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])は、配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有する、組換え微生物を対象とするものであって、そのような記載がない引用文献1に対して新規性を有し、よってこの拒絶理由は解消した。
(主張中の「引用文献1」は、(1)アの「引用文献」である。)
イ しかし、上記主張は、以下のとおりであって、採用することができないものである。
本件補正発明は、フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を含み、前記FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])は、配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有する、フィラグリン(FLG)ポリペプチドを分泌することができる組換え微生物であって、フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])からなり、前記FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])は、配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有する、フィラグリン(FLG)ポリペプチドを分泌することができる組換え微生物ではない。
そうすると、本件補正発明のフィラグリンポリペプチドは、FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])への着目の有無を問わず、FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])以外のFLGドメインを含むことを妨げるものではない。そして、FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を1441番目~1767番目の残基位置で本願の配列番号46を100%の配列同一性で含む、引用発明の配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するフィラグリンポリペプチドは、本件補正発明のフィラグリンポリペプチドに包含されるものであるから、本件補正発明は引用発明を包含するものであり、本件補正発明は引用発明に対して新規性を有しない。
審判請求人が主張する「該フィラグリンポリペプチドがFLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])を含み、前記FLGドメイン9-10(FLGドメイン[9-10])は、配列番号46と少なくとも90%の配列同一性を有」することを発明特定事項としている点は、本件補正発明に係るフィラグリンがFLGドメイン9-10を部分構造として含んでいることについての主観的な認識を含むにとどまり、組換え微生物という「物」の発明である本件補正発明について、その構成を限定する意義を有するものということはできない。
(3) むすび
以上検討したところによると、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
令和5年9月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和5年3月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1において、補正前の【請求項1】に記載したとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
第4 原査定の拒絶理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由1の概要は、以下のとおりである。
(理由1)本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
第5 当審の判断
本願発明は、本件補正発明における「配列番号46」と配列同一性に基づく限定がなく、「組換え微生物」の細菌の種類に関する限定がないものにあたる。
そして、引用文献に記載された事項、引用発明、対比及び判断は、上記第2の3(1)に記載したとおりであるから、本願発明と引用発明において実質的な相違点は存在しない。
第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-016143