審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2023-009945

マイクロRNAを含む体液抽出物

審判番号
2023-009945
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-248924外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年06月15日
審決日
2025年03月04日
公報発行日
2025年05月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .65 -Z (C12N) / P18 .113-Z (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法37条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第30条第2項、特許法第37条、特許法第30条第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第30条、特許法第30条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-248924「マイクロRNAを含む体液抽出物」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月18日出願公開、特開2020- 92688〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、特許法第30条第2項(発明の新規性の喪失の例外)の規定の適用を受けようとする旨を願書に記載して平成30年12月12日にされた特許出願であって、その主な手続の経緯は次のとおりである。 平成31年 1月11日 :新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書1~134の提出 令和 4年10月27日付け:拒絶理由通知書 令和 5年 2月27日 :意見書の提出 令和 5年 3月13日付け:拒絶査定 令和 5年 6月15日 :審判請求書の提出 令和 5年 7月21日 :審判請求書を対象とする手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1~32に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1~32に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 データS1または表2に記載のいずれかのマイクロRNAを含む、尿の抽出物。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。 1.(発明の単一性)この出願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。 2.(新規性)この出願の請求項1-5,7,24-27,29,31に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 3.(進歩性)この出願の請求項1-5,7,24-27,29,31に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:Science Advances, 2017.12.15, Vol. 3, e1701133, pp.1-19 第4 当審の判断 1 引用文献1の記載事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている。(引用文献1は英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。また、下線は当審にて付加したものである。以下、同様である。) (1) 「ナノワイヤを介して大量のがん関連尿中マイクロRNA候補を発見」(表題) (2) 「尿中の細胞外小胞(EV)内のマイクロRNA(miRNA)を分析することは、miRNAに基づいたシンプルで非侵襲的な早期疾患診断やタイムリーな健康診断を実現するために重要である。しかし、尿から希薄濃度のEV(<0.01体積%)を収集することの本質的な難しさが、これらの診断や健康診断の開発を妨げてきた。我々は、マイクロ流体基板に固定されたナノワイヤで構成されたデバイスを提案する。このデバイスは、高効率EV収集と、従来の超遠心分離法で抽出される種の数を大幅に上回る、異なる配列のさまざまなmiRNA(約1000種類)のin situ抽出を可能にする。緩衝液の流れ中の基板に固定されたナノワイヤの機械的安定性とナノワイヤへのEVの静電収集は、提案されたデバイスの成功を保証する2つの重要なメカニズムである。さらに、我々はこの方法論を使用して、泌尿器系の悪性腫瘍(膀胱や前立腺)だけでなく、非泌尿器系の悪性腫瘍(肺、膵臓、肝臓)のバイオマーカーとして役立つ可能性のある尿中のmiRNAを特定する。現在のデバイス コンセプトは、尿に基づくがんの早期診断と健康診断という長期目標に向けた研究の基盤を提供する。」(要約) (3) 「序 エクソソーム、マイクロベシクル、及びアポトーシス小体を含む(一部の著者は、前記の3つの型の小胞とマイクロソームとを含む全ての膜小胞をさらに網羅してEVの語を用いる(4,5))、直径40-5000nmの細胞外小胞(EV)に含まれるマイクロRNA(miRNA)は(1-4)、健康な対象と悪性疾患の患者の両方の様々な体液中に見いだされている(6-20)。2つのグループ間でのEV内包miRNAの差は、さまざまな疾患シナリオの警告サインを表している可能性がある (20)。miRNAのEV内包には、RNA分解に対するリボヌクレアーゼ効果を低下させることができるという利点があるため (21)、EV内のmiRNAは自由浮遊RNAよりもはるかに安定している。これにより、自由浮遊miRNA分析からEV内包miRNA分析への切り替えが促進される。 従来、EV収集には、超遠心分離法又は分画遠心分離法、免疫親和性に基づく捕捉法、及びサイズ排除クロマトグラフィーという3つの主要な方法が使用されてきた(4)。有望な代替法として、ポリマー沈殿法(22)、マイクロ流体ベースのプラットフォーム(23-26)、及びサイズベースの濾過(27)を含むいくつかの新しい手法が報告されている。しかし、EV内包miRNAを収集する既存の方法は、シンプルで非侵襲的な尿に基づいた早期疾患診断やタイムリーな健康診断のための要件を満たさない。これは、尿中のEV濃度がきわめて低い(<0.01体積%)ためである(28)。例えば、最も一般的に使用されている方法である超遠心分離法によって、研究者は、尿中EVを収集し、EV内包miRNAを抽出し(29、30)、200から300の尿miRNAを同定した(31)。2000を超えるヒトmiRNAが発見されているが、miRNA種の他の90%が組織特異的な機能のため尿に存在しないのか、それとも単に存在量が少ないために超遠心分離法によって検出できないのかは不明である。同定された尿中miRNAの数が少なく、考えられる疾患の多様性を反映できないため、2つめの仮定は、研究者が尿に基づいた早期疾患診断やタイムリーな健康診断を実現する動機となる。代替法が必要とされている。 ここで、我々は、尿EV内包miRNAを収集するナノワイヤに基づく方法論を提案する。この方法論では、異なる配列の膨大な数の尿miRNAが明らかになる。この方法論は、尿からのmiRNAに基づいた非侵襲的でシンプルな早期疾患診断やタイムリーな健康診断というゴールに、研究者を近づける。ナノワイヤは細胞や細胞内成分の性質の分析に大きな可能性を示しているが(32-39)、これまでの研究はEV収集への応用を扱っていない。我々は、マイクロチャネル中のナノワイヤの表面電荷、比較的大きな表面積、及び機械的安定性を検討する。この方法論は、基本的に、少量のサンプルと短い処理時間でのEV内包miRNA分析を行うことを可能にし、EVの収集は1mlの尿と20分しか必要としない。溶解緩衝液の流れの間のポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)に固定化したナノワイヤの機械的安定性は、20分で尿EV内包miRNAをin situ抽出するのに効率的であり、従来法より多くの異なる種類のmiRNA(約1000種類)が収集されたEVから抽出される。」(第1頁左欄第1行-右欄最下段) (4) 「結果 尿EV内包miRNAの収集のための方法論を実現するために、我々は、マイクロ流体基板に固定化されたナノワイヤを開発した。これらのナノワイヤは、EVを静電的に収集し、その後にEV内包miRNAをin situで抽出するための固相として重要な役割を果たすことができる(図1及び動画S1)。」(第2頁左欄第1行-第6行) (5) 「ナノワイヤが組み込まれたPDMS基板 我々は4つの工程でナノワイヤが組み込まれたPDMS基板を作製した(40)(図S1)。第1の工程で、Si基板上の熱酸化処理したクロム層からナノワイヤを成長させた。第2の工程で、成長したナノワイヤの上に硬化していないPDMSを注いだ。第3の工程で、PDMSを硬化させてナノワイヤと共に剥がすことにより、ナノワイヤをPDMSに埋め込み(図1B)、第4の工程で、埋め込まれたナノワイヤからナノワイヤを成長させ、これをナノワイヤ組み込みPDMS基板と名付けた(図1C)。埋め込まれたナノワイヤの鉛直断面の電界放出型走査型電子顕微鏡(FESEM)像は、ナノワイヤが均一かつ深くPDMSに埋め込まれ、その頭部がわずかに露出していることを示し(図1B)、その頭部が二次的ナノワイヤ成長の成長点となっていることを示した(図1C及び図S2)。ナノワイヤのないPDMSとナノワイヤ埋め込みPDMSの断面FESEM像のエネルギー分散型X線分析(EDS)元素マッピングを比較し、ZnOナノワイヤがPDMSに埋め込まれていることを確認した(図S3)。加えて、鉛直断面及び全体FESEM像及び断面FESEM像のEDS元素マッピングは、二次的ナノワイヤ成長が埋め込まれたナノワイヤ上で生じたことが示され、このようにして、我々はナノワイヤ埋め込みPDMS基板の作製に成功した。ナノワイヤとEVとの接触を促進し、圧力降下を防ぐために、ナノワイヤ組み込みPDMS基板のカバーとしてナノワイヤ長(2μm)より大きなチャンネル高(50μm)を備えたマイクロ流体ヘリングボーン構造(41)を有するPDMS基板を用い、当該ヘリングボーン構造は溶液の良好な対流と分散を保証する(図1D)。尿中のEV内包miRNAのin situ抽出のためのナノワイヤ組み込みマイクロ流体デバイスは、ナノワイヤ組み込みPDMS基板をマイクロ流体ヘリングボーン構造を有するPDMS基板に接着させ、尿サンプルを導入し、および回収するためのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)チューブに接続することによって完成させた(図1D)。PDMSに組み込まれたナノワイヤは、溶解緩衝液への暴露に対して機械的安定性を示し、PDMSに組み込まれていないナノワイヤに対して生じるような基板からのナノワイヤの剥離を防いだ(図1E及びF、及び図S4)。」(第2頁左欄第7行-第3頁左欄第11行) (6) [図:0001421814000001.jpg] 図1 尿中EVのナノワイヤによる静電的回収とそれに続くEV内包miRNAのin situ抽出 (A)ナノワイヤ組み込みマイクロ流体デバイスを用いた尿中のEVの回収(捕捉)とEV内包miRNAのin situ抽出に関する模式図。(B)PDMSの注ぎ込み、硬化および剥離の後の埋め込まれたナノワイヤと、埋め込まれたナノワイヤの鉛直断面FESEM像の模式図(灰色のロッドで示されるナノワイヤ、透明なシアンの領域で示されるPDMS)と切断面像を示す左下の模式的挿入図を示す。黄色がナノワイヤを示し、青がPDMSを示し、白の点線はPDMSの縁を示す。スケールバーは、1μmを示す。(C)埋め込まれたナノワイヤ(ナノワイヤ組み込みPDMS)からのナノワイヤの成長に関する切断面像を示す模式図と左下の模式的挿入図およびナノワイヤ組み込みPDMSの鉛直切断面像。スケールバーは、1μmを示す。(D)ナノワイヤ組み込みPDMSのマイクロ流体へリングボーン構造を有するPDMS基板に接着することに関する切断面像模式図と左下の模式的挿入図と、導入口と導出口のためのPEEKチューブを備えたナノワイヤ組み込みマイクロ流体デバイス(ナノワイヤ組み込みPDMSとマイクロ流体へリングボーン構造のPDMS基板とを接着したもの)の写真と、PDMS基板上のマイクロ流体へリングボーン構造のレーザー顕微鏡像。スケールバーは、1μmを示す。(E)溶解緩衝液への暴露後のナノワイヤ組み込みデバイスの模式図(灰色のロッドで示されるナノワイヤ、透明なシアンの領域で示されるPDMS)とナノワイヤ組み込みPDMSの上面からのFESEM像。スケールバーは、1μmを示す。(F)Si基板上のナノワイヤの模式図と(灰色のロッドで示されるナノワイヤ、濃いシアンの領域で示されるSi基板、薄いシアンの領域で示されるCr層)、溶解緩衝液への暴露後のSi基板上のナノワイヤの上面からのFESEM像。 (7) 「miRNA発現のマイクロアレイ分析 miRNA発現のマイクロアレイ分析(2565種類)は、本デバイスによる抽出が、従来の超遠心法や市販のキット(エクソクイック-TC、ポリマー沈殿法)による抽出と比較して大きな多様性を有するmiRNA種(約1,000種)の抽出を可能とすることが明らかとなった(図2および図S5A)。40分間(回収に20分間、および抽出に20分間)以内の尿中のEV内包miRNAのin situ抽出が、本デバイスに尿サンプル(1ml)を導入してから溶解緩衝液(1ml)を導入することによって実証された。これに対して、20mlの尿の超遠心法によるEVからのmiRNAの抽出では、1mlの溶解緩衝液へのEVの懸濁によることが示され、かつ、回収と抽出に5時間以上を要することが明らかとなった。本研究で用いた市販のキットは小分子RNAの収率に関して他のEV単離方法よりも優れていることが報告されている(図S5のB及びC)(22)ため、上記キットを用いて1mlの尿から回収したEVを1mlの溶解緩衝液で懸濁することによってmiRNAの抽出を行ったところ、この作業には、回収と抽出に14時間以上が必要とされることが明らかとなった。超遠心法によるmiRNAの抽出よりも20倍以下の尿の消費量であったにもかかわらず、本デバイスで抽出されたmiRNAの発現レベルは、超遠心法により得られるmiRNAよりもはるかに高いことが散布図およびヒストグラムから明らかとなった(図2A及びB)。普通に考えれば、20倍量以上の尿を用いたのであるから、超遠心法で得られたmiRNAの量は、本デバイスで得られるmiRNAの量よりも高くなるはずであるが、結果は逆であった。超遠心法と比較して、本デバイスは、5倍高いmiRNA量をもたらし(図2A)、かつ、抽出可能なmiRNAの種類も多様であった(本デバイスによるmiRNAの抽出量:749,822、種類:1,111種類;遠心法によるmiRNAの抽出量:171 ,261、種類:352種類)(図2B)。加えて、散布図とヒストグラムによれば、本デバイスを用いて抽出されるmiRNAの量は、消費した尿サンプルの容量は同じであったにもかかわらず、キットによって得られるmiRNAの量よりもはるかに高かった(図2C及びD)。キットと比較して、本デバイスは、4倍高いmiRNA量をもたらし(図2C)、かつ、抽出可能なmiRNAの種類も多様であった(本デバイスによるmiRNAの抽出量:749,822、種類:1,111種類;キットによるmiRNAの抽出量:337,355、種類:491種類)(図2D)。従って、我々の方法論は、他の方法論と比較して、miRNAの抽出効率(図2)、抽出時間(図S5A及びB)、および小分子RNAの抽出効率(図10C)に関して優れていることが結論付けられた。」(第3頁左欄第12行-第4頁左欄第2行) (8) [図:0001421814000002.jpg] 図2 ナノワイヤ組み込みマイクロ流体デバイスを用いたmiRNAのin situ抽出 (A)ナノワイヤ組み込みデバイスと超遠心法によって回収したEVから抽出されたmiRNAの正規化した強度の散布図。各ポイントは異なるmiRNAタイプ(すなわち、種)に対応する。ピンクとシアンの境界は2つのアプローチでmiRNAの発現レベルが同じであることを意味する。(B)ナノワイヤ組み込みデバイスを用いた方法(ピンク)と超遠心法(シアン)により抽出できたmiRNA種のヒストグラム。エラーバーは一連の測定値のSDを示す(n=3)。(C)ナノワイヤ組み込みデバイスと市販のキットによって回収したEVから抽出されたmiRNAの正規化した強度の散布図。各ポイントは異なるmiRNAタイプ(すなわち、種)に対応する。ピンクと灰色の境界は2つのアプローチでmiRNAの発現レベルが同じであることを意味する。(D)ナノワイヤ組み込みデバイスを用いた方法(ピンク)と市販のキット(灰色)により抽出できたmiRNA種のヒストグラムを示す。エラーバーは、測定(n=3)のSDを示す。「a.u.」は、任意単位(arbitrary unit)を示す。 (9) 「EV回収能力 本デバイスを用いたin situ抽出が多様な種類のmiRNAを提供できることを明らかにするために、本デバイスがEVを回収する能力を確認すると、本デバイスは効率良くEVを回収することができることを示した(図3)。未処理の尿において、本開示のデバイスで処理された尿のフロースルー分画(投入量:1ml)において、および超遠心法で処理された尿(投入量:20ml)において、尿の遊離浮遊物の総量が、それぞれ3.4μl、8.8nl、および11.1nlであることを考慮すると、本開示のデバイスによる浮遊物の回収効率は99%以上であると見積もられ、超遠心法により得られる用量よりも大きな容量を回収することができた(回収されたEVの容量は、未処理の尿の容量から処理された尿の容量を控除することによって計算された)(図3A~3C)。蛍光標識EVを観察した後で、マイクロ流体ヘリングボーン構造を有するPDMS基板からナノワイヤ組み込みPDMSを剥離してそのFESEM像を取得した。これにより、ナノワイヤによって回収される遊離浮遊物がEVを含むことが明らかとなった(図3C及び3D)。ナノワイヤによって回収される遊離浮遊物がEVを含むことをさらに確認するために、EV上に発現する膜タンパク質であり、エクソソームの膜上に発現することが知られるCD63およびCD81を検出した(2,42-44)。ナノワイヤ上(または96穴プレートのウェル)に回収された尿中のEV(濃度:1.4×108ml-1)の蛍光強度は、ナノワイヤだけがこれらの膜タンパク質を回収することができることを示した(図3E)。このことは、本開示のデバイスにおいてナノワイヤ上でEVが効率的に回収できることを示す。次に、ZnOナノワイヤが10nm厚のAl2O3層によって完全に被覆されたZnO-Al2O3のコア-シェルナノワイヤを調製した(図S6)。ZnO-Al2O3のコア-シェルナノワイヤは、Al2O3の等電点が約7.5であることから、pH6~8において電荷的にほぼ中性(若干陽性または若干陰性であり得る)の表面を有することとなる(45、46)。EVの回収に対してナノワイヤの表面の荷電状態が優勢な効果を有するのかを概算するために、ZnO-Al2O3のコア-シェルナノワイヤを用いた(図S7)。尿中のEVはpH6~8では負に荷電した表面を有すること(図S8)、相対的に大きい表面積を有し、ZnOの等電点が約9.5であることから(47、48)pH6~8では正に荷電した表面を有するZnOナノワイヤが、高効率のEVの回収を可能とすることが理解できる。これらの結果から、ZnOナノワイヤがEVなどの200nmまでの直径を有する尿の遊離浮遊物を99%以上の回収効率で回収することができることが一層明らかになった。」(第4頁左欄第3行-右欄最下行) (10) [図:0001421814000003.jpg] 図3 ナノワイヤ上へのEVの回収 (A)実験工程と回収効率の算出に関する模式図。(B)未処理の尿中における尿の遊離浮遊物のサイズ分布。エラーバーは、一連の測定値のSDを示す(n=3)。(C)ナノワイヤ組み込みデバイスによって処理された尿のフロースルー分画(ピンク)と超遠心された尿(シアン)における、尿の遊離浮遊物のサイズ分布。エラーバーは、一連の測定値のSDを示す(n=3)。(D)ナノワイヤで回収された、蛍光(RKH26)標識されたEV。赤はナノワイヤ上のRKH26標識されたEVを示す。スケールバーは、500μmを示す。(E)PKH26標識EVの導入後のナノワイヤのFESEM像。白い矢印は、回収されたEVを示す。スケールバーは、200nmを示す。(F)CD63またはCD81に対する抗体を用いたナノワイヤ上(ピンク)および96穴プレート上(シアン)の尿中のEVの検出。尿中の遊離浮遊物の測定濃度は、1.4×108ml-1であった。「N.D.」は、蛍光が観察されなかったことを示す。黒い点線は、バックグラウンドの上の3SDのシグナルレベルを示す。エラーバーは、一連の測定値のSDを示す(ナノワイヤでn=24;96穴プレートでn=3)。 (11) 「ナノワイヤによるEVの回収のメリット 本デバイスを用いたin situ抽出が、なぜ超遠心抽出やキットを用いた抽出よりも優れているのかを考慮するために、我々は2つの可能なシナリオを検討した。第1のシナリオは、本デバイスはエクソソーム及びマイクロ小胞を回収することができるというもので、第2のシナリオは、本デバイスのみがEVフリーのmiRNAを回収できるというものである。超遠心法により回収できた物、すなわちエクソソーム(9.0nl;図S9A))の量を、回収されなかった物(11.1nl;図3C)に加算して得られる測定された濃度及び体積は、計算された濃度及び体積と一致しない(3.4μl、図3B)。このことは、超遠心法では主にエクソソームが回収されていることを示唆するが(4、5、29)、現在の精製方法では未だエクソソームとマイクロベシクルとは完全に区別することが容易ではない(1)。超遠心法は多くのマイクロベシクルは超遠心チューブの内壁に対して押しつけ、融合および崩壊する可能性があり、この過程でマイクロベシクルに内包されたmiRNAが周辺に放出されてしまう可能性がある。超遠心によるEVの回収の仕組みは、負荷される力と回収される物の密度のバランスに基づくものであるため、超遠心の実験的条件は、放出されたmiRNAの回収には適しないと考えられる。他方で、ナノワイヤによるEV回収の仕組みは、正に荷電したナノワイヤと負に荷電した物との静電的相互作用に基づくものであると考えられ、これによりナノワイヤは、エクソソームおよびマイクロベシクルを回収することができると考えられる。さらに、miRNAなどの核酸は、pH6~8では負に荷電する表面特性を有するので、ナノワイヤはEV-フリーのmiRNAを回収できると考えられる。しかし、遊離miRNAの回収は、超遠心法やポリマー沈降法では不可能であると考えられる。ナノワイヤ上のmiRNAの回収効率は充分ではないものの、溶解緩衝液を導入することによる回収効率はほぼ100%であった(図S9B参照)。正に荷電した表面を有するナノワイヤは、エクソソーム、マイクロベシクル、及び遊離miRNAなどの尿中の負に荷電した物質を回収する際に顕著な利益をもたらすであろう。 回収効率、得られる試料の選択性、及び尿中miRNAを回収できる能力などの特性(表1参照)を考慮し、本デバイスは、高い回収効率、低い試料選択性(エクソソーム、マイクロベシクル、及び遊離miRNA)、及び高い回収能力を有し、超遠心法は回収効率が低く、得られる物の選択性が高く(エクソソームのみ)、かつ回収能力が低く、キットは、これらの特性において中間的であると我々は結論づける。プロタミン/ポリエチレングリコールを用いて4℃で一晩インキュベートする(エクソクイックと同様である)ことによって達成されるEVのプロタミン沈降法による、EVの電荷に基づく単離手法(49)と比較して、本デバイスによる尿EV内包miRNAの抽出においては、室温で40分(回収または吸着に20分および抽出に20分)が必要されるのみであるとの利点がある。加えて、pH6.3以下で正に荷電した表面を生じるアミン基を有するキトサンポリマーを用いる遊離核酸のための荷電に基づく単離手法(50)と比較して、本デバイスによるEV内包miRNAの抽出においては、pH6~8の尿においてナノワイヤが正に荷電することが保証されているという利点を有する。本研究におけるナノワイヤによるEVの回収機構は複雑であるが、我々の知見は、溶解緩衝液のアプライ中におけるPDMSに組み込まれたナノワイヤの機械的安定性と、ZnOナノワイヤへのEV(及び、さらに、EVフリーmiRNA)の静電相互作用による回収は、2つの重要な機構であり、尿のmiRNAの分析に基づいて疾患の早期診断や適時の健康診断が可能となると期待される。」(第5頁左欄第1行-第6頁右欄最下行、第14頁左欄第1行-第16行) (12) [図:0001421814000004.jpg] 表1 3つの方法論の間の比較 (13) [図:0001421814000005.jpg] 図4 ナノワイヤ組み込みマイクロ流体デバイスを用いたがん関連miRNAのin situ抽出。非がんのドナー、肺がんのドナー、膵がんのドナー、肝がんのドナー、膀胱がんのドナーおよび前立腺がんのドナーの尿サンプルそれぞれに対するmiRNA発現アレイのヒートマップ(n=3)。 各miRNAの発現や各群間の比較を直観的に理解するためにシグナル強度に基づいて色のグラデーションが用いられている。対数シグナル強度が5である場合が黒;2以下が青;8以上が黄色である。ヒートマップの各カラムは、各miRNAの対数シグナル強度を表す。 (14) [図:0001421814000006.jpg] 図5 非がんのドナーと各種がんのドナーとの間での図4から抽出されたmiRNAの下方制御と過剰発現 抽出されたmiRNAは、一方の群の2番目に大きい対数シグナル強度よりも、他方の群の3つのパルスの2番目に小さい対数シグナル強度が大きいものとした。記号「-」および「+」はそれぞれ、非がんのドナーおよびがんのドナーを示す。ピンクの線は、一方の最も小さな対数シグナル強度が他方の3つのパルスの最大の対数シグナル強度よりも大きかったことを示し、強調表示されたmiRNAが他のmiRNAよりも優れていることがわかる。緑とオレンジの線は、それぞれ、がん特異的に下方制御されたmiRNAと過剰発現されたmiRNAを示す。 (15) [図:0001421814000007.jpg] [図:0001421814000008.jpg] [図:0001421814000009.jpg] [図:0001421814000010.jpg] [図:0001421814000011.jpg] [図:0001421814000012.jpg] [図:0001421814000013.jpg] 表2には、図5で示されたがんに関連する可能性のある尿中のmiRNAが挙げられており、第7頁の表の下から4段目には、肺がんで過剰発現しているmiRNAの一つとしてmiR-3163が記載され、その生物学的機能として非小細胞肺がんの細胞成長を阻害することが挙げられている。 (16) 「様々ながん患者ドナーの尿サンプルからの未発見のmiRNAの同定 最後に、デバイスを用いた尿EV内包miRNAのin situ抽出が、様々ながん患者ドナーの尿サンプルから未だ発見されたことのないmiRNAを同定することができるという可能性を示した(図4参照)。デバイスは1mlの尿サンプルから多くの種類のmiRNAを分析することができるため、がん患者ドナーと健常者(非がんドナー)の尿サンプルにおけるmiRNA発現をヒートマップ上で比較した。我々の知る限り、1mlの尿サンプルにおいて異なる配列のがんに関連する可能性のある大量のmiRNAを明らかにしたことを報告する最初の例である。尿サンプルからのmiRNAは異なる発現レベルを有していた。がん患者ドナーと非がんドナーとの尿の比較により、減少しているmiRNAと増加しているmiRNAとが明らかになった(図5および表2参照)。ヒートマップにより、減少しているmiRNAと増加しているmiRNAの組み合わせががんの新しい指標の候補となることが示唆され、これは単一のmiRNAバイオマーカーに頼るという既成概念に反するものである。 公表された結果(52-59)との比較に基づいて、統計学的に有意に下方制御された又は過剰発現したmiRNAを明確に認識するためには、さらに多くの試験を行う必要があるが、本デバイスは、主に、生理学的機能が不明なmiRNA及び生理学的機能が報告されているmiRNAという2つのタイプのmiRNAの群を明らかにするといえる。さらに、生理学的機能が不明なmiRNAの群は、潜在的ながんに関連するmiRNAの群及び遊離miRNAに由来するアーティファクトの群という2つのサブグループに分けられる。生理学的機能が報告されているmiRNAの群も、miR-520c-3p(がん抑制因子であり、全てのがん患者由来の尿中で減少していたmiRNA)などの疾患の転帰と正に相関するmiRNAの群(53-57)及びmiR-16-1-3p(胃がん細胞の浸潤と転移を抑制するmiRNAであり、肝がん患者および膀胱がん患者由来の尿において過剰発現していたmiRNA)などの機能と疾患との反直感的な相関を示すmiRNAの群という2つのサブグループに分けられる(60)。反直感的な事例においては、以下の3つの可能性が考えられた:第1に、患者が潜在的に対応するリスクを有する可能性;第2に、miRNAの機能と疾患のリスクとの関係についての現在の研究が、関係するmiRNAとがんのタイプとの間の関係をカバーできていない可能性;第3に、miRNAがアーティファクトに帰される可能性。尿サンプルを採取する前の徹底した健康診断、相関関係に関するさらなる研究、及びより多くの試験が、これらの可能性に対する答えを提供するだろう。我々は、過剰発現していたmiRNAを、これまでに報告された、膀胱がん患者由来の4mlの尿から市販のキットで抽出した尿のmiRNA(細胞フリーおよびエクソソーム由来の増加したmiRNAの上位25個として示された)(96)と比較し、miR-4454を含む20種のmiRNAが本研究により見出された(データS1)。しかし、これらのmiRNAは、がんの指標の候補として同定されたものではない。理由は、結果に含まれるmiRNAが非がん対象においても見出され、さらに、非がんドナーと膀胱がん患者の尿とで対数蛍光強度に有意差は認められなかったためである。さらに試験を実施すれば、これらのmiRNAが候補として同定されるかどうか、残り5種類のmiRNAが見つかるかどうかを決定することができる(人口100万人超で95%の信頼性と5%の標本誤差で統計的に有意な差を示すには、384回の試験を実施する必要がある)。」(第14頁左欄第17行-右欄第12行) (17) 「考察 まとめると、PDMS基板に組み込まれたナノワイヤとマイクロ流体ヘリングボーン構造のPDMS基板とを結合した、我々のナノワイヤを固定したマイクロ液体デバイスが、最も一般的な従来の超遠心法と比べて尿EV内包miRNAのin situ抽出に対して、より高い効率を達成することを示した。驚くべきことに、本デバイスは超遠心分離法よりも小さいサンプル体積及び短い処理時間を用いるにもかかわらず、超遠心分離法よりもはるかに多くの種類のmiRNAを抽出することができた。正に荷電した表面を有するナノワイヤはEVの高効率回収に重要な役割を果たし、溶解緩衝液の流れの間のPDMSに固定化したナノワイヤの機械的安定性はmiRNAのin situ抽出に重要な影響を及ぼした。我々は、泌尿器がんだけでなく非泌尿器がんに対して、ほんの1mlの尿試料からがんに関連するmiRNAを見いだすことができた。バイオマーカーの認識にはさらなる試験を行う必要があるものの、本研究の結果は、我々が開発したアプローチは将来の医療応用のために尿試料中のがん関連miRNAを見いだし、タイムリーな健康診断のための尿miRNAに基づいた診断を行うための新たな戦略を研究者に提供する強力なツールになると確信している。」(第14頁右欄第13行-第33行) (18) 「材料と方法 PDMSに固定されたナノワイヤの作製方法 Si(100)基板(Advantech Co.Ltd.)を洗浄した後に(図S1A)、正フォトレジスト(OFPR8600,Tokyo Ohka Kogyo Co.Ltd.)でSi基板上を被覆し、次いで、フォトリソグラフィによってチャンネルパターンを形成した(図S1B)。スパッタリングによってその基板上に140nm厚のCr層(触媒層)を堆積させた(図S1B)。フォトレジストの除去後に(図S1D)、Cr層を400℃で2時間、熱酸化処理した。この熱酸化Cr層は、ZnOナノワイヤの成長のためのシード層とした。ZnOナノワイヤは、得られた基板を15mMヘキサメチレンテトラミン(HMTA;Wako Pure Chemical Industries Ltd.)と15mM硝酸亜鉛6水和物(Thermo Fisher Scientific Inc.)の混合溶液中に95℃で3時間浸漬することによって成長させた(図S1E)。基板上で成長したナノワイヤは、Millipore水を用いて洗浄し、真空デシケーター中で一晩空気乾燥させた。その後、PDMS(Silpot 184,Dow Corning Corp.)をナノワイヤが成長した基板上に注ぎ、硬化させた(図S1F)。基板からPDMSを剥がすと、ナノワイヤは、基板からPDMSに転写された(図S1G)。転写されたナノワイヤは、頭部を僅かに露出させつつ、PDMSに均一に深く埋め込まれており(図S1H)、その頭部は、二次的ナノワイヤのための成長点を提供した。二次的ナノワイヤの成長は、15mM HMTAと15mM硝酸亜鉛6水和物の混合溶液中で、得られたPDMSを95℃で3時間浸漬することにより行った(図S1I参照)。ナノワイヤを埋め込んだPDMS基板をMillipore水で洗浄した後に、真空デシケーター中で空気乾燥させ、ナノワイヤの直径とナノワイヤ間の間隔をFESEM(SUPRA 40VP,Carl Zeiss)を用いて測定した。」(第14頁右欄第34行-第15頁左欄第6行) (19) 「尿EV内包miRNAのin situ抽出のためのナノワイヤ固定化マイクロ流体デバイス 尿のEV内包miRNAのin situ抽出のためのナノワイヤ固定化マイクロ流体デバイスは、ナノワイヤ組み込みPDMS基板とヘリングボーン構造のPDMS基板とを接着させることによって作製した。ヘリングボーン構造のPDMS基板は、12μmの高さのヘリングボーン構造を伴うマイクロチャンネル(幅、2mm;長さ、2cm;及び高さ、50μm)を有した。ナノワイヤ組み込みPDMS基板とヘリングボーン構造のPDMS基板の表面をプラズマエッチング装置(Meiwafosis Co.Ltd.)で処理し、接着させた。この接着されたデバイスは、180℃で3分間加熱し、強い接着を達成させた(図S1J)。次に、ヘリングボーン構造のPDMSを、注入口および出口に関してポリエーテルエーテルケトン(PEEK)チューブ[0.5mm(外径)×0.26mm(内径);長さ、10cm;Institute of Microchemical Technology Co.Ltd.]に連結させた。マイクロ流体ヘリングボーン構造は、回収効率の向上に寄与した(図S10参照)。」(第15頁左欄第7行-第22行) (20) 「断面FESEM像のEDS元素マッピング ナノワイヤを有しないPDMS、ナノワイヤが埋め込まれたPDMS、及びZnOナノワイヤ固定化PDMSの元素マッピングは、EDS機能を備えたFESEM(JSM-7610F,Jeol)によって得た。上面視像及び断面像に対しては、それぞれ5keV及び30keVの加速電圧条件を用いた。像は、512×384ピクセルであり、各ピクセルの遅延時間は0.1秒であった。像は、100サイクルに対して統合された。Si Kα(1.739keV)及びZn Lα(1.012keV)のピークを選択して、元素マッピング像を構築した。ZnO-Al2O3のコア-シェルナノワイヤの元素マッピングは、30keVの加速電圧条件でEDS機能を備えたFESEMによって実施した。走査透過電子顕微鏡(STEM)試料の調製のために、通常の切断刀を用いて基板からナノワイヤを切り取り、回収して密着法によってTEMグリッド(炭素マイクログリッドを備えたCuメッシュ,JEOL)上に載せ替えた。STEM像は、512×384ピクセルであり、各ピクセルの遅延時間は0.1msであった。像は、100サイクルに対して統合された。Zn Kα(8.630keV)、O Kα(0.525keV)、およびAl Kα(1.486keV)のピークを選択して、元素マッピング像を構築した。」(第15頁左欄第23行-第42行) (21) 「ナノワイヤ固定化マイクロ流体デバイスを用いた尿EV内包miRNAのin situ抽出 市販の尿(単一ドナーのヒト尿、Innovative Research Inc.)を使用前に遠心分離(15分、4℃、3000g)し、アポトーシス小体を除去した(5)。その後、1mL尿サンプルをシリンジポンプ(KDS-200,KD Scientific Inc.)を用いて50μL/分の流速でナノワイヤ固定化デバイスに導入した。ナノワイヤ上に回収されたEVからのmiRNAの抽出は、細胞溶解緩衝液M[20mM tris-HCl(pH7.4),200mM塩化ナトリウム,2.5mM塩化マグネシウム,および0.05w/v% NP-40;Wako Pure Chemical Industries Ltd.]をシリンジポンプを用いて50μL/分の流速でナノワイヤ組み込みデバイスに導入することによって実施した。ナノワイヤの剥離を研究する実験においても同じ溶解緩衝液を50μL/分の流速で使用した(図1I-K、および図S4)。」(第15頁左欄第43行-最下行) (22) 「超遠心を用いた尿におけるEV回収とそれに続くmiRNA抽出 市販の尿(単一ドナーのヒト尿)を使用前に遠心分離(15分、4℃、3000g)し、アポトーシス小体を除去した(5)。その後、尿を遠心分離(15分、4℃、12000g)して細胞の残骸を除去した(29)。次に、20mLの尿サンプルを超遠心(2時間、4℃、110,000g)した(29)。上清を取り除き、回収されたEVに対して0.22μmフィルタでろ過したリン酸緩衝生理食塩水(PBS;Thermo Fisher Scientific Inc.)を20mL添加して、さらに超遠心した(70分、4℃、110,000g)(29)。上清を取り除き、回収されたEVに対して0.22μmフィルタでろ過したPBSを20mL添加して、3度目の超遠心(70分、4℃、110,000g)を行った。最後に、上清を除去し、溶解緩衝液を加えてmiRNAを抽出した。」(第15頁右欄第1行-第14行) (23) 「市販のキットを用いた尿におけるEV回収とそれに続くmiRNA抽出 市販の尿(単一ドナーのヒト尿)を、使用前に、アポトーシス小体を除去するために(5)遠心分離(15分、4℃、3000g)した。EVをキット(エクソクイック-TC,System Biosciences Inc.)の製造者取扱説明書に従って、1mLの尿サンプルから回収した。最後に、溶解緩衝液を添加してmiRNAを抽出した。」(第15頁右欄第15行-第22行) (24) 「miRNA発現のマイクロアレイ分析 miRNAの発現プロファイルは、東レ社の3D-Gene(Toray Industries)ヒトmiRNAチップを用いた。溶解緩衝液で抽出されたmiRNAは、SeraMir Exosome RNA Purification Col-umn Kit(System Biosciences Inc.)を用いてその製造者取扱説明書に従って精製した。15μLの精製miRNAを、3D-Gene Human miRNA Oligo chip ver.21(Toray Industries)を用いたmiRNAのプロファイリングのために分析した。2565のヒトmiRNAプローブを含むmiRNAの発現のマイクロアレイ分析では、シグナル強度それぞれが一種のmiRNAに対応する。各miRNAの発現レベルは、各マイクロアレイにおけるすべてのmiRNAのシグナル強度(バックグラウンドを控除したもの)として表現される。同一の尿のmiRNAサンプルにおけるナノワイヤを用いた抽出と超遠心分離または市販のキットを用いた抽出とによるmiRNA間の発現レベルの対比においては、シグナル強度は全体を通して標準化された。全体を通して標準化され、10以上の強度(ナノワイヤを用いた抽出による強度/超遠心または市販のキットを用いた抽出による強度)を示したものに対して散布図を作成した。従って、散布図上の各点は、標準化された強度である。同一の尿のmiRNAサンプルにおけるナノワイヤを用いた抽出と超遠心分離または市販のキットを用いた抽出とによるmiRNA間の発現レベルの対比に関しては、シグナル強度がlog2変換された。がんドナーのおよび非がんドナーの尿サンプル間でのmiRNAの比較に関しては、各サンプルの全体を通して標準化された強度がlog2変換された。標準化された強度は、ヒートマップ上では黒(強度=5)、青(強度≦2)および黄(強度≧8)で示された。」((第15頁右欄第23行-第47行) (25) 「EVのゼータ電位 超遠心工程の後で、EVのゼータ電位を動的光散乱装置(Zetasizer Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.)を用いて測定した。」(第15頁右欄第48行-第51行) (26) 「尿の遊離浮遊物のサイズ分布と濃度 尿の遊離浮遊物のサイズ分布と濃度は、nanoparticle analyzing system(NanoSight,Malvern Instruments Ltd.)を用いて測定した。未処理の尿における、本デバイスで処理された尿のフロースルー分画における、および超遠心後の尿における、直径200nmまでの尿の遊離浮遊物の濃度は、それぞれ2.6×1012ml-1、5.8×109ml-1、および3.5×109ml-1であった。尿の遊離浮遊物のサイズ分布および濃度は、100-nm nanopore membrane(NP100,Meiwafosis Co.Ltd.)を装着したnanoparticle detector(qNano,Meiwafosis Co.Ltd.)を用いて測定した。未処理の尿における、ナノワイヤ固定化デバイスで処理された尿のフロースルー分画における、および超遠心後の尿における、尿の遊離浮遊物の濃度は、それぞれ1.4×1012ml-1、2.4×1010ml-1、および2.5×1010ml-1であった。」(第15頁右欄第52行-第16頁左欄第12行) (27) 「EVの蛍光分子標識 EVの脂質二重層に透過することができる蛍光分子であるPKH26(励起光/蛍光=551/567nm;Sigma-Aldrich Co.LLC)を用いてEVを標識した。0.22-μmフィルタにてろ過したMillipore水(240μL)中で、1.5×108ml-1のEVに対してPKH26を5mg添加した。PKH26で標識されたEVは、シリンジポンプを用いて10μl/分の流速でナノワイヤを備えたデバイスに導入され、次いで、Millipore水を同じ流速でデバイスに導入して、未回収のEVを除去した。最後に、蛍光顕微鏡(AZ100,Nikon Corp.)を用いてEVの蛍光を観察した。その後、ナノワイヤ組み込みデバイスを剥離し、FESEM(SUPRA 40VP,Carl Zeiss)を用いてEVを回収したナノワイヤを観察した。」(第16頁左欄第13行-第24行) (28) 「膜タンパク質の検出 ナノワイヤを備えたデバイスにEVを導入した後にPBSを導入して未回収のEVを除去した。その後、当該デバイスに1%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液(Kirkegaard & Perry Labora-tories Inc.)を導入して15分間静置した。PBSを用いて当該デバイスを洗浄した後、Alexa Fluor488標識したマウス抗ヒトCD63モノクローナル抗体(10μg/ml;Santa Cruz Biotechnology Inc.)またはマウス抗ヒトCD81モノクローナル抗体(10μg/ml;Abcam PLC)を当該デバイスに導入し、15分間静置した。CD81の検出においては、当該デバイスを洗浄した後にAlexa Fluor488標識のヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体を二次抗体として当該デバイスに導入し、その後15分間静置した。最後に、PBSで当該デバイスを洗浄し、蛍光顕微鏡(Olympus Co.Ltd.)下で蛍光強度を観察した。バックグラウンドの値を得るために、EVサンプルの代わりにPBSを用いた。96穴プレート(Nunc Co.Ltd.)を用いた検出に関しては、プレートのウェルにEVサンプルを注入し、6時間静置し、サンプルを廃棄した。プレートをPBSで洗浄した後、プレートのウェルに1%BSA溶液を導入し、90分間静置し、溶液を廃棄した。再度、PBSでプレートを洗浄し、Alexa Fluor488標識したマウス抗ヒトCD63モノクローナル抗体(10μg/ml)またはマウス抗ヒトCD81抗体(10μg/ml)をプレートのウェルに導入し、45分間静置した。CD81の検出ではこれに加えて、PBSでプレートのウェルを洗浄した後に、Alexa Fluor488標識のヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(5μg/ml)を二次抗体としてプレートのウェルに導入し、その後45分間静置した。最後に、PBSでデバイスを洗浄し、プレートリーダー(POLARstar OPTIMA,BMG Labtech Japan Ltd.)を用いて蛍光強度観察を行った。バックグラウンドの値を得るため、EVサンプルの代わりにPBSを用いた。」(第16頁左欄第25行-最下行) (29) 「ZnO/Al2O3コアシェルナノワイヤの作製 ZnOナノワイヤの作製の後に、原子層堆積装置(Savannah G2,Ultratech Inc.)を用いてナノワイヤを被覆した。Al2O3の積層について、トリメチルアルミニウムとH2O前駆体150℃で100サイクル用いた。」(第16頁右欄第1行-第5行) (30) 「尿サンプルの情報とナノワイヤ組み込みデバイスを用いた尿EV内包miRNAのin situ抽出 以下の尿サンプル(BioreclamationIVT)を用いた:非がん患者(53歳、60歳、および50歳)、肺がん患者(68歳、ステージ2b;54歳、ステージ3a;50歳、ステージ3b)、膵臓がん患者(56歳、ステージ2a;61歳、ステージ2a;74歳、ステージ3)、肝がん患者(49歳、ステージ3;64歳、ステージ3a;18歳、ステージ3c)、膀胱がん患者(63歳、ステージ1;65歳、ステージ1;67歳、ステージ0a)、および、前立腺がん(58歳、ステージ4;57歳、ステージ2a;54歳、ステージ2b)の尿サンプル。これらの尿サンプルは、使用前に、遠心分離(15分、4℃、3000g)し、アポトーシス小体を除去した(5)。1mlの尿サンプルをナノワイヤ固定化デバイスにシリンジポンプを用いて50μl/分の流速で導入した。ナノワイヤ上に回収されたEVからのmiRNAの抽出は、シリンジポンプを用いて50ml/分の流速で溶解緩衝液を導入することによって行った。」(第16頁右欄第6行-第21行) (31) 「がんのバイオマーカーとして役立つ可能性のある尿中miRNAの同定 Zスコア1.96(95%信頼水準および5%有意水準)および東レ社により提供されたlog2(強度)に対する変動変数(CV)(具体的数値を有しない)の関係に従って、95%信頼区間は、(平均)±1.96×(平均×CV/100)を用いて計算した。log2(強度)=3である関係においてCVに対してX%を用いると、信頼区間の上限は、8+0.16Xであった。log2(強度)=5または6におけるCV値は、その関係から0.7X%および0.5X%であった。信頼区間の下限は、それぞれ、32-0.44X及び64-0.63Xであった。5%有意水準を考慮すると、各事例に対するCVは、40および71%未満であった。図5では、70%を超えるCV値を合理的であるとはせず、統計学的に有意な閾値に対して3つの対数強度の相違を決定した。」(第16頁右欄第22行-第36行) (32) 「補足資料 この論文に関する補足資料は http://advances.sciencemag.org/cgi/content/full/3/12/e1701133/DC1で入手できる。 図S1 PDMS中に組み込まれたナノワイヤの作製プロセスの模式図 図S2 PDMS中に組み込まれたナノワイヤ 図S3 ナノワイヤ無しのPDMS基板、埋め込まれたナノワイヤを有するPDMS基板、およびナノワイヤ組み込みPDMS基板それぞれのFESEM像とそれに対応するEDS元素マッピング 図S4 組み込まれたナノワイヤと組み込まれていないナノワイヤの機械的安定性 図S5 ナノワイヤ組み込みデバイス、超遠心、および市販のキットを用いる尿中miRNAの抽出プロセス 図S6 1本のナノワイヤのFESEM像とSTEM像のEDS元素マッピング 図S7 ZnOナノワイヤ、ZnO/Al2O3コア-シェルナノワイヤ、およびナノワイヤ無しの表面上のEVの抗CD9抗体による検出 図S8 尿中のEVのゼータ電位 図S9 超遠心法で回収されたEV及びナノワイヤ上に回収されたEV遊離miRNAのサイズ分布 図S10 尿の遊離浮遊物のサイズ分布 動画S1 ナノワイヤ固定化マイクロ流体デバイスを用いたEV回収とそれに続くmiRNA抽出 データS1 がんmiRNAに対する非がんmiRNAの対数シグナル強度」(第16頁右欄第37行-最下行) (33) 「参考文献と注釈 (略)」(第17頁-第19頁) 2 引用文献1に記載された発明 引用文献1には、非がん患者の尿サンプルと比べて肺がん患者の尿サンプルにおいて発現が増加しているmiRNAの一つとしてmiR-3163が挙げられており(上記(15)(16))、これらのmiRNAは尿に含まれるEVから抽出されたものであるから(上記(21)-(25))、少なくとも、肺がん患者の尿サンプルから得られた抽出物はmiR-3613を含んでいると認められる。 したがって、引用文献1には、 「マイクロRNAであるmiR-3163を含む、尿の抽出物」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 3 引用文献1に係る公開行為が、特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものか否かについて 審判請求人は、引用発明は「権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合に、証明する書面が提出されていなくても特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができる発明」に該当すると主張するので、以下検討する。 (1) 特許法第30条の規定について 特許法第30条第1項~第3項は、次のように規定する。 「第三十条 特許を受ける権利を有する者の意に反して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項各号のいずれかに該当するに至らなかつたものとみなす。 2 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。 3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。」 特許法第30条第1項の趣旨は、特許要件として新規性が要求されているため、特許出願をすることなく、自ら発明を公開した者は、その後に特許を出願しても、自ら発明を公開したことにより特許を受けられない結果になることがあり得るところ、この結果は、発明者、特に特許法の規定を十分知らない技術研究者にとって酷であり、また、発明を公開した者が公開によって不利益を受けることになっては、産業の発達に寄与するという特許法の目的(同法第1条)に悖る結果ともなることから、一定の要件を具備した場合には、発明が既に公開されていることを理由に特許出願を拒絶されることがないようにするというものである。また、特許法第30条は、第29条第1項の例外を定めた規定であり、その解釈適用は、例外を定めた趣旨に合致するように、上記のような発明者を救済するために必要な限度で行われるべきであり、発明者を必要以上に保護したり、社会一般に不測の損害を与える結果を招来したりすることがあってはならないと解される(知財高判平成19年8月30日判決(平成18年(行ケ)第10559号))。現行法の特許法第30条第2項においても、その趣旨は、旧法(平成23年、30年改正前)と変更はなく、上記の趣旨の下、第30条第2項の例外適用を受けようとする者には、同条第3項の証明書(以下「証明書」という。)の提出が義務づけられている。 そして、同項が、新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであることからすると、権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような場合には、本来、それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが、手続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為によって公開された場合については、別個の手続を要することなく同項の適用を受けることができるものと解するのが相当である(大阪地判平成29年4月20日判決(平成28年(ワ)第298号、同第2610号)とされる。 (2) 新規性喪失の例外適用の証明書1~134に係る公開行為と引用文献1に係る公開行為について 平成31年1月11日に特許庁に提出された新規性喪失の例外適用の証明書(以下、「証明書」という。)1~134によれば、本願発明に係る公開行為として、以下の公開行為があったことが認められる。 国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人国立がんセンター、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国立大学法人名古屋大学、国立大学法人九州大学及び安井隆雄が、報道機関に対して、「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について平成29年12月13日から18日にかけてプレスリリース文を送付して本願発明を公開した(証明書12~95、128~134。以下、これらの公開行為をまとめて「行為1」という。)。 国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人国立がんセンター、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国立大学法人名古屋大学、及び、国立大学法人九州大学は平成29年12月16日~12月25日に「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について各法人のウェブサイトで発表した(証明書5~7、9~11。以下、これらの公開行為をまとめて「行為2」という。)。 安井隆雄は、平成29年12月25日に「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について国立大学法人名古屋大学工学部・工学研究科のウェブニュースサイトで発表した(証明書8。以下、当該公開行為を「行為3」という。)。 長縄豪、安井隆雄、柳田剛、加地範匡、長島一樹、鷲尾隆及び馬場嘉信並びに湯川博は、平成29年12月20日から平成30年12月5日にかけて、学会、研究会、シンポジウム、大学集中講義、セミナー、講演会において、「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について発表して本願発明を公開した(証明書96~127。以下、これらの公開行為をまとめて「行為4」という。)。 発明者である安井隆雄、馬場嘉信は、平成30年4月18日から同年9月18日にかけて最新医学、コンバーテック、ライフライン21がんの先進医療、Convertech internationalに対して、「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について公開した(証明書1~4。以下、これらの公開行為をまとめて「行為5」という。)。 一方、学術雑誌出版社であるAmerican Association for the Advancement of Science(AAAS)により、引用文献1が公開された(以下、「引用行為」という。)。 (3) 行為1について 行為1関連証明書のそれぞれは、公開の事実として、国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人国立がんセンター、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国立大学法人名古屋大学、国立大学法人九州大学及び安井隆雄が、出版・報道機関に対して、「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について平成29年12月13日から18日にかけてプレスリリース文を送付して本願発明を公開した事実を記載しているだけであって、American Association for the Advancement of Science(AAAS)による本願発明の事実については証明書には記載されていないものである。 当該プレスリリース文は、令和5年7月21日に提出した手続補正書に添付された以下のとおりのものと認められるところ、プレスリリースに記載された内容と、引用発明を含む公開行為が行われた引用文献1に記載された内容が実質的に同一の発表行為とみることができるような同一性があるかについて、以下検討する。 [図:0001421814000014.jpg] [図:0001421814000015.jpg] [図:0001421814000016.jpg] [図:0001421814000017.jpg] これら記載を 1 引用文献1の記載事項 と比較すると、少なくとも、引用文献1における上記1に示した下線部の部分は、上記プレスリリース文に記載された事項ではない。またそれら記載されていない事項のうち、代表的なものとして以下の記載が挙げられる。 ア 酸化亜鉛ナノワイヤが酸化亜鉛ナノワイヤを製造した後、トリメチルアルミニウムとH2O を使用し原子層堆積装置を使用してナノワイヤに酸化アルミニウムAl2O3を堆積させたZnO /Al2O3コアシェルナノワイヤであること。 (1(9)(30)) イ 尿中のEVに封入されたmiRNAを収集する方法論を実現するためにナノワイヤを用いる手法が、まず、Si基板上の熱酸化クロム層からナノワイヤを成長させ、次に、成長したナノワイヤの上に未硬化PDMSを注ぎ、3番目に、PDMSを硬化させてナノワイヤと一緒に剥がすことでナノワイヤをPDMSに埋め込み、4番目に、埋め込まれたナノワイヤからナノワイヤを成長させることによって得られたナノワイヤを固定したマイクロ流体PDMS基板であること(1(5)(6)(18))。 ウ 製作されたデバイスとエクソクイック法と超遠心分離を比較すると、製作されたデバイスでは、エクソソーム、マイクロベシクル、EVフリーmiRNAが得られること、処理時間が40分であること、三回試行した際に1111種のmiRNAが得られたこと(エクソクイック法では491種、超遠心分離では352種)(1(7)(11)(12))。 エ 非がんドナーと各がんドナー間で比較した場合のがん特異的に下方制御されるmiRNAおよびがん特異的に過剰発現するmiRNAがどれであるかということ(緑の線とオレンジの線)(1(14)) オ 一方のグループでの最小値が、もう一方のグループの3つのパルス最大値よりも大きいため、他のmiRNAよりも優れているとされるmiRNAがどれかということ(ピンクの線)(1(14)) カ 各miRNAの生物学的機能(表2)(1(15)) キ 膀胱がん患者の尿を解析しmiR-4454など20種類のmiRNAが見つかったが、非がん被験者と膀胱がん患者のサンプル間で対数蛍光強度に有意差が見られなかったため、これらのmiRNAをがん指標の候補とは特定しなかったこと(1(16))。 したがって、行為1関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも発表内容において実質的に同一であるということはできない。 行為1に関連する報道発表の主催者・発表者は、国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人国立がんセンター、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国立大学法人名古屋大学及び、国立大学法人九州大学であって、引用行為を行った専門学術雑誌の出版社と関連性はなく、引用行為の発表者は、国立研究開発法人や国立大学法人ではなく国内外の個々の研究者であるのだから、発表者も異なる。引用行為の発表者の一部である本願の発明者と、行為1に関連する報道発表の主催者・発表者との関係は行為1関連証明書に記載されているものの、発明者以外の引用行為の発表者については言及されていない。そして、報道発表の受け手である新聞購読者、テレビラジオの視聴者は、それぞれ一般大衆であり、各購読者や視聴者が専門学術雑誌にまで目を通すといえる根拠もないから、引用行為に係る専門学術雑誌の読者と関連性はなく、報道発表と専門学術雑誌における発表はその態様を異にする。 したがって、行為1関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも行為の主体、客体、内容、態様のいずれも異にする。そして、行為1においては、引用文献1の書誌情報を引用する箇所があるものの、書誌情報を基にさらに引用文献1の記載内容に接するか否かは、報道発表の受け手の自主的な判断・選択に委ねられるのであるから、記載されたその書誌情報の記載をもってその引用先の公表内容までもが引用元の公表行為において必然的に公表されたとはいえず、両者は密接に関連する行為であるともいえない。したがって、行為1については、引用行為と実質的に同一の発表行為とみることができるような密接に関連する行為であると評価することはできない。 さらに、証明書14-30に係る公開日は平成29年12月18日であり、証明書93及び94に係る公開日は平成29年12月25日であり、証明書95に係る公開日は平成29年12月26日であり、引用行為の公開日より後である。また、令和5年2月27日に提出された意見書には、「引用文献1の公開は日本時間の平成29年12月16日4時(米国東部時間の平成29年12月15日14時)です」と述べた上で、証明書128-131、133に係る公開日である「平成29年12月13日」について、「プレスリリース文に記された日付は同年12月16日となっていますが、行為2は、プレスリリース文を各機関のウェブサイトにおいて公開する前に、特定の公開相手にプレスリリース文を送付したものであって、行為1による公開日は、証明書に記載した通り、12月13日であることは疑いありません。」と記載されている。上記「行為2」は、「行為1」の誤記と認められる。しかし、論文発表に関するプレスリリースは、論文の公開予定日時を報道解禁日時とすることが一般的であるから、報道解禁より前の時点において公開されていたと認めることはできない。例えば、同意見書に添付して提出されたプレスリリース文の写しと同一の内容であり、報道解禁日時が明記されているプレスリリース文がインターネット上で公開されている(参考資料1)。よって、証明書128-131、133に係る公開日が、日本時間の平成29年12月13日であると認めることはできない。同じく、プレスリリース文を送付している、証明書12、13、31-92、132、134に係る公開日についても、日本時間の平成29年12月13日であると認めることはできない。 したがって、引用行為は行為1の公開行為のいずれかと少なくとも同時か、それよりも前に行われた異なるものであるから、この点においても行為1と同一の行為とみることができるような密接に関連するものであるということはできない。 そうであれば、引用行為は特許法第30条第3項により行為1についての証明書に記載されたものとみることはできない。 参考資料1:平成29~33年度文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究「分子夾雑化学」分子夾雑の生命化学(http://www.bunshi-kyouzatsu.jp/)に掲載されているプレスリリース文 3.尿中マイクロRNAから「癌」を特定!(A03:馬場先生),[online],[令和7年2月4日検索],インターネット <URL:http://www.bunshi-kyouzatsu.jp/achievement_media> [図:0001421814000018.jpg] (4) 行為2について 行為2関連証明書のそれぞれは、公開の事実として、国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人国立がんセンター、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国立大学法人名古屋大学、及び、国立大学法人九州大学は平成29年12月16日~12月25日に「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について各法人のウェブサイトで発表した事実を記載しているだけであって、American Association for the Advancement of Science(AAAS)による引用行為については証明書には記載されていないものである。 行為2の発表内容は、上記行為1において検討したプレスリリース文と実質的に同一ないしその英文による翻訳表記であるから、上記行為1において検討したとおり、行為2関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも発表内容において実質的に同一であるということはできない。 行為2の発表者は、国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人国立がんセンター、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国立大学法人名古屋大学、及び、国立大学法人九州大学であって、引用行為を行った専門学術雑誌の出版社と関連性はなく、引用行為の発表者は、国立研究開発法人や国立大学法人ではなく国内外の個々の研究者であるのだから、発表者も異なる。引用行為の発表者の一部である本願の発明者と、行為2の発表者との関係は行為2関連証明書に記載されているものの、発明者以外の引用行為の発表者については言及されていない。そして、その公表内容が置かれているウェブサイトは、国立研究開発法人科学技術振興機構ではプレス一覧>共同発表、国立研究開発法人国立がんセンターでは広報活動>プレスリリース、国立研究開発法人日本医療研究開発機構では、ニュース>プレスリリース、国立大学法人名古屋大学では、広報(public-relations)又はニュースに置かれPRESS RELEASEと記載されており、国立大学法人九州大学ではニュース>研究成果に置かれているから、これらのサイトの閲覧者は国立研究開発法人科学技術振興機構、国立研究開発法人国立がんセンター、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、国立大学法人名古屋大学、及び、国立大学法人九州大学のニュースに対して関心を寄せる者であって、専門学術雑誌の読者と関連性はなく、研究開発法人及び、国立大学法人におけるニュースないしプレスリリースと専門学術雑誌における発表はその態様を異にする。したがって、行為2関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも行為の主体、客体、内容、態様のいずれも異にする。そして、行為2においては、引用文献1の書誌情報を引用する箇所があり、リンク先の記載もあるものの、書誌情報及びリンクを基にさらに引用文献1の記載内容に接するか否かは、サイトの閲覧者の自主的な判断・選択に委ねられるのであるから、記載されたその書誌情報及びリンクの記載をもってその引用先の公表内容までもが引用元の公表行為において必然的に公表されたとはいえず、両者は密接に関連する行為であるともいえない。さらに、引用行為は行為2の公開のいずれかと少なくとも同時か、それより前に行われた異なるものである。そうであれば、引用行為は特許法第30条第3項により行為2についての証明書に記載されたものとみることはできない。 (5) 行為3について 行為3関連証明書は、公開の事実として、安井隆雄が、平成29年12月25日に「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について国立大学法人名古屋大学工学部・工学研究科のウェブニュースサイトで発表した事実を記載しているだけであって、American Association for the Advancement of Science(AAAS)による引用行為については証明書には記載されていないものである。 行為3の発表内容は、ナノワイヤデバイスに尿を導入し、マイクロRNAを抽出・検出したところ、尿中から1,000種類にもおよぶマイクロRNA種の回収に成功したこと、非がん患者と5種類のがん(膀胱がん、前立腺がん、肺がん、膵臓がん、肝臓がん)患者の尿をナノワイヤデバイスに導入し、抽出・検出されるマイクロRNAを比較すると、がん種ごとに検出される各マイクロRNA種の検出量の傾向が異なることが分かり、がん診断が可能であることが示唆されたことにとどまり、行為1について検討した引用文献1のみに記載されている事項は何ら記載されていないから、上記行為1において検討したとおり、行為3関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも発表内容において実質的に同一であるということはできない。 行為3の発表者である安井隆雄は、引用文献1の引用行為を行った専門学術雑誌の出版社と関連性はなく、引用行為の発表者は、安井隆雄だけではなく、Takeshi Yanagida, Satoru Ito, Yuki Konakade, Daiki Takeshita,Tsuyoshi Naganawa, Kazuki Nagashima, Taisuke Shimada, Noritada Kaji, Yuta Nakamura, Ivan Adiyasa Thiodorus, Yong He,Sakon Rahong, Masaki Kanai, Hiroshi Yukawa, Takahiro Ochiya, Tomoji Kawai, Yoshinobu Babaが含まれるのであるから、発表者も異なる。そして、当該サイトの閲覧者は国立大学法人名古屋大学工学部、工学研究科の研究者に対して関心を寄せる者であって、専門学術雑誌の読者と関連性はなく、国立大学法人における研究者紹介と専門学術雑誌における発表はその態様を異にする。したがって、行為3関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも行為の主体、客体、内容、態様のいずれも異にする。そして、行為3においては、引用文献1の書誌情報を表示する箇所があるものの、書誌情報を基にさらに引用文献1の記載内容に接するか否かは、サイトの閲覧者の自主的な判断・選択に委ねられるのであるから、記載されたその書誌情報の記載をもってその引用先の公表内容までもが引用元の公表行為において必然的に公表されたとはいえず、両者は密接に関連する行為であるともいえない。さらに、引用行為は、行為3の公開日よりも前に行われたものである。そうであれば、引用行為は特許法第30条第3項により行為3についての証明書に記載されたものとみることはできない。 (6) 行為4について 行為4関連証明書のそれぞれは、公開の事実として、平成29年12月20日から平成30年12月5日にかけて、学会、研究会、シンポジウム、大学集中講義、セミナー、講演会において、「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について発表して本願発明を公開した事実を記載しているだけであって、American Association for the Advancement of Science(AAAS)による引用行為については証明書には記載されていないものである。 行為4に関連する学会、研究会、シンポジウム、大学集中講義、セミナー、講演会の主催者は、引用行為を行った専門学術雑誌の出版社と関連性はなく、行為4の発表者も長縄豪、安井隆雄、柳田剛、加地範匡、長島一樹、鷲尾隆及び馬場嘉信並びに湯川博であるところ、引用行為の著者には、さらにSatoru Ito, Yuki Konakade, Daiki Takeshita, Taisuke Shimada, Yuta Nakamura, Ivan Adiyasa Thiodorus, Yong He, Sakon Rahong, Masaki Kanai, Takahiro Ochiya, Tomoji Kawaiが含まれるのであるから、発表者も異なる。そして、学会、研究会、シンポジウム、大学集中講義、セミナー、講演会等の出席者と専門学術雑誌の読者も関連性はなく、学会、研究会、シンポジウム、大学集中講義、セミナー、講演会における発表と専門学術雑誌における発表はその態様を異にする。したがって、行為4関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも行為の主体、客体、態様のいずれも異にする。そうすると、行為4において仮に引用文献1の書誌情報等に言及したり表示したりする箇所があったとしても、書誌情報等を基にさらに引用文献1の記載内容に接するか否かは、出席者の自主的な判断・選択に委ねられるのであるから、書誌情報の言及ないし記載をもってその引用先の公表内容までもが引用元の公表行為において必然的に公表されたとはいえず、両者は密接に関連する行為であるともいえない。さらに、引用行為は、行為4の公開日よりも前に行われたものである。そうであれば、引用行為は特許法第30条第3項により行為5についての証明書に記載されたものとみることはできない。 (7) 行為5について 行為5関連証明書のそれぞれは、公開の事実として、平成30年4月18日から同年9月18日にかけて最新医学、コンバーテック、ライフライン21がんの先進医療、Convertech internationalに対して、「マイクロRNAを含む体液抽出物」に関する研究について発表して本願発明を公開した事実を記載しているだけであって、American Association for the Advancement of Science(AAAS)による引用行為については証明書に記載されていないものである。 行為5に関連する専門学術雑誌の出版社は引用行為を行った専門学術雑誌の出版社と関連性はなく、対象として想定される購読者層も関連性はなく、行為5の発表者も安井隆雄、馬場嘉信及び湯川博並びに高橋綾子であるところ、引用行為の著者には、さらに:Takeshi Yanagida, Satoru Ito, Yuki Konakade, Daiki Takeshita, Tsuyoshi Naganawa, Kazuki Nagashima, Taisuke Shimada, Noritada Kaji, Yuta Nakamura, Ivan Adiyasa Thiodorus, Yong He, Sakon Rahong, Masaki Kanai, Takahiro Ochiya, Tomoji Kawaiが含まれるのであるから、発表者も異なる。引用文献1が参考文献記載部分込みで英文で19頁、参考文献記載部分を除き16頁にわたるのに対して行為5関連の専門学術雑誌の記載量はいずれも5~7頁にとどまるから、上記行為1で検討したことと同様に、専門学術雑誌に報告された内容量を含め発表内容が実質的に同一であるとはいえない。したがって、行為5関連証明書に記載された発表行為と、引用行為の両者は、少なくとも行為の主体である出版社及び発表者、客体、内容のいずれも異にする。そうすると、行為5において仮に引用文献1の書誌情報等を記載する記載があるとしても、書誌情報等を基にさらに引用文献1の記載内容に接するか否かは、雑誌読者の自主的な判断・選択に委ねられるのであるから、書誌情報の言及ないし記載をもってその引用先の公表内容までもが引用元の公表行為において必然的に公表されたとはいえず、両者は密接に関連する行為であるともいえない。さらに、引用行為は、行為5の公開日よりも前に行われたものである。そうであれば、引用行為は特許法第30条第3項により行為5についての証明書に記載されたものとみることはできない。 (8) 特許法第30条第2項の規定の適用の可否についての判断 発明者から特許を受ける権利を譲渡された出願人は、行為1ないし行為5については、証明書の提出を行っていたから、特許法第30条第2項の規定を知っていたと認められる。また、引用文献1の公開行為は、発明者の論文投稿に基づいて行われたものであるから、権利者若しくは権利者が公開を依頼した者によって公開されたものであり、当該公開行為について権利者は知っていたものと認められる。そして、当該引用文献1の公開行為について、証明書の提出ができなかったとする事情も認められない。 特許法第30条第2項の趣旨は、特許法の規定を十分知らない者を救済するために必要な限度で行われるべき例外的な措置である(上記(1))ところ、この趣旨に照らせば、特許法の規定を知っていた権利者の依頼に基づく引用文献1の公開行為について、権利者が証明書の提出を省略したことを救済することは、必要な限度の範囲を超えるものである。 以上を総合考慮すると、引用発明に係る引用行為について特許法第30条第2項の規定の適用を受けることはできない。 (9) 特許法第30条第2項の規定の適用についての審判請求人の主張に係る判断 審判請求人の主張について、以下検討する。 審判請求人は、「条件(i)は、「公開された『発明』が同一又は同一であるとみなすことができる」ことを求めているのであって、「公開された『文献』が同一又は同一とみなすことができる」ことを求めてい」ないとして、プレスリリース文と引用文献1とが文献として同一であるか否かで判断するのではなく、プレスリリース文と、引用文献1とで、どのような発明が公開されたか、すなわち、プレスリリース文から把握される技術的思想の創作と、引用文献1から把握される技術的思想の創作とが同一か否かで判断することが求められると解され」ると述べ、引用文献1に記載されている、背景技術や、ナノワイヤによるEV回収の条件、各解析方法の条件等の詳細は、プレスリリース文には存在しないものの、「バイオマーカーとして有用なmiRNA」は、引用文献1及びプレスリリース文の両方で公開されており、引用文献1でのみ公開されていた記載から把握される発明は、本願発明の新規性及び進歩性に影響するものではないと主張している。具体的には、引用文献1には、がんマーカーとして有用と考えられるmiRNAが図5及び表2に記載されており、ここで挙げられたmiRNAの全ては、プレスリリースの図3に記載されているから、引用文献1に記載された「尿中に肺癌マーカーとして有用なmiR-3163等に代表されるmiRNAを同定したこと」から把握される発明は、プレスリリースにおいて公開された発明と同一であるか又は同一とみなすことができると主張している。 しかし、(1)で述べたとおり、同項が、新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであることからすると、権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような場合には、本来、それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが、手続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為によって公開された場合については、別個の手続を要することなく同項の適用を受けることができるものと解するのが相当(大阪地判平成29年4月20日判決(平成28年(ワ)第298号、同第2610号)とされるところ、手続を行った発明の公開行為と手続きを行っていない公開行為が実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為であることが求められる。 したがって、審判請求人が主張するように、手続きを行っていない公開行為に公開された部分が本願の新規性及び進歩性に影響するものではない場合には、実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為に該当することをいうものではなく、証明書提出手続を行った行為1~行為5の公開行為と手続きを行っていない引用行為が実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為であるとはいえないことは、(1)~(8)で述べたとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。 審判請求人は、さらに、「プレスリリースには、miR-3163が肺がん患者で過剰発現することが示されています(プレスリリース・図3、左列参照)。」と述べているが、プレスリリース文の図3から読み取れるのは、左列に示されるmiRNAは非がん患者と肺がん患者の発現量に差が確認されたものであること、及び、その一つとしてmiR-3163が挙げられていることにとどまる。図3にはそれ以上の説明がなされておらず、左列に示されるマイクロRNAのそれぞれが、がん特異的に下方制御されているのか、それとも過剰発現しているのかは明記されていないし、図中の「-」、「+」の意味が一義的に明らかではなく、「強度」が何を意味するのかも明らかにされていないから、審判請求人の主張は採用できない。 審判請求人は、「プレスリリースの目的は、引用文献1が公表されることを、特定の相手方に対して事前に告知するものであり、両行為は密接に関連していると考えるべきで」あり、「プレスリリースには、引用文献1の記載内容が分かりやすくまとめられて」おり、また、「引用文献1のタイトル、著者名、掲載雑誌名、及びDOIが記載され、引用文献1が特定されている以上、学術論文の重要性が高い本願発明の属する技術分野の常識からすれば、プレスリリースの公開行為は、引用文献1の公開行為と「深い関係で(=密接に)つながりがある(=関連する)」ことは明らか」であると主張している。しかし、論文発表に関するプレスリリース文を報道機関に送付する行為は、研究成果をより多くの人に伝えてもらうことを目的とする情報発信の一つにすぎず、引用文献1の公開行為は、行為1又は行為2がなくても生じるものである。行為1又は行為2によって引用文献1の公開行為が必然的に生じるなどの、両公開行為が密接に関連するといえる事情がないため、両者を密接に関連する公開行為であるということはできない。 審判請求人は、さらに、特許審査基準に示される例3における「学会発表によって公開された発明」と「学会発表内容の概略を記載した講演要旨集の発行によって公開された発明」との関係が、本願における引用文献1の公開行為と行為1の関係と同一であり、何らの差異が認められるものではないと述べているが、「第2項適用発明」が、例3においては「学会発表内容の概略を記載した講演要旨集の発行によって公開された発明」の内容を全て包含し、同一主催者によって開催された「学会発表によって公開された発明」であり、本願においては引用行為によって公開された内容の全てを包含することがないものであり、かつ行為の主体等も異なる行為1である点で異なっており、審判請求人の主張は採用できない。 以上のとおりであるから、審判請求人の主張はいずれも採用することができない。 4 原査定の理由1(発明の単一性)について (1)特許法第37条について 特許法第37条には、「二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。」と規定されており、「経済産業省令」に相当する特許法施行規則第25条の8には、「特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。」(第1項) 「前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。」(第2項) 「第1項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。」(第3項) と規定されている。 (2)本願発明の技術的特徴 本願発明の「データS1または表2に記載のいずれかのマイクロRNAを含む、尿の抽出物。」という記載は、特許法施行規則第25条の8第3項の「単一の請求項に択一的な形式によって記載されている」場合に該当する。 ここで、最初に記載された発明は、請求項4、5及び実施例の記載に鑑み、「miR-3163を含む、尿の抽出物。」(以下、「本願発明A」という。)と認められるので、最初に記載された「miR-3163を含む、尿の抽出物」とその他の「データS1または表2に記載のいずれかのマイクロRNAを含む、尿の抽出物」が単一性の要件を満たすか否かについて以下に判断を行う。 請求項1に係る発明のうち、「miR-3163を含む、尿の抽出物。」と、その他の「データS1または表2に記載のいずれかのマイクロRNAを含む、尿の抽出物」とは、「マイクロRNAを含む、尿抽出物」であるという共通の「技術的特徴」を有している。 (3)原査定における引用文献1に記載された発明 上記2に記載のとおり、引用文献1には、 「マイクロRNAであるmiR-3163を含む、尿の抽出物」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (4)判断 本願発明の「技術的特徴」は、(3)のとおり、引用文献1に記載されているので、特許法施行規則第25条の8第2項の「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」ではない。 したがって、本願発明の「データS1または表2に記載のいずれかのマイクロRNAを含む、尿の抽出物。」が、特許法施行規則第25条の8第1項の「二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係」を有していないので、この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。 5 原査定の理由2(新規性)について (1)本願発明 請求項1の最初に記載された発明は、請求項4、5及び実施例の記載に鑑み、「miR-3163を含む、尿の抽出物。」(以下、「本願発明A」という。)と認められる。 (2)原査定における引用文献1に記載された発明 上記2に記載のとおり、引用文献1には、 「マイクロRNAであるmiR-3163を含む、尿の抽出物」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (3)本願発明Aと引用発明の対比 上記(1)(2)より、本願発明Aと引用発明は一致する。 (4)判断 上記(1)~(3)のとおりであるから、本願発明Aは、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明である。 第5 むすび 以上のとおり、本願は特許法第37条に規定する要件を満たさず、また、本願発明Aは、特許法第29条第1項第3号に該当するから、他の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-009945

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ根拠条文の審決1,531件(特許法29条1項3号、特許法37条)
  • 2024-002176拒絶査定不服審判 / 2026-04-13 / 請求不成立低吸着性シーラントフィルム、積層体および包装袋
    共通の条文: 特許法29条1項3号、特許法37条
  • 2023-018271拒絶査定不服審判 / 2024-09-30 / 請求不成立染色用のプロセス記録スライド及びそれを使用する方法
    共通の条文: 特許法29条1項3号、特許法37条
  • 2016-011661拒絶査定不服審判 / 2017-04-04 / 請求不成立EUV光源のためのシード保護を備える発振器-増幅器駆動レーザー
    共通の条文: 特許法29条1項3号、特許法37条
  • 2023-008930拒絶査定不服審判 / 2026-01-20 / 請求不成立新規の安定した抗体の可変領域フレームワークの組み合わせ
    共通の条文: 特許法29条1項3号
  • 2023-016143拒絶査定不服審判 / 2025-08-14 / 請求不成立組換え微生物を用いて炎症性皮膚疾患を処置するための方法および組成物
    共通の条文: 特許法29条1項3号
同じ論点・分野の審決(審決分類)625件(113・C12N、65・C12N)
  • 2023-018608拒絶査定不服審判 / 2026-08-12 / 原査定取消(特許/登録すべき)核酸を抽出するための方法
    共通の審決分類: 113・C12N、65・C12N
  • 2023-019293拒絶査定不服審判 / 2026-07-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)遺伝子編集のためのCPF1関連方法及び組成物
    共通の審決分類: 113・C12N、65・C12N
  • 2023-007389拒絶査定不服審判 / 2026-05-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)シトシンからグアニンへの塩基編集因子
    共通の審決分類: 113・C12N、65・C12N
  • 2023-018776拒絶査定不服審判 / 2026-04-09 / 原査定取消(特許/登録すべき)新規な人工核酸分子
    共通の審決分類: 113・C12N、65・C12N
  • 2023-010819拒絶査定不服審判 / 2025-12-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)ヘテロ二量体化Igドメイン
    共通の審決分類: 113・C12N、65・C12N

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存