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特許拒絶査定不服審判

2022-020213

細胞構造体及びその製造方法並びに被験物質の肝毒性の評価方法

審判番号
2022-020213
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-558396
請求日
2022年12月13日
審決日
2024年11月26日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】TOPPANホールディングス株式会社
  • 【請求人代理人】長谷川 芳樹
  • 【請求人代理人】黒木 義樹
  • 【請求人代理人】鈴木 洋平
  • 【請求人代理人】福島 直樹
  • 【請求人代理人】田村 明照
  • 【請求人】国立大学法人大阪大学
  • 【請求人代理人】長谷川 芳樹
  • 【請求人代理人】黒木 義樹
  • 【請求人代理人】鈴木 洋平
  • 【請求人代理人】福島 直樹
  • 【請求人代理人】田村 明照
審判長/審判官
  • 審判長 上條 肇
  • 審判官 小金井 悟
  • 審判官 深草 亜子
分類
P18 .113-WZ (C12N) / P18 .121-WZ (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
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事件の表示

特願2021-558396「細胞構造体及びその製造方法並びに被験物質の肝毒性の評価方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月27日国際公開、WO2021/100709〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和2年11月17日(優先権主張 令和 1年11月19日)を出願日とする出願であって、令和4年 9月 6日付けで拒絶査定がなされ、同年12月13日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。以後の主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和6年 7月16日付け 拒絶理由通知書 令和6年 9月24日 意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、【本願発明】ともいう。)は、令和6年 9月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【本願発明】 「肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを含み、 前記細胞の間に前記細胞外マトリックス成分が配置された細胞構造体であって、 前記細胞の間に肝類洞網を有し、 前記肝細胞が非がん性細胞であり、 前記肝細胞が人工多能性幹細胞から分化誘導された細胞を含まず、 前記細胞の総数に対する、前記血管内皮細胞の数の比率が5%以上35%以下であり、 前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率が60%以上であり、 前記細胞構造体の培養開始から7日間経過時点において血管構造が維持されている、細胞構造体。」 第3 当審で通知した拒絶の理由の概要 令和6年 7月16日付けで当審が通知した拒絶理由は、下記の新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由を含むものである。 1.(新規性)補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 【引用文献2】 Nat. Commun.、その他、2013.08.19発行、Vol.4, No.2353、pp.1-8 第4 当審の判断 1 引用文献2の記載事項(引用文献2は英文であるため翻訳文で示す。下線は当審による。) ア 「高分子電解質ハイドロゲル繊維の組み立てによるパターン化された血管形成した(prevascularised)組織構造体」(題名) イ 「生体内における操作された組織構造体の有効性は、主に宿主血管系との統合に依存する。血管形成は、前もって形成された微小血管網の吻合を介して構造体の統合を促進することが知られている。ここでは、個別に調整された細胞を含んだ高分子電解質ハイドロゲル繊維を組み立てることによって、整列し空間的に定義された血管形成した組織構造を内皮血管とともに製造する技術を報告する。安定した整列した内皮血管は試験管内で24時間以内にこれらの構造体内で血管が形成され、マウス皮下モデルでこれらの血管が宿主の循環と吻合する。それぞれの細胞タイプを事前に形成された内皮血管と共パターン化することで、血管形成した脂肪組織と肝臓組織を作成する。我々の研究は、ハイドロゲル内で整列した内皮血管を形成することが、組織構造体のエンジニアリングにおける効率的な血管形成アプローチであることを示す。」(要約) ウ 「結果 細胞を含む高分子電解質繊維の組み立て。個々の繊維は、テンプレート上に配置されたポリイオン液滴から平行に引き出され、その後、高次構造に組み立てられた(図1a)。これらの繊維の融合は二次複合体形成によって達成され、連続的でありながら不均質なマトリックス(補足図S1)が得られ、簡単に取り扱うことができた(補足動画1)。3D環境で高解像度で個々のニッチを作成できることの重要性が認識されている15,16。我々は、ポリイオン溶液に生物製剤を組み込んでから繊維に引き込むことでこれを実現した(図1b、c)。この技術を使用してカプセル化された細胞の生存率は一般的に高く、細胞は繊維内で移動して増殖することができる(補足図S2及び補足動画2及び3を参照)。 繊維構造における細胞の配列。ハイドロゲル内に組織化された内皮血管網を作製するために、まず、繊維内にチューブを形成するための細胞整列と自己組織化のプロセスを調べた。繊維を使用して細胞を整列させる方法を実証するために、水溶性キチン(WSC)とラットメチル化コラーゲン(RMC)をアルギン酸ナトリウムと複合させてIPC繊維構造を組み立て、繊維状の特徴と均一なRMC分布を持つ連続ハイドロゲルを形成した(補足図S3a、b)。繊維軸に沿ったECの整列を示した。同様の観察が、他のいくつかの細胞タイプでも行なわれた(補足図S3b~e及び補足動画3)。」(2頁右欄1―27行) エ 「 [図:0001418501000001.jpg] 図1|繊維組み立てによる階層的組織構造体の操作(a)各ステップで階層的な組織構造体を実現するプロセスフローの概略図。生物製剤を含むポリイオン溶液は、まずテンプレート上に局在させる。IPC繊維は平行に引き出され、テンプレートの回転によって1点で融合される。ポリイオン溶液(ポリカチオン又はポリアニオン)の沈着液滴による融合と結合した連続的な上向きの引き込みにより、二次構造(ss)が形成される。その後、二次構造は、二次ポリ電解質複合体を巻き取って層状にすることで三次構造に組み立てられる。(b)マイクロパターン化されたニッチ環境は、異なる細胞タイプを含む一次生体構造単位を組み立てることで作成できる。各二次構造は、1つの中心繊維とそれを取り囲む他の繊維で構成される。このマイクロパターンは、最終的な三次構造で繰り返される。(c)生体構造単位の共焦点顕微鏡画像。標識細胞はキチン-アルギン酸高分子電解質繊維に高密度で封入されており、一次、二次、三次構造が示される。スケールバー:100μm。」(図1) オ 「血管新生した肝組織の操作。肝組織は血管新生を必要とするもう一つの組織タイプである8。試験管内で内皮血管網を利用して肝機能を支えていることを実証するために、ラットの初代肝細胞とECを高細胞密度にパターン化し、天然肝類洞に類似する二次構造を形成し(図4a)、細胞形態と機能維持を、対照肝細胞単培養システムと比較した。肝細胞繊維にガラクトシル化WSCを組み込むことで、肝細胞のためのニッチな微小環境が作られた。ガラクトースは、受容体を介したメカニズムにより肝細胞機能を高めることが知られている19~21。単培養システムでは肝細胞は繊維構造体全体に均一に分布していた(図4b)。対照的に、共培養システムでは肝細胞はECの周りに凝集しており(図4b)、これは内皮血管構造による肝細胞の動員を示す以前の報告と一致している11。アルブミンとCYP3A4アッセイでは、ガラクトシル化ニッチでECと共培養すると分化肝細胞機能の維持が改善されることが示された(図4c)。ガラクトースを含まない対照群では、試験管内で肝細胞の機能は維持されなかった(補足図S9)。これらの結果は、試験管内で内皮血管網の存在が肝細胞培養を支えていることを示唆する。 また、ヒト胚性幹細胞(hESC)由来の肝細胞前駆細胞(HPC)をECとパターン化し、血管形成した肝組織を作成した。5日間培養した後、共培養構造体を、14日間、部分肝切除したSCIDマウスの肝臓に移植した。ヒトアルブミンに対する免疫染色によりhESC由来HPCの存在を観察し、hCD31染色により血管形成を示した(図4d)。」(4頁左欄8行-右欄最下行) カ 「 [図:0001418501000002.jpg] 図4|血管新生した肝組織の操作(a)高い細胞密度を示す肝細胞を含む繊維構造体の明視野顕微鏡画像(b)繊維構造体の24h後の肝細胞単独培養(左)とHUVECとの共培養(右)の免疫染色。共培養では、整列した洞様構造の領域が観察された。肝細胞とHUVECは、それぞれラット血清アルブミン(rAlb)とhVWFで陽性染色された。(c)肝細胞培養の機能特性。共培養構造体では、アルブミン分泌機能の維持がより良好で、CYP3A4活性も高かった。両構造体の尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定していた。*は、特定の時点(n=3、平均±s.d.)のグループ間の有意差(P<0.01)を示す。(d)摘出されたヒトES細胞由来肝細胞構造体のH&E染色及び免疫染色画像。免疫染色は、ヒト血清アルブミン(hAlb)陽性細胞がhCD31陽性内皮細胞と密接に関連していることを示す。組織スキャフォールド境界を白い点線で示す。スケールバー:100μm。」 キ 「肝臓の洞様構造は、このように肝臓組織の工学における有用な構成要素となる。本研究では脂肪細胞と肝細胞が実質細胞として選択されたが、他のさまざまな細胞タイプも私たちの組織構造内で良好な生存率で培養することができ(補足図S2、S3、S4を参照)、血管床と組み合わせて使用することができる。 我々は、微細な特徴を持つマクロな組織構造を作製するためのシンプルでスケーラブルな技術を開発した。このシンプルな技術は特殊な微細加工装置を必要とせず、ほとんどの研究者が容易に適応できる。パターン構造は、繰り返し単位(二次構造)を巻き取るだけで得られる。繊維の直径によって決まる構造の解像度は、繊維の引張速度、液滴サイズ、溶液濃度などの処理パラメータを変えることで調整できる13。さらに、少量の細胞懸濁液から、デッドボリュームをほとんど残さず、短時間で、かなり大きな構造体を得ることができる。本研究では、50μlのポリイオン溶液で典型的には<15分で、単一の細胞構造体(10×1×0.5mm3)の生成が行なわれた。いくつかの三次構造体を融合することで、より大きな構造体が得られた(補足図S1e)。この研究ではキチンとアルギン酸が高分子電解質のペアとして使用されたが、他の高分子電解質の組み合わせも可能であり、組織の機能性が向上する可能性がある。」(6頁左欄5行-右欄最下行) ク 「IPC繊維への細胞のカプセル化と生物製剤の組み込み。細胞含有繊維の場合、細胞をまずトリプシン処理し、500rpmで3分間遠心分離して細胞ペレットを得た。細胞をペレットから取り出し、細胞ペレット/WSC溶液の体積比3:7でWSC溶液に混合して、作業用ポリカチオン溶液を形成した。この作業溶液を使用してIPC細胞含有繊維を形成し、得られた構造体を適切な培養培地でインキュベートした。生物製剤は、WSCまたはアルギン酸溶液のいずれかに混合して組み入れた。細胞の整列が必要な場合は、RMC(0.25w/v%)をWSC溶液に加えた(補足方法)。」(7頁左欄32-40行) ケ 「in vitro初代肝細胞構造体の評価。HUVEC(5回継代)は、ラットの初代肝細胞を含んだ8本の繊維に囲まれた中央繊維に封入された。肝細胞単培養構造体(コントロール)は、同様に細胞を含まない中央繊維で作製された。肝細胞を含む繊維は、WSC(1w/v%)、ガラクトシル化WSC(0.25w/v%)、及びRMC(0.25w/v%)を含むポリカチオン溶液から形成された。構造体は、EndoGro-LS(Millipore)及びhepatozyme-SFM(Invitrogen)(1:1混合物)で7日間維持された。培地は毎日収集され、アルブミンと尿素が生成された。尿素の生成は、1mMの塩化アンモニウム(NH4Cl)が補充された培地で2時間インキュベートし、その後、補充した培地を除去し、新鮮な培地と交換することで誘導された。肝細胞の機能維持は、7日間にわたってアルブミンと尿素の分泌を測定することによって評価した。(n=3)各構造体のデータは、アルブミンと尿素の維持プロファイルを得るために、1日目の値で正規化された。正規化されたパーセンテージを平均して最終値を得た。肝細胞を含む繊維にガラクトシル化WSCが含まれていない別の実験も実施した。」(7頁右欄32-47行) 2 引用発明の認定 引用文献2には、高分子電解質ハイドロゲル繊維の組み立てによるパターン化された血管形成した組織構造体について記載され(上記1 ア、イ)、水溶性キチン-アルギン酸WSC、ガラクトシル化WSC、及びラットメチル化コラーゲンRMCを含むポリカチオン溶液から形成された初代肝細胞の繊維8本、HUVECの繊維1本から3次元的に組み立て、肝類洞に類似した内皮血管網を有する肝細胞構造体を製造したこと(上記1 イ-ケ)、アルブミン分泌機能の維持が良好で、CYP3A4活性も高く、尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定していたこと(上記1 オ、カ、ケ)が記載されている。 したがって、引用文献2に記載された発明(以下、【引用発明】ともいう。)は、次のとおりと認められる。 【引用発明】 「肝細胞、HUVECと、水溶性キチン-アルギン酸WSC、ガラクトシル化WSC、及びラットメチル化コラーゲンRMCを含むポリイオン溶液とを含み、 肝細胞の繊維とHUVECの繊維は、ポリイオン溶液から形成され、 肝類洞に類似した血管形成を有し、 肝細胞が、初代肝細胞であり、 初代肝細胞の繊維8本、HUVECの繊維1本の割合で組み立てられ、 アルブミン分泌機能の維持が良好で、CYP3A4活性も高く、尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定している、 肝細胞構造体」 3 対比 引用発明の「HUVEC」は、本願明細書に「血管内皮細胞は、例えば、類洞内皮細胞、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)であってよい。」([0021])と記載されていることから、本願発明の「血管内皮細胞」に相当する。 引用発明の「水溶性キチン-アルギン酸WSC、ガラクトシル化WSC、及びラットメチル化コラーゲンRMCを含むポリイオン溶液」は、細胞外マトリックスであるラットメチル化コラーゲンを含むことから、本願発明の「細胞外マトリックス成分」に相当する。 引用発明の「肝細胞の繊維とHUVECの繊維は、ポリイオン溶液から形成され」は、上記1 エ(特に、引用文献2の図1b)から、本願発明の「細胞の間に細胞外マトリックス成分が配置され」に相当する。 引用発明の「肝類洞に類似した内皮血管網」は、本願明細書に「細胞構造体の肝類洞網(血管網)」([0115])と記載されているように、本願発明の「肝類洞網」に相当する。 引用発明の「肝細胞が、初代肝細胞であり」は、一般に、初代細胞は、組織から直接採取された細胞を意味するから、本願発明の「肝細胞が非がん性細胞であり、肝細胞が人工多能性幹細胞から分化誘導された細胞を含まず」に相当する。 引用発明の「肝細胞構造体」は、本願発明の「細胞構造体」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「肝細胞と血管内皮細胞とを少なくとも含む細胞と、細胞外マトリックス成分とを含み、 前記細胞の間に前記細胞外マトリックス成分が配置され、 前記細胞の間に肝類洞網を有し、 前記肝細胞が非がん性細胞であり、 前記肝細胞が人工多能性幹細胞から分化誘導された細胞を含まない、細胞構造体。」である点で一致し、 本願発明と引用発明とは、次の2つの点(以下、【一応の相違点1】、【一応の相違点2】ともいう。)において一応相違している。 【一応の相違点1】 本願発明は、「前記細胞の総数に対する、前記血管内皮細胞の数の比率が5%以上35%以下であり、前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率が60%以上であ」るのに対し、引用発明は、「初代肝細胞の繊維8本、HUVECの繊維1本の割合であ」る点 【一応の相違点2】 本願発明は、「前記細胞構造体の培養開始から7日間経過時点において血管構造が維持されている」のに対し、引用発明は、「アルブミン分泌機能の維持が良好で、CYP3A4活性も高く、尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定している」点 4 判断 ア 一応の相違点1について 引用文献2には、「IPC繊維への細胞のカプセル化と生物製剤の組み込み。細胞含有繊維の場合・・・細胞ペレット/WSC溶液の体積比3:7でWSC溶液に混合して・・・」(上記(1)ケ)と記載されているから、各繊維の細胞ペレットの体積(細胞の体積)は同程度であると認められる。 そして、次の図(上記1 カの図4b右図) [図:0001418501000003.jpg] より、1個当たりのHUVEC(赤色)のサイズは、1個当たりの肝細胞(緑色)のサイズと同程度か、わずかに小さい程度であるから、1個当たりのHUVEC(赤色)の体積も、1個当たりの肝細胞(緑色)の体積と、同程度か、わずかに小さい程度であると認められる。 そうすると、引用発明の肝細胞構造体は、「初代肝細胞の繊維8本、HUVECの繊維1本の割合で組み立てられた」ものであるから、HUVECの体積が肝細胞の体積と同程度であるとすると、本願発明でいう「前記細胞の総数に対する、前記血管内皮細胞の数の比率」は、1/(8+1)×100=11%程度であり、本願発明でいう「前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率」は、8/(8+1)×100=89%程度であると算出できる。仮に、HUVECの体積が肝細胞の体積の半分程度であるとしても、本願発明でいう「前記細胞の総数に対する、前記血管内皮細胞の数の比率」は、1×2/(8+1×2)×100=20%程度であり、本願発明でいう「前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率」は、8/(8+1×2)×100=80%程度であると算出でき、いずれの場合も本願発明で特定された各細胞の数の比率の範囲内に相当する。 このことは、次の図(上記1 カの図4b右図の中の右上図) [図:0001418501000004.jpg] のHUVEC(赤色)及び肝細胞(緑色)の割合から視認しても、「前記細胞の総数に対する、前記血管内皮細胞の数の比率が5%以上35%以下であり、前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率が60%以上」の範囲に含まれることは明らかであると認められる。 よって、一応の相違点1は、実質的な相違点であるとは認められない。 イ 一応の相違点2について 引用発明の「アルブミン分泌機能の維持が良好で、CYP3A4活性も高く、尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定している」点(上記1 オ、カ、ケ)について、引用文献2には、「図4|血管新生した肝組織の操作・・・(c)肝細胞培養の機能特性。共培養構造体では、アルブミン分泌機能の維持がより良好で、CYP3A4活性も高かった。両構造体の尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定していた。」(上記1 カ)と図4cにその根拠となる結果が示されており、図4cの結果について、「アルブミンとCYP3A4アッセイでは、ガラクトシル化ニッチでECと共培養すると分化肝細胞機能の維持が改善されることが示された(図4c)。ガラクトースを含まない対照群では、試験管内で肝細胞の機能は維持されなかった(補足図S9)。これらの結果は、試験管内で内皮血管網の存在が肝細胞培養を支えていることを示唆する。」(上記1 オ)と説明されているように、図4cで使用された「3D共培養(3D co-culture)」の肝細胞構造体は、培養から7日間にわたって内皮血管網が存在していることが示唆されている。 そうすると、引用発明の「アルブミン分泌機能の維持が良好で、CYP3A4活性も高く、尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定している」肝細胞構造体は、上記示唆から、肝細胞構造体の培養開始から7日間経過時点において血管構造が維持されている蓋然性が高いといえるから、一応の相違点2は、実質的な相違点であるとは認められない。 5 審判請求人の主張 ア 審判請求人は、令和 6年 9月24日に提出された意見書において、「また、引用文献2Figure 4cは、アルブミン分泌機能の維持、CYP3A4活性、及び尿素合成機能の評価結果であり、血管構造が維持されていることを示す結果ではありません。引用文献2には、肝細胞の数の比率が所定値以上でありながら、組織形成後の培養開始から7日間経過時点において血管構造が維持されている組織(細胞構造体)について記載も示唆もありません。」と主張している。 しかし、上記4 アで判断したとおり、引用発明の肝細胞構造体は、本願発明でいう「前記細胞の総数に対する、前記肝細胞の数の比率が60%以上であ」るものに該当するものである。 また、上記4 イで述べたとおり、引用発明の肝細胞構造体は、アルブミン分泌機能の維持が良好で、CYP3A4活性も高く、尿素合成機能は7日間にわたって比較的安定していること(上記1 オ、カ、ケ)、及び、ガラクトースを含まない対照群では、試験管内で肝細胞の機能は維持されなかったこと(補足図S9)から、「これらの結果は、試験管内で内皮血管網の存在が肝細胞培養を支えていることを示唆する。」(上記1 オ)と培養から7日間にわたって内皮血管網が存在していることが示唆されている。 そして、この「これらの結果は、試験管内で内皮血管網の存在が肝細胞培養を支えていることを示唆する。」という示唆は、引用文献2の図4c(上記1 カ)をみても、本願発明に相当する「3D共培養(3D co-culture)」肝細胞構造体は、7日間にわたってアルブミン分泌能がほとんど低下せず安定していること、及び、本願優先日当時の技術常識として、血管構造が存在することで、組織構造の内部まで栄養を供給でき、組織構造の機能を維持できることを考慮しても、至極妥当なものである。 よって、引用文献2には、「肝細胞の数の比率が所定値以上でありながら、組織形成後の培養開始から7日間経過時点において血管構造が維持されている組織(細胞構造体)について記載」されていると認められるから、審判請求人の上記主張に理由はない。 イ 審判請求人は、上記意見書において、「引用文献2Figure 4bに示される初代肝細胞を用いた肝細胞構造体は、血管構造を安定化するための壁細胞が使用されておらず、Figure 2に記載される結果は、少なくとも肝細胞及び壁細胞の使用の有無等が異なる条件で作製されたものですので、引用文献2Figure 2等の結果をもって、Figure 4bに示される初代肝細胞を用いた肝細胞構造体が、培養開始から7日間経過時点において血管構造が維持されていると判断することはできません。」と主張している。 しかしながら、引用文献2には、「図4|血管新生した肝組織の操作(a)高い細胞密度を示す肝細胞を含む繊維構造体の明視野顕微鏡画像(b)繊維構造体の24h後の肝細胞単独培養(左)とHUVECとの共培養(右)の免疫染色。共培養では、整列した洞様構造の領域が観察された。」(上記1 カ)と、引用発明の肝細胞構造体は、壁細胞を持たずしても、図4bの結果から洞様構造、即ち血管構造を有することが明らかにされている。 さらに、引用発明の肝細胞構造体の培養7日目の血管構造の存在についても、引用文献2に「ラットの初代肝細胞とECを高細胞密度にパターン化し、天然肝類洞に類似する二次構造を形成し(図4a)、細胞形態と機能維持を、対照肝細胞単培養システムと比較した。肝細胞繊維にガラクトシル化WSCを組み込むことで、肝細胞のためのニッチな微小環境が作られた。ガラクトースは、受容体を介したメカニズムにより肝細胞機能を高めることが知られている19~21。単培養システムでは肝細胞は繊維構造体全体に均一に分布していた(図4b)。対照的に、共培養システムでは肝細胞はECの周りに凝集しており(図4b)、これは内皮血管構造による肝細胞の動員を示す以前の報告と一致している11。アルブミンとCYP3A4アッセイでは、ガラクトシル化ニッチでECと共培養すると分化肝細胞機能の維持が改善されることが示された(図4c)。ガラクトースを含まない対照群では、試験管内で肝細胞の機能は維持されなかった(補足図S9)。これらの結果は、試験管内で内皮血管網の存在が肝細胞培養を支えていることを示唆する。」(上記1 オ)と図4a~cと補足図S9の結果から示唆されている。 したがって、引用発明の肝細胞構造体が、培養開始から7日間にわたって血管構造が維持されることは、壁細胞を用いない図4の結果から直接的に判断されているものであって、壁細胞を用いた図2の結果から判断されたものではないから、「引用文献2Figure 2等の結果をもって、Figure 4bに示される初代肝細胞を用いた肝細胞構造体が、培養開始から7日間経過時点において血管構造が維持されていると判断することはできません。」という上記主張に理由はない。 ウ 審判請求人は、上記意見書において、「更に、高濃度(例えば、細胞の総数に対する肝細胞の数の比率が60%以上)の肝細胞(上皮細胞)がまざっている場合、肝細胞同士は相互に密着してタイトジャンクションを形成し、血管網形成のために必要な血管内皮細胞の進展や遊走を物理的に阻害することが予想されますので、血管内皮細胞とMSCとの比率を最適化した系で、当該比率を維持して肝細胞を組み込んだとしても、引用文献2に記載の組織化法で、培養開始から7日後まで血管構造が維持される保証はありません。以下の参考図1はこのような事情を補足するものです。参考図1では、本実施例7に倣い、フィブリンゲルに下記の以下のそれぞれの組成で細胞を包埋して肝臓モデルを作成した事例です。右の組織は、本実施例7と同様に1ウェルあたりの総細胞量を30,000 Cellsとした上で、細胞組成を、肝臓の血管である類洞内皮細胞(SEC)と、類洞内皮細胞のネットワーク化を支持する肝星細胞(LX2)とを、SEC:LX2=7:3となるように混合し、その他の工程は本実施例7と同様にして作製したもので、肝細胞が無いため血管網が良くできています。このSECとLX2との細胞数の比(SEC:LX2)をほぼ維持して、全体の65%を肝細胞にしたのが左図であり、こちらは本実施例7に開示した肝臓モデルと同一手順により作製したものであります。本系では、本発明で主張する血管毒性の評価が可能な程度の血管網構造ができていますが、右図と比べればその緻密さに顕著な差があります。よって、内皮細胞及びその網化を支持する細胞を、その二者のみで最適化した比率でもって維持しつつそこに肝細胞を組み込んだとしても、肝細胞の存在が内皮細胞の網化を阻害することから、同様の血管網形成が行われることを約束するものではありません。」と主張している。 しかしながら、上記イで述べたとおり、引用発明の肝細胞構造体が、培養開始から7日間にわたって血管構造を有することは、図4の結果から直接的に判断したものであって、このことに技術的にも矛盾がないことは上記4 イで判断したとおりである。 一方、上記参考図1で示された肝臓モデルについても、「本系では、本発明で主張する血管毒性の評価が可能な程度の血管網構造ができています」と血管構造を有することは、審判請求人自身が認めているところである。 そうであるにもかかわらず、引用発明の製造方法とは全く異なる条件で製造され、かつ、血管構造を有する上記参考図1の肝臓モデルの結果から、引用発明の肝細胞構造体に対して「同様の血管網形成が行われることを約束するものではありません。」という主張については、これを的確に裏付ける証拠はなく、採用することはできない。 6 小括 上記1-5のとおり、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献2に記載された発明であるか、引用文献2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-020213

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