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特許拒絶査定不服審判

2016-001858

偏光分離素子、偏光分離素子の製造方法、偏光分離素子を含む光照射装置、光を照射する方法、および光配向膜の製造方法

審判番号
2016-001858
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2014-544682外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年02月05日
審決日
2017年02月02日
公報発行日
2017年08月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第184条の3第1項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2014-544682「偏光分離素子,偏光分離素子の製造方法,偏光分離素子を含む光照射装置,光を照射する方法,および光配向膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月13日国際公開,WO2013/085284,平成27年 1月 5日国内公表,特表2015-500508〕について,次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は,成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は,特許法184条の3第1項の規定により,2012年(平成24年)12月5日(パリ条約による優先権主張 2011年12月5日,2012年12月5日,韓国)にされたとみなされる特許出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。 平成27年 4月17日:拒絶理由通知(同年同月21日発送) 平成27年 8月21日:意見書 平成27年 8月21日:手続補正書 平成27年 9月30日:拒絶査定(同年10月6日送達) (以下「原査定」という。) 平成28年 2月 5日:審判請求 平成28年 2月 5日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 補正の却下の決定 [結論] 平成28年2月5日提出の手続補正書による手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1,6及び8の記載は,以下のとおりである(以下,この請求項1の記載を引用する請求項6に係る発明を,「本願発明」という。)。 「【請求項1】 基板と, 前記基板上に形成されており,300nmの波長の光に対する屈折率が1~10であり,300nmの波長の光に対する吸光係数が0.5~10である光吸収性物質とを含む凸部と,誘電物質が存在する凹部を有する凹凸を含み, 下記数式1により計算されるaが0.74~10であり,bが0.5~10であるか,または, 下記数式2により計算されるcが1.3~10であり,dが0.013~0.1であることを特徴とする紫外線偏光分離素子。 [数1] (a+bi)2 = n12×(1-W/P) + n22×W/P [数2] (c+di)2 = n12×n22 / ((1-W/P)×n22+W×n12/P) 前記数式1及び数式2で,iは,虚数単位であり,n1は,前記誘電物質の300nm波長の光に対する複素屈折率であり,n2は,前記凸部の300nmの波長の光に対する複素屈折率であり,Wは,前記凸部の幅であり,Pは,前記凸部のピッチである。」 「【請求項6】 光吸収性物質は,シリコン,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化ジルコニウム,タングステン,酸化タングステン,ガリウムヒ素,アンチモン化ガリウム,アルミニウムガリウムヒ素,テルル化カドミウム,クロム,モリブデン,ニッケル,ガリウムホスファイド,インジウムガリウムヒ素,インジウムホスファイド,アンチモン化インジウム,テルル化カドミウム亜鉛,酸化スズ,酸化セシウム,チタン酸ストロンチウム,シリコンカーバイド,イリジウム,酸化イリジウムまたはセレン化テルル化亜鉛からなった群より選択された1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偏光分離素子。」 「【請求項8】 凸部のピッチは,50nm~200nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紫外線偏光分離素子。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本件補正後発明」という。)。なお,下線は当合議体が付したものである(以下同じ。)。 「【請求項1】 基板と, 前記基板上に形成されており,300nmの波長の光に対する屈折率が1~10であり,300nmの波長の光に対する吸光係数が0.5~10である光吸収性物質とを含む凸部と,誘電物質が存在する凹部を有する凹凸を含み, 下記数式1により計算されるaが0.74~10であり,bが0.5~10であるか,または, 下記数式2により計算されるcが1.3~10であり,dが0.013~0.1であり, 前記光吸収性物質は,シリコン,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化ジルコニウム,タングステン,酸化タングステン,ガリウムヒ素,アンチモン化ガリウム,アルミニウムガリウムヒ素,テルル化カドミウム,クロム,モリブデン,ニッケル,ガリウムホスファイド,インジウムガリウムヒ素,インジウムホスファイド,アンチモン化インジウム,テルル化カドミウム亜鉛,酸化スズ,酸化セシウム,チタン酸ストロンチウム,シリコンカーバイド,イリジウム,酸化イリジウムまたはセレン化テルル化亜鉛からなった群より選択された1種以上であり, 前記凸部のピッチは,120nm~200nmであることを特徴とする紫外線偏光分離素子。 [数1] (a+bi)2 = n12×(1-W/P) + n22×W/P [数2] (c+di)2 = n12×n22 / ((1-W/P)×n22+W×n12/P) 前記数式1及び数式2で,iは,虚数単位であり,n1は,前記誘電物質の300nm波長の光に対する複素屈折率であり,n2は,前記凸部の300nmの波長の光に対する複素屈折率であり,Wは,前記凸部の幅であり,Pは,前記凸部のピッチである。」 2 補正の適否 本件補正のうち,請求項1に係る補正は,本件補正前の請求項1を削除し,本件補正前の請求項1の記載を引用する請求項6を独立形式の記載に改めて新たな請求項1とするものである。そして,本件補正後の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「凸部」について,本件補正前の請求項8及び明細書の段落【0018】などに記載された事項に基づいて,「凸部のピッチは,120nm~200nmである」という限定を付加するものである。 そして,補正前の請求項1の記載を引用する請求項6に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,本件補正の上記限定を付加する補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反するところはない。 そこで,本件補正後発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下,検討する。 (1)本件補正後発明 本件補正後発明は,上記1(2)に記載したとおりのものである。 (2)引用例の記載及び引用発明 ア 引用例1の記載 本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由に引用された,特表2010-501085号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。 (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 第1の方向に沿って延在する,第1の材料の複数の離間分離した部分を含む層を含み, 前記層は,経路に沿って前記層上に入射する第1の偏光状態を有する波長λの光の約20%以上を透過させ, 前記層は,前記経路に沿って前記層上に入射する第2の偏光状態を有する波長λの光の約2%以下を透過させ,前記第1と第2の偏光状態は直交し, 波長λに対して前記第1の材料は1.8以上の屈折率と1.8以上の減衰係数とを有し, λが300nm以下である,物品。 【請求項2】 前記第1の材料が金属である,請求項1に記載の物品。 【請求項3】 前記金属がタングステン,チタン,クロム,ニッケル,Pt,モリブデン,バナジウム,パラジウム,又はイリジウムである,請求項2に記載の物品。 【請求項4】 前記第1の材料が金属酸化物である,請求項1に記載の物品。 【請求項5】 前記金属酸化物が二酸化チタン,又はインジウムスズ酸化物である,請求項4に記載の物品。 【請求項6】 前記第1の材料が半導体材料である,請求項1に記載の物品。 【請求項7】 前記半導体材料がシリコン,ゲルマニウム,リン化インジウム,又はSiGeである,請求項6に記載の物品。 【請求項8】 前記第1の材料が金属ケイ化物である,請求項1に記載の物品。 【請求項9】 前記隣接する離間分離した部分が約150nm以下の間隔によって分離した,請求項1に記載の物品。 【請求項10】 前記離間分離した部分が約50nm以上の深さを有する,請求項1に記載の物品。 【請求項11】 前記離間分離した部分が約1:1以上のアスペクト比を有する,請求項1に記載の物品。 【請求項12】 前記離間分離した部分が回折格子を形成するように配列される,請求項1に記載の物品。 【請求項13】 前記回折格子が約200nm以下の周期を有する,請求項12に記載の物品。 【請求項14】 前記回折格子が約60%以下のデューティーサイクルを有する,請求項12に記載の物品。 【請求項15】 前記回折格子が長方形,台形,又は三角形の断面形状を有する,請求項12に記載の物品。 (中略) 【請求項24】 λが約260nm以下である,請求項1に記載の物品。 【請求項25】 λが約230nmから約260nmまでの範囲内である,請求項24に記載の物品。 【請求項26】 前記層は,前記経路に沿って前記層上に入射する前記第1の偏光状態を有する波長λの光の約30%以上を透過させる,請求項1に記載の物品。 【請求項27】 前記層は,前記経路に沿って前記層上に入射する前記第2の偏光状態を有する波長λの光の約1%以下を透過させる,請求項1に記載の物品。 【請求項28】 前記層はλにおいて約30以上の減衰比を有する,請求項1に記載の物品。 【請求項29】 前記層は,前記経路に沿って前記層上に入射する前記第2の偏光状態を有する波長λの光の約20%以下を反射する,請求項1に記載の物品。 (中略) 【請求項33】 前記層を支持する基板をさらに含む,請求項1に記載の物品。 (中略) 【請求項37】 第1の方向に沿って延在する,第1の材料の複数の離間分離した部分を含む層を含み, 前記層は,経路に沿って前記層上に入射する第1の偏光状態を有する波長λの光の約20%以上を透過させ, 前記層は,前記経路に沿って前記層上に入射する第2の偏光状態を有する波長λの光の約2%以下を透過させ,前記第1と第2の偏光状態は直交し, 前記第1の材料が金属酸化物,タングステン,又はシリコンであり, λが300nm以下である,物品。 【請求項38】 第1の方向に沿って延在する,第1の材料の複数の離間分離した部分を含む層を含み, 前記第1の方向と直交する前記層を通る断面形状に対して,隣接する部分が約100nm以下の最小分離を有し,前記部分が約100nm以下の幅を有し, 波長λに対して前記第1の材料は1.8以上の屈折率と1.8以上の減衰係数とを有し, λが300nm以下である,物品。 【請求項39】 第1の方向に沿って延在する,第1の材料の複数の離間分離した部分を含む層を含み, 前記第1の方向と直交する前記層を通る断面形状に対して,隣接する部分が約100nm以下の最小分離を有し,前記部分が約100nm以下の幅を有し, 前記第1の材料が金属酸化物,タングステン,又はシリコンであり, λが300nm以下である,物品。 【請求項40】 層であって, 第1の周期を有する第1の回折格子を形成するように配列される,第1の材料の複数の離間分離した部分と, 第2の周期を有する第2の回折格子を形成するように配列される,第2の材料の複数の離間分離した部分とを含む層を含み, 前記第1と第2の周期が異なり,前記第1と第2の材料の内の一つが金属であり,前記第1と第2の材料の内のもう一つが誘電材料であり,前記第1の材料の隣接する部分が前記第2の材料の二つの隣接する部分によって分離した,物品。」 (イ) 「【技術分野】 (中略) 【0002】 本発明は偏光子薄膜及び関連する物品,システム,及び方法に関する。」 (ウ) 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本開示は偏光子薄膜,そのような薄膜を含む物品,そのような薄膜を製作するための方法,及びそのような薄膜を利用するシステムに関する。」 (エ) 「【0030】 図1A及び図1Bを参照すると,直線偏光子薄膜100は回折格子層110及び基板140を含む。回折格子層110は,図1A及び図1B中に示すデカルト座標系のy方向に沿って延在する細長い部分111を含む。部分111は周期Λを有する回折格子を形成するように配列される。組成が異なれば,波長λ1の光に対して異なる光学特性を有する。 【0031】 回折格子層110は,z軸に平行に伝搬する波長λ1の入射光を直線的に偏光させる。換言すると,z軸に平行に伝搬し直線偏光薄膜100上に入射する波長λ1の光に対して,直線偏光薄膜100は,y方向に平面偏光した(「阻止」状態偏光と呼ばれる)成分の量に比べると,x方向に平面偏光した(「通過」状態偏向(審決注:「偏光」の誤記。)と呼ばれる)入射光の成分の比較的多くの量を透過させる。例えば,偏光子薄膜100は,λ1で通過状態の光を約25%以上(例えば,約30%以上,約40%以上,約50%以上,約60%以上,約80%以上)透過させることができる一方で,λ1で阻止状態の光を約5%以下(例えば,約4%以下,約3%以下,約2%以下,約1%以下,約0.5%以下,約0.3%以下,約0.2%以下,約0.1%以下)透過させることができる。λ1は通過状態の透過スペクトルにおける局所的(又は全体的)最大値に対応し得る。別法として,又は追加的に,λ1は阻止状態の透過スペクトルにおける局所的(又は全体的)最小値に対応し得る。 【0032】 一般に,λ1は約100nmと約5,000nmの間である。実施形態のあるものでは,λ1はEMスペクトルの可視部分内の波長(例えば,400nmから700nmまで)に対応する。実施形態のいくつかでは,λ1は,約250nm等,EMスペクトルのUV部分内の波長(例えば,約100nmから最大400nmまで)に対応する。 (中略) 【0035】 実施形態では,直線偏光子薄膜100は,比較的多くの量の阻止状態放射光を吸収することによって,阻止状態偏光を有するλ1及び/又はλ2で比較的多くの量の入射放射光を阻止する。例えば,直線偏光子薄膜100は,阻止偏光状態を有するλ1及び/又はλ2の入射放射光の約80%以上を吸収することができる(例えば,約90%以上,約95%以上,約98%以上,約99%以上)。実施形態のいくつかでは,偏光子薄膜100からの阻止状態の反射は比較的低い。例えば,偏光子薄膜100は,阻止状態のλ1の入射放射光の約50%以下を反射することができる(例えば,約20%以下,約15%以下,約10%以下,約5%以下)。実施形態のあるものでは,偏光子薄膜100は,阻止状態のλ1及びλ2の入射放射光の約50%以下を反射することができる(例えば,約20%以下,約15%以下,約10%以下,約5%以下)。別法として,実施形態のいくつかでは,偏光子薄膜100は,阻止状態のλ1の入射放射光の約50%以下を反射することができる(例えば,約20%以下,約15%以下,約10%以下,約5%以下)一方で,阻止状態のλ2の入射放射光の約50%以上を反射することができる(例えば,約60%以上,約70%以上,約80%以上,約90%以上)。 【0036】 直線偏光子薄膜100は,λ1及び/又はλ2の透過光に対し,比較的高い減衰比,ET,を有し得る。透過光に対しては,減衰比は,直線偏光子薄膜100によって透過される阻止状態強度に対する,λ1及び/又はλ2における通過状態強度の比を指す。減衰比は,また,偏光子コントラストとも呼ばれる。例えば,ETはλ1及び/又はλ2で約10以上である(例えば,約20以上,約30以上,約40以上,約50以上,約60以上,約70以上,約80以上,約90以上,約100以上,約150以上,約300以上,約500以上)。実施形態のいくつかでは,λ1は,波長の関数ET(λ)としての減衰比における局所的(又は全体的)最大値に対応する。別法として,又は追加的に,λ2は,ET(λ)における局所的(又は全体的)最大値に対応し得る。 【0037】 偏光子の減衰比は,比ではなく,デシベル(dB)でも表現され,比ETと対応するdB値との間の関係は次の式 ET,dB=10・1og10ET に従って決定可能である。例えば,減衰比の30は約15dBに対応し,減衰比の50は約17dBに対応し,減衰比の100は約20dBに対応する。 (中略) 【0041】 ここで回折格子層110の構造に移ると,細長い部分111はy方向に沿って延在し,隙間112によって離間した連続する部分で構成される周期的な回折格子を形成する。部分111に対応する部分はx方向に幅Λ111を有し,一方,隙間112は幅x方向に幅Λ112を有する。回折格子周期Λは,Λ111+Λ112に等しく,λ1よりも小さく,その結果,光が周期的な構造と相互作用する際に起こり得る著しい高次元の遠方場回折を伴うことなしに,波長λ1の光は回折格子層110と相互作用する。ここで,λ1はEMスペクトルの可視又はUV部分内であり,回折格子層110はナノ構造化層の例と考えてよい。 【0042】 一般に,Λ111は約0.2λ1以下でよい(例えば,約0.1λ1以下,約0.05λ1以下,約0.04λ1以下,約0.03λ1以下,約0.02λ1以下,約0.01λ1以下)。例えば,実施形態のいくつかでは,Λ111は約200nm以下である(例えば,約150nm以下,約100nm以下,約80nm以下,約70nm以下,約60nm以下,約50nm以下,約40nm以下,約30nm以下)。実施形態のいくつかでは,Λ111は約10nm以上である(例えば,約15nm以上,約20nm以上)。同様に,Λ112は約0.2λ1以下でよい(例えば,約0.1λ1以下,約0.05λ1以下,約0.04λ1以下,約0.03λ1以下,約0.02λ1以下,約0.01λ1以下)。例えば,実施形態のいくつかでは,Λ112は約200nm以下である(例えば,約150nm以下,約100nm以下,約80nm以下,約70nm以下,約60nm以下,約50nm以下,約40nm以下,約30nm以下)。Λ111及びΛ112は互いに同じ,又は異なってよい。 【0043】 一般にΛは,約0.5λ1以下(例えば,約0.3λ1以下,約0.2λ1以下,約0.1λ1以下,約0.08λ1以下,約0.05λ1以下,約0.04λ1以下,約0.03λ1以下,約0.02λ1以下,0.01λ1以下)等,λ1より小さい。実施形態のいくつかでは,Λは約500nm以下である(例えば,約300nm以下,約200nm以下,約150nm以下,約130nm以下,約100nm以下,約80nm以下,約60nm以下,約50nm以下,約40nm以下)。 【0044】 比Λ111:Λによって与えられる回折格子層のデューティーサイクルは,所望により変わり得る。実施形態のいくつかでは,デューティーサイクルは約50%より小さい(例えば,約40%以下,約30%以下,約20%以下,約10%以下,約8%以下)。別法として,実施形態のあるものでは,デューティーサイクルは約50%より大きい(例えば,約60%以上,約70%以上,約80%以上)。 (中略) 【0048】 一般に,部分111の組成は,偏光子薄膜100が所望の偏光特性を有するように選択される。部分111の組成は,また,偏光子薄膜100の製造に使用される製造工程等に対する適合性等の要因,及び,環境曝露による劣化への耐性等の環境的な特性に基づき選択される。 【0049】 実施形態では,部分111はλ1で比較的低い透過率を有する材料から形成される。λ1で比較的低い透過率を有する1マイクロメートル厚さの材料のバルクサンプルは,その上に法線入射するλ1の放射光の約0.1%未満(例えば,約0.05%以下,約0.01%以下,約0.001%以下,約0.0001%以下)を透過させる。低透過率材料には,λ1で比較的多くの量の放射光を吸収する材料を含む。 【0050】 例えば,λ1がEMスペクトルのUV部分内にある実施形態のいくつかでは,部分111は二酸化チタン(TiO2),タングステン(W),インジウムスズ酸化物(ITO),モリブデン(Mo),リン化インジウム(InP),ガリウムヒ素(GaAs),アルミニウムガリウムヒ素(AlxGa1-xAs),シリコン(Si)(例えば,結晶質,半結晶質,アモルファスシリコン),インジウムガリウムヒ素(InGaAs),ゲルマニウム(Ge),又はリン化ガリウム(GaP)から形成可能である。 【0051】 さらに一般的には,部分111は無機及び/又は有機材料を含んでよい。無機材料の例は,金属,半導体,及び無機誘電材料(例えば,ガラス)を含む。有機材料の例は高分子を含む。 【0052】 部分111はλ1で比較的高い吸収を有する材料から形成可能である。比較的高い吸収を有する1マイクロメートル厚さの材料のバルクサンプルは,その上に法線入射するλ1の放射光の約90%以上(例えば,約93%以上,約95%以上)を吸収する。一般に,λ1によるが,比較的高い吸収を有する材料には,誘電材料,半導体材料,及び電気伝導材料を含む。UV中のある波長で比較的高い吸収を有する誘電材料には,例えば,TiO2を含むことができる。UV中のある波長で比較的高い吸収を有する半導体材料の例は,シリコン(Si)である。半導体材料のさらなる例には,Ge,リン化インジウム(InP),及びシリコンゲルマニウム(SiGe)を含む。UV及び可視光のある波長で比較的高い吸収を有する電気伝導材料の例には,コバルト(Co),白金(Pt),及びチタン(Ti)を含む。他の材料には,クロム(Cr),ニッケル(Ni),バナジウム(V),タンタル(Ta),パラジウム(Pd),及びイリジウム(Ir)を含む。ケイ化タングステン(WSi2),ケイ化チタン(TiSi),ケイ化タンタル(TaSi),ケイ化ハフニウム(HfSi2),ケイ化ニオブ(NbSi),及びケイ化クロム(CrSi)等の金属ケイ化物もまた,使用可能である。 (中略) 【0054】 nを屈折率,kを減衰係数とすると,一般に,材料は,複屈折率n~=n-ikによって特性づけ可能である。一般に,n~は波長の関数として変化する。部分111は,λ1で1.5以上(例えば,1.8以上,2以上,2.1以上,2.2以上,2.3以上,2.4以上,2.5以上,2.6以上,2.7以上,2.8以上,2.9以上,3以上,4以上)の減衰係数kを有する材料から形成可能である。実施形態では,kは5以下であり得る(例えば,4以下,3.5以下)。実施形態のあるものでは,kは2から5までの範囲内である。例えば,Wは約633nmで2.92のk値を有する。さらに,実施形態のいくつかでは,材料は,λ1で1.5以上(例えば,1.8以上,2以上,2.1以上,2.2以上,2.3以上,2.4以上,2.5以上,2.6以上,2.7以上,2.8以上,2.9以上,3以上)の屈折率nを有してよい。例として,Wは約633nmで3.65のn値を有する。他の例として,TiO2は約633nmで2.88のn値を有する。 (中略) 【0056】 一般に,部分111を形成する材料は,単一成分材料,又は複数の異なる成分からなる材料を含んでよい。実施形態のいくつかでは,部分111はナノ積層物材料から形成され,これは,少なくとも二つの異なる成分の材料の層から構成される組成を指し,材料の内の少なくとも一つの層は著しく薄い(例えば,1単分子層厚さと約10単分子層厚さとの間)。光学的に,ナノ積層物材料は局部的に均一な屈折率を有し,これは,構成材料の屈折率に依存する。構成材料のそれぞれの量を変化させると,ナノ積層物の屈折率も変化し得る。ナノ積層物の部分の例には,シリカ(SiO2)単分子層及びTiO2単分子層,SiO2単分子層及び五酸化タンタル(Ta2O5)単分子層,又は,酸化アルミニウム(Al2O3)単分子層及びTiO2単分子層で構成される部分を含む。 【0057】 一般に,部分111は結晶質,半結晶質,及び/又はアモルファス材料を含んでよい。 【0058】 回折格子層110の構造及び組成は,所望の直線偏光子薄膜100の光学性能に基づき選択される。直線偏光子100の光学性能に影響する構造パラメータには,例えば,d,Λ,Λ111,及びΛ112を含む。一般に,単一のパラメータを変化させると,複数の異なる性能パラメータに影響する。例えば,偏光子のλ1での全体の透過率は,隙間112の厚さΛ112に対する,非透過性材料から形成される部分111の相対厚さΛ111を変化させることによって変化し得る。しかし,Λ111/Λ112の比が低いと,通過状態の偏光の透過率が比較的高くなり,これは,また,阻止状態の偏光の透過率も高くし,ETを減少させ得る。その結果,偏光子の性能を最適化するには,種々の性能パラメータ間のトレードオフとなり,偏光子の構造と組成は,偏光子の最終使用者の用途に対する所望の性能によって変わる。 【0059】 一般に,波長λ1の光を効果的に偏光させるためには,回折格子層の周期Λは,約λ1/4以下(例えば,約λ1/6以下,約λ1/10以下)等,λ1よりも短い必要がある。さらに,効果的な広帯域性能のためには,Λは波長帯域Δλ中の一番短い波長よりも短い必要がある。可視スペクトルにおける広帯域偏光子に対しては,例えば,Λは,約200nm以下(例えば,約150nm以下,約130nm以下,約110nm以下,約100nm以下,約90nm以下,約80nm以下)等,約300nmよりも小さい必要がある。 【0060】 実施形態のいくつかでは,ETは,回折格子層110の厚さdを増加させることによって増加可能である。dを増加させると,通過状態の透過率の量を実質的に減少させずに,ETを増加可能である。 【0061】 ここで偏光子薄膜100中の他の層を参照すると,一般に,基板140は偏光子薄膜100を機械的に支持する。偏光子薄膜100が透過性偏光子である典型的な実施形態では,基板140は波長λ1の光に対して透過性であり,波長λ1で基板に突入する実質的に全ての光を透過させる(例えば,約90%以上,約95%以上,約97%以上,約99%以上,約99.5%以上)。 【0062】 一般に,基板140は,他の層を支持可能な偏光子100を製造するために使用される製造工程に適合する任意の材料から形成可能である。実施形態のあるものでは,基板140は,石英ガラス(例えば,溶融石英すなわち溶融シリカで,特別UV等級の溶融シリカ等),BK7(アブリサコーポレーション(Abrisa Corporation)より入手可能),ホウケイ酸ガラス(例えば,コーニングから入手可能なパイレックス(登録商標)),及び,アルミノケイ酸ガラス(例えば,コーニングから入手可能なC1737)等のガラスから形成される。実施形態のいくつかでは,基板140は,結晶性石英,又はフッ化カルシウム(CaF2),又は,いくつかの場合では,非線形光学結晶(例えば,LiNbO3,又はガーネット等の磁気光学回転子),又は結晶質(又は半結晶質)半導体(例えば,Si,InP,又はGaAs)等の結晶質の材料から形成可能である。基板140は,また,高分子(例えば,プラスチック)等の有機材料からも形成してよい。」 (オ) 「【0097】 次に,いくつかの模範的な構造の理論的な性能に移ると,図6は,37nmの幅及び150nmの厚さを備え,148nmの周期を有する溶融シリカの回折格子で構成される偏光子薄膜に対して,波長(水平軸)の関数として,透過率(左の軸)及び減衰比(右の軸,コントラストと呼ばれる)のプロットを示す。シリカ回折格子部分のそれぞれの壁は,10nmのTiO2層を有する。図6に見ることができるように,この回折格子は,約300nmの波長において約63dBの減衰比のピークを有する。この波長での透過率は,通過状態の放射光の透過率であるが,約60%である。 【0098】 他の例として,図7は,42nmの幅及び150nmの厚さを備え,148nmの周期を有する溶融シリカの回折格子で構成される偏光子薄膜に対して,波長(水平軸)の関数として,透過率(左の軸)及び減衰比(右の軸,コントラストと呼ばれる)のプロットを示す。シリカ回折格子部分のそれぞれの壁は,10nmのタングステン層を有する。図7に見ることができるように,この回折格子は,約240nmの波長において約44dBの減衰比のピークを有する。この波長での通過状態の透過率は約35%である。 【0099】 さらなる例では,図8は,42nmの幅及び150nmの厚さを備え,148nmの周期を有する溶融シリカの回折格子で構成される偏光子薄膜に対して,波長(水平軸)の関数として,透過率(左の軸)及び減衰比(右の軸,コントラストと呼ばれる)のプロットを示す。シリカ回折格子部分のそれぞれの壁は,10nmのアモルファスシリコンを有する。図8に見ることができるように,この回折格子は,約330nmの波長において約36dBの減衰比のピークを有する。この波長での通過状態の透過率は約70%である。 【0100】 さらなる例として,図9は,42nmの幅及び150nmの厚さを備え,148nmの周期を有する溶融シリカの回折格子で構成される偏光子薄膜に対して,波長(水平軸)の関数として,透過率(左の軸)及び減衰比(右の軸,コントラストと呼ばれる)のプロットを示す。シリカ回折格子部分のそれぞれの壁は,10nmのGaP層を有する。図9に見ることができるように,この回折格子は,約250nmの波長において約50dBの減衰比のピークを有する。この波長での通過状態の透過率は約38%である。」 (カ) 「【0125】 模範的な偏光子薄膜の光学性能データを図11Aに示す。特に,図11Aは,溶融シリカ基板によって支持される148nmの周期を有する溶融シリカの回折格子で構成される偏光子薄膜に対して,波長(水平軸)の関数として,透過率(左の軸)及び減衰比(右の軸,コントラストと呼ばれる)のプロットを示す。シリカ回折格子部分のそれぞれの壁は,10nmのTiO2層を有する。TiO2の堆積の前に,シリカ回折格子部分は55nmの幅及び150nmの厚さを有した。300℃でALDを使用し,引き続き,反応性イオンエッチングによってエッチングして(5sccmのCF4,0.5sccmのO2のガス流,8mトルの圧力,100Wの出力でプラズマサーム(Plasma Therm)720装置を使用して),TiO2層がシリカ回折格子上に堆積された。図11Aに見ることができるように,この回折格子は,約265nmの波長において約50の減衰比のピークを有する。この波長での通過状態の透過率は約50%である。 【0126】 他の模範的な偏光子薄膜の光学性能データを図11Bに示す。ここで,偏光子薄膜は,始めに溶融シリカ基板上に犠牲アルミニウム回折格子を形成することによって形成された。このアルミニウム回折格子は148nmの周期,37nmの線幅,及び200nmの深さを有した。300℃でALDを使用し,引き続き,反応性イオンエッチングによってエッチングして(5sccmのCF4,0.5sccmのO2のガス流,8mトルの圧力,100Wの出力でプラズマサーム(Plasma Therm)720装置を使用して),20nm厚さのTiO2薄膜がアルミニウム回折格子上に堆積された。引き続き,KOH中で2分間のウェットエッチングによって,アルミニウム回折格子がエッチング除去された。別法として,例えば,Cl2/BCl3,を使用する反応性イオンエッチングを使用してアルミニウム回折格子をエッチングしてよい。アルミニウム回折格子を除去するために使用されるエッチング方法はアルミニウム回折格子を形成するために使用される方法と同じでよい。アルミニウム回折格子をエッチングすると,自立構造のTiO2が残る。図11Bに見ることができるように,この回折格子は,約265nmの波長において約1,600の減衰比のピークを有する。この波長での通過状態の透過率は約60%である。」 (キ) 「【図1】 」 イ 引用発明 上記アより,引用例1には,図1に対応する実施形態(段落【0030】~【0062】)における段落【0052】に記載の細長い部分111をシリコン(Si)とした「直線偏光子薄膜」に関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。(段落番号を併記する。) 「【0030】回折格子層110及び基板140を含み, 【0030】回折格子層110は,デカルト座標系のy方向に沿って延在する細長い部分111を含み,【0041】細長い部分111は,隙間112によって離間した連続する部分で構成され,【0030】周期Λを有する回折格子を形成するように配列され, 【0041】部分111に対応する部分はx方向に幅Λ111を有し,一方,隙間112は幅x方向に幅Λ112を有し,回折格子周期Λは,Λ111+Λ112に等しく,λ1よりも小さく, 【0031】回折格子層110は,z軸に平行に伝搬し,入射する波長λ1の光に対して,y方向に平面偏光した(「阻止」状態偏光と呼ばれる)成分の量に比べると,x方向に平面偏光した(「通過」状態偏光と呼ばれる)入射光の成分の比較的多くの量を透過させ,λ1は通過状態の透過スペクトルにおける局所的(又は全体的)最大値に対応し, 【0032】λ1は,EMスペクトルのUV部分内の波長に対応し, 【0052】部分111はλ1で比較的高い吸収を有する材料から形成され,UV中のある波長で比較的高い吸収を有する半導体材料のシリコン(Si)であり, 【0054】部分111は,λ1で1.5以上5以下の減衰係数kを有し,λ1で1.5以上の屈折率nを有する 【0030】直線偏光子薄膜100。」 (3) 対比 ア 基板,光吸収性物質,誘電物質,凹凸,凸部,凹部 引用発明の「基板140」は,本件補正後発明の「基板」に相当する。 引用発明の「回折格子層110」は,「y方向に沿って延在する細長い部分111を含」み,「隙間112によって離間した連続する部分で構成」されている。そして,引用発明の「部分111」は「λ1で比較的高い吸収を有する材料」である,「半導体材料のシリコン(Si)」から形成される。 したがって,引用発明の「細長い部分111」及び「シリコン」は,本件補正後発明の「凸部」及び「光吸収性物質」に相当する。そして,引用発明の「細長い部分111」は,「シリコン」を含むのであるから,本件補正後発明の「光吸収性物質を含む」,「光吸収性物質は,シリコンである」との要件を満たす。また,引用発明の「隙間112」は,隙間なのであるから,大気中では大気で満たされることとなる。したがって,引用発明の「隙間112」は,本件補正後発明の「凹部」に相当し,「誘電物質」である大気が「存在する」との要件を満たす。 引用発明の「直線偏光子薄膜100」は,「回折格子層110及び基板140を含」む。したがって,引用発明の「回折格子層110」は,本件補正後発明の「凹凸」に相当し,「凸部」と「凹部」を「有する」との要件を満たす。引用発明の「回折格子層110」は,基板上に形成されるものであるから,本件補正後発明の「基板上に形成され」るとの要件を満たす。 イ 紫外線偏光分離素子 引用発明の「直線偏光子薄膜100」は,「y方向に平面偏光した(「阻止」状態偏光と呼ばれる)成分の量に比べると,x方向に平面偏光した(「通過」状態偏光と呼ばれる)入射光の成分の比較的多くの量を透過させ」るのであるから,偏光を分離しているといえる。そして,λ1は「EMスペクトルのUV部分内の波長に対応」するのであるから,紫外線を偏光分離しているといえる。したがって,引用発明の「直線偏光子薄膜100」は,本件補正後発明の「紫外線偏光分離素子」に相当する。そして,引用発明の「直線偏光子薄膜100」は,上記アの範囲で,本件補正後発明の「紫外線偏光分離素子」の要件を満たす。 (4) 一致点 上記(3)からみて,本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致する。 「基板と, 前記基板上に形成されており,光吸収性物質を含む凸部と,誘電物質が存在する凹部を有する凹凸を含み, 前記光吸収性物質は,シリコンである紫外線偏光分離素子。」 (5) 相違点 本件補正後発明と引用発明は,以下の点で(一応)相違する。 ア 相違点1 本件補正後発明の「光吸収性物質」は,「300nmの波長の光に対する屈折率が1~10であり,300nmの波長の光に対する吸光係数が0.5~10である」のに対して,引用発明の「シリコン」は,屈折率,吸光係数が上記範囲を満たすと特定されていない点。 イ 相違点2 本件補正後発明の「紫外線偏光分離素子」は,「下記数式1により計算されるaが0.74~10であり,bが0.5~10であるか,または,下記数式2により計算されるcが1.3~10であり,dが0.013~0.1」 ,「[数1] (a+bi)2 = n12×(1-W/P) + n22×W/P [数2] (c+di)2 = n12×n22 / ((1-W/P)×n22+W×n12/P) 前記数式1及び数式2で,iは,虚数単位であり,n1は,前記誘電物質の300nm波長の光に対する複素屈折率であり,n2は,前記凸部の300nmの波長の光に対する複素屈折率であり,Wは,前記凸部の幅であり,Pは,前記凸部のピッチである。」であるのに対し,引用発明の「直線偏光子薄膜100」は,「数式1により計算されるa,b」または「数式2により計算されるc,d」が,上記範囲を満たすと特定されていない点。 ウ 相違点3 本件補正後発明の「凸部のピッチ」は,「120~200nm」であるのに対して,引用発明の「細長い部分111」のピッチは,上記範囲を満たすと特定されていない点。 (6) 判断 上記相違点について,検討する。 ア 相違点1について (ア)「吸光係数」について まず,本件補正後発明の「吸光係数」について,本願の明細書の段落【0073】及び【0080】の表2には以下のように記載されている。 「【0073】 [実施例3] 石英ガラスに電子ビーム蒸着(E-Beam Evaporation)を通じてシリコン(300nmの光波長に対する屈折率5,吸光係数4.09)薄膜を50nmの厚さで蒸着させた(以下略)」 「【0080】 【表2】 」 そして,本件補正後発明において「n2は,前記凸部の300nmの波長の光に対する複素屈折率」であるから,上記の記載などから示されるように,本件補正後発明の「吸光係数」は,複素屈折率n2の虚部の係数である。一般に複素屈折率n+ikにおいて,nはふつうの意味の屈折率,kは消衰係数である(「岩波 理化学辞典 第5版」(1998年発行)の363頁)。したがって,本件補正後発明の「吸光係数」は,一般に「消衰係数」とされる係数に対応する。 (イ)「屈折率」及び「吸光係数」についての判断 引用発明の「凸部」の「シリコン」について,例えば,特開2009-33151号公報の図24,段落【0011】などに示されるシリコンの屈折率,消衰係数(以下「シリコンの係数」という。)のように,300nmにおいて,屈折率は5程度,消衰係数は4程度であると認められる。したがって,引用発明の「シリコン」の「屈折率」及び「消衰係数(吸光係数)」は,本件補正後発明の「屈折率」及び「吸光係数」の範囲を満たし,相違点1は,実質的な相違点ではない。 更に,相違点1は,実質的な相違点であったとしても,この点は当業者が引用発明から,容易に想到し得た事項である。 引用発明の「部分111」は,「λ1で1.5以上5以下の減衰係数kを有し,λ1で1.5以上の屈折率nを有する」。ここで,「消衰係数」と「減衰係数」は同義で用いられることは技術常識である。そして,上記「シリコンの係数」はUV中の波長域で概ねこの範囲の減衰(消衰)係数,屈折率を満たす。したがって,引用発明の「凸部」の「シリコン」について,上記「シリコンの係数」を有するシリコンを用いることは,当業者が容易に想到し得た事項である。 また,引用例1の請求項1などには,「波長λに対して前記第1の材料は1.8以上の屈折率と1.8以上の減衰係数とを有し,λが300nm以下である」などとも記載されている。そして,一般に用いられるこのような材料では,屈折率,吸光係数は10を超えないものである(上記「シリコンの係数」も参照されたい。)。したがって,引用発明において,波長λとして300nmを採用して,結果として本願の数値範囲を満たすようにすることは,引用発明を具体化するに際して当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。 イ 相違点2について 凸部の幅(W)と,凸部のピッチ(P)との比(W/P)について,引用発明における部分111のx方向の幅Λ111と回折格子周期Λ=Λ111+Λ112(隙間112は幅x方向に幅Λ112)との比に対応する。そして,引用例1の段落【0042】には,「Λ111は約0.2λ1以下でよい」,「同様に,Λ112は約0.2λ1以下でよい」,「Λ111及びΛ112は互いに同じ,又は異なってよい。」とも記載されており,Λ111とΛ112の両者が同程度であることが示唆されている。また,ワイヤグリッド偏光子一般においては,ピッチと凸部の比を50%の付近とすることは,例えば,特開2011-141574号公報の段落【0033】や特開2010-237437号公報の段落【0032】,【0042】~【0046】などに示されるように,周知の事項でもある。したがって,引用発明においても,ピッチを50%とすることも,引用例1の記載が示唆する範囲の設計変更にすぎない。 引用発明の「直線偏光子薄膜100」の「数式1により計算されるa,b」について検討する。 凸部の幅(W)と,凸部のピッチ(P)との比(W/P)を0.5,上記アに基づいて,シリコンの複素屈折率n2が(5+4i),本願の明細書と同様,大気の300nm波長の光に対する複素屈折率n1を(1+0i)として数式1を計算すると, (a+bi)2 = (9+40i)×0.5 + 0.5= (5+20i) となり,これにより求められるaは約3.58,bは約2.79となり,多少の誤差が含まれるとしても本件補正後発明の「aが0.74~10であり,bが0.5~10」の範囲の要件を満たす。これは,本願の明細書の【表2】の波長300nm,凸部の物質がシリコンの例と同様の計算である。 引用発明の「直線偏光子薄膜100」の「数式2により計算されるc,d」についても同様である。 また,引用発明において,波長λとして300nmを採用して,「1.5以上5以下の減衰係数kを有し,λ1で1.5以上の屈折率n」とする場合についても,凸部の幅(W)と,凸部のピッチ(P)との比(W/P)を0.5,大気の300nm波長の光に対する複素屈折率n1を(1+0i)として上記のように計算すると,「数式1により計算されるa,b」について,概ね本件補正後発明の数値範囲を満たす。 なお,例えば,原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-211422号公報の段落【0005】乃至【0009】や特開2009-86192号公報の段落【0034】乃至【0036】なども参酌するに,数式1,2に示されるのは,ラインアンドスペースで形成されたパターンの各偏光方向の光に対する有効屈折率などと呼ばれるパターン全体を代表する実質的な屈折率を示すものと考えられる。そして,引用発明の「直線偏光薄膜100」は,本願同様,偏光子である。そうすると,偏光子としての性能を果たすように設計された引用発明の「直線偏光薄膜100」は,偏光方向によって,所定の屈折率や消衰係数を有し,「数式1により計算されるa,b」及び「数式2により計算されるc,d」は,概ね本願の数値範囲となるものと理解するのが相当である。 ウ 相違点3について 引用発明において,「回折格子周期Λ」は,「λ1よりも小さ」い幅とされている。そして,引用例1の請求項13には,対象をUV部分内の波長として「前記回折格子が約200nm以下の周期」を有すると記載されている。また,引用例1の段落【0097】~【0100】,【0125】~【0126】に示される例において,「148nm」の周期の回折格子を用いることが記載されている。 さらに,小さいほどパターンの製造が困難になることは,当業者が一般的に考慮する事項であるから,引用例1の記載に基づいて,引用発明において,製造の困難性や得られる偏光性能を考慮しつつ,200nmよりわずかに小さくした周期を採用することは,引用発明を具体化するに際して当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。 (7) 効果について 発明の課題,目的に関して,本願の明細書の段落【0007】には,「本発明の目的は,偏光分離素子,偏光分離素子の製造方法,光照射装置,光照射方法及び整列された光配向膜の製造方法を提供することにある。」と記載されている。 しかしながら,引用例1の段落【0004】には,発明が解決しようとする課題として,「本開示は偏光子薄膜,そのような薄膜を含む物品,そのような薄膜を製作するための方法,及びそのような薄膜を利用するシステムに関する。」と記載されている。したがって,引用例1には,本件補正後発明が奏する上記の効果は,引用発明がすでに奏していた効果であるか,引用発明において当業者が期待する効果の範囲内のものである。 (8) 請求人の主張について 請求人は審判請求書において,本願発明と引用文献に記載の発明との技術的相違点について,「すなわち,引用文献1および引用文献2には,120nm以上のピッチ範囲であっても,250nmから350nmの短波長領域において,0.5以上の高い偏光度を有し,優れた偏光分離特性および高さの低い凸部を有する偏光分離素子を製造するべく,特定の屈折率と吸光係数を有する光吸収性物質を凸部に導入し,数式1および数式2で定めるように凸部の幅/ピッチを設定するという,本願発明の具体的な構成および関係式に関する開示も示唆もない。」(審判請求書の4.(5))と主張している。 しかしながら,本件補正後発明は「紫外線偏光分離素子」という物の発明である。そして,上記(6)イなどに記載のとおり,引用発明において,引用例1の記載や周知の事項の示唆に基づいて具体化や設計を行った「紫外線偏光分離素子」は,物として,本件補正後発明の数式1または数式2によって定められた要件を満たす。したがって,引用例1には,本件補正後発明の数式1または数式2に関する開示がないとしても,「物」の発明としての本件補正後発明の進歩性は否定される。したがって,請求人の主張は採用できない。 なお,ピッチを120nmより大きくすることについては,上記(6)ウに記載のとおりである。 (9) 小括 本件補正後発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 3 補正却下のまとめ 本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1の記載を引用する請求項6に係る発明(本願発明)は,上記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本願の優先日前に日本国又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 引用例に記載の事項及び引用発明について 引用例1の記載及び引用発明については,上記「第2」2(2)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,上記「第2」2で検討した本件補正後発明から,相違点3に関する「凸部のピッチは,120nm~200nm」に係る限定事項を除いたものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正後発明が,上記「第2」2に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 第4 まとめ 以上のとおり,本願発明は,その優先日前に日本国又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって,他の請求項に係る発明について審究するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。

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2016-001858

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