特許無効審判
2015-800158
ランフラットタイヤ
- 審判番号
- 2015-800158
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2009-107764
- 登録番号
- 特許第4886810号(P4886810)
- 請求日
- 2015年08月03日
- 審決日
- 2017年12月26日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友ゴム工業 株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人 安富国際特許事務所
- 【被請求人】株式会社 ブリヂストン
- 【被請求人代理人】杉村 憲司
- 【被請求人代理人】塚中 哲雄
- 【被請求人代理人】池田 浩
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 祥吾
- 審判官 小柳 健悟
- 審判官 井上 猛
- 分類
- P1123.537-YAA(B60C) / P1123.536-YAA(B60C) / P1123.113-YAA(B60C) / P1123.121-YAA(B60C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第135条、特許法第169条第2項、特許法第167条の2第3号、特許法第167条の2第1号、特許法第181条、特許法第134条の2第6項、特許法第134条の2第1項、特許法第123条、特許法第131条の2第2項、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4886810号「ランフラットタイヤ」の特許無効審判事件についてされた平成28年12月9日付け審決(以下,「一次審決」という。)に対し,知的財産高等裁判所において,一次審決のうち,請求項1~4に係る部分を取り消す旨の判決(平成29年(行ケ)第10015号,平成29年8月22日)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4886810号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第4886810号の請求項5に係る発明についての本件審判の請求を却下する。
特許第4886810号の請求項1~4に係る発明についての本件審判の請求は成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1 特許第4886810号(請求項の数16。以下,「本件特許」という。)は,平成11年6月4日(優先権主張:平成10年6月8日)を出願日とする特許出願(特願平11-157413号)の一部を,平成21年4月27日に新たな出願とした特許出願(特願2009-107764号)に係るものであって,平成23年12月16日に設定登録されたものである。
2(1)請求人は,平成27年8月3日,本件特許の請求項1~15に係る発明についての特許を無効とすることについて,本件審判を請求した。
本件審判における一次審決までの手続の経緯は,以下のとおりである。
平成27年 8月 3日 審判請求書
10月23日 答弁書,訂正請求書
11月30日 弁駁書
12月28日 上申書(請求人)
平成28年 1月19日 審理事項通知書
2月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)
口頭審理陳述要領書(被請求人)
2月22日 第1回口頭審理,補正許否の決定
2月24日 上申書(請求人)
3月22日 答弁書(2),訂正請求書
4月28日 弁駁書(2)
5月12日 上申書(被請求人)
7月 5日 審決の予告
8月30日 上申書(3)(請求人)
9月 9日 上申書(2)(被請求人),訂正請求書
10月12日 弁駁書(3)
11月11日 補正許否の決定
12月 9日 一次審決
(2)一次審決の結論は,以下のとおりである。なお,平成28年9月9日付けの訂正請求書による訂正は,請求項5,14及び15を削除する訂正事項を含むものである。
「特許第4886810号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし5〕,〔6,8ないし13〕,14及び15について訂正することを認める。
特許第4886810号の請求項5,14及び15に係る発明についての本件審判の請求を却下する。
特許第4886810号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。
特許第4886810号の請求項6ないし13に係る発明についての本件審判の請求は,成り立たない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条ないし第62条の規定により,審判の総費用を15分し,その8を請求人の負担とし,その余を被請求人の負担とする。」
(3)一次審決のうち,いずれも独立項である請求項14及び15に係る部分については,一次審決の謄本の送達により,確定した(特許法167条の2第3号)。
3(1)請求人は,平成29年1月12日,知的財産高等裁判所に,一次審決のうち,請求項6~13に係る部分(請求不成立の部分)の取消しを求める訴えを提起した(平成29年(行ケ)第10006号,甲事件)。
また,被請求人は,同年1月18日,同裁判所に,一次審決のうち,請求項1~4に係る部分(請求成立の部分)の取消しを求める訴えを提起した(平成29年(行ケ)第10015号,乙事件)。
同裁判所は,平成29年8月22日,以下のとおりの判決(以下,「本件判決」という。)を言渡し,この判決はその後確定した。
「1 特許庁が無効2015-800158号事件について平成28年12月9日にした審決のうち,特許第4886810号の請求項1ないし4に係る部分を取り消す。
2 甲事件原告・乙事件被告の甲事件請求を棄却する。
3 訴訟費用は,甲事件乙事件を通じ,甲事件原告・乙事件被告の負担とする。」
(2)一次審決のうち,訂正の請求がされた一群の請求項である請求項6~13に係る部分(請求不成立の部分)については,上記のとおり,甲事件に係る請求を棄却する旨の本件判決が確定したことにより,確定した(特許法167条の2第1号)。
4 その後,本件審判の審理が再開された。
一次審決のうち,請求項6~15に係る部分については,上記2(3)及び3(2)のとおり,既に確定している。
一方,一次審決のうち,請求項1~4に係る部分(請求成立の部分)については,上記のとおり,本件判決が確定したことにより,その取消しが確定した。すなわち,訂正の請求がされた一群の請求項である請求項1~5のうち,請求項1~4に係る部分について,一次審決を取り消す旨の本件判決が確定したから,当該一群の請求項である請求項1~5のうち,その他の請求項である請求項5に係る部分について,審決を取り消す(特許法181条2項)。
以下,本件特許の請求項1~5に係る発明についての本件審判の請求について,判断することとする。
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成28年9月9日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。
なお,平成28年3月22日付けの訂正請求書による訂正の請求は,本件訂正の請求がされたことに伴い,特許法134条の2第6項の規定により,取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
とあるのを,
「100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に,
「170℃以上であるゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
とあるのを,
「170℃以上であり,天然ゴムを含むゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
と訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0006】の記載に,
「該ゴム補強層が,昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
とあるのを,
「該ゴム補強層が,昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
と訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0006】の記載に,
「170℃以上であるゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
とあるのを,
「170℃以上であり,天然ゴムを含むゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に,
「100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
とあるのを,
「100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
と訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0006】の記載に,
「該ゴムフィラーに昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
とあるのを,
「該ゴムフィラーに昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」
と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0006】において,
「(5) 前記ゴム組成物に,1分子中にエステル基を2個以上有する化合物を配合したことを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のランフラットタイヤ。」
との記載を削除する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1及び5について
訂正事項1及び5に係る訂正は,それぞれ,訂正前の請求項1及び2における「動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分」が,同「100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前」に存在することを明確にするものであるが,これらの訂正は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項1に対して,「天然ゴムを含む」との記載を追加するものである。
この訂正は,訂正前の請求項1における,サイドウォール部を補強するゴム補強層に含まれるゴム組成物を,「天然ゴムを含む」ものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,本件明細書等の【0020】,【表1】には,上記ゴム組成物が「天然ゴムを含む」ものであることが記載されているから,この訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)訂正事項7について
訂正事項7に係る訂正は,訂正前の請求項5を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4)訂正事項3,4,6及び8について
訂正事項3,4,6及び8に係る訂正は,上記(1)~(3)の訂正事項1,2,5及び7による訂正に合わせて,願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1~5について,請求項3~5は,請求項1又は2を直接的又は間接的に引用するものであり,このうち,請求項3及び4は,上記(1)及び(2)の訂正事項1,2及び5によって記載が訂正される請求項1及び2に連動して訂正されるものである。そして,訂正前の請求項5は,上記(3)の訂正事項7によって削除されている。したがって,訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
また,上記(4)の訂正事項3,4,6及び8に係る訂正は,願書に添付した明細書を訂正するものであるが,いずれも一群の請求項である訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5に関係する訂正である。そして,本件訂正は,明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている。
3 まとめ
前記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法134条の2第1項ただし書き1号又は3号のいずれかに掲げる事項を目的とするものに該当し,同条3項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条4項ないし6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。
第3 本件訂正発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1~5に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件訂正発明1」等といい,これらをまとめて「本件訂正発明」という場合がある。また,本件訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。)。
【請求項1】
ゴム補強層によって補強されたサイドウォール部を有し,
該ゴム補強層が,昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上であり,天然ゴムを含むゴム組成物を含むランフラットタイヤ。
【請求項2】
ゴムフィラーで補強されたビード部を有し,
該ゴムフィラーに昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上であるゴム組成物を用いたランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物に,1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合したことを特徴とする特許請求の範囲1又は2項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物の配合量がゴム成分100重量部に対し1重量部から10重量部であることを特徴とする特許請求の範囲3項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項5】(削除)
第4 当事者の主張の概要
1 請求人の主張の概要
(1)請求の趣旨
特許第4886810号の請求項1ないし5に記載された発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。
(2)無効理由
本件訂正発明は,下記ア~メのとおりの無効理由があるから,本件特許は特許法123条1項2号及び4号に該当し,無効とすべきものである。証拠方法として,甲第1号証~甲第7号証,甲第9号証~甲第33号証,甲第42号証~甲第45号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。
なお,平成27年11月30日付け弁駁書及び同年12月28日付け上申書による請求の理由の補正(新規性に関する無効理由の根拠として甲1の他の実施例の追試結果を追加する主張)については,第1回口頭審理において,許可すると決定した(特許法131条の2第2項。第1回口頭審理調書)。
ア 無効理由1-1(甲1に基づく新規性)
本件訂正発明1は,甲1に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものである。
イ 無効理由1-2(甲4に基づく新規性)
本件訂正発明1は,甲4に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものである。
ウ 無効理由1-3(甲1に基づく進歩性)
本件訂正発明1は,甲1に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
エ 無効理由1-4(甲4に基づく進歩性)
本件訂正発明1は,甲4に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
オ 無効理由1-5(甲1及び甲16に基づく進歩性)
本件訂正発明1は,甲1及び甲16に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
カ 無効理由1-6(甲5及び甲6に基づく進歩性)
本件訂正発明1は,甲5及び甲6に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
キ 無効理由1-7(甲5及び甲7に基づく進歩性)
本件訂正発明1は,甲5及び甲7に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ク 無効理由1-8(サポート要件)
当業者が,本件原出願時の技術常識を考慮しても,本件訂正発明1のクレームの全範囲において,本件訂正発明1において規定されているパラメータを満足しさえすれば課題を解決できるとは理解することができず,本件訂正発明1が,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず,特許法36条6項1号の規定に違反して特許されたものである。
ケ 無効理由1-9(実施可能要件)
本件訂正明細書には,本件訂正発明1において規定されているパラメータを満たすゴム組成物を製造する方法として,特定の熱老化防止剤を配合する手法以外の方法について一切記載されておらず,当業者が,本件原出願時の技術常識を考慮しても,本件訂正発明1に係る物のうち,発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物以外の物を作るために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があると認められ,本件訂正明細書の記載は,本件訂正発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分であるとはいえず,特許法36条4項1号の規定に違反して特許されたものである。
コ 無効理由1-10(明確性)
本件訂正発明1では,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において」と規定されているものの,ゴム組成物の動的貯蔵弾性率について,どのような試験・測定方法によるものであるかが明確に記載されていない。よって,ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
サ 無効理由1-11(明確性)
本件訂正発明1では,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において」と規定されており,ゴム組成物の動的貯蔵弾性率について,本件訂正明細書には「ゴム組成物の粘弾性は,160℃で12分加硫した,厚さ2mmのスラブシートより切り出した幅5mm,長さ20mmの試料の動的貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を,東洋精機(株)製スペクトロメータを使用して,初期荷重160g,動的歪1%,周波数52Hzの測定条件で,20℃~250℃の温度範囲で,3℃/秒の昇温速度にて測定した。」という記載があるものの,初期荷重160gが意味するところが不明確であり,どのような解釈を採用するかにより,動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値は異なることとなり,ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
シ 無効理由1-12(明確性)
本件訂正発明1では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」と規定されているものの,本件訂正明細書を参酌しても当該「外挿線A」及び「外挿線B」をどのように引くのかが不明確であり,それらの引き方により,外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度は異なることとなり,ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
ス 無効理由2-1(甲2に基づく新規性)
本件訂正発明2は,甲2に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものである。
セ 無効理由2-2(甲2に基づく進歩性)
本件訂正発明2は,甲2に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ソ 無効理由2-3(甲2及び甲17に基づく進歩性)
本件訂正発明2は,甲2及び甲17に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
タ 無効理由2-4(甲1に基づく進歩性)
本件訂正発明2は,甲1に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
チ 無効理由2-5(甲1及び甲17に基づく進歩性)
本件訂正発明2は,甲1及び甲17に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ツ 無効理由2-6(甲1及び甲17に基づく進歩性)
本件訂正発明2は,甲1及び甲17に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
テ 無効理由2-7(甲1及び甲6に基づく進歩性)
本件訂正発明2は,甲1及び甲6に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ト 無効理由2-8(甲1及び甲7に基づく進歩性)
本件訂正発明2は,甲1及び甲7に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ナ 無効理由2-9(サポート要件)
当業者が,本件原出願時の技術常識を考慮しても,本件訂正発明2のクレームの全範囲において,本件訂正発明2において規定されているパラメータを満足しさえすれば課題を解決できるとは理解することができず,本件訂正発明2が,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり,本件訂正発明2の特許請求の範囲の記載は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず,特許法36条6項1号の規定に違反して特許されたものである。
ニ 無効理由2-10(実施可能要件)
本件訂正明細書には,本件訂正発明2において規定されているパラメータを満たすゴム組成物を製造する方法として,特定の熱老化防止剤を配合する手法以外の方法について一切記載されておらず,当業者が,本件原出願時の技術常識を考慮しても,本件訂正発明2に係る物のうち,発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物以外の物を作るために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があると認められ,本件訂正明細書の記載は,本件訂正発明2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分であるとはいえず,特許法36条4項1号の規定に違反して特許されたものである。
ヌ 無効理由2-11(明確性)
本件訂正発明2では,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において」と規定されているものの,ゴム組成物の動的貯蔵弾性率について,どのような試験・測定方法によるものであるかが明確に記載されていない。よって,ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく,本件訂正発明2の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
ネ 無効理由2-12(明確性)
本件訂正発明2では,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において」と規定されており,ゴム組成物の動的貯蔵弾性率について,本件訂正明細書には「ゴム組成物の粘弾性は,160℃で12分加硫した,厚さ2mmのスラブシートより切り出した幅5mm,長さ20mmの試料の動的貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を,東洋精機(株)製スペクトロメータを使用して,初期荷重160g,動的歪1%,周波数52Hzの測定条件で,20℃~250℃の温度範囲で,3℃/秒の昇温速度にて測定した。」という記載があるものの,初期荷重160gが意味するところが不明確であり,どのような解釈を採用するかにより,動的貯蔵弾性率の170℃から200℃までの変動値は異なることとなり,ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく,本件訂正発明2の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
ノ 無効理由2-13(明確性)
本件訂正発明2では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」と規定されているものの,本件訂正明細書を参酌しても当該「外挿線A」及び「外挿線B」をどのように引くのかが不明確であり,それらの引き方により,外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度は異なることとなり,ある具体的な物が当該特許請求の範囲に属するものか否かが明確ではなく,本件訂正発明2の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
ハ 無効理由3-1(甲1及び甲16に基づく進歩性)
本件訂正発明3は,甲1及び甲16に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ヒ 無効理由3-2(明確性)
本件訂正発明3は,本件訂正発明1,2を引用するものであるから,無効理由1-10~1-12,2-11~2-13で述べたとおり,本件訂正発明1,2と同様に,本件訂正発明3の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
フ 無効理由4-1(甲1及び甲16に基づく進歩性)
本件訂正発明4は,甲1及び甲16に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ヘ 無効理由4-2(明確性)
本件訂正発明4は,本件訂正発明1,2を引用するものであるから,無効理由1-10~1-12,2-11~2-13で述べたとおり,本件訂正発明1,2と同様に,本件訂正発明4の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
ホ 無効理由5-1(甲1及び甲2に基づく進歩性)
本件訂正発明5は,甲1及び甲2に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
マ 無効理由5-2(甲1及び甲3に基づく進歩性)
本件訂正発明5は,甲1及び甲3に記載された発明に基づいて容易に想到できた発明であり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
ミ 無効理由5-3(サポート要件)
無効理由1-8,2-9で述べたとおり,本件訂正発明1,2と同様に,本件訂正発明5が,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり,本件訂正発明5の特許請求の範囲の記載は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず,特許法36条6項1号の規定に違反して特許されたものである。
ム 無効理由5-4(実施可能要件)
無効理由1-9,2-10で述べたとおり,本件訂正発明1,2と同様に,当業者が,本件原出願時の技術常識を考慮しても,本件訂正発明5に係る物のうち,発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物以外の物を作るために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があると認められ,本件訂正明細書の記載は,本件訂正発明5を当業者が実施できる程度に明確かつ十分であるとはいえず,特許法36条4項1号の規定に違反して特許されたものである。
メ 無効理由5-5(明確性)
本件訂正発明5は,本件訂正発明1,2を引用するものであるから,無効理由1-10~1-12,2-11~2-13で述べたとおり,本件訂正発明1,2と同様に,本件訂正発明5の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されておらず,特許法36条6項2号の規定に違反して特許されたものである。
(3)証拠方法
・甲1 :特開平4-185512号公報
・甲1-1:住友ゴム工業株式会社材料開発本部材料第三部 多田俊生による平成27年7月14日付けの実験成績証明書
・甲1-2:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による,担当者「鷲尾」の押印がある平成27年6月18日付けの動的粘弾性測定(1)と表示された分析結果報告書
・甲1-3:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による,担当者「鷲尾」の押印がある平成27年6月22日付けの動的粘弾性測定(2)と表示された分析結果報告書
・甲1-4:住友ゴム工業株式会社材料開発本部材料第三部 多田俊生による平成27年11月24日付けの実験成績証明書
・甲1-5:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による,担当者「鷲尾」の押印がある平成27年11月26日付けの動的粘弾性測定(1)と表示された分析結果報告書
・甲1-6:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による,担当者「鷲尾」の押印がある平成27年11月26日付けの動的粘弾性測定(2)と表示された分析結果報告書
・甲1-7:住友ゴム工業株式会社材料開発本部材料第三部 多田俊生による平成27年12月18日付けの実験成績証明書
・甲1-8:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による,担当者「鷲尾」の押印がある平成27年12月16日付けの動的粘弾性測定(4)と表示された分析結果報告書
・甲1-9:(株)UBE科学分析センター高分子材料分析研究室による,担当者「鷲尾」の押印がある平成27年12月17日付けの動的粘弾性測定(4)と表示された分析結果報告書
・甲2 :特開昭63-150339号公報
・甲3 :米国特許第5736611号明細書
・甲4 :特開平3-176213号公報
・甲5 :特開昭51-64555号公報
・甲6 :特開昭63-182355号公報
・甲7 :特開平5-339422号公報
・甲9 :平成17年(行ケ)第10042号(知財高裁大合議部判決)判決文
・甲10 :平成21年(行ケ)第10033号判決文
・甲11 :特許・実用新案審査基準の一部抜粋(第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件,2~6頁)
・甲12 :特許・実用新案審査基準の一部抜粋(第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件,20~26頁)
・甲13 :平成17年(行ケ)第10295号判決文
・甲14 :特許・実用新案審査基準の一部抜粋(第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件,7~16頁)
・甲15 :平成14年(ワ)第25697号判決文
・甲16 :特開平9-151279号公報
・甲17 :特開平10-195237号公報
・甲18 :特開昭49-20802号公報
・甲19 :特開平1-287153号公報
・甲20 :特開平2-179513号公報
・甲21 :特開平3-197209号公報
・甲22 :特開平9-99716号公報
・甲23 :特開平10-17720号公報
・甲24 :特開昭55-43167号公報
・甲25 :特開平7-304312号公報
・甲26 :特開平5-112110号公報
・甲27 :特開平8-244422号公報
・甲28 :特開平9-164822号公報
・甲29 :特開平10-24714号公報
・甲30 :特開平3-28244号公報
・甲31 :特開平7-32823号公報
・甲32 :米国特許第5494091号明細書
・甲33 :特許第4109324号公報
・甲42 :特開平5-112110号公報
・甲43 :特開平5-186638号公報
・甲44 :特開平6-220253号公報
・甲45 :平成25年(行ケ)第10250号判決文
2 被請求人の主張の概要
(1)答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求める。
(2)請求人主張の無効理由について
請求人主張の無効理由1-1~5-5は,いずれも理由がない。証拠方法として,乙第1号証~乙第9号証,乙第12号証及び乙第13号証(以下,単に「乙1」等という。)を提出する。
(3)証拠方法
・乙1 :特開平7-179669号公報
・乙2 :特開平7-233286号公報
・乙3 :特開平6-308324号公報
・乙4 :特開平6-235816号公報
・乙5 :特開平3-188144号公報
・乙6 :特開平8-176963号公報
・乙7 :特開平6-346319号公報
・乙8 :山田準吉著「改訂 ゴム」,大日本図書株式会社,昭和55年9月30日改訂第4刷発行,128~131頁及び奥付頁
・乙9 :「ゴム試験法」,社団法人日本ゴム協会編集・発行,昭和38年5月1日初版発行,422~423頁及び奥付頁
・乙12 :「ゴム技術の基礎」,社団法人日本ゴム協会編集・発行,昭和58年4月1日初版発行,238~241頁及び奥付頁
・乙13 :「JIS プラスチックの転移温度測定方法 JIS K 7121-1987」,日本規格協会発行,昭和62年10月1日制定,1~9頁
第5 当審の判断
本件特許の請求項5が本件訂正により削除された結果,同請求項5に係る発明についての本件審判の請求は対象を欠くこととなったため,特許法135条の規定により審決をもって却下すべきものである。
また,以下に述べるように,無効理由1-1~4-2はいずれも理由がなく,請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
以下,事案に鑑み,明確性に関する無効理由,サポート要件に関する無効理由,実施可能要件に関する無効理由,新規性・進歩性に関する無効理由の順で検討する。また,新規性・進歩性に関する無効理由については,本件訂正発明1に対する無効理由(甲1,甲4,甲5をそれぞれ主引例とするもの),本件訂正発明2に対する無効理由(甲2,甲1をそれぞれ主引例とするもの),本件訂正発明3に対する無効理由,本件訂正発明4に対する無効理由の順で検討する。
1 明確性に関する無効理由について
(1)無効理由1-12,2-13,3-2及び4-2
本件判決は,無効理由1-12及び2-13並びにこれらと同旨の無効理由3-2及び4-2について,以下のとおり判示している。
「請求項1及び2の記載のうち「急激な降下」部分とは,動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,左から右に向かって降下の傾きの最も大きい部分を意味することは明らかである(【図2】)。また,傾きの最も大きい部分の傾きの程度は一義的に定まるから,「急激な降下部分の外挿線」の引き方も明確に定まるものである。」(本件判決31~32頁)
「ASTM規格(乙31)は,世界最大規模の標準化団体である米国試験材料協会が策定・発行する規格であるところ,ASTM規格においては,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから,ポリマーのガラス転移温度を算出するに当たり,ほぼ直線的に変化する部分を特段定義しないまま,同部分の外挿線を引いている。また,JIS規格(乙13)は,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから,プラスチックのガラス転移温度を算出するに当たり,「狭い温度領域では直線とみなせる場合もある」「ベースライン」を延長した直線を,外挿線としている。
そうすると,ポリマーやプラスチックのガラス転移温度の算出に当たり,温度上昇に伴って変化する物性値のグラフから,特定の温度範囲における傾きの変化の条件を規定せずに,ほぼ直線的な変化を示す部分を把握することは,技術常識であったというべきである。
そして,ポリマー,プラスチック及びゴムは,いずれも高分子に関連するものであるから,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,その主成分である高分子に関する上記技術常識を当然有している。
したがって,ゴム組成物の耐熱性に関する技術分野における当業者は,上記技術常識をもとに,昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,特定の温度範囲における傾きの変化の条件が規定されていなくても,「ほぼ直線的な変化を示す部分」を把握した上で,同部分の外挿線を引くことができる。」(本件判決32~33頁)
「したがって,本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載のうち,「急激な降下」,「急激な降下部分の外挿線」及び「ほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線」との各記載は明確であって,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2の記載が明確性要件に違反するということはできない。請求項3及び4の各記載も同様であるから,明確性要件に違反するということはできない。」(本件判決34頁)
上記判示事項は,行政事件訴訟法33条1項の規定により,当審を拘束する。
以上のとおり,本件訂正発明1~4はいずれも明確であるから,請求人が主張する無効理由1-12及び2-13並びにこれらと同旨の無効理由3-2及び4-2は,いずれも理由がない。
(2)無効理由1-10,2-11,3-2及び4-2
ア 動的貯蔵弾性率の測定に関する試験・測定条件について,請求項1には明記されていないものの,本件訂正明細書には,「ゴム組成物の粘弾性は,160℃で12分加硫した,厚さ2mmのスラブシートより切り出した幅5mm,長さ20mmの試料の動的貯蔵弾性率(E’)を,東洋精機(株)製スペクトロメータを使用して,初期荷重160g,動的歪1%,周波数52Hzの測定条件で,20℃~250℃の温度範囲で,3℃/秒の昇温速度にて測定した。」(【0030】)と具体的に記載されている。
そうすると,本件訂正発明1における動的貯蔵弾性率は,上記のとおりの試験・測定条件により測定されたものと解するのが自然である。請求項1に,動的貯蔵弾性率の測定に関する試験・測定条件について明記されていないからといって,本件訂正発明1が明確でないということはできず,本件訂正明細書の記載を踏まえれば,本件訂正発明1は明確といえる。
イ 本件訂正発明2のほか,本件訂正発明1又は2を引用する本件訂正発明3及び4についても,上記アと同様であり,本件訂正発明2~4はいずれも明確である。
ウ 以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-10及び2-11並びにこれと同旨の無効理由3-2及び4-2は,いずれも理由がない。
(3)無効理由1-11,2-12,3-2及び4-2
ア 本件訂正明細書に記載された動的貯蔵弾性率の測定装置「東洋精機(株)製スペクトロメータ」(【0030】)には,(i)歪の値を一定に維持して動的貯蔵弾性率を測定する測定モードと,(ii)荷重の値を一定に維持して動的貯蔵弾性率を測定する測定モードとの2種類の測定モードが存在することから,動的貯蔵弾性率を測定する方法としては,(i)「歪を一定とする測定方法」と,(ii)「荷重を一定とする測定方法」(請求人が主張する○2案)との2種類の方法があることは,技術常識である。(審決注:「○2」等は,まる囲みの数字を意味する。以下同じ。)
上記(i)「歪を一定とする測定方法」を用いる場合は,一定とする歪の値を「初期歪」又は「静的歪」といった表記で表わすことが一般的である(乙1の【0030】,乙2の【0023】)。一方,上記(ii)「荷重を一定とする測定方法」を用いる場合は,一定とする荷重の値を「初期荷重」といった表記で表わすことが一般的である(乙3の【0066】,乙4の【0051】,乙5の6頁右上欄,乙6の【0015】,乙7の【0007】)。ここで,一定とする荷重を「初期荷重」というのは,当技術分野での古くからの慣習である。
以上によれば,本件訂正明細書に記載される「初期荷重160g」とは,動的貯蔵弾性率を測定する方法のうち,(ii)「荷重を一定とする測定方法」(請求人が主張する○2案)を前提としたものであることは明らかであり,その意味は明確といえる。よって,本件訂正発明1は明確である。
イ 本件訂正発明2のほか,本件訂正発明1又は2を引用する本件訂正発明3及び4についても,上記アと同様であり,本件訂正発明2~4はいずれも明確である。
ウ 請求人は,「初期荷重160g」について,○1案(測定開始時(20℃)に160gの静的荷重を加え,この静的荷重まで測定試料を伸ばし,この状態でサンプルの長さを固定した状態で動的貯蔵弾性率の測定を行う。)及び○2案(静的荷重が測定試料に常に160gかかるように高温ではサンプルを伸長し続けて動的貯蔵弾性率の測定を行う。)の2通りの解釈を考えることができることを前提として,「初期荷重」の用語が,「測定の初期段階に」サンプルにかかる荷重を一定にすることを指すのか,「測定全体を通して」サンプルにかかる荷重を一定にすることを指すのか,明らかでないと主張する。また,請求人は,○1案の測定方法は,(i)「歪を一定とする測定方法」ではないとも主張する。
しかしながら,動的貯蔵弾性率の測定装置「東洋精機(株)製スペクトロメータ」においては,動的貯蔵弾性率を測定する方法として,(i)「歪を一定とする測定方法」と,(ii)「荷重を一定とする測定方法」(請求人が主張する○2案)との2種類の方法があることは,上記アのとおりである。請求人の主張は,(i)「歪を一定とする測定方法」とは異なる○1案の測定方法が存在することを前提とするものであり,失当である。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
エ 以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-11及び2-12並びにこれと同旨の無効理由3-2及び4-2は,いずれも理由がない。
2 サポート要件に関する無効理由1-8及び2-9について
(1)特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者である被請求人が証明責任を負うと解するのが相当である(知的財産高等裁判所,平成17年(行ケ)第10042号,同年11月11日特別部判決)。
以下,上記の観点に立って,本件について検討することとする。
(2)ア 本件訂正明細書の記載(【0004】)によれば,本件訂正発明1及び2の課題は,耐熱性が改良されたゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層やビードフィラーに用いることにより,耐久性が改良された空気入りタイヤを提供することであると認められる。
そして,本件訂正明細書には,以下の記載がある。
「本発明者らは,ゴム組成物の耐熱性を上げるべく,種々の配合薬品について鋭意研究した結果,特定の化合物を配合することにより,ゴム組成物の耐熱性を大幅に向上できることを見出し,本発明を完成するに至った。」(【0005】)
「ゴム組成物の昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度を170℃以上に設定することにより,・・・ゴム組成物の物性の温度依存性を小さくすることができ,さらに,このゴム組成物を空気入りタイヤの特にはサイドウォール部のゴム補強層,ビードフィラーに用いることにより,タイヤの耐久性を大幅に改善することができる。」(【0007】)
「本発明のゴム組成物は,・・・タイヤのパンクなどによる大きな変形のため,ゴム組成物の温度が170℃以上になっても弾性率の低下が抑えられるため,高温下での発熱が抑制され,タイヤの耐久性を向上することができる。」(【0027】)
「このようなゴム組成物を,タイヤに,好ましくは,タイヤのサイドウォール部のゴム補強層又はビードフィラーに使用することにより,特にタイヤサイドウォール部の耐久性を向上させることができ,結果として,例えば,ランフラット走行距離が大幅に伸びることとなる。」(【0028】)
以上の記載によれば,本件訂正発明1及び2の課題は,サイドウォール部のゴム補強層やビードフィラーに用いるゴム組成物として,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」であるものを用いることによって解決するとされていることが理解できる。
イ 本件訂正明細書には,「外挿線A」及び「外挿線B」について具体的な説明がなされている(【0011】)とともに,これらの交点の温度(温度C)について,「温度Cを170℃以上としたのは,この温度が低すぎると,高温でのゴム組成物の耐久性が十分でなく成り,結果として,特にランフラット走行時の耐久性の向上が十分でなくなるためである。」(【0010】)と記載されている。
また,本件訂正明細書には,ゴム組成物に含まれるゴム成分としては,通常用いられるものを適宜選択できること(【0020】),その他の配合剤も適宜配合できること(【0021】)が記載されている。また,ゴム組成物は,ランフラット走行時のように温度が200℃以上にもなると,架橋部やポリマー自体が切断されることにより,弾性率が低下するが(【0002】),熱老化防止剤として,1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合することにより,ゴム成分を構成する重合体の鎖切断を抑制できるため,容易に温度Cを170℃以上とすることができる(【0012】)ことが記載され,その配合量(【0013】)についても記載されている。
ウ さらに,本件訂正明細書には,実施例として,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」(以下,単に「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」という場合がある。)が「170℃以上」であるゴム組成物の具体例が記載されるとともに,そのゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層のみに用いたランフラットタイヤの具体例(実施例1~16)のほか,同ゴム組成物をビードフィラーにも用いたランフラットタイヤの具体例(実施例17及び18)が記載されている。これらの実施例によれば,本件訂正発明1及び2に係るゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層やビードフィラーに用いることにより,ランフラット耐久性を向上できることが理解できる。
エ 以上によれば,本件訂正発明1及び2は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件訂正発明1及び2の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件訂正発明1及び2は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は,熱老化防止剤として,1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合した特定のゴム組成物は,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」であるとの本件訂正発明1及び2のパラメータを満足しており,本件訂正明細書の記載によれば,このゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層やビードフィラーに用いることにより,ランフラットタイヤの耐久性改善という本件訂正発明1及び2の課題を解決しようとしていることが読み取れるものの,ゴム組成物の組成及び組成によって変化する物性が,ランフラットタイヤの耐久性に大きく影響を及ぼすことは技術常識であり,上記の特定のゴム組成物と組成・物性が異なるゴム組成物についてまで,上記パラメータを満足しさえすれば課題を解決できるといえる根拠は,本件訂正明細書に見出せないと主張する。
しかしながら,本件訂正発明1及び2が,その課題を解決できると認識できる範囲のものであることは,上記(2)のとおりである。この点について,請求人は,甲4の記載を根拠に,ゴム組成物について,上記パラメータを満足しさえすれば,100%モジュラスがどのような値であってもよいかについて,本件訂正明細書でサポートされていないとも主張するが,本件訂正発明1及び2は,ゴム組成物の100%モジュラスについて何ら特定するものではないから,請求人の主張は,サポート要件違反を基礎付けるものではなく,失当である。また,請求人の主張が,ゴム組成物の100%モジュラスが低い場合には,本件訂正発明1及び2の課題が解決できないことをいうものであるとしても,ゴム組成物の100%モジュラスの程度が低いことが,直ちに本件訂正発明1及び2に係るランフラットタイヤの耐久性が改良されることを否定することにはならない。(この点については,本件判決(35~36頁)が,本件訂正発明6について同様に判示するとおりである。)
いずれにしろ,請求人の主張は,採用することができない。
イ 請求人は,本件訂正発明2について,本件訂正明細書には,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」であるゴム組成物をランフラットタイヤのビードフィラーに用いた実施例が,実施例17及び18しか記載されておらず,上記交点の温度が170℃未満となる比較例は記載されていないから,技術常識に照らしても,上記交点の温度が「170℃以上」という本件訂正発明2の範囲まで,本件訂正明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。
しかしながら,本件訂正明細書には,実施例として,上記交点の温度が「170℃以上」であるゴム組成物を,サイドウォール部のゴム補強層のみに用いたランフラットタイヤの具体例(実施例1~16)のほか,同ゴム組成物をビードフィラーにも用いたランフラットタイヤの具体例(実施例17及び18)が記載されていることは,上記(2)ウのとおりである。
このうち,上記ゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層とビードフィラーに用いた実施例17及び18は,同ゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層のみに用いた実施例3及び4よりも,ランフラット耐久性が向上することが示されている。そうすると,当業者は,上記ゴム組成物をビードフィラーのみに用いたランフラットタイヤにおいても,その程度はともかく,ランフラット耐久性が向上することを認識し,理解するといえる。(この点については,本件判決(53頁)が,本件訂正発明7について同様に判示するとおりである。)
そして,実施例1~16は,上記ゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層のみに用いたものではあるが,上記交点の温度が「170℃以上」の広い範囲に及ぶもの(172~181℃)であって,ランフラット耐久性が向上することが示されており,一方,比較例1は,上記交点の温度が169℃であるから,これら実施例1~16及び比較例1のほか,上記(2)ア及びイで指摘した本件訂正明細書の記載も総合すれば,当業者は,上記交点の温度が「170℃以上」であり,上記ゴム組成物をビードフィラーに用いた本件訂正発明2の範囲においても,ランフラット耐久性が向上すると認識できる。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-8及び2-9は,いずれも理由がない。
3 実施可能要件に関する無効理由1-9及び2-10について
(1)ア 本件訂正発明1及び2は,「ランフラットタイヤ」という物の発明であるところ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),物の発明について実施をすることができるとは,その物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解される。
したがって,本件において,当業者が,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,本件訂正発明1及び2に係るランフラットタイヤを生産し,使用することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。
イ 本件訂正明細書には,前記2(2)で述べたとおり,本件訂正発明1及び2に係るゴム組成物や,そのゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層やビードフィラーに用いたランフラットタイヤについて具体的な説明がなされている。
また,本件訂正明細書には,本件訂正発明1及び2に係るゴム組成物の製造方法について,前記2(2)で述べたとおり,各種のゴム成分,各種の配合剤,特定の熱老化防止剤を配合することが具体的に記載されている。本件訂正明細書には,本件訂正発明1及び2に係るゴム組成物をサイドウォール部のゴム補強層やビードフィラーに用いたランフラットタイヤの製造方法については明記されていないものの,このようなランフラットタイヤの製造方法は,当業者にとって自明のものと解される(本件訂正明細書においても,「常法によって製造」(【0035】)と記載されるとおりである。)。
そして,実施例1~18には,実際に上記のようなランフラットタイヤを製造したことが記載されており,そのようにして得られたランフラットタイヤが実際に使用できるものであることも,実施例におけるランフラット耐久性試験の結果から明らかである。
ウ 以上によれば,当業者が,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,本件訂正発明1及び2に係るランフラットタイヤを生産し,使用することができるといえるから,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件訂正発明1及び2について,実施可能要件を満たすものである。
(2)請求人の主張について
請求人は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1及び2に係るゴム組成物を製造する方法として,熱老化防止剤である1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合する手法以外の方法について一切記載されておらず,当業者が,技術常識を考慮しても,本件訂正発明1に係る物のうち,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物以外の物を作る場合には,製造されたゴム組成物につき動的貯蔵弾性率を逐一計測して,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」とのパラメータを満たしているか否かを確認することが必要であるため,当業者に過度の試行錯誤を強いると主張する。
しかしながら,上記(1)で述べたとおり,本件訂正明細書には,本件訂正発明1及び2に係る上記交点の温度が「170℃以上」であるゴム組成物の製造方法について,各種のゴム成分,各種の配合剤,特定の熱老化防止剤を配合することが具体的に記載されており,実施例1~18には,実際にランフラットタイヤを製造したことが記載されているから,当業者は,本件訂正発明1及び2に係るランフラットタイヤを製造するにあたり,過度の試行錯誤を要するものとはいえない(この点については,本件判決(37及び54頁)が,本件訂正発明6及び7について同様に判示するとおりである。)。また,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載が,本件訂正発明1及び2について,実施可能要件を満たすものであるというために,上記以外のあらゆる製造方法についてまで記載する必要があるとまではいえない。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-9及び2-10は,いずれも理由がない。
4 無効理由1-1(甲1に基づく新規性)について
(1)本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲1(特開平4-185512号公報)には,以下の記載がある。
ア「1.発明の名称 空気入り安全タイヤ」(1頁左欄2行)
イ「1.左右一対のビード部と,各ビード部に連なる一対のサイド部と,両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え,前記ビード部区域から前記トレッド部の,ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって,前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて,
ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0~20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック30~90重量部,硫黄2~10重量部,チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1~4重量部を配合したゴム組成物を前記サイド部座屈防止用補強層として用いたことを特徴とする空気入り安全タイヤ。」(特許請求の範囲)
ウ「(産業上の利用分野)
本発明は,自動車走行中に空気入りタイヤのパンクを起こしても,タイヤサイドウオールの剛性で車体を支持し,そのままでも持続走行が可能な安全性に優れた,いわゆる安全空気入りタイヤに関するものである。」(1頁右欄4~9行)
エ「(従来の技術)
空気入り安全タイヤは,タイヤの内部空洞中に所定の内圧下で充填された空気がタイヤに不意に生じたパンク損傷により放出されるまでの間又はその後,そのタイヤに作用する輪重を充填空気内圧から肩代わり支持する何らかの手段により,パンク状態での耐久走行を該タイヤを修理又は交換を安全になし得る場所に至るまでの間継続することができるようにしたものである。
かかる輪重支持手段については,これまで種々の形式のものが提案されている(特公昭53-3123号,特公昭57-50681号,特公昭61-41763号,特開昭57-472025,特開昭54-53405号公報等)。」(1頁右欄10行~2頁左上欄3行)
オ「(発明が解決しようとする課題)
これまで提案されてきた輪重支持手段の幾つかについては実用化されたものもあるが,それらにおいてもなおパンク発生後の持続走行性能に関しては満足のできるものではなく,さらなる持続走行性能の向上が望まれていた。
そこで,本発明の目的は,パンク状態でも,これまでよりも遥かに優れた持続走行性能を発揮することのできる安全空気入りタイヤを提供することにある。」(2頁左上欄4~13行)
カ「(課題を解決するための手段)
本発明者は,上記課題を解決するために鋭意検討した結果,空気入りタイヤに,所定のサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着し,この補強層のゴム組成物を特定の配合系とすることにより,上記目的を達成し得ることを見い出し,本発明を完成するに至った。
すなわち,本発明は,左右一対のビード部と,各ビード部に連なる一対のサイド部と,両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え,前記ビード部区域から前記トレッド部の,ショルダー部の肉厚が最も厚い部位までの区間の屈曲領域の全域にわたって,前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて,ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0~20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック30~90重量部,硫黄2~10重量部,チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1~4重量部を配合したゴム組成物を前記サイド部座屈防止用補強層として用いたことを特徴とする空気入り安全タイヤに関するものである。」(2頁左上欄14行~右上欄18行)
キ「本発明を図面に基づきより具体的に説明する。
第1図に示すように,本発明のタイヤは,左右一対のビード部5と,各ビード部5に連なる一対のサイド部4と,両サイド部4間にまたがるトレッド部2とを備えた空気入りタイヤ1において,前記ビード部5区域から前記トレッド部2の,ショルダー部3の肉厚が最も厚い部位までの区間の屈曲領域の全域にわたってサイド部座屈防止用補強層6をサイド部4内側のインナーライナー7上に一体的に固着する。また,このサイド部座屈防止用補強層6は,前記ビード部5及びトレッド部2に向かってそれぞれ厚さを漸減させた形状とする。」(2頁右上欄19行~左下欄11行)
ク「本発明においては,上記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物の配合系に特に特徴がある。以下,この配合系について詳述する。
上記サイド部座屈防止用補強層のゴム成分として用いるポリブタジエンゴムとして,シス-1,4-ポリブタジエンゴム,トランス-1,4-ポリブタジエンゴム,アイソタクチック-1,4-ポリブタジエンゴム,シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンゴム,その他シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの結晶を有するポリブタジエンゴム等が挙げられるが,これらに限定されるべきものではない。
また,ポリブタジエンゴムにブレンドし得るジエン系ゴムとしては,例えば天然ゴム,イソプレンゴム,スチレン-ブタジエンゴム,アクロニトリルブタジエンゴム,ハロゲン化ブチルゴム等が挙げられるが,やはりこれらに限定されるべきものではない。」(2頁左下欄12行~右下欄9行)
ケ「硫黄加硫促進剤として用いるチウラム系加硫促進剤としては,テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられ,またチアゾール系加硫促進剤としては,N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。また,グアニジン系加硫促進剤としては,ジフェニルグアニジン等が挙げられる。」(2頁右下欄13~19行)
コ「尚,本発明に係る前記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物には,ゴム工業で通用使用する配合剤,例えば老化防止剤,加硫助剤等を必要に応じ適宜配合することができるのは勿論のことである。」(2頁右下欄20行~3頁左上欄3行)
サ「(作用)
本発明においては,上記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物の配合系を上述のように特定することにより,該補強層が以下の物性値を有するようにすることが好ましい。
JISスプリング硬度A型
Hs(30):73°~90° 30℃で測定
Hs(130):70°~90° 130℃で測定
Hs(30)-Hs(130)≦2.0°
50%モジュラス:30~70kg/cm2
動的弾性率
E’(30):1.0~6.0×108dyn/cm2 30℃で測定
E’(130):1.0~6.0×108dyn/cm2 130℃で測定
反撥弾性率(レジリエンス):65~85% 30℃で測定
動的損係数
tanδ(30):0.05~0.250 30℃で測定
tanδ(130):0.01~0.220 130℃で測定」(3頁左上欄4~20行)
シ「パンク状態での走行中のサイドウオール部の操り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を来すことなく,持続走行性能を高めるためには,前記サイド部座屈防止用補強層の硬度Hs(30)を73°~90°,Hs(130)を70°~90°とし,かつHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°,好ましくは1.5°以内とする。
すなわち,Hs(30)が73°未満でかつHs(130)が70°未満の場合,パンク状態での走行中にタイヤの剛性を維持するには性能不足である。また,Hs(30)が90°を超えかつHs(130)が90°を超える場合,タイヤの通常走行での乗心地性が劣り,また高弾性故に屈曲時に脆性破壊を起こし易くなるという問題を生じる。更に,高温での硬度の低下を表すHs(30)-Hs(130)の差が2.0°を超えると,補強性の効果自体がなくなり,好ましくない。
また,かかる繰り返し圧縮屈曲による自己発熱によるタイヤ剛性の低下を防止するには,動的損係数tanδ(30)が0.05~0.250で,かつtanδ(130)が0.01~0.220の範囲内にあることが好ましい。」(3頁右上欄1~20行)
ス「更には,パンク後の前記補強層の急速な温度上昇を抑制するには前記反撥弾性率を65~85%,好ましくは70~82%の範囲内に収まるようにする。この値が65%未満の場合には温度上昇の抑制効果が少なく,一方85%を超えると,ゴム組成物の破壊強度の低下による耐屈曲性の低下を招き,好ましくない。」(3頁左下欄1~7行)
セ「具体的には,本発明においては繰り返しによる耐圧縮屈曲疲労性および耐自己発熱性を改良するために,前記サイド部座屈防止用補強層のゴム組成物のゴム成分として,ポリブタジエンゴム単独又はこれに他のジエン系ゴムを0~20重量部配合したものを使用する。」(3頁左下欄13~18行)
ソ「耐屈曲疲労性,耐自己発熱性,高温下での硬度の低下抑制のためには,ポリブタジエンゴム単独であることが好ましいが,製造上,工場の作業性の改良を目的としてポリブタジエン以外のジエン系ゴムを0~20重量部配合することができる。
但し,30重量部を超えて当該ジエン系ゴムを配合すると,上記式のHs(30)-Hs(130)の差が最大で2.0°を超え易くなることから,耐屈曲疲労性が劣ることになる。」(3頁左下欄19行~右下欄7行)
タ「また,本発明においてはかかるゴム組成物に配合する補強性カーボンブラック及び加硫系の選択が重要なポイントの1つであり,補強性カーボンブラックの種類,配合量及び加硫系は耐屈曲疲労性,耐発熱性,耐熱性に大きく影響するため,本発明で規定する範囲内において,空気入り安全タイヤの目的,用途に応じて前記物性を確保すべく選定する。
すなわち,前記物性を確保するに際し,硫黄は10重量部以上になると耐屈曲疲労性の低下を招き,一方2重量部以下になると硬度の低下及び耐自己発熱性の低下を招くため,好ましくない。
また,補強性カーボンブラックは90重量部以上になると耐自己発熱性の低下及び耐屈曲疲労性の低下を招き,一方30重量部以下になると硬度の低下を招くため,好ましくない。
更に,加硫促進剤の総量は,4重量部以上になると工場で押出しする際焦げ易く,また0.1重量部以下になると望むべく硬度が得られない。
尚,本ゴム組成物の耐圧縮屈曲疲労性及び耐熱性を改良するためにはチウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用で0.1~4重量部配合することは常に要求される。但し,4重量部を超えると工場で押出しする際に焦げ易く,また脆性破壊し易くなる。また,チアゾール系またはグアニジン系加硫促進剤と併用するときでも,チウラム系加硫促進剤は0.1~3重量部は常に必要である。」(3頁右下欄8行~4頁左上欄16行)
チ「(実施例)
次に,本発明を実施例により具体的に説明する。
第1表および第2表に示す配合処方(重量部)に従い,各種試験ゴム組成物を調製し,これらゴム組成物をサイズP275/40 ZR 17の乗用車用ラジアルタイヤにおける第1図に示すサイド部座屈防止用補強層に適用した。」(4頁左上欄17行~右上欄3行)
ツ「
」(5頁第1表及び第2表)
テ「(発明の効果)
第1表および第2表に示す試験結果からも分かるように,本発明の空気入り安全タイヤは,所定のサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着し,この補強層のゴム組成物を特定の配合系としたことにより,従来の安全タイヤよりも遥かに優れた持続走行性能を発揮することができるという効果が得られる。」(6頁左上欄1~8行)
ト「4.図面の簡単な説明
第1図は本発明の一空気入り安全タイヤの左半分横断面図である。
1…空気入り安全タイヤ
2…トレッド
3…ショルダー部
4…サイド部
5…ビード部
6…サイド部座屈防止用補強層
7…インナーライナー
」(6頁左上欄9行~右上欄)
(2)甲1に記載された発明
ア 甲1の上記(1)イの記載によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「左右一対のビード部と,各ビード部に連なる一対のサイド部と,両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え,前記ビード部区域から前記トレッド部の,ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって,前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて,
前記サイド部座屈防止用補強層として,
ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0~20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック30~90重量部,硫黄2~10重量部,チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1~4重量部を配合したゴム組成物を用いてなる,
空気入り安全タイヤ。」(以下「甲1クレーム発明」という。)
イ 甲1の上記(1)チ,ツの記載によれば,甲1には,各実施例が記載されているところ,それらのうち,実施例4と上記(1)イの記載を併せてみれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「左右一対のビード部と,各ビード部に連なる一対のサイド部と,両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え,前記ビード部区域から前記トレッド部の,ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって,前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤにおいて,
前記サイド部座屈防止用補強層として,
シス1,4-ポリブタジエンゴム単独のゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック50重量部,亜鉛華6重量部,ステアリン酸2重量部,アロマチックオイル3重量部,(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン2重量部,1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン1重量部,テトラメチルチウラムジスルフィド1.0重量部,N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.0重量部及び硫黄5重量部を配合したゴム組成物を用いてなる,
空気入り安全タイヤ。」(以下「甲1実施例4発明」という。)
ウ また,甲1の実施例4以外の各実施例についても,各実施例と上記(1)イの記載を併せてみれば,甲1には,各実施例に対応した,上記イと同様の空気入り安全タイヤの発明が記載されているといえる。
(3)甲1実施例4発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1実施例4発明とを対比する。
甲1実施例4発明は,「空気入り安全タイヤ」に関するものであるところ,上記(1)ウの記載によれば,当該「空気入り安全タイヤ」は,自動車走行中にパンクを起こしても,タイヤサイドウォールの剛性で車体を支持し,そのままでも持続走行が可能な安全性に優れたものであるから,本件訂正発明1における「ランフラットタイヤ」に相当する。
甲1実施例4発明に係る空気入り安全タイヤは,「左右一対のビード部と,各ビード部に連なる一対のサイド部と,両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え」たものであるが,当該「サイド部」は,本件訂正発明1における「サイドウォール部」に相当する。
甲1実施例4発明に係る空気入り安全タイヤは,「前記ビード部区域から前記トレッド部の,ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって,前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した」ものであり,この「サイド部座屈防止用補強層」は,「ゴム組成物を用いてなる」ものであるが,当該「ゴム組成物を用いてなる」「サイド部座屈防止用補強層」は,本件訂正発明1における「サイドウォール部」を「補強」する「ゴム補強層」に相当する。そして,これらの補強層は,いずれも「ゴム組成物を含む」ものである点で共通する。
そうすると,本件訂正発明1と甲1実施例4発明とは,
「ゴム補強層によって補強されたサイドウォール部を有し,該ゴム補強層がゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
ゴム補強層に含まれるゴム組成物が,本件訂正発明1では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上であり」,「天然ゴムを含む」ものであるのに対し,甲1実施例4発明では,「シス1,4-ポリブタジエンゴム単独のゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック50重量部,亜鉛華6重量部,ステアリン酸2重量部,アロマチックオイル3重量部,(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン2重量部,1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン1重量部,テトラメチルチウラムジスルフィド1.0重量部,N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.0重量部及び硫黄5重量部を配合した」ものである点。
イ 相違点1の検討
甲1-1~1-3は,請求人の従業員および第三者機関が行った実験の結果を記載した実験成績証明書及び分析結果報告書である。
上記の実験成績証明書には,甲1の実施例4のゴム組成物,すなわち,「シス1,4-ポリブタジエンゴム単独のゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック50重量部,亜鉛華6重量部,ステアリン酸2重量部,アロマチックオイル3重量部,(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン2重量部,1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン1重量部,テトラメチルチウラムジスルフィド1.0重量部,N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.0重量部及び硫黄5重量部を配合した」ゴム組成物を,甲1に記載の方法に従って作製し,得られたゴム組成物について本件訂正明細書の【0022】に記載の方法に基づき,動的貯蔵弾性率の測定を行ったところ,このゴム組成物は,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度」(以下,単に「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」という場合がある。)が「170℃以上」のものであったことが記載されている。
しかしながら,このゴム組成物は,上記のとおり,天然ゴムを含まないものであるから,上記交点の温度がたとえ「170℃以上」のものであったとしても,本件訂正発明1における「天然ゴムを含む」ゴム組成物と甲1実施例4発明におけるゴム組成物とが,同一のものであるということはできない。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点であるから,本件訂正発明1は,甲1実施例4発明と同一ではない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1に記載された発明とはいえない。
(4)甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明との一致点及び相違点(以下,便宜的に,まとめて「相違点2」という。)は,それぞれ,上記(3)アで認定した,本件訂正発明1と甲1実施例4発明との一致点及び相違点1と同様のものである。
イ 相違点2の検討
甲1-1~1-9は,請求人の従業員および第三者機関が行った実験の結果を記載した実験成績証明書及び分析結果報告書である。
上記の実験成績証明書には,上記(3)イで述べた甲1の実施例4のゴム組成物の場合と同様,甲1の実施例4以外の各実施例のゴム組成物についても,それぞれ,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」であったことが記載されている。
しかしながら,これらのゴム組成物は,甲1の実施例4のゴム組成物と同様,天然ゴムを含まないものである(なお,甲1の第2表における「実施例5」は,天然ゴムを含むものであるが,この「実施例5」は「比較例5」の誤記と認められる。)から,上記交点の温度がたとえ「170℃以上」のものであったとしても,本件訂正発明1における「天然ゴムを含む」ゴム組成物と甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明におけるゴム組成物とが,それぞれ,同一のものであるということはできない。
以上によれば,相違点2は実質的な相違点であるから,本件訂正発明1は,甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明とそれぞれ同一ではない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1に記載された発明とはいえない。
(5)甲1クレーム発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1クレーム発明とを対比すると,上記(3)アで述べた甲1実施例4発明の場合と同様,本件訂正発明1と甲1クレーム発明とは,
「ゴム補強層によって補強されたサイドウォール部を有し,該ゴム補強層がゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3
ゴム補強層に含まれるゴム組成物が,本件訂正発明1では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上であり」,「天然ゴムを含む」ものであるのに対し,甲1クレーム発明では,「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0~20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック30~90重量部,硫黄2~10重量部,チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1~4重量部を配合した」ものである点。
イ 相違点3の検討
甲1クレーム発明は,サイド部座屈防止用補強層に含まれるゴム組成物がジエン系ゴムを含むものであるが,甲1の上記(1)クの記載によれば,甲1には,ジエン系ゴムとして天然ゴムが例示されているから,甲1クレーム発明は,上記のゴム組成物が天然ゴムを含む場合を包含していると認められる。
しかしながら,甲1には,上記のゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もない。また,ゴム組成物が,「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0~20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック30~90重量部,硫黄2~10重量部,チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1~4重量部を配合した」ものであれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
上記(3)イ及び(4)イで述べたとおり,実験成績証明書には,甲1の各実施例のゴム組成物は,上記交点の温度が「170℃以上」のものであったことが記載されているが,これらのゴム組成物は天然ゴムを含まないものである。このような甲1の各実施例の天然ゴムを含まないゴム組成物について,上記交点の温度が「170℃以上」であったからといって,甲1クレーム発明における天然ゴムを含むゴム組成物についても,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になるとはいえない。
そうすると,本件訂正発明1におけるゴム組成物と甲1クレーム発明におけるゴム組成物とが,同一のものであるということはできない。
以上によれば,相違点3は実質的な相違点であるから,本件訂正発明1は,甲1クレーム発明と同一ではない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1に記載された発明とはいえない。
(6)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-1は理由がない。
5 無効理由1-3(甲1に基づく進歩性)について
甲1には,前記4(2)のとおり,甲1クレーム発明,甲1実施例4発明及び甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明がそれぞれ記載されている。
(1)甲1実施例4発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1実施例4発明とは,前記4(3)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点1で相違する。
イ 相違点1の検討
(ア)甲1には,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,繰り返しによる耐圧縮屈曲疲労性および耐自己発熱性を改良するために,そのゴム成分として,ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0~20重量部を含むブレンドを使用することが記載されており(前記4(1)イ,セ),上記のジエン系ゴムとして,天然ゴムが例示されている(同ク)。
しかしながら,甲1には,耐屈曲疲労性,耐自己発熱性,高温下での硬度の低下抑制のためには,ポリブタジエンゴム単独であることが好ましいとも記載されており(同ソ),上記ゴム成分としてポリブタジエンゴムを単独で使用する甲1実施例4発明において,好ましいとされるポリブタジエン単独に代えて,ポリブタジエンゴムの他に天然ゴムを含むブレンドをあえて使用する動機付けがあるとはいい難い。
(イ)仮に,甲1実施例4発明において,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物のゴム成分として,ポリブタジエンの他に天然ゴムを含むブレンドを使用することができたとしても,そのようにして得られるゴム組成物が,必ず,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」になるとはいえない。すなわち,前記4(5)イのとおり,実験成績証明書には,甲1の実施例4の天然ゴムを含まないゴム組成物は,上記交点の温度が「170℃以上」であったことが記載されているが,そうであるからといって,甲1実施例4発明において,さらに天然ゴムを含む場合(すなわち,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物のゴム成分として,ポリブタジエンゴムの他に天然ゴムを含むブレンドを使用する場合)についても,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になるとはいえない。
(ウ)また,甲1には,パンク状態で優れた持続走行性能を発揮できる空気入り安全タイヤ(すなわち,優れたランフラット耐久性を示すランフラットタイヤ)を提供することを目的とすることが記載されている(前記4(1)オ)ところ,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物を特定の配合系とすることにより,当該補強層が所定の物性値を有するようにすることが好ましいことが記載されており,そのような物性値として,30℃及び130℃における硬度(Hs(30),Hs(130)),50%モジュラス,30℃及び130℃における動的弾性率(E’(30),E’(130)),反撥弾性率並びに30℃及び130℃における動的損係数(tanδ(30),tanδ(130))が挙げられている(前記4(1)サ)。
甲1の同シ,スの記載によれば,当業者は,上記の物性値のうち,硬度Hs(30)及びHs(130)のほか,動的損係数tanδ(30)及びtanδ(130)について,所定の条件を満たすことにより,パンク状態での走行中のタイヤ剛性を維持できるため,パンク状態で優れた持続走行性能を発揮できる(優れたランフラット耐久性を示す)ことを理解することができる。
しかしながら,甲1には,ランフラット耐久性に関し,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,硬度Hs(30)及びHs(130)や,動的損係数tanδ(30)及びtanδ(130)と,動的貯蔵弾性率との間に何らかの相関関係があることが技術常識であるともいえないから,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係は不明というほかない。また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との間に何らかの相関関係があることが,技術常識であるともいえない。そうすると,当業者は,甲1の記載に基づいて,ランフラットタイヤのサイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(エ)以上によれば,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1実施例4発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1実施例4発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明とは,前記4(4)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点2で相違する。
イ 相違点2の検討
相違点2は,上記(1)イで検討した本件訂正発明1と甲1実施例4発明との相違点1と同様のものであるから,上記(1)イと同様の理由により,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることが,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲1クレーム発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1クレーム発明とは,前記4(5)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点3で相違する。
イ 相違点3の検討
前記4(5)イで述べたとおり,甲1クレーム発明は,サイド部座屈防止用補強層に含まれるゴム組成物が,天然ゴムを含む場合を包含しているが,甲1には,上記のゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。また,実験成績証明書によれば,甲1の各実施例の天然ゴムを含まないゴム組成物について,上記交点の温度が「170℃以上」であったからといって,甲1クレーム発明における天然ゴムを含むゴム組成物についても,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になるとはいえない。
そして,上記(1)イ(ウ)で述べたとおり,甲1には,パンク状態で優れた持続走行性能を発揮できる空気入り安全タイヤを提供するための手段等について記載されているものの,当業者は,ランフラットタイヤのサイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
以上によれば,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1クレーム発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1クレーム発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)請求人の主張について
ア 請求人は,本件訂正発明1において,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることの技術的意義が認められないから,単なる設計事項にすぎず,甲1に記載された発明において,このようなパラメータを備えさせることは,容易に想到することであると主張する。
しかしながら,本件訂正明細書には,以下の記載がある。
「ゴム組成物の昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前であって,貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度を170℃以上に設定することにより,・・・ゴム組成物の物性の温度依存性を小さくすることができ,さらに,このゴム組成物を空気入りタイヤの特にはサイドウォール部のゴム補強層,ビードフィラーに用いることにより,タイヤの耐久性を大幅に改善することができる。」(【0007】)
「温度Cを170℃以上としたのは,この温度が低すぎると,高温でのゴム組成物の耐久性が十分でなく成り,結果として,特にランフラット走行時の耐久性の向上が十分でなくなるためである。」(【0010】)
「本発明では,熱老化防止剤として1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合することが好ましい。1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物は,ゴム成分を構成する重合体の鎖切断を抑制できるため,容易に温度Cを170℃以上とすることができる。」(【0012】)
「タイヤのパンクなどによる大きな変形のため,ゴム組成物の温度が170℃以上になっても弾性率の低下が抑えられるため,高温下での発熱が抑制され,タイヤの耐久性を向上することができる。」(【0027】)
これらの記載によれば,熱老化防止剤として,1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合することにより,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を容易に「170℃以上」とすることができるが,上記交点の温度を「170℃以上」とすることにより,ゴム組成物の物性の温度依存性を小さくすることができる(すなわち,より高温域(およそ170℃以上の温度域)まで動的貯蔵弾性率の低下を抑制できる)ため,ゴム組成物の温度が170℃以上になっても弾性率の低下が抑えられること,そして,このゴム組成物を空気入りタイヤのサイドウォール部のゴム補強層やビードフィラーに用いることにより,ランフラット走行時の耐久性(ランフラット耐久性)を向上できることが理解できる。
以上によれば,上記交点の温度を「170℃以上」とすることの技術的意義は,本件訂正明細書の記載から明らかである。請求人の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
イ 請求人は,本件訂正明細書の実施例1~16の結果は,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が高くなるに伴い,ランフラット耐久性が向上するとは必ずしもいえないことを示していると主張する。
しかしながら,請求人の主張は,ゴム組成物の基本的な組成が異なる実施例3,6~11及び14を比較することを前提としたものであるところ,ゴム組成物の基本的な組成が異なれば,その性質等が異なる(それにより,ランフラット耐久性の程度(絶対値)が異なる)ことは明らかであり,それらを単純に比較するだけでは,上記交点の温度を「170℃以上」と高くすることによるランフラット耐久性の向上という効果が読み取り難いことは,当然のことともいえる。このようにゴム組成物の基本的な組成が異なることにより,その性質等が異なるとしても,熱老化防止剤として,1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合する等して,上記交点の温度を「170℃以上」とすることにより,そのゴム組成物の基本的な組成に応じて,ランフラット走行時の耐久性(ランフラット耐久性)を向上できることが理解できることは,上記アのとおりである。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
ウ 請求人は,甲1では,高温下における剛性の維持(耐熱性)を,高温下における硬度の維持という形で表現しており,ここで,剛性は,硬度と相関があるとともに,動的貯蔵弾性率とも相関があることは技術常識であるから,当業者であれば,高温下における剛性の維持を,硬度に代えて動的貯蔵弾性率で表現することは,当然に思いつくことであり,当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内であると主張する。
しかしながら,請求人が主張する技術常識が存在することを認めるに足りる証拠はないから,当業者であれば,高温下における剛性の維持を,硬度に代えて動的貯蔵弾性率で表現することが,当然に思いつくことであるということはできない。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
エ 請求人は,クラック発生時のゴム補強層の温度が170℃に到達しうることは当業者に予測可能であり,驚くべき知見ではないから,本件訂正発明1は,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものであると主張する。
しかしながら,クラック発生時のゴム補強層の温度が170℃に到達しうることは当業者に予測可能であるとの請求人の主張を前提としても,上記(1)イで述べたとおり,甲1には,ランフラット耐久性に関し,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,甲1に記載の硬度Hs(30)及びHs(130)や,動的損係数tanδ(30)及びtanδ(130)と,動的貯蔵弾性率との間に何らかの相関関係があることが技術常識であるともいえず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との間に何らかの相関関係があることが技術常識であるともいえない以上,甲1に記載された発明において,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-3は理由がない。
6 無効理由1-5(甲1及び甲16に基づく進歩性)について
甲1には,前記4(2)のとおり,甲1クレーム発明,甲1実施例4発明及び甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明がそれぞれ記載されている。
(1)甲1実施例4発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1実施例4発明とは,前記4(3)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点1で相違する。
イ 相違点1の検討
(ア)甲1実施例4発明は,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物のゴム成分として,ポリブタジエンゴムを単独で使用するものであるが,前記5(1)イ(ア)で述べたとおり,このような甲1実施例4発明において,好ましいとされるポリブタジエン単独に代えて,ポリブタジエンゴムの他に天然ゴムを含むブレンドをあえて使用する動機付けがあるとはいい難い。
仮に,甲1実施例4発明において,上記のゴム成分として,ポリブタジエンの他に天然ゴムを含むブレンドを使用することができたとしても,そのようにして得られるゴム組成物が,必ず,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」になるとはいえないことは,同(イ)で述べたとおりである。
そして,同(ウ)で述べたとおり,甲1には,パンク状態で優れた持続走行性能を発揮できる空気入り安全タイヤを提供するための手段等について記載されているものの,当業者は,ランフラットタイヤのサイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(イ)一方,本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲16(特開平9-151279号公報)には,以下の記載がある。
【特許請求の範囲】
・・・
【請求項2】 スチレンブタジエン共重合体,カーボンブラック,硫黄,及び下式で示されるチオ硫酸ナトリウム塩を含むゴム組成物であって,
前記チオ硫酸ナトリウム塩が,前記スチレンブタジエン共重合体100重量部あたり,0.5~2重量部配合されていることを特徴とするトレッド用ゴム組成物。
・・・
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,高速性能自動車用タイヤに適したトレッドゴム組成物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】高速性能自動車用タイヤでは,連続高速走行において,高いグリップ性能を得る必要がある。・・・
・・・
【0004】・・・本発明は,・・・その目的とするところは,グリップ性を確保しつつ,熱だれやブローアウト等を回避するのに十分な程度にまで耐熱性を向上させ,かつ耐磨耗性の低下を防止したタイヤトレッド用ゴム組成物を提供する。
・・・
【0020】このような構造を有するチオ硫酸ナトリウム塩は,・・・ゴム組成物中に含まれる加硫剤たる硫黄に作用し,加硫に際して,ゴム分子同士の架橋の結合力を増加させることにより,高温下でのゴム架橋構造の変化を防止し,耐熱性を増大させていると考えられる。・・・
・・・
【0027】・・・
〔第2発明の実施例〕第2発明にかかるゴム組成物の実施例及び比較例として,表2に示す配合組成を有するゴム組成物No.1,7~9を調製した。・・・
【0028】・・・チオ硫酸ナトリウム塩としては,モンサント社製のデュラリンクHTS(これは,ヘキサメチレン1,6ビスチオサルフェートジナトリウム塩2水和物である)を用いた。・・・
・・・
【0031】
【発明の効果】本発明のトレッドゴム組成物は,カーボンブラック配合量の増大によりグリップ性を確保しつつ,耐熱性及び耐磨耗性の低下を防止できる。従って,本発明のトレッド用ゴム組成物を用いて高速用タイヤを作成すれば,高速走行におけるグリップ性が確保できるとともに,連続高速走行によっても熱ダレやブローアウトを防止し,耐磨耗性の向上を図ることができる。
(ウ)以上の記載によれば,甲16には,以下の事項が記載されていると認められる。
a スチレンブタジエン共重合体,カーボンブラック,硫黄,及び特定のチオ硫酸ナトリウム塩を所定量含むトレッド用ゴム組成物によれば,グリップ性を確保しつつ,耐熱性及び耐磨耗性の低下を防止できるため,上記のトレッド用ゴム組成物を用いて高速用タイヤ(高速性能自動車用タイヤ)を作成すれば,高速走行におけるグリップ性が確保できるとともに,連続高速走行によっても熱ダレやブローアウトを防止し,耐磨耗性の向上を図ることができる(【請求項2】【0001】【0002】【0004】【0031】)。
b 上記のチオ硫酸ナトリウム塩としては,ヘキサメチレン1,6ビスチオサルフェートジナトリウム塩2水和物を使用できるが,このチオ硫酸ナトリウム塩は,ゴム組成物中に含まれる加硫剤である硫黄に作用し,加硫に際して,ゴム分子同士の架橋の結合力を増加させることにより,高温下でのゴム架橋構造の変化を防止し,耐熱性を増大させていると考えられる(【0020】【0027】【0028】)。
(エ)上記のとおり,甲16には,確かに,ゴム組成物中に含まれるヘキサメチレン1,6ビスチオサルフェートジナトリウム塩2水和物などのチオ硫酸ナトリウム塩は,加硫に際して,ゴム分子同士の架橋の結合力を増加させることにより,高温下でのゴム架橋構造の変化を防止し,耐熱性を増大させることが記載されている。
しかしながら,甲16に記載のゴム組成物を用いて作成されるタイヤは,上記のとおり,連続高速走行に使用される高速用タイヤ(高速性能自動車用タイヤ)であって,ランフラットタイヤではなく,また,ゴム組成物も,トレッド用であって,サイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるものでもない。甲16には,上記のトレッド用ゴム組成物を,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層に用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1実施例4発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物に対して,さらにヘキサメチレン1,6ビスチオサルフェートジナトリウム塩2水和物を配合する動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲1実施例4発明において,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物に対して,ヘキサメチレン1,6ビスチオサルフェートジナトリウム塩2水和物を配合することができた(さらに,上記ゴム組成物のゴム成分として,ポリブタジエンの他に天然ゴムを含むブレンドを使用することができた)としても,そのようにして得られるゴム組成物が,必ず,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」になるともいえない。
また,そもそも,甲16には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲16の記載に基づいて,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(オ)以上によれば,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1実施例4発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1実施例4発明及び甲16に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明とは,前記4(4)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点2で相違する。
イ 相違点2の検討
相違点2は,上記(1)イで検討した本件訂正発明1と甲1実施例4発明との相違点1と同様のものであるから,上記(1)イと同様の理由により,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明及び甲16に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲1クレーム発明との対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲1クレーム発明とは,前記4(5)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点3で相違する。
イ 相違点3の検討
(ア)前記5(3)イで述べたとおり,甲1クレーム発明は,サイド部座屈防止用補強層に含まれるゴム組成物が,天然ゴムを含む場合を包含しているが,このゴム組成物について,必ず,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」になるとはいえない。また,当業者は,甲1の記載に基づいて,ランフラットタイヤのサイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(イ)また,上記(1)イ(イ)~(エ)で述べたとおり,甲16の記載からは,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1クレーム発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物に対して,さらにヘキサメチレン1,6ビスチオサルフェートジナトリウム塩2水和物を配合する動機付けがあるとはいえず,仮に,配合することができたとしても,そのようにして得られるゴム組成物が,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になるともいえない。また,当業者は,甲16の記載に基づいて,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(ウ)以上によれば,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1クレーム発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1クレーム発明及び甲16に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)請求人の主張について
請求人は,無効理由1-5について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-5は理由がない。
7 無効理由1-2(甲4に基づく新規性)について
(1)本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲4(特開平3-176213号公報)には,以下の記載がある。
ア「1.発明の名称
ランフラット空気入りラジアルタイヤ」(1頁2~3行)
イ「偏平率が50%以下のラジアルタイヤにおいて,サイドウォール部のカーカス層内側に,20℃における動的弾性率E*20が16MPa以上,該動的弾性率E*20に対する100℃における動的弾性率E*100の比E*100/E*20が0.80以上,100%モジュラスが60Kg/cm2以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下のゴムからなる三日月形断面形状をした補強ライナー層を,一方の端部がトレッド部のベルト層端部とオーバーラップし,他方の端部がビード部のビードフィラーとオーバーラップするように配置し,前記ビード部のビードフィラーはJIS-A硬度60~80のゴムからなり,リムベースからのタイヤ回転軸に垂直な方向の高さhを35mm以下とし,かつカーカス層を内外2層から構成し,内側のカーカス層をビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返して端末を前記ビードフィラーの高さhよりも高い位置にもたらし,該端末を内側のカーカス層と外側のカーカス層との間に挟持せしめ,かつ外側のカーカス層を前記ビードコアに折り返すことなく巻き下ろして端末をビードコア付近に配置するか,または2層のカーカス層をいずれもビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返し,一方のビードコア側のカーカス層の端末をビードコア付近に配置し,他方のカーカス層の端末をビードフィラーの上方端を超えて配置させたランフラット空気入りラジアルタイヤ。」(特許請求の範囲)
ウ「(産業上の利用分野)
本発明は,ランフラット耐久性を向上したランフラット空気入りラジアルタイヤに関する。」(1頁右欄14~16行)
エ「さらに上記サイドウォール部3のカーカス層5の内側には,その半径方向上端はベルト層6の端部下端と重なり合い,その半径方向下端はビードフィラー9と重なり合っている断面形状が三日月形の補強ライナー層8が配置されている。」(3頁右上欄12~17行)
オ「また,上記三日月形の補強ライナー層を構成するゴムは高硬度である必要があり,20℃における動的弾性率E*20が16MPa以上でなければならない。偏平率50%以下という条件下で動的弾性率E*20が16MPaより低いと,局部的歪を増加するようになるからである。また,上記ゴムは20℃の時のみならず,走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要がある。そのため,上記ゴムは,E*20に対する100℃における動的弾性率E*100の比E*100/E*20が0.80以上であることが必要である。また,このゴムは100%モジュラスが60Kg/cm2以上であることが必要で,この値未満ではランフラット走行時にタイヤサイド部全体の歪が大きくなってタイヤの破壊が早くなるので好ましくない。さらに,このゴムは100℃におけるtanδが0.35以下であること必要である。この値を超えるtanδを有するゴムを使用した補強ライナー層は,屈曲時の発熱が大きくなり,サイド部の撓みが大きくなってランフラット耐久性が低下する。」(3頁左下欄13行~右下欄13行)
カ「実施例1
第1図のような構造のラジアルタイヤで,下記の仕様および第1表に示すビードフィラーのゴム配合組成を共通にし,補強ライナー層のゴム特性だけを第2表のように異ならせた7種類のタイヤA,B,C,D,E,F,Gを製作してランフラット耐久性を評価した。これらのタイヤのサイズは,いずれも255/40R17とした。
なお,第2表中,ランフラット耐久性はタイヤBの評価結果を100とする指数である。」(4頁左下欄14行~右下欄3行)
キ「
」
ク「第2表から補強ライナー層のE*20,比E*100/E*20,100%モジュラスおよびtanδの何れか1つが本発明に規定する範囲から外れると,ランフラット耐久性が低下することが判る。」(5頁左下欄1行~5行)
ケ「
」(第1図)
(2)甲4に記載された発明
甲4の上記(1)イの記載によれば,甲4には,以下の発明が記載されていると認められる。
「偏平率が50%以下のラジアルタイヤにおいて,サイドウォール部のカーカス層内側に,20℃における動的弾性率E*20が16MPa以上,該動的弾性率E*20に対する100℃における動的弾性率E*100の比E*100/E*20が0.80以上,100%モジュラスが60Kg/cm2以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下のゴムからなる三日月形断面形状をした補強ライナー層を,一方の端部がトレッド部のベルト層端部とオーバーラップし,他方の端部がビード部のビードフィラーとオーバーラップするように配置し,前記ビード部のビードフィラーはJIS-A硬度60~80のゴムからなり,リムベースからのタイヤ回転軸に垂直な方向の高さhを35mm以下とし,かつカーカス層を内外2層から構成し,内側のカーカス層をビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返して端末を前記ビードフィラーの高さhよりも高い位置にもたらし,該端末を内側のカーカス層と外側のカーカス層との間に挟持せしめ,かつ外側のカーカス層を前記ビードコアに折り返すことなく巻き下ろして端末をビードコア付近に配置するか,または2層のカーカス層をいずれもビードコアの周りにタイヤの内側から外側に折り返し,一方のビードコア側のカーカス層の端末をビードコア付近に配置し,他方のカーカス層の端末をビードフィラーの上方端を超えて配置させたランフラット空気入りラジアルタイヤ。」(以下,「甲4発明」という。)
(3)対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明における「偏平率が50%以下のラジアルタイヤ」である「ランフラット空気入りラジアルタイヤ」,「サイドウォール部」は,それぞれ,本件訂正発明1における「ランフラットタイヤ」,「サイドウォール部」に相当する。
甲4発明における「ゴムからなる三日月形断面形状をした補強ライナー層」は,「サイドウォール部のカーカス層内側に」,「一方の端部がトレッド部のベルト層端部とオーバーラップし,他方の端部がビード部のビードフィラーとオーバーラップするように配置し」たものであるから,本件訂正発明1における「サイドウォール部」を「補強」する「ゴム補強層」に相当する。そして,本件訂正発明1における「ゴム補強層」と,甲4発明における「ゴムからなる」「補強ライナー層」とは,いずれも「ゴム組成物を含む」ものである点で共通する。
そうすると,本件訂正発明1と甲4発明とは,
「ゴム補強層によって補強されたサイドウォール部を有し,該ゴム補強層がゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点4
ゴム補強層に含まれるゴム組成物が,本件訂正発明1では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上であり」,「天然ゴムを含む」ものであるのに対し,甲4発明では,「20℃における動的弾性率E*20が16MPa以上,該動的弾性率E*20に対する100℃における動的弾性率E*100の比E*100/E*20が0.80以上,100%モジュラスが60Kg/cm2以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下のゴム」である点。
イ 相違点4の検討
甲4の上記(1)カ,キの記載によれば,甲4の第2表には,7種類の補強ライナー層が記載されているが,これらの補強ライナー層は天然ゴムを含むものであるから,甲4発明は,サイドウォール部のカーカス層内側に配置される補強ライナー層を構成するゴムが,天然ゴムを含む場合を包含していると認められる。
しかしながら,甲4には,上記の補強ライナー層を構成するゴムが,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もない。また,ゴムが,「20℃における動的弾性率E*20が16MPa以上,該動的弾性率E*20に対する100℃における動的弾性率E*100の比E*100/E*20が0.80以上,100%モジュラスが60Kg/cm2以上並びに100℃における損失正接(tanδ)が0.35以下」のものであれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
そうすると,本件訂正発明1におけるゴム組成物と甲4発明におけるゴムとが,同一のものであるということはできない。
以上によれば,相違点4は実質的な相違点であるから,本件訂正発明1は,甲4発明と同一ではない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲4に記載された発明とはいえない。
(4)請求人の主張について
請求人は,甲4には,ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に良好な耐熱性を有するゴムを使用することにより,従来のランフラットタイヤよりも飛躍的にランフラット耐久性が改善することが開示されているから,甲4に記載の補強ライナー層(サイドウォール部のゴム補強層)は,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」である蓋然性が高いと主張する。
しかしながら,ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強層に良好な耐熱性を有するゴムを使用することにより,ランフラット耐久性が改善するからといって,そのゴムが,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になるとはいえない。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-2は理由がない。
8 無効理由1-4(甲4に基づく進歩性)について
(1)ア 甲4には,前記7(2)のとおり,甲4発明が記載されている。
本件訂正発明1と甲4発明とは,前記7(3)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点4で相違する。
イ 相違点4の検討
(ア)前記7(3)イで述べたとおり,甲4発明は,サイドウォール部のカーカス層内側に配置される補強ライナー層を構成するゴムが,天然ゴムを含む場合を包含しているが,甲4には,上記のゴムが,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴムであれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
(イ)また,甲4には,ランフラット空気入りラジアルタイヤのランフラット耐久性を向上するためには,補強ライナー層を構成するゴムが高硬度である必要があり,そのために,20℃における動的弾性率E*20を16MPa以上とするが,走行によって温度が上昇したときにも上記水準を維持する必要があるため,E*20に対する100℃における動的弾性率E*100の比であるE*100/E*20を0.80以上とすること,また,ランフラット耐久性の低下を抑制するために,上記ゴムの100%モジュラスを60Kg/cm2とし,100℃におけるtanδを0.35とすることが記載されている(前記7(1)ウ,オ,カ~ク)。以上の記載によれば,当業者は,サイドウォール部のカーカス層内部に配置される補強ライナー層を構成するゴムについて,上記の各物性値が所定の条件を満たすようにすることで,ランフラット空気入りラジアルタイヤのランフラット耐久性が向上することを理解することができる。
しかしながら,甲4には,ランフラット耐久性に関し,動的弾性率について記載されているものの,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,走行によって温度が上昇するといっても,着目している温度はせいぜい100℃であり,20℃及び100℃における動的弾性率について言及があるだけである。
これに対して,本件訂正発明1は,前記5(4)アで述べたとおり,ゴム補強層に含まれるゴム組成物について,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることにより,より高温域(およそ170℃以上の温度域)まで動的貯蔵弾性率の低下を抑制し,それにより,ランフラット耐久性を向上するものであり,甲4とは異なるものである。
甲4には,ランフラット耐久性に関し,上記の動的弾性率のほか,硬度,100%モジュラス及び100℃におけるtanδについても記載されているが,これらの物性値と動的貯蔵弾性率との関係は必ずしも明らかではなく,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率(上記交点の温度を「170℃以上」とすること)との関係は不明というほかない。また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との間に何らかの相関関係があることが,技術常識であるともいえない。そうすると,当業者は,甲4の記載に基づいて,ランフラット空気入りラジアルタイヤのサイドウォール部のカーカス層内側に配置される補強ライナー層を構成するゴムについて,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることによって,ランフラット耐久性が向上することを理解できるとはいえない。
(ウ)以上によれば,ランフラット空気入りラジアルタイヤに関する甲4発明において,ランフラット耐久性を向上するために,サイドウォール部のカーカス層内側に配置される補強ライナー層を構成するゴムについて,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲4発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)請求人の主張について
請求人は,無効理由1-4について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-4は理由がない。
9 無効理由1-6(甲5及び甲6に基づく進歩性)について
(1)本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲5(特開昭51-64555号公報)には,以下の記載がある。
ア「高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる高モヂュラス性と低ヒステリシス性を併せ具えた安定な加硫されたタイヤ用ゴム組成物。」(特許請求の範囲)
イ「しかしながら,タイヤの構造を或程度変更することによって,膨脹空気が失われた時でも完全に潰れた状態にならず,従って自動車のユーザーが道端でタイヤを交換しないでも運転し続けることが出来るようなタイヤが今や得られている(冒頭に述べた発明がこのタイヤに関するものである)。そのようなタイヤの構造は,正規のタイヤ空気圧がない場合に,タイヤにかかる負荷重量によって生じる屈曲の量を最小限にするように,タイヤのサイドウォールに或種の剛性を与えることを含んでいる。
そのようなタイヤの一型式が,例えば,冒頭に述べた同一出願人の特許出願の中に述べられている。しかしながら,膨脹空気圧の十分な場合,不充分な場合の両方の場合にそのようなタイヤが成功的に動作するための要件は,最もシビヤーな屈曲を受けるサイドウォール部の材料が高い弾性モヂュラスと低いヒステリシスを有する材料でつくられていることである。この二つの性能の組合せを有するゴム組成物は,使用中に実質的に変質してしまう傾向があり,そのため新しい場合には満足な性能を示すタイヤが或年月使用した後では,そうでなくなることが起り得た。
本発明の主要な目的は,従って膨脹空気が存在する場合にもまた存在しない場合にも動作するように設計されたタイヤのサイドウォール部に使用するための永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有するゴム組成物を提供することである。
本発明に従って,膨脹空気圧が存在する場合と,しない場合の両方の場合に使用し得るように意図された車輪用タイヤのサイドウォール部に使用するゴム組成物が提供される。この組成物は本質的に天然ゴムまたは天然ゴムと化学的に同一の構造を有する合成シス・ポリイソプレンゴム,またはそれ等のブレンドからつくられる。」(1頁右下欄9行~2頁右上欄6行目)
ウ「上記の配合剤を含むゴム組成物は公知のものであり,加硫後に満足な種々の初期性能を有している。しかしながら天然ゴムは熱に長い間曝されるとリバージョン(加硫戻り) を起す,すなわち初期の剛い高モヂュラスの加硫物が段々に軟化してより低いモヂュラス値を示すようになり,当初の未加硫ゴムの値に近づいてゆく現象を起す。モヂュラスがこのように低い値になると,空気圧のないタイヤによって荷重を支えることはもはや不可能になってしまう。」(2頁右上欄14行~左下欄3行)
エ「本発明者は,加硫物が新しい場合でもまた長期間の使用後に於いても,大きな変化のない高モヂュラスと低ヒステリシスを維持するゴム組成物が上述した慣用の配合剤に加えて,コバルト化合物,好ましくはステアリン酸コバルトの如きコバルト石けんの小量を含む天然ゴムまたはその合成物(シス・ポリイソプレンゴム) からつくられ得るということを発見した。」(2頁左下欄12~19行)
オ「ところが驚くべきことに,本発明者は高度に活性な酸化防止剤の適当量と共に,コバルト石けんを適当な割合で配合することによって,加硫天然ゴムのリバージョンによると考えられているポリマー鎖の切断を丁度帳消にする,またはそれとバランスするような遅い速度で,酸化的な交差結合が起るような安定した天然ゴム組成物を得られるということを発見した。」(2頁右下欄8~15行)
カ「本発明の組成物は,車輪の重量がリムに対してトレッドが潰れてくることなしに,両サイドウォールによって支えられるような型式の如何なる空気入タイヤのサイドウォールにも使用し得るものであるが,」(2頁右下欄18行~3頁左上欄2行)
キ「このタイヤは,サイドウォールの厚さがトレッドの厚さに近いか,または同じ程度の実質的に増大された厚さを有する点で慣用の空気入タイヤとは異っている。」(3頁右上欄10~13行)
ク「コードプライ11の内側には一つの厚いサイドウォールのゴム層17が存在する。」(3頁左下欄13~14行)
ケ「以上述べたような構造がもたらすものは次の通りである。すなわち,タイヤが膨脹されていない場合のタイヤにかかる荷重は各サイドウォール7,8にラヂアル方向に内方へ向う力を負荷する。そしてこの力はサイドウォールをそのラヂアル方向の中間点Mに於いて,急激に折り曲げようとする。コードプライ11は実質的に非伸張性であるので,この力はコードプライ11とリムフランヂの先端部16の間で第1部位の外側サイドウォールゴムを圧縮しようとする。この力はまた,中間部Mの位置で第2部位の内側サイドウォールゴム17を強く圧縮しようとする,また一方に於いて,第3部位の外側ショルダーゴム18を圧縮しようとする。」(3頁右下欄2~15行)
コ「タイヤの内部空気圧が失われた場合には,圧縮が極めて増大するので,そのような緊急状況の下では,タイヤの破壊を起すような温度上昇を避けるために,ヒステリシスが最低であるということが最も重要な点となるのである。
当初の高モヂュラスを保有していることが同様に重要である。何故なら,それは一定負荷の下では繰返し的な圧縮と緩和の範囲を最小限にし,従って,熱の発生を最小限に押えるための補助的な役割を果すからである。」(3頁右下欄19行~4頁左上欄8行)
サ「本発明の新規なタイヤサイドウォール用ゴム組成物は,100重量部の天然ゴムまたは合成天然ゴムと約35~50重量部の補強用カーボンブラック,ならびに1.5部の硫黄,2部のヂチオ・ヂモルフホリン,1.5部のシクロヘキシル・ベンゾチアジル・スルフェンアミド,および10部の酸化亜鉛の如き慣用のゴム配合剤から調整され得る。このゴム組成物はさらに0.25部のヂフェニル・p-フェニレン・ヂアミン,0.7部のヂフェニルアミン-アセトンの反応生成物,ならびに2部のヂメチル・ブチルフェニル・p-フェニレンヂアミンの如き硬度に活性な酸化防止剤またはオゾン劣化防止剤を含んでいなければならない。好ましくは,このゴム組成物はさらに,小量のフェノール樹脂の如き熱硬化性樹脂を含んでいる。フェノール樹脂として最も有利なものは2.5部のレゾルシンと1.6部のヘキサメチレン・テトラミン(フォルムアルデヒドのドナー)の反応によって生成するレゾルシン・フォルムアルデヒド樹脂である。これ等の配合剤に加えて6部のステアリン酸コバルトまたはナフテン酸コバルトの如き同等な活性コバルト化合物が添加される。」(4頁左上欄9行~右上欄11行)
シ「上述した組成物は,厚いサイドウォールを有するようなタイプのタイヤのサイドウォール材料として,タイヤの通常の使用状態に於いて非常に良好な性能を示す。また,この組成物の特有な高モヂュラス性と低ヒステリシス性の組合せの故に,タイヤの膨脹空気がなくなった場合でも,タイヤのサイドウォールの形状が図面に示す如き適当な形状を有するタイヤに於いては,タイヤを破壊するような急激なサイドウォールの折り曲げを生ずることなく,また過熱することもなしに適度の高速で長い距離そのようなタイヤを作動させることが可能である。
相当な時間にわたって,高温に曝されることによる促進老化のために,そのような組成物の強度は幾分低下するが,高モヂュラス性と低ヒステリシス性は本質的に変化することなく維持される。すなわち,従来容易に保られなかったタイヤの通常の耐用期間にわたって持続されるこの二つの性能の組合せを有するゴム組成物が今や可能であり,膨脹空気を失った場合に緊急作動するように設計されたリムに対して潰れることのない,新しいタイプの空気入タイヤのサイドウォール部のために好適なゴム組成物が今や本発明によって提供される。」(5頁左上欄6行~右上欄9行)
ス「4.図面の簡単な説明
本発明のゴム組成物を使用したタイヤの断面図である。
6…トレッド,7,8…サイドウォール,9,10…ビード,11…コードプライ,12…ベルト構造体,14…内表面,16…リムフランジ,17…ゴム層,18…ショルダー
・・・
」(5頁右下欄4行~6頁左上欄)
(2)甲5に記載された発明
甲5の上記(1)ア~オ,シの記載によれば,甲5には,以下の発明が記載されていると認められる。
「膨脹空気が存在する場合にもまた存在しない場合にも動作するように設計されたタイヤのサイドウォール部に使用するための永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有するゴム組成物であって,高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる高モヂュラス性と低ヒステリシス性を併せ具えた安定な加硫されたタイヤ用ゴム組成物。」(以下「甲5発明」という。)
(3)対比,判断
ア 本件訂正発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明は,「膨脹空気が・・・存在しない場合にも動作するように設計されたタイヤのサイドウォール部に使用するための」ゴム組成物に関するものであるところ,甲5の上記(1)イ,シの記載によれば,上記の「膨脹空気が・・・存在しない場合にも動作するように設計されたタイヤ」は,膨脹空気が失われた時でも完全に潰れた状態にならず,タイヤを交換しないでも,適度の高速で長い距離を運転し続けることができるようなタイヤであるから,本件訂正発明1における「ランフラットタイヤ」に相当する。
また,甲5発明における「サイドウォール部」は,本件訂正発明1における「サイドウォール部」に相当する。
そして,甲5発明における「ゴム組成物」は,その「サイドウォール部に使用するための」ものであって,「永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有する」ものであるが,甲5の上記(1)ク,スの記載によれば,当該「ゴム組成物」は,サイドウォールに設けられたゴム層に使用するものであり,また,同イの記載によれば,そのゴム層が,「永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有する」ことにより,サイドウォールに剛性を与える(すなわち,サイドウォールを補強する)ものと解される。
そうすると,甲5発明において,「永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有するゴム組成物」を「サイドウォール部に使用」することは,永続的な高モヂュラスと低ヒステリシス性能を有するゴム組成物を,サイドウォールに設けられたゴム層に使用することによって,サイドウォール部を補強することといえるから,本件訂正発明1において,「ゴム組成物」が含まれる「ゴム補強層」によって,「サイドウォール部」を「補強」することに相当する。
そうすると,本件訂正発明1と甲5発明とは,
「ゴム補強層によって補強されたサイドウォール部を有し,該ゴム補強層がゴム組成物を含むランフラットタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点5
ゴム補強層に含まれるゴム組成物が,本件訂正発明1では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上であり」,「天然ゴムを含む」ものであるのに対し,甲5発明では,「高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる高モヂュラス性と低ヒステリシス性を併せ具えた」ものである点。
イ 相違点5の検討
(ア)甲5の上記(1)サの記載によれば,甲5発明は,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物が,天然ゴムを含む場合を包含していると認められる。
しかしながら,甲5には,上記のゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もない。また,ゴム組成物が,「高モヂュラスのカーボンブラックと活性コバルト化合物と有効な酸化防止剤を含有する加硫されたシスポリイソプレンゴムよりなる高モヂュラス性と低ヒステリシス性を併せ具えた」ものであれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
(イ)また,甲5には,膨脹空気が失われた時でも完全に潰れた状態にならず,タイヤを交換しないでも,適度の高速で長い距離を運転し続けることができるタイヤ(すなわち,優れたランフラット耐久性を示すランフラットタイヤ)について,サイドウォールに剛性を与えるために,サイドウォール部に高い弾性モヂュラスと低いヒステリシスを有するゴム組成物を使用することが記載されている(上記(1)イ,シ)。以上の記載によれば,当業者は,ランフラットタイヤのサイドウォール部に使用するためのゴム組成物について,高い弾性モヂュラスと低いヒステリシスを有するものとすることにより,優れたランフラット耐久性を示すことを理解することができる。
しかしながら,甲5には,ランフラット耐久性に関し,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,上記の弾性モヂュラスやヒステリシスと動的貯蔵弾性率との間に何らかの相関関係があることが技術常識であるともいえないから,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係は不明というほかない。また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との間に何らかの相関関係があることが,技術常識であるともいえない。そうすると,当業者は,甲5の記載に基づいて,ランフラットタイヤのサイドウォール部に使用するためのゴム組成物について,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(ウ)一方,本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲6(特開昭63-182355号公報)には,以下の記載がある。
a「本発明は,ゴム物性の改良されたタイヤ用ゴム組成物に関し,特に,加工,加硫工程において,スコーチが安定でしかも耐加硫戻り性に優れ,加硫後のゴム物性において,耐熱老化性および高温時の強度,破壊エネルギーを向上させたタイヤ用ゴム組成物に関する。」(2頁左上欄4~9行)
b「しかしながら,これらは,加硫後のゴム物性おいて強度および耐熱老化性が充分でなく,特にタイヤ部材等で高温耐熱性および高温使用での高い破壊エネルギーが要求されるような部材に適用した場合,例えば,高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドゴムやケースゴムにおいて,高速走行時の急激な温度上昇に耐えきれずにゴムが分解してガスを発生し,いわゆるセパレーションやチャンクアウト等のゴム間の剥離故障を発生するという問題がある。」(2頁右上欄9~18行)
c「また,タイヤの耐熱性の要求される部材に適用した場合,例えば,高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドおよびケースゴムにおいて,高速走行時の急激な温度上昇および連続的なタイヤの高温使用に耐えきれずに,ゴムが分解してガスを発生するいわゆるブローを起こして,セパレーションやチャンクアウト等のゴム間の剥離故障を発生するという問題点がある。
そこで本発明は高運動性能および高速耐久性等が要求される高性能タイヤおよび競技用タイヤのように,ゴムの温度が急激に高温まで上昇しても,いわゆるブローアウト等のゴムの剥離故障の発生を防止でき,かつ,耐熱老化性および高温物性が大幅に向上した高速耐久性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
(問題点を解決するための手段)
本発明者らは,高温における耐熱性,耐熱老化性および高温における高い破壊エネルギーを有するゴム部材につき種々研究を重ねた結果,
(I)一般式
で示されるビスマレイミド化合物と,
(II)一般式
で示される特定のトリアジン化合物またはその誘導体を(III)硫黄と混合併用することにより耐加硫戻り性およびスコーチ安定性に優れるとともに,特に,高温における耐熱老化性を大幅に向上し,さらに,高温物性(破断強度および破壊エネルギー)をも向上するゴム組成物を見出した。」(2頁左下欄10行~3頁左上欄7行)
d「本発明に係るタイヤ用ゴム組成物は,前述の構成に基づきゴム状重合体にビスマレイミド化合物,特定のトリアジン系化合物および硫黄を併用配合すると反応の機構は定かでないが,特に,高温耐熱性とブローアウト性とが相乗効果によりともに大幅な向上が見られるという驚くべき知見を得たものである。」(3頁右下欄11~17行)
e「
試験結果は,前表の下段に示すように,実施例1~5のゴム組成物は比較例1~5のものに比較して耐加硫戻り性およびスコーチ安定性が良好であるとともに,特に,耐熱老化性が大幅に向上し,相乗効果がみられる。また,ブローアウト性および高温物性も大幅に向上している。このため,耐熱性および高温での高い機械的物性が要求される高性能タイヤおよび競技用タイヤのトレッドゴムおよびケースゴムに用いることができ,さらに,ビードフィラー等の厳しい条件のゴムにも用いることができる。
特に,実施例1~3と比較例1,2との対比で示すように,ビスマレイミド化合物とトリアジン系化合物とを併用配合した本発明に係るゴム組成物が,スコーチ安定性を損なわずに,耐熱老化性,高温物性およびブローアウト性において,従来にない驚くべき相乗的な効果が発揮されている。
(効果)
以上説明したように,本発明によれば,高性能タイヤおよび競技用タイヤのように,ゴムの温度が急激に高温まで上昇してもゴムの剥離故障の発生を防止でき,かつ,耐熱老化性および高温物性が大幅に向上でき,高速耐久性を大幅に向上できる。」(5頁下欄~6頁右上欄4行)
(エ)以上の記載によれば,甲6には,ゴム組成物について,天然ゴムやジエン系合成ゴムからなるゴム状重合体に,特定のビスマレイミド化合物と,特定のトリアジン化合物またはその誘導体を,(III)硫黄と混合併用することにより,ブローアウト性のほか,耐加硫戻り性およびスコーチ安定性に優れるとともに,高温における耐熱老化性を大幅に向上し,高温物性(破断強度および破壊エネルギー)も向上できること,また,当該ゴム組成物は,高運動性能及び高速耐久性等が要求される高性能タイヤ及び競技用タイヤにおけるトレッドゴム及びケースゴムのほか,ビードフィラー等の厳しい条件のゴムに用いられることが記載されている(上記(ウ)c~e)。
しかしながら,甲6に記載のゴム組成物が用いられるタイヤは,上記のとおり,高運動性能及び高速耐久性等が要求される高性能タイヤ及び競技用タイヤであって,ランフラットタイヤではなく,また,ゴム組成物も,トレッドゴム及びケースゴムのほか,ビードフィラー等の厳しい条件のゴムに用いられるものであって,サイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるものでもない。甲6には,上記のゴム組成物を,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層に用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,ランフラットタイヤに関する甲5発明において,ランフラット耐久性を向上するために,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物として,甲6に記載のゴム組成物を用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲5発明において,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物として,甲6に記載のゴム組成物を用いることができたとしても,甲6には,そのゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない以上,甲5発明に甲6に記載のゴム組成物を適用したものが,上記交点の温度が「170℃以上」という本件訂正発明1の条件を満たすことになるわけでもない。
また,そもそも,甲6には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲6の記載に基づいて,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(オ)以上によれば,ランフラットタイヤに関する甲5発明において,ランフラット耐久性を向上するために,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲5発明及び甲6記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)請求人の主張について
請求人は,無効理由1-6について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-6は理由がない。
10 無効理由1-7(甲5及び甲7に基づく進歩性)について
(1)ア 甲5には,前記9(2)のとおり,甲5発明が記載されている。
本件訂正発明1と甲5発明とは,前記9(3)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点5で相違する。
イ 相違点5の検討
(ア)前記9(3)イ(ア)で述べたとおり,甲5発明は,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物が,天然ゴムを含む場合を包含しているが,甲5には,上記のゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
そして,前記9(3)イ(イ)で述べたとおり,甲5には,膨脹空気が失われた時でも完全に潰れた状態にならず,タイヤを交換しないでも,適度の高速で長い距離を運転し続けることができるタイヤ(すなわち,優れたランフラット耐久性を示すランフラットタイヤ)について,優れたランフラット耐久性とするための手段等について記載されているものの,当業者は,ランフラットタイヤのサイドウォール部に使用するためのゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(イ)一方,本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲7(特開平5-339422号公報)には,以下の記載がある。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,ゴム組成物及びこれをトレッドアンダークッションゴム等の内部部材(内部ゴム)またはトレッドゴムに使用したタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より,トラック,建設用大型車両,農耕車,航空機,乗用車,二輪車,レーシングカー用タイヤでは,ケース部分の高い安全性と耐久性及び低発熱性を要求されるため,強力が大きく,低発熱性の天然ゴムが主に用いられている。また,トラック,建設用大型車両等は,トレッドゴムに耐摩耗性や低発熱性が要求されるため天然ゴムが主に用いられる。しかし,この天然ゴムは,適正加硫時間を越えると,強力,弾性率が大きく低下する加硫戻りという現象を起こす。タイヤ加硫工程では,しばしば内部部材やトレッド部において,加硫が過剰となり,この加硫戻りの現象を起こしている。また,乗用車用タイヤのトレッドアンダークッションゴムのような,温度上昇の高いゴムでは,天然ゴムが,耐熱性に大きく劣るため,しばしばゴム成分が分解して,発泡して,タイヤ破壊の原因となる。これらの,耐加硫戻り性及び耐熱性を付与するために,従来より天然ゴム主体
のゴムに,次式
【化3】
で表されるTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)等のチウラム化合物を配合することが知られている。また,スルフェンアミド系促進剤配合物にあっては,加硫戻りを回避するため,低温で加硫することが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・本発明は,上記不都合に鑑み,加硫速度,加工安定性,耐熱性,及び耐加硫戻り性を共に満足することのできるゴム組成物,及びこれをトレッドアンダークッションゴム等の内部部材に用いた高速耐久性等に優れたタイヤ,及び,これをトレッドゴムに用いた加硫戻りが少なく,低発熱性にすぐれたタイヤを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,鋭意検討の結果,加硫促進の作用を有する特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と,ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用することにより,上記目的を達成できることを見い出した。
【0005】
本発明の構成は以下の通りである。
即ち,本発明のゴム組成物は,天然ゴム(以下,NRという) を50重量部以上含有するゴム成分100重量部に対して,軟化剤30重量部以下,次式
【化4】
(式中,R1,R2,R3,およびR4は,それぞれ独立に,炭素数7~12,好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示す)で表されるチウラム化合物,及び,次式
【化5】
(式中,R5及びR6は,それぞれ独立に,炭素数7~12,好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し,Mは2価以上の金属であり,nはMの金属の原子価に等しい数である)で表されるジチオカルバメート化合物よりなる群から選択された化合物のうち少なくとも1つを0.1~1.5重量部,及び ベンゾチアゾール系加硫促進剤0.1 ~1.5重量部を配合する。また,前記ベンゾチアゾール系加硫促進剤と,前記チウラム化合物及び前記ジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物の比が0.8~5.0であると好ましい。
【0006】
また,前記R1,R2,R3,R4,R5及びR6がそれぞれ2-エチルヘキシル基であり,且つMがアンチモンであり,nが3であると好ましい。更に,上記各ゴム組成物は各種ゴム製品に使用可能であるが,特にタイヤのトレッドアンダークッションゴム等の内部ゴム,またはトレッドゴムに使用すると好ましく,例えば,トラック用,航空機用,農耕車用,大型建設車両用,乗用車用,二輪車用及びレーシングカー用等のタイヤが挙げられる。
・・・
【0014】・・・
・・・
耐熱性
セイコー電子製TMAを用い,昇温速度10℃/分で試料の熱膨張をモニターし,試料が急激な膨張をする温度(単位:℃)をブローアウトポイントとして示した。この数値が大きい方が,耐熱性に優れ,好ましいことを示す。試料は直径8mm,高さ6mmの円柱状で,荷重は10gである。
高速耐久性
実施例6~12,比較例5の配合のゴム組成物をトレッドアンダークッションゴムに用いたタイヤ(サイズ:205/60R15)を製造し,ドラムテストを行った。試験方法は,FMVSS-109の高速耐久テストに準拠して行った。条件は,内圧2.1kgf/cm2のタイヤに100%荷重を負荷し,121km/hから30分毎に速度を段階的に上げていき,タイヤ破壊時の速度と速度が各ステップに達したときからタイヤ破壊時までの時間を測定した。
・・・
【0016】
【表1】
【0017】
上記の通り,チウラム化合物及び/又はジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物,及びベンゾチアゾール系加硫促進剤を組み合わせて使用した実施例1~5の配合ゴム組成物は,加硫速度が早く,加工安定性に優れ,更に,強力保持率,弾性率保持率の数値から耐加硫戻り性に優れていることがわかる。つまり,これらのゴム組成物をタイヤの内部ゴムまたはトレッドゴムに用いたとき,過加硫に対し優れた物性を示すことは,容易に予想される。また,耐熱性も優れている。一方,比較例1~2より,TBSSを含まない配合では,加硫速度,耐加硫戻り性は優れているが,加工安定性及び耐熱性に劣ることがわかる。比較例3は,加硫促進剤としてTBSSのみを含む配合であるが加硫速度が遅くなり,耐加硫戻り性,耐熱性に大きく劣っている。また,比較例4から,チウラム化合物として本発明の範囲外のTMTDを用い,更に,TBSSを配合した場合には,加硫速度は,優れているが,加工安定性,耐加硫戻り性,耐熱性に劣っていることがわかる。特に,加工安定性は,スコーチを起こす恐れの高い,悪いレベルである。
・・・
【0019】
【表2】
・・・
【0024】
【発明の効果】以上説明したように,本発明によると,特定のチウラム化合物及び/又は特定のジチオカルバメート化合物を,ベンゾチアゾール系加硫促進剤と特定の配合割合に組み合わせて使用することにより,加硫速度,加工安定性,耐加硫戻り性,耐熱性を共に充分満足することのできるゴム組成物,及びこれをタイヤ内部ゴムまたはトレッドゴムに用いた場合,過加硫時の耐加硫戻り性に優れ,高速耐久性低発熱性等に優れたタイヤを具現化することが可能となる。また,本発明にかかるタイヤは,例えば200km/h以上の高速走行においても耐熱性に基づく高速耐久性を得ることができる。
(ウ)以上の記載によれば,甲7には,ゴム組成物について,天然ゴムを含有するゴム成分に対して,軟化剤と,加硫促進の作用を有する特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と,ベンゾチアゾール系加硫促進剤を配合することにより,加硫速度,加工安定性,耐加硫戻り性及び耐熱性が共に優れたものにできること,また,当該ゴム組成物は,トラック用,航空機用,農耕車用,大型建設車両用,乗用車用,二輪車用及びレーシングカー用等のタイヤにおける,トレッドアンダークッションゴム等の内部部材(内部ゴム)やトレッドゴムに用いられることが記載されている(【0001】【0003】~【0006】【0017】【0024】)。
しかしながら,甲7に記載のゴム組成物が用いられるタイヤは,上記のとおり,トラック用,航空機用,農耕車用,大型建設車両用,乗用車用,二輪車用及びレーシングカー用等のタイヤであって,ランフラットタイヤではなく,また,ゴム組成物も,トレッドアンダークッションゴム等の内部部材(内部ゴム)やトレッドゴムに用いられるものであって,サイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるものでもない。甲7には,上記のゴム組成物を,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層に用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,ランフラットタイヤに関する甲5発明において,ランフラット耐久性を向上するために,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物として,甲7に記載のゴム組成物を用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲5発明において,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物として,甲7に記載のゴム組成物を用いることができたとしても,甲7には,そのゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない以上,甲5発明に甲7に記載のゴム組成物を適用したものが,上記交点の温度が「170℃以上」という本件訂正発明1の条件を満たすことになるわけでもない。
また,そもそも,甲7には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲7の記載に基づいて,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(エ)以上によれば,ランフラットタイヤに関する甲5発明において,ランフラット耐久性を向上するために,サイドウォール部に使用するためのゴム組成物について,「天然ゴムを含む」ものとし,さらに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲5発明及び甲7記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)請求人の主張について
請求人は,無効理由1-7について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由1-7は理由がない。
11 無効理由2-1(甲2に基づく新規性)について
(1)本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲2(特開昭63-150339号公報)には,以下の記載がある。
ア「1.発明の名称
耐熱性を改良したゴム組成物」(1頁左欄2~3行)
イ「2.特許請求の範囲
(1)天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるジエン系ゴムと加硫剤としてイオウおよび/またはイオウ供与剤を含む系に対して,炭素原子と結合する2個以上の
基(R:Hまたはアルキル基)を含有する化合物を添加することを特徴とする耐熱性を改良したゴム組成物。
(2)2個以上の
基を含有する化合物が,
3個以上の
基を含有する化合物である特許請求の範囲第(1)項記載のゴム組成物。
(3)アルキル基がメチル基である特許請求の範囲第(1)項記載のゴム組成物。」(特許請求の範囲)
ウ「(産業上の利用分野)
本発明は,タイヤやベルトなど各種のゴム製品に適用可能なゴム組成物,特に耐熱性を必要とする空気入りタイヤの部材,例えば,ケースゴム,トレッドゴムやビートフィラーゴムなどに好適なゴム組成物に関するものである。」(1頁右欄2~7行)
エ「(従来の技術)
最近,自動車の性能向上や高速道路網の発達に伴ない,高運動性能,特にグリップ性能と高速耐久性を兼ね備えた空気入りタイヤの要求が強まっている。
高グリップ性能を得るためには,トレッドゴム組成物のヒステリシスロスを大きくすることが必要であるが,高速走行時,このヒステリシスロスのためタイヤが発熱し,タイヤ温度が急激に上昇する。そのため,比較的耐熱性の劣るジエン系ゴムから成るトレッドゴムやケースゴムなどはこの急激な温度上昇に耐え切れず,ブロー(blow)を発生し,これがセパレーションやチャンクアウトなどタイヤ破壊の原因となっている。
つまり,タイヤのグリップ性能と高速耐久性を向上するためには,このような急激な温度上昇下でもブローしないような高耐熱性のゴムが必要となる。
・・・
また耐熱性附与に優れた老防のノクラックMBやノクラックG-1などの使用は,比較的マイルドな温度上昇の下で,長時間使用する場合の,ゴムの物性低下を防ぐためのものであり,急激な温度上昇下,ゴムの主鎖及び架橋点の急激な切断により発生するブローを防ぐ効果は殆んどない。なお,条件によってはブロー発生を促進する場合すらあるのが現状である。
以上の観点から本発明は,他の物性を低下させないで,急激な温度上昇の下,ゴムがブローしないような耐熱性を向上させたゴム組成物を提供することを狙いとしたものである。」(1頁右欄8行~2頁右上欄13行)
オ「(問題点を解決するための手段)
本発明者等は,上記問題点を解決するため鋭意研究検討を重ねた結果,特定構造の基を2個以上含有する化合物がこの解決に極めて有効であることを突き止め,本発明に到達した。
即ち,本発明は天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるジエン系ゴムと加硫剤としてイオウおよび/またはイオウ供与剤を含む系に対して,炭素原子と結合する2個以上の
基(R:Hまたはアルキル基)を含有する化合物を添加することを特徴とする耐熱性を改良したゴム組成物を提供するものである。」(2頁右上欄14行~左下欄5行)
カ「次に本発明の要となる2個以上の
基を有す化合物に就いて説明する。
基の代表的なものとしては,Rが水素の
とRがメチル基の
があげられ,中でも3個以上の
を有する化合物が顕著な効果がありより好ましい。
以下にその具体例を示す。
(ア)2個の
を有する化合物の例。
1,3-ブチレングリコールジアクリレート,1,5-ペンタンジオールジアクリレート,ネオペンチルグリコールジアクリレート,1,6-ヘキサンジオールジアクリレート,ジエチレングリコールジアクリレート,トリエチレングリコールジアクリレート,テトラエチレングリコールジアクリレート,ポリエチレングリコールジアクリレート,ポリプロピレングリュールジアクリレート,ポリエステル型ジアクリレート,ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニルプロパン:・・・,ポリエステル型ジアクリレート,オリゴエステルジアクリレート:・・・その他。
(イ)3個以上の
を有する化合物の例。
ペンタエリスリトールトリアクリレート,トリメチロールプロパントリアクリレート,テトラメチロールメタンテトラアクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ/ペンタアクリレート,オリゴエステルポリアクリレート:・・・その他。
(ウ)2個以上の
を有する化合物の例。
ジプロピレングリコールジメタクリレート,トリメチロールエタントリメタクリレート,トリメチロールプロパントリメタクリレート,その他。
なお,これら化合物は,単独であってもよいし2種以上の併用であってもよい。
本発明においてこれら化合物の配合量は,ゴム成分100重量部に対して0.1重量部以上,好ましくは1.0重量部以上である。その理由はその配合量が0.1重量部未満では本発明の目的とする耐熱性向上に対し所望の効果を得ることができない。」(2頁右下欄9行~3頁左下欄2行)
キ「なお,本発明においては,上述のイオウおよび/またはイオウ供与剤と,2個以上の
を有する化合物のほかにゴム工業で通常使用される配合剤,例えば充填剤,軟化剤,老化防止剤,加硫促進剤や加硫促進助剤などを必要に応じて,通常の配合量の範囲内で配合することができる。」(3頁左下欄3~8行)
ク「(実施例)
実施例1~15,比較例1~3
天然ゴムとスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを8対2の割合(重量)でブレンドしたゴム成分100重量部に対し,アロマオイル10重量部,ISAFカーボンブラック50重量部,ステアリン酸3重量部,亜鉛華5重量部,N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-P-フェニレンジアミン1重量部,ジベンゾチアジルジスルフィド0.3重量部,N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド0.3重量部,イオウ2.5重量部と種々の耐熱性向上剤を各5重量部配合し,145℃で20分間加硫し加硫物を調製した。
得られた各加硫物のブロウアウト温度は約7mm×7mm×3.5mmの加硫ゴム試料片を電気坩堝炉(いすず製作所製)に入れ,5℃間隔で275℃から330℃までの各温度で約20分間放置後,試料片を取り出し半分に切り,内部に気泡が発生しているか否かを肉眼で観察し,気泡が発生した最初の温度をブロウアウト温度とした。
得られた結果を〔表:配合と評価結果〕に示す。この結果より次のことが判る。
(ア)2個以上の
基を有する化合物を配合したゴム組成物は,配合していない比較例1と比較して,ブロウアウト温度が20℃~45℃上昇しており,耐熱性が非常に向上していることがわかる(実施例1~14)。
(イ)特に3個以上の
基を有する化合物を配合したゴム組成物は,ブロウアウト温度が40℃~45℃上昇しており,特に効果が大きい(実施例1~5)。
(ウ)
基を有する化合物も有効であるが,その効果は,
基を有する化合物に比較してやゝ小さい(実施例15)。
(エ)なお,通常,耐熱性向上に効果があると考えられているノクラックMBやノクラックG-1等の老防は,このような高温でのブロウアウトに対して,全く効果がない(比較例2,3)。」(3頁左下欄10行~4頁左上欄10行)
ケ「
」(4頁下欄)
コ「
」(5頁上欄)
サ「(発明の効果)
本発明の完成により,
(1)2個以上の炭素原子と結合する
基,好ましくは3個以上の
基を有する化合物を添加含有するゴム組成物とすることにより,ジエン系ゴムの耐熱性(ブロウアウト温度の上昇)を大幅に向上することが出来た。
(2)このゴム組成物は,タイヤやベルト等の耐熱性向上,ひいてはその性能向上に大きい効果を果すものと期待される。」(5頁左下欄1~10行)
(2)甲2に記載された発明
甲2の上記イ,ウの記載によれば,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるジエン系ゴムと加硫剤としてイオウおよび/またはイオウ供与剤を含む系に対して,炭素原子と結合する2個以上の
基(R:Hまたはアルキル基)を含有する化合物を添加してなる,空気入りタイヤのビートフィラーゴムに用いられる,耐熱性を改良したゴム組成物。」(以下,「甲2発明」という。)
(3)対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「ゴム組成物」は,「ビートフィラーゴム」に用いられるものであるが,この「ビートフィラー」は,「ゴム」からなるものであり,空気入りタイヤのビード部を補強するフィラーであることは明らかであるから,本件訂正発明2における「ビード部」を「補強」する「ゴムフィラー」に相当する。
そして,甲2発明において,「ビートフィラーゴム」に「ゴム組成物」を用いることは,本件訂正発明2における「ゴムフィラーにゴム組成物を用い」ることに相当する。
また,本件訂正発明2における「ランフラットタイヤ」と,甲2発明における「空気入りタイヤ」とは,「空気入りタイヤ」である限りにおいて共通する。
そうすると,本件訂正発明2と甲2発明とは,
「ゴムフィラーで補強されたビード部を有し,該ゴムフィラーにゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点6
本件訂正発明2は,「ランフラットタイヤ」であるのに対し,甲2発明は,「空気入りタイヤ」である点。
・相違点7
ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物が,本件訂正発明2では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」のものであるのに対し,甲2発明では,「天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるジエン系ゴムと加硫剤としてイオウおよび/またはイオウ供与剤を含む系に対して,炭素原子と結合する2個以上の
基(R:Hまたはアルキル基)を含有する化合物を添加してなる」,「耐熱性を改良した」ものである点。
イ 相違点6の検討
ランフラットタイヤは,空気入りタイヤの一種であるが,空気入りタイヤであるからといって,当然にランフラットタイヤであるとはいえないことは,明らかである。
以上によれば,相違点6は,実質的な相違点である。
ウ 相違点7の検討
甲2には,甲2発明におけるビートフィラーゴムに用いられるゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もない。また,ゴム組成物が,「天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるジエン系ゴムと加硫剤としてイオウおよび/またはイオウ供与剤を含む系に対して,炭素原子と結合する2個以上の
基(R:Hまたはアルキル基)を含有する化合物を添加してなる」,「耐熱性を改良した」ものであれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
そうすると,本件訂正発明2におけるゴム組成物と甲2発明におけるゴム組成物とが,同一のものであるということはできない。
以上によれば,相違点7は,実質的な相違点である。
エ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲2発明と同一ではなく,甲2に記載された発明とはいえない。
4)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-1は理由がない。
12 無効理由2-2(甲2に基づく進歩性)について
(1)ア 甲2には,前記11(2)のとおり,甲2発明が記載されている。
本件訂正発明2と甲2発明とは,前記11(3)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点6及び7で相違する。
事案に鑑み,相違点6及び7について,まとめて検討する。
イ 相違点6及び7の検討
(ア)前記11(3)ウで述べたとおり,甲2には,甲2発明におけるビートフィラーゴムに用いられるゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
(イ)甲2発明は,特定のゴム組成物を空気入りタイヤのビートフィラーゴムに用いるものであるが,甲2には,ランフラットタイヤについて何ら記載されておらず,上記のゴム組成物をランフラットタイヤのビートフィラーゴムに用いることについては,記載も示唆もない。また,上記のゴム組成物をランフラットタイヤのビートフィラーゴムに用いることが,技術常識であるともいえない。
さらに,甲2には,ゴム組成物の動的貯蔵弾性率についても何ら記載されておらず,ランフラット耐久性とゴム組成物の動的貯蔵弾性率との関係については,記載も示唆もない。また,両者の間に何らかの相関関係があることが,技術常識であるともいえない。
そうすると,当業者は,甲2の記載に基づいて,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物について,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(ウ)以上によれば,空気入りタイヤに関する甲2発明において,空気入りタイヤを「ランフラットタイヤ」に限定した上で,ランフラット耐久性を向上するために,ビートフィラーゴムに用いられるゴム組成物について,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)請求人の主張について
請求人は,無効理由2-2について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-2は理由がない。
13 無効理由2-3(甲2及び甲17に基づく進歩性)について
(1)ア 甲2には,前記11(2)のとおり,甲2発明が記載されている。
本件訂正発明2と甲2発明とは,前記11(3)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点6及び7で相違する。
事案に鑑み,相違点6及び7について,まとめて検討する。
イ 相違点6及び7の検討
(ア)前記12(1)イ(ア)で述べたとおり,甲2には,甲2発明におけるビートフィラーゴムに用いられるゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない。
また,同(イ)で述べたとおり,当業者は,甲2の記載に基づいて,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物について,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(イ)一方,本件特許に係る原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲17(特開平10-195237号公報)には,以下の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,接着性ゴム組成物に関し,特に,黄銅メッキを施したスチールコードとの接着に適した接着性ゴム組成物に関する。
・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで,本発明は,ゴム物性が耐熱老化性に優れ,しかも安定した接着力を有する接着性ゴム組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,本発明の接着性ゴム組成物は以下の構成とする。すなわち,天然ゴム50重量%以上と残部合成ゴムとよりなるゴム成分100重量部に対して,〔化2〕の化学式で示される1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物(以下,HTSという。)0.3~5.0重量部,好ましくは,1.0~3.0重量部,無機含水塩0.1~7.0重量部,好ましくは,0.5~2.0重量部,および硫黄2.0~8.0重量部を配合してなることを特徴とする。
【0007】
【化2】
・・・
【0010】また,HTSは,硫黄架橋と比較して,熱的に安定な架橋構造を与えるため,耐熱架橋剤として知られている。このHTSは,接着の際には,熱により,ラジカル開裂し,・S-(CH2)6-S・を発生させ,金属の表面およびポリマー中の二重結合と反応すると考えられている。また,配合量は,ゴム成分100重量部に対して,HTSが0.3~5.0重量部必要で,0.3重量部未満では,その効果が少なく,5.0重量部超過では,加硫後のゴム中に未反応のまま残存する量が増えるため,HTSの特徴である安定な架橋形態を生成して,耐熱老化性を高めるという効果が損なわれる。同様の理由で,HTSは,好ましくは,1.0~3.0重量部である。・・・
・・・
【0020】以上の結果より,各実施例は,各比較例に較べて,ゴム物性の変化が少なく,耐熱老化性に優れると共に,接着力の低下も少ないことかわかる。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように,HTSと無機含水塩とを組み合わせることにより,従来の有機コバルト酸塩の問題点であったゴム物性の劣化および接着の劣化を共に改善することができる。従って,特に,スチールコードを補強材としたタイヤやコンベヤベルト等のゴム物品に本発明の接着性ゴム組成物を適用した場合,これらのゴム物品の耐久性を大幅に向上させることができる。
(ウ)以上の記載によれば,甲17には,以下の事項が記載されていると認められる。
a ゴム成分に対して,1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物(HTS),無機含水塩及び硫黄をそれぞれ所定量配合してなる接着性ゴム組成物は,黄銅メッキを施したスチールコードとの接着に適したものであり,耐熱老化性に優れるとともに,接着力の低下も少ないため,上記の接着性ゴム組成物をスチールコードを補強材としたタイヤ等のゴム物品に適用すれば,これらのゴム物品の耐久性を大幅に向上させることができる(【0001】【0005】【0006】【0020】【0021】)。
b 1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物(HTS)は,硫黄架橋と比較して,熱的に安定な架橋構造を与えるため,耐熱架橋剤として知られており,耐熱老化性を高めるという効果がある(【0010】)。
(エ)上記のとおり,甲17には,確かに,接着性ゴム組成物に含まれる1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物は,耐熱架橋剤であって,耐熱老化性を高めることが記載されている。
しかしながら,甲17に記載の接着性ゴム組成物を用いて作成されるタイヤは,上記のとおり,スチールコードを補強材としたタイヤであって,ランフラットタイヤではなく,また,ゴム組成物も,黄銅メッキを施したスチールコードとの接着に適したものにすぎず,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるものでもない。甲17には,上記の接着性ゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーに用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,甲2発明において,ビートフィラーゴムに用いられるゴム組成物に対して,さらに1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合する動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲2発明において,ビートフィラーゴムに用いられるゴム組成物に対して,1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合することができたとしても,そのようにして得られるゴム組成物が,必ず,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」になるともいえない。
また,そもそも,甲17には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲17の記載に基づいて,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(オ)以上によれば,空気入りタイヤに関する甲2発明において,空気入りタイヤを「ランフラットタイヤ」に限定した上で,ランフラット耐久性を向上するために,ビートフィラーゴムに用いられるゴム組成物について,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲2発明及び甲17に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)請求人の主張について
請求人は,無効理由2-3について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-3は理由がない。
14 無効理由2-4(甲1に基づく進歩性)について
甲1には,前記4(2)のとおり,甲1クレーム発明,甲1実施例4発明及び甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明がそれぞれ記載されている。
(1)甲1実施例4発明との対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲1実施例4発明とを対比する。
甲1実施例4発明における「空気入り安全タイヤ」は,前記4(3)アで述べたとおり,本件訂正発明2における「ランフラットタイヤ」に相当する。
また,甲1実施例4発明に係る空気入り安全タイヤは,「ゴム組成物」を用いた「サイド部座屈防止用補強層」を,サイド部内側に一体的に固着したものであるが,これは,空気入り安全タイヤの「サイド部」を,「ゴム組成物」を用いた「サイド部座屈防止用補強層」によって「補強」したものといえる。
一方,本件訂正発明2に係るランフラットタイヤは,「ゴム組成物」を用いた「ゴムフィラーで補強されたビード部」を有するものであるが,これは,ランフラットタイヤの「ビード部」を,「ゴム組成物」を用いた「ゴムフィラー」によって「補強」したものといえる。
以上によれば,本件訂正発明2と甲1実施例4発明とは,「ゴム組成物を用いたゴム補強層によって補強」する限りにおいて共通する。
そうすると,本件訂正発明2と甲1実施例4発明とは,
「ゴム組成物を用いたゴム補強層で補強されたランフラットタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点8
ゴム補強層で補強される部分が,本件訂正発明2では,「ビード部」であり,「ゴムフィラー」で補強されるのに対し,甲1実施例4発明では,「サイド部」であり,「サイド部座屈防止用補強層」で補強される点。
・相違点9
ゴム補強層に用いられるゴム組成物が,本件訂正発明2では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」のものであるのに対し,甲1実施例4発明では,「シス1,4-ポリブタジエンゴム単独のゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック50重量部,亜鉛華6重量部,ステアリン酸2重量部,アロマチックオイル3重量部,(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン2重量部,1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン1重量部,テトラメチルチウラムジスルフィド1.0重量部,N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.0重量部及び硫黄5重量部を配合した」ものである点。
事案に鑑み,相違点8及び9について,まとめて検討する。
イ 相違点8及び9の検討
甲1実施例4発明は,空気入り安全タイヤのサイド部が,サイド部座屈防止用補強層によって補強されたものであり,そのサイド部座屈防止用補強層に,特定のゴム組成物,すなわち,「シス1,4-ポリブタジエンゴム単独のゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック50重量部,亜鉛華6重量部,ステアリン酸2重量部,アロマチックオイル3重量部,(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン2重量部,1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン1重量部,テトラメチルチウラムジスルフィド1.0重量部,N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.0重量部及び硫黄5重量部を配合した」ゴム組成物を用いるものである。
しかしながら,甲1には,サイド部座屈防止用補強層に用いられる上記のゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いることについては,記載も示唆もない。また,上記のゴム組成物が,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層と,ビード部を補強するゴムフィラーのいずれにも用いられるものであることが,技術常識であるともいえない。また,甲1実施例4発明に係る空気入り安全タイヤは,ビード部を備えるものの,甲1には,そもそも,そのビード部を補強するゴムフィラー等の手段については,何ら記載されていない。
そうすると,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1実施例4発明におけるゴム組成物が,たとえ,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであったとしても,そのゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1実施例4発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明との対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明との一致点及び相違点(以下,便宜的に,まとめて「相違点10及び11」という。)は,それぞれ,上記(1)アで認定した,本件訂正発明2と甲1実施例4発明との一致点並びに相違点8及び9と同様のものである。
事案に鑑み,相違点10及び11について,まとめて検討する。
イ 相違点10及び11の検討
相違点10及び11は,上記(1)イで検討した本件訂正発明2と甲1実施例4発明との相違点8及び9と同様のものであるから,上記(1)イと同様の理由により,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明におけるゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲1クレーム発明との対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲1クレーム発明とを対比すると,上記(1)アで述べた甲1実施例4発明の場合と同様,本件訂正発明2と甲1クレーム発明とは,
「ゴム組成物を用いたゴム補強層で補強されたランフラットタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点12
ゴム補強層で補強される部分が,本件訂正発明2では,「ビード部」であり,「ゴムフィラー」で補強されるのに対し,甲1クレーム発明では,「サイド部」であり,「サイド部座屈防止用補強層」で補強される点。
・相違点13
ゴム補強層に用いられるゴム組成物が,本件訂正発明2では,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」のものであるのに対し,甲1クレーム発明では,「ポリブタジエンゴム単独又はポリブタジエンゴムの他にジエン系ゴム0~20重量部を含むブレンドのゴム成分100重量部に対して,補強性カーボンブラック30~90重量部,硫黄2~10重量部,チウラム系加硫促進剤単独あるいはこれとチアゾール系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤との併用0.1~4重量部を配合した」ものである点。
事案に鑑み,相違点12及び13について,まとめて検討する。
イ 相違点12及び13の検討
相違点12及び13は,上記(1)イで検討した本件訂正発明2と甲1実施例4発明との相違点8及び9と同様のものであるから,上記(1)イと同様の理由により,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1クレーム発明におけるゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1クレーム発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)請求人の主張について
ア 請求人は,甲1に記載されているサイド部座屈防止用補強層を形成するゴム組成物が優れた耐熱性を有することは明らかであるが,ビード部に耐熱性が求められること(甲19~24),ビードフィラーにもランフラット走行時に歪みが生じること(甲18及び25),ビードフィラーにサイドウォール部の補強層と同じ物性のゴムを用いることが可能なこと(甲26,32,33及び42~44)は,いずれも技術常識であるから,甲1に記載されたランフラットタイヤにおいて,優れた耐熱性を有する甲1に記載のサイド部座屈防止用補強層を形成するゴム組成物を,良好な耐熱性が求められるビードフィラーに転用することは,当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内であると主張する。
しかしながら,仮に,ビード部に耐熱性が求められることや,ビードフィラーにもランフラット走行時に歪みが生じることが,技術常識であったとしても,そのことのみをもって,直ちに,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1に記載されたゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いることが,動機付けられるとはいえない。
また,ランフラットタイヤにおいて,サイド部とビード部に同一の組成を有する補強用ゴム組成物を用いるのが好ましいとする文献(甲26,42。なお,これらは同一の文献である。)があるものの,一方で,これらの部位に異なる補強用ゴム組成物を用いることでランフラット走行性能を向上させる技術が記載されている文献もある(甲4)。そして,甲32,33,43及び44は,ランフラットタイヤにおいて,同一の組成を有するゴム組成物を,サイド部の補強用ゴム組成物としても,ビード部の補強用ゴム組成物としても,用いることができる旨記載されるにとどまるものである。そうすると,ランフラットタイヤのサイド部の補強用ゴム組成物を,ビード部の補強用ゴム組成物に転用することが,技術常識であるとまではいえない(この点については,本件判決(59頁)が,本件訂正発明7について同様に判示するとおりである。)。
以上のとおりであるから,請求人の主張は,採用することができない。
イ 請求人は,無効理由2-4について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-4は理由がない。
15 無効理由2-5(甲1及び甲17に基づく進歩性)について
甲1には,前記4(2)のとおり,甲1クレーム発明,甲1実施例4発明及び甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明がそれぞれ記載されている。
なお,請求人の主張によれば,無効理由2-5は,無効理由2-4とは異なり,甲1に記載された各発明におけるゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」という本件訂正発明2の条件を満たすか否か真偽不明であることを前提としたものと解されるので,そのような前提で判断することとする。
(1)甲1実施例4発明との対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲1実施例4発明とは,前記14(1)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点8及び9で相違する。
事案に鑑み,相違点8及び9について,まとめて検討する。
イ 相違点8及び9の検討
(ア)前記14(1)イで述べたとおり,甲1には,サイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1実施例4発明におけるゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いることについては,記載も示唆もない。また,上記のゴム組成物が,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層と,ビード部を補強するゴムフィラーのいずれにも用いられるものであることが,技術常識であるともいえない。また,甲1実施例4発明に係る空気入り安全タイヤは,ビード部を備えるものの,甲1には,そもそも,そのビード部を補強するゴムフィラー等の手段については,何ら記載されていない。
(イ)一方,甲17には,前記13(1)イ(イ)のとおりの記載があり,同(ウ)のとおりの事項が記載されている。
しかしながら,甲17に記載の接着性ゴム組成物を用いて作成されるタイヤは,スチールコードを補強材としたタイヤであって,ランフラットタイヤではなく,また,ゴム組成物も,黄銅メッキを施したスチールコードとの接着に適したものにすぎず,サイドウォール部を補強するゴム補強層に用いられるものでも,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるものでもない。甲17には,上記の接着性ゴム組成物を,ランフラットタイヤのサイドウォール部を補強するゴム補強層やビード部を補強するゴムフィラーに用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1実施例4発明における,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物に対して,ランフラット耐久性を向上するために,さらに1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合する動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲1実施例4発明において,サイド部座屈防止用補強層に用いられるゴム組成物に対して,1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合することができたとしても,そのようにして得られるゴム組成物が,必ず,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」になるともいえない。
また,そもそも,甲17には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲17の記載に基づいて,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(ウ)以上によれば,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1実施例4発明におけるゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いること,また,その際,当該ゴム組成物について,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1実施例4発明及び甲17に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明との対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明とは,前記14(2)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点10及び11で相違する。
事案に鑑み,相違点10及び11について,まとめて検討する。
イ 相違点10及び11の検討
相違点10及び11は,上記(1)イで検討した本件訂正発明2と甲1実施例4発明との相違点8及び9と同様のものであるから,上記(1)イと同様の理由により,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明におけるゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いること,また,その際,当該ゴム組成物について,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1の実施例4以外の各実施例に対応した発明及び甲17に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲1クレーム発明との対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲1クレーム発明とは,前記14(3)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点12及び13で相違する。
事案に鑑み,相違点12及び13について,まとめて検討する。
イ 相違点12及び13の検討
相違点12及び13は,上記(1)イで検討した本件訂正発明2と甲1実施例4発明との相違点8及び9と同様のものであるから,上記(1)イと同様の理由により,サイド部を補強するサイド部座屈防止用補強層に用いられる,甲1クレーム発明におけるゴム組成物を,ビード部を補強するゴムフィラーにも用いること,また,その際,当該ゴム組成物について,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上」とすることは,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1クレーム発明及び甲17に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)請求人の主張について
請求人は,無効理由2-5について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-5は理由がない。
16 無効理由2-6(甲1及び甲17に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には,前記4(1)のとおりの記載がある。
イ 甲1の前記4(1)イ,キの記載によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「左右一対のビード部と,各ビード部に連なる一対のサイド部と,両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え,前記ビード部区域から前記トレッド部の,ショルダー部の肉厚が最も厚いハンプまでの区間の屈曲領域の全域にわたって,前記ビード部及びトレッド部に向かって厚さを漸減させたサイド部座屈防止用補強層をサイド部内側に一体的に固着した空気入り安全タイヤ。」(以下,「甲1発明」という。)
(2)対比,判断
ア 本件訂正発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明は,「空気入り安全タイヤ」に関するものであるところ,前記4(1)ウの記載によれば,当該「空気入り安全タイヤ」は,自動車走行中にパンクを起こしても,タイヤサイドウォールの剛性で車体を支持し,そのままでも持続走行が可能な安全性に優れたものであるから,本件訂正発明2における「ランフラットタイヤ」に相当する。
甲1発明に係る空気入り安全タイヤは,「左右一対のビード部と,各ビード部に連なる一対のサイド部と,両サイド部間にまたがるトレッド部とを備え」たものであるが,当該「ビード部」は,本件訂正発明2における「ビード部」に相当する。
そうすると,本件訂正発明2と甲1発明とは,
「ビード部を有する,ランフラットタイヤ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点14
本件訂正発明2は,ビード部が,「ゴムフィラーで補強された」ものであり,当該ゴムフィラーに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上である」ゴム組成物を用いたものであるのに対し,甲1発明は,ビード部が,「ゴムフィラーで補強された」ものであるかどうか明らかではなく,そのゴムフィラーに,どのようなゴム組成物を用いたものかも明らかではない点。
イ 相違点14の検討
(ア)甲1には,前記4(1)のとおりの記載があるものの,ビード部を補強するゴムフィラー等の手段については,何ら記載されていない。
(イ)一方,甲17には,前記13(1)イ(イ)のとおりの記載があり,同(ウ)のとおりの事項が記載されている。
しかしながら,甲17に記載の接着性ゴム組成物を用いて作成されるタイヤは,スチールコードを補強材としたタイヤであって,ランフラットタイヤではなく,また,ゴム組成物も,黄銅メッキを施したスチールコードとの接着に適したものにすぎず,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるものでもない。甲17には,上記の接着性ゴム組成物を,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,ビード部が,通常,ゴムフィラーで補強されるものあるとしても,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物として,甲17に記載の接着性ゴム組成物を用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲1発明において,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物として,甲17に記載の接着性ゴム組成物を用いることができたとしても,甲17には,その接着性ゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記の接着性ゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない以上,甲1発明に甲17に記載の接着性ゴム組成物を適用したものが,上記交点の温度が「170℃以上」という本件訂正発明2の条件を満たすことになるわけでもない。
また,そもそも,甲17には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲17の記載に基づいて,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(ウ)以上によれば,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,ビード部を補強するゴムフィラーに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上である」ゴム組成物を用いることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1発明及び甲17に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)請求人の主張について
請求人は,無効理由2-6について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-6は理由がない。
17 無効理由2-7(甲1及び甲6に基づく進歩性)について
(1)ア 甲1には,前記16(1)イのとおり,甲1発明が記載されている。
本件訂正発明2と甲1発明とは,前記16(2)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点14で相違する。
イ 相違点14の検討
(ア)甲1には,前記4(1)のとおりの記載があるものの,ビード部を補強するゴムフィラー等の手段については,何ら記載されていない。
(イ)一方,甲6には,前記9(3)イ(ウ)のとおりの記載があり,同(エ)のとおりの事項が記載されている。
しかしながら,甲6に記載のゴム組成物が用いられるタイヤは,高運動性能及び高速耐久性等が要求される高性能タイヤ及び競技用タイヤであって,ランフラットタイヤではない。甲6には,上記のゴム組成物を,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,ビード部が,通常,ゴムフィラーで補強されるものあるとしても,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物として,甲6に記載のゴム組成物を用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲1発明において,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物として,甲6に記載のゴム組成物を用いることができたとしても,甲6には,そのゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない以上,甲1発明に甲6に記載のゴム組成物を適用したものが,上記交点の温度が「170℃以上」という本件訂正発明2の条件を満たすことになるわけでもない。
また,そもそも,甲6には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲6の記載に基づいて,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(ウ)以上によれば,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,ビード部を補強するゴムフィラーに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上である」ゴム組成物を用いることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1発明及び甲6に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)請求人の主張について
請求人は,無効理由2-7について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-7は理由がない。
18 無効理由2-8(甲1及び甲7に基づく進歩性)について
(1)ア 甲1には,前記16(1)イのとおり,甲1発明が記載されている。
本件訂正発明2と甲1発明とは,前記16(2)アで認定したとおりの一致点で一致し,同相違点14で相違する。
イ 相違点14の検討
(ア)甲1には,前記4(1)のとおりの記載があるものの,ビード部を補強するゴムフィラー等の手段については,何ら記載されていない。
(イ)一方,甲7には,前記10(1)イ(イ)のとおりの記載があり,同(ウ)のとおりの事項が記載されている。
しかしながら,甲7に記載のゴム組成物が用いられるタイヤは,トラック用,航空機用,農耕車用,大型建設車両用,乗用車用,二輪車用及びレーシングカー用等のタイヤであって,ランフラットタイヤではなく,また,ゴム組成物も,トレッドアンダークッションゴム等の内部部材(内部ゴム)やトレッドゴムに用いられるものであって,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるものでもない。甲7には,上記のゴム組成物を,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いることについては,記載も示唆もない。そうすると,ビード部が,通常,ゴムフィラーで補強されるものあるとしても,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物として,甲7に記載のゴム組成物を用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に,甲1発明において,ビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物として,甲7に記載のゴム組成物を用いることができたとしても,甲7には,そのゴム組成物が,「動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図における外挿線Aと外挿線Bとの交点の温度」が「170℃以上」のものであることについては記載も示唆もなく,また,上記のゴム組成物であれば,必ず,上記交点の温度が「170℃以上」になることが,技術常識であるともいえない以上,甲1発明に甲7に記載のゴム組成物を適用したものが,上記交点の温度が「170℃以上」という本件訂正発明2の条件を満たすことになるわけでもない。
また,そもそも,甲7には,動的貯蔵弾性率については何ら記載されておらず,また,ランフラット耐久性と動的貯蔵弾性率との関係についても記載も示唆もない。そうすると,当業者は,甲7の記載に基づいて,ランフラットタイヤのビード部を補強するゴムフィラーに用いられるゴム組成物について,上記交点の温度を「170℃以上」とすることによって,優れたランフラット耐久性を示すことを理解できるとはいえない。
(ウ)以上によれば,空気入り安全タイヤ(ランフラットタイヤ)に関する甲1発明において,パンク状態での優れた持続走行性能を高める(ランフラット耐久性を向上する)ために,ビード部を補強するゴムフィラーに,「昇温条件で測定したときの動的貯蔵弾性率の温度による変化を示す図において,100℃以上に存在する動的貯蔵弾性率の急激な降下前に存在する動的貯蔵弾性率がほぼ直線的な変化を示す部分の外挿線Aと急激な降下部分の外挿線Bとの交点の温度が170℃以上である」ゴム組成物を用いることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1発明及び甲7に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)請求人の主張について
請求人は,無効理由2-8について,無効理由1-3についての主張と同様の主張をするが,前記5(4)で述べたとおり,いずれの主張も採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由2-8は理由がない。
19 無効理由3-1及び4-1(甲1及び甲16に基づく進歩性)について
(1)本件訂正発明3は,本件訂正発明1又は2を引用するものであり,さらに,「前記ゴム組成物に,1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合」することを特定するものである。
また,本件訂正発明4は,本件訂正発明3を引用するものであり,さらに,「前記1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物の配合量がゴム成分100重量部に対し1重量部から10重量部である」ことを特定するものである。
(2)請求人は,本件訂正発明3について,無効理由1-1及び1-3についての主張と同様の主張をして,構成要件a,b,cを全て備える発明(本件訂正発明1)は,甲1に記載の発明からに容易に想到することができると主張する。そして,甲1には,1,6-ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・二水和物を配合する点については開示されていないものの,無効理由1-5についての主張と同様の主張をして,本件訂正発明3は,甲1及び甲16に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたと主張する。
また,請求人は,本件訂正発明4についても,本件訂正発明3と同様に,甲1及び甲16に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたと主張する。
しかしながら,前記4~18のとおり,請求人が主張する,本件訂正発明1及び2に対する新規性・進歩性に関する無効理由は,いずれも理由がない。そうである以上,本件訂正発明1又は2を引用する本件訂正発明3及び4についても,甲1及び甲16に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは,明らかである。
(3)以上のとおりであるから,請求人が主張する無効理由3-1及び4-1は,いずれも理由がない。
第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項5が本件訂正により削除された結果,同請求項5に係る発明についての本件審判の請求は対象を欠くこととなったため,特許法135条の規定により審決をもって却下すべきものである。
また,無効理由1-1~4-2はいずれも理由がなく,請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1~4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人の負担とする。
よって,結論のとおり審決する。
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2015-800158