特許異議申立
2015-700168
ゴルフクラブ
- 審判番号
- 2015-700168
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-224552
- 登録番号
- 特許第5756732号(P5756732)
- 請求日
- 2015年11月10日
- 審決日
- 2017年03月31日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ダンロップスポーツ株式会社
- 【権利者代理人】住友 教郎
- 【権利者代理人】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
- 【異議申立人】佐々木 靖
- 審判長/審判官
- 審判長 黒瀬 雅一
- 審判官 吉村 尚
- 審判官 藤本 義仁
- 分類
- P1651.121-ZDA(A63B) / P1651.537-ZDA(A63B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5756732号発明「ゴルフクラブ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5756732号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、2、3、4]について訂正することを認める。
特許第5756732号の請求項1に係る特許を取り消す。
特許第5756732号の請求項2及び3に係る特許を維持する。
特許第5756732号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5756732号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成27年6月5日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人佐々木靖より請求項1~4に対して特許異議の申立てがされ、平成28年4月6日付けで取消理由が通知され、同年6月3日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年6月27日に特許異議申立人佐々木靖から意見書が提出され、さらに同年12月16日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年2月20日に意見書の提出及び訂正請求がされたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容(下線部は、当審で付した。以下同じ。)
(1) 訂正事項1
請求項1の「クラブ重量が290g以下であり」を、「クラブ重量が265g以上290g以下であり」と、訂正する。
(2) 訂正事項2
請求項3の「クラブ長さが46インチ以下である」を、「クラブ長さが42.0インチ以上45.7インチ以下である」と、訂正する。
(3) 訂正事項3
請求項4を削除する。
(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0008】の「クラブ重量が290g以下であり」を、「クラブ重量が265g以上290g以下であり」と、訂正する。
(5) 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0014】の「クラブ長さが46インチ以下であってもよい」を、「クラブ長さが42.0インチ以上45.7インチ以下であってもよい」と、訂正する。
(6) 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0015】を削除する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1は、訂正前の「クラブ重量が290g以下」という、数値範囲の下限を定めない不明瞭な記載を、「クラブ重量が265g以上290g以下」と下限を限定したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0019】に「本発明において、ゴルフクラブ1の重量は290g以下に設定されており、好ましくは265~290gの範囲内に設定される。」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2は、訂正前の「クラブ長さが46インチ以下」という、数値範囲の下限を定めない不明瞭な記載を、「クラブ長さが42.0インチ以上45.7インチ以下」と下限を限定した上で、有効数字を3桁とし、上限を「46インチ以下」から「45.7インチ」と、その数値範囲を狭めたものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0020】に「また、ゴルフクラブ1の長さ自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、42.0~46.0インチである。」、「一方、ゴルフクラブ1の長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、ゴルフクラブ1の長さは、45.7インチ以下であることが好ましく、さらには45.5インチ以下であることが好ましい。」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4~6は、訂正事項1~3による訂正等によって訂正された請求項1の記載と整合性を取るために、願書に添付した明細書のうち関連する発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1~3と同じ理由により、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項4~6は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1乃至6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1、2、3、4]について訂正を認める。
第3 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由のうち特許法第29条第2項について
(1) 訂正後の請求項に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~3に係る発明(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明3」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が265g以上290g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.72以下であり、
クラブグリップ端の慣性モーメントをMIとすると、2700kg・cm2≦MI≦3000kg・cm2であり、且つ、
クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、190cpm≦F≦230cpmであることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
前記シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、0.52≦LG/LS≦0.65である、請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
クラブ長さが42.0インチ以上45.7インチ以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブ。」
(2) 甲号各証の記載
ア 取消理由通知において引用した甲第1号証(特開2006-204893号公報)には以下の事項が記載されている。
A 「【発明の効果】
【0025】
本発明のゴルフクラブは、46~48インチと長尺でありながら、スイングし易い。従って、ヘッドスピードの向上及び優れたヘッドコントロールを両立できる。従って、意図した方向により遠くまでボールを飛ばすことができる。」
B 段落【0065】の【表2】の比較例2には、クラブ全重量が「281.4g」、ヘッド重量が「191.0g」、グリップの後端でのクラブの慣性モーメントが「2954kg・cm2」、クラブの全長が「46インチ」であるゴルフクラブが記載されている。
C 【図1】から、「シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブ」であることが、看て取れる。
甲第1号証の上記記載事項を含め,甲第1号証の全記載を総合すると,甲第1号証には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ全重量が281.4gであり、
ヘッド重量191.0gであり、
グリップの後端でのクラブの慣性モーメントが、2954kg・cm2であり、且つ、
クラブの全長が46インチであるゴルフクラブ。」
イ 取消理由通知において引用した甲第2号証(特開2001-46563号公報)には以下の事項が記載されている。
A 「【0012】クラブ振動数は、グリップを固定した状態でヘッドを揺動させたときの1分間当たりの振動回数である。このクラブ振動数が少ないほどシャフトが軟らかいことを意味する。従来の長尺ゴルフクラブではクラブ振動数が約260cpmを超えることが一般的である。なお、グリップを加圧式固定具で固定する際の圧力は2~3kgf/cm2である。」
B 「【0017】本発明によれば、クラブ長さ46インチ以上、クラブ総質量300g以下、クラブ慣性モーメント3×106g・cm2以下のゴルフクラブにおいて、シャフト1の先端部及び後部が相対的に軟らかく、これら部位における撓み量が大きくなるので、スイング時の撓み効果によりヘッドスピードが増加し、その結果として飛距離が大幅に伸びる。また、シャフト1の先端部が軟らかくヘッド3が返り易いため打球がスライスし難く、しかもグリップ3近傍の後部が軟らかいためシャフトが硬過ぎると感じることはなく打感も良好になる。そのため、長尺ゴルフクラブであっても、良好な打球方向性を確保することができる。」
C 「【0019】上記ゴルフクラブにおいて、シャフトの後部側を固定して測定されるシャフト単体での順式撓み量Xと、シャフトの先端部側を固定して測定されるシャフト単体での逆式撓み量Yとの比X/Yは0.35以下となるように設定されている。順式撓み量Xと逆式撓み量Yとの比X/Yが0.35を超えると、打球方向性と飛距離とを高度に両立させることが困難になる。また、グリップを固定して測定されるクラブ振動数は200~260cpmとなるように設定されている。このクラブ振動数が200cpm未満であるとシャフトが軟らか過ぎて打球方向性が不十分になり、逆に260cpmを超えるとシャフトが硬過ぎてスイング時のフィーリングが悪化すると共にヘッドスピードの向上効果が得られなくなる。」
D 段落【0026】の表1には、総重量が「270g」、振動数が「210cpm」である比較例5、総重量が「278g」、振動数が「225cpm」である実施例2が記載されている。
甲第2号証の上記記載事項を含め,甲第2号証の全記載を総合すると,甲第2号証には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が開示されていると認められる。
「グリップを固定した状態でヘッドを揺動させたときの1分間当たりの振動回数であるクラブ振動数が、200~260cpmとなるように設定され、特に総重量が「270g」、振動数が「210cpm」又は総重量が「278g」、振動数が「225cpm」であるゴルフクラブ。」
ウ 取消理由通知において引用した甲第3号証(特開2005-198816号公報)には以下の事項が記載されている。
A 「【発明の効果】
【0010】
本発明に係るゴルフクラブは、ゴルフクラブの質量を270g以下で、グリップ端から17.0cmの位置に作用する回転モーメントが20,500g・cmから21,500g・cmの範囲に制限する。
このため、ゴルフクラブの軽量化によってスウィング時のヘッドスピードを増大させ、回転モーメントを上記範囲に設定することによりゴルファの感じるゴルフクラブヘッドの効きを高めたゴルフクラブを提供することができる。ゴルファはゴルフクラブヘッドが効いていると感じるため、スウィングのときにゴルファはゴルフクラブを振り易く、かつコントロールし易い。
そのため、ヘッドスピードの増大によるゴルフボールの飛距離の向上と、ゴルフボールの飛び方向の安定を同時に達成することができる。」
B 「【0025】
また、ゴルフクラブの振動数は、210cpm~260cpmであることが好ましい。本発明における振動数は、ゴルフクラブのグリップ側端部を固定した状態で測定されるものであり、振動数測定器としては、例えば、藤倉ゴム工業株式会社製のクラブタイミングハーモナイザー等が挙げられる。なお、基本的な操作手順は、社団法人日本ゴルフ用品協会が定めるゴルフ曲げ振動計の操作手順に準拠すればよい。また、グリップ側の固定長さは、178mmに設定すればよい。」
C 段落【0030】の【表1】には、クラブ長さを「45インチ」、クラブ質量を「270g」、クラブ振動数を「200cpm」とした実験例14が記載されている。
甲第3号証の上記記載事項を含め,甲第3号証の全記載を総合すると,甲第3号証には,次の発明(以下「甲3発明」という。)が開示されていると認められる。
「ゴルフクラブのグリップ側端部を固定した状態で測定される振動数が、210cpm~260cpmとなるように設定され、特にクラブ長さを「45インチ」、クラブ質量を「270g」、クラブ振動数を「200cpm」であるゴルフクラブ。」
エ 取消理由通知において引用した甲第4号証(特開2005-230054号公報)には以下の事項が記載されている。
A 「【0001】
本発明は、優れた飛距離性能を有するゴルフクラブに関するものである。」
B 「【0028】
クラブ長さは、短すぎると、ダウンスイング間におけるシャフトの撓りが少なくなりすぎて上述した本発明の効果が減少したり、インパクト直前のヘッドスピードVh0が小さくなって飛距離低下となったりする場合があるので、42インチ以上が好ましく、43インチ以上がより好ましく、43.5インチ以上が更に好ましい。また、クラブ長さが長すぎると、クラブの操作性が低下して打点のバラツキが大きくなり飛距離が減少する場合があるので、48インチ以下が好ましく、47インチ以下がより好ましく、46インチ以下が更に好ましい。
ヘッド重量Mhは、重すぎるとクラブバランスが重くなりすぎて、スイングスピードspが過度に減少する場合があるので、240g以下が好ましく、230g以下が更に好ましい。
またヘッド重量Mhが軽すぎると、インパクト直前におけるヘッドの運動量が低下して反発係数が低下することがあるので、180g以上が好ましく、190g以上がより好ましい。~」
C 段落【0030】の【表1】には、ヘッド重量が「195.0g」、クラブ総重量が「283.0g」、クラブ長さが「45.0インチ」である実施例2、ヘッド重量が「205.0g」、クラブ総重量が「293.0g」、クラブ長さが「44.0インチ」である実施例4が記載されている。
甲第4号証の上記記載事項を含め,甲第4号証の全記載を総合すると,甲第4号証には,次の発明(以下「甲4発明」という。)が開示されていると認められる。
「クラブ長の好ましい範囲は42インチ以上48インチ以下であって、ヘッド重量の好ましい範囲は180~240gとなるように設定され、特にヘッド重量が「195.0g」、クラブ総重量が「283.0g」、クラブ長さが「45.0インチ」、クラブ総重量が「283.0g」又はヘッド重量が「205.0g」、クラブ総重量が「293.0g」、クラブ長さが「44.0インチ」であるゴルフクラブ。」
オ 取消理由通知において引用した甲第5号証(特開2009-240627号公報)には以下の事項が記載されている。
A 「【0017】
本発明に係るゴルフクラブは、他の局面では、ヘッド部とシャフト部とグリップ部とを備え、硬さの異なる3種類以上のシャフトフレックス展開をしたウッド型のゴルフクラブであって、シャフトフレックスが硬くなるに従って1段階ずつ各ゴルフクラブのスイングバランスが増加し、シャフトフレックスが硬くなるに従って3g以上7.2g未満の量ずつシャフト部の質量が増加し、かつシャフトフレックスが硬くなるに従ってシャフト部の重心率が増加するように、スイングバランスとシャフト部の質量とシャフト部の重心率とをシャフトフレックスに応じて調整したものである。ここで、「シャフト重心率」とは、シャフト部全長に対する、シャフト部のグリップエンド側から重心位置までの距離の割合を、%表示したものである。」
B 【表1】にはシャフト重心率を「48(%)」としたモデル1~6、【表2】にはシャフト重心率を「46.7(%)」としたモデル7のFlex1、【表3】にはシャフト重心率を「45.75(%)」としたモデル16のFlex1が記載されている。
C 甲第5号証では、シャフト部全長に対する、シャフト部のグリップエンド側から重心位置までの距離の割合を「シャフト重心率」とし、重心までの距離の原点は、「グリップエンド側」つまり「シャフト後端」となっており、本件特許発明2のように、重心までの距離の原点をシャフトの先端として、上記の数値を数値を換算して、「%」表示から「小数」表示に改めると、「0.52」、「0.53」、「0.54」になる。
甲第5号証の上記記載事項を含め,甲第5号証の全記載を総合すると,甲第5号証には,次の発明(以下「甲5発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが、0.52、0.53、0.54であるゴルフシャフト。」
カ 取消理由通知において引用した甲第6号証(特開平7-59884号公報)には以下の事項が記載されている。
A 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カーボンファイバー製ゴルフシャフトの打球感、振り抜き感を改良したゴルフシャフトに関する。」
B 「【0006】本発明は、上述したようにカーボンシャフトの撓みパターンや捩れ剛性などの設計決定要因を変化させず、シャフトバランスをプレイヤーの好みに合わせて自由にコントロールでき、しかも打球感や振り抜き感の優れたゴルフシャフトおよびその製造方法を提供せんとするものである。」
C 「【0024】これら3つの実施例と比較するため、比較例1として、実施例1と同じ芯材に、同じ要領で一方向炭素繊維プリプレグを積層し、チップ外径が8.4mmとなるよう芯材に巻き付け、130℃、1時間で加熱成形した。同様に、成形後、脱芯、ポリエステルテープ研磨を行ない、長さ1145mmに切断した結果、カーボンシャフトの重さは66グラムであった。これらのシャフトのシャフトバランスを比較するため、シャフト長手方向の重心距離について、チップ先端から重心までの距離A(mm)とシャフト全長B(mm)との比A/Bを測定した。」
D 段落【0026】の【表1】にはシャフトバランスが「52.4%」である実施例2、シャフトバランスが「52.2%」である比較例1が記載されている。
E 甲第6号証の「シャフトバランス」は、チップ先端から重心までの距離A(mm)とシャフト全長B(mm)との比A/Bで表すことができ、「チップ先端から重心までの距離A」と「シャフト全長B」は、本件特許発明2の「LG」と「LS」にそれぞれ相当し、甲6発明の数値を「小数」表示に改めると、「0.524」、「0.522」になる。
甲第6号証の上記記載事項を含め,甲第6号証の全記載を総合すると,甲第6号証には,次の発明(以下「甲6発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSSが、0.524、0.522であるゴルフシャフト。」
ウ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1と、甲1発明とを比較する。
後者の「クラブ全重量」は、前者の「クラブ重量」に相当する。
後者の「グリップの後端でのクラブの慣性モーメント」は、前者の「クラブグリップ端の慣性モーメント」に相当する。
また、後者のゴルフクラブにおいて、クラブ全重量が281.4g、ヘッド重量が191.0gであるから、ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)は、0.68である。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、
「シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が265g以上290g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.72以下であり、
クラブグリップ端の慣性モーメントをMIとすると、2700kg・cm2≦MI≦3000kg・cm2であるゴルフクラブ。」
で、一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、190cpm≦F≦230cpmである」のに対して、甲1発明では、クラブの曲げ振動の振動数が不明な点。
上記相違点1について検討する。
本件の明細書の段落【0105】の特に測定方法に関する「<クラブ振動数(cpm)>
ゴルフクラブの曲げ振動の振動数Fは、…クランプ10によってグリップ4の一部(グリップエンドからL=7インチ(≒178mm)をクランプした後にヘッド2に対して下方に向けて任意の負荷を加えてシャフト3を振動させ、1分間当たりの振動数を測定した。」との記載を参酌すると、甲2及び3発明の「クラブ振動数」は、本件特許発明1の「クラブの曲げ振動の振動数」に相当するものであるといえ、甲2及び3発明には、クラブの曲げ振動の振動数として、本件特許発明1に限定された「190cpm≦F≦230cpm」に一部重複する数値を有するゴルフクラブが記載されている。
甲第1号証の比較例2をみると、226.4ヤードという飛距離は、実施例1~9の飛距離の225.0~230.6ヤードと、ほぼ同程度のものであり、飛距離については、増大されているものといえる。
甲第2号証の段落【0019】に「クラブ振動数が200cpm 未満であるとシャフトが軟らか過ぎて打球方向性が不十分になり、逆に260cpm を超えるとシャフトが硬過ぎてスイング時のフィーリングが悪化すると共にヘッドスピードの向上効果が得られなくなる」と記載されているように、クラブ振動数は、クラブシャフトの硬さや柔らかさに係るものであって、これを適正な柔らかさ(適正なクラブ振動数)とすることで、飛距離が増大することが認められ、振動数を210、225cpmとすることで、飛距離を増大させているものである。
さらに、甲第3号証の段落【0009】には、「ゴルフクラブの振動数が210cpm~260cpmであることが好ましい」と記載され、段落【0034】には、「ヘッドスピードと飛距離に関しては、~振動数は小さいほうがよいことが分かる。~方向性に関しては~振動数は大きいほうがよいことが分かる。」と記載されているように、クラブ振動数を適正な範囲とすることで、ヘッドスピード、飛距離、方向性が向上することが認められる。
してみると、甲1乃至3発明は、いずれも本件特許発明1と同じ、ゴルフボールの飛距離を増大させるゴルフクラブの提供という点で課題が共通しており、甲1発明に、甲2及び3発明に記載されたクラブの曲げ振動の振動数を適用して、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることに何ら技術的困難性はなく,適用したことによって,格別の作用効果が生じたとも認められない。
したがって,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は,「甲1発明と甲2及び3発明」から当業者が容易に想到し得たものである。
特許権者は、平成28年6月3日付け意見書において、甲1発明に「クラブの曲げ振動の振動数」が記載されていないことを主な理由として、甲2発明を適用することができない旨、主張しているが、甲1発明のゴルフクラブも「クラブの曲げ振動の振動数」を有することは明らかであって、本件特許発明1において「クラブの曲げ振動の振動数」は、「振動数が低すぎると、スイング中にシャフト3が撓み過ぎるようになり、振動数が高すぎると、シャフト3が硬くなり、非力なゴルファーではシャフトを十分にしならせることができなくなる」というシャフトの撓み量の常識的な特性を規定しているにすぎず、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項によって格別の効果を奏しているとまではいえず、甲1発明に甲2発明を適用することができないということにはならない。
また、上記の摘記した箇所にあるように、甲第2号証にも、振動数とシャフトの撓みに関して、同様の記載が認められる。
以上のとおり、本件特許発明1は「甲1発明と甲2及び3発明」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(イ) 本件特許発明2と、甲1発明とを比較する。
上記相違点1に加えて、以下の相違点が存在し、その他の点で一致する。
<相違点2>
本件特許発明1は、「シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、0.52≦LG/LS≦0.65である」のに対して、甲1発明では、LG/LSに相当する数値が不明な点。
上記相違点2について検討する。
「LG/LS」に関して、甲5発明では「0.52、0.53、0.54」であり、甲6発明では「0.524、0.522」であって、本件特許発明2の「LG/LS」の数値範囲と、一部重複する数値を有するゴルフクラブが記載されていることになる。
しかしながら、本件特許の明細書の段落【0033】に「LG/LSが0.52未満の場合、シャフト3の重心がシャフト3の先端側に近くなるので、スイングバランスを考慮すると、ヘッドの重量を大きくすることができない」、同段落【0034】に「 一方、LG/LSが0.65を超える場合、シャフトの手元側の重量を大きくすることになり、同一シャフト重量とした場合に、シャフトの先端側の重量が小さくなり、その結果、シャフト先端側の強度が弱くなる惧れがある。また、シャフト先端側の強度低下を防ぎつつ前記比を0.65よりも大きくすることは、シャフトの先端側の重量を維持しつつ手元側重量を大きくすることを意味し、この場合は、クラブの全重量が大きくなりすぎて、クラブが振りにくくなる」と記載されているとおり、本件特許発明2においては、「LG/LS」の数値範囲を特定することによって、上記の作用効果を奏するものであるところ、甲5及び甲6発明には、当該作用効果や当該作用効果に対する課題について何ら記載も示唆もなく、単に本件特許発明2の数値範囲と一部重複する数値が記載されているにとどまり、元々「LG/LS」について記載も示唆もない甲1発明に適用することに対して、動機付けがあるとは認められない。
したがって、本件特許発明2は、甲1発明と甲2及び3発明及び甲5及び6発明から当業者が容易に想到し得たものではなく、他の甲号証の発明から当業者が容易に想到し得たものでもなく、相違点2に係る本件特許発明2の発明特定事項は、当業者にとって設計的事項でもない。
(ウ) 本件特許発明3と、甲1発明とを比較する。
上記相違点1及び2に加えて、以下の相違点が存在し、その他の点で一致する。
<相違点3>
本件特許発明1は、「クラブ長さが42.0インチ以上45.7インチ以下」であるのに対して、甲1発明では、クラブの全長が46インチである点。
上記相違点3について検討する。
甲1発明は、段落【0001】に記載されているように「長尺ゴルフクラブ」を前提としたものである。
また、甲1発明を含む全長が46インチ以上のゴルフクラブは、一般には「長尺ゴルフクラブ」に分類されるものである。
とすれば、甲3発明にクラブ長さを45インチとしたゴルフクラブが、甲4発明にクラブ長さを45インチ又は44インチとしたゴルフクラブが記載され、クラブ長さが42.0インチ以上45.7インチ以下のゴルフクラブが周知の数値限定の範囲であったとしても、長尺ゴルフクラブに関する発明である甲1発明を、長尺ゴルフクラブとはならないように数値限定の範囲を変更することは、当業者にとって、阻害要因があると認められる。
そして、本件特許発明3は、本件特許の明細書の段落【0020】に「また、ゴルフクラブ1の長さ自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、42.0~46.0インチである。ゴルフクラブ1の長さが短すぎると、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない~一方、ゴルフクラブ1の長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。」と記載されているとおり、長尺ゴルフクラブでない範疇のゴルフクラブにおいて、作用効果を奏しているものである。
したがって、本件特許発明3は、甲1発明と甲3発明及び甲4発明から当業者が容易に想到し得たものではなく、他の甲号証の発明から当業者が容易に想到し得たものでもなく、相違点3に係る本件特許発明3の発明特定事項は、当業者にとって設計的事項でもない。
2 取消理由通知に記載した取消理由のうち特許法第36条第6項第1及び2号について
特許法第36条第6項第2号についての取消理由は、平成28年6月3日付け訂正請求による訂正により、数値範囲の下限が限定されたため解消した。
特許法第36条第6項第1号についての取消理由は、平成28年6月3日付け意見書における以下の釈明等により、解消した。
なお、特許法第36条第6項第1号についての取消理由は、訂正前の請求項2乃至4に対して通知したものであったが、上記訂正請求によって請求項4が削除され、請求項4に記載されていた発明特定事項は、訂正後の請求項1に限定されたため、下記の「(1)請求項1について」は、訂正後の請求項1、つまり、実質的に訂正前の請求項4に対するものである。
(1)請求項1について
本件特許発明1は、軽いゴルフクラブにおいてヘッド重量の割合を大きくすることを前提にしたゴルフクラブであって、ヘッド重量の割合が大きい軽量のゴルフクラブはタイミングが合わせ難いという問題点を解消するために、クラブグリップ端の慣性モーメントとクラブの曲げ振動の振動数をさらに限定しているものであって、発明特定事項に記載された数値範囲による効果については、段落【0009】~【0012】、【0019】に示されている。
(2)請求項2について
本件特許発明2は、シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが下限値である0.52以下であれば、シャフト3の重心がシャフト3の先端側に近くなるので、スイングバランスを考慮すると、ヘッドの重量を大きくすることができない、上限値である0.65以上であれば、シャフトの手元側の重量を大きくすることになり、同一シャフト重量とした場合に、シャフトの先端側の重量が小さくなり、その結果、シャフト先端側の強度が弱くなる惧れがある、という当業者が容易に理解できる技術事項に基づくものであって、発明特定事項に記載された数値範囲による効果については、段落【0033】~【0034】に示されている。
(3)請求項3について
本件特許発明3は、ゴルフクラブ1の長さが短すぎると、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなり、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない、ゴルフクラブ1の長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる、という当業者が容易に理解できる技術事項に基づくものであって、発明特定事項に記載された数値範囲による効果については、段落【0020】に示されている。
第4 むすび
以上のとおり、本件特許発明1は「甲1発明と甲2及び3発明」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明2及び3は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許発明2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許発明4は、訂正により削除されたため、本件特許発明4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立については、対象となる請求項が存在しない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2015-700168