特許異議申立
2015-700264
ゴルフクラブ
- 審判番号
- 2015-700264
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-224535
- 登録番号
- 特許第5756731号(P5756731)
- 請求日
- 2015年12月03日
- 審決日
- 2017年04月20日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダンロップスポーツ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
- 【異議申立人】佐々木 靖
- 審判長/審判官
- 審判長 黒瀬 雅一
- 審判官 吉村 尚
- 審判官 畑井 順一
- 分類
- P1651.121-YAA(A63B) / P1651.14 -YAA(A63B) / P1651.536-YAA(A63B) / P1651.537-YAA(A63B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5756731号発明「ゴルフクラブ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5756731号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1ないし4]について」)訂正することを認める。
特許第5756731号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
特許第5756731号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5756731号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成27年6月5日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人佐々木靖より請求項1~4に対して特許異議の申立てがされ、平成28年7月6日付けで取消理由が通知され、同年9月5日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年11月10日に特許異議申立人佐々木靖から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容(下線部は、当審で付した。以下同じ。)
(1)訂正事項1
請求項1の「クラブ重量が265g以下であり」を、「クラブ重量が240g以上265g以下であり」と、訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2の「クラブ長さが46インチ以下である」を、「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下である」と、訂正する。
(3)訂正事項3
請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0008】の「クラブ重量が265g以下であり」を、「クラブ重量が240g以上265g以下であり」と、訂正する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0013】の「クラブ長さが46インチ以下であってもよい」を、「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下であってもよい」と、訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0015】を削除する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0096】に記載された「実施例1~11及び比較例1~6に係るゴルフクラブ(クラブ重量を282gに設定している)の仕様及び評価を表3に示す。また、実施例12~20及び比較例7~12に係るゴルフクラブ(クラブ重量を289gに設定している)の仕様及び評価を表4に示す。さらに、比較例13~25に係るゴルフクラブ(クラブ重量を292gに設定している)の仕様及び評価を表5に示す。なお、表3~5において、「クラブ重心」の測定基準はグリップ端であり、このグリップ端からクラブ重心までの距離(mm)が表中の「クラブ重心」の値となる。」を、「実施例1~11及び比較例1~6に係るゴルフクラブ(クラブ重量を250gに設定している)の仕様及び評価を表3に示す。また、実施例12~20及び比較例7~12に係るゴルフクラブ(クラブ重量を263gに設定している)の仕様及び評価を表4に示す。さらに、比較例13~25に係るゴルフクラブ(クラブ重量を270gに設定している)の仕様及び評価を表5に示す。なお、表3~5において、「クラブ重心」の測定基準はグリップ端であり、このグリップ端からクラブ重心までの距離(mm)が表中の「クラブ重心」の値となる。」
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1は、訂正前の「クラブ重量が265g以下」という、数値範囲の下限を定めない不明瞭な記載を、「クラブ重量が240g以上265g以下」と下限を限定したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0019】に「本発明において、ゴルフクラブ1の重量は265g以下に設定されており、好ましくは240~265gの範囲内に設定される。」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2は、訂正前の「クラブ長さが46インチ以下」という、数値範囲の下限を定めない不明瞭な記載を、「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下」と下限を限定し、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0020】に「また、ゴルフクラブ1の長さ自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、42.0~46.0インチである。」と記載され、小数点以下まで記載されているが、数値自体は訂正事項2の数値と同じものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4~6は、訂正事項1~3による訂正等によって訂正された請求項1の記載と整合性を取るために、願書に添付した明細書のうち関連する発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1~3と同じ理由により、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項7は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0097】表3、表4、表5にはそれぞれ、「クラブ重量:250g」、「クラブ重量:263g」、「クラブ重量:270g」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
3.小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1~7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1、2、3、4について訂正を認める。
第3 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由のうち特許法第29条第2項について
(1)訂正後の請求項に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~3に係る発明(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明3」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が240g以上265g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.72以下であり、
シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、0.52≦LG/LS≦0.65であり、且つ、
クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、180cpm≦F≦210cpmであることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
クラブ長さが42インチ以上46インチ以下である、請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
グリップ重量が27g以上45g以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブ。
(2)甲号各証の記載
ア.取消理由通知において引用した甲1号証(特開2005-230054号公報)には以下の事項が記載されている。
A.「【0007】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るウッド型のゴルフクラブ1がスイングされる様子を示すものである。このゴルフクラブ1は、棒状のシャフト2の一端側にウッド型のヘッド3が装着され、他端側にはグリップ4が装着されてなる。」
B.段落【0030】【表1】の実施例3は、ヘッド重量が185.0g、クラブ総重量が263.0g、クラブ長さが46.5インチのゴルフクラブが記載されている。
甲1号証の上記記載事項を含め,甲1号証の全記載を総合すると,甲1号証には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が開示されていると認められる。
「ゴルフクラブ1は、棒状のシャフト2の一端側にウッド型のヘッド3が装着され、他端側にはグリップ4が装着されてなり、ヘッド重量が185.0g、クラブ総重量が263.0g、クラブ長さが46.5インチのゴルフクラブ。」
イ.取消理由通知において引用した甲2号証(特開2009-240627号公報)には以下の事項が記載されている。
A 「【0017】
本発明に係るゴルフクラブは、他の局面では、ヘッド部とシャフト部とグリップ部とを備え、硬さの異なる3種類以上のシャフトフレックス展開をしたウッド型のゴルフクラブであって、シャフトフレックスが硬くなるに従って1段階ずつ各ゴルフクラブのスイングバランスが増加し、シャフトフレックスが硬くなるに従って3g以上7.2g未満の量ずつシャフト部の質量が増加し、かつシャフトフレックスが硬くなるに従ってシャフト部の重心率が増加するように、スイングバランスとシャフト部の質量とシャフト部の重心率とをシャフトフレックスに応じて調整したものである。ここで、「シャフト重心率」とは、シャフト部全長に対する、シャフト部のグリップエンド側から重心位置までの距離の割合を、%表示したものである。」
B 段落【0037】の【表1】記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率は、48(%)であり、段落【0043】の【表2】記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率はそれぞれ、最小の46.7%(モデル7のFlex1)から最大の49.8%(モデル12のFlex1)までの範囲にあり、段落【0049】の【表3】記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率はそれぞれ、最小の45.75%(モデル16のFlex1)から最大の50.34%(モデル14のFlex3)までの範囲にある。
前記表1、2、3記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率について総合すると、それぞれ最小の45.75%から最大の50.34%までの範囲にある。
また、甲2号証では、シャフト部全長に対する、シャフト部のグリップエンド側から重心位置までの距離の割合を「シャフト重心率」とし、重心までの距離の原点は、「グリップエンド側」つまり「シャフト後端」となっており、本件特許発明1のように、重心までの距離の原点をシャフトの先端(LG)として、前記最小の45.75%、最大の50.34%を換算(LG/LS)して、「%」表示から「小数」表示に改めると、0.5425、0.4966となる。
甲2号証の上記記載事項を含め,甲2号証の全記載を総合すると,甲2号証には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが、0.4966から0.5425の範囲にあるゴルフシャフト。」
ウ.取消理由通知において引用した甲3号証(特開2005-198816号公報)には以下の事項が記載されている。
段落【0030】の【表1】の各実験例に各ゴルフクラブのクラブ振動数は、200~260cpmの範囲にあり、クラブ長さは42~46インチの範囲にあることが記載されている。
甲3号証の上記記載事項を含め,甲3号証の全記載を総合すると,甲3号証には,次の発明(以下「甲3発明」という。)が開示されていると認められる。
「クラブ振動数は、200~260cpmの範囲にあり、クラブ長さは41~46インチの範囲にあるゴルフクラブ。」
エ.取消理由通知において引用した甲4号証(特開平7-59884号公報)には以下の事項が記載されている。
A.「【0015】しかも、本発明のゴルフシャフトにおいては、該低融点金属層が、シャフトのチップからバットへ向けて大きくなる形で重量勾配を有するように被覆されているのが、振り抜き感を改善する上から好ましい。さらに重量勾配の両端の比率、すなわち、好ましくはチップ1に対してバット4、さらに好ましくはチップ1に対してバット3、特に好ましくはチップ1に対してバット2の割合に重量勾配を有するものが、より優れた振り抜き感改善効果を達成するのでよい。」
B.「【0024】これら3つの実施例と比較するため、比較例1として、実施例1と同じ芯材に、同じ要領で一方向炭素繊維プリプレグを積層し、チップ外径が8.4mmとなるよう芯材に巻き付け、130℃、1時間で加熱成形した。同様に、成形後、脱芯、ポリエステルテープ研磨を行ない、長さ1145mmに切断した結果、カーボンシャフトの重さは66グラムであった。これらのシャフトのシャフトバランスを比較するため、シャフト長手方向の重心距離について、チップ先端から重心までの距離A(mm)とシャフト全長B(mm)との比A/Bを測定した。
【0025】その結果、表1に示すように、亜鉛溶射していない比較例1のシャフトバランスが52%程度であるのに対し、亜鉛溶射することにより、シャフトバランスを38.4~62.9%の範囲で自由にコントロールできることができた。」
甲4号証では、チップ先端から重心までの距離A(mm)とシャフト全長B(mm)との比A/Bを「シャフトバランス」とし、重心までの距離の原点は、「チップ先端」つまり「シャフト先端」であるから、前記「シャフトバランス」は、本件特許発明1の「LG/LS」と同じものであり、前記38.4~62.9%を、「%」表示から「小数」表示に改めると、0.384~0.629となる。
甲4号証の上記記載事項を含め,甲4号証の全記載を総合すると,甲4号証には,次の発明(以下「甲4発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが、0.384~0.629の範囲にあるゴルフシャフト。」
オ.取消理由通知において引用した甲5号証(特開平2002-35184号公報)には以下の事項が記載されている。
A.「【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明のゴルフクラブシャフトは、シャフトをチップ端側からバット端側に向けて先端部、中央部、手元部に区分したとき、シャフト長さに対する曲げ剛性の分布曲線が前記中央部に極大値を有し、かつ前記バット端に最大値を有することを特徴とするものである。」
B.「【0024】チップ端Tからシャフト重心位置までの距離はシャフト長さの53%以上に設定されている。シャフト重心位置までの距離がシャフト長さの53%未満であるとシャフトに装着するヘッドの質量が制限され、その結果、飛距離の増大効果が不十分になる。」
C.甲5号証記載の「チップ端Tからシャフト重心位置までの距離はシャフト長さの53%以上」は、本件特許発明1の「LG/LS」が53%以上であるのと同じものであり、前記53%を、「%」表示から「小数」表示に改めると、「0.53」となる。
甲5号証の上記記載事項を含め,甲5号証の全記載を総合すると,甲5号証には,次の発明(以下「甲5発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが、0.53以上であるゴルフシャフト。」
ウ.対比・判断
(ア)本件特許発明1と、甲1発明とを比較する。
後者の「一端側」は、前者の「先端」に相当し、同様に「他端側」は「後端」に、「クラブ総重量」は、前者の「クラブ重量」に相当する。
後者のゴルフクラブにおいて、ヘッド重量が185.0g、クラブ総重量が263.0gであるから、ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)は、0.703である。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、
「シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が240g以上265g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.72以下であるゴルフクラブ。」
で、一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、0.52≦LG/LS≦0.65であ」るのに対して、甲1発明では、シャフト重心の位置が不明である点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、180cpm≦F≦210cpmである」のに対して、甲1発明では、クラブ曲げ振動の振動数が不明である点。
上記相違点1について検討する。
「LG/LS」に関して、甲2、4、5発明ではそれぞれ「0.497から0.543の範囲」、「0.384~0.629の範囲」、「0.53以上」であるから、本件特許発明1の「LG/LS」の数値範囲と、一部重複する数値を有するゴルフクラブが記載されていることになる。
しかしながら、本件特許の明細書の段落【0034】に「一方、LG/LSが0.65を超える場合、シャフトの手元側の重量を大きくすることになり、同一シャフト重量とした場合に、シャフトの先端側の重量が小さくなり、その結果、シャフト先端側の強度が弱くなる惧れがある。また、シャフト先端側の強度低下を防ぎつつ前記比を0.65よりも大きくすることは、シャフトの先端側の重量を維持しつつ手元側重量を大きくすることを意味し、この場合は、クラブの全重量が大きくなりすぎて、クラブが振りにくくなる」と記載されているとおり、本件特許発明1においては、「LG/LS」の数値範囲を特定することによって、上記の作用効果を奏するものであるところ、甲2、4、5発明には、当該作用効果や当該作用効果に対する課題について何ら記載も示唆もなく、単に本件特許発明1の数値範囲と一部重複する数値が記載されているにとどまり、元々「LG/LS」について記載も示唆もない甲1発明に適用することに対して、動機付けがあるとは認められない。
また、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者にとって設計的事項とする根拠もない。
したがって、本件特許発明1は、甲1~5発明から当業者が容易に想到し得たものではない。
上記相違点2について検討する。
本件の明細書の段落【0105】の特に測定方法に関する「【0105】 <クラブ振動数(cpm)>
ゴルフクラブの曲げ振動の振動数Fは、図6に示されるゴルフクラブ曲げ振動計(フジクラゴム工業株式会社製のGOLF CLUB TIMING HARMONIZER(商品名))を用いて測定した。具体的に、クランプ10によってグリップ4の一部(グリップエンドからL=7インチ(≒178mm)をクランプした後にヘッド2に対して下方に向けて任意の負荷を加えてシャフト3を振動させ、1分間当たりの振動数を測定した」と、甲3号証の「【0025】また、ゴルフクラブの振動数は、210cpm~260cpmであることが好ましい。本発明における振動数は、ゴルフクラブのグリップ側端部を固定した状態で測定されるものであり、振動数測定器としては、例えば、藤倉ゴム工業株式会社製のクラブタイミングハーモナイザー等が挙げられる。なお、基本的な操作手順は、社団法人日本ゴルフ用品協会が定めるゴルフ曲げ振動計の操作手順に準拠すればよい。また、グリップ側の固定長さは、178mmに設定すればよい」の記載を参酌すると、甲3発明の「クラブ振動数」は、本件特許発明1の「クラブの曲げ振動の振動数」に相当するものであるといえる。
甲3発明には、クラブの曲げ振動の振動数として、本件特許発明1に特定された「180cpm≦F≦210cpm」に一部重複する数値を有するゴルフクラブが記載されている。
甲3号証には、段落【0034】に「表1から3より実験例2~14は、ゴルフクラブ質量およびモーメントが本発明の請求項1の範囲(ゴルフクラブ質量270g以下、回転モーメント20,500~21,500g・cm)を満たし、実験例15~27と比較して合計点が高い(324以上)ことが分かる。
ヘッドスピードと飛距離に関しては、クラブ長さは長いほうがよく、クラブ質量は軽い方がよく、170mm位置を支点としたモーメントは小さい方がよく、振動数は小さいほうがよいことが分かる。
また、方向性に関しては、クラブ長さは短いほうがよく、170mm位置を支点としたモーメントは大きいほうがよく、振動数は大きいほうがよいことが分かる。
さらに、フィーリングに関しては、クラブ長さは適度な長さ、すなわち一般的に45インチ以下のものがよく、クラブ質量は適度な質量、すなわち240~270gのものがよく、170mm位置を支点としたモーメントは20500~21500g・cmのものがよく、振動数は適度なもの210~260cpmのものがよいことが分かる。
特に好ましいゴルフクラブの物性としては、実験例3、4、5、及び10が挙げられる。したがって、クラブ質量は250~270gの範囲であり、170mm位置を支点としたモーメントは20500~20850g・cmの範囲であるゴルフクラブが特に好ましい。」と記載されているが、甲3号証の表1記載の実験例1~27で、本件特許発明1に特定された「180cpm≦F≦210cpm」に一致しているのは、実験例13、14(200cpm)であり、表3をみると、その飛距離はそれぞれ、113、110(実験例1を100とした場合)であり、前記段落【0034】の「特に好ましいゴルフクラブの物性としては、実験例3、4、5、及び10が挙げられる」とされている、実験例3(242cpm)、同4(240cpm)、同5(241cpm)、同10(245cpm)の飛距離がそれぞれ、119、116、118、117に対して、前記実験例13、14(200cpm)のゴルフクラブは飛距離の点で劣っているから、一概に「飛距離に関しては」、「振動数は小さいほうがよい」(前記段落【0034】)とはいえず、前記実験例13、14のクラブ振動数の200cpmは、単に甲3号証記載の実験例1~27の各クラブ振動数の一例に過ぎない。
これに対して、本件特許の明細書の段落【0011】「本発明では、クラブ重量が軽い割にはヘッド重量が重くなっているが、クラブ重量が265g以下とかなり軽量であるため、ヘッドの重量自体も軽くなっている。ヘッド重量が軽い場合、重い場合に比べて、スイング時にシャフトがしなり難い。そこで、クラブの曲げ振動の振動数Fを180cpm≦F≦210cpmと比較的低く設定することで、スイング時にシャフトが適度にしなるようにしている。これにより、非力なゴルファーであってもスイング時にシャフトを十分にしならせることができ、インパクト時のヘッドスピードを増大させることができる。」、同段落【0021】「本実施の形態に係るゴルフクラブ1では、クラブの曲げ振動の振動数が180~210cpmの範囲内に設定されている。この振動数が低すぎると、スイング中にシャフト3が撓み過ぎるようになり、うまくタイミングを合わせることができないのでヘッドスピードを上げることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、クラブの曲げ振動の振動数は、185cpm以上であることが好ましく、さらには190cpm以上であることが好ましい。一方、クラブの曲げ振動の振動数が高すぎると、シャフト3が硬くなり、非力なゴルファーではシャフトを十分にしならせることができなくなり、十分なボールスピードを得ることができなくなる。したがって、クラブの曲げ振動の振動数は、205cpm以下であることが好ましく、さらには200cpm以下であることが好ましい。」と記載されているとおり、本件特許発明1においては、「クラブの曲げ振動の振動数」の数値範囲を特定することによって、上記の作用効果を奏するものであるところ、甲3発明には、単に本件特許発明1の数値範囲と一部重複する数値が記載されているにとどまり、元々「クラブの曲げ振動の振動数」について記載も示唆もない甲1発明に適用することに対して、動機付けがあるとは認められない。
また、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者にとって設計的事項とする根拠もない。
したがって、本件特許発明1は、甲1~5発明から当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1をさらに限定したものであるので、本件特許発明2、3も本件特許発明1と同様に、甲1~5発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
2 取消理由通知に記載した取消理由のうち特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号違反について
(1)請求項1~4について
ア.本件特許の明細書の「実施例1~11及び比較例1~6に係るゴルフクラブ(クラブ重量を282gに設定している)の仕様及び評価を表3に示す。また、実施例12~20及び比較例7~12に係るゴルフクラブ(クラブ重量を289gに設定している)の仕様及び評価を表4に示す。さらに、比較例13~25に係るゴルフクラブ(クラブ重量を292gに設定している)の仕様及び評価を表5に示す。なお、表3~5において、「クラブ重心」の測定基準はグリップ端であり、このグリップ端からクラブ重心までの距離(mm)が表中の「クラブ重心」の値となる。」(段落【0096】)の記載は、全ての実施例のクラブ重量を263gを超えているとされ、本件請求項1の発明がクラブ重量を265g以下に限定したことでどのように課題が解決されたのか一切示されていないので、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号の規定に違反しているとの取消理由通知は、前記訂正事項7によって解消した。
イ.本件特許の明細書段落【0098】表4記載の実施例15と、本件特許の請求項1の要件をクラブ重量以外は満たす本件特許の明細書段落【0099】表5記載の比較例20を比較すると、後者のシャフト重量は前者より大きく、前者のヘッド重量と運動エネルギは後者より大きいのに、シャフト耐久性は前者が劣るというのは非合理であり(特許異議申立書12頁18行~14頁8行)(以下「理由1」という。)、本件特許の明細書段落【0098】表4記載の実施例18と、前記比較例20を比較すると、本件特許の請求項1の要件の、ヘッド重量/クラブ重量、LG/LS、クラブ振動数は等しく、後者のシャフト重量は前者より大きく、前者のヘッド重量は後者より小さいが、その分ヘッドスピードと運動エネルギーも大きいのに、シャフト耐久性は前者が劣るというのは非合理である(特許異議申立書14頁9行~15頁14行)(以下「理由2」という。)との取消理由通知について検討する。
前記理由1について。
本件特許の明細書段落【0036】には「シャフト3は、かかるプリプレグを巻回して硬化させたものである。プリプレグの硬化は加熱により行なわれ、シャフト3の製造工程には、加熱工程が含まれる。」、同段落【0079】「シャフト3の重心位置を調整する手段としては、例えば、以下の(A)~(H)を挙げることができる。本発明では、これらの手段のうち1つ又は2つ以上を適宜採用することによって、シャフト3の重心位置を手元側に寄せることができる。
(A)バット部分層の巻回数の増減
(B)バット部分層の厚さの増減
(C)バット部分層の長さL1(後述)の増減
(D)バット部分層の長さL2(後述)の増減
(E)チップ部分層の巻回数の増減
(F)チップ部分層の厚さの増減
(G)チップ部分層の軸方向長さの増減
(H)シャフトのテーパー率の増減」と記載されている。
実施例15と比較例20について、それぞれ本件特許の明細書段落【0098】の表4と、段落【0099】の表5をみると、LG/LS(シャフト重心)について前者が0.59であるのに対し後者は0.64であり、クラブ振動数(cpm)はどちらも195である。
比較例20は、前記LG/LSを0.64とするために、前記(A)~(H)の手段で調整することで、実施例15よりシャフト3のグリップ側の剛性が大きくなるので、クラブ振動数(cpm)を実施例15と同じ195にするためには、比較例20のシャフト3の先端側の剛性は実施例15よりも小さくしなければならず、その結果、シャフト3の先端側の強度が弱くなって比較例20の耐久性が劣ることは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、理由1により、本件特許発明1~4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。
前記理由2について
前記ヘッドスピードと運動エネルギーは、「ハンディキャップが10~20のテスター5名にそれぞれ10球ずつ試打してもらい、得られた50個のヘッドスピードの平均値を採用し」(本件明細書段落【0100】)、「運動エネルギー(J) 運動エネルギーE=(mh×v2)/2で求めた。ここで、mhはヘッド重量であり、vはヘッドスピードである」(同段落【0100】)との方法で求めたものであるが、本件特許の明細書記載の「耐久性」とは「株式会社ミヤマエ製のスイングロボットにゴルフクラブを装着し、ヘッドスピード52m/sにてゴルフボールを繰り返し打球した。ゴルフボールは、SRIスポーツ株式会社製の「DDH ツアースペシャル」を用いた。フェースセンターから20mmヒール側へ離れた位置で打球し、500発打球するごとにシャフトの破損状況を確認した。10000発で破損がなかった場合を「A」、10000発に達する前に破損があった場合を「B」とし」(本件特許の明細書段落【0103】)て、評価したものであり、前記ヘッドスピードと運動エネルギーは、耐久性の評価とは関連性がないことは当業者であれば容易に理解し得るものである。
実施例18のヘッド重量は、263g(クラブ重量)×0.71(ヘッド重量/クラブ重量)=187gであるのに対して、比較例20のヘッド重量は、270g(クラブ重量)×0.71(ヘッド重量/クラブ重量)=192gであり、両者のグリップ端での慣性モーメントはそれぞれ、2730Kg・cm2、2800Kg・cm2であるから、実施例20の方が同一ヘッドスピードではシャフトの負担が多く、比較例20の耐久性が実施例18の耐久性より悪くなったことは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、理由2により、本件特許発明1~4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。
(2)請求項2について
本件特許発明2は、ゴルフクラブの長さが短すぎると、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなり、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない、ゴルフクラブの長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる(本件明細書段落【0020】)という当業者が容易に理解できる技術事項に基づいて、前記の技術事項を両立させるため「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下」という長さを特定したことは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、本件特許発明1~4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。
(3)請求項3について
本件特許発明3は、グリップの重量が軽すぎると、当該グリップの強度が低くなり、その耐久性が低下する惧れがあり、グリップの重量が重すぎると、ゴルフクラブが重くなって、振りにくくなる(本件明細書段落【0027】)という当業者が容易に理解できる技術事項に基づいて、前記の技術事項を両立させるため「グリップ重量が27g以上45g以下」という長さを特定したことは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、本件特許発明1~4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。
3.取消理由通知において、採用しなかった特許異議申し立て理由について
特許異議の申立てには、本件特許の請求項1~4について、シャフト耐久性の向上の効果が合理的に否定され、産業上利用できる発明に該当しないので特許法第29条第1項の規定に違反するとの主張がされている。
しかし、前記2(1)イで示したとおり、本件特許発明1、2、3についてシャフト耐久性の向上の効果が否定されるとはいえないし、本件特許発明1、2、3はそれぞれ、ゴルフクラブのクラブ重量、ヘッド重量とクラブ重量との比、シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSの値、クラブの曲げ振動の振動数、クラブ長さ、グリップ重量の各発明特定事項を特定したものであるから、産業上利用できる発明に該当しないとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反するものではない。
第4 むすび
以上のとおり、本件特許発明1、2及び3は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許発明1、2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許発明4は、訂正により削除されたため、本件特許発明4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2015-700264