特許拒絶査定不服審判
2015-022241
改良コーティングを有するガラスまたはガラスセラミック物品の調製およびその物品
- 審判番号
- 2015-022241
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-510621外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月17日
- 審決日
- 2017年01月10日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .113-Z (C03C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-510621「改良コーティングを有するガラスまたはガラスセラミック物品の調製およびその物品」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月24日国際公開、WO2011/144671、平成25年 8月 1日国内公表、特表2013-530913〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2011年5月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年5月19日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成26年11月5日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成27年5月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成27年5月11日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
その構造が、ガラスまたはガラスセラミック基体および該基体の表面の少なくとも一部分に固定されたコーティングを含む物品を調製する方法において、
ガラスまたはガラスセラミックの基体を提供する工程、
前記基体の表面の少なくとも一部分の上に、連続相と分散相を含む分散体の層を施す工程であって、前記連続相が、溶媒中に溶解した、少なくとも1種類のポリシルセスキオキサン樹脂、あるいは少なくとも1種類のポリシルセスキオキサン樹脂および少なくとも1種類の添加剤からなり、該少なくとも1種類のポリシルセスキオキサン樹脂が式(HSiO1.5)および/または式(RSiO1.5)の単位を有し、これらの単位のラジカルRが同じかまたはそうではなく、全てがアリールラジカルとは異なり、前記分散相が鉱物充填剤からなる、工程、および
前記溶媒を除去し、前記樹脂を架橋させるように、前記層が被覆された基体または前記層を熱処理する工程、
を有してなる方法。
3 原査定の理由
原査定の理由の一つは、本願発明1が、特表2007-507583号公報に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。
4 新規性の判断
本願発明1が新規性を有するかを以下に検討する。
引用文献1:特表2007-507583号公報
周知例1:特表2006-524737号公報
周知例2:国際公開第2009/129912号
(1)引用文献1、周知例1~2の記載事項
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(ア) 「【請求項1】
絶縁層を形成するための組成物であって、
無機ナノ粒子を含む混合物、
溶媒および
1種以上の任意の添加剤
を含み、前記無機ナノ粒子が前記混合物の質量を基準として5~95重量%の量で存在し、かつ、前記混合物の質量を基準として5~95質量%の量のポリメチルシルセスキオキサンに分散されており、前記組成物がディジタル印刷技術を用いて当該組成物を適用するのに適する粘度を有する組成物。」
(イ) 「【0013】
「シルセスキオキサン」または「オルガノシルセスキオキサン」あるいは「ポリオルガノシルセスキオキサン」などの用語はナノ複合材料コーティング分散体の流体分散相を意味する。分散相は流体のブレンドを含んでもよいか、または溶液分散相を提供する添加された溶媒を含んでもよい。」
(ウ) 「【0020】
特に、本発明は、ポリオルガノシルセスキオキサンポリマーおよびポリオルガノシルセスキオキサンに分散された酸化物粒子を含む印刷可能組成物を提供する。印刷可能な組成物は硬化した絶縁層を提供するために熱硬化性である。…」
(エ) 「【0040】
印刷可能な組成物は、例えば、放射線照射および熱暴露などを経由して硬化させることにより印刷後に通常硬化される。…」
(オ) 「【0042】
A.珪素および酸素を含むポリマー
本発明により製造された組成物は、典型的にはポリシルセスキオキサンの形を取った珪素により配位された酸素のポリマーを含む。ポリシルセスキオキサンは、[RSiO3/2]の形を取った3個の橋架け酸素原子により配位された珪素を有し、多様な錯体三次元形状を形成することが可能である。種々のポリシルセスキオキサン、例えばポリメチルシルセスキオキサンを用いることが可能である。適する特定のポリシルセスキオキサンとしては、オハイオ州コロンブスのテクネガルス(Technegals(Columbus,OH))からGR653L、GR654LおよびGR650Fというラベルで販売されているポリメチルシルセスキオキサンが挙げられるが、それらに限定されない。追加の好適なマトリックスポリマーとしては、ゲル透過クロマトグラフィを用いて決定した時に約2,300~約15,000の分子量を有するオルガノシルセスキオキサン、特にメチルシルセスキオキサン樹脂が挙げられる。」
(カ) 「【0049】
C.他の成分
…本発明によるコーティングに対して柔軟性を高めるための任意の添加剤には、印刷され硬化した組成物の約1重量%~約40重量%以上の少量でコーティング配合物に添加してもよい材料が挙げられる。柔軟剤は、硬化すると架橋シルセキオキサン網目に組み込まれ、架橋間の直線距離を有効に増し、よって架橋密度を減らす反応性成分を含む。…」
(キ) 「【0051】
アルコール、ケトン、エーテルおよびアセテートなどを含む様々な溶媒を本発明の組成物中で適切に用いることが可能である。具体的な溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノールおよび1-メトキシ-2-プロパノールが挙げられる。」
(ク) 「【0055】
本発明は、タッチ型作動ユーザ入力装置を製造する方法であって、基材を用意する工程、ポリメチルシルセスキオキサンを含む組成物を前記基材上に印刷する工程および150℃より低い温度でポリメチルシルセスキオキサンを含む組成物を硬化させて絶縁層を形成する工程を含む方法に更に関連する。」
(ケ) 「【0070】
実施例3
この実施例は、シリカナノ粒子入りのポリシルセスキオキサンのインクジェット印刷を試験した。
【0071】
最初に、メチルトリエトキシシラン処理された「ナルコ(NALCO)」2327 20nmシリカ粒子を調製した。攪拌棒が装着された1リットルの反応容器に125.0gの「ナルコ(NALCO)」2327(水中の約20nmシリカ粒子の41.45%水性分散液)を添加した。攪拌しているゾルに143.75gの1-メトキシ-2-プロパノール中の5.7277gのメチルトリエトキシシラン(MTEOS)(0.62ミリモルシラン/gシリカ)を30分にわたってゆっくり添加した。密封反応容器を90℃のオーブンに20時間にわたり入れた。反応容器をオーブンから取り出し、水を真空でメトキシプロパノールとの共沸混合物として除去して、1-メトキシ-2-プロパノール中のメチルトリエトキシシラン処理された「ナルコ(NALCO)」2327粒子の溶液を残した。その後、粗いフィルターを通して溶液を濾過して粒子状物質を除去し、溶液は重量分析によって1-メトキシ-2-プロパノール中の22.3%MTEOS-2327であると決定した。
【0072】
次に、別個の容器内で、ブタノール中の「テクネグラス(Techneglas)」GR-650Fポリメチルシロキサンを調製した。1リットルのガラスジャーに501gのブタノール(アルドリッチ(Aldrich))に加えて214.72gの「テクネグラス(Techneglas)」GR-650Fガラス樹脂(ロット#55830)を添加した。オーバーヘッドスターラーを用いて溶液を6時間にわたり攪拌して、ブタノール中のGR650Fの均質溶液をもたらした。溶液はブタノール中の30重量%GR-650Fであった。
【0073】
インクジェットのためのMTEOS-2327充填GR650F樹脂:
大きなバイアルにブタノール中の17.0gの30%「テクネグラス(Techneglas)」GR-650F樹脂および1-メトキシ-2-プロパノール中の10.0gの22.3%MTEOS-2327粒子を添加した。バイアルを密封し、振とうによって混合して、色合いが若干青味がかった均質溶液をもたらした。1部の水酸化アンモニウム(メタノール中25%)および2部の蟻酸からなる触媒を添加し、3重量%(0.1530g)で溶液に混合した。
【0074】
C25カップを用いる「ボーリン・インストルメンツ・CVO・ハイレゾリューション・レオメータ(Bohlin Instruments CVO High Resolution Rheometer)」でこの溶液のレオロジーを測定した。1s-1の剪断速度でのこれらの組成物の粘度は12cPであった。35ボルトで「ザールジェット(Xaarjet)」128 78pLプリントヘッドを用いて、この溶液をガラス上にインクジェット印刷した。サンプルを130℃のオーブンに15分にわたって入れた。これはハード連続フィルムをもたらした。」
イ 周知例1には、以下の事項が記載されている。(なお、下線部は当審が付したものである。以下、同じ。)
(ア) 「【0053】
実験
原材料
…
OS1=8,050の分子量を有するポリメチル-シルセスキオキサン樹脂としてオハイオ州ペリズバーグのテクネグラス・インコーポレーテッド(Techneglas Inc.,Perrysburg,OH)から入手可能なGR-650F。」
ウ 周知例2には、以下の事項が記載されている。(なお、翻訳は、周知例2のパテントファミリーである特表2011-523201号公報の記載を参照して当審が作成した。)
(ア) 「Suitable and preferred materials for the stabilizing layer (8) are glass resins like for example silanol-functional polymers, such as polysilsesquioxanes as described for example in US 5,861,235. Especially suitable and preferred are commercially available polysilsesquioxanes or their precursors, like the materials of the HardSilTM series (from Gelest Inc., Morrisvile, PA, USA) such as HardSilTM AM, a formulation of a polysilsesquioxane resin 19-21% in a mixture of alcohols, the materials of the AS HardcoatTM or SHCTM series (from Momentive Performance Materials Inc., Wilton, CT, USA) such as AS4000 HardcoatTM, AS4700 HardcoatTM or SHCTM 5020, or materials such as GR650FTM (from Techneglas Inc., Perrysburg, OH, USA).
The curable or cured material of the stabilizing layer (8) is preferably dissolved in a solvent, which is preferably a solvent orthogonal to the solvent used for the material of the interlayer (7), for example an alcohol like butanol or isopropanol. The solution is then deposited onto the device as described above and below and optionally cured to form the stabilizing layer (8).
In case a curable material is used, it can be cured after deposition and optionally removal of the solvent for example by exposure to heat or radiation, preferably by thermal curing, very preferably thermal curing below 120 ℃, or by photocuring, very preferably UV photocuring. Optionally curing is initiated or aided by adding an initiator, like a photoinitiator, or a UV base generator, for example as described in US 5,861,235, to the curable material or the formulation. Suitable photoinitiators are known to the person skilled in the art and are described in the literature. Preferably methods and materials for non-ionic polymerisation or curing are used, to avoid formation and diffusion of ionic impurities to the OSC / gate dielectric interface where they could negatively affect device performance.」(明細書17頁24行~18頁19行目)
(訳)
安定化層(8)に適切で好ましい材料は、例えば、米国特許第5,861,235号明細書に記載される通りのポリシルセスキオキサンなどの、例えば、シラノール官能性ポリマーなどのガラス樹脂である。特に、HardSil(商標)AMなどのHardSil(商標)シリーズ(米国ペンシルベニア州モリスビル市ゲレスト社製)の材料、アルコール混合物中19~21%のポリシルセスキオキサン樹脂の配合物、AS4000 Hardcoat(商標)、AS4700 Hardcoat(商標)またはSHC(商標)5020などのAS Hardcoat(商標)またはSHC(商標)シリーズ(米国コネティカット州ウィルトン市モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製)の材料、または、GR650F(商標)などの材料(米国オハイオ州ペリーズバーグ市テクネグラス社製)などの商業的に入手可能なポリシルセスキオキサンまたはそれらの前駆体が適切で好ましい。
好ましくは、安定化層(8)の硬化性または硬化された材料は、好ましくは、中間層(7)の材料用に使用される溶媒にオルソゴナルな溶媒、例えば、ブタノールまたはイソプロパノールなどのアルコールである溶媒中に溶解される。次いで、上および下で記載する通り装置上に溶液を堆積し、任意工程として硬化して、安定化層(8)を形成する。
硬化性材料を使用する場合、堆積し、任意工程として、例えば、熱または照射に曝露することで溶媒を除去後に、好ましくは熱硬化によって、非常に好ましくは120℃未満の熱硬化によって、または、光硬化によって、非常に好ましくはUV光硬化によって、硬化性材料を硬化できる。光開始剤、または、例えば、米国特許第5,861,235号明細書に記載される通りのUV系生成剤などの開始剤を、硬化性材料または配合物に添加することによって、硬化を開始または助けてもよい。適切な光開始剤は、当業者に既知であり文献に記載されている。好ましくは、イオン性不純物が形成され、それらが装置性能に悪影響を及ぼす可能性のあるOSC/ゲート誘電体接合部分に拡散するのを避けるために、非イオン性重合または硬化用の方法および材料を使用する。
(2)引用文献1に記載された発明
ア 【0072】に記載された「「テクネグラス(Techneglas)」GR-650Fポリメチルシロキサン」について
上記(1)ア(ケ)に記載された実施例3は、上記(1)ア(ア)の【請求項1】に記載された発明の実施例であり、また、上記(1)ア(ケ)の【0070】に、「この実施例は、シリカナノ粒子入りのポリシルセスキオキサンの…」と記載されていることを踏まえれば、上記(1)ア(ケ)の【0072】に記載された「シロキサン」、すなわち、シルオキサン(siloxane)は、「シルセスキオキサン」の誤記、ないし、「シルセスキオキサン」の上位概念としての記載であって、実質的には「シルセスキオキサン」を意味し、「「テクネグラス(Techneglas)」GR-650Fポリメチルシロキサン」は、「「テクネグラス(Techneglas)」GR-650Fポリメチルシルセスキオキサン」であることが明らかである。
これは、上記(1)ア(オ)に、「適する特定のポリシルセスキオキサンとしては、オハイオ州コロンブスのテクネガルス(Technegals(Columbus,OH))からGR653L、GR654LおよびGR650Fというラベルで販売されているポリメチルシルセスキオキサンが挙げられるが、それらに限定されない。」(当審注:「テクネガルス」、「Technegals」は、「テクネグラス」、「Techneglas」の誤記と認める。)と記載されており、さらに、周知例1の上記(1)イ(ア)、および、周知例2の上記(1)ウ(ア)に記載された事項に基づき、テクネグラス(Techneglas)社製のGR-650Fが、本願の優先日前において、ポリメチルシルセスキオキサンないしポリシルセスキオキサンとして認識されていたものであることからも裏付けられる。
イ 実施例3について
そうすると、上記(1)ア(イ)(ク)(ケ)に記載された事項によれば、引用文献1には、実施例3として、
最初に、1-メトキシ-2-プロパノール中のメチルトリエトキシシラン(MTEOS)処理された「ナルコ(NALCO)」2327 20nmシリカ粒子を調製し、
次に、ブタノール中の30重量%の「テクネグラス(Techneglas)」GR-650Fポリメチルシルセスキオキサン樹脂を調整し、
そして、前記ブタノール中の30重量%の「テクネグラス(Techneglas)」GR-650Fポリメチルシルセスキオキサン樹脂を17.0gと、前記1-メトキシ-2-プロパノール中のメチルトリエトキシシラン(MTEOS)処理された「ナルコ(NALCO)」2327 20nmシリカ粒子を10.0gとを混合し、
前記混合で得られた均質溶液に、1部の水酸化アンモニウム(メタノール中25%)および2部の蟻酸からなる触媒を3重量%(0.1530g)で添加混合し、
前記添加混合で得られたナノ複合材料コーティング分散体を用意されたガラス基材上にインクジェット印刷し、
前記印刷によって得られたサンプルを130℃のオーブンに15分にわたって入れ、
ハード連続フィルムの層を作製する方法が記載されていることになる。
ウ 引用文献1に記載された発明について
してみると、実施例3に係る方法を、本願発明1の記載ぶりに則して認定すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「その構造が、ガラス基材、および、ガラス基材上にハード連続フィルムの層を含む物品を調整する方法において、
ガラス基材を提供する工程、
前記ガラス基材上に、メチルトリエトキシシラン処理された20nmシリカ粒子、ポリメチルシルセスキオキサン樹脂、1-メトキシ-2-プロパノール、ブタノール、メタノール、水酸化アンモニウム、及び、蟻酸が混合されたナノ複合材料コーティング分散体をインクジェット印刷する工程、および
サンプルを130℃のオーブンに15分にわたって入れる工程、
を有してなる方法。」
(3)対比・判断
本願発明1と引用発明1とを対比すると、以下の各事項がいえる。
ア 引用発明1の「ガラス基材」は、本願発明1の「ガラスまたはガラスセラミック基体」の「ガラス基体」、および、本願発明1の「ガラスまたはガラスセラミックの基体」の「ガラスの基体」に相当し、引用発明1の「ハード連続フィルムの層」は、本願発明1の「固定されたコーティング」に相当する。
イ 引用発明1の「ポリメチルシルセスキオキサン樹脂」は、式(CH3SiO1.5)の単位からなり、式(RSiO1.5)のRはメチル基(CH3)であって、アリール、すなわち、ベンゼン環を含む構造を有していないから、本願発明1の「式(RSiO1.5)の単位を有し、これらの単位のラジカルRが同じかまたはそうではなく、全てがアリールラジカルとは異なり」を満たし、本願発明1の「ポリシルセスキオキサン樹脂」に相当する。
ウ 本願発明1の「分散相」を構成する「鉱物充填剤」は、本願明細書の【0032】に、「鉱物充填剤は、特に、TiO2被覆マイカ小板、シリカ、アルミナ、ホウケイ酸塩および/または酸化物であってよい。」とされるところ、引用発明1の「メチルトリエトキシシラン処理された20nmシリカ粒子」は、表面が処理されたシリカの粒子であるから、本願発明1の「鉱物充填剤」のうちのシリカに相当し、また、引用発明1のナノ複合材料コーティング分散体中で、唯一固相として分散して存在する、当該「メチルトリエトキシシラン処理された20nmシリカ粒子」は、本願発明1の「分散相」に相当する。
エ 引用発明1の「1-メトキシ-2-プロパノール」、「ブタノール」および「メタノール」は、上記(1)ア(キ)からみて、本願発明1の「溶媒」に相当し、「水酸化アンモニウム」および「蟻酸」は、上記(1)ア(ケ)によれば、触媒であり、本願明細書の【0037】に記載された「他の作用物質」としての本願発明1の「添加剤」に相当する。
また、「ポリシルセスキオキサン樹脂」に相当する「ポリメチルシルセスキオキサン樹脂」と、「添加剤」に相当する「水酸化アンモニウム」および「蟻酸」とは、「溶媒」に相当する「1-メトキシ-2-プロパノール」、「ブタノール」および「メタノール」に溶解しているといえる。
そして、引用発明1のナノ複合材料コーティング分散体中で、分散して存在する「メチルトリエトキシシラン処理された20nmシリカ粒子」を除いた、「ポリメチルシルセスキオキサン樹脂、1-メトキシ-2-プロパノール、ブタノール、メタノール、水酸化アンモニウム、及び、蟻酸」は、混合されてナノ複合材料コーティング分散体の母相をなすものと認められるから、それは、本願発明1の「連続相」に相当する。
オ したがって、引用発明1の「メチルトリエトキシシラン処理された20nmシリカ粒子、ポリメチルシルセスキオキサン樹脂、1-メトキシ-2-プロパノール、ブタノール、メタノール、水酸化アンモニウム、及び、蟻酸が混合されたナノ複合材料コーティング分散体」は、本願発明1の「連続相と分散相を含む分散体」に相当する。
カ 引用発明1の「インクジェット印刷する工程」は、本願発明1の「層を施す工程」に相当する。
キ 引用発明1の「1-メトキシ-2-プロパノール」、「ブタノール」および「メタノール」は、いずれも沸点が130℃未満であり、また、引用発明1は、ハード連続フィルムの層を調整していることから、引用発明1の「130℃のオーブンに15分にわたって入れ」は、本願発明1の「溶媒を除去」するのに十分な温度および時間であると解され、また、上記(1)ア(ウ)(エ)(カ)の記載からみて、引用発明1の「ポリメチルシルセスキオキサン樹脂」は、熱硬化性であり、熱暴露により硬化され、架橋シルセスキオキサン(当審注:上記(1)ア(カ)に記載された「シルセキオキサン」は、「シルセスキオキサン」の誤記と認める。)への反応性を有するところ、ハード連続フィルムの層を調整していることから、引用発明1の「130℃のオーブンに15分にわたって入れ」は、本願発明1の「樹脂を架橋させ」るものであり、よって、引用発明1の「サンプルを130℃のオーブンに15分にわたって入れる工程」は、本願発明1の「前記溶媒を除去し、前記樹脂を架橋させるように、前記層が被覆された基体または前記層を熱処理する工程」に相当する。
してみると、本願発明1と引用発明1とは、
「その構造が、ガラス基体および該基体の表面の少なくとも一部分に固定されたコーティングを含む物品を調製する方法において、
ガラスの基体を提供する工程、
前記基体の表面の少なくとも一部分の上に、連続相と分散相を含む分散体の層を施す工程であって、前記連続相が、溶媒中に溶解した、ポリシルセスキオキサン樹脂および添加剤からなり、該ポリシルセスキオキサン樹脂が式(RSiO1.5)の単位を有し、これらの単位のラジカルRが同じかまたはそうではなく、全てがアリールラジカルとは異なり、前記分散相が鉱物充填剤からなる、工程、および
前記溶媒を除去し、前記樹脂を架橋させるように、前記層が被覆された基体または前記層を熱処理する工程、
を有してなる方法。」の点で一致し、相違しない。
(4)請求人の主張についての検討
請求人は、「しかしながら、引用文献1は、アリールラジカルを含まないポリシルセスキオキサン樹脂をふくむ分散体の層を基体上に施した後、溶媒を除去し、前記樹脂を架橋させるように、前記層が被覆された基体または前記層を熱処理することについて全く開示も示唆もしておりません。」と主張する。
しかしながら、上記(3)イ、オ、カ、キに記載した対応関係が存在するところ、「前記ガラス基材上に、メチルトリエトキシシラン処理された20nmシリカ粒子、ポリメチルシルセスキオキサン樹脂、1-メトキシ-2-プロパノール、ブタノール、メタノール、水酸化アンモニウム、及び、蟻酸が混合されたナノ複合材料コーティング分散体をインクジェット印刷する工程、および
サンプルを130℃のオーブンに15分にわたって入れる工程」を有する引用発明1は、「アリールラジカルを含まないポリシルセスキオキサン樹脂をふくむ分散体の層を基体上に施した後、溶媒を除去し、前記樹脂を架橋させるように、前記層が被覆された基体または前記層を熱処理する」ものといえるから、上記主張は採用できない。
また、請求人は、「引用文献1は、熱処理に関して、インクジェット印刷した後、130℃のオーブンに15分にわたり入れることを記載するのみであり、溶媒を除去し、前記樹脂を架橋させるように、前記層が被覆された基体または前記層を熱処理する(例えば150℃を超える温度に曝露する)ことについて何ら教示しておりません。
また、引用文献1は、基体コーティングにおいて使用されるポリシルセスキオキサン上のアリールラジカル以外のラジカルの重要性について全く認識しておらず、またそのようなポリシルセスキオキサンを150℃超の温度で熱処理することの必要性について何ら教示しておりません。」とも主張している。
しかしながら、本願明細書の【0001】に、「そのコーティングは、多くの条件、特に以下に規定された条件およびより詳しくは以下の条件:コーティングが100~500℃程度の高温に暴露されたときに揮発性有機化合物(VOC)の放出が少ないこと;を含む使用に関して最適化されている。」と記載され、また、【0044】に、「一般に、熱処理は、100℃を超えた、好ましくは150℃を超えた、さらに好ましくは350℃を超えた温度への、アセンブリ:基体+層または主に層の暴露を含む。」と記載されており、100℃においても溶媒を除去し、樹脂を架橋させる熱処理をできる場合があると認められること、さらに、周知例2の上記(1)ウ(ア)に記載された事項によれば、120℃未満でも、ポリシルセスキオキサンを熱硬化できると認められるから、本願発明1における、「前記溶媒を除去し、前記樹脂を架橋させるように、前記層が被覆された基体または前記層を熱処理する工程」を、150℃以下の熱処理は含まないと解する特段の事情は見当たらず、上記主張は採用できない。
5 むすび
したがって、本願発明1は、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2007-507583号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-022241