特許拒絶査定不服審判
2022-009393
ガラス
- 審判番号
- 2022-009393
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-557722外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月20日
- 審決日
- 2023年03月14日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本電気硝子株式会社
- 分類
- P18 .113-Z (C03C) / P18 .575-Z (C03C) / P18 .121-Z (C03C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-557722「ガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月28日国際公開、WO2018/116953〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)12月14日(優先権主張 平成28年12月20日、平成29年3月6日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 9月27日付け:拒絶理由通知
令和3年11月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 1月 4日付け:拒絶理由通知
令和4年 2月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 3月 8日付け:拒絶査定
令和4年 6月20日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年6月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
1 結論
令和4年6月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
2 理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についての補正を含むものであって、本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前、すなわち、令和4年2月1日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~70%、Al2O3 15~25%、B2O3 1~5%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 0~4%、CaO 4~11%、SrO 0~4%、BaO 6.1~11%、P2O5 0~1.2%を含有し、質量%比でSiO2/Al2O3が2.5~3.15であり、歪点が715℃より高く、未研磨の表面を有する平板形状であることを特徴とするガラス。」
イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、上記アの本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~70%、Al2O3 15~25%、B2O3 1~5%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 0~4%、CaO 4~11%、SrO 0~4%、BaO 6.1~11%、P2O5 0~1.2%を含有し、質量%比でSiO2/Al2O3が2.5~3.15であり、歪点が715℃より高く、未研磨の表面を有する平板形状であり、β-OH値が0.05~0.15/mmであることを特徴とするガラス。」
(2)本件補正の目的要件について
本件補正に係る特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、β-OHに関する規定を追加するものであるところ、この補正は、補正前の請求項1に記載されたガラスに係る発明の課題解決手段、すなわち、その発明を特定するために必要な事項(発明特定事項。組成、歪点、形状等)のいずれを概念的に下位にしたものともいえないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、同項各号に掲げる他のいずれの目的にも該当しない。
仮に、同項第2号所定の目的に該当するとしても、次項の(3)のとおり、独立特許要件に適合するものとはいえない。
(3)本件補正の独立特許要件について
上記(2)のとおり、本件補正に係る請求項1の補正の目的を、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮と捉えても、当該補正が適法にされたものであるというためには、さらに同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合することが必要である。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下、検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記(1)イに記載したとおりのものである。
イ 引用文献について
(ア)引用文献1(特開2016-117641号公報)の記載事項及び引用発明
a 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2016-117641号公報(平成28年6月30日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審による。「・・・」は省略を意味する。以下も同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、支持ガラス基板及びこれを用いた積層体に関し、具体的には、半導体パッケージの製造工程で加工基板の支持に用いる支持ガラス基板及びこれを用いた積層体に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
fan out型のWLPでは、複数の半導体チップを樹脂の封止材でモールドして、加工基板を形成した後に、加工基板の一方の表面に配線する工程、半田バンプを形成する工程等を有する。
【0006】
これらの工程は、約200~300℃の熱処理を伴うため、封止材が変形して、加工基板が寸法変化する虞がある。加工基板が寸法変化すると、加工基板の一方の表面に対して、高密度に配線することが困難になり、また半田バンプを正確に形成することも困難になる。
【0007】
加工基板の寸法変化を抑制するために、支持基板を用いることが有効である。しかし、支持基板を用いた場合であっても、加工基板の寸法変化が生じる場合があった。特に、加工基板内で半導体チップの割合が多く、封止材の割合が少ない場合に、加工基板の寸法変化が生じ易かった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、加工基板内で半導体チップの割合が多く、封止材の割合が少ない場合に、加工基板の寸法変化を生じさせ難い支持基板及びこれを用いた積層体を創案することにより、半導体パッケージの高密度実装に寄与することである。」
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、支持基板としてガラス基板を採択すると共に、このガラス基板の熱膨張係数と全体板厚偏差を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の支持ガラス基板は、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10-7/℃超であり、且つ50×10-7/℃未満であり、全体板厚偏差が2.0μm未満であることを特徴とする。ここで、「30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定可能である。「全体板厚偏差」は、支持ガラス基板全体の最大板厚と最小板厚の差であり、例えばコベルコ科研社製のSBW-331ML/dにより測定可能である。
・・・
【0011】
また、本発明の支持ガラス基板では、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10-7/℃超であり、且つ50×10-7/℃未満に規制されている。このようにすれば、加工基板内で半導体チップの割合が多く、封止材の割合が少ない場合に、加工基板と支持ガラス基板の熱膨張係数が整合し易くなる。そして、両者の熱膨張係数が整合すると、加工処理時に加工基板の寸法変化(特に、反り変形)を抑制し易くなる。結果として、加工基板の一方の表面に対して、高密度に配線することが可能になり、また半田バンプを正確に形成することも可能になる。
【0012】
更に、本発明の支持ガラス基板では、全体板厚偏差が2.0μm未満である。このようにすれば、加工処理の精度を高め易くなる。特に配線精度を高めることができるため、高密度の配線が可能になる。また支持ガラス基板の強度が向上して、支持ガラス基板及び積層体が破損し難くなる。更に支持ガラス基板の再利用回数を増やすことができる。」
「【発明を実施するための形態】
・・・
【0029】
本発明の支持ガラス基板は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~68%、Al2O3 12~25%、B2O3 0~15%、MgO+CaO+SrO+BaO 5~30%を含有することが好ましく、SiO2 58~65%、Al2O3 15~23%、B2O3 0~11%、MgO+CaO 6~15%、SrO+BaO 0~11.4%、Li2O+Na2O+K2O 0~1%未満を含有することが更に好ましい。上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を表す。
・・・
【0032】
B2O3は、溶融性を高めると共に、耐失透性を高める成分である。B2O3の含有量は、好ましくは0~15%、0~12%、0~10%、0.5~8%、特に1~7%である。B2O3の含有量が少な過ぎると、溶融性や耐失透性が低下し易くなる。一方、B2O3の含有量が多過ぎると、ヤング率や歪点が低下し易くなる。
・・・
【0057】
歪点は、好ましくは480℃以上、500℃以上、510℃以上、520℃以上、特に530℃以上である。歪点が高い程、半導体パッケージの製造工程において支持ガラス基板の熱収縮を低減し易くなる。結果として、加工処理の精度を高め易くなる。特に配線精度を高めることができるため、高密度の配線が可能になる。なお、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。」
「【実施例1】
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0085】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~16)を示している。
【0086】
【表1】
[図:0001397975000001.jpg]
【0087】
まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れた後、1600~1700℃で24時間溶融、清澄、均質化を行った。ガラスバッチの溶解に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出して、板状に成形した後、徐冷点付近の温度で30分間徐冷した。得られた各ガラス基板について、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数α30~380、密度ρ、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、高温粘度104.0dPa・sにおける温度、高温粘度103.0dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度、液相温度TL、液相温度TLにおける粘度η及びヤング率Eを評価した。
・・・
【0094】
表1から明らかなように、試料No.1~16は、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数α30~380が32×10-7/℃~39×10-7/℃であった。よって、試料No.1~16は、加工基板内で半導体チップの割合が多く、封止材の割合が少ない場合に、半導体製造装置の製造工程で加工基板の支持に用いる支持ガラス基板として好適であると考えられる。
【0095】
続いて、各ガラス基板をφ300mm×0.8mm厚に加工した後、その両表面を研磨装置により研磨処理した。具体的には、ガラス基板の両表面を外径が相違する一対の研磨パットで挟み込み、ガラス基板と一対の研磨パッドを共に回転させながらガラス基板の両表面を研磨処理した。研磨処理の際、時折、ガラス基板の一部が研磨パッドから食み出すように制御した。なお、研磨パッドはウレタン製、研磨処理の際に使用した研磨スラリーの平均粒径は2.5μm、研磨速度は15m/分であった。得られた各研磨処理済みガラス基板について、コベルコ科研社製のSBW-331ML/dにより全体板厚偏差と反り量を測定した。その結果、全体板厚偏差がそれぞれ0.45μmであり、反り量がそれぞれ35μmであった。」
b 溶融ガラスをカーボン板上に流し出して板状に成形した上記【表1】に挙示された実施例(試料No.1~16)に係るガラス基板そのもの(【0085】~【0087】、【0095】)は、未研磨の表面を有するものであるから、実施例の試料No.15に係るガラス基板そのものに注目して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス組成として、質量%で、SiO2 61.5%、Al2O3 19.7%、B2O3 1.6%、Li2O 0.0%、Na2O 0.0%、K2O 0.0%、MgO 2.5%、CaO 4.6%、SrO 1.8%、BaO 8.0%、P2O5 0.0%を含有し、歪点が746℃であり、未研磨の表面を有する板状に成形したガラス基板。」
ウ 本願優先日における周知技術の認定
(ア)ここで、本願優先日における周知技術について整理しておく。
当該周知技術を把握するために新たに引用する後記引用文献2~4には、それぞれ次の事項が記載されている。
a 本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2016/194693号(平成28年12月8日国際公開。以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「[0011] 本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、HF系薬液に対するエッチングレートが従来よりも速く、しかも耐HCl性と歪点が高いガラスを創案することである。
[0012] 本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、SiO2-Al2O3-B2O3-RO(ROは、アルカリ土類金属酸化物)系ガラスのガラス組成範囲を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~65%、Al2O3 15~26%、B2O3 0~5%、MgO 0~5%、CaO 0~10%、SrO 0~10%、BaO 0~15%、P2O5 0.01~15%を含有し、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3が0.5~1.5であり、且つ{[B2O3]+3×[P2O5]}≦18.5モル%の関係を満たすことを特徴とする。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO」とは、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。「(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量をAl2O3の含有量で割った値を指す。[B2O3]は、B2O3の含有量を指す。[P2O5]は、P2O5の含有量を指す。「{[B2O3]+3×[P2O5]}」は、B2O3の含有量とP2O5の3倍の含有量を合算した量を指す。」
「[0070] β-OH値を低下させると、ガラス組成を変えなくても、歪点と泡品位を高めることができる。β-OH値は、好ましくは0.40/mm未満、0.35/mm以下、0.3/mm以下、0.25/mm以下、0.2/mm以下、特に0.15/mm以下である。β-OH値が大き過ぎると、歪点や泡品位が低下し易くなる。なお、β-OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.05/mm以上である。なお、「β-OH値」は、FT-IRを用いて透過率を測定し、下記数式1により算出した値を指す。
[0071] 〔数1〕
β-OH値=(1/X)log(T1/T2)
X:板厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
[0072] β-OH値を低下させる方法として、以下の方法がある。(1)低水分量の原料を選択する。(2)ガラスバッチ中にCl、SO3等の乾燥剤を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でN2バブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を多くする。(7)加熱電極による通電加熱を行う。」
b 本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2013/005679号(平成25年1月10日国際公開。以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「[0009] そこで、本発明は、歪点が高く、ディスプレイ製造時のガラス基板の熱収縮の抑制が可能で、かつ直接通電加熱による熔解において熔解槽熔損の問題の発生を回避しつつ製造が可能であるガラスからなる、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、特にp-Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板とその製造方法を提供することを目的とする。
[0010] 本発明は以下の通りである。
[1]
SiO2 52~78質量%、
Al2O33~25質量%、
B2O33~15質量%、
RO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量) 3~25質量%、
Fe2O30.01~1質量%、
Sb2O30~0.3質量%、
を含有し、かつAs2O3は実質的に含有せず、
質量比(SiO2+Al2O3)/B2O3は7~30の範囲であり、かつ質量比(SiO2+Al2O3)/ROは6以上
であるガラスからなる、p-Si・TFTフラットパネルディスプレイ用ガラス基板(本発明の第1の態様のガラス基板である。以下、本発明のガラス基板と記載する場合、本発明の第1の態様のガラス基板を意味する)。・・・
[8]前記ガラスはβ-OH値が0.05~0.4mm-1である[1]~[7]のいずれか1項に記載のガラス基板。・・・」
「[0048] ガラス中の含水量の指標であるβ-OH値は、原料の選択により調整することができる。例えば、含水量の高い原料( 例えば水酸化物原料) を選択したり、塩化物等のガラス中の水分量を減少させる原料の含有量を調整したりすることで、β-OH値を増させることができる。また、ガラス熔解に用いるガス燃焼加熱(酸素燃焼加熱)と直接通電加熱の比率を調整することでβ-OH値を調整することができる。さらに、炉内雰囲気中の水分量を増加させたり、熔解時に熔融ガラスに対して水蒸気をバブリングしたりすることで、β-OH値を増加させることができる。
[0049] なおガラスのβ-OH値[mm-1]はガラスの赤外線吸収スペクトルにおいて次式によって求められる。
β-OH値=(1/X)log 10(T1/T2)
X : ガラス肉厚(mm)
T1 : 参照波長2600nm における透過率(%)
T2 : 水酸基吸収波長2800nm付近における最小透過率(%)
[0050] ガラスの水分量の指標であるβ-OH値は、値が小さいほど歪点が高く、熱処理工程(ディスプレイ製造時)において熱収縮が小さくなる傾向にある。他方、β-OH値が大きいほど、熔融温度(高温粘性)を低下させる傾向にある。
低収縮率と熔解性を両立するために、本発明の第1の態様のガラス基板を構成するガラスのβ-OH値は、0.05~0.40mm-1とすることが好ましく、0.10~0.35mm-1がより好ましく、0.10~0.30mm-1がさらに好ましく、0.10~0.25mm-1がさらに好ましく、0.10~0.20mm-1が一層好ましく、0.10~0.15mm-1がより一層好ましい。」
c 本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-151407号公報(平成25年8月8日出願公開。以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その技術的課題は、生産性(特に耐失透性や溶融性)に優れると共に、歪点と比ヤング率が十分に高い無アルカリガラスを創案することにより、欠陥が少なく、且つ大型のガラス基板の製造効率を高めつつ、LTPSの製造工程におけるガラス基板の熱収縮を抑制し、ガラス基板を大型化、薄型化した場合でも、ガラス基板の撓みに起因する不具合を防止することである。
【0013】
本発明者等は、種々の実験を繰り返した結果、無アルカリガラスのガラス組成範囲を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~70%、Al2O3 9.5~17%、B2O3 0~9%、MgO 0~8%、CaO 2~15%、SrO 0.1~10%、BaO 0.5~4%を含有し、モル比(CaO+SrO+BaO)/Al2O3が0.6~1.0であり、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず」とは、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、及びK2O)の含有量が6000ppm(質量)以下、好ましくは2000ppm(質量)以下の場合を指す。」
「【0070】
本発明の無アルカリガラスにおいて、β-OH値を低下させると、歪点を高めることができる。β-OH値は、好ましくは0.5/mm以下、0.45/mm以下、0.4/mm以下、特に0.35/mm以下である。β-OH値が大き過ぎると、歪点が低下し易くなる。なお、β-OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.05/mm以上である。
【0071】
β-OH値を低下させる方法として、以下の方法が挙げられる。(1)含水量の低い原料を選択する。(2)ガラス中の水分量を減少させる成分(Cl、SO3等)を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でN2バブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を速くする。(7)電気溶融法を採用する。
【0072】
ここで、「β-OH値」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた値を指す。
β-OH値 = (1/X)log10(T1/T2)
X:ガラス肉厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)」
(イ)引用文献2~4の上記記載(上記(ア)a~c)によれば、次の技術的事項が本願優先日における周知技術と認められる。
「SiO2-Al2O3-B2O3-RO(ROは、アルカリ土類金属酸化物)系ガラスにおいて、β-OH値を0.05~0.15/mm程度として溶融性を低下させずに歪点を高めること」
エ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明は、ガラス組成として、SiO2 61.5%、Al2O3 19.7%を含有するものであるから、質量%比でSiO2/Al2O3が約3.12であり、本件補正発明が特定する2.5~3.15の範囲内となる。また、引用発明は、Li2O、Na2O、K2Oがいずれも0.0%であるから、本件補正発明の「Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%」との規定を満足する。
そうすると、引用発明のガラス組成は、「ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~70%、Al2O3 15~25%、B2O3 1~5%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 0~4%、CaO 4~11%、SrO 0~4%、BaO 6.1~11%、P2O5 0~1.2%を含有し、質量%比でSiO2/Al2O3が2.5~3.15」であるという本件補正発明の組成に係る要件を満足する。
また、引用発明は、歪点が746℃であるから、「歪点が715℃より高く」なる本件補正発明の物性に係る要件を満足する。
さらに、引用発明の「未研磨の表面を有する板状に成形したガラス基板」は、本件補正発明の「未研磨の表面を有する平板形状である」「ガラス」に相当する。
したがって、両者は、
「ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~70%、Al2O3 15~25%、B2O3 1~5%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO 0~4%、CaO 4~11%、SrO 0~4%、BaO 6.1~11%、P2O5 0~1.2%を含有し、質量%比でSiO2/Al2O3が2.5~3.15であり、歪点が715℃より高く、未研磨の表面を有する平板形状であるガラス」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本件補正発明は、「β-OH値が0.05~0.15/mmである」のに対し、引用発明は、このような特定がない点。
オ 判断
以下、上記相違点について検討する。
上記イ(ア)aで認定の記載事項からすれば、引用発明において、高密度の配線を実現するために半導体パッケージの製造工程での熱収縮を低減することが求められており、このために歪点を特に530℃以上とすることが好ましく(【0057】)、また、ガラス組成として溶融性が高いものが求められている(【0029】、【0032】)。
そうすると、引用発明と上記ウ(イ)の周知技術とは、共に、SiO2-Al2O3-B2O3-RO(ROは、アルカリ土類金属酸化物)系ガラスにおいて溶融性を低下させずに歪点を高めることを意図したものである点で共通する。また、上記ウ(ア)a~cのとおり、β-OH値は、ガラスの原料やガラスの溶融条件により制御できるものであるから、ガラスの原料やガラスの溶融条件について何ら制限がない引用発明において上記周知技術を適用することを困難とする事情もない。
したがって、引用発明において、上記周知技術のようにβ-OH値を0.05~0.15/mm程度とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、上記相違点に係る本件発明補正発明の構成(β-OH値の限定)により見込まれる作用効果は、本件明細書の【0050】に記載のとおり、歪点と溶融性の両立にあるところ、このような作用効果は、上記周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
カ 請求人の主張についての検討
請求人は審判請求書において、引用文献1には、β-OH値についての記載がなく、β-OH値を規制することにより溶融性等を犠牲にすることなく歪点をガラス製品として好適な範囲まで高めることが可能となるため、引用文献1に記載された発明に基づいて本件補正発明は当業者が容易に想到し得たものではない旨を主張する。
そこで、上記主張について検討すると、上記のとおり、SiO2-Al2O3-B2O3-RO(ROは、アルカリ土類金属酸化物)系ガラスにおいて、β-OH値を0.05~0.15/mm程度として溶融性を低下させずに歪点を高めることは本願優先日における周知技術と認められ、引用発明において当該周知技術を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるから、この主張は採用することができない。
キ 本件補正の独立特許要件についてのまとめ
以上の検討によれば、本件補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は独立特許要件に適合しない。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの目的にも該当しないし、仮に同項第2号所定の目的であると解しても、同法同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、いずれにしても、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、本件補正については、上記1の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~11に係る発明は、令和4年2月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の2(1)アに記載のとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうちの理由1は、本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。
引用文献1.特開2016-117641号公報
3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の2(3)イ(ア)aに記載したとおりである。
また、引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(3)イ(ア)bにおいて認定したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の2(3)にて、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討した本件補正発明から、上記相違点に係る特定事項を削除したものであるから、本願発明と引用発明を対比すると、上記第2の2(3)エで検討したとおりの対応関係を有し、両者の発明特定事項には実質的に差異がないものである。
したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明である。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-009393