特許拒絶査定不服審判
2015-021799
高温排ガス用脱硝触媒及びその製造方法、高温排ガス脱硝方法
- 審判番号
- 2015-021799
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-019944外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月08日
- 審決日
- 2017年03月15日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三菱日立パワーシステムズ株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人酒井国際特許事務所
- 分類
- P18 .537-WZ (B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013- 19944「高温排ガス用脱硝触媒及びその製造方法、高温排ガス脱硝方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日出願公開、特開2013- 78768〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本願は、平成21年10月6日を国際出願日とする特願2010-547913号の一部を、平成25年2月4日に新たな特許出願としたものであって、平成26年7月1日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年5月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月2日付けで補正の却下の決定がされるとともに同日付けで拒絶査定がされ、同年12月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、平成28年10月28日付けで当審からの拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2.当審拒絶理由の概要
平成28年10月28日付けの当審拒絶理由の理由2)は、「本件出願は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「分子層数」が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」というものである。
第3.当審の判断
(1)請求項1の記載
本願の請求項1に係る発明は、平成28年12月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された下記のものである(以下、「本願発明1」という。)。
「【請求項1】
窒素酸化物を含む600℃以上の高温排ガス用脱硝触媒であって、
酸化ジルコニウム(ZrO2)及び酸化シリカ(SiO2)のいずれか一方と酸化チタン(TiO2)とからなる複合酸化物の担体上に、分子層数が5以下1.6以上の酸化タングステン(WO3)が担持されてなると共に、
前記酸化タングステン(WO3)の担持量が触媒全体重量比で12重量%以上であることを特徴とする高温排ガス用脱硝触媒。
ここで、「分子層数」は、「WO3単分子層の面積」[m2/100g-触媒]/「触媒担体表面積」[m2/100g-触媒]であり、「WO3単分子層の面積」[m2/100g-触媒]は「触媒中のWO3モル数」[mol/100g-触媒]/「WO3単分子層のモル数」[mol/1cm2の単分子層]である。」
ここで、請求項1に記載されている「分子層数」は、付記された計算式を参酌しても、一般に「分子」が基板等の面上に配列した「分子層」が、当該面と垂直方向に積層されている「層の数」を示す用語と解され、それ自体は一見明確である。
(2)発明の詳細な説明の記載
「請求項の記載に基づくことを基本としつつ発明の詳細な説明等の記載をも考慮する」、という請求項に係る発明の認定の運用(審査基準の第II部第2章第3節2. 2.1(3)を参照。)に照らすと、請求項に記載された用語の意味が一見明確であるにもかかわらず、本願明細書又は図面に、通常の意味と矛盾する明示の定義や、通常の意味と異なる意味を持つ旨の定義が置かれている場合には、当該用語が「通常の意味」で用いられているか、「通常の意味」と矛盾する又は異なる本願明細書で定義された意味で用いられているか、いずれと解すべきか不明となるから、当該請求項に係る発明は、不明確になるといえる。
(1)のとおり、本願の請求項1の記載は一見明確であるから、「分子層数」という用語につき、本願明細書又は図面に、通常の意味と矛盾する明示の定義や、通常の意味と異なる意味を持つ旨の定義が置かれているかについて、以下検討する。
本願明細書の段落【0022】には、「分子層数」の説明として、下記の記載がある。
「 ここで、分子層数とは、触媒担体上に形成される酸化タングステン(WO3)分子層の厚さをいう。特に、高温脱硝を継続すると、触媒担体の比表面積が増加するため、後述する実施例及び比較例に示すようにこの分子層数が増加するので、脱硝率が低下する傾向がある。
また、本発明で記述する「WO3分子層数」は以下のように定義される。
「分子層数」=「WO3単分子層の面積(*1)」[m2/100g-触媒]/触媒担体表面積[m2/100g-触媒]
ここで、(*1)については、「WO3単分子層の面積」[m2/100g-触媒]
=「触媒中のWO3モル数」[mol/100g-触媒]/WO3単分子層のモル数(*2)[mol/1cm2の単分子層]である。
また、(*2)については、「酸化タングステンの密度を7.16[g/cm3]、分子量を231.8[g/mol]とし、タングステンの原子半径を193[pm]とした場合の「WO3単分子層のモル数」
=(7.16/231.8)〔酸化タングステンの1cm3当たりのモル数〕×193/1010〔pmをcmに変換〕
= 5.96e-10」
すなわち、当該段落【0022】の記載によれば、本願明細書中における「分子層数」は、「タングステンの原子半径」を「193[pm]」として算出されたことが記載されている。
しかしながら、「タングステンの原子半径」については、例えば理化学大辞典第4版、(株)岩波書店、1987年10月12日の757頁には、「原子半径」に相当する「金属結合半径」につき、「1.37Å」(137[pm])であることが記載され、また、特開昭54-102069号公報の第3頁左下欄第2-3行には、「1.39Å」(139[pm])であることが記載されているように、一般的に137~139[pm]程度であることが知られているものであって、当該段落【0022】の記載は技術常識に反する。
さらに、同理化学大辞典の497頁によれば、「WO3」は、「Wを中心に6個のOを頂点とする正八面体形がOを介してつながった構造」(1つの酸素原子は、結合する2個のタングステン原子に1/2原子ずつ共有されている。)をしているものであるが、段落【0022】の記載によれば、「単分子層の厚さ」の算出において、「WO3」が上記構造をとるにもかかわらず、「タングステンの原子」のサイズ(直径)よりもさらに小さい「原子半径」と称する「193[pm]」が採用されている。
そうすると、導き出された「5.96e-10」という「WO3単分子層のモル数」の値については、担体上に担持されている酸化タングステン(WO3)の、「単分子層のモル数」を表しているとはいえないし、当該「5.96e-10」を用いて算出される「分子層数」についても、複合酸化物の担体上に実際に担持されている酸化タングステン(WO3)の「分子層数」を表しているとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、段落【0022】において、「分子層数」を算出するために用いられた「タングステンの原子」の「原子半径」である「193[pm]」は技術常識に反する値であり、これを「139[pm]」とするとしても、「分子層数」を算出するために用いられる定義の式は、「分子層数」を表すとは技術的に理解できないものである。
よって、請求項1の記載は一見明確であるが、段落【0022】に、「分子層数」という用語が有する通常の意味と異なる意味を持つ旨の定義が置かれていることにより、本願発明1の「分子層数」が、通常の意味で用いられる、実際に担体上に担持される酸化タングステン(WO3)の「分子層数」であるか、段落【0022】に説明された「分子層数」を意味するものであるか、いずれと解すべきかが不明となるといえる。
したがって、当該「分子層数」を発明特定事項とする本願発明1は、明確でない。
(4)請求人の主張について
この点につき、請求人は、平成28年12月28日付け意見書において、本願明細書の段落【0022】に記載されている「タングステンの原子半径」は、「データ整理のための数値」として用いられているにすぎない旨、主張している。
しかしながら、「タングステンの原子半径」が単なる「データ整理のための数値」であることは、本願明細書の記載から自明なことではないし、仮に事実であるとしても、当該「タングステンの原子半径」から算出される「分子層数」は、実際に複合酸化物の担体上に担持されている酸化タングステン(WO3)の「分子層数」を示すものでないことになるから、請求項1に記載された「分子層数」という用語の意味内容が明らかになったとはいえず、依然として本願発明1は明確でないから、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない。
なお、請求人は当該意見書にて、下記[表]のとおり、段落【0041】【表1】に記載された実施例1-4につき、「タングステンの原子半径」を「139[pm]」として「WO3分子層」を再計算した結果からも、「酸化タングステン(WO3)分子層数」が「5以下」であることにより、本願発明の効果を奏することは明らかであるから、「分子層数」を発明特定事項として含む本願の請求項1に係る発明は、発明特定事項の内容に技術的な欠陥はなく、発明は明瞭である旨についても、主張している。
[表]
しかしながら、前記したとおり、「タングステンの原子半径」が単なる「データ整理のための数値」であるとすれば、当該「タングステンの原子半径」を「139[pm]」として「分子層数」を再計算したとしても、その値は実際に複合酸化物の担体上に担持されている酸化タングステン(WO3)の「分子層数」を示すものでないから、依然として請求項1に記載された「分子層数」という用語の意味内容が明らかでなく、本願発明1は明確でない。
第5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の拒絶理由について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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