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特許拒絶査定不服審判

2015-021750

透析用製剤

審判番号
2015-021750
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2014-174832
請求日
2015年12月08日
審決日
2017年03月14日
公報発行日
2017年06月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】エイワイファーマ株式会社
  • 【請求人代理人】結田 純次
  • 【請求人代理人】竹林 則幸
審判長/審判官
  • 審判長 須藤 康洋
  • 審判官 齊藤 光子
  • 審判官 小川 慶子
分類
P18 .575-Z (A61K) / P18 .113-Z (A61K) / P18 .121-Z (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第162条、特許法第17条の2第5項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2014-174832「透析用製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日出願公開、特開2014-218529〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 主な手続の経緯 本願は,国際出願日である平成18年1月6日(先の出願に基づく優先権主張 平成17年1月7日)にされたとみなされる特許出願(特願2006-550896号)の一部を新たに特許出願したもの(特願2012-21839号)の一部を新たに特許出願したものであって,平成26年9月26日に特許請求の範囲が補正され,平成27年5月19日付けで拒絶理由が通知され,同年7月24日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され,同年8月31日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年12月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,平成28年3月10日付けで同法164条3項の規定による報告がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [結論] 平成27年12月8日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 平成27年12月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容 本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ,特許請求の範囲全体の記載のうち,本件補正前の請求項2(及び当該請求項2が引用する請求項1)並びに当該請求項2に対応する本件補正後の請求項1の記載を掲記すると,それぞれ以下のとおりである。 ・ 本件補正前(平成27年7月24日の手続補正書) 「【請求項1】 pH調整剤としてクエン酸およびクエン酸塩を用いる重炭酸透析液において,クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることにより, 電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上,pHを7~8の範囲内となるように調整したことを特徴とする透析液。 【請求項2】 透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を基準値である2.05~2.60mEq/Lの範囲内に維持する血液透析方法に使用するための請求項1に記載の透析液。」 ・ 本件補正後 「【請求項1】 pH調整剤としてクエン酸およびクエン酸塩を用いる重炭酸透析用液において,クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることにより,電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上,pHを7~8の範囲内となるように調整して透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を基準値である2.05~2.60mEq/Lの範囲内に維持する血液透析方法に使用するための,酢酸を含有せず,クエン酸およびクエン酸塩を含有することを特徴とする透析液。」 2 本件補正の目的 本件補正前の請求項2と本件補正後の請求項1との対比において,本件補正は,透析液(重炭酸透析用液)を構成する成分として,補正前に「酢酸」について何ら特定していなかったものを「酢酸を含有せず」と特定することで,補正前の発明特定事項を限定するものである。そして,本件補正の前後で,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。 よって,本件補正は,請求項1(本件補正前の請求項2)についてする補正については,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。 なお,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。 3 独立特許要件違反の有無について 上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,以下説示のとおり,本件補正は当該要件に違反すると判断される。 すなわち,本願補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないか,同引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから29条2項の規定により特許を受けることができない(なお,引用文献1は,原査定の理由で引用された「引用文献1」と同じである。)。 ・ 引用文献1: 特開2003-339853号公報 4 本願補正発明 本願補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 「pH調整剤としてクエン酸およびクエン酸塩を用いる重炭酸透析用液において,クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることにより,電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上,pHを7~8の範囲内となるように調整して透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を基準値である2.05~2.60mEq/Lの範囲内に維持する血液透析方法に使用するための,酢酸を含有せず,クエン酸およびクエン酸塩を含有することを特徴とする透析液。」 5 本願補正発明が特許を受けることができない理由 (1) 引用発明 ア 引用文献1には,次の記載がある。 ・「【請求項1】 重炭酸透析用人工灌流液を調製するための,電解質成分,pH調整剤および/またはブドウ糖を含む透析用剤において,酢酸および/または酢酸塩を含有せず,クエン酸および/またはクエン酸ナトリウムを含有し,調製時のクエン酸イオン濃度が1.4~2.0mEq/Lであることを特徴とする透析用剤。 【請求項2】 調製時,クエン酸由来のクエン酸イオン濃度が1.3mEq/L以上であることを特徴とする請求項1記載の透析用剤。」(特許請求の範囲) ・「【0005】 【発明が解決しようとする課題】重炭酸透析では,一般的にはカルシウムイオンおよびマグネシウムイオン等を含む電解質成分,pH調整剤および/またはブドウ糖を含む「A剤」と,重炭酸イオンの炭酸水素ナトリウムからなる「B剤」の2剤構成となっている。これは,重炭酸イオンがカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと反応して不溶性化合物である炭酸金属塩を生成するためである。しかし,重炭酸透析とは言っても,pH調整剤としての酢酸や酢酸ナトリウム等,以前の酢酸透析ほどではないが,8~12mEq/Lの酢酸が入っている。当初は,この程度の酢酸の添加は問題ないと考えられていたが,酢酸は元来生体内にほとんど存在しないものであるため(0.1mEq/L以下),最近では透析の長期化に伴い,酢酸に起因すると思われる透析中の頭痛や血圧低下等の臨床症状の発現が問題となっている。また,ダイアライザーの性能の向上等により,酢酸が過度に負荷され循環器に悪い影響を与えるようになり,酢酸不耐症等,酢酸の毒作用は予想以上に強いということが認識されるようになってきた。そこで,酢酸を含まない透析製剤の開発が求められている。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明はこのような問題点を解決するために鋭意検討した結果,完成されたものであって,血液透析に使用する重炭酸透析用人工灌流液を調製するための,電解質成分,pH調整剤および/またはブドウ糖を含む透析用剤において,酢酸および酢酸塩を含有しないことを特徴とする透析用剤を提供するものである。」 ・「【0008】 【発明の実施の形態】本発明では,重炭酸透析用人工灌流液を調製するための,電解質成分,pH調整剤および/またはブドウ糖を含む透析用剤において,酢酸および/または酢酸塩を含有せず,生体内にも存在する酸であるクエン酸およびクエン酸ナトリウムを使用することに特徴がある。これにより,酢酸フリーの重炭酸透析用人工灌流液とすることができるものである。 【0009】本発明における透析用剤とは,炭酸水素ナトリウム液と希釈混合して,重炭酸透析用人工灌流液を調製するための製剤であり,その剤型は液剤でもよいし,固形剤でもいいが,クエン酸は固体有機酸であることから,特に固形剤が望ましい。… 【0011】この透析用剤は電解質成分,pH調整剤および/またはブドウ糖を含んでおり,電解質成分としては,クエン酸ナトリウム等のクエン酸塩の他,例えば,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウム,塩化カルシウム,乳酸ナトリウム,乳酸カリウム,乳酸カルシウム等が用いられる。好ましい電解質組成物としては,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム,クエン酸ナトリウムである。 【0012】透析剤の各成分の配合量は,適切な濃度に希釈,混合した場合,重炭酸透析用人工灌流液として,下記の濃度であることが好ましい。 Na+ 120~150 mEq/L K+ 0~4 mEq/L Ca++ 0~4 mEq/L Mg++ 0~1.5 mEq/L Cl- 55~135 mEq/L HCO3- 20~45 mEq/L クエン酸 1.4~2.0 mEq/L ブドウ糖 0~3.0 g/L 【0013】なお,本発明では,pH調整剤として,クエン酸を使用する。重炭酸透析用人工灌流液を調製した時のpHが約7~8程度に調整できるようにすれば良い。 【0014】本発明は,クエン酸および/またはクエン酸ナトリウムを含有し,調製時のクエン酸イオン濃度が1.4~2.0mEq/Lであることを特徴とする透析用剤である。さらに,調製時,クエン酸由来のクエン酸イオン濃度が1.3mEq/L以上であることが望ましい。なお,この「調製時のクエン酸イオン濃度」とは,重炭酸透析用人工灌流液を調製した時の総クエン酸イオン濃度のことである。従来のいわゆる「A剤」においては,酢酸塩が含まれていたのに対し,本発明ではクエン酸および/またはクエン酸ナトリウムを含有することにより,酢酸は一切含まれず,炭酸水素ナトリウムのみをアルカリ化剤として用いることができるので,より生理的な処方であるという利点がある。 【0015】また,クエン酸を使用することにより,沈殿抑制効果も期待できる。電解質成分,pH調整剤および/またはブドウ糖を含むいわゆる「A剤」と,重炭酸イオンの炭酸水素ナトリウムからなる「B剤」の2剤は,重炭酸イオンがカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと反応して不溶性化合物である炭酸金属塩を生成するため,一般的には用時,希釈混合後,重炭酸透析用人工灌流液とする。…」 ・「【0021】(実施例3)重炭酸透析用人工灌流液を調製するための電解質成分,pH調整剤およびブドウ糖を含む透析用剤について,クエン酸を1.4mEq/Lとし,クエン酸ナトリウム濃度を変えることにより,pHが異なる次の8処方を調製する。すなわち,塩化ナトリウム(NaCl)214.8g,塩化カリウム(KCl)5.22g,塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)7.72g,塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)3.56g,ブドウ糖52.5gおよびpH調整剤としてクエン酸(C6H8O7・H2O)3.432gを水に溶かして1Lとしたものを処方A(pH1.7),この処方Aに,クエン酸ナトリウム(C6H5Na3O7・2H2O)0.343gを加えて調製したものを処方B(pH1.9),クエン酸ナトリウム0.686gを加えて調製したものを処方C(pH2.1),クエン酸ナトリウム1.029gを加えて調製したものを処方D(pH2.3),クエン酸ナトリウム1.372gを加えて調製したものを処方E(pH2.4),クエン酸ナトリウム1.716gを加えて調製したものを処方F(pH2.6),クエン酸ナトリウム2.059gを加えて調製したものを処方G(pH2.7),クエン酸ナトリウム2.402gを加えて調製したものを処方H(pH2.8)とする。次に,炭酸水素ナトリウム29.4gを水に溶かし1Lとし,この水溶液35mLにさらに水を加え,ここに処方Aを10mL加え,水を加えて350mLとし,処方Aによる酢酸フリーの重炭酸透析用人工灌流液を調製した。処方BからHについても同様の方法で酢酸フリーの重炭酸透析用人工灌流液を調製した。これらを室温下で保存し,性状を観察した。 【0022】この結果,処方A及びBによる重炭酸透析用人工灌流液では8時間後も沈殿は生成しなかった。処方C,D,E,F,G及びHによる重炭酸透析用人工灌流液では48時間後も沈殿は生成しなかった。このことから,重炭酸透析用人工灌流液の安定性は,処方A及びBによる処方でも安定であるが,C,D,E,F,G及びHはさらに優れていると判断された。」 ・「【0023】 【発明の効果】以上説明したように,本発明では,重炭酸透析用人工灌流液を調製するための電解質成分,pH調整剤および/またはブドウ糖を含む透析用剤において,クエン酸および/またはクエン酸ナトリウムを含有し,調製時のクエン酸イオン濃度が1.4~2.0mEq/Lとすることにより,製剤的にも安定,かつ酢酸フリーの生理的な透析用剤を提供することができる。」 イ そこで,上記アでの摘記のうち,特に実施例3の処方C,D,E及びFにより調製された酢酸フリーの重炭酸透析用人工灌流液(以下,「実施例の重炭酸透析用人工灌流液」という。)についての記載に着目する。 引用文献1の「本発明では,pH調整剤として,クエン酸を使用する」(【0013】)との記載から,実施例の重炭酸透析用人工灌流液中のクエン酸はpH調整剤として含有されたものであることは明らかである。また,「クエン酸を1.4mEq/Lとし,クエン酸ナトリウム濃度を変えることにより,pHが異なる次の8処方を調製する」(【0021】)との記載から,引用文献1には,実施例の重炭酸透析用人工灌流液において,クエン酸に対するクエン酸ナトリウムの配合量を変化させることでpHを調整する技術も開示されているといえる。そうすると,クエン酸のみならずクエン酸ナトリウムもまた,実施例の重炭酸透析用人工灌流液においてpH調整剤として含有されたものであると認めることができる。 以上検討したところを総合すると,引用文献1には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「炭酸水素ナトリウム29.4gを水に溶かし1Lとし,この水溶液35mLにさらに水を加え,ここに処方C,D,E又はFを10mL加え,水を加えて350mLとすることで得られる,酢酸フリーであり且つpH調整剤としてクエン酸及びクエン酸ナトリウムを用いてなるクエン酸濃度が1.4mEq/Lである処方C,D,E又はFの各処方により調製される重炭酸透析用人工灌流液。 ここで,上記処方C,D,E及びFは,以下の要領で調製されたものである; 塩化ナトリウム(NaCl) 214.8g, 塩化カリウム(KCl) 5.22g, 塩化カルシウム(CaCl2・2H2O) 7.72g, 塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O) 3.56g, ブドウ糖 52.5g,及び クエン酸(C6H8O7・H2O) 3.432g を水に溶かして1Lとしたものに, 処方Cは,クエン酸ナトリウム(C6H5Na3O7・2H2O)0.686gを加えて調製したもの, 処方Dは,クエン酸ナトリウム1.029gを加えて調製したもの, 処方Eは,クエン酸ナトリウム1.372gを加えて調製したもの, 処方Fは,クエン酸ナトリウム1.716gを加えて調製したもの。」 (2) 対比 ア 本願補正発明と引用発明を対比する。 引用発明の「重炭酸透析用人工灌流液」は,本願補正発明の「透析液」あるいは「重炭酸透析用液」に相当する。 また,クエン酸濃度についてみるに,引用発明のものは「1.4mEq/L」であるから,この値は本願補正発明の「1.5mEq/L以下」を満たす。 また,クエン酸ナトリウム濃度についてみるに,引用発明において,処方C,D,E又はFの各処方で使用されるクエン酸ナトリウム量は次のとおりのものであるところ,これら各処方により調製された重炭酸透析用人工灌流液におけるクエン酸ナトリウム濃度は,計算すると,かっこ内の値に換算される。 処方C:0.686g(0.20mEq/L) 処方D:1.029g(0.30mEq/L) 処方E:1.372g(0.40mEq/L) 処方F:1.716g(0.50mEq/L) そうすると,処方C,D,E又はFの各処方により調製された重炭酸透析用人工灌流液におけるクエン酸ナトリウム濃度は,本願補正発明の「0.2~0.5mEq/L」を満たす。であるから,引用発明も,本願補正発明と同様に,「クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内」で「組み合わせ」られたものであるといえる。 さらに,イオン化カルシウム濃度及びpHについてみるに,引用発明の重炭酸透析用人工灌流液のうち,処方D,E並びにFにより調製されたものは,それぞれ,本願明細書中で説明されるところの処方4,3並びに1として調製された透析液と同じものである(【0043】~【0048】)。そして,本願補正発明の「イオン化カルシウム濃度」及び「pH」がどのような条件のもとで測定された値であるか必ずしも明確ではないが,本願明細書には,上記処方4,3並びに1として調製された透析液のイオン化カルシウム濃度及びpHについて,個人透析装置を用いて調製した透析液に対し血中電解質測定装置[i-STAT(アイスタットコーポレーション社製)]及びABL77型(ラジオメータートレーディング社製)を使用して測定した場合,実験用ガラス製品を用いて調製した透析液に対し上記血中電解質測定装置及び上記ABL77型を使用して測定した場合のいずれの場合であっても,「イオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上」,「pHを7~8」の範囲内の値となることがみてとれるのであるから(【0049】~【0052】),引用発明は「イオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上」,「pHを7~8」の範囲内となるように調製されたものである蓋然性が高いといえる。 イ したがって,本願補正発明と引用発明とは次の点で一致し,次の点で相違すると認めることができる。 ・ 一致点 「pH調整剤としてクエン酸およびクエン酸塩を用いる重炭酸透析用液において,クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることにより,電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上,pHを7~8の範囲内となるように調整した,酢酸を含有せず,クエン酸およびクエン酸塩を含有することを特徴とする透析液。」 ・ 相違点 用途について,本願補正発明は「透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を基準値である2.05~2.60mEq/Lの範囲内に維持する血液透析方法に使用するための」と特定するのに対し,引用発明はそのような特定事項を有しない点。 (3) 相違点についての判断 ア 本願補正発明は,請求項1に記載の「透析液(重炭酸透析用液)」について,「透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を基準値である2.05~2.60mEq/Lの範囲内に維持する血液透析方法に使用」との用途(用途限定)を用いて透析液を特定しようとするものである。 そこで,本願補正発明における上記用途限定が意味するところについて,以下検討する。 イ 本願補正発明の透析液は「電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上」となるように調製されたものであるところ,透析液中に含まれる電解質成分としてのイオン化カルシウムは,本願明細書の記載や技術常識からすると,透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を適宜調整するために含まれるものであるといえる(例えば,透析患者の血液イオン化カルシウム濃度が低いときに透析液中のイオン化カルシウム濃度を高くすることでイオン化カルシウムを血液に補給することや,逆に,血液イオン化カルシウム濃度が高いときにイオン化カルシウム濃度の低い透析液を使用することは,技術常識である。)。 そして,透析液中のイオン化カルシウム濃度と透析患者の血中イオン化カルシウム濃度とは密接に関連するものであることからすれば,血液透析が行われた後の患者の血中イオン化カルシウム濃度を特定する「透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を基準値である2.05~2.60mEq/Lの範囲内に維持する血液透析方法に使用する」という用途は,透析液中に含まれる電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるように調製したものであることを特定事項とする透析液(重炭酸透析用液)の未知の属性を発見したことにより見いだされたものであるということはできない。このことは,透析液中のイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上とすることが,クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることで達成されるといえるかどうかとは無関係である。 さすれば,上記用途限定を含む本願補正発明は,いわゆる用途発明ということはできない。 ウ 仮に,上記用途限定に係る用途が,クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることによってイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上となるように調製した透析液についての未知の属性を発見したことにより見いだされたものであるといえたとしても,そもそも当該用途は,透析液について従来知られている用途とは異なる新たなものであるとはいえない(すなわち,透析患者における血中イオン化カルシウム濃度の基準値を2.05~2.60mEq/L前後に設定することは技術常識であり(「透析患者の検査と管理」,下条文武編,32頁,1999年6月21日初版1刷,株式会社中外医学社),本願補正発明は,透析液の用途として当業者に自明のことを発明特定事項としているにすぎないといえる。)から,その意味においても,本願補正発明は用途発明ということはできない。 エ 以上のとおり,本願補正発明は用途発明ではないから,引用発明に対し用途限定以外の点で相違しないと判断される本願補正発明は,いわゆる新規性を有するということができない。 オ また,上記イ~エで述べたように,本願補正発明は用途発明ではないからその新規性は否定されるといえるところ,仮に,本願補正発明が用途発明であるといえたとしても,以下述べるとおり,本願補正発明はいわゆる進歩性を有しないといえる。 すなわち,上記ウで述べたように,透析患者における血中イオン化カルシウム濃度の基準値を2.05~2.60mEq/L前後に設定することは技術常識であるといえるところ,重炭酸透析用人工灌流液(透析液)である引用発明において,当該重炭酸透析用人工灌流液(透析液)を透析の目的の一つである透析患者における血中イオン化カルシウム濃度の適切な値への是正(維持)という用途(血液透析方法)に使用しようとすること,そしてその使用にあたり,上記値として技術常識である基準値(2.05~2.60mEq/L)を選択する程度のことは,当業者であれば想到容易である。 (4) 小括 上記のとおり,本願補正発明は,引用発明との対比において相違点が認められず,よって引用文献1に記載された発明といえるので特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないか,あるいは,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 6 まとめ 以上,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成27年7月24日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお,当該請求項2が引用する請求項1も併せて記載する。 「【請求項1】 pH調整剤としてクエン酸およびクエン酸塩を用いる重炭酸透析液において,クエン酸濃度を1.5mEq/L以下,クエン酸ナトリウム濃度を0.2~0.5mEq/Lの範囲内で組み合わせることにより, 電解質成分としてのイオン化カルシウム濃度を1mmoL/L以上,pHを7~8の範囲内となるように調整したことを特徴とする透析液。 【請求項2】 透析患者の血中イオン化カルシウム濃度を基準値である2.05~2.60mEq/Lの範囲内に維持する血液透析方法に使用するための請求項1に記載の透析液。」 2 原査定の理由 原査定の理由は,要するに,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるので特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないか,引用文献1に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。 3 引用発明 引用発明は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,本願補正発明との比較において,「酢酸を含有せず」との特定事項を有しないものである(上記第2_1参照)。すなわち,本願補正発明は,本願発明の構成をすべて包含するものであるといえる。 そして,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条1項3号に該当し,あるいは29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により特許を受けることができないものであるといえる。 なお,この判断は,原査定の理由(上記2)に沿うものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるので,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないか,当該刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。 そうすると,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。

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2015-021750

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