特許無効審判
2019-800100
含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤
- 審判番号
- 2019-800100
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2002-007821
- 登録番号
- 4171216
- 請求日
- 2019年11月22日
- 審決日
- 2020年10月29日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エイワイファーマ 株式会社
- 【請求人代理人】川田 篤
- 【請求人代理人】井上 義隆
- 【被請求人】株式会社 大塚製薬工場
- 【被請求人代理人】設樂 隆一
- 【被請求人代理人】佐藤 慧太
- 【被請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【被請求人代理人】今村 玲英子
- 【被請求人代理人】吉住 和之
- 【被請求人代理人】松阪 絵里佳
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 秀次
- 審判官 瀬良 聡機
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1123.121-YAA(A61K) / P1123.537-YAA(A61K) / P1123.851-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4171216号発明「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第4171216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕、10、11について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許第4171216号の請求項1~11に係る発明(以下、「本
件特許発明」という。)は、平成14年1月16日に出願され、平成20年
8月15日に特許権の設定登録がなされた。
2 そして、これに対して、請求人(エイワイファーマ株式会社)から、平
成29年4月3日付けで、別件1の無効審判(無効2017-800045号)(以下「第1次無効審判事件」という。)が請求され、平成30年2月13日付けで「特許第4171216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3、5~11〕、〔4〕について訂正することを認める(訂正後の請求項〔1~9〕、〔10、11〕について訂正することを認めるの誤記と認める)。
本件審判の請求は成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。」との審決がなされ、該審決は確定し
た。
3 また、その後、請求人(エイワイファーマ株式会社)から、平成30年
10月23日付けで、別件2の無効審判(無効2018-800128号)
(以下「第2次無効審判事件」という。)が請求され、令和1年10月7日付けで「特許第4171216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕、〔10、11〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。」との審決がなされたが、審決送達後、知的財産高等裁判所に出訴され(令和1(行ケ)10155号)、
令和2年8月26日に請求棄却の判決の言い渡しがあったが、令和2年9月8日に、上告(令和2年(行サ)第10017号)及び上告受理申立て(令和2年(行ノ)第10037号)がなされたため、該審決における訂正は確定していない。
4 したがって、以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本
件明細書」といい、上記別件1の無効審判事件における平成29年6月19日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。
5 本件特許について、エイワイファーマ株式会社(以下「請求人」という
。)から、本件特許請求の範囲の請求項1,2,10,11に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の無効審判の請求がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。
令和 1年11月22日 審判請求書・証拠説明書(請求人)(1)、及び
甲第1~22号証提出(請求人)
令和 2年 2月10日 審判事件答弁書・証拠説明書、乙第1~6号証、及び訂正請求書提出(被請求人)
令和 2年 3月18日 審理事項通知書
令和 2年 4月10日 上申書・証拠説明書(請求人)(2)、及び
甲第23号証提出(請求人)
平成 2年 4月10日 上申書提出(被請求人)
令和 2年 4月24日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
令和 2年 4月24日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
令和 2年 7月 3日 口頭審理・証拠調べ
第2 訂正の可否についての当審の判断
1 訂正の内容
第1の手続の経緯に示すとおり、被請求人は、願書に添付した特許請求の
範囲について、令和2年2月10日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求
の範囲のとおりの訂正を求めた(以下、令和2年2月10日付け訂正請求及び訂正特許請求の範囲を、それぞれ「本件訂正」、「本件訂正特許請求の範囲」ともいう。)
本件訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件の特許請求の範囲の請求項1の「輸液製剤。」を、
「輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件の特許請求の範囲の請求項2の
「微量金属元素が銅であることを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。」
を、
「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体
、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
輸液製剤。」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件の特許請求の範囲の請求項4の「鉄、マンガンおよび銅からなる群よ
り選ばれる少なくとも1種の微量金属元素収容容器」を、
「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件の特許請求の範囲の請求項4の「輸液製剤。」を
「輸液製剤であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1~7」を「請求項2」に訂正する
。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10の「複室輸液製剤において」とあるのを
「複室輸液製剤の輸液容器において」に訂正する。
(7)訂正事項7
本件の特許請求の範囲の請求項10の「保存安定化方法。」を
「保存安定化方法であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
保存安定化方法。」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件の特許請求の範囲の請求項11の「微量金属元素が、銅であることを特徴とする請求項10に記載の保存安定化方法。」を、
「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体
、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
保存安定化方法。」に訂正する。
2 判断
(1)訂正事項1について
ア 目的について
(ア)この訂正は、輸液製剤の溶液について、訂正前において「輸液製剤」
とあるのを「輸液製剤であって、前記溶液は、アセチルシステインを含むア
ミノ酸輸液であり、」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)また、この訂正は、輸液製剤の輸液容器について、「前記輸液容器は
、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」
と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(ウ)よって、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲を減縮することを目的
とするものである。
イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、アミノ酸輸液中に含まれるアミノ酸として
、N-アセチル-L-システインが具体的例示として記載されており、【0
052】【0063】には、アセチルシステインを含有する輸液製剤の実施
例1が記載され、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に
収納されていることが好ましいことが記載され、【0039】には、外袋内
の酸素を取り除くことが記載されているので、訂正事項1は、設定登録時の
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内に
おいてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(2)訂正事項2について
ア 目的について
(ア)この訂正は、訂正前の「微量金属元素が銅であることを特徴とする請
求項1に記載の輸液製剤」との記載を、他の請求項の記載を引用する請求項
の記載を当該他の請求項の記載を引用しない「外部からの押圧によって連通
可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その
一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種
を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素
収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム
製の袋であることを特徴とする輸液製剤」とした上で、輸液製剤に関して、
訂正前において「輸液製剤」とあるのを、「輸液製剤であって、前記溶液は
システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸
塩を含むアミノ酸輸液であり、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納
されている、輸液製剤。」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである
。
(イ)よって、訂正事項2の訂正は,特許請求の範囲を減縮すること、およ
び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用
しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、「含硫化合物を含む溶液」としては含硫ア
ミノ酸および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられること
アミノ酸は必須アミノ酸、非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ
酸の塩、エステルまたはN-アシル体などが挙げられることが記載され、【
0015】には、「含硫化合物」として、システインなどの含硫アミノ酸が
挙げられること、【0053】~【0059】【0063】には、L-シス
テインおよび亜硫酸水素ナトリウムを含有する輸液製剤の実施例2~4が示
されている。
また、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に収納され
ていることが好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項2は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請
求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(3)訂正事項3について
ア 目的について
この訂正は、訂正前の「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少
なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」
との記載を、銅を含めた選択肢を有する微量金属元素を銅に限定し、「銅を
含む液が収容された微量金属元素収容容器」としたものであるから、特許請
求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
この訂正は、上記アのとおり、銅を含めた選択肢を有する微量金属元素を
銅に限定したものにすぎないし、【0053】【0054】【0057】【
0059】【0064】には、硫酸銅を含む溶液がポリエチレンフィルムよ
り成形した小袋に充填された実施例1~4の輸液製剤が示されている。
したがって、訂正事項3は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請
求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(4)訂正事項4について
ア 目的について
(ア)この訂正は、輸液製剤の溶液について、訂正前において「輸液製剤」
とあるのを「輸液製剤であって、前記溶液は、アセチルシステインを含むア
ミノ酸輸液であり、」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)また、この訂正は、輸液製剤の輸液容器について、「前記輸液容器は
ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」
と限定をして特許請求の範囲を減縮するものである。
(ウ)よって、訂正事項4の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的
とするものである。
イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、アミノ酸輸液中に含まれるアミノ酸として
N-アセチル-L-システインが具体的例示として記載されており、【0
052】【0063】には、アセチルシステインを含有する輸液製剤の実施
例1が記載され、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に
収納されていることが好ましいことが記載され、【0039】には、外袋内
の酸素を取り除くことが記載されているので、訂正事項4は、設定登録時の
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内に
おいてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項4は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(5)訂正事項5について
ア 目的について
この訂正は、訂正前の「請求項1~7」を「請求項2」と訂正し、引用す
る請求項の選択肢を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的
とするものである。
イ 新規事項について
この訂正は、上記アのとおり、引用する請求項の選択肢を限定するものに
すぎず、訂正事項5は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範
囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項5は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(6)訂正事項6について
ア 目的要件について
この訂正は、訂正前の「複室輸液製剤において」とあるのを「複室輸液製
剤の輸液容器において」と訂正するもので、訂正事項7にともなって、対象
をさらに限定したものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするもので
ある。
イ 新規事項について
本件明細書【0031】には、本発明に係る輸液製剤の好ましい態様とし
て、微量金属元素収容容器が収容されている第1室と硫黄原子を含む化合物
を含有する溶液が充填されている第2室とが隣接している輸液製剤が挙げら
れ、具体的態様として該輸液容器は、第1室と第2室を有することが記載さ
れており、訂正事項6は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の
範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項6は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(7)訂正事項7について
ア 目的について
(ア)この訂正は、輸液製剤の保存安定化方法に関して、輸液製剤の溶液に
ついて、訂正前において「保存安定化方法」とあるのを「保存安定化方法で
あって、前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、」と
限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)また、この訂正は、輸液製剤の保存安定化方法に関して、輸液製剤の
輸液容器について、「前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されてお
り、前記外袋内の酸素を取り除いた」と限定をして特許請求の範囲を減縮す
るものである。
(ウ)よって、訂正事項7の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的
とするものである。
イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、アミノ酸輸液中に含まれるアミノ酸として
N-アセチル-L-システインが具体的例示として記載されており、【0052】【0063】には、アセチルシステインを含有する保存安定化され
る輸液製剤の実施例1が記載され、【0035】には、輸液容器が、ガスバ
リヤー性の外袋に収納されていることが好ましいことが記載され、【003
9】には、外袋内の酸素を取り除くことが記載されているので、訂正事項7
は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載し
た事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項7は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(8)訂正事項8について
ア 目的について
(ア)この訂正は、訂正前の「微量金属元素が、銅であることを特徴とする
請求項10に記載の保存安定化方法」との記載を、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しない「複室輸液製剤において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法」とした上で、上記の「複室輸液製剤において」との記載を、「複室輸液製剤の輸液容器において」と対象をさらに限定し、輸液製剤の保存安定化方法に関して、訂正前において「輸液製剤の保存安定化方法」とあるのを「輸液製剤の保存安定化方法であって、前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、保存安定化方法。」と限定して特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)よって、訂正事項8の訂正は,特許請求の範囲を減縮すること、およ
び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用
しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項について
本件明細書【0016】には、「含硫化合物を含む溶液」としては含硫ア
ミノ酸および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられること
アミノ酸は必須アミノ酸、非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ酸の塩、エステルまたはN-アシル体などが挙げられることが記載され、【0015】には、「含硫化合物」として、システインなどの含硫アミノ酸が
挙げられること、【0053】~【0059】【0063】には、L-シス
テインおよび亜硫酸水素ナトリウムを含有する保存安定化される輸液製剤の
実施例2~4が示されている。
また、【0035】には、輸液容器が、ガスバリヤー性の外袋に収納され
ていることが好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項8は、設定登録時の願書に添付した明細書、特許請
求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかの
判断について
上記アのとおり、訂正事項8は、特許請求の範囲を減縮するものであり、
実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。
(9)独立特許要件について
請求項3~9については、無効審判請求がなされておらず、請求項3は、請求項1及び2を引用するから、訂正事項1及び2により実質的に訂正され、当該訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項4は、訂正事項3及び4により訂正され、当該訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項5は請求項3及び4を、請求項6は請求項1~5を、請求項7は請求項3~5を、請求項8は請求項2を、請求項9は請求項8を、それぞれ引用するから、訂正事項1~4により実質的に訂正され、当該訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正後の請求項3~9に係る発明が、独立して特許を受けられるものかどうか判断すると、訂正後の請求項3~9に係る発明は、訂正後の請求項1または2に係る発明をさらに限定したものであるところ、第7 1~2で後記するように訂正後の請求項1または2に係る発明(本件訂正特許発明1又は本件訂正特許発明2)は、特許法第29条第2項の規定に違反するものとはいえない。また、第7 3で後記のように、本願の特許請求の範囲の記載は、その発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるので、特許法第36条第6項第1号に違反するとはいえない。
また、その他の要件に違反するともいえないので、特許法134条の2第9項において準用する第126条第7項の規定に違反するものではない。
したがって、訂正後の請求項3~9に係る発明が、独立して特許を受けられるものかどうか判断すると、その要件に違反するものとはいえない。
(10)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3,5~9は、請求項2,3,5~9が訂正の請求の
対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、訂正の請求の対象である
訂正前の請求項4は、請求項5~9に引用される関係にあるので、訂正前の請求項1~9において、一群の請求項に該当するものである。
また、訂正前の請求項10~11は、請求項11が訂正の請求の対象であ
る請求項10の記載を引用する関係にあり、訂正前において一群の請求項に
該当するものである。
さらに、請求項11については、別の訂正単位とする求めがなされている。
したがって、この訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであり、
訂正後の請求項〔1~9〕、10、11について訂正することを認める。
3 小括
以上のとおり、訂正事項1~8に係る訂正は、特許法134条の2第1項
ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの又は第4
号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記
載を引用しないものとすることを目的とするものであり,しかも同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に違反するものでもない。
また、請求項3~9に係る発明に関する訂正に関して、訂正後の発明に関して、特許法134条の2第9項において準用する第126条第7項の規定に違反するものでもない。
よって,結論の第1項のとおり,本件訂正を認める。
第3 本件訂正特許発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~11
に係る発明(以下、「本件訂正特許発明1」~「本件訂正特許発明11」の
ように表記することがある。)は、本件明細書の記載からみて、訂正後の特
許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項によって特定されるとおりであり、本件訂正特許発明1、2、10、11は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を
有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる
群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マ
ンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含
む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収
容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であ
って、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
輸液製剤。
【請求項2】
外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を
有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる
群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に銅を含
む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収
容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であ
って、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体
、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
輸液製剤。
・・・
【請求項10】
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる
群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄
、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素
を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容
器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安
定化方法であって、
前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、
前記外袋内の酸素を取り除いた、
保存安定化方法。
【請求項11】
複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる
群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅
を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容
器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安
定化方法であって、
前記溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体
及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり、
前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、
保存安定化方法。」
第4 請求人の主張の概要
1 本件審判の請求の趣旨
請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4171216号の請求項1、2、10、11に記載された発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」(第1回口頭審理調書、審判請求書「6 請求の趣旨」)である。
2 請求人が主張する無効理由及び証拠方法の概要
請求人は、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証~甲第23号証を提出した。
3 審判請求書、上申書、および口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の
概要
審判請求書、令和2年4月10日付け上申書、令和2年4月24日付け
口頭審理陳述要領書を考慮し、審判請求書の「別紙 第1 請求の理由の要約」「別紙 第3 特許無効審判請求の根拠」「別紙 第5 無効理由1(甲1発明に基づき進歩性を欠くこと)4 総括-無効理由1」「別紙 第6 無効理由2(甲13発明に基づき進歩性を欠くこと)4 総括-無効理由2」「別紙 第7 無効理由3(いわゆるサポート要件違反)1 無効理由3-1(3)まとめ(無効理由3-1)2 無効理由3-2 審判請求書66頁7~10行」の記載、及び審判請求書全体の記載から、請求人が主張する無効理由は、本件訂正を踏まえると、概略以下のとおりである(第1回口頭審理調書)。
(1)無効理由
無効理由1:本件特許発明1,2,10,11は、甲第1号証に記載された発明、甲第1号証に記載された技術的事項、本願出願時点の技術常識に基いて、当業者が容易になし得たものであるので、本件特許発明1,2,10,11に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであるので、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
無効理由2:本件特許発明1,2,10,11は、甲第13号証に記載された発明、甲第13号証に記載された技術的事項、本願出願時点の技術常識に基いて、当業者が容易になし得たものであるので、本件特許発明1,2,10,11に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであるので、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
無効理由3:本件特許明細書の記載は、本件特許発明1,2,10,11の解決しようとする課題である微量金属元素が安定に存在する含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するという課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。
(2)証拠方法(甲第1~23号証)
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開平11-158061号公報
甲第2号証:実願平3-94870号(実開平5-5138号)のCD-ROM(証拠説明書(1)の標目記載は、証拠方法からみて誤記であると認める。)
甲第3号証:日本薬局方(第14改正)(抄)通則、製剤総則、一般試験法
「39.注射剤用ガラス容器試験法」及び「55.プラスチック製医薬品容
器試験法」 平成13年3月30日 厚生労働省(告示第111号)
甲第4号証:高木洋治 外5名「静脈栄養施行時の微量元素動態-微量元素製剤のon-off study-」JJPEN 輸液・栄養ジャーナル,1989年4月10日,11巻4号,512~519頁
甲第5号証の1:特許第2088101号に対する無効審判事件(平成9年審判第21438号)における被請求人提出の平成12年8月8日付け上申書
甲第5号証の2:総合アミノ酸製剤「モリプロンF」の添付文書,ヘキスト・マリオン・ルセル株式会社,1998年(平成10年)1月改訂
甲第5号証の3:財団法人日本医薬情報センター編「医療薬 日本医薬品集 1990」平成2年8月20日 株式会社 薬業時報社 1214~1215頁
甲第5号証の4:無効審判事件(平成9年審判第21438号)における被請求人提出の平成12年8月8日付け上申書添付の実験報告書
甲第5号証の5:P.SOCHA 外2名 Clinical Nutrition,1996年,Vol.15,p.34~35
甲第5号証の6:特開昭52-114487号公報
甲第6号証:特許第2088101号に対する無効審判事件(平成9年審判第21438号)における被請求人提出の平成9年12月19日付け無効審判請求書
甲第7号証:特開平7-61925号公報
甲第8号証:特開平7-89856号公報
甲第9号証:渡辺啓、竹内敬人共著 「総合力完成 化学」1983年2月25日 株式会社旺文社 244~247頁
甲第10号証:第1次無効審判事件における被請求人提出の平成29年6月19日付け審判事件答弁書
甲第11号証:第2次無効審判事件における被請求人提出の平成31年2月19日付け訂正請求書
甲第12号証:第2次無効審判事件における被請求人提出の平成31年2月19日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲
甲第13号証:特開2002-702号公報
甲第14号証:東京地裁平成30年(ワ)第29802号特許侵害差止請求事件の原告第7準備書面の「無効理由3」(記載要件違反)に係る部分 45~54頁
甲第15号証:特開2001―252333号公報
甲第16号証:「栄養輸液用複室バッグキットの開発とその課題」ファームテクジャパン 平成12年1月1日 16巻1号 105~113頁
甲第17号証:特開昭59-16817号公報
甲第18号証:特開平9-87177号公報
甲第19号証:実験報告書 2019年6月14日 請求人従業者 坂口慶輔、鈴木茂幸
甲第20号証:実験報告書2 2019年10月30日 請求人従業者 坂口慶輔、鈴木茂幸
甲第21号証:東京地裁平成30年(ワ)第29802号特許侵害差止請求事件において被請求人が提出した実験報告書 2019年8月20日 被請求人従業者 木内保太、服部元康
甲第22号証:「医療薬 日本医薬品集 2001(第24版)」財団法人日本医薬情報センター 平成12年11月2日(国立国会図書館受入日) 株式会社 じほう 715~733頁
甲第23号証:実験報告書3 令和2年3月19日 請求人従業者 坂口慶輔、鈴木茂幸
なお、証拠の認否について、被請求人は、甲第1号証~甲第23号証について成立を認めるとしている。
第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件の審判の請求は、成り立たない
。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」である(第1回口頭審理調書、審判事件答弁書「6.答弁の趣旨」)。
そして、被請求人は、請求人が主張する上記無効理由は、審判事件答弁書
、上申書、口頭審理陳述要領書において、理由がない旨の主張をしていると
認める。
2 証拠方法(乙第1号証~乙第6号証)
被請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:発明協会のホームページにおける平成27年度四国地方発明表
彰の掲載ページ(http://koueki.jiii.or.jp/hyosho/chihatsu/H27/jusyo_s
ikoku/detail/monbukagaku.html)公益社団法人発明協会 平成31年1月15日印刷
乙第2号証:特開平4-210629号公報
乙第3号証:静脈経腸栄養年鑑2000 製剤・器具一覧 第2巻 株式会
社ジェフコーポレーション 2000年5月15日 第16~23頁
乙第4号証:JIS K0116 発光分光分析通則(平成7年3月1日改
正)、第2刷 財団法人日本規格協会 平成7年10月10日
乙第5号証:衛生化学 第41巻第2号 中川順一,土屋悦輝 1995年
第116~126頁
乙第6号証:実験報告書 2020年1月14日 被請求人従業者 木内保太、服部元康
なお、証拠の認否について、請求人は、乙第1号証~乙第6号証については成立を認めるとしている。
第6 証拠の記載
1 甲号証の記載事項及び認定事実
(1)甲第1号証:特開平11-158061号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の記載がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、溶液(A)がビタミンB1を含有し、溶液(B)が葉酸を含有し、溶液(C)がビタミンCを含有し、更にビタミンB2が溶液(B)又は溶液(C)に配合され、かつ溶液(A)がpH3.5~4.5、溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5~7.5であることを特徴とする中心静脈投与用輸液。
【請求項2】 溶液(A)が、更にパントテン酸誘導体を含有し、ビタミンB2が溶液(C)に配合されている請求項1記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項3】 溶液(B)が、更にビタミンB12を含有する請求項1又は2記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項4】 溶液(A)が、更にビタミンB6を含有し、溶液(B)が、更にニコチン酸誘導体を含有し、溶液(C)が、更にビオチンを含有する請求項1~3のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項5】 溶液(A)が、更にビタミンB6、ビタミンB12、ニコチン酸誘導体、パントテン酸誘導体及びビオチンを含有する請求項1記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項6】 溶液(C)中の脂溶性ビタミンが、界面活性剤により可溶化されている請求項1~5のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項7】 溶液(C)が、少なくとも内壁がビタミンDを実質的に吸着しない材質からなる容器に封入されている請求項1~6のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項8】 溶液(C)が、少なくとも内壁がガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリロニトリル、環状ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート及びポリ弗化エチレンから選ばれる材質からなる容器に封入されている請求項7記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項9】 連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ容器(A)及び溶液(B)が収容され、そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が、用時連通可能に接続されてなる請求項1~8のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。
【請求項10】 更に、電解質を溶液(A)及び/又は溶液(B)及び/又は溶液(C)に配合した請求項1~9のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。」
(1b)「
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する。
【0002】
【従来の技術】消化器手術の術後患者等は、経口摂取が不可能な場合が多いので、このような患者の栄養管理は、一般に中心静脈からの高カロリー輸液(IVH)により行われている。IVHは、上記患者の栄養状態を改善し且つ良好に保つことにより、患者の回復、治癒を促進し、その効果は絶大なものであるので、今や外科治療の分野で広く普及している。
【0003】IVHでは、通常、栄養源である糖質及びアミノ酸と、電解質が投与される。そして、IVH用の輸液製剤としては、これらを全て含んだものが開発されており、一般に、メイラード反応を起こすブドウ糖とアミノ酸を2室容器に分別収容したタイプの製剤が市販されている。
【0004】ところで、IVHを施行する際、その期間が比較的長期になると、輸液製剤に含まれていない微量元素やビタミンの欠乏症が問題となってくる。特に、ビタミンB1は、糖代謝において消費されるために欠乏に陥り易く、それにより重篤なアシドーシスが惹起する。従って、IVHが短期間(1週間程度)で終わらない場合は、ビタミンを併用することが不可欠である。しかして、ビタミンは、安定性に欠けるため、専ら混合ビタミン剤や総合ビタミン剤の形態で単独に製剤化され、用事にIVH製剤に混注されている。しかし、混注操作は煩雑なうえに、操作時に細菌汚染の虞があるので、作業に効率性と慎重性の両方が要求され、担当者に多大な負担を強いているのが現状である。
【0005】このため、上記のような混注作業を簡便にすべく、2室容器タイプのIVH製剤にビタミンを配合することが試みられている。例えば、2室の一方に脂肪と糖を、他方にアミノ酸と電解質を収容し、種々のビタミンをそれぞれどちらかに収容することが行われている(特開平6-209979号公報、特開平8-709号公報)。しかして、ここで用いられる脂肪は重要な栄養源ではあるが、脂肪の投与は必ずしも全ての患者に許容されるものではなく、例えば高脂血症、肝障害、血栓症、糖尿病ケトーシス等の患者には、脂肪の投与は禁忌とされている。また、脂肪は患者によってその至適投与量が異なる場合があり、単独投与が望まれることもある。しかしながら、前記のような製剤では脂肪を配合することによって特定のビタミンが安定化されているため、脂肪を除いた場合には、ある種のビタミン(例えばビタミンB2)を安定に保持することは困難であった。
【0006】また、水溶性ビタミンB類を安定に配合するために、輸液のpHを酸性にしたり亜硫酸イオンを配合しない試みがなされている(特開平8-143459号公報)。しかしながら、当該輸液においては、ビタミンB1は安定に配合されているが、他のビタミン類については具体的に示されていない。
【0007】IVHにおいて、ビタミンB1の欠乏は上記の通り大きな問題であるが、他のビタミンの欠乏も決して無視できるものではない。例えば、病態によっては、ビタミンCの欠乏で粘膜など組織での出血が起こったり、ビタミンB2の欠乏により口内炎、口角炎、舌炎等が発症する虞がある。更に、ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏による貧血等の合併症も報告されている。
【0008】更に、ビタミンDは、ポリエチレンやポリプロピレン製容器に収容された薬液に添加してそのまま長期保存した場合、その含量が著しく低下してしまう。従って、患者にビタミンD欠乏によるカルシウム吸収障害や骨脆化を来たす虞も出てくる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することにある。」
(1c)「
【0012】
【発明の実施の形態】本発明の中心静脈投与用輸液は、還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなり、用時に混合して使用されるものである。溶液(A)に配合される還元糖としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等が挙げられ、血糖管理などの点で、特にブドウ糖が好ましい。また、これらの還元糖以外にキシリトール、ソルビトール、グリセリン等の非還元糖を配合することもできる。」
(1d)「
【0015】また、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸で、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-セリン、L-チロシン、グリシン等が挙げられる。これらのアミノ酸は、純粋結晶状アミノ酸であるのが好ましい。また、これらのアミノ酸は、通常遊離アミノ酸の形態で用いられるが、特に遊離形態でなくてもよく、薬理学的に許容される塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできる。
【0016】これらのアミノ酸の溶液(B)における好ましい配合量(遊離形態で換算)は以下のとおりである。
【0017】
【表1】
[図:0001387705000001.jpg]
【0018】溶液(B)には、更に葉酸が配合され、pH5.5~7.5、好ましくは6.0~7.0に調整される。pHの調整は、通常用いられる種々の有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を適宜使用して行うことができる。また、葉酸は、溶液(B)の半日~1日投与分の液中に、0.1~1mg、特に0.1~0.7mg配合するのが好ましい。」
(1e)「
【0033】なお、溶液(B)には、安定化剤として亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩を添加することもでき、その場合、溶液(B)中に50mg/l以下配合するのが好ましい。
【0034】本発明の輸液は、溶液(A)、溶液(B)及び溶液(C)の3液からなり、これらを収容するための容器は特に制限されないが、例えば溶液(A)及び溶液(B)を連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室に収容し、更にそのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器を用時連通可能に接続したものが挙げられる。溶液(A)及び溶液(B)を収容するための容器としては、連通可能な隔壁で隔てられた2室容器であれば特に制限されず、例えば、隔壁が易剥離性溶着により形成されたもの(特開平2-4671号公報、実開平5-5138号公報等参照)、室間をクリップで挟むことにより隔壁が形成されたもの(特開昭63-309263号公報等参照)、隔壁に開封可能な種々の連通手段を設けたもの(特公昭63-20550号公報等参照)などが挙げられる。これらのうち、特に隔壁が易剥離性溶着により形成されたものが、大量生産に適しておりまた連通作業も容易であるので好ましい。」
(1f)「
【0037】一方、溶液(C)を収容する容器としては、ビタミンDが吸着されてしまわないように、少なくとも内壁がビタミンDを実質的に吸着しない材質であるのが好ましい。そのような材質としては、例えばガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリロニトリル、環状ポリオレフィン、ポリアミド(ナイロン等)、ポリカーボネート、ポリ弗化エチレン(テフロン等)などが挙げられる。」
(1g)「
【0039】また、溶液(C)を収容する容器の他の例としては、図4に示すような、2室容器の一方の口部内に小室を形成し、用時に針で刺通するようにしたものや、図5に示すような、2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋などを例示することができる。
【0040】更に、上記のような容器に収容された本発明の輸液は、変質、酸化等を確実に防止するために、該容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装するのがよく、とりわけ容器として、隔壁が易剥離性溶着により形成されたものを採用した場合は、外圧により隔壁が連通しないように該隔壁部にて折り畳まれた状態で包装するのが好ましい。また、必要に応じて不活性ガス充填包装等を行うこともできる。」
(1h)「
【0043】なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」
(1i)「
【0046】実施例1
注射用蒸留水にブドウ糖及び電解質を溶解し、酢酸でpH4として、糖電解質液を調製した。更に、ビタミンB1(塩酸チアミン)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ニコチン酸アミド、パンテノール及びビオチンを注射用蒸留水に溶解し、これを上記糖電解質液と混合し、無菌濾過して、表2に示した組成の溶液(A)を調製した。また、各結晶アミノ酸及び電解質を注射用蒸留水に溶解し、酢酸でpH6とした後、葉酸を加えて無菌濾過し、表2に示した組成の溶液(B)を調製した。なお、溶液(B)には、安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/lとなるように添加した。溶液(A)の600ml及び溶液(B)の300mlを、それぞれ窒素置換下、ポリエチレン製2室容器の各室に充填し、密封した後、常法に従い高圧蒸気滅菌を行った。
【0047】これとは別に、ビタミンA(パルミチン酸レチノール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、ビタミンE(酢酸トコフェロール)及びビタミンK(フィトナジオン)をポリソルベート80(溶液(C)中の濃度=33mg/l)により可溶化した後、注射用蒸留水に溶解し、更にビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)及びビタミンC(アスコルビン酸)を加え、水酸化ナトリウムでpH6とした後、無菌濾過して、表2に示した組成の溶液(C)を調製した。溶液(C)の4mlをガラス容器に充填し、テフロンコーティングゴム栓で密封した後、常法に従い高圧蒸気滅菌を行った。これを、上記2室容器の溶液(B)側の口部に、無菌室中にて両頭針を介して取付け(図2参照)、本発明の中心静脈投与用輸液を得た。
【0048】実施例2
実施例1と同様にして、表2に示した組成の溶液(A)、溶液(B)及び溶液(C)を調製した。溶液(A)の600ml及び溶液(B)の300mlを、それぞれ窒素置換下、ポリエチレン製の2室容器の各室に充填し、溶液(A)側に、ポリエチレンテレフタレート製小室を備えたポリエチレン製口部材を熔着して、密封した。次に、上記口部材の小室中に溶液(C)の4mlを充填し、テフロンコーティングゴム栓で密封した後、常法に従い高圧蒸気滅菌を行い、本発明の中心静脈投与用輸液を得た。
【0049】
【表2】
[図:0001387705000002.jpg]
」
(1j)「
[図:0001387705000003.jpg]
」(【図5】)
(2)甲第2号証:実願平3-94870号(実開平5-5138号)のCD-ROM
本件特許出願の出願日前に電子情報媒体の形で頒布された甲第2号証には、次の記載がある。
(2a)「
【0032】
【考案の効果】
上記本考案の輸液バッグによると、輸液バッグの一方の薬液収容室に軽い押圧荷重を加えることにより、バッグ本体の破損を招来することなく、弱シール部を容易に剥離することができるという特有の効果があり、異種の薬液を混和させる際の弱シール部の剥離を確実に行うことができ、医療用としても安全で使いやすい輸液バッグを提供することが可能になる。」
(3)甲第3号証:日本薬局方(第14改正)(抄)通則、製剤総則、一般試験法「39.注射剤用ガラス容器試験法」及び「55.プラスチック製薬品容器試験法」
本件特許出願の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第3号証には、次の記載がある。
(3a)「製剤総則」の「17.注射剤」の項目に「(10)本剤の容器は,注射剤用ガラス容器試験法の規定に適合する無色のものを使用する.ただし,別に規定する場合は,注射剤用ガラス容器試験法の規定に適合する着色容器又はプラスチック製医薬品容器試験法の規定に適合するプラスチック製水性注射剤容器を使用することができる.」との記載がある。そして、「一般試験法」の「39.注射剤用ガラス容器試験法」との項目の記載と、「55.プラスチック製医薬品容器試験法」の項目中に、「プラスチック製水性注射剤容器」として、「1.ポリエチレン製又はポリプロピレン製水性注射剤容器」「2.ポリ塩化ビニル製水性注射剤容器」「3.その他の水性注射剤容器」との項目の記載がある。
(4)甲第4号証:高木洋治 外5名「静脈栄養施行時の微量元素動態-微量元素製剤のon-off study-」JJPEN 輸液・栄養ジャーナル
本件特許出願の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第4号証には、次の記載がある。
(4a)「IV.結語
長期静脈栄養施行時に,投与しなければ亜鉛,銅など種々の欠乏症を来すことはすでに多くの報告があり,欧米においては各種微量元素製剤が市販されているが,わが国においてはいまだ投与基準も明らかでなく,微量元素製剤も市販されていない.そこでわれわれが院内製剤としてルーチンに使用している微量元素製剤を使用している長期静脈栄養施行患者に一時この微量元素製剤の投与を中止したところ,たとえ短期間であっても種々の欠乏症や血漿レベルの低下がみられることがあり,長期の静脈栄養では微量元素製剤の常時投与の必要性が示された.このことは微量元素製剤の市販化が一刻も早く実現することが望まれる由縁である.」(518頁右欄 IV.結語の欄)
(5-1)甲第5号証の1:特許第2088101号に対する無効審判事件(平成9年審判第21438号)における被請求人提出の平成12年8月8日付け上申書
(5-1a)「○1(審決注:原文は、丸数字)総合アミノ酸製剤「モリプロンF」の製造・販売
(承認番号:(56AM)903、ヘキスト・マリオン・ルセル(株)製)
当該アミノ酸製剤は、添付する能書(甲第26号証)からもわかるようにシステインを含む17種類のアミノ酸と亜硫酸水素ナトリウムを含むアミノ酸輸液が硫化水素透過性容器に充填されており、且つ該輸液充填容器が脱酸素剤と共に気密性容器に封入されてなる、二重包装型アミノ酸輸液製剤である。
なお、添付の能書(甲第26号証)は1998年に頒布されたものであるが、1990年の医療薬「日本医薬品集」(甲第27号証)から明らかなように、製品そのものは本願出願以前より製造販売されていた。」(2頁4~12行)
(5-1b)「(ii)外袋から脱酸素剤を除くと、40℃、75%RH条件下の保存で、外袋内に硫化水素による異臭が発生すること、」(2頁17~18行)
(5-1c)「○3(審決注:原文は、丸数字)なお、上記実験で確認された、亜硫酸水素ナトリウムの存在下でもシステインは分解して硫化水素を発生するという現象については、Clinical Nutrition (19996)15:34-35(甲第29号証)にも報告されている。」(2頁24~26行)
(5-2)甲第5号証の2:総合アミノ酸製剤「モリプロンF」添付文書
本件特許出願の出願前公知の甲第5号証の2には、次の記載がある。
(5-2a)「〔使用上の注意〕
1.禁忌(次の患者には投与しないこと)
(1)肝性昏睡又は肝性昏睡のおそれのある患者[アミノ酸インバランスを助長し、肝性昏睡を悪化又は誘発させるおそれがある。]・・・」
(5-2b)「〔取扱い上の注意〕
・・・
(5)製品の安定性を保持するため脱酸素剤を封入しているので、使用時まで包装は開封しないこと。」
(5-3)甲第5号証の3:「医療薬 日本医薬品集 1990」財団法人
日本医薬情報センター
本件特許出願の出願前公知の甲第5号証の3には、次の記載がある。
(5-3a)「 総合アミノ酸製剤 325
モリプロン-F
・・・
○6(審決注:原文は、丸数字)規制等:モリプロンF
・・・」
(5-4)甲第5号証の4:実験報告書 加賀順二
本件特許出願の出願前公知の甲第5号証の4には、次の記載がある。
(5-4a)「(1)総合アミノ酸製剤「モリプロンF」の外袋内の硫化水素の確認」(1頁の2.実験の項)
(5-4b)「(2)総合アミノ酸製剤「モリプロンF」のアミノ酸輸液(充填容器)からの経時的な硫化水素生成の有無」(2頁の2.実験の項)
(5-4c)「(2)において40℃の保存条件で経時的な硫化水素の生成を調べたところ、アミノ酸輸液から内袋(充填容器)を通して外部(外袋内)に硫化水素が発生していることが確認された。」(3頁の3.考察の項)
(5-5)甲第5号証の5:“Hydrogen sulfide in parenteral amino-acid solutions”,Clinical Nutrition,Vol.15,(1996)pp.34-35
訳文で示す。
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証の5には、次の記載がある。
(5-5a)「短報
非経口アミノ酸溶液中の硫化水素
摘要---我々は以前、小児科用のアミノ酸溶液の中に、製造過程で明らかにシステインから形成される、かなりの濃度の硫化水素(H2S)を報告した。製造業者はこのような溶液中で毒性を持つ可能性のあるH2Sの含有量を減らすことを目指すと我々に約束したので、我々の最初の報告から2年後にさらに低い量が達成されたのかどうかを判定した。・・・」(34頁、標題、要約)
(5-5b)「結果
硫化水素濃度は調べたアミノ酸溶液によって異なっていた(表1)。H2Sはシステインを含んでいない2つの薬剤では検出できなかった。システインを含んだ溶液では、H2Sの濃度は製品中のシステイン濃度とは密接には関係していなかった。」(34頁右欄1~6行)
(5-6)甲第5号証の6:特開昭52-114487号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証の6には、次の記載がある。
(5-6a)「2.特許請求の範囲
1 亜硫酸カルシウムおよび活性炭を主成分とする実質的に水分が存在する雰囲気中の酸素を吸収する酸素吸収剤。
2 水を含有する特許請求の範囲第1項記載の酸素吸収剤。
3 亜二・チオン酸ナトリウムを含有する特許請求の範囲第1項又は第2項記載の酸素吸収剤。
4 亜硫酸カルシウムがO2を吸収して酸化される反応の酸化促進剤として、次のI)~III)に示した物質から選ばれる1種または2種以上の物質を含有する特許請求第1項乃至第3項のいずれかに記載の酸素吸収剤。
I)バナジウムの酸化物とその塩
II)酸化鉄
III)マンガンの酸化物とその塩
5 亜硫酸カルシウムおよび活性炭を主成分とする酸素吸収剤を生鮮食料品の鮮度保持剤として使用する生鮮食料品の鮮度保持法。」(1頁左下欄4行~右下欄3行)
(5-6b)「生鮮食料品、例えば果実、果菜類および野菜類はあるいは魚介類は通常かなり十分の水を含有しているから、酸素吸収剤自体は必ずしも水分を含有していなくても使用開始時により徐々に生鮮食料品中の水分を吸収することにより酸素吸収効果は発揮する。
酸素吸収剤は各成分を混合し、適宜練り合せ、ペレート状、粒状、粉末状等種々の形状にして布や紙あるいは微小は孔を有するフイルム等に封入し、更にこれらの包装物をできるだけ通気性のないフイルムの袋等に密封し、使用時に通気性のない袋から取り出し、目的とする生鮮食料品の包装ケースに収納させればよい。
叙上の如く、本発明の酸素吸収剤はO2吸収作用に優れ、またその効果が長時間にわたつて持続し、SO2,H2Sの発生を制御することもでき、従つてこれを生鮮食料品の鮮度保持剤として使用するときはO2吸収作用およびその持続性の故に生鮮食料品の鮮度を長期間にわたり保持することができる。」(4頁右上欄7行~左下欄6行)
(6)甲第6号証:特許第2088101号に対する無効審判事件(平成9年審判第21438号)における被請求人提出の平成9年12月19日付け無効審判請求書
(6a)「(4)本件特許の実施例で使用されているエージレスのように、鉄を含有する脱酸剤が酸素だけでなく硫化水素と反応して硫化鉄を生成することにより硫化水素を吸着除去することは、甲第9号証2頁左下欄から右下欄、3頁右上欄から左下欄、5頁左上欄等に記載されるように周知の事項であり、・・・」(6頁1~4行)
(6b)「しかしながら、特許権者も認めるように、脱酸素剤が硫化水素を吸収することは本願出願前に公知であり、輸液充填容器を脱酸素剤と共に気密性容器に封入した場合に、脱酸素剤が硫化水素透過性容器の硫化水素を除去することも公知である。・・・アミノ酸輸液中の溶存硫化水素は、空間部の硫化水素と平衡になっていることから、空間部の硫化水素が脱酸素剤によって除去できれば、輸液中の硫化水素が順次空間部に移行するため除去できると考えるのは当業者の常識にすぎない。」(8頁5~15行)
(7)甲第7号証:特開平7-61925号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の記載がある。
(7a)「
【0002】
【従来技術とその課題】従来より、経静脈投与等により使用されるアミノ酸輸液は、各種の必須アミノ酸及び非必須アミノ酸が配合され、経口的に栄養源を摂取することが不可能であるかもしくは困難である患者に投与適用されている。かかるアミノ酸輸液はまた、その構成成分として通常システイン、シスチン等の含硫アミノ酸が配合されるが、その配合によれば、該アミノ酸輸液の製造時の加熱滅菌工程において、之等が熱分解して硫化水素が発生し、異臭の原因となる。この異臭の発生は、上記製造工程のみならず、例えば輸液製品の保存中にもしばしば認められ、重大な問題となっている。また高カロリー輸液では、一般に上記のごときアミノ酸輸液に更に微量元素製剤が配合されるが、この場合には、上記発生する硫化水素が亜鉛、鉄、銅、マンガン等と反応して硫化物の着色沈殿を生成させる不利も認められる。
【0003】従って、従来より、上記システインやシスチン等の含硫アミノ酸を配合したアミノ酸製剤の調製に当っては、製剤中に安定化剤として亜硫酸塩や重亜硫酸塩を添加配合して、上記硫化水素の発生を防止する手段が一般に採用されてきた。上記亜硫酸塩等は抗酸化性物質として通常食品や飲料水、医薬品等にその添加配合の認められているものである。
【0004】しかるに、近年、喘息患者やアトピー性非喘息患者等の一部の感受性の高い患者について、上記アミノ酸輸液中の亜硫酸塩及び重亜硫酸塩による気管支痙攣やアナフィラキシーショック等の副作用が報告されるに至り、かかる副作用を伴うおそれのある安定化剤の使用回避が叫ばれている現状にある。
【0005】更に、アミノ酸輸液はビタミン製剤と混注して投与されることも多く、この場合でも該輸液中に亜硫酸イオンが共存すれば、ビタミン製剤中のチアミンが分解することが知られており、かかるチアミンを含むビタミン製剤の混注はできない不利がある。」
(8)甲第8号証:特開平7-89856号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の記載がある。
(8a)「
【0006】以上のように、含硫アミノ酸を含むアミノ酸製剤においては、その安定化剤としての亜硫酸塩及び重亜硫酸塩の使用に代替できる硫化水素発生防止策ともいうべき新しい技術の開発が斯界で急務とされつつあるが、今だ充分に満足できる手段は開発されるに至っていない。
【0007】特に最近、輸液を充填した容器を脱酸素剤と共に外装気密性容器に封入する方法が提案された(特開平4-210629号公報参照)が、これはあくまでも脱酸素を目的としており、副次的に硫化水素をある程度除去できる場合があるに過ぎず、決して充分な硫化水素除去効果を奏し得るものではなく、また硫化水素の除去にかなりの長時間を要し実用的でない不利があった。
【0008】更に、システイン等は、酸化されると分解して、硫化水素(H2S)を発生し、これが悪臭の原因となる。この悪臭の発生は、アミノ酸輸液の製造時の加熱滅菌工程のみならず、例えば輸液製品の保存中にもしばしば認められる。また高カロリー輸液では、一般に上記のごときアミノ酸輸液に更にミネラルや微量元素製剤が配合されるが、この場合には、上記発生する硫化水素が亜鉛、鉄、銅、マンガン等と反応して硫化物の着色沈殿を生成させる不利も認められる。上記システイン等の酸化分解乃至これに伴われる硫化水素発生の問題は、殊に製剤中に抗酸化剤としての亜硫酸塩や重亜硫酸塩を配合しない製剤の場合に重大である。」
(9)甲第9号証:渡辺啓、竹内敬人共著 「総合力完成 化学」1983年2月25日
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の記載がある。
(9a)「CuSO4+H2S→H2SO4+CuS↓(黒色)」(247頁19行)
(10)甲第10号証:第1次無効審判事件における被請求人提出の平成29年6月19日付け審判事件答弁書
甲第10号証には、以下の記載がある。
(10a)「・・・この新たな知見における微量金属元素収容容器は、本件訂正発明1の構成のとおり、熱可塑性樹脂フィルム製のものであることを前提にしている。
仮に、本件訂正発明1の容器が、引用発明のように肉厚でガスバリヤー性が高いものであれば、本件訂正発明1の上記の発明の課題や知見が生じる余地はない。」(15頁5~17行)
(11)甲第11号証:第2次無効審判事件における被請求人提出の平成31年2月19日付け訂正請求書
甲第11号証には、請求項1,2に関して、それぞれ、本件訂正と同一の訂正事項1、訂正事項2が、請求項10,11に関して、それぞれ、本件訂正と同一の訂正事項6、訂正事項7、訂正事項8が記載されている(訂正事項3~5についても、本件訂正と同一である。)。
(12)甲第12号証:第2次無効審判事件における被請求人提出の平成31年2月19日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲
甲第12号証には、本件訂正における本件訂正特許請求の範囲と同一の訂正特許請求の範囲が記載されている。
(13)甲第13号証:特開平11-158061号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、次の記載がある。
(13a)「
【特許請求の範囲】
【請求項1】 医療用液体を封入する樹脂製容器であって、
袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室に区画され、接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され、
ポート部材は、閉鎖体、筒体及び保持具を備え、閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成されることを特徴とする容器。」
(13b)「
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、医療用液体、例えば、静脈投与用輸液剤、液状栄養剤、腹膜透析液などを収容する可撓性容器に関し、特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器、及び可撓性容器に組込まれ溶着により生じる不要粒子を散逸させないポート部材に関する。」
(13c)「
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的は、医療用液体中に可塑剤の溶出の可能性がなく廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供することである。本発明の他の目的は、ポート部材と容器本体の樹脂フィルムとの間の接着不良のない樹脂製容器を提供することである。本発明の別の目的は、ポート部材の筒体とキャップ状の保持具との間に滅菌加熱による容器内部の高圧に耐える十分な強度の溶着部を備えるポート部材を提供することである。本発明の更に別の目的は、筒体と保持具との間の溶着部の形成により生じるハミダシ(バリ)を散逸しないポート部材を提供することである。
【0008】本発明の更に別の目的は、容器本体を複数の分室に区画する剥離可能な接着部を容易に製造できる樹脂製容器を提供することであり、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分を変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することである。」
(13d)「
【0012】(2)容器本体は、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体からなる単層の樹脂フィルムで形成される。(3)容器本体は、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体からなる内層を備える多層の樹脂フィルムで形成される。(4)筒体及び容器本体の内壁面を構成するプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体は、プロピレン-エチレンランダム共重合体である。(5)容器の滅菌後の透明度が80%以上である。」
(13e)「
【0018】
【発明の実施の態様】図面を参照し、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明の医療用液体を封入する多室容器の実施例の概略平面図、図2は、図1の多室容器の概略側面図、図3は、図1の線T-Tに沿うポート部材付近の断面図である。これらの図において、対応する部分には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。図1~図3において、医療用液体を封入する樹脂製容器1は、袋状の樹脂製容器本体2及び3つのポート部材3、3を備える。容器本体2は、接着部18,19により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にされる。」
(13f)「
【0021】ここで本発明容器及び本発明容器を他の容器と組み合わせたキット製剤とした場合、収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等の還元糖、従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種のアミノ酸が挙げられる。なお、各アミノ酸は遊離形態である必要はなく、金属塩、有機酸塩等の薬理学的に許容される塩の形態でもよい。また、各アミノ酸は、生体内で加水分解され遊離アミノ酸に変換されるエステルの形態でもよい。さらに、上記各アミノ酸はそれ等の一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態、例えばN‐アセチル‐L‐システインの形態としてもよい。
【0022】還元糖とアミノ酸以外の成分としては、栄養補給等を目的とした大豆油、綿実油、サフラワー油、トウモロコシ油、ヤシ油、シソ油、エゴマ油、アマニ油等の植物油、魚油、化学合成トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド等を挙げることができる。また、水溶性及び脂溶性の各ビタミン、例えばパルミチン酸レチノール、塩酸チアミン、リン酸リボフラビンナトリウム、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸、コレカルシフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、葉酸、ビオチン、メナテトレノン、フィトナジオン等を、また電解質及び微量元素(ミネラル)として塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸二カリウム、リン酸一ナトリウム、グリセロリン酸カルシウム、塩化第二鉄、塩化マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛、ヨウ化カリウム等を挙げることができる。前記各成分の配合量は、投与される患者の要求量によって適宜決定される。」
(13g)「
【0024】本発明の容器は、前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備している。好ましい態様としては、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができる。これにより、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できる。同様に、経腸成分栄養剤についての前述の効果を奏する。」
(13h)「
【0032】容器本体は、図8の非PVC(非塩化ビニル)多層フィルム6に代えて、単層のVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、好ましくは、プロピレン-エチレンランダム共重合体、例えば、三菱化学から販売されている商品名SPX8000番シリーズ、SPX9000番シリーズにより形成され得る。容器を形成する樹脂は、環境ホルモンとしての問題が懸念されるスチレン系エラストマーを含有しないものが適している。」
(13i)「
[図:0001387705000004.jpg]
[図:0001387705000005.jpg]
[図:0001387705000006.jpg]
」
(14)甲第14号証:東京地裁平成30年(ワ)第29802号特許侵害差止請求事件の原告第7準備書面の「無効理由3」(記載要件違反)に係る部分 45~54頁
甲第14号証では、「本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例1及び比較例の輸液製剤と・・・被告が実施例1の追試、比較例の追試と称するものとを対比すると、前者は溶液(A)及び溶液(B)が窒素置換下で充填されているのに対し、後者は溶液A及び溶液Bが空気存在下で充填した後に空間部の空気を抜き取っている点、並びに前者の微量金属収容容器が図1又は図4に示される位置に挟着されているのに対し、後者の微量金属元素収容小袋が・・・図21○(原文は丸数字)又は2○に示される位置に熱溶着されている点、相違している。
したがって、後者は前者の追試ではない・・・。
よって、「本件明細書の段落【0065】に記載された安定性試験の結果は、追試により確認できる結果ではない」などと結論付けることはできない。」(48頁図下1行~49頁10行)、「また、硫化水素と微量金属元素が反応して着色沈殿を生じることが、本件出願前に知られていた・・・以上、比較例における着色が微量金属元素によるものであることは、あえて確認するまでもなく明らかなことである。」(50頁10~13行)との記載がある。
(15)甲第15号証:特開2001―252333号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、次の記載がある。
(15a)「
【特許請求の範囲】
【請求項1】 薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、前記薬液室を露出した状態で前記薬剤室が被覆部材により仕切部まで気密に覆われた複室容器において、前記薬剤室の容器壁及び前記被覆部材がガス非透過性及び/または水蒸気非透過性を有することを特徴とする医療用複室容器」
(15b)「
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、薬剤室だけを被覆部材により気密に覆った可撓性の複室容器に係り、特に、薬液室に収容された薬剤の吸湿や酸化等の変質を防止することができる医療用複室容器に関する。」
(15c)「
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、吸湿性或いは易酸化性の薬剤は製造工程中にも湿度及び/または酸素含有量が十分に低い雰囲気下で取り扱う必要があるが、このような複室容器では薬剤室の容器壁が酸素等のガス或いは水分の透過性を有するものであるため、製造工程中で薬剤を薬剤室に充填して密封しても被覆部材で気密にシールするまでは水分や酸素含有量の十分に低い雰囲気を保たなければならない。そのため、脱ガス剤及び/または乾燥剤の収容作業や被覆部材の密封作業などを、全て水分や酸素含有量の低い雰囲気下で行わなければならず、製造に手間がかかるという問題点があった。さらに、このような複室容器では、バリヤー性材料からなる部材にシール不良やピンホールが発生したり長期間保存すると、バリヤー性材料からなる部材の内部に水分や酸素等が侵入するが、これが直接或いは薬剤室の容器壁を透過して薬剤室に侵入してしまうため、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じるという問題点もあった。」
(15d)「
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の医療用複室容器において、収容対象となる薬剤は、後述の薬液に混合して使用可能なものであれば特に制限されず、水分を吸湿することにより或いは酸素等のガスと反応することにより変質する吸湿性薬剤や易酸化性薬剤、例えば抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであってもよい。一方、薬液は、使用前に前述の薬剤と混合して、溶解、分散、或いは希釈等する液であり、例えば蒸留水、生理食塩水、10%以下のブドウ糖液等の安定な糖液、重炭酸塩含有液、並びに無機電解質及び有機電解質等を含んだ輸液、透析液、及び臓器保存液などが挙げられる。」
(15e)「
【0011】複数層積層する場合、該ガス透過性或いは水蒸気透過性の低い樹脂を複数層積層してもよいが、ポリエチレンやポリプロピレン等の薬液室の容器壁の内壁面を構成する材料として例示したような該ガス透過性或いは水蒸気透過性を有する材料層と組合わせて積層してもよい。さらに、前記ガス透過性及び/または水蒸気透過性を有する材料、或いは前記ガス非透過性及び/または水蒸気非透過性の材料の表面、裏面、若しくは両面、又は中間層に、金属、無機物などの非樹脂層からなるガス非透過性及び/水蒸気非透過性の材料層を積層して水蒸気透過性あるいはガス透過性をより低減してもよい。 前記非樹脂層としては、例えばアルミ等の金属薄膜層、アルミナ蒸着層、シリカ蒸着層等のセラミック蒸着層などが挙げられる。このように積層する場合、ガス透過性或いは水蒸気透過性を有する材料からなる内壁に、前記ガス透過性或いは水蒸気透過性の低い樹脂層や非樹脂層を有する外壁を貼付けて構成することも可能である。」
(15f)「
【0015】薬剤室3の外側は被覆材11で仕切部6まで気密に被覆されている。被覆部材11はポリエチレンからなる内層とポリエチレンテレフタレートから成る外層とを有するものであり、下端縁が仕切部7の外表面に強度に溶着されているとともに残りの周縁が互いに強度に溶着されている。さらに、被覆部材11の内部には乾燥剤13及び脱酸素剤14が収容されている。なお12は薬液室6に設けられた流出口である。」
(15g)「
[図:0001387705000007.jpg]
」
(16)甲第16号証:「栄養輸液用複室バッグキットの開発とその課題」ファームテクジャパン
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第16号証には、次の記載がある。
(16a)「アミノ酸は酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じるので,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを配合させてガラス瓶に収納されてきた。プラスチック製容器はEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等特殊な素材は別として,PEやPPはガス透過性が非常に高い(表4)。プラスチック製容器では,ガラス瓶のように酸素を取り除いて充填を行う方式が採用されても,製造直後より酸素が内溶液に透過してくるので,安定性を担保することができない。キット製品開発に先立ってアミノ酸輸液のプラスチック容器品が製造販売されており,今回のキット品でも同様の方式,すなわち,容器の外部に脱酸素剤を入れ,バッグと共にガス透過性の低いバリアー包材で包装する方式を採用した。」(110頁左欄下から8行~右欄1~5行)
(17)甲第17号証:特開昭59-16817号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第17号証には、次の記載がある。
(17a)「本発明は新規なアミノ酸輸液に関する。」(2頁左上欄3行)
(17b)「以下、本発明アミノ酸輸液の代表例につきそれらの製造例を挙げる。
製造例1
アミノ酸 g/l モル/l
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
L-システイン 1.40 0.0116
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
総アミノ酸量 100g/l 0.7929モル/l
上記組成となる量の各アミノ酸純結晶を注射用蒸留水に添加し、撹拌溶解した後、安定化剤として亜硫酸水素ナトリウム0.8gを加え、pH調節剤として酢酸を用いpHを約6.5にした。」(5頁左上欄2行~右上欄4行)
(18)甲第18号証:特開平9-87177号公報
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第18号証には、次の記載がある。
(18a)「
【0014】 **【表2】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
成分 濃度(1l当り)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
N-アセチル-L-システイン 1.100g
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(19)甲第19号証:実験報告書 2019年6月14日 請求人従業者 坂口慶輔、鈴木茂幸
本件請求人従業者作成の実験報告書には、「4.実験の目的」として、「実施例1の追試」、「比較例の追試」、微量金属元素を収容した小袋を糖・電解質輸液などの輸液を収容していない「空室」に収納した輸液製剤を作製し、微量金属元素(銅)の安定性試験をおこなった「実施例1の変更例A」、微量金属元素を収容した小袋を糖・電解質輸液などの輸液を収容していない「空室」に収納した輸液製剤を作製し、輸液容器と外袋の間に多数の「脱酸素剤」を封入した輸液製剤を作製し、微量金属元素(銅)の安定性試験をおこなった「実施例1の変更例B」によって、各例の安定性の確認することであることが示されている。
また、「5.実験の内容」として、「(2)安定性試験の実施」として、「ア 外観観察」「イ 微量金属元素(銅)の定量」が行われ、「オ 安定性試験の結果」として、実施例1の追試、比較例の追試、実施例1の変更例A、実施例1の変更例Bいずれにおいても、水分損失補正後の銅含量が減少したこと、60℃4Wでの外観観察で、着色がみられたことが示されている。
(20)甲第20号証:実験報告書2 2019年10月30日 請求人従業者 坂口慶輔、鈴木茂幸
本件請求人従業者作成の実験報告書2には、「4.実験の目的」として、アミノ酸輸液の充填は窒素置換下で行った後、アミノ酸輸液収容室の空間部における空気を抜き取り、窒素を「排出口」から注入し、また、微量金属元素を収容した小袋の収納位置はアミノ酸輸液収容室から離れた位置とし、微量金属元素を収容した小袋を糖・電解質輸液などの輸液を収容していない「空室」に収納した輸液製剤を作製し、微量金属元素(銅)の安定性試験をおこなった「実施例1の変更例A―N」、アミノ酸輸液の充填は空気存在下で行った後、アミノ酸輸液収容室の空間部における空気を抜き取り、窒素を「排出口」から注入し、また、微量金属元素を収容した小袋の収納位置はアミノ酸輸液収容室から離れた位置とし、微量金属元素を収容した小袋を糖・電解質輸液などの輸液を収容していない「空室」に収納した輸液製剤を作製し、微量金属元素(銅)の安定性試験をおこなった「実施例1の変更例A―A」の各例の安定性の確認することであることが示されている。
また、「5.実験の内容」として、「(2)安定性試験の実施」として、「ア 外観観察」「イ 微量金属元素(銅)の定量」が行われ、「オ 安定性試験の結果」として、実施例1の変更例A―N、実施例1の変更例A-Aいずれにおいても、水分損失補正後の銅含量が減少したこと、60℃4Wでの外観観察で、着色がみられたことが示されている。
(21)甲第21号証:東京地裁平成30年(ワ)第29802号特許侵害差止請求事件において被請求人が提出した実験報告書 2019年8月20日 被請求人従業者 木内保太、服部元康
本件被請求人従業者作成の実験報告書には、「4.実験の目的」として、「実施例1の変更例」として、微量金属元素を収容した小袋を糖・電解質輸液などの輸液を収容していない「空室」に収納した輸液製剤を作製し、微量金属元素(銅)の安定性試験をおこなったことが示されている。
また、「5.実験の内容」として、「(1)検体の作製」において、窒素置換下で充填したこと、本体容器及び脱酸素剤を遮光性ナイロン多層袋で包装したこと、及び「(2)安定性試験の実施」として、「ア 外観観察」「イ 微量金属元素(銅)の定量」が行われ、「オ 安定性試験の結果」として、実施例1の変更例において、開始時を100とした銅含量(%)が60℃4週間で99.5%であったこと、60℃2週間の外観観察で、着色が見られなかったことが示されている。
(22)甲第22号証:「医療薬 日本医薬品集 2001(第24版)」財団法人日本医薬情報センター
本件特許出願の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第22号証には、次の記載がある。
(22a)「無機質製剤 322
高カロリー輸液用微量元素製剤」の項目の「組成」の項目に、「1アンプル(2ml)中塩化第二鉄9.46mg,塩化マンガン3.958mg,硫酸亜鉛17.25mg,硫酸銅1.248mg,ヨウ化カリウム0.166mg。元素量(μmol)Fe35,Mn20,Zn60,Cu5,I1。pH4.5~6.0 浸透圧比:約0.6」との記載がある。(732頁)
(23)甲23号証:実験報告書3 令和2年3月19日 請求人従業者 坂口慶輔、鈴木茂幸
本件請求人従業者作成の実験報告書3には、「4.実験の目的」「5.実験の内容」として、検体の外袋の材質等が銅の安定性に及ぼす影響を評価するため、材質等が異なる3種類の外袋、すなわち、バリア層が、アルミ蒸着のもの(微量金属元素収容小袋の材質を変えて2種類)、アルミナ蒸着のもの、シリカ蒸着のものを使用して検体を作製し、実施例の変更例Aの4種類として安定性試験を行ったこと、小袋を本体容器に収納しないで外袋内に収納した参考例についても安定性試験を同様に行ったことが示されている。
また、「5.実験の内容」の「(2)安定性試験の実施」として、「ア 外観観察」「イ 微量金属元素(銅)の定量」が行われ、「オ 安定性試験の結果」として、各検体の銅含量(%)及び外観観察の結果が表に示されている。
2 乙号証の記載及び認定事実
(1)乙第1号証:発明協会のホームページにおける平成27年度四国地方発明表彰の掲載ページ(http://koueki.jiii.or.jp/hyosho/chihatsu/H27/jusyo_sikoku/detail/monbukagaku.html)公益社団法人発明協会
乙第1号証には、以下の記載がある。
(乙1a)「平成27年度四国地方発明表彰
文部科学大臣発明奨励賞
含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤(特許第4171216号)」として、「従来、輸液中には微量金属元素が含まれていないことより、長期投与では微量金属元素欠乏症がみられたが、含硫アミノ酸との化学反応により品質が劣化するため、細菌汚染の危険性があっても投与直前に輸液中に混合せざるを得なかった。本発明により、微量金属元素を安定に保持し、投与時無菌的に混合可能な高カロリー輸液製剤を提供することが可能となった。」との説明及び、「製品写真及びイメージ図」として「A:含硫アミノ酸および亜硫酸塩を含有する溶液」と「B:鉄、マンガンおよび銅からなる微量元素溶液」が示されている。
(2)乙第2号証:特開平4-210629号公報
本件特許出願の出願日前頒布された刊行物である乙第2号証には、次の記載がある。
(乙2a)「
特許請求の範囲
システイン、シスチン及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種を含有した亜硫酸イオンフリーのアミノ酸輸液が硫化水素透過性容器に充填されており、かつ該輸液充填容器が脱酸素剤と共に気密性容器に封入されていることを特徴とする亜硫酸イオンフリーの二重包装型アミノ酸輸液製剤。」(1頁左下欄5~12行)
(乙2b)「
(従来の技術)
経口的に栄養源を摂取することが不可能か又は困難な患者に投与されるアミノ酸輸液は、栄養効果を発揮するために、各種のアミノ酸が配合されている。とりわけ新生児や未熟児に投与される輸液は、これらの者にとって必須とされているシステインやシスチンが配合されている場合が多く、このようなシステインやシスチン等の含硫アミノ酸を含有する輸液は、加熱滅菌時や保存中に、硫化水素を主成分とする異臭が発生するので、従来から輸液中に安定化剤として亜硫酸ナトリウムや重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩や重亜硫酸塩が添加されてきていた。
しかしながら、亜硫酸塩や重亜硫酸塩を含む輸液は、過敏性体質の患者やアトピー性の患者に投与した場合、輸液中に存在する亜硫酸イオンにより、アレルギー性反応(例えば、ジンマ疹、かゆみ、喘鳴、アナフィラキシーショック等)を起こすことが報告されており〔フェデラル レジスター(Federal Register)50(22)47558-47563、医薬ジャーナル(1986.3.)22(3)158-159〕、亜硫酸イオンの存在は、決して望ましいものではない。」(1頁左欄最下行~2頁左上欄2行)
(乙2c)「本発明者らは、種々研究を重ねた結果、システイン、シスチン又はこれらの誘導体を含有する輸液を硫化水素透過性容器に充填し、更に該容器を脱酸素剤と共に気密性容器に封入すれば、加熱滅菌により発生した硫化水素が短時間で消失し、輸液中に亜硫酸塩や重亜硫酸塩を添加しなくても異臭のない安定な輸液を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、システイン、シスチン及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種を含有した亜硫酸イオンフリーのアミノ酸輸液が硫化水素透過性容器に充填されており、かつ該輸液充填容器が脱酸素剤と共に気密性容器に封入されていることを特徴とする亜硫酸イオンフリーの二重包装型アミノ酸輸液製剤である。」(2頁左上欄17行~右上欄11行)
(乙2d)「実施例1
<処 方>
L-イソロイシン 6.0 g
L-ロイシン 11.3 g
L-リジン塩酸塩 9.8 g
L-メチオニン 4.3 g
L-フェニルアラニン 9.7 g
L-スレオニン 5.0 g
L-トリプトファン 1・9 g
L-バリン 7.0 g
L-セリン 4.7 g
L-チロシン 0.6 g
L-アルギニン塩酸塩 15.0 g
L-ヒスチジン塩酸塩 7.0 g
L-アラニン 8.2 g
L-アスパラギン酸 2.0 g
L-グルタミン酸 1.0 g
アミノ酢酸 15.7 g
L-プロリン 10.6 g
L-シスチン 0.2 g
キシリト-ル 50.0 g」(4頁右下欄1行~5頁左上欄1行)
(乙2e)「実施例2
<処 方>
L-イソロイシン 16 g
L-ロイシン 30 g
L-リジン塩酸塩 26 g
L-メチオニン 11 g
L-フェニルアラニン 26 g
L-スレオニン 13 g
L-トリプトファン 5 g
L-バリン 18 g
L-セリン 12 g
L-チロシン 1.5 g
L-アルギニン塩酸塩 40 g
L-ヒスチジン塩酸塩 19 g
L-アラニン 21 g
L-アスパラギン酸 5 g
L-グルタミン酸 3 g
アミノ酢酸 41 g
L-プロリン 28 g
L-システイン・リンゴ酸塩 0.6 g
キシリトール 500 g」(5頁左上欄12行~右上欄12行)
(乙2f)「実施例3
<処 方>
L-イソロイシン 23 g
L-ロイシン 37 g
L-リジン塩酸塩 27 g
L-メチオニン 13 g
L-フェニルアラニン 21 g
L-スレオニン 13 g
L-トリプトファン 4.4 g
L-バリン 25 g
L-セリン 12 g
L-チロシン 1.4 g
L-アルギニン塩酸塩 19 g
L-アルギニン 15 g
L-ヒスチジン 13 g
L-アラニン 24 g
L-アスパラギン酸 1.4 g
L-グルタミン酸 3 g
アミノ酢酸 15 g
L-プロリン 19 g
L-アセチルシステイン 7 g
キシリトール 750 g
塩化カリウム 16 g
塩化マグネシウム(6H2O) 3 g
リン酸一水素カリウム 3 g
乳酸ナトリウム 28 g
乳酸 13 g」(5頁左下欄2行~右上欄8行)
(3)乙第3号証:静脈経腸栄養年鑑2000 製剤・器具一覧 第2巻 株式会社ジェフコーポレーション
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である乙第3号証には、次の記載がある。
(乙3a)アミノ酸液として、34種のうち、テルフィス(テルモ)、モリプロンF(味の素ファルマ)、プレアミン-P(扶桑薬品工業)、アミパレン(大塚製薬)、アミゼットB,XB(テルモ/田辺製薬)、アミニック(味の素ファルマ)、アミノレバン(大塚製薬)、キドミン(大塚製薬)、アミノフリード(大塚製薬)、マックアミン(日本製薬/武田薬品工業)、ネッスアミンE注(小林製薬工業)の12種を除いてL-システインが含まれていないことが示されている。
(4)乙第4号証:JIS K0116 発光分光分析通則(平成7年3月1日改正)、第2刷 財団法人日本規格協会
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である乙第4号証には、次の記載がある。
(乙4a)「3.用語の定義・・・
(1)発光分光分析 発光分光分析装置を用い,試料中含まれる分析対象元素をICP,スパーク放電,アーク放電などによって気化励起し,得られる原子スペクトル線の波長における発光強度を測定することによって,定量分析を,また,波長を同定することによって定性分析を行う方法(atomic emission spectrometry)。」(1頁13~17行)
(5)乙第5号証:衛生化学 第41巻第2号 中川順一,土屋悦輝 1995年
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である乙第5号証には、次の記載がある。
(乙5a)「ICP発光分析法は,多元素同時分析が迅速に行え,測定のダイナミックレンジが広いという特徴がある.また、高感度分析が可能であり,分析装置としての完成度が高い.さらに測定に際しては熟練を必要としないため応用範囲は極めて広く地球科学,環境,食品,生化学,工業材料等あらゆる分野において新しい分析法として広く使われている.」(116頁左欄下から6行~右欄1行)
(6)乙第6号証:実験報告書 2020年1月14日 被請求人従業者 木内保太、服部元康
本件被請求人従業者作成の実験報告書には、「4.実験の目的」として、「実施例1の変更例」として、微量金属元素を収容した小袋を糖・電解質輸液などの輸液を収容していない「空室」に収納した輸液製剤を作製し、「比較例の変更例」として、微量金属元素を収容した小袋をアミノ酸・電解質を収容した室に収容し、別室は糖・電解質輸液などの輸液を収容していない「空室」とした輸液製剤を作製し、「銅濃度の補正」行い、微量金属元素(銅)の含量変化を確認したことが示されている。
また、「6.結論」として、仕込量を100とした銅含量(%)、開始時を100とした銅含量(%)、補正後の銅含量(%)のいずれの観点においても、実施例1の変更例の方が、比較例の変更例に比べて銅含量が多かったこと、外観観察の観点においては、実施例1の変更例の方が、比較例の変更例に比べて、着色が小さいことが示されている。
第7 無効理由についての当審の判断
当審は、以下に示すとおり、無効理由1~3にはいずれも理由がないものと判断する。
理由は以下のとおりである。
1 無効理由1(甲第1号証に基づく特許法第29条第2項)について
(1)甲第1号証に記載された発明の認定
ア 甲第1号証の請求項1、請求項9、【0039】【0040】及び【図5】及び明細書全体の記載を参照して、本発明の一実施形態を示すものとして、「溶液(C)を収容する容器の他の例としては、図4に示すような、2室容器の一方の口部内に小室を形成し、用時に針で刺通するようにしたものや、図5に示すような、2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋などを例示することができる。」との【0039】の記載や「更に、上記のような容器に収容された本発明の輸液は、変質、酸化等を確実に防止するために、該容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装するのがよく」との【0040】の記載に基づき、輸液製剤に関して、請求項1を引用する請求項9に対応した発明が、実施態様として、図面が示されるとともに、記載されているといえる。
イ したがって、甲第1号証に記載された輸液製剤に係る発明「甲1輸液製剤発明」として以下のものが認定できる。
「還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、溶液(A)がビタミンB1を含有し、溶液(B)が葉酸を含有し、溶液(C)がビタミンCを含有し、更にビタミンB2が溶液(B)又は溶液(C)に配合され、かつ溶液(A)がpH3.5~4.5、溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5~7.5であり、連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され、そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が、用時連通可能に接続され、溶液(C)を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋であり、容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液」
ウ また、甲第1号証に記載された輸液製剤の保存安定化方法に係る発明「甲1輸液製剤の保存安定化方法発明」として以下のものが認定できる。
「還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、溶液(A)がビタミンB1を含有し、溶液(B)が葉酸を含有し、溶液(C)がビタミンCを含有し、更にビタミンB2が溶液(B)又は溶液(C)に配合され、かつ溶液(A)がpH3.5~4.5、溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5~7.5であり、連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され、そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が、用時連通可能に接続され、溶液(C)を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋であり、容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液の保存安定化方法」
エ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、審判請求書12頁1行~13頁3行、令和2年4月10日付け上申書2頁17行~6頁5行、令和2年4月24日付け口頭審理陳述要領書1頁16行~2頁16行において、甲第1号証【0012】、【0015】~【0018】、【0033】には、「アミノ酸を含有する溶液(B)」に配合されるアミノ酸として「L-システイン」が挙げられ、アミノ酸である「L-システイン」を「N-アシル誘導体」である「アセチルシステイン」とする形態で用いることも記載され、「アミノ酸を含有する溶液(B)」に添加することができる安定剤として「亜硫酸塩」や「亜硫酸水素塩」についても具体的に記載されているおり、「アミノ酸を含有する溶液(B)」に「システイン」及び/又は「アセチルシステイン」を配合し、さらに「亜硫酸塩」を添加する技術的思想を具体的に開示しているので、「アミノ酸を含有する溶液(B)にシステイン及び/又はアセチルシステイン並びに亜硫酸塩を含有する」構成も追加して甲1に記載された発明として認定されるべき旨主張しているので以下検討する。
(イ)甲第1号証【0012】の、「本発明の中心静脈投与用輸液は、還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなり、用時に混合して使用されるものである。溶液(A)に配合される還元糖としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等が挙げられ、血糖管理などの点で、特にブドウ糖が好ましい。また、これらの還元糖以外にキシリトール、ソルビトール、グリセリン等の非還元糖を配合することもできる。」との記載や【0015】~【0018】の「また、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸で、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-セリン、L-チロシン、グリシン等が挙げられる。これらのアミノ酸は、純粋結晶状アミノ酸であるのが好ましい。また、これらのアミノ酸は、通常遊離アミノ酸の形態で用いられるが、特に遊離形態でなくてもよく、薬理学的に許容される塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできる。
【0016】これらのアミノ酸の溶液(B)における好ましい配合量(遊離形態で換算)は以下のとおりである。
【0017】
【表1】
・・・
【0018】溶液(B)には、更に葉酸が配合され、pH5.5~7.5、好ましくは6.0~7.0に調整される。pHの調整は、通常用いられる種々の有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を適宜使用して行うことができる。また、葉酸は、溶液(B)の半日~1日投与分の液中に、0.1~1mg、特に0.1~0.7mg配合するのが好ましい。」との記載や、【0033】の「なお、溶液(B)には、安定化剤として亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩を添加することもでき、その場合、溶液(B)中に50mg/l以下配合するのが好ましい。」との記載は、それぞれ、溶液(A)に配合する還元糖や非還元糖の種類、溶液(B)に配合するアミノ酸の種類と形態、溶液(B)に添加することもできる安定剤の種類に関するもので、いずれも、可能であるものの例が羅列した選択肢として挙げられているだけで、安定化剤についても入れる可能性をなお書きとして記載しているにすぎない。
そして、【図5】の記載と、【0012】の記載と、【0015】~【0018】の記載と、【0033】の記載とを結びつけて、選択肢からアセチルシステインや、システインと亜硫酸塩の場合を組み合わせて着目し、ひとまとまりの技術思想として把握する理由もない。
したがって、「アミノ酸を含有する溶液(B)にシステイン及び/又はアセチルシステイン並びに亜硫酸塩を含有する」構成も追加して甲1に記載された発明として認定されるべき旨の請求人の主張は採用できない。
(2)本件訂正特許発明と甲第1号証に記載された発明との対比・判断
(2-1)本件訂正特許発明1と甲1輸液製剤発明との対比・判断
ア 対比
(ア)本件訂正特許発明1と甲1輸液製剤発明とを対比すると、甲1輸液製剤発明の「連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室」「2室容器」「ガス非透過性外装容器」「容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室」「輸液容器」「ガスバリヤー性外袋」「輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた、輸液製剤」に相当している。
また、甲1輸液製剤発明の「連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室」は、【0040】に
「上記のような容器に収容された本発明の輸液は、変質、酸化等を確実に防止するために、該容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装するのがよく、とりわけ容器として、隔壁が易剥離性溶着により形成されたものを採用した場合は、外圧により隔壁が連通しないように該隔壁部にて折り畳まれた状態で包装するのが好ましい」との記載から、保存時には連通防止に留意し、用時には、外部からの押圧によって連通可能になることは自明である。
また、甲1輸液製剤発明の「還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、・・・連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され」ることは、本件訂正特許発明1の「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」と「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され」る限りにおいて共通している。
さらに、甲1輸液製剤発明の「2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され、そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が、用時連通可能に接続され、溶液(C)を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋」は、本件訂正特許発明1の「微量金属元素収容容器」と、複数の室のひとつに収容容器が収納されている容器の構造の限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、その一室に収容容器が収納されており、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた、輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の2つの点で相違している。
相違点A1-1:本件訂正特許発明1においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲1輸液製剤発明は、アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点
相違点B1-1:本件訂正特許発明1においては、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して、甲1輸液製剤発明では、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点
(イ)被請求人の主張の検討
被請求人は、令和2年4月10日付け上申書3頁17行~6頁23行において、本件訂正特許発明が、本件明細書の【0005】の課題と【0006】の解決手段に基づく発明であるから、上記発明の技術的課題の解決の観点から、アミノ酸を含有する溶液の含有成分に関する相違点と微量金属元素収容容器中の成分と収納場所に関する相違点とを一体の構成として認定すべきである旨主張している。
しかしながら、相違点の認定は、技術的に意味のある単位で検討すれば良く、技術的課題と関係があるからといって全て一体として相違点を認定しなければいけないわけではない。アミノ酸を含有する溶液の含有成分に関する相違点と微量金属元素収容容器中の成分と収納場所に関する相違点は、本件訂正特許発明において、それぞれ、技術的な意味のある技術的観点であるから別々の相違点として認定すること自体に問題はないし、下記のとおり認定した相違点の間の有機的関係についても考慮して判断をしているのであるから、相違点の全体としての有機的関係の判断も行っているといえる。
したがって、上記被請求人の主張は採用することはできない。
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
イ-1 相違点A1-1について
(ア)甲第1号証には、【0015】に、「また、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸で、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-セリン、L-チロシン、グリシン等が挙げられる。これらのアミノ酸は、純粋結晶状アミノ酸であるのが好ましい。また、これらのアミノ酸は、通常遊離アミノ酸の形態で用いられるが、特に遊離形態でなくてもよく、薬理学的に許容される塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできる。」との一般的羅列記載があり、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、多数の必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸の例や、塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできるという多数の各種形態の例が示されているだけである。
そして、実施例として、アセチルシステインは使用されていない。
したがって、アミノ酸としてL-システインを選択した上で、各種形態の例の中からN-アシル誘導体を選択し、さらに、アシルをアセチルとすることで、結果として、アセチルシステインとすることは、ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを課題とする(【0009】)甲1輸液製剤発明において、何ら動機付けがなく、輸液の成分としてのアミノ酸として、アセチルシステインが別の文献においてたまたま例示されているからといって(甲第13号証、甲第17号証、甲第18号証に例示自体はある。)、当業者が容易になし得る技術的事項ではない。
(イ) 審判請求人の主張の検討
審判請求人は、令和2年4月10日付け上申書31頁12~25行において、甲第1号証の【0015】の記載から「アミノ酸を含有する溶液(B)」のアミノ酸を、システインのN-アシル誘導体であるアセチルシステインとすることは容易である旨主張しているが、アミノ酸の種類と形態からみて、多数の例の化合物記載の中からアセチルシステインを選択することは、当業者が容易になし得る技術的事項ではないことは上述のとおりである。
(ウ)したがって、甲1輸液製剤発明において、相違点A1-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-2 相違点B1-1について
(ア)甲第1号証は、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B1-1に係る本件訂正特許発明1の構成である「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、甲1輸液製剤発明の認定の根拠となった【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲1輸液製剤発明において、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成に変更することは、構成の変更の動機付けがないとともに、ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)したがって、甲1輸液製剤発明において、相違点B1-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(ウ)審判請求人の主張の検討
a 審判請求人は、審判請求書21頁下から2行~34頁10行において、「容器」に関して、容器の素材/形態(請求人の相違点1-1)、収容物(請求人の相違点1-2)、収納先(請求人の相違点1-3)に相違点A1-2を分け、さらにビタミン類を対象とした甲第1号証の「2室バッグ・バッグインバッグ構成」に関して、(a)配合する必要性、(b)あらかじめ配合しておくことの困難さ、(c)従来の手法である用時混注の問題点の3つの観点を挙げている。
そして、分割した「構成」を採用する3つの理由である、これらの問題点等は、「微量金属元素」にも同様に妥当することから、「請求人の認定した甲1輸液製剤発明」にも「微量金属元素」を対象とした「2室バッグ・バッグインバッグ構成」を採用することを強く示唆している旨主張し、甲第1号証【0003】~【0005】【0009】【0043】、甲第4号証、本件明細書【0003】を指摘している。
最終的に、審判請求人は、「請求人の認定した甲1輸液製剤発明」において、「請求人の相違点1-1」「請求人の相違点1-2」の構成を適用することがきわめて容易である旨主張している。
b また、技術常識[1]「輸液製造時の加熱滅菌工程又は保存時において、含硫アミノ酸であるシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより「硫化水素ガス」が発生すること、技術常識[2]「硫化水素ガス」は「熱可塑性樹脂フィルム」を透過すること、技術常識[3]「硫化水素ガス」は、「銅」、「鉄」などの金属と反応して硫化物を生成すること(水溶液中においては、黒色の沈殿を生成すること)が本件特許出願時技術常識であったとして、甲第5号証の1、甲第5号証の4、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第10号証を挙げて、最終的に、審判請求人は、「請求人の認定した甲1輸液製剤発明」において、「請求人の相違点1-3」の構成を適用することがきわめて容易である旨主張している。
以下検討する。
主張aについて
まず、相違点B1-1において、「容器」に関して、容器の素材/形態(請求人の相違点1-1)、収容物(請求人の相違点1-2)、収納先(請求人の相違点1-3)は、技術思想を構成している切り離すことのできない有機的関係をもった特定事項であり、たとえ容器の素材/形態、収容物、収納先が個々に知られているからといって、相違点B1-1の構成が容易に想到できるといえないことは明らかであり、上記審判請求人の主張は前提において誤りがある。
また、「(a)配合する必要性、(b)あらかじめ配合しておくことの困難さ、(c)従来の手法である用時混注の問題点」との問題点等が挙げられていることについて、なぜこのような具体的態様を明らかにしない曖昧な問題点等に採用理由が集約されるのか不明であるし、これらの問題点等が存在したからといって、解決手段は、個別具体的な問題点等及び態様に応じて多数想定され、どうして「2室バッグ・バッグインバッグ構成」が採用されることに直結するのかも不明である。
そして、これらの問題点等が、「微量金属元素」にもすべて同様に妥当するなどということは、有効な証拠に基づいたものではなく、技術常識からみて明らかなことともいえない。
そして、審判請求人の指摘する証拠は、ビタミンに関する一部の問題認識や、単に微量金属元素を用時に任意添加することや、微量元素製剤の必要性や、本件明細書における認識を示しているものにすぎず、「微量金属元素」に対して、「2室バッグ・バッグインバッグ構成」を採用することが理由とともに示されているものではない。
したがって、上記審判請求人の主張aを採用することはできない。
主張bについて
まず、相違点B1-1において、「容器」に関して、容器の素材/形態(請求人の相違点1-1)、収容物(請求人の相違点1-2)、収納先(請求人の相違点1-3)は、技術思想を構成している切り離すことのできない有機的関係をもった特定事項であり、たとえ容器の素材/形態、収容物、収納先が個々に知られているからといって、相違点A1-2の構成が容易に想到できるといえないことは明らかであり、上記審判請求人の主張は前提において誤りがあることは上述のとおりである。
また、技術常識[1]~[3]は、個々の事実が化学反応や化学的性質として知られているからといって、個々の事実から、「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とし、微量金属元素は用時に任意に添加するとしている甲第1号証に記載された甲1輸液製剤発明において、わざわざ、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成に変更することは、当業者が容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。
したがって、上記審判請求人の主張bも採用することはできない。
ウ 本件訂正特許発明1の効果について
本件訂正特許発明1は、請求項1に特定された、連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において、その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され、他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特長とする構成をとることにより、硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、銅イオン等の微量金属元素、安定化することができ(【0014】)、含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において、微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは排除することができ、かつ、経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができるという(【0066】)顕著な効果を奏するものであり、実施例と比較例の比較からその効果が認められる(【0065】)。
審判請求人は、審判請求書37頁5行~38頁10行において、本件明細書に記載された比較例との対比に基づく効果は容易に予測できたもので、顕著な効果とはいえない旨主張している。
しかしながら、本件訂正特許発明1の構成が、甲第1号証記載の甲1輸液製剤発明から当業者が容易に想到しえないことは上述のとおりであるし、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液とすることや、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を収納することに着目していない、ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することに着目した甲1輸液製剤発明との対比において、顕著な効果を奏しているといえる。
(2-2)本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明との対比・判断
ア 対比
(ア)本件訂正特許発明2と甲1輸液製剤発明とを対比すると、甲1輸液製剤発明の「連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室」「2室容器」「ガス非透過性外装容器」「容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液」は、それぞれ、本件訂正特許発明2の「連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室」「輸液容器」「ガスバリヤー性外袋」「輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、輸液製剤」に相当している。
また、甲1輸液製剤発明の「連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室」は、【0040】に「上記のような容器に収容された本発明の輸液は、変質、酸化等を確実に防止するために、該容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装するのがよく、とりわけ容器として、隔壁が易剥離性溶着により形成されたものを採用した場合は、外圧により隔壁が連通しないように該隔壁部にて折り畳まれた状態で包装するのが好ましい」との記載から、保存時には連通防止に留意し、用時には、外部からの押圧によって連通可能になることは自明である。
また、甲1輸液製剤発明の「還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、・・・連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され」ることは、本件訂正特許発明2の「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」と「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され」る限りにおいて共通している。
さらに、甲1輸液製剤発明の「2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され、そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が、用時連通可能に接続され、溶液(C)を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋」は、本件訂正特許発明2の「微量金属元素収容容器」と、複数の室のひとつに収容容器が収納されている容器の構造の限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、その一室に収容容器が収納されており、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の2つの点で相違している。
相違点A2-1:本件訂正特許発明2においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲1輸液製剤発明は、アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点
相違点B2-1:本件訂正特許発明2においては、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して、甲1輸液製剤発明では、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
イ-1 相違点A2-1について
(ア)甲第1号証には、【0015】に、「また、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸で、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-バリン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-セリン、L-チロシン、グリシン等が挙げられる。これらのアミノ酸は、純粋結晶状アミノ酸であるのが好ましい。また、これらのアミノ酸は、通常遊離アミノ酸の形態で用いられるが、特に遊離形態でなくてもよく、薬理学的に許容される塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできる。」との記載、【0033】に「なお、溶液(B)には、安定化剤として亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩を添加することもでき」るとの記載が別々の箇所にあるだけで、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、多数の必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸の例や、塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできるという多数の各種形態の例が示されているだけである。
そして、実施例としても、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩の組み合わせに着目して示されているわけではない。
したがって、アミノ酸としてシステインまたはその塩、エステルもしくはN-アシル体を選択した上で、さらに亜硫酸塩とを組み合わせて選択し、特定の組み合わせとすることは、組み合わせの可能性として示されているだけであって、他の相違点との有機的関係も考慮すると、ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを課題とする甲1輸液製剤発明においては、特にそのように特定する動機付けがなく、他の多数の成分と共にL-システインと亜硫酸水素ナトリウムを含む輸液がたまたま例示がされているからといって(甲第17号証に例示自体はある。)、当業者が容易になし得る技術的事項ではない。
(イ) 審判請求人の主張の検討
審判請求人は、令和2年4月10日付け上申書4頁16~22行において、甲第1号証の実施例1には、【0045】【0046】の記載から「L-システイン」と「亜硫酸塩」を含む構成が具体的に開示されている旨主張しているが、実施例1は、図2に関する記載であって、甲1輸液製剤発明の認定の根拠である図5に関する記載は実施例自体に記載はなく、アミノ酸の種類と形態からみて、多数の例の化合物記載の中からL-システインと亜硫酸塩の組み合わせに着目して、選択して特定事項とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項ではないことは上述のとおりである。
(ウ)したがって、甲1輸液製剤発明において、相違点A2-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-2 相違点B2-1について
(ア)甲第1号証は、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B2-1に係る本件訂正特許発明2の構成である「銅」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、甲1輸液製剤発明の認定の根拠となった【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲1輸液製剤発明において、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成に変更することは、構成の変更の動機付けがないとともに、甲1輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)したがって、甲1輸液製剤発明において、相違点B2-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(ウ)審判請求人の主張の検討
a 審判請求人は、令和2年4月24日付け口頭審理陳述要領書4頁22行~5頁12行において、あらかじめ配合しておくことの困難さ(理由(b))に関して、甲第13号証【図1】【0008】【0022】を合わせて示して周知の課題である旨主張しているが、甲第13号証は、甲第1号証と課題が異なる上に、解決手段も異なるものであるから、甲1輸液製剤発明において、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成に変更することは、構成の変更の動機付けがないとともに、ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであることは上述のとおりである。
(2-3)本件訂正特許発明10と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比・判断
ア 対比
(ア)本件訂正特許発明10と甲1輸液の保存安定化方法発明とを対比すると、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「各室」「連通可能な隔壁で隔てられた2室容器」「ガス非透過性外装容器」「容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液の保存安定化方法」は、それぞれ、本件訂正特許発明10の「複室」「複室輸液製剤の輸液容器」「ガスバリヤー性外袋」「輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた、保存安定化方法」に相当している。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、・・・連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され」ることは、本件訂正特許発明10の「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」に「収納」することとは、「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を収容している室」を有する限りにおいて共通している。
さらに、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され、そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が、用時連通可能に接続され、溶液(C)を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋」は、本件訂正特許発明10の「微量金属元素収容容器」と、複室輸液製剤の輸液容器の一室に収容容器が収納されている容器の構造の限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を有している室を有し、いずれかの室に収容容器を収納した輸液製剤の保存安定化方法であって、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた、保存安定化方法」に関するものである点において一致し、次の2つの点で相違している。
相違点A10-1:本件訂正特許発明10においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は、アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点
相違点B10-1:本件訂正特許発明10は、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
イ-1 相違点A10-1について
(ア)甲第1号証には、「相違点A1-1について」で述べたように、【0015】に、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、多数の必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸の例や、塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできるという多数の各種形態の例が示されているだけで、実施例としてもアセチルシステインは使用されていない。
したがって、アミノ酸としてL-システインを選択した上で、各種形態の例の中からN-アシル誘導体を選択し、さらにアシルをアセチルとすることで、結果として、アセチルシステインとすることは、ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを課題とする(【0009】)甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において、何ら動機付けがなく、アセチルシステインが別の文献においてたまたま例示されているからといって、当業者が容易になし得る技術的事項ではない。
(イ)したがって、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点A10-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-2 相違点B10-1について
(ア)甲第1号証は、「相違点B1-1について」で述べたように、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B10-1に係る本件訂正特許発明10の構成である「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の認定の根拠となった【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲1輸液製剤の保存安定化発明において、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」する構成に変更することは、構成の変更の動機付けがないとともに、ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)したがって、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点B10-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(2-4)本件訂正特許発明11と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比・判断
ア 対比
(ア)本件訂正特許発明11と甲1輸液の保存安定化方法発明とを対比すると、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「各室」「連通可能な隔壁で隔てられた2室容器」「ガス非透過性外装容器」「容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液の保存安定化方法」は、それぞれ、本件訂正特許発明11の「複室」「複室輸液製剤の輸液容器」「ガスバリヤー性外袋」「輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、保存安定化方法」に相当している。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、・・・連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され」ることは、本件訂正特許発明11の「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」に「収納」することとは、「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を収容している室」を有する限りにおいて共通している。
さらに、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の「2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され、そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が、用時連通可能に接続され、溶液(C)を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋」は、本件訂正特許発明11の「微量金属元素収容容器」と、複室輸液製剤の輸液容器の一室に収容容器が収納されている容器の構造の限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を有している室を有し、いずれかの室に収容容器を収納した輸液製剤の保存安定化方法であって、前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されている、保存安定化方法」に関するものである点において一致し、次の2つの点で相違している。
相違点A11-1:本件訂正特許発明11においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲1輸液製剤の安定化方法発明は、アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点
相違点B11-1:本件訂正特許発明11は、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して、甲1輸液製剤の保存安定化発明では、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
イ-1 相違点A11-1について
(ア)甲第1号証には、「相違点A2-1」において検討したように、【0015】及び【0033】に関連する記載が別々の箇所にあるだけで、溶液(B)に配合されるアミノ酸としては、多数の必須アミノ酸、非必須アミノ酸の各種アミノ酸の例や、塩、エステル、N-アシル誘導体や、2種アミノ酸の塩、ペプチドの形態で用いることもできるという多数の各種形態の例が示されているだけであるし、実施例としても、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩の組み合わせに着目して示されているわけではない。
したがって、アミノ酸としてシステインまたはその塩、エステルもしくはN-アシル体を選択した上で、さらに亜硫酸塩とを組み合わせて選択し、特定の組み合わせとすることは、組み合わせの可能性として示されているだけであって、他の相違点との有機的関係も考慮すると、ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを課題とする甲1輸液製剤の保存安定化方法発明においては、特にそのように特定する動機付けがなく、他の多数の成分と共にL-システインと亜硫酸水素ナトリウムを含む輸液がたまたま例示されているからといって、当業者が容易になし得る技術的事項ではない。
(イ)したがって、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点A11-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-2 相違点B11-1について
(ア)甲第1号証は、「相違点B2-1」において検討したように、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B11-1に係る本件訂正特許発明11の構成である「銅」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の認定の根拠となった【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」する構成に変更することは、構成の変更の動機付けがないとともに、ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)したがって、甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点B11-1の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(3)無効理由1のまとめ
以上のとおり、本件訂正特許発明1、2、10、11は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえず、無効理由1には、理由がない。
1 無効理由2(甲第13号証に基づく特許法第29条第2項)について
(1) 甲第13号証に記載された発明の認定
ア 甲第13号証の請求項1、【0024】及び【図1】及び明細書全体の記載を参照して、本発明の一実施形態を示すものとして、「好ましい態様としては、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができる。」との記載に基づき、
輸液製剤に関して、医療用液体を封入する樹脂製容器であって、袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室に区画され、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容し、接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され、ポート部材は、閉鎖体、筒体及び保持具を備え、閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成されることを特徴とする容器が、図面が示されるとともに、記載されているといえる。
イ したがって、甲第13号証に記載された輸液製剤に係る発明「甲13輸液製剤発明」として以下のものが認定できる。
「医療用液体を封入する樹脂製容器であって、袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1~C4に区画され、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容し、接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され、ポート部材は、閉鎖体、筒体及び保持具を備え、閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成される容器」
ウ また、甲第13号証に記載された輸液製剤の保存安定化方法に係る発明「甲13輸液製剤の保存安定化方法発明」として以下のものが認定できる。
「医療用液体の保存安定化方法であって、
袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1~C4に区画され、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容し、接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され、ポート部材は、閉鎖体、筒体及び保持具を備え、閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成される、医療用液体を封入する樹脂製容器を用いた保存安定化方法」
エ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、審判請求書37頁下から2行~40頁8行、令和2年4月10日付け上申書7頁17行~11頁14行、令和2年4月24日付け口頭審理陳述要領書8頁1行~9頁10行において、甲第13号証【0021】、【0022】、【0024】には、「アミノ酸の薬液の一成分として「N-アセチル-L-システイン」が記載されていること、「微量元素(ミネラル)として、「塩化第二鉄、塩化マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛」との記載があることから「アミノ酸の薬液」に「アセチルシステイン及び/又はシステインを含有する」構成、「微量元素(ミネラル)として、鉄、マンガン、銅を含有する」構成も追加して甲13に記載された発明として認定されるべき旨主張しているので以下検討する。
(イ)甲第13号証【0021】~【0022】の、収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分としては、還元糖、従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種のアミノ酸が挙げられ、各アミノ酸は遊離形態である必要はなく、金属塩、有機酸塩等の薬理学的に許容される塩の形態でもよく、各アミノ酸は、生体内で加水分解され遊離アミノ酸に変換されるエステルの形態でもよく、さらに、上記各アミノ酸はそれ等の一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態、例えばN‐アセチル‐L‐システインの形態としてもよいこと、還元糖とアミノ酸以外の成分としては、植物油、魚油、化学合成トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド等を挙げることができ、水溶性及び脂溶性の各ビタミン、電解質及び微量元素(ミネラル)として塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸二カリウム、リン酸一ナトリウム、グリセロリン酸カルシウム、塩化第二鉄、塩化マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛、ヨウ化カリウム等を挙げることができるとの記載は、「本発明容器及び本発明容器を他の容器と組み合わせたキット製剤とした場合、収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分」として、還元糖、アミノ酸、各アミノ酸の形態、植物油、魚油、化学合成トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド、水溶性及び脂溶性の各ビタミン電解質及び微量元素(ミネラル)、等のさまざまな成分が羅列された選択肢として挙げられている記載にすぎない。
そして、【図1】の記載と、【0021】~【0022】の記載と、【0024】の記載とを結びつけて、選択肢から「アミノ酸の薬液」に「アセチルシステイン及び/又はシステインを含有する」構成や「微量元素(ミネラル)として、鉄、マンガン、銅を含有する」構成を組み合わせて着目し、ひとまとまりの技術思想として把握する理由はない。
したがって、「アミノ酸を含有する溶液(B)にシステイン及び/又はアセチルシステイン並びに亜硫酸塩を含有する」構成や「微量元素(ミネラル)として、鉄、マンガン、銅を含有する」構成も追加して甲13に記載された発明として認定されるべき旨の請求人の主張は採用できない。
(2-1)本件訂正特許発明1と甲13輸液製剤発明との対比・判断
ア 対比
(ア)本件訂正特許発明1と甲13輸液製剤発明とを対比すると、甲13輸液製剤発明の「医療用液体を封入する樹脂製容器」、「少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により」「区画された」「複数の分室C1~C4」、「容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1~C4に区画され、」「接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され」る「袋状の樹脂製容器本体」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「輸液容器」、「連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室」、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」に相当している。
また、甲13輸液製剤発明の「袋状の樹脂製容器本体」が「複数の分室C1~C4に区画され、」「糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容」することは、本件訂正特許発明1の「複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」ることと「複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され」「他の室」を有している限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、他の室を有する輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の3つの点で相違している。
相違点A1-13:本件訂正特許発明1においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲13輸液製剤発明は、アミノ酸の薬液が特定されていない点
相違点B1-13:本件訂正特許発明1においては、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して、甲13輸液製剤発明では、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されておらず、他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点
相違点C1-13:本件訂正特許発明1においては、輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」ものであるのに対して、甲13輸液製剤発明では、そのような特定のない点
(イ)被請求人の主張の検討
被請求人は、令和2年4月10日付け上申書6頁24行~10頁7行において、本件訂正特許発明が、本件明細書の【0005】の課題と【0006】の解決手段に基づく発明であるから、アミノ酸を含有する溶液の含有成分に関する相違点と微量金属元素収容容器中の成分と収納場所に関する相違点とを一体の構成として認定すべきである旨主張している。
しかしながら、相違点の認定は、技術的に意味のある単位で検討すれば良く、技術的課題と関係があるからといって全て一体として相違点を認定しなければいけないわけではない。アミノ酸を含有する溶液の含有成分に関する相違点と微量金属元素収容容器中の成分と収納場所に関する相違点は、本件訂正特許発明において、それぞれ、技術的な意味のある技術的観点であるから別々の相違点として認定すること自体に問題はないし、認定した相違点の間の有機的関係についても下記のとおり考慮して判断をしているのであるから、相違点の全体としての有機的関係の判断も行っているといえる。
したがって、上記被請求人の主張は採用することはできない。
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
イ-1 相違点A1-13について
(ア)相違点A1-13のアミノ酸を含有する溶液中のアミノ酸の種類についての記載としては、甲第13号証には、収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分として、還元糖とともに従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種のアミノ酸が例示されるとともに、各アミノ酸は遊離形態である必要はなく、金属塩、有機酸塩等の薬理学的に許容される塩の形態でもよく、生体内で加水分解され遊離アミノ酸に変換されるエステルの形態でもよく、一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態、例えばN‐アセチル‐L‐システインの形態としてもよいとの誘導体に関する記載があり(【0021】)、配合されるアミノ酸として、遊離形態、塩、エステル形態と共に、N‐アシル誘導体等の種々の形態が示されているものの、最終的に具体的なアミノ酸の化合物としては、N‐アセチル‐L‐システインが唯一の例として記載されている。
したがって、甲13輸液製剤発明において、アミノ酸を含有する溶液を唯一の具体例であるN-アセチル-L-システインを含むアミノ酸溶液とすること、つまり、アミノ酸輸液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液との構成とすること自体は、当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。
(イ)したがって、甲13輸液製剤発明において、相違点A1-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。
イ-2 相違点B1-13について
(ア)甲第13号証は、医療用液体、例えば、静脈投与用輸液剤、液状栄養剤、腹膜透析液などを収容する可撓性容器に関し、特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器、及び可撓性容器に組込まれ溶着により生じる不要粒子を散逸させないポート部材に関するに関する特許文献であり(【0001】)、医療用液体中に可塑剤の溶出の可能性がなく廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供すること、ポート部材と容器本体の樹脂フィルムとの間の接着不良のない樹脂製容器を提供すること、ポート部材の筒体とキャップ状の保持具との間に滅菌加熱による容器内部の高圧に耐える十分な強度の溶着部を備えるポート部材を提供すること、筒体と保持具との間の溶着部の形成により生じるハミダシ(バリ)を散逸しないポート部材を提供すること、容器本体を複数の分室に区画する剥離可能な接着部を容易に製造できる樹脂製容器を提供すること、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分の変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することを課題とするものである(【0007】【0008】)。
そして、発明の実施の態様として、図1~図3において、医療用液体を封入する樹脂製容器1は、袋状の樹脂製容器本体2及び3つのポート部材3、3を備え、容器本体2は、接着部18,19により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にされる(【0018】)との多室容器の構造の記載を前提として、本発明の容器は、前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備し、好ましい態様としては、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができ、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できる効果を奏する(【0024】)ことが示されている。
したがって、甲第13号証の記載は、医療用液体を封入する樹脂製容器が、袋状の樹脂製容器本体及び複数のポート部材を備えることや容器本体が接着部により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体又は粉末等固形薬剤を収容可能であるとして、複数のポート部材や分室C1~C4を利用して、医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にすることを技術思想とするもので、好ましい態様として、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態が示されているだけであるといえる。
甲13輸液製剤発明は、アミノ酸を含有するC1もしくはC2以外の他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている形態が好ましいとして、図1に基づいて認定されたものであり、発明として完成したものであるから、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」をわざわざ、さらに収納される構成に変更する動機付けがない。
さらに、甲13輸液製剤発明は、C3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が他の室の内容物と接することなく独立して収容されている形態によって、配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用等の各成分を容器内に長期間収容できるという効果を奏するという技術思想を有しているのであるから、その収容形態を変更することは、甲13輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)また、甲第15号証は、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、薬剤室だけを被覆部材により気密に覆った可撓性の複室容器に係り、特に、薬液室に収容された薬剤の吸湿や酸化等の変質を防止することができる医療用複室容器」に関する発明であり(【0001】)、吸湿性或いは易酸化性の薬剤は製造工程中にも湿度及び/または酸素含有量が十分に低い雰囲気下で取り扱う必要があるところ、複室容器では薬剤室の容器壁が酸素等のガス或いは水分の透過性を有するものであるため、又は製造工程中で薬剤を薬剤室に充填して密封しても被覆部材で気密にシールするまでは水分や酸素含有量の十分に低い雰囲気を保たなければならないことになり、脱ガス剤及び/または乾燥剤の収容作業や被覆部材の密封作業などを、全て水分や酸素含有量の低い雰囲気下で行わなければならず、製造に手間がかかるという問題点があり、該複室容器では、バリヤー性材料からなる部材にシール不良やピンホールが発生したり長期間保存すると、バリヤー性材料からなる部材の内部に水分や酸素等が侵入するが、これが直接或いは薬剤室の容器壁を透過して薬剤室に侵入してしまうため、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じるという問題点もあった(【0004】)との課題認識の下、図1に示されたような、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、前記薬液室を露出した状態で前記薬剤室が被覆部材により仕切部まで気密に覆われた複室容器において、前記薬剤室の容器壁及び前記被覆部材がガス非透過性及び/または水蒸気非透過性を有することを特徴とする医療用複室容器」(【請求項1】)という構成を採用したものである。
そして、甲第15号証記載の発明の医療用複室容器において、収容対象となる薬剤は、後述の薬液に混合して使用可能なものであれば特に制限されず、水分を吸湿することにより或いは酸素等のガスと反応することにより変質する吸湿性薬剤や易酸化性薬剤、例えば抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであってもよく、一方、薬液は、使用前に前述の薬剤と混合して、溶解、分散、或いは希釈等する液であり、例えば蒸留水、生理食塩水、10%以下のブドウ糖液等の安定な糖液、重炭酸塩含有液、並びに無機電解質及び有機電解質等を含んだ輸液、透析液、及び臓器保存液などが挙げられる(【0008】)ことが示されている。
したがって、甲第15号証において、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じると認識している薬剤は、抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであって、相違点B1-13の構成に関連した、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成は、何ら示されていない。
よって、甲13輸液製剤発明において、甲第15号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B1-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(ウ)さらに、甲第1号証は、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B1-13に係る本件訂正特許発明1の構成である「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲13輸液製剤発明において、甲第1号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B1-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(エ)以上のとおり、甲13輸液製剤発明において、相違点B1-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(オ)審判請求人の主張の検討
a 審判請求人は、審判請求書46頁18行~52頁下から12行において、審判請求書49頁の図3を参照することで、甲13輸液製剤発明の分室C3の構成と本件訂正特許発明1の相違点B1-13に係る構成との間の相違に格別の技術的意義がないこと、相違点に係る構成は、[1]「分室C3」等を形性する樹脂フィルムの一層を「ガス非透過性のバリアーフィルムからなる層を設ける」ことで形成する構成(甲第13号証【0025】、甲第15号証【0011】)、[2]他の「熱可塑性樹脂フィルム」で覆うことによって「多重包装」状態とする構成(甲第15号証【0015】【図1】)、[3]微量金属元素を含む液を一旦小袋に入れて、同小袋を「分室C3」に収納する構成(甲第1号証【0039】【図5】)といったガス透過性を低下させるための周知の構成を適宜採用すれば足りる設計的事項であることを主張している。
b また、審判請求人は、令和2年4月10日付け上申書21頁10行~22頁11行、25頁1~26行において、甲13輸液製剤発明の「小室C3」に収容されている「鉄、マンガン、銅を含有する微量元素(ミネラル)」が含硫アミノ酸から発生する「硫化水素ガス」により不安定となる場合があるという自明の課題の存在から動機づけられること、甲第13号証より高いレベルの安定性が必要となる状況であれば、[2]や[3]の構成を適宜採用することは単なる設計的事項にすぎないことについて主張している。
以下検討する。
主張aについて
まず、審判請求人は、審判請求書49~50頁において、49頁の図3に基づいて、[a]の「空間的な分離」と[b]の「他の室への隔離」を兼ね備えることには、格別の意義はない、すなわち、硫化水素ガスを透過させ難い材料で形成されている場合には、構成[a]のみにより微量金属元素を含む液を安定化できることは明らかだからであるとか、構成[b]に含まれる「他の室」を「空室」とする構成は、構成[a]において、熱可塑性樹脂フィルムの厚さを厚くすることでガス透過性を低減することと実質的に等価な構成であるから、構成[b]には、格別の技術的意義が見いだせないなどと主張しているが、本件訂正特許発明1の構成と甲13輸液製剤発明との構成を事後的に比較して、相違点となる構成とは異なる別の選択肢の構成が仮に知られているからといって、本件訂正特許発明1の構成が格別の技術的意義を失うわけでないことはもちろんのこと、上記選択肢の存在が、甲13輸液製剤発明において、本件訂正特許発明1の相違点に係る構成を、あえて採用する動機付けが存在することと直接関係するものではないので、上記審判請求人の主張は前提において誤りがある。
また、本件訂正特許発明1においては、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成を含めた全体構成を採用することで、硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、銅イオン等の微量金属元素、安定化することができ(【0014】)、含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において、微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全く排除することができ、かつ、経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができるという(【0066】)顕著な効果を得ているのであるから、実質的に等価であるかどうかも不明である。
また、審判請求人が周知の構成であるとする[1]~[3]の構造が仮に構造自体として知られているとしても、個々の文献において、それぞれの構成は、さまざまな個々の課題認識の下に、その構造が採用されており、甲第13号証【0025】では、ビタミン類をキット製剤に収容する場合のトレーを形成する樹脂層に関するものであり、甲第15号証【0011】では、酸素と水分の透過性低減するための複数層の積層に関するものであり、甲第15号証【0015】では、水分や酸素で変質する薬剤を入れた薬剤室をさらに乾燥剤や脱酸素剤を入れて被覆材で被覆したものに関するものであり、甲第1号証【0039】【図5】では、ビタミン類を収容する容器として、適切なpHで長期間保存するものに関するものであって、各甲号証において、認識されている課題とは、それぞれに異なっているから、これらを単純に組み合わせることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえず、また、いずれも本件訂正特許発明1の課題認識のもとに構成されているわけではない。
そして、いずれの文献の構造も、本件訂正特許発明1において採用されている、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成を採用していないのであるから、相違点B1-13に係る構成を、ガス透過性を低下させるための周知の構成を適宜採用すれば足りる設計的事項であるということはできない。
したがって、相違点B1-13の構成が容易に想到できるといえないことは明らかであり、上記審判請求人の主張aを採用することはできない。
主張bについて
審判請求人は、甲13輸液製剤発明の「小室C3」に収容されている「鉄、マンガン、銅を含有する微量元素(ミネラル)」が含硫アミノ酸から発生する「硫化水素ガス」により不安定となる場合があるという自明の課題の存在から動機づけられることや、甲第13号証より高いレベルの安定性が必要となる状況であれば、[2]や[3]の構成を適宜採用することは単なる設計的事項にすぎないことを主張しているが、甲13輸液製剤発明は、【図1】に基づいて認定された発明として完成されたものであり、その構成で問題ないとして記載された発明である。
「小室C3」に収容されている「鉄、マンガン、銅を含有する微量元素(ミネラル)」が含硫アミノ酸から発生する「硫化水素ガス」により不安定となる場合があるといった仮定のもとの自明の課題や、より高いレベルの安定性が必要となる状況であればといった仮定のもとの状況を設定して結局設計的事項であるとする主張では、相違点B1-13の構成が容易に想到できるといえないことは明らかであり、上記審判請求人の主張bも採用することはできない。
イ-3 相違点C1-13について
(ア)甲第16号証には、「アミノ酸は酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じるので,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを配合させてガラス瓶に収納されてきた。プラスチック製容器はEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等特殊な素材は別として,PEやPPはガス透過性が非常に高い(表4)。プラスチック製容器では,ガラス瓶のように酸素を取り除いて充填を行う方式が採用されても,製造直後より酸素が内溶液に透過してくるので,安定性を担保することができない。キット製品開発に先立ってアミノ酸輸液のプラスチック容器品が製造販売されており,今回のキット品でも同様の方式,すなわち,容器の外部に脱酸素剤を入れ,バッグと共にガス透過性の低いバリアー包材で包装する方式を採用した。」との記載がある。
しかしながら、甲13輸液製剤発明は、甲第13号証に記載されるように、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容することで、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できたものであるから、各成分同士の配合変化による問題に着目しているものである。
そして、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面を、ポリエチレン、ポリプロピレンではない、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成することで、接着不良をすでに低減し、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分の品質劣化を抑制したものであるから、アミノ酸自体の酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じることに着目した甲第16号証の手段を、さらにあえて適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)したがって、甲13輸液製剤発明において、相違点C1-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(ウ)審判請求人の主張の検討
審判請求人は、審判請求書52頁下から2行~末行において、甲第5号証の1、甲第16号証を示して周知の構成である旨主張しているが、甲13輸液製剤発明において、容器本体の材質を特定して接着不良をすでに低減し、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分の品質劣化を抑制したものにおいて、輸液容器をさらに「ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」ものとすることに動機付けがないことは上述のとおりである。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
ウ 本件訂正特許発明1の効果について
本件訂正特許発明1は、請求項1に特定された、連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において、その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され、他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特長とする構成をとることにより、硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、銅イオン等の微量金属元素、安定化することができ(【0014】)、含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において、微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは排除することができ、かつ、経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができるという(【0066】)顕著な効果を奏するものであり、実施例と比較例の比較からその効果が認められる(【0065】)。
審判請求人は、審判請求書37頁5行~38頁10行において、本件明細書に記載された比較例との対比に基づく効果は容易に予測できたもので、顕著な効果とはいえない旨主張している。
しかしながら、本件訂正特許発明1の全体構成が、甲第13号証記載の甲13輸液製剤発明から当業者が容易に想到し得ないことは上述のとおりであるし、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液とすることを前提として、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を収納することに着目していない、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分を変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することに着目しているだけで、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素と含硫アミノ酸との関係に基づく課題に関して全く着目していない甲13輸液製剤発明との対比において、顕著な効果を奏しているといえる。
(2-2)本件訂正特許発明2と甲13輸液製剤発明との対比・判断
ア 対比
(ア) 本件訂正特許発明2と甲13輸液製剤発明とを対比すると、甲13輸液製剤発明の「医療用液体を封入する樹脂製容器」、「少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により」「区画された」「複数の分室C1~C4」、「容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1~C4に区画され、」「接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され」る「袋状の樹脂製容器本体」は、それぞれ、本件訂正特許発明2の「輸液容器」、「連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室」、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」に相当している。
また、甲13輸液製剤発明の「袋状の樹脂製容器本体」が「複数の分室C1~C4に区画され、」「糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容」することは、本件訂正特許発明2の「複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」ることと「複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され」「他の室」を有している限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され、他の室を有する輸液製剤」に関するものである点において一致し、次の3つの点で相違している。
相違点A2-13:本件訂正特許発明2においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲13輸液製剤発明は、アミノ酸の薬液が特定されていない点
相違点B2-13:本件訂正特許発明2においては、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して、甲13輸液製剤発明では、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されておらず、他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点
相違点C2-13:本件訂正特許発明2においては、輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されている」ものであるのに対して、甲13輸液製剤発明では、そのような特定のない点
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
イ-1 相違点A2-13について
(ア)甲第13号証には、【0021】に、「【0021】ここで本発明容器及び本発明容器を他の容器と組み合わせたキット製剤とした場合、収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等の還元糖、従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種のアミノ酸が挙げられる。なお、各アミノ酸は遊離形態である必要はなく、金属塩、有機酸塩等の薬理学的に許容される塩の形態でもよい。また、各アミノ酸は、生体内で加水分解され遊離アミノ酸に変換されるエステルの形態でもよい。さらに、上記各アミノ酸はそれ等の一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態、例えばN‐アセチル‐L‐システインの形態としてもよい。」との記載があるだけで、配合されるアミノ酸として、遊離形態、塩、エステル形態と共に、一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態の例として、N‐アセチル‐L‐システインが唯一の例として記載されている。
また、亜硫酸塩については、全く記載がない。
(イ)そして、システインからのH2Sの悪臭や亜硫酸塩によるアレルギー反応などの問題認識で、乙第2号証、乙第3号証、甲第8号証、甲第22号証に見られるように、亜硫酸塩又はシステインの少なくとも片方を輸液製剤に含有させないようにした例が多数存在している。
以上のことからみて、甲13輸液製剤発明において、アミノ酸輸液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であると特定の組み合わせの構成とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(ウ)したがって、甲13輸液製剤発明において、相違点A2-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(エ)審判請求人の主張の検討
審判請求人は、審判請求書53頁1~10行において、甲第16号証~甲第18号証を提出して、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液は周知の構成である旨主張しているが、甲第13号証には、亜硫酸塩に関する記載が全くなく、亜硫酸塩又はシステインを含有させない例が多数知られているのであるから、たまたま甲第16号証~甲第18号証において、多数の成分のアミノ酸と亜硫酸水素ナトリウムとを併用した例が知られているからといって、甲13輸液製剤発明において、アミノ酸輸液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であると特定の組み合わせの構成とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえないのは上述のとおりである。
イ-2 相違点B2-13について
(ア)甲第13号証は、医療用液体、例えば、静脈投与用輸液剤、液状栄養剤、腹膜透析液などを収容する可撓性容器に関し、特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器、及び可撓性容器に組込まれ溶着により生じる不要粒子を散逸させないポート部材に関するに関する特許文献であり(【0001】)、医療用液体中に可塑剤の溶出の可能性がなく廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供すること、ポート部材と容器本体の樹脂フィルムとの間の接着不良のない樹脂製容器を提供すること、ポート部材の筒体とキャップ状の保持具との間に滅菌加熱による容器内部の高圧に耐える十分な強度の溶着部を備えるポート部材を提供すること、筒体と保持具との間の溶着部の形成により生じるハミダシ(バリ)を散逸しないポート部材を提供すること、容器本体を複数の分室に区画する剥離可能な接着部を容易に製造できる樹脂製容器を提供すること、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分の変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することを課題とするものである(【0007】【0008】)。
そして、【発明の実施の態様】として、図1~図3において、医療用液体を封入する樹脂製容器1は、袋状の樹脂製容器本体2及び3つのポート部材3、3を備える。容器本体2は、接着部18,19により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にされる(【0018】)との多室容器の構造の記載を前提として、本発明の容器は、前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備している。好ましい態様としては、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができ、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できる効果を奏する(【0024】)ことが示されている。
したがって、甲第13号証の記載は、医療用液体を封入する樹脂製容器が、袋状の樹脂製容器本体及び複数のポート部材を備えることや容器本体が接着部により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体又は粉末等固形薬剤を収容可能であるとして、複数のポート部材や分室C1~C4を利用して、医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にすることを技術思想とするもので、好ましい態様として、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態が示されているだけであるといえる。
甲13輸液製剤発明は、アミノ酸を含有するC1もしくはC2以外の他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている形態が好ましいとして、図1に基づいて認定されたものであり、発明として完成したものであるから、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」をわざわざ、さらに収納される構成に変更する動機付けがない。
さらに、甲13輸液製剤発明は、C3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が他の室の内容物と接することなく独立して収容されている形態によって、配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用等の各成分を容器内に長期間収容できるという効果を奏するという技術思想を有しているのであるから、その収容形態を変更することは、甲13輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)また、甲第15号証は、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、薬剤室だけを被覆部材により気密に覆った可撓性の複室容器に係り、特に、薬液室に収容された薬剤の吸湿や酸化等の変質を防止することができる医療用複室容器」に関する発明であり(【0001】)、吸湿性或いは易酸化性の薬剤は製造工程中にも湿度及び/または酸素含有量が十分に低い雰囲気下で取り扱う必要があるところ、複室容器では薬剤室の容器壁が酸素等のガス或いは水分の透過性を有するものであるため、製造工程中で薬剤を薬剤室に充填して密封しても被覆部材で気密にシールするまでは水分や酸素含有量の十分に低い雰囲気を保たなければならないことになり、脱ガス剤及び/または乾燥剤の収容作業や被覆部材の密封作業などを、全て水分や酸素含有量の低い雰囲気下で行わなければならず、製造に手間がかかるという問題点があり、該複室容器では、バリヤー性材料からなる部材にシール不良やピンホールが発生したり長期間保存すると、バリヤー性材料からなる部材の内部に水分や酸素等が侵入するが、これが直接或いは薬剤室の容器壁を透過して薬剤室に侵入してしまうため、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じるという問題点もあった(【0004】)との課題認識の下、図1に示されたような、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、前記薬液室を露出した状態で前記薬剤室が被覆部材により仕切部まで気密に覆われた複室容器において、前記薬剤室の容器壁及び前記被覆部材がガス非透過性及び/または水蒸気非透過性を有することを特徴とする医療用複室容器」(【請求項1】)という構成を採用したものである。
そして、甲第15号証において、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じると認識している薬剤は、抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであって(【0008】)、相違点B2-13の構成に関連した、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成は、何ら示されていない。
したがって、甲13輸液製剤発明において、甲第15号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B2-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(ウ)さらに、甲第1号証は、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B2-13に係る本件訂正特許発明2の構成である「銅」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲13輸液製剤発明において、甲第1号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B2-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(エ)以上のとおり、甲13輸液製剤発明において、相違点B2-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-3 相違点C2-13について
(ア)甲第16号証には、「アミノ酸は酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じるので,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを配合させてガラス瓶に収納されてきた。プラスチック製容器はEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等特殊な素材は別として,PEやPPはガス透過性が非常に高い(表4)。プラスチック製容器では,ガラス瓶のように酸素を取り除いて充填を行う方式が採用されても,製造直後より酸素が内溶液に透過してくるので,安定性を担保することができない。キット製品開発に先立ってアミノ酸輸液のプラスチック容器品が製造販売されており,今回のキット品でも同様の方式,すなわち,容器の外部に脱酸素剤を入れ,バッグと共にガス透過性の低いバリアー包材で包装する方式を採用した。」との記載があるものの、甲13輸液製剤発明は、甲第13号証に記載されるように、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容することで、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できたものであるから、各成分同士の配合変化による問題に着目しているものである。
そして、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面を、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成することで、接着不良をすでに低減し、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分の品質劣化を抑制したものであるから、アミノ酸自体の酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じることに着目した甲第16号証の手段をさらにあえて適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)したがって、甲13輸液製剤発明において、相違点C2-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
ウ 本件訂正特許発明2の効果について
本件訂正特許発明2は、請求項2に特定された、連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において、その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され、他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特長とする構成をとることにより、硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、銅イオンを安定化することができ(【0014】)、含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において、微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは排除することができ、かつ、経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができるという(【0066】)顕著な効果を奏するものであり、実施例と比較例の比較からその効果が認められる(【0065】)。
審判請求人は、審判請求書37頁5行~38頁10行において、本件明細書に記載された比較例との対比に基づく効果は容易に予測できたもので、顕著な効果とはいえない旨主張している。
しかしながら、本件訂正特許発明1で述べたとおり、本件訂正特許発明2の全体としての構成が、甲第13号証記載の甲13輸液製剤発明から当業者が容易に想到し得ないことは上述のとおりであるし、アミノ酸輸液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液である構成とすることや、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を収納することに着目していない、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分を変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することに着目しているだけで、銅と含硫アミノ酸との関係に基づく課題に関して全く着目していない甲13輸液製剤発明との対比において、顕著な効果を奏しているといえる。
(2-3)本件訂正特許発明10と甲13輸液製剤の保存安定化方法発明との対比・判断
ア 対比
(ア)本件訂正特許発明10と甲13輸液製剤の保存安定化方法発明とを対比すると、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明の「医療用液体を封入する樹脂製容器」、「少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により」「区画された」「複数の分室C1~C4」、「容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1~C4に区画され、」「接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され」る「袋状の樹脂製容器本体」は、それぞれ、本件訂正特許発明10の「輸液容器」、「複室輸液製剤の」「溶液を収容している室と別室」、「複室輸液製剤の輸液容器」に相当している。
また、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明の「袋状の樹脂製容器本体」が「複数の分室C1~C4に区画され、」「糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容」することは、本件訂正特許発明10の「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」と「別室」を有することと「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」と「別室」を有する限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を収容して
いる室と別室を有する輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点において一致し、次の3つの点で相違している。
相違点A10-13:本件訂正特許発明10においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、アミノ酸の薬液が特定されていない点
相違点B10-13:本件訂正特許発明10においては、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されておらず、他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点
相違点C10-13:本件訂正特許発明10においては、輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」ものであるのに対して、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では、そのような特定のない点
イ-1 相違点A10-13について
(ア)甲第13号証には、【0021】に、「【0021】ここで本発明容器及び本発明容器を他の容器と組み合わせたキット製剤とした場合、収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等の還元糖、従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種のアミノ酸が挙げられる。なお、各アミノ酸は遊離形態である必要はなく、金属塩、有機酸塩等の薬理学的に許容される塩の形態でもよい。また、各アミノ酸は、生体内で加水分解され遊離アミノ酸に変換されるエステルの形態でもよい。さらに、上記各アミノ酸はそれ等の一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態、例えばN‐アセチル‐L‐システインの形態としてもよい。」との記載があり、配合されるアミノ酸として、遊離形態、塩、エステル形態と共に、一部又は全部をN‐アシル誘導体等の種々の形態が示されているものの、具体的なアミノ酸の具体的化合物としては、N‐アセチル‐L‐システインが唯一の例として記載されている。
したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、アミノ酸を含有する溶液をN-アセチル-L-システインを含むアミノ酸溶液とすること、つまり、アミノ酸輸液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液との構成とすること自体は、当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。
(イ)したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点A10-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。
イ-2 相違点B10-13について
(ア)甲第13号証は、医療用液体、例えば、静脈投与用輸液剤、液状栄養剤、腹膜透析液などを収容する可撓性容器に関し、特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器、及び可撓性容器に組込まれ溶着により生じる不要粒子を散逸させないポート部材に関するに関する特許文献であり(【0001】)、医療用液体中に可塑剤の溶出の可能性がなく廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供すること、ポート部材と容器本体の樹脂フィルムとの間の接着不良のない樹脂製容器を提供すること、ポート部材の筒体とキャップ状の保持具との間に滅菌加熱による容器内部の高圧に耐える十分な強度の溶着部を備えるポート部材を提供すること、筒体と保持具との間の溶着部の形成により生じるハミダシ(バリ)を散逸しないポート部材を提供すること、容器本体を複数の分室に区画する剥離可能な接着部を容易に製造できる樹脂製容器を提供すること、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分の変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することを課題とするものである(【0007】【0008】)。
そして、発明の実施の態様として、図1~図3において、医療用液体を封入する樹脂製容器1は、袋状の樹脂製容器本体2及び3つのポート部材3、3を備え、容器本体2は、接着部18,19により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にされる(【0018】)との多室容器の構造の記載を前提として、本発明の容器は、前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備し、好ましい態様としては、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができ、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できる効果を奏する(【0024】)ことが示されている。
したがって、甲第13号証の記載は、医療用液体を封入する樹脂製容器が、袋状の樹脂製容器本体及び複数のポート部材を備えることや容器本体が接着部により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体又は粉末等固形薬剤を収容可能であるとして、複数のポート部材や分室C1~C4を利用して、医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にすることを技術思想とするもので、好ましい態様として、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態が示されているだけであるといえる。
甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、アミノ酸を含有するC1もしくはC2以外の他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている形態が好ましいとして、図1に基づいて認定された輸液製剤の保存安定化方法に関するものであり、発明として完成したものであるから、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」をわざわざ、さらに収納される構成に変更する動機付けがない。
さらに、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、C3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が他の室の内容物と接することなく独立して収容されている形態によって、配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用等の各成分を容器内に長期間収容できるという効果を奏するという技術思想を有しているのであるから、その収容形態を変更することは、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)また、甲第15号証は、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、薬剤室だけを被覆部材により気密に覆った可撓性の複室容器に係り、特に、薬液室に収容された薬剤の吸湿や酸化等の変質を防止することができる医療用複室容器」に関する発明であり(【0001】)、吸湿性或いは易酸化性の薬剤は製造工程中にも湿度及び/または酸素含有量が十分に低い雰囲気下で取り扱う必要があるところ、複室容器では薬剤室の容器壁が酸素等のガス或いは水分の透過性を有するものであるため、製造工程中で薬剤を薬剤室に充填して密封しても被覆部材で気密にシールするまでは水分や酸素含有量の十分に低い雰囲気を保たなければならないことになり、脱ガス剤及び/または乾燥剤の収容作業や被覆部材の密封作業などを、全て水分や酸素含有量の低い雰囲気下で行わなければならず、製造に手間がかかるという問題点があり、該複室容器では、バリヤー性材料からなる部材にシール不良やピンホールが発生したり長期間保存すると、バリヤー性材料からなる部材の内部に水分や酸素等が侵入するが、これが直接或いは薬剤室の容器壁を透過して薬剤室に侵入してしまうため、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じるという問題点もあった(【0004】)との課題認識の下、図1に示されたような、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、前記薬液室を露出した状態で前記薬剤室が被覆部材により仕切部まで気密に覆われた複室容器において、前記薬剤室の容器壁及び前記被覆部材がガス非透過性及び/または水蒸気非透過性を有することを特徴とする医療用複室容器」(【請求項1】)という構成を採用したものである。
そして、甲第15号証記載の発明の医療用複室容器において、収容対象となる薬剤は、後述の薬液に混合して使用可能なものであれば特に制限されず、水分を吸湿することにより或いは酸素等のガスと反応することにより変質する吸湿性薬剤や易酸化性薬剤、例えば抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであってもよく、一方、薬液は、使用前に前述の薬剤と混合して、溶解、分散、或いは希釈等する液であり、例えば蒸留水、生理食塩水、10%以下のブドウ糖液等の安定な糖液、重炭酸塩含有液、並びに無機電解質及び有機電解質等を含んだ輸液、透析液、及び臓器保存液などが挙げられる(【0008】)ことが示されている。
したがって、甲第15号証において、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じると認識している薬剤は、抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであって、相違点B10-13の構成に関連した、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成は、何ら示されていない。
したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、甲第15号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B10-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(ウ)さらに、甲第1号証は、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B10-13に係る本件訂正特許発明10の構成である「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、甲第1号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B10-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(エ)以上のとおり、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点B10-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-3 相違点C10-13について
(ア)甲第16号証には、「アミノ酸は酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じるので,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを配合させてガラス瓶に収納されてきた。プラスチック製容器はEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等特殊な素材は別として,PEやPPはガス透過性が非常に高い(表4)。プラスチック製容器では,ガラス瓶のように酸素を取り除いて充填を行う方式が採用されても,製造直後より酸素が内溶液に透過してくるので,安定性を担保することができない。キット製品開発に先立ってアミノ酸輸液のプラスチック容器品が製造販売されており,今回のキット品でも同様の方式,すなわち,容器の外部に脱酸素剤を入れ,バッグと共にガス透過性の低いバリアー包材で包装する方式を採用した。」との記載があるものの、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、甲第13号証に記載されるように、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容することで、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できたものであるから、各成分同士の配合変化による問題に着目しているものである。
そして、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面を、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成することで、接着不良をすでに低減し、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分の品質劣化を抑制したものであるから、アミノ酸自体の酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じることに着目した甲第16号証の手段をさらにあえて適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点C10-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
ウ 本件訂正特許発明10の効果について
本件訂正特許発明10は、請求項10に特定された、連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において、その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され、他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特長とする構成をとることにより、硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、銅イオン等の微量金属元素、安定化することができ(【0014】)、含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において、微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは排除することができ、かつ、経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができるという(【0066】)顕著な効果を奏するものであり、実施例と比較例の比較からその効果が認められる(【0065】)。
審判請求人は、審判請求書37頁5行~38頁10行において、本件明細書に記載された比較例との対比に基づく効果は容易に予測できたもので、顕著な効果とはいえない旨主張している。
しかしながら、本件訂正特許発明10の全体としての構成が、甲第13号証記載の甲13輸液製剤の保存安定化方法発明から当業者が容易に想到しえないことは上述のとおりであるし、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液を使用したことを前提として、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を収納することに着目していない、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分の変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することに着目しているだけで、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素と含硫アミノ酸との関係に基づく課題に関して全く着目していない甲13輸液製剤の保存安定化方法発明との対比において、顕著な効果を奏しているといえる。
(2-4)本件訂正特許発明11と甲13輸液製剤の保存安定化方法発明との対比・判断
ア 対比
(ア)本件訂正特許発明11と甲13輸液製剤の保存安定化方法発明とを対比すると、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明の「医療用液体を封入する樹脂製容器」、「少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により」「区画された」「複数の分室C1~C4」、「容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1~C4に区画され、」「接着部は、容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され」る「袋状の樹脂製容器本体」は、それぞれ、本件訂正特許発明11の「輸液容器」、「複室輸液製剤の」「溶液を収容している室と別室」、「複室輸液製剤の輸液容器」に相当している。
また、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明の「袋状の樹脂製容器本体」が「複数の分室C1~C4に区画され、」「糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容」することは、本件訂正特許発明11の「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」と「別室」を有することと「複室輸液製剤の輸液容器において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室」と「別室」を有する限りにおいて共通している。
したがって、両者は、「複室輸液製剤の輸液容器において、アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室を有する輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点において一致し、次の3つの点で相違している。
相違点A11-13:本件訂正特許発明11においては、アミノ酸を含有する溶液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、該溶液は、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、アミノ酸の薬液が特定されていない点
相違点B11-13:本件訂正特許発明11においては、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では、アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されておらず、他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点
相違点C11-13:本件訂正特許発明11においては、輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されている」ものであるのに対して、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では、そのような特定のない点
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
イ-1 相違点A11-13について
(ア)甲第13号証には、【0021】に、「【0021】ここで本発明容器及び本発明容器を他の容器と組み合わせたキット製剤とした場合、収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等の還元糖、従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種のアミノ酸が挙げられる。なお、各アミノ酸は遊離形態である必要はなく、金属塩、有機酸塩等の薬理学的に許容される塩の形態でもよい。また、各アミノ酸は、生体内で加水分解され遊離アミノ酸に変換されるエステルの形態でもよい。さらに、上記各アミノ酸はそれ等の一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態、例えばN‐アセチル‐L‐システインの形態としてもよい。」との記載があるだけで、配合されるアミノ酸として、遊離形態、塩、エステル形態と共に、一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態の例として、N‐アセチル‐L‐システインが唯一の例として記載されている。
また、亜硫酸塩については、全く記載がない。
(イ)そして、乙第2号証、乙第3号証、甲第8号証、甲第22号証に見られるように、亜硫酸塩又はシステインの問題認識から少なくとも片方を輸液製剤に含有させないようにした例が多数存在する。
以上のことからみて、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、アミノ酸輸液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であると特定の組み合わせとして構成とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
(ウ)したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点A11-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-2 相違点B11-13について
(ア)甲第13号証は、医療用液体、例えば、静脈投与用輸液剤、液状栄養剤、腹膜透析液などを収容する可撓性容器に関し、特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器、及び可撓性容器に組込まれ溶着により生じる不要粒子を散逸させないポート部材に関するに関する特許文献であり(【0001】)、医療用液体中に可塑剤の溶出の可能性がなく廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供すること、ポート部材と容器本体の樹脂フィルムとの間の接着不良のない樹脂製容器を提供すること、ポート部材の筒体とキャップ状の保持具との間に滅菌加熱による容器内部の高圧に耐える十分な強度の溶着部を備えるポート部材を提供すること、筒体と保持具との間の溶着部の形成により生じるハミダシ(バリ)を散逸しないポート部材を提供すること、容器本体を複数の分室に区画する剥離可能な接着部を容易に製造できる樹脂製容器を提供すること、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分の変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することを課題とするものである(【0007】【0008】)。
そして、発明の実施の態様として、図1~図3において、医療用液体を封入する樹脂製容器1は、袋状の樹脂製容器本体2及び3つのポート部材3、3を備え、容器本体2は、接着部18,19により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にされる(【0018】)との多室容器の構造の記載を前提として、本発明の容器は、前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備し、好ましい態様としては、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができ、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できる効果を奏する(【0024】)ことが示されている。
したがって、甲第13号証の記載は、医療用液体を封入する樹脂製容器が、袋状の樹脂製容器本体及び複数のポート部材を備えることや容器本体が接着部により複数の分室C1~C4に区画され、それぞれ医療用液体又は粉末等固形薬剤を収容可能であるとして、複数のポート部材や分室C1~C4を利用して、医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にすることを技術思想とするもので、好ましい態様として、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態が示されているだけであるといえる。
甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、アミノ酸を含有するC1もしくはC2以外の他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている形態が好ましいとして、図1に基づいて認定された輸液製剤の保存安定化方法に関するものであり、発明として完成したものであるから、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」をわざわざ、さらに収納される構成に変更する動機付けがない。
さらに、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、C3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が他の室の内容物と接することなく独立して収容されている形態によって、配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用等の各成分を容器内に長期間収容できるという効果を奏するという技術思想を有しているのであるから、その収容形態を変更することは、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。
(イ)また、甲第15号証は、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、薬剤室だけを被覆部材により気密に覆った可撓性の複室容器に係り、特に、薬液室に収容された薬剤の吸湿や酸化等の変質を防止することができる医療用複室容器」に関する発明であり(【0001】)、吸湿性或いは易酸化性の薬剤は製造工程中にも湿度及び/または酸素含有量が十分に低い雰囲気下で取り扱う必要があるところ、複室容器では薬剤室の容器壁が酸素等のガス或いは水分の透過性を有するものであるため、製造工程中で薬剤を薬剤室に充填して密封しても被覆部材で気密にシールするまでは水分や酸素含有量の十分に低い雰囲気を保たなければならないことになり、脱ガス剤及び/または乾燥剤の収容作業や被覆部材の密封作業などを、全て水分や酸素含有量の低い雰囲気下で行わなければならず、製造に手間がかかるという問題点があり、該複室容器では、バリヤー性材料からなる部材にシール不良やピンホールが発生したり長期間保存すると、バリヤー性材料からなる部材の内部に水分や酸素等が侵入するが、これが直接或いは薬剤室の容器壁を透過して薬剤室に侵入してしまうため、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じるという問題点もあった(【0004】)との課題認識の下、図1に示されたような、「薬剤を収容する薬剤室と薬液を収容する薬液室とが連通可能な仕切部により仕切られ、前記薬液室を露出した状態で前記薬剤室が被覆部材により仕切部まで気密に覆われた複室容器において、前記薬剤室の容器壁及び前記被覆部材がガス非透過性及び/または水蒸気非透過性を有することを特徴とする医療用複室容器」(【請求項1】)という構成を採用したものである。
そして、甲第15号証記載の発明の医療用複室容器において、収容対象となる薬剤は、後述の薬液に混合して使用可能なものであれば特に制限されず、水分を吸湿することにより或いは酸素等のガスと反応することにより変質する吸湿性薬剤や易酸化性薬剤、例えば抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであってもよく、一方、薬液は、使用前に前述の薬剤と混合して、溶解、分散、或いは希釈等する液であり、例えば蒸留水、生理食塩水、10%以下のブドウ糖液等の安定な糖液、重炭酸塩含有液、並びに無機電解質及び有機電解質等を含んだ輸液、透析液、及び臓器保存液などが挙げられる(【0008】)ことが示されている。
したがって、甲第15号証において、吸湿や酸化による薬剤の変質を生じると認識している薬剤は、抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤、血栓溶解剤、ビタミン剤などであって、相違点B1-13の構成に関連した、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成は、何ら示されていない。
したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、甲第15号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B11-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(ウ)さらに、甲第1号証は、還元糖、アミノ酸及びビタミン類を含有し、全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(【0001】)、各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(【0004】~【0008】)、【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。
そして、【0043】には、「なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」と記載されるように、相違点B11-13に係る本件訂正特許発明11の構成である「銅」に関しては、輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく、輸液の投与時に、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。
また、【図5】の剥離開封可能な小袋は、脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(請求項1、請求項9【0039】)。
したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、甲第1号証に記載された技術的事項を参酌することには、動機付けがないとともに、仮に適用したとしても、相違点B11-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。
(エ)以上のとおり、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点B11-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
イ-3 相違点C11-13について
(ア)甲第16号証には、「アミノ酸は酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じるので,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを配合させてガラス瓶に収納されてきた。プラスチック製容器はEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等特殊な素材は別として,PEやPPはガス透過性が非常に高い(表4)。プラスチック製容器では,ガラス瓶のように酸素を取り除いて充填を行う方式が採用されても,製造直後より酸素が内溶液に透過してくるので,安定性を担保することができない。キット製品開発に先立ってアミノ酸輸液のプラスチック容器品が製造販売されており,今回のキット品でも同様の方式,すなわち,容器の外部に脱酸素剤を入れ,バッグと共にガス透過性の低いバリアー包材で包装する方式を採用した。」との記載があるものの、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は、甲第13号証に記載されるように、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容することで、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できたものであるから、各成分同士の配合変化による問題に着目しているものである。
そして、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面を、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成することで、接着不良をすでに低減し、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分の品質劣化を抑制したものであるから、アミノ酸自体の酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じることに着目した甲第16号証の手段をさらにあえて適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)したがって、甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において、相違点C11-13の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
ウ 本件訂正特許発明11の効果について
本件訂正特許発明11は、請求項11に特定された、連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において、その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され、他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特長とする構成をとることにより、硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において、銅イオンを安定化することができ(【0014】)、含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において、微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは排除することができ、かつ、経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができるという(【0066】)顕著な効果を奏するものであり、実施例と比較例の比較からその効果が認められる(【0065】)。
審判請求人は、審判請求書37頁5行~38頁10行において、本件明細書に記載された比較例との対比に基づく効果は容易に予測できたもので、顕著な効果とはいえない旨主張している。
しかしながら、本件訂正特許発明1で述べたとおり、本件訂正特許発明11の全体としての構成が、甲第13号証記載の甲13輸液製剤の保存安定化方法発明から当業者が容易に想到しえないことは上述のとおりであるし、アミノ酸輸液が、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液である構成とすることや、アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「別室」に、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を収納することに着目していない、人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって、ビタミンやミネラルの微量成分の変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し、必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することに着目しているだけで、銅と含硫アミノ酸との関係に基づく課題に関して全く着目していない甲13輸液製剤の保存安定化方法発明との対比において、顕著な効果を奏しているといえる。
(3)無効理由2のまとめ
以上のとおり、本件訂正特許発明1、2、10、11は、甲第13号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえず、無効理由2には、理由がない。
3 無効理由3(特許法第36条第6項第1号)について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)訂正された特許請求の範囲の記載について
請求項1、2、10、11の記載は、前記第3 本件訂正特許発明に記載のとおりのものである。
(3)発明の詳細な説明の記載について
特許請求の範囲に記載された、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において」「その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」ること、「他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であること」「前記溶液は、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であ」ること、「前記輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、前記外袋内の酸素を取り除いた」ものであることを特定した「輸液製剤」の発明に関して、発明の詳細な説明には、【0002】~【0004】には、輸液製剤と微量金属元素に関する従来技術の記載が、【0005】には、本件発明の解決しようとする課題が、【0006】には、課題を解決するための手段が、【0012】~【0013】には、発明の実施の形態としての輸液容器の構造や形成材料が、【0014】【0066】には、本件発明の効果が、【0015】には、硫黄原子を含む化合物の例示が、【0016】には、含硫化合物を含む溶液の例示が、【0020】には、微量金属元素収容容器の収納方法が、【0021】には、微量金属元素の例示が、【0024】には、微量金属元素収容容器を収納している室についての説明が、それぞれ記載されている。
そして、【0031】~【0034】には、輸液製剤の好ましい態様である【図1】について、具体的態様について構造の説明が、【0035】~【0039】には、ガスバリヤー性外袋と脱酸素剤に関して材質や使用形態の説明が、【0040】~【0045】には、輸液製剤に含むことができるビタミンの種類や含有形態の説明が、【0046】~【0051】には、輸液製剤を患者に投与する際の使用方法やその際の薬液混合物の成分組成とpHについての説明が、それぞれなされている。
そして、実施例の記載としては、【0052】の実施例1に、注射用蒸留水にブドウ糖および電解質溶液を溶解し、酢酸でpHを4.4とした後、ろ過して、表1に示した組成の溶液(A)を調製し、各結晶アミノ酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し、酢酸でpHを6.5とした後、ろ過し、表2に示した組成の溶液(B)を調製し、コンドロイチン硫酸ナトリウムの注射用蒸留水溶液に、塩化第二鉄の注射用蒸留水溶液と水酸化ナトリウムの注射用蒸留水溶液を交互に添加しながら、所定量の塩化第二鉄を添加し、この溶液に所定量の硫酸銅、塩化マンガンを添加した後、pHを水酸化ナトリウムまたは塩酸で5.3に調整し、注射用蒸留水で液量を調整し、表3に示した組成の溶液(C)を調製し、コンドロイチン硫酸ナトリウムは濃度5.0g/Lとなるように添加したことが記載され、厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に、溶液(C)2mLを充填し、溶着し、この小袋を微量金属元素収容容器としてポリエチレン製容器第1室に予め挟着し、該第1室と第2室のそれぞれに、溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し、密封した後、常法に従い、108℃で20分間、高温蒸気滅菌を行い、輸液を得、脱酸素剤と共に、遮光性ナイロン多層袋で包装し、図1に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造したことが記載されている。
そして、【0053】~【0055】の実施例2には、注射用蒸留水にブドウ糖および電解質水溶液を溶解し、酢酸でpHを4.4とし、糖電解質液を調製し、ビタミンB1(塩酸チアミン)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、パンテノールおよびビオチンを注射用蒸留水に溶解し、上記の糖電解質液と混合後、ろ過して表1に示した組成の溶液(A)を調製し、各結晶アミノ酸、ニコチン酸アミド、葉酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し、酢酸でpHを6.0とした後、ろ過し、表に示した組成の溶液(B)を調製し、溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度200mg/Lとなるように添加し、ビタミンA(パルミチン酸レチノール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、ビタミンE(酢酸トコフェロール)およびビタミンK(フィトナジオン)を、ポリソルベート80(溶液(D)中の濃度10g/L)、ポリソルベート20(溶液(D)中の濃度2g/L)およびマクロゴール400(溶液(D)中の濃度40g/L)に可溶化した後、注射用蒸留水に溶解し、ビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)、ビタミンC(アスコルビン酸)およびD-ソルビトール(溶液(D)中の濃度20g/L)を加え、水酸化ナトリウムでpH6とした後、ろ過して表4に示した組成の溶液(D)を調製したこと、実施例1と同様にして、表3に示した組成の溶液(C)を調製し、厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に、それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)2mLを充填し、溶着し、これらの小袋を図2に示される微量金属元素収容容器およびビタミン収容容器のように、ポリエチレン製容器第1室に挟着した。該第1室および第2室に、溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し、密封した後、常法に従い、108℃で20分間、高温蒸気滅菌を行い、輸液を得、脱酸素剤と共に、遮光性ナイロン多層袋で包装し、図2に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造したことが記載されている。
また、【0056】~【0058】の実施例3には、注射用蒸留水にブドウ糖および電解質水溶液を溶解し、酢酸でpHを4.4とし、糖電解質液を調製し、ビタミンB1(塩酸チアミン)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)およびパンテノールを注射用蒸留水に溶解し、上記の糖電解質液と混合後、ろ過して表1に示した組成の溶液(A)を調製し、各結晶アミノ酸、ニコチン酸アミド、葉酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し、酢酸でpHを6.0とした後、ろ過し、表に示した組成の溶液(B)を調製し、溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/Lとなるように添加したことが記載され、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、ビタミンE(酢酸トコフェロール)およびビタミンK(フィトナジオン)を、ポリソルベート80、ポリソルベート20、D-ソルビトールおよびマクロゴール400に可溶化した後、注射用蒸留水に溶解し、更にビタミンC(アスコルビン酸)を加え、水酸化ナトリウムでpH6とした後、ろ過して表4に示した組成の溶液(D)を調製し、実施例1と同様にして、表3に示した組成の溶液(C)を調製し、厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に、それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)4mLを充填し、溶着し、これらの小袋を図2に示される微量金属元素収容容器およびビタミン収容容器のように、ポリエチレン製容器第1室に挟着し、該第1室および第2室に、溶液(A)の700mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し、密封した後、常法に従い、108℃で20分間、高温蒸気滅菌を行い、輸液を得、脱酸素剤と共に、遮光性ナイロン多層袋で包装し、図2に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造したことが記載されている。
さらに、【0059】の実施例4においては、溶液(A)、(B)、(C)および(D)は、実施例3と全く同様にして調整し、厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に、それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)2mLを充填し、溶着し、溶液(C)が入っている小袋を図3に示される微量金属元素収容容器のように、ポリエチレン製容器第1室に挟着し、溶液(D)が入っている小袋を図3に示されるビタミン収容容器のように、ポリエチレン製容器第2室に挟着し、該第1室および第2室に、溶液(A)の700mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し、密封した後、常法に従い、108℃で20分間、高温蒸気滅菌を行い、輸液を得、脱酸素剤と共に、遮光性ナイロン多層袋で包装し、図3に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造したことが記載されている。
そして、【0060】には、比較例として、溶液(A)、(B)および(C)を、その組成を下記表のように変更した以外は、実施例1と全く同様にして調整し、溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/Lとなるように添加したことが記載され、厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に、溶液(C)2mLを充填し、溶着し、この小袋を微量金属元素収容容器としてポリエチレン製容器第2室に予め挟着し、該第1室と第2室のそれぞれに、溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し、密封した後、常法に従い、108℃で20分間、高温蒸気滅菌を行い、輸液を得、脱酸素剤と共に、遮光性ナイロン多層袋で包装し、図4に示した輸液容器に収納された輸液製剤を製造したことが記載されている。
また、【0061】~【0064】には、実施例1~4および比較例における溶液(A)、(B)、(C)および(D)の組成が、それぞれ【0061】【0062】【0063】【0064】としてしめされている。
さらに、【0065】には、〔安定性試験〕によって、実施例1~4および比較例で製造された輸液製剤を、60℃で2週間保存し、保存後の容器の外観を肉眼で観察したところ、比較例の輸液製剤においてのみ、微量金属元素収容容器に着色が見られたことと、【表5】のとおり銅の安定性として、実施例1~4と比較例の開始時、60℃-2週間、60℃-4週間時点での割合の数値が示されている。
(4)本件訂正特許発明の課題を解決できると認識できる範囲について
ア 本件訂正特許発明の課題
【0002】~【0004】の【従来の技術】の記載、【0005】の【発明が解決しようとする課題】の記載、及び明細書全体の記載を参酌して、本件訂正特許発明1、2の課題は、微量金属元素が安定に存在している含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することにあり、本件訂正特許発明10、11の課題は、該輸液製剤の保存安定化方法の提供にあるものと認める。
イ 請求項1に係る発明について
請求項1に記載された発明は、前記第3のとおり、外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器であることを前提に、その一室にアセチルシステインを含むアミノ酸輸液が充填されることと、他の室に、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと、輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、外袋内の酸素を取り除いたものであることを特定した輸液製剤である。
一方、発明の詳細な説明においては、発明の実施の形態としての輸液容器の構造や形成材料(【0012】【0013】、効果の記載(【0014】【0066】)、硫黄原子を含む化合物や含硫化合物を含む溶液の例示(【0015】【0016】)の記載、微量金属元素収容容器の収納方法、微量金属元素の例示の記載、微量金属元素収容容器を収納している室についての説明(【0020】【0021】【0024】)が一般的記載としてなされた上で、請求項1の構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様である【図1】について、具体的態様について構造の説明(【0031】~【0034】)やガスバリヤー性外袋と脱酸素剤に関して材質や使用形態の説明(【0035】~【0039】)、微量金属元素収容容器を収納している室についての説明(【0040】~【0045】)が、それぞれ詳細に記載されている。
さらに、請求項1に係る発明に該当する実施例1と該当しない比較例について、製造方法と溶液(A)~(C)の成分組成の記載が示され(【0062】~【0064】)、安定性試験として、着色確認と銅の安定性確認の結果(【0065】)が示されている。
したがって、当業者であれば、請求項1に係る全ての特定事項について理解できるとともに、それらの特定事項を備えて、複数の室を有する輸液容器において、含硫化合物を含む溶液の充填された室と他の室に微量金属元素収容容器が収納され、さらに酸素を取り除いたガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば、微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき、上記本件訂正特許発明1の課題が解決できると認識できるといえる。
ウ 請求項2に係る発明について
また、請求項2に記載された発明は、前記第3のとおり、外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器であることを前提に、その一室にシステイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が充填されることと、他の室に、銅を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと、輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されていることを特定した輸液製剤である。
一方、発明の詳細な説明においては、発明の実施の形態としての輸液容器の構造や形成材料(【0012】【0013】、効果の記載(【0014】【0066】)、硫黄原子を含む化合物や含硫化合物を含む溶液の例示(【0015】【0016】)の記載、微量金属元素収容容器の収納方法、微量金属元素の例示の記載、微量金属元素収容容器を収納している室についての説明(【0020】【0021】【0024】)が一般的記載としてなされた上で、請求項2の構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様である【図1】について、具体的態様について構造の説明(【0031】~【0034】)やガスバリヤー性外袋に関して材質や使用形態の説明(外袋に収納されていることで本発明の輸液製剤の成分の酸化分解を抑えることができる旨の記載もある)(【0035】~【0039】)、微量金属元素収容容器を収納している室についての説明(【0040】~【0045】)が、それぞれ詳細に記載されている。
さらに、請求項2に係る発明に該当する実施例2~4と該当しない比較例について、製造方法と溶液(A)~(D)の成分組成の記載が示され(【0062】~【0064】)、安定性試験として、着色確認と銅の安定性確認の結果(【0065】)が示されている。
したがって、当業者であれば、請求項2に係る全ての特定事項について理解できるとともに、それらの特定事項を備えて、複数の室を有する輸液容器において、含硫化合物を含む溶液の充填された室と他の室に微量金属元素収容容器が収納され、さらにガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば、微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき、上記本件訂正特許発明2の課題が解決できると認識できるといえる。
エ 請求項10に係る発明について
請求項10に記載された発明は、前記第3のとおり、複室輸液製剤の輸液容器であることを前提に、アセチルシステインを含むアミノ酸輸液が充填している室と、別室に、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと、輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されており、外袋内の酸素を取り除いたものであることを特定した輸液製剤の保存安定化方法である。
上記アの請求項1に係る発明について検討したのと同様に、当業者であれば、請求項10に係る全ての特定事項について理解できるとともに、それらの特定事項を備えて、複室輸液製剤の輸液容器において、含硫化合物を含む溶液の充填された室と別室に微量金属元素収容容器が収納され、さらに酸素を取り除いたガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば、微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき、上記本件訂正特許発明10の課題が解決できると認識できるといえる。
オ 請求項11に係る発明について
請求項11に記載された発明は、前記第3のとおり、複室輸液製剤の輸液容器であることを前提に、システイン、またはその塩、エステルもしくはN-アシル体、及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が充填している室と、別室に、銅を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと、輸液容器は、ガスバリヤー性外袋に収納されていることを特定した輸液製剤の保存安定化方法である。
上記イの請求項2に係る発明について検討したのと同様に、当業者であれば、請求項11に係る全ての特定事項について理解できるとともに、それらの特定事項を備えて、複室輸液製剤の輸液容器において、含硫化合物を含む溶液の充填された室と別室に微量金属元素収容容器が収納され、さらにガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば、微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき、上記本件訂正特許発明11の課題が解決できると認識できるといえる。
カ 以上のとおり、請求項1、2、10、11に係る発明は、本件訂正特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
(7)審判請求人の主張の検討
審判請求人の無効理由3の主張の概要は、以下のとおりのものである。
ア 本件訂正特許発明は、実施例の構成により「微量金属元素が安定に存在」するメカニズムについて記載がないのに、「微量金属元素が安定に存在」することができることが確認されていない、「微量金属元素収容容器」の収納先である「室」に輸液が充填されていない構成(【0024】)も含まれており、該構成についての甲第19号証、甲第20号証、甲第23号証の結果から、輸液の充填が空気存在下で行われた場合や、「微量金属元素収容容器」の収納位置がアミノ酸輸液収容室から近い位置にある場合の銅の濃度の低下が大きく生じるので、「微量金属元素収容容器」の収納先である「室」に輸液が充填されていない構成は課題を解決できると認識できる範囲のものではない旨主張している(審判請求書53頁23行~64頁22行、令和2年4月10付け上申書32頁1行~37頁4行:無効理由3-1)。
イ 【0065】の[安定性試験]の記載や【表5】では、銅の安定性のみみており、それ以外の微量金属元素の安定性の効果が確認されていないし、比較例における着色が銅によるものか確認できない。
また、外観観察では「60℃で4週間」で保存した場合に着色が見られなかったことが確認されていない。
さらに、「銅の安定性」試験がどのように測定されたのか記載がないし、保存期間により「微量金属元素収容容器」からの水分の損失を考慮していない。
したがって、本件訂正特許発明は、本件明細書において、技術常識を踏まえても、課題を解決できると当業者が認識できない旨主張している(審判請求書64頁23行~66頁10行:無効理由3-2)。
ウ 本件訂正特許発明の課題は、「微量金属元素」の輸液製剤としての使用可能な状態を維持するという「絶対的」な安定性を意味しているので、「微量金属元素収容容器」の収納先である「室」に輸液が充填されていない構成では、課題が解決できると認識できる範囲のものではない(口頭審理陳述要領書13頁10行~16頁8行)。
以下検討する。
アの主張について
審判請求人の実験報告書に基づいて、特定の条件において、銅の濃度の低下が大きく生じる点を指摘し、課題が解決できると認識できる範囲のものでない旨主張しているが、元々本件明細書において、「微量金属元素収容容器」の収納先である「室」には、輸液が存在する方が望ましいことは記載されているのであるから、空室にする場合については、「微量金属元素収容容器」への影響が一定程度存在することは当業者であれば理解できる。
そして、「微量金属元素収容容器」内の微量金属元素と含硫アミノ酸とを隔離するための輸液製剤の構造を検討している【従来の技術】に記載された技術的背景からみて、輸液の充填が空気存在下で行われた場合(含硫アミノ酸の酸化分解によって一定程度硫化水素が発生することは予想される)や、「微量金属元素収容容器」の収納位置がアミノ酸輸液収容室から近い位置にある場合等において、結果に一定の差異が生じることは当然であり、甲第21号証及び乙第6号証における、「微量金属元素収容容器」の収納先である「室」に、輸液が充填されていない構成であっても、比較例に対して相当程度の差異を生じている結果も考慮すれば、当業者であれば、収納態様の条件によって結果に一定の差異が生じることをもって、本件訂正特許発明が課題を解決できると認識できない範囲を含んでいるとは理解しないといえる。
よって、審判請求人の上記主張アを採用することはできない。
イの主張について
まず、【0065】の記載は、「実施例1~4および比較例で製造された輸液製剤を、60℃で2週間保存し、保存後の容器の外観を肉眼で観察したところ、比較例の輸液製剤においてのみ、微量金属元素収容容器に着色が見られた。」との外観の観察の記載部分と、【表5】における銅の安定性を開始時からの変化結果で示した部分からなることが理解できる。
外観において、着色が見られなかったということは、各実施例の溶液(C)には、鉄、マンガン、銅のイオンが含まれていることは明らかであるので、すべての元素が一定程度沈殿を生じなかったことも理解できる。
そして、審判請求人は、銅の安定性をみている【表5】について、測定方法や水分の損失補正の点を問題視しているが、乙第4号証や乙第5号証の記載から明らかなように微量金属の定量分析法としてICP発光分光分析法は当業者にとって慣用技術であり、その測定法や留意点等は技術常識であるといえる(なお、乙第6号証においては、60℃4週間で行われた外観観察の結果や水分補正を行った結果が示されており、上記結論に影響のないことが示されている)。
したがって、本件明細書にそれらの記載がないことをもって、本件訂正特許発明は、本件明細書において、技術常識を踏まえても、課題を解決できると当業者が認識できないとはいえない。
よって、審判請求人の上記主張イを採用することはできない。
ウの主張について
アの主張で検討したとおり、元々本件明細書において、「微量金属元素収容容器」の収納先である「室」には、輸液が存在する方が望ましいことは記載されているのであるから、空室にする場合については、「微量金属元素収容容器」への影響が一定程度存在することは当業者であれば理解できる。
そして、「微量金属元素収容容器」内の微量金属元素と含硫アミノ酸とを隔離するための輸液製剤の構造を検討している【従来の技術】に記載された技術的背景からみて、輸液の充填が空気存在下で行われた場合(含硫アミノ酸の酸化分解によって一定程度硫化水素が発生することは予想される)や、「微量金属元素収容容器」の収納位置がアミノ酸輸液収容室から近い位置にある場合等において、結果に一定の差異が生じることは当然であり、比較例に対して相当程度の差異を生じている結果が本件明細書や甲第21号証及び乙第6号証で示されているのであるから、収納態様の条件によって結果に一定の差異が生じることをもって、当業者は、本件訂正特許発明が課題を解決できると認識できない範囲を含んでいるとは理解しないといえる。
したがって、本件訂正特許発明は、微量金属元素が安定に存在している含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤又は該輸液製剤の安定化方法を提供するという課題を解決できると認識できるといえる。
よって、審判請求人の上記主張ウを採用することはできない。
4 まとめ
本件訂正特許発明1、2、10、11は、甲第1号証記載の発明又は甲第13号証記載の発明から当業者が容易に発明することができたものであるとはいえず、それら発明についての特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないし、本願の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないので、上記特許が特許法第36条第6項第1項の規定に違反してされたものともいえない。
したがって、その特許を無効とすることはできない。
第8 むすび
以上検討したように、本件訂正特許発明1、2、10、11に係る特許は、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-800100