特許拒絶査定不服審判
2015-017936
SRCホモロジー2プロテインチロシンホスファターゼ-1を含むアゴニスト及びその治療方法
- 審判番号
- 2015-017936
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-523113外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年10月01日
- 審決日
- 2017年04月10日
- 公報発行日
- 2017年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ナショナル タイワン ユニバーシティ
- 【請求人代理人】あいわ特許業務法人
- 【請求人】ナショナル ヤン-ミン ユニバーシティ
- 【請求人代理人】あいわ特許業務法人
- 【請求人】ディシービー-ユーエスエイ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
- 【請求人代理人】あいわ特許業務法人
- 分類
- P18 .113-WZ (C07C) / P18 .537-WZ (C07C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-523113「SRCホモロジー2プロテインチロシンホスファターゼ-1を含むアゴニスト及びその治療方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年2月7日国際公開、WO2013/020014、平成26年10月9日国内公表、特表2014-527043〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この出願は、2012年8月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年8月3日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年11月26日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月22日付けで拒絶査定がされ、同年10月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成28年10月21日付けで補正の却下の決定により平成27年10月1日付けの手続補正が却下されるとともに、同年同月同日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
この出願の請求項1~6に係る発明は、平成29年1月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載される事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は以下の1及び2のとおりである。
1 本願発明1
「化合物は、式Iの構造を備え、
【化1】
前記R1及びR3はそれぞれ独立した水素で、前記R2は、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
又は、
【化7】
であり、
前記R1は独立した水素で、R3はメチル基で、R2は、
【化8】
又は、
【化9】
であるか、或いは、
前記R2及びR3は独立した水素で、R1は、
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
であることを特徴とする化合物。」
2 本願発明2
「医薬組成物は、請求項1に定義する化合物、及び薬理上受け入れ可能なキャリアを含むことを特徴とする医薬組成物。」
第3 当審が通知した拒絶の理由
平成28年10月21日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は理由1~7からなり、そのうち理由6及び理由4は以下の1及び2のとおりである。
1 当審拒絶理由の理由6
当審拒絶理由の理由6は、
「この出願の請求項1-5及び9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
刊行物1:K.-F. Chen et al.,Sorafenib derivatives induce apoptosis through inhibition of STAT3 independent of Raf,EUROPEAN JOURNAL OF MEDICINAL CHEMISTRY,2011.04.14,Vol.46,No.7,pp.2845-2851
刊行物2:W.-T. Tai et al.,Signal transducer and activator of transcription 3 is a major kinase-independent target of sorafenib in hepatocellular carcinoma,JOURNAL OF HEPATOLOGY,2011.02.24,Vol.55,No.5,pp.1041-1048
刊行物3~刊行物等5:(略)」
というものである。
2 当審拒絶理由の理由4
当審拒絶理由の理由4は、
「この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」というものであり、概略、以下の(1)及び(2)のとおりの指摘がなされている。
(1)請求項1~5について
発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、化合物SC-1、SC-43及びSC-49である。
これに対し、請求項1~5はいずれも化合物SC-1、SC-43及びSC-49以外の化合物を包含する。
したがって、請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
また、請求項1~5に係る発明が、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというに足りる出願時の技術常識はみあたらない。
よって、請求項1~5に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
(2)請求項6~11について
発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、化合物については化合物SC-1及びSC-43であり、疾病についてはガン一般である。
これに対し、請求項6~11はいずれも含有する化合物が化合物SC-1及びSC-43以外の化合物である医薬組成物を包含する。
したがって、請求項6~11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
また、請求項6~11はいずれも対象とする疾病がガン以外の疾病である医薬組成物を包含する。
したがって、この点においても、請求項6~11に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
さらに、請求項6~11に係る発明が、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというに足りる出願時の技術常識はみあたらない。
よって、請求項6~11に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
3 当審拒絶理由の対象となった発明と本願発明との対応
本願発明1は、当審拒絶理由の理由6及び理由4の対象となった、平成29年1月23日付けの手続補正による補正前の請求項1に係る発明に対応するものである。
また、本願発明2は、当審拒絶理由の理由4の対象となった、平成29年1月23日付けの手続補正による補正前の請求項6に係る発明に対応するものである。
第4 当審の判断
当審は、当審拒絶理由の理由6のとおり、本願発明1は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1又は刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないと判断する。
また、当審は、当審拒絶理由の理由4のとおり、本願発明1及び本願発明2が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない点で、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
そして、その理由は以下の1及び2のとおりである。
1 当審拒絶理由の理由6について
(1)刊行物
以下の刊行物1及び刊行物2は、この出願の優先日である2011年8月3日より前に日本国内又は外国において頒布されたものである。
刊行物1:K.-F. Chen et al.,Sorafenib derivatives induce apoptosis through inhibition of STAT3 independent of Raf,EUROPEAN JOURNAL OF MEDICINAL CHEMISTRY,2011.04.14,Vol.46,No.7,pp.2845-2851
刊行物2:W.-T. Tai et al.,Signal transducer and activator of transcription 3 is a major kinase-independent target of sorafenib in hepatocellular carcinoma,JOURNAL OF HEPATOLOGY,2011.02.24,Vol.55,No.5,pp.1041-1048
(2)刊行物の記載(図表を除き訳文で示す。)
ア 刊行物1の記載
(1a)
「Rafと独立したSTAT3の阻害によりアポトーシスを引き起こすソラフェニブ派生物」(2845頁標題)
(1b)
「ソラフェニブ(BAY43-9006,Nexavar)は、腎臓ガン及び肝臓ガン(HCC)に向けた臨床応用がされている。・・・今までのところ、ソラフェニブに処理によるRaf阻害とSHP-1活性化との間の相互関係は見いだされていない。これに加え、ソラフェニブ派生物がRaf活性に影響を与えずにSTAT3を阻害することを示した報告はない。・・・ここに我々は、細胞の生存を減少させる効果を有するがRafキナーゼ活性には影響しない新規なソラフェニブ派生物を合成した。・・・」(2845頁右欄13行~2846頁左欄8行)
(1c)
「
図1 ソラフェニブと化合物1の化学構造」(2846頁左欄下部)
(1d)
「
図3 ソラフェニブ及び化合物1によるRaf-1活性。Huh-7細胞は10μmのソラフェニブ又は化合物1に24時間さらされ、細胞溶解物のraf-1活性を分析した。柱は平均値、棒は標準偏差(n=3)、*P < 0.05」(2846頁右欄下部)。
(1e)
「
図5 ソラフェニブに対する化合物1~25の阻害活性のエライサ分析。それぞれ10μMで24時間処理されたPLC5細胞内のLI-6で刺激されたP-STAT。柱は平均値、棒は標準偏差(n=3)」(2848頁上部)
(1f)
「
図7 (A)化合物1及び12により引き起こされた細胞死のエライサ分析。5及び10μMでの24時間処理PLC5細胞を処理。(B)化合物1及び12により引き起こされた細胞死のフローサイトメトリー分析。5及び10μMでの24時間処理PLC5細胞を処理。」(2848頁下部)
(1g)
「6.2.1 化合物1の手順
トリホスゲン(0.30g,1.0mmol)のTHF溶液50mLに、4-クロロ-3-(トリフルオロメチル)アニリン(0.21g,1.1mmol)と2当量のトリエチルアミンが加えられた。その混合物は50℃で30分間加熱された。温度が室温に戻された後、混合物に4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾニトリルのTHF溶液10mLが加えられ50℃でさらに30分間加熱された。混合物は吸引乾燥され、水で希釈され、酢酸エチルで抽出された。抽出物は食塩水で洗浄され、無水硫酸マグネシウムで乾燥され、減圧濃縮されて1を得た。
1-(4-クロロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル)-3-(4-(4-シアノフェニル)フェニル尿素(1)。・・・」(2849頁左欄21行~40行)
イ 刊行物2の記載
(2a)
「シグナル伝達兼転写活性化因子3は、肝細胞ガン内で主要なキナーゼと独立したソラフェニブの標的である」(1041頁標題)。
(2b)
「背景及び目的:最近我々はソラフェニブがシグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)の阻害を通じて肝細胞ガン(HCC)細胞をTRAILに敏感にすることを報告した。ここに、我々はソラフェニブがキナーゼと独立した作用機序でHCCを阻害すること、SHP-1は、STAT3の不活性化と独立していることを報告する。
方法:SC-1はソラフェニブと構造はよく似ているがキナーゼを阻害しないソラフェニブ派生物である。HCC細胞類(PLC5、Huh-7、Hep3B及びSK-Hep1)はソラフェニブ又はSC-1によって処理され、シグナル伝達が分析された。インビボでの効果はHuh-7を異種移植したヌードマウスで決定した。
結果:SC-1は試験したHCC細胞類全てで成長阻害及びアポトーシスについてソラフェニブと同様の効果を示した。SC-1は試験したHCC細胞類全てでチロシン705におけるリン酸化STAT3(p-STAT3)のリン酸化反応を減少させた。Cyclin D1及びSurvivinを含むSTAT3が促進する遺伝子の発現もSC-1により抑制された。ルシフェラーゼレポーターアッセイは、ソラフェニブで処理された細胞とSC-1で処理された細胞の双方でSTAT3の転写活性化の阻害を確認した。PLC5細胞内でのSTAT3の異所発現はSC-1で処理された細胞におけるアポトーシスを停止した。ソラフェニブ及びSC-1はSHP-1の活性を増大させた。SHP-2やPTP-1BではなくSHP-1の、微小なRNA干渉がアポトーシスを減少することによるノックダウンが、SC-1により引き起こされた。最後に、SC-1はインビボでのHuh-7腫瘍の成長をかなり抑制するが、これはp-STATの減少及びSHP-1活性の増大に関連づけられる。
結論:STAT3は、HCCにおける、主要なキナーゼとは独立したソラフェニブの標的である。」(1041頁左欄1行~右欄5行)
(2c)
「ソラフェニブ(Nexavar)は、最初のそして唯一の肝細胞ガン向けに承認された標的療法である。ソラフェニブは、Raf-1のほかVEGFR2、VEGFR3、Flt-3、PDGFRやFGFR-1などの他のチロシンキナーゼ抑制する、複数キナーゼ阻害剤である。フェーズIIIの段階において、ソラフェニブは後期段階の肝細胞ガンの患者の生存率の向上を示したが、これが肝細胞ガンについてのソラフェニブの承認につながった。ソラフェニブは、腎臓ガンの治療についても承認され、また、前臨床研究は、ソラフェニブが非小細胞性肺ガンや膵臓ガンなど他のタイプのガン細胞にも有効であることを示した。」(1041頁右欄14行~23行)
(2d)
「
・
・
・
図1 SC-1、ソラフェニブの派生物であり、HCC細胞においてソラフェニブと同様の抗ガン効果を示す。(A)左の図は、ソラフェニブとSC-1の化学構造。・・・右の図は、Raf-1活性に対するソラフェニブとSC-1の効果。PLC5細胞が10μMのソラフェニブ又はSC-1に24時間さらされた。点は平均値、棒は標準偏差(n=6)・・・」(1042頁上部)
(2e)
「
図5 Huh-7を異種移植したヌードマウスにおけるソラフェニブとSC-1のインビボでの効果 (A)ソラフェニブはHuh-7腫瘍において抗腫瘍効果を示す。点は平均値(n=6)棒は標準誤差、*p<0.05、**p<0.01。右下の図は、Huh-7腫瘍におけるp-STAT3とSTAT3のウェスタンブロット分析。右下の図は、Huh-7腫瘍におけるSHP-1の活性。(B)SC-1はHuh-7腫瘍にかなりの抗腫瘍効果を示す。上の図で、点は平均値(n=6)、棒は標準誤差。右下の図は、Huh-7腫瘍におけるp-STAT3とSTAT3のウェスタンブロット分析。右下の図は、Huh-7腫瘍におけるSHP-1の活性。」(1047頁左欄)
(3)刊行物等に記載された発明
ア 刊行物1に記載された発明
刊行物1(摘記(1c)、(1g))には、
という構造を有する化合物が、化合物1として、その合成方法とともに記載されている。
また、刊行物1(摘記(1a)、(1b)、(1d)~(1f))には、化合物1が、ソラフェニブの派生物であって、Raf-1の活性に影響を与えずにP-STAT3を阻害することが記載されている。
したがって、刊行物1には、Raf-1の活性に影響を与えずにSTAT3を阻害する、ソラフェニブの派生物として、
「
という構造の化合物」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
イ 刊行物2に記載された発明
刊行物2(摘記(2d))には、
という構造を有する化合物が、SC-1として記載されている。
また、刊行物2(摘記(2a)~(2c)、(2e))には、SC-1が、ソラフェニブの派生物であって、SHP-1の活性を増大させるとともにSTAT3を阻害することが記載されている。
したがって、刊行物2には、SHP-1の活性を増大させるとともにSTAT3を阻害する、ソラフェニブの派生物として、
「
という構造の化合物」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
(4)本願発明1と刊行物に記載された発明との対比及びそれに基づく判断
ア 本願発明1と引用発明1との対比及びそれに基づく判断
引用発明1は、本願発明1が包含する化合物のうち、R2及びR3が水素でありR1が
【化10】
で表される基である化合物に相当する。
したがって、本願発明1は引用発明1と同一である。
イ 本願発明1と引用発明2との対比及びそれに基づく判断
引用発明2も、上記アで述べたとおり、本願発明1が包含する化合物のうち、R2及びR3が水素でありR1が【化10】で表される基である化合物に相当する。
したがって、本願発明1は引用発明2と同一である。
(5)請求人の主張について
請求人は、平成29年1月23日付け意見書の二(5)において、「・・・本願発明の化合物が新規性を有しない拒絶理由について、引用発明1-1及び引用発明1-2と請求項4の化合物10(SC-49)とは同じであるが、引用発明1-1及び引用発明1-2の化合物(【参考化1】)と補正後の請求項1の化合物SC-49(【参考化2】)とのR1置換基が異なる。・・・
【参考化1】
・・・
【参考化2】
・・・」と主張する(審決注:「引用発明1-1」は、当審拒絶理由の理由6における「引用発明1-1」であり、本審決における「引用発明1」である。また、「引用発明1-2」は、当審拒絶理由の理由6における「引用発明2」であると解され、本審決における「引用発明2」である。)。
しかし、上記(4)で指摘した「本願発明1が包含する化合物のうち、R2及びR3が水素でありR1が【化10】で表される基である化合物」は、
という構造の化合物であって、請求人が【参考化2】に掲げる
という構造の化合物ではない。
そして、引用発明1及び引用発明2が本願発明1が包含するこの化合物に相当する以上、本願発明1が他にどのような化合物を包含するかや、引用発明1及び引用発明2が本願発明1が包含する他の化合物と異なるかどうかは、本願発明1の新規性の判断において問題にならない。
したがって、請求人の主張は、本願発明1は引用発明1及び引用発明2と同一であるとの上記(4)における判断を左右するものではない。
(6)小括
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された引用発明1又は刊行物2に記載された引用発明2と同一である。
したがって、本願発明1は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1又は刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
2 当審拒絶理由の理由4について
(1)はじめに
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高判平17.11.11平17(行ケ)10042裁判所ウェブサイト「知的財産判例集」参照)。
また、一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。したがって、化学物質発明の有用性を知るには実際に試験することによりその有用性を証明するか、その試験結果から当業者にその有用性が認識できることを必要とする(東京高判平6.3.22平2(行ケ)243知財裁集26・1・199参照)。
(2)特許請求の範囲の記載
ア 本願発明1に係る特許請求の範囲の記載
本願発明1に係る特許請求の範囲の記載は上記第2 1で述べたとおりであり、本願発明1は、発明の詳細な説明の【0033】における化合物SC-43、SC-44、SC-45、SC-50、SC-51、SC-52、SC-59、SC-1、SC-48、SC-54、SC-55、SC-56、SC-58及び同【0160】における化合物60の、14の化合物のみを包含するものである。
イ 本願発明2に係る特許請求の範囲の記載
本願発明2に係る特許請求の範囲の記載は上記第2 2で述べたとおりであり、本願発明2における「請求項1に定義する化合物」という発明特定事項は、上記アで指摘した14の化合物のみを包含する。
(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載には、概略、以下のとおりの記載がある。
ア 技術分野(【0001】)
本発明は、SHP-1促進活性を備える新しい化合物に関するものであることが記載されている。
イ 背景技術(【0002】-【0003】)
SHP-1活性の増大により、P-ATAT3濃度の低下に伴うガン細胞の成長抑制及び破骨細胞の活性増大の抑制に伴う骨粗鬆症の進行防止がなされ得ることが記載されている。
ウ 発明が解決しようとする課題(【0004】)
本発明に係る新規化合物は、SHP-1促進効果及びP-STAT3減少効果を備え、ガンなどの疾病の治療に有用であり、しかもRaf-1やVEGFR2などの活性を阻害することがないことが記載されている。
エ 発明を解決するための手段(【0005】~【0018】)
本発明に係る化合物、この化合物を含む医薬組成物、この化合物を使用して細胞内でのSHP-1の発現量を増大させる方法、この化合物を使用する治療方法などが記載されている。
オ 発明の効果(【0019】)
本発明に係る新規化合物は、SHP-1促進効果及びP-STAT3減少効果を備え、ガンなどの疾病の治療に有用であり、しかもRaf-1やVEGFR2などの活性を阻害することがないことが記載されている。
カ 図面の簡単な説明(【0020】)
ソラフェニブ及び化合物SC-1の化学構造、本発明に係る化合物の一般的な合成プロセスや、本発明に係る化合物の生物活性検査の結果などが記載されている。
キ 発明を実施するための形態(【0021】~【0359】)
(ア)【0021】-【0024】
発明の詳細な説明を理解するにあたって留意すべき事項が記載されている。
(イ)【0025】~【0026】
ソラフェニブは、腎ガンと肝ガンの臨床に応用されている化合物であって、チロシンキナーゼの活性を抑制するものであること、及び本発明に係る化合物は、ソラフェニブの構造を修正した、キナーゼ活性能力を阻害しないソラフェニブ派生物であって、ソラフェニブに比べガンなどのある疾病に対して良好な治療効果を備えること、が記載されている。
(ウ)【0027】~【0077】
本発明に係る化合物が概括的に記載されている。
(エ)【0078】~【0084】
本発明に係る化合物の合成方法が概括的に記載されている。
(オ)【0085】~【0094】
本発明に係る化合物を医薬に応用する態様が概括的に記載されている。
(カ)【0095】~【0276】
化合物SC-1の合成方法及び合成結果が記載されているとともに、化合物SC-43~SC-45、SC-48~SC-52、SC-54~SC-56、SC-58~SC-60の合成結果が記載されている。また、化合物SC-2の合成方法及び合成結果が記載されているとともに、化合物SC-3~SC-25の合成結果が記載されている。さらに、化合物SC-40、SC-36~SC-38の合成結果も記載されている。
(キ)【0277】~【0302】
生物活性検査の材料と方法が記載されている。
(ク)【0303】~【0359】
以下のとおり、生物活性検査の結果が記載されている。
a 【0304】~【0305】
化合物SC-1はソラフェニブと比較してRaf-1キナーゼ活性を阻害しないこと、及びその原因はピリジン環及びアミド官能基がベンゾニトリル基に置換されたことによる水素結合能力の喪失であると推測されること、が記載されている。
b 【0306】~【0314】
化合物SC-1~SC-25について、PLC5細胞に対する成長抑制作用をIC50として確認し、ソラフェニブ及び化合物SC-1のIC50が10μM未満であったこと、化合物SC-16、SC-18、SC-21、SC-24、SC-25のIC50が約10μM~約25μMの範囲内であったこと、その余の化合物のIC50は40μM超(ただし、具体的な数値の記載はない。)であったこと、が記載されている。
そして、化合物SC-22とSC-25とはR6がメチル基であるか水素原子であるかで構造が相違するとともにPLC5細胞に対するIC50が40μM超(ただし、具体的な数値の記載はない。)か約10μMかで相違することも記載されている。
c 【0315】~【0318】
ソラフェニブ派生物の作用方式のメカニズムについて、STAT3を抑制することで細胞の死亡を誘導することが記載されている。
また、化合物SC-1がSTAT3の活性を抑制すること、SC-1はシアノ基のRafとの相互作用が低下していると推測されることが記載されている。
d 【0319】~【0321】
ソラフェニブはRaf-1キナーゼを阻害するのに対し化合物SC-1はRaf-1キナーゼを阻害しないこと、ソラフェニブ及び化合物SC-1は各種肝ガン細胞の生存率を低下させることが記載されている。
e 【0322】~【0330】
ソラフェニブ及び化合物SC-1の肝ガン細胞に対する作用機序についての検討が記載されている。
f 【0331】~【0333】
ソラフェニブ及び化合物SC-1が肝ガンを患っているマウスに対する治療効果を有することが記載されている。
g 【0334】~【0335】
ソラフェニブ、化合物SC-1及びSC-43が乳ガン細胞の成長を抑制すること、及び化合物SC-1が白血病のガン細胞の成長を抑制することが記載されている。
h 【0036】~【0337】
化合物SC-40及びSC-43が肝ガン細胞に対し効果を示すことが記載されている。
i 【0338】~【0351】
化合物SC-40及びSC-43の肝ガン細胞に対する作用機序についての検討が記載されている。
また、化合物SC-49がSHP-1活性を増大することも記載されている(【0349】)。
j 【0352】~【0359】
ソラフェニブ及び化合物SC-1が肝ガンを患っているマウスに対する治療効果を有することが記載されている。
(4)発明の課題
ア 本願発明1の課題
特許請求の範囲の記載は上記(2)アで述べたとおりであり、発明の詳細な説明の【0001】~【0019】及び【0025】~【0026】(上記(3)ア~オ及びキ(イ))の記載並びに発明の詳細な説明全体の記載からみて、本願発明1の課題は、SHP-1活性増大によるP-STAT3減少効果を有する一方でRaf-1などの活性を阻害しない医薬候補化合物を提供することにあると認められる。
イ 本願発明2の課題
特許請求の範囲の記載は上記(2)イで述べたとおりであり、発明の詳細な説明の【0001】~【0019】及び【0025】~【0026】(上記(3)ア~オ及びキ(イ))の記載並びに発明の詳細な説明全体の記載からみて、本願発明2の課題は、SHP-1活性増大によるP-STAT3減少効果を有する一方でRaf-1などの活性を阻害しない化合物を含有する医薬組成物を提供することにあると認められる。
(5)特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との対比及び検討
ア 本願発明1について
上記(2)アで述べたとおり、本願発明1は、化合物SC-43、SC-44、SC-45、SC-50、SC-51、SC-52、SC-59、60、SC-1、SC-48、SC-54、SC-55、SC-56、SC-58のみを包含するものである。
この点、発明の詳細な説明の【0334】~【0335】及び【0036】~【0337】(上記(3)キ(ク)g及びh)には、化合物SC-1及びSC-43が乳ガン細胞の成長を抑制すること及び化合物SC-40及びSC-43が肝ガン細胞に対し効果を示すことが記載されているから、本願発明1が包含する化合物のうち、化合物SC-1及びSC-43は、発明の詳細な説明に当業者が医薬候補化合物であると認識できる程度に具体例が開示されている化合物であるといえる。
しかし、本願発明1が包含する化合物のうち化合物SC-1及びSC-43以外のものについては、発明の詳細な説明に当業者が医薬候補化合物であると認識できる程度の具体例は開示されていない。
また、発明の詳細な説明には、本願発明1が包含する化合物のうち化合物SC-1及びSC-43以外のものについて、当業者が発明の詳細な説明における他の化合物についての具体例を拡張ないし一般化して医薬候補化合物であると認識できるといえるような記載(確からしい推論など)はみあたらない。
のみならず、発明の詳細な説明の【0306】~【0314】(上記(3)キ(ク)b)には、ソラフェニブ派生物であるという点において本願発明1と軌を一にする化合物である化合物22と25について、置換基がメチル基であるか水素原子であるかというわずかな相違がPLC5細胞に対するIC50に大きな影響を与えることが記載されている。
そうすると、本願発明1が包含する化合物のうち化合物SC-1及びSC-43以外のものについては、発明の詳細な説明の記載により当業者が医薬候補化合物であると認識できるとはいえない。
また、本願発明1が包含する化合物のうち化合物SC-1及びSC-43以外のものについて、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が医薬候補化合物であると認識できるというに足りる出願時の技術常識はみあたらない。
以上から、本願発明1は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らし当業者が医薬候補化合物であると認識できる範囲のものであるとはいえない。
よって、本願発明1は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らし当業者が上記(4)アで述べた発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
イ 本願発明2について
上記(2)イで述べたとおり、本願発明2は「・・・請求項1に定義する化合物・・・を含むことを特徴とする医薬組成物。」であり、この「請求項1に定義する化合物」という発明特定事項は、化合物SC-43、SC-44、SC-45、SC-50、SC-51、SC-52、SC-59、60、SC-1、SC-48、SC-54、SC-55、SC-56、SC-58のみを包含する。
この点、上記アで述べたとおり、これらの化合物のうち化合物SC-1及びSC-43以外のものについては、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らし当業者が医薬候補化合物であると認識できるとはいえない。
そして、医薬化合物はおろか医薬候補化合物すら含まれていない組成物を当業者が医薬組成物であると認識することはないから、本願発明2が包含する組成物のうち化合物SC-1又はSC-43が含まれていないものについては、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らし当業者が医薬組成物であると認識できるとはいえない。
以上から、本願発明2は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らし当業者が医薬組成物であると認識できる範囲のものであるとはいえない。
よって、本願発明2は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らし当業者が上記(4)イで述べた発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
(6)請求人の主張について
請求人は、平成29年1月23日付け意見書の二(4)において、「A.補正後の請求項1は化合物SC-43、SC-44、SC-45、SC-48、SC-49、SC-50、SC-51、SC-52、SC-54、SC55、SC-56、SC-59及びSC-60である。SRCホモロジー2プロテインチロシンホスファターゼ-1を含むアゴニストの促進剤として、本願発明の明細書には式I化合物の合成方法及び式I化合物が記載されており、しかも、リン酸化STAT3を減少する能力を有し、アポトーシスを引き起こし、体内でも体外でもガン及び骨粗そう症を治療する効果がある。(段落〔0334〕~〔0359〕及び図13~23をご参照。)」と主張する。
しかし、上記(5)アで述べたとおり、本願発明1が包含する化合物のうち化合物SC-1及びSC-43以外のものについては、請求人が主張する箇所はもとより発明の詳細な説明及び図面のどこにも、当業者が医薬候補化合物であると認識できる程度の具体例は開示されていないし、当業者が発明の詳細な説明における他の化合物についての具体例を拡張ないし一般化して医薬候補化合物であると認識できるといえるような記載もない。
したがって、請求人の主張は、本願発明1及び本願発明2は当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないとの上記(5)ア及びイにおける判断を左右するものではない。
(7)小括
以上のとおり、本願発明1及び2は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らし発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとはいえない。
したがって、本願発明1及び本願発明2が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない点で、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1又は刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
また、本願発明1及び本願発明2が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない点で、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余について検討するまでもなく、この出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-017936