特許拒絶査定不服審判
2022-000167
生物起源の活性炭ならびにそれを作製および使用する方法
- 審判番号
- 2022-000167
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-141907
- 請求日
- 2022年01月06日
- 審決日
- 2024年06月25日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】カーボン テクノロジー ホールディングス, エルエルシー
- 【請求人代理人】石川 徹
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P18 .113-WZ (C01B) / P18 .121-WZ (C01B) / P18 .536-WZ (C01B) / P18 .537-WZ (C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法49条2号特許法49条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第44条第1項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-141907「生物起源の活性炭ならびにそれを作製および使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月 5日出願公開、特開2019-206475〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
本願は、2013年(平成25年)5月7日(以下、「遡及日」という。)(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年5月7日(以下、「最先優先日」という。) 2012年11月2日 2012年12月14日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2015-511633号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、令和1年8月1日に新たな特許出願として分割したものであって、令和3年8月30日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、令和4年1月6日に拒絶査定不服審判を請求する審判請求書が提出され、同年2月17日にその請求の理由を補充する手続補正書が提出され、同年同月18日に手続補足書が提出されたものである。
そして、当審から、同年10月24日付けで拒絶理由が通知され、令和5年4月25日に意見書及び補正書が、同年同月26日に手続補足書が提出され、さらに、当審から同年8月16日付けで拒絶理由が通知され、令和6年2月22日に意見書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~14に係る発明は、令和5年4月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
生物起源の活性炭組成物であって、該組成物が、少なくとも85重量%の全炭素、最大でも15重量%の水素、最大でも1重量%の窒素、及び少なくとも1重量%~最大でも10重量%の酸素を含み、
該組成物が、少なくとも1500のヨウ素価を特徴とし、かつ
該重量%が乾燥ベースのものであり、かつ該組成物の総重量に対するものである、前記組成物。」
第3 当審の拒絶の理由
1 令和4年10月24日付けで当審が通知した拒絶理由は次の理由を含むものであり、その概要は以下のとおりである。
(1)(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2)(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
(1)本願発明の詳細な説明には、請求項1で特定される「組成」及び「ヨウ素価」を同時に満たす活性炭組成物を製造する具体的な製造条件は示されていない。
活性炭原料の種類や製造条件によって炭化プロセスは大きく異なり、得られる活性炭組成物における組成や気孔性状などの物性が異なることは本願出願時(遡及日)の技術常識であるから、請求項1で特定される組成とヨウ素価を有する活性炭組成物や、その製造方法が具体的に示されていない、発明の詳細な説明の記載に基づいて、請求項1で特定される特性を有する活性炭組成物を製造することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要することである。
(2)上記(1)で述べたように、活性炭原料の種類や製造条件によって炭化プロセスは大きく異なり、得られる活性炭組成物における組成や気孔性状などの物性が異なることは、本願出願時(遡及日)の技術常識であるため、請求項1で特定される組成とヨウ素価を併せ持つ活性炭組成物やその製造方法が具体的に示されていない発明の詳細な説明における記載内容を請求項1に係る発明にまで拡張ないし一般化することはできない。
2 令和5年8月16日付けで当審が通知した拒絶理由は次の理由を含むものであり、その概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願(最先優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1~3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2008-136558号公報
2.特開2006-188366号公報
3.国際公開第2011/093294号
4.安部郁夫、「炭の吸着のひみつ」、 林産試だより、 1995年、 12月号、pp.5-9
ここで、引用文献4は、活性炭の一般的な組成を開示しているものとして提示したものである。
第4 令和4年10月24日付けで当審が通知した拒絶理由について
1 実施可能要件について
(1)本願明細書には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下、同様。)
ア 「【0221】
これらまたは他の実施形態において、本開示は、生物起源の活性炭を生成するための連続プロセスを提供し、このプロセスは、
(a)バイオマスを含む出発炭素含有供給原料を提供することと、
(b)前述の供給原料を任意に乾燥させて、前述の供給原料から水分の少なくとも一部を除去することと、
(c)1つ以上の間接的に加熱された反応帯域において、前述の供給原料を機械的に運搬し、前述の供給原料を、実質的に不活性のガスを含む蒸気流および水または二酸化炭素のうちの少なくとも一方を含む活性化剤と向流的に接触させて、固体、凝縮性蒸気、および非凝縮性ガスを発生させることと(前述の凝縮性蒸気および前述の非凝縮性ガスは前述の蒸気流に入る)、
(d)前述の反応帯域から前述の蒸気流の少なくとも一部を除去して、分離された蒸気流を発生させることと、
(e)前述の分離された蒸気流またはその熱的に処理された形態の少なくとも一部を、ステップ(c)の前に前述の供給原料に、かつ/または前述の反応帯域(複数可)のガス入口に再循環させることと、
(f)生物起源の活性炭として前述の反応帯域(複数可)から前述の固体の少なくとも一部を回収することとを含む。
・・・・
【0226】
いくつかの実施形態において、ステップ(e)は、反応帯域のガス入口に、かつ/またはステップ(c)の前に供給原料に、分離された蒸気流のうちの少なくとも一部を導入することを含む。いくつかの実施形態において、ステップ(e)は、反応帯域のガス入口に、かつ/またはステップ(c)の前に供給原料に、分離された蒸気流のうちの少なくとも一部の熱的に処理された形態を導入することを含む。
【0227】
いくつかの実施形態において、ステップ(e)は、分離された蒸気流またはその熱的に処理された形態をさらに加熱することをさらに含む。いくつかの実施形態において、ステップ(e)は、分離された蒸気流またはその熱的に処理された形態のガス組成を調整することをさらに含む。ガス組成の調整は、水、二酸化炭素、窒素、および酸素からなる群から選択される1つ以上の種を導入することを含み得る。
・・・
【0234】
いくつかの実施形態において、活性化剤のうちの少なくとも一部は、分離された蒸気流またはその熱的に処理された形態に由来する。ステップ(e)は、固体中の炭素の収率を増加させ得る。さらに、ステップ(e)は、好ましくは、固体の表面積およびヨウ素価を増加させ得る。」
イ 「【0829】
実施例6.生物起源の活性炭の調製-一般方法
木材基板の赤松大チップ、ダグラスファー円筒(直径1.25インチの断片)、およびダグラスファー断片(約2インチ×2インチ)を、任意に加熱された窒素ガス流を有する装填ホッパーに装填した。任意に、添加物の1%水溶液(例えば、NaOHおよび/もしくはKOH)を、ホッパーにある間にスプレーで、または添加物水溶液中にバイオマスを浸して木材基板に塗布した。塗布方法にかかわらず、バイオマスが乾燥する前にこの添加物水溶液をバイオマスに30分間浸透させた。反応器が所望の温度に到達した時点で、反応器の回転を開始し、材料供給システムを作動させて木材基板を緩徐に供給した。それぞれのバッチの反応器の加熱された部分における平均滞留時間が表3に示される。反応器の加熱された部分を出た後、熱分解材料は、放出ホッパーに収集された。コンベヤは、さらなる分析のために放出ホッパーから生物起源の活性炭生成物を除去した。
【0830】
生物起源の活性炭を、様々な供給原料の大きさ、様々な反応器温度、加熱窒素または周辺窒素、添加物、および滞留時間を用いて上の一般方法に従って調製した。表3は、それぞれのバッチの熱分解パラメータを要約する。
【表3】
[図:0001416892000001.jpg]
」
ウ 「【0863】
実施例20. 供給原料強化による活性化の強化
この実施例は、その後の活性化ステップの前に事前炭化した基板上にガス相炭素質種を再捕獲する肯定的な利点を実証する。
【0864】
事前炭化した供給原料(370℃で炭化したもの)を利用した。第1の実験において、この材料を、供給原料に熱分解オフガスを通すことなく熱分解した(活性化した、熱的に処理した)。この構成で達成された最大ヨウ素価は、909であった。
【0865】
第2の実験において、この同一の基板をガス相炭素質捕獲材料として利用した。この様式で、最大ヨウ素価は、950と記録された。
【0866】
これらの結果は、事前炭化した供給原料基板および事前炭化しなかった供給原料の両方を用いたパイロット規模で実行した複数の実験と一致する。
【0867】
本明細書で引用されるすべての出版物、特許、および特許出願は、それぞれの出版物、特許、および特許出願が本明細書で具体的および個別に提示されるかのように、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0868】
上述の方法およびステップがある特定の順序で起こるある特定の事象を示す場合、当業者であれば、ある特定のステップの順序付けを修正することができ、かつそのような修正が本開示の変形例に従うものであることを理解する。さらに、可能な場合、ある特定のステップを並行プロセスにおいて同時に行うことができるか、または連続して行うことができる。」
(2)令和4年2月18日に提出された手続補足書に記載された事項
令和4年2月18日に提出された手続補足書(以下、「補足書」という。)には、以下の記載がある。
「
[図:0001416892000002.jpg]
[図:0001416892000003.jpg]
[図:0001416892000004.jpg]
」
以下は、上記補足書の必要部分を当審で訳したものである。
「 2022年1月27日
・・・
ジェームズ・メネルの宣誓供述書による証拠
・・・
6.分析されたサンプル(その結果は添付の付録に記載されている)のヨウ素価は1,650である。
・・・
8.生物起源活性炭組成物は、本願の実施例と一致する方法を使用して製造された。
9.具体的には、木材原料を約650℃で30分間、-2psiから+2psiで予熱した。
10.予熱した原料に添加剤である1%の水酸化カリウム水溶液を噴霧した。溶液は予熱した原料に30分間浸透させた。処理した予熱原料は空気乾燥機で乾燥させて水分含有量を減らした。
11.空気乾燥し、処理した予熱原料を熱分解反応器に移し、680℃で30分間熱分解した。約32%の二酸化炭素、8%の蒸気、10%の一酸化炭素、50%の窒素を含むスイープガスを熱分解反応器に導入し、熱分解中に-0.1psiから-2psiで反応器に流した。
12.反応器の加熱部分を出た熱分解物質は冷却され、排出ホッパーに集められた。バイオジェニック活性炭製品がコンベアにより排出ホッパーから取り出され、分析された。」
なお、令和5年4月26日に提出された手続補足書は、ヨウ素価について記載されているウェブページ(公開日不明)であり、「Typically, water treatment carbons have iodine numbers ranging from 600 to 1100」(通常、水処理炭素は、600~1100のヨウ素価を有する)ことが記載されているのみであるから、以下の当審の判断では言及しないこととする。
(3)当審の判断
ア(ア)上記(1)ウによれば、本願明細書には、実施例20の第1の実験として、370℃で事前炭化した供給原料に、熱分解オフガスを通すことなく熱分解したところ、最大ヨウ素価が909であったこと、第2の実験として、370℃で事前炭化した基板をガス相炭素質捕獲材料として利用した場合に、最大ヨウ素価が950であったことが記載されている。
すると、上記実施例20によって得られる活性炭のヨウ素価は909、又は950であるため、実施例20に記載の方法は、「少なくとも1500のヨウ素価」の活性炭の製造方法であるとはいえない。
本願明細書中に、ヨウ素価を増加し得る操作としては、(1)アに記載のとおり、ステップ(e)、すなわち、反応帯域から除去された蒸気流を供給原料に、かつ/または反応帯域に再循環を行うことが記載されている。しかし、実施例20の第2の実験では「基板をガス相炭素質捕獲材料として利用」しており、反応帯域から除去された蒸気流の再循環であるところのステップ(e)は実施されているため、ステップ(e)は、実施例20の第2の実験においてさらにヨウ素価を増加させ得る操作とはいえない。
そして、本願明細書中、ほかにヨウ素価を増加させる効果がある操作についての記載はない。
そうすると、本願明細書中に、少なくとも1500のヨウ素価を有する活性炭を製造する方法が記載されているとはいえない。
(イ)上記(2)によれば、補足書には、木材原料を約650℃で30分間-2psi~+2psiで予熱し、1%水酸化カリウム水溶液を噴霧し、30分浸透させた後、乾燥し、680℃で熱分解したこと、得られた活性炭のヨウ素価が1,650であったことが記載されている。
しかし、この方法は「370℃で事前炭化した材料を」「熱分解」するという本願明細書の実施例20に記載された方法と同じであるとはいえない。
また、補足書記載の方法を、本願明細書の実施例6記載の方法と比較しても、本願明細書の実施例6では、KOH添加を添加した場合に480℃(試料G)、370℃(試料H、I)で熱分解を行うこと、NaOH添加の場合は370℃(試料J2)で熱分解を行うこと、添加なしの場合に371℃(試料A)、350℃(試料B、C)、600℃(試料D,E)で熱分解を行うことは記載されているが、KOHを添加し、680℃で熱分解を行うことが記載されているとはいえず、補足書記載の方法が、実施例6に記載の方法であるともいえない。
さらに、実施例6記載の方法を実施例20記載の方法に組み合わせたとしても、補足書記載の方法と同じ方法になるとはいえないため、補足書記載の方法によってヨウ素価が1,650の活性炭が得られたとしても、その方法は本願明細書に記載された方法であるとはいえないため、本願明細書記載の方法で活性炭を作製すれば、ヨウ素価が1,650となるともいえない。
加えて、ヨウ素価が1,650の活性炭が得られたとする補足書記載の方法(実験)がいつ行われたのか不明であるし、仮に本願出願(遡及日)前に行われたものとしても、当該方法がヨウ素価が1,650の活性炭を得るための本願出願(遡及日)前に周知の方法であるともいえないことから、当該補足書記載の方法によって本願明細書の記載を補うことはできない。
(ウ)したがって、本願明細書に、少なくとも1500のヨウ素価の活性炭を製造する方法が、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
イ 請求人の主張
請求人は、令和6年2月22日に提出した意見書において、「本願発明に係る活性炭組成物を製造するためには、実施例20から開始して実施例6へと進む必要がある」こと、「本願発明に係る組成物の製造方法は手短にいうと」「生物起源の基板を窒素の存在下で装填ホッパーに充填し(実施例6、[0829]);添加物の1%水溶液を該生物起源の基板にスプレーするか又は浸すことによって塗布し(同);該添加物溶液をバイオマスに30分間浸透させ(同);該バイオマスを乾燥させ(同);該基板を370℃で30分間事前炭化させ;該事前炭化したバイオマスを反応器の加熱された部分に供給して(実施例6、[0829])、該基板を400℃で30分間熱分解し(実施例15);そして、プロセスを出るBTU充填ガス(「オフガス」又は「濃縮ガス」)を捕獲し、これによって、炭素含有量を増大させる([0851]、実施例17、実施例20)」ことを述べている。そして、「これら工程について、更に詳細に述べる」として、実施例の記載に即して本願発明の製造方法を説明し、「本願発明に係る活性炭組成物の高いヨウ素価は、本願明細書に記載される方法によって、この高いヨウ素価を達成することを見出した」、「このように、本願明細書には、本願発明に係る組成物とその製造方法が明確に開示されており、当業者であれば、その記載に従い少なくとも1500のヨウ素価を有する本願発明に係る組成物を得ることができる」との主張をしている。
しかし、前記「本願発明に係る組成物の製造方法を手短にいうと」とされる製造方法、あるいは、「更に詳細に述べる」として記載された方法によって得られる活性炭が、少なくとも1500のヨウ素価を有するものとなることは本願明細書中に記載も示唆もない。また、その方法は、補足書に記載された方法とも異なっているため、本願明細書記載の方法によって得られる活性炭が少なくとも1500のヨウ素価を有するものとなることが、補足書によって示されているともいえない。
したがって、本願明細書に、本願発明に係る少なくとも1500のヨウ素価である活性炭組成物及びその製造方法が明確に開示されているという、請求人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
以上のことから、本願発明に係る生物起源の活性炭組成物における、殊に「少なくとも1500のヨウ素価」とする点において、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
2 サポート要件について
前記1で説示したとおり、本願明細書には、生物起源の活性炭組成物において「少なくとも1500のヨウ素価」とする点についての具体的な記載はない。確かに【0236】には、形式的な記載は認められるものの、技術常識などに照らしても、このような本願明細書の記載に基づいて、当業者において、当該ヨウ素価を有する組成物を、実体のあるものとして認識することはできないのであるから、本願発明の課題について考慮する以前に、そもそも本願発明は、当該本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとは到底いえない。
第5 令和5年8月16日付けで当審が通知した拒絶理由について
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
ア 引用文献1に記載された事項
「【0055】
・・・比較品として、亜鉛を含有する無機消臭剤を担持させていない揮散体(比較品1)、亜鉛を含有する無機消臭剤に代え椰子殻活性炭(平均粒径:50μm、ヨウ素吸着量:1500mg/g、メチレンブルー吸着量:300ml/g)を担持させた揮散体(比較品2)、亜鉛を含有する無機消臭剤に代え人工ゼオライトを担持させた揮散体(比較品3)を用いた。」
イ 引用文献1に記載された発明
上記アから、引用文献1には、「ヨウ素吸着量1500mg/gの椰子殻活性炭」(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
(2)引用文献2について
ア 引用文献2に記載された事項
「【0046】
(実施例1)
攪拌装置を備えた反応容器にフェノールを123質量部、37質量%のホルマリンを126質量部、ヘキサメチレンテトラミンを14質量部、水を3000質量部仕込み、さらに350μmの篩いを通過するように粉砕し、105℃で3時間乾燥した炭化収量25質量%のヤシ殻粉末を40質量部仕込んだ。そしてこれを攪拌しながら60分を要して沸騰還流させ、このまま2時間、付加縮合反応を行なった。次に、内温が50℃になるまで冷却した後、反応容器の内容物をヌッチェで濾別した。
【0047】
濾別して得た反応物をステンレスバットに敷いたポリエチレンシートの上に広げ、これを100℃の乾燥機に入れて5時間加熱乾燥することによって、さらさらとした粒状のヤシ殻・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は不溶不融性に硬化)を得た。このヤシ殻・フェノール樹脂複合材料中の、ヤシ殻の含有率は19.6質量%であった。
【0048】
次に、このヤシ殻・フェノール樹脂複合材料を窒素雰囲気下、100℃/時間の昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で3時間加熱処理することによって焼成し、ヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料の粒子を得た。このようにして得たヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料において、収率(加熱焼成前の質量に対する加熱焼成後の質量の比率)は49.1質量%であり、ヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料中に占めるヤシ殻炭化物の含有率は10.0質量%であった。
【0049】
(実施例2)
ヤシ殻粉末の仕込み量を360質量部に変更するようにした他は、実施例1と同様にしてヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料の粒子を得た。このようにして得たヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料の収率は34.4質量%であり、ヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料中に占めるヤシ殻炭化物の含有率は50.0質量%であった。
【0050】
(実施例3)
ヤシ殻粉末の仕込み量を1440質量部に変更するようにした他は、実施例1と同様にしてヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料の粒子を得た。このようにして得たヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料の収率は28.1質量%であり、ヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料中に占めるヤシ殻炭化物の含有率は79.9質量%であった。
・・・
【0052】
(比較例1)
攪拌装置を備えた反応容器にフェノールを123質量部、37質量%のホルマリンを126質量部、ヘキサメチレンテトラミンを14質量部仕込み、これを攪拌しながら60分を要して65℃まで昇温させ、このまま3時間、付加縮合反応を行なった。次に、133hPa(100トール)の減圧下で70℃まで脱水を行なった後、メタノール612質量部を加えて溶解させることによって、フェノール樹脂のメタノールワニスを得た。このワニスのフェノール樹脂濃度は20質量%であった。
【0053】
次に、実施例1と同じヤシ殻粉末をデシケータに400質量部入れ、さらにここにフェノール樹脂のメタノールワニスを910質量部加えてよく混合した後、減圧してヤシ殻にフェノール樹脂を含浸させた。次いでこれをポリエチレンシートの上に広げてメタノールを揮散させ、さらに110℃の乾燥機で3時間養生し、フェノール樹脂を硬化させた。
【0054】
このようにして得たヤシ殻・フェノール樹脂複合材料を実施例1と同様に加熱処理して焼成し、ヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料を得た。このようにして得たヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料の収率は34.4質量%であり、ヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料中に占めるヤシ殻炭化物の含有率は50.2質量%であった。
・・・
【0068】
(実施例12~14及び比較例10~12)
実施例1~3、比較例1~3で得た炭化材料を、水蒸気流量5ml/分、窒素流量2l/分の流速で流通されるロータリーキルン炉の混合ガス雰囲気下、850℃、2時間処理して賦活し、活性炭を得た。得られた活性炭のヨウ素吸着性能、充填密度をJIS K 1474に準拠して測定し、また比表面積、細孔容積を測定した。比表面積及び細孔容積の測定は、測定装置として(株)島津製作所製「島津マイクロメリテックス2200型」を用い、液体窒素温度下において窒素ガスを使用する低圧法で行なった。測定結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
[図:0001416892000005.jpg]
」
イ 引用文献2に記載された発明
上記アによれば、引用文献2には、ヤシ殻粉末を含む原料を加熱乾燥し、焼成することによって、実施例1のヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料を得て(【0046】~【0048】)、得られた炭化材料から実施例12の活性炭を得ること(【0068】)が記載されており、表4(【0069】)によれば、実施例12の活性炭は、1590(mg/g)のヨウ素吸着性能を有するものである。また、ヤシ殻粉末の仕込み量を変更した以外は実施例12と同様にして、実施例13、14の活性炭を得ること(【0049】、【0050】、【0068】)、ヤシ殻・フェノール樹脂複合炭化材料の製造方法を変更した以外は実施例12と同様にして比較例10の活性炭を得ること(【0052】~【0054】、【0068】)が記載されており、実施例13、実施例14、比較例10は、それぞれ、1580(mg/g)、1510(mg/g)、1540(mg/g)のヨウ素吸着性能を示すことが記載されている(【0069】)。
そうすると、引用文献2には、「ヨウ素吸着性能が1590(mg/g)、1580(mg/g)、1510(mg/g)又は1540(mg/g)のヨウ素吸着性能を有する、ヤシ殻粉末を含む原料から得られた活性炭」(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
(3)引用文献3について
ア 引用文献3に記載された事項
「【0070】
(3)第1工程
溶媒抽出後の水溶液に活性炭(味の素ファインテクノ社製、商品名CL-K)3.2gを一括で添加し、3℃で1時間攪拌した。この活性炭は、JIS K-1474に従い測定されたヨウ素吸着性能が1550mg/gであり、メチレンブルー吸着性能が310ml/gであった。」
イ 引用文献3に記載された発明
上記アに記載された「味の素ファインテクノ社製、商品名CL-K」は、「味の素ファインテクノの吸着材 液相用粒状活性炭 CL-K」(https://aft-carbon.com/carbon/ekisoyo)において、CL-Kの説明部分に「特長 ヤシガラ特殊賦活活性炭(高性能)」と記載されているとおり、ヤシガラ活性炭である。
そうすると、引用文献3には、「ヨウ素吸着性能が1550mg/gのヤシガラ活性炭」(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
(4)引用文献4について
引用文献4に記載された事項
「活性炭や木炭の元素分析をすると,炭素が90数%です。次の多いのが酸素,次に灰分です。灰分は原料によって変わり,木質では少ないけれども,石炭系活性炭では5%以上とかなり多くなります。」(6ページ右欄9~12行)
2 引用発明1について
(1)対比
引用発明1の「ヤシ殻活性炭」は、本願発明の「生物起源の活性炭組成物」に相当する。
本願発明の「ヨウ素価」について、本願明細書中に定義はないが、【0004】に、「ヨウ素価(Iodine Number)」と記載されており、「ヨウ素価」は「Iodine Number」のことであることが理解される。そして、「赤松勲ら,「クラフトパルプ廃水処理に使用した活性炭の再生」,日本化学会誌,1973,p.1333~1338」に、「2.5 ヨウ素吸着量(iodine number)・・・。表示は1gの活性炭に吸着されたヨウ素のmg数とした。」(1334頁左欄25~33行)と記載されているとおり、「ヨウ素吸着量」は「Iodine Number」のことであることが理解される。してみれば、引用発明1の「ヨウ素吸着量」は、本願発明の「ヨウ素価」と同じ意味であること、「ヨウ素吸着量」及び「ヨウ素価」の単位はmg/gであることが理解される。
したがって、引用発明1の「ヨウ素吸着量1500mg/g」は、「ヨウ素価1500」を意味し、本願発明の「少なくとも1500のヨウ素価」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1は
「生物起源の活性炭組成物であって、該組成物が少なくとも1500のヨウ素価の、組成物」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点>
活性炭組成物の組成が、本願発明では、「少なくとも85重量%の全炭素、最大でも15重量%の水素、最大でも1重量%の窒素、及び少なくとも1重量%~最大でも10重量%の酸素を含み」、「該重量%が、乾燥ベースのものであり、かつ該組成物の総重量に対するものである」のに対し、引用発明1では、組成が不明である点。
(2)相違点について
上記2(4)で摘記した、引用文献4に、「活性炭や木炭の元素分析をすると,炭素が90数%です。次に多いのが酸素,次に灰分」と記載されており、活性炭の組成は、炭素が90数%であり、次に酸素を多く含むから、酸素は少なくとも1%は含有されており、全体の90数%が炭素ということは、水素が15%以上含まれることはなく、含有成分として記載されていない窒素の含有量は最大でも1%であるといえる。そして、この成分量は乾燥ベースのものであり、かつ該組成物の総重量に対する重量%である。また、上記活性炭は、「灰分は原料によって変わり,木質では・・・石炭系活性炭では・・・」とされているから、生物起源の活性炭である。
そのほか、例えば、特開2010-135647号公報の【0033】及び表1、阿部郁夫、「活性炭の基礎知識」、生活衛生、1993年、第37巻、pp.163-170のp.164の右欄の表2、林勝己、「活性炭の性質と実験法」、1973年、vol.2、No.5、pp.369-375のp.371の左欄の第3表にも、生物起源のものを含む活性炭の組成として「少なくとも85重量%の全炭素、最大でも15重量%の水素、最大でも1重量%の窒素、少なくとも1重量%~最大でも10質量%の酸素」(乾燥ベースで、組成物の総重量に対する重量%)であるものが示されている。
したがって、生物起源の活性炭の組成として「少なくとも85重量%の全炭素、最大でも15重量%の水素、最大でも1重量%の窒素、及び少なくとも1重量%~最大でも10重量%の酸素を含み」、「該重量%が、乾燥ベースのものであり、かつ該組成物の総重量に対するものである」を満たすものは最先優先日前に一般的な組成である。
一方、引用発明1の椰子殻活性炭は、上記引用文献1の記載を参照するに、活性炭の組成を変えるべく格別な手段を用いていないことから、この椰子殻活性炭の組成は、上記生物起源の活性炭の一般的な組成の範囲内のものと理解するのが合理的である。
そうすると、引用発明1の椰子殻活性炭の組成は「少なくとも85重量%の全炭素、最大でも15重量%の水素、最大でも1重量%の窒素、及び少なくとも1重量%~最大でも10重量%の酸素を含み」、「該重量%が、乾燥ベースのものであり、かつ該組成物の総重量に対するものである」を満たすものといえることから、上記相違点は実質的なものではない。
したがって、本願発明は引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3 引用発明2及び引用発明3について
上記2(1)での検討をふまえると、本願発明と引用発明2及び引用発明3は、本願発明と引用発明1とを対比した場合と同じ一致点及び一応の相違点を有するといえる。
しかしながら、引用発明2の「ヤシ殻粉末を含む原料から得られた活性炭」及び引用発明3の「ヤシガラ活性炭」のいずれも、その組成を変えるべく格別な手段を用いていないので、上記生物起源の活性炭の一般的な組成の範疇にあると解するのが相当であるから、この一応の相違点は実質的なものではない。
したがって、本願発明は引用発明2であり、かつ、引用発明3であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
4 請求人の主張について
請求人は、令和6年2月22日に提出した意見書において、「引用文献1~3は、いずれも本願発明に係る特定の組成、すなわち、全炭素、水素、窒素、及び酸素の量について何ら開示していない。審判長殿は、引用文献4に基づき、本願発明に係る生物起源の活性炭組成物の組成は、活性炭の一般的な組成である旨ご指摘されている。しかしながら、これら引用文献は、いずれも本願発明に係る組成物の組成を具体的に開示するものでもないし、また、単一文献において、その組成が明確に示しているものでもない。したがって、本願発明は、引用文献1~4に対して、新規性を有するものと思料する。」と主張している。
しかし、上記主張は、単に引用文献1~3と引用文献4が同一文献ではないことを述べているにすぎず、引用文献1~3に記載された活性炭が本願発明の組成を満たさないことについて技術的根拠を示した主張ではない。そして、上記2及び3で述べたとおり、引用発明1の椰子殻活性炭、引用発明2の「ヤシ殻粉末を含む原料から得られた活性炭」及び引用発明3の「ヤシガラ活性炭」の組成について、組成を変えるべく格別な手段を用いていないことから、上記生物起源の活性炭の一般的な組成の範疇にあると解するのが相当であり、上記請求人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないため、同法第49条第4号に該当するので、本願は拒絶されるべきものである。
また、本願の請求項1に係る発明は、その出願(最先優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1~3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないため、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、同法第49条第2号に該当するので、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-000167