特許無効審判
2013-800194
5α-レダクターゼ阻害剤によるアンドロゲン脱毛症の治療方法
- 審判番号
- 2013-800194
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願平7-511986
- 登録番号
- 特許第3058351号(P3058351)
- 請求日
- 2013年10月04日
- 審決日
- 2014年10月15日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】マイラン製薬 株式会社
- 【請求人代理人】三好 豊
- 【請求人代理人】飯塚 卓也
- 【請求人代理人】辰野 嘉則
- 【請求人代理人】小笠原 匡隆
- 【請求人代理人】谷口 博
- 【請求人代理人】谷口 操
- 【請求人代理人】奥野 彰彦
- 【請求人代理人】大門 良仁
- 【参加人】テバ ファーマスーティカル インダストリーズ リミティド
- 【参加人代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 【参加人代理人】田坂 一朗
- 【参加人代理人】笹本 摂
- 【参加人代理人】向 多美子
- 【被請求人】メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション
- 【被請求人代理人】窪田 英一郎
- 【被請求人代理人】柿内 瑞絵
- 【被請求人代理人】乾 裕介
- 【被請求人代理人】今井 優仁
- 【被請求人代理人】野口 洋高
- 【被請求人代理人】中岡 起代子
- 【被請求人代理人】熊谷 郁
- 審判長/審判官
- 審判長 内藤 伸一
- 審判官 岩下 直人
- 審判官 大久保 元浩
- 分類
- P1113.121-ZAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第5項、特許法第123条第1項第2号、特許法第36条第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第5項第1号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3058351号発明「5α-レダクターゼ阻害剤によるアンドロゲン脱毛症の治療方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
請求のとおり訂正を認める。
特許第3058351号の請求項1、2、4ないし16、18ないし20に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第3058351号の特許請求の範囲の請求項1~20に係る発明は、その出願(以下、「本件特許出願」という。)が、1994年10月11日(パリ条約による優先権主張 1993年10月15日,1994年3月17日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日として出願され、平成12年4月21日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して、請求人から、平成25年10月4日付け審判請求書によって、上記請求項1~20に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判が請求され、平成26年1月27日付けで被請求人から審判事件答弁書が提出された。そして、平成26年4月18日に行われた第1回口頭審理において、請求人からは平成26年4月4日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされ、被請求人からは平成26年4月4日付け口頭審理陳述要領書および平成26年4月16日付け上申書に沿って同調書に記載のとおりの陳述がなされた。その後、平成26年5月13日付けで審決の予告がなされ、平成26年8月22日付けで被請求人から訂正請求書が提出された。
また、平成26年5月23日の受付けで参加申請人から参加申請書が提出され、これに対し、平成26年8月13日付けで参加申請人の本件審判への参加を許可すべきものとする旨の参加許否の決定がなされた。
第2 訂正請求
上記訂正請求書による訂正請求の趣旨、及び訂正の内容は、上記訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。
2-1.訂正請求の趣旨
特許第3058351号の明細書(以下、「本件特許明細書という。」)、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書という。」)、特許請求の範囲のとおり、請求項ごと(又は一群の請求項ごと)に訂正することを求める。
2-2.訂正の内容
上記訂正請求書において被請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下訂正事項1~7のとおりである。
訂正事項1.特許請求の範囲の請求項1に「単位用量として0.05~3mgの5α-レダクターゼ2阻害剤」とあるのを、「単位用量として0.05~1mgの5α-レダクターゼ2阻害剤」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし6も同様に訂正する)。
訂正事項2.特許請求の範囲の請求項3を削除する。
訂正事項3.特許請求の範囲の請求項4に「単位用量が0.05~1mg」とあるのを、「単位用量が0.2mg」に訂正する。
訂正事項4.特許請求の範囲の請求項7に「単位用量として0.5~3mgの17β-(N-t一ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン」とあるのを、「単位用量として0.5~1mgの17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8及び9、請求項9を引用する請求項10、請求項10を引用する請求項11ないし13並びに請求項7ないし13を引用する請求項14も同様に訂正する)。
訂正事項5.特許請求の範囲の請求項15に「用量が0.05~3mg」とあるのを、「用量が0.05~1mg」に訂正する(請求項15の記載を引用する請求項16ないし20も同様に訂正する)。
訂正事項6.特許請求の範囲の請求項17を削除する。
訂正事項7.特許請求の範囲の請求項18に「用量が0.05~1mg」とあるのを、「単位用量が0.2mg」に訂正する(請求項18の記載を引用する請求項20も同様に訂正する)。
2-3.訂正の適否の判断
(訂正事項1)
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に「単位用量として0.05~3mgの5α-レダクターゼ2阻害剤」とあるのを、「単位用量として0.05~1mgの5α-レダクターゼ2阻害剤」に訂正するものである。そして、この訂正は、「0.05~3mg」を、これに包含される「0.05~1mg」という範囲に限定する訂正であるといえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の以下のア),イ)の各記載からみて、本件特許明細書には、単位用量を「0.05~1mg」とすることが記載されているといえる。
ア)「本発明の一態様では、0.01~3.0mg/日の用量の5α-レダクターゼ2阻害剤を投与する。この実施態様のあるクラスでは、0.05~1.0mg/日の用量の5α-レダクターゼ2阻害剤を投与し、この実施態様のサブクラスでは、約0.05~0.2mg/日の用量の5α-レダクターゼ2阻害剤を投与する。このサブクラスの例としては約0.05、0.1、0.15及び0.2mg/日の用量が挙げられる。このサブクラスの例としては特に0.05及び0.2mg/日の用量が挙げられる。」(本件特許第3058351号公報2頁4欄49行~3頁5欄7行)
イ)「本発明は、5mg/日未満、特に約0.01~3.0mg/日、更には0.05~1mg/日の用量の5α-レダクターゼ2阻害剤を全身、経口、非経口又は局所投与することからなる、男性及び女性部分禿頭症を含むアンドロゲン脱毛症、ニキビ、脂漏症、女性の多毛症及び多嚢胞性卵巣症候群といったアンドロゲン過剰症状の治療方法を提供することを目的とする。本発明は更に、約0.05~0.2mg/日、特に約0.05、0.1、0.15及び0.2mg/日の用量で例示される。本発明の例としては0.05及び0.2mg/日の用量が挙げられる。」(本件特許第3058351号公報3頁6欄38行~同欄47行)
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(訂正事項2)
続いて、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(訂正事項3)
続いて、訂正事項3に係る訂正は、請求項4に「単位用量が0.05~1mg」とあるのを、「単位用量が0.2mg」に訂正するものである。そして、この訂正は、「0.05~1mg」を、これに包含される「0.2mg」という値に限定する訂正であるといえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の上記ア),イ)の各記載からみて、訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(訂正事項4)
続いて、訂正事項4に係る訂正は、請求項7に「単位用量として0.5~3mgの17β-(N-t一ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン」とあるのを、「単位用量として0.5~1mgの17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン」に訂正するものである。そして、この訂正は、「0.5~3mg」を、これに包含される「0.5~1mg」という範囲に限定する訂正であるといえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の上記ア),イ)および以下のウ)の各記載からみて、本件特許明細書には、単位用量を「0.5~1mg」とすることが記載されているといえる。
ウ)「PROSCAR(R)の商品名で本出願人から市販されているフィナステライド(17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン)は5α-レダクターゼ2の阻害剤であり、アンドロゲン過剰症状の治療に有用であることが知られている。」(本件特許第3058351号公報2頁4欄20行~同欄25行)
そうすると、訂正事項4に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(訂正事項5)
続いて、訂正事項5に係る訂正は、請求項15に「用量が0.05~3mg」とあるのを、「用量が0.05~1mg」に訂正するものである。そして、この訂正は、「0.05~3mg」を、これに包含される「0.05~1mg」という範囲に限定する訂正であるといえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の上記ア),イ)の各記載からみて、訂正事項5に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(訂正事項6)
続いて、訂正事項6に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項17を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(訂正事項7)
続いて、訂正事項7に係る訂正は、請求項18に「用量が0.05~1mg」とあるのを、「用量が0.2mg」に訂正するものであるということができる。そして、この訂正は、「0.05~1mg」を、これに包含される「0.2mg」という値に限定する訂正であるといえるので、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の上記ア),イ)の各記載からみて、訂正事項7に係る訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
したがって、上記訂正請求書による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものであるので、当該訂正を認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正の結果、本件特許第3058351号の特許請求の範囲の請求項1~20に係る発明(以下、順に、「本件訂正発明1」~「本件訂正発明20」といい、併せて「本件訂正発明」ともいう。)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1~20に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】単位用量として0.05~1mgの5α-レダクターゼ2阻害剤および医薬的に許容可能なキャリヤーより成る、ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成物。
【請求項2】5α-レダクターゼ2阻害剤が17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オンである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】単位用量が0.2mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】単位用量が1mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項6】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】単位用量として0.5~1mgの17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オンおよび医薬的に許容可能な錠剤化成分より成る、アンドロゲン脱毛症治療用錠剤。
【請求項8】単位用量が1mgである請求項7に記載の錠剤。
【請求項9】錠剤化成分がリン酸カルシウム、ラクトース、トウモロコシデンプンおよびステアリン酸マグネシウムから選択される請求項7に記載の錠剤。
【請求項10】結合剤、滑沢剤、崩壊剤および着色剤の1種または2種以上をさらに含有する請求項9に記載の錠剤。
【請求項11】結合剤がデンプン、ゼラチン、天然糖、ゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコールおよびろうから選択される請求項10に記載の錠剤。
【請求項12】滑沢剤がオレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムから選択される請求項10記載の錠剤。
【請求項13】崩壊剤がデンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイトおよびキサンタンゴムから選択される請求項10に記載の錠剤。
【請求項14】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項7~13のいずれか1項に記載の錠剤。
【請求項15】アンドロゲン脱毛症の治療に有用な経口投与に適した薬剤の製造のための5α-レダクターゼ2阻害剤の使用であって、用量が0.05~1mgである前記使用。
【請求項16】5α-レダクターゼ2阻害剤が17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オンである請求項15に記載の使用。
【請求項17】(削除)
【請求項18】用量が0.2mgである請求項15または16に記載の使用。
【請求項19】用量が1mgである請求項15または16に記載の使用。
【請求項20】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項15~19のいずれか1項に記載の使用。」
第4 当事者の主張、及び提出した証拠方法
4-1.請求人の主張する無効理由、及び提出した証拠方法
請求人が提出した審判請求書及び口頭審理陳述要領書によれば、請求人は、「特許第3058351号発明の明細書の請求項1-20に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1~3を主張し、証拠方法として、甲第1~6号証及び参考資料1~9を提出している。
無効理由1
本件の請求項1-3、6、7、14-17、及び20の発明は、甲第1号証に記載の発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。よって、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するから、無効にすべきである。
無効理由2
本件の請求項1-20の発明は、甲第1~5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから、同法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。よって、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するから、無効にすべきである。
無効理由3
本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明を容易に実施することができる程度に記載されていないから、本件明細書は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第4項の規定に違反する。また、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されておらず、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないから、本件明細書は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第5項第1号及び第2号の規定に適合していない。よって、本件特許は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第4項、及び同法第36条第5項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当するから、無効にすべきである。
(証拠方法)
甲第1号証:Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,1992,Vol.74,No.2,pp. 345-350,その翻訳文
甲第2号証:Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,1990,Vol.70,No.4,pp. 1136-1141,その翻訳文
甲第3号証:Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,1992,Vol74,No3,pp. 505-508,その翻訳文
甲第4号証:The Prostate,1989,Volumel4,Issue 1,pp. 45-53
甲第5号証:EUROPEAN JOUNAL OF DRUG METABOLISM AND PHARMACOKINETICS,1991,Vol.16,No.l,pp. 15-21,その翻訳文
甲第6号証:特許庁発行「特許・実用新案審査基準」 第VII部、第3章 医薬発明1-3頁(表紙、「改訂にあたって」、「序」、「特許・実用新案審査基準目次」、「備考」を含む)
(以上、審判請求書に添付。)
参考資料1:J. Civatte. Dermatological75:suppl.2,pp42-9(1987)、その抄訳文
参考資料2:Dr. M.Julie Thornton の宣誓書 2 0 11年9月30日作成、その翻訳文
参考資料3:EPO 285 382A2、その抄訳文
参考資料4:EPO 285 382A2 の審査段階におけるMERCKCO., INC.の意見書,その抄訳文
参考資料5:山中伸弥ほか「分子生物学,生物学,細胞生物学における統計のポイント」(蛋白質 核酸 酵素 Vol.54 No.13(2009))1792~1801頁
参考資料6:ニューヨーク・タイムズ 1992年11月25発刊「Scientists Take New Paths In Search of Baldness Cures」,その抄訳文
参考資料7:Ronald J. The Journal of Biological Chemistry Vol. 250, No. 18, Issue of September 25, pp. 7168-7172, 1975、その抄訳文
参考資料8:Ronald J. Moore and Jean D.Wilson. The Journal of Biological Chemistry Vol. 251, No. 19, Issue of October 10,pp. 5895-5900,1976、その抄訳文
参考資料9:PROSCAR(finasteride)の処方に関する情報(MERCKCO., INC.のホームページ・http://www. merck.com/product/usa/pi_circulars/p/proscar/proscar_pi. pdf)
(以上、口頭審理陳述要領書に添付。)
4-2.被請求人の主張、及び提出した証拠方法
被請求人が提出した審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書によれば、被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、本件特許には、上記無効理由は存在しない点を主張し、証拠方法として、乙第1~24号証及び参考資料A~Dを提出している。
(証拠方法)
乙第1号証:New England Journal of Medicine, Vol. 291, No. 18, 944-949(和訳(抄訳)付き) 1974年10月31日発行
乙第2号証:Science, Vol. 186, No. 4170, 1213-1217 (和訳(抄訳)付き)1974年12月27日発行)
乙第3号証:Journal of Andrology, Vol. 10, No. 4, 259-262 (和訳(抄訳)付き)1989年7/8月発行
乙第4号証:The Journal of Biological Chemistry, Vol. 264, No. 27,16249-16255 (和訳(抄訳)付き)1989年9月25日発行
乙第5号証:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 87, No. 10, 3640-3644 (和訳(抄訳)付き)1990年5月発行
乙第6号証:Nature, Vol. 354, No. 6349, 159-161 (和訳(抄訳)付き)1991年11月14日発行
乙第7号証:Journal of Clinical Investigation, Vol. 89, No. 1, 293-300(和訳(抄訳)付き)1992年1月発行
乙第8号証:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.89, No. 22, 10787-10791(和訳(抄訳)付き)1992年11月15日発行
乙第9号証:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.90, No. 22, 5277-5281, (和訳(抄訳)付き)1993年6月1日発行
乙第10号証:Journal of Clinical Investigation, Vol. 92, No. 2, 903-910(和訳(抄訳)付き)1993年8月発行
乙第11号証:Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, Vol. 81, No. 6, 2055-2060 (和訳(抄訳)付き) 1996年6月発行
乙第12号証:Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology, Vol.58, No. 4, 377-384 (和訳(抄訳)付き) 1996年7月発行
乙第13号証:Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, Vol.82, No. 5, 1373-1377 (和訳(抄訳)付き) 1997年5月発行
乙第14号証:Journal of Medicinal Chemistry, Vol. 36, No. 26, 4313-4315(和訳(抄訳)付き) 1993年12月24日発行
乙第15号証:Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, Vol. 79, No. 4, 991-996 (和訳(抄訳)付き) 1994年10月発行
乙第16号証:Hair research for the next millenium (Eds. Van Neste and VA Randall), 359-362 (和訳(抄訳)付き)1996年発行
乙第17号証:British Journal of Dermatology, Vol. 141, No. 3, 481-491(和訳(抄訳)付き)1999年9月発行
乙第18号証:The New England Journal of Medicine, Vol. 327, No. 17, 1185-1191 (和訳(抄訳)付き)1992年10月22日発行
乙第19号証:Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology, Vol.44, No. 2, 121-131 (和訳(抄訳)付き)1993年2月2日
乙第20号証:「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」(薬新薬第四三号)(各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知)1992年6月29日作成
乙第21号証:MSD PROSCAR(FINASTERIDE)TABLETの添付文書(和訳(抄訳)付き)1992年5月発行
乙第22号証:本件特許発明の発明者カウフマン博士の宣誓供述書(和訳付き)2010年9月10日作成
乙第23号証:「プロペシア錠0.2mg、同錠1 mgに関する資料」508-510頁 遅くとも2003年3月3日(承認申請年月日)以前に作成
乙第24号証:J. Am. Acad. Dermatology, Vol. 41, No. 4, 550-554 (和訳(抄訳)付き)1999年10月発行
(以上、審判事件答弁書に添付。)
参考資料A:米国特許公開公報US5,578,724(和訳(抄訳)付き)公開日1996年11月26日
参考資料B:Journal of Andrology, Vol.13,No.1,23-27(1992)(和訳(抄訳)付き)1991年1月/2月
参考資料C:国際出願公開公報 W092/02225(和訳(抄訳)付き)公開日1992年2月20日
参考資料D:英国高等法院大法官部特許裁判所2007年6月6日判決(事件番号HC06C02676)(和訳(抄訳)付き)
(以上、平成26年4月16日付け上申書に添付。)
第5 当審の判断
当審は、請求人が無効を主張したところの、本件訂正前の本件特許出願の請求項1~20の発明(以下、順に、「本件発明1」~「本件発明20」という。)の特許は上記無効理由2によって無効にすべきものであり、本件訂正後も、本件訂正で削除された請求項以外の請求項について上記無効理由2は解消していない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。なお、上記無効理由1及び3によっては、本件発明1~20に係る特許を無効とすることはできず、これらが、訂正された本件訂正発明1~20に係る特許も、上記無効理由1及び3によって、無効とすることはできないと判断する。
5-1.無効理由2について
5-1-1.甲号証及び周知例の記載(以下において、甲第1~5号証は、原文が英文であるため翻訳文を示した。また、下線は当審で付した。)
1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
[甲1-A] 5α-レダクターゼ阻害剤であるフィナステライドを、単独で、又は局所用2%ミノキシジルと組み合わせて0.5mg/日にて20週間経口投与して、禿げかかった成体雄stumptail macaque サルにおける頭皮毛髪成長に対する効果を明らかにした。7日用量設定実験は、該薬物の0.5mg及び2.0mg用量の双方が、雄stumptail macaque サルにおいて血清ジヒドロテストステロン(DHT)の同様な減少を生じさせたことを示した。(p345、「ABSTRACT」1-7行;翻訳文p1、「要約」1-5行)
[甲1-B] 5α-レダクターゼ阻害剤は5α-レダクターゼ酵素の活性を減少させ、また前立腺及び皮膚においてDHTを低下させる(4、6、7)。・・・5α-レダクターゼ阻害剤は、アンドロゲン性脱毛症の患者において評価されたことがない。しかしながら、5α-レダクターゼ阻害剤であるN,N-ジエチル-4-メチル-3-オキソ-4-アザ-5α-アンドロスタン-17β-カルボキサミド(4-MA)は、ヒト脱毛症の十分に確立したアンドロゲン-依存性モデルであるstumptail macaque に局所投与された場合に禿頭症を妨げた(8-10)。5α-レダクターゼ酵素の阻害が、禿げかかったstumptail macaqueサル又はヒトにおいて毛髪を成長させることができるか否かは知られていない。(p345、右欄4-17行;翻訳文p2、13-22行)
[甲1-C] 年齢不明の10頭の成体雄の禿げかかったstumptail macaque (マカカ スペシオーサ)(体重、9.9-14.0kg)を、7日経口フィナステライド用量設定試験のためにアップジョン社(UpJohn Co.)の霊長類群体から選択した。2か月の洗浄期間の後、これらの10頭の動物および該群体からの11頭の他の成体雄の禿げかかったstumptails(体重、9.5-15.4kg)を、20週間の毛髪成長実験に組み入れた。(p346、「Animals」1-7行;翻訳文p3、「動物」1-5行)
[甲1-D] 経口フィナステライド用量設定試験では、5頭のサルを、10kgの概算体重に基づいて、0.05 mg/kg用量群又は0.2 mg/kg用量群のいずれかに無作為に割り当てた。 ・・・毛髪成長実験では、21頭のサルを、予備処理頭皮毛髪重量データに基づいて群に割り当てた。 ・・・サルを4つの群:局所用ビークル(n=6)、局所用2%ミノキシジル(n=5)、局所用ビークルと組み合わせた経口0.5mgフィナステライド(n=5)、及び局所用2%ミノキシジルと組み合わせた経口0.5mgフィナステライド(n=5)のうちの1つに入れた。経口用量設定試験で用いた10頭の動物を、これらの4つの処理群に割り振った。(p346、左欄「Treatment groups」;翻訳文p3、「処理群」1-10行)
[甲1-E] 試験材料および投与の方法
フィナステライドおよびミノキシジル双方はアップジョン社(Upjohn Co.)において合成し、および精製した(14)。フィナステライドは毎日秤量され、リンゴのスライスに塗布され、経口摂取のために各々のサルに与えられた。(p346、左欄「Test materials and method of dosing」1-3行;翻訳文p3、「試験材料および投与の方法」1-3行)
[甲1-F] 7日間用量設定試験
表1は、ベースラインと、フィナステライドを0.5mg又は2.0mgのいずれかを投与してから7日後の血清T及びDHTを示す。Tの有意な上昇及びDHTの顕著な低下が双方の用量によって誘導された。いずれの用量とも、DHTの減少がほぼ同じであったことから、0.5mg用量を、20週間の毛髪成長実験のために選択した。(p347、左欄「7-Day dose-finding study」1-6行;翻訳文p6、「7日用量設定試験」1-4行)
[甲1-G] フィナステライド及びビークルを併用投与した5頭のサルのうち4頭は、全アッセイにわたって毛髪重量の増加を示した。ビークルを単独で投与した場合と比較した該群についての平均は、実質的な負の4-週△毛髪重量を呈した1頭のサルのため、統計学的に有意ではなく(2.2±3.6vs.-1.3±1.5mg/平方インチ;P=0.17;図1)、かくして、非応答体であるように見えた。
このサルのデータを削除すれば、ビークル群より、併用投与群の方が、毛髪重量の有意な促進が明らかであった(5.7±1.2 vs.-1.3±1.5mg/平方インチ;P<0.05;図1。(p348、左欄3-13行;翻訳文p6、「20週間の毛髪成長実験」6-12行)
[甲1-H] 用量設定試験及び毛髪成長実験双方の内分泌データから、フィナステライドの連日経口投与による5α-レダクターゼ酵素の全身阻害が、雄stumptail macaque において血清DHTの迅速かつ長期の低下を引き起こしたことがわかった。同様な知見が臨床試験において生じており、そこでは、血清DHTはフィナステライドでの処理の24時間後、14日後または6か月後に低下した(7、12)。(p348、右欄「Discussion」1-8行;翻訳文p9、「考察」1-4行)
[甲1-I] 現在の実験におけるDHTの測定でバイオプシーは得られなかったが、フィナステライドによって、前立腺及び皮膚において5α-レダクターゼ酵素の阻害が生じる可能性がある。これは、経口フィナステライドが男性における血清及び前立腺組織DHTレベルの双方の顕著な抑制を惹起するという事実によって裏付けられる(7)。(p348、右欄下11-5行;翻訳文p9、「考察」11-15行)
[甲1-J] 本研究の結果は、フィナステライドが、stumptailにおける毛髪成長をミノキシジル単独によって誘導されるレベルまで刺激したことを示唆する。しかしながら、フィナステライドのこの効果は、1頭の非応答体サルの毛髪重量データを削除した場合のみ明らかであった。この動物による応答の欠如は、アンドロゲンレベルの異常によるものではないように思われる。というのは、血清DHTの減少は、該群における他の4頭の動物のそれと合致したからである。これらのデータは、DHTの抑制が確立された禿頭症を逆行させ、及びこの動物モデルにおいて従前に観察されたアンドロゲン性脱毛症を予防することを暗示する(10)。(p348、右欄下1行-p349左欄11行;翻訳文p9、「考察」17-23行)
2)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
[甲2-A] 5α-レダクターゼ阻害剤フィナステライド(MK-906)の男性ボランティアにおける循環アンドロゲンへの効果 (p1136、タイトル;翻訳文p1、1-2行)
[甲2-B] 5αレダクターゼ阻害剤であるフィナステライドを、盲検化プラセボ対照試験において、25、50、および100mgの経口一日量で11日間(第1部)そして0.04、0.12、0.2、及び1.0 mgの経口一日量で14日間(第2部)、健常の男性ボランティアに投与した。第1部の結果は、全ての用量でジヒドロテストステロン(DHT)の大幅な減少を示し、・・・第2部の結果もさらに、全ての用量でDHTの大幅な減少を示した。(p1136、「ABSTRACT」1-12行;翻訳文p1、「要約」1-9行)
[甲2-C] 血清ホルモンT、DHT、LH、FSH、エストラジオール、△4-アンドロステンジオン、及びコルチゾールは、Endocrine Sciences (カリフォルニア州ターザナ)によって投薬前の毎朝0800時に採取した単一の血清試料から二重反復で測定された。(p1137、左欄「Hormone assays」1-4行;翻訳文p3、「ホルモンアッセイ」1-3行)
[甲2-D] 第2部:低用量試験
DHT濃度 ・・・
処置後、DHT濃度は各々の有効処置群で低下した・・・。プラセボ群では著しい変化は起こらなかった。最大の抑制は、1.0mg群及び0.2mg群で急速に起こり、処置期間を通じて続いた。0.12mg群及び0.04mg群では、抑制を実現するのにますます長い期間を要し、14日の後も達成していなかったかもしれない。(p1138、左欄「Part2: low dose study 」1行一右欄8行;翻訳文p6、「第2部:低用量試験」1-8行)
[甲2-E] 本試験は、5αレダクターゼという酵素をフィナステライドで阻害する代謝効果を決定するために実施された。以前の動物試験から、DHTの効果的な抑制は、男性において1日約lmg/kgで起こることが示唆された(8、14)。そのため第1部はこの投薬範囲を評価するように設計された。(p1139、「Discussion」1-6行;翻訳文p8、「考察」1-4行)
[甲2-F] 1.0mg/日を投与された被験者は、1日目にDHT濃度が65%低下した。しかし、処置の8日後、全ての用量のフィナステライドが、結果的にDHTの同様の抑制をもたらした。(p1140、左欄10-13行;翻訳文p9、5-7行)
[甲2-G] DHTの最大の抑制は、1mg/日の単一用量の後に生じる・・・。(p1140 右欄第3段落2-6行;翻訳文p9、下4-3行)
3)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
[甲3-A] 5αレダクターゼの4-アザステロイド阻害薬であるフィナステライドの経口投与は、血清ジヒドロテストステロン濃度を低下させるが、血清テストステロンにはあまり効果を及ぼさない。現在実施されている試験は、良性前立腺肥大症の男性の前立腺のジヒドロテストステロン濃度へのフィナステライドの効果を評価するために設計された。 ・・・69名の症候性前立腺肥大症の男性を、プラセボで、あるいは1、5、10、50、又は100mg/日のフィナステライドで、前立腺の経尿道的切除術の前に7日間処置した。 ・・・全ての用量のフィナステライドによる処置の7日後、前立腺ジヒドロテストステロンは、対照濃度の15%以下まで低下し、テストステロン濃度は相反する様式で増加した。プラセボ群と比較した平均前立腺ジヒドロテストステロン濃度は、いずれのフィナステライド処置群間においても有意の差はなかった。 ・・・著者らは、フィナステライドが前立腺ジヒドロテストステロンの甚大な低下を引き起こすと結論付けるものである。(p505、「ABSTRACT」;翻訳文p1、「要約」)
4)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
[甲4-A] 本試験の目的は、競合する5α-レダクターゼ阻害薬MK-906、4-アザステロイドの生体内で効果的な最小経口用量及び作用持続時間をヒトにおいて評価することであった。血漿ジヒドロテストステロン(DHT)、5α-アンドロスタン-3α,17β-ジオール(AD)、及びそのグルクロニド(ADG)、並びに尿アンドロステロン(A)及び5α-プレグナン-3α、11β、17α、21-テトロール-20-オン(aH4F)を、54名の健康な若者において前記化合物の朝の単回投与の前及び7日まで測定した。5mg~40mgの単回投与(n=24)の24時間後、血漿DHT濃度は平均±65%低下し、DHT濃度の回復は遅かった。7日後、DHTは±15%低下したままであった。血漿AD濃度は同様の程度まで低下したが、ADG濃度は約75%低下し、標的組織の5αレダクターゼの阻害を示した。 ・・・薬物投与に続く24時間の尿試験では、A並びにaH4Fの排出は65%低下し、肝臓の5αレダクターゼの阻害を示した。1.5 mg又は0.5 mgの単回投与の後、DHT濃度は投与の24時間後に50%低下し、5~7日以内に正常に戻った;この用量で、尿A及びaH4Fの排出は50%低下した。0.2mgの単回投与は、5αレダクターゼ阻害薬として若干活性があることが明らかになったが、DHT濃度への統計上有意な効果は0.04mgの単回投与の後も観察されなかった。 MK-906は生体内で非常に効果的な5αレダクターゼ阻害薬であるということが結論される。(p45、1-20行;翻訳文p1、1-16行)
[甲4-B] N-(2-Methyl-2-propyl)-3- oxo-4-az a-5α-androst-1-ene-17β-carboxamide(MK-906)(p46、第4段落1-2行;翻訳文p2、14-15行)
[甲4-C] 薬物は、単一用量(カプセル剤)として、AM8:00~10:00の間に、18~45歳、体重60~90kgの間の54名の健康な男性ボランティアに経口投与した。(p46、下6-4行;翻訳文p3、3-4行)
[甲4-D] 40mg、20mg、10mg、5mg、又はさらに1.5mg用量のいずれかの5αレダクターゼへの効果は、統計学上異なってないように思われる。(p51、「DISCUSSION」4-5行;翻訳文p8、「考察」4-5行)
[甲4-E] それにもかかわらず、データはMK-906が比較的持続性の効果をもつ、組織及び肝臓の5α-レダクターゼの5α-レダクターゼの非常に強力な阻害剤であることを示す。(p52、20-21行;翻訳文p9、20-22行)
5)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
[甲5-A] 単回及び複数回経口投与後の健康な男性ボランティアにおける、N-(2-methyl-2-propyl)-3- oxo-4-az a -5α-androst-1-ene-17β-carboxamide (I)の薬物動態と生化学的効能を調べた。(p15、「SUMMARY」の項1-2行;翻訳文p1、「要約」1-2行)
[甲5-B] 複数回投与研究においては、1日1回、7日間、lmg、10mg又はプラセボ投与を受ける3グループにランダムに割り当てた。年齢28-53歳(平均40.9±7.7)、体重53-77kg (平均65.6±6.9)の健康な32人の男性ボランティアが、研究に参加した。(p16、 「MATERIALS AND METHODS」の項、4-9行;翻訳文p2「材料及び方法」2--5行)
[甲5-C] 複数回投与研究では、1mg及び10mgの2つの投与量の1日1回、7日間投与が使用された。lmg投与後の全血漿濃縮物が、HPLC分析の定量限界以下であるため、lmg投与における薬物動態は、評価することができなかった。(p17、右欄3-8行;翻訳文p4「薬物動態」8-10行目)
[甲5-D] 複数回投与期間中及び投与後の血清DHTの平均%変化率及びT/DHT平均値は、それぞれ、図5及び表IVに示されている。試験した両方の投与量において、血清DHTの著しい抑制が観察された。DHTの最大の減少は、lmg/日投与後に観察された。最後のlmg/日投与の24h後に、血清DHTは、平均0.56±0.23ng/mlのベースラインから、0.22±0.03ng/mlに減少した。これは、ベースラインの39%までの平均%変化を示している。(p18、右欄下2行-p19右欄8行;翻訳文p6、3-8行目)
[甲5-E] 単回投与後のDHT減少に対するプラトーは、最も低い量(5mg)において生じ、薬物の高い投与量(10-100mg)が、さらなるDHT抑制を生じることはなかった。事実、複数回投与の後、DHTの最大の減少は、lmg/day投与後でさえ観察された。我々は、最少の有効投与量及び生化学的有効性のための投与量比率を確定することはできなかった。しかし、最少有効投与量が、1mg/dayより少ないと予測されることは、疑いなく明白となった。(p20、右欄第2段落、5-12行;翻訳文p8、18-23行)
6)1979年11月15日に株式会社廣川書店が発行した「第九改正 日本薬局方解説書」のA-86頁~A-88頁には、以下の事項が記載されている(この刊行物を「周知例」という。以下における「(注1)」~「(注5)」は原文においては囲み文字で表記されている。)。
[6-A] 「(1) 錠剤は,医薬品を一定の形状に圧縮して製したものである.(注1)
(2) 本剤を製するには,通例,つぎの方法による.
(i) 医薬品をそのまま,または賦形剤,結合剤,崩壊剤,そのほか適当な物質を加えて均等に混和したものを,顆粒状としたのち滑沢剤などを加え,圧縮成型する。この顆粒を製するには,通例,医薬品または上記の混和物を圧縮したのち,顆粒状に粉砕するか,または適当な湿潤剤を加えて粒状とし,乾燥する.(注2)
(ii) 医薬品をそのまま,または適当な添加剤を加えた混合物を,直接圧縮成型して製するか,またはあらかじめ製した顆粒に医薬品をそのまま,もしくは,適当な添加剤を加えて均等に混合したのち,圧縮成型して製することがある.(注3)
本剤には,必要に応じて着色剤,矯味剤などを加えることができる.(注4)
本剤は,白糖または適当な物質で剤皮を施すことができる.(注5)」(A-86頁下から14行~下から4行)
[6-B] 「(注2) 顆粒圧縮法あるいは間接圧縮法という.顆粒を調製し,滑沢剤を加えて打錠する方法である. 顆粒の調製法にはつぎの乾式法と湿式法とがある.
(1) 乾式法 …(略)…
(2) 湿式法 最も一般に用いられている製法で,強圧を要せずにじょうぶな錠剤を得ることができ,かつ重量偏差が小さく,崩壊もすみやかであるのみならず,外観も美麗である.薬品に賦形剤,崩壊剤を加え,液状の結合剤を添加して適当な大きさの軟塊をつくり,顆粒機またはふるいをおし通して顆粒を製して乾燥機で乾燥する.乾燥後大きな顆粒は砕き,粉末部分を除き一定の大きさのもののみを集め滑沢剤を加えて打錠機により製錠する.
賦形剤 diluents bases 主薬の量が少なく打錠に適しない場合,一定の大きさと重量を与えるため,またはでき上がり錠剤の平均重量をある程度大きくし重量偏差を小にする必要のある場合に添加する薬剤である.乳糖,白糖,ブドウ糖,でんぷん,微結晶セルロースなどが用いられる.これらはすべて製剤通則(3)の適用をうけるものでなければならない(つぎの結合剤,崩壊剤,滑沢剤も同様である). 以上のうち乳糖が最も広く用いられ,微結晶セルロースは直接圧縮法の賦形剤に主として用いられる.
結合剤 binders 成分粉末の混合物に結合力を与え安定な顆粒を製するために用いられる薬剤である.通例5~10%デンプンのり液(加熱時間,経過時間により強度が異なってくる)10~20%アラビアゴム液またはゼラチン液,25~50%ブドウ糖液または白糖液,1~5%トラガント液,CMC液またはアルギン酸ナトリウム液などを用いるが,主薬が湿ると結合性をだすものには単に水,エタノールのみが用いられる. 結合剤の選択,濃度添加量を適当にかげんしないと崩壊性をわるくし,重量偏差やキャッピング(打錠に際して上杵側がはがれる現象)などの原因となる.それゆえ結合剤の選択は最初最も弱いものから始め,それでうまくいかない場合は濃度を高めるかまたは結合力の強い結合剤を用いるようにし,原料薬品に最適の結合剤を定めるようにする.
崩壊剤 disintegrators 水中または胃液中で錠剤に崩壊性をあたえる薬剤である.でんぷん(100°で乾燥したものを主薬の5%,必要に応じ10~20%程度加える)がもっとも広く用いられる.炭酸カルシウムは胃内で二酸化炭素を発生し崩壊させるので場合により使用されることがある.また崩壊性を促進するために界面活性剤などをでんぷんとともに添加することがある.
滑沢剤 lubricants 打錠に際し薬品がきねやうすとに付着しないようにし,また圧縮中の圧力伝達性を高める働きをする.通例ステアリン酸マグネシウム,(0.2~0.5%),精製タルク(0.5~2%)が使用される.このほかステアリン酸,ステアリン酸カルシウムなども用いられる. 適量の滑沢剤の添加により打錠は非常に容易となり,また表面の美しい錠剤ができるが,添加量が多すぎると硬度が低下する.」(A-87頁下から20行~A-88頁19行)
5-1-2.判断
1)本件訂正発明1について
記載事項[甲1-A]によれば、甲第1号証には、5α-レダクターゼ阻害剤であるフィナステライドを、0.5mg/日にて20週間経口投与して、禿げかかった成体雄stumptail macaque サルにおける頭皮毛髪成長に対する効果を明らかにしたことが記載されている。
記載事項[甲1-E]によれば、フィナステライドは、リンゴのスライスに塗布されて、上記サルに経口摂取させたことが記載されている。
記載事項[甲1-G]によれば、フィナステライドを投与した5頭のサルのうち4頭は毛髪重量の増加を示し、1頭のサルは、非応答であったことが記載されている。
また、記載事項[甲1-J]によれば、甲第1号証に記載される研究の結果は、フィナステライドが、stumptailにおける毛髪成長をミノキシジル単独によって誘導されるレベルまで刺激したことを示唆することが記載されている。
そうすると、これら甲第1号証の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「0.5mg/日にて経口投与するフィナステライドおよびリンゴのスライスより成る、禿げかかった成体雄stumptail macaque サルにおいて5頭のうち4頭は頭皮毛髪重量の増加を示し、1頭は非応答であり、当該サルにおける毛髪成長をミノキシジル単独によって誘導されるレベルまで刺激したことを示唆する、とされたもの。」
そこで、本件訂正発明1と引用発明とを対比する。
本件明細書の「5α-レダクターゼ2阻害剤(例えばフィナステライド)」(特許第3058351号公報 3頁右欄最終行~4頁左欄1行)といった記載などによれば、フィナステライドは、本件訂正発明1にいう「5α-レダクターゼ2阻害剤」の具体的な化合物であると認められる。そうすると、引用発明にいう「フィナステライド」は、本件訂正発明1にいう「5α-レダクターゼ2阻害剤」に相当する。また、引用発明においてフィナステライドは、「リンゴのスライス」に塗布されて投与されており、引用発明にいう「リンゴのスライス」は、本件訂正発明1にいう「医薬的に許容可能なキャリヤー」に相当すると言える。
そうすると、本件訂正発明1と引用発明とは、
「5α-レダクターゼ2阻害剤および医薬的に許容可能なキャリヤーより成るもの」
である点で一致し、以下の3点で相違する。
・本件訂正発明1は、「経口剤型医薬組成物」であるのに対し、引用発明は、経口投与されるものではあるものの、「経口剤型医薬組成物」について特定されていない点。
(以下、「相違点1」という。)
・本件訂正発明1では、用途について、「ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなく、禿げかかった成体雄stumptail macaqueにおいて作用を確認している点。
(以下、「相違点2」という。)
・本件訂正発明1では、用量について、「単位用量として0.05~1mg」と特定されているのに対し、引用発明では、「0.5mg/日」と特定されている点。
(以下、「相違点3」という。)
そこで、上記相違点1~3について検討する。
・相違点1について
引用発明は、経口投与されるものであるところ、これを「経口剤型」の「組成物」とすることに、当業者が困難を要するものではない。そして、引用発明のフィナステライドは、周知の医薬であるので、これを含有する組成物は「医薬組成物」に他ならない。そうすると、引用発明を「経口剤型医薬組成物」とすることは、当業者が容易になし得るものといえる。
・相違点2について
甲第1号証には、同文献に記載の試験において用いられたstumptail macaqueが、「ヒト脱毛症の十分に確立したアンドロゲン-依存性モデル」(甲1-Bを参照)である旨記載されている。
甲第1号証に記載される試験は、ヒト脱毛症の動物モデルによるものであり、該試験はヒトの治療薬を得ることを意図したものということができるところ、フィナステライドの経口投与により、5頭のstumptail macaqueのうちの4頭において頭皮の毛髪の重量を増加させたとの試験結果から、フィナステライドについてヒトの治療薬としての適性を認識し、ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用という用途を想起することは、当業者にとり何ら困難なことではない。
・相違点3について
当該技術分野において、治療効果の向上や副作用の低減等を目的として、安全且つ有効な医薬の投与量を検討してみることは当業者が適宜行うことに過ぎないことから、本件訂正発明1において規定されるような単位用量を設定することは当業者が容易になし得るものである。
また、仮に、そのように言うことができないとしても、甲第2号証ないし甲第5号証において示された1mg前後あるいはより少量の投与量を参考にしつつ(甲2-B、甲2-D、甲3-A、甲4-A、甲5-D、甲5-Eを参照)、治療効果の向上や副作用の低減等を目的として、安全且つ有効な医薬の投与量を検討し、本件訂正発明1において規定される程度の単位用量を設定することは当業者が容易になし得るものと言える。
・効果について
本件訂正発明1の効果について検討するに、本件明細書の実施例には、
「実施例4 …患者一人当たり5mg/日未満、例えば1mg/日又は0.2mg/日の用量の5α-レダクターゼ2阻害剤(フィナステライドを含む)の投与がアンドロゲン脱毛症の治療に有用であり、このような症状を示す患者の髪の成長を促進する…」、
「実施例5 別の試験では、男性部分禿頭症の男性に6ケ月間0.2mg/日、1.0mg/日及び5.0mg/日の用量のフィナステライドを経口投与した。この試験の結果によれば、被験者の頭皮組織中のDHT含量は大幅に低下した。」
と記載されるものの、「・相違点2について」で述べたように、甲第1号証に記載される試験から、フィナステライドを、ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症の治療に用いることが容易に想起され、また、「・相違点3について」で述べたように、安全且つ有効な医薬の投与量を検討し、設定することが容易になし得るものである以上、本件明細書の実施例に記載される効果は当業者の予測し得る程度のものと判断するのが相当であり、本件訂正発明1とすることにより当業者の予測を超えるような格別に顕著な効果が生じるものと解すことはできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、被請求人は、平成26年1月27日付けの審判事件答弁書において、甲第1号証の毛髪成長実験に関し、毛髪重量の増加を示さなかった1頭のデータを除く残り4頭のデータのみを対象にした解析結果に基づく議論は、歪められた実験結果に基づくもので、単なる憶測の域を出ないものであり、甲第1号証の毛髪成長実験の結果は、0.5mgのフィナステライドを経口投与された群の毛髪重量の増加がプラセボ対照群のそれと比べて統計学的有意差がないことを示している旨主張している。
しかしながら、甲第1号証には、フィナステライドの経口投与により、5頭のstumptail macaqueのうちの4頭において頭皮の毛髪重量を増加させたとの試験結果が明示的に記載されており、かかる記載から、フィナステライドについて、アンドロゲン脱毛症治療用との用途を想起することは、当業者にとり何ら困難なことではない。
仮に、甲第1号証に記載される毛髪成長実験のデータそれ自体の統計学的有意性について完全に疑義なしとはいえないとしても、フィナステライドの経口投与による血清DHTレベルの低下に関するデータやそれから予測される禿頭症の逆行作用についても併せて記載され([甲1-H]~[甲1-J])、結局は、「これらのデータは、DHTの抑制が確立された禿頭症を逆行させ、及びこの動物モデルにおいて従前に観察されたアンドロゲン性脱毛症を予防することを暗示する」([甲1-J])と結論付けられているのであるから、これらの記載を併せみた当業者にとって、アンドロゲン脱毛症治療のためにフィナステライドを経口投与することは、十分に動機付けられていたことである。
また、被請求人は、平成26年8月22日付けの訂正請求書において、甲第1号証の「Discussion」では、副作用回避のために局所的製剤とすることが推奨されており、あえて、副作用のリスクが認識されている経口投与を採用する理由がないことを主張している。
確かに、甲第1号証の「Discussion」には、「該薬物を皮膚に標的化する局所的製剤を開発し、それにより、アンドロゲンの全身性の変化を引き起こすことなく、毛嚢のDHTを低下させることが賢明であろう。」と記載されるものの、この記載の直前には、「現在の研究では、確実に送達され、臨床試験で報告された血清DHTの減少が再現されるよう、フィナステリドを経口投与している(12)。」と記載され、また、実際に、実験も経口投与により行われており(記載事項[甲1-A]、[甲1-E]を参照)、甲第1号証において、経口投与が否定されている訳ではない。
被請求人の上記主張はいずれも採用できない。
2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2と引用発明とを対比する。
本件明細書の「フィナステライド(17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン)」(特許第3058351号公報 2頁右欄20行~23行)との記載によれば、本件訂正発明2にいう「17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン」は、「フィナステライド」を意味するものと認められる。そうすると、引用発明にいう「フィナステライド」は、本件訂正発明2にいう「17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン」に相当する。
そうすると、本件訂正発明2と引用発明には、「1)本件訂正発明1について」で検討したところの相違点1~相違点3以外の相違点はない。そして、相違点1~相違点3により進歩性を生ずるものでないことは既に検討したとおりである。
したがって、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3)本件訂正発明3~5について
上記「第2」に記載したように、本件発明3は、本件訂正により削除された。
本件訂正発明4~5のそれぞれを、引用発明と対比すると、「1)本件訂正発明1について」で既に検討した相違点1~相違点2で相違することに加え、単位用量が本件訂正発明1における単位用量の一部の範囲に特定されている点で相違する。
しかし、「1)本件訂正発明1について」の「・相違点3について」で検討したのと同様の理由により、本件訂正発明4~5で規定されるような単位用量の特定により進歩性を生じるものではない。
したがって、本件訂正発明4~5は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4)本件訂正発明6について
本件訂正発明6を、引用発明と対比すると、「1)本件訂正発明1について」で既に検討した相違点1~相違点3で相違することに加え、アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症に特定されている点で相違する。
しかし、アンドロゲンとは男性ホルモンを意味するのであり、男性型禿頭症はアンドロゲン脱毛症の代表例ということができ、アンドロゲン脱毛症を男性型禿頭症に特定することにより進歩性を生じるものではない。
したがって、本件訂正発明6は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
5)本件訂正発明7について
本件訂正発明7と引用発明とを対比する。
「2)本件訂正発明2について」において述べたように、本件明細書の「フィナステライド(17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン)」(特許第3058351号公報 2頁右欄20行~23行)との記載によれば、引用発明にいう「フィナステライド」は、本件訂正発明7にいう「17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オン」に相当する。
そうすると、本件訂正発明7と引用発明とは、
「17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オンを含むもの」
である点で一致し、以下の3点で、少なくとも文言上は、相違する。
・本件訂正発明7は、「医薬的に許容可能な錠剤化成分」を含有する、「錠剤」であるのに対し、引用発明は、経口投与されるものではあるものの、「医薬的に許容可能な錠剤化成分」及び「錠剤」について特定されていない点。
(以下、「相違点4」という。)
・本件訂正発明7では、用途について、「アンドロゲン脱毛症治療用」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなく、禿げかかった成体雄stumptail macaqueにおいて作用を確認している点。
(以下、「相違点5」という。)
・本件訂正発明7では、用量について、「単位用量として0.5~1mg」と特定されているのに対し、引用発明では、「0.5mg/日」と特定されている点。
(以下、「相違点6」という。)
そこで、上記相違点4~6について検討する。
・相違点4について
引用発明は、経口投与されるものであるところ、経口剤型として周知の剤型であるところの錠剤の形態としてみることに何ら困難はなく、その際、「医薬的に許容可能な錠剤化成分」を配合することも、当業者が容易になし得るものである。
・相違点5について
甲第1号証には、同文献に記載の試験において用いられたstumptail macaqueが、「ヒト脱毛症の十分に確立したアンドロゲン-依存性モデル」(甲1-Bを参照)である旨記載されている。
甲第1号証に記載される試験は、ヒト脱毛症のアンドロゲン-依存性モデルによるものであるところ、フィナステライドの経口投与により、5頭のstumptail macaqueのうちの4頭において頭皮の毛髪の重量を増加させたとの試験結果から、フィナステライドについて、アンドロゲン脱毛症治療用という用途を想起することは、当業者にとり何ら困難なことではない。
・相違点6について
「1)本件訂正発明1について」の「・相違点3について」で検討したのと同様の理由により、本件訂正発明7において規定されるような単位用量を設定することは当業者が容易になし得るものである。
・効果について
本件訂正発明7の効果について検討するに、「1)本件訂正発明1について」の「・効果について」で検討したのと同様の理由により、本件訂正発明7とすることにより当業者の予測を超えるような格別に顕著な効果が生じるものと解すことはできない。
したがって、本件訂正発明7は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
6)本件訂正発明8について
本件訂正発明8と引用発明とを対比すると、「5)本件訂正発明7について」で既に検討した相違点4~相違点5で相違することに加え、単位用量が「1mg」に特定されている点で相違する。
しかし、「1)本件訂正発明1について」の「・相違点3について」で検討したのと同様の理由により、本件訂正発明8で規定されるような単位用量の設定により進歩性を生じるものではない。
したがって、本件訂正発明8は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
7)本件訂正発明9~13について
本件訂正発明9~13のそれぞれを、引用発明と対比すると、「5)本件訂正発明7について」で既に検討した相違点4~相違点6で相違することに加え、錠剤化成分が特定されている点(請求項9)、結合剤、滑沢剤、崩壊剤および着色剤の1種または2種以上をさらに含有することが特定されている点(請求項10)、結合剤(請求項11)、滑沢剤(請求項12)あるいは崩壊剤(請求項13)が特定されている点で相違する。
しかし、本件訂正発明9~13で特定されている成分は、いずれも錠剤への配合成分として周知と言えるものを包含しており(要すれば、[6-A]、[6-B]を参照)、これらの成分の特定により進歩性を生じるものではない。
したがって、本件訂正発明9~13は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
8)本件訂正発明14について
本件訂正発明14を、引用発明と対比すると、「5)本件訂正発明7について」で既に検討した相違点4~相違点6で相違することに加え、アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症に特定されている点で相違する。
しかし、「4)本件訂正発明6について」で述べたように、アンドロゲンとは男性ホルモンを意味するのであり、男性型禿頭症はアンドロゲン脱毛症の代表例ということができ、アンドロゲン脱毛症を男性型禿頭症に特定することにより進歩性を生じるものではない。
したがって、本件訂正発明14は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
9)本件訂正発明15~20について
本件訂正発明15は、「5α-レダクターゼ2阻害剤」を用いる点、「アンドロゲン脱毛症の治療」をその用途とする点、投与経路が「経口」である点、および用量が「0.05~1mg」である点では本件訂正発明1と同じであり、次の点で相違することを除いて、単に本件訂正発明1の表現形式を変えた発明と言える。
すなわち、両者の相違点は、本件訂正発明15では、「アンドロゲン脱毛症」と特定されるのに対し、本件訂正発明1では「ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症」と特定される点、および本件訂正発明15では、「用量」と特定されるのに対し、本件訂正発明1では「単位用量」と特定される点であるが、これらの相違点により、本件訂正発明15よりも狭い範囲の発明となっている本件訂正発明1が、「1)本件訂正発明1について」で述べた理由により、進歩性を有しないとされる以上、それと同様の理由により、本件訂正発明15も進歩性を有しないというべきである。
本件訂正発明16,18~20は、それぞれ、本件訂正発明2,4~6と同様の点で、本件訂正発明15がさらに特定された発明であり、「2)本件訂正発明2について」~「4)本件訂正発明6について」で述べた理由と同様の理由により進歩性を有しない。
上記「第2」に記載したように、本件発明17は、本件訂正により削除された。
したがって、本件訂正発明15,16,18~20は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1~5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1,2,4~16,18~20の特許は、無効理由2によって無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条および同法第62条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。
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2013-800194