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特許無効審判

2013-800139

ベンゾチオフェン類を含有する医薬製剤

審判番号
2013-800139
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願平5-185965
登録番号
特許第2749247号(P2749247)
請求日
2013年07月29日
審決日
2015年04月15日
公報発行日
2017年11月24日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】沢井製薬 株式会社
  • 【請求人代理人】高橋 隆二
  • 【請求人代理人】生田 哲郎
  • 【請求人代理人】佐野 辰巳
  • 【参加人】テバ ファーマスーティカル インダストリーズ リミティド
  • 【参加人代理人】実広 信哉
  • 【参加人代理人】長沢 幸男
  • 【参加人代理人】笹本 摂
  • 【被請求人】イーライ・リリー・アンド・カンパニー
  • 【被請求人代理人】小林 純子
  • 【被請求人代理人】片山 英二
  • 【被請求人代理人】黒田 薫
  • 【被請求人代理人】吉光 真紀
  • 【被請求人代理人】日野 真美
審判長/審判官
  • 審判長 村上 騎見高
  • 審判官 川口 裕美子
  • 審判官 内藤 伸一
分類
P1113.121-ZAA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法123条1項2号特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第2749247号発明「ベンゾチオフェン類を含有する医薬製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 請求のとおり訂正を認める。 特許第2749247号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件特許第2749247号の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、1993年7月28日を出願日(パリ条約による優先権主張 1992年7月28日 米国(US))として出願され、1998年2月20日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。 これに対して、請求人から平成25年7月29日に、上記請求項1~6に係る発明の特許を無効とすることについて、本件特許無効審判が請求され、平成26年3月4日付けで、被請求人から審判事件答弁書が提出された。そして、平成26年6月26日に行われた第1回口頭審理において、請求人からは、平成26年6月12日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされ、被請求人からは平成26年6月12日付け口頭審理陳述要領書に沿って、同調書に記載のとおりの陳述がなされた。さらに、平成26年7月10日付けで、被請求人から上申書が提出された。 その後、平成26年7月23日付けで審決の予告がなされ、平成26年10月27日付けで被請求人から訂正請求書及び上申書が提出され、平成26年11月13日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対し、請求人から平成27年1月8日付けで意見書が提出され、被請求人から平成27年1月29日付けで意見書が提出され、平成27年2月10日付けで上申書が提出された。 また、平成27年2月4日の受付けで参加申請人から参加申請書が提出され、これに対し、被請求人から平成27年3月16日付けで意見書が提出され、平成27年3月18日付けで参加申請人の本件審判への参加を許可すべきものとする旨の参加許否の決定がなされた。 第2 訂正請求 上記訂正請求書による訂正請求の趣旨及び訂正の内容は、上記訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。 1.訂正請求の趣旨 特許第2749247号の明細書(以下、「本件特許明細書という。」)を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求める。 2.訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤。」とあるのを、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって、タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い医薬製剤。」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「活性成分が塩酸ラロキシフェンである請求項1に記載の医薬製剤。」とあるのを、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって、医薬製剤活性成分が塩酸ラロキシフェンであり、ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない医薬製剤。」と訂正する。 3.訂正の適否の判断 (1)訂正事項1について 「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」との文言を追加する訂正は、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤。」が当然備えているはずの性質を追加するものである。 そして、本件特許明細書中の発明の詳細な説明の段落0076に、「上皮の高さの増大は治療物質のエストロゲン性の徴候であり、且つ子宮癌の発生率の増加と関連し得る。」、「与えられた全ての用量において、タモキシフェンは、上皮の高さを無傷のラットの増大に等しく、ラロキシフェンで観察された応答の約6倍増大させた。」と記載されていることからみて、発明の詳細な説明には、ラロキシフェンが「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」ことが、明示的に記載されていると言える。 したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。 また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2のうち、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって、」との請求項1の記載を加える訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。 次に、「ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない」との文言を追加する訂正は、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤。」が当然備えているはずの性質を追加するものである。 そして、本件特許明細書中の発明の詳細な説明の段落0076に、「上皮の高さの増大は治療物質のエストロゲン性の徴候であり、且つ子宮癌の発生率の増加と関連し得る。」、「与えられた全ての用量において、タモキシフェンは、上皮の高さを無傷のラットの増大に等しく、ラロキシフェンで観察された応答の約6倍増大させた。」と記載されており、また、段落0077に、「エストロゲン性は、さらに、子宮の間質層への好酸球の浸潤という副作用を評価することによっても査定した(第6表)。ラロキシフェンは、卵巣除去ラットの間質層に観察される好酸球の数を何等増大させず、一方タモキシフェンは、その応答において有意な増大を惹起した。」と記載されていることからみて、発明の詳細な説明には、「ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない」ことが、明示的に記載されていると言える。 したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とし、さらに、同法同条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号および第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項により準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。 よって、本件訂正を認める。 第3 本件訂正発明 本件特許第2749247号の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、順に、「本件訂正発明1」~「本件訂正発明6」といい、併せて「本件訂正発明」ともいう。)は、平成26年10月27日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。 「【請求項1】ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって、タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い医薬製剤。 【請求項2】ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって、医薬製剤活性成分が塩酸ラロキシフェンであり、ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない医薬製剤。 【請求項3】製剤が50~200mg/日の塩酸ラロキシフェン投与用に調製されている請求項2に記載の医薬製剤。 【請求項4】50~200mgの活性成分を含有する単位用量形の請求項1に記載の医薬製剤。 【請求項5】活性成分が塩酸ラロキシフェンである請求項4に記載の医薬製剤。 【請求項6】単位用量形が経口投与用に調製されている請求項4に記載の医薬製剤。」 第4 当事者の主張、及び、提出した証拠方法 1.請求人の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法 請求人は、「特許第2749247号の請求項1~6に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として、甲第1~14号証及び参考資料1、2を提出している。 (1)無効理由 本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証及び甲第2~4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1~6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (2)証拠方法 甲第1号証 : Breast Cancer Research and Treatment, Vol. 10, PP31-35, 1987 甲第2号証 : Journal of the National Cancer Institute, vol. 81(14), pp1086-1088, 1989 甲第3号証:特開昭57-181081号公報 甲第4号証 : Oncology Vol. 45, pp 344-345, 1988 参考資料1:欧州特許第1438957号公報 参考資料2:欧州特許第1438957号の異議申立に対する2009年12月22日付け異議決定 (以上、審判請求書に添付。) 甲第5号証 : 特開昭57-181081号公報 甲第6号証 : Life Sciences, Vol.32, pp.2869-2875(1983) 甲第7号証 : Cancer Research, Vol. 47, pp.4020-4024(1987) 甲第8号証 : Life Sciences, Vol. 32, pp.1031-1036(1983) 甲第9号証 : 2012年9月19日付け V. Craig Jordan (甲1の著者)の宣誓書 甲第10号証 :文献データベースScopusによる文献検索結果 甲第11号証 : Black et al., J. Clin. Invest. 93:63-69(1994) 甲第12号証 : 2009年10月7日付け Dr.Jan Urban Lindgren教授の宜誓書 甲第13号証 : 2009年10月7日付け Dr.Joharm Diederich Ringe教授の宜誓書 甲第14号証 :対応欧州特許の異議申立における証拠の整理番号一覧表 (以上、口頭審理陳述要領書に添付。) 2.被請求人の主張、及び、提出した証拠方法 被請求人は、「本件の審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、本件特許には、上記無効理由は存在しない点を主張し、証拠方法として、乙第1~25号証を提出している。 (1)証拠方法 乙第1号証:曽根,生体医工学44(4):511-516,2006 乙第2号証:WronskiとYen、Cells and Materials, Supp. 1:69-74, (1991) 乙第3号証:Kiminelら, Calcified Tissue International (1990)46:101-110 乙第4号証:Scott Miller,スコット・ミラー博士による専門家意見書 乙第5号証:Larry Black,実験成績証明書 乙第6号証:Draperら, Fourth International Symposium on Osteoporosis, Hong Kong, 1993, p119-121 乙第7号証:深井,岡山医学会雑誌, 71(8-1), 4881-4888, 1959-08-10 乙第8号証:Millerら, Calcified Tissue International (1982)34:245-252 乙第9号証:Calcified Tissue International, 35(6), Sept. 1983. Instructions to Authors 乙第10号証:Williain John Huster,「ジョーダン,フェルプスおよびリングレン論文に見られるデータの再解析」 乙第11号証:Malfetano, Gynaecological Oncology 39, 82-87, 1990 乙第12号証:Spinelli, J. Chemotherapy, 3(4), 267-270, 1991 乙第13号証:Fornander, Lancet, 117-120, 1989 乙第14号証:Jordan, Lancet, 733-734, 1989 乙第15号証:Galら, Gynaecological Oncology 42, 120-123, 1991 乙第16号証:Feldmannら, Bone and Mineral 7:245-54 (1989) 乙第17号証:Chanderら, Cancer Res 1991 51 5851-5858 乙第18号証:Lindstromら, Xenobiotica 14 (11) p841-847 (1984) (以上、審判事件答弁書に添付。) 乙第19号証:小野寺孝義・菱村豊著「文科系学生のための新統計学」ナカニシ出版 2005年71-73ページ (以上、口頭審理陳述要領書に添付。) 乙第20号証:Miller, S.C.他、Bone 7:283-287, 1986 乙第21号証:Marcus, R他編、Osteoporosis、pp671-690、アカデミックプレス、1996 乙第22号証:Marcus, R他編、Osteoporosis(第4版)、pp939-961、アカデミックプレス、2013 (以上、平成26年10月27日付け上申書に添付。) 乙第23号証:「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン 2011年版」、p2-3(ライフサイエンス社) 乙第24号証:Marcus, Trends Endcrinol Metab 1991. 2. 53-58 乙第25号証:乙第2号証の抄訳の追加 (以上、平成27年2月10日付け上申書に添付。) 第5 当審の判断 当審は、本件訂正発明1~6の特許は、上記無効理由によって無効にすべきものである、と判断する。その理由は、以下のとおりである。 1.甲号証の記載 甲第1号証には、以下の記載がある。(甲第1号証は英語で記載されているので、訳文で示す。) (ア)(31ページ、要旨、1-9行) 無傷の雌ラットおよび卵巣切除雌ラットの骨密度に対する抗エストロゲン薬であるタモキシフェンおよびケオキシフェンの作用について、4ヵ月の処置の後に検討を行った。抗エストロゲン薬では、無傷のラットの骨密度の減少を引き起こさなかったが、子宮湿重量は減少した。卵巣切除により、体重の増加(25%)と大腿骨密度の有意な減少(p0.01)が生じた。抗エストロゲン薬は、卵巣切除ラットの骨密度の更なる低下を起こさず、むしろ骨密度の維持に役立った。抗エストロゲン薬は、エストロゲン(1日25μgの経口エストラジオール安息香酸エステル)と同様に、無傷のラットで観測された範囲での骨密度の維持に役立ったが、子宮重量に対するエストロゲン刺激を阻害した。こうした抗エストロゲン薬の対照的な薬理作用は、タモキシフェンが骨粗鬆症の進行を遅延させることが可能かどうかを検討するために、乳癌に対し長期アジュバント・タモキシフェン療法を受けている患者を評価すべきであることを示唆している。 (イ)(31ページ右欄1-4行) 最近の報告では、抗エストロゲン薬であるクロミフェンが、驚くべきことに卵巣切除ラットの骨密度の低下を防止できることが明らかになった[10]。 (ウ)(31ページ右欄12行-末行) 本研究では、クロミフェンと関連する置換トリフェニルエチレンの純粋なトランス異性体であるタモキシフェン[1]、およびエストロゲン受容体に高親和性を有するがタモキシフェンよりも弱いエストロゲン作用を示す抗エストロゲン薬である、ケオキシフェン[12]に、我々は着目した。これらの抗エストロゲン薬について、無傷のラットまたは卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認するため、検討を行った。 (エ)(32ページ左欄7-10行) ケオキシフェン(6-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チエン-3-イル-4-[2-(1-ピペリジン)エトキシフェニル]メタン塩酸塩)は、インディアナ州インディアナポリスにあるEli Lilly Laboratoriesから入手した。 (オ)(32ページ左欄13-30行) 79匹の9月齢の退役した経産雌ラットを、10の治療群に無作為に割り付けた。7匹のラットをベースライン用の対照として用い、残りのラットには卵巣切除術または偽手術のいずれかを実施した。ラットは、タモキシフェン(100μg)、ケオキシフェン(100μg)、エストラジオール-3-安息香酸エステル(25μg)、あるいはタモキシフェンかケオキシフェンのいずれかとエストラジオール-3-安息香酸エステルとの組み合わせで、(0.2mlのピーナッツオイルにより経口で)毎日処置を施した。これらの投与量は、既知の薬理学[1]および当研究室におけるこれらの化合物の先行実験[1,13]に基づいて選択した。8匹の卵巣切除ラットと8匹の偽手術ラットの1群には、溶媒のみを投与した。実験は、4ヵ月間継続した。すべてのラットは、個別ゲージで飼育し、蒸留水と0. 5% Caおよび0. 3% Pの実験食を自由に摂取させた[14]。 (カ)(32ページ左欄末行-右欄17行) ラットは、ペントバルビタール麻酔下、放血によって殺処分した。大腿骨を収集し、直ちに凍結した;後にそれらを解凍して、軟組織を切断した。大腿骨の長さおよび中位骨幹の幅を測定した。骨は蒸留水の中に6時間浸し、その後、蒸留水中で重量を測定し、蒸留水から取り出した。これらの測定値の差は、グラムで表記されるが、立方センチメートル単位の骨容量に相当する。脂肪と水分は、48時間毎の6度のアセトン交換により骨から除去した。骨は50℃で24時間乾燥させ、その乾燥重量を記録した。続いて、骨は500℃の炉に48時間入れて灰にした。そして、灰重量は、標準的な手順で測定した。統計比較は、(表示した時には)スチューデントt-検定により行った。 (キ)(32ページ右欄21-26行) これらの9ヵ月齢のラットが卵巣切除された際、骨密度の有意な減少がみられた。4ヵ月後、大腿骨の平均乾燥重量と全灰は、無傷の対照と比較して、卵巣切除ラットでは有意に低かった(表1)。 (ク)(32ページ表1) (ケ)(34ページ左欄2-6行) エストラジオール安息香酸エステルは卵巣切除ラットの子宮湿重量を二倍に増加したのに対し、タモキシフェンとケオキシフェンは子宮湿重量をわずかに増加しただけであった(図2)。 (コ)(33ページ図2) 図2.無傷の、又は、卵巣切除されたラット(各群8匹)の子宮湿重量に対する抗エストロゲン薬又はエストロゲン(エストラジオール安息香酸エステル E2B)の4か月間の処理による影響。投与計画は、材料と方法を参照。 (サ)(34ページ左欄12-19行) エストラジオール安息香酸エステルは、卵巣切除によって生じる灰密度の低下を遅くしたが、これは統計的に有意ではなかった。対照的に、タモキシフェンもケオキシフェンも共に卵巣切除によって生じる灰密度の低下を有意に遅らせ(p<0.05)、そしてエストラジオール安息香酸エステルと抗エストロゲン薬の組合せは、少なくとも同等の効果であった。実際に、エストラジオールと抗エストロゲン薬の組合せは、抗エストロゲン薬単独を投与した無傷の各対照群と、有意差は無かった(図3)。 (シ)(33ページ図3) 図3.無傷の、又は、卵巣切除されたラット(各群8匹)の大腿骨灰密度に対する抗エストロゲン薬又はエストロゲン(エストラジオール安息香酸エステル E2B)の4か月間の処理による影響。投与計画は、材料と方法を参照。 (ス)(34ページ左欄下から4行-右欄4行) 考察 本研究は、抗エストロゲン薬および/または卵巣切除が高齢ラットの骨密度に及ぼす影響を確認するために計画された。以前に述べられたとおり[14,15]、高齢ラットは卵巣切除により骨粗鬆症の変化を示したが、薬理学的に活性な経口量の抗エストロゲン薬は、無傷のラットの骨密度を変化させなかった。 (セ)(34ページ右欄14-26行) エストロゲンは雌ラットに生じる骨粗鬆症を回復することができる[18];我々は、卵巣切除において観測される体重増加を制御し得る低用量のエストラジオール安息香酸エステルを選択した。抗エストロゲン薬は卵巣切除ラットの骨量減少を安定化し、驚くべきことに、抗エストロゲン薬とエストラジオールの組合せでは、実質的に無傷のラットのレベルで骨密度が維持された。この結果は、エストロゲン刺激による子宮湿重量に対する完全な阻害と、同時に、体重と骨密度の両方に対する正のエストロゲン様の作用とあわせて、抗エストロゲン薬の標的部位特異性を示している。 2. 判断 (1)本件訂正発明1について 記載事項(ア)、(イ)、(ウ)及び(ス)によれば、甲第1号証は、抗エストロゲン薬であるクロミフェンが、卵巣切除ラットの骨密度の低下を防止できることが知られていたところ、同じく抗エストロゲン薬であるケオキシフェンに着目し、高齢の卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認することを、目的として行われた研究を開示した文献である。 記載事項(オ)、(カ)に記載されたとおり、9月齢の退役した経産雌ラットに対して卵巣切除術を実施し、ケオキシフェン(100μg)を4か月間毎日経口処置した後、殺処分し、大腿骨の長さ及び中位骨幹の幅を測定し、また、骨容量、乾燥重量及び灰密度を測定した。さらに、統計比較は、スチューデントのt-検定により行った。 記載事項(キ)、(ク)によれば、9ヵ月齢のラットが卵巣切除された際、骨密度の有意な減少がみられた。 これらの記載を総合すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用発明」という)。 「高齢の卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認することを目的として、卵巣切除術を実施した9月齢の退役した経産雌ラットにケオキシフェン100μgを4か月間毎日経口処置した際に、卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた、抗エストロゲン薬であるケオキシフェン。」 そこで、本件訂正発明1と引用発明とを対比する。 本件訂正発明1の「ラロキシフェン」は、「(6-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チエン-3-イル-4-[2-(1-ピペリジン)エトキシフェニル]メタノン)」で表される化合物である一方、引用発明の「ケオキシフェン」とは、記載事項(エ)によれば、「(6-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チエン-3-イル-4-[2-(1-ピペリジン)エトキシフェニル]メタン塩酸塩)」で表される化合物である。本件訂正発明1の「ラロキシフェン」を表す化合物名が「~メタノン」であるのに対し、引用発明の「ケオキシフェン」を表す化合物名は、「~メタン塩酸塩」である点で、一応相違するが、ラロキシフェンとケオキシフェンが同じ化合物を意味することは当業者に明らかであるであるから(要すれば、THE MERCK INDEX THIRTEENTH EDITION, MERCKCO.,INC. 2001, p.1452「8190. Raloxifene」の項目参照)、甲第1号証の記載事項(エ)の「~メタン塩酸塩」は、「~メタノン塩酸塩」の誤記であり、引用発明の「ケオキシフェン」は、本件訂正発明1のラロキシフェンの塩酸塩であると認められる。 次に、引用発明のケオキシフェンは、「経口処置」に用いられるものであり、通常、経口処置にあたっては、何らかの製剤として用いるのが一般的であり、また、「抗エストロゲン薬であるケオキシフェン」が医薬であることは明らかであるから、引用発明の「抗エストロゲン薬であるケオキシフェン」は、「ラロキシフェンを活性成分として含む医薬製剤」であるといえる。 そうすると、本件訂正発明1と引用発明は 「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤。」である点で一致し、以下の点で少なくとも文言上相違する。 ・本件訂正発明1は、「ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用」であるのに対し、引用発明は、「高齢の卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認することを目的として、卵巣切除術を実施した9月齢の退役した経産雌ラットにラロキシフェン100μgを4か月間毎日経口処置した際に、卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」点。 (以下、「相違点1」という。) ・本件訂正発明1は、「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」のに対し、引用発明は、この点についての記載がない点。(以下、「相違点2」という。) そこで、上記相違点について検討する。 (a)相違点1について 甲第1号証の記載事項(ス)には、「高齢ラットは卵巣切除により骨粗鬆症の変化を示した」との記載がある。したがって、引用発明における、「高齢の卵巣切除ラット」および「卵巣切除術を実施した9月齢の退役した経産雌ラット」は、骨粗鬆症の変化を示したラットであるといえる。 そして、記載事項(ア)には、「こうした抗エストロゲン薬の対照的な薬理作用は・・・患者を評価すべきであることを示唆している。」との記載があることからみて、甲第1号証に接した当業者は、甲第1号証が、ラットで得られた知見を、ヒトに反映させることも念頭に置いた文献であると理解する、と認められる。 (b)さらに、乙第2号証の69ページ左欄2-5行に「エストロゲン欠乏に対する骨の反応におけるラットとヒトの間の多くの類似点が、卵巣除去ラットを閉経後の骨量減少の動物モデルとして用いる根拠となる。」との記載があるように、「卵巣切除ラット」が「ヒトの閉経後の骨粗鬆症の動物モデル」であるのは、優先日における技術常識であったと認められる。 (c)次に、引用発明でいう「骨密度」及び「灰密度」の用語について、甲第1号証に定義はない。 甲第1号証の記載をさらに検討すると、記載事項(キ)には、「ラットが卵巣切除された際、骨密度の有意な減少がみられた。」との記載があり、記載事項(サ)には、「卵巣切除によって生じる灰密度の低下」との記載がある。両者は、どちらも、ラットの卵巣切除後に、骨におこった現象についての記載であり、これらの記載に接した当業者であれば、甲第1号証において、「骨密度」と「灰密度」の用語は、同じ密度を意味する用語であると理解できる。そして、それは、甲第1号証において唯一、密度として具体的な算出法が記載された、記載事項(ク)表1の、「灰/大腿骨容積(g/cm3)」により算出される密度を指すものと、理解できる。 (d)(c)によれば、引用発明の「卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」とは、「卵巣切除による骨密度の低下を有意に遅らせた」と言い換えることができる。そして、甲第1号証では、記載事項(ス)に「高齢ラットは卵巣切除により骨粗鬆症の変化を示したが、薬理学的に活性な経口量の抗エストロゲン薬は、無傷のラットの骨密度を変化させなかった。」とあるように、骨密度の変化と骨粗鬆症の変化は対応するものとされていたと認められる。 (e)したがって、(a)~(d)の記載を総合すると、甲第1号証には、引用発明のラロキシフェンに、ヒトの閉経後の骨粗鬆症の動物モデルである卵巣切除ラットにおいて、骨粗鬆症の発症や進行を遅らせる効果がある、ことが記載されていた、といえる。 そして、ヒトの閉経後の骨粗鬆症の動物モデルである卵巣切除ラットにおいて、ラロキシフェンに、骨粗鬆症の発症や進行を遅らせる効果があるのであるから、引用発明に基づき、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、医薬製剤。」を、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防のために、適用することは当業者が容易になし得ることである。 (f)相違点2について 本件訂正発明1の「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」との記載に関して、発明の詳細な説明の記載を検討しても、「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」との条件を満たすために、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤。」の用法用量や、添加剤などを検討したとの記載はない。 したがって、上記「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」との記載は、単に、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤。」が本来備えている性質を記載したものであると認められる。そして、引用発明のラロキシフェンを活性成分として含む医薬製剤も、当然、備えている性質であると認められる。 よって、この点で、本件訂正発明1が引用発明と異なる発明である、とすることはできない。 (g)次に、効果について検討すると、ラロキシフェンが、ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防に効果を奏すると予測されることは、上で検討したとおりである。 さらに、甲第1号証の記載事項(セ)には、抗エストロゲン薬、すなわち、ラロキシフェンが標的部位特異性を有することが記載されており、また、記載事項(ケ)及び(コ)には、ラロキシフェンは、卵巣切除ラットの子宮湿重量をわずかに増加しただけであることが記載されている。したがって、ラロキシフェンが、体内で、一律な作用を示すのではなく、骨では、骨密度の低下を遅らせる作用を有する一方、子宮では、増殖作用をほとんど示さないことは、当業者が予測しうることである。 (h)被請求人は、答弁書、口頭審理陳述要領書、平成26年7月10日付け上申書、平成26年10月27日付け上申書及び平成27年2月10日付け上申書において、以下の(h-1)から(h-5)の理由により、甲第1号証から「ラロキシフェンが、ラットの卵巣除去によって生じる骨密度の低下を有意に遅延した」との技術的事項を把握できない旨主張している。 (h-1)リタイアした繁殖用ラットでは、卵巣除去により骨密度低下がみられない 「リタイア繁殖用ラットは、重要な骨パラメータが個体間で大きく異なっていて、・・投与群と非投与群の適正な比較ができない。」(答弁書18ページ21-25行) 「実際、リタイアした繁殖用ラットを用いた場合には、卵巣除去による骨密度低下が生ずるというデータが得られず、したがって、リタイアした繁殖用ラットを用いては、ヒトの骨粗鬆症を信頼性をもって再現するモデルは得られないことを検証した。」(答弁書18ページ26行-19ページ2行) (h-2)甲1で測定された灰密度は、骨粗鬆症の評価のための骨密度とは無関係である 「ラットでは、皮質骨が成長し続ける期間が長いのに対し、ヒトでは・・特に更年期に近い時期および閉経後の女性では、・・骨が成長することはないことが知られている。」(答弁書20ページ5-8行) 「甲1に示された灰密度のデータは骨の成長の影響を受けており、骨粗鬆症により生じた変化の適切な評価に用いることはできない。」(答弁書21ページ2-4行) 「甲1は、皮質骨を含むラットの大腿骨全体の灰密度を測定したものであるから、小柱骨の損失を顕著な特徴とするヒトの骨粗鬆症への薬剤の効果が開示されていたとはいえない。」(平成27年2月10日付け上申書4ページ4-6行) (h-3)複数の用量を用いて実験されていない (答弁書21ページ7行) (h-4)エストロゲンでは当該モデルで有意な効果を得ることができなかった 「ヒトにおいて効果が確立され、実際の治療であるERTに使用されているエストロゲンであるエストラジオール安息香酸エステルについて、有意な作用がみられなかったと記載されていることから、当業者は、甲1の動物モデルは有効なモデルではないと理解せざるを得ない。」(答弁書21ページ23行-末行) (h-5)統計学的欠陥がある 「甲1は誤った統計解析法により実験データを解析した結果、本来は統計学的に有意でない効果を、誤って「統計学的に有意な」効果であるとしたのである。・・・甲1論文の統計学的欠陥は明らかである。」(答弁書23ページ4-8行) これら(h-1)~(h-5)について検討する。 (h-1)について 被請求人が、上記主張の根拠とする、乙第5号証に記載された試験は、甲第1号証に記載された試験とは、動物の入手先、飼育条件、卵巣切除から評価した日までの期間、評価方法等の試験条件が異なっており、乙第5号証で、骨密度低下がみられなかったからといって、甲第1号証に記載された結果を否定し、引用例として不適切である、とすることはできない。 さらに、乙第2号証の要約(69ページ左欄11-15行)には、「骨の研究におけるラットの欠点、即ち、モデリングや長尺方向への骨の成長の発現は、成長の遅い、高齢ラットの使用により、および/または、椎体の層板骨や長骨の二次海綿骨を試料部位として用いることにより最小化できる。」との記載があり、同71ページ左欄7-9行には、「いずれの場合においても、複雑変数として縦骨の成長は、高齢ラット(9-12月齢)の使用によって最小限に抑えることができる。」との記載がある。したがって、9-12月齢の高齢ラットを用いることが、ラットにおける骨の成長の影響を最小化するのに有効であることが知られていたのであるから、妊娠・授乳の影響があるとしても、甲第1号証で用いた9ヶ月齢のリタイアした繁殖用ラットが、骨粗鬆症の研究に用いる動物として、ことさら不適切であるとはいえない。 また、平成26年10月27日付け上申書に添付された、リタイアした繁殖ラットが骨粗鬆症モデルとして不適切である旨の記載された乙21号証、乙22号証はいずれも、本願優先日後に頒布された文献であるから、本願優先日において、リタイアした繁殖ラットの卵巣を摘出したモデルが骨粗鬆症モデルとして不適切であるとの技術常識があったと解することはできない。 (h-2)について (c)(d)で検討したように、甲第1号証に接した当業者であれば、「灰密度」および「骨密度」は、骨粗鬆症に関連したものと理解する。 そして、答弁書20ページ表7によれば、甲第1号証の卵巣除去ラットは、ベースラインと比較して、正常ラットと同程度に算出容積が増加した一方、灰重量は、それほどの増加は示しておらず、相対的に、骨容積の低下を伴わない骨質量の低下(密度の低下)が起きているといえる。 一方、本件特許明細書[0002]の記載によれば、「骨粗鬆症」とは、「その著明な特徴が、多孔性および脆弱性を産む骨容積の低下を伴わない骨質量の低下(密度の低下および骨間隙の拡大)である、主要な衰弱性疾患」を意味する用語であると認められる。 したがって、甲第1号証の卵巣除去ラットは、上記の「骨粗鬆症」の特徴に当てはまるものであるから、甲第1号証で測定された灰密度は、骨粗鬆症の評価のための骨密度とは無関係である、とはいえない。 さらに、乙第3号証は、卵巣除去ラット(OXラット)及び偽卵巣除去ラット(shOXラット)について、骨ミネラル含有量(BMC)を二重光子吸収法(DPA)を用いて分析した文献であるが、その103ページ右欄13-19行には「DPAにより測定されたBMCと灰分により決定されたミネラルを線形回帰及び対応するt検定で比較した[25]。カルシウム含有量は、平均して灰重量の42%である。DPAにより測定されたBMCは、灰分とよく相関する(図2、r=0.97, p<0.001)。」(乙第3号証は英語で記載されているので、訳文で示す。以下同様。)との記載がある。 また、同文献の104ページ左欄4-6行には、「全体骨のBMC(表3)は、shOXラットよりもOXラットの方が、4.9-11.1%低かった。35-100日で有意差があった。」との記載があり、同ページ右欄1-3行には「遠位大腿骨のBMC(表4)は、shOXラットよりもOXラットの方が、12.5-17.5%低く、常に有意差が存在した。」との記載があり、同欄13-15行には、「大腿骨骨幹BMC(表5)は、OXラット及びhOXラットにおいて、4.5%より多く、6.8%より少なかった。これらの違いは有意ではなかった。」との記載がある。 これらの記載によれば、DPAによる測定値と灰分による測定値は、相関するといえ、また、全体骨のBMCは、遠位大腿骨のみのBMCに比べれば差は小さいものの、OXによる影響を検出することができる、といえる。 したがって、灰密度による骨全体のデータの示された、甲第1号証の実験結果についても、被請求人が用いた試験法ほど感度が高くないにしろ、OXによる影響を検出することができるといえ、薬剤の影響についても同様に、検出可能であると推認される。 よって、「甲1で測定された灰密度は、骨粗鬆症の評価のための骨密度とは無関係である」、とまでは言えない。 (h-3)について 1つの用量であっても、効果が確認されたのであれば、それに基づき、更なる研究開発を行うのに十分であることは、当業者に明らかである。 (h-4)について 甲第1号証の記載事項(シ)図3に接した当業者は、有意差はないとしても、エストロゲン投与群は、卵巣切除コントロール群と比較して、灰密度の低下が抑制される傾向にあると理解できる。 (h-5)について 甲第1号証の記載事項(シ)図3に接した当業者は、統計学的に欠陥があるとしても、ラロキシフェン投与群は、卵巣切除コントロール群と比較して、灰密度の低下が抑制される傾向にあると理解できる。 したがって、甲第1号証に接した当業者は、「ラロキシフェンが、ラットの卵巣除去によって生じる骨密度の低下を、有意ではないにせよ、遅延する傾向がみられた」との技術的事項を把握することができる。 (i)また、被請求人は、以下の(i-1)~(i-3)の理由により、甲1には、ラロキシフェンが「エストロゲン療法に伴う望ましくない作用なくして」骨密度維持に役立つと実質的に記載されているとの主張は誤りであると主張している。 (i-1)甲1のタモキシフェンにはエストロゲン療法に伴う望ましくない作用がないとする解釈は優先日当時の技術常識に反する (i-2)甲1には子宮湿重量しか測定されていない (i-3)甲1の子宮癌のリスクに関する記載は誤っている これら(i-1)~(i-3)について検討する。 (i-1)および(i-3)について 甲第1号証の、タモキシフェンに子宮に対するエストロゲン様作用がない、との認識は、確かに、優先日当時の技術常識とは異なるものであるが、タモキシフェンについて誤認があったとしても、ラロキシフェンについての試験結果およびそこから導き出せる事項が否定されるわけではない。 (i-2)について エストロゲン類の子宮への作用をみるにあたり、子宮湿重量は、極めて一般的な評価項目であるから(現に、甲6-8においても、子宮湿重量が評価されている)、子宮湿重量で、エストロゲンほどの重量増加作用がみられなかったラロキシフェンについて、子宮へのエストロゲン様作用が小さいと評価することに、誤りがあるとはいえない。 なお、甲8号証の図2には、幼若ラットにラロキシフェン(LY139481)を1~1000μg投与した場合、エストラジオール0.1μgを投与した場合よりも子宮重量が小さいことが記載されており、ラロキシフェンの子宮に対するエストロゲン様作用が小さいことは、本願優先日前に知られていたことが理解できる。 したがって、「甲1には、ラロキシフェンが「エストロゲン療法に伴う望ましくない作用なくして」骨密度維持に役立つと実質的に記載されている、との主張は誤りである」とはいえない。 (j)さらに、被請求人は、以下の点を主張している。 (j-1)相反する報告の存在による本件訂正発明の効果の予測の困難性 「乙16は、甲1に記載される結論と矛盾している。」(答弁書31ページ4-5行) (j-2)本件訂正発明の効果の予測性に対する困難性・生物学的利用可能性 「本願優先日当時、ラロキシフェンに関する刊行物に基づく一般的な見解として、ラロキシフェンは生物学的活性が低いものと認識されていた。」(答弁書32ページ9-10行) これら(j-1)、(j-2)について検討する。 (j-1)について 乙第16号証は、甲第1号証の追試を目的とした文献ではなく、実験系や評価方法が異なるのであるから、結果が矛盾するとしても、甲第1号証の信頼性が変わるものではなく、甲第1号証に接した当業者が、ラロキシフェンが骨粗鬆症に有効であるとの効果を予測することに、困難性はない。 (j-2)について 生物学的利用可能性が低いとしても、効果が見込めるのであれば、投与量を調整する、誘導体化する、DDSを工夫するなど、様々な対応をとることができるのは、当業者に明らかであり、生物学的利用可能性が低いことをもって、直ちにヒトへの適用を断念することが、一般的であるとはいえない。 したがって、上記(h)~(j)の被請求人の主張を採用することはできない。 以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明および優先日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)本件訂正発明2について 本件訂正発明2と引用発明を比較する。 (1)で検討したとおり、引用発明の「ケオキシフェン」とは、「ラロキシフェン塩酸塩」のことであるから、本件訂正発明2の「塩酸ラロキシフェン」に相当するものである。 そうすると、本件訂正発明2と引用発明は、 「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、医薬製剤の活性成分が塩酸ラロキシフェンである、医薬製剤。」である点で一致し、以下の点で少なくとも文言上相違する。 ・本件訂正発明2は、「ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用」であるのに対し、引用発明は、「高齢の卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認することを目的として、卵巣切除術を実施した9月齢の退役した経産雌ラットにラロキシフェン100μgを4か月間毎日経口処置した際に、卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」点。 (以下、「相違点1」という。) ・本件訂正発明2は、「ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない」のに対し、引用発明は、この点についての記載がない点。(以下、「相違点2」という。) そこで、上記相違点について検討する。 ・相違点1について 相違点1は、上記(1)の相違点1と同じものであるから、上記(1)での検討と同様に、引用発明に基づき、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、医薬製剤の活性成分が塩酸ラロキシフェンである、医薬製剤。」を、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防のために、適用することは当業者が容易になし得ることである。 ・相違点2について 本件訂正発明2の「ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない」との記載に関して、発明の詳細な説明の記載を検討しても、「ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない」との条件を満たすために用法用量や、添加剤などを検討したとの記載はない。 したがって、上記「ラットにおいてタモキシフェンより子宮の上皮の高さの増大が少ないか、または、子宮の間質層への好酸球の浸潤が少ない」との記載は、単に、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤。」が本来備えている性質を記載したものであると認められる。そして、引用発明のラロキシフェンを活性成分として含む医薬製剤も、当然、備えている性質であると認められる。 よって、この点で、本件訂正発明2が引用発明と異なる発明である、とすることはできない。 したがって、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明および優先日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3)本件訂正発明3について 本件訂正発明3は、本件訂正発明2に、「製剤が50~200mg/日の塩酸ラロキシフェン投与用に調製されている」との構成をさらに加えたものである。 本件訂正発明3と引用発明を比較すると、(2)の相違点1,2に加え、本件訂正発明3は、「製剤が50~200mg/日の塩酸ラロキシフェン投与用に調製されている」点で、さらに相違する。 この点について検討すると、甲第1号証の記載事項(ク)表1によれば、ラット体重は259±20g(ベースライン)~351±42g(卵巣切除)であるから、およそ中間である300gを一応のラットの体重とすると、記載事項(オ)にあるラロキシフェンの投与量は100μg/300gの投与量といえるので、ヒトの体重を60kgとすると、およそ20mgの投与量に相当する。(j-2)で被請求人が主張するように、動物種によりバイオベイラビリティが違う可能性は当然考えられるので、当該ラットにおける投与量を参考に、ヒトに適切な投与量とすること、また、適切な投与量を含有する単位用量形とすることは当業者が容易になし得ることである。 そして、本件特許明細書には、【0084】~【0092】に、ヒト臨床試験のプロトコールは記載されているものの、その結果は記載されていないし、50~200mg/日の塩酸ラロキシフェン投与用に調製することで、当業者の予想を超える格別顕著な効果があるとは認められない。 したがって、本件訂正発明3は、甲第1号証に記載された発明および優先日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、被請求人は、甲4号証には、ラロキシフェンの効果がなかったことが記載されている、と主張している。しかしながら、甲4号証に記載されているのは、ラロキシフェン塩酸塩100mgをヒトに投与したところ、抗腫瘍活性がみられなかったこと、および、毒性が、タモキシフェンと同等であったこと(345ページ右欄6-末行)であり、骨粗鬆症に対する効果の有無は記載されていない。また、実際に使用されていたタモキシフェンと同等の毒性であったのだから、ヒトへ適用できないほどの毒性がみられたわけではない。 したがって、被請求人の上記主張は採用できない。 (4)本件訂正発明4について 本件訂正発明4は、本件訂正発明1に、「50~200mgの活性成分を含有する単位用量形の」との構成をさらに加えたものである。 本件訂正発明4と引用発明を比較すると、(1)の相違点1,2に加え、本件訂正発明4は、「50~200mgの活性成分を含有する単位用量形の」との構成を有する点で、さらに相違する。 しかしながら、(3)での検討と同様に、甲第1号証のラットにおける投与量を参考に、ヒトに適切な投与量とすること、また、適切な投与量を含有する単位用量形とすることは当業者が容易になし得ることである。 そして、本件特許明細書には、【0084】~【0092】に、ヒト臨床試験のプロトコールは記載されているものの、その結果は記載されていないし、50~200mgの活性成分を含有する単位用量形とすることで、当業者の予想を超える格別顕著な効果があるとは認められない。 (5)本件訂正発明5について (1)で検討したとおり、引用発明の「ケオキシフェン」とは、「ラロキシフェン塩酸塩」のことであるから、本件訂正発明5の「塩酸ラロキシフェン」に相当するものである。 そうすると、本件訂正発明5と引用発明は、(4)で検討したところ以外の相違点はない。そして、前記相違点により、いわゆる進歩性を生ずるものではないことは、すでに検討した通りである。 したがって、本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明および優先日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (6)本件訂正発明6について 本件訂正発明6は、本件訂正発明4に、「単位用量形が経口投与用に調製されている」との構成をさらに加えたものである。 本件訂正発明6と引用発明は、(4)で検討したところ以外に、「単位用量形が経口投与用に調製されている」点で相違する。 しかしながら、引用発明のケオキシフェンは、「経口処置」に用いられるものであるから、経口投与用の単位用量形に調製することは、当業者が容易になし得ることである。 したがって、本件訂正発明6は、甲第1号証に記載された発明および優先日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正発明1~6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2013-800139

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