特許無効審判
2013-800118
- 審判番号
- 2013-800118
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2004-520966外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2013年07月05日
- 審決日
- 2015年05月13日
- 公報発行日
- 2019年04月26日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 分類
- P1113.121-ZAA(C11B) / P1113.113-ZAA(C11B) / P1113.536-ZAA(C11B) / P1113.537-ZAA(C11B) / P1113.841-ZAA(C11B) / P1113.85 -ZAA(C11B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条、特許法第134条の2、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第123条第1項第2号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3905538号発明「油または脂肪中の環境汚染物質の低減方法、揮発性環境汚染物質低減作業流体、健康サプリメントおよび動物飼料製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
請求のとおり訂正を認める。
特許第3905538号の請求項1、2、4ないし6、9、12ないし27に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3905538号の請求項7、8、10、11及び28に係る発明についての審判請求を却下する。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第3905538号に係る出願(特願2004-520966号)は、2003年7月8日(優先権主張:2002年7月11日、スウェーデン王国)の国際出願日になされたものとみなされる国際特許出願であり、平成19年1月19日に特許権の設定登録がなされたものである。
2.別件無効審判事件について
本件特許につき平成19年8月31日付けで本件と同一の審判請求人(以下「請求人」という。)により「特許第3905538号発明の特許請求の範囲の請求項3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」という趣旨の別件無効審判(無効2007-800186号)が請求され、平成20年9月18日付けで上記趣旨のとおり結論とする審決がなされ、その後、平成21年1月28日に当該審決は確定した。
3.本件特許
したがって、本件特許権につき本件審判請求時に存在していた特許は、請求項1、2及び4ないし28に係る発明についての特許であった。
4.本件無効審判事件の経緯
本件特許について、請求人は平成25年7月5日に本件無効審判を請求した。
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。(なお、以下、審判被請求人を「被請求人」という。)
平成25年 8月 8日付け 答弁指令・請求書副本の送付
平成25年10月 3日 上申書(答弁期間延長)
平成25年10月 8日付け 通知書(期間延長許可)
平成25年12月12日 答弁書・訂正請求書
平成25年12月19日付け 手続補正指令(方式)
平成26年 1月15日 手続補正書(方式)
平成26年 2月 3日付け 弁駁指令・答弁書副本、訂正請求書副本
及び手続補正書副本の送付
平成26年 2月28日 弁駁書
平成26年 3月 5日付け 弁駁書副本送付
平成26年 3月12日付け 審理事項通知書(両当事者あて)
平成26年 5月 7日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年 5月 9日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 5月21日 上申書(被請求人)
平成26年 5月23日 口頭審理
平成26年 5月30日 上申書(請求人)
平成26年 6月13日 上申書(被請求人)
平成26年 9月12日付け 審決の予告
平成26年12月16日 訂正請求
同日 上申書(被請求人)
平成26年12月22日付け 訂正請求書副本及び上申書副本送付
平成27年 1月22日 意見書(請求人)
第2 訂正請求について
本件無効審判においては、被請求人から平成25年12月12日及び平成26年12月16日にそれぞれ訂正請求がされているところ、先にした平成25年12月12日付け訂正請求については、平成26年12月16日に訂正請求がされたことにより、特許法134条の2の6項の規定に基づき、取り下げられたものとみなされる。
よって、平成26年12月16日になされた訂正請求の適否について検討する。
1.訂正の内容
平成26年12月16日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(設定登録時のもの。以下「本件特許明細書等」という。)を、同訂正請求の請求書に添付した訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)及び訂正特許請求の範囲のとおりに、請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めるものであって、具体的には下記(1)ないし(16)に示した訂正事項1ないし訂正事項16の各訂正事項からなるものである。
なお、訂正事項の摘示にあたり、「他の請求項を引用する特定の請求項を「他の請求項と同様に訂正する」」旨の事項は、他の請求項の訂正により特定の請求項が実質的に同様に訂正されることが自明であるので省略する。
また、各訂正事項の番号については、通番となるように番号を新たに付与した。
(1)請求項10及び11に係る訂正
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項10及び11を削除する。
(2)請求項1、2、4~9、12~18及び22~27からなる一群の請求項に係る訂正(下記(ア)ないし(キ)の訂正事項を併せて「訂正事項2」ということがある。)
(ア)訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項1において、「脂肪または油を含む混合物」(特許掲載公報の請求項1の2行)を、「海産油」と訂正し、これに伴い、同じく請求項1において「該脂肪または油」(同8~9行)及び「該混合物」(同4、7及び10行)を、いずれも「該海産油」と訂正する。
(イ)訂正事項2-2
上記訂正事項2-1に伴い、特許請求の範囲の請求項7及び8を削除する。これに伴い、請求項8の記載を引用する請求項9を、請求項1の記載を引用する形式に訂正する。
(ウ)訂正事項2-3
特許請求の範囲の請求項1において、「環境汚染物質および/または他の毒性成分」(特許掲載公報の請求項1の1、2及び9行)を、「環境汚染物質」と訂正する。
(エ)訂正事項2-4
特許請求の範囲の請求項1において、「該環境汚染物質が臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選択され」という発明特定事項を加える訂正をする。
(オ)訂正事項2-5
特許請求の範囲の請求項1において、「揮発性作業流体を」(特許掲載公報の請求項1の4行)の後に、「外部から」を加える訂正をする。
(カ)訂正事項2-6
特許請求の範囲の請求項1において、「脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸および炭化水素のうちの少なくとも1つ」(特許掲載公報の請求項1の4~5行)を、「脂肪酸エステル、脂肪酸アミドおよび遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つ」と訂正する。
(キ)訂正事項2-7
特許請求の範囲の請求項1において、「該ストリッピング処理過程が150~270℃の間の温度で実行され」という発明特定事項を加える訂正をする。
(3)請求項4及び5からなる一群の請求項にかかる訂正
・訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4において,「環境汚染物質がBDE47(2,2’,4,4’一テトラブロモジフェニルエーテル),BDE99(2,2’,4,4’,5-ペンタブロモジフェニルエーテル)およびBDE100(2,2’,4,4’,6-ペンタブロモジフェニルエーテル)からなる群より選択される臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(4)請求項12及び13からなる一群の請求項に係る訂正
・訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12において、「環境汚染物質が臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(5)請求項17及び18からなる一群の請求項に係る訂正
・訂正事項5
特許請求の範囲の請求項17において、「環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(6)請求項19~21及び28からなる一群の請求項に係る訂正(下記(ア)ないし(ケ)の訂正事項を併せて「訂正事項6」ということがある。)
(ア)訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項19において、「脂肪または油を含む混合物」(特許掲載公報の請求項19の1行)を、「海産油」と訂正し、これに伴い、同じく請求項19において、「該脂肪または油」(同4~5行及び7行)及び「該混合物」(同6行に2個所及び8~9行)を、いずれも「該海産油」と訂正する。
(イ)訂正事項6-2
上記訂正事項6-1に伴い、特許請求の範囲の請求項28を削除する。
(ウ)訂正事項6-3
特許請求の範囲の請求項19において、「環境汚染物質および/または他の毒性成分」(特許掲載公報の請求項19の1~2、5及び8行)を、「環境汚染物質」と訂正する。
(エ)訂正事項6-4
特許請求の範囲の請求項19において、「該環境汚染物質は臭素化難燃剤であって」という発明特定事項を加える訂正をする。
(オ)訂正事項6-5
特許請求の範囲の請求項19において、「該揮発性作業流体が」(特許掲載公報の請求項19の5~6行)の後に、「外部から」を加える訂正をする。
(カ)訂正事項6-6
特許請求の範囲の請求項19において、「脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸、炭化水素、およびこれらのいずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種」(特許掲載公報の請求項19の2~4行)を、「脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸およびこれらのいずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種」と訂正する。
(キ)訂正事項6-7
特許請求の範囲の請求項19において、「該ストリッピング処理過程が150~270℃の間の温度で実行され」という発明特定事項を加える訂正をする。
(ク)訂正事項6-8
特許請求の範囲の請求項19において、「揮発性作業流体」(特許掲載公報の請求項19の5~6行及び8行)を、「揮発性環境汚染物質低減作業流体」と訂正する。
(ケ)訂正事項6-9
特許請求の範囲の請求項20において、「前記海産油がトリグリセリドの形態の脂肪酸であり、前記環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である」を加える訂正をする。
(7)請求項2に係る訂正
・訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2において、「環境汚染物質が臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(8)請求項5に係る訂正
・訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5において、「環境汚染物質がBDE47である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(9)請求項6に係る訂正
・訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6において、「環境汚染物質が臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(10)請求項9に係る訂正
・訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9において、「環境汚染物質が臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(11)請求項13に係る訂正
・訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13において、「環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(12)請求項14に係る訂正
(ア)訂正事項12-1
特許請求の範囲の請求項14において、「120~270℃の間の温度で」とあるのを、「150~200℃の間の温度で」と訂正する。
(イ)訂正事項12-2
特許請求の範囲の請求項14において、「環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(13)請求項15に係る訂正
・訂正事項13
特許請求の範囲の請求項15おいて、「環境汚染物質がデカクロロビフェニルである」という発明特定事項を加える訂正をする。
(14)請求項16に係る訂正
・訂正事項14
特許請求の範囲の請求項16において、「環境汚染物質がBDE47である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(15)請求項18に係る訂正
・訂正事項15
特許請求の範囲の請求項18において、「前記海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸である」という発明特定事項を加える訂正をする。
(16)請求項21に係る訂正
・訂正事項16
特許請求の範囲の請求項21において、「前記揮発性環境汚染物質低減作業流体が、食用もしくは非食用脂肪もしくは油を含む混合物が二段階分子蒸留に付され、一次蒸留からの揮発性画分がもう一度蒸留され、二次蒸留工程からの揮発性両分が該揮発性環境汚染物質低減作業流体から少なくとも構成される、エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法からの二次蒸留工程からの揮発性画分である副産物である」を、「前記揮発性環境汚染物質低減作業流体が、エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法からの副産物であって、該エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法においては、食用もしくは非食用の魚油が、エチル化および/またはメチル化工程そして二段階分子蒸留に付されて、一次分子蒸留工程からの揮発性両分が二次分子蒸留工程でもう一度蒸留され、該副産物は該二次分子蒸留工程からの揮発性画分である」と訂正する(特許掲載公報の請求項21の1~5行)。
2.訂正の適否に係る判断
(1)特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするか否かについて
ア.訂正事項1について
上記訂正事項1に係る訂正では、訂正前の請求項10及び11を削除しているから、訂正事項1に係る訂正は、実質的に特許法第134条の2第1項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.訂正事項2について
請求項1、2、4~9、12~18及び22~27からなる一群の請求項に係る訂正事項2に係る訂正では、訂正前の請求項1につき、「脂肪または油を含む混合物」、「該脂肪または油」及び「該混合物」(訂正事項2-1)、「環境汚染物質および/または他の毒性成分」(訂正事項2-3)並びに「脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸および炭化水素のうちの少なくとも1つ」(訂正事項2-6)につき、「海産油」及び「該海産油」(訂正事項2-1)、「環境汚染物質」(訂正事項2-3)並びに「脂肪酸エステル、脂肪酸アミドおよび遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つ」(訂正事項2-6)とそれぞれ下位概念に限定し、又は択一的記載の要素の一部を削除することにより特許請求の範囲を減縮するとともに、「該環境汚染物質が臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選択され」という発明特定事項(訂正事項2-4)、「外部から」という発明特定事項(訂正事項2-5)及び「該ストリッピング処理過程が150~270℃の間の温度で実行され」という発明特定事項(訂正事項2-7)をそれぞれ直列的に付加し、訂正前の請求項1に係る特許請求の範囲を減縮しているものと認められ、更に訂正前の請求項1を引用する請求項7及び8を削除すること(訂正事項2-2)を含めて、同請求項1を引用する各請求項についても同様に減縮しているものと認められる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができる。
ウ.訂正事項3ないし5、7ないし11、12-2、13及び14について
上記訂正事項3ないし5、7ないし11、12-2、13及び14に係る各訂正は、訂正前の各請求項における「環境汚染物質」につき、その種類又は具体的化合物にそれぞれ限定することにより、各請求項を実質的に減縮するものと認められる。
したがって、上記訂正事項3ないし5、7ないし11、12-2、13及び14に係る各訂正は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができる。
エ.訂正事項6について
上記訂正事項6に係る訂正は、請求項19~21及び28からなる一群の請求項に係るものであり、訂正前の請求項19につき、「脂肪または油を含む混合物」、「該脂肪または油」及び「該混合物」(訂正事項6-1)、「環境汚染物質および/または他の毒性成分」(訂正事項6-3)並びに「脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸、炭化水素、およびこれらのいずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種」(訂正事項6-6)につき、「海産油」及び「該海産油」(訂正事項6-1)、「環境汚染物質」(訂正事項6-3)並びに「脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸およびこれらのいずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種」(訂正事項6-6)とそれぞれ下位概念に限定し、又は択一的記載の要素の一部を削除することにより特許請求の範囲を減縮するとともに、「該環境汚染物質は臭素化難燃剤であって」との発明特定事項(訂正事項6-4)、「外部から」との発明特定事項(訂正事項6-5)、「該ストリッピング処理過程が150~270℃の間の温度で実行され」という発明特定事項(訂正事項6-7)及び「前記海産油がトリグリセリドの形態の脂肪酸であり、前記環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である」(訂正事項6-9)をそれぞれ直列的に付加し、訂正前の請求項19に係る特許請求の範囲を減縮しているものと認められ、更に訂正前の請求項19を引用する請求項28を削除すること(訂正事項6-2)を含めて、同請求項19を引用する各請求項についても同様に減縮しているものと認められる。
また、訂正前の請求項19における「揮発性作業流体」(訂正事項6-8)につき、訂正後では、前出の「揮発性環境汚染物質低減作業流体」(訂正事項6-8)であることを明確にするものであるから、同訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的にしたものと認められる。
したがって、訂正事項6に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮又は同書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認めることができる。
オ.訂正事項12-1について
訂正事項12-1に係る訂正は、請求項1を引用する請求項14において、請求項1において訂正事項2-7により付加されたストリッピングの温度範囲につき、「150~200℃の間の温度で」と更に範囲を限定するものであるから、請求項14に係る特許請求の範囲を実質的に減縮するものと認められる。
したがって、訂正事項12-1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができる。
カ.訂正事項15について
訂正事項15に係る訂正は、請求項18において、「前記海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸である」という発明特定事項を付加することにより、海産油の種別を限定するものであるから、請求項18に係る特許請求の範囲を実質的に減縮するものと認められる。
したがって、訂正事項15に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができる。
キ.訂正事項16について
上記訂正事項16に係る訂正は、訂正前の請求項21の文脈上の不整合を本件特許明細書の記載に基づき単に整合させたものであり、明瞭でない記載の釈明をするものといえる。
したがって、上記訂正事項16に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
ク.小括
以上のとおり、上記訂正事項1ないし16に係る各訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。
(2)特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて
本件訂正が特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについては、「明細書等に記載された事項との関係において、補正(訂正)が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべき」という知財高裁特別部平成18年(行ケ)第10563号判決における見地に照らして、検討する。
ア.訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項10及び11を請求項ごとに全て削除するものであるから、何ら新しい技術的事項を導入するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
イ.訂正事項2ないし15について
上記(1)イ.ないしカ.でそれぞれ説示したとおり、訂正事項2ないし15に係る各訂正は、いずれも、択一的な各選択肢群につき一部削除すること、温度範囲などを限定すること、訂正前の他の請求項又は明細書に記載されていた発明特定事項を直列的に付加すること又は一部の請求項を削除すること等により、特許請求の範囲を実質的に減縮しているものか、明瞭でない記載を単に明瞭化しているものであるから、訂正事項2ないし15に係る各訂正は、何ら新しい技術的事項を導入しないといえる。
したがって、訂正事項2ないし15に係る各訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものと認められる。
ウ.訂正事項16について
訂正事項16に係る訂正は、訂正前の請求項21につき、本件特許明細書の【0040】の記載などに基づいて、新しい技術的事項を導入することなく、文脈上の整合を図ったものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものと認められる。
なお、請求人は、平成27年1月22日付け意見書において、訂正事項16につき、「少なくとも請求項21に関する第2訂正請求は、認められるべきではない。審判請求時の請求項21は、極めて理解し難いものであり、不明確であった・・。訂正前の請求項21が理解不能である以上、第2訂正請求項21は、請求項21に新たな意味を付与するものであり、実質的な変更にあたる。」と主張して(意見書第10頁「第2 第2訂正請求について」の欄)おり、これは特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項又は第6項の規定に適合しないものである旨を主張しているものと認められる。
しかるに、訂正前の請求項21には、「前記揮発性環境汚染物質低減作業流体が、食用もしくは非食用脂肪もしくは油を含む混合物が二段階分子蒸留に付され、一次蒸留からの揮発性画分がもう一度蒸留され、二次蒸留工程からの揮発性画分が該揮発性環境汚染物質低減作業流体から少なくとも構成される、エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法からの二次蒸留工程からの揮発性画分である副産物である」と記載されていたところ、当該記載では、「エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法」が何を原料とするものか不明であり、「食用もしくは非食用脂肪もしくは油を含む混合物」との対応関係が不明であるという文脈上の不整合が存しており、明瞭でない記載であったものとは認められるものの、全く意味をなさない程度の理解困難性が存するものと認めることもできない。
そして、本件特許明細書の【0040】には、「好ましくは、該揮発性環境汚染物質低減作業流体は、分留産物として生成される。さらに、該揮発性環境汚染物質低減作業流体は、エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の製造のための通常方法からの副産物、例えば蒸留画分である。・・(中略)・・より好ましくは、・・(中略)・・揮発性環境汚染物質低減作業流体は、エチルエステル濃縮物の製造のための通常方法からの副産物(留出物画分)であり得るが、この場合、食用もしくは非食用脂肪または油を含む混合物、好ましくは魚油が、エチル化工程、そして好ましくは二段階分子蒸留に付される。該二段階分子蒸留工程において、エチルエステル形態での多数の脂肪酸からなる混合物が、揮発性(軽画分)、重(残留物画分)および生成物画分に、お互いに分離される。一次蒸留からの揮発性画分はもう一度蒸留され、そして二次蒸留工程からの揮発性画分はその場合少なくとも該揮発性作業流体、好ましくは脂肪酸エチルエステル画分から構成される。」(下線は当審が付した。)との記載がある。
そこで、訂正前の請求項21につき文脈上の整合を図り明瞭でない記載の釈明を目的として訂正を行うにあたって、上記【0040】の記載、特に下線部の記載を参酌すると、訂正後の請求項21における「食用もしくは非食用脂肪または油を含む混合物」は、「揮発性環境汚染物質を低減すべき脂肪若しくは油を含む混合物以外の他の(非)食用脂肪若しくは油を含む混合物に対してエチル化及び/又はメチル化を行った後の脂肪酸エステルを含有してなる(非)食用脂肪もしくは油を含む(二段階分子蒸留に付される前の)混合物」であると理解するほかなく、当該理解に基づくと、訂正後の請求項21は、
「前記揮発性環境汚染物質低減作業流体が、エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法からの副産物であって、前記エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法においては、(揮発性環境汚染物質を低減すべき脂肪若しくは油を含む混合物以外の他の食用もしくは非食用脂肪若しくは油を含む混合物に対してエチル化及び/又はメチル化を行った後の脂肪酸エステルを含有してなる)食用もしくは非食用脂肪もしくは油を含む混合物が二段階分子蒸留に付され、一次蒸留からの揮発性画分がもう一度蒸留され、前記副産物は前記二次蒸留工程からの揮発性画分である、請求項19もしくは20記載の使用。」
となり、文脈上の整合が図られ、明瞭な記載となるものと認められるとともに、何ら新しい技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書に記載した事項の範囲内において訂正していることが明らかであって、また、訂正前の請求項21に係る特許請求の範囲を逸脱するような変更がなされているものとも認めることができない。
してみると、請求人の上記意見書における主張は、当を得ないものであり、採用することができない。
エ.小括
以上のとおり、本件の訂正事項1ないし16に係る各訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するか否かについて
上記(1)ア.ないしカ.でそれぞれ説示したとおり、上記訂正事項1ないし15は、いずれも訂正前の請求項1、2、4ないし28に記載されている事項により特定される発明の範囲をそれぞれ実質的に減縮するものであるか、明瞭でない記載を単に明瞭化したものであって、上記(2)ア.及びイ.で説示したとおり、何ら新しい技術的事項を導入しないものといえるのであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないといえる。
そして、上記(1)キ.で説示したとおり、上記訂正事項16は、明瞭でない訂正前の請求項21の記載を単に明瞭化しただけものであり、また、上記(2)ウ.で説示したとおり、何ら新しい技術的事項を導入しないものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
してみると、上記訂正事項1ないし16に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるといえないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
3.訂正に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の各規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。
第3 本件特許に係る発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められることとなったので、本件特許の請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27にそれぞれ記載された事項で特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
環境汚染物質を含有する、食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油中の環境汚染物質の量を低減させるための方法であって:
該環境汚染物質が臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選択され、
- 揮発性作業流体を外部から該海産油に添加する過程であって、該揮発性作業流体が、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドおよび遊離脂肪酸旦うちの少なくとも1つを含む過程;
および
- 該海産油が添加された該揮発性作業流体とともに少なくとも1回のストリッピング処理過程に付される過程であって、該ストリッピング処理過程が150~270℃の間の温度で実行され、食用であるかまたは化粧品中に用いるための該海産油中に存在するある量の環境汚染物質が、該揮発性作業流体と一緒に該海産油から分離される過程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記揮発性作業流体が、前記海産油から分離されるべき環境汚染物質と揮発性が本質的に等しいかまたはより少なく、環境汚染物質が臭素化難燃剤である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、および遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つが、植物、微生物、および動物性脂肪または油のうちの少なくとも1つから得られ、前記環境汚染物質が2,2’,4,4’-テトラブロモジフェニルエーテル(BDE47)、2,2’,4,4’,5-ペンタブロモジフェニルエーテル(BDE99)および2,2’,4,4’,6-ペンタブロモジフェニルエーテル(BDE100)からなる群より選択される臭素化難燃剤である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記動物性脂肪または油が、魚油および/または海洋哺乳類から得られる油であり、前記環境汚染物質がBDE47である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記揮発性作業流体が、C10~C22脂肪酸およびC1~C4アルコールから構成される少なくとも1つの脂肪酸エステル、あるいは各々C10~C22脂肪酸およびC1~C4アルコールから構成される2つ以上の脂肪酸エステルの組合せを含み、前記環境汚染物質が臭素化難燃剤である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記海産油が、魚または海洋哺乳類から得られ、トリグリセリドの形態の少なくとも飽和および不飽和脂肪酸を含有し、前記環境汚染物質が臭素化難燃剤である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油)の比が1:100~15:100であり、前記環境汚染物質が臭素化難燃剤である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油)の比が3:100~8:100であり、前記環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記ストリッピング処理過程が、150~200℃の間の温度で実行され、前記環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記ストリッピング処理過程が、150~200℃の間の温度で実行され、前記環境汚染物質がデカクロロビフェニルである、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記ストリッピング処理過程が、1mbarより低い圧力で実行され、前記環境汚染物質がBDE47である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの前記ストリッピング処理過程が、薄膜蒸発法、分子蒸留、またはショートパス蒸留、あるいはこれらの任意の組合せのうちの1つであり、前記環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの前記薄膜蒸発法が、10~300kg/h・m2の間の海産油流速で実行され、前記海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油中の、環境汚染物質の量を低減させるための方法における、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸、およびこれらのいずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種を含んでいる揮発性環境汚染物質低減作業流体の使用であって、該海産油は環境汚染物質を含有し、該環境汚染物質は臭素化難燃剤であって、該方法において、該揮発性環境汚染物質低減作業流体が外部から該海産油に添加され、次に、該海産油が少なくとも1つのストリッピング処理過程に付され、該ストリッピング処理過程が150~270℃の間の温度で実行され、そして食用であるかまたは化粧品中に用いるための該海産油中に存在する環境汚染物質の量が、該揮発性環境汚染物質低減作業流体と一緒に該海産油から分離される使用。
【請求項20】
前記ストリッピング処理過程が、薄膜蒸発法、分子蒸留またはショートパス蒸留、あるいはこれらの任意の組合せであり、前記海産油がトリグリセリド形態の脂肪酸であり、前記環境汚染物質がBDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤である、請求項19記載の使用。
【請求項21】
前記揮発性環境汚染物質低減作業流体が、エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法からの副産物であって、該エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法においては、食用もしくは非食用の魚油が、エチル化および/またはメチル化工程そして二段階分子蒸留に付されて、一次分子蒸留工程からの揮発性画分が二次分子蒸留工程でもう一度蒸留され、該副産物は該二次分子蒸留工程からの揮発性画分である、請求項19もしくは20記載の使用。
【請求項22】
請求項1記載の方法に従って調製される海産油製品。
【請求項23】
前記海産油製品が医薬品である、請求項22記載の海産油製品。
【請求項24】
前記海産油製品が健康サプリメントである、請求項22記載の海産油製品
【請求項25】
前記海産油製品が動物飼料製品である、請求項22記載の海産油製品。
【請求項26】
前記動物飼料製品が魚飼料製品である、請求項25記載の海産油製品。
【請求項27】
前記海産油製品が化粧品である、請求項22記載の海産油製品。」
(以下、項番に従い「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明27」といい、併せて「本件訂正発明」ということがある。)
第4 請求人の主張
請求人は、「特許第3905538号発明の特許請求の範囲の請求項1、2及び4ないし28に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めるところ、その具体的な無効理由は、本件訂正を踏まえると以下の(1)及び(2)のとおりに整理することができる。
(1)本件特許に係る出願は、特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であり、特許法第36条第6項第1号又は第2号の規定に適合せず、同法同条同項に規定する要件を満たしているものではないか、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしているものではないから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、同出願に係る本件特許は、無効とすべきものである。(以下「無効理由1」という。)
(2)本件特許に係る請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に記載された各発明は、いずれも下記ア.ないしオ.のいずれかの理由によって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではないから、請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に記載された各発明についての本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
ア.本件特許に係る請求項1、2、4ないし6、9、14、16、17、19、20及び22に記載された各発明は、いずれも甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
イ.本件特許に係る請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に記載された各発明は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
ウ.本件特許に係る請求項1、2、9、12、17、19、20及び22に記載された各発明は、いずれも甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
エ.本件特許に係る請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に記載された各発明は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
オ.本件特許に係る請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に記載された各発明は、いずれも甲3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(以下、上記ア.ないしオ.で指摘した理由に基づく無効理由を、それぞれ「無効理由2」ないし「無効理由6」という。)
・請求人提示の証拠方法:
<審判請求時>
甲第1号証:特表平9-510091号公報
甲第2号証:V.F.Stout et al.,“Chapter 4 Fractionation of Fish Oils and Their Fatty Acids”(”Fish Oils In Nutrition”(Ed.M.E.Stansby,Van Nostrand Reinhold,1990),p.73,78,79,87,88)(部分訳添付)
甲第3号証:米国特許第3,082,228号明細書(部分訳添付)
甲第4号証:米国特許第2,146,894号明細書(部分訳添付)
甲第5号証:特開昭60-23493号公報
甲第6号証:V.Young,“Processing of oils and fats”,Chemistry and Industry,Vol.16,p.692-703(1978)(部分訳添付)
甲第7号証:J.Cvengros,“Physical Refining of Edible Oils”,JAOCS,Vol.72,No.10,(1995)p.1193-1196(部分訳添付)
甲第8号証:平成25年6月24日付け「試験報告書-1」(日本水産株式会社中央研究所 土居崎信滋作成)
甲第9号証:平成25年6月24日付け「試験報告書-2」(日本水産株式会社中央研究所 土居崎信滋作成)
甲第10号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 7 縮刷版」(1964年)513頁、「ひましゆ」の項
甲第11号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 9 縮刷版」(1964年)596頁、「リシニン」の項
甲第12号証:特許第2549839号公報
甲第13号証:松沢貞夫、「有害多環芳香族炭化水素(PAH)の環境挙動と運命」(NIREニュース、2000年11号)
甲第14号証:長浜邦雄監修「普及版 高純度化技術 第2巻 分離技術」(フジ・テクノシステムズ、2001年)238-245頁
甲第15号証:鹿山光編「AA,EPA,DHA-高度不飽和脂肪酸」(恒星社厚生閣,1995年)1-3頁、213頁及び221-222頁
甲第16号証:特許第3231075号公報
甲第17号証:特開平10-330781号公報
甲第18号証:特開平10-195023号公報
甲第19号証:特許第2872986号公報
甲第20号証:特許第2721890号公報
甲第21号証:Anthony P.Bimbo,“Chapter 7 Processing of Fish Oils”(“Fish Oils In Nutrition”(Ed.M.E.Stansby,Van Nostrand Reinhold,1990)p.181-185,194-195,218-225)(部分訳添付)
甲第22号証:Anthony P.Bimbo,INFORM,Vol.9,No.5,(1998)p.473-483(部分訳添付)
甲第23号証:K.J.エアトウェーク、「分子蒸留と短行路蒸留」ケミカル・エンジニヤリング 1984年4月号 50-55頁
甲第24号証:化学大辞典(東京化学同人,1989年)1460頁「DDT」の項,2117頁「1,2,3,4,5,6-ヘキサクロロシクロヘキサン」の項,2118頁「ヘキサクロロベンゼン」の項,2244頁「ポリ塩素化ビフェニル」の項及び2473頁「リノール酸」の項
甲第25号証:国際化学物質安全性カード ICSC番号0034「DDT」
(http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss0034c.html)のプリントアウト
甲第26号証:K.Julshamn et al.,“Removal of DDT and its Metabolites from Fish Oils by Molecular Distillation”,Fiskeridirektoratets Skrifter Serie Teknologiske Undersokelser,Vol.5,No.15,(1973)p.2-11(部分訳添付)
甲第27号証:環境省環境管理局総務課ダイオキシン対策室「ダイオキシン類」(2001年)1-3頁及び8頁
甲第28号証:The Merck Index,12nd Ed.(1996)p.369「Cholesterol」,p.1094-1095「Naphthalene」,p.l304「Polychlorinated Biphenyls」,p.l620「β-Tocopherol」,p.1712「Vitamin E」(部分訳添付)
甲第29号証の1:E.M.Brevik et al.,“Levels of Polychlorinated Dibenzofarans and Dibenzo-p-Dioxins in Crude and Processed Fish Oils in Relation to Origin and Cleaning Method”,Organohalogen Compounds,Vol.1(1990)p.467-470(部分訳添付)
甲第29号証の2:“Organohalogen Compounds”誌のデータベースの検索結果
甲第30号証:WHO/ICP Environmental Health Criteria 162(訳文添付)
(http://www.inchem.org/documents/ehc/ehc/ehcl62.htm)のプリントアウト
甲第31号証:J.O’G.Tatton et al.,“Organochlorine Pesticides in Antarctica”,Nature,Vol.215,(1967)p.346-348(部分訳添付)
甲第32号証:A.V.Holden et al.,“Organochlorine Pesticides in Seals and Porpoises”,Nature,Vol.216,(1967)p.l274-1276(部分訳添付)
甲第33号証:R.F.Addison et al.,“Removal of Organochlorine Pesticides and Polychlorinated Biphenyls from Marine Oils during Refining and Hydrogenation for Edible Use”,JAOCS,Vol.51,(1974)p.l92-194(部分訳添付)
甲第34号証:C.Rappe et al.,“Overview on Environmental Fate of Chlorinated Dioxins and Dibenzofurans.Sources,Levels and Isomeric Pattern in Various Matrices”,Chemosphere,Vol.16,No.8/9(1987)p.1603-1618(部分訳添付)
甲第35号証:D.Santillo et al.,“The presence of brominated flame retardants and organotin compounds in dusts collected from Parliament buildings from eight countries”(Greenpeace Research Laboratories,2001)p.2-4(部分訳添付)
甲第36号証:M.Alaee et al.,“The significance of brominated flame retardants in the environment:current understanding,issues and challenges”,Chemosphere,Vol.46,(2002)p.579-582(部分訳添付)
甲第37号証:P.W.Atkins著,千原秀昭ら訳,「物理化学(上)」(第2版,東京化学同人、1984年)269頁
甲第38号証:岡島光洋著,「化学の基本ノート」(中経出版,2003年)243-255頁
甲第39号証:H.Breivik et al.,“Preparation of Highly Purified Concentrates of Eicosapentaenoic Acid and Docosahexaenoic Acid”,JAOCS,Vol.74,No.11,(1997)p.1425-1429(部分訳添付)
甲第40号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 2 縮刷版」(1963年)205頁「オレイン」の項
甲第41号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 7 縮刷版」(1964年)206頁「トリパルミチン」の項
甲第42号証:C.M.Garcia Santander et al.,“Measurements of normal boiling points of fatty acid ethyl esters and triacylglycerols by thermogravimetric analysis”,Fuel,Vol.92,(2012)p.158-161(部分訳添付)
甲第43号証:日本油化学会編「第四版 油化学便覧-脂質・界面活性剤-」(丸善,2001年)196頁,198頁
甲第44号証:特許第3905538号公報
<平成27年1月22日付け意見書提出時>
甲第45号証:環境省環境管理局総務課ダイオキシン対策室編「ダイオキシン類挙動モデルハンドブック」平成16年3月、67~68頁
甲第46号証:OECD(経済開発協力機構)編“OECD ENVIRONMENT MONOGRAPH SERIES NO.102 RISK REDUCTION MONOGRAPH No.3:SELECTED BROMINATED FLAME RETARDANTS BACKGROUND AND NATIONAL EXPERIENCE WITH REDUCING RISK”1995年、16頁、17頁、31頁、33頁、42頁、129頁(部分訳添付)
甲第47号証:J.Peltola et al.,“Pentabromodiphenyl ether as a global POP”、2001年、NORDIC COUNCIL OF MINISTERS、14頁、18頁、21~25頁、31頁、46~47頁(部分訳添付)
甲第48号証:大木道則ら編「化学大辞典」2001年(第1版第6刷)、株式会社東京化学同人発行、1711頁
(以下、「甲1号証」を「甲1」などと略していう。)
なお、第1回口頭審理において、被請求人は甲1ないし甲44の成立を認めている。
第5 被請求人の主張
被請求人は、「訂正の請求を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める」との趣旨の答弁をし、以降、下記の証拠方法を提示の上、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をしている。
・被請求人提示の証拠方法
<答弁書提出時>
乙第1号証:「大辞泉」(増補・新装版)、1998年、小学館、590頁(「環境汚染」の項)
<口頭審理陳述要領書(被請求人)提出時>
乙第2号証:「和英・英和 国際総合環境用語集」、2004年、日刊工業新聞社、284頁(「毒性等量」の項)
乙第3号証:“ALASKAN SALMON AND WHITEFISH OIL MARKETING PROJECT 1989”(Nutrifish Corporation,1989)(部分訳添付)
<平成26年12月16日付け上申書提出時>
乙第4号証:S.Sondbφら作成の実験成績証明書(2012年9月3日作成)(全文訳添付)
(以下、「乙第1号証」などを、「乙1」などと略していうことがある。)
なお、第1回口頭審理において、請求人は乙1ないし乙3の成立を認めている。
第6 当審の判断
当審は、
請求人が主張する無効理由1については認容できないものの、同無効理由2及び3については是認できるものであるから、無効理由4ないし6について判断をするまでもなく、訂正後の請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に係る発明についての特許は、いずれも無効とすべきもの、
と判断するとともに、
本件訂正により削除された訂正前の請求項7、8、10、11及び28に係る発明についての特許に対する本件審判請求は、不適法なものとして却下すべきもの、と判断する。
以下、その理由につき各無効理由ごとに詳述する。
I.無効理由1について
1.無効理由1の詳細について
無効理由1につき具体化すると、その理由は、本件審判請求書の記載からみて、以下の(1)ないし(3)のとおりであるものと認められる。
(1)特許法36条6項2号(いわゆるクレームの明確性要件)について
請求人は、請求項1及び19における「環境汚染物質」及び「「揮発性」(環境汚染物質低減)作業流体」が明確ではなく、また、請求項2における「揮発性が本質的に等しいかまたは少ない」が「多少(やや)揮発性が高い場合」も含み明確でないことから、請求項1及び19並びに同各項を引用する請求項2、4ないし9、12ないし18及び20ないし28の記載では、特許を受けようとする発明が明確でない旨主張している。
(なお、上記訂正により「毒性成分」については削除されたのでこの検討からは除外する。)
(2)特許法36条4項1号(いわゆる実施可能要件)について
請求人は、(a)上記(1)のとおり、請求項1及び19における「環境汚染物質」及び「「揮発性」(環境汚染物質低減)作業流体」が明確ではなく、また、請求項2における「揮発性が本質的に等しいかまたは少ない」が「多少(やや)揮発性が高い場合」も含み明確でないことから、特許請求の範囲の外延が明らかでなく、その結果、特許請求の範囲の全ての構成について、当業者が実施することができないこと及び(b)ストリッピングでは分離できない「環境汚染物質」が存在し、特許請求の範囲が原理的に実施不可能な領域を含んでおり、当業者が実施することができないことを主張している。
(3)特許法36条6項1号(いわゆる明細書のサポート要件)について
請求人は、本件の特許請求の範囲の記載は、上記(2)(b)のとおりの課題が解決できない範囲及び「揮発性作業流体」を使用しなくとも環境汚染物質がストリッピングで分離できる課題の存在しない範囲に及ぶから、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。
なお、請求項11の記載不備に係る無効理由については、上記訂正により請求項11が削除されたことから、無効理由から除外する。
また、請求項21に係る発明の不明確性に係る無効理由については、請求人は、訂正の適否について争うのみで、(上記本件訂正に係る)訂正後の請求項21についての不明確性を争っていない。そして、先に判断したとおり、請求項21(訂正事項2)は適法に訂正されて明瞭になったものと認められるから、請求項21の不明確性に係る無効理由については成り立たない。
2.検討
無効理由1に係る上記(1)ないし(3)の各具体的理由につきそれぞれ検討する。
(1)理由(1)について
上記理由(1)につき検討すると、「環境汚染物質」及び「揮発性(環境汚染物質低減)作業流体」なる用語自体は、いずれも、技術常識からみて、極めて広範な種類の物質又は流体を意味することが当業者に自明であり、一見、明確でない用語であるとも見える。
(例えば、魚油自体も、環境に放出された場合、悪臭などの発生源として「環境汚染物質」に相当するものと認められる。)
しかるに、本件特許明細書の用語の定義に係る記載を参酌すると、「環境汚染物質」は、「毒性成分および/または殺虫剤、例えばポリ塩素化ビフェニル(PCB)、DDTおよびその代謝産物、海洋環境中に見出され、潜在的に有害であるかおよび/または有毒であると同定された有機化合物;ポリ塩素化トリフェニル(PCT)、ジベンゾ-ダイオキシン(PCDD)およびジベンゾ-フラン(PCDF)、クロロフェノールおよびヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)、トキサフェン、ダイオキシン、臭素化難燃剤、ポリ芳香族炭化水素(PAH)、有機スズ化合物(例えばトリブチルスズ、トリフェニルスズ)ならびに有機水銀化合物(例えばメチル水銀)」を意味するものと限定的に解釈すべきもの(【0056】)と認められる。
また、「揮発性(環境汚染物質低減)作業流体」につき本件特許明細書の用語の定義に係る記載を参酌すると、当該「作業流体」は、「C10~C22脂肪酸およびC1~C4アルコールから構成されるエステル、C10~C22脂肪酸およびC1~C4アミンから構成されるアミド、C10~C22遊離脂肪酸の少なくとも1つを含む、適切な揮発性を有する溶媒、溶媒混合物、組成物および画分、例えば蒸留工程からの画分を含むもの」(【0059】)のうち、「作業流体の揮発性が該環境汚染物質の揮発性と同一であるかより低い場合」であって「該揮発性作業流体が該環境汚染物質より多少(やや)揮発性が高い場合も含む」のである(【0060】)から、「作業流体の揮発性が該環境汚染物質の揮発性と(略)同一以下であるもの」と限定的に解釈すべきものと認められる。
(なお、上記「作業流体」につき「鉱油、炭化水素およびバイオディーゼル」のいずれかを使用する場合は、上記訂正により除外されたものと認められる。)
さらに、「環境汚染物質」及び「揮発性(環境汚染物質低減)作業流体」につき本件特許明細書の実施例に係る記載(【0081】~【0115】)を検討しても、除去・低減化されるべき「環境汚染物質」は、上記限定的に解釈した範囲のもののみであり、「揮発性(環境汚染物質低減)作業流体」も、上記「C10~C22脂肪酸」のエチルエステルであるものと認められる。
してみると、本件特許に係る請求項1及び19に記載された「環境汚染物質」及び「揮発性(環境汚染物質低減)作業流体」なる用語は、上記のとおり、ある一定程度の限定的な技術事項を意味するものであるから、同各項に記載された事項で特定される発明が明確でないとまでいうことはできない。
したがって、本件特許に係る請求項1及び19の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないということはできない。
(2)理由(2)について
上記理由(2)につき検討すると、上記(1)で説示したとおり、用語につき明確でないとすることはできないから、本件特許に係る請求項1及び19の記載により発明の外延が明確でないとすることはできない。
また、本件特許明細書の実施例1に係る記載(【0085】~【0087】)からみて、作業流体の使用の有無により、その改善の程度はさておき、デカクロロビフェニルなる環境汚染物質の残留量が改善(低減化)されていることが明らかであるから、本件特許に係る請求項1に記載された環境汚染物質の低減化を解決課題とする方法発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまでいうことができない。
なお、請求人は、本件審判請求書(84頁)において、ストリッピングでは分離できない「環境汚染物質」が存在し、本件の特許請求の範囲は、原理的に実施不可能な領域に及んでいるとして、実施可能性要件違反である旨主張しているが、ストリッピングによる分離過程を発明特定事項として含む本件特許に係る請求項1の方法発明において、ストリッピングでは分離できないような極めて低い揮発性を有することが当業者に自明な「環境汚染物質」につきストリッピングでは分離できないことも当業者に原理的に自明なのであるから、当該「環境汚染物質」の場合は、本件特許に係る請求項1の方法発明から当業者にとって当然に除外され、その余の「環境汚染物質」において本件特許明細書は、当業者が当該発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまでいうことができない。よって、請求人の上記主張は、当を得ないものであり採用することができない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許に係る請求項記載の発明について、当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまでいうことができない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものではないとすることができない。
(3)理由(3)について
上記理由(3)につき検討すると、上記(1)でそれぞれ説示したとおり、本件特許において、「環境汚染物質」及び「揮発性(環境汚染物質低減)作業流体」なる用語は、上記のとおり、ある一定程度の限定的な技術事項を意味するものであり、また、上記(2)で説示したとおり、ストリッピングでは分離できないような極めて低い揮発性を有することが当業者に自明な「環境汚染物質」の場合は、本件特許に係る請求項1の方法発明から当業者にとって当然に除外されるものであるから、本件特許に係る請求項についてのサポート要件に関する適否を検討するにあたっては、上記前提に基づき検討すべきものである。
そこで、本件特許明細書の実施例1に係る記載(【0085】~【0087】)からみて、作業流体を使用した場合、作業流体を使用しない場合に比して、デカクロロビフェニルなる環境汚染物質の残留量がさらに低減化されていることが明らかであるから、本件特許に係る請求項に記載された発明につき環境汚染物質の残留量がさらに低減化されるという効果を奏するであろうことは、当業者が認識することができるものと認められる。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件特許に係る請求項に記載された発明につき、環境汚染物質の低減化なる解決すべき課題を解決できるであろうと認識することができるものと認められる。
したがって、本件特許に係る請求項に記載された発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないということはできず、本件特許に係る請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないということはできない。
3.無効理由1のまとめ
以上のとおり、無効理由1に係る上記(1)ないし(3)の各理由は、いずれも妥当ではなく、無効理由1は採用することはできない。
II.無効理由2及び3について
1.各甲号証に記載された事項
請求人が提示した各甲号証のうち、主な甲号証には以下の事項が記載されている。
(1)甲1
甲1には、以下の(a-1)ないし(a-5)の事項が記載されている。
(a-1)
「22.トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のための方法であって、次の工程:
(a)該油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、反応中に存在するC1~C6アルコールの量が、存在するトリグリセリドに基づいて15モル当量を超えない量であるC1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供する工程;そしてその後で、
(b)工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み、かつ環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程;
を含むことを特徴とする、方法。」
(5頁、【特許請求の範囲】の第22項)
(a-2)
「広く知られているように、EPAおよびDHAは特に医薬産業および食品添加物産業においてその価値が上昇している。これらの酸はある種の海産油(marine oil)中に比較的高濃度で見出されるが、種々の目的のためには、これらの海産油を精製することにより、適切なレベルまでEPAおよび/またはDHAの含有量を増加させるか、あるいは原料油中に生来的に現出するある種の他の物質の濃度を減少させるか、さらにはその物質を排除することが必要である。例えば医薬および食品に用いることを目的とする場合には、人口密集地域からかなり離れた海洋域において捕獲された魚から得られたものであってさえも海産油中に広く現出する殺虫剤残渣を、実質的に完全に排除する必要がある。・・(中略)・・
多くの環境汚染物質(例:殺虫剤および多塩素化ビフェニル)の親油性特質は、これらの化合物の海産脂質中への集積という結果を生む。不運にも、尿素はそのような汚染物質の多くとは錯体を形成せず、その結果、尿素錯化反応により得られる濃縮物は、元の海産油に比べて上昇した、多くの目的には許容され得ないほど高いレベルの殺虫剤およびその他の環境汚染物を含有する。従って、人間が消費するための精製魚油を製造するための、尿素錯化反応に基づく現行の精製方法は、複雑で高価な精製手順を包含して汚染物質レベルを許容され得る値まで減少させる必要がある。
本発明は、油組成物の多不飽和脂肪酸含量を増加させるための改良された方法、特にEPAおよび/またはDHAを増加した収率で魚油から回収するための産業的方法に適合した方法を提供することを目的とする。」(6頁23行~8頁24行)
(a-3)
「上記のズイとワードの方法は科学的には興味深いものであるが、不運にも、この方法は精製EPA/DHA組成物を工業的に調製するための改良された方法を提供していない。特に、リパーゼにより触媒された生成物中に大量の遊離脂肪酸が不可分に存在することが、その後に所望のn-3多不飽和脂肪酸を精製することを困難にしている。例えば、低い揮発性のために、従来の分子蒸留技法では遊離脂肪酸をグリセリドと分離することができない。さらに、エステルおよび遊離脂肪酸は実質的に異なる極性を有し、そしてモノ-およびジ-グリセリドはその中間的な極性であるので、抽出法では、これらをグリセリドと分離することができない。下記に示すとおり、これとは対照的に有利に、本発明は分子蒸留を用いて、多不飽和脂肪酸グリセリドを飽和および単不飽和脂肪酸エステルと分離するのみならず、同時に、所望の多不飽和脂肪酸グリセリド画分から殺虫剤および多塩素化ビフェニル等の環境汚染物質の除去をも行うことができる。」(11頁17行~28行)
(a-4)
「グリセリド画分からのエチルエステル画分の分離は分子蒸留技法により適切に実施されるが、該技法において、相対的に揮発性のエチルエステルが揮発性に劣る残余グリセリド混合物から容易に除去されることができる。エステル交換反応の生成物は実質的に無水である反応条件の使用の結果として、遊離脂肪酸を少量だけ含有しているので、分子蒸留後には、所望でない飽和および単飽和脂肪酸を実質的に有しない残余画分が得られる。分子蒸留工程は少量の最も揮発性なモノグリセリドを蒸留物中に出現させるという結果を生むことがあるが、これらのモノグリセリドは主として比較的短鎖の脂肪酸のモノグリセリドである(即ち、EPAまたはDHAは蒸留物中に僅かしか失われないか、または全く失われない)。同様に、少量の低揮発性のエステル画分、即ち主としてEPAおよびDHA等の長鎖脂肪酸のエステルが、残余グリセリド混合物と共に残り得る。従って、所望の多不飽和脂肪酸の比較的量の少ない一部がエステル交換にあずかるが、それにもかかわらず、蒸留後の残余画分中に残る。これらのことから、分子蒸留は難しい分離に適しているとは一般的に見なされていないにもかかわらず、本発明の方法においては驚くほど有利であることが証明された。
殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質は長鎖脂肪酸のグリセリドよりも揮発性であるので、分子蒸留はこれらの化合物をグリセリド画分から除去し、そしてこれらの化合物は蒸留物(エステル画分)中に濃縮される。これが、本発明の方法における分子蒸留の使用のさらに別の利点である。
実際、ある特定の態様において、本発明は、トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のための方法であって、次の工程:
(a)該油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、反応中に存在するC1~C6アルコールの量が、存在するトリグリセリドに基づいて15モル当量を超えない量であるC1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供する工程;そしてその後で、
(b)工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み、かつ環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程;
を含む方法を提供する。
本発明の方法は、EPAおよびDHAを40重量%を越え、好ましくは70重量%を越える高濃度で含有する組成物の海産供給源からの調製に特に適合している。
リパーゼで触媒されるエステル交換の生成物は所望でない飽和および単不飽和脂肪酸を遊離酸としてよりはむしろ主としてそれらのエチルエステル(エチルアルコールが使用された場合)の形態で含有する(多不飽和脂肪酸は実質的にグリセリドとして残る)ので、飽和脂肪酸画分は、所望の多不飽和脂肪酸成分の比較的少ない損失を伴う比較的穏やかな分子蒸留により除去され得る。同時に、殺虫剤およびPCB類等の比較的揮発性の環境汚染物質が、上記で論じたように、エチルエステル画分と共に除去される。EPA/DHA濃縮物を製造するための従来法と比較すると、本発明は、特にその好ましい態様において、下記のような重要な利点をもたらす。即ち、
(i)溶媒の不存在が嵩高性の非常な減少をもたらし、この効果は化学量論濃度のアルコールだけを使用し得ることにより強調され;
(ii)エステル交換反応が、例えば室温のような穏やかな条件下に実施され得るので、副反応を最小限にし、そして高エネルギーの入力を必要とせず;
(iii)EPAおよびDHAの回収が非常に高く、そして回収された生成物は環境汚染物質による汚染を本質的に被っておらず;そして
(iv)用いられる実質的に無水である反応条件は最小限の加水分解をもたらしそれにより、エステル交換反応からのグリセリド画分の分子蒸留が、所望でない飽和および単不飽和脂肪酸からの所望の多不飽和脂肪酸の良好な分離を与える。
従って、本発明のアルコーリシス法は、EPA+DHA濃縮物の製造のための統合(integral)製造方法における最初の段階となり得る。そのような統合方法において、飽和脂肪酸エチルエステル画分の多不飽和脂肪酸グリセリド画分からの分離を実施するための分子蒸留またはその他の技法の後、所望の多不飽和脂肪酸を含有する後者の画分はさらに、存在する特定の酸の濃度を上昇させるために処理されることができる。例えば、高度に濃縮されたEPAおよびDHAを含有するエチルエステル組成物を得ることが所望であれば、分子蒸留後に得られるグリセリド画分は、例えば、触媒量のナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシド等の存在下に無水エタノールを用いた化学的エステル交換によりエステル化されることができる。・・(中略)・・
次いで、製造されたグリセロールが公知の技法を用いて除去され得る。典型的には、これは、従来法に比べて非常に良好な多不飽和脂肪酸の回収による、約45~50重量%のEPA+DHA含量をもたらす。」(16頁4行~18頁15行)
(a-5)
「実施例 2
本研究は、大規模な試行において2種類のシュードモナス属(Pseudomons)のリパーゼを試験するために計画した。
実施例 2a-PSL
シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)のリパーゼ(100g、25200活性単位/g)を魚油(1000g、約1.13モル)と無水エタノール(170g、3.70モル)の混合物に添加した。得られた酵素懸濁液を窒素雰囲気下に室温で磁力攪拌器で穏やかに攪拌した。反応混合液の含水量を約0.3~0.4重量%であると計算した。
25時間後、実施例1に記載の手順に従い試料を取り出し、分析した。反応はさらに24時間続行させた。反応混合液とリパーゼとを分離するため(5000rpmで10分間の)遠心を採用した。
50時間後に反応を停止した時点で、生成物は下記の組成を有していた:
(表IV)
生成物の一部(902.4g)を真空下に80℃で脱気して揮発性成分を除去した。揮発性成分を液体窒素で冷却したコールドトラップ内に収集した。脱気後、844.1gのグリセリド/エチル/エステル混合物が残った。この混合物を756.3g取り、125℃、0.005ミリバール(0.05パスカル)にて分子蒸留用蒸留器内で蒸留した。これにより358.6g(47.4%)の蒸留物と388.3g(51.3%)の重さの残物を得た。それぞれの画分は下記の組成を有していた。
(表V)
上記表Vは、残物が47.3%のEPA+DHAを含有していること、即ち分子蒸留前よりも高濃度にこれら所望のn-3多不飽和脂肪酸を含有していることを示している(表IV参照)。これは、さらなる濃縮のためには、公知技法を用いること、即ち分子蒸留の後に尿素画分法を用いることが理想的であることを意味している。
蒸留物がかなりの量のモノグリセリド(10.6%)を含有している一方、残物は2.3%のエチルエーテル(審決注:「エチルエステル」の誤記であるものと認められる。)を含有していることに着目すべきである。既に論じたように、これらはそれぞれ、比較的単鎖の脂肪酸由来のモノグリセリドと長鎖脂肪酸由来のエチルエステルがほとんどであろう。
実施例 2b
実施例2aで用いたと同じ油を1kg用意し、これをPFL酵素を用いてエタノールによりエステル交換した。反応は48時間後に停止させた。中間生成物の組成を下記表VIに示す。
(表VI)
中間生成物を脱気し、実施例2aと同様の条件下に分子蒸留した。その結果を下記に表として示す。
(表)
実施例 3
実施例2のそれと類似の3つのパイロットプラント試行から得られた生成物を分析して環境汚染物質のレベルを測定した。その結果を下記表VIIに示す:
(表VII)
上記の結果は、汚染物質がエチルエステル画分内に濃縮されることを示している。幾つかの殺虫剤については、出発材料中のレベルが明らかに適用した分析法の検出限界を僅かに下回っていた。これが、本発明者らがこれらの殺虫剤をエチルエステル画分内では検出したが、元の魚油内では検出しなかったことの原因である。奇妙なことに、DDTのレベルは、元の油と比較してエチルエステル画分中で上昇しているようには見えない。本発明者らはエチルエステルとグリセリドを(分子蒸留により)分離する前に、穏やかな分子蒸留工程を実施して反応混合物中の未反応エタノールを除去した。明らかにこのエタノール除去がDDTの一部を除去するに充分であった。回収したエタノールの分析(PSLの実施例)は0.03mg/kgの総DDT量を示したが、一方その他の殺虫剤は検出されなかった。」(30頁25行~34頁7行)
(2)甲2(摘示は、請求人提示の訳文による。)
甲2には、以下の(b-1)及び(b-2)の事項が記載されている。
(b-1)
「魚油は、主に、トリアシルグリセロール(一般にトリグリセリドと呼ばれる。)からなる。」(73頁「イントロダクション」の3~4行)
(b-2)
「3.共蒸留物によるサケ頭油からのコレステロールの除去
注入物に添加されたリノール酸が、19L遠心蒸留器での加工の間のコレステロールの除去を容易にした(ゴーグリッツ及びハンター、ノースウェスト・フイツシャーズ・センター、未公表のデータ)。分子蒸留によってサケ頭油からコレステロールを除去するにあたって実際的な問題の一つは、油が多くのコレステロールを含有するため、凝縮器で固化し、フィードラインを詰まらせることである。コレステロールと共に蒸留しコレステロールを溶解する液体を添加することにより、運転上の問題が減少する。リノール酸は、食品グレードの製造に適した純度で容易に入手できるため、選択された。このようにして、約19Lの粗サケ頭油に200mlのリノール酸を添加することにより、コレステロールの含有量は、注入物における4.7mg/gから0.7mg/g未満に減少し、生成物の収率は79%であった。」(88頁13~24行)
(3)甲3(摘示は請求人提示の訳文による。)
甲3には、以下の(c-1)ないし(c-7)の各事項が記載されている。
(c-1)
「1.少なくとも炭素数20の多不飽和脂肪酸のモノエステルを少なくとも60%含む製品の製造方法であって、低級アルキルエステルからなる群から選択されるモノエステルと、実質的に非共役の脂肪酸のモノグリセリドとから本質的になる混合物を、100℃未満の温度で、少なくとも1mmHgまでの真空下で、ショートパス分子蒸留器での蒸留に付し、少なくとも炭素数20の多飽和酸のモノエステルの該分画を製造する工程を含む方法。
2.エステルがメチルエステルである、請求項1の方法。
3.エステルがエチルエステルである、請求項1の方法。
・・(中略)・・
6.グリセリド油が、対応するモノエステルへのエステル交換の前に、少量の揮発性不活性有機液体を用いた蒸留によって脱臭される、請求項1の方法。」(10欄2~27行「クレーム」)
(c-2)
「製品が、魚油などの様々なソースから簡単にそして安価に製造できること、そして、これらの製品が、高い効能を有するだけでなく、残存臭気に乏しいことも、本発明の効果である。」(3欄38~41行)
(c-3)
「トリグリセリドの蒸気圧は低すぎ、1つの分子内で酸部分は均一ではないため、トリグリセリド自体を扱うことは、非常に実際的というわけではない。そこで、分子間エステル交換(interesterification)又はエステル交換(transesterification)のプロセスにより、低級アルカノールのモノグリセリド又はエステルを製造することが第一に望ましい。」(4欄28~33行)
(c-4)
「本発明は、その幅広い観点において、特定の出発物質に限定されるものではないが、脱臭された又は部分的に脱臭された天然油から出発することが有益である。改善された脱臭方法は、本発明の好ましい修正の一部に含まれる。今まで、天然油(例えば魚油)の脱臭は、蒸気によるストリッピングを長くすることによって達成されてきた。私は、揮発性の低いいくつかの物質の少量とともに油をストリッピングすることにより、これらの油が脱臭され得ることを見出した。私は、油に添加された揮発性の炭化水素5%とともに蒸留することにより、魚油を脱臭した。同じ脱臭効果は、より少量(2%)の単純エステルを用いた油のストリッピングでも達成することができた。最も経済的には、私は、高度不飽和エステル(私の製品を構成する。)から分離されたより低分子量のエステルを使用する。しかし、ストリッピング剤は、低蒸気圧のケトン、アルコール若しくはハライド又は他の不活性物質であってもよい。私の天然脂肪の脱臭方法の追加の利点は、存在する可能性のある遊離脂肪酸のほとんど全てが除去されることであり、脂肪の熱履歴が最小化されることである。後者の効果は、不飽和脂肪酸油の構造の保全にとって非常に重要である。」(5欄46~68行)
(c-5)
「実施例1
コールドプレスされたメンハーデン油1200部の試料が、無水メタノール1200部(溶解した水酸化カリウム4部を含有する。)と混合された。混合物は、1.5時間、撹拌され、還流下で沸騰された。・・(中略)・・
これらの粗メチルエステルは、促進されたフイルムタイプのショートパス、連続型、高真空分子蒸留器(垂直の加熱されたガラスシリンダーからなり、その内側が蒸発表面である。)で蒸留された。・・(中略)・・
以下のダイアグラム1は、分画の蒸留を繰り返すことによる粗エステルの分離を示す。4回の蒸留の後、32%の粗エステルが、300を超えるヨウ素価を有する濃縮物として分離された。・・(後略)」(6欄3行~41行)
(c-6)
「実施例2
メンハーデン油の脂肪酸メチルメステルの粗混合物(前述の実施例1で製造された。)の分子蒸留が、実施例1と同じ条件下で、今回は3回のみの蒸留を用いて、繰り返された。・・(中略)・・ポリエステルカラムでのガスクロマトグラフィーによって分画が分析された場合の各脂肪酸エステルの重量%で脂肪酸の分布が、以下の表1に報告される。
表1
薬理試験の行われたメチルエステル試料の分析
パーセント
ドコサヘキサエン酸エステル---29.6
・・(中略)・・
エイコサペンタエン酸エステル--32.9
・・(後略)」(6欄68行~7欄43行)
(c-7)
「実施例5
2ガロンのC14-C18酸のメチルエステルが、100ガロンのコールドプレスされたメンハーデン油に添加され、混合物が分子蒸留器でストリップされた。この方法により、臭気物及び遊離酸の全てが、蒸留物中に除去された。この方法により、残留物として、772ポンドの清浄で酸フリーの甘い香りのする油が得られ、25ポンドの酸、臭気物及び単純エステルが、蒸留物として回収された。」(8欄16~25行)
2.甲1に記載された発明
甲1には、「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物からの環境汚染物質の除去のための方法であって、次の工程:(a)該油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、反応中に存在するC1~C6アルコールの量が、存在するトリグリセリドに基づいて15モル当量を超えない量であるC1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供する工程;そしてその後で、(b)工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸留に供して多不飽和脂肪酸のグリセリドに富み、かつ環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程;を含むことを特徴とする、方法」が記載されており(上記摘示(a-1)参照)、その「(b)工程」の分子蒸留により「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質は長鎖脂肪酸のグリセリドよりも揮発性であるので、」「これらの化合物をグリセリド画分から除去し、そしてこれらの化合物は蒸留物(エステル画分)中に濃縮される」こと及び「リパーゼで触媒されるエステル交換の生成物は所望でない飽和および単不飽和脂肪酸を遊離酸としてよりはむしろ主としてそれらのエチルエステル(エチルアルコールが使用された場合)の形態で含有する(多不飽和脂肪酸は実質的にグリセリドとして残る)ので、飽和脂肪酸画分は、所望の多不飽和脂肪酸成分の比較的少ない損失を伴う比較的穏やかな分子蒸留により除去され」「同時に、殺虫剤およびPCB類等の比較的揮発性の環境汚染物質が、上記で論じたように、エチルエステル画分と共に除去される」ことも記載されている(上記摘示(a-4)参照)。
また、甲1には、上記方法で処理する油組成物が、海産油、特に魚油などであり、殺虫剤残渣などの環境汚染物質が除去された油組成物につき医薬又は食品用途に使用されることも記載されている(上記摘示(a-2)参照)。
なお、「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物」を「実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、・・C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応」を行った場合、その生成物が、「飽和および単不飽和脂肪酸」と「C1~C6アルコール」との脂肪酸エステルであることは、技術常識に照らして当業者に自明である。
してみると、上記(a-1)~(a-5)の記載からみて、甲1には、
「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの医薬又は食品用の油組成物からの殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質の除去のための方法であって、次の工程:
(a)該油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供し、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する工程;そしてその後で、
(b)工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸留に供して、環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程;
を含むことを特徴とする方法」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)、
「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの医薬又は食品用の油組成物中の殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質を除去するための方法における、該油組成物を飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いたエステル交換反応に供することにより合成された飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルの使用であって、上記油組成物をエステル交換反応に供することにより合成された上記脂肪酸エステルを含む油組成物を分子蒸留に供して当該脂肪酸エステルと共に優先的に当該環境汚染物質を除去する使用(方法)」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)及び
「甲1発明1の方法に従って環境汚染物質が除去された海産油などに由来の医薬又は食品用の油組成物」
に係る発明(以下、「甲1発明3」という。)が記載されているといえる。
3.検討
いずれも甲1を主たる引用例とする上記無効理由2及び3につき併せて、各請求項に係る発明ごとに検討する。
(1)請求項1に係る発明について
ア.対比
(ア)本件訂正発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質」、「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」及び「分子蒸留に供(する)」は、それぞれ、本件訂正発明1における「環境汚染物質」、「脂肪酸エステル」及び「ストリッピング処理過程に付される」に相当することが明らかである。
(イ)また、甲1発明1における「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの・・食品用の油組成物」については、甲1の記載(摘示(a-5)「表IV」及び「表VI」参照)からみて、リパーゼによるエステル交換が行われた後であっても脂肪酸のトリグリセリド(該表中「TG」で表されている。)を含有しているものと理解されることから、当該「海産油などの・・油組成物」は、トリグリセリドの形態の飽和及び不飽和脂肪酸を含有するものであり、そうすると、本件訂正明細書における「油および脂肪という用語は、トリグリセリドおよびリン脂質形態のうちの少なくとも1つでの脂肪酸を意味する。一般に、該ストリッピング工程における出発原料が海産油である場合、該油は魚またはその他の海洋性供給源からの、そしてトリグリセリドの形態で脂肪酸、例えば多価不飽和脂肪酸を含有するそのまままたは部分的に処理された油のいずれかであってもよい」(【0057】)という定義に照らして、本件訂正発明1における「食用である・・海産油」に相当することが明らかである。
(ウ)なお、被請求人は、上記(イ)の点につき、平成26年12月16日付け上申書(13~14頁)において、「相違点3」として「ストリッピング処理工程に付される対象となるのが、第2訂正発明1では、揮発性作業流体を外部から添加された海産油であるのに対し、甲1号証記載の発明では、魚油をエステル交換に付して化学的に変化させた混合物である点」と主張する。
しかるに、「魚油をエステル交換に付して化学的に変化させた混合物」であっても、本願明細書に記載された「油および脂肪という用語」に関する上記定義の、「該ストリッピング工程における出発原料が海産油である場合、該油は魚またはその他の海洋性供給源からの、そしてトリグリセリドの形態で脂肪酸・・を含有する・・部分的に処理された油」に該当するものと解されるから、上記で説示したとおりの理由により、「甲1号証の魚油を化学的に変化させて得られたグリセリドとエチルエステルの混合物」は、本件訂正発明1における「食用である・・海産油」に相当することが明らかである。
したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
(エ)そして、甲1発明1における「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの・・食品用の油組成物中の殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質を除去するための方法」は、環境汚染物質を含有する油組成物から環境汚染物質が除去され、その含有量が低下するのであるから、本件訂正発明1における「環境汚染物質を含有する、食用である・・海産油中の環境汚染物質の量を低減させるための方法」に相当する。
(オ)また、甲1発明1における「工程(a)」の「該油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供し、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する工程」と本件訂正発明1における「揮発性作業流体を・・該海産油に添加する過程であって、該揮発性作業流体が、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドおよび遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む過程」とは、脂肪酸エステルなどの成分を更に含有する油混合物(組成物)を得る過程(工程)である点で一致することは明らかである。
さらに、甲1発明1における「工程(b)」の「工程(a)において得られた生成物を1またはそれ以上の分子蒸留に供して、環境汚染物質が優先的に除去された残余画分を回収する工程」は、結局のところ、「工程(a)」では、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルと他の油組成物の構成成分との組成物を生成しており、「工程(b)」において、優先的に除去される環境汚染物質と共に飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルなどの低沸点成分も留去されていることは当業者に自明であるから、本件訂正発明1における「該海産油が・・該揮発性作業流体とともに少なくとも1回のストリッピング処理過程に付される過程であって、・・食用である・・該海産油中に存在するある量の環境汚染物質が、該揮発性作業流体と一緒に該海産油から分離される過程」に相当するものといえる。
(カ)してみると、本件訂正発明1と甲1発明1とは、
「環境汚染物質を含有する、食用である海産油中の環境汚染物質の量を低減させるための方法であって:
- 海産油中に脂肪酸エステルなどの成分を存在させる過程;および
- 該海産油が存在する脂肪酸エステルなどの成分とともに少なくとも1回のストリッピング処理過程に付される過程であって、食用である該海産油中に存在するある量の環境汚染物質が、該脂肪酸エステルなどの成分と一緒に該海産油から分離される過程
を含む方法」
で一致し、以下の4点でのみ相違している。
相違点1:本件訂正発明1では、「揮発性作業流体が、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドおよび遊離脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む」のに対し、甲1発明1では、「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」である点
相違点2:脂肪酸エステルなどの成分を該海産油中に存在させるための操作が、本件訂正発明1では、「揮発性作業流体を外部から該海産油に添加する」であるのに対して、甲1発明1では、「該油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供し、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」である点
相違点3:「ストリッピング処理過程」を実施する温度範囲につき、本件訂正発明1では、「150~270℃の間の温度」であるのに対して、甲1発明1では、「ストリッピング処理過程」に相当する分子蒸留の温度につき特定されていない点
相違点4:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明1では、「臭素化難燃剤およびPCBからなる群より選択され」るのに対して、甲1発明1では、「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
イ.検討
(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1の記載(上記摘示(a-4)参照)からみて、甲1発明1における「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」は、「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質は長鎖脂肪酸のグリセリドよりも揮発性であるので、分子蒸留はこれらの化合物をグリセリド画分から除去し、そしてこれらの化合物は蒸留物(エステル画分)中に濃縮」させるという作用を及ぼすものであり、この作用は、「作業流体」に要求されるものであることが当業者に自明である。
また、本件訂正明細書(【0040】~【0041】)には、「揮発性作業流体」について、「食用もしくは非食用脂肪または油を含む混合物、好ましくは魚油が、エチル化工程、そして好ましくは二段階分子蒸留に付され・・二次蒸留工程からの揮発性画分はその場合少なくとも該揮発性作業流体、好ましくは脂肪酸エチルエステル画分から構成される」及び「利用可能な供給源からの脂肪または油、例えば動物、微生物または植物起源のうちの少なくとも1つから得られる脂肪または油を、該脂肪または油中のトリグリセリドが脂肪族アルコールのエステルに変換されるエステル交換反応に付すことにより生成されてもよい」と記載されているのであるから、この点からみても、本件訂正発明における「脂肪酸エステル」を含む「揮発性作業流体」と甲1発明1における「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」との間に実質的な相違があるものともいえない。
してみると、甲1発明1における「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」につき、「揮発性作業流体」とすることは、実質的な相違点ではない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。
(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、上記で示したとおり、甲1には、「油組成物を・・リパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供し、・・脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」ことが記載され、また、当該「脂肪酸エステルを含む油組成物」を「分子蒸留を用いて、多不飽和脂肪酸グリセリドを飽和および単不飽和脂肪酸エステルと分離するのみならず、同時に、所望の多不飽和脂肪酸グリセリド画分から殺虫剤および多塩素化ビフェニル等の環境汚染物質の除去をも行うことができる」ことも記載されている(上記摘示(a-3)及び(a-4)参照)のであるから、甲1発明1における「油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供し、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」ことは、環境汚染物質を除去するために分子蒸留に付すべき脂肪酸エステルを含む油組成物を生成するという操作目的の点で、本件訂正発明における「揮発性作業流体を該混合物に添加する」ことと技術的に軌を一にするものと認められる。
そして、甲2及び甲3にもそれぞれ開示されているとおり、グリセリド(脂肪)を含む魚油などの油組成物について、元来含有されているコレステロール、臭気物などの不要物又は不純物を分子蒸留により除去するにあたり、穏やかな温度条件で蒸留による十分な目的物の除去を行うことを意図し、脂肪酸エステル又はリノール酸(審決注:「遊離脂肪酸」の一種である。)などの低沸点成分を油組成物に外部から添加し低沸点成分を含有する油組成物を構成した後、当該低沸点成分を含有する油組成物を減圧下に分子蒸留することは、当業者の周知技術であるものと認められる(上記摘示(b-2)及び摘示(c-4)参照のこと。)。
なお、ここで、上記「臭気物」につき検討すると、技術常識からみて、上記「臭気物」は、蒸気圧は低いものの揮発性を有するものであることにより、魚油などから徐々に揮散・放出され、永続的に臭気を放つこととなる物質であるものと認められる。
してみると、甲1発明1において、「該油組成物を、実質的に無水の条件下、かつ飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供し、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルを含む油組成物を生成する」ことに代えて、穏やかな温度条件での蒸留による十分な臭気物などの目的物の除去を減圧下での分子蒸留により行うための脂肪酸エステルを含む油組成物を構成することを意図し、上記当業者の周知技術に基づき、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルである「揮発性作業流体」を油組成物に外部から添加することにより、分子蒸留を行うべき油組成物を構成することは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2については、当業者が適宜なし得ることである。
(ウ)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、甲1には、125℃及び0.005ミリバールの条件で分子蒸留を行うことが記載されており(摘示(a-5)参照)、また、甲14にも記載されている(241頁「表4」、242頁「表6」及び244頁「表8」参照)とおり、グリセリド、(乳)脂肪酸、ビタミンEなどの「MS-380」なる薄膜蒸留機による精製において、0.1Torr(約0.1mmHg)以下の減圧下で100~300℃程度の温度範囲で薄膜蒸留することは、当業者が通常行うことであり、当業者の技術常識又は周知慣用の技術であるものと認められるから、甲1発明1において、十分な不要物除去と精製の生産性の観点から所望する場合に、125℃を超えて更に高温の例えば0.005ミリバール(0.00375Torr)の同じ圧力条件下で150~270℃なる温度範囲で分子蒸留をすることは、上記当業者の技術常識又は周知慣用の技術に基づく通常の創作能力の発揮に過ぎず、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
してみると、上記相違点3に係る事項は、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
(エ)相違点4について
上記相違点4につき検討すると、甲1発明1においても、環境汚染物質として「多塩素化ビフェニル(PCB類)」が規定されているから、上記相違点4は、実質的な相違点ではない。
(オ)本件訂正発明の効果について
本件訂正発明の効果については、本件特許明細書の記載(【0016】~【0019】、【0022】、【0023】及び実施例に係る記載参照)からみて、海産油などの脂肪又は油を含む混合物中の有用な成分物質を損なわない温度条件などの穏やかな条件におけるストリッピング処理により、混合物中の環境汚染物質を分離・除去できるというものと認められる。
しかるに、上記(イ)で示したとおり、グリセリド(脂肪)を含む魚油などの油組成物について、元来含有されているコレステロール、臭気物などの不要物又は不純物を分子蒸留により除去するにあたり、穏やかな温度条件で蒸留による十分な目的物の除去を行うことを意図し、脂肪酸エステルなどの低沸点成分を油組成物に添加した後、分子蒸留することは、当業者の周知技術であるものと認められる(特に上記摘示(c-4)参照のこと。)から、甲1発明1において、当該周知技術を組み合わせて脂肪酸エステルなどの低沸点成分を添加使用した場合、穏やかな温度条件で分子蒸留をすることにより、環境汚染物質を含む不要物を十分に除去できるであろうことは、当業者が予期することができるものと認められる。
してみると、本件訂正発明の効果が、甲1発明1と当業者の周知技術に基づき、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということはできない。
ウ.小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1発明1及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(2)請求項2に係る発明について
ア.対比
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2と甲1発明1とを対比すると、上記(1)ア.(カ)で示した相違点1ないし3に加えて、新たに下記の点で相違し、その余で一致するものと認められる。
相違点5:本件訂正発明2では、「前記揮発性作業流体が、前記脂肪または油混合物から分離されるべき環境汚染物質と揮発性が本質的に等しいかまたはより少ない」のに対し、甲1発明1では、環境汚染物質と脂肪酸エステルとの揮発性の大小につき特定されていない点
相違点6:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明2では、「臭素系難燃剤」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
イ.検討
上記相違点1ないし3については、上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)でそれぞれ説示したとおりの理由により、いずれも実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得ることである。
また、上記相違点5につき検討すると、甲1には、「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質は長鎖脂肪酸のグリセリドよりも揮発性であるので、分子蒸留はこれらの化合物をグリセリド画分から除去し、そしてこれらの化合物は蒸留物(エステル画分)中に濃縮される」ことが記載されている(摘示(a-4)参照)のであるから、当業者は技術常識を踏まえて、エステル画分を構成する脂肪酸エステルと環境汚染物質とが蒸留条件において略同等の揮発性を有していると認識するのが自然である。
してみると、甲1発明1における脂肪酸エステルは、環境汚染物質と略同等の揮発性を有するものと認めることができるから、上記相違点5は、実質的な相違点であるものとはいえない。
さらに、上記相違点6につき検討すると、甲35及び甲36にもそれぞれ記載されているとおり(さらに必要であれば甲46、甲47及び下記参考資料等参照のこと。)、臭素系難燃剤などの多臭素化有機化合物がかつて難燃剤として使用されていたPCBなどの物質と同様に海洋生物等の生体内に蓄積される環境汚染物質であり、蒸気圧は低いものの揮発性を有する物質であることは、本件特許に係る出願前の当業者の技術常識であって、また、臭素系難燃剤は、PCBと多ハロゲン化(芳香族)有機化合物である点でその化学構造が類似するものであり、蒸気圧が低いことから融点・沸点などの物性についても略同様に高くなるであろうことは、当業者に自明であるから、甲1発明1における(特に減圧下における)分子蒸留により除去・低減化すべき環境汚染物質について臭素系難燃剤に限定することは、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
参考資料:一般社団法人日本電子回路工業会のホームページ、(http://jpca.jp/mrecologist/vol_61/)
ウ.小括
したがって、本件訂正発明2についても、甲1発明1及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(3)請求項4ないし6及び9に係る各発明について
請求項4ないし6及び9に係る各発明につき、併せて検討する。
ア.対比
本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明4ないし6及び9につき、それぞれ甲1発明1と対比すると、甲1発明1における脂肪酸エステルは、「海産油などの医薬又は食品用の油組成物」「を、・・リパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いて、エステル交換反応に供し」て得たものであるから、本件訂正発明4における「動物性脂肪または油・・から得られ」たもの及び本件訂正発明5における「魚油および/または海洋哺乳類から得られる油」に相当し、また、本件訂正発明6における「C10~C22脂肪酸およびC1~C4アルコールから構成される少なくとも1つの脂肪酸エステル」に相当することも明らかである。
さらに、甲1発明1における「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの・・食品用の油組成物」は、本件訂正発明9における「海産油が、魚または海洋哺乳類から得られ、トリグリセリドの形態の少なくとも飽和および不飽和脂肪酸を含有」するものに相当することも明らかである。
してみると、本件訂正発明4ないし6及び9と甲1発明1とを対比すると、上記(1)ア.(カ)で示した相違点1ないし3に加えて、下記の点で新たに相違し、その余で一致する。
相違点6-1:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明4では「2,2’,4,4’-テトラブロモジフェニルエーテル(BDE47)、2,2’,4,4’,5-ペンタブロモジフェニルエーテル(BDE99)および2,2’,4,4’,6-ペンタブロモジフェニルエーテル(BDE100)からなる群より選択される臭素化難燃剤」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
相違点6-2:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明5では「BDE47」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
相違点6’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明6及び9では「臭素化難燃剤」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
イ.検討
上記相違点1ないし3については、上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)で説示したとおりの理由により、いずれも実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得ることである。
そして、上記相違点6’につき検討すると、上記(2)ア.で示した相違点6と同一の事項であるから、上記(2)イ.で示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることである。
さらに、上記相違点6-1及び相違点6-2につき併せて検討すると、甲35及び甲36にもそれぞれ記載されているとおり(さらに必要であれば甲46、甲47及び上記参考資料等参照のこと。)、BDE47、BDE99、BDE100等の臭素系難燃剤などの多臭素化有機化合物がPCBと同様に海洋生物等の生体内に蓄積される蒸気圧が低い環境汚染物質であることは、本件特許に係る出願前の当業者の技術常識であって、また、BDE47、BDE99、BDE100等の臭素系難燃剤は、いずれもPCBとの間で多ハロゲン化ジフェニル(エーテル)化合物である点でその化学構造が極めて類似し、蒸気圧が低いことから融点・沸点などの物性についても略同様に高くなるであろうことは、当業者に自明であるから、甲1発明1における(特に減圧下における)分子蒸留により除去・低減化すべき環境汚染物質について上記各化合物からなる臭素系難燃剤に限定することは、いずれも当業者が適宜なし得ることというほかはない。
ウ.小括
したがって、本件訂正発明4ないし6及び9の各発明についても、甲1発明1及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(4)請求項12及び13に係る各発明について
請求項12及び13に係る各発明につき、併せて検討する。
ア.対比
本件訂正発明1を直接又は間接に引用する本件訂正発明12及び13につき、それぞれ甲1発明1と対比すると、上記(1)ア.(カ)で示した相違点1ないし3に加えて、新たに下記の点で相違し、その余で一致している。
相違点7:本件訂正発明12では、「(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油)の比が1:100~15:100であ」り、本件訂正発明13では、「(揮発性作業流体):(食用であるかまたは化粧品中に用いるための海産油)の比が3:100~8:100であ」るのに対し、甲1発明1では、「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」と「油組成物」との組成比につき特定されていない点
相違点6’’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明12では「臭素化難燃剤」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
相違点6-1’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明13では「BDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
イ.検討
上記相違点1ないし3については、上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)で説示したとおりの理由により、いずれも実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得ることである。
次に、上記相違点7につき検討すると、甲3にも記載されている(上記摘示(c-7)参照)とおり、油組成物の脱臭などの臭気物なる不要物を分子蒸留により除去するにあたって、脱臭すべき油組成物に対して比較的少量(例えば油組成物100ガロンに対して2ガロン)の脂肪酸エステルを添加して分子蒸留を行い、臭気物なる低蒸気圧で揮発性の不要物を除去できることは、少なくとも公知技術であるから、甲1発明1における脂肪酸エステルの量を油組成物全体に対して比較的少量(例えば1~15:100)として分子蒸留に付し、揮発性を有する臭素化難燃剤を除去することは、上記公知技術に基づき、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、上記相違点7に係る事項は、当業者が適宜なし得ることである。
また、上記相違点6’’は、上記(2)ア.で示した相違点6と同一の事項であるから、上記(2)イ.で示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることである。
さらに、上記相違点6-1’につき検討すると、上記(3)ア.で示した相違点6-1と同一の事項であるから、上記(3)イ.で示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることである。
ウ.小括
したがって、本件訂正発明12及び13についても、甲1発明1並びに甲3に記載された発明及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(5)請求項14ないし16に係る各発明について
請求項14ないし16に係る各発明につき、併せて検討する。
ア.対比
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明14ないし16につき、それぞれ甲1発明1と対比すると、上記(1)ア.(カ)で示した相違点1及び2に加えて、新たに下記の点で相違し、その余で一致している。
相違点3-1:本件訂正発明14及び本件訂正発明15では、「ストリッピング処理過程が、150~200℃の間の温度で実行され」るものであり、また、本件訂正発明16では、「ストリッピング処理過程が、1mbarより低い圧力で実行され」るものであるのに対し、甲1発明1では、分子蒸留の際の温度条件及び圧力条件につき特定されていない点
相違点4-1:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明15では、「デカクロロビフェニルである」のに対して、甲1発明1では、「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
相違点6-1’’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明14では「BDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
相違点6-2’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明16では「BDE47」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
イ.検討
上記相違点1及び2については、上記(1)イ.(ア)及び(イ)で説示したとおりの理由により、いずれも実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得ることである。
上記相違点3-1につき検討すると、温度条件に係る点については、上記(1)ア.で示した相違点3と同一の事項であるから、上記(1)イ.(ウ)で説示したとおりの理由により、当業者が適宜なし得ることである。
そして、圧力条件につき検討すると、甲1には、125℃及び0.005ミリバールの条件で分子蒸留を行うことが記載されており(摘示(a-5)参照)、また、甲14にも記載されている(241頁「表4」、242頁「表6」及び244頁「表8」参照)とおり、グリセリド、(乳)脂肪酸、ビタミンEなどの「MS-380」なる薄膜蒸留機による不要物の除去精製において、0.1Torr(約0.1mmHg)以下の減圧下で100~300℃程度の温度範囲で薄膜蒸留することは、当業者が通常行うことであり、当業者の技術常識又は周知慣用の技術であるものと認められるから、甲1発明1において、十分な不要物除去と精製の生産性の観点から所望する場合に、125℃を超えて更に高温の例えば0.005ミリバール(0.00375Torr)の同じ圧力条件下で150~200℃なる温度範囲で分子蒸留をすることは、上記当業者の技術常識又は周知慣用の技術に基づく通常の創作能力の発揮に過ぎず、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
してみると、上記相違点3-1に係る事項は、いずれも当業者が適宜なし得ることというほかはない。
また、上記相違点4-1につき検討すると、デカクロロビフェニルがPCB(ポリ塩化ビフェニルの略称である。)の一種であることが、当業者に自明である(必要ならば甲24参照。)から、甲1発明1における「多塩素化ビフェニル(PCB類)」との間で実質的な相違点であるとはいえない。
さらに、上記相違点6-1’’及び相違点6-2’につき併せて検討すると、相違点6-1’’又は相違点6-2’は、いずれも上記(3)ア.で示した相違点6-1又は相違点6-2とそれぞれ同一の事項であるから、上記(3)イ.で示した理由と同一の理由により、いずれも当業者が適宜なし得ることである。
ウ.小括
したがって、本件訂正発明14ないし16についても、甲1発明1並びに甲2又は甲3及び甲14の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(6)請求項17に係る発明について
ア.対比・検討
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明17につき甲1発明1と対比すると、甲1発明1においても「分子蒸留に供し」ていることから、上記(1)ア.(カ)で示した相違点1ないし3に加えて、下記の点でのみ新たに相違し、その余で一致する。
相違点6-1’’’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明17では「BDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤」であるのに対して、甲1発明1では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
しかるに、上記相違点6-1’’’は、上記(3)ア.で示した相違点6-1と同一の事項であるから、上記(3)イ.で示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることである。
そして、上記相違点1ないし3については、上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)で説示したとおりの理由により、いずれも実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることである。
イ.小括
したがって、本件訂正発明17についても、甲1発明1及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(7)請求項18に係る発明について
ア.対比
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明17を更に引用する本件訂正発明18につき甲1発明1と対比すると、上記(1)ア.(カ)で示した相違点1ないし3及び上記(6)ア.で示した相違点6-1’’’に加えて、新たに下記の点で相違し、その余で一致している。
相違点8:本件訂正発明18では、「少なくとも1つの前記薄膜蒸発法が、10~300kg/h・m2の間の混合物流速で実行され」るのに対して、甲1発明1では、「分子蒸留」である点
イ.検討
上記相違点1ないし3については、上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)で説示したとおりの理由により、いずれも実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることである。
また、相違点6-1’’’についても、上記(6)ア.で説示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることである。
次に、上記相違点8につき検討すると、甲14にも記載されている(241頁「表4」、242頁「表6」及び244頁「表8」参照)とおり、グリセリド、(乳)脂肪酸などの「MS-380」なる薄膜蒸留機による精製において、0.1Torr(約0.1mmHg)以下の減圧下で20~30l(リットル)/h程度の流量、すなわち、脂肪又は油の密度を0.9g/cm3とすると、159~239kg/h・m2程度の流量(流速)で薄膜蒸留することは、当業者が通常行う範囲の流速であるものと認められるから、十分な不要物除去と精製の生産性の観点から、被処理物の流速を適宜の範囲、例えば150~250kg/h・m2の範囲で行うことは、当業者の技術常識又は周知慣用の技術であるものと認められる。
してみると、甲1発明1における分子蒸留を薄膜蒸留により行うにあたって、環境汚染物質の除去効率と生産量の観点から、上記当業者の技術常識又は周知慣用の技術に基づき、混合物の流速を10~300kg/h・m2の範囲とすることは、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
ウ.小括
したがって、本件訂正発明18についても、甲1発明1並びに甲2又は甲3及び甲14の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(8)請求項19に係る発明について
ア.対比
本件訂正発明19と上記甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの・・食品用の油組成物」、「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質」、「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」及び「分子蒸留に供(する)」は、それぞれ、本件訂正発明19における「食用である・・海産油」、「環境汚染物質」、「脂肪酸エステル」及び「ストリッピング処理過程に付され(る)」に相当することが明らかである。
また、甲1発明2における「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの・・食品用の油組成物中の殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質を除去するための方法」は、環境汚染物質を含有する海産油などの油組成物から環境汚染物質が除去され、その含有量が低下するのであるから、本件訂正発明19における「食用である・・海産油中の、環境汚染物質の量を低減させるための方法」に相当する。
そして、甲1発明2における「当該脂肪酸エステルを含む油組成物を分子蒸留に供して当該脂肪酸エステルと共に優先的に当該環境汚染物質を除去する」ことは、結局のところ、「脂肪酸エステルを含む油組成物」が、飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルと他の油組成物の構成成分とを含有しており、優先的に除去される環境汚染物質と共に飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステルなどの低沸点成分も留去されていることは当業者に自明であるから、本件訂正発明19における「該海産油が少なくとも1つのストリッピング処理過程に付され、・・そして食用である・・該海産油中に存在する環境汚染物質の量が、該揮発性環境汚染物質低減作業流体と一緒に該海産油から分離される」ことに相当するものといえる。
さらに、甲1発明2における「トリグリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する海産油などの・・食品用の油組成物中の殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等の環境汚染物質を除去する」は、当該油組成物が環境汚染物質を含有していることが前提となっていることが明らかであるから、本件訂正発明19と同様に「該海産油は環境汚染物質を含有」するものであることは当然といえる。
なお、本件訂正発明19における「揮発性環境汚染物質低減作業流体」も、甲1発明2における「脂肪酸エステル」もストリッピング処理過程(又は分子蒸留)に付される海産油などの油混合物中の「成分」である点で一致するものである。
してみると、本件訂正発明19と甲1発明2とは、
「食用である海産油中の、環境汚染物質の量を低減させるための方法における、脂肪酸エステルなどの成分の使用であって、該海産油は環境汚染物質を含有し、該方法において、該成分が該海産油に含有され、次に、該海産油(混合物)が少なくとも1つのストリッピング処理過程に付され、そして食用である該海産油中に存在する環境汚染物質の量が、該成分と一緒に該海産油から分離される使用」
の点で一致し、下記の各点で相違している。
相違点1’:「脂肪酸エステルなどの成分」につき、本件訂正発明19においては「脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、遊離脂肪酸およびこれらのいずれかの組み合わせのうちの少なくとも1種を含んでいる揮発性環境汚染物質低減作業流体」であるのに対し、甲1発明2では、「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」である点
相違点2’:本件訂正発明19では、「揮発性作業流体が外部から該海産油に添加され」るのに対し、甲1発明2では、「該油組成物を飽和および単不飽和脂肪酸のエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールを用いた・・エステル交換反応に供することにより合成された脂肪酸エステルを含む油組成物」である点
相違点3’:本件訂正発明19では、「ストリッピング処理過程が、150~270℃の間の温度で実行され」るのに対して、甲1発明2では、分子蒸留の際の温度条件につき特定されていない点
相違点6’’’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明19では、「臭素系難燃剤」であるのに対して、甲1発明2では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
イ.検討
上記相違点1’ないし3’につき併せて検討すると、上記相違点1’ないし3’は、上記(1)ア.(カ)で示した相違点1ないし3に係る各事項とそれぞれ実質的に同一の事項であるものと認められる。
してみると、相違点1’ないし3’は、上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)で説示した理由と同一の理由により、いずれも実質的な相違点でないか又は当業者が適宜なし得ることといえる。
また、上記相違点6’’’は、上記(2)ア.で示した相違点6と同一の事項であるから、上記(2)イ.で説示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
さらに、本件訂正発明19の効果につき検討しても、上記(1)イ.(オ)で説示した理由と同一の理由により、当業者が予期し得ない格別なものと認めることはできない。
ウ.小括
したがって、本件訂正発明19については、甲1発明2及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(9)請求項20に係る発明について
本件訂正発明19を引用する本件訂正発明20につき検討する。
ア.対比
本件訂正発明19を引用する本件訂正発明20につき、甲1発明2と対比すると、甲1発明2においても「分子蒸留に供し」ていることから、上記(8)ア.で示した相違点1’ないし3’に加えて、新たに下記の点で相違し、その余で一致している。
相違点6-1’’’’:「環境汚染物質」につき、本件訂正発明20では「BDE47、BDE99およびBDE100からなる群より選択される臭素化難燃剤」であるのに対して、甲1発明2では「殺虫剤および多塩素化ビフェニル(PCB類)等」である点
イ.検討
上記相違点1’ないし3’については、上記(8)イ.で示したとおり、上記(1)ア.で示した相違点1ないし3とそれぞれ同一の事項であるから、上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)で説示した理由と同一の理由により、いずれも実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることである。
また、上記相違点6-1’’’’についても、上記(3)ア.で示した相違点6-1と同一の事項であるから、上記(3)イ.で説示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることである。
ウ.小括
したがって、本件訂正発明20についても、甲1発明2及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(10)請求項21に係る発明について
ア.対比
本件訂正発明19を引用する本件訂正発明21につき、甲1発明2と対比すると、上記(8)ア.で示した相違点1’ないし3’及び6’’’並びに上記(9)ア.で示した相違点6-1’’’’に加えて、新たに下記の点で相違し、その余で一致している。
相違点9:本件訂正発明21では、「揮発性環境汚染物質低減作業流体が、エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法からの副産物であって、該エチルおよび/またはメチルエステル濃縮物の生産のための方法においては、食用もしくは非食用の魚油が、エチル化および/またはメチル化工程そして二段階分子蒸留に付されて、一次分子蒸留工程からの揮発性画分が二次分子蒸留工程でもう一度蒸留され、該副産物は該二次分子蒸留工程からの揮発性画分である」のに対し、甲1発明2では、「飽和および単不飽和脂肪酸とC1~C6アルコールとの脂肪酸エステル」である点
イ.検討
上記相違点1’ないし3’及び6’’’又は相違点6-1’’’’については、いずれも上記(8)イ.又は(9)イ.で説示した理由、すなわち上記(1)イ.(ア)ないし(ウ)、上記(2)イ.及び(3)イ.で説示した理由と同一の理由により、いずれも実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
上記相違点9につき検討すると、甲3にも記載されている(上記摘示(c-4)ないし(c-7)参照)とおり、油組成物の脱臭などの臭気物なる揮発性を有する不要物を分子蒸留により除去するために添加する少量の揮発性脂肪酸エステルにおいて、「経済的に・・高度不飽和エステル・・から分離されたより低分子量のエステルを使用する」こと及び当該「低分子量のエステル」として、メンハーデン油などの脂肪油に対してアルコールを(アルコリシス)反応させた生成物を複数回の分子蒸留により分画したメチルエステルなどの揮発性成分を使用することは、いずれも当業者の周知技術であるから、甲1発明2における脂肪酸エステルとして、魚油などの油組成物に対し低級アルコールを(アルコリシス)反応させるメチルエステルなどの揮発性成分を生産する方法における生成物をさらに複数回の分子蒸留によって分画した揮発性画分を使用することは、上記周知技術に基づき、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、上記相違点11についても、当業者が適宜なし得ることである。
ウ.小括
したがって、本件訂正発明21についても、甲1発明2及び甲2又は甲3の当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(11)請求項22に係る発明について
ア.対比・検討
本件訂正発明22と甲1発明3とを対比すると、甲1発明3における「海産油などに由来の医薬又は食品用の油組成物」は、本件訂正発明22における「海産油製品」に相当することが明らかである。
してみると、本件訂正発明22と甲1発明3とは、「海産油製品」の点で一致し、以下の点でのみ一応相違する。
相違点10:本件訂正発明22では、「請求項1記載の方法に従って調製される」ものであるのに対し、甲1発明3では、「甲1発明1の方法に従って環境汚染物質が除去された」ものである点
しかるに、甲1には、甲1発明3に係る「海産油などの医薬又は食品用の油組成物」についても、甲1発明1に係る方法によって、海産油に元来含有されていたDDTなどの環境汚染物質をエステル画分に濃縮し、グリセリド画分から検知不能となる程度に十分に除去できることが記載されており(摘示(a-5)の実施例3参照)、甲1発明3に係る「海産油などの医薬又は食品用の油組成物」は、十分に環境汚染物質の低減化がなされているものと認められる(上記(1)ア.(オ)参照)。
してみると、本件訂正発明22と甲1発明3とは、その調製方法につき上記相違点10のとおりの規定方法上の相違は存するものの、それらによって得られる十分に環境汚染物質の低減化がなされた海産油(製品)として、両者は実質的に何ら相違しないものと認められる。
イ.小括
したがって、本件訂正発明22と甲1発明3とは実質的に相違するところがなく、本件訂正発明22は、甲1に記載された発明である。
(12)請求項23ないし27に係る各発明について
本件訂正発明22を直接又は間接に引用する本件訂正発明23ないし27につき併せて検討すると、甲1発明3に係る「海産油などの油組成物」は、「医薬又は食品用」のものであるから、当該油組成物を、「医薬品」、「健康サプリメント」なる食品、動物の食品である「動物飼料製品」又は「魚飼料製品」並びに皮膚などに直接外用施用する「化粧品」の用途に対して使用することは、これらの用途が「医薬又は食品用」として自明のものであることに鑑みれば、これらの用途に限定することに格別な技術的創意が存するものではなく、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
したがって、本件訂正発明23ないし27は、それぞれ、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.無効理由2及び3に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明22については、特許法第29条第1項第3号に該当するとともに、本件訂正発明1、2、4ないし6、9、12ないし21及び23ないし27については、いずれも、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
III.当審の判断のまとめ
以上のとおり、請求人主張の無効理由1は受け入れられないものの、無効理由2ないし3は首肯できるものであるので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に係る発明についての特許は、無効理由4ないし6を検討するまでもなく、いずれも無効理由2又は3により無効とすべきものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1、2、4ないし6、9及び12ないし27に係る発明についての特許は、いずれも無効とすべきものである。
また、本件訂正により、訂正前の請求項7、8、10、11及び28につき削除されたから、請求項7、8、10、11及び28に係る発明についての本件無効審判請求については、却下すべきものである。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条及び第64条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2013-800118