特許無効審判
2016-800057
液晶媒体
- 審判番号
- 2016-800057
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2002-300600
- 登録番号
- 特許第4623924号(P4623924)
- 請求日
- 2016年05月18日
- 審決日
- 2018年05月07日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】JNC 株式会社
- 【請求人代理人】深井 俊至
- 【請求人代理人】末吉 剛
- 【被請求人】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【被請求人代理人】葛和 清司
- 【被請求人代理人】塩崎 進
- 【被請求人代理人】小田切 美紗
- 【被請求人代理人】松浦 綾子
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 佐々木 秀次
- 審判官 原 賢一
- 分類
- P1123.537-ZDA(C09K) / P1123.113-ZDA(C09K) / P1123.121-ZDA(C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4623924号発明「液晶媒体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4623924号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、〔4-6、9-12〕、7、8、13について訂正することを認める。
特許第4623924号の請求項1、2、7、8に係る発明についての特許を無効とする。
特許第4623924号の請求項3、13に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その6分の2を請求人の負担とし、6分の4を被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯等
1 本件無効審判に係る特許
本件無効審判に係る特許第4623924号(以下、「本件特許」という。)は、被請求人であるメルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングが特許権者であって、2002年10月15日(パリ条約による優先権主張 2001年10月12日(DE)ドイツ連邦共和国)に特願2002-300600号として出願したものであって、平成22年11月12日、発明の名称を「液晶媒体」、請求項の数を8として特許権の設定登録を受けたものである。
2 本件無効審判における手続の経緯
本件無効審判は、請求人であるJNC株式会社より請求されたものであって、手続の経緯(両当事者からの提出書類)は以下のとおりである。
平成28年 5月18日 審判請求書(請求人)
同年 6月 1日付け 手続補正指令(方式)
同年 7月 1日 手続補正書(請求人)
同年10月 6日 審判事件答弁書及び訂正請求書(被請求人)
同年11月18日 審判事件弁駁書(請求人)(以下、「第1弁駁書」という。)
平成29年 1月17日付け 審理事項通知書
同年 4月13日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 4月27日 上申書(被請求人)
同年 4月27日 上申書(請求人)
同年 4月27日 口頭審理
同年 6月 1日 上申書(被請求人)
同年 6月22日 上申書(請求人)
同年 9月 4日付け 審決の予告
同年12月13日 上申書及び訂正請求書(被請求人)
平成30年 2月 2日 審判事件弁駁書(請求人)(以下、「第2弁駁書」という。)
同年 2月15日 上申書(被請求人)(乙6原本提出)
第2 両当事者の主張の概要と証拠方法
1 両当事者の主張
(1)請求の趣旨
特許第4623924号の請求項1ないし3、7及び8に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。
(2)答弁の趣旨
本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求める。
2 証拠方法
両当事者から提出された証拠方法は以下のとおりである(以下、各証拠につき、甲第1号証を「甲1」などと略して記載する。)。
(1)請求人から提出された証拠
甲1:特開2001-19965号公報
甲2:特開平11-140447号公報
甲3:特開2001-31972号公報
甲4:特開2001-115161号公報
甲5:特開平10-298127号公報
甲6:特開2000-53602号公報
甲7:特開2001-114722号公報
甲8:国際公開第99/52871号
甲9:特開平10-287875号公報
甲10:特開平10-287874号公報
甲11:国際公開第99/21816号
甲12:ドイツ特許第10107544号公報
甲13:特開2001-316669号公報(甲12の訳文)
甲14:特開平8-104869号公報
甲15:特開2001-192657号公報
甲16:特開2000-96055号公報
甲17:特開2000-38585号公報
甲18:特開平2-184642号公報
甲19:特開平1-175947号公報
甲20:M.Schadt,et.al.,Liquid Crystals,Vol.7,No.4,p.519-536(1990)
甲21:K.Kitano,et.al.,Mol.Cryst.Liq.Cryst.Vol.191,p.205-209(1990)
甲22:特開昭60-51135号公報
甲23:木部茂氏の平成28年2月18日付け試験成績証明書
甲24:特許第4623924号公報(本件特許の特許公報)
(以上、審判請求書に添付して提出)
甲25:苗村省平「はじめての液晶ディスプレイ技術」(工業調査会、2004年4月20日)45-46頁
甲26:特開2000-104072号公報
甲27:国際公開第96/22261号
甲28:特開2000-96065号公報
甲29:ドイツ特許第10111142号明細書
甲30:特開2002-12869号公報(甲29の訳文)
甲31:特開2000-351972号公報
甲32:特開平9-291282号公報
甲33:特開2001-34197号公報
甲34:特開平9-124529号公報
甲35:特開平9-12569号公報
甲36:国際公開第91/16321号
甲37:国際公開第01/46336号
甲38:特表2003-518154号公報(甲37の訳文)
(以上、第1弁駁書に添付して提出)
甲39:特開昭56-36568号公報
甲40:特開平9-328443号公報
甲41:M.Schadt et.al.,IEEE Transactions on Electron Devices,Vol.Ed-25,No.9 p.1125-1137(1978)
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出)
甲42:無効審判口頭審理 技術説明資料
(以上、平成29年4月27日付け上申書に添付して提出)
甲43:Martin Schadt,Annu.Rev.Mater.Sci.,No.27,p.305,p.346(1997)
甲44:岩田洋典,大阪府立大学に提出された「負の誘電率異方性を有するネマティック液晶の過渡応答に関する研究」と題する博士論文(2008年)15-16頁
甲45:岩屋圭太ほか4名,2010年日本液晶学会討論会講演予稿集,PA44
甲46:井上勝ほか5名,2003年日本液晶学会討論会講演予稿集,3A07
甲47:岡村維彦,液晶6巻4号p.390-395(2002年)
甲48:特開平9-12485号公報
甲49:特開平9-30995号公報
甲50:日本学術振興会第142委員会編「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞,1989年)71-77頁
甲51:高津晴義,高分子55巻8月号p.587-590(2006年)
甲52:木部茂氏の平成29年6月22日付け試験成績証明書
(以上、平成29年6月22日提出の上申書に添付して提出)
甲53:木部茂氏の平成30年2月2日付け試験成績証明書
資料1:ディスプレイデバイス標準化専門委員会作成「電子情報技術産業協会規格 JEITA ED-2521B液晶表示パネル及びその構成材料の測定方法」(2009年3月改正)社団法人 電子情報技術産業協会
資料2:日本学術振興会第142委員会編「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞,1989年)70-77頁
(以上、第2弁駁書に添付して提出)
(2)被請求人から提出された証拠
乙1:Herald Hirschmannの平成29年4月7日に実施した実験報告書
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出)
乙2:無効審判口頭審理 技術説明資料
(以上、平成29年4月27日提出の上申書に添付して提出)
乙3:Masahito Oh-e,Katsumi Kondo,Appl.Phys.Lett.,Vol.67,No.26,25 December 1995 p.3895-3897
乙4:平成19年(行ケ)第10380号審決取消請求事件判決文
(以上、平成29年6月1日付け上申書に添付して提出)
乙5:Birendra Bahadur, LIQUID CRYSTALS APPLICATIONS AND USES, Vol. 1, World Scientific, 1990, p.165-167
(請求人第2弁駁書で部分訳追加)
乙6:Dr. Harald Hirschmannの平成29年11月23日に実施した実験報告書(平成30年2月15日提出の上申書に添付して原本提出)
(以上、平成29年12月13日提出の上申書に添付して提出)
第3 平成29年12月13日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の可否について
本件訂正は、特許法第134条の2第3項に従い、一群の請求項(請求項1~8)ごとに請求されたものであるところ、当審は、本件訂正の請求を認容すべきものと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 訂正事項
なお、当審で、訂正事項を適宜ア、イ・・・等、項分けした。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「式中、
【化2】
環A1,環A2および環A3
(当審注:必要に応じて、一般式IのA1等の環の構造式を「環A1」等記載する。)
は、a)1,4-シクロヘキセニレンまたは1,4-シクロヘキシレン基であり、ここで、1つまたは2つの非隣接CH2基は、-O-または-S-により置換されていることができ、
b)1,4-フェニレン基であり、ここで、1つまたは2つのCH基は、Nにより置換されていることができ、
c)・・・からなる群からの基であり、
ここで、基a)、b)およびc)は、ハロゲン原子により一置換または多置換されていることができ、
【化3】
環A4
は、
【化4】
・・・
であり、
x、yおよびzは、各々、互いに独立して、0、1または2であり、
Z1およびZ2は、各々、互いに独立して、・・・または単結合であり、
Z3は・・・または単結合であり、
Xは、F、Cl、CN、SF5、NCS、8個までの炭素原子を有するハロゲン化された、または非置換アルキル基であり、ここで、1つまたは2つ以上のCH2基は、O原子が互いに直接結合しないように、-O-または-CH=CH-により置換されていることができ、
aは、0、1または2であり、
bは、0、1または2であり、
cは、1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3である、」とあるのを、
「式中、
【化2】
環A1,環A2および環A3
は、1,4-フェニレン基であり、
【化3】
環A4
は、
【化4】
1,4-フェニレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7であり、
aは、0であり、
bは、0であり、
cは、1である、」と訂正する。
(2)訂正事項2
ア 特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項2を、請求項1を引用しない独立形式に改める。
イ 訂正前の特許請求の範囲の請求項2が引用する請求項1に「式中、
【化2】
環A1,環A2および環A3
は、a)1,4-シクロヘキセニレンまたは1,4-シクロヘキシレン基であり、ここで、1つまたは2つの非隣接CH2基は、-O-または-S-により置換されていることができ、
b)1,4-フェニレン基であり、ここで、1つまたは2つのCH基は、Nにより置換されていることができ、
c)・・・からなる群からの基であり、
ここで、基a)、b)およびc)は、ハロゲン原子により一置換または多置換されていることができ、
【化3】
環A4
は、
【化4】
・・・
であり、
x、yおよびzは、・・・であり、
Z1およびZ2は、各々、互いに独立して、・・・または単結合であり、
Z3は・・・または単結合であり、
Xは、
【化6】
F,C1,CN,NCS,CF3,C2F5,n-C3F7,SF5,CF2H,OCF3,OCF2H,OCFHCF3,OCFHCFH2,OCFHCF2H,OCF2CH3,OCF2CFH2,OCF2CF2H,OCF2CF2CF2H,OCF2CF2CFH2,OCFHCF2CF3,OCFHCF2CF2H,OCF2CF2CF3,CF2CHFCF3,CF2CH2CF3,OCH2CF2CHFCF3,OCF2CHFCF3,OCClFCF2CF3,CH3,C2H5またはn-C3H7
aは、0、1または2であり、
bは、0、1または2であり、
cは、1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3である、」とあるのを、
「式中、
【化7】
環A1および環A2
は、1,4-フェニレン基であり、
【化8】
環A3
は、1,4-シクロヘキシレン基であり、
【化9】
環A4
は、
【化10】
1,4-シクロヘキシレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7であり、
aは、0であり、
bは、1であり、
cは、1である、」と訂正する。
ウ 訂正前の特許請求の範囲の請求項2が引用する請求項1に「式RII、RIV、RV、RVII、RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV:
・・・
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である、
のいずれかで表される化合物」とあるのを、「以下の式:
【化11】
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
nは、2~8の整数である、
のいずれかで表される化合物」と訂正する。
(3)訂正事項3
ア 特許請求の範囲の請求項1または2に記載の液晶媒体を引用していた請求項3のうち、請求項1を引用する請求項3を、他の請求項を引用しない独立形式に改める。
イ 訂正前の特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項1に「正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とあるのを、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と訂正する。
ウ 訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「式:I1~30:・・・」とあるのを、「以下の式:・・・」と訂正し、式I3、I12、I13、I14、I15、I17、I18、I19、I21、I22及びI30を削除し、
「Xは、請求項1において定義した通りであり」とあるのを、「Xは、FまたはOCF3であり」と訂正し、
『「alkyl」は、1~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり』との記載を削除し、
「L1~L6は、各々、互いに独立して、HまたはFである、」とあるのを、「L1~L6は、Hである、」と訂正する。
(4)訂正事項4
ア 特許請求の範囲の請求項1または2を引用していた請求項3のうち、請求項2を引用する請求項3を、他の請求項を引用しない独立形式に改め、新たに請求項13とする。
イ 新たな請求項13において、訂正前の特許請求の範囲の請求項3が間接的に引用する請求項1に「正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とあるのを、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と訂正する。
ウ 新たな請求項13において、訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「式:I1~30:・・・」とあるのを、「以下の式:・・・」と訂正し、式I3、I12、I13、I14、I15、I17、I18、I19、I21、I22及びI30を削除し、
訂正前の特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項2に「Xが、
F,C1,CN,NCS,CF3,C2F5,n-C3F7,SF5,CF2H,OCF3,OCF2H,OCFHCF3,OCFHCFH2,OCFHCF2H,OCF2CH3,OCF2CFH2,OCF2CF2H,OCF2CF2CF2H,OCF2CF2CFH2,OCFHCF2CF3,OCFHCF2CF2H,OCF2CF2CF3,CF2CHFCF3,CF2CH2CF3,OCH2CF2CHFCF3,OCF2CHFCF3,OCClFCF2CF3,CH3,C2H5またはn-C3H7
である、」とあるのを、「Xは、
F,C1,CN,NCS,CF3,C2F5,n-C3F7,SF5,CF2H,OCF3,OCF2H,OCFHCF3,OCFHCFH2,OCFHCF2H,OCF2CH3,OCF2CFH2,OCF2CF2H,OCF2CF2CF2H,OCF2CF2CFH2,OCFHCF2CF3,OCFHCF2CF2H,OCF2CF2CF3,CF2CHFCF3,CF2CH2CF3,OCH2CF2CHFCF3,OCF2CHFCF3またはOCClFCF2CF3
であり、」と訂正し、すなわち、XからCH3、C2H5およびn-C3H7を削除し、
『「alkyl」は、1~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり』との記載を削除し、
「L1~L6は、各々、互いに独立して、HまたはFである、」とあるのを、「L1~L6は、Hである、」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1~3のいずれか一項を引用していた請求項4のうち、請求項1を引用する請求項4を、他の請求項を引用しない独立形式に改める。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1~3のいずれか一項を引用していた請求項4のうち、請求項2を引用する請求項4、及び(請求項1又は2を引用する)請求項3を引用する請求項4を、他の請求項を引用しない独立形式に改め、それぞれ、新たな請求項9、及び請求項10とする。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5および6のうち、請求項2または(請求項1又は2を引用する)請求項3を引用する請求項4を引用するものを、上記訂正事項6により訂正した訂正後の請求項9および10を引用することにより、それぞれ新たな請求項11および12とする。
(8)訂正事項8
ア 特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項7を、他の請求項を引用しない独立形式に改める。
イ 訂正前の特許請求の範囲の請求項7が引用する請求項1に「式中、
【化2】
環A1,環A2および環A3
は、a)1,4-シクロヘキセニレンまたは1,4-シクロヘキシレン基であり、ここで、1つまたは2つの非隣接CH2基は、-O-または-S-により置換されていることができ、
b)1,4-フェニレン基であり、ここで、1つまたは2つのCH基は、Nにより置換されていることができ、
c)・・・からなる群からの基であり、
ここで、基a)、b)およびc)は、ハロゲン原子により一置換または多置換されていることができ、
【化3】
環A4
は、
【化4】
・・・
であり、
x、yおよびzは、・・・であり、
Z1およびZ2は、各々、互いに独立して、・・・または単結合であり、
Z3は・・・または単結合であり、
Xは、F、Cl、CN、SF5、NCS、8個までの炭素原子を有するハロゲン化された、または非置換アルキル基であり、ここで、1つまたは2つ以上のCH2基は、O原子が互いに直接結合しないように、-O-または-CH=CH-により置換されていることができ、
aは、0、1または2であり、
bは、0、1または2であり、
cは、1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3である、」とあるのを、
「式中、
【化27】
環A1および環A2
は、1,4-フェニレン基であり、
【化28】
環A3
は、1,4-シクロヘキシレン基であり、
【化29】
環A4
は、
【化30】
1,4-シクロヘキシレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7またはビニル基であり、
aは、0であり、
bは、1であり、
cは、1である、」と訂正する。
ウ 訂正前の特許請求の範囲の請求項7が引用する請求項1に「式RII、RIV、RV、RVII、RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV:
・・・
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である、
のいずれかで表される化合物」とあるのを、「以下の式:
【化31】
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基である、
のいずれかで表される化合物」と訂正する。
(9)訂正事項9
ア 特許請求の範囲の請求項1を引用していた請求項8を、他の請求項を引用しない独立形式に改める。
イ 訂正前の特許請求の範囲の請求項8が引用する請求項1に「式中、
【化2】
環A1,環A2および環A3
は、a)1,4-シクロヘキセニレンまたは1,4-シクロヘキシレン基であり、ここで、1つまたは2つの非隣接CH2基は、-O-または-S-により置換されていることができ、
b)1,4-フェニレン基であり、ここで、1つまたは2つのCH基は、Nにより置換されていることができ、
c)・・・からなる群からの基であり、
ここで、基a)、b)およびc)は、ハロゲン原子により一置換または多置換されていることができ、
【化3】
環A4
は、
【化4】
・・・
であり、
x、yおよびzは、・・・であり、
Z1およびZ2は、各々、互いに独立して、・・・または単結合であり、
Z3は・・・または単結合であり、
Xは、F、Cl、CN、SF5、NCS、8個までの炭素原子を有するハロゲン化された、または非置換アルキル基であり、ここで、1つまたは2つ以上のCH2基は、O原子が互いに直接結合しないように、-O-または-CH=CH-により置換されていることができ、
aは、0、1または2であり、
bは、0、1または2であり、
cは、1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3である、」とあるのを、
「式中、
【化33】
環A1および環A2
は、1,4-フェニレン基であり、
【化34】
環A3
は、1,4-シクロヘキシレン基であり、
【化35】
環A4
は、
【化36】
1,4-シクロヘキシレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7またはビニル基であり、
aは、0であり、
bは、1であり、
cは、1である、」と訂正する。
ウ 訂正前の特許請求の範囲の請求項8が引用する請求項1に「式RII、RIV、RV、RVII、RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV:
・・・
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である、
のいずれかで表される化合物」とあるのを、「以下の式:
【化37】(省略)(当審注:請求項2の【化11】と同じ。)
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
nは、2~8の整数である、
のいずれかで表される化合物」と訂正する。
エ 液晶媒体が、「さらに、以下の式:
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
式中、nは、互いに独立して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15である、のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の安定剤を含む」ことを規定する訂正を行う。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否に関する判断
(1)訂正事項1
訂正事項1は、環A1、環A2及び環A3を、訂正前のa)、b)またはc)の態様の内、b)の1,4-フェニレン基に限定し、環A4を、訂正前の【化4】の選択肢の内、1,4-フェニレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)に限定し、この限定に伴い削除される選択肢に関する「x、yおよびzは、各々、互いに独立して、0、1または2であり、」との特定を共に削除し、Z1、Z2及びZ3の態様を、訂正前の選択肢の内、「単結合」に限定し、Xを、訂正前の選択肢の中の「8個までの炭素原子を有する・・・非置換アルキル基」に含まれる「n-C3H7」に限定し、a、b及びcがとり得る場合を、「aは、0、1または2であり、bは、0、1または2であり、cは1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3」であったものを、それぞれ、「0」、「0」及び「1」として含まれる態様を限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1のXを、「n-C3H7」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0023】及び【0024】の「式Iで表される化合物におけるXは、好ましくは、
【化22】・・・n-C3H7・・・」、「【化23】・・・特に・・・n-C3H7である。」の記載に基づくものである他、訂正事項1のその他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであり、これらの訂正により新たな技術事項が導入されるものとはいえないから、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1のXを、「n-C3H7」とする訂正は、訂正前のXを限定的に減縮するものである他、訂正事項1のその他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2のアは、訂正前請求項2が請求項1を引用していたものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
訂正事項2のイは、訂正前請求項2が引用していた請求項1の一般式Iで表される化合物の環A1及びA2を、訂正前のa)、b)またはc)の態様の内、b)の1,4-フェニレン基に限定し、環A3を、訂正前のa)、b)またはc)の態様の内、a)の1,4-シクロヘキシレン基に限定し、環A4を、訂正前の【化4】の選択肢の内、1,4-シクロヘキシレン基に限定し、この限定に伴い削除される選択肢に関する「x、yおよびzは、各々、互いに独立して、0、1または2であり、」との特定を共に削除し、Z1、Z2及びZ3の態様を、訂正前の選択肢の内、「単結合」に限定し、Xを、訂正前の選択肢の中の「8個までの炭素原子を有する・・・非置換アルキル基」に含まれる「n-C3H7」に限定し、a、b及びcがとり得る場合を、「aは、0、1または2であり、bは、0、1または2であり、cは1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3」であったものを、それぞれ、「0」、「1」及び「1」として含まれる態様を限定するものである。
訂正事項のウは、訂正前請求項2が引用する請求項1で択一的に記載されていた「式RII、RIV、RV、RVII、RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV」から「式RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV」を削除し、さらに、「alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である」と特定されていた式RIIで表される化合物を、式RIIに含まれる(式RIIのR0には、アルケニルも含まれている。)、本件明細書の表記に従えば「CC-n-V1」、「CC-V-V」に限定し、請求項2が引用する請求項1で、液晶媒体にさらに含むとされている化合物の態様を限定するものであるであるから、上記訂正事項イ及びウは、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、式RIIの化合物を限定した「CC-n-V1」が有する「CnH2n+1」(nは、2~8の整数である)は、式RIIのR0(R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニル)に含まれるべきものであるが、「CnH2n+1」は、文言上、n-アルキル(直鎖アルキル)だけでなく、分岐アルキルを含み得るようにも解釈できる。しかしながら、本件明細書に記載される具体的な液晶化合物の「CnH2n+1」基や「CmH2m+1」基について、同段落【0085】に「本出願および以下の例において、液晶化合物の構造を頭文字で示し、その化学式への変換は、以下の表AおよびB(当審注:省略)に従って得られる。すべての基CnH2n+1およびCmH2m+1は、それぞれn個およびm個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である;nおよびmは、各々の場合において、互いに独立して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15である。」と記載されるように、液晶化合物における「CnH2n+1」基は、特に分岐アルキル等の明示がない限り、直鎖状アルキル基(n-アルキル)を意味していることが技術的に一般的であること、及び、同段落【0069】の記載によれば、「CnH2n+1」を有する「CC-n-V1」は、「RIIb」とされ、式RIIで表される化合物の下位概念の化合物であることは明らかであることを考慮すると、式RIIの化合物を限定した「CC-n-V1」が有する「CnH2n+1」は、n-アルキル(直鎖アルキル)を意味していることは明らかであるといえる。
また、請求項間の引用関係を解消し、請求項2を独立形式請求項へ改めるための訂正事項2のアは、新たな技術事項を導入するものではなく、訂正事項2のイのXを「n-C3H7」とする訂正は、新たな技術的事項を導入するものではなく、訂正事項2のウで、式RIIで表される化合物を、式RIIに含まれる「CC-n-V1」、「CC-V-V」に訂正することは、本件明細書の段落【0069】にそれぞれ「RIIb」及び「RIIIa」として記載されていることに基づくものであると共に、新たな技術的事項を導入するものでもない。また、訂正事項2のイ及びウのその他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであり、これらにより新たな技術事項が導入されるものとはいえないから、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2は、請求項間の引用関係を解消し、X及び式RIIで表される化合物を、それぞれ限定的に減縮するものである他、訂正事項2のその他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
訂正事項3のアは、訂正前の請求項1または2を引用していた請求項3のうち、請求項1を引用する請求項3の請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
訂正事項3のイは、訂正前請求項3が引用していた請求項1の「正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とあるのを「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」として含まれる態様を限定し、訂正事項3のウは、訂正前請求項3で択一的に記載されていた「式I1~I30」から「式I3、I12、I13、I14、I15、I17、I18、I19、I21、式I22及びI30」を削除し、削除される化合物に関する『「alkyl」は、1~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり』との記載も併せて削除し、訂正前請求項3に含まれる式Iで表される化合物の態様を限定し、Xを、「(訂正前の)請求項1において定義した通りであり」とされた訂正前のXの選択肢の「F」及び訂正前のXの選択肢の「8個までの炭素原子を有するハロゲン化された・・・置換アルキル基であり、ここで、1つまたは2つ以上のCH2基は、O原子が互いに直接結合しないように、-O-・・・により置換されていることができ」に含まれる「OCF3」に限定し、L1~L6を、訂正前の「HまたはF」の内、「H」に限定するものであるから、訂正事項3のイ及びウは、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項間の引用関係を解消し、請求項3を独立形式請求項へ改めるための訂正事項3のアは、新たな技術事項を導入するものではなく、訂正事項3のウのXを、「FまたはOCF3」とする訂正において、「F」は、訂正前のXの選択肢にあったものであり、「OCF3」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0023】及び【0024】の「式Iで表される化合物におけるXは、好ましくは、
【化22】・・・OCF3・・・」、「【化23】・・・特に・・・OCF3・・・である。」との記載に基づくものであると共に、新たな技術的事項を導入するものでもない。また、訂正事項3のイ及びウのその他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであり、これらにより新たな技術事項が導入されるものとはいえないから、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項3は、請求項間の引用関係を解消し、訂正前のXを限定的に減縮するものである他、訂正事項3の他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4
訂正事項4のアは、訂正前の請求項1または2を引用していた請求項3のうち、請求項2を引用する請求項3の請求項間の引用関係を解消し、他の請求項を引用しない独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
訂正事項4のイは、訂正前請求項3が引用していた請求項1の「正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とあるのを「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」として含まれる態様を限定し、訂正事項4のウは、訂正前請求項3で択一的に記載されていた「式I1~I30」から「式I3、I12、I13、I14、I15、I17、I18、I19、I21、式I22及びI30」を削除し、削除される化合物に関する『「alkyl」は、1~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり』との記載も併せて削除し、訂正前請求項3に含まれる式Iで表される化合物の態様を限定し、Xの選択肢から、CH3、C2H5およびn-C3H7を削除して、含まれる態様を限定し、L1~L6を、訂正前の「HまたはF」の内、「H」に限定するものであるから、訂正事項4のイ及びウは、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項間の引用関係を解消し、請求項3を独立形式請求項へ改めるための訂正事項4のアは、新たな技術事項を導入するものではなく、訂正事項4のイ及びウの訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであり、これらにより新たな技術事項が導入されるものとはいえないから、訂正事項4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項4は、請求項間の引用関係を解消するものである他、訂正事項4の他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項1~3のいずれか一項を引用していた訂正前の請求項4のうち、請求項1を引用する請求項4の請求項間の引用関係を解消し、他の請求項を引用しない独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項5は、請求項間の引用関係を解消するものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであることは明らかであり、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項6
訂正事項6の一つは、訂正前請求項4が、請求項1~3を引用していたのを、訂正事項5で、請求項1~3と請求項4との引用関係を解消し、訂正後の請求項4が、訂正前の請求項1を引用する請求項4の内容を独立形式請求項へ改めたことに伴い、訂正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項4を、訂正後の請求項4を引用し、それに訂正前の請求項2の内容の限定を加えることにより、訂正後の請求項9とするものである。
また、訂正事項6のもう一つは、訂正前の(請求項1又は請求項2を引用する)請求項3を引用する請求項4を、訂正前の請求項1を引用する請求項4が、訂正後の請求項4であり、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4が、訂正後の請求項9であるから、訂正後の請求項4又は9を引用し、それに訂正前の請求項3の内容の限定を加えることにより、訂正後の請求項10とするものである。そうであれば、訂正事項6は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項6は、訂正前の特定の引用関係にある請求項の内容を、請求項の引用関係を変更することにより、同じ内容の請求項として新たに書き改めたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであることは明らかであり、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(7)訂正事項7
上記(6)で述べたように、訂正前の(請求項1を引用する)請求項2を引用する請求項4が、訂正後の請求項9、訂正前の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4、または訂正前の(請求項1を引用する)請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4が訂正後の請求項10であるから、訂正事項7の一つは、訂正前の(請求項1を引用する)請求項2または(請求項1又は2を引用する)請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を、訂正後の請求項9又は10を引用することにより、訂正後の請求項11とするものである。
訂正事項7のもう一つは、同様に、訂正前の請求項2または(請求項1又は2を引用する)請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6を、訂正後の請求項9又は10を引用することにより、訂正後の請求項12とするものである。そうであれば、訂正事項7は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項7は、訂正前の特定の引用関係にある請求項の内容を、請求項の引用関係を変更することにより、同じ内容の請求項として新たに書き改めたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであることは明らかであり、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
なお、訂正事項5~7は、本件無効審判の対象とされていない訂正前の請求項4~6に係るものであるが、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものではないので、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第7項(独立特許要件)の規定は、適用されない。
(8)訂正事項8
訂正事項8のアは、訂正前請求項7が請求項1を引用していたものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
訂正事項8のイは、訂正前請求項7が引用していた請求項1の一般式Iで表される化合物の環A1及びA2を、訂正前のa)、b)またはc)の態様の内、b)の1,4-フェニレン基に限定し、環A3を、訂正前のa)、b)またはc)の態様の内、a)の1,4-シクロヘキシレン基に限定し、環A4を、訂正前の【化4】の選択肢の内、1,4-シクロヘキシレン基に限定し、この限定に伴い削除される選択肢に関する「x、yおよびzは、各々、互いに独立して、0、1または2であり、」との特定を共に削除し、Z1、Z2及びZ3の態様を、訂正前の選択肢の内、「単結合」に限定し、Xを、訂正前の選択肢の中の「8個までの炭素原子を有する・・・非置換アルキル基」に含まれる「n-C3H7」に限定すると共に、訂正前の選択肢の中の「8個までの炭素原子を有する・・・非置換アルキル基」に含まれるCH3の(CH2)-Hの「CH2」の部分(CH2基)を「-CH=CH-」で置換した構造(-CH=CH-H)に相当する「ビニル基」に限定し、a、b及びcがとり得る場合を、「aは、0、1または2であり、bは、0、1または2であり、cは1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3」であったものを、それぞれ、「0」、「1」及び「1」として含まれる態様を限定するものである。
訂正事項8のウは、訂正前請求項7が引用する請求項1で択一的に記載されていた「式RII、RIV、RV、RVII、RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV」から「式RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV」を削除し、さらに、「alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である」と特定されていた式RIIで表される化合物を、式RIIに含まれる「CC-V-V」に限定し、請求項7が引用する請求項1で、液晶媒体にさらに含むとされている化合物の態様を限定するものであるであるから、上記訂正事項イ及びウは、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項間の引用関係を解消し、請求項7を独立形式請求項へ改めるための訂正事項8のアは、新たな技術事項を導入するものではなく、訂正事項8のイの、Xを「n-C3H7またはビニル基」とする訂正は、新たな技術的事項が導入するものではないし、訂正事項8のウで、式RIIで表される化合物を、式RIIに含まれる「CC-V-V」と限定する訂正も、新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項8のイ及びウのその他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであり、これらにより新たな技術事項が導入されるものとはいえないから、訂正事項8は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項8は、請求項間の引用関係を解消し、X及び式RIIで表される化合物を、それぞれ限定的に減縮するものである他、訂正事項8のその他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(9)訂正事項9
訂正事項9のアは、訂正前請求項8が請求項1を引用していたものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
訂正事項9のイは、訂正事項8のイと同じ内容のものであり、訂正事項9のウは、訂正事項2のウと同じ内容のものであるから、訂正事項9のイ及びウは、上記(2)及び(8)で述べたように、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項9のエは、液晶媒体が、【化38】~【化42】で表される安定剤をさらに含むことを規定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項間の引用関係を解消し、請求項8を独立形式請求項へ改めるための訂正事項9のアは、新たな技術事項を導入するものではなく、訂正事項9のイ及びウも、訂正事項2及び8と同様に、新たな技術事項を導入するものでない。さらに、訂正事項9のエに関し、本件明細書【0099】~【0103】には、本件発明の液晶媒体に加えることができる安定剤として、【化38】~【化42】で表される安定剤が記載されている。そして、訂正事項9のエには、安定剤の構造式(【化38】)に含まれるCnH2n+1に関し、「nは、互いに独立して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15である」とする訂正が含まれるが、同段落【0085】には、「本出願および以下の例において、液晶化合物の構造を頭文字で示し、その化学式への変換は、以下の表AおよびBに従って得られる。すべての基CnH2n+1およびCmH2m+1は、それぞれn個およびm個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である;nおよびmは、各々の場合において、互いに独立して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15である。表Bにおけるコードは自明である。」との記載があり、この「n」の規定は、少なくとも、この記載の後に続く【表1】、表Aおよび表B内にある基CnH2n+1に関するものであることは明らかであるが、さらに続く同段落【0099】~【0103】の安定剤の記載の前後に、別の「n」に関する規定がないことから、同段落【0085】の「すべての基CnH2n+1」の「すべて」とは、同段落【0099】~【0103】の安定剤の記載中の「CnH2n+1」も含むと解するのが自然であるといえる。そうであれば、訂正事項9は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項9は、請求項間の引用関係を解消し、X及び式RIIで表される化合物を、それぞれ限定的に減縮し、液晶媒体が、【化38】~【化42】で表される安定剤をさらに含むものであることを規定し、特許請求の範囲を減縮するものである他、訂正事項9の他の訂正は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、訂正事項9は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(10)本件訂正に対する請求人の主張について
ア 本件訂正に対する請求人の主張
請求人は、本件訂正が以下の点で、訂正要件に違反していることを第2弁駁書で主張している。
(ア)「訂正事項1は,式IをPP-13に限定する。しかし,被請求人も認めるとおり,PP-1-3は,本件明細書には何ら具体的に開示されていない(被請求人上申書7頁)。式Iという上位概念から,何ら具体的な開示のないPP-13に限定する訂正は,新たな技術的事項を導入するものであり,許されない。」(第11頁第26行~第12頁第3行)
(イ)『訂正事項2(7及び8)は,第2成分(・・・)をRIIのうちの特定の構造;CC-n-V及びCC-V-V,RIV,RV及びRVIIに限定しようとするものである。
しかし,本件明細書には,「好ましくは,以下のRI~RXIV・・・からなる群から選択された化合物を含む。」との記載があるだけである(・・・)。RII,RIV,RV,RVII,RVIII,RXI,RXII及びRXIVがそれぞれどのような特有の技術的意義を有するのか,何ら記載が無い。RIIのうち特定の構造が他の構造とは異なる技術的意義を有するとの記載も無い。・・・仮に,被請求人が,訂正事項2(7及び8)によって新たな技術的意義が生じると主張するのであれば,その主張は,本件明細書にはない新たな技術的事項を追加するものであり,訂正事項2(7及び8)は,新規事項の追加に当たる。』(第13頁第5行~第18行、第15頁第4~6行)
(ウ)「訂正事項3は,式Iのうち特に式I1,I2,I4ないしI11,I16,I20,I23ないしI29について,式Iの末端基であるXをF又はOCF3に限定する。しかし,被請求人も認めるとおり,X=OCF3は,設定登録時の請求項3には具体的に記載されていない。本件明細書の【0023】及び【0024】には,末端基Xとして,長大なリストが挙げられており・・・その中から,式Iを特に式I1,I2,I4ないしI11,I16,I20,I23ないしI29に限定し,かつ式Iの末端基であるXをF又はOCF3に限定するという具体的な組み合わせは,本件明細書には開示されていない。」(第13頁第20行~第14頁第5行)
(エ)『訂正事項8及び9では,式IがCCP-V-1又はCCP-31に限定されている。しかし,CCP-V-1は,式Iには含まれない。CCP-V-1のV(ビニル基)の位置は,式IのXの位置に対応するところ,Xは,炭素数3以上のアルケニル基に及ぶものの,炭素数が2のアルケニル基(つまりビニル基)を含まない。詳細な理由は,以下のとおりである。
Xにおいて,非置換アルキル基は,「1つまたは2つ以上のCH2基は,・・・-O-又は-CH=CH-により置換されていることができる」(請求項1)・・・炭素数が1の非置換アルキル基,つまり-CH3基は,-CH2基を有していない。・・・したがって,Xは・・・炭素数が2のアルケニル基(つまり,ビニル基)を含まない・・・したがって,訂正事項8及び9は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない・・・さらに,訂正事項8及び9は,本件明細書に開示のない化合物を取り込もうとしているため,新たな技術事項を導入する・・・。』(第14頁第11行~第15頁第2行)
イ 請求人の主張に対する当審の判断
上記請求人の主張の(ア)~(エ)に対する当審の判断は、それぞれ以下のとおりであり、いずれの主張も、採用することができない。
(ア)訂正前の請求項1の式Iにおいて、環A1~環A4、x~z、Z1~Z3、X、a~cをそれぞれの選択肢や選択し得る範囲に従って各特定事項を選択すれば、「PP-13」が導かれることは、上記(1)で述べたとおりである。そして、「PP」の構造自体は、通常考えられない組合せということはないし、Xとしてのn-C3H7も、通常考えられない構造ということもないから、式Iの具体的化合物として、本件明細書に「PP-13」そのものが記載されていないとしても、式Iを「PP-13」に限定することが、直ちに新たな技術的事項を導入することになるとはいえない。
また、被請求人からの平成29年12月13日提出の上申書を見ても、「PP-13」を含む液晶媒体について、式Iに含まれる「CCP-31」を含む液晶媒体と同様に、本件発明の発明の課題を解決できること等は主張はしている(第7、8頁)ものの、「PP-13」が、式Iに含まれる他の化合物と異なる技術的意義を有するとの主張はなされていない。
そうすると、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではない。
(イ)被請求人からの平成29年12月13日提出の上申書を見ても、RIIのうち本件明細書に記載される特定の構造の「CC-n-V1」及び「CC-V-V」が、訂正前の請求項1の式RII,RIV,RV,RVII,RVIII,RXI,RXII及びRXIVの化合物に対して異なる技術的意義を有するとの主張はなされていない(例えば、第14、15頁)から、RIIを特定の構造の「CC-n-V1」及び「CC-V-V」と訂正することが、新たな技術的事項を導入することになるとはいえない。
そうすると、訂正事項2、7及び8は、新たな技術的事項を導入するものではない。
(ウ)式I1~I30の化合物には、そもそも末端基としてXが存在しており、本件訂正によって式Iの化合物とXを組み合わせたわけではない。そして、I1~I30の化合物から、式I1,I2,I4ないしI11,I16,I20,I23ないしI29の化合物が選択されたのは、単に、それ以外の式Iの化合物が削除されたためである。さらに、Xに多数の選択肢があったとしても、末端基の「F又はOCF3」は、通常考えられないような末端基ということもないから、式I1,I2,I4ないしI11,I16,I20,I23ないしI29の化合物において、Xとして、「F又はOCF3」を選択することが、新たな技術的事項を導入することになるとはいえない。
そうすると、訂正事項3は、新たな技術的事項を導入するものではない。
(エ)上記(8)で述べたように、Xの選択肢として許容されていた非置換アルキル基には-CH3基が含まれるが、この-CH3基は、-CH2基とHからなるものと見ることができ、そしてこの-CH2基を「-CH=CH-」で置換すれば、-CH=CH-H、すなわちビニル基となる。
そして、本件明細書の段落【0024】には、Xの選択肢として、「CH=CF2,CF=CF2・・・CH=CHF・・・CF=CHF」が記載されているが、これらの構造がXの選択肢に含まれていることを考慮すると、Xが、炭素数2のアルケニル基(ビニル基)を含まないということはない。
そうすると、訂正事項8及び9が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではないとはいえないし、新たな技術的事項を導入するものであるともいえない。
3 訂正に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の各規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。
訂正後の請求項2、3、4~6、7、8、9~12及び13に係る上記訂正事項は、引用関係の解消を目的とする訂正を含むものであって、その訂正が認められるものである。そして、特許権者(被請求人)から、訂正後の請求項2、3、4~6、7、8、9~12及び13について訂正が認められるときは請求項1とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項1、2、3、〔4~6、9~12〕、7、8、13について、別の訂正単位として訂正することを認める。
第4 本件特許請求の範囲の記載
上記「第3」のとおり、本件訂正の請求は適法なものであるから、訂正後の請求項1~13の記載は、以下のとおりとなる。そして、訂正後の請求項4~6、9~12は、本件無効審判の請求の対象となっていなかった請求項4~6に対応するものであるから、本件無効審判の請求の対象となるのは、請求項1~3、7、8、13である。
「【請求項1】 正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、一般式I
【化1】
式中、
【化2】
環A1,環A2および環A3
は、1,4-フェニレン基であり、
【化3】
環A4
は、
【化4】
1,4-フェニレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7であり、
aは、0であり、
bは、0であり、
cは、1である、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体であって、さらに、式RII、RIV、RV、RVII、RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV:
【化5】
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体。
【請求項2】 正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、一般式I
【化6】(省略)
式中、
【化7】
環A1および環A2
は、1,4-フェニレン基であり、
【化8】
環A3
は、1,4-シクロヘキシレン基であり、
【化9】
環A4
は、
【化10】
1,4-シクロヘキシレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7であり、
aは、0であり、
bは、1であり、
cは、1である、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体であって、さらに、以下の式:
【化11】
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
nは、2~8の整数である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体。
【請求項3】 正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、以下の式:
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
式中、
Xは、FまたはOCF3であり、L1~L6は、Hである、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体であって、さらに、以下の式:
【化17】(省略)(当審注:請求項1の【化5】と同じ。)
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基である、
alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体。
【請求項4】 正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、一般式I
【化18】(省略)
式中、
【化19】
環A1,環A2および環A3
は、
a)1,4-シクロヘキセニレンまたは1,4-シクロヘキシレン基であり、ここで、1つまたは2つの非隣接CH2基は、-O-または-S-により置換されていることができ、
b)1,4-フェニレン基であり、ここで、1つまたは2つのCH基は、Nにより置換されていることができ、
c)ピペリジン-1,4-ジイル、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン、ナフタレン-2,6-ジイル、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル、フェナントレン-2,7-ジイルおよびフルオレン-2,7-ジイルからなる群からの基であり、
ここで、基a)、b)およびc)は、ハロゲン原子により一置換または多置換されていることができ、
【化20】
環A4
は、
【化21】(省略)
であり、
x、yおよびzは、各々、互いに独立して、0、1または2であり、
Z1およびZ2は、各々、互いに独立して、-CO-O-、-O-CO-、-CF2O-、-OCF2-、-CH2O-、-OCH2-、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-C2F4-、-CH2CF2-、-CF2CH2-、-CF=CF-、-CH=CH-、-C≡C-または単結合であり、
Z3は、-O-CO-、-CF2O-、-OCF2-、-CH2O-、-OCH2-、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-C2F4-、-CH2CF2-、-CF2CH2-、-CF=CF-、-CH=CH-、-C≡C-または単結合であり、
Xは、F、Cl、CN、SF5、NCS、8個までの炭素原子を有するハロゲン化された、または非置換アルキル基であり、ここで、1つまたは2つ以上のCH2基は、O原子が互いに直接結合しないように、-O-または-CH=CH-により置換されていることができ、
aは、0、1または2であり、
bは、0、1または2であり、
cは、1または2であり、ここで1≦a+b+c≦3である、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体であって、さらに、式RII、RIV、RV、RVII、RVIII、RXI、RXIIおよびRXIV:
【化22】(省略)
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含み、さらに、
一般式II、III、IV、V、VI、VII、VIIIおよびX:
【化23】~【化25】(省略)
式中、個別の基は、以下の意味を有する:
R0は、各々2~12個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
X0は、F、Cl、各々8個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル、ハロゲン化アルケニルオキシまたはハロゲン化アルコキシであり、
Z0は、-CH=CH-、-CH2O-、-OCH2-、-(CH2)4-、-C2H4-、-C2F4-、-CF=CF-、-CF2O-、-OCF2-または-COO-であり、
Y1、Y2、Y3およびY4は、各々、互いに独立して、HまたはFであり、および
rは、0または1である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体。
【請求項5】 全体としての混合物中の式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIIIおよびXのいずれかで表される化合物の比率が、少なくとも50重量%であることを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
【請求項6】 X0が、F、OCHF2またはOCF3であり、Y2が、HまたはFであることを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
【請求項7】 正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、一般式I
【化26】(省略)
式中、
【化27】
環A1および環A2
は、1,4-フェニレン基であり、
【化28】
環A3
は、1,4-シクロヘキシレン基であり、
【化29】
環A4
は、
【化30】
1,4-シクロヘキシレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7またはビニル基であり、
aは、0であり、
bは、1であり、
cは、1である、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体であって、さらに、以下の式:
【化31】
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体の、電気光学的目的への使用。
【請求項8】 正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、一般式I
【化32】(省略)
式中、
【化33】
環A1および環A2
は、1,4-フェニレン基であり、
【化34】
環A3
は、1,4-シクロヘキシレン基であり、
【化35】
環A4
は、
【化36】
1,4-シクロヘキシレン基(当審注:訂正特許請求の範囲では構造式で記載されている。)
であり、
Z1、Z2およびZ3は、単結合であり、
Xは、n-C3H7またはビニル基であり、
aは、0であり、
bは、1であり、
cは、1である、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体であって、さらに、以下の式:
【化37】(省略)(当審注:請求項2の【化11】と同じ。)
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、
nは、2~8の整数である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含み、さらに、以下の式:
【化38】
【化39】~【化42】(省略)
式中、nは、互いに独立して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15である、のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の安定剤を含むことを特徴とする、前記液晶媒体を含む、電気光学的液晶ディスプレイ。
【請求項9】 式I中のXが、
【化43】(省略)
であることを特徴とする、請求項4に記載の液晶媒体。
【請求項10】 式I1~I30:
【化44】~【化48】(省略)
式中、
Xは、請求項4において定義した通りであり、「alkyl」は、1~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基であり、L1~L6は、各々、互いに独立して、HまたはFである、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする、請求項4または9に記載の液晶媒体。
【請求項11】 全体としての混合物中の式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIIIおよびXのいずれかで表される化合物の比率が、少なくとも50重量%であることを特徴とする、請求項9または10に記載の液晶媒体。
【請求項12】 X0が、F、OCHF2またはOCF3であり、Y2が、HまたはFであることを特徴とする、請求項9または10に記載の液晶媒体。
【請求項13】 正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、以下の式:
【化49】~【化53】(省略)(当審注:請求項3の【化12】~【化16】と同じ。)
式中、
Xは、
【化54】
F,C1,CN,NCS,CF3,C2F5,n-C3F7,SF5,CF2H,OCF3,OCF2H,OCFHCF3,OCFHCFH2,OCFHCF2H,OCF2CH3,OCF2CFH2,OCF2CF2H,OCF2CF2CF2H,OCF2CF2CFH2,OCFHCF2CF3,OCFHCF2CF2H,OCF2CF2CF3,CF2CHFCF3,CF2CH2CF3,OCH2CF2CHFCF3,OCF2CHFCF3またはOCClFCF2CF3
L1~L6は、Hである、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体であって、さらに、以下の式:
【化55】(省略)(当審注:請求項1の【化5】と同じ。)
式中、
R0は、各々2~8個の炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
dは、0、1または2であり、
alkylおよびalkyl*は、各々、互いに独立して、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基である、
alkenylは、2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基である、
のいずれかで表される化合物からなる群から選択された1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体。」
(以下、本件訂正後の上記請求項1ないし13に係る発明を、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明13」といい、これらを併せて「本件発明」ということもある。)
第5 請求人が主張する無効理由
請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである。
無効理由1、2、3、4
ただし、第1回口頭審理調書の「請求人」の「4」によれば、訂正前の請求項3の式I1~I30のうち、I12、I15、I19、I21、I22及びI30が削除される訂正を含む本件訂正が認められる場合は、無効理由2は審理の対象としないことが確認され、「被請求人」の「4」で前記「請求人」の「4」について同意されている。
したがって、以下では、無効理由1、3、4のみについて判断していくが、本件訂正を考慮すると、無効理由1、3、4は、それぞれ以下のとおりであると認められる。
無効理由1(1-1~1-3) :本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしていないので、本件発明1ないし3、7、8、13についての特許は、特許を受けることができるものではなく、同法同条第6項第1号に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由3 :本件発明1ないし3、7、8、13は、甲1実施例5、又は甲9実施例10の発明であるか、又は甲1実施例5、又は甲9実施例10の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、本件発明2は、甲12例4の発明であるか、又は甲12例4の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1ないし3、7、8、13は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件発明1ないし3、7、8、13についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
以下、甲1実施例5を主発明とする場合を「無効理由3-1」、甲9実施例10を発明とする場合を「無効理由3-2」とする。
請求人は、審判請求書の第89頁~92頁「別紙2」で、「甲1実施例4」、「甲1実施例5」、「甲3実施例2」、「甲3実施例3」、「甲3実施例4」、「甲3実施例6」、「甲3実施例8」、「甲3実施例10」、「甲4実施例1」、「甲4実施例2」、「甲4実施例8」、「甲4実施例9」、「甲4実施例12」、「甲4実施例13」、「甲5使用例14」、「甲6実施例18」、「甲7使用例7」、「甲7使用例10」、「甲8実施例26」、「甲9実施例10」、「甲9実施例12」、「甲10実施例10」、「甲10実施例12」、「甲11実施例10」、「甲12例4」を挙げて、訂正前の請求項1の組成に対応付けて比較を行い、本件発明の新規性及び進歩性の欠如の主張をした。その後、論点を分かりやすくするために、審判請求書に対する平成28年7月1日付け手続補正書では、「甲1実施例5」又は「甲9実施例10」の発明を主引用発明とし、本件発明の新規性及び進歩性の欠如を主張したが、本件訂正を受けて、平成28年11月18日付け審判事件弁駁書において、「甲12例4」の発明を主引用発明とする本件発明2の新規性及び進歩性の欠如の主張も行った(第35~36頁)。
「甲12例4」の発明を主引用発明とする本件発明2の新規性及び進歩性の欠如の主張は、無効理由4でもなされているので、無効理由4の中で検討することとする。
無効理由4 :本件発明1ないし3、7、8、13は、甲2例1等、又は甲4実施例16の発明であるか、又は甲2例1等、又は甲4実施例16の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、本件発明1は、甲17例1又は例2の発明であるか、又は甲17例1又は例2の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。さらに、本件発明2は、甲12例4の発明であるか、又は甲12例4の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1ないし3、7、8、13は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件発明1ないし3、7、8、13についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
以下、甲2例1等を主発明とする場合を「無効理由4-1」、甲4実施例16を主発明とする場合を「無効理由4-2」、甲17例1又は例2を主発明とする場合を「無効理由4-3」、「甲12例4」を主発明とする場合を「無効理由4-4」とする。
請求人は、審判請求書の第93頁~96頁「別紙3」で、「甲2例1」、「甲2例2」、「甲2例3」、「甲2例4」、「甲4実施例11」、「甲4実施例15」、「甲4実施例16」、「甲5使用例13」、「甲6実施例17」、「甲7使用例6」、「甲8実施例25」、「甲11実施例9」、「甲12例1」、「甲12例4」、「甲14例4」、「甲14例7」、「甲15例1」、「甲16例3」、「甲16例4」、「甲16例6」、「甲16例7」、「甲17例1」、「甲17例2」を挙げて、訂正前の請求項1の組成に対応付けて比較を行い、本件発明の新規性及び進歩性の欠如の主張をした。その後、論点を分かりやすくするために、審判請求書に対する平成28年7月1日付け手続補正書では、「甲2例1」又は「甲4実施例16」の発明を主引用発明とし、本件発明の新規性及び進歩性の欠如を主張したが、本件訂正を受けて、平成28年11月18日付け審判事件弁駁書において、「甲17例1又は例2」の発明を主引用発明とする本件発明1の新規性及び進歩性の欠如を、「甲12例4」の発明を主引用発明とする本件発明2の新規性及び進歩性の欠如を主張も行った(第53~54頁、58頁)。
第6 当審の判断
当審は、次のとおり判断する。
請求人が主張する、本件発明1ないし3、7、8、13に対する無効理由3-1及び3-2、並びに無効理由4-1、4-2、4-3及び4-4、本件発明3及び13に対する無効理由1は、理由がないものであるが、本件発明1、2、7、8に対する無効理由1については、理由があるから、本件発明1、2、7、8についての特許は、無効とすべきものである。
一方、本件発明3、13についての特許は、無効とすべき理由がなく、本件発明3、13についての本件審判請求は、成り立たない。
以下、その理由につき詳述する。
1 無効理由1について
無効理由1は、「本件発明1~3、7、8、13は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである」というものである。
そして、ここでの論点は、次の3点である。
(1)本件発明の一般式Iで表される化合物と、明細書に記載される「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の対応について
(2)本件明細書の段落【0017】に記載される「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の技術的な裏付けについて
(3)本件発明の液晶媒体の誘電異方性について
上記(1)には、さらに
(1-1)「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の末端極性基について
(1-2)本件発明1の一般式Iで表される化合物について
の論点がある。
以下、各論点について、順次、検討を行う。
(1)本件発明の一般式Iで表される化合物と、明細書に記載される「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の対応について
(1-1)「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の末端極性基について
無効理由1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を問題とするものであるから、検討に先立ち、本件明細書の記載事項をまず確認する。
ア 本件発明が解決しようとする課題について
本件発明が解決しようとする課題に関して、本件特許明細書の段落【0016】には「本発明は、前述の欠点を有しないか、または有しても小さい程度のみであり、かつ好ましくは同時に極めて高い比抵抗値および低いしきい値電圧を有する、特にこのタイプのMLC、TNまたはSTNディスプレイ用の媒体を提供する目的を有する。この目的は、高い透明点および低い回転粘度を有する液晶化合物を必要とする。」との記載、同段落【0013】には「従って、これらの欠点を有しないか、または有しても小さい程度のみである、極めて高い比抵抗値および同時に大きい動作温度範囲、低温においても短い応答時間および低いしきい値電圧を有するMLCディスプレイに対する多大の要求が継続している。」との記載がある。ここで、段落【0016】の「前述の欠点」及び段落【0013】の「これらの欠点」については、明示的な記載はないが、同じ段落に記載されている内容が、「前述の欠点」及び「これらの欠点」に関連していると解されるから、本件発明が解決しようとする課題は、特に、「極めて高い比抵抗値」、「高い透明点であるか大きい動作温度範囲」、「低い回転粘度であるか低温においても短い応答時間」、「低いしきい値電圧」の4点において、従来技術の欠点を有しないか、または有しても小さい程度のみである、特に、MLC、TNまたはSTNディスプレイ用の媒体を提供するものであるといえる。そして、同段落【0017】の「この目的は、末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物を用いる場合に達成することができることが見出された。式Iで表される化合物は、弾性定数、特にK1を減少させ、特に低いしきい値電圧を有する混合物をもたらす。」との記載によれば、この中で、減少した弾性定数、特にK1によってもたらされる低いしきい値電圧が強調されている。
イ 課題を解決するための手段について
課題の解決手段として、上述の同段落【0017】に、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」を用いることが記載されているが、本件発明が、この手段を採用することにより上記の課題を解決できることに関する作用機序に関連する記載は、本件明細書に見当たらず、液晶媒体に「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」が存在すれば、何故、上述の発明の課題を解決できるのかを本件明細書の記載から客観的に把握することができない。
これに関し、被請求人は、平成29年4月13日提出の口頭審理陳述要領書の第5頁第22行~第6頁第6行で「本発明では、これまでほとんど着目されてこなかった、末端基としてメチル基を有する液晶化合物にあえて着目した。その結果、メチル基を有する式(I)の化合物が、弾性定数、特にK1を減少させ、しきい値電圧を低下させることが判明した。本件特許の優先日においては弾性定数の大きさを見積もることを可能にする明確な理論が存在せず、液晶化合物の構造から弾性定数を予測することが困難であるため、かかる効果が得られる厳密な機序はわからないが、おそらく、メチル基を導入し、他方の末端極性基と組み合わせることによって、弾性率に関わる上記各因子が適切な範囲に収まったためと推測される。
さらに、末端基としてメチル基より長い鎖長を有するアルキル基は液晶化合物にとって最も一般的な置換基であるところ、これをメチル基に変更したものは、環構造等を変更した場合とは違って、他の特性(透明点、回転粘度等)にも不利な影響を及ぼさないものと推測される。」と釈明しているが、この内容は、漠然としたもので上述の課題が解決できることを直接的に説明するものでないばかりか、客観的な根拠に裏付けられたものではないから採用できない。
また、平成29年12月13日提出の上申書の第10頁第2行~第11頁第7行で『一般に、(棒状)液晶化合物は、環構造に代表されるコア部分と、適度な長さの末端アルキル基に代表される柔軟な部分とを有するところ、液晶化合物が通常有する末端アルキル基の長さを短くして、その最たる末端CH3基とすることにより、当該液晶化合物は通常の長さの末端アルキル基を有する液晶化合物に比して、これを含む液晶媒体の液晶性、すなわち分子配向の程度をいくぶん低下させると予想される。かかる分子配向の程度は、液晶の技術分野においては秩序パラメータSによって表され・・・末端CH3基を有する液晶化合物が液晶媒体の分子配向に及ぼす上記の影響は、「末端CH3基を有する液晶化合物は、従来の液晶化合物に比して、これを含む液晶媒体の秩序パラメータSを低下させる」と言い換えることができる。
また、液晶の技術分野においては、秩序パラメータSと弾性定数Kiとの間で下記の関係が成り立つことが知られている(例えば、乙第5号証)。
Ki~S2
今回訂正後の本件特許発明において注目すべき弾性定数はK1(スプレイモード)であるから、下記の関係式に基づいて検討を行う。
K1~S2
上記関係式より、末端CH3基を有する液晶化合物が液晶媒体のK1に及ぼす影響は、K1とSとの関係を考慮すると、「末端CH3基を有する液晶化合物は、従来の液晶化合物に比して、これを含む液晶媒体のK1を低下させる」と言い換えることができる。そして、末端CH3基を導入することによるこのような秩序パラメータSの最適化とK1の低下こそが、まさしく、上記口頭審理陳述要領書にて述べた「メチル基を導入し、他方の末端極性基と組み合わせることによって、弾性率に関わる各因子が適切に収まった」(6-(3)の項)ことのより詳細な説明である。
なお、秩序パラメータSは、液晶化合物およびこれを含む液晶媒体の正負に依存しないことから、末端CH3基を有する液晶化合物がこれを含む液晶媒体のK1を低下させることの上記説明は、今回訂正後の本件特許発明が包含するあらゆる態様について成り立つということができる。』と釈明しているが、上記の「液晶化合物が通常有する末端アルキル基の長さを短くして、その最たる末端CH3基とすることにより、当該液晶化合物は通常の長さの末端アルキル基を有する液晶化合物に比して、これを含む液晶媒体の液晶性、すなわち分子配向の程度をいくぶん低下させると予想される」ことに関しては、客観的な根拠に裏付けられたものではない。むしろ、技術常識としては、末端アルキル基の長さが短くなれば、液晶化合物に対する末端アルキル基の寄与は小さくなるのに対し、環構造に代表され分子配向性が高いコア部分の寄与が大きくなるから、末端CH3基を有する液晶化合物の分子配向の程度は、通常の長さの末端アルキル基を有する液晶化合物に比して高くなることが推認される。
そうすると、末端CH3基を有する液晶化合物は、従来の液晶化合物に比して、これを含む液晶媒体の秩序パラメータSを低下させるとは直ちに認めることはできず、この前提に基づいた、末端CH3基を有する液晶化合物がこれを含む液晶媒体のK1を低下させるとの釈明も採用することができない。
よって、被請求人の釈明を考慮したとしても、本件発明において、液晶媒体に「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」が存在しさえすれば、特に、減少した弾性定数、K1によってもたらされる低いしきい値電圧が得られ、上述の本件発明の課題が解決できるとは本件明細書の記載から客観的に把握することができない。
ウ 本件発明の実施例について
上述のように、本件明細書の記載では、液晶媒体に「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」が存在しさえすれば、上述の発明の課題が解決できるとは本件明細書の記載から客観的に把握することができないのであるから、次に、本件発明の具体例である実施例を見て、実施例に用いられている訂正前の請求項1(特許設定登録時の請求項1)の一般式Iに含まれる化合物と上述の本件発明の課題について確認する。
ここで、実施例で使用されている、一般式Iに含まれる化合物は、以下のものである。
例M1、例M2:「CCP-10CF3.F」
例M3:「CCP-10CF3.F」、「CCP-V-1」
例M4~例M7:「CCZU-1-F」
例M8~例M10:「CGU-1-F」
例M11~例M16、例M23~例M28、例M30、例M31、例M33~例M36、例M39、例M41、例M42、例M48:「CCP-1F.F.F」
例M17、例M19:「CGZP-1-OT」、「CCP-V-1」
例M18、例M20~例M22:「CGZP-1-OT」
例M29、例M32、例M37、例M38、例M40:「CCP-1F.F.F」、「CCP-V-1」
例M43、例M47:「CWCQU-1-F」
例M44~例M46:「CCP-1F.F.F」、「CWCQU-1-F」
例M49~例M51:「PUQU-1-F」
例M52、例M53:「CCP-1F.F.F」、「PUQU-1-F」、「CCP-V-1」
例M54、例M55:「CQU-1-F」
例M56、例M57:「CCP-1F.F.F」、「CQU-1-F」
例M58、例M59、例M61、例M62:「CCQU-1-F」
例M60:「CCP-1F.F.F」、「CCQU-1-F」、「CCP-V-1」
例M63:「PUQU-1-F」、「CCP-1F.F.F」、「CCP-31」
例M64:「CCZU-1-F」、「PUQU-1-F」、「CCP-1F.F.F」、「CCP-31」
例M65:「CPZU-1-F」、「CCZU-1-F」、「CCQU-1-F」、「CCP-1F.F.F」、「CCP-31」
例M66:「BCH-1F.F.F」、「CCP-1F.F」、「CCP-31」
例M67:「CCP-31」、「CCP-1F.F.F」、「CPZU-1-F」、「CCZU-1-F」
例M68、例M69:「CCP-1F.F.F」、「CCP-31」、「CCZU-1-F」
例M70:「CECG-1-F」
例M71、例M72:「CCGU-1-F」
これらを見ると、いずれの実施例も、一般式Iで表される化合物として、末端CH3基と末端基として、「OCF3」又は「F」等の、F原子の大きな電気陰性度により、複数の環の連結方向である長軸方向に大きな誘電異方性(正の誘電異方性)を生じる極性基(以下、「正の誘電異方性極性基」という。)を有する化合物を含み、これらは、本件明細書の段落【0017】での「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」に含まれる化合物であることが分かる。
そして、全ての実施例が、「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物を含んでいること、及び、例M5、例M10、例M13、例M21、例M22、例M30は、一般式Iで表される化合物として、「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物のみを含む液晶媒体であるが、これらについてはK1等の本件発明の課題とする特性を評価していることから、本件発明の課題の解決手段としての「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」として、「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物が必須であることが分かる。
一方、いくつかの例では、本件発明2、7及び8の一般式Iで表される化合物に合致する、「正の誘電異方性極性基」を有する化合物ではない「CCP-V-1」又は「CCP-31」も使用されているが、これらの化合物が含まれる液晶媒体には、必ず、「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物が含まれている。そして、前述の発明の課題として強調されている、K1によってもたらされる低いしきい値電圧に関し、「V10,0,20」等の特性を見ても、一般式Iで表される化合物で表される化合物として、「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物のみを含む液晶媒体の「V10,0,20」等の特性と、「CCP-V-1」又は「CCP-31」及び「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体の「V10,0,20」等の特性を比べても、後者について、傾向的な特性の向上が見られることもなく、液晶媒体が「CCP-V-1」又は「CCP-31」を含むことによる特性の向上を見出すことはできない。
さらに、化合物の誘電異方性が「正」となるか否か、ひいていは液晶媒体の誘電異方性がどの様な極性になるか等、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の末端極性基が、「OCF3」又は「F」となるか、「V(ビニル基)」又は「n-C3H7」となるかで、化合物の有する化学的特性が異なるものとなることは、技術常識に照らして明らかであるといえ、実際、末端基が「V(ビニル基)」又は「n-C3H7」である一般式Iで表される化合物として、「CCP-V-1」又は「CCP-31」(のみ)を液晶媒体に含んだ場合にも、「正の誘電異方性を有する式I化合物」と同等の特性が得られること、ひいては本件発明の課題が解決できることは、本件発明の優先日当時の技術常識を考慮したとしても、本件明細書から読み取ることができない。
また、「CCP-V-1」又は「CCP-31」は、上記極性基に対応する基が「V(ビニル基)」又は「n-C3H7」であるが、甲25の「(e)極性基 炭化水素においては結合の両端が同じ炭素原子であり,結合を作っている軌道上で電子の偏りはない。」等の記載によれば、炭化水素であるビニル基又はアルキル基を「極性基」であるとすることはできないことも踏まえると、末端基として「V(ビニル基)」又は「C3H7」を有する「CCP-V-1」又は「CCP-31」は、発明の解決手段とされいる「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の化合物であると把握することができない。
そうすると、上記「イ」で述べたように本件明細書からは、液晶媒体に「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」が存在しさえすれば、本件発明の課題を解決することができるということはできないし、上記「ウ」で述べたように実施例から、本件発明の課題を解決することができる液晶媒体は、極性官能基として「OCF3」又は「F」等の「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物を含むものだけであるから、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」に対応する本件発明の一般式Iで表される化合物のXが、「V(ビニル基)」又は「n-C3H7」である場合に、この化合物が含まれる液晶媒体で本件発明の課題を解決することができることを、本件発明の優先日当時の技術常識を加味したとしても、本件明細書の記載から把握することができない。
エ 被請求人提出の実験レポートについて
被請求人は、平成29年4月13日提出の口頭審理陳述要領書で追加の実験結果として、「実験レポート1(式I化合物(当審注:CCP-31であって、末端基XがC3H7)を含み、Δεが正の媒体)」、「実験レポート2(式I化合物(当審注:CCP-31であって、末端基XがC3H7)を含み、Δεが負の媒体)」、「実験レポート3(式I化合物(当審注:CCP-V-1であって、末端基Xがビニル基)を含み、Δεが負の媒体)」、「実験レポート4(式I化合物(当審注:PP-13であって、末端基XがC3H7)を含み、Δεが負の媒体)」、「実験レポート5(式I化合物(当審注:CCP-31FFであって、末端基XがC3H7)を含み、Δεが負の媒体)」での結果を示している。
ここで、実験レポート1、2、4、5で使用される式I化合物の末端基Xは、いずれも、「n-C3H7」であり、実験レポート3で使用される式I化合物の末端基Xは、「ビニル基」である。
さらに、被請求人は、平成29年12月13日提出の上申書で追加の実験結果として、「実験レポート6(式I化合物(当審注:CCP-31であって、末端基XがC3H7)を含み、Δεが負の媒体)」での結果を示している。
しかしながら、そもそも、発明の詳細な説明に、本件優先日の当業者の技術常識を参酌しても、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示していない場合に、本件の当初明細書のいわば不足部分を補う追加実験の結果を参酌することはできない。
仮に、当該実験の結果を参酌することができるとして、各実験結果を見たとしても、上記の「実験レポート1」の構成成分M1p、M1p’、C1pでの実験、「実験レポート3」の構成成分M3、C2での実験、「実験レポート4」の構成成分M4、C3での実験、「実験レポート5」の構成成分M5、C5での実験は、いずれも、同じ式I化合物が含まれ、式I化合物の末端基Xの種類の違いによる液晶組成物の特性を比較することはできない。
また、「実験レポート2」も構成成分M1、C1での実験では同じ式I化合物が含まれ、C4では式I化合物が含まれないものであるから、やはり、式I化合物の末端基Xの種類の違いによる液晶組成物の特性を比較することはできない。
さらに、「実験レポート6」では、CCP-31を含む構成成分M6と、CCP-31を含まずCCP-31に代えてCCP-36を含む構成成分C6の比較を行い、M6のK1及びV0が、それぞれ、14.6及び2.26であるのに対し、C6のK1及びV0が、それぞれ、15及び2.29であることを示しているとし、CCP-31を含む構成成分M6は、K1の減少、及びしきい値の低下を示すとしているが、CCP-36は、CCP-31のCH3基をC6H13基に置換した関係にあるもので、この比較は、末端基Xの種類の違いによる液晶組成物の特性を比較するものではない。また、「実験レポート6」では、比較の対象として、CCP-36を用いているが、本件発明でも、末端アルキル基として炭素数が6以上の化合物を用いているのは72の実施例の内、例M19、例M23、例M26、例M27、例M43、例M66、例M70~例M72の数例であるように、末端アルキル基の炭素数が6である液晶化合物は、液晶媒体における主要な液晶化合物とはいえず、「実験レポート6」で比較の対象としているCCP-36は、従来一般的に使用されていた液晶化合物と認めることができないから、CCP-36を比較の対象としているCCP-31を含む構成成分M6に関する結果をもって、CCP-31が、本件発明の解決することができる化合物であることを把握することができない。
加えて、実験レポートの末端基XがC3H7である一般式Iで表される化合物を含む各液晶媒体と、末端基Xが「OCF3」又は「F」である一般式Iで表される化合物を含む本件発明の各液晶媒体の特性を比較しようにも、一般式Iで表される化合物以外の液晶媒体の組成が対応しているとはいえないから、比較したとしても末端基Xの種類による液晶媒体の特性への影響を把握することができない。
オ 小括
以上の事項を総合すると、本件発明の課題の解決手段とされている「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の末端極性基に対応する基が、「n-C3H7」又は「ビニル基」である本件発明1、2、7、8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
一方で、一般式Iで表される化合物を限定した式I1、I2、I4ないしI11、I16、I20、I23ないしI29の化合物の末端極性基が「FまたはOCF3」とされている本件発明3、及び、同じく式I1、I2、I4ないしI11、I16、I20、I23ないしI29の化合物の末端極性基が、FまたはOCF3を含め複数の環の連結方向である長軸方向に大きな誘電異方性(正の誘電異方性)を生じる極性基の選択肢とされている本件発明13は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
(1-2)本件発明1の一般式Iで表される化合物(PP-13)について
上記(ウ)で述べた各実施例を見ても「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」として、具体的に開示されているのは、ほとんどが3環以上の化合物であり、2環の化合物は、「CQU-1-F」のみであり、この「CQU-1-F」は、1,4-シクロヘキシレン基とフッ素置換された1,4-フェニレン基が「CF2O」を介して結合した正の誘電異方性を有する化合物である。
一方、本件発明1の一般式Iで表される化合物は、「PP-13」であり、中性の化合物であり、環構造、末端基及び環の連結基において、「CQU-1-F」と異なるものである。
そうすると、本件発明の実施例には、本件発明1の一般式Iで表される化合物の具体的な開示がないことになる。
そして、上記(1-1)「イ」で述べたように本件明細書には、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」が本件発明の課題を解決することに関する作用機序が明らかにされていないから、PP-13が、単に、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」に対応する本件発明1の一般式Iで表される化合物に含まれるというだけでは、PP-13を含む液晶媒体で本件発明の課題を解決することができることを、本件発明の優先日当時の技術常識を加味したとしても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から把握することができない。
これに対し、被請求人は、上記(1-1)「エ」で述べたように、一般式Iで表される化合物として「PP-13」を用いる場合に関し、「実験レポート4」での結果を示しているが、上記(1-1)「エ」で述べたのと同様の理由により、本件当初明細書の不足分を補う追加実験の結果を参酌することはできない。
仮に、当該実験の結果を参酌することができるとして、実験結果を見たとしても、「実験レポート4」の構成成分M4、C3での実験は、共に、同じ一般式Iで表される化合物が含まれ、「PP-13」の有無や環の数の違いにより、液晶媒体での本件発明の課題に関連する特性にどの様な変化が生じるのかを把握することができない。
さらに、被請求人は、平成29年12月13日提出の上申書で、『本件特許発明の課題は、本件特許の式Iで表される化合物における末端CH3基、あるいは、末端CH3基とXとの特定の組合せによって達成されるのであって、本件特許発明の課題の解決と同式の環構造とは直接的に関係するものでない。そして、式Iで表される化合物として「CCP-31」を含む液晶媒体が本件特許発明の課題を解決することができることは・・・明らかであるから、骨格「PP」に対して、CCP-31と同様に、末端CH3基およびX(C3H7基)を付与した「PP-13」もまた本件特許発明の課題を解決することができることは自明である。』(第7頁第18~27行)との釈明を行っているが、上記(1-1)で述べたように、液晶媒体が、「CCP-31」を含む場合に、本件発明の課題を解決することができるということができないのであるから、CCP-31と同様に、末端CH3基およびX(C3H7基)を付与したPP-13もまた本件特許発明の課題を解決することができるとの被請求人の釈明は、採用することができない。
よって、「PP-13」を含む液晶媒体である本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
(2)本件明細書の段落【0017】に記載される「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の技術的な裏付けについて
ここでの検討点は、段落【0017】での「この目的は、末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物を用いる場合に達成することができることが見出された。式Iで表される化合物は、弾性定数、特にK1を減少させ、特に低いしきい値電圧を有する混合物をもたらす。」との記載が、本件明細書の発明の詳細な説明における技術的な裏付けを欠くという無効理由1-2に関するものである。
この点は、上記(1-1)「イ」で述べたように、末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物の、本件発明の課題を解決することに対する作用機序が明らかでないという点では、その通りであるが、(特許請求の範囲に記載される)本件発明の本件明細書の発明の詳細な説明における技術的な裏付けを問題とする所謂サポート要件を判断するにあたって、本件発明に、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」がその文言のまま特定されているわけではないから、無効理由1-2は、本件発明の特定事項のどの様な点が明細書の発明の詳細な説明で技術的な裏付けを欠くのかという点で具体性に欠けるものである。
さらに、本件発明の実施例に関する記載を見ると、従来技術(比較例)との対比がなく、実際に、本件発明の液晶媒体が、上記の発明の課題を解決しているのかの理解を困難にしているものの、上記(1-1)「ア」で述べた、本件発明の解決しようとする課題である、特に、「極めて高い比抵抗値」、「高い透明点であるか大きい動作温度範囲」、「低い回転粘度であるか低温においても短い応答時間」、「低いしきい値電圧」の4点において、従来技術の欠点を有しないか、または有しても小さい程度のみであるとされていることに対応する、「S→N」、「透明点」、「Δn」、「γ1」、「V10,0,20」、「Δε」、「K1」等の指標の評価を、全ての実施例ではないが行っている。そして、本件発明の課題を解決する作用機序に関する技術的な知見が明らかでなくても、実施例等で、本件発明の課題が解決することを、実証しているのであれば、その実施例から把握される範囲で本件発明の課題が解決することができるとすることができるが、上述したように、本件発明の実施例の全てにおいて、本件発明の課題を解決することに関連する特性値が開示されていないということはなく、さらに、これらの特性値が、液晶媒体において、発明の課題を解決するものではないといえる程、特性として劣ったものであるということもできないから、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」に関し、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件発明の課題を解決することに関する作用機序が明らかにされていないというだけでは、本件発明1~3、7、8、13が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとまではいえない。
そうすると、無効理由1-2は、採用することができない。
(3)本件発明の液晶媒体の誘電異方性について
ア 液晶媒体の誘電異方性に関する明細書の記載について
まず、本件発明の液晶媒体の誘電異方性の観点で、本件明細書の記載を確認する。
「【0004】
・・・例えば導電性、誘電異方性および光学異方性は、セルのタイプおよび応用分野に依存して、種々の要求を満たさなければならない。例えば、ねじれネマティック構造を有するセル用の材料は、正の誘電異方性および低い導電性を有しなければならない。
【0005】
例えば、個別の画素を切り換えるための集積非線形素子を有するマトリックス液晶ディスプレイ(MLCディスプレイ)について、大きい正の誘電異方性、広いネマティック相、比較的低い複屈折、極めて高い比抵抗、良好なUVおよび温度安定性並びに低い蒸気圧を有する媒体が望ましい。・・・次に、用語「アクティブマトリックス」を用い、ここで、2つのタイプの間で区別をすることができる:
1.基板としてのシリコンウエファー上のMOS(金属酸化物半導体)または他のダイオード。
2.基板としてのガラス板上の薄膜トランジスタ(TFT)。
【0006】
・・・好ましく、さらに有望なタイプ2の場合において、用いられる電気光学効果は、通常TN効果である。
・・・
【0012】
しかし、原理はまた、高品質、高解像度アクティブマトリックスアドレスディスプレイ、例えばTFTディスプレイに適用することができる。ここで、すでに、一般的に慣例的な透過性TFT-TNディスプレイにおけるように、低い複屈折(Δn)を有する液晶を用いることは、低い光学的遅延(d・Δn)を達成するために必要である。
・・・
【0013】
従って、これらの欠点を有しないか、または有しても小さい程度のみである、極めて高い比抵抗値および同時に大きい動作温度範囲、低温においても短い応答時間および低いしきい値電圧を有するMLCディスプレイに対する多大の要求が継続している。
TN(シャット-ヘルフリッヒ)セルについて、これらのセルには以下の利点を容易にする媒体が望ましい:
・・・
【0014】
従来技術から利用できた媒体は、これらの利点を達成し、一方同時に他のパラメーターを維持することを可能にしない。
スーパーツイスト(STN)セルの場合、一層大きい時分割特性および/または一層低いしきい値電圧および/または一層広いネマティック相範囲(特に低温における)が可能である媒体が望ましい。
・・・
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述の欠点を有しないか、または有しても小さい程度のみであり、かつ好ましくは同時に極めて高い比抵抗値および低いしきい値電圧を有する、特にこのタイプのMLC、TNまたはSTNディスプレイ用の媒体を提供する目的を有する。この目的は、高い透明点および低い回転粘度を有する液晶化合物を必要とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
ここで、この目的は、末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物を用いる場合に達成することができることが見出された。式Iで表される化合物は、弾性定数、特にK1を減少させ、特に低いしきい値電圧を有する混合物をもたらす。」との記載を見ても、本件発明は、段落【0016】に記載されるように、MLC、TNまたはSTNディスプレイ用の媒体を提供する目的を有しているが、段落【0005】の記載では、本件発明のMLCディスプレイの材料は、「正」の誘電異方性の材料が望ましいこと、段落【0004】の記載では、「ねじれネマティック構造」(TN構造)を有する材料は、「正」の誘電異方性を有しなければならないとされていること、さらに、本件発明では、段落【0017】に記載されるように、低いしきい値電圧を得るため「K1」を減少させているが、例えば、甲50の第75頁式(2.99)に示されるようにK1がしきい値電圧と関連するのは、誘電異方性が「正」の液晶媒体の場合である。
また、本件発明の実施例を見ても、上記(1-1)「ウ」で述べたように全ての実施例は、誘電異方性が「正」の『末端CH3基と末端基として、「OCF3」又は「F」を有する化合物』、加えて、他に誘電異方性が正の複数の化合物を含み、実施例として、液晶媒体全体として「正」の誘電異方性を示すもののみしか記載されていない。
以上を、踏まえると、本件明細書の記載からは、本件発明で意図している液晶媒体として、「正」の誘電異方性を有するものしか把握することができない。
イ 本件発明の特定と液晶媒体の誘電異方性に関する明細書の記載の対応について
一方、本件発明1、2、7、8では、「正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と特定され、液晶媒体が、「負」の誘電異方性を示す場合も含まれている。
ここで、上記(1-1)で述べたように、本件明細書の記載からは、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」として、「正の誘電異方性極性基」を有する一般式Iで表される化合物を用いた場合以外には、本件発明の課題を解決することができるとすることができないが、この化合物が「正」の誘電異方性を有する液晶化合物であるならば、この成分及び他の成分を含む液晶媒体も同じく「正」の誘電異方性を有するものとすることが、技術常識に照らせば普通のことである。
そして、上記(1-1)「イ」で述べたように本件明細書には、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」の本件発明の課題を解決することに関する作用機序が明らかにされていないから、液晶媒体の正負の誘電異方性に拘わらず、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」が液晶媒体に存在しさえすれば、本件発明の課題を解決することができることを、本件発明の優先日当時の技術常識を加味したとしても本件明細書の記載から把握することができない。
そうすると、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」を含む液晶媒体が「負」の誘電異方性を有する場合には、本件発明が、発明の課題を解決できることを本件明細書の記載から把握することができない。
さらに、甲23の別紙1の表1には、甲2の例2の液晶媒体(負の液晶媒体)の本件発明の一般式Iで表される化合物に相当する「CCP-21FF」及び「CCP-31FF」を「CCP-22FF」及び「CCP-32FF」(式I化合物の末端CH3基が、C2H5基になったものにあたる)とした液晶媒体での、本件発明の課題の「低いしきい値電圧」に関連するK11(K1)(単位省略)が、「12.0」であるのに対し、「CCP-21FF」及び「CCP-31FF」を含む上記甲2の例2の液晶媒体では、「12.7」であり、K11(K1)がむしろ増大する結果が示されている。
また、甲52の別紙の表1では、乙1の「実験レポート2」の構成成分M1(負の液晶媒体)の本件発明の一般式Iで表される化合物に相当する「CCP-31」を「CCP-33」(一般式Iで表される化合物の末端CH3基が、C3H7基になったものにあたる)とした構成成分J1のK1(単位省略)が、「15.0」であるのに対し、「CCP-31」を含む構成成分M1では、「15.3」であり、
同別紙の表3では、乙1の「実験レポート4」の構成成分M4(負の液晶媒体)の本件発明の一般式Iで表される化合物に相当する「PP-13」を「PP-23」(一般式Iで表される化合物の末端CH3基が、C2H5基になったものにあたる)とした構成成分J3のK1が、「14.1」であるのに対し、「PP-13」を含む構成成分M4では、「14.6」となり、
同別紙の表5では、乙1の「実験レポート5」の構成成分M5(負の液晶媒体)の訂正前の本件発明の一般式Iで表される化合物に相当する「CCP-31FF」を「CCP-32FF」(一般式Iで表される化合物の末端CH3基が、C2H5基になったものにあたる)とした液晶媒体J5のK1が、「14.2」であるのに対し、構成成分M5では、「15.3」となり、表1、表3、表5で示されるいずれの結果でも、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体のK1は、むしろ増大している。
これらの結果を見ても、「末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物」を含む液晶媒体が「負」の誘電異方性を有する場合には、この液晶媒体が、低減されたをK1を有するものであるということができる根拠がなく、本件発明の課題を解決できるとはいえない。
ウ 被請求人提出の実験レポートについて
一方、被請求人は、上記(1-1)「エ」で述べたように、液晶媒体の誘電異方性が負の場合に関し「実験レポート2」、「実験レポート3」、「実験レポート4」、「実験レポート5」及び「実験レポート6」での結果を示しているが、上記(1-1)「ウ」で述べたのと同様の理由により、本件当初明細書の不足分を補う追加実験の結果を参酌することはできない。
仮に、当該実験の結果を参酌することができるとして、各実験結果を見たとしても、上記の「実験レポート3」の構成成分M3、C2での実験、「実験レポート4」の構成成分M4、C3での実験、「実験レポート5」の構成成分M5、C5での実験は、共に、同じ一般式Iで表される化合物が含まれ、誘電異方性が負の液晶媒体において、一般式Iで表される化合物の有無により、本件発明の課題に関連する液晶媒体における特性にどの様な変化が生じるかを把握することができない。また、「実験レポート2」では、一般式Iで表される化合物を含む構成成分M1と、一般式Iで表される化合物を含まない構成成分C4とを比較しているが、本件発明の解決しようとする課題に関連する特に、K1及びしきい値電圧V0を見ると、K1は、M1で「14.6」であるのに対し、C4で「14.8」であり、しきい値電圧V0は、M1で「2.26」であるのに対し、C4で「2.27」であり、構成成分M1にK1及びしきい値電圧V0での多少の減少が見られるものの、そもそも微差に過ぎない。仮に、差があるものとしても、構成成分M1に対し構成成分C4では、単純に「CCP-31」が「CCP-33」に置換されただけでなく、若干ではあるが「CCH-23」の量も減少するなど、K1及びしきい値電圧V0を比較する上で実験条件が最適であるのか明らかでなく、K1及びしきい値電圧V0での差を、本件発明の課題が解決できると認識できるほどの「有意」なものとすることはできない。さらに、「実験レポート6」でも、一般式Iで表される化合物を含む構成成分M6と、一般式Iで表される化合物を含まない構成成分C6とを比較しているが、「実験レポート6」での比較の対象である構成成分C6の「CCP-36」の選択が適切でなく、構成成分M6が「CCP-31」を含むことにより、本件発明の課題が解決することができることを把握することができないことは、上記(1-1)「エ」で述べたとおりである。あえて、その結果のK1及びしきい値電圧V0を見ても、K1は、M6で「14.6」であるのに対し、C6で「15」であり、しきい値電圧V0は、M1で「2.26」であるのに対し、C4で「2.29」であり、構成成分M6にK1及びしきい値電圧V0での多少の減少が見られるものの、そもそも微差に過ぎず、K1及びしきい値電圧V0での差を、本件発明の課題が解決できると認識できるほどの「有意」なものとすることはできない。
実際、上記した甲52の別紙の表1での結果に示されているように、構成成分M1の「CCP-31」を単純に「CCP-33」に置換した構成成分J1との比較では、K1及びしきい値電圧V0に関し、構成成分J1に比べて構成成分M1の方が大きくなっている。また、甲52の別紙の表2での結果に示されるように、液晶媒体の透明点を一致させるように構成成分M1の「CCP-31」を「CCP-33」に置換し、「CY-3-O2」と「CCY-3-O2」の間で多少の成分量の調整を行った構成成分J1’との比較でも、K1及びしきい値電圧V0に関し、構成成分J1’に比べて構成成分M1の方が大きくなっている。結局のところ、「実験レポート2」で試験されているような、負の液晶媒体に「CCP-31」等の一般式Iで表される液晶化合物を添加する場合は、液晶媒体の一般式Iで表される液晶化合物以外の成分の多少の成分調整によって、一般式Iで表される液晶化合物が含まれている場合と含まれない場合で、K1及びしきい値電圧V0等の特性が、多少良くなったりかえって悪くなったりする程度のことであるといえる。
また、甲53の別紙の表1での結果に示されているように、乙6の「実験レポート6」の構成成分M6の「CCP-31」を、構成成分C6の「CCP-36」ではなく、「CCP-32」及び「CCP-33」にそれぞれ置換し、液晶媒体の透明点を一致させるように「CY-3-O2」と「CCY-3-O2」との間で多少の成分量の調整を行った構成成分J7及びJ8との比較では、構成成分M6は、K1及びしきい値電圧V0で共に、構成成分J7より大きくなり、K1で構成成分J8に比べ小さくなるものの、しきい値電圧V0で同じとなっている。そうすると、乙6の「実験レポート6」は、構成成分C6の「CCP-36」に比べれば、液晶媒体において、液晶媒体においてより一般的に使用される「CCP-32」及び「CCP-33」を含む場合に対しては、K1及びしきい値電圧V0等の特性の向上を示していることにはならない。
よって、上記「実験レポート3」、「実験レポート4」及び「実験レポート5」を含め、「実験レポート2」及び「実験レポート6」は、一般式Iで表される化合物を負の液晶媒体に添加した場合に、本件発明の課題を解決できることを示すものとはいえない。
エ 被請求人の主張について
被請求人は、平成29年12月13日付け上申書で「本件特許の式Iで表される化合物(末端CH3基を有する化合物)を含む液晶媒体と末端C2H5基を有する化合物を含む液晶媒体をとを対比し、あたかも、かかる対比実験により示される効果の顕著性が本件特許発明のサポート要件の成否を決定づけるかのような誤った検討が一部行われている。かかる検討は、解決しようとする課題が、「従来の化合物、特に、C2H5基を有する化合物、を含む液晶媒体に対して格別顕著に優れた特性を示す液晶媒体の提供」である発明に対してされるべきものであるところ、上述のとおり、本件特許発明はそのような課題を有しておらず、当該検討は本件特許発明の誤った課題の認定に基づいてなされたものといえるため、適切でない。」(第5頁第10~20行)との主張を行っている。
しかしながら、本件発明が、発明の課題を解決するには、上記(1-1)「ア」で述べた発明の課題に対応する特性(例えばK1やしきい値電圧)が、少なくとも「従来の化合物」に比べて優れた特性を示す必要があることは、当業者にとり明らかである。そして、本件発明の全ての実施例を見ても、液晶化合物のアルキル末端基の炭素数は、2又は3が多く、アルキル基の末端基を有する液晶化合物では、炭素数2又は3のアルキル基を有する液晶化合物が一般的な化合物であるといえる。
そうすると、上記の「従来の化合物」と特性を比較しようとすれば、末端基として「CH3基」を有する本件発明の一般式Iで表される化合物に対し、比較する従来の化合物としては、炭素数が2の「C2H5基」や、炭素数が3の「C3H7基」を有する化合物ということになるから、本件発明の一般式Iで表される化合物(末端CH3基を有する化合物)を含む液晶媒体と末端C2H5基や末端C3H7基を有する化合物を含む液晶媒体の特性を対比することが、適切でないとはいえない。
オ 小括
以上のとおり、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体が「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物」である場合を含む本件発明1、2、7、8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
一方で、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物」であることが特定されている本件発明3、13は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
(4)無効理由1のまとめ
以上のとおり、上記(1)及び(3)の点につき、本件特許請求の範囲の請求項1、2、7、8の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしておらず、本件発明1、2、7、8についての特許は、同法同条第6項第1号に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
一方、本件特許請求の範囲の請求項3、13の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていないとすることはできず、本件発明3、13についての特許は、同法同条第6項第1号に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとすることはできない。
2 無効理由3-1について
(1)刊行物
甲1:特開2001-19965号公報
甲12:ドイツ特許第10107544号公報(訳文 甲13:特開2001-316669号公報)
甲26:特開2000-104072号公報
甲27:国際公開第96/22261号
甲28:特開2000-96065号公報
甲29:ドイツ特許第10111142号明細書(訳文 甲30:特開2002-12869号公報)
甲31:特開2000-351972号公報
甲33:特開2001-34197号公報
甲37:国際公開第01/46336号(訳文 甲38:特表2003-518154号公報)
(2)刊行物に記載の事項
ア 甲1に記載の事項
(ア1)「【請求項1】 第1成分として一般式(I)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、第2成分として一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、第3成分として一般式(III-1)、(III-2)、(III-3)または(III-4)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有することを特徴とする液晶組成物。
【化1】
【化2】
(上記の式中、R1、R3、R5、R7、R9、R11およびR13はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、R2、R4、R6、R8、R10、R12およびR14はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、Z1~Z5はそれぞれ独立に単結合または-CH2CH2-を示す。)」
(ア2)「【0002】
【従来の技術】液晶表示素子(LCD)は、CRT(ブラウン管方式ディスプレイ)に比べて、低消費電力、小型化、軽量化が可能であるために、ツイストネマチック(TN)方式、スーパーツイストネマチック(STN)方式、薄膜トランジスター(TFT)方式等の種々のLCDが実用化されてきた。中でも薄膜トランジスター(TFT)等のアクティブマトリックスLCD(AM-LCD)はカラー化、高精細化が進みフラットディスプレイの本命として注目をあびている。
【0003】このAM-LCD用液晶組成物に求められている特性として、
1)LCDの高コントラストを維持するための、高い電圧保持率(VHR)、
2)使用環境の変化に対応するための、広いネマチック液晶相範囲、
3)セル厚に応じて、適当な屈折率異方性値(Δn)を取り得ること、
4)駆動回路に応じて、適当なしきい値電圧を取り得ること、を挙げることができる。AM-LCDの動作方式としては、上下の電極基盤間における液晶分子の配向を90゜ツイストさせたTN表示方式が主流であったが、視野角が狭いため大画面に適用しにくいという欠点があった。
【0004】そこで視野角を改善するモードとして、
a)電圧無印加時には液晶表示素子がホモジニアス配向状態を示し、電圧印加時には面内で液晶分子が45~90゜回転するIPS表示方式・・・や、
b)電圧無印加時には液晶表示素子がホメオトロピック配向状態を示し、電圧印加時には水平一方向の配向状態に変化するVA表示方式・・・等が提案されている。これらの表示方式は広視野角化を実現できる他に高速応答や高コントラストを特徴としていて、また、誘電率異方性値(△ε)が負の液晶組成物を適用することができるという大きな特徴を有している。
・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、広視野角化を実現できる上記a)およびb)の表示方式に適用できるような適当な△nの値を持ち、低粘性かつ大きい負のΔεと広いネマチック相範囲を有していて、上記AM-LCD用液晶組成物に求められるその他の種々の特性を有している液晶組成物を提供することにある。」
(ア3)「【0016】以下、本発明の各成分を構成する化合物について説明する。第1成分である一般式(I)で表される化合物は、屈折率異方性値(△n)がおよそ0.08~0.12の範囲にあり、また、誘電率異方性値(Δε)がおよそ-9~-6の範囲にあり、熱安定性、化学的安定性に優れているので、高信頼性を要求されるTFT用液晶組成物のしきい値電圧および粘度を低くする役割を担う。しかしながら、透明点(TC)がおよそ-20~30℃の範囲にあるため、これらの化合物だけで負のΔεを有する組成物を調整すると、組成物の透明点(TC)が小さくなり好ましくない。
【0017】第2成分である一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物は、屈折率異方性値(△n)がおよそ0.08~0.21、誘電率異方性値(Δε)がおよそ-8~-5、また透明点(TC)がおよそ120~180℃の範囲にある。これら第2成分の化合物は、熱安定性、化学的安定性に優れているので、液晶組成物のしきい値電圧を更に低くするのに加えてTcを高くする役割を担う。
【0018】第3成分である一般式(III-1)、(III-2)または(III-3)で表される化合物は、透明点(TC)がおよそ10~80℃、また屈折率異方性値(△n)がおよそ0.01~0.07の範囲にあるため、組成物の△nを小さくする役割を担う。また、一般式(III-1)または(III-2)で表される化合物は、特に組成物の粘度を小さくする役割も担う。一般式(III-4)で表される化合物は、屈折率異方性値(△n)がおよそ0.10~0.15、また透明点(TC)がおよそ130~190℃の範囲にあるため、特に透明点(TC)を高くする役割を担う。したがって、第3成分を加えることによって組成物の△n、粘度、ネマチック相範囲を調整することができる。第1成分~第3成分の化合物数種を任意に組み合わせることによって、本発明の目的である、好適なΔnと特に大きい負の誘電率異方性値を有しかつ低粘度のAM-LCD用液晶組成物を調製することができる。即ち、およそ60~120℃の範囲の透明点(TC)、およそ0.06~0.12の範囲の屈折率異方性値(△n)及びおよそ-7~-1の範囲の誘電率異方性値(Δε)を有し、かつ低粘度で広いネマチック相を有する液晶組成物を得ることができる。」
(ア4)「【0027】
実施例1
3-NhB(2F,3F)-O1 7.0%
3-NhB(2F,3F)-O2 7.0%
5-NhB(2F,3F)-O1 9.0%
5-NhB(2F,3F)-O2 9.0%
3-HNhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-O2 11.0%
3-NhBB(2F,3F)-O2 6.0%
5-NhBB(2F,3F)-O2 7.0%
2-HH-3 4.0%
3-HH-4 6.0%
3-HH-O1 4.0%
3-HH-O3 5.0%
5-HH-O1 5.0%
TC=88.0(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.092
Δε=-5.8
η20=26.3(mPa・s)
実施例1で示される液晶組成物は、比較例2に比べて著しく負に大きいΔεを有することがわかる。また、ネマチック相範囲も10℃以上広がっていることがわかる。
【0028】
実施例2
3-NhB(2F,3F)-O1 5.0%
3-NhB(2F,3F)-O2 5.0%
3-HNhB(2F,3F)-O1 9.0%
3-HNhB(2F,3F)-O2 9.0%
3-NhBB(2F,3F)-O2 11.0%
5-NhBB(2F,3F)-O2 11.0%
2-HH-3 5.0%
3-HH-4 12.0%
3-HB-O2 16.0%
3-HB-O4 7.0%
2-HH-EMe 4.0%
3-HH-EMe 6.0%
TC=85.5(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.091
Δε=-3.3
η20=17.8(mPa・s)
実施例2は、比較例1とほぼ同等のTCとΔεを有する液晶組成物である。比較例1と比べて実施例2は、著しく粘度が低いことがわかる。また、ネマチック相範囲も10℃以上広がっていることがわかる。
【0029】
実施例3
3-NhB(2F,3F)-O2 5.0%
3-HNhB(2F,3F)-O1 10.0%
3-HNhB(2F,3F)-2 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-O2 10.0%
3-NhBB(2F,3F)-O2 12.0%
5-NhBB(2F,3F)-O2 12.0%
2-HH-3 5.0%
3-HH-4 5.0%
3-HB-2 16.0%
3-HB-4 5.0%
TC=113.9(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.104
Δε=-4.8
η20=26.6(mPa・s)
【0030】
実施例4
3-NhB(2F,3F)-O1 9.0%
3-NhB(2F,3F)-O2 9.0%
5-NhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-NhB(2F,3F)-O2 10.0%
3-HNhB(2F,3F)-O1 5.0%
3-HH-4 5.0%
3-HB-2 12.0%
3-HB-4 5.0%
2-HH-EMe 5.0%
3-HH-EMe 10.0%
2-HHB-1 4.0%
3-HHB-1 6.0%
3-HHB-3 5.0%
3-HHB-O1 5.0%
TC=62.7(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.084
Δε=-2.2
η20=18.7(mPa・s)」
(ア5)「【0031】
実施例5
V-NhB(2F,3F)-O1 9.0%
3-NhB(2F,3F)-O2 9.0%
5-NhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-NhB(2F,3F)-O2 10.0%
V-HNhB(2F,3F)-O1 5.0%
V-HH-3 5.0%
3-HB-2 12.0%
3-HB-4 5.0%
2-HH-EMe 5.0%
3-HH-EMe 10.0%
V-HHB-1 4.0%
3-HHB-1 6.0%
3-HHB-3 5.0%
3-HHB-O1 5.0%
TC=59.4(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.096
Δε=-1.9
η20=17.6(mPa・s)」
(ア6)「【0032】
実施例6
3-NhB(2F,3F)-O1 9.0%
3-NhB(2F,3F)-O2 9.0%
5-NhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-NhB(2F,3F)-2 10.0%
3-HNhB(2F,3F)-O1 7.0%
3-HNhB(2F,3F)-O2 7.0%
5-HNhB(2F,3F)-O1 8.0%
5-HNhB(2F,3F)-O2 9.0%
3-NhBB(2F,3F)-O2 6.0%
5-NhBB(2F,3F)-O2 7.0%
2-HH-3 4.0%
3-HH-4 10.0%
3-HH-EMe 4.0%
TC=91.1(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.096
Δε=-6.2
η20=30.2(mPa・s)
【0033】
実施例7
3-NhB(2F,3F)-O1 5.0%
3-NhB(2F,3F)-O2 5.0%
5-NhB(2F,3F)-O1 4.0%
5-NhB(2F,3F)-O2 4.0%
3-HNhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-1 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-2 11.0%
2-HH-3 4.0%
3-HH-4 10.0%
3-HH-O1 5.0%
3-HH-O3 5.0%
3-HB(2F,3F)-O2 7.0%
5-HB(2F,3F)-O2 7.0%
3-HBB(2F,3F)-O2 3.0%
3-HHB(2F,3F)-O2 10.0%
TC=87.4(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.086
Δε=-5.0
η20=27.2(mPa・s)
【0034】
実施例8
3-NhB(2F,3F)-O1 5.0%
3-NhB(2F,3F)-O2 5.0%
5-NhB(2F,3F)-O1 4.0%
5-NhB(2F,3F)-O2 4.0%
V-HNhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-1 10.0%
5-HNhB(2F,3F)-2 11.0%
2-HH-3 4.0%
3-HH-4 10.0%
3-HH-O1 5.0%
3-HH-O3 5.0%
3-HB(2F,3F)-O2 7.0%
V-HB(2F,3F)-O2 7.0%
V-HBB(2F,3F)-O2 6.0%
3-HHB(2F,3F)-O2 7.0%
TC=82.5(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.090
Δε=-4.6
η20=25.2(mPa・s)」
イ 甲12に記載の事項
(甲12の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である甲13によるものであり、甲12の記載箇所も併せて記載した。)
(イ1)「【請求項1】
a)式I
【化1】(省略)
式中、
【化2】(省略)
であり、R11は、炭素原子1~7個を有するアルコキシまたは炭素原子2~7個を有するアルケニルオキシであり、および、ここで
【化3】(省略)
の場合はまた炭素原子1~7個を有するアルキルであり、R12は、炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、2~7個を有するアルケニルオキシである、1種または2種以上の誘電的に負の化合物、
b)式II
【化4】(省略)
式中、R21は、炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、または炭素原子2~7個を有するアルケニルオキシであり、R22は、炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、または炭素原子2~7個を有するアルケニルオキシであり、およびZ21およびZ22はそれぞれ相互に独立して、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-COO-または単結合であり、
【化5】(省略)
はそれぞれ相互に独立して、
【化6】(省略)
L21およびL22は、共にC-Fであるか、または一方がNであり、他方が、C-Fである、好ましくは、共にC-FでありIは0または1であり、式IおよびIIIの化合物を除いたものである、の1種または2種以上の誘電的に負の化合物および任意に
c)式III
【化7】(省略)
式中、R31およびR32は、それぞれ炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、または炭素原子2~7個を、好ましくは、炭素原子2~4個を有するアルケニルオキシであり、Z31は、本請求項における式IIのZ21の定義のとおりであり、L31およびL32は、共にC-Fであるか、または一方がNであり、他方が、C-Fであり、およびL33およびL34は、共にC-Fであるか、または一方がNであり、他方が、C-Fである、の1種または2種以上の誘電的に負の化合物を含むことを特徴とする、ネマティック液晶媒体。」(第28、29頁、請求項1)
(イ2)「【0075】例4
【表6】
例1の様に液晶媒体をTFTアドレッシングを有するVAディスプレイの中に導入する。このディスプレイは低視野角依存性とよいコントラストを有している。」(第26頁)
ウ 甲26に記載の事項
(ウ1)「【0023】
本発明の媒体は極性化合物の混合物に基づくものである。これらの化合物は公知のニトリル等の高極性化合物ではなくて、1、4部位で直接または2価の橋掛け部員を介して互いに結合され、また2個の末端基に末端結合されている2個、3個または4個の6員炭素環または複素環を有する棒状構造の中位の極性の化合物である。これらの末端基の一方は、例えばアルキル、アルコキシ、オキサアルキル、ジオキサアルキル、アルケニル、フルオロアルキルまたはフルオロアルケニル等の非極性基であり、他方の末端基は、例えばフッ素、塩素、ジフルオロアルキル、より高度にフッ素化されたアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシまたはアルカノイルオキシ等のハロゲン化された中位の極性基である。」
エ 甲27に記載の事項
(エ1)請求の範囲
「1.非共役アルカジエ二ル基を側鎖にもつ液晶性化合物。」
(エ2)第38頁第20行~第39頁第15行
「組成例6
4’-(1,5-へキサジエニル)-4-メチルビシクロへキサン 5%
4’-(1,5-へキサジエニル)-4-エチルビシクロへキサン 5%
4-(4-(1,5-へキサジエニル)シクロへキシル)ベンゾニトリル 10%
4-(4-(3-ブテニル)シクロへキシル)ベンゾニトリル 8%
4-(4-(3-ペンテニル)シクロへキシル)ベンゾニトリル 8%
4-(4-プロピルシクロへキシシル)ベンゾニトリル 8%
4-(4-ペンチルシクロへキシシル)ベンゾニトリル 8%
4-(4-メトキシメチルシクロへキシシル)ベンゾニトリル 8%
4-(4-エトキシメチルシクロへキシシル)ベンゾニトリル 4%
4-(2-(4-エチルフェニル)エチニル)メトキシベンゼン 2%
4-(2-(4-プロピルフェニル)エチニル)メトキシベンゼン 2%
4-(2-(4-ブチルフェニル)エチニル)メトキシベンゼン 2%
4-(2-(4-ペンチルフェニル)エチニル)メトキシベンゼン 2%
4-(2-(4-ブチルフェニル)エチニル)エトキシベンゼン 2%
4’-プロピル-4-ブチルビシクロへキサン 8%
4-(4-(4-エチルシクロへキシル)シクロへキシル)ベンゾニトリル 4%
4-(4-(4-プロピルシクロへキシル)シクロへキシル)ベンゾニトリル 4%
4-(4-(4-プロピルシクロへキシル)シクロへキシル)メチルベンゼン 5%
4-(4-(4-プロピルシクロへキシル)シクロへキシル)プロピルベンゼン 5%」
オ 甲28に記載の事項
(オ1)「【0023】
本発明の媒体は極性化合物の混合物に基づくものである。これらの化合物は公知のニトリル等の高極性化合物ではなくて、1、4部位で直接または2価の橋掛け部員を介して互いに結合され、また2個の末端基に末端結合されている2個、3個または4個の6員炭素環または複素環を有する棒状構造の中位の極性の化合物である。これらの末端基の一方は、例えばアルキル、アルコキシ、オキサアルキル、ジオキサアルキル、アルケニル、フルオロアルキルまたはフルオロアルケニル等の非極性基であり、他方の末端基は、例えばフッ素、塩素、ジフルオロアルキル、より高度にフッ素化されたアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシまたはアルカノイルオキシ等のハロゲン化された中位の極性基である。」
カ 甲29に記載の事項
(甲29の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である甲30によるものであり、甲29の記載箇所も併せて記載した。)
(カ1)「【請求項1】その電場が液晶層に対して平行である有効構成要素を有する、液晶を再配向させるための再配向層を備え、および正の誘電異方性を有する液晶媒体を含有する電気光学液晶ディスプレイであって、
上記媒体が、少なくとも1種の式Iで表わされる化合物を含有することを特徴とする電気光学液晶ディスプレイ:
【化1】(省略)
式中、
R1は、炭素原子1~7個を有するアルキル基またはアルコキシ基、もしくは炭素原子2~7個を有するアルケニル基、アルケニルオキシ基またはアルコキシアルキル基であり、およびLは、HまたはFである。」(第34、35頁、請求項1)
(カ2)「【0084】
例11
この例のIPSディスプレイは、下記成分からなるネマティック混合物を含有し、また適度のコントラストを有する:
【表12】
」(第25頁[0080])
(カ3)「【0103】
例24
この例のIPSディスプレイは、下記成分からなるネマティック混合物を含有し、また適度のコントラストを有する:
【表25】
」(第31頁[0093])
キ 甲31に記載の事項
(キ1)「【請求項1】-その電場が液晶層に対して平行である再配向に必須の構成要素を有する、液晶を再配向させるための再配向層を有し、および
-正の誘電異方性を有する液晶媒体を含有する、電気光学液晶ディスプレイであって、
-この媒体が、1種または2種以上の式Iで表わされる化合物および式IIおよび式IIIで表わされる化合物からなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含有することを特徴とする電気光学液晶ディスプレイ:
【化1】(省略)
各式中、
R1、R2およびR3はそれぞれ相互に独立して、炭素原子1~7個を有するアルキル基またはアルコキシ基、もしくは炭素原子2~7個を有するアルケニル基、アルケニルオキシ基またはアルコキシアルキル基であり、
Y11、Y12、Y21、Y22、Y31およびY32はそれぞれ相互に独立して、HまたはFであり、
【化2】(省略)
であり、およびQ-Xは、F、Cl、OCF2Hまたは-OCF3である。」
(キ2)「【0055】
【発明の実施の形態】例
下記の例は、本発明を説明しようとするものであり、いかなる点でもその範囲を制限するものではない。
例1
この例のIPSディスプレイは、
透明点: 70.0℃
T(S,N): <-30℃
△n[589.3nm、20℃]: 0.0824
△ε[1kHz、20℃]: 11.7
tstore[-30℃]: 1000時間
を有し、かつ
【0056】
【表2】
からなるネマティック混合物を含有し、良好なコントラストを有する。」
ク 甲33に記載の事項
(ク1)「【請求項1】 液晶組成物が、一般式(I-1)~(I-3)
【化1】(省略)
(式中、デカハイドロナフタレン-2,6-ジイル環中に存在する1個又は2個以上の-CH2-基が・・(略)・・置換されていてもよく、
R1、R2は各々独立的に炭素原子数1~10のアルキル基、アルコキシ基又は炭素原子数2~10のアルケニル基、アルケニルオキシ基を表し、該アルキル基、該アルコキシ基、該アルケニル基又は該アルケニルオキシ基は非置換又は置換基として1個又は2個以上のF、Cl、CN、CH3又はCF3を有することができ、及び又は該アルキル基、該アルコキシ基、該アルケニル基又は該アルケニルオキシ基中に存在する1個又は2個以上のCH2基は、O原子が相互に直接結合しないものとして、O、CO又はCOOで置換されていてもよく、
K1、K2は各々独立的に単結合・・(略)・・を表し、
環A1~A2は各々独立的に1,4-フェニレン・・(略)・・を表し・・(略)・・置換をすることができ、
デカハイドロナフタレン-2,6-ジイル環、側鎖基R1、R2、連結基K1、K2及び環A1、A2に存在する1個又は2個以上の水素原子は重水素原子と置換されていても良く、
前記一般式(I-1)~(I-3)の化合物を構成する原子はその同位体原子で置換されていても良い。)から選ばれた一つ又は二つ以上の一般式で表される1種又は2種以上の化合物からなる液晶成分Aを含有し、前記一般式(I-1)~(I-3)の化合物を除く液晶成分として、+2以上の誘電率異方性を有する化合物からなる液晶成分Bを0~99.9重量%含有し、-10~+2の誘電率異方性を有する化合物からなる液晶成分Cを0~98重量%含有し、該液晶成分Bと該液晶成分Cの総和が0~99.9重量%であることを特徴とするネマチック液晶組成物。」
(ク2)「【0299】
(実施例14)
【0300】
【化104】
からなるネマチック液晶組成物(3-14)を調製し、この組成物の諸特性を測定した。結果は以下の通りであった。このネマチック液晶組成物は加熱促進テスト後の比抵抗や電圧保持率が高く、熱に安定であった。また、この組成物を基本的な構成材料とする新たな本発明のネマチック液晶組成物を調製し、これを用いたアクティブ・マトリクス液晶表示装置を作製したところ、漏れ電流が小さくフリッカの発生しない優れたものであることが確認できた。特に、V1が3V以下と低いことから、高精細で高コントラストの表示を必要とするTFT-LCDに有用であり、ポリシリコンを用いたTFT-LCDに適している。」
ケ 甲37に記載の事項
(甲37の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である甲38によるものであり、甲37の記載箇所も併せて記載した。)
(ケ1)「【請求項1】 正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、式I
【化1】(省略)
で表される1種または2種以上のアルケニル化合物および式IA
【化2】(省略)
式中、個別の基は以下の意味を有する:
Rは、1~15の炭素原子を有するハロゲン化されたまたは非置換のアルキルまたはアルコキシ基であり、これらの基における1個または2個以上のCH2基がまた、各々の場合において互いに独立して、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-によって、酸素原子が互いに直接結合されないように置換されていてもよく、
R1は、2~7個の炭素原子を有するアルケニル基であり、
R2は、Rについて定義されたとおりであるか、または、yが1もしくは2の場合は代替的にQ-Yであり、
Qは、CF2、OCF2、CFH、OCFH、OCHFCF2、OCF2CHFCF2または単結合であり、
Yは、FまたはClであり、
Xは、F、Cl、CN、6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり、
Z1およびZ2は、それぞれ互いに独立して、-CF2O-、-OCF2-または単結合であり、z=1である場合には、Z1≠Z2であり、
【化3】(省略)
であり、
yは、0、1または2であり、そして
zは、0または1であり、そして、
L1、L2、L3およびL4は、それぞれ互いに独立してHまたはFである、で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記媒体。」(第92、93頁、請求項1)
(ケ2)「【0106】
例25
【表26】
」(第51頁第1~14行)
(3)甲1に記載された発明
甲1の【請求項1】には、「第1成分として一般式(I)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、第2成分として一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、第3成分として一般式(III-1)、(III-2)、(III-3)または(III-4)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有する液晶組成物。
【化1】(省略)
【化2】(省略)
(上記の式中、R1、R3、R5、R7、R9、R11およびR13はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、R2、R4、R6、R8、R10、R12およびR14はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、Z1~Z5はそれぞれ独立に単結合または-CH2CH2-を示す。)」が記載されているところ、この液晶組成物の具体的な実施例のうち、上記(ア5)の実施例5として、
「V-NhB(2F,3F)-O1を9.0%、3-NhB(2F,3F)-O2を9.0%、5-NhB(2F,3F)-O1を10.0%、5-NhB(2F,3F)-O2を10.0%、V-HNhB(2F,3F)-O1を5.0%、V-HH-3を5.0%、3-HB-2を12.0%、3-HB-4を5.0%、2-HH-EMeを5.0%、3-HH-EMeを10.0%、V-HHB-1を4.0%、3-HHB-1を6.0%、3-HHB-3を5.0%、3-HHB-O1を5.0%含有し、TC=59.4(℃)、TSN<-20℃、Δn=0.096、Δε=-1.9、η20=17.6(mPa・s)の液晶組成物。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
また、甲1の上記(ア2)の段落【0002】の記載によれば、液晶組成物を用いた液晶表示素子は、「ディスプレイ」に使用されるものであるから、甲1には、
「甲1発明の液晶組成物の、液晶ディスプレイへの使用。」(以下、「甲1-1発明」という。)、及び
「甲1発明の液晶組成物を含む、液晶ディスプレイ。」(以下、「甲1-2発明」という。)も記載されているといえる。
(4)対比・検討
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「液晶組成物」は、本件発明1の「液晶媒体」に相当する。
○甲1発明の「V-NhB(2F,3F)-O1」、「3-NhB(2F,3F)-O2」、「5-NhB(2F,3F)-O1」及び「5-NhB(2F,3F)-O2」は、甲1の【請求項1】の液晶組成物の一般式(I)で表される化合物に含まれるものであり、「V-HNhB(2F,3F)-O1」は、一般式(II-1)で表される化合物に含まれるものであるところ、上記(ア3)の段落【0016】及び【0017】の記載によれば、一般式(I)で表される化合物の誘電率異方性値(Δε)が、およそ-9~-6、一般式(II-1)で表される化合物の誘電率異方性値(Δε)が、およそ-8~-5とされていることから、甲1発明の「V-NhB(2F,3F)-O1」、「3-NhB(2F,3F)-O2」、「5-NhB(2F,3F)-O1」、「5-NhB(2F,3F)-O2」及び「V-HNhB(2F,3F)-O1」は、負の誘電率異方性(誘電異方性)を有する化合物であるといえる。そして、これらの化合物が、「極性化合物」であることは、明らかであるから、これらの化合物を含む甲1発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○甲1発明の「V-HH-3」は、本件発明1の式RIIでR0が3個の炭素原子を有するn-アルキル、alkenylが2個の炭素原子を有するアルケニルである場合に相当し、同「3-HHB-3」は、本件発明の式RVIIIでalkyl及びalkyl*が、それぞれ3個の炭素原子を有するアルキル基の場合に相当する。
上記より、本件発明1と甲1発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、RVIIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1-1>
本件発明1は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(PP-13)を含んでいるのに対し、甲1発明には、本件発明1の一般式Iで表される化合物(PP-13)が含まれていない点。
<相違点1-1>について
甲1発明の液晶組成物の「V-HH-3」、「3-HB-2」、「3-HB-4」、「2-HH-EMe」、及び「3-HH-EMe」は、2環化合物という点で、本件発明1の「PP-13」に共通し、甲1発明の液晶組成物の「3-HHB-1」は、末端基が炭素数1及び3のアルキル基という点で、本件発明1の「PP-13」に共通するものである。
ここで、甲1発明の液晶組成物は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の実施例となるものであるが、甲1発明の上記の2環化合物を具体的化合物として含む上記(ア1)に記載される(III-1)及び(III-2)、又は甲1発明の「3-HHB-1」を具体的化合物として含む上記(ア1)に記載される(III-4)のいずれを見ても、環の構造自体が異なり、「PP-13」を含むものではないし、また、実施例5以外の他の実施例である上記(ア4)及び(ア6)の実施例1~4、6~8を見ても、「PP-13」は用いられていないから、甲1の液晶組成物において、「PP-13」が認識されているとはいえず、「PP-13」は、甲1発明の上記2環化合物及び「3-HHB-1」と別異な化合物であるといえる。
そして、上記(ア3)の段落【0018】の記載によれば、これら(III-1)、(III-2)及び(III-4)は、Δn、粘度、ネマチック相範囲を調整するといった所期の目的を達成するために用いられるものであるから、これら(III-1)、(III-2)及び(III-4)に含まれ、Δn、粘度、ネマチック相範囲を調整するといった所期の目的を達成するために用いられている甲1発明の上記2環化合物、又は「3-HHB-1」を、「PP-13」に置換する、又は、甲1発明の各液晶化合物の配合量を変更してまで、「PP-13」を甲1発明に新たに添加するという、動機付けが、甲1発明にあるとはいえない。
さらに、第2弁駁書では、甲号証を新たに引用しての主張はないが、第1弁駁書第30頁~31頁では、甲27(上記(エ2))、甲29(上記(カ2)及び(カ3))及び甲37(上記(ケ2))を引用して、末端CH3のHH又はHBを配合することは技術常識であることを主張している。
しかしながら、甲27、29及び37に記載されるものは、末端CH3のHH又はHBであり、「PP-13」とは異なる化合物であるから、甲27、29及び37を考慮したとしても、甲1発明の液晶組成物に、「PP-13」を添加することが、当業者に容易に想到し得るとはいえない。
したがって、上記相違点1-1は、実質的な相違点となるものであるし、甲1発明において、上記相違点1-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明ではないし、当業者といえども甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「液晶組成物」は、本件発明2の「液晶媒体」に相当する。
○上記「ア」で述べたように、甲1発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○甲1発明の「3-HHB-1」は、本件発明2のaが0である一般式Iにおいて、環A2から環A4までの構造が、1,4-フェニレン基、単結合、1,4-シクロヘキシレン基、単結合、1,4-シクロヘキシレン基であり、Xがn-C3H7であるから、本件発明2の一般式Iの化合物に相当する。
上記より、本件発明2と甲1発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1-2>
本件発明2は、「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲1発明は、本件発明2のこの様な化合物を含んでいない点。
<相違点1-2>について
甲1発明の「V-HH-3」、「2-HH-EMe」及び「3-HH-EMe」は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の内、上記一般式(III-1)~(III-4)で表される化合物から選択される一般式(III-1)に含まれるものである。この一般式(III-1)で表される化合物のR7は、炭素数1~10のアルキル基または単素数2~10のアルケニル基を示すとされ、R8は、炭素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または単素数2~10のアルケニル基を示すとされているから、形式上は、R7及びR8のどちらか一方が、n(CnH2n+1)又はVとなり、他方がV1又はVとなれば(以下、この項ではこの様な化合物を「当該化合物」という。)、本件発明2の「CC-n-V1」又は「CC-V-V」に合致することになる。
しかしながら、「当該化合物」は、形式上とりえる多数の形態の中での一形態であると共に、甲1には、R7及びR8のどちらか一方をn(CnH2n+1)又はV、他方をV1又はVにすることを推奨する記載もなく、しかも、実施例5以外の他の実施例である上記(ア4)及び(ア6)の実施例1~4、6~8を見ても、一般式(III-1)で表される化合物の具体的化合物として、「当該化合物」は用いられていない。
そうすると、甲1において、一般式(III-1)で表される化合物の中に少なくとも形式上は、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」が含まれていると共に、甲1発明の液晶組成物が、一般式(III-1)で表される化合物の具体的化合物として、「V-HH-3」、「2-HH-EMe」及び「3-HH-EMe」を含んでいるとしても、甲1には、甲1発明のこれらの化合物に代えて、または、これらの化合物に加えて添加することを、当業者が容易に想到できる程、「実体的」に、一般式(III-1)で表される化合物として、「当該化合物」が記載されているとはいえない。
また、第2弁駁書(第32頁)が引用する第1弁駁書(第34頁)では、甲12の上記(イ2)、甲29の上記(カ2)及び(カ3)、甲31の上記(キ2)及び甲33の上記(ク2)に記載されるように、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」は、既に知られた化合物であるとしているが、これらの化合物が、甲12、甲29、甲31及び甲33に記載されているとしても、これらの各甲号証に記載されるこれらの化合物は、これらの各甲号証の液晶組成物又は媒体の個々の実施例の中で選択的に用いられる成分に過ぎず、これらの各甲号証には、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」を、甲1発明の液晶組成物に添加することを推奨するような記載もない。
一方で、「CC」で表される2環構造を有する化合物である「V-HH-3」、「2-HH-EMe」、及び「3-HH-EMe」を既に含んでいる甲1発明の液晶組成物に、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」をさらに加える何らかの技術的な要請が存在するともいえないから、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」が既に知られている化合物であるとしても、甲1発明の液晶組成物に、これらの化合物を添加することが当業者にとり容易に想到し得ることであるとすることはできない。
したがって、上記相違点1-2は、実質的な相違点となるものであるし、甲1発明において、上記相違点1-2に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明2は、甲1発明ではないし、当業者といえども甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「液晶組成物」は、本件発明3の「液晶媒体」に相当する。
○上記「ア」で述べたように、甲1発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえるから、本件発明3の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
○上記「ア」で述べたように、甲1発明の「V-HH-3」及び「3-HHB-3」は、それぞれ、本件発明3の式RIIの化合物及びRVIIIの化合物に相当する。
上記より、本件発明3と甲1発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、RVIIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1-3>
液晶媒体について、本件発明3は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲1発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点1-3>について
甲1発明は、上記「ア」で述べたように、「V-NhB(2F,3F)-O1」、「3-NhB(2F,3F)-O2」、「5-NhB(2F,3F)-O1」、「5-NhB(2F,3F)-O2」及び「V-HNhB(2F,3F)-O1」という負の誘電異方性を有する極性化合物を含むことにより、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」となるものである。そして、上記(ア3)の段落【0007】の記載によれば、甲1発明の発明の課題は、「広視野角化を実現できる上記a)およびb)の表示方式に適用できるような適当な△nの値を持ち、低粘性かつ大きい負のΔεと広いネマチック相範囲を有していて、上記AM-LCD用液晶組成物に求められるその他の種々の特性を有している液晶組成物を提供する」というものである。
そうすると、甲1発明の発明の課題を解決するには、少なくとも「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」である必要があり、甲1発明の主要成分である上記の負の誘電異方性を有する各極性化合物を、全て正の誘電異方性を有する極性化合物に変更し、甲1発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることには、阻害要因があるというべきである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、「FまたはOCF3」であり、液晶分子の軸方向に誘電異方性を生じる「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、甲1発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」を、配合することに阻害要因があることは、上述のとおりであるから、甲1発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
<本件発明3の効果>について
前記「1 無効理由1について」(1)(1-1)「ア」で述べたように、本件発明の課題は、特に、「極めて高い比抵抗値」、「高い透明点であるか大きい動作温度範囲」、「低い回転粘度であるか低温においても短い応答時間」、「低いしきい値電圧」の4点において、従来技術の欠点を有しないか、または有しても小さい程度のみであり、減少した弾性定数、特にK1によってもたらされる低いしきい値電圧が強調されるものであるが、前記「1 無効理由1について」(4)で述べたように、本件発明3は、本件発明の課題を解決するものであり、この解決した課題がまさに本件発明3の効果となるものであるといえる。
そして、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、誘電異方性が正の特定の式Iで表される化合物を含む点で、本件発明3の液晶媒体は、実施例に記載される液晶媒体に対応するものであるが、本件発明の課題である、「極めて高い比抵抗値」、「高い透明点であるか大きい動作温度範囲」、「低い回転粘度であるか低温においても短い応答時間」、「低いしきい値電圧」に対応する、「S→N」、「透明点」、「Δn」、「γ1」、「V10,0,20」、「Δε」、「K1」等の指標の評価を行っている実施例の開示を参酌すると、本件発明3の液晶媒体は、これらの指標で良好な特性を示すものということができ、上述の発明の課題を解決するという点で格別の効果を奏するものであるといえる。
したがって、上記相違点1-3は、実質的な相違点となるものであるし、甲1発明において、上記相違点1-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明3は、甲1発明ではないし、当業者といえども甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明7について
本件発明7と甲1-1発明とを対比する。
○上記「ア」で述べたように、甲1-1発明の「液晶組成物」は、本件発明7の「液晶媒体」に相当し、甲1-1発明の液晶組成物は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○上記「イ」で述べたように、甲1-1発明の液晶組成物の「3-HHB-1」は、本件発明7の一般式Iの化合物に相当し、甲1-1発明の液晶組成物の「V-HHB-1」は、本件発明7のaが0である一般式Iにおいて、環A2から環A4までの構造が、1,4-フェニレン基、単結合、1,4-シクロヘキシレン基、単結合、1,4-シクロヘキシレン基であり、Xがビニル基である本件発明7の一般式Iの化合物に相当する。
○甲1-1発明の「液晶ディスプレイ」は、本件明細書の段落【0002】の記載によれば、「電気光学的装置」とされているものであるといえるから、甲1-1発明の「液晶ディスプレイへの使用」とは、本件発明7の「電気光学的目的への使用」に相当するといえる。
上記より、本件発明7と甲1-1発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体の、電気光学的目的への使用」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1-4>
本件発明7の液晶媒体は、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲1-1発明の液晶組成物は、本件発明7のこの様な化合物を含んでいない点。
<相違点1-4>について
上記相違点1-4に係る本件発明7の特定事項は、上記「イ」の相違点1-2に係る本件発明2の特定事項から、「CC-n-V1」を削除することにより、さらに限定したものである。
そして、上記「イ」で述べたように、甲1発明(甲1-1発明の液晶組成物)において、上記相違点1-2は、実質的な相違点となるものであるし、甲1発明において、上記相違点1-2に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点1-4も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲1-1発明において、上記相違点1-4に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明7は、甲1-1発明ではないし、当業者といえども甲1-1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
なお、第1弁駁書第38頁で、一般式Iで表される化合物のXに関し、液晶化合物の末端基をハロゲン化されたアルキル基とすることが既に知られていることを示す甲26(上記(ウ1))及び甲28(上記(オ1))が引用されているが、甲26及び甲28は、一般式Iで表される化合物のXが、n-C3H7またはビニル基である本件発明7に関連するものではない。
オ 本件発明8について
本件発明8と甲1-2発明とを対比する。
○上記「ア」で述べたように、甲1-2発明の「液晶組成物」は、本件発明8の「液晶媒体」に相当し、甲1-2発明の液晶組成物は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○上記「エ」で述べたように、甲1-2発明の液晶組成物の「3-HHB-1」及び「V-HHB-1」は、本件発明8の一般式Iの化合物に相当する。
○甲1-2発明の「液晶ディスプレイ」は、本件発明8の「電気光学的液晶ディスプレイ」に相当する。
上記より、本件発明8と甲1-2発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体を含む、電気光学的液晶ディスプレイ」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1-5>
本件発明8の液晶媒体は、「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲1-2発明の液晶組成物は、本件発明8のこの様な化合物を含んでいない点。
<相違点1-6>
本件発明8の液晶媒体は、【化38】~【化42】(省略)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の安定剤を含んでいるのに対し、甲1-2発明の液晶組成物には、この様な化合物が含まれていない点。
<相違点1-5>について
上記相違点1-5に係る本件発明8の特定事項は、上記「イ」の相違点1-2に係る本件発明2の特定事項と同じものである。
そして、上記「イ」で述べたように、甲1発明(甲1-2発明の液晶組成物)において、上記相違点1-2は、実質的な相違点となるものであるし、甲1発明において、上記相違点1-2に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点1-5も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲1-2発明において、上記相違点1-5に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明8は、上記相違点1-6について検討するまでもなく、甲1-2発明ではないし、当業者といえども甲1-2発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明13について
本件発明13と甲1発明とを対比する。
○上記「ウ」で述べたように、甲1発明の「液晶組成物」は、本件発明13の「液晶媒体」に相当し、甲1発明の「V-HH-3」及び「3-HHB-3」は、それぞれ、本件発明13の式RIIの化合物及びRVIIIの化合物に相当する。
○上記「ウ」で述べたように、甲1発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえるから、本件発明13の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
上記より、本件発明13と甲1発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、RVIIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1-7>
液晶媒体について、本件発明13は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲1発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点1-7>について
甲1発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることに、阻害要因があることは、上記「ウ」で述べたとおりである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、【化54】「F・・・OCF3・・・またはOCClFCF2CF3」であり、本件発明3の同式の末端基Xの「FまたはOCF3」を含むように、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、上記「ウ」で述べたのと同様に、甲1発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である本件発明13の式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
さらに、本件発明13は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、これが、誘電異方性が正の特定の式Iで表される化合物を含む点で、本件発明3と共通するものであるから、本件発明3と同様に、上記「ウ」「<本件発明3の効果>について」で述べた格別の効果を奏するものであるといえる。
したがって、上記相違点1-7は、実質的な相違点となるものであるし、甲1発明において、上記相違点1-7に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明13は、甲1発明ではないし、当業者といえども甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
(5)無効理由3-1のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3、7、8、13は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件発明1ないし3、7、8、13についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。
3 無効理由3-2について
(1)刊行物
甲9:特開平10-287875号公報
(2)刊行物(甲9)に記載の事項
(ア1)「【請求項1】 第1成分として、一般式(I)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、第2成分として、一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有することを特徴とする液晶組成物。
【化1】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基を示し、YはHまたはFを示し、p、qおよびrはそれぞれ独立して1~5の整数を示し、これらの化合物を構成する各原子はその同位体で置換されてもよい。)
【請求項2】 液晶組成物の全重量に対して、第1成分が3~25重量%、第2成分が3~70重量%であることを特徴とする請求項(1)に記載の液晶組成物
【請求項3】 第1成分として、一般式(I)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、第2成分として、一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、さらに第3成分として一般式(III-1)~(III-6)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有することを特徴とする請求項(1)または(2)のいづれかに記載の液晶組成物。
【化2】
(式中、R5およびR6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基を示し、ただしこのアルキル基中の相隣接しない任意のメチレン基(CH2)は酸素原子(O)で置換されてもよく、YはHまたはFを示し、またこれらの化合物を構成する各原子はその同位体で置換されてもよい。)」
(ア2)「【0002】
【背景技術】液晶表示素子(LCD)は、CRT(ブラウン管)に比べて、低消費電力、小型化、軽量化が可能であるために、ツイストネマチック(TN)方式、スーパーツイストネマチック(STN)方式、薄膜トランジスター(TFT)方式等の種々のLCDが実用化されてきた。中でも(TFT)方式等のアクティブマトリックスLCD(AM-LCD)はカラー化、高精細化が進みフラットディスプレイの本命として注目をあびている。このAM-LCD用液晶組成物に求められている特性として、
1)LCDの高コントラストを維持するために、電圧保持率(VHR)が高いこと。
2)使用環境に応じて、ネマチック液晶相範囲が大きいこと。
3)セル厚に応じて、適当な屈折率異方性(Δn)を取り得ること。
4)駆動回路に応じて、適当なしきい値電圧を取り得ること。
を挙げることができる。
AM-LCDの動作方式としては、上下の電極基盤間における液晶分子の配向を90゜ツイストさせたTN表示方式が主流であったが、視野角が狭いため大画面に適用しにくいという欠点があった。そこで視野角を改善するモードとして、
a)電圧無印加時に液晶相はホモジニアス配向状態を示し、電圧印加時に面内で液晶分子が45~90゜回転するIPS表示方式・・・や、
b)電圧無印加時に液晶相はホメオトロピック配向状態を示し、電圧印加時に水平一方向の配向状態に変化する表示方式(特開平2-176625号公報)等が提案されている。
・・・
【0003】
【発明が解決しょうとする課題】本発明の目的は、上記AM-LCD用液晶組成物に求められる種々の特性を満たしながら、また広視野角化を実現できるような上記a)およびb)の表示方式に適用できるような、比較的小さな△nの値を持ち、また負の誘電率異方性を有する液晶組成物を提供することにある。」
(ア3)「【0009】以下、本発明の液晶組成物を構成する化合物について説明する。一般式(I)で表される化合物は、誘電率異方性(Δε)がおおよそ-4~-1の範囲にあり、また、透明点(Tc)がおおよそ60~80℃の範囲にあり、熱安定性および化学的安定性に優れているので、特に高信頼性を要求されるTFT用液晶組成物のしきい値電圧および粘度を小さくする役割を担う。しかしながら、屈折率異方性(△n)がおおよそ0.05~0.07の範囲にあるために、これらの化合物だけで組成物を調整すると、組成物の△nがやや小さくなり好ましくない。一方、一般式(II-1)および(II-2)で表される化合物は、誘電率異方性(Δε)がおおよそ-6~-1の範囲にあり、また、透明点(Tc)がおおよそ70~140℃の範囲にあり、熱安定性および化学的安定性に優れているので、液晶組成物のしきい値電圧をさらに小さくする役割を担う。しかしながら、屈折率異方性(△n)がおおよそ0.08~0.18の範囲にあるので、これらの化合物だけで組成物を調整すると、組成物の△nがやや大きくなり好ましくない。一般式(I)で表される化合物数種と一般式(II-1)および(II-2)で表されるの化合物数種を適当に組み合わせることによって、本発明の目的である、特にセル厚に応じて好適な△nの値を持ち、また負の誘電率異方性を有するAM-LCD用液晶組成物が調整できる。
【0010】・・・一般式(III-1)および(III-2)で表される化合物は、液晶組成物の粘度を下げる役割を担う。ただし、多量に使用すると液晶組成物のしきい値電圧が高くなり、また透明点が低くなりすぎる場合がある。一般式(III-3)~(III-6)で表される化合物は、特に透明点を高くする役割を担う。ただし、多量に使用すると液晶組成物の低温における相溶性が悪くなる場合がある。」
(ア4)「【0016】
実施例1
3-HB(2F,3F)-1O1 9.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 9.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 14.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 5.0%
3-HH-4 10.0%
3-HH-2 5.0%
3-HH-O1 5.0%
3-HH-O3 6.0%
5-HH-O1 5.0%
TNI=66.1(℃)
TSN<-30℃
Δn=0.076
Δε=-3.6
η20=22.6(mPa・s)
VHR(25℃)=99.0%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0017】
実施例2
3-HB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 11.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 14.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 15.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 6.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 6.0%
3-HBB(2F)-1O1 6.0%
5-HBB(2F)-1O1 6.0%
3-HH-4 6.0%
3-HH-2 5.0%
3-HH-O1 4.0%
3-HH-O3 5.0%
5-HH-O1 4.0%
TNI=69.0(℃)
TSN<-30℃
Δn=0.081
Δε=-3.4
η20=25.2(mPa・s)
VHR=99.1%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0018】
実施例3
3-HB(2F,3F)-1O1 4.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 4.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 13.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
3-HHEH-3 5.0%
3-HHEH-5 5.0%
4-HHEH-3 5.0%
3-HH-4 5.0%
3-HH-5 5.0%
3-HH-O1 6.0%
3-HH-O3 6.0%
3-HB-O1 5.0%
3-HB-O2 5.0%
TNI=61.5(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.066
Δε=-2.3
η20=26.5(mPa・s)
VHR=98.5%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0019】
実施例4
3-HB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 11.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 14.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 15.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 14.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
3-HH-4 6.0%
3-HH-5 5.0%
3-HH-O1 4.0%
3-HH-O3 5.0%
5-HH-O1 4.0%
TNI=67.3(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.080
Δε=-3.6
η20=24.7(mPa・s)
VHR=99.3%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0020】
実施例5
3-HB(2F,3F)-1O1 7.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 7.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 14.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 15.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 11.0%
3-HBB(2F)-1O1 5.0%
5-HBB(2F)-1O1 5.0%
3-HH-4 6.0%
3-HH-5 5.0%
3-HH-O1 4.0%
3-HH-O3 5.0%
5-HH-O1 4.0%
TNI=77.2(℃)
TSN<-30℃
Δn=0.090
Δε=-3.4
η20=29.5(mPa・s)
VHR=99.0%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0021】
実施例6
3-HB(2F,3F)-1O1 5.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 5.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 8.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 8.0%
3-HHB-O2 10.0%
3-HBB-2 11.0%
5-HB-3 13.0%
3-HB-O2 10.0%
3-HB(F)BH-3 4.0%
5-HB(F)BH-3 4.0%
TNI=91.6(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.109
Δε=-2.7
η20=23.9(mPa・s)
VHR=99.3%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0022】
実施例7
3-HB(2F,3F)-1O1 4.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 13.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
3-HBB(2F)-1O1 4.0%
3-HHEH-3 5.0%
3-HHEH-5 5.0%
3-HHB-1 5.0%
3-HH-4 5.0%
3-HH-5 5.0%
3-HH-O1 6.0%
3-HH-O3 6.0%
3-HB-O1 5.0%
3-HB-O2 5.0%
TNI=65.1(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.076
Δε=-2.2
η20=26.6(mPa・s)
VHR=98.5%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0023】
実施例8
3-HB(2F,3F)-1O1 5.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 8.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 10.0%
5-HBB(2F,3F)-1O1 8.0%
5-HBB(2F)-1O1 5.0%
3-HHB-O2 10.0%
3-HBB-2 11.0%
5-HB-3 13.0%
3-HB-O2 10.0%
3-HB(F)BH-3 4.0%
1O1-HBBH-5 4.0%
TNI=97.6(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.115
Δε=-2.2
η20=26.1(mPa・s)
VHR=99.3%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0024】
実施例9
5-HB(2F,3F)-1O1 5.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 3.0%
3-HBB(2F)-1O1 3.0%
3-HH-2 6.0%
3-HH-4 6.0%
5-HH-O1 5.0%
3-HB-O2 10.0%
3-HB-O4 10.0%
3-HHB-3 6.0%
3-HHB-O1 8.0%
3-HHB-O2 8.0%
3-HBB-2 10.0%
3-HHEH-3 5.0%
3-HHEH-5 5.0%
4-HHEH-3 5.0%
3-HB(F)BH-3 4.0%
5-HB(F)BH-3 4.0%
TNI=80.9(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.081
Δε=-0.4
η20=14.4(mPa・s)
VHR=98.8%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。」
(ア5)「【0025】
実施例10
5-HB(2F,3F)-1O1 5.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 3.0%
3-HH-2 5.0%
3-HH-4 10.0%
3-HH-O1 5.0%
3-HH-O3 6.0%
5-HH-O1 5.0%
3-HB-O4 10.0%
5-HB-3 12.0%
3-HHB-1 8.0%
3-HHB-3 5.0%
3-HHB-O2 5.0%
3-HBB-2 2.0%
3-HHEH-3 5.0%
3-HHEH-5 5.0%
3-HB(F)BH-3 5.0%
1O1-HBBH-5 4.0%
TNI=65.8(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.066
Δε=-0.3
η20=11.3(mPa・s)
VHR=99.0%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
(ア6)「【0026】
実施例11
3-HB(2F,3F)-1O1 9.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 9.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 12.0%
5-HHB(2F,3F)-1O1 14.0%
3-HBB(2F)-1O1 15.0%
5-HBB(2F)-1O1 10.0%
3-HH-4 5.0%
3-HH-5 10.0%
3-HB-O4 5.0%
3-HHB-1 5.0%
3-HHB-O1 6.0%
TNI=82.7(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.112
Δε=-3.0
η20=26.1(mPa・s)
VHR=99.3%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。
【0027】
実施例12
3-HB(2F,3F)-1O1 10.0%
5-HB(2F,3F)-1O1 8.0%
3-HHB(2F,3F)-1O1 12.0%
3-HBB(2F,3F)-1O1 8.0%
3-HBB(2F)-1O1 5.0%
5-HBB(2F)-1O1 5.0%
3-HH-4 5.0%
3-HH-O3 5.0%
5-HB-3 13.0%
3-HHB-1 10.0%
3-HHB-3 11.0%
3-HB(F)BH-3 4.0%
5-HB(F)BH-3 4.0%
TNI=86.4(℃)
TSN<-20℃
Δn=0.081
Δε=-2.5
η20=19.1(mPa・s)
VHR=99.1%
この液晶組成物は、△nの値が好適であり、25℃での電圧保持率の値も高かった。」
(3)甲9に記載された発明
甲9の【請求項1】を引用する【請求項3】には、「第1成分として、一般式(I)(省略)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、第2成分として、一般式(II-1)または(II-2)(省略)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有し、さらに第3成分として一般式(III-1)~(III-6)で表される化合物群から選択される少なくとも1種類の化合物を含有する液晶組成物。
【化2】((III-1)~(III-6)省略)
(式中、R5およびR6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基を示し、ただしこのアルキル基中の相隣接しない任意のメチレン基(CH2)は酸素原子(O)で置換されてもよく、YはHまたはFを示し、またこれらの化合物を構成する各原子はその同位体で置換されてもよい。)」が記載されているところ、この液晶組成物の具体的な実施例のうち、上記(ア5)の実施例10として、
「5-HB(2F,3F)-1O1を5.0%、3-HBB(2F,3F)-1O1を3.0%、3-HH-2を5.0%、3-HH-4を10.0%、3-HH-O1を5.0%、3-HH-O3を6.0%、5-HH-O1を5.0%、3-HB-O4を10.0%、5-HB-3を12.0%、3-HHB-1を8.0%、3-HHB-3を5.0%、3-HHB-O2を5.0%、3-HBB-2を2.0%、3-HHEH-3を5.0%、3-HHEH-5を5.0%、3-HB(F)BH-3を5.0%、1O1-HBBH-5を4.0%含有し、TNI=65.8(℃)、TSN<-20℃、Δn=0.066、Δε=-0.3、η20=11.3(mPa・s)、VHR=99.0%の液晶組成物。」(以下、「甲9発明」という。)が記載されているといえる。
また、甲9の上記(ア2)の記載によれば、液晶組成物を用いた液晶表示素子は、「ディスプレイ」に使用されるものであるから、甲9には、
「甲9発明の液晶組成物の、液晶ディスプレイへの使用。」(以下、「甲9-1発明」という。)、及び
「甲9発明の液晶組成物を含む、液晶ディスプレイ。」(以下、「甲9-2発明」という。)も記載されているといえる。
(4)対比・検討
ア 本件発明1について
本件発明1と甲9発明とを対比する。
○甲9発明の「液晶組成物」は、本件発明1の「液晶媒体」に相当する。
○甲9発明の「5-HB(2F,3F)-1O1」及び「3-HBB(2F,3F)-1O1」は、ベンゼン環の2位、3位に電気陰性度の高いFが結合し、液晶分子の長軸に対し垂直方向に分極しているから、負の誘電率異方性値を有する化合物であることは明らかであると共に、この様な化合物が、「極性化合物」であることも、明らかであるから、これらの化合物を含む甲9発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○甲9発明の「3-HHB-3」は、本件発明1の式RVIIIでalkyl及びalkyl*が、それぞれ3個の炭素原子を有するアルキル基の場合に相当し、「3-HBB-2」は、本件発明1の式RXIVでalkyl及びalkyl*が、それぞれ3個、2個の炭素原子を有するアルキル基の場合に相当する。
上記より、本件発明1と甲9発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RIII、式RXIVの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-1>
本件発明1は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(PP-13)を含んでいるのに対し、甲9発明には、本件発明1の一般式Iで表される化合物(PP-13)が含まれていない点。
<相違点2-1>について
甲9発明の液晶組成物の「3-HH-2」、「3-HH-4」、「3-HH-O1」、「3-HH-O3」、「5-HH-O1」、「3-HB-O4」、及び「5-HB-3」は、2環化合物という点で、本件発明1の「PP-13」に共通し、甲9発明の液晶組成物の「3-HHB-1」は、末端基が炭素数1及び3のアルキル基という点で、本件発明1の「PP-13」に共通するものである。
ここで、甲9発明の液晶組成物は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の実施例となるものであるが、甲9発明の上記の2環化合物を具体的化合物として含む上記(ア1)に記載される(III-1)及び(III-2)、又は甲9発明の「3-HHB-1」を具体的化合物として含む上記(ア1)に記載される(III-3)のいずれを見ても、環の構造自体が異なり、「PP-13」を含むものではないし、また、実施例10以外の他の実施例である上記(ア4)及び(ア6)の実施例1~9、11、12を見ても、「PP-13」は用いられていないから、甲9の液晶組成物において、「PP-13」が認識されているとはいえず、「PP-13」は、甲9発明の上記2環化合物及び「3-HHB-1」と別異な化合物であるといえる。
そして、上記(ア3)の段落【0010】の記載によれば、これら(III-1)、(III-2)は、粘度を下げ、(III-3)は、透明点を高くするといった所期の目的を達成するために用いられるものであるから、これら(III-1)、(III-2)及び(III-3)に含まれ、粘度を下げる、又は、透明点を高くするといった所期の目的を達成するために用いられている甲9発明の上記2環化合物、又は「3-HHB-1」を、「PP-13」に置換する、又は、甲9発明の各液晶化合物の配合量を変更してまで、「PP-13」を甲9発明に新たに添加するという、動機付けが、甲9発明にあるとはいえない。
さらに、上記「2 無効理由3-1について」(3)「ア」で述べたのと同様に、末端CH3のHH又はHBが既に知られたものであることを示す甲27、29及び37を考慮したとしても、甲1発明の液晶組成物に、「PP-13」を添加することが、当業者に容易に想到し得るとはいえない。
したがって、上記相違点2-1は、実質的な相違点となるものであるし、甲9発明において、上記相違点2-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明1は、甲9発明ではないし、当業者といえども甲9発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
本件発明2と甲9発明とを対比する。
〇甲9発明の「液晶組成物」は、本件発明2の「液晶媒体」に相当する。
〇上記「ア」で述べたように、甲9発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
〇上記「2 無効理由3-1について」(4)「ア」で述べたように、甲9発明の「3-HHB-1」は、本件発明2の一般式Iの化合物に相当する。
上記より、本件発明2と甲9発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-2>
本件発明2は、「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲9発明は、本件発明2のこの様な化合物を含んでいない点。
<相違点2-2>について
甲9発明の「3-HH-2」、「3-HH-4」、「3-HH-O1」、「3-HH-O3」及び「5-HH-O1」は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の内、上記一般式(III-1)~(III-6)で表される化合物から選択される一般式(III-1)に含まれるものである。この一般式(III-1)で表される化合物のR5及びR6は、炭素数1~10のアルキル基(アルキル基中の相隣接しない任意のメチレン基(CH2)は酸素原子(O)で置換されててもよい)を示すとされているから、HHの末端基としてアルケニル基を含む「CC-n-V1」又は「CC-V-V」は、一般式(III-1)に含まれない。
また、甲9には、一般式(III-1)で表される化合物の内、R5又はR6を特定の構造のアルケニル基とすることを動機付ける記載もないから、上記「2 無効理由3-1について」(4)「イ」で述べたのと同様に、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」が既に知られているとしても、甲9発明の液晶組成物に、その様な化合物を添加することが当業者にとり容易に想到し得ることであるとすることはできない。
したがって、上記相違点2-2は、実質的な相違点となるものであるし、甲9発明において、上記相違点2-2に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明2は、甲9に記載された発明ではないし、当業者といえども甲9発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3について
本件発明3と甲9発明とを対比する。
○甲9発明の「液晶組成物」は、本件発明3の「液晶媒体」に相当する。
○上記「ア」で述べたように、甲9発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえるから、本件発明3の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
○上記「ア」で述べたように、甲9発明の「3-HHB-3」及び「3-HBB-2」は、それぞれ、本件発明3の式RVIIIの化合物及び式RXIVの化合物に相当する。
上記より、本件発明3と甲9発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RVIII、式RXIVの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-3>
液晶媒体について、本件発明3は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲9発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点2-3>について
甲9発明は、上記「ア」で述べたように、「5-HB(2F,3F)-1O1」及び「3-HBB(2F,3F)-1O1」という負の誘電異方性を有する極性化合物を含むことにより、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」となるものである。そして、上記(ア2)の段落【0003】の記載によれば、甲9発明の発明の課題は、「上記AM-LCD用液晶組成物に求められる種々の特性を満たしながら、また広視野角化を実現できるような上記a)およびb)の表示方式に適用できるような、比較的小さな△nの値を持ち、また負の誘電率異方性を有する液晶組成物を提供する」というものである。
そうすると、甲9発明の発明の課題を解決するには、少なくとも「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」である必要があり、甲9発明の主要成分である上記の負の誘電異方性を有する各極性化合物を、全て正の誘電異方性を有する極性化合物に変更し、甲9発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることには、阻害要因があるというべきである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、「FまたはOCF3」であり、液晶分子の軸方向に誘電異方性を生じる「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、甲9発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」を、配合することに阻害要因があることは、上述のとおりであるから、甲9発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明3は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点2-3は、実質的な相違点となるものであるし、甲9発明において、上記相違点2-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明3は、甲9発明ではないし、当業者といえども甲9発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明7について
本件発明7と甲9-1発明とを対比する。
○上記「ア」で述べたように、甲9-1発明の「液晶組成物」は、本件発明7の「液晶媒体」に相当し、甲9-1発明の液晶組成物は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○上記「イ」で述べたように、甲9-1発明の「3-HHB-1」は、本件発明7の一般式Iの化合物に相当する。
○上記「2 無効理由3-1について」(4)「エ」で述べたように、甲9-1発明の「液晶ディスプレイへの使用」とは、本件発明7の「電気光学的目的への使用」に相当するといえる。
上記より、本件発明7と甲9-1発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体の、電気光学的目的への使用」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-4>
本件発明7の液晶媒体は、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲9-1発明の液晶組成物は、本件発明7のこの様な化合物を含んでいない点。
<相違点2-4>について
上記相違点2-4に係る本件発明7の特定事項は、上記「イ」の相違点2-2に係る本件発明2の特定事項から、「CC-n-V1」を削除することにより、さらに限定したものである。
そして、上記「イ」で述べたように、甲9発明(甲9-1発明の液晶組成物)において、上記相違点2-2は、実質的な相違点となるものであるし、甲9発明において、上記相違点2-2に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点2-4も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲9-1発明において、上記相違点2-4に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明7は、甲9-1発明ではないし、当業者といえども甲9-1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明8について
本件発明8と甲9-2発明とを対比する。
○上記「ア」で述べたように、甲9-2発明の「液晶組成物」は、本件発明8の「液晶媒体」に相当し、甲9-2発明の液晶組成物は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○上記「イ」で述べたように、甲9-2発明の液晶組成物の「3-HHB-1」は、本件発明8の一般式Iの化合物に相当する。
○甲9-2発明の「液晶ディスプレイ」は、本件発明8の「電気光学的液晶ディスプレイ」に相当する。
上記より、本件発明8と甲9-2発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、一般式Iで表される化合物を含む液晶媒体を含む、電気光学的液晶ディスプレイ」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-5>
本件発明8の液晶媒体は、「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲9-2発明の液晶組成物は、本件発明8のこの様な化合物を含んでいない点。
<相違点2-6>
本件発明8の液晶媒体は、【化38】~【化42】(省略)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の安定剤を含んでいるのに対し、甲9-2発明の液晶組成物には、この様な化合物が含まれていない点。
<相違点2-5>について
上記相違点2-5に係る本件発明8の特定事項は、上記「イ」の相違点2-2に係る本件発明2の特定事項と同じものである。
そして、上記「イ」で述べたように、甲9発明(甲9-2発明の液晶組成物)において、上記相違点2-2は、実質的な相違点となるものであるし、甲9発明において、上記相違点2-2に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点2-5も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲9-2発明において、上記相違点2-5に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明8は、上記相違点2-6について検討するまでもなく、甲9-2発明ではないし、当業者といえども甲9-2発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明13について
本件発明13と甲9発明とを対比する。
○上記「ウ」で述べたように、甲9発明の「液晶組成物」は、本件発明13の「液晶媒体」に相当し、甲9発明の「3-HHB-3」及び「3-HBB-2」は、それぞれ、本件発明3の式RVIIIの化合物及び式RXIVの化合物に相当する。
○上記「ウ」で述べたように、甲9発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえるから、本件発明13の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
上記より、本件発明13と甲9発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RVIII、式RXIVの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-7>
液晶媒体について、本件発明13は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲9発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点2-7>について
甲9発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることに、阻害要因があることは、上記「ウ」で述べたとおりである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、【化54】「F・・・OCF3・・・またはOCClFCF2CF3」であり、本件発明3の同式の末端基Xの「FまたはOCF3」を含むように、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、上記「ウ」で述べたのと同様に、甲9発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である本件発明13の式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明13は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」及び同「カ」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点2-7は、実質的な相違点となるものであるし、甲9発明において、上記相違点2-7に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明13は、甲9発明ではないし、当業者といえども甲9発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
(5)無効理由3-2のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3、7、8、13は、甲9に記載された発明ではないし、甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件発明1ないし3、7、8、13についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。
4 無効理由4-1について
(1)刊行物
甲2:特開平11-140447号公報
(2)刊行物(甲2)に記載の事項
(ア1)「【請求項1】 負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、少なくとも1つの式Iの化合物;
【化1】
及び少なくとも1つの式IIの化合物;
【化2】
(式中R1は、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ又は炭素原子2個から7個を有するアルケニル基であり、R2は、炭素原子2個から7個を有するアルケニル基であり、R3及びR4は、互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基であり、
【化3】
mは、0又は1である、)を含有する、前記液晶媒体。
【請求項2】少なくとも1つの式IIIの化合物;
【化4】
(式中R5は、式II中のR3及びR4で定義のとおりであり、L1からL3は、互いに独立して、H、F又はClであり、及びXは、F又はClである、)の化合物をさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の媒体。
【請求項3】 1又は2以上の式IVの化合物;
【化5】
(式中R6及びR7は、互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基であり、
【化6】
nは、0又は1である、)の化合物をさらに含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の媒体。
【請求項4】 式I及び式IIから選択された4又は5以上の化合物を本質的に含有することを特徴とする、請求項1~3の少なくとも1つに記載の媒体。
【請求項5】 少なくとも3つの式IVの化合物を含有することを特徴とする、請求項4に記載の媒体。
【請求項6】 少なくとも1つの式IIIの化合物をさらに含有することを特徴とする、請求項4及び5の少なくとも1つに記載の媒体。
【請求項7】 R1及び/又はR2がビニル又は1E-プロペニルである式Iの化合物を少なくとも1つ含有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の媒体。
【請求項8】 式Ia~Ihから選択された化合物を少なくとも1つ含有することを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の液晶媒体。
【化7】
【請求項9】 R2がビニル又は1E-プロペニル基である式Iの化合物を含有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の媒体。
【請求項10】 少なくとも3つの式IIa~IIe;
【化8】
(式中、アルキルは、C1-6-アルキル基である、)から選択された化合物を少なくとも1つ含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1つに記載の液晶媒体。」
(ア2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体に関する。さらに液晶媒体を誘電体として含有することを特徴とし、ECB効果を基本としてアクティブマトリクスアドレッシングを有する電気光学プロジェクションディスプレイに関する。」
(ア3)「【0015】従って、さまざまな中間調表示を可能にするような、非常に大きな固有抵抗、同時に幅広い動作温度、短い応答時間及び低いしきい値電圧を有するマトリクス液晶ディスプレイは引き続き大いに需要がある。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述の不都合を有さないか、又は非常にわずかなものしか有さない、ECB効果を基本とし、そして同時に非常に大きな固有抵抗を有するマトリクス液晶ディスプレイ、特にプロジェクションディスプレイ類を提供すること及びそれらに有用な液晶媒体を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】少なくとも1つの式Iの化合物及び少なくとも1つの式IIの化合物を含有するネマティック液晶混合物をこれらのディスプレイ素子中で使用した場合、この目的を達成できることが今回明らかとなった。本発明は、従って少なくとも1つの式Iの化合物;
【化11】(省略)
及び少なくとも1つの式IIの化合物;
【0018】
【化12】(省略)
(式中R1は、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ又は炭素原子2個から7個を有するアルケニル基であり、R2は、炭素原子2個から7個を有するアルケニル基であり、R3及びR4は、互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基であり、
【化13】(省略)
mは、0又は1である、)を含有する負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体に関する。」
(ア4)「【0040】液晶混合物は、好ましくは少なくとも80°(C)のネマティック相幅、60℃より高い、特に70℃より高い透明点、及び20℃で≦60mm2s-1、好ましくは20mm2s-1から60mm2s-1の最大フロー粘度及び20℃で≦180mPa.s及び特に85mPa.sから160mPa.sの回転粘度を有する。
【0041】本発明による液晶混合物は、約-1.5から-5、特に約-1.8から-4の誘電異方性をあらわすΔεを有する。
【0042】本液晶混合物の複屈折率Δnは、一般に0.07から0.14の間、好ましくは0.08から0.13の間、及び/又は誘電率ε∥は、3より大きいか、又は等しく、好ましくは3.2から4.5である。
【0043】1kHzの振動数における容量性しきい値電圧V0は、2.5V又はそれより小さく、好ましくは2.4V又はそれより小さく、最も好ましくは1.9Vから2.3Vである。」
(ア5)「【0059】
【実施例】例1
混合物は、以下を含有するように調製する。
【表1】
【0060】例2
液晶相は、以下を含有するように調製する。
【表2】
【0061】例3
液晶混合物は、以下を含有するように調製する。
【表3】
【0062】例4
混合物は、以下を含有するように調製する。
【表4】
」
(3)甲2に記載された発明
平成29年9月4日付け審決の予告では、甲2に記載される発明の上記(ア1)の【請求項1】の環構造にFが結合し誘電異方性が負の式IIの化合物を、本件発明の一般式Iで表される化合物を対応付けたが、本件訂正により、一般式Iで表される化合物が、本件発明1では、「PP-13」に、本件発明2では、「CCP-31」に、本件発明7、8では、「CCP-31又はCCP-3V」に訂正され、これらの化合物は、環構造にFが結合していない誘電異方性が中性の化合物であるため、甲2の液晶化合物で、同じく環構造にFが結合していない誘電異方性が中性の化合物である上記(ア1)の【請求項3】のIV式の化合物を含む液晶媒体を、甲2A発明とする認定を行う。
また、甲2例1を基に甲2B発明の認定を行う。
請求人も、第2弁駁書第47頁第1~4行で、甲2には、甲2例1発明、甲2の請求項3の発明が記載されていることを主張し、同第46~57頁で、甲2の請求項3の発明と、本件発明の対比を行っている。
ア 甲2A発明~甲2A-2発明
甲2の上記(ア1)の【請求項1】を引用する【請求項3】をさらに引用する【請求項7】には、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、少なくとも1つの式Iの化合物;
【化1】(省略)
少なくとも1つの式IIの化合物;
【化2】(省略)
(式中R1は、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ又は炭素原子2個から7個を有するアルケニル基であり、R2は、炭素原子2個から7個を有するアルケニル基であり、R1及び/又はR2がビニル又は1E-プロペニルであり、R3及びR4は、互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基であり、
【化3】(省略)
mは、0又は1である、)を含有し、
及び1又は2以上の式IVの化合物;
【化5】(省略)
(式中R6及びR7は、互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基であり、
【化6】(省略)
nは、0又は1である、)の化合物を含有する、前記液晶媒体。」(以下、「甲2A発明」という。)が記載されている。
さらに、甲2の上記(ア2)の記載によれば、甲2A発明の液晶媒体は、「電気光学プロジェクションディスプレイ」に使用されるものであるから、甲2には、
「甲2A発明の液晶媒体の、電気光学プロジェクションディスプレイへの使用。」(以下、「甲2A-1発明」という。)、及び
「甲2A発明の液晶媒体を含む、電気光学プロジェクションディスプレイ。」(以下、「甲2A-2発明」という。)も記載されているといえる。
イ 甲2B発明~甲2B-2発明
甲2には、甲2A発明の具体的な実施例のうち、上記(ア5)の例1として、
「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、
CC-5-Vを5.00%、CCP-21FFを6.50%、CCP-31FFを6.50%、CCP-3O2FFを14.00%、CCP-5O2FFを9.50%、PCH-3O2FFを14.50%、PCH-5O2FFを14.50%、T-3FClFを3.00%、T-5FClFを3.00%、BCH-32を5.00%、BCH-52を3.00%、BCH-32Fを4.00%、BCH-52Fを3.50%、PCH-32を2.00%、PCH-3O1を2.00%、PCH-3O2を2.00%、PCH-3O4を2.00%含有し、透明点が84℃、Δnが0.1121、neが1.5991、Δεが-3.7、ε∥が3.8の、前記液晶媒体。」(以下、「甲2B発明」という。)が記載されているといえる。
さらに、甲2の上記(ア2)の記載によれば、液晶媒体は、「電気光学プロジェクションディスプレイ」に使用されるものであるから、甲2には、
「甲2A発明の液晶媒体の、電気光学プロジェクションディスプレイへの使用。」(以下、「甲2B-1発明」という。)、及び
「甲2A発明の液晶媒体を含む、電気光学プロジェクションディスプレイ。」(以下、「甲2B-2発明」という。)も記載されているといえる。
(4)対比・検討
ア 本件発明1について
(ア)甲2A発明との対比・検討
本件発明1と甲2A発明とを対比する。
○甲2発明の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」は、本件発明1の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」に相当する。
○甲2A発明の「R1及び/又はR2がビニル又は1E-プロペニル」である式Iの化合物において、「R1及びR2がビニル又は1E-プロペニル」の場合は、本件発明1の、alkenylが2~8個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルケニル基であり、R0が2~8個の炭素原子を有するアルケニルである式RIIで表される化合物に相当する。
上記より、本件発明1と甲2A発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RIIで表される化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-1>
本件発明1は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(PP-13)を含んでいるのに対し、甲2A発明には、本件発明1の一般式Iで表される化合物(PP-13)が含まれていない点。
<相違点3-1>について
甲2A発明の式IVの化合物は、nが0の場合、2環化合物となり、本件発明1の「PP-13」と、2環化合物という点で共通するものではあるが、甲2A発明の式IVの化合物は、2環のうち少なくとも一つの環は1,4-シクロヘキシレン基となるものであり、「PP-13」とは、別異な化合物である。しかも、本件発明1の「PP-1-3」は、末端基が炭素数1及び3のアルキル基に特定されていることになるが、甲2A発明の式IVの化合物の2つの末端基は、「互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基」との特定に留まり、上記(ア5)に記載される全ての実施例である例1~4を見ても、末端基が炭素数1及び3のアルキル基を有する式IVの化合物が用いられていないことから、甲2A発明の式IVの化合物は、形式上末端基が炭素数1及び3のアルキル基である場合を含んだとしても、「実体的」に末端基が炭素数1及び3のアルキル基である場合を含んでいるとはいえず、この点でも、甲2A発明の式IVの化合物は、本件発明1の「PP-13」とは、別異な化合物であるといえる。
そして、上記(ア3)の段落【0015】に記載されるような「さまざまな中間調表示を可能にするような、非常に大きな固有抵抗、同時に幅広い動作温度、短い応答時間及び低いしきい値電圧を有するマトリクス液晶ディスプレイは引き続き大いに需要がある」ということに対し、甲2A発明は、同段落【0016】の記載によれば、これらの点で不都合を有さず、ECB効果を基本とし、そして同時に非常に大きな固有抵抗を有するマトリクス液晶ディスプレイを提供しようとするものであり、この課題を達成するため、上記(ア5)には、例1~例4に具体的な液晶媒体が記載されている。ここで、甲2A発明の式IVの化合物として、例1では、「BCH-32」、「BCH-52」、「PCH-32」、「PCH-3O1」、「PCH-3O2」及び「PCH-3O4」が、例2では、「CCH-34」、「PCH-52」及び「PCH-3O1」が用いられているように、甲2A発明の式IVの化合物は、上記の甲2A発明の発明の課題を解決するのに相応の寄与を行っている化合物であるといえるし、甲2には、甲2の液晶媒体に、「PP」の環構造を有する液晶化合物の使用を示唆する何らの記載もないのであるから、甲2A発明の発明の課題を解決するのに相応の寄与を行っている甲2A発明の式IVの化合物を、「PP-13」に置換する、又は、甲2A発明の各液晶化合物の配合量を変更してまで、「PP-13」を甲2A発明に新たに添加するという動機付けが、甲2A発明にあるとはいえない。
したがって、上記相違点3-1は、実質的な相違点となるものであるし、甲2A発明において、上記相違点3-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(イ)甲2B発明との対比・判断
本件発明1と甲2B発明を対比すると、甲2B発明の「CC-5-V」、「BCH-32及びBCH-52」は、それぞれ、本件発明1のRII、RXIVに相当するから、本件発明1と甲2B発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、RXIVで表される化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、上記相違点3-1と同じ点(「相違点3-1’」という)で相違している。
ここで、甲2B発明の「PCH-32」、「PCH-3O1」、「PCH-3O2」及び「PCH-3O4」は、2環化合物(環にフッ素原子が無く中性の化合物)という点で、本件発明1の「PP-13」に共通するものではあるが、これらの化合物は、2環のうち少なくとも環は1,4-シクロヘキシレン基となるものであり、「PP-13」とは、別異な化合物である。しかも、本件発明1の「PP-13」は、末端基が炭素数1及び3のアルキル基に特定されていることになるが、甲2B発明のこれらの化合物の2つの末端基は、炭素数1及び3のアルキル基ではなく、この点でも、これらの化合物は、本件発明1の「PP-13」とは、別異な化合物であるといえる。
そして、甲2B発明のこれらの化合物は、上記「<相違点3-1>について」で述べたのと同様に、甲2B発明の発明の課題を解決するのに相応の寄与を行っている化合物であるといえるし、甲2には、甲2の液晶媒体に、「PP」の環構造を有する液晶化合物を用いる何らの記載もないのであるから、甲2B発明の発明の課題を解決するのに相応の寄与を行っている甲2B発明のこれらの化合物のいずれかを、「PP-13」に置換する、又は、甲2B発明の各液晶化合物の配合量を変更してまで、「PP-13」を甲2B発明に新たに添加するという動機付けが、甲2B発明にあるとはいえない。
したがって、上記相違点3-1’は、実質的な相違点となるものであるし、甲2B発明において、上記相違点3-1’に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(ウ)小括
本件発明1は、甲2A発明又は甲2B発明ではないし、当業者といえども甲2A発明又は甲2B発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
(ア)甲2A発明との対比・判断
本件発明2と甲2A発明とを対比する。
○甲2A発明の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」は、本件発明2の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」に相当する。
○甲2A発明の「R1及び/又はR2がビニル又は1E-プロペニル」である式Iの化合物において、「R1及びR2がビニル」の場合は、両側の末端基がビニル基である本件発明2の「CC-V-V」に相当する。
上記より、本件発明2と甲2A発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、CC-V-Vを含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-2>
本件発明2は、一般式I(省略)で表される1種または2種以上の化合物(CCP-31)を含んでいるのに対し、甲2A発明には、本件発明2の一般式Iで表される化合物(CCP-31)が含まれていない点。
<相違点3-2>について
甲2A発明の式IVの化合物のR6及びR7は、互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基とされているから、nを1、環Bを、1,4-フェニレン基、環Cを、1,4-シクロヘキシレン基とした上で、R6を炭素原子が3個のアルキル基、R7を炭素数が1個のアルキル基とすれば(以下、この項ではこの様な化合物を「当該化合物」という。)、本件発明2の「CCP-31」に合致することになる。
しかしながら、「当該化合物」は、形式上とりえる多数の形態の中での一形態であると共に、甲2A発明の実施例を見ても、式IVの化合物の具体的な化合物として、「CCP」の環構造を有するものは用いられていないし、末端基として炭素数が1及び3のものも用いられていない。しかも、甲2には、nを1、環Bを、1,4-フェニレン基、環Cを、1,4-シクロヘキシレン基とした上で、R6を炭素原子が3個のアルキル基、R7を炭素数が1個のアルキル基とすることを推奨する記載もない。
そうすると、甲2A発明の式IVの化合物の中に少なくとも形式上は、「当該化合物」が含まれているとしても、甲2A発明には、式IVの化合物に含まれていることが当業者が認識できるほど「実体的」に、「当該化合物」が記載されているとはいえないし、甲2A発明には、式IVの化合物として、「当該化合物」を用いること、さらに、甲2A発明の液晶媒体に、「当該化合物」を新たに添加することの動機付けがあるとはいえない。
したがって、上記相違点3-2は、実質的な相違点となるものであるし、甲2A発明において、上記相違点3-2に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(イ)甲2B発明との対比・判断
本件発明2と甲2B発明を対比すると、甲2B発明の液晶媒体の各成分には、本件発明2の一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(CCP-31)に相当する化合物はないし、本件発明2の「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物に相当する化合物もないから、本件発明2と甲2B発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」である点のみで一致し、上記相違点3-2と同じ点(「相違点3-2’」という)、及び甲2B発明は、本件発明2の「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいない点で相違している。
ここで、甲2B発明の「BCH-32」及び「BCH-52」は、3環の両側の環が、1,4-シクロヘキシレン基及び1,4-フェニレン基である3環化合物(環にフッ素原子が無く中性の化合物)という点で、本件発明2の「CCP-31」に共通するものではあるが、これらの化合物は、3環の中央の環が1,4-フェニレン基となるものであり、3環の中央の環が1,4-シクロヘキシレン基である「CCP-31」とは、別異な化合物である。しかも、本件発明2の「CCP-31」は、末端基が炭素数1及び3のアルキル基に特定されていることになるが、甲2B発明の「BCH-32」及び「BCH-52」の末端基は、炭素数1及び3のアルキル基ではなく、この点でも、これらの化合物は、本件発明2の「CCP-31」とは、別異な化合物であるといえる。
そして、甲2B発明のこれらの化合物は、甲2A発明の式IVの化合物に含まれる具体的な化合物であるが、上記(ア)で述べたように、式IVの化合物は、本件発明2の「CCP-31」を形式的には含むものであるが、式IVの化合物に含まれていることが当業者が認識できるほど「実体的」に、「CCP-31」が記載されているとはいえないのであるから、甲2B発明の「BCH-32」及び「BCH-52」が含まれる、式IVの化合物を考慮したとしても、甲2B発明の「BCH-32」及び「BCH-52」を、「CCP-31」に置換すること、さらに、甲2B発明の液晶媒体に、「CCP-31」を新たに添加することの動機付けがあるとはいえない。
したがって、上記相違点3-2’は、実質的な相違点となるものであるし、甲2B発明において、上記相違点3-2’に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(ウ)小括
本件発明2は、甲2A発明ではないし、当業者といえども甲2A発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、少なくとも上記相違点3-2’が、実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到することができるものではないから、本件発明2は、甲2B発明ではないし、当業者といえども甲2B発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3について
(ア)甲2A発明との対比・判断
本件発明3と甲2A発明とを対比する。
○甲2A発明の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」は、本件発明3の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
○上記「ア」で述べたように、甲2A発明の式Iの化合物は、本件発明1の式RIIで表される化合物に相当する。
上記より、本件発明3と甲2A発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-3>
液晶媒体について、本件発明3は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲2A発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点3-3>について
上記(ア3)の段落【0016】の記載によれば、甲2A発明は、少なくとも「ECB効果を基本とし、そして同時に非常に大きな固有抵抗を有するマトリクス液晶ディスプレイ、特にプロジェクションディスプレイ類を提供すること及びそれらに有用な液晶媒体を提供する」という課題を解決するものであるが、同段落【0017】の記載によれば、少なくとも1つの式Iの化合物及び少なくとも1つの式IIの化合物を含有するネマティック液晶混合物をこれらのディスプレイ素子中で使用した場合、この課題を達成できることが記載されている。ここで、この式IIの化合物は、負の誘電異方性を有する極性化合物であり、同段落【0018】に記載されるように、甲2A発明の液晶媒体は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」であるといえる。
そうすると、甲2A発明の発明の課題を解決するには、少なくとも「負の誘電異方性を有する極性化合物である式IIの化合物を含む混合物に基づく液晶組成物」である必要があり、甲2A発明の必須成分である上記の負の誘電異方性を有する式IIの化合物を、正の誘電異方性を有する極性化合物に変更し、甲2A発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることには、阻害要因があるというべきである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、「FまたはOCF3」であり、液晶分子の軸方向に誘電異方性を生じる「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、甲2A発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」を、配合することに阻害要因があることは、上述のとおりであるから、甲2A発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明3は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点3-3は、実質的な相違点となるものであるし、甲2A発明において、上記相違点3-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(イ)甲2B発明との対比・判断
本件発明3と、甲2A発明と同様に「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」である甲2B発明を対比すると、甲2B発明の「CC-5-V」、「BCH-32及びBCH-52」は、それぞれ、本件発明1のRII、RXIVに相当するから、本件発明3と甲2B発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、RXIVで表される化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、上記相違点3-3と同じ点(「相違点3-3’」という)で相違している。
ここで、甲2B発明は、甲2A発明の具体的な実施例に対応するものであり、上記(ア)で述べたように、甲2A発明の液晶媒体を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすること、及び甲2A発明の液晶媒体に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」を配合することに阻害要因があるのであるから、甲2A発明と同様に、甲2B発明の液晶媒体を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすること、及び甲2B発明の液晶媒体に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」を配合することにも阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明3は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点3-3’は、実質的な相違点となるものであるし、甲2B発明において、上記相違点3-3’に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(ウ)小括
本件発明3は、甲2A発明又は甲2B発明ではないし、当業者といえども甲2A発明又は甲2B発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明7について
(ア)甲2A-1発明との対比・判断
本件発明7と甲2A-1発明とを対比する。
○甲2A-1発明の液晶媒体(甲2A発明)の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」は、本件発明7の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」に相当する。
○上記「イ」で述べたように、甲2A-1発明の液晶媒体(甲2A発明)の式Iの化合物は、本件発明7の「CC-V-V」に相当する。
○甲2A-1発明の「電気光学プロジェクションディスプレイへの使用」は、本件発明7の「電気光学的目的への使用」に相当するといえる。
上記より、本件発明7と甲2A-1発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、CC-V-Vを含む液晶媒体の、電気光学的目的への使用」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-4>
本件発明7は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(CCP-31又はCCP-V-1)を含んでいるのに対し、甲2A-1発明の液晶媒体には、本件発明7の一般式Iで表される化合物(CCP-31又はCCP-V-1)が含まれていない点。
<相違点3-4>について
上記相違点3-4に係る本件発明7の特定事項は、上記「イ」(ア)で述べた相違点3-2に係る本件発明2の「CCP-31」を、「CCP-31又はCCP-V-1」とした関係にあるものである。
そして、上記「イ」(ア)で述べたように、甲2A-1発明の液晶媒体(甲2A発明)は「CCP-31」を「実体的」に含むものではないし、甲2A-1発明の液晶媒体に「CCP-31」を用いることを想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
また、甲2A-1発明の液晶媒体(甲2A発明)の式IVの化合物のR6及びR7は、互いに独立して、炭素原子1個から8個を有するアルキル又はアルコキシ基とされているから、末端基がビニル基である場合を含んでおらず、甲2A発明の式IVの化合物は、「CCP-V-1」を形式的にすら含んでいない。そして、上記(ア5)の全ての実施例を見ても、甲2A-1発明の液晶媒体の式IVの化合物の具体的化合物として、「CCP-V-1」は用いられておらず、しかも、甲2には、甲2A-1発明の液晶媒体に「CCP-V-1」を用いることを推奨する何らの記載もない。
そうすると、甲2A-1発明には、甲2A-1発明の液晶媒体に、「CCP-V-1」を用いることの動機付けがあるとはいえない。
したがって、上記相違点3-4は、実質的な相違点となるものであるし、甲2A-1発明において、上記相違点3-4に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(イ)甲2B-1発明との対比・判断
本件発明7と甲2B-1発明を対比すると、甲2B-1発明の液晶媒体の各成分には、本件発明7の一般式I(省略)で表される1種または2種以上の化合物(「CCP-31又はCCP-V-1」)に相当する化合物はないし、本件発明7の「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物に相当する化合物もないから、本件発明7と甲2B-1発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体の、電気光学的目的への使用」である点のみで一致し、上記相違点3-4と同じ点(「相違点3-4’」という)、及び甲2B-1発明の液晶媒体は、本件発明7の「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいない点で相違している。
ここで、上記「イ」(イ)で述べたように、甲2B-1発明の液晶媒体(甲2B発明)に「CCP-31」を用いることを想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
また、上記「イ」(イ)で述べたように、甲2B-1発明の液晶媒体の「BCH-32」及び「BCH-52」は、3環化合物の点では、本件発明7の「CCP-V-1」に共通するものではあるが、環構造及び両末端基の点で、本件発明7の「CCP-V-1」とは、別異な化合物であるといえる。
そして、甲2B-1発明の液晶媒体のこれらの化合物は、甲2A-1発明の液晶媒体の式IVの化合物に含まれる具体的な化合物であるが、上記(ア)で述べたように、式IVの化合物は、本件発明7の「CCP-V-1」を形式的にすら含まないものである。
そうすると、甲2B-1発明には、甲2B-1発明の液晶媒体の「BCH-32」及び「BCH-52」を、「CCP-V-1」に置換すること、さらに、甲2B-1発明の液晶媒体に、「CCP-V-1」を新たに添加することの動機付けがあるとはいえない。
したがって、上記相違点3-4’は、実質的な相違点となるものであるし、甲2B-1発明において、上記相違点3-4’に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(ウ)小括
本件発明7は、甲2A-1発明ではないし、当業者といえども甲2A-1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、少なくとも上記相違点3-4’が、実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到することができるものではないから、本件発明7は、甲2B-1発明ではないし、当業者といえども甲2B-1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明8について
(ア)甲2A-2発明との対比・判断
本件発明8と甲2A-1発明とを対比する。
○甲2A-2発明の液晶媒体(甲2A発明)の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」は、本件発明8の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」に相当する。
○上記「ア」で述べたように、甲2A-2発明の液晶媒体(甲2A発明)の式Iの化合物は、本件発明8の「CC-V-V」に相当する。
○甲2A-2発明の「電気光学プロジェクションディスプレイ」は、本件発明8の「電気光学的液晶ディスプレイ」に相当する。
上記より、本件発明8と甲2A-2発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、CC-V-Vを含む液晶媒体を含む、電気光学的液晶ディスプレイ」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-5>
本件発明8は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(CCP-31又はCCP-V-1)を含んでいるのに対し、甲2A-2発明の液晶媒体には、本件発明8の一般式Iで表される化合物(CCP-31又はCCP-V-1)が含まれていない点。
<相違点3-6>
本件発明8の液晶媒体は、【化38】~【化42】(省略)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の安定剤を含んでいるのに対し、甲2A-2発明の液晶組成物には、この様な化合物が含まれていない点。
<相違点3-5>について
上記相違点3-5に係る本件発明8の特定事項は、上記「エ」の相違点3-4に係る本件発明7の特定事項と同じものである。
そして、上記「エ」(ア)で述べたように、甲2A-1発明の液晶媒体(甲2A-2発明の液晶媒体)において、上記相違点3-4は、実質的な相違点となるものであるし、甲2A-1発明において、上記相違点3-4に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点3-5も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲2A-2発明において、上記相違点3-5に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(イ)甲2B-2発明との対比・判断
上記「エ」(イ)で述べた事項を考慮して、本件発明8と甲2B-2発明を対比すると、本件発明8と甲2B-2発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体を含む、電気光学的液晶ディスプレイ」である点のみで一致し、上記相違点3-5と同じ点(「相違点3-5’」という)、上記相違点3-6と同じ点、及び甲2B-2発明の液晶媒体は、本件発明8の「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいない点で相違している。
ここで、上記相違点3-5’に係る本件発明8の特定事項は、上記「エ」の相違点3-4’に係る本件発明7の特定事項と同じものである。
そして、上記「エ」(イ)で述べたように、甲2B-1発明の液晶媒体(甲2B-2発明の液晶媒体)において、上記相違点3-4’は、実質的な相違点となるものであるし、甲2B-1発明において、上記相違点3-4’に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点3-5’も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲2B-2発明において、上記相違点3-5’に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(ウ)小括
少なくとも、上記相違点3-5、及び3-5’が、実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到することができるものではないから、本件発明8は、上記他の相違点(相違点3-6他)について検討するまでもなく、甲2A-2発明又は甲2B-2発明ではないし、当業者といえども甲2A-1発明又は甲2B-1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明13について
(ア)甲2A発明との対比・判断
本件発明13と甲2A発明とを対比する。
○甲2A発明の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」は、本件発明3の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
○上記「ア」で述べたように、甲2A発明の式Iの化合物は、本件発明1の式RIIで表される化合物に相当する。
上記より、本件発明13と甲2A発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-7>
液晶媒体について、本件発明13は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲2A発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点3-7>について
甲2A発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることに、阻害要因があることは、上記「ウ」(ア)で述べたとおりである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、【化54】「F・・・OCF3・・・またはOCClFCF2CF3」であり、本件発明3の同式の末端基Xの「FまたはOCF3」を含むように、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、上記「ウ」(ア)で述べたのと同様に、甲2A発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である本件発明13の式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明13は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」及び同「カ」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点3-7は、実質的な相違点となるものであるし、甲2A発明において、上記相違点3-7に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(イ)甲2B発明との対比・判断
上記「ウ」(イ)で述べた事項を考慮して、本件発明13と甲2B発明を対比すると、本件発明13と甲2B発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、RXIVで表される化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、上記相違点3-7と同じ点(「相違点3-7’」という)で相違している。
甲2B発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることに、阻害要因があることは、上記「ウ」(イ)で述べたとおりである。
また、上記「ウ」(イ)で述べたのと同様に、甲2B発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である本件発明13の式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明13は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」及び同「カ」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点3-7’は、実質的な相違点となるものであるし、甲2B発明において、上記相違点3-7’に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(ウ)小括
本件発明13は、甲2A発明又は甲2B発明ではないし、当業者といえども甲2A発明又は甲2B発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(5)無効理由4-1のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3、7、8、13は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件発明1ないし3、7、8、13についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。
5 無効理由4-2について
(1)刊行物
甲4:特開2001-115161号公報
(2)刊行物(甲4)に記載の事項
(ア1)「【請求項1】第1成分として一般式(I)で表される化合物類から選ばれる少なくとも1種の化合物、および第2成分として一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物類から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする液晶組成物。
(各式中、R1、R3およびR5はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、R2、R4およびR6はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、Z1~Z5はそれぞれ独立に単結合または-CH2CH2-を示し、環A1およびA2はそれぞれ独立に1,4-フェニレン基またはトランス-1,4-シクロヘキシレン基を示す。また、環A2が1,4-フェニレン基の場合は、その環の側位の少なくとも1つの水素原子はフッ素原子で置換されてもよい。)
【請求項2】液晶組成物の全重量に対して、第1成分が3~40重量%、第2成分が3~70重量%であることを特徴とする請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】第3成分として一般式(III-1)、(III-2)、(III-3)、(III-4)、(III-5)または(III-6)で表される化合物類から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の液晶組成物。
(各式中、R7、R9、R11、R13、R15およびR17はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、R8、R10、R12、R14およびR16はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、R18は基中の1つの -CH2-が-O-で置換されてもよい炭素数1~10のアルキル基、または炭素数2~10のアルケニル基を示し、Qは水素原子またはフッ素原子を示す。)」
(ア2)「【0002】
【背景技術】液晶表示素子(LCD)は、CRT(ブラウン管方式ディスプレイ)に比べて、低消費電力、小型化、軽量化が可能であるために、ツイストネマチック(TN)方式、スーパーツイストネマチック(STN)方式、薄膜トランジスター(TFT)方式等の種々のLCDが実用化されてきた。中でもTFT等のアクティブマトリックスLCD(AM-LCD)はカラー化、高精細化が進みフラットディスプレイの本命として注目をあびている。
【0003】このAM-LCD用液晶組成物に求められている特性として、
1)LCDの高コントラストを維持するための、高い電圧保持率(VHR)、
2)使用環境の変化に対応するための、広いネマチック液晶相範囲、
3)セル厚に応じて、適当な屈折率異方性値(Δn)を取り得ること、
4)駆動回路に応じて、適当なしきい値電圧を取り得ること、を挙げることができる。
【0004】AM-LCDの動作方式としては、上下の電極基盤間における液晶分子の配向を90゜ツイストさせたTN表示方式が主流であったが、視野角が狭いため大画面に適用しにくいという欠点があった。そこで視野角を改善するモードとして、
a)電圧無印加時に液晶表示素子はホモジニアス配向状態を示し、電圧印加時に面内で液晶分子が45~90゜回転するIPS表示方式・・・や、
b)電圧無印加時に液晶表示素子はホメオトロピック配向状態を示し、電圧印加時に水平一方向の配向状態に変化するVA表示方式・・・等が提案されている。
・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、広視野角化を実現できる上記a)およびb)の表示方式に適用できるような適当なΔnの値を持ち、低粘性かつ大きい負のΔεと広いネマチック液晶相範囲を有していて、上記AM-LCD用液晶組成物に求められる高い電圧保持率やその他の種々の特性を有している液晶組成物を提供することにある。」
(ア3)「【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の液晶組成物において、第1成分である一般式(I)で表される化合物類は、Δnがおよそ0.05~0.12、Δεがおよそ-8~-4の範囲にあり、かつ熱安定性、化学的安定性および相溶性に優れている。そこで、高信頼性を要求されるTFT用液晶組成物のしきい値電圧および粘度を小さくする役割を担う。しかし、透明点(TC)がおよそ-30~20℃の範囲にあるため、これらの化合物だけで負のΔεを有する組成物を調製すると、組成物のTCが小さくなり過ぎて好ましくない。第2成分の一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物類は、第1成分と共に用いることにより上記欠点を改善することができる。すなわち、第2成分はΔnがおよそ0.09~0.18、Δεがおよそ-8~-4、TCがおよそ90~150℃の範囲にあり、また熱安定性、化学的安定性および相溶性にも優れているので、液晶組成物のΔεを負に大きくするとともにTCを高める役割を担う。
・・・
【0029】第1成分である化合物類の少なくとも1種と第2成分である化合物類の少なくとも1種を任意に組み合わせることにより、前記本発明目的を達成可能なAM-LCD用液晶組成物を調製することができる。
【0030】第3成分のうち、一般式(III-1)、(III-2)、(III-3)または(III-4)で表される化合物類は、Tcがおよそ10~80℃、Δεがほぼ0であり、△nがおよそ0.01~0.08の範囲にあるため主に組成物の△nを小さくする役割を担い、それらのうち一般式(III-1)と(III-2)で表される化合物類はさらに組成物の粘度を小さくする役割も担う。また、一般式(III-5)または(III-6)で表される化合物類は、△nがおよそ0.10~0.20、Δεがほぼ0であり、Tcがおよそ130~260℃の範囲にあるため、特に組成物のTcを高くする役割を担う。このように、第1成分と第2成分からなる組成物に第3成分をさらに加えることによっても本発明目的に沿って組成物の△n、粘度およびネマチック液晶相範囲を調整することができ、特にAM-LCD用液晶組成物として好適なTc、△nおよびΔεがそれぞれおよそ60~100℃、0.06~0.12および-6~-1で、低粘度かつ広いネマチック液晶相範囲を有する液晶組成物を調製することができる。」
(ア4)「【0040】
実施例1
下記の成分含有量からなる液晶組成物を調製した。
第1成分
5-DhB(2F,3F)-O1 7.0%
3-DhB(2F,3F)-O2 8.0%
5-DhB(2F,3F)-O2 8.0%
第2成分
3-HDhB(2F,3F)-O1 12.0%
3-HDhB(2F,3F)-O2 13.0%
5-HDhB(2F,3F)-O1 13.0%
5-HDhB(2F,3F)-O2 13.0%
5-BDhB(2F,3F)-O2 3.0%
第3成分
3-HH-4 6.0%
3-HB-2 6.0%
3-HHB- 4.0%
3-HHB-3 3.0%
3-HHB-O1 4.0%
この組成物の特性を求めたところ、以下の通りであった。
TC=86.3(℃)
TL<-20℃
Δn=0.095
Δε=-5.0
η20=39.9(mPa・s)
VHR(25℃)=98.7
VHR(80℃)=98.0
この組成物は、比較例1および2のそれらと比較して、特に負で絶対値が大きいΔεを有しかつ電圧保持率(VHR)が非常に高いことがわかる。したがって、既述した a)および b)モードの表示方式に好適である。
【0041】
実施例2
下記の成分含有量からなる液晶組成物を調製した。
第1成分
3-DhB(2F,3F)-O2 5.0%
5-DhB(2F,3F)-O2 5.0%
第2成分
3-HDhB(2F,3F)-O1 9.0%
5-HDhB(2F,3F)-O1 10.0%
3-HDhB(2F,3F)-O2 9.0%
5-HDhB(2F,3F)-O2 10.0%
第3成分
2-HH-3 4.0%
3-HH-4 10.0%
3-HB-2 16.0%
3-HB-4 4.0%
3-HHB-1 5.0%
3-HHB-3 9.0%
3-HHB-O1 4.0%
この組成物の特性を求めたところ、以下の通りであった。
TC=85.9(℃)
TL<-20℃
Δn=0.085
Δε=-3.1
η20=24.0(mPa・s)
VHR(25℃)=98.9
VHR(80℃)=98.3
この組成物は、負で絶対値が大きいΔεと低粘度を有し、かつ電圧保持率が非常に高いことがわかる。
・・(略)・・
【0054】
実施例15
下記の成分含有量からなる液晶組成物を調製した。
第1成分
3-DhB(2F,3F)-O1 5.0%
5-DhB(2F,3F)-O1 5.0%
3-DhB(2F,3F)-O2 5.0%
5-DhB(2F,3F)-O2 5.0%
第2成分
5-HDhB(2F,3F)-1 3.0%
3-HDhB(2F,3F)-O1 10.0%
5-HDhB(2F,3F)-O1 10.0%
3-HDhB(2F,3F)-O2 10.0%
5-HDhB(2F,3F)-O2 10.0%
3-DhHB(2F,3F)-O2 3.0%
第3成分
3-HH-4 8.0%
3-HB-O2 6.0%
3-HB-O4 6.0%
3-HH-EMe 6.0%
3-HHB-3 8.0%
この組成物の特性を求めたところ、以下の通りであった。
TC=73.8(℃)
TL<-20℃
Δn=0.084
Δε=-4.3
η20=35.4(mPa・s)」
(ア5)「【0055】
実施例16
下記の成分含有量からなる液晶組成物を調製した。
第1成分
3-DhB(2F,3F)-O1 4.0%
5-DhB(2F,3F)-O1 4.0%
3-DhB(2F,3F)-O2 4.0%
5-DhB(2F,3F)-O2 4.0%
V2-DhB(2F,3F)-O3 4.0%
第2成分
5-HDhB(2F,3F)-1 3.0%
3-HDhB(2F,3F)-O1 8.0%
5-HDhB(2F,3F)-O1 8.0%
3-HDhB(2F,3F)-O2 8.0%
5-HDhB(2F,3F)-O2 9.0%
V2-HDhB(2F,3F)-O2 4.0%
3-H2DhB(2F,3F)-1 3.0%
3-DhBB(2F,3F)-O2 3.0%
第3成分
3-HH-4 4.0%
V2-HH-4 4.0%
3-HB-O2 6.0%
3-HB-O4 6.0%
3-HH-EMe 6.0%
3-HHB-3 4.0%
V2-HHB-3 4.0%
この組成物の特性を求めたところ、以下の通りであった。
TC=73.6(℃)
TL<-20℃
Δn=0.086
Δε=-4.2
η20=34.7(mPa・s)」
(ア6)「【0056】
実施例17
下記の成分含有量からなる液晶組成物を調製した。
第1成分
3-DhB(2F,3F)-O1 8.0%
5-DhB(2F,3F)-O1 8.0%
3-DhB(2F,3F)-O2 8.0%
5-DhB(2F,3F)-O2 8.0%
第2成分
3-HDhB(2F,3F)-1 5.0%
3-HDhB(2F,3F)-3 5.0%
3-HDhB(2F,3F)-O1 12.0%
5-HDhB(2F,3F)-O1 12.0%
3-HDhB(2F,3F)-O2 12.0%
5-HDhB(2F,3F)-O2 12.0%
3-DhHB(2F,3F)-O3 4.0%
第3成分
3-HB-O2 3.0%
3-HH-EMe 3.0%
この組成物の特性を求めたところ、以下の通りであった。
TC=70.0(℃)
TL<-20℃
Δn=0.092
Δε=-6.2
η20=48.4(mPa・s)
・・(略)・・
【0058】
実施例19
下記の成分含有量からなる液晶組成物を調製した。
第1成分
3-DhB(2F,3F)-O2 6.0%
5-DhB(2F,3F)-O2 6.0%
第2成分
5-HDhB(2F,3F)-O1 7.0%
3-HDhB(2F,3F)-O2 7.0%
5-HDhB(2F,3F)-O2 8.0%
第3成分
2-HH-3 5.0%
3-HH-4 5.0%
3-HB-O2 10.0%
3-HB-O4 4.0%
3-HH-EMe 6.0%
3-HHB-3 7.0%
第4成分
V2-HB(2F,3F)-O2 5.0%
5-HB(2F,3F)-O2 5.0%
3-HHB(2F,3F)-O2 4.0%
V2-HHB(2F,3F)-O2 3.0%
5-HHB(2F,3F)-O2 6.0%
3-HBB(2F,3F)-O2 3.0%
V2-HBB(2F,3F)-O2 3.0%
この組成物の特性を求めたところ、以下の通りであった。
TC=78.8(℃)
TL<-20℃
Δn=0.089
Δε=-3.5
η20=27.0(mPa・s)」
(3)甲4に記載された発明
甲4の上記(ア1)の【請求項1】を引用する【請求項3】には、「第1成分として一般式(I)(省略)で表される化合物類から選ばれる少なくとも1種の化合物、および第2成分として一般式(II-1)または(II-2)(省略)で表される化合物類から選ばれる少なくとも1種の化合物、第3成分として一般式(III-1)、(III-2)、(III-3)、(III-4)、(III-5)または(III-6)で表される化合物類から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含有することを特徴とする液晶組成物。
【化4】~【化9】(省略)
(各式中、R7、R9、R11、R13、R15およびR17はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、R8、R10、R12、R14およびR16はそれぞれ独立に炭素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または炭素数2~10のアルケニル基を示し、R18は基中の1つの -CH2-が-O-で置換されてもよい炭素数1~10のアルキル基、または炭素数2~10のアルケニル基を示し、Qは水素原子またはフッ素原子を示す。)」が記載されているところ、この液晶組成物の具体的な実施例のうち、上記(ア5)の実施例16として、
「第1成分として、
3-DhB(2F,3F)-O1を4.0%、5-DhB(2F,3F)-O1を4.0%、3-DhB(2F,3F)-O2を4.0%、5-DhB(2F,3F)-O2を4.0%、V2-DhB(2F,3F)-O3を4.0%含有し、
第2成分として、
5-HDhB(2F,3F)-1を3.0%、3-HDhB(2F,3F)-O1を8.0%、5-HDhB(2F,3F)-O1を8.0%、3-HDhB(2F,3F)-O2を8.0%、5-HDhB(2F,3F)-O2を9.0%、V2-HDhB(2F,3F)-O2を4.0%、3-H2DhB(2F,3F)-1を3.0%、3-DhBB(2F,3F)-O2を3.0%含有し、
第3成分として、
3-HH-4を4.0%、V2-HH-4を4.0%、3-HB-O2を6.0%、3-HB-O4を6.0%、3-HH-EMeを6.0%、3-HHB-3を4.0%、V2-HHB-3を4.0%含有し、TC=73.6(℃)、TL<-20℃、Δn=0.086、Δε=-4.2、η20=34.7(mPa・s)の液晶組成物。」(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
また、甲4の上記(ア2)の記載によれば、液晶組成物を用いた液晶表示素子は、「ディスプレイ」に使用されるものであるから、甲4には、
「甲4発明の液晶組成物の、液晶ディスプレイへの使用。」(以下、「甲4-1発明」という。)、及び
「甲4発明の液晶組成物を含む、液晶ディスプレイ。」(以下、「甲4-2発明」という。)も記載されているといえる。
(4)対比・検討
ア 本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
○甲4発明の「液晶組成物」は、本件発明1の「液晶媒体」に相当する。
○甲4発明の第1成分は、上記(ア1)の第1成分である一般式(I)で表される化合物の具体的な化合物であるが、上記(ア3)の記載によれば、一般式(I)で表される化合物は、誘電異方性(Δε)が負の化合物であるとされ、同じく甲4発明の第2成分は、上記(ア1)の第2成分である一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物であるが、上記(ア3)の記載によれば、一般式(II-1)または(II-2)で表される化合物も、誘電異方性(Δε)が負の化合物であるとされている。
また、この様な化合物が、「極性化合物」であることも、明らかであるから、この様な化合物を含む甲4発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○甲4発明の「V2-HH-4」は、本件発明1の式RIIでR0及びalkenylが、それぞれ4個の炭素原子を有するアルキル基及び4個の炭素原子を有するアルケニル基の場合に相当し、「3-HHB-3」は、本件発明1の式RVIIIでalkyl及びalkyl*が、それぞれ3個の炭素原子を有するアルキル基の場合に相当する。
上記より、本件発明1と甲4発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、式RVIIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4-1>
本件発明1は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(PP-13)を含んでいるのに対し、甲4発明には、本件発明1の一般式Iで表される化合物(PP-13)が含まれていない点。
<相違点4-1>について
甲4発明の液晶組成物の「3-HH-4」、「V2-HH-4」、「3-HB-O2」、「3-HB-O4」、及び「3-HH-EMe」は、2環化合物という点で、本件発明1の「PP-13」に共通するものである。
ここで、甲4発明の液晶組成物は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の実施例となるものであるが、甲1発明の上記の2環化合物を具体的化合物として含む上記(ア1)に記載される(III-1)~(III-3)のいずれを見ても、環の構造自体が異なり、「PP-13」を含むものではないし、また、実施例16以外の他の実施例である上記(ア4)及び(ア6)の実施例1~15、17~19を見ても、「PP-13」は用いられていないから、甲4の液晶組成物において、「PP-13」が認識されているとはいえず、「PP-13」は、甲4発明の上記2環化合物と別異な化合物であるといえる。しかも、本件発明1の「PP-13」は、末端基が炭素数1及び3のアルキル基に特定されていることになるが、甲4発明の上記2環化合物の末端基は、炭素数1及び3のアルキル基ではなく、この点でも、これらの化合物は、本件発明1の「PP-13」とは、別異な化合物であるといえる。
そして、上記(ア3)の段落【0030】の記載によれば、これら(III-1)~(III-3)は、Δn、粘度を調整するといった所期の目的を達成するために用いられるものであるから、これら(III-1)~(III-3)に含まれ、Δn、粘度等を調整するといった所期の目的を達成するために用いられている甲4発明の上記2環化合物を、「PP-13」に置換する、又は、甲4発明の各液晶化合物の配合量を変更してまで、「PP-13」を甲4発明に新たに添加するという、動機付けが、甲4発明にあるとはいえない。
したがって、甲4発明において、上記相違点4-1は、実質的な相違点となるものであるし、上記相違点4-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明1は、甲4に記載された発明ではないし、当業者といえども甲4発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。
イ 本件発明2について
本件発明2と甲4発明とを対比する。
○甲4発明の「液晶組成物」は、本件発明2の「液晶媒体」に相当する。
○上記「ア」で述べたように、甲4発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
上記より、本件発明2と甲4発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4-2>
本件発明2は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(CCP-31)を含んでいるのに対し、甲4発明には、本件発明2の一般式Iで表される化合物(CCP-31)が含まれていない点。
<相違点4-3>
本件発明2は、「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲4発明は、本件発明2のこの様な化合物を含んでいない点。
事案に鑑み、<相違点4-3>について検討する。
<相違点4-3>について
甲4発明の「3-HH-4」、「V2-HH-4」及び「3-HH-EMe」は、1,4-シクロヘキシレン基が2つ連結している2環化合物であるという点で、本件発明2の「CC-n-V1」、「CC-V-V」に共通するものである。そして、甲4発明の「3-HH-4」、「V2-HH-4」及び「3-HH-EMe」は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の内、上記一般式(III-1)~(III-6)で表される化合物から選択される一般式(III-1)に含まれるものである。この一般式(III-1)で表される化合物のR7は、単素数1~10のアルキル基または炭素数2~10のアルケニル基を示すとされ、R8は、単素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または単素数2~10のアルケニル基を示すとされているから、形式上は、R7及びR8のどちらか一方が、n(CnH2n+1)又はVとなり、他方がV1又はVとなれば(以下、この項ではこの様な化合物を「当該化合物」という。)、当該化合物は、本件発明2の「CC-n-V1」又は「CC-V-V」に合致することになる。
しかしながら、当該化合物は、形式上とりえる多数の形態の中での一形態であると共に、甲4には、R7及びR8のどちらか一方をn(CnH2n+1)又はV、他方をV1又はVにすることを推奨する記載もなく、しかも、実施例16以外の他の実施例である上記(ア4)及び(ア6)の実施例1~15、17~19を見ても、一般式(III-1)で表される化合物の具体的化合物として、「当該化合物」は用いられていない。
そうすると、甲4において、一般式(III-1)で表される化合物の中に少なくとも形式上は、「CC-n-V1」、「CC-V-V」が含まれていると共に、甲4発明の液晶組成物が、一般式(III-1)で表される化合物の具体的化合物として、「3-HH-4」、「V2-HH-4」及び「3-HH-EMe」を含んでいるとしても、甲4には、甲4発明のこれらの化合物に代えて、または、これらの化合物に加えて添加することを、当業者が容易に想到できる程、「実体的」に、一般式(III-1)で表される化合物として、「当該化合物」が記載されているとはいえない。
上記「2 無効理由3-1について」(4)「イ」で述べたのと同様に、「CC」で表される2環構造を有する化合物である「3-HH-4」、「V2-HH-4」及び「3-HH-EMe」を既に含んでいる甲4発明の液晶組成物に、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」をさらに加える何らかの技術的な要請が存在するともいえないから、「CC-n-V1」又は「CC-V-V」が既に知られているとしても、甲4発明の液晶組成物に、この様な化合物を添加することが当業者にとり容易に想到し得ることであるとすることはできない。
したがって、甲4発明において、上記相違点4-3は、実質的な相違点となるものであるし、上記相違点4-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明2は、上記相違点4-2を検討するまでもなく、甲4に記載された発明ではないし、当業者といえども甲4発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件発明3について
本件発明3と甲4発明とを対比する。
○甲4発明の「液晶組成物」は、本件発明3の「液晶媒体」に相当する。
○上記「ア」で述べたように、甲4発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえるから、本件発明3の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
○上記「ア」で述べたように、甲4発明の「V2-HH-4」及び「3-HHB-3」は、それぞれ、本件発明3の式RIIの化合物及び式RVIIIの化合物に相当する。
上記より、本件発明3と甲4発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、式RVIIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4-4>
液晶媒体について、本件発明3は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲4発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点4-4>について
甲4発明は、上記「ア」で述べたように、第1成分及び第2成分という負の誘電異方性を有する極性化合物を含むことにより、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」となるものである。そして、上記(ア2)の段落【0006】の記載によれば、甲4発明の発明の課題は、「広視野角化を実現できる上記a)およびb)の表示方式に適用できるような適当なΔnの値を持ち、低粘性かつ大きい負のΔεと広いネマチック液晶相範囲を有していて、上記AM-LCD用液晶組成物に求められる高い電圧保持率やその他の種々の特性を有している液晶組成物を提供する」というものである。
そうすると、甲4発明の発明の課題を解決するには、少なくとも「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」である必要があり、甲4発明の主要成分である上記の負の誘電異方性を有する各極性化合物を、全て正の誘電異方性を有する極性化合物に変更し、甲4発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることには、阻害要因があるというべきである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、「FまたはOCF3」であり、液晶分子の軸方向に誘電異方性を生じる「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、甲4発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」を、配合することに阻害要因があることは、上述のとおりであるから、甲4発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明3は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点4-4は、実質的な相違点となるものであるし、甲4発明において、上記相違点4-4に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明3は、甲4発明ではないし、当業者といえども甲4発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明7について
本件発明7と甲4-1発明とを対比する。
〇上記「ア」で述べたように、甲4発明の「液晶組成物」は、本件発明7の「液晶媒体」に相当し、甲4発明の液晶組成物は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○甲4-1発明の「液晶ディスプレイ」は、本件明細書の段落【0002】の記載によれば、「電気光学的装置」とされているものであるといえるから、甲4-1発明での「液晶ディスプレイへの使用」とは、本件発明7の「電気光学的目的への使用」に相当するといえる。
上記より、本件発明7と甲4発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体の、電気光学的目的への使用」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4-5>
本件発明7は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(CCP-31又はCCP-V-1)を含んでいるのに対し、甲4-1発明には、本件発明7の一般式Iで表される化合物(CCP-31又はCCP-V-1)が含まれていない点。
<相違点4-6>
本件発明7は、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲4-1発明は、本件発明7のこの様な化合物を含んでいない点。
事案に鑑み、<相違点4-6>について検討する。
<相違点4-6>について
上記相違点4-6に係る本件発明7の特定事項は、上記「イ」の相違点4-3に係る本件発明2の特定事項から、「CC-n-V1」を削除することにより、さらに限定したものである。
そして、上記「イ」で述べたように、甲4発明(甲4-1発明の液晶組成物)において、上記相違点4-3は、実質的な相違点となるものであるし、甲4発明において、上記相違点4-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点4-6も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲4-1発明において、上記相違点4-6に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明7は、上記相違点4-5について検討するまでもなく、甲4発明ではないし、当業者といえども甲4発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明8について
本件発明8と甲4-2発明とを対比する。
○上記「ア」で述べたように、甲4-2発明の「液晶組成物」は、本件発明8の「液晶媒体」に相当し、甲4-2発明の液晶組成物は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえる。
○甲4-2発明の「液晶ディスプレイ」は、本件発明8の「電気光学的液晶ディスプレイ」に相当する。
上記より、本件発明8と甲4発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体を含む、電気光学的液晶ディスプレイ」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4-7>
本件発明8は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(CCP-31又はCCP-V-1)を含んでいるのに対し、甲4-2発明の液晶組成物には、本件発明8の一般式Iで表される化合物(CCP-31又はCCP-V-1)が含まれていない点。
<相違点4-8>
本件発明8は、「CC-n-V1」、「CC-V-V」、式RIV、式RV、及び式RVIIで表される化合物を含んでいるのに対し、甲4-2発明の液晶組成物は、本件発明8のこの様な化合物を含んでいない点。
<相違点4-9>
本件発明8の液晶媒体は、【化38】~【化42】(省略)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の安定剤を含んでいるのに対し、甲4-2発明の液晶組成物には、この様な化合物が含まれていない点。
事案に鑑み、<相違点4-8>について検討する。
<相違点4-8>について
上記相違点4-8に係る本件発明8の特定事項は、上記「イ」の相違点4-3に係る本件発明2の特定事項と同じものである。
そして、上記「イ」で述べたように、甲4発明(甲4-2発明の液晶組成物)において、上記相違点4-3は、実質的な相違点となるものであるし、甲4発明において、上記相違点4-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえないのであるから、上記相違点4-8も同様に、実質的な相違点となるものであるし、甲4-2発明において、上記相違点4-8に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明8は、上記相違点4-7及び4-9について検討するまでもなく、甲4-2発明ではないし、当業者といえども甲4-2発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明13について
〇上記「ウ」で述べたように、甲4発明の「液晶組成物」は、本件発明13の「液晶媒体」に相当する。
○上記「ア」で述べたように、甲4発明は、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物」であるといえるから、本件発明13の「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」と、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」の点で共通する。
○上記「ア」で述べたように、甲4発明の「V2-HH-4」及び「3-HHB-3」は、それぞれ、本件発明13の式RIIの化合物及び式RVIIIの化合物に相当する。
上記より、本件発明13と甲4発明とは、「誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RII、式RVIIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4-10>
液晶媒体について、本件発明13は、正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでいるのに対し、甲4発明は、負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶組成物であって、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29のいずれかで表される化合物を含んでいない点。
<相違点4-10>について
甲4発明を、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」とすることに、阻害要因があることは、上記「ウ」で述べたとおりである。
また、式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物は、いずれも末端基のXが、【化54】「F・・・OCF3・・・またはOCClFCF2CF3」であり、本件発明3の同式の末端基Xの「FまたはOCF3」を含むように、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である。
そうすると、上記「ウ」で述べたのと同様に、甲4発明に、「正の誘電異方性を有する極性化合物」である本件発明13の式I1、I2、I4~I11、I16、I20、I23~I29で表される化合物を配合することにも、阻害要因があるというべきである。
そして、本件発明13は、上記「2 無効理由3-1について」(4)「ウ」「<本件発明3の効果>について」及び同「カ」で述べたように、格別の効果を奏するものである。
したがって、上記相違点4-10は、実質的な相違点となるものであるし、甲4発明において、上記相違点4-10に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明13は、甲4発明ではないし、当業者といえども甲4発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
(4)無効理由4-2のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3、7、8、13は、甲4に記載された発明ではないし、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件発明1ないし3、7、8、13についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。
6 無効理由4-3について
(1)刊行物
甲17:特開2000-38585号公報
(2)刊行物(甲17)に記載の事項
(ア1)「【請求項1】 負の誘電異方性の極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、式I1及び/又は式I2;
【化1】
の化合物を少なくとも1つと式I3;
【化2】
(式中、R11、R2及びR3は、互いに独立して、炭素原子12個までを有する未置換のアルキル又はアルケニル基であり、基中、1又は2以上の隣接しないCH2基は-O-、-S-及び-C≡C-からなる群から選択される基により置き換えられていてもよく、R12は、CSH2S+1、-O-C(CH3)=CH2又は-O-(CH2)bCH=CH2であり、Qは、-O-又は単結合であり、Zは、-C2H4-、-CH=CH-又は単結合であり、s、t及びuは、それぞれ互いに独立して、1から6であり、o及びpは、それぞれ互いに独立して、1又は2であり、そしてbは、0、1、2又は3である)の化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする、前記媒体。
【請求項2】 さらに式II;
【化3】
(式中、R4は、R11及びR2で定義のとおりであり、そしてvは、1から6である)の化合物を1又は2以上含むことを特徴とする、請求項1に記載の媒体。
【請求項3】 式III;
【化4】
(式中、R5及びR6は、それぞれ互いに独立して、請求項1のR11及びR2で定義のとおりであり、そして
【化5】
の化合物を1又は2以上、従来通り含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の媒体。」
(ア2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、式I1及び/又は式I2;
・・・
の化合物を少なくとも1つと式I3;
・・・
の化合物を少なくとも1つ含む負の誘電異方性の極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体に関する。
【0002】そのような媒体は、ECB効果を基本とするアクティブマトリクスアドレッシングを有する電気光学ディスプレイに特に好適である。」
(ア3)「【0016】従って、さまざまな中間調表示を可能にするような、非常に大きな固有抵抗、同時に幅広い動作温度、短い応答時間及び低いしきい値電圧を有するMLCディスプレイは引き続き大いに需要がある。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上述の不都合を有さないか、又は少ししか有さないと同時に非常に高い固有抵抗を有するECB効果を基本とするMLCディスプレイを提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】ここに、この課題が式I1及び/又は式I2及び式I3の化合物を少なくとも1つ含有するネマティック液晶混合物をこれらのディスプレイ素子で使用する場合に、達成することができることが見出された。
【0019】すなわち、本発明は、負の誘電異方性の極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、式I1及び/又は式I2;
【化10】(省略)
の化合物を少なくとも1つと式I3;
【化11】(省略)
(式中・・・)の化合物を少なくとも1つ含むことを特徴とする、前記媒体に関する。
【0020】また本発明は、さらに式II;
【化12】(省略)
(式中・・・)の化合物を1又は2以上含むことを特徴とする、前記媒体に関する。本発明はまた、式III;
【化13】(省略)
(式中・・・)の化合物1又は2以上を、従来通り含有することを特徴とする、前記媒体に関する。」
(ア4)「【0059】
さらなる略号は、以下の意味を有する:
V(0,0) しきい値電圧[V] 0%透過 視野角0°
V(10,0) しきい値電圧[V] 10%透過 視野角0°
V(90,0) しきい値電圧[V] 90%透過 視野角0°
Δn 20℃及び589nmで測定された光学異方性
Δε 20℃及び1kHzの誘電異方性
c.p. 透明点[℃]
γ1 20℃で測定された回転粘度[mPa・s]
S 特性曲線の急峻性
V(90.0)
S= -1・100
V(10.0)
HR(20) 20℃での電圧保持率 [%]
HR(100) 100℃での電圧保持率 [%]
HR(UV) UV暴露後の電圧保持率 [%]
【0060】
しきい値電圧を測定するために使用したディスプレイは、5μm間隔の2枚の平面-平行外板と液晶のホメオトロピック配向を生成して、外板の内側でレシチン配向膜により被覆された電極層を有する。
【0061】
【実施例】
【化30】
【0062】
【化31】
【0063】
【化32】
」
(3)甲17に記載された発明
甲17の上記(ア1)の【請求項1】を引用する【請求項3】には、「負の誘電異方性の極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、式I1及び/又は式I2(省略)の化合物を少なくとも1つと式I3(省略)の化合物を少なくとも1つと式III(省略)の化合物を含むことを特徴とする、前記媒体。」が記載されているが、この液晶組成物の具体的な実施例として、上記(ア4)には例1及び例2の液晶媒体が記載されている。ここで、例1及び例2は液晶媒体の構成成分は一致しているから、例1を取り上げる。そして、例1の液晶媒体は、上記(ア1)の具体的な液晶媒体であるから、上記(ア1)の【請求項1】に記載されるように「負の誘電異方性の極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」である。
そうすると、甲17には、例1として、
「負の誘電異方性の極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体であって、CC-5-Vを8.0%、PCH-53を9.0%、CY-5-1を14.0%、PCH-502FFを14.0%、CCP-202FFを13.0%、CCP-302FFを14.0%、CCP-502FFを5.0%、CCP-21FFを12.0%、CCP-31FFを11.0%含有し、S→N<-30.0℃、透明点+74.5℃、Δn+0.0861、ε||3.7、Δε-4.0、K3/K11.09、γ1168、V02.05V、HR(20)81.8%の液晶媒体。」(以下、「甲17発明」という。)が記載されているといえる。
(4)本件発明1との対比・検討
本件発明1と甲17発明とを対比する。
○甲17発明の「負の誘電異方性の極性化合物の混合物を基本とする液晶媒体」は、本件発明1の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」に相当する。
○甲17発明の「CC-5-V」は、R0が5個の炭素原子を有するn-アルキル、alkenylが2個の炭素原子を有する直鎖状アルケニルである本件発明1の式RIIで表される化合物に相当する。
上記より、本件発明1と甲17発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式RIIの化合物を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点5-1>
本件発明1は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(PP-1-3)を含んでいるのに対し、甲17発明には、本件発明1の一般式Iで表される化合物(PP-1-3)が含まれていない点。
<相違点5-1>について
甲17発明の液晶媒体の「PCH-53」は、2環化合物という点で、本件発明1の「PP-13」に共通するものである。
ここで、甲17発明の液晶媒体は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の実施例となるものであるが、甲17発明の上記の2環化合物を具体的化合物として含む上記(ア1)に記載される式IIIの化合物を見ても、環の構造自体が異なり、PP-13を含むものではないし、また、例1以外の実施例である上記(ア4)の例2~5を見ても、「PP-13」は用いられていないから、甲17の液晶組成物において、「PP-13」が認識されているとはいえず、「PP-13」は、甲17発明の上記「PCH-53」と別異な化合物であるといえる。しかも、本件発明1の「PP-13」は、末端基が炭素数1及び3のアルキル基に特定されていることになるが、甲17発明の上記「PCH-53」の末端基は、炭素数1及び3のアルキル基ではなく、この点でも、この化合物は、本件発明1の「PP-13」とは、別異な化合物であるといえる。
そして、上記(ア3)の段落【0016】に記載されるような「さまざまな中間調表示を可能にするような、非常に大きな固有抵抗、同時に幅広い動作温度、短い応答時間及び低いしきい値電圧を有するMLCディスプレイは引き続き大いに需要がある」ということに対し、甲17発明は、段落【0017】の記載によれば、これらの点で不都合を有さず、同時に非常に高い固有抵抗を有するECB効果を基本とするMLCディスプレイを提供しようとするものであり、この課題を達成するため、段落【0019】には、式I1及び/又は式I2にお化合物、及び式I3の化合物、さらに式IIの化合物、また、式IIIの化合物を含む液晶媒体を用いたものであるといえる。そうすると、この式IIIの化合物の具体的化合物として用いられている甲17発明の「PCH-53」は、上記の甲17発明の発明の課題を解決するのに相応の寄与を行っている化合物であるといえるし、甲17には、甲17の液晶媒体に、「PP」の環構造を有する液晶化合物の使用を示唆する何らの記載もないのであるから、甲17発明の発明の課題を解決するのに相応の寄与を行っている「PCH-53」を、「PP-13」に置換する、又は、甲17発明の各液晶化合物の配合量を変更してまで、「PP-13」を新たに添加するという動機付けが、甲17発明にあるとはいえない。
したがって、上記相違点5-1は、実質的な相違点となるものであるし、甲17発明において、上記相違点5-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明1は、甲17発明ではないし、当業者といえども甲17発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
(5)無効理由4-3のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲17に記載された発明ではないし、甲17に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件発明1についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。
7 無効理由4-4について
(1)刊行物
甲12:ドイツ特許第10107544号公報(訳文 甲13:特開2001-316669号公報)
(2)刊行物(甲12)に記載の事項
(甲12の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である甲13によるものであり、甲12の記載箇所も併せて記載した。)
(ア1)「【請求項1】
a)式I
【化1】
式中、
【化2】
であり、
R11は、炭素原子1~7個を有するアルコキシまたは炭素原子2~7個を有するアルケニルオキシであり、および、ここで
【化3】
の場合はまた炭素原子1~7個を有するアルキルであり、R12は、炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、2~7個を有するアルケニルオキシである、1種または2種以上の誘電的に負の化合物、
b)式II
【化4】
式中、
R21は、炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、または炭素原子2~7個を有するアルケニルオキシであり、R22は、炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、または炭素原子2~7個を有するアルケニルオキシであり、およびZ21およびZ22はそれぞれ相互に独立して、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-COO-または単結合であり、
【化5】
はそれぞれ相互に独立して、
【化6】
L21およびL22は、共にC-Fであるか、または一方がNであり、他方が、C-Fである、好ましくは、共にC-FでありIは0または1であり、式IおよびIIIの化合物を除いたものである、の1種または2種以上の誘電的に負の化合物および任意に
c)式III
【化7】
式中、R31およびR32は、それぞれ炭素原子1~7個を有するアルキル、炭素原子1~7個を有するアルコキシ、または炭素原子2~7個を、好ましくは、炭素原子2~4個を有するアルケニルオキシであり、Z31は、本請求項における式IIのZ21の定義のとおりであり、L31およびL32は、共にC-Fであるか、または一方がNであり、他方が、C-Fであり、およびL33およびL34は、共にC-Fであるか、または一方がNであり、他方が、C-Fである、の1種または2種以上の誘電的に負の化合物を含むことを特徴とする、ネマティック液晶媒体。
・・・
【請求項6】 式IV
【化11】
式中、
R41およびR42は、それぞれ相互に独立して、式IIにおいてR21で請求項1に定義したものであり、Z41、Z42おおよびZ43はそれぞれ相互に独立して、-CH2-CH2-、-CH=CH-、-COO-または単結合であり、
【化12】
は、それぞれ相互に独立して、
【化13】
oおよびpで、相互に独立して、0または1である、の1種または2種以上の誘電的に中性の化合物を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の液晶媒体。」(第28、29、31頁、請求項1、6)
(ア2)「【0032】液晶媒体は特に好ましくは式IV1aないしIV1d、IV2aないしIV2e、IV3aないしIV3cおよびIV4aの化合物からなるグループから選択された1種以上の化合物を含んでいる。
【0033】
【化41】
式中nとmは互いに独立であって、それぞれ1ないし5であり、oとpはそれぞれ互いに独立しており、それぞれが0ないし3であり、
【0034】
【化42】
【0035】式中R41およびR42は式IV1の中で上に定義されており、フェニル環は選択的にフッ素化されてもよく、しかしその化合物が式IIおよび部分式の化合物と同一とならないようにする。R41は好ましくは1ないし5個の炭素原子を有する特に好ましくは1~3個の炭素原子を有するn-アルキルであり、かつR42は好ましくは1ないし5個の炭素原子を有するn-アルキルまたはn-アルコキシまたは2ないし5個の炭素原子を有するアルケニルである。これらの中でも、式IV1aないしIV1dの化合物が特に好ましい。」(第9、10頁)
(ア3)「【0071】例
以下の例は発明を説明することを目的としており、発明を限定する物ではない。今までおよび以下で百分率は重量%である。全ての温度表示は℃表示である。Δnは光学異方性(589nm,20℃)、Δεは誘電異方性(1kHz、20℃)H.R.は電圧保持率(100℃、オーブン中5分後、1V)、V10、V50、V90、はそれぞれしきい値電圧、中間調表示電圧、飽和電圧であり、20℃で求めた。
【0072】例1
【表3】
液晶媒体をTFTアドレッシングを有するVAディスプレイの中に導入する。このディスプレイは低視野角依存性とよいコントラストを有している。
・・・
【0075】例4
【表6】
例1の様に液晶媒体をTFTアドレッシングを有するVAディスプレイの中に導入する。このディスプレイは低視野角依存性とよいコントラストを有している。
・・・
【0077】例5
【表8】
例1の様に液晶媒体をTFTアドレッシングを有するVAディスプレイの中に導入する。このディスプレイは低視野角依存性とよいコントラストを有している。」(第25~28頁)
(3)甲12に記載された発明
甲12の上記(ア1)の【請求項1】を引用する【請求項6】には、「a)式I(省略)、1種または2種以上の誘電的に負の化合物、
b)式II(省略)の1種または2種以上の誘電的に負の化合物、
式IV(省略)の1種または2種以上の誘電的に中性の化合物および任意に
c)式III(省略)の1種または2種以上の誘電的に負の化合物を含むことを特徴とする、ネマティック液晶媒体。」が記載されているが、この液晶媒体の具体的な例のうち、上記(ア2)には例4が記載されている。そして、例4の液晶媒体は、上記(ア1)の具体的な液晶媒体であるから、誘電的に負の化合物の混合物からなる液晶媒体であるといえる。さらに、誘電的に負の化合物が極性化合物であることも明らかであるであるから、これらを踏まえると、甲12の例4には、
「誘電的に負の極性化合物の混合物からなる液晶媒体であって、PCH-3O4FFを20.0重量%、PCH-5O4FFを20.0重量%、CCP-3O2FFを14.0重量%、CCP-31FFを6.0重量%、CC-3-V1を11.0重量%、CCP-V-1を3.0重量%、BCH-32を10.0重量%、CLY-3-O2を8.0重量%、CLY-5-O2を8.0重量%含有し、透明点(N,I)=87.0℃、ne(20℃,589nm)=1.5834、Δn(20℃,589nm)=0.1020、ε⊥(20℃,1kHz)=8.7、Δε(20℃,1kHz)=-4.9の液晶媒体。」(以下、「甲12発明」という。)が記載されているといえる。
(4)本件発明2との対比・検討
本件発明2と甲12発明とを対比する。
○甲12発明の「誘電的に負の極性化合物の混合物からなる液晶媒体」は、本件発明2の「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」に相当する。
○甲12発明の「CC-3-V1」は、本件発明2の「CC-n-V1」に相当する。
上記より、本件発明2と甲12発明とは、「負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、CC-n-V1を含む液晶媒体」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点6-1>
本件発明2は、一般式Iで表される1種または2種以上の化合物(CCP-31)を含んでいるのに対し、甲12発明には、本件発明2の一般式Iで表される化合物(CCP-31)が含まれていない点。
<相違点6-1>について
甲12発明の「CCP-V-1」は、上記(ア1)に記載される液晶組成物の内、上記一般式IVで表される化合物に含まれるものであり、さらに、一般式IVで表される化合物の内、上記(ア2)に記載されるIV1a~IV1d、IV2a~IV4aから選択されるIV2cに含まれるものである。そして、上記(ア2)の段落【0035】の記載によれば、この式IV2cで表される化合物のR41は、好ましくは1ないし5個の炭素原子を有する特に好ましくは1~3個の炭素原子を有するn-アルキルとされ、かつR42は好ましくは1ないし5個の炭素原子を有するn-アルキルまたはn-アルコキシまたは2ないし5個の炭素原子を有するアルケニルであるとされているから、形式上は、R41を3個の炭素原子を有するn-アルキルとし、かつR42を1個の炭素原子を有するアルキルとすれば(以下、この項ではこの様な化合物を「当該化合物」という。)、本件発明2の「CCP-31」に合致することになる。
しかしながら、「当該化合物」は、形式上とりえる多数の形態の中での一形態であると共に、上記(ア2)の段落【0035】に「これらの中でも、式IV1aないしIV1dの化合物が特に好ましい」と記載されているように、甲12では、一般式IVで表される化合物の内、IV2a~IV4aよりは、2つの1,4-シクロヘキシレン基から構成される2環化合物が推奨されている。さらに、甲12には、IV1a~IV1d、IV2a~IV4aから選択されるIV2cにおいて、R41を3個の炭素原子を有するn-アルキルとし、かつR42を1個の炭素原子を有するアルキルとすることを推奨する記載もなく、しかも、例4以外の他の実施例である上記(ア3)の例1~3、5を見ても、一般式IVで表される化合物の具体的化合物として、「当該化合物」は用いられていない。
そうすると、甲12において、一般式IVで表される化合物の中に少なくとも形式上は、「CCP-31」が含まれていると共に、甲12発明の液晶組成物が、一般式IVで表される化合物の具体的化合物として、「CCP-V-1」を含んでいるとしても、甲12には、甲12発明のこの化合物に代えて、または、この化合物に加えて添加することを、当業者が容易に想到できる程、「実体的」に、一般式IVで表される化合物として、「当該化合物」が記載されているとはいえない。
また、第2弁駁書第70頁に記載されるように、フェニルビシクロヘキサンを骨格とし両末端に未置換アルキル又はアルケニル基を有する化合物を配合する技術が、周知であるとしても、例えば、例とした引用された甲1の請求項1の「(化学式省略)(III-4)
(上記の式中・・・R13は・・・炭素数1~10のアルキル基または炭素数2~10のアルケニル基を示し・・・R14は・・・炭素数1~10のアルキル基、アルコキシ基または炭素数2~10のアルケニル基を・・・を示す。)」との記載を見ても、未置換アルキル又はアルケニル基等が、フェニルビシクロヘキサンを骨格とする化合物の両末端の基となり得ることを示すのみで、上記化合物の両末端の基として、未置換アルキルを推奨し、さらには、フェニレン基側をメチル基に、シクロヘキシレン基側をn-プロピル基とすることを推奨するものではないし、上述のように、甲12発明にも、「当該化合物」を用いようとする動機付けもないのであるから、単に、フェニルビシクロヘキサンを骨格とし両末端に未置換アルキル又はアルケニル基を有する化合物を配合する技術が、周知であるとしても、甲12発明の液晶組成物の「CCP-V-1」を「当該化合物」に置換する、若しくは甲12発明の液晶組成物に、「当該化合物」を添加することが当業者にとり容易に想到し得ることであるとすることはできない。
したがって、上記相違点6-1は、実質的な相違点となるものであるし、甲12発明において、上記相違点6-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
(5)無効理由4-4に関する第2弁駁書での請求人の主張について
請求人は、第2弁駁書で、甲12には、「甲12発明の液晶組成物の液晶ディスプレイへの使用の発明」及び「甲12発明の液晶組成物を含む液晶ディスプレイの発明」発明も記載されているとして、第1弁駁書で主張していた(第1弁駁書第58頁)本件発明2の新規性及び進歩性欠如の主張に加えて、本件発明7及び8の進歩性欠如も主張している(第2弁駁書第69、71~74頁)。
しかしながら、別途補正許否の決定に記載した理由により、請求人の上記主張は採用することができない。
(6)無効理由4-4のまとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲12に記載された発明ではないし、甲12に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件発明2についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1、2、7、8に係る発明についての特許は、いずれも無効とすべきものである。
一方、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正後の請求項3、13に係る発明についての特許を無効にすべきものとすることはできないし、また、他に無効とすべき理由も見当たらない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条及び第64条の規定により、これを6分し、その2を請求人が負担すべきものとし、その余を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-800057