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特許無効審判

2011-800018

アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物

審判番号
2011-800018
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願平9-500510外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2011年02月03日
審決日
2016年12月01日
公報発行日
2021年05月28日
結論
訂正認容・請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P1113.113-YA (A61K) / P1113.121-YA (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第123条第1項第2号、特許法第134条の2第5項、特許法第181条、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第181条第5項、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第3068858号「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」の特許無効審判事件についてされた平成25年1月22日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1、5に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成25年(行ケ)第10058号、平成26年7月30日)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件特許第3068858号の請求項1~12に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」~「本件特許発明12」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。)についての出願は、1996年5月3日(パリ条約による優先権主張 1995年6月6日、米国)を国際出願日として出願されたものであり、平成12年5月19日にその発明について特許の設定登録がされたものである。 これに対して、請求人 中野治子は、被請求人であるアルコン リサーチ,リミテッド及び協和醗酵キリン 株式会社に対して、平成23年2月3日に本件特許発明1~12に対して特許無効審判を請求し、その後の経緯の概略は、以下のとおりである。 ・平成23年 5月23日 訂正請求書・答弁書の提出 ・平成23年12月16日 「訂正を認める。特許第3068858号の請求項1~12に係る発明  についての特許を無効とする。」との審決 ・平成24年4月24日 審決取消訴訟の提起 ・平成24年6月29日 本件特許に対する訂正審判請求(訂正2012-390084) ・平成24年7月11日 審決取消決定(平成23年法律第63号改正前特許法第181条 第2項による) ・平成24年 8月10日 訂正請求書の提出 ・平成24年 8月13日 答弁書の提出 ・平成24年10月15日 弁駁書及び手続補正書の提出 ・平成24年12月20日 補正許否の決定(平成24年10月15日に提出された弁駁書及び手続  補正書に対し、「無効審判請求書の請求の理由に、上記手続補正書の別  紙に記載された無効理由4~無効理由7を追加しようとする補正は、請  求の理由の要旨を変更するものであるから、許可しない。」旨を決定す  るものである) ・平成25年1月22日 「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決 ・平成25年3月1日  審決取消訴訟の提起 ・平成26年7月30日 審決取消しの判決(平成25年(行ケ)第10058号) ・平成28年1月12日 審決取消しの判決(平成25年(行ケ)第10058号)について、 被請求人からの上告受理の申立てに対し、「本件を上告審として受理し  ない。」との決定(最高裁判所第三小法廷 平成26年(行ヒ)第49  5号) ・平成28年1月22日 被請求人から上申書の提出 ・平成28年2月1日  訂正請求書の提出 ・平成28年2月5日  被請求人から上申書の提出 ・平成28年3月8日  被請求人から手続補正書の提出 (平成28年2月1日に提出された訂正請求書の記載不備を補正 するものである) ・平成28年5月16日 弁駁書の提出 ・平成28年5月9日  被請求人から上申書の提出 ・平成28年7月28日 被請求人から上申書の提出 第2 平成28年2月1日付けの訂正請求について 1.訂正請求について 平成28年2月1日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項1及び5を、以下のとおりに訂正しようとするものである。ただし、下線は、被請求人が訂正箇所の明示のために付したものである。 なお、平成24年8月10日付けの訂正請求書により、特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~4及び6~12は削除され、当該削除は確定済みである。 (1)訂正事項1 特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の文頭に「ヒトにおける」を挿入する。 (2)訂正事項2 特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の「局所投与可能な」の後に、「、点眼剤として調製された」を挿入する。 (3)訂正事項3 特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の「組成物」を「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」に訂正する。なお、特許請求の範囲の請求項1において「組成物」は、2か所ある。 (4)訂正事項4 特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項5の末尾の「請求項1に記載の組成物」を「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」に訂正し、また、同請求項の文頭に「ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有し、」を挿入する。 (5)訂正事項5 特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項5の「実質的に含まない、」の後に、「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する、」を挿入する。 上記訂正事項1~5により、特許権設定登録時の請求項1 「【請求項1】アレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な眼科用組成物であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、組成物。」 及び特許権設定登録時の請求項5 「【請求項5】前記11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸が、(Z)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸であり、(E)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。」 を、それぞれ、 「【請求項1】ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤。」 及び 「【請求項5】ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有し、前記11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸が、(Z)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸であり、(E)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸を実質的に含まない、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤。」 のように訂正する。 2.訂正の可否に対する判断 (1)当審の判断 ア.訂正の目的、及び、特許請求の範囲の拡張又は変更について 特許権設定登録時の請求項1に対する訂正事項1は、処置対象の「アレルギー性眼疾患」を「ヒトにおける」ものに限定するものである。また、訂正事項2及び3により、請求項1の「眼科用組成物」が「点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」になっているが、 「点眼剤」には有効成分以外にも少なくとも溶媒等の成分が含まれることが技術常識であるから、「点眼剤」は「組成物」の一種ということができるので、「組成物」を「点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」とすることは、「組成物」を限定するものである。 特許権設定登録時の請求項5に対する訂正事項4及び5は、請求項5を請求項1の従属項から独立項へと形式を変更し、処置対象の「アレルギー性眼疾患」を「ヒトにおける」ものに限定し、「眼科用組成物」を「点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」に限定し、さらに「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」を「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤」に限定するものである。上記訂正事項1~5は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1~5はいずれも平成23年法律第63号改正前特許法(以下、単に「特許法」という。)第134条の2第1項ただし書の規定、及び、同条第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 イ.新規事項の追加について (ア)願書に添付した明細書に記載した事項 願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。図面の添付はない。)には、以下の事項が記載されている。なお、摘記箇所を示す「( )」に記載の頁、欄、行は、いずれも本件特許第3068858号の特許公報のものである。 a.(第2頁第4欄第28~32行) 「異なる肥満細胞は薬理学的薬剤に異なる応答を示すため、抗アレルギー剤(「肥満細胞安定剤」)として請求される化合物が、特定の肥満細胞集団における臨床上の有用性を有するかどうかは明らかでない。」 b.(第3頁第5欄第41~44行) 「必要とされるものは、アレルギー性眼疾患を処置するための標的細胞であるヒト結膜から得られる肥満細胞に対して安定化活性を示す、局所的に投与可能な薬物化合物である。」 c.(第3頁第5欄第47行~同頁右欄第25行) 「本発明は、局所的眼科用処方物を眼に投与する工程により特徴づけられる、アレルギー性眼疾患を処置する方法を提供する。ここでこの局所的眼科用処方物は、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸(以下、化合物Aという)、またはその薬学的に受容可能な塩を合有する。……。 化合物Aは、ヒト結膜肥満細胞安定化活性を有し、いくつかの場合において、1日1回または2回の数少ない頻度で適用され得る。化合物Aはまた、その肥満細胞安定化活性の他に、顕著なヒスタミン活性を有する。従って、予防効果の他に、化合物Aはまた治療効果も有する。」 d.(第3頁第6欄第41~45行) 「ヒト結膜から得られた肥満細胞(アレルギー性結膜炎の処置に有用であると請求されている局所的眼科用薬物調製物に対する標的細胞)における、報告されている抗アレルギー性の肥満細胞安定剤の阻害効果を、以下の実験方法に従って試験した。」 e.(第4頁第8欄第24~28行) 「表1が明らかに示すように、抗アレルギー薬であるクロモグリク酸二ナトリウムおよびネドクロミルは、ヒト結膜肥満細胞脱顆粒を有意に阻害することができなかった。対照的に、化合物A(シス異性体)は、肥満細胞脱顆粒の濃度依存的な阻害を引き起こした。」 f.(第5頁の表1) 下記表1には、抗ヒトIgEによる刺激の15分前に、化合物Aを肥満細胞培養物に1000μMの用量、2000μMの用量でそれぞれ与えた場合、ヒスタミン放出阻害率がそれぞれ66.7%、92.6%であったという実験結果が記載されている。 「 」 g.(第6頁第11欄第4行~同頁第12欄第5行) 「抗ヒトIgEチャレンジによる、ヒト結膜組織肥満細胞からのヒスタミン放出における化合物Aのシス異性体およびトランス異性体の効果を、表2で比較する。表2において、表1で用いた方法と同じ実験方法を用いた。表2の結果は、示された用量レベルでは、2つの異性体の結膜肥満細胞活性の間に統計学的に有意な差がないことを示す。」 h.(第7頁第13欄第27~33行) 「化合物Aは、溶液、懸濁液またはゲルなどの従来の局所的眼科用処方物によって眼に投与され得る。化合物Aの局所的な眼科用投与のための好ましい処方物は、溶液である。溶液は点眼剤として投与される。……。本発明の点眼剤を調製する一般的な方法を、以下に記載する。」 (イ)訂正事項1~5が、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かの判断 以下では、上記摘記cにあるように本件特許明細書の記載にならい、本件特許発明の有効成分である「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸」を、単に「化合物A」ともいう。 本件特許明細書には、摘記aにあるように、ヒトにおける使用を意図することが明らかな「臨床上」なる語を用いて、肥満細胞安定剤として従来知られている化合物が、特定の肥満細胞集団における有用性を有するかどうか明らかでないという問題点を指摘し、また、その問題点を受けて、摘記bにおいて「必要とされるもの」が記載されることから、本件特許発明が解決すべき課題は、アレルギー性眼疾患を処置するための標的細胞であるヒト結膜から得られる肥満細胞に対して安定化活性を示す、局所的に投与可能な薬物化合物を提供することであると理解できる。 そして、当該課題を踏まえると、摘記cに記載された化合物Aを含有する局所的眼科用処方物により処置するアレルギー性眼疾患は、ヒト結膜肥満細胞が標的細胞であるアレルギー性眼疾患、すなわち、「ヒトにおける」アレルギー性眼疾患であることが明らかである。 このように、本件特許発明の眼科用組成物により処置するアレルギー性眼疾患が「ヒトにおける」ものであることは、当業者にとって、本件特許明細書の記載から明らかであるといえるのであるから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。 本件特許明細書には、化合物Aがヒト結膜肥満細胞安定化活性を有すること(摘記c)、ヒト結膜肥満細胞における種々の抗アレルギー性肥満細胞安定化剤の阻害効果の試験方法及び結果が、実施例として具体的に記載されている(摘記d~g)。 そして、実施例には、化合物Aのシス異性体がヒト結膜肥満細胞脱顆粒の濃度依存的な阻害を引き起こしたこと(摘記e)、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出における化合物Aのシス異性体およびトランス異性体の効果を比較したところ、2つの異性体の結膜肥満細胞活性の間に統計学的に有意な差がなかったこと(摘記g)が、記載されている。 さらに、実施例には、化合物Aの用量が1000μMの時、ヒスタミン放出阻害率が66.7%、同用量が2000μMの時、同阻害率が92.6%であることが記載されており(摘記f)、この記載は、化合物Aが、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害したことを示すものである。 このように、本件特許明細書には、化合物Aが「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」として作用すること、及び化合物Aが「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害するという、ヒト結膜肥満細胞安定化効果を奏する」ものであることが記載されているのであるから、訂正事項3~5で「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」又は「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」にする訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。 本件特許明細書には、化合物Aが「点眼剤」として投与されるものであることが、点眼剤の調製する一般的な方法とともに記載されている(摘記h)のであるから、訂正事項2及び4で「点眼剤として調製された」ことを挿入する訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。 以上のとおり、訂正事項1~5はいずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合する。 (2)請求人の主張について 請求人は、平成28年5月16日提出の弁駁書で、請求項5に「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」という発明の構成を付加する訂正(上記訂正事項5)について、本件特許明細書には、表1とは異なる実験条件で得られたヒスタミン放出阻害率の値、「66.7%」と「92.6%」との間にある同阻害率、及び「92.6%」よりも高い同阻害率が、いずれも記載されていないのであるから、上記訂正事項5は、本件特許明細書に記載されていない発明の構成並びに技術的思想を付加するものであり、新規事項追加禁止要件(特許法第134条の2第5項で準用する126条3項)を満たさないものであり、不適法なものである旨を主張する。 ここで、訂正事項が本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものか否かは、本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するか否かで判断すべきものであるから、本件特許明細書に、化合物Aが「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」という技術的事項が記載されているか否かが新規事項追加禁止要件を判断する基準である。 本件特許明細書では、化合物Aが有する「ヒト結膜肥満細胞安定化活性」の程度を具体的に数値化して示す指標として、ヒト結膜肥満細胞に対する「ヒスタミン放出阻害率」が用いられており(摘記d~g)、表1には、抗ヒトIgEによる刺激の15分前に、肥満細胞培養物に化合物Aを30μM、100μM、300μM、600μM、1000μM、2000μMの用量(濃度)で与えたところ、ヒスタミン放出阻害率は-3.9%、13.0%、29.6%、47.5%、66.7%、92.6%まで用量(濃度)依存的に一貫して上昇したことが記載されている(摘記f)。 そうすると、「66.7%」及び「92.6%」という同阻害率は、用量(濃度)依存的に連続して上昇する値のうちの一部であると解すべきであり、同阻害率が2000μMの用量(濃度)で100%近い92.6%まで上昇しているのであるから、用量(濃度)が2000μMよりもさらに増加すれば100%の同阻害率を達成できることは自明であるので、本件特許明細書には、化合物Aが、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%~100%の連続した範囲で阻害するという技術的事項が記載されている。 また、本件特許明細書には、化合物Aについて、表1の「抗ヒトIgEによる刺激の15分前に化合物Aを肥満細胞培養物に与えた」という実験条件での結果は記載されているが、それ以外の実験条件での結果は記載されていない。しかし、当業者であれば、表1とは異なる実験条件であっても、表1で得られた結果を参酌して実験条件を適宜調整すれば、ヒト結膜肥満細胞に対する化合物Aによるヒスタミン放出阻害率が66.7%以上となることを理解できると解すべきである。 以上のように、「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」という発明の構成を付加する上記訂正事項5は、本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内においてしたものであり、新たな技術的事項を導入するものではない。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書き、並びに、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。 第3 本件訂正発明 上記訂正の結果、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び5に係る発明は、本件訂正明細書(平成28年3月8日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正明細書)の特許請求の範囲の請求項1及び5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」といい、これらをまとめて「本件訂正発明」という。)。 「【請求項1】ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤。」 「【請求項5】ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な、点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有し、前記11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸が、(Z)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸であり、(E)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸を実質的に含まない、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する、ヒト結膜肥満細胞安定化剤。」 第4 当事者の主張の概要、及び、証拠方法 1.請求人の主張及び証拠方法 (1)請求人は、「特許第3068858号の請求項1乃至12に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、審判請求書においては以下のとおりに無効理由1~3を主張している。 なお、上記「第2」及び「第3」のように本件訂正請求が認められたため、以下では、審判請求書等における、訂正前の「請求項1に係る発明」及び「請求項5に係る発明」を指していう箇所は、それぞれ、「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」と読み替える。 ア.無効理由1 本件訂正発明1及び2は、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。 イ.無効理由2 本件訂正発明1及び2は、いずれも本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(主引例、甲2の1及び甲2の2を参酌)、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。 ウ.無効理由3 本件訂正発明1及び2は、いずれも本件特許の優先日前に頒布された刊行物である、甲第3号証(主引例)並びに甲第1号証(甲2の1及び甲2の2を参酌)、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。 (2)請求人は、証拠方法として、以下の甲第1~39号証及び参考資料1~5を提出している。なお、以下では、各甲号証を指して、それぞれ単に「甲1」~「甲39」(甲第2号証の1及び甲第2号証の2については、「甲2の1」及び「甲2の2」)ともいう。 ・甲第1号証 「モルモットの実験的アレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー薬の 影響」:あたらしい眼科 Vol. 11、No. 4、603-605頁(1994) ・甲第2号証の1 Clinical and Experimental Allergy、Vol. 24、955-959頁(1994) (抄訳添付) ・甲第2号証の2 Chem. Pharm. Bull. 40(9) 2552-2554 (1992)(抄訳添付) ・甲第3号証 特開昭62-45557号公報 ・甲第4号証 特開昭63-10784号公報 ・甲第5号証 アレルギーの臨床4(2)、149-151頁 (1984) ・甲第6号証 アレルギーの臨床5(5)、401-404頁 (1985) ・甲第7号証 「ザジテン点眼液(R)0.05%」添付文書 (当審注:「(R)」はRの丸囲み文字を表す。以下同様。) ・甲第8号証 アレルギー37(7)、438-447頁 (1988) ・甲第9号証 日本眼科紀要第41巻第5号、867-870頁(1990) ・甲第10号証 「アレギサール(R)点眼液0.1%」添付文書 ・甲第11号証 「臨床薬物治療学大系2薬理学・非臨床薬効評価」 第235~255頁 ・甲第12号証 あたらしい眼科10、37~41頁(1993) ・甲第13号証 医薬品研究 20、48~56頁(1989) ・甲第14号証 アレルギー 34、1021~1027頁(1985) ・甲第15号証 アレルギー 35、1149~1157頁(1986) ・甲第16号証 J. Pharmacobio-Dyn.、14、467-473 (1991)(抄訳添付) ・甲第17号証 Arch Ophthalmol 107、433-438 (1989)(抄訳添付) ・甲第18号証 Acta Ophthalmologica 68、470-476 (1990)(抄訳添付) ・甲第19号証 医薬品インタビューフォーム 「パタノール(R)点眼液 0.1%」 ・甲第20号証 臨眼46、1517~1520頁(1992) ・甲第21号証 医薬品インタビューフォーム 「リボスチン(R)点眼液 0.025%」 ・甲第22号証 医薬品インタビューフォーム 「リザベン(R)点眼液 0.5%」 ・甲第23号証 「エリックス(R)点眼液0.25%」添付文書 ・甲第24号証 特公平5-86925号公報 ・甲第25号証 「リボスチン(R)点眼液0.025%」の添付文書 ・甲第26号証 販売名「パタノール(R)点眼液0.1%」の審査報告書 ・甲第27号証 販売名「パタノール(R)EX点眼液0.2%」 の審査報告書 ・甲第28号証 日本薬局方第15改正 第1038~1039頁 ・甲第29号証 本瀬賢治 著「点眼剤」第51頁(1984年) ・甲第30号証 アレルギーの臨床14巻10号、1994年、 751~754頁 ・甲第31号証 日本臨牀49巻、1991年、705~708頁 ・甲第32号証 臨床眼科43巻8号、1989年8月、 1251~1254頁 ・甲第33号証 臨床眼科34巻11号、1980年、 1551~1557頁 ・甲第34号証 アレルギー37巻12号、1988年、 第1178~1182頁 ・甲第35号証 ANNALS OF ALLERGY,ASTHME, IMMUNOLOGY 、 79巻、541-545頁(1997) ・甲第36号証 Ocular Immunology and Inflammation 、4巻、 39~49頁、(1996年) ・甲第37号証 臨床眼科44巻9号、1437~1440頁 (1990年) ・甲第38号証 あたらしい眼科12巻12号、1915~1917頁 (1995年) ・甲第39号証 JOURNAL OF OCULAR PHARMACOLOGY AND THERAPEUTICS、12巻4号、389-400頁(1996年)(抄訳添付) ・参考資料1 J. Pharmacobio-Dyn.、14、467-473 (1991) ・参考資料2 基礎と臨床Vol.27、191~194頁(1993) ・参考資料3 日薬理誌101、27~32頁(1993) ・参考資料4 第1回口頭審理期日に配布した説明メモ ・参考資料5 乙第11-2号証に囲みを付したもの 2.被請求人の主張及び証拠方法 (1)被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、「本件訂正後の特許請求の範囲の各請求項に記載されている事項により特定される各発明が、本件無効審判請求人が主張する、無効理由1~3を有するものではない」ことを主張し、証拠方法として、以下の乙第1~32号証を提出している。なお、以下では、各乙号証を指して単に「乙1」~「乙32」ともいう。 ・乙第1号証 Schwartz, L. B. et al.、THE LUNG: Scientific Foundations、Raven Press, Ltd.、New York、Chapter3.4.11、p.601-616 (1991)(抄訳添付) ・乙第2号証 Irani,A. M. A. et al.、Clinical and Experimental Allergy、Vol.19、p.143-155 (1989)(抄訳添付) ・乙第3号証 Church, M. K.、Agents and Actions、Vol.18,3/4、p.288-293 (1986)(抄訳添付) ・乙第4号証 Lau, H. Y. A. et al.、Agents and Actions、Vol.27、p.83-85 (1989)(抄訳添付) ・乙第5号証 Leonardi A. et al.、Clinical Therapeutics、Vol.25、p.2539-2552、(2003)(抄訳添付) ・乙第6号証 Yanni、J. M.博士のデクラレーション(抄訳添付) ・乙第7号証 IMS Health REPORT(抄訳添付) ・乙第8号証 パタノールの処方患者数シェア推移 ・乙第9-1号証 Immunopharmacology of the Respiratory System、edited by Holgate S. T、Academic Press、pages54-84、1995(抄訳添付) ・乙第9-2号証 Bonini, S. et al.、Annals of Allergy、vol.71、pages 296-299、1993(抄訳添付) ・乙第9-3号証 Basic Clinical Immunology、5th edition、edited by Stites、D. P. et al.、Lange Medical Publications、page 252、1984(抄訳添付) ・乙第10-1号証 Mota, L. et al. 、Brit. J. Pharmacology、vol.15、pages 396-404、1960(抄訳添付) ・乙第10-2号証 Arunlakshana, O.、Society、vol.12-13、pages 47-48、1952(抄訳添付) ・乙第10-3号証 Lau H. Y. A. et al.、Agents and Actions、vol.29 3/4、pages 151-161、1990(抄訳添付) ・乙第11-1号証 医薬品添付文書「Patanol(R)」(抄訳添付) ・乙第11-2号証 医薬品添付文書「Pataday(R)」(抄訳添付) ・乙第12号証 Emadine(R)の医薬添付文書(抄訳添付) ・乙第13号証 平成20年(行ケ)第10096号 知財高裁平成21年1月28日判決 ・乙第14号証 乙第4号証のTable 1の換算表(抄訳添付) ・乙第15-1号証 医薬品添付文書「ZADITORTM」(抄訳添付) ・乙第15-2号証 米国食品医薬品局 インターネットホームページ 「http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cder/ob/default.cfm」、Orange Book: Approved Drug Products with Therapeutic Equivalence Evaluations(抄訳添付) ・乙第15-3号証 医薬品添付文書 「ザジテン(R)点眼液UD0.05%」 ・乙第16号証 Yanni、J. M.博士のデクラレーション(抄訳添付) ・乙第17号証 Berdy、G. J. et al.、Journal of Ocular Pharmacology、vol.7、no.4、pages 313-324、1991(抄訳添付) ・乙第18号証  肥満細胞における二相性効果の複式図(抄訳添付) ・乙第19号証  特表2004-536096号公報 ・乙第20号証  Patric M. Ryan氏の宣誓書(抄訳添付) ・乙第21号証 出版社ELSEVIERのウェブサイトの該当ページ (http://www/elsevier.com/wps/find/bookdescription.cws_home/700066/description)の写し(抄訳添付) ・乙第22号証  Sean Nicholson博士の宣誓書(抄訳添付) ・乙第23号証  川上高司氏の宣誓供述書 ・乙第24号証  Steven T. Miller氏の宣誓書(抄訳添付) ・乙第25号証  John M. Yanni博士の宣誓書(抄訳添付) ・乙第26号証 Mark B. Abelson et a1.、OTC or Rx Allergy Drops?、Ophthalmology Management、Issue: March 2009 (2009)(抄訳添付) ・乙第27号証 Y. Okayama et a1.、Inhibition profiles of sodium cromoglycate and nedocromil sodium on mediator release from mast cells of human skin、lung、tonsil、adenoid and intestine、Clinical and Experimental Allergy、Volume 22、pp. 401 -409(1992)(抄訳添付) ・乙第28号証 Okayama Y et a1.、In vitro effects of H1-antihistamines on histamine and PGD2 release from mast cells of human lung、tonsil、and skin、Allergy、Volume 49、pp. 246-253 (1994)(抄訳添付) ・乙第29号証 F. L. Pearce et al.、Effects of Sodium Cromoglycate and Nedocromil Sodium on Histamine Secretion from Mast Cells from Various Locations、Drugs 37 (Suppl.1)、pp.37-43 (1989)(抄訳添付) ・乙第30号証  知財高裁平成23年11月30日判決 (平成23(行ケ)10018号) ・乙第31号証  飯村敏明前知財高裁所長作成の意見書 ・乙第32号証  知財高裁平成25年7月24日判決 (平成24(行ケ)10206号) 第5 証拠の記載 1.各甲号証の記載 審判請求書及び平成24年10月15日提出の弁駁書によれば、請求人が、無効理由1の根拠としている証拠は、甲1、甲2の1及び甲2の2であり、無効理由2の根拠としている主たる証拠は、甲1、甲2の1、甲2の2、甲4、甲26、甲30及び甲31であり、無効理由3の根拠としている主たる証拠は、甲1、甲2の1、甲2の2、甲3、甲4及び甲26であるところ、これら各甲号証、さらに本件訂正発明による効果に関する甲7、甲32及び甲39に記載される事項は以下のとおりである。 (1)甲第1号証 甲1には、以下の事項が記載されている。 ア.(標題) 「モルモットの実験的アレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー薬の影響」 イ.(第603頁中段の要約) 「抗原誘発およびヒスタミン誘発結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を,モルモットを用いて検討した.その結果,chlorpheniramine,ketotifenおよびKW-4679の点眼は,抗原誘発結膜炎よりもヒスタミン誘発結膜炎に対してより強力な抑制効果を示した.」 ウ.(第603頁左欄第1~4行) 「はじめに アレルギー性結膜炎の治療には,chlorpheniramineやketotifenなどの抗ヒスタミン作用を有する薬物が広く用いられている.」 エ.(第604頁左欄第1行~第604頁右欄第2行) 「2.結膜炎症状の定量化 結膜炎の程度は,つぎのように定めた. Score 1:軽度の充血を示すもの. Score 2:強度の充血を示すもの. Score 3:充血に軽度~中等度の浮腫が加わったもの. Score 4:著明な浮腫が生じたもの. 3.結膜からのヒスタミン遊離 抗原点眼15分後に結膜を切除し,重量を測定した後,生理食塩液で洗浄した.その後,……ホモジナイズし,……遠心し,その上清を凍結保存した.その後,……解凍遠心分離し,上清のヒスタミン含量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で定量した. 4.涙液中ヒスタミン含量の測定 抗原点眼15分後に,生理食塩液を点眼した後回収し,……遠心分離し,上清のヒスタミン含量をHPLCで測定した.」 オ.(第604頁右欄第3行~第605頁左欄第19行) 「         II 実験成績 1.抗原誘発結膜炎に対する効果 感作モルモットの結膜に抗原液(20 mg/ml)を点眼して誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を図1に示した.……KW-4679は10および100ng/μlの濃度で有意な抑制作用を示した.…… 2.抗原誘発およびヒスタミン誘発結膜炎に対する効果 表1に抗原およびヒスタミン誘発結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の効果を,IC50値で示した.Chlorpheniramine,ketotifenおよびKW-4679は,ヒスタミン誘発結膜炎を抗原誘発結膜炎よりもより強く抑制した.…… 3.結膜からのヒスタミン遊離に対する作用 結果は,図2に示したごとく,…….Chlorpheniramine,ketotifenおよびKW-4679の効果は有意ではなかった. 4.涙液中のヒスタミン含量に対する効果 抗原点眼前のモルモット涙液中のヒスタミン含量は1.7±0.4ng/mlであったが,抗原点眼後,ヒスタミン含量は約5倍に増加した(8.6±0.8ng/ml).…….Chlorpheniramine,ketotifenおよびKW-4679は,有意な効果を示さなかった.」 カ.(図1) 「図1 抗原抗体反応による結膜炎に対する抗アレルギー薬の効果 」 キ.(表1) 「表1 抗原誘発およびヒスタミン誘発結膜炎に対する抗アレルギー薬の効果(IC50) 」 ク.(図2) 「図2 抗原抗体反応により生ずる涙液中のヒスタミン含量の増加に対する抗アレルギー薬の効果 」 ケ.(第605頁左欄第26~29行) 「以上の知見により,Chlorpheniramine,ketotifenおよびKW-4679は主としてこれらの薬物が有する抗ヒスタミン作用により抗原抗体反応による結膜炎を抑制したのではないかと考えられる.」 コ.(第605頁左欄第29~34行) 「一方,levocabastineおよびamlexanoxは抗原抗体反応による結膜からのヒスタミン遊離を抑制するのではないかと考えられる.そこで,抗原抗体反応による結膜からのヒスタミン遊離に対する各薬物の効果を検討したところ,両薬物は有意な抑制効果を示した.Chlorpheniramine,ketotifenおよびKW-4679は無効であった.」 (2)甲第2号証の1 甲2の1には、以下の事項が記載されている。原文は英文のため、日本語訳で記す。 ア.(第955頁左欄第2~5行) 「KW 4679(Z-11-(ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズオキセピン-2-酢酸 塩酸塩)は、アレルギー性疾患の治療のために開発された新しい化合物である。」 (3)甲第2号証の2 甲2の2には、以下の事項が記載されている。原文は英文のため、日本語訳で記す。 ア.(標題) 「KW-4679((Z)-11-[3-(ジメチルアミノ)プロピリデン]-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸 塩酸塩)の標識免疫検定法のためのジベンズ[b,e]オキセピン―ウシ血清アルブミン共役系の合成」 イ.(第2552頁左欄第1~5行参照) 「我々は、最近、効果的で、経口で有効な抗アレルギー性剤で現在臨床試験中の(Z)-11-[3-(ジメチルアミノ)プロピリデン]-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸 塩酸塩(1,KW-4679)を報告した(図1)。」 (4)甲第3号証 甲3には、以下の事項が記載されている。 ア.(第1頁請求項1) 「(1)式(I) 」 イ.(第6頁左上欄下から3行目~同頁右上欄第19行) 「抗アレルギー活性を有する本発明の化合物は、……。本化合物は、マスト細胞からのオータコイド(即ち、ヒスタミン、セロトニン等)の放出を阻害し、そしてヒスタミンの抗原-誘導産生を直接阻害するものと信じられる。従って、それらは、抗ヒスタミン作用を有するマスト細胞安定剤として分類される。 本ヒスタミン活性を有する本発明の化合物は、臨床的に使用される抗ヒスタミン剤と同じ適用のために、即ち風邪および血管運動性鼻炎に基く鼻づまりの不利益な症状(ヒスタミン放出に起因する)を軽減するために、そして鼻アレルギー、多年性鼻炎、じんま疹、血管神経性浮腫、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、医薬および血清反応、虫咬まれおよび刺され、および脱感作反応を包含するアレルギー状態の症状制御のために使用しうる。」 ウ.(第7頁左上欄第7~9行) 「製剤は、経口、腸内、局所、鼻内、眼内または非経口(皮下、筋肉内および静脉内)投与に適当なものを包含する。」 エ.(第7頁右下欄第13行~第8頁右下欄下から4行目) 「例1 (E)/(Z)11-(3-(ジメチルアミノ)プロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-カルボン酸 a)…… b)…… c)(Z)-11-(3-(ジメチルアミノ)プロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-カルボン酸(化合物1) ……」 オ.(第15頁左下欄第2行~第16頁右下欄第7行) 「例7 抗ヒスタミン活性 A.…… B.インビボ抗ヒスタミン活性:モルモツト(ハートレイ雄300~350g)を20時間絶食させ、ついで試験化合物を経口または静脉内に投薬した。投薬の1時間後に、個体基準で、モルモツトを透明なプラスチツクの部屋に入れ、それをエアロゾルネブライザーからの0.25%ヒスタミンで飽和しそして継続的に通気した。モルモツトのヒスタミンアナフイラキシーの徴候(たとえば、咳、くしやみ、強い腹部運動、チアノーゼあるいは直立の喪失)を監視した。…… 例G アナフイラキシ-様活性 絶食させなかったラツト(180~300g)に、化合物48/80攻撃の2時間前に、試験化合物を投薬(腹腔内または経口)した。攻撃の1時間前に、プロプラノロール5mg/kg腹腔内を投与した。薬理学の技術分野においてよく知られているアナフイラキシー様作用誘導剤、化合物48/80を2mg/kgにおいて静脉内投与し、そして動物は呼吸困難の徴候を監視した。データーをプロビツト決定により解析した。応答は、所定の時点において動物の50%を死から保護する試験化合物の用量を決定することにより定量化した。 上記実験設計は、選択的抗ヒスタミン剤について陽性の結果を与えない。また、ラツトはアナフイラキシーの徴候で、ヒスタミン(静脉内)に応答しない。化合物48/80の効果を遮断する薬剤は、通常アナフイラキシーメデイエイタの阻害剤またはアナフイラキシーメデイエイタの放出の阻害剤とし分類される。 …… 化合物1(例1)は、ラツトにおいて210mg/kg(腹腔内)および500mg/kg以上(経口)の大略LD50を有した。」 カ.(第16頁右下欄第8行~第18頁左上欄第13行) 「例8 製剤 活性化合物は、(Z)-11-(3-(ジメチルアミノ)プロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-カルボン酸、即ち化合物1である。 …… (I)-眼科用液剤 成 分            100.0ml当りの量 活性化合物             0.1g 塩化ナトリウム           0.8g 防腐剤               0.5g 注射用水       適量 全量100.0ml この製剤は、鼻噴霧剤と同様な方法で製造する。」 (5)甲第4号証 甲4には、以下の事項が記載されている。 ア.(第1~2頁請求項2) 「(2)式 」 イ.(第2頁左下欄第3~5行) 「本発明は新規ジベンズ〔b,e〕オキセピン誘導体及びそれを有効成分として含有する抗アレルギー剤及び又は抗炎症剤に関する。」 ウ.(第3頁右上欄第2行~同頁左下欄第9行) 「 」 エ.(第8頁右上欄第7~9行) 「各製造法によって得られる化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩の具体例を第1表に、それらの構造を第2表に示す。」 オ.(第8頁左下欄 第1表の化合物番号3) 「シス-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-カルボン酸 トランス-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-カルボン酸」 カ.(第9頁右上欄 第1表の化合物番号20) 「シス-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-酢酸 トランス-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-酢酸」 キ.(第11頁右上欄第1~12行) 「化合物番号 3′ 化合物3の1/2フマル酸塩1/5水和物(トランス体 99%) …… 20′化合物20のフマル酸塩3/2水和物(トランス体 95%)」 ク.(第13頁左下欄下から3行目~第14頁左上欄下から7行目) 「抗アレルギー作用試験 抗アレルギー作用はラット48時間homologous PCA(passive cutaneous anaphlaxis)試験に従って検討した。なお、実験動物として、抗血清の採取には体重180~220gのWistar系雄性ラットを、PCA試験には体重120~140gのWistar系雄性ラットを用いた。 A)抗EWAラット血清の調製 …… B)ラットの48時間homologous PCA試験 1群3匹のラットを用い、除毛した背部皮肉2ヵ所に生理食塩液で8倍に希釈した抗EWAラット血清0.05m1ずつを注射して受動的に感作した。47時間後に本発明化合物又はその溶液(生理食塩液又はCMC溶液)を経口投与し、その1時間後、抗原EWA2mgを含む1%エバンスブルー生理食塩液0.5ml/100gを尾静脈内投与した。30分後、動物を放血致死させ、皮膚を剥離して青染部の漏出色素量をKatayamaらの方法〔Microbiol. Immunol.22. 89(1978)〕に従い測定した。すなわち、青染部をハサミで切り取り、1N KOH 1mlを入れた試験管に入れ、24時間、37℃でインキュベートした。0.6Nリン酸・アセトン(5:13)混液9mlを加え、振とう後、2500rpm、10分間遠心分離し、上清の620μmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線より漏出色素量を定量した。2カ所の平均値をもって1個体の値とし、次式より各個体別の抑制率を算出した。 抑制率(%)= なお、抑制率が50%以上の場合をPCA抑制作用陽性とし、3個体中少なくとも1個体に陽性例が認められる最小投与量をもって最小有効量(MED)とした。その結果を第5表に示す。」 ケ.(第14頁左下欄~右下欄 第5表) 「 (中略) 」 コ.(第15頁右上欄表下第1~10行) 「(I)及びその薬理上許容される塩はPCA抑制作用又は/及びカラゲニン足浮腫抑制作用を有する。PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ、従って化合物(I)及びその薬理上許容される塩はヒスタミンなどのケミカルメディエーターによる気管収縮作用によって生ずる気管支喘息のようなアレルギー性疾患の治療に有効であると考えられる。」 (6)甲第26号証 甲26は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が作成した「パタノール点眼液0.1%」の審査報告書(平成18年4月5日付け)であり、「パタノール点眼液0.1%」が、本件訂正発明の有効成分である「塩酸オロパタジン」を含有し、「アレルギー性結膜炎」を効能・効果として「承認して差し支えないと判断した」ことを報告するものである(第4頁)。甲26には、以下の事項が記載されている。 ア.(第5頁下から14行目) 「本剤の有効成分である塩酸オロパタジン(本薬)は、……」 イ.(第13頁下から2~1行目) 「本薬はin vitroにおいてヒスタミンに対する拮抗作用を示し、その約1万倍の高濃度を要するが肥満細胞からのヒスタミンを含む生理活性物質の遊離を抑制することが示された。」 ウ.(第16頁第13~20行) 「機構は、本薬の肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制濃度は、本薬のヒスタミン拮抗濃度の約1万倍の高濃度を必要とすること及びin vivoにおける抗原によるモルモット結膜における血管透過性亢進抑制も本薬の抗ヒスタミン作用で説明が可能であることから、本薬の臨床における有効性発現に関与している可能性は低いと考えられる。しかし、点眼直後では本薬が結膜の肥満細胞に高濃度で到達する可能性が否定できず、ヒト眼部における本薬のヒスタミン遊離抑制作用が認められていること、及び類薬であるケトチフェン点眼薬の薬理作用に肥満細胞からの生理活性物質遊離抑制作用が認められていることから、本薬を点眼した時、結膜肥満細胞のヒスタミンをはじめとする生理活性物質の遊離を抑制するとの申請者の回答を了承した。」 (7)甲第30号証 甲30には、以下の事項が記載されている。 ア.(第751頁左欄標題下第2~18行) 「アレルギー疾患治療剤はその作用機序によっていくつかに大別される。たとえば1)肥満細胞や好塩基球から産生される各種の化学伝達物質に対する拮抗薬、2)それらの化学伝達物質の肥満細胞からの産生・遊離を抑制する薬剤、3)……、4)……、5……などである。1)の化学伝達物質拮抗薬にはH1ヒスタミン拮抗薬、ロイトコトリエン拮抗薬、PAF拮抗薬、トロンボキサンA2拮抗薬などが含まれる。従来頻用されているH1ヒスタミン拮抗薬、いわゆる古典的抗ヒスタミン剤に対して、2)の化学伝達物質遊離抑制作用(肥満細胞安定化作用、mast cell stabilizer)を有する薬剤を狭義の抗アレルギー剤として呼称するのが本邦では一般化している。」 イ.(第751頁右欄第2~12行) 「1.抗アレルギー剤の種類、薬効、薬物動態 抗アレルギー薬は大きく2つに分けられる。化学伝達物質遊離抑制作用を有するが、H1ヒスタミン拮抗作用(抗ヒスタミン作用)を有しない酸性抗アレルギー剤と、化学伝達物質遊離抑制作用と同時に強い抗ヒスタミン作用をも有する塩基性抗アレルギー剤の2種である。後者は、抗ヒスタミン剤としての効果の上に、抗アレルギー剤としての効果を併せ持つわけである。表1、2に酸性及び塩基性抗アレルギー剤の種類、用法・用量、効能・効果、薬効・薬理をまとめた。」 (8)甲第31号証 甲31には、以下の事項が記載されている。 ア.(第705頁左欄標題下第2~10行) 「抗アレルギー薬とは、広い意味では、アレルギー疾患の治療に用いられる諸種の薬物といえるのであるが、最近では狭い意味で、肥満細胞や好塩基球からのメディエーター遊離を抑制する薬物を指すのが一般的になっている。“mast cell stabilizer”がいつの間にか“抗アレルギー薬”と呼ばれるようになったのである.この種の薬物の代表が、クロモリン、すなわちクロモグリク酸ナトリウムである。」 イ.(第705頁右欄第1~8行) 「  2.抗アレルギー薬の一覧 抗アレルギー薬は2つに大別される.クロモリン様の作用を有するが、抗ヒスタミン作用を持たない薬物(表1)と、クロモリン様の作用と共に強い抗ヒスタミン作用を有する薬物(表2)である(図1)。 後者は、抗ヒスタミン薬としての効果の上に抗アレルギー薬としての効果を現す。」 (9)甲第7号証 甲7は、「ザジテン(R)点眼液0.05%」の添付文書(2007年12月改訂版)であり、以下の次項が記載されている。 ア.(第1頁上部のタイトル) 「 ザジテン(R)点眼液0.05% Zaditen(R) Ophthalmic Solution 0.05% ケトチフェンフマル酸塩点眼液」 イ.(第1頁上部左欄) 「販売開始 1991年7月」 ウ.(第1頁左欄) 「【効能又は効果】 アレルギー性結膜炎」 エ.(第1頁右欄) 「【薬効薬理】 1.抗アレルギー作用 ケトチフェンはPCA(受動的皮膚アナフィラキシー)反応を抑制する(ラット)。5) ヒスタミン、SRS-Aなどのケミカルメディエーターの遊離を抑制する(ラット腹腔肥満細胞、ヒト白血球中好塩基球・好中球in vitro)。5-7)」 (10)甲第32号証 甲32には以下の事項が記載されている。 ア.(第1251頁左欄の「要約」) 「要約 スギ花粉症患者11例に,季節外に,抗原による眼誘発試験を行い,0.05% ketotifen(HC)点眼液の涙液中ヒスタミン遊離抑制効果を検討した。右眼にHC点眼液,左眼にplacebo点眼液を点眼し,5分後に,20倍希釈のスギ抗原液を点眼して,アレルギー反応を誘発した。HC投与眼の誘発5分および10分後の涙液中ヒスタミン量は,対照眼に比べ有意なヒスタミン遊離抑制効果がみられた(P<0.01)。HC点眼液のヒスタミン遊離抑制率は,誘発5分後で67.5%,誘発10分後で67.2%であった。0.05% HC点眼液はスギ花粉症に対する有効な薬剤であると考えられる。」 イ.(第1253頁右欄第4~9行) 「本研究において,誘発5分及び10分後の涙液ヒスタミン量は,HC投与眼ではplacebo投与眼に比し,有意な低値が認められた(5分後:P<0.01,10分後:P<0.01)。これは,HC投与眼では誘発後に生ずる肥満細胞からのヒスタミン遊離が抑制された結果であると考えられる。」 (11)甲第39号証 甲39には以下の事項が記載されている。原文は英文のため、日本語訳で記す。 ア.(第389頁下から3行~第390頁第1行) 「オロパタジン(AL-4943A; KW-4679)[(Z)-2-[11-[3-(ジメチルアミノ)プロピリデン]-6,11-ジヒドロジベンゾ-[b,e]オキセピン-2 酢酸・塩酸塩]は、協和発酵工業株式会社により合成され(1)、気管支喘息、アレルギー性鼻炎及び慢性蕁麻疹の治療薬として開発中の抗アレルギー薬/抗ヒスタミン薬である。」 イ.(第390頁第23行~第391頁第4行) 「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出 ヒトの結膜組織は臓器/組織提供者(ドナー)から得た。・・・肥満細胞5000個を含む細胞懸濁液を、TGCMを入れた試験管に加えた。この細胞を、抗ヒトIgE(10μg/mL)でチャレンジ(アレルギー誘発)する15分前に、試験物で処理した。反応試験管当たりの最終容量は1.0mLであった。(ヒスタミン)放出反応は氷冷したTGCMを加え遠心分離(500g、7分)することで停止させた。上澄み液を採り、ヒスタミンの分析(上記に記載)を行うまで-20℃で保存した。」 ウ.(第393頁第17~23行) 「ヒト結膜肥満細胞を、抗ヒトIgEでチャレンジ(アレルギー誘発)する15分前にAL-4943Aで処理した場合でも、ヒスタミン放出は濃度依存的に著しく阻害された。ヒト結膜肥満細胞で得られたIC50値は559±277μMであった。・・・ヒト結膜肥満細胞に対して、対照薬物としてケトチフェンで処理した場合でもヒスタミン放出は著しく阻害された。しかし、最大の効果を奏する濃度の3倍の濃度において、ケトチフェンはこれらの細胞からヒスタミンの深刻な遊離を引き起こした(図1B)。」 エ.(第394頁図1のグラフB) 図1 RBL細胞(A)とヒト結膜組織肥満細胞(B)からのヒスタミン放出のAL-4943Aによる阻害 Human conjuctival tissue mast cells(ヒト結膜組織肥満細胞) %inhibition(阻害率) Ketotifen(ケトチフェン) Dose log(M)(投与量 log(M)) Dunnett's t-test(ダネットt検定) 「 」 2.各乙号証の記載 被請求人は、本件特許明細書で引用している文献を乙1~乙3として提出し、平成24年8月13日提出の答弁書等において、主としてこれらの文献により、本件特許の優先日時点における技術常識を主張しているところ、これら各乙号証に記載される事項は以下のとおりである。 (1)乙第1号証 乙1には、以下の事項が記載されている。原文は英文のため、日本語訳で記す。ただし、訳文中、「MCT」、「MCTC」、「CTMC」及び「MMC」は、いずれも、肥満細胞のタイプを表すものであり、「MCT」は「トリプターゼを伴い、キマーゼを伴わないヒト肥満細胞」を、「MCTC」は「トリプターゼ及びキマーゼを伴うヒト肥満細胞」を、「CTMC」は「ラット漿膜の結合組織肥満細胞」を、「MMC」は「ラット腸の粘膜肥満細胞」を表す。 ア.(第603頁右欄下から13行目~同欄最下行) 「MCT細胞は、肺、特に肺胞間中隔において、そして小腸粘膜において見出される主要なタイプであり、MCTC細胞は、皮膚において、そして、消化管粘膜下層において見出される主要なタイプであることが、プロテアーゼ組成物を用いた免疫組織化学研究により示されている(35)。したがって、ヒトMCT細胞はげっ歯類MMCにより近く対応し、ヒトMCTC細胞はげっ歯類CTMCにより近く対応する。しかしながら、MCT細胞とMCTC細胞の両方とも、調べられたほとんどの組織に存在しており、場所のみに基づいてサブタイプを指定することはできない。」 イ.(第604頁左欄第25行~同頁右欄第13行) 「異なる部位から単離されたヒト肥満細胞は、脱顆粒物質に対して、および脱顆粒阻害物質に対して異なった応答をし得る。ほぼ排他的にMCTC細胞を含有する成熟包皮細胞から単離された肥満細胞は、免疫学的な物質(抗原及び抗IgE)に応答して、そしてまた、多様な非免疫学的物質(カルシウムイオノファA23187、……、など)に応答して、ヒスタミンを放出する(36~38)。その一方、肺から単離された肥満細胞は、典型的には約90%のMCT細胞と10%のMCTC細胞から構成されているが、抗IgEおよびカルシウムイオノファA23187によって活性化されるが、上掲の他のいずれの物質によっても活性化されない(38、39)。 クロモグリク酸二ナトリウムは、喘息、アレルギー性鼻炎、及びアレルギー性結膜炎の治療のために広く使用されている。その局所効果は、肥満細胞の脱顆粒とメディエーター放出の阻害に帰せられてきた。しかしながら、気管支肺胞洗浄、アデノイド、及び肺等に由来する、MCTタイプに富んでいるであろう肥満細胞集団からのヒスタミン放出は、より高い薬剤濃度において、メディエーター放出の阻害を、たとえあったとしてもごくわずかにしか示さない(40~42)。その一方、インビトロでの抗原チャレンジ後のヒトの皮膚からのヒスタミン放出は、クロモグリク酸二ナトリウムによって阻害されず(43、44)、また、ブタクサ抗原製剤への2%クロモリンの添加は、ヒスタミン放出、肥満細胞の超微細構造の変化、及び好酸球の進入による判断で、ブタクサ感受性の個体における該抗原の局所投与に対する皮膚の反応を阻害しなかった(45)。ヒトの皮膚肥満細胞は主にMCTCタイプであるため、クロモグリク酸二ナトリウムの弱いとはいえ差次的な阻害作用がMCT細胞に対してはあるようであるがMCTC細胞に対してはないようであり、このことは、CTMCは影響を受けるがMMCは影響を受けないげっ歯類における状況とは異なっている。」 (2)乙第2号証 乙2には、以下の事項が記載されている。原文は英文のため、日本語訳で記す。ただし、訳文中、「T肥満細胞」、「TC肥満細胞」、「CTMC」及び「MMC」は、いずれも、肥満細胞のタイプを表すものであり、「T肥満細胞」は「トリプターゼ陽性、キマーゼ陰性肥満細胞」を、「TC肥満細胞」は「トリプターゼ陽性、キマーゼ陽性」を、「CTMC」は「結合組織肥満細胞」を、「MMC」は「小腸粘膜肥満細胞」を表す。また、下線は斜体を表す。 ア.(標題) 「総説 肥満細胞の不均一性」 イ.(第143頁左欄第15行~同頁右欄第3行) 「肥満細胞不均一性の概念が、健康及び疾患時における肥満細胞の、可能性のある役割の理解のために基本原理として浮上してきた。2つの型の肥満細胞が典型的に認識されており、これらはいずれも、アシアンブルー及びトルイジンブルーなどのカチオン性色素によって異染色性に染まる。これら2つの型の肥満細胞を区別するために使用される術後体系は、研究されている種、組織供給源又は生化学的特徴によって変化する(表1)。…… この総説は、まずげっ歯類系、次にヒトにおける、肥満細胞の不均一性の存在を示す証拠に注目していく。」 ウ.(第147頁左欄第7~13行) 「T肥満細胞(トリプターゼ陽性、キマーゼ陰性)及びTC肥満細胞(トリプターゼ陽性、キマーゼ陽性)と呼ばれる2つの型のヒト肥満細胞が、中性プロテアーゼ内容における差異に基づいて最近類型化された。これらはそれぞれ、げっ歯類のMMC及びCTMCと類似しているようである。」 エ.(第150頁左欄下から13行目~第151頁左欄第17行) 「機能的差異(表7) 種々の因子に応答したヒト肥満細胞の脱顆粒及び抗アレルギー薬による脱顆粒の阻害が、種々の解剖学的部位から得られた肥満細胞の分散された調製物において研究されてきた[77、 89-93]。…… 分泌促進物質に対する応答。包皮から単離された肥満細胞は、主にTC肥満細胞からなり(99%)、免疫学的因子(抗原及び抗IgE)並びに広範な非免疫学的因子(カルシウムイオノファA23187、……など)に応答して、ヒスタミンを放出する[81-91]。その一方、肺から単離された肥満細胞は、抗IgE及びカルシウムイオノファA23187によって活性化されるが、上に挙げたその他の因子の何れによっても活性化されない[91、92]。…… 薬理学的因子の効果。クロモグリク酸ナトリウムは、喘息、鼻炎及び結膜炎の治療に広く使用されている。その局所的効果は、肥満細胞の脱分極及びメディエーター放出の阻害に起因すると考えられている[95]。気管支肺胞洗浄によって回収された肥満細胞からのヒスタミン放出は、100μMの濃度のクロモグリク酸ナトリウムによって阻害された[70]。このような肥満細胞は、嚢胞性線維症を有する被験体[74](上記研究には含まれていない)を除いて、主にT肥満細胞からなることが示されている。10-5Mのクロモグリク酸ナトリウムによるヒトアデノイド肥満細胞(ほとんどT型)の前処理は、コンカナバリンA誘導性のヒスタミン放出を阻害する[93]。分散されたヒト肺肥満細胞調製物(90%がT肥満細胞)では、IgE依存性ヒスタミン放出のそれぞれ25%及び30%の阻害を生じるのに、高濃度のクロモグリク酸ナトリウム(1000μM)が必要であった。……。最後に、クロモグリク酸ナトリウムは、分散された腸MMCからの、IgE依存性のヒスタミン放出の20%阻害を引き起こした[97]。その一方、インビトロ抗原チャレンジ後のヒト皮膚からのヒスタミン放出は、クロモリンの添加も、ヒスタミン放出、肥満細胞の超微細構造変化及び好酸球の移入によって判断されるような、ブタクサ感受性個体における局所的注射に対する皮膚反応を阻害しなかった[100]。ヒト皮膚の肥満細胞は主にTC型であるので、TC肥満細胞ではなくT肥満細胞に対し、クロモグリク酸ナトリウムの弱いが差次的な阻害効果が存在するようであり、これは、CTMCは影響を受けるがMMCは受けないというげっ歯類における状況とは異なっている。」 (3)乙第3号証 乙3には、以下の事項が記載されている。原文は英文のため、日本語訳で記す。ただし、訳文中、「SCG」は、「クロモグリク酸ナトリウム(クロモリンナトリウム)」を表す。 ア.(標題) 「肥満細胞メディエーター放出の阻害は抗アレルギー薬の臨床的活性に関連しているか?」 イ.(第289頁左欄下から11行目~第290頁左欄第7行) 「SCG及びヒト肥満細胞 種間及び種内の両方で肥満細胞の明らかな不均一性が存在するため、ヒト肺肥満細胞へのSCGの作用は、ヒト喘息におけるその作用により関連性が高い。……。肺断片及び分散細胞の両方を使用して、ヒト肺肥満細胞へのSCGの阻害効果を評価するための実験が行われている。……。実験内の変動を低減させるために、分散したヒト肺肥満細胞におけるSCGの効果が評価されている。その結果(図2)は、ラット結合組織肥満細胞とは異なり、SCGがヒト肺肥満細胞からのIgE依存性ヒスタミン放出の弱い阻害剤に過ぎず、高い濃度が必要とされ、そして部分的な阻害しかもたらされないことを示す[18]。これは、サルブタモール(SCGよりも数千倍低い濃度において、ヒト肺肥満細胞からのIgE依存性ヒスタミン放出に対して良い保護を与える[18])などのβ-アドレナリン受容体刺激薬とは異なっている。」 ウ.(第291頁右欄第9行~同欄下から3行目) 「SCG様化合物の開発 SCG様化合物の開発は、治療上の失敗の悲話である。……。しかし本当に重要なのは、ヒト喘息の症状を予防又は低減する新薬の能力である。原稿執筆時点では、マーケティングに値する十分な抗喘息作用を有することが示されている薬物はない。 この時点で生じる重要な疑問は、なぜ我々は臨床効果を改善するのに失敗したか?ということである。成功した化合物の開発及びその作用のレトロスペクティブ分析のみが、答えをもたらすだろう。それまでは、我々は、いくつかの肯定的というよりむしろ否定的な示唆を推測及び提供することができるのみである。 最も可能性が高い答えは、喘息の動物モデルがSCG様薬物の開発にとって不適切であろうというものである。確かに、初期の研究は、喘息が肥満細胞メディエーターの放出が全ての症状の原因であるIgE介在疾患であるという過程の下に実施された。肥満細胞が均質集団であり、したがってラット肥満細胞における実験がヒト細胞における実験を予測するだろうとも考えられていた。後になって考えれば、我々は、これらの仮定の両方が間違いであることを知っている。肥満細胞の異型遺伝子性は、喘息が多因子の疾患であり、そのうちのいくつかの面のみがIgE依存性肥満細胞メディエーター放出を伴いうるものであるという概念と同様に、今や十分に確立されている。したがって、ラット肥満細胞の脱顆粒に基づく試験が抗喘息活性を予測しないこと[3]は、驚くことではない。」 第6 前審決取消判決(平成25年(行ケ)第10058号) (1)判示 前審決取消判決は、甲1を主引例とする進歩性欠如の無効理由が理由がないとした前審決の判断について、訂正後の本件発明の特定事項の容易想到性の判断に誤りがあるとして、前審決を取り消した。その要旨は以下のとおりである。 (1-1)本件特許の優先日当時の技術常識の認定 前審決取消判決の「第4 当裁判所の判断 3 取消事由3(甲1を主引例とする進歩性の判断の誤り)について (3)本件特許の優先日当時の技術常識について」の要旨は以下のとおりである。 (i)ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発に係る技術常識 抗アレルギー薬は、その作用機序によって、肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどの各種の化学伝達物質に対する拮抗作用を有する薬剤、それらの化学伝達物質の肥満細胞からの遊離抑制作用を有する薬剤の二つに大別され(甲30、甲31)、ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発においても、この二つの作用を確認することが一般的に行われていた(甲7、甲10、甲20、甲23、甲32等)。 ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において、ヒトのアレルギー性結膜炎に類似するモデルとしてラット、モルモットの動物結膜炎モデルが作成され、点眼効果等の薬剤の効果判定に用いられていた(甲13、甲18等)。 本願優先日当時販売されていたヒトにおける抗アレルギー点眼剤の添付文書(「薬効・薬理欄」)には、各有効成分がラット、モルモットの動物結膜炎モデルにおいて結膜炎抑制作用を示したことや、ラットの腹腔肥満細胞等からのヒスタミンなどの化学伝達物質の遊離抑制作用を示したことが記載されていた(甲7、甲10、甲23) (ii)肥満細胞の不均一性に係る技術常識 甲101~103(審判乙1~3)、甲127~129(審判乙27~29)等からみて、本件特許の優先日当時、薬剤による肥満細胞に対するヒスタミン遊離抑制作用は、肥満細胞の種又は組織が異なれば異なる場合があり、ある動物種のある組織の肥満細胞の実験結果から他の動物種の他の組織における肥満細胞の実験結果を必ずしも予測することができないというのが技術常識であったものと認められる。 (1-2)前審決取消判決の「第4 当裁判所の判断 3 取消事由3(甲1を主引例とする進歩性の判断の誤り)について (4)本件訂正発明1及び2の容易想到性の判断について」の要旨は、以下のとおりである。 甲1及び甲4に接した当業者は、甲1記載のアレルギー結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあり、その適用を試みる際に、KW-4679が、ヒト結膜肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有することを確認するとともに、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用を有することを確認する動機付けがあるというべきであるから、当業者は、KW-4679について、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用、すなわちヒト結膜肥満細胞安定化作用を有することを確認し、ヒト結膜肥満細胞安定化剤の用途に適用することを容易に想到することができたものと認められる。 したがって、本件訂正発明1及び2における「ヒト結膜肥満細胞安定化」という発明特定事項は、甲1及び甲4に記載のものからは動機付けられたものとはいえないとして、甲1を主引例とする進歩性欠如の原告主張の無効理由は理由がないとした本件審決の判断は、誤りである。 (2)拘束力 特許無効審判事件についての審決取消訴訟において、審決取消しの判決が確定した場合、審判官は特許法第181条第5項の規定に従い、当該審判事件について更に審理、審決をするが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受ける。よって、再度の審理、審決には、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、前審決を取消した判決の拘束力が及び、この拘束力は、判決主文が導き出せるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものである。 当該拘束力について検討すると、前審決を取消した判決で判示された、本件特許の優先日当時の技術常識の認定(上記(1-1))、及び、甲1及び甲4に接した当業者は、甲1記載のアレルギー結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤を「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」の用途に適用することを容易に想到することができたとする判断(上記(1-2))については、 前審決を取消した判決の拘束力が生ずるものというべきである。 第7 当審の判断 当審は、本件訂正発明1及び2の特許は、上記無効理由1~3によっては無効にすべきものであるとはいえない、と判断する。 1.無効理由1(新規性)について (1)無効理由1の要点 請求人が、主張する無効理由1の要点は、以下のとおりである。 なお、請求人は、平成24年10月15日提出の弁駁書においては、本件訂正発明に対する無効理由1には言及していないため、以下の要点は、審判請求書によるものであり、訂正前の本件特許発明に対するものとして記載された主張をまとめたものである。 ア.甲1の第603頁左欄第2行に「アレルギー性結膜炎の治療」と記載されており、本件特許発明1(当審注:本件訂正発明1の訂正前のもの)の「アレルギー性疾患を処置するための」との構成要件を具備する。 イ.甲1の第603頁中段に「KW-4679の点眼」と記載されており、本件特許発明1の「局所投与可能な眼科用組成物であって、」との構成要件を具備する。 ウ.甲1の第604頁右欄第10~11行に「KW-4679は10および100ng/μlの濃度で有意な抑制作用を示した」と記載されており、本件特許発明1の「治療的有効量の」との構成要件を具備する。 エ.甲1では、「KW-4679」と表記されているが、これは「Z-11-(ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸の塩酸塩」のことであることが当業者にとって自明である(甲2の1、甲2の2)から、本件特許発明1の「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、」との構成要件を具備する。 オ.甲1では、KW-4679が「10および100ng/μlの濃度で使用されており、組成物で使用されたことが自明であるから、本件特許発明1の「組成物。」との構成要件を具備する。 カ.したがって、本件特許発明1の構成要件の全てが甲1に記載されており、本件特許発明1は、甲1に記載された発明である。 キ.本件特許発明5(当審注:本件訂正発明2の訂正前のもの)は、「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、」との構成要件の幾何異性体をZ体(シス体)に限定した他は、本件特許発明1と同一であるが、KW-4679はZ体であることが自明である(甲2の1、甲2の2)から、甲1に記載された発明と同一である。 (2)判断 甲1には、モルモットに誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を検討した結果、KW-4679の点眼は、10および100ng/μlの濃度で、定量化された結膜炎症状に有意な抑制作用を示したことが記載されている(甲1の摘記ア、イ、エ~カ)。ここで、甲1に記載される「KW-4679」とは、甲2の1及び甲2の2によれば、(Z)-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸の塩酸塩(すなわち、化合物AのZ体の塩酸塩)である。 ところで、本件訂正発明1及び2は、いずれも「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」を発明特定事項として有している。 本件訂正明細書の第3頁第18~22行及び第4頁第21~24行の記載からみて、「肥満細胞安定化」とは、「肥満細胞からのオータコイド(すなわち、ヒスタミン、セロトニンなど)の放出を阻害し、ならびに標的細胞におけるヒスタミンの効果を直接阻害する」こと、又は「肥満細胞の脱顆粒の阻害」を伴うものである。 そして、本件訂正明細書に記載の実験では、各種化合物によるヒト結膜肥満細胞を安定化する作用について、ヒト結膜肥満細胞からヒスタミン放出を阻害する作用(阻害率)を比較することにより評価しているのであるから(本件訂正明細書の第8頁第21行~第9頁第7行、及び第10頁の表1)、本件訂正発明1及び2で結膜肥満細胞を「安定化」する作用とは、結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を阻害する作用を意味している。 これに対し、甲1には、モルモットの結膜を用いて「結膜からのヒスタミン遊離に対する作用」を測定した実験成績を根拠として、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)は「効果は有意ではなかった」と記載されている(甲1の摘記オ)。 また、甲1には、モルモットの結膜を用いて「涙液中のヒスタミン含量に対する作用」を測定した実験成績を根拠として、抗原適用15分前に点眼しておいた場合の抗原抗体反応による涙液中のヒスタミン含量の増加抑制に関して、KW-4679は「有意な効果を示さなかった」と記載されている(甲1の摘記オ及びク)。 さらに、甲1には、上記の実験成績からみてKW-4679は主として抗ヒスタミン作用により抗原抗体反応による結膜炎を抑制したと考えられること(甲1の摘記ケ)、抗原抗体反応による結膜からのヒスタミン遊離に対する効果を検討したところ、KW-4679は「無効であった」と評価されたこと(甲1の摘記コ)が記載されている。 このように、甲1には、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)は、モルモットの結膜からのヒスタミン遊離を阻害する作用、すなわちモルモットの結膜肥満細胞を安定化する作用を有しない化合物であることが記載されているが、ヒト結膜肥満細胞に対するKW-4679の作用について実験した結果は記載されていない。 ここで、上記「第6(1)(ii)肥満細胞の不均一性について」で指摘したように、前審決取消判決では、薬剤による肥満細胞に対するヒスタミン遊離抑制作用は、肥満細胞の種又は組織が異なれば異なる場合があり、ある動物種のある組織の肥満細胞の実験結果から他の動物種の他の組織における肥満細胞の実験結果を必ずしも予測することができないことは、本願優先日当時の技術常識であった旨が判示されている。 上記技術常識を参酌すると、甲1に記載のKW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)によるヒト結膜肥満細胞に対する作用を、甲1に記載のモルモット結膜肥満細胞に対する実験結果から具体的に予測できるとはいえない。 しかも、甲1の記載によると、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)はモルモットの結膜肥満細胞を安定化する作用を有しないのであるから、なおのこと、当業者が、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)はヒト結膜肥満細胞を安定化する作用を有すると予測することはできない。 以上のことから、甲1に、KW-4679を含有する「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」の発明が記載されているとすることはできない。 したがって、本件訂正発明1及び2は、いずれも甲1に記載された発明とはいえず、無効理由1には理由が無い。 2.無効理由2(甲1を主引例とする進歩性)について (1)無効理由2の要点 請求人が主張する無効理由2の要点は、以下のとおりである。なお、前審決の本件訂正発明1は、本審決の本件訂正発明1と同一の発明である。 ア.本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明(以下、平成24年10月15日提出の弁駁書にならい「甲1発明」という。)とは、「アレルギー性眼疾患(結膜炎)を処置するための局所投与(点眼)可能な眼科用組成物であって、治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する、組成物(剤)。」である点で一致し、次の相違点1~3で相違する。 <相違点1> アレルギー性眼疾患について、本件訂正発明1では「ヒトにおける」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。 <相違点2> 眼科用組成物(剤)について、本件訂正発明1では「眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。 <相違点3> 本件訂正発明1では「点眼剤として調製された」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。 イ.相違点1は、先の訂正において既に訂正されていた事項であり、先の審決で判断されているとおり、甲1発明をヒトにおけるアレルギー性眼疾患に適用することは当業者が容易になし得たことである。 ウ.相違点2は、「ヒト結膜肥満細胞安定化」の用語を追加しても、医薬用途の物の発明の技術的範囲に相違が生じないから、実質的な相違点ではない。また、相違点2の構成は、甲第4号証に基づいて当業者が容易に想到できたことである。さらに、相違点2の構成は、「抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー剤は、ヒスタミン遊離抑制作用も有するのが通常であった」との優先日当時の周知技術から当業者が容易に想到できたことである。 エ.相違点3については、点眼剤は、眼科領域における局所投与可能な製剤として通常に用いられる剤形であるから、単なる設計事項にすぎない。 オ.本件訂正発明1には、以下のとおり格別顕著な効果はない。 (ア)本件特許明細書の表1に係る実験手法は、本件特許発明に格別優れた効果があることを確認できるような実験手法ではない。 (イ)臨床試験では、化合物Aのヒスタミン遊離抑制効果はわずかしか認められなかった。 (ウ)甲第39号証は、本件特許の発明者の一人であるヤニ博士が筆頭著者になっている論文であり、オロパタジン(本件訂正発明1の化合物)とケトチフェン(甲1に記載のketotifen)のヒスタミン遊離抑制効果の実験結果が記載されている。甲第39号証に記載されている実験は、同証390頁23行~391頁4行(甲39の摘記イ)に記載されているとおり、本件特許明細書の表1に係る実験と同一条件による実験である。 そして、甲第39号証第394頁の図1の下のグラフ(甲39の摘記エ)には、オロパタジン及びケトチフェンのヒスタミン放出阻害率が記載されており、オロパタジンもケトチフェンもヒスタミン放出阻害率の最大値は約90%で相違しない。 したがって、本件特許明細書の表1に係る実験によって得られた「ヒスタミン放出阻害率90%」という結果は、本件特許優先日前に市販されていたケトチフェン(甲7)と同程度の効果に過ぎず、格別顕著な効果ではない。 被請求人は、「オロパタジンは、ケトチフェンに比べて、広い濃度範囲で効果がある」旨の主張をするかもしれない。しかし、そもそも本件特許明細書の表1に係る実験は、上述のとおり格別顕著な効果を確認できるような試験ではないから、主張の根拠がない。また、医薬品は、最適な用量を定めて投与されるものであり、最適な用量となるような濃度で点眼液は調製されて市販されているのであるから、医薬品としての効果は、最適用量における効果で比較すべきであり、「広い濃度範囲で効果がある」ことは格別顕著な効果ではない(平成24年10月15日提出の弁駁書30頁~31頁)。 なお、甲39は本件特許優先日後に頒布された刊行物であるが、ケトチフェンは本件特許優先日当時には点眼液として市販されていた医薬品であり(甲7)、甲39に記載されたケトチフェンのデータは、優先日当時に既に奏されていた従来技術の効果を確認したものである(平成28年5月16日提出の弁駁書8頁)。 カ.以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第4号証の記載及び周知技術を参照した当業者が、甲1発明に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。 キ.本件訂正発明2は、表現の相違があるものの、実質的には本件訂正発明1の化合物AをZ体(シス体)に限定した発明である。そして、KW-4679がZ体であることは本件特許優先日前から広く知られていた(甲2の1、甲2の2)から、本件訂正発明1の進歩性欠如の無効理由と同様である。 (2)判断 (2-1)相違点1及び2について 上記「第6(2)」で指摘した前審決取消判決による拘束力により、本件訂正発明1で「ヒトにおける」と特定されている点(相違点1)及び「眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」と特定されている点(相違点2)は、いずれも甲1及び甲4に接した当業者が容易に想到することができたものであるとされる。 (2-2)相違点3について 点眼剤は、眼科領域における局所投与可能な製剤として通常に用いられる剤形であるから、本件訂正発明1で「点眼剤として調製された」ことが特定されている点は、単なる設計事項にすぎない。 (2-3)本件訂正発明1により得られる効果について (2-3-1)本件訂正明細書(平成28年3月8日付け手続補正書に添付して提出されたもの)には、化合物Aによるヒト結膜肥満細胞安定化効果について、以下の記載がある。 (i)「化合物Aは、ヒト結膜肥満細胞安定化活性を有し、いくつかの場合において。1日1回または2回の数少ない頻度で適用され得る。」(訂正明細書第6頁下から4~3行) (ii)ヒト結膜から得られた肥満細胞における、抗アレルギー性の肥満細胞安定剤の阻害効果を示す表1から明らかなように、「抗アレルギー薬であるクロモグリク酸二ナトリウムおよびネドクロミルは、ヒト結膜肥満細胞脱顆粒を有意に阻害することができなかった。対照的に、化合物A(シス異性体)は、肥満細胞脱顆粒の濃度依存的な阻害を引き起こした。」(訂正明細書第7頁第13行~第9頁第7行) (iii)表1(訂正明細書第10頁) 「 」 (iv)「本発明の点眼剤を調製する一般的な方法を、以下に記載する。・・・化合物Aの濃度は、滅菌精製水に基づいて、0.0001から5w/v%、好ましくは0.001から0.2w/v%であり、そして最も好ましくは約0.1w/v%である。・・・上記方法によって生産された点眼剤は、代表的には、1度に1から数滴の量を、1日2、3回、眼に適用することだけを必要とする。しかし、より重篤な場合は、点眼薬は1日数回適用され得る。代表的な点眼量は約30μlである。」(訂正明細書第13頁下から7行~第14頁13行)) 本件訂正明細書の表1(摘記(iii))は、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミンの遊離の阻害率の比較により、ヒト結膜肥満細胞の安定化効果を比較した実験結果を示すものであり、表1に記載されたクロモリンナトリウム及びネドクロミルナトリウムは、本件特許の優先日当時、肥満細胞安定化作用を有する化合物として当業者に広く知られていた化合物である。 表1に示された実験結果のうち、抗ヒトIgE刺激の15分前にヒト結膜肥満細胞を上記各化合物で処理した後に得られたヒスタミン放出阻害率(「処理(分)」が「15」である欄の「阻害(%)」を参照。)を比較すると、クロモリンナトリウムでは用量10μMで阻害率は最大値10.6%に達するが、さらなる用量(濃度)上昇に伴い阻害率は低下し、用量100μM以上になると阻害率はマイナス値となりヒスタミン遊離を促進する現象が生じている。また、ネドクロミルナトリウムでは用量100μMで阻害率は最大値28.2%に達するが、さらなる用量(濃度)上昇に伴い阻害率は低下し、用量1000μMでは阻害率7.2%まで低下している。 これに対し、化合物Aでは用量300μMで29.6%、600μMで47.5%、1000μMで66.7%、2000μMで92.6%のように、2000μMという高用量(高濃度)に至るまで用量依存的にヒスタミン放出阻害率が上昇し、クロモリンナトリウムやネドクロミルナトリウムのようにヒスタミン放出阻害率の最大値に達した後、さらなる用量上昇に伴い、ヒスタミン放出阻害率が低下する現象は生じていない。 (2-3-2)甲1及び甲4に記載の、化合物Aによる効果 上記「1.無効理由1(新規性)について」で検討したように、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)には、「抗原抗体反応による結膜からのヒスタミン遊離に対する各薬物の効果を検討」したところ「KW-4679は無効であった」と記載されており(甲1の摘記コ)、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)には、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)がモルモットの結膜からのヒスタミン遊離を抑制しないこと、すなわち、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)は、モルモットの結膜肥満細胞を安定化する作用を有しないことが記載されている。 また、甲4に記載の「シス-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-酢酸」及び「 トランス-11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-酢酸」(甲4の摘記カ.第9頁右上欄 第1表の化合物番号20)は、ぞれぞれ本件特許発明1の化合物Aのシス異性体及びトランス異性体に相当する化合物である。そして、甲4には、これらの化合物がラットのPCA抑制作用を有し、当該PCA抑制作用は、ラットの皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられることが記載されている(甲4の摘記ク~コ)。 このように、甲1にはモルモットの結膜肥満細胞を用いた実験結果、甲4にはラットの皮膚肥満細胞を用いた実験結果が記載されているが、甲1及び甲4のいずれにも「ヒトの結膜肥満細胞」を用いた実験結果は記載されていない。 ここで、上記「第6(1)(ii)肥満細胞の不均一性について」で指摘したように、前審決取消判決では、薬剤による肥満細胞に対するヒスタミン遊離抑制作用は、肥満細胞の種又は組織が異なれば異なる場合があり、ある動物種のある組織の肥満細胞の実験結果から他の動物種の他の組織における肥満細胞の実験結果を必ずしも予測することができないことは、本願優先日当時の技術常識であった旨が判示されている。 上記技術常識を参酌すると、甲1に記載のモルモットの結膜肥満細胞を用いた実験結果、甲4に記載のラットの皮膚肥満細胞を用いた実験結果を根拠として、甲1のKW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)によるヒト結膜肥満細胞に対する作用を、当業者が具体的に予測できるとはいえない。 しかも、甲1の記載によると、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)はモルモットの結膜肥満細胞を安定化する作用を有しないのであるから、なおのこと、当業者が、KW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)がヒト結膜肥満細胞を安定化する作用を有すると予測することはできない。 また、甲4で用いられたラットの「皮膚」肥満細胞は、「結膜」とは異なる組織の肥満細胞であるし、甲4にはラットの皮膚肥満細胞または結膜肥満細胞を用いてヒスタミン遊離抑制作用を確認した実験結果は記載されていないのであるから、なおのこと、当業者が、甲4の「化合物番号20」の化合物(化合物Aのシス異性体及びトランス異性体)がヒト結膜肥満細胞を安定化する作用を有すると予測することはできない。 以上のように、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)及び甲4の記載に接した当業者が、本件訂正発明1の化合物が、ヒト結膜肥満細胞を安定化する作用をどの程度有するのかについて予測することはできない。 (2-3-3)甲39に記載の、ケトチフェン及びAL-4943A(化合物Aのシス異性体)による「ヒト結膜肥満細胞」に対するヒスタミン放出阻害率 甲39のヒト結膜肥満細胞に対するヒスタミン放出阻害率を調べる実験は、同証390頁23行~391頁4行(甲39の摘記イ)に記載されているとおり、本件特許明細書の表1に係る実験と同一条件による実験である。 甲39の394頁の図1のグラフB(甲39の摘記エ)には、AL-4943A(化合物Aのシス異性体)及びケトチフェン(甲1に記載のketotifen)のヒスタミン放出阻害率が記載されている。上記図1のグラフBによると、AL-4943A(化合物Aのシス異性体)の濃度(用量)が2000μM程度に至っても用量依存的に上昇し、さらに10000μMまで濃度が上昇しても90%程度の阻害率が維持されたこと、IC50値(阻害率が50%になる濃度)が559±277μMであったことを示す実験結果が記載されている(甲39の摘記ウ及びエ)。 そして、甲39に記載の「2000μM程度に至っても用量依存的に上昇」したという結果、及び「IC50値(阻害率が50%になる濃度)が559±277μMであった」という実験結果は、いずれも、本件訂正明細書の表1(上記(2-3-1)の摘記(iii))で、化合物Aによるヒト結膜肥満細胞のヒスタミン放出阻害率が2000μMに至るまで用量依存的に上昇したこと、及び600μMでのヒスタミン放出阻害率が47.5%であったことと、同等の実験結果である。 このように、甲39に記載されたAL-4943A(化合物Aのシス異性体)の2000μMに至るまでの実験結果(甲39の摘記エ)は、本件訂正明細書の表1に記載の実験結果と同等のものである。 一方、ケトチフェンは、本件特許優先日当時、アレルギー性結膜炎の治療用途で「ザジテン(R)点眼液0.05%」として市販されていた医薬品の有効成分であり、薬効薬理としてPCA(受動的皮膚アナフィラキシー)反応抑制作用、ヒスタミン等のケミカルメディエーターの遊離抑制作用等が知られていた(甲7の摘記ア~エ)。そして、甲32に、スギ花粉症患者の涙液中ヒスタミン量測定により、「0.05% ketotifen(HC)点眼液」は「placebo点眼液」と比較して有意なヒスタミン遊離抑制効果を奏し、このヒスタミン遊離抑制効果は、スギ抗原液によるアレルギー反応誘発後に生ずる肥満細胞からのヒスタミン遊離が抑制された結果であると考えられることが記載されている(甲32の摘記ア及びイ)。 そうすると、甲39に記載のケトチフェンによる実験結果(甲39の摘記ウ及びエ)は、本件特許優先日当時に公知であったケトチフェンによる有意なヒスタミン遊離抑制作用を、「ヒト結膜肥満細胞」を用いて確認したものにすぎない。 以上のことから、甲39は本件特許優先日後の1996年に頒布された刊行物であるが、甲39に記載の、ケトチフェン及びAL-4943A(化合物Aのシス異性体)による「ヒト結膜肥満細胞」に対するヒスタミン放出阻害率についての実験結果(摘記ウ及びエ)は、本件訂正発明1による効果の顕著性を判断するにあたって参酌すべき実験結果である。 (2-3-4)本件訂正発明1による効果の顕著性 上記「(2-3-2)」で指摘したように、当業者は、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)及び甲4の記載を根拠として、化合物Aによる「ヒト結膜肥満細胞」に対する安定化効果(ヒスタミン放出阻害率)の程度を具体的に予測することはできない。 本件訂正明細書の表1(摘記(iii))には、化合物Aによる「ヒト結膜肥満細胞」に対するヒスタミン放出阻害率は、2000μMという高用量(高濃度)に至るまで用量依存的に上昇し、ヒスタミン放出阻害率の最大値(2000μMで92.6%)は、対照薬物であるクロモリンナトリウムやネドクロミルナトリウムによる最大値(それぞれ10.6%、28.2%)と比較して著しく高い値であることが示されている。 甲1にはKW-4679(化合物AのZ体の塩酸塩)がモルモットの結膜肥満細胞を安定化する作用を有しないことが記載されているにもかかわらず、化合物Aが「ヒト結膜肥満細胞」に対してこのように非常に高いヒスタミン放出阻害率を有することは、当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。 一方、甲1には、KW-4679(化合物Aのシス異性体)と同様にketotifen(ケトチフェン)についても、モルモットの結膜からのヒスタミン遊離抑制効果は「無効であった」こと、すなわちケトチフェンはモルモットの結膜肥満細胞を安定化する作用を有しないことが記載されているが(甲1の摘記コ)、甲39の実験結果(甲39の摘記ウ及びエ)によると、ケトチフェンもAL-4943A(化合物Aのシス異性体)と同程度に「ヒト結膜肥満細胞」に対して著しく高い、最大値90%程度のヒスタミン放出阻害率を示している。 しかし、ケトチフェンでは、「ヒト結膜肥満細胞」に対して最大値のヒスタミン放出阻害率を奏する濃度(100μM程度)の3倍程度の濃度で、ヒスタミン放出阻害率が急激に低下してヒスタミンの深刻な遊離を引き起こすのに対し、AL-4943A(化合物Aのシス異性体)は、「ヒト結膜肥満細胞」に対して最大値のヒスタミン放出阻害率を奏する濃度(2000μM)の数倍高い濃度である10000μMに至っても、最大値のヒスタミン放出阻害率が低下せずに維持されている(甲39の摘記ウ及びエ)。 このように、甲1では、ケトチフェンとKW-4679(化合物Aのシス異性体)とは、モルモットの結膜からのヒスタミン遊離抑制効果がいずれも「無効であった」と同等に扱われていたにもかかわらず、「ヒト結膜肥満細胞」に対して、AL-4943A(化合物Aのシス異性体)は最大値のヒスタミン放出阻害率を奏する濃度の範囲がケトチフェンよりも非常に広いという実験結果を、当業者が予測できたとはいえない。 そして、本件訂正明細書には「上記方法によって生産された点眼剤は、代表的には、1度に1から数滴の量を、1日2、3回、眼に適用することだけを必要とする。しかし、より重篤な場合は、点眼薬は1日数回適用され得る。代表的な点眼量は約30μlである」(上記(2-3-1)の摘記(iv))と記載されており、上記記載は、化合物Aを点眼剤に適用した場合、1日2回という少ない点眼回数で有効な効果が得られるだけでなく、必要に応じて1日数回点眼して高用量を投与した場合でも、特段の支障なく有効なヒト結膜肥満細胞安定化効果が得られること、すなわち化合物Aは「医薬品としての高い有用性」を有することを意味している。 そうすると、甲39で示された「AL-4943A(化合物Aのシス異性体)は、最大値のヒスタミン放出阻害率を奏する濃度の範囲が非常に広い」という実験結果は、本件訂正明細書に記載の、化合物Aが「医薬品としての高い有用性」を有することに整合しており、しかも、当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。 以上のように、化合物Aは「ヒト結膜肥満細胞」に対して優れた安定化効果(高いヒスタミン放出阻害率)を有すること、また、AL-4943A(化合物Aのシス異性体)は最大値のヒスタミン放出阻害率を奏する濃度の範囲が非常に広いことは、いずれも甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であり、進歩性を判断するにあたり、甲1発明と比較した有利な効果として参酌すべきものである。 (3)請求人の主張について ア.請求人は、甲第1号証の考察の「KetotifenおよびKW-4679は無効であった。」との記載について、甲7を挙げて『フマル酸ケトチフェン点眼液は、甲第1号証発行日前にはヒスタミン遊離抑制効果のある点眼液であることが知られていたから、甲第1号証の記載を見た当業者は「ケトチフェンのヒスタミン遊離抑制効果が完全に無効であった」と解釈せず、ケトチフェンと並列に記載されたKW-4679についてもヒスタミン遊離抑制効果が完全に無効であったとは理解しない。』と主張する。同趣旨を甲32を根拠としても主張している。 しかし、前審決取消判決が認定した肥満細胞の不均一性に関する技術常識を踏まえれば(上記「第6」)、フマル酸ケトチフェンがヒスタミン遊離抑制作用を有するものであることを周知の事項として加味しても、KW-4679(化合物A)がヒト結膜肥満細胞に対して安定化効果を示すかどうかについて、当業者が具体的に予測できないというべきである。 イ.請求人は、本件訂正発明の効果に関し、『本件特許明細書の表1に係る実験手法は、本件特許発明に格別優れた効果があることを確認できるような実験手法ではない。』と主張し、その根拠として、甲26とともに『本件特許明細書のモデル実験では、化合物A(オロパタジン)はヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離を大きく抑制できることになっているが、臨床試験では、小さなヒスタミン遊離抑制効果しか認められなかった』こと、及び、甲33~甲38とともに、クロモリンとペミロラストカリウムについて『本件特許明細書に記載されたインビトロのモデル実験では効果が観測できなくても、ヒトの臨床試験では大きな効果が認められている』ことを挙げている。 しかし、請求人が指摘している甲26の摘記ウの第1文に続けて、同第2文が記載され、結局、「本薬(当審注:「塩酸オロパタジン」のこと。甲26の摘記ア参照。)を点眼した時、結膜肥満細胞のヒスタミンをはじめとする生理活性物質の遊離を抑制するとの申請者の回答を了承した。」という結論に達しているのであるから、甲26の記載をもとに化合物A(オロパタジン)は「臨床試験では、小さなヒスタミン遊離抑制効果しか認められなかった」としている請求人の主張には根拠がない。 また、クロモリンとペミロラストカリウムについて、本件特許明細書に記載されたインビトロのモデル実験では効果が観測できなくてもヒトの臨床試験では大きな効果が認められたことは、本件特許明細書に記載のインビトロの実験手法の条件は、ヒトの臨床試験に用いる化合物を選別するための非常に厳しいスクリーニング条件であると考えられる余地がある。そうすると、クロモリンとペミロラストカリウムでみられた結果は、『本件特許明細書の表1に係る実験手法は、本件特許発明に格別優れた効果があることを確認できるような実験手法ではない。』と結論づける根拠にはならない。 ウ.請求人は、『医薬品としての効果は、最適用量における効果で比較すべきであり、「広い濃度範囲で効果がある」ことは格別顕著な効果ではない。』と主張するが、上記「(2-3-4)」で指摘したように、「広い濃度範囲で効果がある」ことは、本件訂正明細書に記載のように化合物Aが「医薬品としての高い有用性」を有することと整合した、当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。 したがって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。 (4)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1に、さらに「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」という発明特定事項を有するものであるが、上記(2-3)で検討したように、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識から、化合物Aが 「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」ことを当業者が予測することは非常に困難であるから、本件訂正発明2を得ることが容易想到であるとはいえない。 そして、本件訂正発明2による効果は、本件訂正発明1と同様に、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識から当業者が予測できない格別顕著な効果であると認められる。 (5)小括 以上検討したように、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識からみて、本件訂正発明2の構成を得ることは容易想到であるとはいえない。また、本件訂正発明1及び2はいずれも、甲1発明と比較した有利な効果を奏するものである。 したがって、本件訂正発明1及び2はいずれも、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識からみて当業者が容易に発明できたものとはいえないのであるから、請求人が主張する無効理由2(甲1を主引例とする進歩性)は、理由がない。 4.無効理由3(甲3を主引例とする進歩性)について (1)無効理由3の要点 請求人が主張する無効理由3の要点は、以下のとおりである。 ア.本件訂正発明1と甲第3号証に記載された発明(以下、平成24年10月15日提出の弁駁書にならい「甲3発明」という。)とは、「ヒトにおけるアレルギー性眼疾患(結膜炎)を処置するための局所投与可能な、眼科用組成物(剤)であって、治療的有効量の特定のオキセピン誘導体を含む組成物(剤)」である点で一致し、次の相違点1~3で相違する。 <相違点1> 本件訂正発明1は、オキセピン誘導体が「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸」に限定されているのに対し、甲3発明では11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸を含む上位概念で表現されており、甲3発明の実施例では「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-カルボン酸」が例示されている点。 <相違点2> 本件訂正発明1では「眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」と特定されているのに対し、甲3発明ではそのような特定がない点。 <相違点3> 本件訂正発明1では「点眼剤として調製された」と特定されているのに対し、甲3発明では「眼科用液剤」としか特定されていない点。 イ.相違点1について 甲第4号証には、各種のジベンズ[b,e]オキセピン誘導体が抗アレルギー剤として用いられることが記載されており、化合物番号20として本件訂正発明1の化合物と同一の「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸」が記載され(摘記カ)、化合物番号3として甲3の製剤例に記載されている活性化合物と同一の「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-カルボン酸」が記載されている(摘記オ)。そして、甲4の第5表(摘記ケ)の記載から、化合物番号3のシス体と化合物番号20のシス体、あるいは化合物番号3のトランス体と化合物番号20のトランス体とを対比すると、抗アレルギー作用が、化合物番号20の方が同等ないしやや優れていることを窺い知ることができる。 したがって、甲第4号証を知る当業者が、甲第3号証の製剤例に記載された活性化合物(すなわち甲第4号証の化合物番号3)から甲4の化合物番号20(すなわち本件訂正発明1の化合物)に置き換えてみることは、容易になし得たことである。 また、本件訂正発明1の「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸」のZ体の塩酸塩は、本件特許の優先日前にKW-4679の略称で抗アレルギー薬として知られていた(甲第1号証、甲第2号証の1、2)から、甲第3号証の製剤例に記載された活性化合物「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-カルボン酸」を、公知の抗アレルギー薬である「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸」のZ体の塩酸塩に置き換えてみることは、当業者が容易になし得たことである。 さらに、甲第4号証及び甲第1号証を参酌すれば、当業者が、本件訂正発明1の「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸」を選択して、甲3発明の化合物と置き換えてみることは容易であった。 ウ.相違点2について 甲4に、オロパタジン(甲4の化合物番号20、化合物Aのシス異性体及びトランス異性体)はPCA抑制作用が陽性であること(甲4の14頁左上欄15~18行及び右下欄の第5表)、及び「PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ、」(甲4の15頁右上欄本文4~6行)と記載されている。甲4に具体的に記載されているのは、ラットの皮膚肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制であるものの、甲4に接した当業者であれば、オロパタジンがヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離を抑制する効果を有することを期待して、相違点2の「眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」とすることを容易に想到できた。 また、甲1の考察の「KetotifenおよびKW-4679は無効であった。」との記載は、「KetotifenおよびKW-4679は主としてこれらの薬物が有する抗ヒスタミン作用により抗原抗体反応による結膜炎を抑制したのではないか」(甲1の605頁右欄26~29行)との著者の考察を導くための記述に過ぎず、ケトチフェン及びKW-4679がヒスタミン遊離抑制作用を全く有さないことを示唆するものではないから、甲1の考察と甲4の「PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ」との推測は矛盾するものではない。 エ.相違点3について 点眼剤は、眼科領域における局所投与可能な製剤として通常に用いられる剤形であるから、単なる設計事項にすぎない。 オ.本件訂正発明2では、本件訂正発明1の「11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸」をZ体(シス異性体)に限定しているが、甲1のKW-4679がZ体であることは、本件特許優先日前から広く知られていた(甲2の1及び甲2の2)。 カ.効果については、上記「2.無効理由2(甲1を主引例とする進歩性)について」の「(1)オ」の項目と同じ。 キ.以上のとおり、本件訂正発明1、2は、甲第4号証及び甲第1号証(甲2の1及び甲2の2を参酌)、その他の公知技術を参酌して、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (2)判断 ア.相違点3について 点眼剤は、眼科領域における局所投与可能な製剤として通常に用いられる剤形であるから、本件訂正発明1で「点眼剤として調製された」ことが特定されている点は、単なる設計事項にすぎない。 イ.相違点1について 甲3には、マーカッシュ形式の式(I)で示される化合物、あるいはそれらの塩が記載されており、式(I)のR1にはCH2-O-が含まれ、R2およびR3には各々C1アルキルが含まれ、R4にはC1の2価の脂肪族炭化水素基で、芳香族環系に2位において結合するものが含まれることも記載されている(甲3の摘記ア)。また、当該式(I)で示される化合物について、抗アレルギー活性を有し、マスト細胞からのオータコイド(即ち、ヒスタミン、セロトニン等)の放出を阻害するものと信じられていること、及び、アレルギー性結膜炎等のアレルギー状態の症状制御のために使用しうることが記載され(甲3の摘記イ)、製剤について、眼内投与等に適当なものが挙げられている(甲3の摘記ウ)。 さらに、甲3には、具体的な化合物として、(E)/(Z)11-(3-(ジメチルアミノ)プロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ〔b,e〕オキセピン-2-カルボン酸を用いて、「アナフィラキシー様活性」の試験、すなわち、ラットにおいて、アナフィラキシー様作用誘導剤である化合物48/80の攻撃による呼吸困難の徴候を抑制するか否かについての試験をしたことが記載されるとともに(甲3の摘記オ)、製剤例として眼科用液剤としたものが記載されている(甲3の摘記カ)。 しかし、甲3には本件特許の化合物A(11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸)を用いた実験結果が記載されておらず、甲3には、甲3のマーカッシュ形式の式(I)で示される化合物あるいはそれらの塩の中から、相違点1の「本件訂正発明1の化合物」を選択して用いる動機づけが記載されているとはいえない。 また、甲3に記載の「アナフィラキシー様活性」の試験系は、ラットにおいてアナフィラキシー様作用誘導剤により誘導された呼吸困難の抑制を評価するものであり、ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン等のオータコイド遊離抑制効果、すなわちヒト結膜肥満細胞安定化効果を評価するものではない。 そして、甲3には「本化合物は、マスト細胞からのオータコイド(即ち、ヒスタミン、セロトニン等)の放出を阻害し、そしてヒスタミンの抗原-誘導産生を直接阻害するものと信じられる。」(甲3の摘記イ)との記載があるが、マスト細胞からのオータコイド放出を阻害する効果について具体的に確認した実験結果は示されていないのであるから、上記記載は推測を示したものにすぎず、甲3には、肥満細胞安定化効果について具体的に記載されていない。さらに、肥満細胞の不均一性についての本願優先日当時の技術常識(上記「第6(1)(1-1)(ii)」)を参酌すると、甲3に記載のラットを用いた「アナフィラキシー様活性」の試験系に基づく実験結果を根拠として、甲3に「ヒト結膜肥満細胞」に対する安定化効果が記載されているとはいえない。 そうすると、仮に、甲4の記載を参酌し、甲4の「化合物番号20(本件訂正発明1の化合物)」が、甲4の「化合物番号3(甲3の製剤例に記載された活性化合物)」よりも抗アレルギー作用が同等ないしやや優れていることを根拠として、甲3の製剤例に記載された活性化合物(甲4の化合物番号3)を、相違点1の「本件訂正発明1の化合物(甲4の化合物番号20)」に置き換えることが容易想到であるとしても、甲3に「ヒト結膜肥満細胞」に対する安定化効果が記載されていないのであるから、甲3発明を相違点2の「眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」とすることが容易であるとはいえない。 ウ.相違点2について 請求人は、「甲4に接した当業者であれば、オロパタジンがヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離を抑制する効果を有することを期待」する旨を主張するが、上記「2.無効理由2」の「(2-3-2)甲1及び甲4に記載の、化合物Aによる効果」で指摘したように、甲4の記載に接した当業者が、甲4の「化合物番号20」の化合物(本件訂正発明1の化合物)がヒト結膜肥満細胞を安定化する作用を有すると予測することはできないのであるから、甲4の記載を根拠として、甲3発明を相違点2の「眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」とすることが容易であるとはいえない。 なお、上記「2.無効理由2」の「(2-3-2)甲1及び甲4に記載の、化合物Aによる効果」で指摘したように、甲1の記載に接した当業者が、甲1のKW-4679(本件訂正発明1の化合物のZ体、甲2の1及び甲2の2を参酌)がヒト結膜肥満細胞を安定化する作用を有すると予測することはできないのであるから、 甲1の記載を根拠として、甲3発明を相違点2の「眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤」とすることが容易であるとはいえない。 仮に、甲4及び甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)の記載を参酌して、甲3のマーカッシュ形式の式(I)で示される化合物あるいはそれらの塩の中から、化合物Aを選択して用いて「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という用途に適用するに至る動機付けが否定されないとしても、上記「第2 無効理由2(甲1を主引例とする進歩性について)」で検討したように、本件訂正発明1及び2により奏される効果は、甲3、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識から当業者が予測できない格別顕著な効果であって、進歩性を判断するにあたり、甲3発明と比較した有利な効果として参酌すべきものである。 エ.以上のように、甲3、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識から、本件訂正発明1及び2を得ることが容易想到であるとはいえず、仮に容易想到であるとしても、本件訂正発明1及び2はいずれも、甲3発明と比較した有利な効果を奏するものである。 したがって、本件訂正発明1及び2はいずれも、甲3、甲1(甲2の1及び甲2の2を参酌)、甲4及び本件優先日当時の技術常識からみて、当業者が容易に発明できたものとはいえないのであるから、請求人が主張する無効理由3(甲3を主引例とする進歩性)は、理由がない。 第8 むすび 以上のとおり、本件訂正発明1及び2の特許は、無効理由1~3によっては無効にすべきものであるとはいえない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2011-800018

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