特許異議申立
2025-700846
焼成タイプのメーキャップ化粧料組成物及びその製造方法
- 審判番号
- 2025-700846
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-525948
- 登録番号
- 7637234
- 請求日
- 2025年08月27日
- 審決日
- 2025年10月14日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】コスマックス、インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】ファンファン チェン
- 【異議申立人代理人】弁理士法人IP CREW
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 保
- 審判官 阪野 誠司
- 審判官 宮田 透
- 分類
- P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K) / P1651.536-Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7637234号発明「焼成タイプのメーキャップ化粧料組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7637234号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7637234号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)2月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2020年11月16日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、令和7年2月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1~5について、令和7年8月27日に特許異議申立人 ファンファン チェン(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7637234号の請求項1~5の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という。また、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
(a)水溶性ゲル化剤を含む水相部、乳化剤、油相部及び粉体部を混合して混合物を製造する段階;
(b)前記混合物をモールド(mold)に充填して-60℃~-30℃で冷却させる段階;及び
(c)前記(b)段階後に前記モールドから離型させて凍結乾燥させる段階であって、前記凍結乾燥は、前記冷却が進行した温度と同じ温度で50~200Paの圧力を維持しながら行う、段階;を含む、凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性ゲル化剤は、組成物の全重量を基準にして0.001~10重量%含まれる、請求項1に記載の凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性ゲル化剤は、多糖類及び合成高分子からなる群から選ばれる一つ以上である、請求項1に記載の凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記多糖類は、ゲランガム(Gellan gum)、キサンタンガム(Xanthan gum)、寒天、カラギーナン(Carrageenan)、及びアルギン(Algin)のうち一つ以上を含む、請求項3に記載の凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記合成高分子は、ポリエステル(Polyester)、ポリアクリレート(Polyacrylate)、及びポリメタクリレート(PolyMethacrylate)を含む、請求項3に記載の凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法。」
第3 申立理由の概要及び証拠
1 申立理由の概要
申立人は、甲第1~5号証(以下「甲1」などという。)を提出し、本件特許は、以下の理由により、取り消されるべきものである旨主張している(特許異議申立書(以下「申立書」という。)の4~5頁)。
「
[図:0001429053000001.jpg]
」
上記記載、及び申立書の記載全体から、申立理由は、以下のとおりであると認められる(申立理由の番号は、当審合議体による。)。
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明、及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(明確性要件違反)
本件発明1~5は、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲1:特表2022-530455号公報
甲2:特開昭62-53914号公報
甲3:
[図:0001429053000002.jpg]
外 編著,凍結乾燥技術と設備,華中科技大学出版社,2005年6月,表紙、奥付、目次、14~16頁、199~200頁、205~207頁
甲4:
[図:0001429053000003.jpg]
外 編著,凍結乾燥技術と凍結乾燥機,化学工業出版社,2005年9月,表紙、奥付、目次、8~9頁
甲5:王偉,彫刻粉の調製工程検証実験報告書,2025年8月4日,1~8頁
第4 甲号証の記載事項
甲1~5には、それぞれ以下の記載がある(下線及び四角囲みは当審合議体による。「・・・」は摘記の省略を示す。)。
1 甲1
(甲1a)「【請求項1】
以下のステップ(1)から(5)を含む粉体の製造方法であって、
ステップ(1)において、粉末相を均一に混合して材料Aを得、天然多糖と適量の水を均一に混合した後、皮膚軟化保湿剤および乳化剤を加え、さらに均一に混合して材料Bを得、前記粉末相は、片状フィラー、球状フィラーおよび顔料を含み、
ステップ(2)において、前記材料Aと前記材料Bを均一に混合した後、防腐剤を加えて分散体を得、
ステップ(3)において、前記分散体を金型に充填し、
ステップ(4)において、前記分散体を所定低温に凍結した後、離型して半製品を得、
ステップ(5)において、前記半製品を乾燥して製品を得、
ステップ(5)において、凍結乾燥を採用し、具体的には、まず、前記半製品を冷凍乾燥機に入れ、低温下で引き続き凍結し、冷凍乾燥機の温度が共晶点よりも低く、そして、真空引きし、所定真空度に達した後、加熱して昇華乾燥することにより氷晶を除去し、最後に、昇華終了後、真空乾燥することにより結合水を除去することを特徴とする、粉体の製造方法。
・・・
【請求項3】
ステップ(1)において、前記天然多糖と水を50℃から95℃で混合し、
ステップ(3)において、前記所定高温は50℃から95℃であり、
ステップ(4)において、前記所定低温は5℃から-20℃であり
ステップ(5)において、前記製品中の水の重量百分率は5%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記冷凍乾燥機の温度は-10℃から-60℃であり、前記所定真空度は10Paから70Paであり、前記真空乾燥の温度は5℃から70℃、圧力は10Paから70Paであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記粉末相の重量部は30から60であり、前記天然多糖の重量部は0.1から5であり、前記皮膚軟化保湿剤の重量部は0.5から20であり、前記乳化剤の重量部は0から5であり、前記防腐剤の重量部は0.05から3であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記片状フィラーは、滑石粉末、雲母、カオリン、ラウロイルリシン、窒化ホウ素またはそれらの任意の組み合わせの混合物であり、
前記球状フィラーは、PMMA、ナイロン-12、ポリウレタンまたはHDI/トリメチロールヘキシルラクトン架橋ポリマー、珪石またはそれらの任意の組み合わせの混合物であり、
前記顔料は、無機顔料、有機顔料、真珠光沢顔料またはそれらの任意の組み合わせの混合物であり、
前記無機顔料には、二酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、マンガン紫、ウルトラマリンブルー、必要に応じて水和酸化クロム、アイアンブルーが含まれ、
前記有機顔料には、カーマイン、赤6、赤7、青1、黄5、赤28レーキ顔料が含まれ、
前記真珠光沢顔料には、白色真珠光沢顔料、カラーもしくは染色真珠光沢顔料、有機もしくは無機顔料を含む雲母、ガラス、合成フルオロフロゴパイト材質を含む染色真珠光沢顔料、および金属酸化物を含む真珠光沢顔料が含まれ、
前記天然多糖は、セルロースおよびその誘導体、キサンタンガム、コンドラス・クリスパス、寒天、アラビアガム、澱粉およびその誘導体、カードラン、ゼラチン、ジェランガム、こんにゃくポリマンノース、マンニトール、キシランまたはそれらの任意の組み合わせの混合物であり、
前記皮膚軟化保湿剤は、油脂、ポリオールまたはそれらの組成物であり、
前記油脂には、植物、鉱物、動物または合成由来のオイルまたはワックス、グレープシードオイル、メドウフォーム油、水素化植物油、アボカドオイル、シアバター、白油、エチルヘキサン酸セテアリル、スクワラン、ステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシル、プロピレングリコールカーボネート、ピバリン酸イソデシル、ポリジメチルシロキサン、蜜蝋、ホワイトワックスが含まれ、
前記ポリオールには、グリセリン、ブタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが含まれ、
前記乳化剤は、PEG-26-PPG-30リン酸エステル、トゥイーン20、トゥイーン80、トゥイーン60、アルキルグリコシド、オレイン酸ポリオキシエチレン、ラウリン酸ポリオキシエチレン、グリセリンクエン酸ステアレートまたはそれらの任意の組み合わせの混合物であり、
前記防腐剤は、クロルフェネシン、メチルパラベン、フェノキシエタノール、エチルヘキシルグリセロール、オクチルグリコールまたはそれらの任意の組み合わせの混合物であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。」
(甲1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品の製造方法、特に粉体の製造方法に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の上記欠陥に対して、本発明は、離型が容易で、製品表面が立体的で滑らかである粉体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
・・・
【0007】
ステップ(1)において、前記天然多糖と水を50℃から95℃で混合する。
ステップ(3)において、前記分散体を室温、0.2barから1barの圧力で注入することにより金型に充填してもよく、または前記分散体を所定高温に加熱してから金型に充填してもよい。前記所定高温は50℃から95℃である。
ステップ(4)において、前記所定低温は5℃から-20℃である。ある実施形態において、前記所定低温は0℃から-20℃である。離型前の低温、特に凍結より、損傷のない完全なものをスムーズに得ることができる。
【0008】
本発明の方法において、乾燥ステップの前に離型を実行することにより、本発明方法は容易に実施できる。
ステップ(5)において、前記製品中の水の重量百分率は5%以下である。
【0009】
ステップ(5)において、凍結乾燥を採用し、具体的には、まず、前記半製品を冷凍乾燥機に入れ、低温下で引き続き凍結し、冷凍乾燥機の温度が共晶点よりも低く、そして、真空引きし、所定真空度に達した後、加熱して昇華乾燥することにより氷晶を除去し、最後に、昇華終了後、真空乾燥することにより結合水を除去する。熱乾燥に比べて、凍結乾燥は、製品の収縮や金型へ付着を引き起こすことがない。
・・・
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る粉体の製造方法では、天然多糖および皮膚軟化保湿剤により粘着性が向上し、離型が容易になり、製品表面が立体的で滑らかであり、様々な立体的形状に製造されやすく、離型された後、次の操作には金型が要らなくなり、プロセスが簡単で、操作が容易である。」
(甲1c)「【0025】
本発明に係る粉体の製造方法は、以下のステップを含む。
ステップa:粉末相を均一に混合して材料Aを得、天然多糖と適量の水を均一に混合した後、皮膚軟化保湿剤および乳化剤を加え、さらに均一に混合して材料Bを得る。上記粉末相には、片状フィラー、球状フィラーおよび顔料が含まれる。十分な混合のために、上記天然多糖と水を50℃から95℃で混合する。
ステップb:上記材料Aと上記材料Bを均一に混合した後、防腐剤を加え、分散体を得る。
ステップc:良好な流動性を得るために、上記分散体を所定高温に加熱し、その後、金型に注入する。上記所定高温は50℃から95℃である。上記金型はTPR、TPE、シリカゲル、シリコーンゴムまたはゴムなどの軟質材質で作製される。
ステップd:上記分散体を所定低温に凍結した後、離型し、半製品を得る。上記所定低温は5℃から-20℃である。一実施形態において、上記所定低温は0℃から-20℃である。
ステップe:上記半製品を乾燥し、製品、即ち粉体を得る。上記製品中の水の重量百分率は5以下である。
【0026】
ステップeにおいて、凍結乾燥を採用する。
まず、上記半製品を冷凍乾燥機に入れ、低温下で引き続き凍結する。上記冷凍乾燥機の温度は-10℃から-60℃である。そして、真空引きし、真空度が所定真空度に達した後、適切に加熱(温度が共融点を超えてはならない)して昇華乾燥し、氷晶を除去する。上記所定真空度は10Pa-70Paである。最後に、昇華終了後、さらに真空乾燥して結合水を除去する。真空乾燥の温度は5℃から70℃、圧力は10Paから70Paである。
・・・
【0042】
<実施例4>
以下の組成物を用いて化粧品粉末を製造するための方法の異なるパラメーターの影響を分析する。
表4-1:実施例4の粉体の組成
【表4-1】
[図:0001429053000004.jpg]
【0043】
離型温度の影響
同じ内容物を同じ金型に充填し、サンプルに対する冷却離型と凍結離型の影響を観察した結果として、凍結離型の効果が優れており、すべてのサンプルの表面が滑らかで、損傷することなく完全であることが分かる。しかし、冷却離型サンプルの表面が損傷しているか、サンプルが形成されていないため、製品を冷却離型することができないという結論が得られる。これは、凍結離型の効果は冷却離型の効果よりも明らかに優れていることを示している(表4-2を参照)。
【0044】
表4-2:離型温度の影響
【表4-2】
[図:0001429053000005.jpg]
【0045】
乾燥条件の影響
室温、55℃オーブンおよび凍結乾燥の3つの異なる乾燥方法を用いて、サンプルに対する異なる乾燥条件の影響を比較する。冷却離型サンプルの表面が損傷しているため、サンプルを室温55℃のオーブンで乾燥させた後に離型する方法を採用する。凍結乾燥には凍結離型法を採用し、その後サンプルを凍結乾燥し、異なる乾燥条件を比較することでサンプルの状態を得る。
【0046】
室温で乾燥したサンプルの80%以上は離型できない。これらのサンプルが離型できない主な理由は、サンプルが金型に付着し、サンプル表面が破壊されるためである。サンプルの明らかな収縮率は60%以上であり、サンプルの良品率は0である。
【0047】
55℃で乾燥したサンプルでは、55%以上は離型できない。これらのサンプルが離型できない主な理由は、サンプルが金型に付着し、サンプル表面が破壊されるためである。サンプルの明らかな収縮率は60%以上であり、サンプルの良品率は40%である。
【0048】
真空凍結乾燥サンプルでは、表面が完全で顕著な収縮がなく、サンプルの良品率は85%以上であり、他のサンプルは、表面だけがわずかに粗い。一般的なサンプルの良い率は95%以上である。詳細は、表4-1を参照されたい。
【0049】
表4-3:合格サンプル、離型損傷があるサンプル、収縮したサンプル及びわずかに粗い表面を有するサンプルを図1-4に示す。
【表4-3】
[図:0001429053000006.jpg]
」
2 甲2
(甲2a)「
[図:0001429053000007.jpg]
」(特許請求の範囲)
(甲2b)「
[図:0001429053000008.jpg]
」(2頁左上欄12~18行)
(甲2c)「
[図:0001429053000009.jpg]
」(2頁右上欄5行~左下欄13行)
(甲2d)「
[図:0001429053000010.jpg]
」(2頁左下欄14行~右下欄3行)
(甲2e)「
[図:0001429053000011.jpg]
」(3頁左上欄8行~右上欄9行)
3 甲3(訳文で示す。)
(甲3a)「同様に、冷却及び凍結プロセスにおける溶液製品には一連の共晶温度があり、最も低い共晶点温度の温度は共晶点温度の溶液と呼ばれる。
・・・
溶液の結晶化は、溶液自体の性質に加えて、結晶粒子の数とサイズだけでなく、核生成速度と結晶成長速度、そしてこれら両方と冷却速度及び温度変化にも左右される。一般的に言えば、冷却速度が速いほど、サブクール温度が低いほど、形成される核の数が多くなり、結晶は凍結するまでに成長できず、この時点で形成される粒子の数が多いほど、粒子は細かくなる。逆に、粒子の数が少ないほど、粒子は大きくなる。」(14頁下から4行~15頁下から3行)
(甲3b)「I.凍結速度の調整
凍結速度が速いと、氷結晶が小さくなり、製品の外観は良好になる。しかしながら、乾燥中の乾燥層の物質移動抵抗が大きくなり、昇華が遅くなる。・・・予冷温度が低いほど、凍結速度が速くなる。」(199頁下から3行~200頁9行)
(甲3c)表1-2に、ゼラチン2%とグルコース10%の溶液の共晶点温度が-32℃、一般的な生物学的製品の共晶温度が-30℃、グリセロール水溶液の共晶点温度が-46.5℃であることが記載されている。(15頁)
4 甲4(訳文で示す。)
(甲4a)「第2章 凍結乾燥の基本プロセス
凍結乾燥操作には、凍結(予備凍結とも呼ばれる)、昇華(一次乾燥とも呼ばれる)、脱着乾燥(二次乾燥とも呼ばれる)という3つの基本プロセスが含まれる。
・・・
この頻繁に発生する過冷却現象を克服するには、製品を共晶点未満の温度範囲まで冷却し、溶質と溶媒が完全に結晶化するのに十分な時間維持する必要がある。一般的な製品の共晶点は-30℃~-20℃と考えられており、バッチ全体を完全に凍結させるには、通常、製品を-40℃~-35℃に凍結させ、1~2時間その温度に維持する必要がある。」(8頁1~20行)
5 甲5(訳文で示す。)
(甲5a)「彫刻粉の調製工程検証実験報告書
1.実験目的
異なる条件(異なる凍結温度、異なる乾燥条件など)が粉末の表面効果に与える影響を検証した。
2.実験原理
本実験では、水を溶媒として粉末の他の成分を水に分散又は溶解させた。次に、凍結固化により粉末ブロックの凝集力を高め、凍結後に粉末ブロックを脱型する。その後、凍結乾燥により氷を直接水蒸気に変えて除去し、乾燥させる。
3.実験材料と器具
材料:水、グリセロール、Tween 80、C12-20 酸 PEG-8 エステル、キサンタンガム、カラギーニン、ステアリン酸オクチルドデカノール、スクワラン、マイカ、CI 77891、CI 77491、CI 75470、シリカ、カプロン酸セテアリルアルコールエチル、シリコンモールド、ビーカー、温度計、手袋。
真空凍結乾燥機(LGJ-G)、電気攪拌機(IKA Eurostar 60 Control)、ウォーターバスポット(HH-2)、振動台(ZD-GP-Z)、冷蔵庫(bcd-632WPNE)。
4.JP7637234B2 、KR102534284B1、US20230285265A1、CN114504510A の実施例1に開示された調製工程と、凍結脱型温度の選択による粉末表面造形への影響の比較実験を検証する。
4.1 実験方法
[図:0001429053000012.jpg]
[図:0001429053000013.jpg]
4.2 分散材料プロセス
(1)A相部とB相部を75℃で混合し、予備分散後、700r/minで攪拌し、15分間均一に攪拌する。
(2)C相部をゆっくり添加し、乳化し、700r/minで10分間撹拌する。D相部を添加し、4000r/minの撹拌速度で10分間均質化する。
(3)95℃まで加熱、自然脱泡、30℃まで冷却、スラリー状態で充填、55℃まで加熱、金型に充填、冷却、脱型、真空状態で凍結乾燥。
4.3 プロセス検証
実験1:
(1)A相部とB相部を75℃で混合し、予備分散後、700r/minで攪拌し、15分間均一に攪拌する。
(2)C相部をゆっくり加え、乳化し、700r/minで10分間攪拌する。D相部を加え、4000r/minの攪拌速度で10分間均質化する。
(3)95℃まで加熱し、自然脱泡し、30℃まで冷却し、スラリー状態で充填し、55℃まで加熱し、金型に充填し、冷却して脱型し、-30℃で60分間冷却し、真空状態で凍結乾燥する。凍結乾燥温度は-30℃であり、真空度は54paであり、凍結乾燥時間は 40時間である。
実験2:
(1)A相部とB相部を75℃で混合し、予備分散後、700r/minで攪拌し、15分間攪拌し、均一に攪拌する。
(2)C相部をゆっくり加え、乳化し、700r/minで10分間攪拌する。D相部を加え、4000r/minの攪拌速度で10分間均質化する。
(3)95℃まで加熱し、自然に脱泡し、30℃まで冷却し、スラリー状態で充填し、55℃まで加熱し、金型に充填し、冷却して脱型し、-20℃で60分間冷却し、真空状態で凍結乾燥する。凍結乾燥温度は-30℃であり、真空度は54paであり、凍結乾燥時間は40時間である。
実験3:
(1)A相部とB相部を75℃で混合し、予備分散後、700r/minで攪拌し、15分間攪拌し、均一に攪拌する。
(2)C相部をゆっくり加え、乳化し、700r/minで10分間攪拌;D相部を加え、4000r/minの攪拌速度で10分間均質化する。
(3)95℃に加熱、自然脱泡、30℃に冷却、スラリー状態で充填、55℃に加熱、金型に充填、冷却、脱型、-20℃で60分冷却、-45℃、真空度54paの真空状態で 72時間凍結乾燥。
4.4 実験サンプルの比較結果
4.4.1 実験1の比較結果
実験グループ1では、脱型前に-30℃で60分間冷却し、-30℃で40時間凍結乾燥する条件で、図1に示すように、得られた粉末は完全に脱型され、粉末表面は平滑で、全ての粉末の表面に適度な不規則な氷粒が見られた。
[図:0001429053000014.jpg]
図1 No.1 実験グループ製造粉末
4.4.2 実験2の比較結果
実験2群では、脱型前に-20℃で60分間冷却し、脱型後に-30℃で40時間凍結乾燥する条件で、得られた粉末は図2に示すように、完全脱型され、表面は平滑であり、全ての粉末表面に中程度の不規則な氷粒が見られた。
[図:0001429053000015.jpg]
図2 実験グループで得られた粉末
4.4.3 実験3の比較結果
実験グループ3では、脱型前冷却温度-20℃、60分、脱型後凍結乾燥温度-45℃、72時間の条件で、得られた粉末は図3のようになり、粉末は完全に脱型され平滑であり、粉末表面の40%にわずかに氷粒が見られる。
[図:0001429053000016.jpg]
図3 実験グループ3で得られた粉末
4.5.実験結果のまとめ
歩留率は、パウダーブロックの表面の完全性と表面の氷粒のひどさを目視で観察し、表面の完全性は適格、表面の明らかな欠陥は不適格と判定し、表面の氷粒は軽度又は不適格と判定し、表面の氷粒は中度または重度で不適格と判定する。
歩留率=適格粉末量/全粉末量。
[図:0001429053000017.jpg]
6.実験結論の分析
乾燥したサンプルを観察すると、全てのパウダーブロックは良好に脱型されており、これは現在の実験条件がグリーンボディの強度を維持するのに十分であり、パウダーブロックが完成していることを示している。
同じ凍結乾燥時間と温度の下で、実験グループ1と実験グループ2の完成品の表面は滑らかであるが、A粉末表面の約60%を占める不規則な氷粒があり、その程度は中程度である。脱型前の冷却温度が-30℃の場合と比較すると、脱型前の冷却温度が-20℃の場合は、冷却効果に大差がなく、氷線が深刻であり、脱型温度が粉体表面効果に影響しないことがわかる。
実験グループ1と実験グループ2に比べ、実験グループの3相は表面の氷線が大幅に減少し、完成品の表面はより滑らかである。凍結乾燥温度の低下に伴い、パウダーブロック表面の不規則な氷粒はパウダー表面の約 5%を占め、良品と判断される。」
第5 判断
1 申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)
(1)申立理由1及び申立理由2は、甲1(特表2022-530455号公報)を引用文献として、本件発明が新規性及び進歩性を有さないとするものであるが、甲1の公表日は、令和4年6月29日(2022.6.29)であり、本件特許の出願日である令和3年2月25日(2021.2.25)の後である。
そうしてみれば、甲1は、本件発明の新規性及び進歩性の有無を判断するための引用文献とはなり得ない。
したがって、甲1に基づく申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)は、理由がない。
(2)甲1に対応する国際公開として、甲1と同じ内容が記載された国際公開2020/216138号があり、この文献の国際公開日は、令和2年10月29日(2020.10.29)であり、本件特許の優先日より前である。
以下では、念のため、国際公開2020/216138号を引用文献として、本件発明の新規性及び進歩性の判断を行う。
便宜上、国際公開2020/216138号を「甲1」とよび、第4で摘記した事項は、その訳文として取り扱う。
2 国際公開2020/216138号に基づく新規性・進歩性欠如
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、「離型が容易で、製品表面が立体的で滑らかである粉体の製造方法」であって(甲1bの【0005】)、
「以下のステップ(1)から(5)を含む粉体の製造方法であって、
ステップ(1)において、粉末相を均一に混合して材料Aを得、天然多糖と適量の水を均一に混合した後、皮膚軟化保湿剤および乳化剤を加え、さらに均一に混合して材料Bを得、前記粉末相は、片状フィラー、球状フィラーおよび顔料を含み、
ステップ(2)において、前記材料Aと前記材料Bを均一に混合した後、防腐剤を加えて分散体を得、
ステップ(3)において、前記分散体を金型に充填し、
ステップ(4)において、前記分散体を所定低温に凍結した後、離型して半製品を得、
ステップ(5)において、前記半製品を乾燥して製品を得、
ステップ(5)において、凍結乾燥を採用し、具体的には、まず、前記半製品を冷凍乾燥機に入れ、低温下で引き続き凍結し、冷凍乾燥機の温度が共晶点よりも低く、そして、真空引きし、所定真空度に達した後、加熱して昇華乾燥することにより氷晶を除去し、最後に、昇華終了後、真空乾燥することにより結合水を除去することを特徴とする、粉体の製造方法」が記載されている(甲1aの請求項1)。
イ 実施例には、上記製造方法を実際に行ったことが示され、特に、実施例4には、【表4-1】の組成を有する組成物を用いて化粧品粉末を製造する方法が記載され(甲1cの【0042】~【0049】)、上記組成物を金型に充填し、-15℃で凍結離型後、凍結乾燥を行ったことが記載されている。
ここで、【表4-1】の各成分の量の合計の100重量部にならないところ、甲1に記載された方法は、「天然多糖と適量の水を均一に混合」され、「分散体」が得られていることから(甲1aの請求項1)、残部は、水であると認められる。
ウ これらの記載から、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「以下の表の組成を有する組成物を金型に充填し、-15℃で凍結離型後、凍結乾燥を行う、粉体の製造方法。
[図:0001429053000018.jpg]
上記表において、残部は、水が含まれる。」
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「粉体」は、「化粧品」であり(甲1bの【0001】)、凍結乾燥によって製造されるから、甲1発明の「粉体の製造方法」は、本件発明1の「凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法」に相当する。
(イ)甲1発明の「粉末相」である「雲母」、「PMMA」及び「真珠光沢顔料」は、本件発明1の「粉体部」に相当する。
(ウ)甲1発明の「コンドラス・クリスパス」及び「キサンタンガム」は、「天然多糖」であり(甲1aの請求項6)、本件発明1の「水溶性ゲル化剤」に相当する。
(エ)甲1発明の「グリセリン」及び「エチルヘキシルグリセロール」は、水溶性の成分であり(甲1aの請求項6)、「天然多糖」及びそれに混合される「適量の水」と合わせて、本件発明1の「水相部」に相当する。
(オ)甲1発明の「スクワラン」及び「水素化植物油」は、本件発明1の「油相部」に相当する(甲1aの請求項6)。また、水に溶けにくい成分である「メチルパラベン」も本件発明1の「油相部」に相当する。
(カ)甲1発明の「トゥイーン80」及び「PEG-26-PPG-30リン酸エステル」は、本件発明1の「乳化剤」に相当する(甲1aの請求項6)。
(キ)甲1発明は、これらの成分を混合して分散体とした組成物を用いるから(甲1aの請求項1)、本件発明1の「(a)水溶性ゲル化剤を含む水相部、乳化剤、油相部及び粉体部を混合して混合物を製造する段階」を含むといえる。
(ク)甲1発明は、上記組成物を金型に充填し、-15℃で凍結離型後、凍結乾燥を行うから、本件発明1の「(b)前記混合物をモールド(mold)に充填して」「冷却させる段階」及び「(c)前記(b)段階後に前記モールドから離型させて凍結乾燥させる段階」を含むといえる。
(ケ)そうしてみれば、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「(a)水溶性ゲル化剤を含む水相部、乳化剤、油相部及び粉体部を混合して混合物を製造する段階;
(b)前記混合物をモールド(mold)に充填して冷却させる段階;及び
(c)前記(b)段階後に前記モールドから離型させて凍結乾燥させる段階;
を含む、凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法。」
<相違点>
(相違点1)
(b)の混合物を冷却させる段階において、本件発明1は、「-60℃~-30℃」で冷却させるのに対し、甲1発明は、「-15℃」で冷却させる点
(相違点2)
(c)の凍結乾燥の段階において、本件発明1は、「冷却が進行した温度と同じ温度で50~200Paの圧力を維持しながら行う」のに対して、甲1発明は、凍結乾燥の温度及び圧力の条件が明らかでない点
イ 判断
(ア)新規性について
a 相違点1について
(a)甲1発明において、本件発明1の「(b)前記混合物をモールド(mold)に充填して」「冷却させる段階」及び「(c)前記(b)段階後に前記モールドから離型させ」る工程に相当する工程は、甲1aに記載の製法の「ステップ(4)」、すなわち、「分散体を所定低温に凍結した後、離型して半製品を得」る工程である。
(b)甲1には、「ステップ(4)において、前記所定低温は5℃から-20℃であ」ると記載されており(甲1aの請求項3)、本件発明1の「-60℃~-30℃」と重複する範囲はないから、凍結離型の温度についての相違点は、両発明の実質的な相違点である。
b 相違点2について
(a)甲1発明において、本件発明1の(c)の「凍結乾燥」の工程に相当する工程は、甲1aに記載の製法の「ステップ(5)」、すなわち、「半製品を冷凍乾燥機に入れ、低温下で引き続き凍結し、冷凍乾燥機の温度が共晶点よりも低く、そして、真空引きし、所定真空度に達した後、加熱して昇華乾燥することにより氷晶を除去し、最後に、昇華終了後、真空乾燥することにより結合水を除去する」工程である。
また、甲1には、「冷凍乾燥機の温度は-10℃から-60℃であり、前記所定真空度は10Paから70Pa」であることが記載されている(甲1aの請求項4)。
(b)甲1発明は、「-15℃で凍結離型後、凍結乾燥を行う」ところ、上記甲1の記載から、冷凍乾燥機の温度は、「-10℃から-60℃」の範囲で行うことができる。一方、本件発明1の凍結乾燥の温度は、「冷却が進行した温度と同じ温度」、すなわち、「-60℃~-30℃」であり、甲1の冷凍乾燥機の温度と同一範囲を含む。
しかしながら、甲1発明において、凍結乾燥の温度を、例えば-30℃で行おうとすれば、凍結離型した-15℃から更に冷却する必要があり、「冷却が進行した温度と同じ温度」にはならない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点である。
c 小括
以上のとおり、相違点1及び2は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。
(イ)進歩性について
a 相違点1について
(a)甲1には、「ステップ(4)において、前記所定低温は5℃から-20℃であ」ると記載されているところ(甲1aの請求項3)、この温度条件は、本件発明1の「-60℃~-30℃」と重複する範囲ではない。また、甲1には、-20℃より更に低温に冷却することについて、記載も示唆もない。
(b)甲2には、「短時間で複雑な形状を有する成形物を正確に成形でき、しかも優れた使用性を有する固形粉末化粧料をうることができる製法」が記載され(甲2b)、「粉末原料、水溶性高分子化合物および水を調合し、充分に混合したものを成形型に充填する。充填後、該成形型を凍結乾燥機内に入れ、常温から-40℃以下に急冷する。・・・つぎに凍結乾燥機の棚温を上昇させつつ、真空乾燥を行うことにより、目的とする固型粉末化粧料がえられる」と記載されている(甲2d)。また、実施例には、水溶性高分子化合物を含む粉末化粧料のスラリーを「成形型に充填し、あらかじめ、-30℃に冷却しておいた凍結乾燥機・・・内に成形型ごと移し、-40℃に急冷凍結させた。1.5時間予備凍結させたのち、凍結乾燥機の棚温を30℃に制御しながら12時間真空乾燥させたのち、えられた成形品を型から取り出した。」と記載されている(甲2e)。
以上のように、甲2には、成形型に充填された粉末原料等を含む混合物を、凍結乾燥機内で-40℃に急冷することが記載されているが、甲2に記載の方法は、凍結乾燥前に離型する方法ではなく、したがって、甲2には、凍結乾燥前に行う離型の前の冷却の温度をどのようにするかについては記載されていないから、甲2をみても、甲1発明において、金型に充填した離型前の混合物の冷却温度を、「-15℃」から「-60℃~-30℃」とする動機付けはない。
(c)甲3には、凍結乾燥について、凍結速度が速いと氷結晶が小さくなり、予冷温度が低いほど、凍結速度が速くなることが記載され、甲4には、凍結乾燥における凍結を共晶点より低い温度で行うことが望ましいことが記載されているが、甲3及び甲4で記載されているのは、凍結乾燥の際の温度についてであり、凍結乾燥工程の前の凍結離型の際の温度についてではない。
そうすると、甲3及び甲4をみても、甲1発明において、離型する前の冷却温度を、「-15℃」から「-60℃~-30℃」とすることの動機付けはない。
(d)甲5は、本件発明1において、「凍結乾燥を「前記冷却が進行した温度と同じ温度」で行うことが化粧料の成形に与える影響を確認するために」行われた実験結果の報告書であり(申立書の17頁26~28行)、本件特許の優先日後に作成された資料であり、これに基づいて、甲1発明において、離型する前の冷却温度を、「-15℃」から「-60℃~-30℃」とすることの動機付けとはならない。
(e)以上のとおり、甲2~甲5をみても、甲1発明の凍結離型の温度を、甲1に記載の温度範囲である「5℃から-20℃」を超えて、本件発明1の温度範囲とする動機付けはない。
b 相違点2について
本件発明1において、ステップ(b)において-60℃~-30℃で冷却させるから、ステップ(c)の凍結乾燥を「冷却が進行した温度と同じ温度」で行うためには、凍結乾燥の温度を、「-60℃~-30℃」とする必要がある。
甲1には、「冷凍乾燥機の温度は-10℃から-60℃であり、前記所定真空度は10Paから70Pa」であることが記載されており、本件発明1の凍結乾燥の温度(-60℃~-30℃)及び圧力(50~200Pa)と重複する。
しかしながら、甲1発明において、凍結乾燥の温度を、本件発明1の凍結乾燥の温度(-60℃~-30℃)とし、かつ、「冷却が進行した温度と同じ温度」とするためには、離型する前の冷却温度の「-15℃」を更に冷却する必要があるところ、上記aにおいて述べたとおり、甲1発明の凍結離型の温度を、本件発明1の温度範囲(-60℃~-30℃)とする動機付けはないから、凍結乾燥の温度を、「冷却が進行した温度と同じ温度」とすることはできない。
それゆえ、甲1発明において、凍結乾燥の温度を「冷却が進行した温度と同じ温度」とすることの動機付けはない。
なお、甲1発明において、凍結乾燥の温度を、「冷却が進行した温度と同じ温度」とするために、凍結離型と同じ-15℃とした場合には、相違点1に係る本件発明1の要件を満たさない。
c 小括
以上のとおり、甲1~甲5の記載をみても、甲1発明において、相違点1及び2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。また、甲1~甲5の記載からは想到し得ない構成を有する本件発明1の奏する効果は、甲1~甲5の記載からは、当業者が予測し得ないものといえる。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人の主張(相違点1について)
申立人は、申立書において、相違点1について、以下の(ア)~(エ)の主張をするが、以下に述べるように、いずれの主張も受け入れられない。
(ア)冷却温度を「-60℃~-30℃」と設定することは容易である
a 申立人は、
「甲第1号証[0025]には「ステップd:上記分散体を所定低温に凍結した後、離型し、半製品を得る。上記所定低温は5℃から-20℃である。一実施形態において、上記所定低温は0℃から-20℃である」ことが開示されている。ここで、作業効率を考慮すると、凍結乾燥温度と「同じ」冷却温度を設定することは当業者によって設計事項である。実際に、甲第1号証には、冷却工程の所定低温の範囲である「5℃から-20℃」と、凍結乾燥温度の範囲である「-10℃から-60℃」とが開示されているため、この範囲内から、たとえば同一の温度として「-20℃」を選択して、当該温度で冷却工程と凍結乾燥工程とを行うことが可能であり、ここに創意工夫の必要はない。」
と主張する(申立書14頁末行~15頁7行)。
しかしながら、甲1には、凍結離型の際の温度を、甲1に記載された「5℃から-20℃」を超えて、更に低温の「-60℃~-30℃」とする動機付けとなる記載はない。
仮に、「同一の温度」として「-20℃」を選択して、当該温度で冷却工程と凍結乾燥工程」を行ったとしても、その方法は、本件発明1ではない。
したがって、上記aの主張は、受け入れられない。
b 申立人は、
「さらに甲第1号証[0012]には、冷凍乾燥機の温度を「-10℃から-60℃」とすることが開示されており、これは本件特許発明1の(冷却温度かつ)凍結乾燥温度範囲である「-60℃~-30℃」を包含するものであり、当該温度範囲は甲第1号証に開示されているに等しい。よって、甲1発明において、作業効率を考慮して、凍結乾燥温度と「同じ」温度範囲、すなわち「-60℃~-30℃」と設定することは設計事項であり、当業者が容易に想到することができる。」
と主張する(申立書の15頁8~13行)。
甲1には、凍結乾燥の際の温度を「-60℃~-30℃」とすることは記載されているが、「作業効率を考慮」すれば、より低温での作業が望ましいとは考えられないから、離型の前の冷却の温度を「5℃から-20℃」を超えて、更に低温の「-60℃~-30℃」とする動機付けはない。
したがって、上記bの主張は、受け入れられない。
c 申立人は、
「さらに、冷却乾燥工程の原則によると、凍結乾燥工程中に材料の水分を完全に凍結させるためには、材料の事前の冷却温度を共晶点より5℃~10℃低くする必要がある。事前の冷却温度が高すぎると、水分が完全に昇華して氷にならず、乾燥中に材料が収縮したり変形したりする可能性がある。この技術的知見に関しては、事前の冷却温度を共晶点より低くしなければならない理由は、甲第1号証においても説明されている(甲第1号証[0009]から[0011]、[0026]等)。したがって、製品の表面形状に最終的に影響を与えるのは、凍結乾燥工程における中間温度パラメータであり、冷却温度とは無関係である。つまり、凍結乾燥装置において、冷却温度-20℃で離型し、-30℃で凍結乾燥させる場合でも、冷却温度-30℃で離型し、-30℃で凍結乾燥させる場合でも、製品の氷結晶生成にはほとんど影響がなく、得られた製品の表面形状に違いはない。」
と主張する(申立書の15頁14~23行)。
甲1には、凍結乾燥の際の温度を「共晶点よりも低く」することが記載されている(甲1aの請求項1、甲1bの【0009】など)が、この記載から、離型の前の冷却の温度として甲1に記載された「5℃から-20℃」を超えて、更に低温の「-60℃~-30℃」とする動機付けはない。
また、申立人は、甲5を提出し、「冷却温度-20℃で離型し、-30℃で凍結乾燥させる場合」と「冷却温度-30℃で離型し、-30℃で凍結乾燥させる場合」では、有意な差がないことを主張している。しかしながら、上記イ(イ)a(d)で述べたように、甲5の実験報告書に基づいて、甲1発明において、離型する前の冷却温度を、「-15℃」から「-60℃~-30℃」とすることの動機付けとはならない。
したがって、上記cの主張は、受け入れられない。
(イ)冷却温度を「-60℃~-30℃」とすることによる効果は予測可能である
申立人は、
「凍結乾燥前の冷却温度に関しては、本件特許発明1は、審査段階において、「-60℃~-20℃」から「-60℃~-30℃」に補正された。
一方で、本件特許明細書[0038]に「冷却工程は-20℃~-60℃で行われることが好ましく、-40℃以下で行われることがより好ましい。-4℃よりも高いとよく冷却せず、-4℃~-20℃では、パールを含有していないタイプにおいて水分が凍って結晶が多くできるため好ましくなく、-60℃よりも低いと、温度を下げる効果がわずかである他、作業者たちの凍傷危険などの安全上の問題も発生することがあり、-40℃以下で行うことがより好ましい」と記載されている。
ここで、特許権者は、令和6年11月25日付で提出した意見書において、追加補充実験結果を提出したうえで、補充実験1について「-30℃で冷却を行ったサンプル(#5)では、正面において氷結晶の紋様が顕著に減少していることが確認でき、それ以下の温度である-60℃~-40℃(#6)で冷却を行った場合には、製造された化粧料組成物の正面及び後面のいずれにも氷結晶による紋様がほとんど発生しないことが分かります」と主張し、補充実験2について「20℃で凍結乾燥を行ったサンプルでは、サンプル外観に氷結晶の紋様が発生したことが確認できます。一方、本願発明の工程条件である-40℃で凍結させると、成形及びストリッピングの両方とも可能であり、凍結乾燥後のサンプル外観も欠陥無しで正常であり、テキスチャーも合格点であることが確認されました」と主張している。
しかしながら、本件特許明細書には、冷却工程は-20℃~-60℃で行われることが好ましいことが開示されているのみであり、-20℃および-30℃で冷却工程を行った場合の技術的効果については何ら開示されていない。
したがって、本件特許明細書によれば、冷却温度が-20℃である場合と-30℃である場合とで、技術的効果に差はない。また仮に-20℃で冷却を行ったとしても、氷結晶の生成を抑制することにより、化粧料の形状及び表面デザインの形態を保持することができる。
これに対し、甲第1号証に開示されているように、-20℃で冷却したのちに離型し、凍結乾燥温度を-10℃~-60℃として凍結乾燥して製造された固体化粧料成形品もまた、損傷のない滑らかな表面を有する完成品を得ることができる(甲第1号証の表4-2を参照)。これは甲1発明の効果である、「製品表面が立体的で滑らかであり、様々な立体的形状に製造されやす」い、という事項とも合致している。
以上から、冷却温度を「-60℃~-30℃」とすることにより得られる効果は甲第1号証等から予測可能なものに過ぎず、進歩性に寄与するものではない。」
と主張する(申立書の15頁29行~16頁23行)。
しかしながら、上記イcで述べたように、甲1~甲5の記載からは想到し得ない構成を有する本件発明1の奏する効果は、甲1~甲5の記載からは、当業者が予測し得ないものである。
また、本件明細書の【0038】には、「冷却工程は-20℃~-60℃で行われることが好ましく、-40℃以下で行われることがより好ましい。-4℃よりも高いとよく冷却せず、-4℃~-20℃では、パールを含有していないタイプにおいて水分が凍って結晶が多くできるため好ましくなく、-60℃よりも低いと、温度を下げる効果がわずかである他、作業者たちの凍傷危険などの安全上の問題も発生することがあり、-40℃以下で行うことがより好ましい」と記載されており、冷却工程の「-20℃」の温度について、好ましい温度である一方、より低い温度である「-40℃」の方がより好ましいこと、及び、特定のタイプの化粧料においては、「-20℃」以上の温度は、好ましくない場合があることが記載されているといえる。
そして、本件明細書の【0037】には、「モールドに充填された化粧料に対して冷却工程を行うと、水溶性ゲル化剤によって低温状態でゲル化して化粧料がモールドデザイン通りに製造され得るし、後でモールドから離型する時にも化粧料の形状及び表面デザインの形態を保持できる」と記載されていることから、本件明細書には、冷却工程の温度を「-20℃」よりも低い温度の方が、「化粧料がモールドデザイン通りに製造され得る」ことや、「モールドから離型する時にも化粧料の形状及び表面デザインの形態を保持できる」ことについて、より好ましいことが記載されているといえる。
令和6年11月25日提出の意見書における追加補充実験は、このことについて確認をしたものといえるところ、冷却及び凍結乾燥温度を-20℃で行ったサンプル(#4)と比べ、-30℃で行ったサンプル(#5)は、「氷結晶の紋様が顕著に減少」することが示されている。
そうしてみると、「冷却温度が-20℃である場合と-30℃である場合とで、技術的効果に差はない」とはいえず、本件発明1の効果は、甲1の記載から、当業者が予測し得ないものである。
したがって、上記主張は、受け入れられない。
(ウ)相違点1についての補足1
申立人は、
「当業者は、甲第2号証を参考にして、化粧料に精巧な表面文様を具現するために、混合物の冷却温度として-40℃を選択することができる。よって、甲1発明に甲2発明を組み合わせることで、上記相違点1を得ることは容易である。」
と主張する(申立書の20頁2~13行)。
しかしながら、上記イ(イ)a(b)で述べたように、甲2をみても、甲1発明の凍結離型の温度を、甲1に記載の温度範囲である「5℃から-20℃」を超えて、本件発明1の温度範囲とする動機付けはない。
したがって、上記主張は、受け入れられない。
(エ)相違点1についての補足2
申立人は、
「・・・当業者は、出願前の技術常識に基づいて、共晶点を測定し、最も低い温度の共晶点を選択し、共晶点より5℃~10℃低い温度を凍結前の冷却温度に設定することができる。・・・甲第3号証によれば、凍結乾燥工程において、冷却温度を低く、冷却速度を速く制御することにより、氷結晶の形成を低減し、製品の外観を維持することは、当該技術分野における技術常識である。また、甲第4号証と・・・において、凍結製品の温度は共晶点よりも低くする必要があり、製品の共晶点は通常-30℃~-20℃とされることが開示されている。
よって、甲第3号証、甲第4号証のような技術常識に基づいて、冷却温度を「-60℃
~-30℃」と設定することは、当業者にとって容易である。」
と主張する(申立書の20頁14行~21頁5行)。
しかしながら、上記イ(イ)a(c)で述べたように、甲3及び4をみても、甲1発明の凍結離型の温度を、甲1に記載の温度範囲である「5℃から-20℃」を超えて、本件発明1の温度範囲とする動機付けはない。
したがって、上記主張は、受け入れられない。
エ 申立人の主張(相違点2について)
申立人は、申立書において、相違点2について、以下の(ア)及び(イ)の主張をするが、以下に述べるように、いずれの主張も受け入れられない。
(ア)凍結乾燥温度について
申立人は、
「甲第1号証では冷凍乾燥機の温度を「-10℃から-60℃」であると開示されており、この温度範囲は本件特許発明1の凍結乾燥温度である「-60℃~-30℃」を包含している。・・・-20℃と-30℃での凍結乾燥の技術的効果の差については、本件特許明細書には一切言及されておらず、-30℃とすることにより化粧料の表面形成に与える臨界的意義もの存在も認められない。よって、凍結乾燥の温度の上限を「-20℃」に規定した場合と「-30℃」に規定した場合とで、実質的に有意な技術的差異はないといえる。
したがって、当業者は、甲1発明に基づいて、-60℃から-10℃の範囲内の任意の温度(例えば、-10℃、-20℃、-30℃など)を温度範囲として選択することができ、このような凍結乾燥温度を用いた場合に生じる効果は予測可能な範囲内のものに過ぎない。」と主張する(申立書の16頁24行~17頁10行)。
しかしながら、上記イ(イ)bで述べたように、甲1発明において、凍結乾燥の温度を、本件発明1の凍結乾燥の温度(-60℃~-30℃)とし、かつ、「冷却が進行した温度と同じ温度」とするためには、離型する前の冷却温度の「-15℃」を更に冷却する必要があるから、凍結乾燥の温度を、「冷却が進行した温度と同じ温度」とすることはできない。
それゆえ、甲1発明において、凍結乾燥の温度を「-60℃から-10℃の範囲内」の温度のうち、例えば、-30℃などを選択したとしても、「冷却が進行した温度と同じ温度」で凍結乾燥したことにはならず、本件発明1とはならない。
したがって、凍結乾燥温度を用いた場合に生じる効果は予測可能な範囲内のものであるかどうかにかかわらず、上記主張は、受け入れられない。
(イ)凍結乾燥を「前記冷却が進行した温度と同じ温度」で行うことについて
a 申立人は、「(i)特許権者による補充実験の結果に関して」、
「当業者は、この補充実験1で得られた技術的効果が、凍結乾燥温度の低下によるものなのか、冷却温度と凍結乾燥温度の整合性によるものなのかを判断することができない。さらに、主張されている技術的効果が、本件特許発明1のように「冷却離型温度と冷却乾燥温度が一致し、両温度が-30℃~-60℃に維持される」場合にのみ達成されるのかどうかについても依然として不明である。
技術常識によれば、離型段階における冷却温度は、材料を固化させて容易に離型できるようにすることを意図しており、当業者は、冷却乾燥温度の低下が粉末の表面形態をさらに最適化することを予測することができる。したがって、この補充実験を根拠として、本件特許発明による技術的効果が、「冷却離型温度と凍結乾燥温度を同じとして、両温度が-30℃~-60℃に維持される」ことに起因するとはいえない。」
と主張する(17頁12~24行)。
しかしながら、上記ウ(イ)で述べたように、令和6年11月25日提出の意見書における追加補充実験では、冷却及び凍結乾燥温度を-20℃で行ったサンプル(#4)と比べ、-30℃で行ったサンプル(#5)は、「氷結晶の紋様が顕著に減少」することが示されている。
そうしてみると、本件発明1による技術的効果が、「冷却離型温度と凍結乾燥温度を同じとして、両温度が-30℃~-60℃に維持される」ときに、「冷却温度が-20℃である場合と-30℃である場合とで、技術的効果に差はない」とはいえず、本件発明1の効果は、甲1の記載から、当業者が予測し得ないものである。
したがって、上記主張aは、受け入れられない。
b 申立人は、「(ii)申立人による試験結果」について、甲5の実験結果を示し、
「冷却温度と凍結乾燥温度が同一(-30℃)であるサンプル1は、冷却温度(-20℃)と凍結乾燥温度(-45℃)が異なるサンプル3よりも、表面の状態が劣るものであった。よって、凍結乾燥タイプの固体化粧料の表面形状に関しては、凍結乾燥を「前記冷却が進行した温度と同じ温度」で行うことは必須ではないことを確認できた。
本報告から、凍結乾燥を「前記冷却が進行した温度と同じ温度」で行うことで奏する技術的効果は確認できなかった。よって、相違点2に係る、凍結乾燥を「前記冷却が進行した温度と同じ温度」で行うことによって得られる効果はなく、進歩性に寄与しない。」と主張する(申立書の17頁25行~19頁19行)。
しかしながら、上記イ(イ)a(d)で述べたように、甲5の実験報告書に基づいて、甲1発明において、離型する前の冷却温度を、「-15℃」から「-60℃~-30℃」とすることの動機付けとはならない。
したがって、上記bの主張は、受け入れられない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。また、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2及び3は、本件発明1において、それぞれ、「前記水溶性ゲル化剤は、組成物の全重量を基準にして0.001~10重量%含まれる」こと、及び「前記水溶性ゲル化剤は、多糖類及び合成高分子からなる群から選ばれる一つ以上である」ことを特定したものである。
本件発明4及び5は、本件発明1を引用する本件発明3において、それぞれ、多糖類及び合成高分子を特定したものである。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~5は、甲1発明と対比して、少なくとも相違点1及び2を有する。
これらの相違点は、上記(2)で述べたように、当業者が容易に想到し得たものではないから、本件発明2~5は、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明、及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
3 申立理由3~5(実施可能要件違反、サポート要件違反及び明確性要件違反)
(1)申立理由3(実施可能要件違反)
ア 判断の前提
本件発明は「凍結乾燥タイプ化粧料組成物の製造方法」であり、物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できること、すなわち、その方法により物を生産できることを要するものである。
イ 判断
(ア)本件明細書には、本件発明の(a)段階で混合する原材料について記載され(【0021】~【0034】)、(a)の混合物を製造する段階、(b)の混合物をモールドに充填して冷却する段階、及び(c)のモールドから離型させて凍結乾燥させる段階について記載され(【0035】~【0038】)、実際に、固形化粧料組成物を製造した例が、実施例で記載されている(【0046】~【0057】)。
(イ)そうしてみれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者は、本件 発明に係る「凍結乾燥タイプ化粧料組成物」を製造することできるといえる。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
ウ 申立人の主張について
申立人は、請求項1の「(c)前記(b)段階後に前記モールドから離型させて凍結乾燥させる段階であって、前記凍結乾燥は、前記冷却が進行した温度と同じ温度で50~200Paの圧力を維持しながら行う、段階」について、以下の(ア)~(カ)のように述べ(申立書の23頁1行~下から7行)、「本件特許明細書の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識と併せて参酌しても、本件特許発明1について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない」と主張する(下記(カ))。
(ア)(i)「・・・実施例、比較例ともに、凍結乾燥にかかった時間は本件特許明細書に記載されていない。ここで、昇華および再乾燥のための加熱がなければ、冷却・乾燥工程を12時間以内に完了することは不可能である。」
(イ)甲5では、「-30℃に維持した場合、凍結乾燥工程の完了には40時間を必要とすることを確認している。」
(ウ)(ii)「化粧料をモールドから離型させる作業は、通常、凍結乾燥装置の外で行う必要がある。このため、モールドから離型させた化粧料の温度を、冷却温度及び凍結乾燥温度と同一にすることは不可能である・・・本件特許明細書の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識と併せて参酌しても、本件特許発明1について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」
(エ)「凍結乾燥を冷却が進行した温度と同じ温度で行うことができるとは必ずしもいえない点で、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、化粧料の形状及び表面デザインの形態を保持できる化粧料を提供するという課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。」
(オ)「仮に、凍結乾燥を冷却が進行した温度と同じ温度で行うことができるのであればどのようにして実施するのかについて、本件特許の請求項1からは読み取ることができず、明確でない。」
(カ)(iii)「よって、上記(i)および(ii)に基づき、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識と併せて参酌しても、本件特許発明1について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」
上記主張は、(i)及び(ii)を根拠に、本件発明が実施できないことを主張するものと認められる(上記(カ))。しかしながら、(i)に関し、本件発明は、冷却・乾燥工程にかかる時間に制限は設けられていないので、「12時間以内に完了すること」が「不可能」であることや(上記(ア))、「-30℃に維持した場合、凍結乾燥工程の完了には40時間を必要とする」こと(上記(イ))を理由に、本件発明が実施できないとはいえない。
また、(ii)に関し、本件発明は、「モールドから離型させた化粧料の温度」を、「冷却温度及び凍結乾燥温度」と同一にするものではなく、モールドに充填させた混合物を冷却させる温度と、凍結乾燥の温度を同じにするものであるので、上記(ウ)~(オ)は、その前提に誤りがある。
したがって、上記主張は、受け入れられない。
エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由3は理由がない。
(2)申立理由4(サポート要件違反)
ア 判断の前提
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 本件特許請求の範囲は、上記第2で摘記したとおりの記載がある。
ウ 本件発明の課題は、本件明細書の記載(【0006】)から、「焼成タイプのメーキャップ化粧料組成物の製造時に、熱風乾燥による有効成分の損失などを防止し、化粧料に精巧な表面文様を具現すること」と認められる。
エ 上記課題を解決するための手段として、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の(a)段階で混合する原材料について記載され(【0021】~【0034】)、(a)の混合物を製造する段階、(b)の混合物をモールドに充填して冷却する段階、及び(c)のモールドから離型させて凍結乾燥させる段階について記載され(【0035】~【0038】)、実際に、固形化粧料組成物を製造した例が、実施例で記載されている(【0046】~【0057】)。
そうしてみれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には、上記エの課題を解決するための手段が記載され、実際に、実施例で、本件発明の製造方法によって製造された化粧料が「内容物の収縮及び変形が少なく、表面文様を微細で鮮やかに具現している」ことが確認されている(【0056】)から、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件発明の課題を解決できることを認識できるといえ、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。
オ 申立人は、上記(1)ウ(ア)~(カ)のように述べ、本件発明はサポート要件を満たさないと主張する。
しかしながら、本件発明は、冷却・乾燥工程にかかる時間に制限は設けられていないし、本件発明は、「モールドから離型させた化粧料の温度」を、「冷却温度及び凍結乾燥温度」と同一にするものではなく、モールドに充填させた混合物を冷却させる温度と、凍結乾燥の温度を同じにするものであるので、上記(ア)~(カ)の主張は受け入れられない。
特に、(エ)において、「凍結乾燥を冷却が進行した温度と同じ温度で行うことができるとは必ずしもいえない点で、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、化粧料の形状及び表面デザインの形態を保持できる化粧料を提供するという課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。」と主張するが、上述のとおり、当該主張は、その前提に誤りがあるので、受け入れられない。
カ 以上のとおり、申立理由4は、理由がない。
(3)申立理由5(明確性要件違反)
申立人は、請求項1の「(c)前記(b)段階後に前記モールドから離型させて凍結乾燥させる段階であって、前記凍結乾燥は、前記冷却が進行した温度と同じ温度で50~200Paの圧力を維持しながら行う、段階」との記載について、(1)ウ(ア)~(カ)のように述べ、本件発明は、不明確であると主張していると認められる。
しかしながら、上記記載は、モールドから離型させて凍結乾燥させる段階において、凍結乾燥を、「冷却が進行した温度と同じ温度で50~200Paの圧力を維持しながら行う」ことを特定するものであり、その記載に不明確なところはない。
したがって、上記主張は、受け入れられないから、申立理由5は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、そのほかに請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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