特許異議申立
2025-700635
ノズル部材及びこのノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置
- 審判番号
- 2025-700635
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-157808
- 登録番号
- 7611627
- 請求日
- 2025年06月17日
- 審決日
- 2026年03月30日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】マコー株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人インテクト国際特許事務所
- 【権利者代理人】石橋 良規
- 【異議申立人】株式会社 不二製作所
- 【異議申立人代理人】弁理士法人小倉特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 本庄 亮太郎
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.121-YAA(B24C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第6項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7611627号発明「ノズル部材及びこのノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7611627号の明細書及び特許請求の範囲を訂正の請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7611627号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7611627号の特許(以下「本件特許」という。)は、令和6年9月11日に出願され(特願2024-157808)、令和6年12月26日にその特許権の設定登録がされ、令和7年1月10日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許についてこの特許異議申立てがされ、経緯は次のとおりである。
1 令和7年 6月17日 :
特許異議申立人 株式会社不二製作所(以下「申立人」という。)による請求項1~7(全請求項)に係る特許に対する特許異議の申立て
2 令和7年10月 9日付け:
特許権者 マコー株式会社(以下「特許権者」という。)に対して取消しの理由(以下「取消理由」という)を通知(以下、この通知を「取消理由通知」という。)
3 令和7年12月 9日 :
特許権者による訂正の請求、及び意見書の提出
4 令和7年12月25日付け:
特許権者に対し、訂正の請求書についての手続補正(方式)を指令
5 令和8年 1月 9日 :
特許権者より上記4の指令に対して手続補正書(方式)(以下、この手続補正書による補正後の上記3の訂正の請求を「本件訂正請求」という。)の提出
6 令和8年 1月21日付け:
申立人に対して本件訂正請求があった旨を通知
7 令和8年 2月16日 :
申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正請求による訂正の適否
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否について検討する。
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の明細書、及び特許請求の範囲を本件訂正の請求書に添付した訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを求めるものである。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、直接的又は間接的に請求項1を引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件
本件特許異議申立ては、本件訂正前の全ての請求項1~7が対象とされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 特許請求の範囲の一群の請求項である請求項1~7の訂正
(1)訂正事項
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1に「被処理部材」と記載しているのを、「切削面を有する被処理部材」と訂正をする(請求項1を引用する請求項2~7も同様に訂正をする)。
イ 訂正事項2
訂正前の請求項1に「平行となるように対向配置されている」と記載しているのを、「平行となるように対向配置されると共に、前記一対のノズル体の一方のノズル体は、前記切削面に前記スラリを噴射すると同時に、前記一対のノズル体の他方のノズル体は、前記被処理部材の上面に前記スラリを噴射する」と訂正をする(請求項1を引用する請求項2~7も同様に訂正をする)。
(2)訂正事項1~2の訂正要件(特許法第120条の5第6項に該当するか否か)について
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、請求項1に記載した「被処理部材」について、「切削面を有する」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1に関して、本件明細書等の段落【0023】には、「ワークWは、切削工具で使用される概略矩形状の切削チップ(図11参照)」と記載され、段落【0052】及び【0054】には、「ワークWの切削面をウェットブラスト処理」すると記載され、段落【0056】には、「ワークWの上面のみならずワークWの側面の切削面へのウェットブラスト処理をワークWの形状によらずに処理を行う事が可能である」と記載されている。
これらの記載からは、被処理部材としての切削工具であるワークWにウェットブラスト処理を行う切削面が存在し、請求項1に記載した被処理部材が、切削面を有するものであることが把握される。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記(ア)のとおり、請求項1における被処理部材について減縮するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、請求項1に記載した「・・・平行となるように対向配置されている」と配置に基づいて規定された「一対のノズル体」の関係について、それぞれのノズル体による被処理部材へのスラリの噴射位置(衝突位置)でさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2に関して、本件明細書等の段落【0052】には「本実施形態に係るノズル部材10は、図8に示すように、ワークWの移動方向の上流側に位置するノズル体20(迎え処理側)は、ワークWの上面にスラリを噴射し、ワークWの下流側に位置するノズル体20(送り処理側)は、ワークWの切削面をウェットブラスト処理する」と、段落【0054】には「本実施形態に係るノズル部材10を更に移動させると、図9に示すように、迎え処理側のノズル体20がワークWの切削面をウェットブラスト処理し、送り処理側のノズル体20がワークWの上面を抑えることで、ワークWの飛びや回転を抑えたまま切削面のウェットブラスト処理を行う事が可能となる」と記載されている。また、スラリを「同時に」噴射することは、本件明細書等の請求項1に「同時に前記スラリを噴射する」と記載されている。
これらの記載からは、被処理部材としての切削工具であるワークWにウェットブラスト処理を行う切削面が存在し、請求項1に記載した一対のノズル体の一方のノズル体は、切削面に前記スラリを噴射すると同時に、一対のノズル体の他方のノズル体は、被処理部材の上面に前記スラリを噴射するという訂正事項2に対応する事項が把握される。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記(ア)のとおり、請求項1に記載した「一対のノズル」の関係について、それぞれのノズルによる被処理部材へのスラリの噴射位置でさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ まとめ
上記ア~イより、本件訂正の訂正事項1~2は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである
5 明細書の訂正
(1)訂正事項
ア 訂正事項3
訂正前の明細書の段落【0011】に「被処理部材」と記載しているのを、「切削面を有する被処理部材」と訂正をする。
イ 訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0011】に「平行となるように対向配置されている」と記載しているのを、「平行となるように対向配置されると共に、前記一対のノズル体の一方のノズル体は、前記切削面に前記スラリを噴射すると同時に、前記一対のノズル体の他方のノズル体は、前記被処理部材の上面に前記スラリを噴射する」と訂正をする。
(2)明細書又は図面の訂正と関係する請求項について
願書に添付した明細書の訂正をする訂正事項3~4は、いずれも特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項で規定する当該明細書の訂正に係る請求項1を含む一群の請求項の全てである請求項1~7について訂正をするものである。
(3)訂正事項3~4の訂正要件(特許法第120条の5第6項に該当するか否か)について
訂正事項3~4は、いずれも明細書の段落【0011】の記載を、先に4で検討した訂正事項1~2による訂正後の請求項1の記載に揃えて整合させる明瞭でない記載の釈明を目的とし、したがって、訂正事項1~2と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3~4は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正の訂正事項1~2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を、訂正事項3~4は、同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、訂正事項1~4のいずれも、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の明細書、及び特許請求の範囲を本件訂正の請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正を認めたから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、同様に請求項2以下の請求項○に係る発明を「本件特許発明○」という。また、「本件特許発明1」~「本件特許発明7」をまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正により訂正をした特許請求の範囲の請求項1~7に記載した次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
切削面を有する被処理部材に対して液体と砥粒との混合物であるスラリを噴射するノズル部材であって、
前記ノズル部材は、直線状に延びるスリット状の噴射口を有する一対のノズル体を有し、
前記一対のノズル体は、前記噴射口の前記スリットが直線状に延びる方向と直交する断面において、前記噴射口から噴射される前記スラリの噴射方向の延長線が互いに交差するとともに、前記被処理部材に対して同時に前記スラリを噴射するように、それぞれの前記噴射口の前記スリットの延設方向が互いに平行となるように対向配置されると共に、前記一対のノズル体の一方のノズル体は、前記切削面に前記スラリを噴射すると同時に、前記一対のノズル体の他方のノズル体は、前記被処理部材の上面に前記スラリを噴射することを特徴とするノズル部材。
【請求項2】
請求項1に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体は、前記噴射口の延設方向と直交する断面において、前記噴射口から噴射される前記スラリの噴射角度が鉛直方向に対してそれぞれ1~50°傾いていること
を特徴とするノズル部材。
【請求項3】
請求項2に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体の噴射角度の角度差は、5°以内であることを特徴とするノズル部材。
【請求項4】
請求項2に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体は、前記噴射角度を変更可能な角度調整手段を備えることを特徴とするノズル部材。
【請求項5】
請求項1に記載のノズル部材において、
前記一対のノズル体からそれぞれ噴射された前記スラリが前記被処理部材に噴射される位置の前記一対のノズル体の対向方向に沿った長さは、変更可能であることを特徴とするノズル部材。
【請求項6】
請求項1に記載のノズル部材において、
前記ノズル部材は、前記噴射口の該スリットが直線状に延びる方向と直交する方向に移動可能な移動手段を備えることを特徴とするノズル部材。
【請求項7】
請求項1に記載のノズル部材を備えたウェットブラスト処理装置であって、
前記ノズル部材は、2セット以上有し、それぞれの前記ノズル部材は、前記噴射口の延設方向が交差するように配置されることを特徴とするウェットブラスト処理装置。」
第4 申立人の証拠方法
1 特許異議申立書に添付した証拠方法
申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法は、次の甲第1号証~甲第5号証(以下、甲第○号証を甲○という)である。
(1)甲1:特開2009-170168号公報
(2)甲2:特開2013-52457号公報
(3)甲3:特表2010-504859号公報
(4)甲4:実願昭61-76468号(実開昭62-188400号)のマイクロフィルム
甲4について、申立人は、特許異議申立書の証拠説明書で「実開昭62-188400号公報」と表示しているが、当該公報は実用新案登録出願の願書に添付した書類の考案の詳細な説明を含まない要部を刊行したものを指す。これに対して、本件の特許異議申立書に実際に添付されているのは、マイクロフィルムに考案の詳細な説明も含めた書類を撮影した内容を刊行したものであることから、甲4の名称は上記の「実願昭61-76468号(実開昭62-188400号)のマイクロフィルム」とする。
(5)甲5:特開2005-342730号公報
(6)甲6:特開2004-304254号公報
(7)甲7:特表2022-500259号公報
(8)甲8:特開平6-126623号公報
(9)甲9:特表2001-523589号公報
2 申立人意見書に添付した証拠方法
申立人が申立人意見書に添付した証拠方法は、次の甲10~13である。
(1)甲10:特開2003-145428号公報
(2)甲11:特開平4-331070号公報
(3)甲12:特開2022-18892号公報
(4)甲13:特開2018-202587号公報
第5 当審で通知した取消理由の概要
当審が令和7年10月9日付けで特許権者に通知した本件訂正前の請求項1に対する取消理由の概要は次のとおりである。
(進歩性)本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(当審注:通知した取消理由における「引用文献等」の欄に記載された「甲2」は「甲6」の誤記であるが、特許権者は誤記を正しく認識のうえ意見を述べているので、誤記を正した取消理由を改めて通知せずに審理する。)
第6 当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲1について
ア 甲1の記載事項(下線は当審で付与。以下同様)
(ア)「【0001】
本発明は、複数の第1リブおよび第1リブ間を延びる複数の第2リブを含むマトリクスリブを有するプラズマディスプレイパネル用背面板を製造する方法およびブラスト加工装置に係り、とりわけ、第2リブが第1リブよりも低くなっている段差マトリクスリブを有するプラズマディスプレイパネル用背面板を容易に製造することができる製造方法およびブラスト加工装置に関する。」
「【0010】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、段差マトリクスリブを有するプラズマディスプレイパネル用背面板を容易に製造することができる製造方法およびブラスト加工装置を提供することを目的とする。」
「【0054】
そして、図1および図2に示すように、第2リブ38のリブ形成用基板20からの高さ(より厳密には、リブ形成用基板20の板面の法線に沿った第2リブ38の基端部から頂部までの長さ)は、第1リブ34のリブ形成用基板20からの高さよりも低くなっている。第1リブ34の高さと第2リブ38の高さの差は、上述したように、完成したPDP用背面板10をPDP用前面板と組み合わせた後に、隣り合う二つの第1リブ34間の全域を、第1方向における一方側または両側から排気することができる程度に設定され得る。また、第2リブ38の高さは、蛍光体の支持面積を十分に増大させることを可能とし得るように、設定され得る。一例として、第2リブ38の高さを、第1リブ34の高さの1/5~95/100程度に設定することができる。
「【0059】
本実施の形態において、PDP用背面板の製造方法は、リブ形成用基板20上にリブ層(リブ形成材料層)40を形成するリブ層形成工程(図4(a)参照)と、リブ層40上にブラストマスク50を形成するマスク形成工程(図4(b)および(c)参照)と、ブラストマスク50側からリブ層40へブラスト材75を噴射してリブ層40を削るブラスト加工工程(図4(d)および(e)参照)と、ブラスト加工工程後にブラストマスク50を除去する工程と、を備えている。とりわけ本実施の形態においては、ブラスト加工工程が、互いに異なるブラスト加工条件で実施される第1ブラスト加工工程および第2ブラスト加工工程を含んでいる。また、PDP用背面板の製造装置(製造ライン)70は、製造方法に対応して、リブ形成用基板20上にリブ層40を形成するリブ層形成装置71と、リブ層40上にブラストマスク50を形成するマスク形成装置と、リブ形成用基板20上のリブ層40へブラストマスク50側からブラスト材75を噴射するブラスト加工装置80と、ブラストマスク50を除去する除去装置と、を備えている。以下、各工程について、各工程で用いられる装置(手段)とともに説明していく。なお、図4においては、図1に示された部分に対応する部分が示されている。」
「【図1】
[図:0001437381000001.jpg]
【図2】
[図:0001437381000002.jpg]
」
「【図4】
[図:0001437381000003.jpg]
」
(イ)「【0076】
図7および図8に示すように、ブラスト加工装置80は、ブラスト材75を噴射するノズル85と、ノズル85に連結された配管81と、配管81に連結された圧縮ガス源82およびブラスト材供給源83と、被加工体Wを保持する保持装置88と、を有している。このブラスト加工装置80においては、圧縮ガス源82からガスを供給するとともにブラスト材供給源83からブラスト材75を供給するようになっている。供給されたブラスト材75は圧縮ガスとともに、ノズル85から噴射され、保持装置88に保持された被加工体Wに衝突する。この結果、被加工体Wがブラスト材75によって切削されていくようになっている。ここで被加工体Wは、リブ形成用基板20とリブ層40とブラストマスク50との積層体であって、実際に切削されるのはリブ層40である。
【0077】
本実施の形態において、ブラスト加工装置80は、第1乃至第3のノズル85a,85b,85cを有している。このうち、第1ノズル85aは第1ブラスト加工工程において用いられ、第2ノズル85bおよび第3ノズル85cは、第2ブラスト加工工程において用いられる。これらの第1乃至第3のノズル85a,85b,85cは、それぞれ図示しない保持手段を介して別個に保持されている。保持手段は、各ノズル85a,85b,85cの被加工体Wに対する相対位置を独立して調節することができる。これにより、各ノズル85a,85b,85cの被加工体Wに対する高さ位置(リブ形成用基板20の板面の法線に沿った位置)、被加工体Wに対する平面方向位置(リブ形成用基板20の板面上における位置)、および、被加工体Wに対するブラスト材75の噴射角度(リブ形成用基板20の板面の法線NLと噴射方向とがなす角度θ)を別個に制御することができる。
【0078】
なお、ブラストノズル85の吐出口86の形態は、特に限定されず、例えばスリット状、円状、楕円状および多角形状等の種々の既知な形態を採用することができる。このうち、被加工体Wを広範囲に渡って一度に加工することができ、これにより、均一かつ効率的な加工を実現することができることから、図9に示すように、ノズル85がスリット状の開口86を有していることが好ましい。この場合の吐出口86の幅(吐出口86の長手方向に直交する方向の開口幅)は、例えば50μm~10000μmの範囲内、好ましくは100μm~5000μmの範囲内とすることができる。また、図10に示すように、略円形の吐出口86を有する複数の吐出機構を並列配置してノズル85を構成するようにしてもよい。このようなノズル85によっても、被加工体Wを広範囲に渡って一度に加工することができ、これにより、均一かつ効率的な加工を実現することができる。」
「【図7】
[図:0001437381000004.jpg]
【図8】
[図:0001437381000005.jpg]
【図9】
[図:0001437381000006.jpg]
」
(ウ)「【0091】
(第2ブラスト加工工程)
次に、第1ブラスト加工工程後に実行される第2ブラスト加工工程について説明する。なお、第2ブラスト加工工程は、第1ブラスト加工工程で形成されたマトリクスリブ31上からブラストマスク50を除去する前に実行される。
【0092】
第2ブラスト加工工程は、上述したブラスト加工装置80を用い、マトリクスリブ31にブラスト材75を噴射し、第2リブ38のうちのリブ形成用基板20から離間する側に位置する先端部分39を削る工程である。この結果、図4(e)に示すように、第2リブ38のリブ形成用基板20からの高さが第1リブ34のリブ形成用基板20からの高さよりも低くなっている段差マトリクスリブ30が形成されるようになる。
【0093】
第2ブラスト加工工程では、第2ノズル85bおよび第3ノズル85cからブラスト材75を噴射して、リブ形成用基板20上のマトリクスリブ31を切削する。このとき、第2ノズル85bおよび第3ノズル85cをそれぞれ保持する保持手段は、所定の方向に沿ってブラスト材75が噴射されるように、保持装置88に保持されたリブ形成用基板20とマトリクスリブ31とブラストマスク50との積層体Wに対し、第2ノズル85bおよび第3ノズル85cを位置決めする。ここでいう所定の方向とは、図7に示すように、リブ形成用基板20の板面の法線NLに対して傾斜した方向であり、かつ、図8に示すように、リブ形成用基板20の平面視において(リブ形成用基板20の板面の法線方向から観察した場合において)第1方向に沿った方向である。なお、ブラスト材75はノズル85b,85cからある程度の幅を持って噴射されるようになるが、ここでは、ある程度の幅のうちの中心方向が所定の方向に概ね平行となるように、ノズル85b,85cの位置を調整することを意味している。
【0094】
第2ブラスト加工において用いられるブラスト材75は、特に限定されず、例えば第1ブラスト加工において用いられ得るブラスト材をそのまま用いることができる。」
「【0097】
また、図7および図8に示すように、リブ形成用基板20の平面視において、第2ノズル85bの噴射方向と、第3ノズル85cの噴射方向と、は第1方向に沿って互いに逆向きとなっている。これにより、被加工体(積層体)Wは、互いに逆向きからブラスト材75を噴射されるようになる。この結果、被加工体(積層体)Wを均一に処理することができる。また、本実施の形態においては、第2ノズル85bおよび第3ノズル85cは、時間をずらしてブラスト材75を噴射するようになっている。一方のノズルから噴射されたブラスト材75の進路方向が、他方のノズルからのブラスト材75の噴射によって、影響を受けないようにするためである。
【0098】
そして、第2ブラスト加工工程においては、第2ノズル85bと、第3ノズル85cと保持装置88に保持された被加工体(積層体)Wとの相対位置を、リブ形成用基板20の板面上において変更させながら、マトリクスリブ31の全領域へ均一にブラスト加工を施していくようになっている。第2ノズル85bおよび第3ノズル85cと保持装置88に保持された被加工体Wとの相対移動は、種々の既知な方法によって実施され得る。すなわち、第2ノズル85bおよび第3ノズル85cと被加工体Wとの少なくとも一方を、第1方向および第2方向の少なくとも一方に沿って移動させることによって、実現され得る。
【0099】
具体例としては、図13に示すように、図示しない保持手段によってノズル85b,85cを高速で第1方向に往復移動させながら、保持装置88によって被加工体Wを低速で第2方向に移動させるようにして、被加工体Wの全領域にブラスト加工を施すことができる。この方法において、ノズル85b,85cが1往復する間に被加工体Wが送られる量を、被加工体Wの移動方向に沿ったノズル85b,85cの噴射幅より十分小さくしておけば、被加工体Wの同一箇所にブラスト材75が複数回噴射され、加工量のばらつきが生じてしまうことを効果的に防止することができる。」
「【図13】
[図:0001437381000007.jpg]
」
(エ)「【0147】
また、上述した実施の形態において、第2ブラスト加工中、第2ノズル85bからブラスト材75を噴射する時間帯と、第3ノズル85cからブラスト材75を噴射する時間帯と、を別々にする例を示したがこれに限られない。図26に示すように、第2ノズル85bと第3ノズル85cとの配置間隔を十分大きく取ることにより、ブラスト材85を対向する方向から同時に噴射したとしても、異なるノズル85b,85cから噴射されたブラスト材75の移動(飛行)が互いに阻害し合ってしまうことを防止することが可能となる。さらに、図27に示すように、第2ノズル85bおよび第3ノズル85cから、互いから離間する向きにブラスト材75が噴射されるようにしてもよい。このような例によっても、異なるノズル85b,85cから噴射されたブラスト材75の移動(飛行)が互いに阻害し合ってしまうことを防止することが可能となる。」
「【図26】
[図:0001437381000008.jpg]
」
イ 甲1の記載事項の整理
(ア)甲1には、段落【0076】、図7~8の記載からみて、被加工体Wに対してブラスト材75を噴射するノズル85について、記載されている。
(イ)甲1の段落【0077】~【0078】、図7~9の記載からみて、上記アのノズル85は、長手方向に延びるスリット状の吐出口86を有する第2ノズル85b、第3ノズル85cを有する。
(ウ)甲1の段落【0093】、【0097】の記載、及び図7の側面図と図8の平面図の図示内容からみて第2ノズル85b、第3ノズル85cの噴射方向を表す点線矢印が、さらに延長された先では交差することが把握されるから、第2ノズル85b、第3ノズル85cは、吐出口86のスリットの長手方向と直交する断面において、吐出口86から噴射されるブラスト材75の噴射方向の延長線が互いに交差する。
(エ)甲1の段落【0147】、図26の記載からみて、上記第2ノズル85b及び第3ノズル85cは、被加工体Wに対して、甲1のブラスト材75は、対向する方向から同時に噴射することができる。(なお、段落【0147】の「ブラスト材85」という記載は、「ブラスト材75」の誤記と認める。)
(オ)甲1の段落【0093】、図7~8の記載からみて、上記第2ノズル85b及び第3ノズル85cは、吐出口86の前記スリットの長手方向が第2方向に沿って概ね平行にされ、段落【0097】の記載からみて、被加工体(積層体)Wに対して、互いに逆向きからブラスト材75を噴射されるように位置が調整されている。
ウ 甲1に記載された発明
上記(1)~(2)より、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「 被加工体Wに対してブラスト材75を噴射するノズル85であって、
前記ノズル85は、長手方向に延びるスリット状の吐出口86を有する第2ノズル85b、第3ノズル85cを有し、
前記第2ノズル85b、第3ノズル85cは、前記吐出口86の前記スリットの長手方向と直交する断面において、前記吐出口86から噴射される前記ブラスト材75の噴射方向の延長線が互いに交差するとともに、前記被加工体Wに対して同時に前記ブラスト材75を噴射するように、それぞれの前記吐出口86の前記スリットの長手方向が概ね平行にされ、被加工体Wに対して互いに逆向きからブラスト材75を噴射するように位置が調整されているノズル85。」
(2)甲6について
ア 甲6の記載事項
(ア)発明の詳細な説明
「【0048】
湿式ブラストは、砥粒(研磨剤)を混ぜた水等の処理液(スラリー)を対象物に噴射する技術である。湿式ブラスト自体は、研磨、バリ取り、表面改質(硬化)といった目的で使われる技術として知られている。これに対して、本実施の形態では、湿式ブラストを、ECM導電性ケース12の絶縁層除去に応用する。湿式ブラストを施すことにより、処理液がケース奥部18に吹き付けられ、これに伴って多数の砥粒がケース奥部18に衝突し、これにより絶縁層が除去される。」
「【0060】
図6は、本実施の形態の湿式ブラスト用の装置を示している。湿式ブラスト装置60は、ケース保持部62と、ノズル64と、ノズル移動装置66とを有する。ケース保持部62は導電性ケースを保持する。本実施の形態では、複数の導電性ケースが二次元方向に並ぶように保持される。すなわち、縦横に並んだ多数の小穴のそれぞれに導電性ケースが保持される。」
「【0062】
ノズル64は細長い形状を有し、噴射口はスリット68で構成される。このスリット68からカーテン状に処理液が噴射される。ノズル64は、導電性ケースのケース入口開口にスリット68が対向するように配置され、これにより、ケース入口開口からケース奥部に向けて処理液が噴射される。ノズル64は、ケース保持部62のノズル方向の幅に応じた長さを有する。そして、ケース保持部62のノズル方向に並ぶケース群に処理液を噴射できるような長さへと、スリット68の長さが設定されている。」
(イ)図面
「【図6】
[図:0001437381000009.jpg]
」
イ 甲6に記載された技術的事項
上記(1)からみて、甲6には次の技術的事項(以下「甲6記載の技術的事項」という。)が記載されている
「砥粒(研磨剤)を混ぜた水等の処理液(スラリー)を、細長い形状を有し、噴射口はスリット68で構成されるノズル64により対象物に噴射する湿式ブラスト装置60。」
2 本件特許発明1の進歩性について
(1)本件特許発明1と甲1発明の対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「被加工体W」と、本件特許発明1の「切削面を有する被処理部材」を対比すると、両者は「被処理部材」という点に限り一致し、甲1発明の「ブラスト材75」と本件特許発明1の「液体と砥粒との混合物であるスラリ」とを対比すると、両者は「ブラスト処理材」という点に限り一致する。
そして、甲1発明の「ノズル85」は本件発明1の「ノズル部材」に相当する。
イ 甲1発明の「長手方向」は本件特許発明1の「直線状」に相当し、同様に「吐出口86」は「噴射口」に、「第2ノズル85b、第3ノズル85c」は「一対のノズル体」に相当する。
ウ 甲1発明の「スリットの長手方向」は本件特許発明1の「スリットが直線状に延びる方向」及び「スリットの延設方向」に相当し、同様に「それぞれの前記吐出口86の前記スリットの長手方向が概ね平行にされ、被加工体Wに対して互いに逆向きからブラスト材75を噴射するように位置が調整されている」は「それぞれの前記噴射口の前記スリットの延設方向が互いに平行となるように対向配置される」に相当する。
(2)本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点
上記2より、本件特許発明1と甲1発明は次の(1)の点で一致し、(2)の点で相違する。
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。
被処理部材に対してブラスト処理材を噴射するノズル部材であって、
前記ノズル部材(ノズル85)は、直線状(長手方向)に延びるスリット状の噴射口(吐出口86)を有する一対のノズル体(第2ノズル85b、第3ノズル85c)を有し、
前記一対のノズル体(第2ノズル85b、第3ノズル85c)は、前記噴射口(吐出口86)の前記スリットが直線状に延びる方向(スリットの長手方向)と直交する断面において、前記噴射口(吐出口86)から噴射される前記ブラスト処理材の噴射方向の延長線が互いに交差するとともに、前記被処理部材(被加工体W)に対して同時に前記ブラスト処理材を噴射するように、それぞれの前記噴射口(吐出口86)の前記スリットの延設方向(長手方向)が互いに平行となるように対向配置されているノズル部材(ノズル85)。
イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は、次の相違点1~2で相違する。
(ア)相違点1
ブラスト処理材が、本件特許発明1では液体と砥粒との混合物であるスラリであって、いわゆるウェットブラストに用いられるウェットブラスト処理材であるのに対して、甲1発明ではブラスト材ではあるが、かかるウェットブラスト処理材であるか否かは不明である点。
(イ)相違点2
被処理部材及び一対のノズル体に関して、本件特許発明1は、被処理部材が「切削面」を有し、「前記一対のノズル体の一方のノズル体は、(前記被処理部材の)前記切削面に前記スラリを噴射すると同時に、前記一対のノズル体の他方のノズル体は、前記被処理部材の上面に前記スラリを噴射する」のに対して、甲1発明は、被処理部材(被加工体W)が切削面を有しておらず、したがって、「一方のノズル体が被処理部材の切削面にスラリを噴射すると同時に、他方のノズル体が被処理部材の上面にスラリを噴射」することはない点。
(3)相違点の検討
事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲1における被加工体Wは、具体的には、段落【0001】に記載されているプラズマディスプレイパネル用背面板であって、切削工具のように切削面を有することはなく、したがって、「前記一対のノズル体の一方のノズル体は、前記切削面に前記スラリを噴射すると同時に、前記一対のノズル体の他方のノズル体は、前記被処理部材の上面に前記スラリを噴射する」構成となることはないし、このような構成とする動機もなく、相違点2について記載も示唆もされていない。
そして、当審拒絶理由通知で引用した甲6記載の技術的事項は、砥粒(研磨剤)を混ぜた水等の処理液(スラリー)を、細長い形状を有し、噴射口はスリット68で構成されるノズル64により対象物に噴射する、いわゆるウェットブラスト処理の内容に関するものである。甲6の段落【0055】には、「本実施の形態は、湿式ブラストで説明しているが、乾式ブラストでも湿式ブラストと同様に、奥部の絶縁層を容易に除去することができ、したがって、本発明には乾式ブラストも含まれ、すなわち、本発明のブラストは湿式に限定されなくてよい。」と記載され、スラリーを用いた湿式ブラストについて、乾式ブラストとの置換に関して言及されているものの、やはり、相違点2を充足する内容ではなく、また、相違点2を示唆するものでないことも明らかである。
そして、甲6以外の各甲号証(いずれもノズルに関する甲2~5、甲7~9。なお、甲10は、進歩性の理由に係る証拠方法ではなく、甲11~13は、以下の4(2)ウで検討する。)についてみても、甲3~5、甲7~9には、被処理部材に対して液体と砥粒との混合物であるスラリを噴射するウェットブラストに関する事項が、甲2~3、甲8~9には、直線状に延びるスリット状の噴射口を有するノズル体に関する事項が、甲2~4、甲7~9には、一対のノズル体の噴射口から噴射されるスラリの噴射方向の延長線が互いに交差すること、及び一対のノズル体が、被処理部材に対して同時にスラリを噴射することが、甲2、甲8には、一対のノズル体の噴射口の前記スリットの延設方向が互いに平行となることが記載されているものの、やはり、いずれも相違点2を充足する内容ではなく、また、相違点2を示唆するものでないことも明らかである。
したがって、甲1発明に甲6記載の技術的事項に基づいて、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるとはいえないし、また、上記第4の1のその他の各甲号証である甲2~5、甲7~9についてみても、同様である。
(4)本件特許発明1の進歩性のまとめ
上記(1)~(3)より、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1~9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本件特許発明2~7の進歩性について
本件特許発明2~7は本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1に対してさらに発明特定事項を追加したものであるから、本件特許発明2~7は、上記2で本件特許発明1の進歩性について検討したのと同様に、甲1~9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 申立人意見書における主張
(1)主張の概要
ア サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
申立人は、申立人意見書と共に提出した第4の2の甲10~12に基づいて、本件特許発明のサポート要件に関して、次の主張をする。
訂正後の請求項1は、冶具等を使用せずに被処理部材が動かない(飛び上がりや位置ずれが生じない)ようにするための具体的構成が記載されていないため、本件特許発明1には、課題を解決しない発明まで含まれていることになる。本件特許発明2~7も同様である。
イ 実施可能要件
申立人は、上記アの被処理部材が動かないようにすることに関し、発明の詳細な説明についても明確かつ十分に記載したものでない旨の次の主張をする。
本件の発明の詳細な説明において、被処理物を冶具等で固定するとの記載がなく、さらに、冶具等を使用せずに被処理部材が動かないようにするために、例えば、被処理部材の大きさ・重量条件や、「他方のノズル体」の噴射圧力、噴射速度等の噴射条件の最適範囲といった、被処理部材が飛ばないための具体的構成が記載されておらず、本件特許発明1~7の実施をする者に対して、被処理部材の重量条件等の最適化や、噴射条件の最適化等の試行錯誤、特に、被処理部材が、切削チップの場合のように軽量である場合は、噴射条件の最適化について過度の試行錯誤を強いるものとなっている。
ウ 進歩性
申立人は、申立人意見書に添付した第4の2の甲11~13と共に、次の(ア)~(イ)の構成の観点から、本件特許発明1が進歩性を有しないことを主張する。
(ア)「切削面を有する被処理部材」の構成について
甲11~12の開示からみて、ブラスト処理において、被処理部材を「切削面を有する被処理部材」とすることは、何ら格別困難なことではなく、甲1発明において、被処理部材(ワークW)を「切削面を有する被処理部材」とすることは、当業者であれば容易に想到できる。
(イ)「前記一対のノズル体の一方の・・・上面に前記スラリを噴射する」構成について
本件訂正で請求項1に「前記一対のノズル体の一方のノズル体は、前記切削面に前記スラリを噴射すると同時に、前記一対のノズル体の他方のノズル体は、前記被処理部材の上面に前記スラリを噴射する」構成が追加された本件特許発明1に対して、甲1には当該構成は実質的に開示され、甲13の記載に鑑みれば、「ワークの飛び上がりが防止される」効果も有する。
(2)上記(1)の主張の検討
ア 上記(1)ア(サポート要件)の主張について
申立人の上記(1)アの主張は、甲10~12の開示によれば、ウェットブラストを含むブラスト処理の際は、通常、被処理部材は冶具等に固定されるという知見によるものである。
しかしながら、甲10~12の開示は、単に、ブラスト処理の際に被処理部材は冶具等に固定されるという事例が複数存在することを示しているに過ぎず、以下に説明するように、本件特許発明は、そのような事例を従来技術とするものではない。
すなわち、本件明細書の段落【0005】~【0006】には、特許文献が引用され、従来のノズル部材について、ウェットブラスト処理を行う場合ワークのズレ(「ワーク飛び」)に対し非常に優位性があることが記載されているが、この特許文献は、申立人意見書と共に提出された甲13である。そして、この甲13の、段落【0023】~【0024】には、複数のノズル部材が被処理部材に対して対向側からスラリを噴射することにより、被処理部材を保持しなくても、被処理部材が吹き飛ばされてしまうことが防止されることが記載されているから、甲13と同様に複数のノズル部材が被処理部材の対向側からスラリを噴射する本件特許発明1においても、冶具等を使用せずに被処理部材が動かないようにすること、すなわち、本件特許発明の課題を解決できるといえる。
したがって、本件特許発明1は、課題を解決しない発明まで含むものではなく、本件特許発明2~7についても同様であるから、申立人の主張は採用することができない。
イ 上記(1)イ(実施可能要件)の主張について
申立人のいう被処理部材の大きさ・重量条件や、「他方のノズル体」の噴射圧力、噴射速度等の噴射条件の最適範囲などは、技術常識を勘案することで、ウェットブラスト処理における常識的な数値が想定できるし、上記アでも検討したとおり、複数のノズル部材を用いたウェットブラスト処理において、冶具等を使用せずに被処理部材が動かないようにする技術は、既に本件特許の出願前に従来技術として確立しているから、本件の発明の詳細な説明の内容が理解できる者であれば、材料の選択、設計変更等の通常の創作能力を発揮し、適宜選択すれば良い事項である。したがって、本件の発明の詳細な説明に、上記の条件や範囲について具体的に明示されていないとしても、当業者が、条件の最適化のために過度の試行錯誤を強いるものとまではいえない。
ウ 上記(1)ウ(進歩性)の主張について
甲1の被加工体W(被処理部材)は、上記2(3)で相違点について検討したとおり、具体的には、プラズマディスプレイ用背面板であって、甲1のブラスト加工は、プラズマディスプレイ用背面板のマトリクス状のリブを容易に製造するために、ブラスト材の噴射方向を調整することでリブを選択的に削るもの(甲1の段落【0043】)である。
申立人は、甲11~12に、切削工具の切削面をブラスト処理することが示されているから、甲1発明の被加工体Wとして切削面を有する切削工具に変更することが容易想到である旨を説明するが、単にブラスト処理が共通するというだけで、当業者が、選択的にリブを削るような甲1のブラスト加工の対象として、プラズマディスプレイ用背面板から切削工具の切削面に変更するとはいえない。
また、申立人は、甲1においても切削面を有する切削工具をブラスト加工できることや、本件訂正後の請求項1において,被処理部材の切削面の位置は具体的に特定されておらず、本件特許発明1の切削面について、被処理部材の上面に位置するものも含まれることを説明しているが、そもそも、甲1の被加工体Wとして、切削面を有する切削工具に変更する動機がない以上、当該説明を検討するまでもなく、甲1発明を出発点として、相違点2に係る本件特許発明1の構成にまで想到することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
(3)申立人の主張のまとめ
上記(2)のとおりであるから、上記第4の2の甲10~13を含めて検討しても、上記(1)の申立人意見書の主張はいずれも採用することができない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700635