特許異議申立
2025-700382
浴槽洗浄装置
- 審判番号
- 2025-700382
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-103865
- 登録番号
- 7575692
- 請求日
- 2025年04月02日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社ノーリツ
- 【異議申立人】栃岡 歩実
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 油原 博
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.536-Y (A47K) / P1651.537-Y (A47K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7575692号発明「浴槽洗浄装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7575692号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7575692号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和3年6月23日(優先権主張令和2年7月22日)に出願され、令和6年10月22日にその特許権の設定登録がされ、同月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~7に係る発明の特許に対し、令和7年4月2日に特許異議申立人栃岡歩実(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~7の特許に係る発明(以下、それぞれをその請求項番号により「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」と総称する。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
洗浄ノズルに湯水を供給する湯水通路の途中に設けられ湯水通路から供給される湯水を貯留可能な湯水貯留部と、この湯水貯留部の湯水を洗浄ノズルに送給可能なポンプを備えた浴槽洗浄装置において、
前記湯水貯留部に湯水を供給する湯水通路に、複数の分岐通路と、複数の電磁開閉弁と、定流量弁を設け、
前記湯水貯留部に前記ポンプの吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードと、前記吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードとに切換え可能に構成したことを特徴とする浴槽洗浄装置。
【請求項2】
前記複数の分岐通路の少なくとも1つには前記電磁開閉弁が設けられ、前記複数の分岐通路の少なくとも1つには前記定流量弁が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の浴槽洗浄装置。
【請求項3】
前記湯水貯留部は、前記複数の分岐通路に夫々接続され且つ前記湯水貯留部に湯水を供給するための複数の給水口を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の浴槽洗浄装置。
【請求項4】
前記複数の分岐通路は、前記定流量弁と前記給水口を接続するパイプ材で構成されていることを特徴とする請求項3に記載の浴槽洗浄装置。
【請求項5】
前記複数の分岐通路の下流端部が合流通路に接続され、その合流通路から湯水貯留部に湯水が供給されることを特徴とする請求項1又は2に記載の浴槽洗浄装置。
【請求項6】
前記湯水貯留部は、少なくとも高水位と低水位を検出可能な水位検知手段を備えており、ポンプ運転中には、高水位が検知されたときには前記第2流量で湯水を供給し且つ低水位が検知されたときには第1流量で湯水を供給するように構成されていることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の浴槽洗浄装置。
【請求項7】
運転開始時には、高水位が検知されるまで第2流量で湯水が供給された後に、ポンプ運転が開始されることを特徴とする請求項6に記載の浴槽洗浄装置。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張する。
1 申立理由1 特許法36条4項1号
本件発明1~7に関し、発明の詳細な説明の記載は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされていないから、これらの発明に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2 特許法36条6項1号
本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、これらの発明に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
1 本件明細書等の記載
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」といい、図面、特許請求の範囲とあわせて「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明及び図面には、次の記載及び図示がある(下線は、当審において付した。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽洗浄装置に関し、特に湯水を貯留する湯水貯留部に供給する湯水流量を2段階に切換えることで湯水貯留部のオーバーフローや渇水を防止可能な浴槽洗浄装置に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近の浴槽洗浄装置においては、湯水を貯留可能な湯水貯留部と、湯水貯留部からの湯水を加圧して洗浄ノズルへ送給する加圧ポンプを設け、湯水供給部には定流量弁と電磁開閉弁等が設けられている。また、湯水貯留部には液面レベルセンサが設けられている。
前記加圧ポンプの最大吐水量が湯水貯留部への湯水流入量に対して余裕が少ない場合には、湯水貯留部の液面制御を液面レベルセンサで検知される液面レベルにのみに基づいて行う場合には、オーバーフローや渇水を予防するのは非常に難しくなってくる。
【0008】
上記の課題に対して、例えば複数の対策が考えられる。
第1の対策では、湯水貯留部への湯水の流入量が、ポンプによる吐水量と等しくなるように流量調整弁等により精密に制御する。
第2の対策では、ポンプの最大吐水量に十分な余裕を持たせ、湯水貯留部への湯水の流入量と等量だけ吐水させる。
第3の対策では、湯水貯留部への流入量が不明な環境であっても、液面レベルセンサの検出信号に基づいてオーバーフローや渇水の予兆を検知し、応答性に優れる流量調整弁等により流入量を制御する。
【0009】
上記の第1~第3の対策では、流量を可変制御可能な流量調整弁とその制御手段が必要になったり、大型のポンプが必要になったりする。
本発明の目的は、湯水貯留部への流入量を大小2段階に切換えるという簡単な構成で、ポンプを大型化したり流量調整弁を用いたりすることなく、オーバーフローや渇水を防止可能な浴槽洗浄装置を提供することである。」
(2)「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1、図2に示すように、浴槽1には、浴槽1の湯張りや追焚きのための給湯装置2が湯張り追焚き配管3を介して接続されている。また、浴槽1の底部には、湯水を自動排水するための排水栓4と、洗剤と湯水を散布して浴槽1を洗浄するための洗浄ノズル5が配設されている。浴槽1には蓋1aが被せられている。
【0023】
浴槽1の近傍には、洗浄ノズル5に洗剤と湯水を供給する洗浄ユニット6と、洗剤をためておく洗剤タンク7が配設されている。浴槽洗浄装置10は、洗浄ユニット6と洗剤タンク7と洗浄ノズル5を有し、複数の配管類によってこれらを接続して構成されている。
【0024】
洗浄ユニット6には、洗剤タンク7から洗剤を供給するための洗剤配管7aと、給湯装置2から湯水を供給するための給湯配管2aが接続されている。洗剤タンク7にはレベルセンサが設けられ、その検出信号は信号線7bにより電源通信ユニット8へ供給される。また、例えば浴室の天井に配設された電源通信ユニット8と洗浄ユニット6は、電力供給用の電源コードと通信用コードとを束ねたコード8aによって接続されている。
・・・
【0027】
台所リモコン12と洗浄リモコン13は、浴槽洗浄装置10による洗浄運転の開始操作を行うための操作端末である。尚、浴室リモコン11からも浴槽洗浄装置10による洗浄運転の開始操作を行うことができる。」
(3)「【0028】
図2に示すように、浴槽洗浄装置10の洗浄ユニット6は、洗浄運転に関連する機器を制御する制御部21と、湯水を貯める貯留タンク22(湯水貯留部)と、給湯配管2aに接続され且つ貯留タンク22に湯水を供給する湯水供給管23(湯水通路の一部に相当する)であって、2本の分岐通路23a,23bとこれら分岐通路23aが合流した合流通路23c(下流端が貯留タンク22に接続されている)を有する湯水供給管23と、この湯水供給管23に介装されたフィルタ24と、一方の分岐通路23aに上流側から順に介装された電磁開閉弁25a及び定流量弁26aと、他方の分岐通路23bに上流側から順に介装された電磁開閉弁25b及び定流量弁26bを有する。
【0029】
貯留タンク22には、低水位と高水位を検出可能なフロート式の水位検知計22aが設けられ、その検出信号は制御部21に供給される。また、貯留タンク22からのびるオーバーフロー管22b(図1参照)も設けられている。
【0030】
更に、洗浄ユニット6は、貯留タンク22から洗浄ノブル5まで延びる吐出配管27(湯水通路の一部に相当する)と、この吐出配管27に上流側から順に介装されたポンプ28と2つの逆止弁30と流量センサ31とサーミスタ29と洗剤供給管7aが接続されたオリフィス32等を有する。洗剤タンク7から延びる洗剤供給管7aには電磁開閉弁7cが介装されている。
【0031】
制御部21は、例えば演算部と記憶部と入出力部と時計回路を備えたマイクロコンピュータであり、記憶部に格納された制御プログラム等に基づいて洗浄運転に関連する機器や排水栓4を制御する。この制御部21は、洗浄運転では、排水栓4を開け、湯水供給管23や洗剤供給管7aの電磁開閉弁25a,25b,7c等の開閉やポンプ28の駆動等を制御すると共に、洗浄運転の開始時刻又は終了時刻、洗浄コース、洗浄運転の回数(自動洗浄回数)等を含む洗浄運転履歴を記憶する。」
(4)「【0032】
洗浄運転について説明する。
台所リモコン12等の操作端末の操作によって浴槽洗浄装置10による洗浄運転の開始操作が行われると、制御部21は貯留タンク22に湯水を貯めながら、ポンプ28を駆動して洗浄ノズル5に供給する湯水に洗剤を混合し、洗浄ノズル5から洗剤と湯水を散布する。一定時間洗剤と湯水の散布を実行後、濯ぎ洗浄として洗浄ノズル5から湯水を散布して洗剤と汚れを洗い流す。この洗剤及び湯水の散布と湯水の散布を所定の回数だけ繰り返すと洗浄運転が終了する。
【0033】
次に、洗浄を実行するときに、水位検知センサ22aで検出する水位に基づいて、電磁開閉弁25a,25bと定流量弁26a,26bを介して貯留タンク22へ供給される湯水の流量を制御する電磁弁開閉制御について図3(a)~(h)に基づいて説明する。
定流量弁26a,26bは、夫々流量を5L/minに制限する定流量弁であり、ポンプ28の吐水量は6.5L/min(一定)である。
【0034】
この電磁弁開閉制御では、貯留タンク22にポンプ28の吐水量よりも多い第1流量(10L/min)で湯水を供給する第1モードと、前記吐水量よりも少ない第2流量(5L/min)で湯水を供給する第2モードとに切換え可能になっている。
【0035】
図3(a)は洗浄運転開始直後の状態を示し、洗剤を供給する電磁開閉弁7bは開弁され、貯留タンク22はほぼ空であり、水位は下限状態になっている。この状態では1つの電磁開閉弁25aだけ開弁され、ポンプ28は待機状態にされ、貯留タンク22へ定流量弁26aを介して湯水が5L/minで供給され、図3(b)に示すように、高水位になって水位検知計22aにより検知されると、図3(c)に示すように水位がオーバーフローしないように電磁開閉弁25aも閉弁され、ポンプ28の作動が開始され、その直後には図3(d)に示すように、1つの電磁開閉弁25bだけ開弁され、定流量弁26bを介して湯水が5L/minで供給される。
【0036】
すると、貯留タンク22への湯水の供給量が5L/minであるのに対して、ポンプ28の吐水量が6.5L/minであるため、貯留タンク22の水位が徐々に低下していき、図3(e)に示すように貯留タンク22の水位が低水位になって水位検知計22aにより検知されると、水位を上昇させるため、電磁開閉弁25bに加えて、もう1つの電磁開閉弁25aも開弁され、定流量弁26a,26bを介して10L/minにて湯水が貯留タンク22へ供給され水位が上昇していく。
【0037】
湯水の供給量が10L/minであるのに対してポンプ28の吐水量が6.5L/minであるため、水位が徐々に上昇していき、図3(d)に示すように高水位になって水位検知計22aにより検知されると、電磁開閉弁25aが閉弁されて電磁開閉弁25bだけが開弁状態にされる。
【0038】
すると、貯留タンク22への湯水の供給量が5L/minであるのに対して、ポンプ28の吐水量が6.5L/minであるため、貯留タンク22の水位が徐々に低下していき、図3(e)に示すように貯留タンク22の水位が低水位になって水位検知計22aにより検知されると、水位を上昇させるため、2つの電磁開閉弁25a,25bが開弁されて10L/minにて湯水が貯留タンク22へ供給されて水位が上昇していく。
【0039】
洗浄中は、上記のように図3(d)→図3(e)→図3(d)→図3(e)・・のように繰り返していく。そのため、水位は高水位と低水位の間を下降と上昇を繰り返す。
【0040】
所定時間の間湯水と洗剤による洗浄を行ってから、設定時間の間濯ぎ洗浄を上記と同様に行う。但し、この場合は、電磁開閉弁7cを閉弁し、洗剤の供給を遮断した状態で洗浄する。洗剤と湯水による洗浄と湯水による濯ぎ洗浄を所定の回数だけ繰り返してから、洗浄運転を終了する際には、次のように行う。
【0041】
図3(f)の状態から洗浄運転を終了する際には、或いは図3(e)の状態から洗浄運転を終了する際には、図3(g)に示すように、電磁開閉弁25a,25bを両方とも閉弁状態に切換え、低水位になった時点から所定短時間の間ポンプ28による吐水を継続し、図3(h)のように貯留タンク22をほぼ空の状態にしてポンプ28を停止させる。」
(5)「【0042】
次に、以上説明した電磁弁開閉制御の作用、効果について説明する。
貯留タンク22の液面が低水位まで低下した場合には吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードに切換え、貯留タンク22の液面が高水位まで上昇した場合には吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードに切換えることで、貯留タンク22のオーバーフローと渇水を防止することができる。2つの電磁開閉弁25a,25bの開閉を介して2つの定流量弁のうちの湯水を流す定流量弁の数(つまり流量)を切換えることで、第1流量と第2流量を実現することができる。
【0043】
2つの分岐通路23a,23bのうち、一方の分岐通路23aには電磁開閉弁25aと定流量弁26aが設けられ、他方の分岐通路23bには定流量弁26bと定流量弁26bが設けられている。そのため、第1流量のときは2つの分岐供給路23a,23bの全部から湯水を供給し、第2流量のときは片方の分岐供給路23a又は23bから湯水を供給する。」
(6)「【実施例3】
【0051】
前記洗浄ユニット6の湯水供給管23に設ける分岐通路と定流量弁と電磁開閉弁を介して湯水流量を切換える切換え機構の種々の形態について説明する。尚、洗浄ユニット6のポンプ28の吐水量は6.5L/minであるとし、洗浄ユニット6のその他の構成は、実施例1と同様であるので説明を省略する。
・・・
【0055】
図8に示す第4の切換え機構のように、分岐通路23a,23bより上流において、湯水供給管23に定流量弁38(流量は10L/min)が介装され、一方の分岐通路23aには電磁開閉弁25aと定流量弁26aが介装され、他方の分岐通路23bには電磁開閉弁25bが介装されている。
電磁開閉弁25bを閉弁し、電磁開閉弁25aを開弁すると、5L/minにて湯水を供給することができ、電磁開閉弁25aを閉弁し、電磁開閉弁25bを開弁すると10L/minにて湯水を供給することができる。」
(7)図1、図2、図3、図8
【図1】
[図:0001425803000001.jpg]
【図2】
[図:0001425803000002.jpg]
【図3】
[図:0001425803000003.jpg]
【図8】
[図:0001425803000004.jpg]
2 申立理由1 特許法36条4項1号
(1)判断基準
本件発明1~7は物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)実施可能要件についての判断
本件発明1~7について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かを、上記(1)の判断基準に基づいて、判断する。
ア 本件発明1について
(ア)当審の判断
a 本件明細書等の発明の詳細な説明には、浴槽洗浄装置10を、洗浄ユニット6と洗剤タンク7と洗浄ノズル5を有し、複数の配管類によってこれらを接続して構成し(【0023】)、
浴槽洗浄装置10の洗浄ユニット6は、洗浄運転に関連する機器を制御する制御部21と、湯水を貯める貯留タンク22(湯水貯留部)と、給湯配管2aに接続され且つ貯留タンク22に湯水を供給する湯水供給管23(湯水通路の一部に相当する)であって、2本の分岐通路23a,23bを有する湯水供給管23と、一方の分岐通路23aに上流側から順に介装された電磁開閉弁25a及び定流量弁26aと、他方の分岐通路23bに上流側から順に介装された電磁開閉弁25b及び定流量弁26bと、貯留タンク22から洗浄ノズル5まで延びる吐出配管27(湯水通路の一部に相当する)と、この吐出配管27に上流側から順に介装されたポンプ28とを有するものとし(【0028】【0030】)、
制御部21は、電磁開閉弁25a,25b,7c等の開閉やポンプ28の駆動等を制御する(【0031】)ところ、
洗浄を実行するときに、水位検知センサ22aで検出する水位に基づいて、電磁開閉弁25a,25bと定流量弁26a,26bを介して貯留タンク22へ供給される湯水の流量を制御する電磁弁開閉制御は、貯留タンク22にポンプ28の吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードと、前記吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードとに切換え可能とされている(【0033】、【0034】)ことが記載されているものである。
b 上記したように、本件明細書等の発明の詳細な説明には、水位検知センサ22aで検出する水位に基づいて、貯留タンク22にポンプ28の吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードと、前記吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードとに切換え可能する「電磁弁開閉制御」が記載されている。
c ここで、定流量弁について、定流量弁に流入する流量が十分にあることを前提として、定流量弁から流出する流量を一定のものとすることは技術常識であるから、本件明細書等の【図8】に示される実施例3の第4の切換え機構について、定流量弁38に流入する流量である湯水供給管23の入り口における流量が十分であることを前提としていることが理解される。
d また、本件発明1において、「前記湯水貯留部に前記ポンプの吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モード」という構成は、湯水通路(湯水供給路23)の入り口への流量が第1流量以上であることを前提としていると、合理的に理解できる。これに反し、本件発明1について、湯水通路の入り口への流量が第1流量より少ない場合であっても、入り口への流量より多い第1流量まで流量を増やして第1モードを実施すると理解することは、合理的ではない。
e そして、定流量弁26aの流量がポンプの吐出量よりも少ない流量である実施例3の第4の切換え機構について、湯水通路の入り口への流量が第1流量以上であることを前提として、電磁開閉弁25a,25bによって2本の分岐通路23a,23bの両方に通水することでポンプの吐出量よりも多い第1流量で湯水を供給することができるとともに、電磁開閉弁25bを閉じ、電磁開閉弁25aを開いて、ポンプの吐出量よりも少ない流量である定流量弁26aによってポンプの吐出量よりも少ない第2流量で湯水を供給することができ、電磁開閉弁を制御することによって第1流量と第2流量の切換えを行うことができることを理解できるから、より少ない第2流量で湯水を供給する第2モードへの切換えを行う上で、「定流量弁」が複数なければ当業者に過度の試行錯誤が必要となるような事情はない。よって、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1の「前記湯水貯留部に湯水を供給する湯水通路に、複数の分岐通路と、複数の電磁開閉弁と、定流量弁を設け」た浴槽洗浄装置において「前記湯水貯留部に前記ポンプの吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードと、前記吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードとに切換え可能に構成」することについて、当業者に過度の試行錯誤を要することなく生産し、使用することができる程度の説明がされているものである。
(イ)申立人の主張
申立人は申立書において概略以下の主張をする。
本件発明1~7は、いずれも、「前記湯水貯留部に湯水を供給する湯水通路に、複数の分岐通路と、複数の電磁開閉弁と、定流量弁を設け」たものであるところ、定流量弁については「複数の」という記載がないため、湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられている構成を含む。
しかしながら、湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられている構成については、例えば、以下の参考図1、2のような構成において、どのようにすればポンプの吐出量よりも多い第1流量での湯水の供給と、ポンプの吐出量よりも少ない第2流量での湯水の供給を切り換え可能とできるか、何ら説明がされていないから、出願時の技術常識を参酌しても、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~7を実施することができる程度の記載があるとはいえない。
[図:0001425803000005.jpg]
[図:0001425803000006.jpg]
(申立書7頁1行~14頁下から3行)
(ウ)申立人の主張の検討
a 物の発明の実施においては、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する(上記(1)の判断基準)ものであって、特許請求の範囲の記載に形式上包含され得るあらゆる具体例や変形例について発明の詳細な説明に漏れなく記載されていなければ、実施可能要件を満たさないと判断されるものではない。そして、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていることは、上記(ア)において説示したとおりである。
b 申立人は、湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられている構成については、出願時の技術常識を参酌しても、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~7を実施することができる程度の記載があるとはいえない旨主張するので、以下、湯水通路に1個の定流量弁のみの場合について検討する。
申立人が湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられている構成として例示する参考図1は、本件明細書等の【図8】に示される実施例3の第4の切換え機構において、分岐通路23a,23bより上流である湯水供給管23の入り口付近に介装される定流量弁38が存在しないために定流量弁が1個のみとなっているものといえる。
ここで、本件明細書等における実施例3の第4の切換え機構が介装された湯水供給管23は、上記(ア)dにおいて示したのと同様の理由により、通常その入り口において第1流量以上の流量があることを想定しているといえる。そして、この【図8】に示される切換え機構において、湯水供給管23の入り口付近に介装された定流量弁38がなくとも、残る定流量弁26aによって、より少ない第2流量への切換えは可能であることが理解できるから、湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられている構成についても、本件明細書等の記載及び技術常識から、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できるといえる。
また、湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられる場合において、定流量弁の配置をどのように変更しても必ず第1流量と第2流量の切換えが可能でなければ本件発明1を実施する上で当業者に過度の試行錯誤を要するものではないから、参考図2に基づく申立人の主張は採用することができない。
よって、湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられている構成についても、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、申立人の主張は、上記(ア)の判断を左右するものではない。
(エ)小括
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明には、本件発明1に係る「浴槽洗浄装置」を生産し、使用するうえで、当業者に過度の試行錯誤を要さない程度の説明が記載されている。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を満たすものである。
イ 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の構成を有するものであり、本件発明2~7において付加された構成について、実施をする上で当業者が過度の試行錯誤を要するような事情はないから、上記アにおいて本件発明1について検討したのと同様の理由により、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明2~7に係る浴槽洗浄装置を生産し、使用するうえで、当業者に過度の試行錯誤を要さない程度の説明が記載されているといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明2~7について、特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を満たすものである。
3 申立理由2 特許法36条6項1号
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件についての判断
ア 本件発明1
上記(1)の判断基準に基づいて、判断する。
(ア)発明が解決しようとする課題
本件発明1の課題は、「湯水貯留部への流入量を大小2段階に切換えるという簡単な構成で、ポンプを大型化したり流量調整弁を用いたりすることなく、オーバーフローや渇水を防止可能な浴槽洗浄装置を提供すること」(上記1(1)【0009】)と認められる。
(イ)本件明細書等の発明の詳細な説明の記載
本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1について、上記2(2)ア(ア)に摘記した事項が記載されている。
(ウ)当審の判断
そして、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1の「前記湯水貯留部に湯水を供給する湯水通路に、複数の分岐通路と、複数の電磁開閉弁と、定流量弁を設け」た浴槽洗浄装置において「前記湯水貯留部に前記ポンプの吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードと、前記吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードとに切換え可能に構成」することに対応する、水位検知センサ22aで検出する水位に基づいて、貯留タンク22にポンプ28の吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードと、前記吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードとに切換え可能にする「電磁弁開閉制御」(上記1(4)【0032】、【0033】)が記載されており、「電磁弁開閉制御の作用、効果」について、「貯留タンク22の液面が低水位まで低下した場合には吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モードに切換え、貯留タンク22の液面が高水位まで上昇した場合には吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モードに切換えることで、貯留タンク22のオーバーフローと渇水を防止することができる」こと(上記1(5)【0042】)が記載されているから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(エ)申立人の主張
申立人は申立書において概略以下の主張をする。
本件明細書に記載の発明は、「浴槽洗浄装置において、ポンプを大型化したり流量調整弁を用いたりすることなく、オーバーフローや渇水を防止する」という課題を解決するために、「複数の電磁開閉弁の開閉を介して湯水を流す定流量弁の数を切換える」という簡単な構成によって、「ポンプの吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モード」と、「ポンプの吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モード」とを切替え可能として、オーバーフローや渇水の防止を実現するものであり、上記した課題を解決するために、「複数の電磁開閉弁の開閉を介して湯水を流す定流量弁の数を切換える」構成とするためには、湯水通路に複数の定流量弁を設けておいて、複数の定流量弁のうちで湯水を流す定流量弁の数を選択可能とすることが必須であると考えられるところ、湯水通路に1個の定流量弁のみが設けられている構成では、湯水を流す定流量弁の数を切り替えることができず、上記の課題を解決することができない。また、仮に上記の課題が、「複数の電磁開閉弁の開閉を介して湯水の流量を第1流量と第2流量の間で切り換える」という構成によって解決されると解釈した場合でも、参考図1や参考図2の構成の場合には、複数の電磁開閉弁の開閉を介して湯水の流量を第1流量と第2流量の間で切り替えることができず、課題を解決することができない。(申立書15頁13行~16頁14行)
(オ)申立人の主張の検討
上記(ア)に指摘したように、本件発明1の課題は、「湯水貯留部への流入量を大小2段階に切換えるという簡単な構成で、ポンプを大型化したり流量調整弁を用いたりすることなく、オーバーフローや渇水を防止可能な浴槽洗浄装置を提供すること」であり、また、流量の切り換えは、「ポンプの吐水量よりも多い第1流量で湯水を供給する第1モード」と、「ポンプの吐水量よりも少ない第2流量で湯水を供給する第2モード」とを切替え可能であれば良い。また、上記2(2)ア(ア)に示したとおり、複数の定流量弁を用いなければなし得ないものではない。よって、申立人の上記主張は失当である。
参考図1の構成において第1流量と第2流量との間で切換できないものではないことは、上記2(2)ア(ウ)において説示したとおりである。また、定流量弁等の配置を選択して、第1流量と第2流量との間で切換えができないようにすることが可能であるとしても、そのことをもって、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されていないといえるものではない。
よって、申立人の主張は、上記(ア)の判断を左右するものではない。
(カ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、特許法36条6項1号に規定するサポート要件を満たすものである。
イ 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の構成を有するものであり、上記アにおいて本件発明1について検討したのと同様の理由により、本件発明2~7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明2~7は、特許法36条6項1号に規定するサポート要件を満たすものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700382