特許異議申立
2023-700945
トイレットロール
- 審判番号
- 2023-700945
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-015001
- 登録番号
- 7239031
- 請求日
- 2023年09月11日
- 審決日
- 2024年06月20日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人谷・阿部特許事務所
- 【異議申立人】金山 愼一
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 加藤 範久
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.121-YAA(A47K) / P1651.536-YAA(A47K) / P1651.537-YAA(A47K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7239031号発明「トイレットロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7239031号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7239031号の請求項1~3、5に係る特許を維持する。
特許第7239031号の請求項4、6に係る特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7239031号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年12月28日に出願された特願2017-254772の一部を令和4年2月2日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 5年 1月23日付け:特許査定
令和 5年 3月 6日 :特許権の設定登録
令和 5年 3月14日 :特許掲載公報発行
令和 5年 9月11日 :特許異議の申立て
(特許異議申立人金山愼一(以下、「申 立人」という。))
令和 5年12月 4日付け:取消理由通知
令和 6年 2月 2日 :訂正請求書及び意見書の提出
令和 6年 2月 9日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
令和 6年 3月15日 :意見書(申立人)
第2 訂正の適否
令和6年2月2日付けの訂正請求書によりなされた訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求によりなされた訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲について、以下のとおり訂正することを求めるものである。
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1~17のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において、
「前記トイレットペーパー1枚あたりの密度が0.140g/cm3以上0.180g/cm3以下であり、」とあるのを、
「前記トイレットペーパー1枚あたりの密度が0.144g/cm3以上0.174g/cm3以下であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において、
「前記トイレットペーパー部の応力は13.0N以上22.0N以下であり、」とあるのを、
「前記トイレットペーパー部の潰れ強度は18.1N以上21.1N以下であり、」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の、上記訂正事項2の「前記トイレットペーパー部の潰れ強度は18.1N以上21.1N以下であり、」の後に、
「ここで前記トイレットペーパー部の潰れ強度とは、前記トイレットロールを定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記トイレットロールを長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値であり、」を加える。
(4)訂正事項4
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において、
「前記トイレットペーパーの長手方向の引張強度が1.60N以上2.20N以下であり、」とあるのを、
「前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度が1.70N/15mm以上2.10N/15mm以下であり、」に訂正する。
(5)訂正事項5
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の、上記訂正事項4の「前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度が1.70N/15mm以上2.10N/15mm以下であり、」の後に、
「ここで前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度とは、前記トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定をし、6回の測定の平均を算出した値であり、」を加える。
(6)訂正事項6
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の、上記訂正事項5の「ここで前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度とは、前記トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定をし、6回の測定の平均を算出した値であり、」の後に、
「前記トイレットペーパーの長手方向の伸び率が12.4%以上15.6%以下であり、ここで前記トイレットペーパーの伸び率とは、前記トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定し、6回の測定の平均を算出した値であり、」を加える。
(7)訂正事項7
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において、
「前記紙管の応力が7.0N以上13.0N以下であ」とあるのを、
「前記紙管の潰れ強度が7.6N以上12.5N以下であり、」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の、上記訂正事項7の「前記紙管の潰れ強度が7.6N以上12.5N以下であり、」の後に、
「ここで前記紙管の潰れ強度とは、前記紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値であり、」を加える。
(9)訂正事項9
本件特許の特許請求の範囲の請求項1において、
「前記トイレットペーパー部の応力と前記紙管の応力との差が12.0N以下である」とあるのを、
「前記トイレットペーパー部の潰れ強度と前記紙管の潰れ強度との差が7.0N以上10.6N以下である」に訂正する。
(10)訂正事項10
本件特許の特許請求の範囲の請求項2において、
「前記トイレットペーパーの長手方向の長さが45~55mであって、」とあるのを、
「前記トイレットペーパーの長手方向の長さが50mであって、」に訂正する。
(11)訂正事項11
本件特許の特許請求の範囲の請求項2において、
「前記トイレットロールの直径が112~120mmである」とあるのを、
「前記トイレットロールの直径が114~115mmである」に訂正する。
(12)訂正事項12
本件特許の特許請求の範囲の請求項3において、
「前記トイレットペーパーの坪量が14.0~17.0g/m2」とあるのを、
「前記トイレットペーパーの坪量が15.72~16.56g/m2」に訂正する。
(13)訂正事項13
本件特許の特許請求の範囲の請求項3において、
「紙厚が180~225μmである」とあるのを、
「紙厚が184~222μmである」に訂正する。
(14)訂正事項14
本件特許の特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(15)訂正事項15
本件特許の特許請求の範囲の請求項5において、
「前記紙管は、複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせて貼り合わせたスパイラル紙管である」とあるのを、
「前記紙管は、複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせたスパイラル紙管である」に訂正する。
(16)訂正事項16
本件特許の特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(17)訂正事項17
本件特許の明細書の段落【0027】において、
「プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の圧力として測定される値」とあるのを、
「プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値」に訂正する。
(18)一群の請求項について
訂正事項1~訂正事項16に係る訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1~8によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項に該当するものであるから、訂正事項1~訂正事項16に係る訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
2 訂正事項についての判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、「トイレットペーパー1枚あたりの密度」の数値範囲を、「0.140g/cm3以上0.180g/cm3以下」から「0.144g/cm3以上0.174g/cm3以下」に減縮するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書(以下「本件特許明細書」といい、特許請求の範囲と図面を合わせて「本件特許明細書等」という。)には、以下の記載がある。
「【0032】
本発明における2プライのトイレットロール1は、ペーパーログから切り出される際に、切断圧力によって紙管2が塑性変形しないために必要なトイレットロールの応力を有する。その具体例として、2プライのトイレットロール1の応力、密度、引張強度、伸び率の組み合わせにおいて、ペーパーログをログソー5で切断した時に紙管2が塑性変形しなかったときの実施例を下表に示す。また、比較例として、紙管2の強度が足りず紙管2が潰れたケースも示す。
【0033】
【表1】
[図:0001414184000001.jpg]
」
上記【表1】を参照すると、紙管のつぶれが「なし」とされた実施例1~4からは、「トイレットペーパー1枚あたりの密度」が、「0.144g/cm3以上0.174g/cm3以下」である点が導き出せる。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2のうち、「前記トイレットペーパー部の応力」を「前記トイレトペーパー部の潰れ強度」とする訂正は、材料力学の技術常識を参酌すると、「応力」という用語は、一般的に「潰れ強度」を表す用語ではないことから「トイレットペーパー部の潰れ強度」の数値を「トイレットペーパー部の応力」と表現することは適切ではなく、不明瞭であったところ、その記載を「トイレットペーパー部の潰れ強度」と訂正するものである。
また、トイレットペーパー部の潰れ強度の数値範囲を、「13.0N以上22.0N以下」から「18.1N以上21.1N以下」に訂正することは、数値範囲を減縮することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0033】に示された【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「ペーパー部」の「応力(N)」が、「18.1N以上21.1N以下」である点が導き出せる。
また、同【0027】には、「また、ペーパー部の応力、紙管の応力とは、「潰れ強度」であり、トイレットロール、または紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、トイレットロール、または紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の圧力として測定される値である。」と記載されていることから、上記【表1】に「応力(N)」「ペーパー部」として示された数値は、「ペーパー部」の「潰れ強度」であることが導き出せる。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、測定方法が不明であったため「ペーパー部の応力」として測定される物理量の技術的意義が不明瞭であったところ、その測定方法を特定することにより、明瞭にするものである。
また、「前記トイレットペーパー部の応力」を「前記トイレットペーパー部の潰れ強度」とする訂正は、材料力学の技術常識を参酌すると「応力」という用語は一般的に「潰れ強度」を表す用語ではないことから、「トイレットペーパー部の潰れ強度」の数値を「トイレットペーパー部の応力」と表現することは適切ではなく、不明瞭であったところ、その記載を「トイレットペーパー部の潰れ強度」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項3は、本件特許明細書の【0027】に記載された「ペーパー部の応力」として測定される物理量の測定方法を記載したものである。
したがって、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項3は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4のうち、「トイレットペーパーの長手方向の引張強度」を「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」とする訂正は、「引張強度」の定義が不明瞭であったところ、その記載を「乾燥引張強度」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4における「引張強度」に関して「1.60N以上2.20N以下」を「1.70N/15mm以上2.10N/15mm以下」とする訂正のうち、単位を「N」から「N/15mm」とする訂正は、材料力学の技術常識を参酌すると、「強度」に関する物理量を表現する場合には、一般的に力を表す「N」を用いるものではないから、その記載が不明瞭であったところ、紙の「強度」に関する物理量を表現する場合は、単位長さあたりの印加される力の値を採用すべきことを考慮し、「紙を幅15mm」「にカットしたサンプル」を用いて「引張強度」を測定していることを根拠に「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」の単位を「N/15mm」と記載することによって明瞭にすることは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
さらに、トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度の数値範囲を、「1.60」以上「2.20」以下から「1.70」以上「2.10」以下に訂正することは、数値範囲を減縮することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0024】には、「トイレットペーパーの引張強度とは、乾燥引張強度であり、紙を幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定をし、6回の測定の平均を算出した値である。引張強度の測定には、例えば、横型引張試験機(熊谷理機工業株式会社製)を用いることができる。」と記載されていることから、同【0033】に示された【表1】に「縦」の「引張強度」として示された数値は、「乾燥引張強度」であることが導き出せるとともに、「紙を幅15mm」「にカットしたサンプル」を用い、上記【表1】において、測定値自体の単位は「N」であることから、「乾燥引張強度」の単位として「N/15mm」と表現される点が導き出せる。
また、上記【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例は、「N」で表現される試験器による測定値が、1.70以上2.10以下である点が導き出せる。
したがって、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項4は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は、測定方法が不明であったため「トイレットペーパーの長手方向の引張強度」として測定される物理量の技術的意義が不明瞭であったところ、その測定方法を特定することにより、明瞭にするものである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項5は、本件特許明細書の【0024】に記載された「トイレットペーパーの引張強度」として測定される物理量の測定方法を記載したものである。
したがって、訂正事項5は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項5は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6は、新たに数値範囲の条件として、「トイレットペーパーの長手方向の伸び率が12.4%以上15.6%以下」とする数値範囲を追加し、さらに、その「トイレットペーパーの長手方向の伸び率」が「トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定し、6回の測定の平均を算出した値であ」ることを特定することによって、特許請求の範囲を減縮するものである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項6は、本件特許明細書の【0025】に記載された「トイレットペーパーの伸び率」として測定される物理量の測定方法を特定し、同【0033】に示された【表1】における、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「縦」の「伸び(%)」の数値に基づき、「トイレットペーパーの長手方向の伸び率が12.4%以上15.6%以下」とする数値範囲を導き出したものである。
したがって、訂正事項6は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項6は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7のうち、「前記紙管の応力」を「前記紙管の潰れ強度」とする訂正は、材料力学の技術常識を参酌すると、「応力」という用語は、一般的に「潰れ強度」を表す用語ではないことから「紙管の潰れ強度」の数値を「紙管の応力」と表現することは適切ではなく、不明瞭であったところ、その記載を「紙管の潰れ強度」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、紙管の潰れ強度の数値範囲を、「7.0N以上13.0N以下」から「7.6N以上12.5N以下」に訂正することは、数値範囲を減縮することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0033】に示された【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「紙管」の「応力(N)」が、7.6N以上12.5N以下である点が導き出せる。
また、同【0027】には、「また、ペーパー部の応力、紙管の応力とは、「潰れ強度」であり、トイレットロール、または紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、トイレットロール、または紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の圧力として測定される値である。」と記載されていることから、上記【表1】に「応力(N)」「紙管」として示された数値は、「紙管」の「潰れ強度」であることが導き出せる。
したがって、訂正事項7は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項7は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8は、測定方法が不明であったため「紙管の応力」として測定される物理量の技術的意義が不明瞭であったところ、その測定方法を特定することにより、明瞭にするものである。
また、「前記紙管の応力」を「前記紙管の潰れ強度」とする訂正は、材料力学の技術常識を参酌すると、「応力」という用語は、一般的に「潰れ強度」を表す用語ではないことから「紙管の潰れ強度」の数値を「紙管の応力」と表現することは適切ではなく、不明瞭であったところ、その記載を「紙管の潰れ強度」と訂正するものである。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項8は、本件特許明細書の【0027】に記載された「紙管の応力」として測定される物理量の測定方法を記載したものである。
したがって、訂正事項8は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項8は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(9)訂正事項9
ア 訂正の目的の適否
訂正事項9のうち、のうち、「前記トイレットペーパー部の応力と前記紙管の応力との差」を「前記トイレットペーパー部の潰れ強度と前記紙管の潰れ強度との差」とする訂正は、材料力学の技術常識を参酌すると、「応力」という用語は、一般的に「潰れ強度」を表す用語ではないことから「前記トイレットペーパー部の潰れ強度と前記紙管の潰れ強度との差」の数値を「前記トイレットペーパー部の応力と前記紙管の応力との差」と表現することは適切ではなく、不明瞭であったところ、その記載を「前記トイレットペーパー部の潰れ強度と前記紙管の潰れ強度との差」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、トイレットペーパー部の潰れ強度と紙管の潰れ強度との差の数値範囲を、「12.0N以下」から「7.0N以上10.6N以下」に訂正することは、数値範囲を減縮することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0033】に示された【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「ペーパー部」と「紙管」の「応力(N)」の差が、7.0N以上10.6N以下である点が導き出せる。
また、同【0027】には、「また、ペーパー部の応力、紙管の応力とは、「潰れ強度」であり、トイレットロール、または紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、トイレットロール、または紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の圧力として測定される値である。」と記載されていることから、上記【表1】に「応力(N)」「ペーパー部」「紙管」として示された数値は、「ペーパー部」と「紙管」の「潰れ強度」であることが導き出せる。
したがって、訂正事項7は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項7は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(10)訂正事項10
ア 訂正の目的の適否
訂正事項9は、「トイレットペーパーの長手方向の長さ」の数値範囲を、「45~55m」から「50m」に減縮するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0034】に示された【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「トイレットペーパーの長手方向の長さ」が、すべて50mである点が導き出せる。
したがって、訂正事項10は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項10は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項10に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(11)訂正事項11
ア 訂正の目的の適否
訂正事項11は、「トイレットロールの直径」の数値範囲を、「112~120mm」から「114~115mm」に減縮するものである。
よって、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0033】に示された【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「トイレットロールの直径」が、「114~115mmである」点が導き出せる。
したがって、訂正事項11は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項11は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項11に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(12) 訂正事項12
ア 訂正の目的の適否
訂正事項12は、「トイレットペーパーの秤量」の数値範囲を、「14.0~17.0g/m2」から「15.72~16.56g/m2」に減縮するものである。
よって、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0033】に示された【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「トイレットペーパーの秤量」が、「15.72~16.56g/m2である」点が導き出せる。
したがって、訂正事項12は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項11は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項12に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(13) 訂正事項13
ア 訂正の目的の適否
訂正事項13は、「紙厚」の数値範囲を、「180~225μm」から「184~222μm」に減縮するものである。
よって、訂正事項13は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0033】に示された【表1】を参照すると、実施例1~4である紙管のつぶれが「なし」とされた例の「紙厚」が、「184~222μmである」点が導き出せる。
したがって、訂正事項13は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項13は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項13に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(14) 訂正事項14
ア 訂正の目的の適否
訂正事項14は、訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正であるから、訂正事項14は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項14は、訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正であるから、特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項14は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項14は、請求項の削除を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(15)訂正事項15
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項5には、「複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせて貼り合わせたスパイラル紙管である」と記載されており、「貼り合わせ」が重複して記載されていたところ、訂正事項15に係る訂正は、その記載を、「複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせたスパイラル紙管である」と訂正するもので、誤記の訂正を目的とするものである。
よって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に
掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0029】には、「紙管2は、例えば幅60~80mm程度の細長い形状の帯状紙2枚からなる内面基紙21および外面基紙22を接着剤により互いに張り合わせつつ、螺旋状に巻き付けて形成された2層構造のスパイラル紙管としてもよい。」と記載されており、紙管として、複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせて形成したスパイラル紙管を用いる点が導き出せる。
したがって、訂正事項15は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項15は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項15に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(16) 訂正事項16
ア 訂正の目的の適否
訂正事項16は、訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正であるから、訂正事項16は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項16は、訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正であるから、特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項16は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項16は、請求項の削除を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(17) 訂正事項17
ア 訂正の目的の適否
訂正事項17は、本来「力」と書くべき記載が「応力」と記載されたものを、「力」に訂正するものである。
よって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の【0027】には、「トイレットロール、または紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、トイレットロール、または紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の圧力として測定される値である。」と記載されているが、同【0033】の【表1】を参照すると、「プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の圧力として測定される値」の単位が「N」で表現されており、この「N」は「力」の単位であって「応力」の単位ではないことは力学の分野における技術常識であることを勘案すると、同【0027】に示された「圧力として測定される値」は、本来、「力として測定される値」であったと認められる。
してみると、訂正事項17は、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項17は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項17に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
3 訂正要件に関する申立人の主張について
申立人は、令和6年3月15日付けで意見書(以下、「申立人意見書」という。)を提出し、訂正要件に関し、訂正事項17について、「圧力」を「力」に訂正したことは、誤記の訂正として適法ではなく、許容されない訂正であると主張している。
しかし、「圧力」を「力」に訂正する訂正事項は、上記のとおり、本来「力」と書くべき記載が「応力」と記載されたものを、「力」に訂正するものであって、誤記の訂正として適法なものである。
よって、申立人意見書に記載された訂正要件に関する申立人の主張は、採用できない。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正請求に係る訂正を認める。
第3 本件訂正発明
上記「第2 訂正の適否について」に記したように、本件訂正は認められることとなったので、本件訂正後の本件特許の請求項1~3、5に係る発明は、次の事項により特定される発明であると認める。(請求項4、6は削除された。)
なお、本件訂正により訂正された請求項1~3、5に係る発明を、「本件訂正発明1」等という。また、A等の記号は、分説するため合議体が付与した。
以下A等を付した事項を「特定事項A」等という。
【請求項1】
A 紙管と、前記紙管に2プライのトイレットペーパーを巻き付けたトイレットペーパー部とを備えたトイレットロールであって、
B 前記トイレットペーパー1枚あたりの密度が0.144g/cm3以上0.174g/cm3以下であり、
C 前記トイレットペーパー部の潰れ強度は18.1N以上21.1N以下であり、ここで前記トイレットペーパー部の潰れ強度とは、前記トイレットロールを定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記トイレットロールを長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値であり、
D 前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度が1.70N/15mm以上2.10N/15mm以下であり、ここで前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度とは、前記トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定をし、6回の測定の平均を算出した値であり、
E 前記トイレットペーパーの長手方向の伸び率が12.4%以上15.6%以下であり、ここで前記トイレットペーパーの伸び率とは、前記トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定し、6回の測定の平均を算出した値であり、
F 前記紙管の潰れ強度が7.6N以上12.5N以下であり、ここで前記紙管の潰れ強度とは、前記紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値であり、
G 前記トイレットペーパー部の潰れ強度と前記紙管の潰れ強度との差が7.0N以上10.6N以下である
H ことを特徴とするトイレットロール。
【請求項2】
I 前記トイレットペーパーの長手方向の長さが50mであって、
J 前記トイレットロールの直径が114~115mmである
K ことを特徴とする請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項3】
L 前記トイレットペーパーの坪量が15.72~16.56g/m2、
M 紙厚が184~222μmである
N ことを特徴とする請求項1または2に記載のトイレットロール。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
O 前記紙管は、複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせたスパイラル紙管である
P ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のトイレットロール。
【請求項6】(削除)
第4 特許異議の申立てについて
1 本件訂正前の本件特許の請求項1~6に係る発明
本件訂正前の本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、以下の事項により特定される発明である。(a等の記号は、分説するにあたって、本件訂正発明1~3、5の特定事項と概ね対応させて合議体が付与した。)
【請求項1】
a 紙管と、前記紙管に2プライのトイレットペーパーを巻き付けたトイレットペーパー部とを備えたトイレットロールであって、
b 前記トイレットペーパー1枚あたりの密度が0.140g/cm3以上0.180g/cm3以下であり、
c 前記トイレットペーパー部の応力は13.0N以上22.0N以下であり、
f 前記紙管の応力が7.0N以上13.0N以下であり、
g 前記トイレットペーパー部の応力と前記紙管の応力との差が12.0N以下である
h ことを特徴とするトイレットロール。
【請求項2】
i 前記トイレットペーパーの長手方向の長さが45~55mであって、
j 前記トイレットロールの直径が112~120mmである
k ことを特徴とする請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項3】
l 前記トイレットペーパーの坪量が14.0~17.0g/m2、
m 紙厚が180~225μmである
n ことを特徴とする請求項1または2に記載のトイレットロール。
【請求項4】
d 前記トイレットペーパーの長手方向の引張強度が1.60N以上2.20N以下である
h ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のトイレットロール。
【請求項5】
o 前記紙管は、複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせて貼り合わせたスパイラル紙管である
p ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のトイレットロール。
【請求項6】
q 前記紙管の直径が36mm以上45mm以下である
r ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のトイレットロール。
2 特許異議の申立ての概要
特許異議申立人は、下記甲第1号証~甲第10号証(以下、申立人が提出した各甲号証を「甲1」等と略して示す。)を提出した。
甲1:特許第6186483号公報
甲2:特開2016-16951号公報
甲3:特開2010-119582号公報
甲4:特開2003-61860号公報
甲5:特開2002-345676号公報
甲6:特開2003-199687号公報
甲7:特開2015-66250号公報
甲8:JIS P8113:2006
甲9:熊谷理機工業株式会社ホームページ、「横型引張試験機(卓上型)」
甲10:「デジタルフォースMODEL-RZシリーズ」のカタログ(抜粋)、アイコーエンジニアリング株式会社
そして、特許異議申立書(以下「申立書」という。)の第11頁の「3 申立ての根拠」の項、及び、第82頁~第83頁の「(6)まとめ」の項に記載された条文に鑑み、申立理由を整理すると、以下の申立理由を申立人は主張している。
(1)申立理由1(進歩性)
本件特許発明1~6は、甲1に記載された発明及び甲2~甲7として示した出願時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1は、特定事項a~c、f~hを充足することによって、ペーパーログから所定の幅のトイレットロールを切り出す際、紙管が切断圧力により塑性変形しないという課題が解決できるというものであり、本件特許明細書等の実施例では、「紙管の潰れ」が「あり」か「なし」かという判断基準で評価している。そして、「紙管の潰れ」、すなわち紙管の塑性変形は、ペーパーログを切断刃で切断する際に生じるものであり、トイレットロールの切り出しの際に紙管の塑性変形が生じるか否かは、切断される側である紙管やトイレットペーパー部の条件だけでなく、切断する側である切断刃や切断の条件も大きな影響を与えることは明らかである。
(イ)本件特許発明1は、トイレットペーパーの硬さが適切なものとなるように、(1)トイレットペーパーの積層枚数(プライ数)、(2)トイレットペーパー1枚あたりの密度、(3)引張強度、(4)クレープ率、(5)伸び率、及び、(6)トイレットペーパー部の応力を適宜調整して、最適化したものといえるが、(4)クレープ率及び(5)伸び率をどの程度の数値範囲にすべきかが本件特許明細書等に記載されておらず、本件特許発明1においても特定されていない。
(ウ)本件特許発明1は、トイレットペーパー部の応力と紙管の応力の測定方法や測定条件の開示が不十分であって、一義的に特定されていない。
(エ)本件特許発明1は、特定事項gとして、「トイレットペーパー部の応力と前記紙管の応力との差」を特定しているが、実施例の表1に「応力の差」の項目が記載されておらず、その技術的意義が不明である。
(オ)本件特許発明1のトイレットロールは公然実施品とほぼ同じスペックであるか、本件特許発明1は課題が解決できていない態様を包含している可能性が高い。
(カ)本件特許明細書において、実施例として具体的に開示されているのは、わずか4例の実施例と比較例のみであって、実施例の開示数が不十分であることからしても、本件特許発明1の数値限定の全範囲にわたって課題が解決できているのか不明である。
(キ)以上より、本件特許発明1は、課題が解決するための手段がすべて反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、また、本件特許明細書等の記載は、実施可能要件を満たしていないといえる。
上記については、本件特許発明2~6についても同様である。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2について、特定事項i、jとして、「トイレットペーパーの長手方向の長さ」、「トイレットロールの直径」について数値範囲の限定が規定されているが、実施例として具体的に開示されているのは、巻長は50mの1例のみ、巻径は114mm及び115mmの2例のみであって、実施例の開示数が不十分であることからしても、本件特許発明2の数値限定の全範囲にわたって課題が解決できているのか不明である。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4について、特定事項dとして、「前記トイレットペーパーの長手方向の引張強度が1.60N以上2.20N以下である」と規定しているところ、JIS規格である甲8は「引張強さ」とは「・・・最大引張荷重を幅1m当たりに換算した値」であると記載されており、さらに「・・・N/mで表すのが望ましい。」と記載されているので、特定事項dの「引張強さ」の単位がJIS規格と異なっていること等に鑑みれば、本件特許発明4の「引張強さ」が如何なる測定方法に基づく数値なのか一義的に導出することはできない。
エ 本件特許発明6について
本件特許発明6について、特定事項qとして、「前記紙管の直径が36mm以上45mm以下である」と規定しているところ、実施例では紙管の直径が記載されていないため、直径が36mm~45mmという全範囲において課題が解決できているのか不明である。
オ 小括
よって、本件特許発明1~6に対応する発明の詳細な説明は、当業者が当該発明を実施可能なように、明確かつ十分に記載されたものではなく、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、本件特許発明1~6は、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件特許は、特許請求の範囲の記載が同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(3)申立理由4(明確性要件)
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1の特定事項c(「前記トイレットペーパー部の応力は13.0N以上22.0N以下であり」)について、「応力」は物体内部における単位面積当たりの力を表す物理量であり、その単位はPa又はN/m2であることは、材料力学の分野における技術常識であるところ、「トイレットペーパー部の応力」の単位が「N」であることは、上記技術常識と矛盾するものであり、その特定の意味が不明であって、その数値範囲が意味する技術的意義も不明である。
(イ)本件特許発明1の上記特定事項cについて、物体内部の応力は、荷重が加えられる部位や、その方向において一様なものではないことは材料力学の分野における技術常識であるところ、「トイレットペーパー部の応力」が、どの程度の荷重がどのようにトイレットロールに加えられて、どの部分をどのように測定された測定値であるのか不明であって、その数値範囲が意味する技術的意義が不明である。
(ウ)本件特許発明1の特定事項f(「前記紙管の応力が7.0N以上13.0N以下である」)について、「応力」は物体内部における単位面積当たりの力を表す物理量であり、その単位はPa又はN/m2であることは、材料力学の分野における技術常識であるところ、「紙管の応力」の単位が「N」であることは、上記技術常識と矛盾するものであり、その特定の意味が不明であるから、その数値範囲が意味する技術的意義も不明である。
(エ)本件特許発明の上記特定事項fについて、物体内部の応力は、荷重が加えられる部位や、その方向において一様なものではないことは材料力学の分野における技術常識であるところ、「紙管の応力」が、どの程度の荷重がどのように紙管に加えられた状態において、どの部分において、どのように測定された測定値であるのか不明であるから、その数値範囲が意味する技術的意義が不明である。
イ 本件特許発明4について
本件特許発明4の特定事項d(「前記トイレットペーパーの長手方向の引張強度が1.60N以上2.20N以下である」)について、「引張強度」は物体に引張力を加えた場合における破断時の引張力を物体の断面で除した値であり、単位面積当たりの力を表す物理量であるから、その単位はPa又はN/m2であることは、材料力学の分野における技術常識であるところ、「トトイレットペーパーの長手方向の引張強度」の単位が「N」であることは、上記技術常識と矛盾するものであり、その特定の意味が不明であって、その数値範囲が意味する技術的意義も不明である。
ウ 本件特許発明5について
本件特許発明5の特定事項o(「前記紙管は、複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせて貼り合わせたスパイラル紙管である」)について、「複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせて貼り合わせたスパイラル紙管」が「複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせたスパイラル紙管」と比較してどのように異なるものであるのか不明である。
3 令和5年12月4日付け取消理由の概要
本件特許発明1~6に係る特許に対して、合議体が令和5年12月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)
ア 本件特許発明1の特定事項c、f及びg、並びに本件特許発明4の特定事項dは、それらの特定事項において特定された数値範囲の測定方法が何も規定されていないことから、本件特許明細書の【0024】及び【0027】に記載された方法以外の方法により、応力又は引張強度を測定した場合であっても、それらの数値範囲が、本件特許発明1の特定事項c、f及びg、並びに本件特許発明4の特定事項dに規定された数値範囲に含まれるのであれば、本件特許発明1及び本件特許発明4に含まれることになるから、本件特許発明1及び本件特許発明4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものを含むものである。
本件特許発明1又は4を引用し、特定事項c、f、g、及びdの数値範囲の測定方法が規定されていない本件特許発明2~5についても同様である。
イ 本件特許発明1の特定事項c及びgの「トイレットペーパー部の応力」は、本件特許明細書の【0027】に記載された「トイレットロール、または紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、トイレットロール、または紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の圧力として測定される値」である。本件特許の発明の詳細な説明には一貫して、トイレットペーパー部と紙管とから構成されるトイレットロールが記載されていることからすると、発明の詳細な説明に記載された「測定」は、トイレットペーパー部だけでなく紙管を含むトイレットロール全体を対象とするものであって、測定される値は「トイレットペーパー部の応力」ではなく「トイレットロールの応力」であると解せるから、本件特許の発明の詳細な説明には「トイレットペーパー部の応力」が記載されているとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
ウ 本件特許発明1は、紙管と、前記紙管に2プライのトイレットペーパーを巻き付けたトイレットペーパー部とを備えたトイレットロールという前提構成を備えたトイレットロールにおいて、以下の(ア)~(エ)に示す4つの数値範囲の範囲内に含まれるものであれば、それらをすべて包含するものである。
(ア)トイレットペーパー1枚あたりの密度が0.140g/cm3以上0.180g/cm3以下
(イ)トイレットペーパー部の応力が13.0N以上22.0N以下
(ウ)紙管の応力が7.0N以上13.0N以下
(エ)トイレットペーパー部の応力と紙管の応力との差が12.0N以下
一方、本件特許明細書の【0019】及び【0035】の記載に基づくと、ペーパー部3の硬さは、「トイレットペーパーの積層枚数(プライ)、トイレットロールの応力、トイレットペーパー1枚あたりの密度、引張強度」の条件に加えて、さらに「クレープ率」及び「伸び率」が関与することが読み取れる。
しかしながら、本件特許発明1には、「クレープ率」及び「伸び率」の条件に関しては、何ら特定がされていないことから、上記した(ア)~(エ)の数値範囲を充足するトイレットロールであっても、「クレープ率」及び「伸び率」の条件によっては、上記課題を解決できないものが含まれると認められることから、「クレープ率」及び「伸び率」の条件が特定されていない本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものを含むものである。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
エ 本件特許明細書等のその他の記載を参照しても、本件特許明細書の【0033】の【表1】に記載された実験の結果に基づく、良好な結果が得られた数値範囲を、本件特許発明1において特定された(ア)~(エ)の数値範囲のすべての組み合わせにおけるすべての領域において、上記の課題が解決し得るとは認めることができず、本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
オ 上記ア~エより、本件特許発明1~6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである
(2)取消理由2(実施可能要件)
ア 本件特許の発明の詳細な説明には、ペーパーログからのトイレットペーパーからの切断に関して、【0019】における「・・・切断時に切断刃をペーパーログに押し付ける圧力(切断圧力)は、切断装置の切れ味を一定と仮定すると、上記トイレットペーパーの特性と相関を持つ。」との記載がある。
この記載のとおり、紙管のつぶれ等は、ログソーの切断条件が密接に関わるところ、本件特許の発明の詳細な説明にはログソーの切断条件についての記載がなく、該切断条件を特定することができないことから、上記した表1の実施例及び比較例を実施して作用効果の有無の確認をすることができず、当業者が本件特許発明1を実施し、【0009】に記載された課題を解決するためには、切断条件の検討等、追加の条件の設定が必要であり、当業者が本件特許発明1を実施するにあたって、過度の試行錯誤を強いるものである。
してみると、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
イ 本件特許明細書の【0035】には「ペーパー部3の応力は、紙の密度の影響が強く、さらに引張強度、クレープ率および伸び率も影響する。」と記載されていることから、本件特許発明1~6において、ペーパー部3の応力を最適化し、【0009】に記載された課題を解決するためには、「クレープ率」の特定も必要であると認められる。しかしながら、表1に記載された実施例及び比較例には、「クレープ率」が記載されておらず、また本件特許の発明の詳細な説明には、「クレープ率」の具体的な数値が全く記載されていない。
したがって、当業者が本件特許発明1を実施し、【0009】に記載された課題を解決するためには、クレープ率の数値範囲の検等、追加の条件の設定が必要であり、当業者が本件特許発明1~6を実施するにあたって、過度の試行錯誤を強いるものである。
してみると、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
ウ 上記ア~イより、本件特許発明1~6に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである
(3)取消理由3(明確性要件)
ア 本件特許発明1は、特定事項cとして、「前記トイレットペーパー部の応力は13.0N以上22.0N以下であ」ることが特定されているが、材料力学の技術常識を参酌すると、「N」は応力の単位ではないことから、その特定の意味が不明であり、また、「トイレットペーパー部の応力」という場合に、トイレットペーパー部のどの部分においてどのように測定された応力を指すのか不明であるから、その数値範囲が意味する技術的意義が不明である。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
イ 本件特許発明1は、特定事項fの「前記紙管の応力が7.0N以上13.0N以下である」点、及び、特定事項gの「前記トイレットペーパー部の応力と前記紙管の応力との差が12.0N以下である」点についても、上記アと同様の理由により、これらの数値範囲が意味する技術的意義が不明である。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2~6についても同様である。
ウ 本件特許発明4は、特定事項dとして、「前記トイレットペーパーの長手方向の引張強度が1.60N以上2.20N以下であ」る点が特定されているが、特定事項dの引張強度の単位「N」は、引張強度の単位として一般的に知られるJIS規格に示された単位「N/mm」とは異なるものであるから、特定事項dの「引張強度」がいかなる強度を意味するのかが不明であり、その数値範囲が意味する技術的意味が不明である。
本件特許発明4を引用する本件特許発明5及び6についても同様である。
エ 本件特許発明5の特定事項oにおける「紙管は、複数枚の帯状紙を互いに貼り合わせて貼り合わせたスパイラル紙管である」ことの記載の意味が明確でない。
オ 上記ア~エより、本件特許発明1~6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
4 令和6年2月2日付け意見書(特許権者)の概要
(1)取消理由1(サポート要件)に対して
ア 本件訂正により、「トイレットペーパー部の潰れ強度」、「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」、「紙管の潰れ強度」の測定方法を規定した。
イ 本件特許発明における「トイレットペーパー部の応力」と「トイレットロールの応力」は、本件特許明細書において明確に区別できるものであり、本件特許明細書【0027】において測定される値は「トイレットロールの応力」ではなく「トイレットペーパー部の応力」であり、本件特許の発明の詳細な説明には「トイレットペーパー部の応力」が明確に記載されている。
ウ また、本件訂正発明1には、伸び率の数値範囲及び測定方法が規定された。そして、「クレープ率」に関して、クレープ率は、トイレットペーパーの伸び率に直接的に影響し、トイレットペーパー部の潰れ強度に対して間接的に影響するものであるから、トイレットペーパーの密度、引張強度、伸び率が特定されていれば、「クレープ率」を特定することを必要としないことは明らかである。
エ さらに、本件訂正により、本件特許発明1の特定事項b、c、f及びg、本件特許発明2の特定事項i及びj、本件特許発明3の特定事項l及びm、並びに、本件特許発明4の特定事項dに規定された数値範囲を本件特許明細書の【0033】の【表1】に開示された数値範囲に規定した。
オ 以上のことから、本件訂正発明1~3、5は本件特許明細書に記載したものとなり、取消理由1を有しない。
(2)取消理由2(実施可能要件)に対して
ア ログソーの切断条件についての記載がなくとも、本件特許明細書の【0033】の【表1】の実施例及び比較例を実施して作用効果の有無の確認をすることができ、当業者が本件訂正発明1を実施するにあたって、過度の試行錯誤を強いるものではない。
イ 「ペーパーログから所定の幅のトイレットロールを切り出す際、紙管が切断圧力により塑性変形しない2プライのトイレットロールを提供する」という課題を実現するためには、トイレットペーパーの密度、引張強度、伸び率が特定されていれば足り、「クレープ率」を特定する必要としないことは明らかである。
ウ 以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、取消理由2を有しない。
(3)取消理由1(明確性要件)に対して
本件訂正により、「前記トイレットペーパー部の潰れ強度は18.1N以上21.1N以下であ」る点、「前記紙管の潰れ強度が7.6N以上12.5N以下であ」る点、「前記トイレットペーパー部の潰れ強度と前記紙管の潰れ強度との差が7.0N以上10.6N以下である」点、「前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度が1.70N/15mm以上2.10N/15mm以下であ」る点が特定され、「N」を「潰れ強度」の単位とし、「N/15mm」を、「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」である点を明確にした。
また、「互いに貼り合わせて貼り合わせた」の記載を「互いに貼り合わせた」に訂正した。
そのため、本件訂正発明1~3、5の記載は明瞭になり、取消理由3を有しない。
5 令和6年3月15日付け意見書(申立人)の概要
申立人は、令和6年3月15日付けで意見書(以下、「申立人意見書」という。)を提出し、取消理由1~3に対して、以下の主張を行っている。
(1)取消理由1(サポート要件)に対して
ア 本件訂正発明1において、「トイレットペーパー部の潰れ強度」、「紙管の潰れ強度」が特定されたが、(1)で示したように、「圧力」を「力」に訂正する訂正事項は、誤記の訂正として適法ではなく許容されない訂正であるから、前提自体が成立しない。
イ 「トイレットロール」と「トイレットペーパー部」が意味するものの関係について、特許権者の主張間に矛盾がある。さらに、本件訂正発明1の「トイレットペーパー部の潰れ強度」について、本件訂正発明1の測定方法で測定された値は、トイレットペーパー部だけでなく紙管も一緒に押し潰して測定された数値であるから「トイレットロール(全体)の潰れ強度」である。
したがって、「トイレットペーパー部の潰れ強度」の「18.1N以上21.1N以下」という数値範囲は、実施例によってサポートされておらず、本件特許明細書等に記載されていない事項である。
ウ 本件訂正発明1には、「クレープ率」が依然として特定されておらず、サポート要件を満たしていない。
エ 本件特許明細書等には、数値範囲として記載された複数の条件について多面的に比較した例が十分に開示されておらず、また、巻長、巻径、巻密度、及び、ロール密度といった条件が開示されていないことから、本件訂正発明1はサポート要件を満たしていない。
(2)取消理由2(実施可能要件)に対して
本件特許明細書等には、例えば、自動研磨されるログカッターを使用する等のログソーの切断条件、及び、クレープ率について十分な特定がされていないことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。
(3)取消理由3(明確性要件)に対して
本件訂正発明1において、「トイレットペーパー部の潰れ強度」が特定されたが、本件特許明細書の記載に基づくと、この数値は、トイレットペーパー部だけでなく、紙管も一緒に押し潰して測定された潰れ強度であるから「トイレットロールの潰れ強度」であり、本件訂正発明1において、その値が、「トイレットペーパー部の潰れ強度」と特定されている記載は不明確である。
また、本件特許明細書の【0025】に、「引張強度の測定」に「横型引張試験機(熊谷理機工業株式会社製)を用いる」点が記載されているが、当該横型引張試験機で得られる測定項目は、「N」、「kN/m」、伸び率(%)であり、「N/15mm」の単位ではなく、本件訂正発明1における「乾燥引張強度」がいかなる測定条件及び単位のものであるのか依然として不明確である。
(4)進歩性に関して
本件訂正発明1~3、5は、甲1~甲7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 合議体の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由1(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 本件訂正発明1~3、5が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段について
(ア)本件訂正発明1~3、5が解決しようとする課題について
本件訂正発明1~3、5が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0009】の記載より、「ペーパーログから所定の幅のトイレットロールを切り出す際、紙管が切断圧力により塑性変形しない2プライのトイレットロールを提供すること」であると認められる。
(イ)取消理由1のア(数値範囲の測定方法)について
本件訂正により本件訂正発明1は、「トイレットペーパー部の潰れ強度」、「紙管の潰れ強度」及び「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」の数値の測定方法が規定された。
そして、それ以外の測定方法により測定された上記の各項目について数値自体が本件訂正発明1に特定された数値範囲に含まれていたとしても、上記イ(ア)に示した課題が解決できない可能性があるものは、本件訂正発明1に含まれないものとなった。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2~3、5についても同様である。
よって、本件訂正発明1~3、5に係る特許は、取消理由1のアによって取り消されるべきものではない。
(ウ)取消理由1のイについて
本件訂正発明1~4は、ログソーの切断条件に特別な創意工夫を凝らしたものではないことから、当業者が通常の製造工程に用いる切断手段を用いれば、概ね本件訂正発明1において想定される切断条件を満たし得ると認められる。
してみると、当業者が通常の製造工程に用いる切断手段を用いた場合にお
いては、概ね本件訂正発明1において特定された数値範囲に含まれるものは
、上記イ(ア)に示した課題を概ね解決可能であると推定されることから、
本件訂正発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない
範囲のものを含んでいるとまではいえない。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2~4についても同様である。
よって、本件訂正発明1~4に係る特許は、取消理由1のイによって取り
消されるべきものではない。
(ウ)取消理由1のイ(「トイレットペーパー部の応力」)について
本件訂正により本件訂正発明1は、「トイレットペーパー部の潰れ強度」の数値が規定され、さらに、「トイレットペーパー部の潰れ強度」とは、「前記トイレットロールを定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記トイレットロールを長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値であ」るものとなった。
本件訂正により、「トイレットペーパー部の潰れ強度」が意味するものの定義が明確になるとともに、この定義は本件特許明細書の【0027】に記載されたものと同じものとなった。そして、この定義に基づいた「トイレットペーパー部の潰れ強度」の数値を有するトイレットロールが、上記イ(ア)に示した課題を解決できるものであることは本件特許明細書の【0033】に記載されている。
してみると、本件訂正発明1の「トイレットペーパー部の潰れ強度」の数値を有するものは、発明の詳細な説明に記載されたものである。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2~3、5についても同様である。
よって、本件訂正発明1~3、5に係る特許は、取消理由1のイによって取り消されるべきものではない。
(エ)取消理由1のウ(トイレットロールの「クレープ率」と「伸び率」)について
本件特許明細書の【0026】には、「クレープ率は(ヤンキードライヤーの速度-リール速度)/リール速度×100で求められる。クレープ率が上がると、縦の引張破断伸びが大きくなり、クレープ率を下げると縦の引張破断伸びは小さくなる。」との記載がある。
一方、同【0033】に示された【表1】を参照すると、上記【表1】に示された「伸び(%)」は、同【0026】において「トイレットペーパーの伸び率は、紙を幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定し、6回の測定の平均を算出した値である。伸び率(%)は、試料の伸び量(mm)×100/スパン長(mm)によって求めるものとする。」と記載された物理量である。
そして、「伸び率(%)」は「試料の伸び量(mm)×100/スパン長(mm)」によって求められ、「試料の伸び量(mm)」は荷重により変化する数値であるから、「伸び率(%)」も荷重により変化する数値であるのに対して、上記【表1】には「伸び率(%)」として特定の数値が示されていることから、ここにおける「伸び率(%)」は、破断時の荷重に対する「伸び率」である、縦の「引張破断伸び」を指すものと認められる。
してみると、同【0026】の記載より、クレープ率は縦の引張破断伸びと対応関係を有するものと認められることから、クレープ率は縦の伸び率(%)と対応関係を有するものといえ、縦の伸び率(%)の数値範囲の特定が行われれば、クレープ率に関して、上記イに示した課題を概ね解決可能である好適な数値範囲の特定が可能であるといえる。
そして、本件訂正発明1は、縦の伸び率(%)の数値範囲の特定が行われていることから、本件訂正発明1は、クレープ率に関して、上記イ(ア)に示した課題を解決できないものを含んでいるとまではいえない。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2~3、5についても同様である。
よって、本件訂正発明1~3、5に係る特許は、取消理由1のウによって取り消されるべきものではない。
(オ)取消理由1のエ(実施例の記載)について
本件特許明細書の【0033】の【表1】には、4例の実施例と1例の比較例を用いた実験結果が記載されており、本件訂正発明1は、その実験結果に基づいて数値限定が規定されたものである。そして、本件特許明細書等には、本件訂正発明1において特定された複数の数値範囲のすべての組み合わせにおけるすべての領域において、上記イ(ア)に示した課題が顕著に解決できたことを検証した結果は示されていないが、少なくとも本件訂正発明1において特定された数値範囲のものは、その数値範囲から外れているものよりも、上記課題の解決に関して良好な結果をもたらし得るものと認められる。
してみると、本件訂正発明1は、その複数の数値範囲を組み合わせた領域に関して、上記イ(ア)に示した課題が解決することができない本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない範囲のものを含んでいるとまではいえない。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2~3、5についても同様である。
よって、本件訂正発明1~3、5に係る特許は、取消理由1のエによって取り消されるべきものではない。
(カ)申立人の主張について
申立人は、上記第4の5(2)ア、イに記載したように、本件訂正発明1において、「トイレットペーパー部の潰れ強度」が特定されたが、「圧力」を「力」に訂正する訂正事項は、誤記の訂正として適法ではなく許容されない訂正であって前提自体が成立しないものであるし、この値は「トイレットロール全体の潰れ強度」であるから、「トイレットペーパー部の潰れ強度」の「18.1N以上21.1N以下」という数値範囲は、実施例によってサポートされていない旨を主張している。
しかし、「圧力」を「力」に訂正する訂正事項は、前記第2の2(17)に示したとおり、誤記の訂正として適法なものである。そして、本件訂正発明1において「トイレットペーパー部の潰れ強度」の定義が明確にされるとともに、その測定方法も明確にされ、その測定方法で測定された実施例が本件特許明細書に記載されていることから、「トイレットペーパー部の潰れ強度」の「18.1N以上21.1N以下」という数値範囲は、実施例によってサポートされていないとまではいえず、申立人の主張は採用できない。
また、申立人の上記第4の5(2)ウにおけるクレープ率についての主張については、上記(エ)において検討したとおりである。
そして、申立人の上記第4の5(2)エにおける数値範囲として記載された複数の条件に関する主張については、本件訂正発明1による作用効果は、本件特許明細書の【0033】の【表1】に、実施例及び比較例を用いた実験結果が記載されていることから、少なくとも本件訂正発明1において特定された数値範囲のものは、その数値範囲外のものよりは上記イ(ア)に示した課題の解決に関して良好な結果をもたらし得るものと認められ、また、上記イ(ア)に示した課題に関して、本件訂正発明1には数値範囲が特定されていない他の数値範囲の条件も実験結果に影響を与え得ると考えられるが、本件訂正発明1には数値範囲が特定されていない条件を特定の値に設定した場合において、少なくとも本件訂正発明1において特定された数値範囲のものは、その数値範囲外のものよりは上記イ(ア)に示した課題の解決に関して良好な結果をもたらし得るものと認められる。
してみると、本件訂正発明1は、本件訂正発明1において数値範囲が特定されていない条件の存在を加味しても、上記イ(ア)に示した課題が解決することができないものを含んでいるとまではいえず、申立人の主張は採用できない。
(キ)取消理由1のまとめ
以上のことから、本件訂正発明1~3、5は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないとまではいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するとまではいえない。
よって、本件訂正発明1~3、5に係る特許は、取消理由1により、取り消されるべきものではない。
(2)取消理由2(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の一般的な判断基準
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきであると解される(知財高裁平成29年(行ケ)第10138号)。
イ 検討・判断
以下、上記判断基準に基づき検討・判断を行う。
本件訂正発明1は、特定事項B~Gにおいて、トイレットペーパー1枚あたりの密度、トイレットペーパー部の潰れ強度、トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度、トイレットペーパーの長手方向の伸び率、紙管の潰れ強度、及び、トイレットペーパー部の潰れ強度と紙管の潰れ強度との差の値の数値範囲を特定しているが、それらの数値範囲に含まれるものは、当業者の出願時の技術常識を照らしても特異な数値範囲のものではない。
また、本件特許明細書等にはログソーの切断条件は記載されていないが、本件訂正発明1は、ログソーの切断条件に特別な創意工夫を凝らしたものではないことから、自動研磨されるログカッターを使用するかどうかはさておき、当業者が通常の製造工程に用いる切断手段を用いれば、概ね本件訂正発明1において想定される切断条件を満たし得ると認められる。
さらに、本件特許明細書等には、クレープ率に関する具体的な記載が存在しないが、上記(1)イ(エ)において検討したように、クレープ率は伸び率と対応関係を有するものであるから、伸び率の特定があれば、クレープ率の特定を代替することが可能であると認められる。
してみると、本件訂正発明1は、当業者がトイレットロールを製造するにあたって、2プライのトイレットペーパーを紙管の周りに巻き取られた構造にした上で、トイレットペーパー1枚あたりの密度、トイレットペーパー部の潰れ強度、トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度、トイレットペーパーの長手方向の伸び率、紙管の潰れ強度、及び、トイレットペーパー部の潰れ強度と紙管の潰れ強度との差の値を適宜調整して設定し、当業者が通常の製造工程に用いる切断手段を用いれば、実施可能であると認められる。
そして、本件訂正発明1による作用効果は、本件特許明細書の【0033】の【表1】に、実施例及び比較例を用いた実験結果が記載されていることから、少なくとも本件訂正発明1において特定された数値範囲のものは、その数値範囲外のものよりは、同【0009】の課題の解決に関して良好な結果をもたらし得るものと認められる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、その記載に基づいて本件訂正発明1を実施することが不可能なものであるとまではいえない。
本件訂正発明2~3、5を実施することについても同様である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものではなく、本件訂正発明1~3、5に係る特許は、取消理由2により、取り消されるべきものではない。
(3)取消理由3(明確性)について
ア 明確性要件の判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、この観点に立って、本件訂正発明1~3、5が明確であるか否かについて検討する。
イ 検討・判断
以下、上記判断基準に基づき検討・判断を行う。
(ア)物理量の単位と測定方法について
本件訂正により、本件訂正発明1において、「トイレットペーパ部の応力」、「紙管の応力」及び「トイレットペーパーの長手方向の引張強度」に代えて、「トイレットペーパ部の潰れ強度」、「紙管の潰れ強度」及び「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」が特定された。
そして、「トイレットペーパ部の潰れ強度」が「前記トイレットロールを定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記トイレットロールを長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値であ」る点、「紙管の潰れ強度」が「前記紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値である」点、及び、「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」が「前記トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定をし、6回の測定の平均を算出した値であ」る点が特定された。
これにより、「トイレットペーパ部の潰れ強度」、「紙管の潰れ強度」及び「トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度」の数値の測定方法が明確になり、その数値の技術的意味が明確になった。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2~3、5についても同様である。
また、本件訂正により、本件訂正発明5において、「互いに貼り合わせて貼り合わせた」の記載が「互いに貼り合わせた」に訂正され、その記載が明確になった。
ウ 申立人の主張について
申立人は、上記第4の5(3)に記載したように、本件訂正発明1において、「トイレットペーパー部の潰れ強度」が特定されたが、本件特許明細書の記載に基づくと、この数値は、トイレットペーパー部だけでなく、ペーパー部と紙管とを押し潰した潰れ強度であるから「トイレットロール全体の潰れ強度」であり、本件訂正発明1において、その値が、「トイレットペーパー部の潰れ強度」と特定されていることは、用語の意味が不明確である旨を主張しているが、本件訂正発明1において、測定方法が明確に特定され、その測定方法による測定値が「トイレットペーパー部の潰れ強度」であることを明確にしたことから、本件訂正発明1の記載自体は明確であり、申立人の主張は採用できない。
また、申立人は、上記第4の5(3)に記載したように、「引張強度の測定」に「横型引張試験機(熊谷理機工業株式会社製)を用いる」点が記載されているが、当該横型引張試験機で得られる測定項目は、「N」、「kN/m」、伸び率(%)であり、「N/15mm」の単位ではなく、本件訂正発明1における「乾燥引張強度」がいかなる測定条件及び単位のものであるのか依然として不明確である旨を主張しているが、本件訂正発明1において、測定方法が明確に特定され、その測定方法による測定値が「乾燥引張強度」であることを明確にしたことから、本件訂正発明1の記載自体は明確であり、申立人の主張は採用できない。
エ 取消理由3のまとめ
以上のことから、本件訂正発明1~3、5は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではない。
よって、本件訂正発明1~3、5に係る特許は、取消理由3により、取り消されるべきものではない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が、申立書において主張する、申立理由2及び3のうち、前記第4の2(2)(エ)に記載した主張については、実施例の表1には「ペーパー部」の「応力」、「紙管」の「応力」が記載されており、それらの「差」も当業者にとって明らかであるため、上記「差」についても実質的に発明の詳細な説明に記載されており、その技術的意味が不明であるとはいえないので、取消理由通知においては採用しなかった。
申立人が、申立書において主張する、その他の申立理由2は取消理由2(実施可能要件)に、申立理由3は取消理由1(サポート要件)に、申立理由4は取消理由3(明確性要件)にそれぞれ包含される。
してみると、取消理由通知において採用しなかった申立理由1について、以下に検討する。
(1)各甲号証の記載事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1(特許第6186483号公報)には、以下の事項が記載されている(下線は、合議体により付加した。以下、同様。)。
「【0008】
したがって、本発明は、1ロールあたりの巻長を長くし、坪量を下げずにシート及びロールの柔らかさを良好にすることで、持ち運べる量や保管時の省スペース性に優れると共に、良好な柔らかさによる販促効果を高めたトイレットロールの提供を目的とする。」
「【0013】
[トイレットロール]
図1に示すように、本発明の実施形態1に係るトイレットロール1は、トイレットペーパーが2プライ積層され、ロール状に巻き取られたものである。
【0014】
<巻長>
本発明のトイレットロール1の1ロールの巻長、すなわちトイレットロール1を展開したときの全長は、63m以上105m以下であり、68m以上95m以下であることが好ましく、73m以上85m以下であることがより好ましい。上記の数値範囲内の長さに巻取ったロールは、所定の幅に切断されて1ロールのトイレットロール1が製造される。
【0015】
<巻直径>
図1に示すように、本発明のトイレットロール1における巻直径DRは、105mm以上140mm以下であり、110mm以上132mm以下であることが好ましく、115mm以上123mm以下であることがより好ましい。」
「【0018】
ここで、コアとはトイレットロールの巻芯をいい、コア外径とは、ロールの中心孔の直径である。」
「【0024】
<コア外径>
本発明のトイレットロール1のコアの外径は、25mm以上48mm以下であることが好ましく、35mm以上46mm以下であることがより好ましく、37mm以上43mm以下であることが更に好ましい。本発明のトイレットロール1において、コア外径も上記の数値範囲内のものとすることにより、トイレットペーパーホルダーへの装着性と製造時のトイレットロールの取扱性が良好なトイレットロール1とすることができる。また、トイレットロール1のコアの質量は3.0g以上5.7g以下であることが好ましく、3.7g以上5.2g以下であることがより好ましく、4.2g以上4.8g以下であることが更に好ましい。コア質量を上記の数値範囲内にすることにより、本願のような長尺のトイレットペーパーに適したコアの強度とコアのコストを良好にすることができる。コアの質量は、ロール質量と同様、ロール幅114mmの質量とする。
【0025】
<ロール柔らかさ>
本発明のトイレットロール1においては、上述のように巻長の長いトイレットロール1のため、トイレットロール1の柔らかさを評価する場合、次に述べるロール柔らかさを評価することで、ロールを手に持った時の柔らかを評価することが好ましい。
【0026】
トイレットロール1のロール柔らかさは、圧縮試験機(カトーテック株式会社製のハンディー圧縮試験機KES-G5)を用いて、次のように測定する。なお、トイレットロール1の軸心と平行な方向を高さ方向、トイレットロール1の円周の接線と垂直な方向を半径方向とする。」
「【0028】
次に、トイレットロール1を軸心が水平になるよう硬い台上に横に置く。そして、トイレットロール1の高さ方向の中心部に上記KES-G5の圧縮子(面積2.0cm2)を、速度10mm/分の条件で半径方向に上から押し込む。圧縮子がロールを押す圧力が5gf/cm2のときの押し込み深さをT0、圧力が150gf/cm2のときの押し込み深さをTmとして、(Tm-T0)をロール柔らかさとする。測定は5回行い、測定結果を平均する。なお、上記圧縮子をトイレットロール1に押し込む際の高さ方向は、高さ方向の両端部を除けば、高さ方向の中心部でなくてもよい。本発明のトイレットロール1のロール柔らかさの測定においては、トイレットロール1の高さ方向の中心部と端部との中間付近に上記圧縮子を押し込んで測定する。
【0029】
本発明のトイレットロール1のロール柔らかさは、0.4mm以上1.9mm以下であり、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.6mm以上1.1mm以下であることがより好ましい。」
「【0059】
<坪量>
本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの坪量は、1プライあたり、13.0g/m2以上19.0g/m2以下であることが好ましく、13.5g/m2以上17.0g/m2以下であることがより好ましく、14.1g/m2以上16.0g/m2以下であることが更に好ましい。」
「【0062】
<比容積>
本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの比容積は、シート1枚あたりの紙厚を1枚あたりの坪量で割り、単位gあたりの容積cm3で表した。
【0063】
本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの比容積は、3.0cm3/g以上7.5cm3/g以下であることが好ましく、3.3cm3/g以上6.7cm3/g以下であることがより好ましく、3.6cm3/g以上6.4cm3/g以下であることが更に好ましい。」
「【0065】
<強度>
本発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーの強度は、JIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さをDMDT(Dry Machine Direction Tensile strength)、乾燥時の横方向の引張強さをDCDT(Dry Cross Direction Tensile strength)とする。なお、本発明に係るトイレットロール1において、製品の抄紙の流れ方向を縦方向とし、流れ方向に直角な方向を横方向とする。
【0066】
本発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーのDMDTは、2.5N/25mm以上7.0N/25mm以下であることが好ましく、3.0N/25mm以上5.8N/25mm以下であることがより好ましく、3.5N/25mm以上4.5N/25mm以下であることが更に好ましい。また、本発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーのDCDTは、0.7N/25mm以上2.2N/25mm以下であることが好ましく、0.8N/25mm以上1.8N/25mm以下であることがより好ましく、1.0N/25mm以上1.5N/25mm以下であることが更に好ましい。なお、引張強さの測定は、引張速度300mm/minの条件で行う。また、引張強さは、公知の方法で調整することができる。」
「【0079】
ここで、ヤンキードライヤーとリールのスピード差に基づくクレープ率は次式により定義される。
クレープ率(%)=100×(ヤンキードライヤー速度(m/分)-リール速度(m/分))÷リール速度(m/分)
【0080】
品質や操業性の良し悪しはこのクレーピングの条件で大方決まり、クレーピング条件を最適とする操業条件が当業者にとって重要な事項となる。本発明においてトイレットペーパーを製造する際のクレープ率は、10%以上50%以下であることが好ましく、15%以上40%以下であることがより好ましく、20%以上35%以下であることが更に好ましい。」
「【0116】
【表2】
[図:0001414184000002.jpg]
」
(イ)甲1発明
上記(ア)より、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。なお、a等の符号は、本件特許発明1等に概略対応させて分説するため合議体が付与した。また、引用箇所の段落番号等を併記した。
<甲1発明>
「a トイレットペーパーが2プライ積層され、ロール状に巻き取られたトイレットロール1であって、(【0013】)
i 巻長、すなわちトイレットロール1を展開したときの全長は、63m以上105m以下であり、(【0014】)
j 巻直径DRは、105mm以上140mm以下であり、(【0015】)
コアとはトイレットロールの巻芯をいい、(【0018】)
j ロール幅114mmであって、(【0024】)
トイレットロール1のロール柔らかさは、圧縮試験機(カトーテック株式会社製のハンディー圧縮試験機KES-G5)を用いて、測定されたものであって、(【0026】)
トイレットロール1を軸心が水平になるよう硬い台上に横に置き、トイレットロール1の高さ方向の中心部に上記KES-G5の圧縮子(面積2.0cm2)、速度10mm/分の条件で半径方向に上から押し込み、圧縮子がロールを押す圧力が5gf/cm2のときの押し込み深さをT0、圧力が150gf/cm2のときの押し込み深さをTmとして、(Tm-T0)をロール柔らかさとし、測定は5回行い、測定結果を平均したものであって、(【0028】)
トイレットロール1のロール柔らかさは、0.4mm以上1.9mm以下であり、(【0029】)
l トイレットロール1におけるトイレットペーパーの坪量は、1プライあたり、13.0g/m2以上19.0g/m2以下であり、(【0059】)
b トイレットロール1におけるトイレットペーパーの比容積は、3.0cm3/g以上7.5cm3/g以下であり、(【0063】)
d トイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーの、JISP 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さDMDTは、2.5N/25mm以上7.0N/25mm以下である(【0065】、【0066】)
h トイレットロール(【0013】)。
」
また、甲1の【表2】には、次の発明(以下「甲1市販品2発明」という。)も記載されていると認める。
<甲1市販品2発明>
「トイレットロールの市販品2として、
l トイレットペーパーの坪量が15.6g/m2であって、
b トイレットペーパーの比容積が6.7cm3/gであって、
d トイレットペーパーのDMDTが3.49N/25mmであって、
i トイレットロールの巻長が50mであって、
j トイレットロールの巻直径が117mmであって、
ロール柔らかさが1.9mmである
h トイレットロール。
」
イ 甲2に記載された事項及び甲2発明
(ア)甲2に記載された事項
本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2(特開2016-16951号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、紙管及び衛生紙ロールに関する。」
「【0006】
上記問題点に鑑みて、本発明は、十分な強度を備えるスパイラル紙管、さらには生産効率が高く潰れ難い衛生紙ロールを提供することを課題とする。なお、本願においてスパイラル紙管の「強度」とは、径方向の押し潰し力に対する「潰れ強度」等の機械的強度を主に意図する。」
「【0019】
[スパイラル紙管]
図1のスパイラル紙管1は、公知のラングストン装置によって、図2に模式的に示すように、円柱状のマンドレルシャフトSの上で、外面側基紙2及び内面側基紙3を接着剤4により互いに貼り合わせつつ螺旋状に巻き付けて形成される。このスパイラル紙管1は、例えばトイレットペーパーロール、キッチンペーパーロール等の衛生紙ロールの巻芯として用いられる。
【0020】
当該スパイラス紙管1の潰れ強度としては、1.0kg/cm2以上3.0kg/cm2以下が好ましい。潰れ強度が上記下限に満たない場合、当該スパイラル紙管1が衛生紙を巻き付ける際に潰れやすくなるおそれがある。また、潰れ強度が上記上限を超える場合、当該スパイラル紙管1の強度が必要以上に大きくなり、断裁加工等の加工に対する適性が低下するおそれがある。なお、「潰れ強度」とは、スパイラル紙管を定盤の上に中心軸が水平となるよう寝かせて載置し、先端に平面形状が円形で面積が1cm2の平治具を取り付けたプッシュプルゲージにより、スパイラル紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を元のスパイラル紙管中心軸位置まで押し込んだ(径方向に半分に押し潰した)時の圧力として測定される値である。」
「【0043】
<スパイラル紙管の製造方法>
当該スパイラル紙管1の製造方法は、外面側基紙2及び内面側基紙3を構成する片艶紙を形成する工程と、外面側基紙2及び内面側基紙3を貼り合わせて紙管に成形する工程とを備える。」
「【0054】
[衛生紙ロール]
図5の衛生紙ロールは、上記スパイラル紙管1と、このスパイラル紙管1の周囲に巻き付けられているウェブ状の衛生紙5とを備える
【0055】
<衛生紙>
衛生紙5としては、例えばトイレットペーパー、キッチンペーパー等が挙げられる。」
(イ)甲2発明
上記(ア)より、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「トイレットペーパーロール等の衛生紙ロールの巻芯として用いられるスパイラル紙管1であって(【0019】)、
スパイラル紙管を定盤の上に中心軸が水平となるよう寝かせて載置し、先端に平面形状が円形で面積が1cm2の平治具を取り付けたプッシュプルゲージにより、スパイラル紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を元のスパイラル紙管中心軸位置まで押し込んだ(径方向に半分に押し潰した)時の圧力として測定される値であるスパイラス紙管1の潰れ強度として、1.0kg/cm2以上3.0kg/cm2以下が好ましく(【0020】)、
当該スパイラル紙管1の製造方法は、外面側基紙2及び内面側基紙3を構成する片艶紙を形成する工程と、外面側基紙2及び内面側基紙3を貼り合わせて紙管に成形する工程とを備える(【0043】)
スパイラル紙管1(【0019】)。」
ウ 甲3に記載された事項
本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3(特開2010-119582号公報)には、【0003】等の記載を参照すると、ロール状ペーパー用紙管として、1枚目の帯状紙が螺旋状に巻回された筒状体の外周に2枚目の帯状紙が巻回された積層タイプのものが存在する点が示されている。
エ 甲4に記載された事項
本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4(特開2003-61860号公報)には、【0006】、【0007】等の記載を参照すると、2プライまたは3プライのトイレットペーパーロールを消費者が手にした時に、当該消費者に適度な柔らかさを感じさせることができるようにするために、2プライまたは3プライのトイレットペーパーロールを、中心軸を水平にしつつ水平面上に横置きし、その胴部の外周面中心に配した面積2cm2の円形板圧子を、0.5gf/cm2と50gf/cm2との押し込み圧力で鉛直に、少なくともそれぞれの段階で押し込み、これらの押し込み深さの差が2.5~3.5mmの範囲であるようにする点が示されている。
また、【0031】~【0037】の記載を参照すると、トイレットロールの製造仕様として、以下の数値範囲等が記載されている。
シートの米坪が15~25g/m2であるとともに、その1枚当たりの紙厚は120~160μmである点(【0032】)。
シートの乾燥紙力の縦横比が2.0~4.0である点(【0033】)。
ロールの巻密度が0.68~0.74m/cm2である点(【0036】)。
ロールの巻長さが、1プライで58~65m、2プライで29~33m、3プライで19~22mである点。
ロール内外径は、前述のように内径が30~50mmで、外径が100~120mmの範囲である点(【0037】)。
オ 甲5に記載された事項
本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5(特開2002-345676号公報)には、【0027】~【0029】、【0031】、【0032】、【0036】等の記載を参照すると、芯有りトイレットペーパーロールに関して、以下の数値範囲等が記載されている。
ロール巻長さをロール断面積で割った値として定まる巻密度が0.68~0.74m/cm2、特に好適な巻き密度の範囲は、0.70~0.74m/cm2である点(【0028】)。
薄葉紙Pの一枚あたりの強度としては、JISP8113に規定される引張特性試験方法により測定される幅方向の乾燥時引張強さを40N/m以上、望ましくは40~45N/mと必要十分な程度まで高くし、さらに長手方向の乾燥時引張強さを幅方向乾燥時引張強さの1.0~4.0倍、望ましくは2.5~3.5倍にするのが望ましい点(【0029】)。
カ 甲6に記載された事項
本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6(特開2003-199687号公報)には、【0017】、【0019】等の記載を参照すると、ダブルエンボス加工が施された2プライのトイレットロールにおいて、芯径35~40mm、巻径110~115mm、巻長40mとし、また、紙厚200~270μmとすると、巻き密度を0.820~0.970m/cm2の範囲とすることができ、かかる巻き密度とすると流通上等において問題のない、トイレットロールとして好適なものとなることが記載されている。
キ 甲7に記載された事項
本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7(特開2015-66250号公報)には、【0009】、【0069】等の記載を参照すると、トイレットロールの製造方法及び製造装置が記載されており、ログカッター設備で、プライ数が1~3、1プライ当たりの坪量が10~25g/m2、厚みが80~250μmのトイレットペーパーを巻いた、巻径(直径)が100~120mm、芯径が10~48mm、巻長が20~100mの一般的なトイレットロールに係るログを切断するのであれば、丸ナイフ31の周速は周速860~1260m/minであるのが望ましい点が記載されている。
(2)対比
本件訂正発明1と甲1発明との対比を行う。
ア 本件訂正発明1の特定事項Aに関して
甲1発明のaにおける「トイレットペーパーが2プライ積層され、ロール状に巻き取られたトイレットロール1」と本件訂正発明1の特定事項Aにおける「紙管と、前記紙管に2プライのトイレットペーパーを巻き付けたトイレットペーパー部とを備えたトイレットロール」とは、「2プライのトイレットペーパーを巻き付けたトイレットペーパー部」「を備えたトイレットロール」である点で、両者は共通する。
イ 本件訂正発明1の特定事項Bに関して
甲1発明のbにおける「トイレットペーパーの比容積は、3.0cm3/g以上7.5cm3/g以下」であることは、比容積は、密度の逆数であるから、甲1発明のbは、トイレットペーパーの密度が0.13~0.33g/cm3であることと等価であり、そのことは、本件訂正発明1の特定事項Bにおける「前記トイレットペーパー1枚あたりの密度が0.144g/cm3以上0.174g/cm3以下」の数値範囲と、「0.144g/cm3以上0.174g/cm3以下」で重複する。
ウ 本件訂正発明1の特定事項Dに関して
甲1発明のdにおける「トイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーの、JISP 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さDMDTは、2.5N/25mm以上7.0N/25mm以下である」ことは、紙幅が15mmの試験体を使用した場合に換算すると、「1.5N/15mm以上4.2N/15mmである」こととなり、本件訂正発明1の特定事項Dにおける「1.70N/15mm以上2.10N/15mm以下」の数値範囲と、「1.70N/15mm以上2.10N/15mm以下」で重複する。
エ 本件訂正発明1の特定事項Gに関して
甲1発明のhにおける「トイレットロール」は、本件訂正発明1の特定事項Hにおける「トイレットロール」に相当する。
オ 一致点及び相違点
上記ア~エより、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
A’ 2プライのトイレットペーパーを巻き付けたトイレットペーパー部を
備えたトイレットロールであって、
B’ 前記トイレットペーパー1枚あたりの密度が0.16g/cm3以上
0.174g/cm3以下であり、
D’ 前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度が1.70N/1
5mm以上2.10N/15mm以下である
H トイレットロール。
そして、以下の点で両者は相違する。
<相違点1> (本件訂正発明1の特定事項Aに関して)
トイレットロールに関して、本件訂正発明1は、「紙管」を有し、トイレットペーパー部が、前記「紙管」に2プライのトイレットペーパーを巻き付けたものであるのに対して、甲1発明は、トイレットロール1が、巻芯であるコアを有するものの、それが「紙管」であるか不明である点。
<相違点2> (本件訂正発明1の特定事項Cに関して)
本件訂正発明1は、「トイレットロールを定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記トイレットロールを長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される」「トイレットペーパー部の潰れ強度」の値の数値範囲が規定されており、その数値範囲は「18.1N以上21.1N以下」であるのに対して、甲1発明は、トイレットペーパー部の潰れ強度の値の数値範囲が特定されていない点。
<相違点3> (本件訂正発明1の特定事項Dに関して)
トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度に関して、本件訂正発明1は、「前記トイレットペーパーの長手方向の乾燥引張強度が、前記トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定をし、6回の測定の平均を算出した値」であると定義されているのに対して、甲1発明は、トイレットペーパー(2枚重ねのシート)の乾燥時の縦方向の引張強さDMDTがJISP8113に基づくものであるが、その値がトイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定をし、6回の測定の平均を算出した値である上記のように測定されたものであるか否かが不明である点。
<相違点4> (本件訂正発明1の特定事項Eに関して)
トイレットペーパーの長手方向の伸び率に関して、本件訂正発明1は、「トイレットペーパーを幅15mm、スパン長100mmにカットしたサンプルを、引張速度50mm/分の条件で測定し、6回の測定の平均を算出した値」を「トイレットペーパーの長手方向の伸び率」として定義したうえで、その値の数値範囲が規定されており、その数値範囲は「12.4%以上15.6%以下」であるのに対して、甲1発明は、トイレットペーパーの長手方向の伸び率の数値範囲が特定されていない点。
<相違点5> (本件訂正発明1の特定事項Fに関して)
本件訂正発明1は、「紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される」「紙管の潰れ強度」の値の数値範囲が規定されており、その数値範囲は「7.6N以上12.5N以下」であるのに対して、甲1発明は、紙管の潰れ強度の値の数値範囲が特定されていない点。
<相違点6> (本件訂正発明1の特定事項Gに関して)
本件訂正発明1は、「前記トイレットペーパー部の潰れ強度と前記紙管の潰れ強度との差が7.0N以上10.6N以下」であるのに対し、甲1発明は、トイレットペーパー部の潰れ強度と紙管の潰れ強度との差の値の数値範囲が特定されていない点。
(3)検討・判断
事案に鑑みて上記相違点5について検討する。
甲2には、上記(1)イに示した甲2発明が記載されており、甲2発明は、スパイラル紙管1の潰れ強度の数値範囲として、1.0kg/cm2以上3.0kg/cm2以下が好ましい旨が特定されている。ここにおいて、上記したスパイラル紙管1の潰れ強度は、「先端に平面形状が円形で面積が1cm2の平治具を取り付けたプッシュプルゲージにより、スパイラル紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を元のスパイラル紙管中心軸位置まで押し込んだ(径方向に半分に押し潰した)時の圧力として測定される値」を圧力として採用していることから、円形で面積である1cm2との積とした上で、測定された値を「N」で表示すると、9.8N以上28.4N以下となる。
ここにおいて、本件訂正発明1では、紙管の潰れ強度を「紙管を定盤の上に中心軸が水平となるように置き、1cm2の円形平型圧縮冶具を取り付けたプッシュプルゲージにより、前記紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、前記プッシュプルゲージの先端を5mm押し込んだ時の力として測定される値」としているのに対して、甲2発明では、「先端に平面形状が円形で面積が1cm2の平治具を取り付けたプッシュプルゲージにより、スパイラル紙管を長さ方向中心位置において垂直に押し潰し、プッシュプルゲージの先端を元のスパイラル紙管中心軸位置まで押し込んだ(径方向に半分に押し潰した)時の圧力として測定される値」を採用していることから、測定時のプッシュプルゲージの先端の変位量が相違しているため、単純に対比はできないと推測されるが、少なくとも測定方法が共通するものであるから、両者が互換可能なものと仮定した上で検討すると、甲2発明における測定値の数値範囲は、本件訂正発明1の相違点5に係る構成である紙管の潰れ強度の値の数値範囲である「7.6N以上12.5N以下」と一部重複するものである。
そこで、甲1発明に対して、甲2発明におけるスパイラル紙管1を採用すべき動機付けが存在するか否かについて検討すると、甲1発明は、上記(1)ア(ア)に示した【0008】に記載されているように、「1ロールあたりの巻長を長くし、坪量を下げずにシート及びロールの柔らかさを良好にすることで、持ち運べる量や保管時の省スペース性に優れると共に、良好な柔らかさによる販促効果を高めたトイレットロールの提供」を課題にしているのに対して、甲2発明は、上記(1)イに示した【0006】に記載されているように、「十分な強度を備えるスパイラル紙管、さらには生産効率が高く潰れ難い衛生紙ロールを提供することを課題とする」ものであるから、甲1発明と甲2発明は課題が共通せず、甲1発明のトイレットロールにおいて、甲2発明におけるスパイラル紙管1を採用すべき動機付けが見いだせないし、そのようなことを示唆する記載もない。
また、本件訂正発明1が本件特許明細書の【0009】に記載されているように「ペーパーログから所定の幅のトイレットロールを切り出す際、紙管が切断圧力により塑性変形しない2プライのトイレットロールを提供すること」を課題としているところ、そのような課題は甲1発明には見いだせないし、甲2発明の「十分な強度を備えるスパイラル紙管」の「十分な強度を備える」が意味するものは、上記(1)イに示した【0020】に記載されているように「スパイラル紙管1が衛生紙を巻き付ける際に潰れやすくなるおそれがある」ことを抑制しようとすることであって、「紙管が切断圧力により塑性変形しない」ことを意味するものでもないので、甲2発明においても上記本件訂正発明1の課題は見いだせない。さらに、上記本件訂正発明1の課題は当業者にとって自明な課題とも認められない。
してみると、甲1発明のトイレットロールにおいて、甲2発明におけるスパイラル紙管1を採用し、本件訂正発明1の相違点5に係る構成を成すことは、甲1及び甲2に記載された事項を参酌しても、当業者にとって容易とはいえない。
また、本件訂正1は、相違点5に係る構成を有することで、「ペーパーログから所定の幅のトイレットロールを切り出す際、紙管が切断圧力により塑性変形しない」という甲1及び甲2に記載された事項に比して有意な効果を奏するものである。
さらに、甲3~甲7に記載された事項を参照しても、本件訂正発明1の相違点5に係る構成は記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明1の他の相違点に係る構成について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3~甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
そして、本件訂正発明2~3、5は、本件訂正発明1に、さらに特定事項を加 えたものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲1発明及び甲2発明及び甲3~甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
(4)その他
仮に、甲1市販品2発明を主引用発明として検討を行った場合においても、上記(2)で示したものと同様の相違点があり、少なくとも甲1市販品2発明に対して、甲2発明におけるスパイラル紙管1を採用すべき動機付けは見いだせないので、甲1及び甲2に記載された事項を参酌しても、当業者にとって容易とはいえない。
なお、申立人は、申立人意見書において、「親特許の特許異議申立事件における進歩性の判断の誤りについて」も主張しているが、当該主張は、本件特許とは別の特許の事件に関するものであって、申立ての理由の根拠として提示された証拠(甲第1号証)は本件特許の特許異議申立事件におけるものとは異なっているので、採用の限りでない。
(5)まとめ
よって、本件訂正発明1~3、5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
第6 むすび
以上のことから、上記取消理由、並びに、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正後の請求項1~3、5に係る特許を取り消すことはできない。
本件特許の請求項4、6は、本件訂正により削除され、これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てのうち、本件特許の請求項4、6に係る申立ては、申立て対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700945