特許異議申立
2025-700309
プラズマ耐性酸化イットリウムアルミニウム体
- 審判番号
- 2025-700309
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-527659
- 登録番号
- 7553556
- 請求日
- 2025年03月17日
- 審決日
- 2025年06月18日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ヘレーウス コバンティックス ノース アメリカ エルエルシー
- 【権利者代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【権利者代理人】森田 拓
- 【権利者代理人】前川 純一
- 【権利者代理人】永島 秀郎
- 【権利者代理人】上島 類
- 【異議申立人】立部 修一
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7553556号発明「プラズマ耐性酸化イットリウムアルミニウム体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7553556号の請求項1~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7553556号の請求項1~17に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、2020年(令和2年)11月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2020年9月4日(US)アメリカ合衆国、2019年11月18日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和6年9月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~17に対して、令和7年3月17日に特許異議申立人立部修一(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月2日に特許異議申立書に対する手続補正書(方式)が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~17に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%の多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)と、
ASTM B962-17に準拠して実施した密度測定から算出して0.1~4%の体積多孔度と
を含む焼結セラミック体であり、
SEM及び画像処理法を使用して測定した最大径が0.1~5umである細孔を含み、
前記焼結セラミック体の最大寸法が、350~622mmであることを特徴とする焼結セラミック体。
【請求項2】
前記体積多孔度が0.1~3%である、請求項1に記載の焼結セラミック体。
【請求項3】
前記多結晶イットリウムアルミニウムガーネットが90~99.8体積%の量で存在する、請求項1または2に記載の焼結セラミック体。
【請求項4】
本明細書に開示のICPMS法を使用して測定して、前記焼結セラミック体の総質量に対して約14ppmの量のシリカを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結セラミック体。
【請求項5】
0.1~2体積%の量で存在する、酸化イットリウム及び酸化アルミニウム、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の焼結セラミック体。
【請求項6】
0.1~1体積%の量で存在する、酸化イットリウム及び酸化アルミニウム、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の焼結セラミック体。
【請求項7】
XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%の多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)と、
ASTM B962-17に準拠して実施した密度測定から算出して0.1~4%の体積多孔度と
を含む焼結セラミック体であり、
SEM及び画像処理法を使用して測定した最大径が0.1~5umである細孔を含み、
0.1~1体積%の量で存在する、YAP及びYAM、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の結晶相をさらに含む、焼結セラミック体。
【請求項8】
ASTM Cl161-13に準拠して測定し、20点の測定値から算出される平均4点曲げ強さが387MPaである、請求項1~7のいずれか1項に記載の焼結セラミック体。
【請求項9】
XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%の多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)と、ASTM B962-17に準拠して実施した密度測定から算出して0.1~4%の体積多孔度と、を含む焼結セラミック体であり、SEM及び画像処理法を使用して測定した最大径が0.1~5umである細孔を含む焼結セラミック体の製造方法であって、
a.酸化イットリウム及び酸化アルミニウムを含む粉末を混合して粉末混合物を作製するステップと、
b.焼成温度に到達するように熱を印加し、且つ前記焼成温度を維持することによって前記粉末混合物を焼成して焼成を行い、焼成粉末混合物を形成するステップと、
c.前記焼成粉末混合物を、焼結装置のツールセットによって画成される容積内に配置し、且つ前記容積内に真空条件をつくり出すステップと、
d.焼結温度に加熱しながら、前記焼成粉末混合物に圧力を印加し、且つ焼結を行って前記焼結セラミック体を形成するステップと、
e.前記焼結セラミック体の温度を下げるステップと
を含み、
前記圧力が10~60MPaである、前記方法。
【請求項10】
f.任意選択で、前記焼結セラミック体の温度を上昇させて焼鈍温度に到達するように熱を印加することによって前記焼結セラミック体を焼鈍して、焼鈍焼結セラミック体を形成するステップと、
g.前記焼鈍焼結セラミック体の温度を下げるステップと、
h.前記焼結セラミック体を機械加工して、エッチングチャンバー内の、誘電体窓またはRFウィンドウ、フォーカスリング、ノズルまたはガスインジェクター、シャワーヘッド、ガス分配プレート、エッチングチャンバーライナー、プラズマ源アダプター、ガスインレットアダプター、ディフューザー、静電ウェハチャック、チャック、パック、ミキシングマニフォールド、イオンサプレッサーエレメント、フェイスプレート、アイソレーター、スペーサー、保護リング、及びデポジションリングを作製するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記圧力が軸方向に印加される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記圧力が15~20MPaである、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
BET表面積分析法を使用して測定した前記焼成粉末混合物の比表面積が2~10m2/gである、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載の方法によって製造された焼結セラミック体。
【請求項15】
最大寸法が400~622mmである、請求項14に記載の焼結セラミック体。
【請求項16】
最大寸法が450~622mmである、請求項14に記載の焼結セラミック体。
【請求項17】
最大寸法が550~622mmである、請求項14に記載の焼結セラミック体。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 特許法第29条第2項に係る申立ての理由
ア 本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、及び周知技術(甲第4号証、甲第5号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件発明8は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術的事項、周知技術(甲第4号証、甲第5号証)、及び甲第6号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件発明9~14は、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された技術的事項、周知技術(甲第8号証、甲第9号証、甲第4号証)、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件発明15~17は、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された技術的事項、周知技術(甲第8号証、甲第9号証、甲第4号証)、技術常識、及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ したがって、本件特許1~17は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2) 証拠方法
甲第1号証 特開2010-126430号公報
甲第2号証 特開2004-217478号公報
甲第3号証 国際公開第2019/131738号
甲第4号証 特開平11-157916号公報
甲第5号証 特開2011-151336号公報
甲第6号証 特表2014-532615号公報
甲第7号証 特開平10-236871号公報
甲第8号証 (社)粉体粉末冶金協会編、「粉体粉末冶金便覧」、第1版、株式会社内田老鶴圃、2010年11月10日、第145~147ページ
甲第9号証 P. Palmero et al., "Surface and mechanical properties of transparent polycrystalline YAG fabricated by SPS", Materials Research Bulletin, 2013, vol.48, p.2589-2597
2 甲各号証の記載について
(1) 甲第1号証の記載について
甲第1号証には、「透光性YAG多結晶体とその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある(下線は当審が付した。)。
「【請求項1】
Y2O3(イットリア)とAl2O3(アルミナ)から合成されるガーネット構造の結晶からなる透光性セラミックスであって、10ppm以下のSi、Fe、Na、K、Ca、Mgを不可避不純物として含む99.99%以上の高純度Al2O3粉末および10ppm以下のSi、Fe、Na、K、Ca、Mg、30ppm以下のDy2O3、Ho2O3、Er2O3、Yb2O3を不可避不純物として含む99.9%以上の高純度Y2O3粉末を出発原料とし、原料となるY2O3およびAl2O3の組成比を制御することでY、Al以外のあらゆる形態の金属元素の添加を必要としないことを特徴とする透光性セラミックス。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、Y2O3(イットリア)とAl2O3(アルミナ)から合成されるガーネット構造の結晶からなる透光性セラミックスに関し、特に耐熱光学窓をはじめ、レーザホスト材料や光学レンズ材料、耐プラズマ光学窓として好適に利用することができる透光性セラミックスに関する。」
「【0004】
透光性セラミックスの中でも、Y2O3(イットリア)とAl2O3(アルミナ)から合成されるガーネット構造の結晶(イットリウム・アルミニウム・ガーネット、YAG)は、結晶系が立方晶であるから粒界散乱が起こりにくく、熱伝導率は0.13Wcm-1K-1、屈折率は1.82程度といずれも高い値を示し、またNd等の希土類元素を容易に固溶し得ることから光学窓材料や固体レーザの発振用素子として用いられている。」
「【実施例1】
【0016】
平均一次粒径が100nm程度である純度99.99%以上のAl2O3粉末(大明化学製TM-300)および平均一次粒径が20nm程度である純度99.9%以上のY2O3粉末(信越化学製Type-BB)を出発原料とする。この出発原料粉末を、定比組成(モル数分率Al2O3:62.5%、Y2O3:37.5%)を中心にモル数分率Al2O3:58.0%、Y2O3:42.0%~Al2O3:67.0%、Y2O3:33.0%の範囲で秤量し、高純度エタノール中でナイロンボールを用いた12~24時間のボールミル混合を図る。混合粉末を100MPa~400MPaの圧力範囲で冷間静水圧下に5~10分間置いて成形したのち、ロータリーポンプ等による10-1Pa程度の真空中で、1700℃以上の温度で2~16時間の焼結を行う。
焼結体を粉砕し、X線回折装置(リガク製RINT2500)を用いてX線回折図形を得る。X線回折図形のリートベルト解析によりYAG結晶の格子間距離を測定する。図1は、Al2O3とY2O3の比率を変化させた材料における、モル数分率に対するYAG結晶の格子間距離のデータである。Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の組成範囲においてのみ、YAG単相の焼結体が得られ、それ以外の組成範囲ではAl2O3若しくはYAlO3が得られる。YAG単相の固溶限界となる組成はAl2O3:64.5%、Y2O3:35.5%、その時の格子定数は約12.06Åと決定される。
【0017】
図2に透光性YAG多結晶体の製作手法のフローチャートを示す。出発原料粉末をY2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲内の比率となるよう秤量し、ナイロンボールを用いたボールミル混合により均一混合を図る。100MPa~400MPaの圧力範囲で冷間静水圧下に5~10分間置いて成形したのち、ロータリーポンプ等による減圧真空中で、1700℃以上の温度で2~16時間の焼結を行う。Al2O3:64.5%、Y2O3:35.5%の組成で得られた焼結体はアルキメデス法による評価で相対密度約100%、平均粒径約7ミクロン、ポア径約200nm以下のYAG結晶単相から成る多結晶体であり、本材料は波長400nm~2000nmの領域で2%~35%の線透過率を示す透光性を有する。
なお、Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の比率の材料では、アルキメデス法による相対密度98%~100%の材料が得られたものの、最大径1000nm程度の残留ポアが認められ、波長400nm~2000nmの領域で透光性は認められなかった。」
「【図1】
[図:0001424623000001.jpg]
」
(2) 甲第2号証の記載について
甲第2号証には、「複合焼結体およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
少なくとも第一相と第二相とを備えている複合焼結体であって、
前記第一相が、合計量で12重量%以上、50重量%以下の安定化ジルコニアおよび/又は部分安定化ジルコニアを含有したアルミナを主成分としており、前記第二相がイットリウム-アルミニウム・ガーネットを主成分とすることを特徴とする、複合焼結体。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イットリウム-アルミニウム・ガーネットからなる焼結体を備える複合焼結体およびその製造方法に関するものである。」
「【0056】本発明の複合焼結体は、第一相と第二相との境界の面積が大きい場合でも、第一相と第二相との間で剥離が発生しにくいという特徴を有しており、これによって大面積の複合焼結体の製造に適している。本発明による方法では、第一相と第二相との境界の面積が、25cm2以上、更には100cm2以上の複合体も製造が可能であり、特には1600cm2以上のものも製造可能である。」
(3) 甲第3号証の記載について
甲第3号証には、「セラミック複合体および半導体製造装置用部材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「[請求項1] 希土類元素酸化物を主成分とする第1セラミック基板と、該第1セラミック基板に対向して配置される酸化アルミニウムを主成分とする第2セラミック基板とを備えてなり、
前記第1セラミック基板は、前記第2セラミック基板に対向する頂面と、該頂面に続くとともに該頂面に向って拡径している外周面とを備える凸部を有し、
前記第2セラミック基板は、前記第1セラミック基板の前記頂面に対向する底面と、該底面に続くとともに該底面から離れるにしたがって縮径している内周面とを備える凹部を有し、
前記凸部の前記外周面の少なくとも一部は、前記凹部の前記内周面に当接しているセラミック複合体。」
「[0018] 第1セラミック基板1は、例えば、外径が450mm以上500mm以下であり、凸部3の厚み(第1セラミック基板1における突出していない部分から凸部3の頂面3aまでの長さ)が8mm以上12mm以下である。第2セラミック基板1は、例えば、外径が450mm以上500mm以下であり、凹部4の深さ(第2セラミック基板2における開口部分から底面4aまでの長さ)が23mm以上27mm以下である。」
「[0024] 第1セラミック基板1が酸化イットリウムを主成分とする場合、上記化合物は、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)、イットリウムアルミニウムモノクリニック(YAM)およびイットリウムアルミニウムペロブスカイト(YAP)の少なくともいずれかである。」
(4) 甲第4号証の記載について
甲第4号証には、「耐食性部材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】塩素系腐食ガス或いはそのプラズマに曝される部位が、周期律表3a族金属と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物からなることを特徴とする耐食性部材。」
「【0014】また、曝される部位を形成する複合酸化物としては、上記の少なくとも2種の金属元素を含む結晶質であることが望ましく、特にYAG(3Y2O3・5Al2O3)などのガーネット型結晶、YAM(2Y2O3・Al2O3)などの単斜晶型結晶、YAP(Y2O3・Al2O3)などのペロブスカイト型結晶、モノシリケート(Y2O3・SiO2)、ダイシリケート(Y2O3・2SiO2)などのシリケート化合物を主体とするものが優れた耐食性を有する点で望ましい。これらの中でもガーネット型結晶、ダイシリケート型結晶が焼結性と製造コストが安価である点で最も望ましい。」
「【0016】前記複合酸化物を主体する焼結体は、例えば、周期律表第3a族元素酸化物とAl2O3またはSiO2粉末との混合物を1100~1900℃の酸化性雰囲気中又は真空雰囲気中で焼成することにより作製することができる。焼成方法としては、常圧焼成の他、ホットプレス法などが採用される。」
「【0018】
【実施例】各種酸化物粉末を用いて、表1に記載の各種の材料を作製した。表1中、試料No.1~5は、周期律表第3a族元素酸化物とSiO2及び/またはAl2O3との混合物を2000℃で溶融した後、急冷してガラス化したものである。試料No.6~9はY2O3またはYb2O3とSiO2を所定の割合で混合した成形体を1300~1600℃で焼成したものである。試料No.10~15は、Y2O3とAl2O3との混合物からなる成形体を1600~1900℃の酸化性又は真空雰囲気で焼成したものである。試料No.16~18は周期律表第3a族元素酸化物とAl2O3との混合物からなる成形体を1400~1750℃で焼成したものである。試料No.19、20は、Sc2O3またはLa2O3とAl2O3をターゲットとしてスパッタ法によって作製したものである。表2の試料は、表1中の試料No.8、10、12、14、17の材料について原料に純化処理または不純物を添加して焼結体を作製した。なお、焼結体はいずれも相対密度95%以上まで緻密化した。」
(5) 甲第5号証の記載について
甲第5号証には、「静電チャック、その製造方法及び静電チャック装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
酸化イットリウムアルミニウム複合酸化物焼結体、又はアルミニウムと、イットリウムと、イットリウムを除く希土類元素とを含む複合酸化物焼結体を有する静電チャックであって、前記焼結体が、JIS Z 8729-1994に規定されるCIE(国際照明委員会)L*a*b*表色系において、C光源及び2°視野条件で測定される反射色調のL*値が10以上50以下であることを特徴とする静電チャック。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック、その製造方法及び静電チャック装置に関する。さらに詳しくは、半導体製造装置における半導体ウェハ保持などに用いられる静電チャックとその製造方法、及び静電チャック装置に関するものである。」
「【0017】
当該複合酸化物焼結体の結晶構造は、ガーネット型単相である結晶構造になるのが好ましい。しかし、ガーネット型結晶相と、ペロブスカイト型結晶相及び単斜晶系結晶相のうちの少なくとも1種とからなる結晶構造でもよい。この複合酸化物焼結体では、上記の結晶構造を有することにより、実用上問題ない強度が得られる。」
(6) 甲第6号証の記載について
甲第6号証には、「透明セラミック」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
透明セラミックであって、当該透明セラミックが2mmの厚さの研磨された板に対して600nmの波長の光で測定された、75%超のRIT、ならびに10μm超ないし100μm以下の範囲内の平均粒径を有する、前記透明セラミック。」
「【0002】
本発明は、全ての透明セラミック材料、例えばMg-Alスピネル、AlON、イットリウムアルミニウムガーネット、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム等を含む、高い強度の透明セラミックに関する。高められた機械的強度を有する材料は、特に重要であり、ここでは、殊に防護用セラミックス、例えばMg-Alスピネル、AlON、酸化アルミニウム等である。」
「【0009】
"Condition Optimization for Producing Transparent MgAl2O4 Spinel Polycrystal",J.Am.Ceram.Soc.92(6)1208-1216(2009),Moritaらの記載と同様に、SPS(=Spark Plasma-Sintering)により、たしかに、約400MPaの強度が達成可能であるが、しかし、ここに記載された構造部材は、600nmの光波長の際に70%未満のRITを有し、したがって当該構造部材は、透明防護または類似物としての使用には不適当である。すなわち、これまで、高い強度と、75%を上回る必要とされる高いRITとを組み合わせることは不可能であった。」
(7) 甲第7号証の記載について
甲第7号証には、「耐プラズマ部材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】フッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝される表面を、気孔率が3%以下のイットリウム・アルミニウム・ガーネット焼結体により形成するとともに、その表面を中心線平均粗さ(Ra)1μm以下としたことを特徴とする耐プラズマ部材。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食性ガス雰囲気下で、優れた耐プラズマ性を有する耐プラズマ部材に関するものであり、特に、半導体製造装置の内壁材、監視窓、マイクロ波導入窓、マイクロ波結合用アンテナ、あるいは静電チャックやサセプタ等に好適に使用できるものである。」
「【0016】また、本発明は、YAG焼結体がハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でのプラズマに対して優れた耐プラズマ性を有すると言えども表面にボイドが多数存在したり、表面の面粗さが粗すぎると耐プラズマ性が大きく低下することに着目し、YAG焼結体の気孔率を3%以下とするとともに、ハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝される表面を中心線平均粗さ(Ra)で1μm以下とすれば、腐食の進行を大幅に抑えることがきることを見出した。
【0017】即ち、YAG焼結体の気孔率が3%より大きかったり、表面の面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で1μmより大きくなると、プラズマに曝される表面には多数の凹凸部が存在することになるため、凸部にプラズマエネルギーが集中して腐食を受け易くなるからである。なお、YAG焼結体の気孔率はアルキメデス法により測定すれば良い。」
「【0021】ところで、本発明の耐プラズマ部材を構成するYAG焼結体を製作するには、Al2O3粉末とY2O3粉末とを数1の割合で混合して1000~1600℃で仮焼したあと、これらを粉砕して平均粒子径0.6~1.2μm、BET比表面積2~5m2/gのYAG粉末を製作する。
【0022】
【数1】
A+B=1 0.365≦A≦0.385
0.615≦B≦0.635
A・・・Y2O3のモル量
B・・・Al2O3のモル量
【0023】YAG粉末の純度は99.5以上、さらに望ましくは99.9%以上のものが良く、特に周期律表2a族元素の酸化物や酸化珪素が含まれていると、雰囲気ガスである塩素系ガスやフッ素系ガスと反応し易いことから、これらの不純物は1500ppm以下のものが良い。
【0024】そして、このYAG粉末と分散剤及びイオン交換水をポットミルに投入し、高純度アルミナボールによって均一に分散させて泥漿を作製し、この泥漿を射出成形法や鋳込成形法、あるいはドクターブレード法などのテープ成形法により成形するか、あるいは泥漿をスプレードライヤにて乾燥造粒して造粒粉末を製作し、この造粒粉末を金型に充填してメカプレス成形法やラバープレス成形法により成形し、これらの成形方法によって製作した成形体に切削加工を施して所定の形状とする。
【0025】しかるのち、成形体を80℃程度の温度で乾燥させたあと、800~1400℃の温度で2時間程度仮焼し、さらに、仮焼した成形体を真空炉に入れ、10-4~10-7torrの真空雰囲気下にて1700~1850℃の焼成温度で数時間本焼成することにより気孔率が3%以下のYAG焼結体を製作する。」
(8) 甲第8号証の記載について
甲第8号証には、「SPSプロセシングの原理と装置」に関して、次の記載がある。
「図5・10・1-1に典型的なSPS装置構成を示す3).SPS装置は一軸加圧機構を有する焼結機,水冷真空チャンバ,雰囲気制御系,真空排気系,特殊DCパルス焼結電源,位置・変化率・温度計測制御系,圧力制御系等から構成されている.油圧式/モータ式サーボ制御機構を用い,低荷重制御性を高くすることによって多孔質体焼結や固相拡散接合が可能な装置も市販されている.焼結は,通常必要量の被加工粉体を充填したダイ・パンチ型セットを準備し,これをチャンバ内の焼結ステージ上にセットした後,パンチ電極で挟み,加圧下でパルス通電して遂行される.数分内で室温から1000~2400℃への高速昇温することが可能である.」(第146ページ第9~14行)
「
[図:0001424623000002.jpg]
」(第146ページ)
(9) 甲第9号証の記載について
甲第9号証には、「Surface and mechanical properties of transparent polycrystalline YAG fabricated by SPS」(当審訳:SPS法で作製した透明多結晶YAGの表面特性と機械的特性)(タイトル)に関して、次の記載がある。
「2. Experimental
A pure YAG powder was synthesised by reverse strike coprecipitation, as fully described in some previous papers [17,19-21]. The powder, after calcination at 1000 ℃ for 30 min, was dispersed under two different conditions [22], precisely by ball-milling and ultrasonication. Ball-milling was carried out by using either α-alumina spheres (mean diameter of 1.5 mm) and tetragonal zirconia spheres (diameter of 2 mm). The powder-to-spheres weight ratio was 1:10 and the solid loading of the slurry was 33 wt.%. About 6 h of ball-milling (in the case of both milling media) and 1 h of ultrasonication were necessary to fully disperse the calcined powder, which reached in all cases a monomodal size distribution, with a mean particle size of about 120 nm [17]. YAG powders dispersed by ultrasonication and by ball-milling, using alumina and zirconia spheres, are hereafter referred to as US, BMA and BMZ, respectively.
After being poured into a graphite die of 20mm in diameter, the dispersed powders were sintered by using a SPS equipment HPD 25/2 (FCT, Germany), under low vacuum (10Pa) at a constant pressure of 74×106 Pa. The SPS cycles were constructed as follows: a fast heating rate (100 ℃/min) up to 1100 ℃, then a relatively slow heating rate (8 ℃/min) up to the sintering temperature, followed by an isothermal step of 15 min. The sintering temperature was varied between 1200 ℃ and 1400 ℃, while all other parameters were kept constant. In particular, the maximum sintering temperature was different for the three powders, and fixed according to the highest final density and optical transmittance obtained. Precisely, it was 1225 ℃ for BMA, 1250 ℃ for BMZ and 1325 ℃ for US [17 ].」(第2590ページ左欄第29~57行)
(当審訳:2.実験
純粋なYAG粉末は、先行論文[17,19-21]で詳細に説明されているように、逆ストライク共沈法によって合成した。粉末は1000℃で30分間焼成した後、ボールミル処理と超音波処理という2つの異なる条件で分散させた[22]。ボールミル処理は、α-アルミナ球(平均径1.5mm)と正方晶ジルコニア球(径2mm)を用いて行った。粉末と球の重量比は1:10で、スラリー中の固形分含有量は33wt%であった。焼成粉末を完全に分散させるには、約6時間のボールミル処理(どちらの粉砕媒体の場合も)と1時間の超音波処理が必要であった。いずれの場合も、平均粒子径は約120nmの単峰性粒度分布に達した[17]。超音波処理及びボールミル粉砕によってアルミナ球及びジルコニア球を用いて分散させたYAG粉末を、以下、それぞれUS、BMA、及びBMZと称する。
直径20mmのグラファイトダイに注入した後、分散粉末はSPS装置HPD25/2(FCT、ドイツ)を用いて、低真空(10Pa)、74×106Paの一定圧力下で焼結した。SPSサイクルは、1100℃まで高速加熱(100℃/分)し、その後焼結温度まで比較的低速加熱(8℃/分)し、その後15分間の等温ステップを経るという構成とした。焼結温度は1200℃から1400℃の間で変化させ、その他のパラメータは一定に保った。特に、最高焼結温度は3種類の粉末で異なり、得られた最終密度と光透過率の最大値に応じて決定された。具体的には、BMAでは1225℃、BMZでは1250℃、USでは1325℃であった[17]。)
3 当審の判断
(1) 甲第1号証に記載された発明
ア 申立人は、特許異議申立書の「ウ 本件特許発明1~17と甲1発明との対比」(第18ページ)において、甲第1号証に記載された「Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の比率の材料」に着目して、本件発明と甲第1号証に記載された発明を対比している。
イ そこで、甲第1号証に記載の「Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の比率の材料」に関する事項をみてみると、甲第1号証には、前記2(1)によれば、次の事項が記載されているといえる。
(ア) Y2O3(イットリア)とAl2O3(アルミナ)から合成されるガーネット構造の結晶(イットリウム・アルミニウム・ガーネット、YAG)からなる透光性セラミックスに関すること(【0001】、【0004】)。
(イ) 平均一次粒径が100nm程度である純度99.99%以上のAl2O3粉末及び平均一次粒径が20nm程度である純度99.9%以上のY2O3粉末の出発原料粉末を、Y2O3:Al2O3モル数分率が33.0%:67.0%~42.0%:58.0%の組成範囲で秤量し、高純度エタノール中でナイロンボールを用いた12~24時間のボールミルで混合し、混合粉末を100MPa~400MPaの圧力範囲で冷間静水圧下に5~10分間置いて成形したのち、ロータリーポンプ等による10-1Pa程度の真空中で、1700℃以上の温度で2~16時間の焼結を行ない、焼結体を得ること(【0016】)。
(ウ) Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の組成範囲で得られた焼結体は、Al2O3又はYAlO3を含むこと(【0016】)。
(エ) Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の比率の材料では、アルキメデス法による相対密度が98%~100%であり、残留ポアの最大径が1000nm程度であり、波長400nm~2000nmの領域での透光性が認められなかったこと(【0017】)。
(オ) 前記(イ)、(ウ)を踏まえると、【図1】から、出発原料粉末のY2O3:Al2O3モル数分率が33.0%:67.0%~42.0%:58.0%の範囲であって、Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の組成範囲から得られた焼結体は、YAGとAl2O3又はYAGとYAlO3を含むことが見て取れること。
ウ 前記イの記載事項を「焼結体」及び「焼結体の製造方法」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の「焼結体」に係る発明(以下、「甲1発明1」という。)、及び「焼結体の製造方法」に係る発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。
(ア) 甲1発明1
「出発原料粉末のY2O3:Al2O3モル数分率が33.0%:67.0%~42.0%:58.0%の範囲であって、Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の組成範囲から得られた焼結体であって、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶及びAl2O3又はYAlO3を含み、アルキメデス法による相対密度が98%~100%であり、残留ポアの最大径が1000nm程度であり、波長400nm~2000nmの領域での透光性が認められなかった、焼結体。」
(イ) 甲1発明2
「平均一次粒径が100nm程度である純度99.99%以上のAl2O3粉末及び平均一次粒径が20nm程度である純度99.9%以上のY2O3粉末の出発原料粉末を、Y2O3:Al2O3モル数分率が33.0%:67.0%~42.0%:58.0%の範囲であって、Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の組成範囲で秤量し、高純度エタノール中でナイロンボールを用いた12~24時間のボールミルで混合し、混合粉末を100MPa~400MPaの圧力範囲で冷間静水圧下に5~10分間置いて成形したのち、ロータリーポンプ等による10-1Pa程度の真空中で、1700℃以上の温度で2~16時間の焼結を行ない、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶及びAl2O3又はYAlO3を含み、アルキメデス法による相対密度が98%~100%であり、残留ポアの最大径が1000nm程度であり、波長400nm~2000nmの領域での透光性が認められなかった焼結体を得る、焼結体の製造方法。」
(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1の対比
甲1発明1の「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」、「焼結体」は、それぞれ、本件発明1の「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)」、「焼結セラミック体」に相当する。
また、甲1発明1の「焼結体」の「残留ポアの最大径が1000nm程度であ」ることは、本件発明1の「最大径が0.1~5umである細孔を含」むとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明1とは、「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)を含む焼結セラミック体であり、最大径が0.1~5umである細孔を含む焼結セラミック体。」で一致し、以下の点で相違している。
(ア) 相違点1
本件発明1は、「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)」を「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%」で含んでいるのに対して、甲1発明1は、「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」以外に「Al2O3又はYAlO3」を含むが、「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」の含有割合は不明である点。
(イ) 相違点2
本件発明1は、「ASTM B962-17に準拠して実施した密度測定から算出して0.1~4%の体積多孔度」を含んでいるのに対して、甲1発明1は、「アルキメデス法による相対密度が98%~100%」であるが、体積多孔度は明示されていない点。
(ウ) 相違点3
本件発明1の「細孔」の「最大径」は、「SEM及び画像処理法を使用して測定」された値であるのに対して、甲1発明1の「残留ポアの最大径」の測定方法が明らかでない点。
(エ) 相違点4
本件発明1は、「焼結セラミック体の最大寸法が、350~622mmである」のに対して、甲1発明1は、その点が明らかでない点。
イ 判断
(ア) まず、相違点1について検討すると、甲第1号証には、甲1発明1における「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」と「Al2O3又はYAlO3」のそれぞれの含有割合が記載されておらず、甲1発明1のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶の含有割合が「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%」であることを示す証拠もないので、相違点1は実質的な相違点である。
(イ) 次に、相違点1に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性を検討すると、甲第2号証には、イットリウム-アルミニウム・ガーネットを主成分とする複合焼結体の大きさに関する事項(前記2(2)参照)、甲第3号証には、酸化イットリウムを主成分とするセラミック複合体の大きさに関する事項(前記2(3)参照)、甲第4号証には、YAGなどのガーネット型結晶などを主体とする耐食性部材に関する事項(前記2(4)参照)、甲第5号証には、酸化イットリウムアルミニウム複合酸化物焼結体を有する静電チャックに関する事項(前記2(5)参照)、甲第6号証には、スパークプラズマ焼結(SPS)による透明セラミックの製造に関する事項(前記2(6)参照)、甲第7号証には、イットリウム・アルミニウム・ガーネット焼結体により形成された耐プラズマ部材に関する事項(前記2(7)参照)、甲第8号証には、スパークプラズマ焼結(SPS)装置に関する事項(前記2(8)参照)、甲第9号証には、SPS法による透明多結晶YAGの製造に関する事項(前記2(9)参照)が記載されている。
しかしながら、甲第2号証~甲第9号証のいずれにも、焼結体におけるイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶の含有割合を「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%」とすることは記載も示唆もされていない。
また、焼結体におけるイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶の含有割合を「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%」とすることが周知技術又は技術常識であることを示す証拠もない。
したがって、甲1発明1において、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶の含有割合を「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえない。
(ウ) 以上のとおりであるから、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第9号証に記載された技術的事項、周知技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、上記相違点1に関して、甲第1号証に記載された「Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の比率の材料」の相対密度が98%~100%であることを論拠として、相対密度が98%~99.9%のものは、本件発明1の「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%の多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)」を含むことに相当する旨を主張している(特許異議申立書第18ページ第15~21行)。
しかしながら、前記ア、イ(ア)で検討したとおり、甲1発明1の焼結体、すなわち、甲第1号証に記載された「Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の比率の材料」は、「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」以外に「Al2O3又はYAlO3」を含んでいるため、相対密度が「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」のみの含有割合を示しているといえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3) 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、前記(2)と同様に、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第9号証に記載された技術的事項、周知技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(4) 本件発明7について
ア 本件発明7と甲1発明1の対比
甲1発明1の「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」、「焼結体」は、それぞれ、本件発明7の「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)」、「焼結セラミック体」に相当する。
また、甲1発明1の「焼結体」の「残留ポアの最大径が1000nm程度であ」ることは、本件発明7の「最大径が0.1~5umである細孔を含」むとの規定を満足する。
さらに、甲1発明1の「YAlO3」を含むことは、本件特許の願書に添付された明細書の【0002】の「YAlO3(YAP、ペロブスカイト相)」との記載を踏まえると、本件発明7の「YAP及びYAM、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の結晶相をさらに含む」との規定を満足する。
したがって、本件発明7と甲1発明1とは、「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)を含む焼結セラミック体であり、最大径が0.1~5umである細孔を含み、YAP及びYAM、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の結晶相をさらに含む焼結セラミック体。」で一致し、以下の点で相違している。
(ア) 相違点5
本件発明7は、「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)」を「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%」で含んでいるのに対して、甲1発明1は、「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」以外に「Al2O3又はYAlO3」を含むが、「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」の含有割合は不明である点。
(イ) 相違点6
本件発明7は、「ASTM B962-17に準拠して実施した密度測定から算出して0.1~4%の体積多孔度」を含んでいるのに対して、甲1発明1は、「アルキメデス法による相対密度が98%~100%」であるが、体積多孔度は明示されていない点。
(ウ) 相違点7
本件発明7の「細孔」の「最大径」は、「SEM及び画像処理法を使用して測定」された値であるのに対して、甲1発明1の「残留ポアの最大径」の測定方法が明らかでない点。
(エ) 相違点8
本件発明7は、「YAP及びYAM、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の結晶相」が「0.1~1体積%の量で存在」しているのに対して、甲1発明1は、その点が明らかでない点。
イ 判断
まず、相違点5について検討すると、相違点5は、前記(2)アに示した相違点1と同じであるから、前記(2)イで検討したとおり、相違点5は実質的な相違点であり、甲第2号証~甲第9号証の記載や、周知技術及び技術常識を参酌しても、甲1発明1において、相違点5に係る本件発明7の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえない。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第9号証に記載された技術的事項、周知技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(5) 本件発明8について
本件発明8は、本件発明1又は本件発明7の発明特定事項を全て含むものであるから、前記(2)又は(4)と同様に、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第9号証に記載された技術的事項、周知技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(6) 本件発明9について
ア 本件発明9と甲1発明2の対比
甲1発明2の「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」、「残留ポアの最大径が1000nm程度であ」ること、「焼結体の製造方法」は、それぞれ、本件発明9の「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)」、「最大径が0.1~5umである細孔を含」むこと、「焼結セラミック体の製造方法」に相当する。
また、甲1発明2の「平均一次粒径が100nm程度である純度99.99%以上のAl2O3粉末及び平均一次粒径が20nm程度である純度99.9%以上のY2O3粉末の出発原料粉末を、Y2O3:Al2O3モル数分率が33.0%:67.0%~42.0%:58.0%の範囲であって、Y2O3が35.5%~37.5%、Al2O3が64.5%~62.5%の範囲外の組成範囲で秤量し、高純度エタノール中でナイロンボールを用いた12~24時間のボールミルで混合」することは、本件発明9の「a.酸化イットリウム及び酸化アルミニウムを含む粉末を混合して粉末混合物を作製するステップ」に相当する。
さらに、甲1発明2の「混合粉末を100MPa~400MPaの圧力範囲で冷間静水圧下に5~10分間置いて成形したのち、ロータリーポンプ等による10-1Pa程度の真空中で、1700℃以上の温度で2~16時間の焼結を行」うことは、焼結後に温度を下げていることは明らかであるから、本件発明9の「c.前記焼成粉末混合物を、焼結装置のツールセットによって画成される容積内に配置し、且つ前記容積内に真空条件をつくり出すステップ」、「d.焼結温度に加熱しながら」、「焼結を行って前記焼結セラミック体を形成するステップ」、及び「e.前記焼結セラミック体の温度を下げるステップ」に相当する。
したがって、本件発明9と甲1発明2とは、
「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)を含む焼結セラミック体であり、最大径が0.1~5umである細孔を含む焼結セラミック体の製造方法であって、
a.酸化イットリウム及び酸化アルミニウムを含む粉末を混合して粉末混合物を作製するステップと、
c.前記焼成粉末混合物を、焼結装置のツールセットによって画成される容積内に配置し、且つ前記容積内に真空条件をつくり出すステップと、
d.焼結温度に加熱しながら、焼結を行って前記焼結セラミック体を形成するステップと、
e.前記焼結セラミック体の温度を下げるステップと
を含む、前記方法。」で一致し、以下の点で相違している。
(ア) 相違点9
本件発明9は、「多結晶イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)」を「XRD及び画像処理法を使用して測定して90~99.9体積%」で含んでいるのに対して、甲1発明2は、「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」以外に「Al2O3又はYAlO3」を含むが、「イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶」の含有割合は不明である点。
(イ) 相違点10
本件発明9は、「ASTM B962-17に準拠して実施した密度測定から算出して0.1~4%の体積多孔度」を含んでいるのに対して、甲1発明2は、「アルキメデス法による相対密度が98%~100%」であるが、体積多孔度は明示されていない点。
(ウ) 相違点11
本件発明9の「細孔」の「最大径」は、「SEM及び画像処理法を使用して測定」された値であるのに対して、甲1発明2の「残留ポアの最大径」の測定方法が明らかでない点。
(エ) 相違点12
本件発明9は、「b.焼成温度に到達するように熱を印加し、且つ前記焼成温度を維持することによって前記粉末混合物を焼成して焼成を行い、焼成粉末混合物を形成するステップ」を含んでいるのに対して、甲1発明2は、その点が明らかでない点。
(オ) 相違点13
本件発明9は、「焼結セラミック体を形成するステップ」において、「焼成粉末混合物」に「10~60MPa」の「圧力を印加」しているのに対して、甲1発明2は、その点が明らかでない点。
イ 判断
まず、相違点9について検討すると、相違点9は、前記(2)アに示した相違点1と同じであるから、前記(2)イで検討したとおり、相違点9は実質的な相違点であり、甲第2号証~甲第9号証の記載や、周知技術及び技術常識を参酌しても、甲1発明2において、相違点9に係る本件発明9の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえない。
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明9は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第9号証に記載された技術的事項、周知技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(7) 本件発明10~17について
本件発明10~17は、本件発明9の発明特定事項を全て含むものであるから、前記(6)と同様に、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第9号証に記載された技術的事項、周知技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(8) 申立理由(進歩性欠如)に対する結論
以上の検討のとおり、前記1(1)の申立ての理由に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1~17を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~17を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700309