2025-700148
膜構造体、圧電体膜及び超伝導体膜
- 審判番号
- 2025-700148
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-503431外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7527658
- 請求日
- 2025年02月04日
- 審決日
- 2025年05月21日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】I-PEX Piezo Solutions株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人航栄事務所
- 【権利者代理人】樋口 天光
- 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
- 分類
- P1651.121-Y (H10N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 21項目
第1 手続の経緯
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特許第7527658号(以下「本件特許」という。)の請求項1~16に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)12月27日(優先権主張 平成31年3月7日、令和1年5月13日、令和1年7月31日)に国際出願され、令和6年7月26日にその特許権の設定登録がされ、同年8月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年2月4日に特許異議申立人 山崎 浩一郎(当審注:「崎」は「たつさき」である。)(以下「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~16に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明16」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】基板と、前記基板上に形成された、膜部と突出部から構成されるジルコニアを含む正方晶の結晶構造を有するバッファ膜と、前記バッファ膜上に形成される、エピタキシャル成長した白金族元素を含む金属膜と、続きを表示(全41行)前記金属膜上に形成される、エピタキシャル成長したSr(Ti1-x,Rux)O3(0≦x≦1)を含む膜と、前記エピタキシャル成長したSr(Ti1-x,Rux)O3(0≦x≦1)を含む膜上に形成される単結晶の圧電体膜と、を備える、膜構造体。【請求項2】前記金属膜の厚みが20~150nmである、請求項1に記載の膜構造体。【請求項3】前記バッファ膜が、希土類元素又はアルカリ土類元素をさらに含む、請求項1又は2に記載の膜構造体。【請求項4】前記バッファ膜の表面積が、平面と比べて1.30~1.60である、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項5】前記基板が、(100)面、(110)面、または(111)面に配向してる、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項6】前記バッファ膜は、前記基板の配向に従ってエピタキシャル成長する、請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項7】前記圧電体膜が、三方晶系の結晶構造を有する、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項8】前記三方晶系の結晶構造を有する材料が、BiFeO3、LiNbO3、またはLiTaO3である、請求項7に記載の膜構造体。【請求項9】前記圧電体膜が、六方晶系の結晶構造を有する、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項10】前記六方晶系の結晶構造を有する材料が、AlNである、請求項9に記載の膜構造体。【請求項11】前記圧電体膜が、タングステンブロンズ型の結晶構造を有する、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項12】前記圧電体膜が、ビスマス層状型の結晶構造を有する、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項13】前記ビスマス層状型の結晶構造を有する材料が、Bi4Ti3O12または(Bi4-xLax)Ti3O12(0≦x<1)である、請求項12に記載の膜構造体。【請求項14】前記圧電体膜が、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物である、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の膜構造体。【請求項15】前記ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物の材料が、チタン酸ジルコン酸鉛である、請求項14に記載の膜構造体。【請求項16】前記チタン酸ジルコン酸鉛が、Pb(Zr0.3,Ti0.7)O3である、請求項15に記載の膜構造体。」
第3 申立理由の概要
1 異議申立人の提出した証拠
異議申立人は、次の甲第1号証~甲第10号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲10」という。)を証拠として提出している。
甲第1号証(甲1):特開2002-29894号公報
甲第2号証(甲2):特開平11-312801号公報
甲第3号証(甲3):M.Morita,et al.、「Growth of crystalline zirconium dioxide films on silicon」、Journal of Applied Physics、Vol.58、No.6、p.2407-2409
甲第4号証(甲4):国際公開第2018/216227号
甲第5号証(甲5):特開2007-42949号公報
甲第6号証(甲6):特開2000-256098号公報
甲第7号証(甲7):特開2013-9173号公報
甲第8号証(甲8):長倉三郎 外5名、「岩波 理化学事典」、第5版、第1刷、株式会社 岩波書店、p.813
甲第9号証(甲9):本件特許の審査過程で令和6年6月7日付けで出願人が提出した意見書
甲第10号証(甲10):長倉三郎 外5名、「岩波 理化学事典」、第5版、第1刷、株式会社 岩波書店、p.150
2 特許異議の申立理由
異議申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
本件特許発明1~16は、甲1に記載された発明、甲2~10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第4 異議申立人の提出した証拠の記載
1 甲1について
(1) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審において加筆した。以下同じ。)。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、強誘電体薄膜を含む積層薄膜と、この積層薄膜を備えた電子デバイスに関する。前記積層薄膜は、半導体記憶装置、赤外線センサ等の薄膜強誘電体素子、あるいはAFM(原子間力顕微鏡)プローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する記録媒体、移動体通信機等に利用される薄膜振動子、薄膜VCO、薄膜フィルタ、液体噴射装置等に利用される薄膜圧電体素子、などに適用されるものである。」
「【0016】【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)~(12)の本発明により達成される。(1) 基板上にエピタキシャル成長した積層薄膜で、酸化物からなるバッファ層と強誘電体薄膜を有し、前記バッファ層と強誘電体薄膜との間に金属薄膜と酸化物薄膜がこの順で形成された層を有する積層薄膜。(2) 前記酸化物薄膜は、導電性を有する上記(1)の積層薄膜。続きを表示(全16行)(3) 前記強誘電体薄膜上に酸化物薄膜が形成されている上記(1)または(2)の積層薄膜。(4) 前記酸化物薄膜は、ペロブスカイト型酸化物である上記(1)~(3)のいずれかの積層薄膜。(5) 前記酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、前記強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい上記(1)~(4)のいずれかの積層薄膜。(6) 前記金属薄膜がPt、Ir、Pd、RhおよびAuの少なくとも1種を含有する上記(1)~(5)のいずれかの積層薄膜。(7) 前記金属薄膜の膜厚が、50~500nmである上記(1)~(6)のいずれかの積層薄膜。(8) 前記強誘電体薄膜がPbおよびTiを含む上記(1)~(7)のいずれかの積層薄膜。(9) 前記バッファ薄膜が酸化ジルコニウム、希土類元素酸化物、またはZrの一部を希土類元素もしくはアルカリ土類元素で置換した酸化ジルコニウムを含有する上記(1)~(8)のいずれかの積層薄膜。(10) 前記基板がSi(100)単結晶基板である上記(1)~(9)のいずれかの積層薄膜。(11) 上記(1)~(10)のいずれかの積層薄膜を有する電子デバイス。(12) 基板上に酸化物からなるバッファ層をエピタキシャル成長させて形成し、さらに白金の金属薄膜を形成した後、導電性ペロブスカイト型酸化物薄膜をエピタキシャル成長させて形成し、その後、強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させて形成する積層薄膜の製造方法。【0017】【作用】Si基板と強誘電体薄膜の間に、金属薄膜と酸化物薄膜をこの順で形成することで、強誘電体薄膜にかかる応力を緩和し、優先的に(001)配向した膜を得ることができる。」
「【0023】【発明の実施の形態】本発明の積層薄膜は、Si単結晶等からなる基板上にエピタキシャル成長した酸化物からなるバッファ層と強誘電体薄膜を有する積層薄膜であり、前記バッファ層と前記強誘電体薄膜の間に少なくとも一層の金属薄膜と少なくとも一層の酸化物薄膜を有する。・・・【0029】〔バッファ層〕本発明で用いられるバッファ層は酸化物の単層あるいは複数の酸化物を積層したものである。バッファ層は、金属薄膜と基板との間に設けられ、金属膜をSi基板上に高品質にエピタキシャル成長させる役割とともに、絶縁体としての機能、およびFBAR素子等のビアホールエッチング加工時のエッチングストッパ層としても機能する。また、バッファ層は金属薄膜と基板との間に形成することで、金属薄膜と基板との反応、特に、基板にSiを用いる場合には、シリサイドの形成を阻止する効果を持つ。続きを表示(全27行)【0030】結晶性の良好な強誘電体薄膜を得るためには、電極膜を単結晶に近いエピタキシャル膜として形成することが必要となる。このような要求に対し、本発明者らの特開平9-110592号公報に示される方法、すなわち、Si単結晶基板上に(001)配向のZrO2 薄膜、安定化ジルコニア薄膜、希土類元素酸化物薄膜等を含む層を設け、この上にBaTiO3 等からなる(001)配向のペロブスカイト層を形成し、このペロブスカイト層上にPt等からなる金属薄膜を電極膜として形成する方法を用いることが好ましい。ペロブスカイト層を設けるのは、ZrO2 (001)薄膜上にPt薄膜を直接形成すると、Ptは(111)配向または多結晶となり、Pt(100)単一配向膜を形成することができないからである。これは、ZrO2 (001)面とPt(100)面の格子不整合が大きいために、Ptはエピタキシャル成長するよりも、すなわち(100)面を成長面として成長するよりも、エネルギー的に安定な(111)面を成長面として成長するからである。【0031】バッファ層、および金属薄膜には、特開平11-312801号公報に記載された積層薄膜を用いても良い。同公報に記載された積層薄膜は、ファセットを有するバッファ層上に金属薄膜を形成しているため、BaTiO3 薄膜等の多元組成のペロブスカイト型薄膜を形成する必要がない。そのため、より容易に良好な結晶性のエピタキシャル金属薄膜を作製することができる。同公報に記載されたバッファ層は、金属薄膜との界面が{111}ファセット面を含むことが特徴である。このバッファ層は、立方晶(100)配向、正方晶(001)配向または単斜晶(001)配向のエピタキシャル膜なので、そのファセット面は、{111}ファセット面である。金属薄膜は、バッファ層の{111}ファセット面上に{111}配向膜としてエピタキシャル成長する。金属薄膜の成長に伴って、ファセット面により構成される凹部は埋められ、最終的に、金属薄膜の表面は平坦となり、かつ、この表面は基板表面に平行となる。この表面は、立方晶(100)面となるが、結晶格子の歪み等により正方晶(001)面となることもある。・・・【0033】〔金属薄膜〕金属薄膜はSi基板によって強誘電体膜に作用する引っ張り応力を吸収するための構造の一部として機能する。また、本発明の積層薄膜を電子デバイスの構成要素として利用する場合、金属薄膜は電極としても機能する。金属薄膜上に、エピタキシャルの立方晶酸化物を介して圧電薄膜等を形成すれば、特性の良好な薄膜バルク共振器等の各種電子デバイスが実現する。【0034】バッファ層のファセット面が存在する表面に設けられる金属薄膜は、前述したように、ファセット面により構成される凹部を埋めながら成長し、最終的に金属薄膜表面は平坦となり、かつ、基板表面に平行となる。【0035】金属薄膜は、通常、膜面と平行に(100)面が配向した立方晶エピタキシャル膜となっているが、応力によって結晶が変形して、例えば正方晶(001)配向のエピタキシャル膜となることもある。【0036】金属薄膜は、強誘電体の成膜温度での耐熱性に優れたものであるとともに、応力を吸収するための可塑性に優れたものであることが好ましい。具体的には、Pt、Ir、Pd、Rh、およびAuの少なくとも1種を主成分とすることが好ましく、PtおよびAuのいずれか1種を主成分とすることがさらに好ましい。これらの金属の単体またはこれらの金属を含む合金から構成されることが好ましい。また、金属薄膜は、組成の異なる2種以上の薄膜から構成されていてもよい。【0037】金属薄膜の厚さは、好ましくは50~500nm、より好ましくは50~200nmである。薄すぎると、変形による応力の吸収が不十分となり、また、結晶性、表面性が損なわれる。厚すぎると、FBAR等の圧電体素子に用いた場合に共振特性が損なわれる。表面がファセット面により構成されるバッファ層を用いた場合には、バッファ層の凹凸を埋めるために厚さを50nm以上とすれば、十分な表面平坦性が得られる。また、電極として十分に機能させるためには、厚さを50~500nmとすることが好ましい。・・・【0039】〔酸化物薄膜〕酸化物薄膜は、金属薄膜に接して形成されており、金属薄膜とともに基板からの引っ張り応力を緩和、制御する働きを持つ。また、酸化物薄膜を強誘電体薄膜上にさらに形成することにより、強誘電体薄膜に2次元的な圧縮応力を加えることが可能となり、強誘電体薄膜の特性を向上させる効果がある。【0040】酸化物薄膜は、その上に形成される強誘電体膜の結晶性を良好なものとするために、金属薄膜に対してエピタキシャルに形成されていることが必要となる。この薄膜は、立方晶(100)単一配向、あるいは正方晶(001)単一配向していることが好ましい。酸化物薄膜が、Si基板上に形成されている場合には、応力による歪みを受け結晶が変形したり、ドメインを形成したりすることもあるため、立方晶(100)配向膜が変形した正方晶(001)配向膜となっていたり、正方晶の(001)配向と(100)配向からなる90度ドメイン構造となっていても良い。【0041】酸化物薄膜の材料としては、例えば、CaF2 構造、希土類c型構造、パイロクロア構造、NaCl構造、ペロブスカイト型構造を有するものが好ましいが、強誘電体の多くがペロブスカイト構造を有することから、強誘電体との結晶整合性に適した、ペロブスカイト型酸化物がさらに好ましく、導電性ペロブスカイト型酸化物薄膜がさらに好ましい。導電性ペロブスカイト型酸化物薄膜を用いれば、金属薄膜(Pt)とともに下部電極としても機能させることができ、その上に形成される強誘電体薄膜に効率よく電圧を印加することができる。ペロブスカイト型酸化物薄膜としては、例えば、SrTiO3 、希土類元素含有チタン酸鉛、およびSrRuO3等の導電性ペロブスカイト型酸化物が好ましい。・・・【0055】〔強誘電体薄膜〕強誘電体薄膜は、ペロブスカイト型酸化物薄膜上に設けられる。強誘電性、圧電性など、要求される機能に応じて適宜選択すればよいが、例えば以下の材料が好適である。【0056】(A)ペロブスカイト型材料:希土類元素含有チタン酸鉛、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、PLZT(ジルコンチタン酸ランタン鉛)等のPb系ペロブスカイト化合物;Bi系ペロブスカイト化合物など。以上のような単純、複合、層状の各種ペロブスカイト化合物。【0057】なお、本明細書では、PbTiO3 などのようにABOxにおけるOの比率xをすべて3として表示してあるが、xは3に限定されるものではない。ペロブスカイト材料によっては、酸素欠陥または酸素過剰で安定したペロブスカイト構造を組むものがあるので、ABOxにおいて、xの値は、通常、2.7~3.3程度である。また、A/Bは1に限定されるものではない。A/Bを変えることにより、強誘電特性や圧電特性などの電気的特性、および表面平坦性や結晶性を変化させることができる。従って、A/Bは必要とされる強誘電体薄膜の特性に応じて変化させてもよい。通常、A/Bは0.8~1.3程度である。なお、A/Bは、蛍光X線分析法から求めることができる。・・・【0059】ペロブスカイト型強誘電体の中では、PZTが、強誘電特性の他に圧電特性にも優れるため、好ましい。PZT薄膜の組成は、Ti/(Ti+Zr)原子比として、0.60から0.90の範囲が好ましく、0.70から0.85の範囲がさらに好ましい。0.60よりTiの割合の少ない組成域では強誘電特性、あるいは共振特性が悪化する。一方、Tiの割合が多すぎると、絶縁性が悪化する。・・・【0063】強誘電体薄膜は、下地のペロブスカイト型酸化物薄膜上にエピタキシャル成長していることが必要である。強誘電体薄膜が正方晶である場合には(001)単一配向膜であることが好ましいが、Si基板からの応力によって(100)配向結晶と(001)配向結晶からなる90度ドメイン構造となっていても良い。・・・【0067】〔基板〕本発明で用いる基板は、Si、MgO、SrTiO3 等の各種単結晶から選択することができるが、Si(100)単結晶表面を有する基板が最も好ましい。Si単結晶基板を用いる場合、基板と積層薄膜とは、それぞれの面内に存在する軸同士も平行であることが好ましい。【0068】〔製造方法〕バッファ層、金属薄膜、酸化物薄膜、および強誘電体薄膜の形成方法は特に限定されず、基板上、特にSi単結晶基板上に、これらをエピタキシャル成長させることのできる方法から適宜選択すればよいが、蒸着法、MBE法、RFマグネトロンスパッタ法などを用いることが好ましく、特に、前記特開平9-110592号公報や、本出願人による特開平10-287494号公報等に開示されている蒸着法を用いることが好ましい。」
「【0092】【実施例】以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。〔実施例1、比較例1,2〕Si(100)単結晶基板上に、ZrO2 薄膜、Y2O3 薄膜、Pt薄膜、BaTiO3 薄膜、SrRuO3 薄膜、PZT薄膜がこの順で積層された積層薄膜を、以下の手順で形成した。・・・【0105】実施例1、比較例1および2のPZT膜の(001)および(100)ピーク付近のX線回折の結果を、それぞれ、図7、8、および9に示す。これらのピークには、PZT膜の下地層である、SrRuO3 膜やBaTiO3 膜からの回折が重なるが、下地層のみのX線回折測定を行うことにより、PZT薄膜の(001)および(100)ピークへの下地層からの回折の影響はほぼ無視できることが予め確認された。PZT膜の(001)ドメインと(100)ドメインの割合を調べるため、(001)ピークの強度をIc、(100)ピークの強度をIaとして、それぞれのPZT膜のIc/(Ia+Ic)を求めた。Ic/(Ia+Ic)の値は、PZT/SrRuO3 /Pt/Y2O3 /ZrO2 /Si(100)構造で0.540、PZT/Pt/Y2O3 /ZrO2 /Si(100)構造で0.158、PZT/SrRuO3 /BaTiO3 /ZrO2 /Si(100)構造で0.267となった。このことから、実施例1の構造とすることにより、PZT膜のドメイン構造が著しく改善され、優先的に(001)配向したPZT膜が得られることが明らかとなった。」
「【0112】【発明の効果】本発明では、Si基板と強誘電体薄膜の間に、金属薄膜と酸化物薄膜を形成することで、強誘電体薄膜にかかる応力を緩和し、優先的に(001)配向した任意の厚さの強誘電体膜およびその製造方法を得ることができる。【0113】さらに、立方晶酸化物薄膜に用いる材料のa軸の格子定数が、その上に作製する強誘電体薄膜に用いる材料のa軸の格子定数より小さい場合には、ミスフィットによる弾性歪みの効果が付加されることになり、この効果を利用して強誘電体膜をc軸方向に伸長させることができ、優先的に(001)配向した強誘電体膜およびその製造方法を得ることができる。」
「[図:0001423537000001.jpg]」
(2) 甲1に記載された事項
ア 【0016】の(1)の記載によれば、「積層薄膜」は、「酸化物からなるバッファ層と強誘電体薄膜を有し、前記バッファ層と強誘電体薄膜との間に金属薄膜と酸化物薄膜がこの順で形成された層を有」し、「基板上にエピタキシャル成長した」ものである。
イ 【0067】の記載によれば、「基板」は、「Si(100)単結晶表面を有する基板が最も好ましい」。
ウ 【0023】の記載によれば、「バッファ層」は、「基板上にエピタキシャル成長した酸化物」からなる。
また、【0030】の記載によれば、「バッファ層」は、「(001)配向のZrO2 薄膜、安定化ジルコニア薄膜、希土類元素酸化物薄膜等を含む層を設け、この上にBaTiO3 等からなる(001)配向のペロブスカイト層を形成し」たものである。
また、【0031】の記載によれば、「バッファ層、および金属薄膜には、特開平11-312801号公報に記載された積層薄膜」を用いても良く、その場合、「ファセットを有するバッファ層上に金属薄膜を形成しているため、BaTiO3 薄膜等の多元組成のペロブスカイト型薄膜を形成する必要がない」。また、「バッファ層」は、「金属薄膜との界面が{111}ファセット面」を含み、「金属薄膜の成長に伴って、ファセット面により構成される凹部は埋められ」る。そうすると、「バッファ層、および金属薄膜」に「特開平11-312801号公報に記載された積層薄膜」を用いる場合、「バッファ層」は、「(001)配向のZrO2 薄膜、安定化ジルコニア薄膜、希土類元素酸化物薄膜等を含む層を設け」たものであり、「金属薄膜との界面が{111}ファセット面」を含み、「金属薄膜の成長に伴って、ファセット面により構成される凹部は埋められ」る。
エ 【0031】の記載によれば、「金属薄膜」は、「バッファ層の{111}ファセット面上に{111}配向膜としてエピタキシャル成長」したものであり、【0036】の記載によれば、「金属薄膜」は、「Pt、Ir、Pd、Rh、およびAuの少なくとも1種を主成分」とするものである。
オ 【0040】、【0041】の記載によれば、「酸化物薄膜」は、「金属薄膜に対してエピタキシャルに形成されて」おり、「酸化物薄膜の材料」は、「ペロブスカイト型酸化物」が好ましく、「ペロブスカイト型酸化物薄膜としては、例えば、SrTiO3 、希土類元素含有チタン酸鉛、およびSrRuO3等の導電性ペロブスカイト型酸化物が好ましい。」
カ 【0055】、【0056】の記載によれば、「強誘電体薄膜」は、「強誘電性、圧電性など、要求される機能に応じて適宜選択すればよ」く、「希土類元素含有チタン酸鉛、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、PLZT(ジルコンチタン酸ランタン鉛)等のPb系ペロブスカイト化合物」などの「ペロブスカイト型材料」が好ましい。
また、【0063】の記載によれば、「強誘電体薄膜」は、「ペロブスカイト型酸化物薄膜上にエピタキシャル成長し」たものであり、「強誘電体薄膜が正方晶である場合には(001)単一配向膜であることが好ましいが、Si基板からの応力によって(100)配向結晶と(001)配向結晶からなる90度ドメイン構造となっていても良い」ものである。
(3) 甲1発明
上記(1)、(2)によれば、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。(括弧内は、上記(2)の引用元を示す。)
「酸化物からなるバッファ層と強誘電体薄膜を有し、前記バッファ層と強誘電体薄膜との間に金属薄膜と酸化物薄膜がこの順で形成された層を有し、基板上にエピタキシャル成長した積層薄膜であって、(ア)基板は、Si(100)単結晶表面を有する基板が最も好ましく、(イ)基板上にエピタキシャル成長した酸化物からなり、(001)配向のZrO2薄膜、安定化ジルコニア薄膜、希土類元素酸化物薄膜等を含む層を設けたものであり、金属薄膜との界面が{111}ファセット面を含み、金属薄膜の成長に伴って、ファセット面により構成される凹部は埋められる、バッファ層と、(ウ)バッファ層の{111}ファセット面上に{111}配向膜としてエピタキシャル成長したものであり、Pt、Ir、Pd、Rh、およびAuの少なくとも1種を主成分とする、金属薄膜と、(エ)金属薄膜に対してエピタキシャルに形成されており、SrTiO3、希土類元素含有チタン酸鉛、およびSrRuO3等の導電性ペロブスカイト型酸化物が好ましい、酸化物薄膜と、(オ)ペロブスカイト型酸化物薄膜上にエピタキシャル成長した強誘電体薄膜であって、強誘電性、圧電性など、要求される機能に応じて適宜選択すればよく、希土類元素含有チタン酸鉛、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、PLZT(ジルコンチタン酸ランタン鉛)等のPb系ペロブスカイト化合物などのペロブスカイト型材料が好ましく、強誘電体薄膜が正方晶である場合には(001)単一配向膜であることが好ましいが、Si基板からの応力によって(100)配向結晶と(001)配向結晶からなる90度ドメイン構造となっていても良い、強誘電体薄膜と、(カ)を有する、積層薄膜。(ア)」
2 甲2について
甲2には、以下の記載がある。
「【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、結晶性の良好な単一配向金属薄膜を含む積層薄膜を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)~(6)の本発明により達成される。続きを表示(全26行)(1) 立方晶(100)単一配向のエピタキシャル膜である金属薄膜と、この金属薄膜と接する界面に{111}ファセット面が存在するバッファ層とを有する積層薄膜。(2) 前記バッファ層が、希土類元素酸化物、酸化ジルコニウム、またはZrの一部を希土類元素もしくはアルカリ土類元素で置換した酸化ジルコニウムを含有する上記(1)の積層薄膜。(3) 希土類元素およびアルカリ土類元素をRで表したとき、前記バッファ層において原子比R/(Zr+R)が0.2~0.75である上記(2)の積層薄膜。(4) 前記バッファ層を挟んで前記金属薄膜の反対側に下地層を有し、この下地層が、酸化ジルコニウム、またはZrの一部を希土類元素もしくはアルカリ土類元素で置換した酸化ジルコニウムを含有し、希土類元素およびアルカリ土類元素をRで表したとき、この下地層における原子比R/(Zr+R)が、前記バッファ層における原子比R/(Zr+R)よりも小さい上記(2)の積層薄膜。(5) 前記金属薄膜がPt、Ir、PdおよびRhの少なくとも1種を含有する上記(1)~(4)のいずれかの積層薄膜。(6) 表面がSi(100)単結晶から構成される基板上に存在する上記(1)~(5)のいずれかの積層薄膜。【0009】【発明の実施の形態】本発明の積層薄膜は、Si単結晶等からなる基板上に形成されており、基板側にバッファ層を有し、このバッファ層に接して金属薄膜を有する。【0010】バッファ層バッファ層は、金属薄膜と基板との間に設けられる。なお、バッファ層は、絶縁体としても機能する。【0011】バッファ層は、金属薄膜との界面が{111}ファセット面を含むことが特徴である。図1(a)に、バッファ層表面のファセット面の模式図を示す。図1(b)に、このファセット面を拡大して示す。バッファ層は、立方晶(100)配向、正方晶(001)配向または単斜晶(001)配向のエピタキシャル膜なので、このファセット面は、{111}ファセット面である。金属薄膜は、バッファ層の{111}ファセット面上に{111}配向膜としてエピタキシャル成長する。金属薄膜の成長に伴って、ファセット面により構成される凹部は埋められ、最終的に、図1(c)に示すように金属薄膜の表面は平坦となり、かつ、この表面は基板表面に平行となる。この表面は、立方晶(100)面となるが、結晶格子の歪み等により正方晶(001)面となることもある。・・・【0013】ファセット面の寸法は特に限定されないが、ファセット面の高さ、すなわち、バッファ層の面内と直交する平面に投影したときの寸法が小さすぎると、バッファ層表面にファセット面を設けたことによる効果が小さくなるので、投影寸法は5nm以上であることが好ましい。一方、この投影寸法が大きい場合、それに伴って金属薄膜を厚くしないと金属薄膜表面が平坦にならなくなる。しかし、金属薄膜を厚くするとクラックが発生しやすくなるので、上記投影寸法は30nm以下であることが好ましい。なお、上記投影寸法は、バッファ層断面の透過型電子顕微鏡写真から求める。・・・【0015】表面に{111}ファセット面を形成するために、バッファ層は、希土類元素酸化物を主成分とするか、酸化ジルコニウムを主成分とするか、Zrの一部を希土類元素もしくはアルカリ土類元素で置換した酸化ジルコニウムを主成分とすることが好ましい。なお、本明細書における希土類元素は、ScおよびYを含むものとする。このようなバッファ層は、立方晶(100)配向または単斜晶(001)配向のとき、表面にファセット面を出現させることが可能である。・・・【0030】金属薄膜の厚さは用途により異なるが、好ましくは10~500nm、より好ましくは50~150nmであり、結晶性、表面性を損なわない程度に薄いことが好ましい。より具体的には、バッファ層のファセット面により構成される凹凸を埋めるためには、厚さを30nm以上とすることが好ましく、100nm以上の厚さとすれば、十分な表面平坦性が得られる。また、電極として十分に機能させるためには、厚さを50~500nmとすることが好ましい。・・・【0035】基板本発明で用いる基板は、Si、MgO、SrTiO3等の各種単結晶から選択することができるが、Si(100)単結晶表面を有する基板が最も好ましい。Si単結晶基板を用いる場合、基板と積層薄膜とは、それぞれの面内に存在する軸同士も平行であることが好ましい。【0036】製造方法バッファ層、金属薄膜および下地層の形成方法は特に限定されず、基板上、特にSi単結晶基板上に、これらをエピタキシャル膜として形成可能な方法から適宜選択すればよいが、好ましくは蒸着法、特に、前記特開平9-110592号公報や、本出願人による特願平9-106776号等に開示されている蒸着法を用いることが好ましい。」
「[図:0001423537000002.jpg]」
3 甲3について
甲3には、以下の記載がある。なお、以下の日本語訳は異議申立人の提出した抄訳文を用い、下線は合議体にて付与した。
「[図:0001423537000003.jpg]」(2407ページ要約欄)
(日本語訳)二酸化ジルコニウム(ZrO2)膜は、真空蒸着法により室温から800℃の範囲で加熱されたSi(100)、Si(111)及びSiO2/Si基板上に成長した。X線回折と反射高エネルギー電子線回折の観察から800℃でSi(100)基板上に正方晶ZrO2(200)膜がエピタキシャル成長することが明らかになった。エピタキシャル成長の不完全性は、ZrO2(002)結晶粒が優先配向していることに起因する。ZrO2膜の結晶系は基板温度に依存する。800℃で成長した正方晶ZrO2膜の結晶完全性と配向性は、基板方位に依存する。
「[図:0001423537000004.jpg]」(2407ページ右欄14行~2408ページ右欄17行)
(日本語訳)さまざまな基板温度でSi(100)及びSi(111)基板上に成長したZrO2膜のX線回折パターンをそれぞれ図1および図2に示す。単斜晶ZrO2(11<1>)は、主に600℃でSi(100)上に成長した。単斜晶ZrO2の強度は、基板温度が上昇するにつれて、正方晶ZrO2の強度の増加とともに減少する。700℃で成長した正方晶ZrO2(200)とは格子定数の異なる正方晶ZrO2(200)は、主に800℃でSi(100)上に成長し、単斜晶ZrO2からのシグナルは観測されない。Si(111)上に成長した薄膜のX線回折パターンからも、基板温度の上昇とともに正方晶ZrO2の強度が増加することがわかる。800℃では、Si(111)上に正方晶ZrO2(111)が成長した。したがって、800℃より低い温度では主に単斜晶ZrO2が成長し、800℃では正方晶ZrO2が成長すること、800℃で成長したZrO2の配向はSi基板の配向に依存することがわかった。正方晶ZrO2とSiの配向関係は以下の通りである。
(200)ZrO2||(100)Si
(111)ZrO2||(111)Si)(当審注:<1>は、上線付きの1である。)
「[図:0001423537000005.jpg]」(2407ページ図1)
(日本語訳)図1.Si(100)基板上に(a)600℃、(b)700℃、(c)800℃で成長したZrO2膜のX線回折パターン(CuKα)。mとtはそれぞれ単斜晶、正方晶を示す。サテライトピークa及びbは、それぞれm-ZrO2(111)及びm-ZrO2(021)からのシグナルである。
4 甲4について
甲4には、以下の記載がある。
「本発明の一態様としての膜構造体は、(100)面よりなる主面を含むシリコン基板と、主面上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した酸化ジルコニウムを含む第1膜と、第1膜上に形成され、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した白金を含む第1導電膜と、を有する。また、当該膜構造体は、第1導電膜上に形成され、下記一般式(化1)で表され、且つ、擬立方晶表示で(100)配向した第1複合酸化物を含む第2膜と、第2膜上に形成され、下記一般式(化2)で表され、且つ、擬立方晶表示で(100)配向した第2複合酸化物を含む第3膜と、を有する。また、当該膜構造体は、第3膜上に形成され、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したチタン酸ジルコン酸鉛を含む第1圧電膜を有する。Sr(Ti1-xRux)O3・・・(化1)Pb(Zr1-xTix)O3・・・(化2)xは、0≦x≦1を満たし、yは、0≦y≦0.1を満たす。」(3ページ17行~3ページ28行)
「図1に示すように、本実施の形態の膜構造体10は、基板11と、配向膜12と、導電膜13と、膜14と、膜15と、圧電膜16と、を有する。配向膜12は、基板11上に形成されている。導電膜13は、配向膜12上に形成されている。膜14は、導電膜13上に形成されている。膜15は、膜14上に形成されている。圧電膜16は、膜15上に形成されている。・・・ここで、基板11の主面としての上面11a内で互いに直交する2つの方向を、X軸方向及びY軸方向とし、上面11aに垂直な方向をZ軸方向としたとき、ある膜がエピタキシャル成長しているとは、その膜が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のいずれの方向にも配向していることを意味する。膜14は、下記一般式(化1)で表され、且つ、擬立方晶表示で(100)配向した複合酸化物を含む。Sr(Ti1-xRux)O3・・・(化1)ここで、xは、0≦x≦1を満たす。なお、以下では、xがx=0を満たすときのSr(Ti1-xRux)O3即ちSrTiO3を、STOと称し、xが0<x<1を満たすときのSr(Ti1-xRux)O3を、STROと称し、xがx=1を満たすときのSr(Ti1-xRux)O3即ちSrRuO3を、SROと称する場合がある。」(5ページ30行~6ページ32行)
「ステップS2では、まず、基板11を一定の真空雰囲気中に配置した状態で、基板11を例えば700℃に加熱する。ステップS2では、次に、ジルコニウム(Zr)単結晶の蒸着材料を用いた電子ビーム蒸着法によりZrを蒸発させる。このとき、蒸発したZrが例えば700℃に加熱された基板11上で酸素と反応することにより、酸化ジルコニウム(ZrO2)膜となって成膜される。そして、単層膜としてのZrO2膜よりなる配向膜12が形成される。配向膜12は、シリコン単結晶よりなる基板11の(100)面よりなる主面としての上面11a上に、エピタキシャル成長する。配向膜12は、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向した酸化ジルコニウム(ZrO2)を含む。即ち、シリコン単結晶よりなる基板11の、(100)面よりなる上面11a上に、(100)配向した酸化ジルコニウム(ZrO2)を含む単層膜よりなる配向膜12が、形成される。」(13ページ21行~13ページ31行)
「まず、図8に示したように、基板11として、(100)面よりなる主面としての上面11aを有し、6インチのシリコン単結晶よりなるウェハを用意した。次に、図9に示したように、基板11上に、配向膜12として、酸化ジルコニウム(ZrO2)膜を、電子ビーム蒸着法により形成した。・・・次に、図10に示したように、配向膜12上に、導電膜13として、白金(Pt)膜を、スパッタリング法により形成した。続きを表示(全23行)・・・次に、図11に示したように、導電膜13上に、膜14として、SRO膜を、スパッタリング法により形成した。・・・次に、図12に示したように、膜14上に、膜15として、PbZrO3膜(PZO膜)を積層した積層膜を、塗布法により形成した。・・・図15及び図16は、PZO膜までが形成された膜構造体のXRD法によるθ-2θスペクトルの例を示すグラフである。・・・図15に示す例(実施例3)では、θ-2θスペクトルにおいて、擬立方晶表示でZrO2の(200)面に相当するピーク、立方晶の結晶構造を有するPtの(200)面に相当するピーク、並びに、PZOの擬立方晶表示で(100)面及び(200)面に相当するピークが観測された。そのため、図15に示す例(実施例3)では、配向膜12が、擬立方晶表示で(100)配向したZrO2を含み、導電膜13が、立方晶表示で(100)配向したPtを含み、膜15が、擬立方晶表示で(100)配向したPZOを含むことが分かった。次に、図13に示したように、膜15上に、圧電膜17として、例えば2μmの膜厚を有するPb(Zr0.55Ti0.45)O3膜(PZT膜)を、スパッタリング法により形成した。・・・図17及び図18の各々は、PZT膜までが形成された膜構造体のXRD法によるθ-2θスペクトルの例を示すグラフである。・・・図17に示す例(実施例3)では、θ-2θスペクトルにおいて、立方晶の結晶構造を有するPtの(200)面に相当するピーク、並びに、正方晶の結晶構造を有するPZTの(001)面及び(002)面に相当するピークが観測された。そのため、図17に示す例(実施例3)では、導電膜13が、立方晶の結晶構造を有し、且つ、(100)配向したPtを含み、圧電膜16が、正方晶の結晶構造を有し、且つ、(001)配向したPZTを含むことが分かった。・・・次に、図1に示したように、圧電膜17上に、圧電膜18として、Pb(Zr0.55Ti0.45)O3膜(PZT膜)を、塗布法により形成した。・・・図19及び図20は、PZT膜までが形成された膜構造体の逆格子マップの測定結果である。図19は、実施例3についての結果を示し、図20は、比較例1についての結果を示す。図21は、PZTの逆格子マップのシミュレーション(計算)を行った結果である・・・図19に示す逆格子マップの測定結果(実施例3)を図21に示す逆格子マップの計算結果と比較すると、図19に示す逆格子マッピングの測定結果は、図21に示す逆格子マップの計算結果と一致している。そのため、実施例3のPZT膜は、良好な単結晶膜であることが分かる。」(18ページ31行~24ページ27行)
5 甲5について
甲5には、以下の記載がある。
「【0018】図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(100)であるシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した酸化シリコン(SiO2)からなる、厚さ0.5~2.0μmの弾性膜50が形成されている。・・・【0022】続きを表示(全32行)一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50上には、図3に示すように、酸化ジルコニウム層101と、酸化セリウム層102と、導電体層103とが順々に積層形成されている。これら、酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及び導電体層103の全体の厚さは、例えば、約10nmである。【0023】酸化ジルコニウム層101は、フルオライト(CF3)構造を有しており、弾性膜50上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この酸化ジルコニウム層101の結晶性は、流路形成基板10と同じ配向性、すなわち、結晶面方位が(100)に配向している。なお、酸化ジルコニウム層101を形成する材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やジルコニア(ZrO2)等を挙げることができ、本実施形態では、YSZを用いた。・・・【0026】また、このような結晶面方位が(100)配向した導電体層103上には、厚さが例えば、約100nmの下電極膜60と、厚さが例えば、0.2~5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、50~100nmの上電極膜80とが順々に積層形成され、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。そして、振動板は、本実施形態では、弾性膜50、酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102、導電体層103及び下電極膜60から構成されている。・・・【0028】ここで、圧電体層70の下地である下電極膜60は、本実施形態では、上述した酸化ジルコニウム層101、酸化セリウム層102及び導電体層103の3層と同様に、導電体層103上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、この下電極膜60は、下地である導電体層103と同じ配向性、すなわち、結晶面方位(100)に配向している。なお、このような下電極膜60は、本実施形態では、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)からなる酸化物導電体であり、ペロブスカイト構造を有している。【0029】また、このような下電極膜60上に形成される圧電体層70は、ペロブスカイト構造を有しており、下地である下電極膜60上にエピタキシャル成長させた薄膜である。そして、圧電体層70の結晶性は、下地である下電極膜60と同じ配向性、すなわち、結晶面方位(100)に配向している。【0030】このような圧電体層70の結晶面方位(100)に含まれる(100)方向は、上述した圧力発生室12の長手方向と同一又は45°の方向であることが好ましい。本実施形態では、圧電体層70の(100)方向を圧力発生室12の長手方向と同一方向とした。これにより、圧電体層70の圧電特性を高めることができる。このような圧電体層70を形成する材料としては、本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3;PZT)からなる強誘電体材料である。したがって、圧電体層70は、結晶面方位が(100)配向した単結晶PZT薄膜である。【0031】そして、圧電体層70は、Pb(ZrxTi1-x)O3の組成でx=0.6~0.75、すなわち、ジルコニウム組成比が0.6~0.75の単結晶PZT膜であり、且つ(100)半価幅が0.1~0.2度のものである。このようなジルコニウム組成比で圧電体層70を形成することにより、圧電体層70の結晶面方位が(100)配向した単結晶PZT薄膜を形成することができる。【0032】ここで、X線回折広角法によって圧電体層70を測定すると、(100)面に相当する回折強度のピークが発生する。そして、「半価幅」とは、X線回折広角法により測定されたX線回折チャートで示されるロッキングカーブの各結晶面に相当するピーク強度の半価での幅のことを言う。【0033】また、圧電体層70のジルコニウム組成比を変化させた場合の圧電体層の特性について説明する。結晶面方位が(100)配向した下電極膜60上にジルコニウム組成比を変えて、エピタキシャル成長させた単結晶の圧電体層を形成し、この(100)強度と、(100)半価幅を測定した。この結果を図4及び図5に示す。【0034】図4に示すように、ジルコニウム組成比を変化させることによってエピタキシャル成長させた単結晶PZT膜である圧電体層の(100)強度が変化し、且つ(100)強度が35000cps以上となるのはジルコニウム組成比が0.6~0.75であった。【0035】また、図5に示すように、ジルコニウム組成比を変化させることによってエピタキシャル成長させた単結晶PZT膜である圧電体層の(100)面の半価幅が変化し、且つ(100)半価幅が0.1~0.2度となるのは、ジルコニウム組成比が0.6~0.75であった。・・・【0040】このように、圧電体層70として、エピタキシャル成長させた単結晶PZT膜を用い、しかもPb(ZrxTi1-x)O3の組成でx=0.6~0.75とし、且つ(100)半価幅が0.1~0.2度とすることで、変位特性などの圧電特性が優れた圧電体層70を得ることができる。すなわち、小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができ、変位の大きな圧電素子300を実現できる。【0041】このような圧電体層70は、その結晶面方位が(100)に配向した単結晶構造となり、結晶構造内に粒界は実質的に存在しない。これにより、粒界が圧電素子300の変位に悪影響を及ぼすことなく、圧電体層70に所定の駆動電界を発生させて圧電素子300に所定の変位を行わせることができる。したがって、圧電素子300の変位量を所定値にすることができ、圧電素子300の圧電特性を略均一にすることができる。また、実質的に最大出力での液体吐出を行うことができる。」
6 甲6について
甲6には、以下の記載がある。
「【0010】【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)~(8)の本発明により達成される。(1) バッファ層と、この上に成長したペロブスカイト型酸化物薄膜とを有し、前記バッファ層の前記ペロブスカイト型酸化物薄膜との界面が{111}ファセット面から構成されており、前記ファセット面とほぼ平行に、前記ペロブスカイト型酸化物薄膜の立方晶、菱面体晶、正方晶もしくは斜方晶の{110}面、正方晶もしくは斜方晶の{101}面、または斜方晶の{011}面が存在する積層薄膜。(2) 前記ペロブスカイト型酸化物薄膜が、(100)配向、(001)配向および(010)配向の1種または2種からなる配向膜である上記(1)の積層薄膜。(3) 前記ペロブスカイト型酸化物薄膜が、(111)単一配向膜である上記(1)の積層薄膜。(4) 前記ペロブスカイト型酸化物薄膜が、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛またはこれらの固溶体を主成分とする上記(1)~(3)のいずれかの積層薄膜。(5) 前記バッファ層が、希土類元素酸化物、酸化ジルコニウム、またはZrの一部を希土類元素もしくはアルカリ土類元素で置換した酸化ジルコニウムを含有する上記(1)~(4)のいずれかの積層薄膜。(6) 希土類元素およびアルカリ土類元素をRで表したとき、前記バッファ層において原子比R/(Zr+R)が0.2~0.75である上記(5)の積層薄膜。(7) 前記バッファ層を挟んで前記ペロブスカイト型酸化物薄膜の反対側に下地層を有し、この下地層が、酸化ジルコニウム、またはZrの一部を希土類元素もしくはアルカリ土類元素で置換した酸化ジルコニウムを含有し、希土類元素およびアルカリ土類元素をRで表したとき、この下地層における原子比R/(Zr+R)が、前記バッファ層における原子比R/(Zr+R)よりも小さい上記(5)の積層薄膜。(8) 表面がSi(100)単結晶から構成される基板上に存在する上記(1)~(7)のいずれかの積層薄膜。」
「【0042】ペロブスカイト型酸化物薄膜ペロブスカイト型酸化物薄膜に用いる材料は特に限定されず、強誘電性、圧電性など、要求される機能に応じて適宜選択すればよいが、例えば以下の材料が好適である。【0043】BaTiO3;PbTiO3、希土類元素含有チタン酸鉛、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、PLZT(ジルコンチタン酸ランタン鉛)等のPb系ペロブスカイト化合物;Bi系ペロブスカイト化合物など。以上のような単純、複合、層状の各種ペロブスカイト化合物。・・・【0049】具体的には、PZT、PLZT等のPb系ペロブスカイト化合物、CaTiO3、BaTiO3、PbTiO3、KTaO3、BiFeO3、NaTaO3、SrTiO3、CdTiO3、KNbO3、LiNbO3、LiTaO3、およびこれらの固溶体等である。・・・【0051】また、層状ペロブスカイト化合物のうちBi系層状化合物は、一般に式 Bi2Am-1BmO3m+3で表わされる。上記式において、mは1~5の整数、Aは、Bi、Ca、Sr、Ba、Pbおよび希土類元素(ScおよびYを含む)のいずれかであり、Bは、Ti、TaおよびNbのいずれかである。具体的には、Bi4Ti3O12、SrBi2Ta2O9、SrBi2Nb2O9などが挙げられる。本発明では、これらの化合物のいずれを用いてもよく、これらの固溶体を用いてもよい。」
7 甲7について
甲7には、以下の記載がある。
「【0013】上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、基板(11)と、基板(11)の上面(11a)の一部に形成された結晶配向調整膜(13)と、基板(11)の上面(11a)における結晶配向調整膜(13)の形成領域上および非形成領域上に同じ材料で形成された圧電薄膜(12)と、圧電薄膜(12)の上下面の一方の面に形成された第1伝搬路(2a、70)を構成する第1電極群(20、40、61)と、圧電薄膜(12)の前記一方の面であって、第1電極群(20、40、61)と異なる位置に形成された第2伝搬路(4a、80)を構成する第2電極群(30、50、62)とを備え、圧電薄膜(12)のうち、結晶配向調整膜(13)の形成領域上に位置する第1領域(12c)と、結晶配向調整膜(13)の非形成領域上に位置する第2領域(12d)とは、結晶配向が異なっており、第1、第2伝搬路(2a、4a、70、80)は、それぞれを占める第1、第2領域(12c、12d)の面積比が異なることを特徴としている。」
「【0049】具体的には、結晶成長用基板11として基板面がR面であるサファイア基板を用い、結晶配向調整膜13として非晶質のSiO2膜を形成し、圧電薄膜12としてAlN膜を形成する。サファイア基板の基板面上に六方晶系のAlN結晶をエピタキシャル成長させると、サファイア基板の結晶配向に倣って、AlN結晶はc軸が基板面に平行となって成長する。一方、非晶質のSiO2膜上にAlN結晶を成長させると、サファイア基板の結晶配向と異なって、AlN結晶はc軸が基板面に垂直となって成長する。」
8 甲8について
甲8には、以下の記載がある。
「[図:0001423537000006.jpg]」(813ページ「単結晶」の項目)
9 甲9について
甲9には、以下の記載がある。
「なお、審査官殿は、引用例1の段落[0025]等の記載から、引用例1の圧電膜も単結晶であると考えられているようですが、引用例1の2θ-θのX線結晶解析では、結晶の厚み方向の配向(つまり、Z軸)しかわかりません。つまり、それだけでは、引用例1の圧電膜が単結晶であるとは到底言えないものと思料いたします。さらに、単結晶とは、Z軸、X軸、Y軸のすべての方向が均一に揃っていることを意味します。そして、本願発明の圧電膜が単結晶であることについては、本願明細書の図8~10の結果から見ても明らかです。したがって、引用例1には、単結晶の圧電膜が開示されているとは到底いえないものと思料いたします。」(2ページ5行~13行)
10 甲10について
甲10には、以下の記載がある。
「[図:0001423537000007.jpg]」(150ページ「単結晶」の項目)
第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
ア 「基板」及び「膜構造体」について
甲1発明の「積層薄膜」は、「基板上にエピタキシャル成長した」ものであるから、「基板」を備えているといえる。また、甲1発明の「積層薄膜」は、「膜」の「構造体」といい得るものであるから、「膜構造体」といえる。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、「基板」を備える「膜構造体」である点で共通する。
イ 「前記基板上に形成された、膜部と突出部から構成されるジルコニアを含む正方晶の結晶構造を有するバッファ膜」について
甲1発明の「バッファ層」は、「基板上にエピタキシャル成長した酸化物」からなり、「(001)配向のZrO2薄膜」を含むものであるから、「ZrO2」が「ジルコニア」であることを考慮すると、甲1発明の「バッファ層」は、「前記基板上に形成された」「膜」であり、「ジルコニア」を含むものである。
また、甲1発明の「バッファ層」は、「金属薄膜との界面が{111}ファセット面を含み、金属薄膜の成長に伴って、ファセット面により構成される凹部は埋められる」ものであるから、「バッファ層」の「ファセット面」には「凹部」が形成されており、「ファセット面」の「凹部」により窪んでいない部分は、「突出部」といえる。更に、「バッファ層」のうち、「ファセット面」より「基板」側にある、「凹部」及び「突出部」でない部分は、「膜部」といえる。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、「前記基板上に形成された、膜部と突出部から構成されるジルコニアを含むバッファ膜」を備える点で共通する。
ウ 「前記バッファ膜上に形成される、エピタキシャル成長した白金族元素を含む金属膜」について
甲1発明の「金属薄膜」は、「バッファ層の{111}ファセット面上に{111}配向膜としてエピタキシャル成長したもの」であり、「Pt、Ir、Pd、Rh、およびAuの少なくとも1種を主成分とする」ものである。そして、「Pt、Ir、Pd、Rh」は、白金族元素であるから、本件特許発明1と甲1発明とは、「前記バッファ膜上に形成される、エピタキシャル成長した白金族元素を含む金属膜」を備える点で共通する。
エ 「前記金属膜上に形成される、エピタキシャル成長したSr(Ti1-x,Rux)O3(0≦x≦1)を含む膜」について
甲1発明の「酸化物薄膜」は、「金属薄膜に対してエピタキシャルに形成され」たものであり、「導電性ペロブスカイト型酸化物」である「SrTiO3」又は「SrRuO3」である。また、本件特許発明1の「Sr(Ti1-x,Rux)O3(0≦x≦1)を含む膜」は、x=1のとき「SrRuO3」であり、x=0のとき「SrTiO3」である。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「前記金属膜上に形成される、エピタキシャル成長したSrTiO3またはSrRuO3を含む膜」を備える点で共通する。
オ 「前記エピタキシャル成長したSr(Ti1-x,Rux)O3(0≦x≦1)を含む膜上に形成される単結晶の圧電体膜」について
甲1発明の「強誘電体薄膜」は、「酸化物薄膜」である「ペロブスカイト型酸化物薄膜」の「上にエピタキシャル成長した」ものであり、「PZT(ジルコンチタン酸鉛)」が好ましいとされ、さらに、「PZT(ジルコンチタン酸鉛)」が「圧電体」であることは、技術常識である。
また、上記エで検討したように、本件特許発明の「前記エピタキシャル成長したSr(Ti1-x,Rux)O3(0≦x≦1)」と甲1発明の「酸化物薄膜」は、「前記エピタキシャル成長したSrTiO3またはSrRuO3を含む膜」である点で共通する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「前記エピタキシャル成長したSrTiO3またはSrRuO3を含む膜上に形成される圧電体膜」を備える点で共通する。
カ 上記ア~オより、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「 基板と、前記基板上に形成された、膜部と突出部から構成されるジルコニアを含むバッファ膜と、前記バッファ膜上に形成される、エピタキシャル成長した白金族元素を含む金属膜と、前記金属膜上に形成される、エピタキシャル成長したSrTiO3またはSrRuO3を含む膜と、前記エピタキシャル成長したSrTiO3またはSrRuO3を含む膜上に形成される圧電体膜と、を備える、膜構造体。」
[相違点]
(相違点1)
本件特許発明1の「バッファ膜」は、「正方晶の結晶構造を有する」のに対し、甲1発明の「バッファ層」の「結晶構造」は不明である点。
(相違点2)
本件特許発明1の金属膜上に形成される「膜」が、エピタキシャル成長した「Sr(Ti1-x,Rux)O3(0≦x≦1)を含む」と特定されているのに対し、甲1発明の「酸化物薄膜」が、エピタキシャルに形成された「SrTiO3またはSrRuO3」を含む点。
(相違点3)
本件特許発明1の「圧電体膜」は、「単結晶」であるのに対し、甲1発明の「強誘電体薄膜」は、「単結晶」であるか否か不明である点。
(2) 判断
ア 検討
事案に鑑み、相違点1について検討する。
本件特許の明細書の【0017】に、「圧電材料は、晶系が正方晶か、正方晶でなくとも正方晶を含有すると性能が向上する事が報告されており、正方晶の酸化ジルコニウムをバッファ膜として設けることにより、圧電材料の単結晶形成に有利に作用すると考えられる。」と記載されているように、本件特許発明1は、「正方晶の結晶構造を有するバッファ層」を用いることで、「単結晶の圧電体膜」の形成を実現するという技術思想を含むものである。
一方、甲1の【0031】には、「バッファ層は、立方晶(100)配向、正方晶(001)配向または単斜晶(001)配向のエピタキシャル膜」であることが記載されているものの、当該記載は、「バッファ層」が取り得る「結晶構造」を列記したものであって、「正方晶の結晶構造を有するバッファ層」を採用しようとする動機付けがあるとはいえはない。
また、甲3には、真空蒸着法により室温から800℃の範囲で加熱されたSi(100)基板上にエピタキシャル成長した二酸化ジルコニウム(ZrO2)膜は、正方晶ZrO2(200)膜となること、が記載されているものの、「圧電体膜」をエピタキシャル成長させる下地となる「バッファ層」として、正方晶ZrO2膜を採用することは記載されておらず、甲1発明に甲3に記載された事項を適用する動機付けはない。
また、相違点1に係る構成は、甲2、甲4~甲10のいずれにも記載されておらず、本件特許の出願時に周知技術であったということもできないから、甲1発明において、相違点1に係る構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、甲2~10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 異議申立人の主張について
相違点1に関して、異議申立人は、甲3には「バッファ膜が、正方晶の結晶構造を有する」ことが記載されており、また、甲3に記載された膜構造体は、「Si(100)又はSi(111)基板と、基板上に形成されたZrO2膜と、を有するものである」ため、甲1発明と技術分野の関連性を有するものであるから、甲1発明に甲3に記載された事項を適用することは、容易に想到し得るものである旨主張する。(異議申立書 36頁10行~19行、38頁16行~23行、)
しかしながら、上記アで示したように、甲3には、「圧電体膜」をエピタキシャル成長させる下地となる「バッファ膜」が、「正方晶の結晶構造を有する」ことは記載されておらず、また、甲1発明に甲3に記載された事項を適用する動機付けはないから、異議申立人の上記主張は採用できない。
2 本件特許発明2~16について
本件特許発明2~16は、本件特許発明1を限定した発明であり、甲1発明と対比すると、少なくとも、上記1(1)の[相違点]を有するところ、本件特許発明1が上記1(2)のとおり、甲1発明と、甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~8も甲1発明と、甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 小括
以上のとおり、本件特許発明1~16は、甲1発明、甲2~甲10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明1~16は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び異議申立人の提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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