特許訂正審判
2025-390058
安定性が改善されたHER2に特異的に結合する抗体
- 審判番号
- 2025-390058
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2018-554349
- 登録番号
- 6713059
- 請求日
- 2025年04月25日
- 審決日
- 2025年10月14日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アブクロン・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 審判長/審判官
- 審判長 小暮 道明
- 審判官 荒木 英則
- 審判官 植原 克典
- 分類
- P141 .852-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法126条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6713059号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6713059号(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年4月12日(パリ条約による優先権主張 2016日4月12日 (KR)韓国)を国際出願日として出願され、その請求項1~9に係る発明について、令和2年6月4日に特許権の設定登録がされ、その後、令和7年4月25日に本件の訂正審判が請求されたものである。
これに対して、令和7年6月26日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、同年8月19日に意見書が提出されたものである。
第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第6713059号の明細書、特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
第3 訂正の内容
本件訂正審判の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)のうち、訂正事項1の内容は、以下のとおりである。
<訂正事項1>
明細書の〔配列表〕の配列番号8における「・・・Leu Tyr Ser Thr・・・」なるアミノ酸配列を、訂正後の明細書の〔配列表〕の配列番号8の通り「・・・Asn Ala Tyr Ala・・・」なるアミノ酸配列に訂正する。
第4 当審の判断
1 訂正事項1についての判断
(1)訂正の目的について
訂正事項1の目的について、請求人は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものであると主張している。
「誤記の訂正」とは、本来その意であることが本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面などの記載から明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。
(2)本件明細書等の記載
本件特許の国際出願時の明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)には、本件訂正に関連する以下の記載がある。
ア 「
[図:0001434055000001.jpg]
」(配列表の配列番号8で示されるhz1E11の軽鎖の可変部位のアミノ酸配列。なお、下線は当審で付した(次の「エ」で示す下線以外は、以下も同様である。)。)
イ 「本発明者らは、本発明者によって既に開発された抗体であるhz1E11(参照:大韓民国特許第1453462号)の構造的安定性を改善するために努力した。抗体の構造的安定性は、医薬の商業的開発過程において重要な考慮要素であって、構造の安定性に優れていなければ、品質管理が不利になり、効能が減少し、副作用が増加するという問題点がある。本発明者らは、hz1E11の多様な位置のアミノ酸残基のうちから、安定性に大きく影響を及ぼしうるアミノ酸残基を4個見い出し、このアミノ酸残基の置換変異体を製造して、安定性が改善され、生産性と効能とを親抗体と類似したhz1E11の変異体を完成させた。」(【0010】)
ウ 「実施例1:安定性の向上のための抗体の変形
開発された抗体であるhz1E11(参照:大韓民国特許第1453462号)の安定性を向上させるために、多様な位置のアミノ酸残基が、抗体の安定性に如何なる影響を及ぼすか否かを分析した。分析結果を通じて安定性に影響を及ぼしうる部位に重鎖及び軽鎖の可変部位の4箇所のアミノ酸が確認された。親抗体であるhz1E11の重鎖及び軽鎖の可変部位のアミノ酸配列は、表1のようであり、重鎖の部位のうち、Kabatナンバリングによって、52a、53に該当するAsn(N)及びGly(G)と軽鎖の部位のうち、56、57に該当するAsp(D)及びGly(G)をオーバーラッピングPCRを用いてAla(A)に変形させた。」(【0093】)
エ 「
[図:0001434055000002.jpg]
」(【表1】)
オ 「
[図:0001434055000003.jpg]
」(【表3】)
(3)検討
本件明細書等の配列表には、上記(2)アのとおり、「hz1E11」の軽鎖の可変部位のアミノ酸配列として配列番号8が記載され、アミノ酸配列は以下のとおりである(以下、「配列番号A」という。アミノ酸配列を一文字表記に変換した。)。
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCLASQTIGTWLAWYQQKPGKAPKLLIYVATSLADGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQLYSTPWTFGQGTKVEIK
一方、本件明細書等には、上記(2)イ~オのとおり、「hz1E11」について記載されており、(2)エには、その軽鎖の可変部位のアミノ酸配列が記載され、以下のとおりである(以下、「配列番号B」という。)。
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCLASQTIGTWLAWYQQKPGKAPKLLIYVATSLADGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQNAYAPWTFGQGTKVEIK
ここで、「配列番号A」と「配列番号B」は、下線が引かれた4アミノ酸の配列が相違している。
以下に検討する。
ア 上記(2)アには、「配列番号8」の記載はあるが、上記(2)イ~オには、「配列番号8」の記載はなく、上記「配列番号A」と「配列番号B」は、プライベートネームと認められる「hz1E11」を介して関連づけられるのみであり、「配列番号B」が「配列番号8」であるとの直接的な記載は本件明細書等にはないから、「hz1E11」を介して関連づけられる「配列番号A」と「配列番号B」が同じものの配列を示していると仮に認識できたとしても、「配列番号B」が正しく、「配列番号A」が誤りであることが明らかとまで認識することはできない。
イ 上記(2)オには、「hz1E11」を親抗体とし、そこから変異された抗体として「hz1E11.01」(配列表の配列番号12)や「hz1E11.02」(配列表の配列番号13)が記載されているところ、「hz1E11.01」(配列表の配列番号12)や「hz1E11.02」(配列表の配列番号13)のアミノ酸配列は、「配列番号A」の下線が引かれたアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有していることから、親抗体である「hz1E11」が「配列番号A」のアミノ酸配列を有していると解する方が、「配列番号B」のアミノ酸配列を有していると解するよりも自然といえる。そうすると、「hz1E11」を介して関連づけられる「配列番号A」と「配列番号B」が同じものの配列を示していると仮に認識できたとしても、「配列番号B」が正しく、「配列番号A」が誤りであることが明らかとまで認識することはできない。
ウ 本件明細書等の【0010】、【0093】において引用されている(上記(2)イ、ウ)、本件特許の優先日の時点で公知の文献である、大韓民国特許第1453462号には、「hz1E11」の軽鎖の可変部位のアミノ酸配列として配列番号26が記載され、上記「配列番号A」と同一のアミノ酸配列である(50頁)。他方、上記「配列番号B」と同一のアミノ酸配列は、「hz1E11」の変異体である「hz1E11-133」の軽鎖の可変部位のアミノ酸配列として配列番号249に記載されている(105頁)。そうすると、大韓民国特許第1453462号の記載を参酌しても、本件明細書等に記載された「hz1E11」が「配列番号A」のアミノ酸配列を有していると解する方が、「配列番号B」のアミノ酸配列を有していると解するよりも自然であり、「hz1E11」を介して関連づけられる「配列番号A」と「配列番号B」が同じものの配列を示していると仮に認識できたとしても、「配列番号B」が正しく、「配列番号A」が誤りであることが明らかとまで認識することはできない。
エ 以上からみて、「hz1E11」を介して関連づけられる「配列番号A」と「配列番号B」が同じものの配列を示していると仮に認識できたとしても、「配列番号B」が正しく、「配列番号A」が誤りであることが明らかとまで認識することはできないから、本件明細書等の〔配列表〕の配列番号8における「・・・Leu Tyr Ser Thr・・・」なるアミノ酸配列が、実際には、「・・・Asn Ala Tyr Ala・・・」なるアミノ酸配列であることが本件明細書等の記載から明らかであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認識できるとまではいえない。
2 請求人の主張について
(1)審判請求書での主張
請求人は、「つまり、訂正前の明細書の表1に記載された親抗体hz1E11重鎖および/又は軽鎖の可変部位の特定のアミノ酸配列を改変し、安定性を改善した変異抗体を作製したことが訂正前の明細書の実施例において記載されているため、訂正前の明細書の表1に記載されたアミノ酸配列が正しく、訂正前の明細書の配列表における配列番号8に記載されたアミノ酸配列が誤りであることは、訂正前の明細書の記載から明らかである。」と主張している。
しかしながら、本件明細書等の実施例に表1が記載されてはいるものの、上記1(3)ア~ウで示した事項を考慮すると、「訂正前の明細書の表1に記載されたアミノ酸配列が正しく、訂正前の明細書の配列表における配列番号8に記載されたアミノ酸配列が誤りであることは、訂正前の明細書の記載から明らかである。」とはいえず、配列番号8が、実際には配列表に記載された「配列番号A」ではなく、「表1」に記載された「配列番号B」であることを、一義的に把握できないので、請求人の主張は失当である。
(2)意見書での主張
請求人は、表1のアミノ酸配列が正確であることを示す根拠として、表3に記載された変異体の作成が、表1に記載された「親抗体hz1E11の可変部位」を出発点としていることを挙げているが、上記(1)のとおり、上記1(3)ア~ウで示した事項を考慮すると、「訂正前の明細書の表1に記載されたアミノ酸配列が正しく、訂正前の明細書の配列表における配列番号8に記載されたアミノ酸配列が誤りであることは、訂正前の明細書の記載から明らかである。」とはいえず、配列番号8が、実際には配列表に記載された「配列番号A」ではなく、「表1」に記載された「配列番号B」であることを、一義的に把握できないので、請求人の主張は失当である。
また、請求人は、韓国特許第1453462号との整合性について、本件明細書等の表1に記載された軽鎖可変領域配列が、hz1E11-133の配列(NAYAを含む)に対応していること、「技術的観点および発明の目的(安定性向上)を考慮すると、安定性向上を目的とする際には親和性が向上した変異体を親抗体として使用することが合理的である。一方、親和性が低い配列(LYSTを含む)に戻すことは、明細書に記載された開示および技術開発に矛盾するといえる。」こと、を主張しているが、韓国特許第1453462号、本件特許どちらにおいても、改良抗体のプライベートネームは親抗体のプライベートネームであるhz1E11の末尾に、当該韓国特許であれば「-」を、本件特許であれば「.」を介して数値を追記することで抗体を区別している。ここで、抗体のような物質の開発、改良を行う際に、各物質を区別するために用いたプラベートネームを、開発、改良の途中で変えることは通常とはいえず、ましてや改良後の抗体のプライベートネームを親抗体のプライベートネームと同じものとすることは、改良抗体と親抗体の誤認混同を引き起こすものといえ、そのようなことが行われたと当業者が想起することはできないから、韓国特許第1453462号に記載の改良体のhz1E11-133の配列(NAYAを含む)が本件特許の明細書の表1に記載された親抗体のhz1E11の軽鎖可変領域配列であるとの主張は、失当である。
3 小括
以上からみて、訂正前の明細書等の表1に記載されたアミノ酸配列が正しく、訂正前の明細書等の配列表における配列番号8に記載されたアミノ酸配列が誤りであるものと客観的に認められるとはいえないから、訂正事項1が、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものとは認められない。
また、訂正事項1は、同第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、同第2号に規定する「誤訳の訂正」、同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」、及び同第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものではないことも明らかである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、訂正事項1は特許法第126条第1項ただし書に掲げる各号を目的とするものではないため、訂正事項2を検討するまでもなく、本件訂正は認められない。
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