特許異議申立
2024-700770
ヒンジ装置並びにこのヒンジ装置を備えた各種機器
- 審判番号
- 2024-700770
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-086037
- 登録番号
- 7485341
- 請求日
- 2024年08月15日
- 審決日
- 2025年01月17日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社ナチュラレーザ・ワン
- 【権利者代理人】伊藤 捷雄
- 【異議申立人】下西技研工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人ブライタス
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 後藤 孝平
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P1651.113-Y (G03B) / P1651.121-Y (G03B) / P1651.537-Y (G03B)
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7485341号発明「ヒンジ装置並びにこのヒンジ装置を備えた各種機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7485341号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7485341号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年5月15日に出願され、令和6年5月8日にその特許権の設定登録がされ、令和6年5月16日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~6に係る特許に対し、令和6年8月15日に特許異議申立人 下西技研工業株式会社(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
本件特許の請求項1~6の特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであり、その当該各請求項の記載は次のとおりである。なお、請求項1の分説は、当合議体によるものである。
「【請求項1】
A 上部に一対の側板を有し内部に上部開放の収容部が設けられたところの機器本体側に取り付けられる取付部材と、
B 軸支部と支持部から成り前記軸支部に第1旋回カム部を有し原稿圧着板に取り付けられる支持部材と、
C この支持部材の軸支部を前記取付部材の一対の側板の間に回転可能に連結するヒンジシャフトと、
D 前記収容部内にスライド可能に収容され、頂部に前記第1旋回カム部と常時圧接状態にあるスライドカム凸部を有するスライド部材と、
E 前記収容部の底部とスライド部材の間に設けられスライド部材を前記第1旋回カム部側に向けて付勢する弾性部材と、
F 前記弾性部材内に設けられたダンパーと、
G 前記ダンパーのピストンロッドに一端が着脱可能に接続されると共に、前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され前記原稿圧着板の閉成動作時に所定の閉成角度から前記第1旋回カム部に当設する押圧ロッドと、を備え、
H 前記原稿圧着板が所定の開成角度から閉じられてゆく際に、前記第1旋回カム部によって押圧させられる前記スライド部材の移動距離が前記押圧ロッドの移動距離より長いことを特徴とする、
I ヒンジ装置。
【請求項2】
前記ガイド筒部の長さを、前記押圧ロッドの長さと同じ長さとしたことを特徴とする、
請求項1に記載のヒンジ装置。
【請求項3】
前記ピストンロッドの先端部を前記押圧ロッドに接続するに当たり、前記押圧ロッドの下端部側に設けた接続穴へ前記ピストンロッドの先端部を挿入させることを特徴とする、
請求項1に記載のヒンジ装置。
【請求項4】
前記ピストンロッドの先端部を前記押圧ロッドに接続するに当たり、前記ピストンロッドの先端部側と前記押圧ロッドの下端部側を半径方向に貫通するピンで連結することを特徴とする、請求項1に記載のヒンジ装置。
【請求項5】
前記支持部材の最大回転角度は、前記 軸支部に設けた第1旋回カム部と第2旋回カム部が前記ヒンジシャフトを挟んで前記スライド部材の頂部に当接することで規制されるように成したことを特徴とする、請求項1に記載のヒンジ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のヒンジ装置と、
機器本体と、
前記機器本体に対して開閉される原稿圧着板と、
を備えたことを特徴とする、各種機器。」
3 特許異議申立理由の概要
(1)申立人が主張する特許異議申立理由は、次のとおりである。
理由1(新規性欠如):本件発明1及び6に対する甲1に記載された発明に基づく新規性欠如。
理由2(進歩性欠如):本件発明1~4及び6に対する甲1を主引用例とし、甲2及び3を周知例とする進歩性欠如。
理由3(サポート要件違反):本件発明1~6に対するサポート要件違反。
(2)申立人が提出した証拠は、次のとおりである(以下、証拠番号を表記する際は「第」及び「号証」を略する。)。
甲1:特許第6615171号公報
甲2:特開2011-174595号公報
甲3:特開2013-44155号公報
4 証拠に記載された事項及び引用発明等の認定
(1)甲1発明の認定
甲1には、実施形態に係るヒンジ10について、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(参考までに、認定の根拠とした段落等を括弧内に記載する(以下同じ。)。)。
<甲1発明>
「第一連結対象物(本体2)に第二連結対象物(原稿圧着板3)を回動可能に連結するヒンジ10であって、
収容室(スライダ収容室21)を備え、前記第一連結対象物(本体2)に固定される本体部(ケース20)と、
前記本体部(ケース20)の一端部に回動可能に連結されるとともに前記本体部(ケース20)側にカム部(スライダカム41)が形成され、前記第二連結対象物(原稿圧着板3)に固定されるウイング部40と、
前記収容室(スライダ収容室21)に収容され、前記ウイング部40に対して近接離間する方向に移動可能であって、前記ウイング部40に対向する面において前記カム部(スライダカム41)に対向する部分にはカム受け部(カム受け部材31a)が形成されるスライド部材(スライダ31)と、
前記収容室(スライダ収容室21)に収容され、前記スライド部材(スライダ31)を前記ウイング部40に接近する方向に付勢し、前記カム受け部(カム受け部材31a)を前記カム部(スライダカム41)に当接させることにより前記ウイング部40を本体部(ケース20)に対して開く方向に回動させる巻きバネ33と、
前記収容室(スライダ収容室21)に収容され、ピストンロッド34aを備え、前記ピストンロッド34aを押し下げる外力が作用したときに反力を発生させるダンパ34と、を備え、
前記本体部(ケース20)に対する前記ウイング部40の回動角度が所定角度(約10度)よりも小さい状態において、前記カム部(スライダカム41)が当接することによって前記ピストンロッド34aを押し下げる外力が作用して前記ダンパ34の反力を発生させ、
前記本体部(ケース20)に対する前記ウイング部40の回動角度が所定角度(約10度)よりも小さい状態において、前記カム受け部(カム受け部材31a)よりも前記本体部(ケース20)と前記ウイング部40との回動軸に近い側で前記カム部(スライダカム41)が当接して前記ピストンロッド34aを押し下げることによって、前記ウイング部40に対して離間する方向への前記スライド部材(スライダ31)の移動量よりも前記ピストンロッド34aの収縮量を大きくするものであり、
前記カム部(スライダカム41)は、前記回動軸の軸心と直交する方向において、前記カム受け部(カム受け部材31a)と当接する部分と、前記ピストンロッド34aと当接する部分と、を有する、
ヒンジ10であって、(【請求項1】。その際、当該請求項1の部材に、実施形態における部材名称及び記号等を追記した。)
ケース20は上端部が開口するとともに下端部に底面を有するスライダ収容室21が形成されており、(【0022】)
ケース20の上端面には、左右両端部から上方に延出する支持板23・23が立設されており、支持板23・23の上側部には左右方向に連通する連通孔23aが開口され、支持板23の連通孔23a及びウイング部40の後端部に、左側方から回動ピン50が挿通されることにより、ウイング部40はケース20に対して回動可能に連結され、(【0023】)
スライダ収容室21には、スライド部材であるスライダ31、付勢部材である巻きバネ33、流体ダンパであるダンパ34、及び、摺動部材35が収容されており、スライダ31はウイング部40に近接離間する方向である上下方向に移動可能に構成され、具体的には、スライダ31の外周形状は平面視においてスライダ収容室21の内周形状と略同形状である円筒状に形成されることにより、スライダ収容室21の内壁面に当接しつつ、その内部を上下に摺動可能とされ、(【0027】)
スライダ31の上面には、ウイング部40のスライダカム41と対向する部分にカム受け部材31aが形成されており、スライダ31の下面には、巻きバネ33の上端部を挿入可能なバネ受け穴31bが形成されており、スライダ31の上底部には、スライダ収容室21の底面に対向する面である下面と、ウイング部40のスライダカム41に対向する面である上面とを連通する孔部31cが開口されており、(【0028】)
巻きバネ33は、スライダ31をウイング部40に接近する方向である上方に付勢し、具体的には、巻きバネ33はその上端部がスライダ31のバネ受け穴31bに挿入されるとともに下端部がスライダ収容室21の底面に当接されており、換言すれば、巻きバネ33はスライダ31とスライダ収容室21の底面との間に介挿されており、(【0030】)
ダンパ34はスライダ収容室21に収容されるとともに巻きバネ33で囲まれる位置に配置され、(【0031】)
摺動部材35は、スライダ31の内部において、スライダ31の移動方向と同じ上下方向に摺動可能に収容される樹脂製の部材であり、ウイング部40の方向(上方)に突出する突出部35aを備え、摺動部材35における突出部35aと反対側である下面はダンパ34のピストンロッド34aと連結され、突出部35aは、スライダ31の孔部31cを介してスライダ31の外側に延出され、さらに、ウイング部40がケース20に近接する回動域において、突出部35aの先端部はスライダカム41に当接し、(【0033】)
回動角度に関わらず(0度≦θ≦60度のとき)、スライダ31のカム受け部材31aはスライダカム41に当接し、(【0036】)
原稿圧着板3が本体2に対して閉じる方向に回動する(ウイング部40がケース20に対して閉じる方向に回動する)ことにより回動角度θが10度付近になったとき、スライダカム41は摺動部材35の突出部35aに当接し、(【0039】)
回動角度θが約10度以下で原稿圧着板3が本体2に対して閉じる方向に回動するときのダンパ34の収縮量D2をスライダ31の移動量D1よりも大きくすることが可能となる、(【0042】)
ヒンジ10。」
(2)甲2及び3について
ア 甲2の記載に基づいて当業者が把握できる事項
【0025】に「油圧緩衝器10」が「ピストンロッド12」を備えることが記載され、【0026】に「ピストンロッド12に車軸側取付部材15を備える」ことが記載されていることと、図1から、「車軸側取付部材15」に貫通孔が設けられていることが見てとれることから、当業者は、「油圧緩衝器10(ダンパ)におけるピストンロッド12が、車軸側取付部材15の貫通孔に軸状の部材を挿入することによって車両側と接続されること」を把握することができる。
イ 甲3の記載に基づいて当業者が把握できる事項
【0015】に「慣性質量ダンパー7bを接合部材4に対してピン10を中心として鉛直面内において回転可能にピン接合していること」、及び【0017】に「付加ばね8の一端側を慣性質量ダンパー7bに対してピン14によるピン接合によって鉛直面内において相対回転可能な状態で接続し」ていることが記載されていることから、当業者は、「慣性質量ダンパーが、貫通孔にピンを挿入することによって他の部材と接続されること」を把握することができる。
ウ 周知技術の認定
前記ア及びイから、以下の事項は、周知技術であると認められる。
<周知技術>
「ダンパが、貫通孔に軸状の部材を挿入することによって他の部材と接続されること。」
5 理由1及び2についての当合議体の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると以下のとおりである。
(ア)基本的な相当関係について
(特定事項A)甲1発明の「本体部(ケース20)」は、「前記第一連結対象物(本体2)に固定される」ことから、本件発明1の「取付部材」に相当し、本件発明1でいう「機器本体側に取り付けられる」ものといえる。
(特定事項B)甲1発明の「ウイング部40」は、「連結対象物(原稿圧着板3)に固定される」ことから、本件発明1の「支持部材」に相当し、本件発明1でいう「原稿圧着板に取り付けられる」ものといえる。
(特定事項C)甲1発明の「回動ピン50」は、本件発明1の「ヒンジシャフト」に相当する。
(特定事項D)甲1発明の「スライド部材(スライダ31)」は、本件発明1の「スライド部材」に相当する。
(特定事項E)甲1発明の「巻きバネ33」は、本件発明1の「弾性部材」に相当する。
(特定事項F)甲1発明の「ダンパ34」は、本件発明1の「ダンパー」に相当する。
(特定事項G)甲1発明の「摺動部材35」は、「突出部35a」を備えるところ、当該「突出部35a」は、その先端部がスライダカム41に当接するものであるから、当該「摺動部材35」は、スライダカム41によって押圧されるといえる。そうすると、本件発明1の「押圧ロッド」と甲1発明の「摺動部材35」は、押圧部材である点で共通する。
(特定事項I)甲1発明の「ヒンジ10」は、本件発明1の「ヒンジ装置」に相当する。
(イ)本件発明1の特定事項A(「上部に一対の側板を有し内部に上部開放の収容部が設けられたところの機器本体側に取り付けられる取付部材と、」「を備え、」)について
甲1発明の「本体部(ケース20)」は、「上端部が開口するとともに下端部に底面を有するスライダ収容室21が形成されて」いるとともに、そ「の上端面には、左右両端部から上方に延出する支持板23・23が立設されて」いるものである。
そうすると、甲1発明の「支持板23・23」は、本件発明1の「一対の側板」に相当し、本件発明1でいう「取付部材」の「上部に」あるものである。
甲1発明の「収容室(スライダ収容室21)」は、本件発明1の「収容部」に相当し、本件発明1でいう「内部に上部開放の」ものといえる。
したがって、甲1発明は前記特定事項を備えている。
(ウ)本件発明1の特定事項B(「軸支部と支持部から成り前記軸支部に第1旋回カム部を有し原稿圧着板に取り付けられる支持部材と、」「を備え、」)について
甲1発明の「ウイング部40」は、「前記本体部(ケース20)の一端部に回動可能に連結されるとともに前記本体部(ケース20)側にカム部(スライダカム41)が形成され」ているものである。
そうすると、甲1発明の「ウイング部40」には、本件発明1でいう「軸支部」及び「支持部」が設けられているといえる。
甲1発明の「カム部(スライダカム41)」は、本件発明1の「第1旋回カム」に相当し、本件発明1でいう「軸支部」に有されているといえる。
したがって、甲1発明は前記特定事項を備えている。
(エ)本件発明1の特定事項C(「この支持部材の軸支部を前記取付部材の一対の側板の間に回転可能に連結するヒンジシャフトと、」「を備え、」)について
甲1発明の「回動ピン50」について、甲1発明は、「ケース20の上端面には、左右両端部から上方に延出する支持板23・23が立設されており、支持板23・23の上側部には左右方向に連通する連通孔23aが開口され、支持板23の連通孔23a及びウイング部40の後端部に、左側方から回動ピン50が挿通されることにより、ウイング部40はケース20に対して回動可能に連結され」ているものである。
このように、甲1発明の「回動ピン50」は、「ウイング部40」の後端部を「ケース20」の「支持板23・23」の間に回転可能に連結しているといえることから、当該「回動ピン50」は、本件発明1でいう「この支持部材の軸支部を前記取付部材の一対の側板の間に回転可能に連結する」ものといえる。
したがって、甲1発明は前記特定事項を備えている。
(オ)本件発明1の特定事項D(「前記収容部内にスライド可能に収容され、頂部に前記第1旋回カム部と常時圧接状態にあるスライドカム凸部を有するスライド部材と、」「を備え、」)について
甲1発明の「スライド部材(スライダ31)」について、甲1発明は、「前記収容室(スライダ収容室21)に収容され、前記ウイング部40に対して近接離間する方向に移動可能であって、前記ウイング部40に対向する面において前記カム部(スライダカム41)に対向する部分にはカム受け部(カム受け部材31a)が形成される」ものであり、「スライダ31の上面には、ウイング部40のスライダカム41と対向する部分にカム受け部材31aが形成されて」いるものであり、「回動角度に関わらず(0度≦θ≦60度のとき)、スライダ31のカム受け部材31aはスライダカム41に当接」するものである。
そうすると、甲1発明の「スライド部材(スライダ31)」は、本件発明1でいう「前記収容部内にスライド可能に収容され」ているものといえる。
甲1発明の「カム受け部(カム受け部材31a)」は、「スライダ31の上面」かつ「ウイング部40のスライダカム41と対向する部分に」形成されているから、本件発明1の「スライドカム凸部」に相当するといえるし、本件発明1でいう「スライド部材」の「頂部」に有されるものといえる。
甲1発明の「カム受け部(カム受け部材31a)」は、「回動角度に関わらず(0度≦θ≦60度のとき)、スライダ31のカム受け部材31aはスライダカム41に当接」するから、本件発明1でいう「前記第1旋回カム部と常時圧接状態にある」といえる。
したがって、甲1発明は前記特定事項を備えている。
(カ)本件発明1の特定事項E(「前記収容部の底部とスライド部材の間に設けられスライド部材を前記第1旋回カム部側に向けて付勢する弾性部材と、」「を備え、」)について
甲1発明の「巻きバネ33」は、「スライダ31をウイング部40に接近する方向である上方に付勢し、具体的には、巻きバネ33はその上端部がスライダ31のバネ受け穴31bに挿入されるとともに下端部がスライダ収容室21の底面に当接されており、換言すれば、巻きバネ33はスライダ31とスライダ収容室21の底面との間に介挿されて」いるものである。
そうすると、甲1発明の「巻きバネ33」は、本件発明1でいう「前記収容部の底部とスライド部材の間に設けられ」るものといえるし、本件発明1でいう「スライド部材を前記第1旋回カム部側に向けて付勢する」ものともいえる。
したがって、甲1発明は前記特定事項を備えている。
(キ)本件発明1の特定事項F(「前記弾性部材内に設けられたダンパーと、」「を備え、」)について
甲1発明の「ダンパ34」は、「スライダ収容室21に収容されるとともに巻きバネ33で囲まれる位置に配置され」るものである。
そうすると、甲1発明の「ダンパ34」は、本件発明1でいう「前記弾性部材内に設けられた」ものといえる。
したがって、甲1発明は前記特定事項を備えている。
(ク)本件発明1の特定事項G(「前記ダンパーのピストンロッドに一端が着脱可能に接続されると共に、前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され前記原稿圧着板の閉成動作時に所定の閉成角度から前記第1旋回カム部に当設する押圧ロッドと、を備え、」)について
a 甲1発明の「摺動部材35」は、「スライダ31の内部において、スライダ31の移動方向と同じ上下方向に摺動可能に収容される樹脂製の部材であり、ウイング部40の方向(上方)に突出する突出部35aを備え、摺動部材35における突出部35aと反対側である下面はダンパ34のピストンロッド34aと連結され、突出部35aは、スライダ31の孔部31cを介してスライダ31の外側に延出され、さらに、ウイング部40がケース20に近接する回動域において、突出部35aの先端部はスライダカム41に当接」するものであり、また、甲1発明は、「原稿圧着板3が本体2に対して閉じる方向に回動する(ウイング部40がケース20に対して閉じる方向に回動する)ことにより回動角度θが10度付近になったとき、スライダカム41は摺動部材35の突出部35aに当接」するものである。
そうすると、甲1発明の「摺動部材35」(本件発明1の「押圧ロッド」とは押圧部材である点で共通するものである。)は、「ダンパ34のピストンロッド34aと連結され」ているところ、当該「ダンパ34のピストンロッド34a」は、本件発明1の「ダンパーのピストンロッド」に相当する。
当該「摺動部材35」は、「摺動部材35における突出部35aと反対側である下面はダンパ34のピストンロッド34aと連結され」るものであるが、「摺動部材35」が「ダンパ34のピストンロッド34a」に本件発明1でいう「着脱可能」とされているかは不明である。
当該「摺動部材35」は、本件発明1でいう「前記原稿圧着板の閉成動作時に所定の閉成角度から前記第1旋回カム部に当設する」ものといえる。
b 甲1発明の「摺動部材35」が、本件発明1でいう「前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され」ているといえるかについて検討する。
(a)本件発明1の「ガイド筒部」は、その文言に照らして、「ガイド」の機能を奏する「筒」の形状をした部材を意味すると解するのが自然である。
そして、この解釈は、本件特許の発明の詳細な説明、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の記載にも沿うものである。すなわち、本件発明1の技術的意義の一つは、従来技術のヒンジ装置では、スライド部材に形成される押圧ロッドのガイド孔の軸方向の長さが短いことから、押圧ロッドのスライド動作がスムーズに行われ難く、これも原稿圧着板のとくに閉成操作時の操作感覚に違和感を生じさせると共に、永年使用すると押圧ロッドとガイド孔との間にガタが生じやすいという課題があった(【0004】)ところ、この課題を解決するために、本件発明1の構成を採用し、それにより、永年使用の後においてもガタの来ないヒンジ装置を提供できる(【0012】)ことにあると認められる。しかるに、本件発明1の構成のうち、上記技術的意義を奏するための構成は、「押圧ロッド」を「前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され」るようにしたことにあると解するほかなく、そうすると、「ガイド筒部」は、上記従来技術のような「スライド部材に形成される押圧ロッドのガイド孔」とは異なり、「筒」の形状をした部材として設けられていることから、永年使用すると押圧ロッドとガイド孔との間にガタが生じやすいという上記課題を解決できるものであると解される。そのため、上記の文言に照らした解釈は、本件明細書等の記載に沿うものである。
(b)これを甲1発明についてみると、甲1発明の「摺動部材35」は、「スライダ31の内部において、スライダ31の移動方向と同じ上下方向に摺動可能に収容される樹脂製の部材であり、ウイング部40の方向(上方)に突出する突出部35aを備え、摺動部材35における突出部35aと反対側である下面はダンパ34のピストンロッド34aと連結され」るものであって、「突出部35aは、スライダ31の孔部31cを介してスライダ31の外側に延出され」るものである。そして、当該「孔部31c」は、「スライダ31の上底部に」「開口され」たものであり、「スライダ収容室21の底面に対向する面である下面と、ウイング部40のスライダカム41に対向する面である上面とを連通する」ものである。
このように、当該「摺動部材35」は、「スライダ31の孔部31c」を介して配置されており、当該「孔部31c」は、「スライダ31の上底部に」「開口され」、「スライダ収容室21の底面に対向する面である下面と、ウイング部40のスライダカム41に対向する面である上面とを連通する」ものであることから、当該「摺動部材35」は、ガイドされているとしても、「スライダ31の上底部」に開口された「スライダ31の孔部31c」によってガイドされているのであり、これは、前記(a)で説示した、従来技術の「スライド部材に形成される押圧ロッドのガイド孔」に相当するものであって、「筒」の形状をした部材とはいえないものである。
c したがって、本件発明1と甲1発明は、「前記ダンパーのピストンロッドに一端が」「接続されると共に、」「前記原稿圧着板の閉成動作時に所定の閉成角度から前記第1旋回カム部に当設する」押圧部材と、を備える点で共通するが、押圧部材について、本件発明1は「押圧ロッド」であるのに対して、甲1発明は「摺動部材35」であり、押圧部材とピストンロッドとの接続態様について、本件発明1が「着脱可能」であるのに対して、甲1発明はそうであるか不明であり、また、押圧部材が、本件発明1は、「前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され」ているのに対して、甲1発明は、孔部31内を上下方向に摺動可能とされており、当該孔部31cは、スライダ31の上底部に開口されるものであるとともに、スライダ収容室21の底面に対向する面である下面と、ウイング部40のスライダカム41に対向する面である上面とを連通するものである。
イ 一致点及び相違点
前記アによれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「上部に一対の側板を有し内部に上部開放の収容部が設けられたところの機器本体側に取り付けられる取付部材と、
軸支部と支持部から成り前記軸支部に第1旋回カム部を有し原稿圧着板に取り付けられる支持部材と、
この支持部材の軸支部を前記取付部材の一対の側板の間に回転可能に連結するヒンジシャフトと、
前記収容部内にスライド可能に収容され、頂部に前記第1旋回カム部と常時圧接状態にあるスライドカム凸部を有するスライド部材と、
前記収容部の底部とスライド部材の間に設けられスライド部材を前記第1旋回カム部側に向けて付勢する弾性部材と、
前記弾性部材内に設けられたダンパーと、
前記ダンパーのピストンロッドに一端が接続されると共に、前記原稿圧着板の閉成動作時に所定の閉成角度から前記第1旋回カム部に当設する押圧部材と、を備える、
ヒンジ装置。」である点。
<相違点1>
押圧部材について、本件発明1は「押圧ロッド」であるのに対して、甲1発明は「摺動部材35」である点。
<相違点2>
押圧部材とピストンロッドとの接続態様について、本件発明1が「着脱可能」であるのに対して、甲1発明はそうであるか不明である点。
<相違点3>
押圧部材が、本件発明1が「前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され」ているのに対して、甲1発明は、孔部31内を上下方向に摺動可能とされており、当該孔部31cは、スライダ31の上底部に開口されるものであるとともに、スライダ収容室21の底面に対向する面である下面と、ウイング部40のスライダカム41に対向する面である上面とを連通するものである点。
<相違点4>
本件発明1は、「前記原稿圧着板が所定の開成角度から閉じられてゆく際に、前記第1旋回カム部によって押圧させられる前記スライド部材の移動距離が前記押圧ロッドの移動距離より長い」のに対して、甲1発明は、「回動角度θが約10度以下で原稿圧着板3が本体2に対して閉じる方向に回動するときのダンパ34の収縮量D2をスライダ31の移動量D1よりも大きくする」ものである点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)前記ア(ク)bのとおり、甲1発明は、「摺動部材35」がガイドされているとしても、「スライダ31の上底部」に開口された「スライダ31の孔部31c」によってガイドされており、当該孔部31cは、本件明細書等における従来技術の「スライド部材に形成される押圧ロッドのガイド孔」に相当するものであって、「筒」の形状をした部材とはいえないものであり、相違点3に係る本件発明1の「前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され」ているという構成を備えていないところ、甲1には、そのようなガイド筒部を備えることについての記載も示唆もない。
そして、本件発明1は、相違点3に係る本件発明1の構成により、永年使用の後においてもガタの来ないヒンジ装置を提供できる(【0012】)という効果を奏するものである。
したがって、甲1発明から出発した当業者が、甲1に記載された技術的事項に基づいて、相違点3に係る本件発明1の構成に至るとはいえない。
(イ)また、甲2及び3をみても、前記(ア)の判断を左右するものはない。
(ウ)これに対し、申立人は、甲1には孔部31cについての記載があるから(【0033】)、相違点3に係る本件発明1の「前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され」ている点は、本件発明1と甲1発明との相違点ではない旨を主張する。しかしながら、前記ア(ク)bで説示したとおりである。
(エ)そして、甲1の他の記載をみても、前記の判断を左右するものはない。
以上によれば、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、他の相違点について検討するまでもなく、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2)本件発明2~4、6について
本件発明2~4、6は、甲1発明と少なくとも前記(1)イの相違点3において相違することから、前記(1)ウで検討したのと同様の理由により、本件発明6は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明2~4、6は、甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
前記(1)及び(2)によれば、申立人が主張する理由1及び2は、理由がない。
6 理由3についての当合議体の判断
(1)申立人は、本件発明にサポート要件違反がある旨主張するので検討する。
本件発明は、前記5(1)ア(ク)bで説示したとおり、従来技術のヒンジ装置では、スライド部材に形成される押圧ロッドのガイド孔の軸方向の長さが短いことから、押圧ロッドのスライド動作がスムーズに行われ難く、これも原稿圧着板のとくに閉成操作時の操作感覚に違和感を生じさせると共に、永年使用すると押圧ロッドとガイド孔との間にガタが生じやすいという課題(【0004】)を少なくとも解決するものであるところ、本件明細書等には、「押圧ロッド70」が、「スライド部材40の内部に設けたガイド筒部42の挿通孔40b内部に上下方向へスライド可能に収容されている」(【0034】)という構成が開示されており、この構成は従来技術における「スライド部材に形成される押圧ロッドのガイド孔」とは異なり、「筒」の形状をした部材として設けられていることから、当業者は、上記構成が上記課題を解決できることを認識できるといえる。
そして、本件発明には、「押圧ロッド」を「前記スライド部材内に形成されたところの上部に開口部を有するガイド筒部内にスライド可能に収装され」るようにしたという特定がされている。
そうすると、本件発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲を超えているものではない。
(2)ア これに対し、申立人は、本件発明1の課題が「構成がより簡単で安価に製造でき、スムーズな操作感覚が得られた上で、永年使用の後においてもガタの来ない耐久性に優れたヒンジ装置並びにこのヒンジ装置を備えた各種機器を提供すること」であるのに対して、本件発明1には「押圧ロッドのガイド孔の軸方向の長さ」について特定されておらず、本件発明2に「前記ガイド筒部の長さを、前記押圧ロッドの長さと同じ長さとしたこと」との特定があるものの、「ガイド筒部の長さ」も「押圧ロッドの長さ」も短い場合には課題解決ができない旨を主張する。
しかしながら、前記(1)のとおり、本件発明1の「ガイド筒部」は、従来技術のような「スライド部材に形成される押圧ロッドのガイド孔」とは異なり、「筒」の形状をした部材であることから、永年使用すると押圧ロッドとガイド孔との間にガタが生じやすいという課題を解決できるものであるところ、本件発明1のように「ガイド筒部」が存在すれば、従来技術のように「ガイド筒部」が存在しないものと比べて、押圧ロッドとガイド孔との間にガタが生じにくくなることは明らかである。
イ また、申立人は、本件明細書等の【0039】に「押圧ロッドの傾斜カム部70aは、原稿圧着板3が全開位置から図7に示す開閉角度15°になるまでの間、」「動作しない」ことが記載され、同【0040】に「原稿圧着板3が機器本体2の載置面2aに対して閉じられる角度が15°という、ほとんど原稿圧着板3がその重量と閉成時の慣性力で自動的に閉じられる閉成角度から動作するように構成したので、操作感覚に異変を生じさせることなくスムーズに閉じることができ、かつ原稿圧着板3が勢いよく閉じられることを防止することができるものである。」と記載されているのに対して、本件発明1~6には「ほとんど原稿圧着板3がその重量と閉成時の慣性力で自動的に閉じられる閉成角度から動作するように構成した」との特定事項がなく、課題解決に必要な構成が記載されていない旨を主張する。
しかしながら、本件発明1がサポート要件を満たしていることは、前記(1)のとおりである。
(3)小括
前記(1)及び(2)によれば、本件発明1~6は発明の詳細な説明に記載されたものである。
7 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700770