特許異議申立
2024-700463
石膏プラスターボードを生産するための方法
- 審判番号
- 2024-700463
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-038641
- 登録番号
- 7382723
- 請求日
- 2024年05月16日
- 審決日
- 2024年07月29日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】クナウフ ギプス カーゲー
- 【権利者代理人】葛和 清司
- 【異議申立人】阿部 治美
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.121-Y (B28B) / P1651.537-Y (B28B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7382723号発明「石膏プラスターボードを生産するための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7382723号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7382723号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)10月7日を国際出願日とする特願2016-520610号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成31年3月4日に新たな特許出願としたものであって、令和5年11月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行され、その後、令和6年5月16日に、請求項1~4に係る特許について、特許異議申立人 阿部 治美(以下、「申立人」という。)により、甲第1~18号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~4に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
トリミングデバイスを使用して、乾燥石膏層から石膏プラスターボードを完成させるために乾燥石膏層をトリムする、石膏プラスターボードの生産工程におけるプラスターボードトリミング工程の石膏プラスターボード残余物から得られる屑であって、トリミングデバイスとしてのバンドラ鋸で石膏プラスターボードを鋸引きすることによっておよび/または残余物を製粉することによってもたらされる、ここでトリミングされるプラスターボードは疎水性剤としてシリコーン油を含浸させられたプラスターボードである、前記屑であるバンドラ屑を供給するステップと;
石膏プラスターボードを生産するために石膏スラリーにバンドラ屑の少なくとも一部を、石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量がXであるとき0.1g/m2≦X≦30g/m2である ように加えるステップと;
さらに、発泡剤と、2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤とを、石膏スラリーに加えるステップと;を含む、
石膏プラスターボードを生産するための方法。
【請求項2】
バンドラ屑の量が、制御され、および/または、規制される
ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疎水性剤が、ポリメチル水素シロキサンである
ことを特徴とする、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
いくつかの石膏プラスターボードが、連続的に生産され、ここで、先行するプラスターボードの残余物の少なくとも一部が、生産工程に戻される
ことを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明、原出願の出願日当時の周知技術及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件発明1は、石膏コアにおいて、プラスターボードの有利な多孔性を達成でき、軽く、安定的な石膏プラスターボードを供給することを課題とするといえ、「石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量がXであるとき0.1g/m2≦X≦30g/m2である」、「2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤」という2つの数値範囲に係る発明特定事項を有するものである。
前記2つの発明特定事項に関して、特許権者は、令和4年4月7日に提出した、令和4年2月14日提出の審判請求書の手続補正書において、「・・・「発泡剤と、2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤とを、石膏スラリーに加える」、といった構成と組み合わせて「石膏スラリーにバンドラ屑の少なくとも一部を、石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量がXであるとき0.1g/m2≦X≦30g/m2であるように加える」という、本願発明の具体的な着想、すなわち、製品を改良すること(例えば、本願明細書段落〔0006〕、〔0008〕、〔0009〕、〔0011〕に記載の「有利な多孔性」、「軽い石膏プラスターボード」、「細孔集積効果」などの効果)」という説明や、「本願発明によれば、石膏ボードの有利な多孔性等の効果は、バンドラ屑との組み合わせで発泡剤と、2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤とを使用することによって達成することができるのであります」との説明を行っている。
前記のような2つの数値範囲を有する本件発明1において、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するには、発明の詳細な説明は、前記2つの数値範囲と得られる効果との関係の技術的な意味が、特許出願時において具体例の開示がなくても当業者に理解できる程度に記載するか、又は、原出願の出願時の技術常識を参酌して、両数値の範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者が認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要する。
ところが、本件特許明細書には、前記課題を解決するための手段として、「石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量がXであるとき0.1g/m2≦X≦30g/m2である」こと、及び、「2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤」を採用することが記載されているが(段落【0013】、【0014】、【0017】、【0026】)、実施例は全くなく、具体例の記載は、段落【0031】、【0032】の記載があるに過ぎないのであり、これらの記載だけでは、原出願の出願時の技術常識を参酌して、バンドラ屑の量が「0.1g/m2≦X≦30g/m2」及びナフタレンスルホネート系液化剤の量が「2~15g/m2」の範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者が認識できる程度に具体例を開示しているとはいえないから、特許請求の範囲の請求項1の記載がサポート要件に適合するということはできない。
なお、バンドラ屑の量「0.1g/m2≦X≦30g/m2」及びナフタレンスルホネート系液化剤の量「2~15g/m2」の両数値の範囲に、得られる効果との関係で技術的な意味があるのであれば、実施例などによって具体的に説明されるべきであるところ、そのような具体例は本件特許明細書の記載されていないから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に違反するし、両数値の範囲が単に望ましい数値範囲を記載したに過ぎない場合には、進歩性欠如となる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開平10-330174号公報
甲第2号証:特開平6-127994号公報
甲第3号証:特表2010-513213号公報
甲第4号証:特表2008-543705号公報
甲第5号証:特表2008-546620号公報
甲第6号証:特表2008-509824号公報
甲第7号証:特表2004-525061号公報
甲第8号証:特開平2-137781号公報
甲第9号証:特表2004-508259号公報
甲第10号証:特表平4-504099号公報
甲第11号証:特開平5-238850号公報
甲第12号証:特表平7-504856号公報
甲第13号証:特開昭60-171261号公報
甲第14号証:特開昭62-41747号公報
甲第15号証:特表2004-517018号公報
甲第16号証:米国特許出願公開第2009/0074977号明細書
甲第17号証:米国特許出願公開第2003/0150190号明細書
甲第18号証:特開平7-330410号公報
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証には、以下のa~cの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 石膏ボードを構成する芯材中に、気泡と整泡剤とが混在していることを特徴とする気泡入り石膏ボード。
【請求項2】 整泡剤が、消泡効果又は破泡効果を有する物質である請求項1に記載の気泡入り石膏ボード。
・・・
【請求項5】 整泡剤の混在量が、芯材を構成する焼石膏100重量部当たり0.001~1.0重量部である請求項1に記載の気泡入り石膏ボード。」
b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、原紙に対する接着性を有し且つ強度の向上した軽量な気泡入り石膏ボードに関する。
【0002】
【従来の技術】石膏系建築材料の代表的なものに石膏ボードがある。・・・つまり、石膏ボードは、流し込み成形法により得られる石膏芯(コア)を原紙で被覆してなる板状構造体であって、防耐火性、遮音性、施工性及び経済性等の優れた性能を有する。
【0003】上記性能ゆえに、石膏ボードは、一般住宅や低・中層建築物に留まらず、近年では、急速に普及している高層・超高層建築物等の内装材として広く使用されるようになっており、工程的適合性、建築物の軽量化、揺れに対する追随性等に優れた特性を有することが認められている。・・・
【0004】このことから、石膏コアの強度を維持したまま、軽量化を図る石膏ボードとその製造に関する研究が為されてきており、・・・最近では、米国特許第5,085,929号明細書に開示されているように、逆に比較的大きな独立気泡を石膏コア中に混在せしめることにより、前記目的を達成できるとする改良技術が提案されており、このようにコア中に比較的大きな気泡を混在せしめることが、石膏ボードの軽量化における最近の傾向となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】その点、米国特許第5,240,639号明細書に開示されている安定した気泡が得られる起泡剤を用い、更には発泡装置を検討し採用すると、確かに泡発生直後の気泡は比較的大きな望ましい形状となる。しかしながら、ミキサー内における焼石膏、水、添加剤、気泡等からなるスラリーの滞留時間は僅か数秒程度と短いために、ミキサーから連続して排出されるスラリーの練り状態を良好にするためには、ミキサーには高い撹拌力が要求されており、かようなミキサー内に投入される気泡は、投入前に所定の泡沫を有していても、それらは一部が破泡することになる。
【0006】そして、使用する起泡剤が高性能に確立されていることから、更には、破泡した起泡剤がミキサーの高撹拌力によって再発泡し、投入する気泡とは異なった形態で維持され、得られる石膏ボードのコア中には連通孔や微細な気泡等が多数混在することになり、原紙に対する接着性を保ち且つコアの強度を維持したまま、石膏ボードの軽量化を図ることができなかった。・・・従って本発明の目的は、石膏ボードのコア中に微細な気泡が混在するのを極力抑え、比較的大きな一様の気泡をコア中に散在せしめ、原紙に対する接着性を有し且つ強度の向上した軽量な石膏ボードを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、石膏ボードを構成する石膏芯材中に、気泡と整泡剤とが混在していることを特徴とする気泡入り石膏ボードである。本発明者等は、前記課題を鑑みて鋭意研究したところ、整泡剤として消泡効果又は破泡効果を有する化合物をスラリー中に添加することにより、スラリー中の微細な気泡群同士の結合が促進され、瞬時により大きな気泡を形成し、且つ該化合物の発泡抑制作用によってミキサー内で破泡して生じた起泡剤が、撹拌中に再発泡するのを抑え、コア中に均一で大きな気泡を得ることが可能となり、原紙に対する接着性を有し且つ強度の向上した軽量な石膏ボードが得られるとの知見を得て本発明を完成した。
【0008】
【発明の実施の形態】次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明においていう整泡剤とは、消泡効果又は破泡効果を有する化合物を意味し、消泡効果を有する化合物には、一般にいう消泡剤、即ち高級脂肪酸誘導体等の有機系化合物、アルコール類、シリコーン油、パラフィン等に加えて、これらを使用して完成した水硬性物質(石膏或いはセメント類)製品、或いはその廃材粉末、及びペースト類等が挙げられる。・・・
・・・
【0011】本発明の石膏ボードの製造方法は、以上のように特定量の整泡剤を使用する以外は従来の公知の石膏ボードの製造方法と実質的に変わるところはない。即ち、焼石膏、接着剤、種々の添加剤及び水と、軽量化を図るために予め発泡した泡とをミキサーで混練し、得られるスラリーを上下の原紙間に流し込み、次いで、厚みや幅を決定する成型機を通過させ、硬化後粗切断して強制乾燥機を通し、しかる後に、製品寸法に裁断して製造される。」
c 「【0013】
【実施例】次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例1~8
焼石膏100重量部、水85重量部、減水剤0.3重量部、メチルセルローズ1重量部及び硬化促進剤3.0重量部に、それぞれ下記記載の整泡剤(消泡剤又は破泡剤)と起泡剤とを慣用のピンミキサーを用いて混練したスラリーを使用して、常法により石膏ボードを製造した。製造した石膏ボードの曲げ破壊荷重と押抜強度を下記表1に示す。各整泡剤の使用量は焼石膏100重量部当たりの重量部を示す。・・・
【0014】
実施例1
整泡剤:脂肪酸誘導体(ミヨシ油脂製、商品名トリミン) 0.01重量部
起泡剤:アルキルエーテル硫酸塩(東邦化学製) 0.03重量部
実施例2
整泡剤:シリコンエマルジョン(東芝シリコーン製) 0.01重量部
起泡剤:アルキルエーテル硫酸塩(東邦化学製) 0.03重量部
【0015】
実施例3
整泡剤:撥水性石膏ボードの粉末(註1) 1重量部
起泡剤:アルキルエーテル硫酸塩(東邦化学製) 0.05重量部
註1)撥水性石膏ボード中の撥水剤はパラフィンエマルションで、使用量は焼石膏100重量部に対して3重量部である。
実施例4
整泡剤:実施例3に同じ
起泡剤:実施例3に同じ
・・・
【0019】
【表1】表1:物理性能
[図:0001413381000001.jpg]
【0020】註2:ここで湿潤とは、一般的な使用条件を鑑み、室温25℃、相対湿度85%の雰囲気で3時間養生した後の測定結果である。尚、実施例1~8及び比較例1~8のそれぞれの石膏ボードにおけるコアと原紙との接着はいずれも良好であった。・・・
【0021】尚、実施例2、実施例4、実施例6、実施例8、比較例2、比較例4、比較例6及び比較例8で得られた石膏ボードの断面のSEM写真(倍率100)を撮影して図1~4に示した。尚、他の実施例及び比較例の断面は図1~4と同様であった。前記表1、図1~4から、本発明によって得られた石膏ボードはコア中に均一な泡空隙を有していることが明らかである。しかも、同一規格(厚み、密度)基準においては、強度等が向上し、原紙に対する接着性を有し且つ物理特性を維持したまま、製品の軽量化を図り消費者のニーズに応えることが可能となる。
【0022】
【発明の効果】本発明によれば、起泡剤の種類や使用するミキサー等に左右されず、石膏ボードのコア中に微細な気泡が混在するのを極力抑え、比較的大きな一様の独立気泡を散在せしめ、原紙に対する接着性を有し且つ強度の向上した軽量な石膏ボードが得られ、消費者のニーズに応えることが可能となった。」
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、石膏ボードを構成する芯材中に、気泡と整泡剤とが混在している気泡入り石膏ボードであって、整泡剤が、消泡効果又は破泡効果を有する物質であり、整泡剤の混在量が、芯材を構成する焼石膏100重量部当たり0.001~1.0重量部である、気泡入り石膏ボードが記載されている(請求項1、2、5)。
また、前記(ア)bの記載によれば、前記気泡入り石膏ボードの製造方法は、焼石膏、接着剤、種々の添加剤及び水と、軽量化を図るために予め発泡した泡とをミキサーで混練し、得られるスラリーを上下の原紙間に流し込み、次いで、厚みや幅を決定する成型機を通過させ、硬化後粗切断して強制乾燥機を通し、しかる後に、製品寸法に裁断して製造されるものである(段落【0011】)。
更に、前記(ア)cに記載された実施例3に注目すると、前記気泡入り石膏ボードは、焼石膏100重量部、水85重量部、減水剤0.3重量部、メチルセルローズ1重量部及び硬化促進剤3.0重量部に、整泡剤と起泡剤とを慣用のピンミキサーを用いて混練したスラリーを使用して、常法により製造したものであり、整泡剤が、撥水性石膏ボードの粉末1重量部であり、起泡剤が、アルキルエーテル硫酸塩(東邦化学製) 0.05重量部であり、前記撥水性石膏ボード中の撥水剤はパラフィンエマルションで、使用量は焼石膏100重量部に対して3重量部であるものである(段落【0013】、【0015】)。
(ウ) 前記(イ)に記載した事項を、気泡入り石膏ボードの製造方法について整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「石膏ボードを構成する芯材中に、気泡と整泡剤とが混在している気泡入り石膏ボードであって、整泡剤が、消泡効果又は破泡効果を有する物質であり、整泡剤の混在量が、芯材を構成する焼石膏100重量部当たり0.001~1.0重量部である、気泡入り石膏ボードの製造方法であって、
前記気泡入り石膏ボードの製造方法は、焼石膏、接着剤、種々の添加剤及び水と、軽量化を図るために予め発泡した泡とをミキサーで混練し、得られるスラリーを上下の原紙間に流し込み、次いで、厚みや幅を決定する成型機を通過させ、硬化後粗切断して強制乾燥機を通し、しかる後に、製品寸法に裁断して製造されるものであり、
前記気泡入り石膏ボードは、焼石膏100重量部、水85重量部、減水剤0.3重量部、メチルセルローズ1重量部及び硬化促進剤3.0重量部に、整泡剤と起泡剤とを慣用のピンミキサーを用いて混練したスラリーを使用して、常法により製造したものであり、
整泡剤が、撥水性石膏ボードの粉末1重量部であり、
起泡剤が、アルキルエーテル硫酸塩(東邦化学製) 0.05重量部であり、
前記撥水性石膏ボード中の撥水剤はパラフィンエマルションで、使用量は焼石膏100重量部に対して3重量部である、気泡入り石膏ボードの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の(ア)の記載がある。
(ア) 「【0002】
【従来の技術】従来、石膏-水スラリー用分散剤として高度な分散性を示すナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下ナフタレン系と称す)が知られている。石膏ボードの製造において、ナフタレン系分散剤を使用することにより、混練り水量が低減され、乾燥時間の短縮が可能となり、生産性が向上する。石膏ボードの製造は、所定の配合に応じて、石膏、混和剤水溶液、硬化促進剤水溶液等と泡沫とを同時にピンミキサーと称される混練機に投入して10秒程度の攪拌で排出され、上下のボード(紙)に挟み込む生産工程からなっている。」
ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の(ア)~(イ)の記載がある。
(ア) 「【0004】
分散剤を使用して流体スラリーをつくるのに使用される水の量を減らす試みがなされてきた。ナフタレンスルホネート分散剤が、ウォールボード製造プロセスに使用される水の量を減らすのに非常に有効である。これらの材料は比較的高価なため、広範囲の水の減少を達成するために多量の分散剤を使用することに伴う不利益が知られている。この成分の高い価格は、競争の激しい市場でこれらの製品から得られる元来低いマージンを、なお圧迫することになる。
・・・
【0006】
特許文献1は、ベータ焼成石膏およびセメントの混合物への珪酸塩の添加を教示している。その実施例では、リグノスルフェートまたはナフタレンスルホネートが、減水剤として使用されている。珪酸塩を含むポゾラン性材料の添加は、エトリンガイトの形成による膨張を減らすと考えられる。組成物は、建築材料、例えば裏打ちボード、床下材、道路修繕材、消火材およびファイバーボードに使用されることが示唆されている。」
(イ) 「【0018】
スラリーをつくるのに使用される水の量の減少は、ナフタレンスルホネート分散剤の添加により達成される。理論により縛られるのを望まないが、分散剤は、硫酸カルシウムへそれ自体付着し、次にポリマーの荷電基が互いに反撥し、石膏の粒子を分散させそして容易に流動させる。スラリーがより容易に流動するとき、水の量は減少できそしてなお流動可能な流体を得る。一般に、水の減少は、製品の強さを増大させそして乾燥コストを低下させる。好ましいナフタレンスルホネートは、GEO Specialty Chemicals,Ambler,PAによるDAXADを含む。ナフタレンスルホネートは、石膏重量の重量%として約0.5%、好ましくは約0.05%から約0.5%より好ましくは約0.5%から約0.25%の活性成分の量で使用される。」
エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の(ア)の記載がある。
(ア) 「【0010】
[0010] 場合により、約0.5重量%~約10%のα化デンプン、約0.1重量%~約3.0重量%のナフタレンスルホネート分散剤及び約0.12重量%~約0.4重量%のトリメタリン酸塩(すべて、石膏スラリー中に用いられる乾燥漆喰の重量を基準とする。)の組合せは、石膏スラリーの流動性を予想外に顕著に増加させる。これは、石膏ウォールボード等の石膏含有製品の作製に用いられる、十分な流動性を有する石膏スラリーを生成するのに必要な水の量をかなり低減させる。標準的な配合物の濃度の少なくとも約2倍(トリメタリン酸ナトリウムに換算)のトリメタリン酸塩の濃度により、ナフタレンスルホネート分散剤の分散活性が増強されると考えられる。
【0011】
[0011] 本発明に用いられるナフタレンスルホネート分散剤としては、ポリナフタレンスルホン酸及びその塩(ポリナフタレンスルホネート)、並びにナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物である誘導体が挙げられる。・・・」
オ 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の(ア)~(ウ)の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏スラリー中でフォームおよび分散剤を利用する方法であって、
漆喰と、第1の分散剤と、第1の分量の水とをミックスして、石膏スラリーを形成するステップと、
石鹸と、第2の分散剤と、第2の分量の水とをブレンドして、フォームを作製するステップと、
前記フォームを前記スラリーと混合するステップと、
を含む方法。
・・・
【請求項3】
前記第1の分散剤がポリカルボン酸エーテル分散剤であり、前記第2の分散剤がナフタレンスルホネート分散剤である、請求項1に記載の方法。」
(イ) 「【0022】
本発明の一実施形態において、第1の分散剤は、小さい気泡を生成する種類の1つ、たとえば2641型またはPCE211型分散剤の1つである。分散剤の種類は、下でさらに詳細に説明される。第2の分散剤は、フォームを不安定化させて、大きな気泡を生成する分散剤、たとえば1641型分散剤またはナフタレンスルホネート分散剤である。たとえばPCE211型ポリマーは、ウォールボード製造においてミキサ内での使用にとって好ましい。このポリカルボン酸エーテルは、高い有効性および短い硬化時間遅延を示すが、このポリカルボン酸エーテルは極小空隙を有するコアを生成する。PCE211型分散剤の10重量%が除去されて、ナフタレンスルホネート分散剤のほぼ同じ重量がフォーム水に添加される場合、好ましい気泡サイズの分布が得られる。」
(ウ) 「【0071】
本商用試験において、2つの異なる分散剤の種類がミキサ内およびフォーム水中で使用され、製造されたボードはコア中の気泡のサイズを検査するために切り開かれた。サンプルLおよびMは、ミキサ内のみでポリカルボキシレート分散剤を使用する。図2に示すように、形成された気泡は小型であり、サイズはほぼ均一である。ナフタレンスルホネート分散剤は、サンプルNおよびOでフォーム水に添加され、図3に示すように気泡サイズ分布を変化させた。サンプルPおよびQでナフタレンスルホネートがミキサのみに添加されるときに、図1に示す気泡サイズ分布と同様に、気泡サイズ分布は再度変化した。図4のウォールボードコアは、ナフタレンスルホネートが0.21%の用量で添加されたことを除いて、サンプルPおよびQと同じ成分および同じ方法を使用して作製された。」
カ 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の(ア)の記載がある。
(ア) 「【0040】
(実施例1)
紙被覆発泡石膏ボードを、工業用石膏ボード製造施設における典型的なフルスケール生産ライン上で作製した。成分およびそれらの概略の重量百分率(使用した焼き石膏の重量を基準にして比較的狭い範囲で表わした)を表2に掲載する。量水の一部は量水配管から連続的に取り出して強力ミキサー中に供給する。ミキサーはVertifloPump Co.のモデルNo1420-2x-2x8であった。必要量のシロキサン液を連続的に計量しながら強力ミキサーへ入れ、そこで量水と1~2秒間混合して、その場で水中油エマルジョンを生成させる。シロキサン各1部に対して約25部の比で水を混合する。次に、シロキサン/水エマルジョンを量水配管に戻して量水の残分と混合した。酸化マグネシウムを焼き石膏および他の乾燥成分とドライブレンドしてからピンミキサーにかけた。製作中にシロキサンおよび酸化マグネシウムを含むことを除き、先行技術の石膏ボード製造方法および成分に典型的な方法および成分を使用してボードを作製した。ボードは種々の濃度のシロキサンおよび種々の量の酸化マグネシウムで作製し、ASTM試験1396に従って、対照ボードと比較し耐水性を試験した。
【0041】
【表2】
[図:0001413381000002.jpg]
【0042】
表2において:凝結促進剤は、米国特許第3,573,947号に記載されているように、硫酸カルシウム脱水物の細かく粉砕した糖被覆粒子を含むものであったが、その作製中に加熱しない;デンプンはLauhoff Grain Co.から入手した市販の乾燥製粉酸修飾HI-BONDデンプンであった;分散剤は、ペンシルバニア州AmblerのGEO Specialty Chemicalsから入手した市販のナフタレンスルホネートDILOFLOであった;紙繊維はハンマー粉砕の細い紙繊維であった;凝結遅延剤はワシントン州KirklandのVan Walters & Rogersから入手した市販のキレート剤VERSENEX80であった;発泡剤はコネティカット州GreenwichのWitco Corp.から入手した市販のWITCOLATE1276であった;トリメタリン酸ナトリウムはミズーリ州St.LouisのAstaras Co.から供給される市販品であった;再焼成阻止剤は、乾燥中のボードの端の再焼成を減少させるために使用したデキストロースCERELOSE 2001であった。シロキサンはWacker-Chemie GmbHによりSILRES BS-94の名前で販売されている液体であった。酸化マグネシウムはカナダのアルバータ州CalgaryのBaymag,Inc.から「Baymag 96」の名前で販売されている硬焼酸化マグネシウムであった。」
キ 甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の(ア)~(ウ)の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設資材の製造に適した石膏組成物であって、
a)石膏、
b)水、
およびc)アクリル/ポリエーテル櫛型分岐共重合体を含有する分散剤調合物を含む石膏組成物。
・・・
【請求項10】
分散剤調合物が、また、ナフタレンスルホン酸塩およびカルシウムベースのリグノスルホン酸塩からなる群から選ばれた添加剤を含む請求項1記載の石膏組成物。」
(イ) 「【0013】
各種の市販の、流動性向上剤、粘稠度低減剤および/または水低減剤、換言すれば分散剤が、当技術においてさまざまの適用に対して知られている。石膏人造壁板の製造プロセスにおいて使用される分散剤は、通常、リグノスルホン酸カルシウム、リグノスルホン酸アンモニウム、リグノスルホン酸ナトリウム、ナフタリンスルホン酸である。ナフタリンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物を使用することもまた知られている。米国特許第4,184,887をも参照のこと。リグノスルホン酸カルシウム、リグノスルホン酸アンモニウムおよびリグノスルホン酸ナトリウムは、水の使用レベルを低減する機能を有するが、上述した水和反応において硬化時間を遅延させると信じられている。
硬化に関しては、「初期」および「最終」の硬化時間の観点から論議することができる。初期硬化時間は、水和反応(硬化)が開始される時間に対応し、最終硬化時間は、水和反応が完了する時間に対応する。」
(ウ) 「【0074】
実施例3
さまざまな分散剤候補を含むさまざまな石膏組成物の粘稠度を試験した。
【0075】
石膏組成物は次のようにして試験した。分散剤候補の分散能力は、ASTM C472に倣って測定した。この試験は、規定の粘度を有する石膏組成物を調製するのに必要とされる水の量を決定するために行った。規定の粘度は、製造方法において石膏スラリーの好適な流れを得るのに必要な流動性を反映している。この水の量は、「粘稠度」と呼ばれ、100gのか焼石膏(CaSO4・1/2H2O)を所望の粘度を有するものとするに要する水の体積で定義される。
粘稠度=mlH2O/100g
石膏石膏組成物は、水のみの、または溶解された分散剤候補を含む水溶液の入った8オンスの拡張できるポリスチレンカップに、か焼石膏50gを速やかに加えて調製された。この石膏組成物は、か焼石膏を均一に湿らせるために、手で3/4インチの金属製スパチェラを用いて穏やかに60秒間かき回された。これは、ただちに、同じスパチエラを用いて、約160ストローク/分でより勢いよく30秒間混合された。そして、この石膏組成物は、一続きの動作で、90mmの高さからきれいなガラス板の上に、カップから速やかに注ぎ出された。そして、形成された円形のパテの直径が測定された。この試験における規定のスラリー粘度では、直径が90mmと測定される試験パテが形成された。粘稠度は、この試験パテの直径を達成するに必要な水の量の2倍であるとして計算された。
【0076】
これらの測定に用いた石膏(β型CaSO4・1/2H2O)は、ニューヨク州バッファロにあるNational Gypsum Cooporation Research Centerから入手された。
【0077】
さまざまな分散剤候補は、本発明の実施例1および実施例2の共重合体分散剤(第一の実施態様の石膏組成物に対応する);カルシウムベースのリグノスルホン酸塩材料(Lignosite CX、Georgia Pacific Corporation、 アトランタ、ジョジア州);およびナフタリンスルホン酸塩材料(Diroflo GW、Geo Specialty Chemicals、Horsham ペンシルベニア州)を包含する。商業的に入手できる材料である後の二つの分散剤候補は、石膏技術において分散剤として有益であることが知られている。実施例2の共重合体はpH11.8となるまで中和されている。
【0078】
これらの試験は、石膏組成物において、石膏の重量をベースとして分散剤候補の異なる重量パーセントのもとで行われた。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
[図:0001413381000003.jpg]
表1に示されているように、分散剤調合物中に含まれる本発明の櫛型分岐共重合体を用いて調製された石膏組成物は、共重合体の濃度の増加に伴い、どちらの商業的に入手できる分散剤を含む分散剤調合物よりも優れた流動性(低い粘稠度)を示す。」
ク 甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下の(ア)~(イ)の記載がある。
(ア) 「2.特許請求の範囲
焼石膏と軽量骨材と繊維を予め混合したものを又は別々に、水と減水剤及びアクリル共重合系樹脂エマルジョンの混合液に投入攪拌し、界面活性剤を発泡させた泡を練り込んで混合してなるスラリーを2枚のボード原紙間に流し込んで成形することを特徴とする軽量石膏ボードの製造方法。」(1ページ左下欄4行~10行)
(イ) 「減水剤としてリグニンスルホン酸カルシウムが適当で、またナフタレンスルホン酸カルシウム系縮合物が良好である。」(2ページ右上欄4行~6行)
なお、甲第9号証~甲第18号証の摘記は省略する。
(2) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
ア 対比
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「気泡入り石膏ボード」は、本件発明1における「石膏プラスターボード」に相当し、甲1発明における「気泡入り石膏ボードの製造方法」は、本件発明1における「石膏プラスターボードを生産するための方法」に相当する。
また、甲1発明において「起泡剤」「を慣用のピンミキサーを用いて混練」することは、本件発明1において「発泡剤」「を、石膏スラリーに加えるステップ」に相当する。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「発泡剤を、石膏スラリーに加えるステップ;を含む、
石膏プラスターボードを生産するための方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点:「石膏プラスターボードを生産するための方法」が、本件発明1は、「トリミングデバイスを使用して、乾燥石膏層から石膏プラスターボードを完成させるために乾燥石膏層をトリムする、石膏プラスターボードの生産工程におけるプラスターボードトリミング工程の石膏プラスターボード残余物から得られる屑であって、トリミングデバイスとしてのバンドラ鋸で石膏プラスターボードを鋸引きすることによっておよび/または残余物を製粉することによってもたらされる、ここでトリミングされるプラスターボードは疎水性剤としてシリコーン油を含浸させられたプラスターボードである、前記屑であるバンドラ屑を供給するステップと;石膏プラスターボードを生産するために石膏スラリーにバンドラ屑の少なくとも一部を、石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量がXであるとき0.1g/m2≦X≦30g/m2であるように加えるステップと;さらに」、「2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤」「を、石膏スラリーに加えるステップ」を含むのに対して、甲1発明は、減水剤0.3重量部、メチルセルローズ1重量部、硬化促進剤3.0重量部、整泡剤である、パラフィンエマルション撥水剤を含有する撥水性石膏ボードの粉末1重量部、起泡剤である、アルキルエーテル硫酸塩 0.05重量部を加えるものであり、上述のようなステップを有しない点。
イ 判断
(ア) 以下、前記ア(イ)の相違点の容易想到性について検討すると、甲第1号証には、甲1発明における「消泡効果」「を有する物質」として、高級脂肪酸誘導体等の有機系化合物、アルコール類、シリコーン油、パラフィン等に加えて、これらを使用して完成した水硬性物質(石膏或いはセメント類)製品、或いはその廃材粉末、及びペースト類等が挙げられることが記載されている(前記(1)ア(ア)b【0008】)。
一方、前記(1)イ~クの甲第2号証~甲第8号証の記載からみれば、石膏ボードの製造において、ナフタレンスルホネートを減水剤、分散剤として添加することは、原出願の出願日当時の周知技術といえるものである。
ところが、甲第1号証におけるいわゆる一行記載に過ぎない前記記載から、「消泡効果」「を有する物質」として、殊更、「シリコーン油」「を使用して完成した水硬性物質(石膏或いはセメント類)製品」の「廃材粉末」を選択した上で、当該「廃材粉末」として「バンドラ屑」を選択し、更に、減水剤として「ナフタレンスルホネート系液化剤」を選択して組み合わせる動機付けは存在しないし、甲第1号証~甲第8号証及び摘記を省略した甲第9号証~甲第18号証には、「疎水性剤としてシリコーン油を含浸させられたプラスターボード」の「バンドラ屑」と「ナフタレンスルホネート系液化剤」を組み合わせて「石膏スラリー」に加えることが記載されるものでもない。
してみれば、甲1発明を、前記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではない。
(イ) したがって、本件発明1は、甲1発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、又は、甲1発明、原出願の出願日当時の周知技術及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
ウ 小括
よって、本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明、原出願の出願日当時の周知技術及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において、本件発明1と甲第1号証に記載された発明を対比したとき、以下の相違点1~3の点で相違しており、これら相違点1~3はそれぞれ容易想到であるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明、原出願の出願日当時の周知技術及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。
・相違点1:「疎水性剤としてシリコーン油を含浸させられた石膏プラスターボードの残余物から得られる屑」が、本件発明1では、「トリミングデバイスを使用して」、「石膏プラスターボードの生産工程におけるプラスターボードトリミング工程」からのものであって、「トリミングデバイスとしてのバンドラ鋸で石膏プラスターボードを鋸引きすることによっておよび/または残余物を製粉することによってもたらされる」、「バンドラ屑」であるのに対して、甲第1号証に記載された発明では、そのような生産工程におけるそのようなトリミング工程からのものであるか、不明である点。
・相違点2:石膏スラリーへの前記屑の添加量が、本件発明1では、「石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量がXであるとき0.1g/m2≦X≦30g/m2である」のに対して、甲第1号証に記載された発明では、焼石膏100重量部あたり、1重量部である点。
・相違点3:石膏スラリーに加えられる所定量の減水剤が、本件発明1では、「2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤」であるのに対して、甲第1号証に記載された発明では、焼石膏100重量部あたり減水剤0.3重量部であり、減水剤が「ナフタレンスルホネート系」のものであるか不明である点。
イ そこで、前記アの主張について検討すると、本件特許明細書の段落【0009】、【0010】、【0013】、【0014】の記載(下記2(2)ア(イ))からみれば、本件発明1における「疎水性剤としてシリコーン油を含浸させられたプラスターボード」を「鋸引きすることによっておよび/または残余物を製粉することによってもたらされる」「バンドラ屑」は、大きな空気細孔の生成のための触媒としての役目を果たすものであり、その添加量Xは、好ましくは「0.1g/m2≦X≦30g/m2であ」り、「ナフタレンスルホネート系液化剤」は、その添加量が「2~15g/m2」のとき、(発泡剤が加えられる場合)大きな空気細孔の生成のための(生の)「バンドラ屑」の触媒効果を強く助けるものである。
そして、前記記載からみれば、シリコーン油を含浸させられた「バンドラ屑」と「ナフタレンスルホネート系液化剤」は、その組み合わせ及び添加量の最適化により触媒効果を発揮するものといえ、これらは相互に関連した発明特定事項といえるから、一体の相違点として検討するのが妥当といえる。
なお、本件特許明細書には、前記「バンドラ屑」の添加量Xが「0.1g/m2≦X≦30g/m2」あり、「ナフタレンスルホネート系液化剤」の添加量が「2~15g/m2」のときの実施例は記載されておらず、このときの触媒効果の強化の程度は明らかではないが、そうであるとしても、前記「バンドラ屑」と「ナフタレンスルホネート系液化剤」の組み合わせ及び添加量が相互に関連した発明特定事項といえることに変わりはないし、このことを否定するに足る証拠もないから、これらは一体の相違点として検討するのが妥当である。
してみれば、これらの発明特定事項を相違点1~3に分けた上で別個に検討した前記アの主張は、本件発明1と甲第1号証に記載された発明の間の相違点の検討手法として妥当なものとはいえないから、採用できない。
(4) まとめ
よって、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものとはいえないから、前記第3の1の特許異議申立理由は理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) サポート要件についての判断
ア 本件特許明細書には、以下の(ア)~(ウ)の記載がある。
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の石膏プラスターボードを生産するための方法、請求項9に記載の石膏プラスターボードを生産するためのバンドラ屑を準備する方法、請求項10に記載の石膏プラスターボードを生産するための添加物としてのバンドラ屑の使用、請求項11に記載の装置、および、請求項14に記載のプラスターボードに関する。
【背景技術】
【0002】
石膏プラスターボードを生産するための方法は、よく知られている。石膏スラリーは、通常、乾燥石膏層を供給するために支持および/または移送デバイス上で準備され、および、乾燥される。石膏層は、単一の石膏プラスターボードを完成させるためにトリムされる。プラスターボードをトリムするステップは、通常、トリミングデバイス、特にバンドラ鋸の使用を含む。かかるプラスターボードは、比較的に軽く、および、さらなる利点を有する。例えば、プラスターボードの重量を減少させるために、細孔を作るための発泡剤を使用することが知られている。しかしながら、かかる添加物は、高価である。一般的に、添加物は、異なる特性、特に異なる重量を備えるプラスターボードを生産するために使用される。比較的に低い重量のプラスターボードを生産するための、添加物としての発泡剤の消費高は、非常に高い。発泡剤の高い消費は、比較的に高い生産工程コストという結果になる。最終的に、比較的に軽い重量のプラスターボードを生産することは、原理上は、発泡剤を非常に大量に使用することによって可能である。
【発明の概要】
【0003】
石膏プラスターボードおよび対応する装置を製造する方法を提案することは、本発明の目的であり、ここで、コストおよび重量は、比較的に低い。」
(イ) 「【0004】
この目的は、同封の請求項の主題によって達成される。
【0005】
本発明によると、石膏プラスターボードを生産するための方法は、次のステップを含む:
- トリミングデバイス、特にバンドラ鋸を使用して、石膏プラスターボードのトリミングの石膏プラスターボード残余物から入手されるバンドラ屑を供給すること
- 石膏プラスターボードを生産するための石膏スラリーに、バンドラ屑の少なくとも一部を加えること。
【0006】
本発明の中心的側面は、小さく、制御された量における生産工程のための、添加物としての(生の)バンドラ屑の使用にある。一般的に、トリムされたプラスターボードの残余物またはスクラップは、処分されなければならないごみである。しかしながら、本発明によると、この「ごみ」は、石膏プラスターボードの特性を改良するために使用される。特に、例えば石膏コアにおいて、プラスターボードの(少なくとも部分の)有利な多孔性を達成することは、(生の)バンドラ屑の使用によって可能である。
・・・
【0009】
バンドラ屑は、好ましくは、(含浸)プラスターボードの生産工程から入手され、ここで、疎水性剤は、好ましくはシリコーン油(ポリメチル水素シロキサン)である。かかるバンドラ屑は、有利な多孔性を備える軽いプラスターボードの生産を可能にする。
【0010】
好ましい態様において、(安定的な)発泡剤は、石膏スラリーに加えられる。この場合、バンドラ屑は、大きな空気細孔の生成のための触媒としての役目を果たす。よって、発泡剤の量は、比較的に軽い重量のプラスターボードを生産するために、比較的に低く(または大きく増やさなく)てもよい。
・・・
【0013】
好ましくは、石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量は、Xであり、ここで0.1g/m2≦X≦30g/m2、・・・または(H2 13のために)2.4g/m2≦X≦3g/m2である。・・・いずれの場合においても、軽く、安定的な石膏プラスターボードは、(良い紙接着を備えて)供給され得る。「A13」という用語は、欧州規格EN 520 type A、厚さ=12.5mmによる石膏プラスターボードを意味する。「H2 13」という用語は、欧州規格EN 520 type H2、厚さ=12.5mmによる石膏プラスターボードを意味する。
【0014】
(ナフタレン)スルホネート系液化剤は、好ましくは2~15g/m2の量において、さらに好ましくは4~8g/m2の量において、石膏スラリーに加えられてもよい。かかる追加は、軽いプラスターボードが生産され得るように、(生の)バンドラ屑の多孔性効果をさらに改良する。特に、(ナフタレン)スルホネート系液化剤は、(発泡剤が加えられる場合)大きな空気細孔の生成のための(生の)バンドラ屑の触媒効果を強く助ける。2~15g/m2、好ましくは4~8g/m2の量において液化剤(ナフタレンスルホネート系液化剤)を加えることは、有利である。
・・・
【0017】
本発明のさらなる側面によると、バンドラ屑は、石膏プラスターボードを生産するための添加物として使用されてもよく、ここで、石膏スラリーにおけるバンドラ屑の量Xは、好ましくは0.1g/m2≦X≦30g/m2、・・・、特にA13のために0.6g/m2≦X≦2g/m2またはH2 13のために2.4g/m2≦X≦3g/m2である。」
(ウ) 「【0025】
石膏プラスターボードの生産における最後のステップは、石膏プラスターボードのトリミングである。上記トリミングは、また、手順の出発点としてみなされなければならない。ある時点で、石膏プラスターボード(この態様において、疎水性剤がシリコーン油、ポリメチル水素シロキサンである含浸プラスターボード)は、トリムされる。トリムされたプラスターボードは、顧客への移送のために準備されてもよい。しかしながら、トリミング工程の残余物は、除塵システムによって収集され、および、ピンミルにおいて微粉に製粉される。残余物の一部は、残余物の一部のみがピンミルにおいて製粉されるように収集され、および、貯蔵されてもよい。これは、材料が生産工程の中に完全に戻されるわけでも、全面的に捨てられるわけでもないことを意味する。
【0026】
結果として生じるバンドラ屑もまた、収集され、または、貯蔵されてもよく、および、(ピンミルおよび/または収集される/貯蔵されるバンドラ屑から直接来る)バンドラ屑(の一部)は、石膏スラリーに加えられる。この例におけるバンドラ屑の量は、0.1g/m2~30g/m2、好ましくは0.2g/m2~10g/m2、さらに(A13のために)0.6~2g/m2および(H2 13のために)2.4~3.0g/m2の間で変わってもよい。いずれの場合においても、(生の)バンドラ屑は、小さく、制御された量において加えられる。
・・・
【0031】
発泡触媒としての(生の)バンドラ屑の追加を備える上記の解決策は、テストされた。結果は、より低い紙接着なしの、実質的なボード重量の減少であった(逆に、紙接着は、改良さえされた)。したがって、本発明は、低重量プラスターボードの生産を可能にする。
【0032】
本態様において、バンドラ屑は、トリミング工程の残余物から準備される。代替的に、別のラインにおいて(生の)バンドラ屑材料(またはバンドラ屑の軽い材料)を入手することは、可能である。例えば、化粧しっくい、水およびシリコーン油は、かたまりを作るために一緒に混合され得る。このかたまりは、粉砕機において乾燥され、および、細かく砕かれ得る。そして、細かく砕かれる材料は、プラスターボード生産工程において化粧しっくいストリームに加えられ得る。テストは、多孔性のための類似の効果が予期され得ることを示した。しかしながら、トリミング工程からの(生の)バンドラ屑が十分な量において利用可能であるため、この(生の)バンドラ屑を使用することが好ましい。」
イ 前記ア(ア)の記載によれば、本件発明は、石膏プラスターボードを生産するための方法に関するものであって、従来、プラスターボードの重量を減少させるために、細孔を作るための発泡剤を使用することが知られているが、かかる添加物は高価であり、比較的に低い重量のプラスターボードを生産するための、添加物としての発泡剤の消費高は、非常に高く、発泡剤の高い消費は、比較的に高い生産工程コストという結果になる、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであり(段落【0002】)、石膏プラスターボードを製造する方法を提案することが本件発明の目的であり、このとき、コストおよび重量は、比較的に低いものである(段落【0003】)。
ウ そして、前記ア(イ)の記載によれば、本件発明における石膏プラスターボードを生産するための方法は、次のステップを含むものである。
- トリミングデバイス、特にバンドラ鋸を使用して、石膏プラスターボードのトリミングの石膏プラスターボード残余物から入手されるバンドラ屑を供給すること
- 石膏プラスターボードを生産するための石膏スラリーに、バンドラ屑の少なくとも一部を加えること(段落【0005】)。
すなわち、本件発明の中心的側面は、小さく、制御された量における生産工程のための、添加物としての(生の)バンドラ屑の使用にあり、一般的に、トリムされたプラスターボードの残余物又はスクラップは、処分されなければならないごみであるが、本件発明によると、この「ごみ」は、石膏プラスターボードの特性を改良するために使用されるのであり、特に、例えば石膏コアにおいて、プラスターボードの(少なくとも部分の)有利な多孔性を達成することは、(生の)バンドラ屑の使用によって可能であるものであり(段落【0006】)、バンドラ屑は、好ましくは、(含浸)プラスターボードの生産工程から入手され、ここで、疎水性剤は、好ましくはシリコーン油(ポリメチル水素シロキサン)であり、かかるバンドラ屑は、有利な多孔性を備える軽いプラスターボードの生産を可能にするものであり(段落【0009】)、バンドラ屑は、大きな空気細孔の生成のための触媒としての役目を果たすから、発泡剤の量は比較的に軽い重量のプラスターボードを生産するために比較的に低く(または大きく増やさなく)てもよいものである(段落【0010】)。
エ 前記ウによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、トリミングデバイス、特にバンドラ鋸を使用して、石膏プラスターボードのトリミングの石膏プラスターボード残余物から入手されるバンドラ屑を供給すること、石膏プラスターボードを生産するための石膏スラリーに、バンドラ屑の少なくとも一部を加えること、を含む石膏プラスターボードを生産するための方法であって、石膏プラスターボードの疎水性剤がシリコーン油であるとき、シリコーン油が含浸された石膏プラスターボードのバンドラ屑は、空気細孔の生成のための触媒としての役目を果たすから、発泡剤の量を比較的に低くでき又は大きく増やさなくてもよくなるので、本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、そのような石膏プラスターボードを生産するための方法は、本件発明1の発明特定事項を満たすものである。
オ 前記エによれば、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たす石膏プラスターボードを生産するための方法により、本件課題を解決できることを理解できる。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合する。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人の前記第3の2の主張は、要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「石膏スラリーに加えられるバンドラ屑の量がXであるとき0.1g/m2≦X≦30g/m2である」、「2~15g/m2の量のナフタレンスルホネート系液化剤」という本件発明1の2つの数値範囲に係る発明特定事項を満たす具体的な実施例がなく、前記発明特定事項により所望の効果が得られると当業者が認識できない旨、前記発明特定事項が単に望ましい数値範囲を記載したに過ぎない場合には、本件発明1は進歩性欠如となる旨をいうものといえる。
イ 本件特許明細書には、前記「バンドラ屑」の添加量Xが「0.1g/m2≦X≦30g/m2」あり、「ナフタレンスルホネート系液化剤」の添加量が「2~15g/m2」のときの実施例は記載されておらず、このときの触媒効果の強化の程度は明らかではないことは、前記1(3)イに記載したとおりである。
ところが、そうであるとしても、前記(2)オに記載したとおり、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たす石膏プラスターボードを生産するための方法により、本件課題を解決できることを理解できることに変わりはないし、前記発明特定事項が単に望ましい数値範囲を記載したに過ぎないか否かにかかわらず、1(2)イ(イ)に記載した事情にも変わりはないから、本件発明1は進歩性を有するものである。
したがって、申立人の前記第3の2の主張は採用できない。
(4) まとめ
よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の2の特許異議申立理由も理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700463