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特許異議申立

2024-700360

電気化学セル

審判番号
2024-700360
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-150110
登録番号
7394190
請求日
2024年04月17日
審決日
2024年09月20日
公報発行日
2024年10月25日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本碍子株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
  • 【異議申立人】亀崎 伸宏
  • 【異議申立人】西内 大生
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 粟野 正明
  • 審判官 佐藤 陽一
分類
P1651.121-Y (C25B) / P1651.536-Y (C25B) / P1651.537-Y (C25B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7394190号発明「電気化学セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7394190号の請求項1~2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7394190号(以下「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願(特願2022-150110号。以下「本願」という。)は、令和 4年 9月21日の出願であって、令和 5年11月29日にその特許権の設定登録がされ、同年12月 7日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 6年 4月17日に、その請求項1~2(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である亀崎 伸宏(以下「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 6年 6月 7日に、その請求項1~2(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である西内 大生(以下「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~2に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明2」といい、総称して「本件特許発明」という。また、以下において、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、 前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、 を備え、 前記電解質層は、 前記第1電極層上に配置される内側部と、 前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域上に配置される外周部と、 を有し、 前記内側部及び前記外周部それぞれは、所定のイオン伝導性材料を含み、 前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい、 電気化学セル。 【請求項2】 前記外周部は、前記主面に垂直な断面において、前記主面のうち前記第1電極層から露出する前記領域を前記主面の先端まで覆っている、 請求項1に記載の電気化学セル。」 第3 申立理由の概要 1 申立人1は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に公知となった下記(4)の甲第1号証~甲第5号証(以下「甲1-1」~「甲1-5」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)申立理由1-1(進歩性) 本件特許発明1~2は、甲1-1に記載された発明に基いて、又は甲1-1に記載された発明及び甲1-3~甲1-5の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-2(サポート要件) ア 本件特許発明1~2は、下記(ア)~(ウ)のとおりの、「金属支持体との熱膨張係数差に起因する熱応力が外周部に繰り返しかかったとしても、熱応力を外周部の内部で吸収することができるため、外周部にクラックが生じることを抑制できる」という作用効果を奏しない態様を包含するものであるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである。 (ア)電解質層の熱膨張係数と金属支持体の熱膨張係数との差が無い態様 (イ)複数種のイオン伝導性材料を含み、当該複数種のイオン伝導性材料のうちの1つのイオン伝導性材料のみが「前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい」との発明特定事項(以下「発明特定事項E」という。)を充足し、当該複数種のイオン伝導性材料のうちの他のイオン伝導性材料は上記発明特定事項Eを充足しない態様 (ウ)外周部が、塑性を減ずる作用を有する、イオン伝導性材料以外の材料を含む態様 イ また、本件明細書では、本件特許発明の作用効果が、本件特許発明の課題解決手段によって実現されるものであることを裏付けるためのデータやメカニズムについての記載がされていないため、出願時の技術常識に照らしても、上記発明特定事項Eの構成によって本件特許発明の課題を解決することができると当業者が認識することができないから、本件特許発明1~2は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである。 ウ さらに、本件特許発明の本質は、外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径を内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径よりも相対的に小さくすることではなく、外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径の絶対値を小さくすることであるところ、本件特許発明1~2は、外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径がどの程度小さいかについては特定されておらず、「金属支持体との熱膨張係数差に起因する熱応力が外周部に繰り返しかかったとしても、熱応力を外周部の内部で吸収することができるため、外周部にクラックが生じることを抑制できる」という作用効果を奏しない態様を包含するものであるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである。 エ したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由1-3(明確性) ア 本件特許発明1~2において、どのような測定方法で外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径と、内側部に含まれる当該イオン伝導性材料の結晶子径を比較すべきであるか不明確である。 イ また、一般に、電解質層に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径は、厳密に一定であることはあり得ず、製造ばらつき等により部位ごとに異なる可能性があるため、特定の電気化学セルが、製造ばらつきによって意図せず上記発明特定事項Eを充足することがあり得るところ、本件特許発明1~2には、製造ばらつきによって意図せず上記発明特定事項Eを充足するものも包含されるのか、あるいは、例えば本件明細書の【0034】に記載された製造方法によって上記発明特定事項Eを充足するに至ったもののみを包含するのかが不明確である。 ウ したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)証拠方法 甲1-1:国際公開第2021/201194号 甲1-2:特表2018-508952号公報 甲1-3:特開2022-109234号公報 甲1-4:特開2019-66880号公報 甲1-5:特開平11-189492号公報 2 申立人2は、証拠方法として、本願の出願前に公知となった下記(4)の甲第1号証(以下「甲2-1」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)申立理由2-1(実施可能要件) ア 本件特許発明1~2について、本件明細書には、具体的に使用されたイオン伝導性材料の粒子径や粒度分布に関する情報は一切記載されておらず、また、電気化学セルとして使用する際の電気的性能を判断するための具体的な手法や数値が記載されておらず、さらに、具体的な材料の種類や使用量、焼結時の温度や焼成時間、基板の加熱温度や成膜条件等の情報がまったく記載されておらず追試が不可能である。 イ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~2について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分であるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-2(サポート要件) ア 本件明細書には、上記発明特定事項Eを備えることによりなぜ電解質に割れが生じることを抑制できるのかに関する具体的かつ明確な説明は記載されておらず、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」や「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」を所定の数値範囲とすることにより電解質に割れが生じることを抑制できるのかに関する具体的かつ明確な説明も記載されていない。 イ また、本件明細書には、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」が「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」よりどれだけ小さければよいのかについて、両者の差や比といった具体的な指標が記載されていない。 ウ さらに、本件明細書には、実施例が記載されておらず、上記発明特定事項Eを備えた電解質の具体例や、電解質の割れを抑制するという作用効果を支持する試験結果の開示が全くされていない。 エ したがって、本件特許発明1~2について、上記発明特定事項Eを備えることにより本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識することはできない。 オ よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由2-3(明確性) ア 甲2-1の記載を考慮すれば、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」と、「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」とが同じとなることを意図して製造された電気化学セルが存在する場合、測定誤差や製造誤差によって、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」が「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径より小さい」を充足する可能性がある。 イ また、仮に上記発明特定事項Eを充足する電気化学セルが存在したとしても、外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径が10nm以上50nm以下の範囲にある場合、測定誤差や製造誤差によって、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」が「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径より小さい」を充足しない可能性がある。 ウ さらに、本件特許発明1~2について、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」と、「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」との差や比といった具体的な指標が規定されていない以上、本件特許発明1~2における上記発明特定事項Eを特定することができない。 エ したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)証拠方法 甲2-1:早稲田 嘉夫、「特集 チャンピオンデータとその限界 X線回折の限界」、まてりあ、第35巻、第11号(1996)、1226~1229頁 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、上記第3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1-3(明確性)及び申立理由2-3(明確性)について (1)上記第2のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、本件特許発明1に係る電気化学セルが備えた上記発明特定事項Eについて、「前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい」との記載がある。 (2)そして、上記(1)の記載中の「外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」及び「内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」の取得について、本件明細書には、以下の記載がある。 「【0028】 内側部71及び外周部72それぞれに含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、各部の表面をXRD(X-ray Diffraction)分析することによって取得することができる。本実施形態では、内側部71上に反応防止層8及び酸素極層9が配置されているので、結晶子径を測定する際には、反応防止層8及び酸素極層9を表面側からサンドペーパーで研磨して除去することによって、内側部71の表面を露出させる必要がある。このとき、多孔質な反応防止層8及び酸素極層9は容易に研磨で除去することができるため、下層の緻密な電解質層7を選択的に残すことができる。 【0029】 結晶子径は、粉末X線回折装置(商品名 D8 advance、Bruker AXS社製)を用いて、以下の条件で測定される。 <測定条件> X線管球・・・・・・・・Cu X線出力・・・・・・・・40kV、40mA スキャンスピード・・・・0.5秒/0.05° ステップ幅・・・・・・・0.05° 走査範囲・・・・・・・・5~70° 試料回転・・・・・・・・15rpm 【0030】 上記条件で測定した結果得られる電解質層7の回折パターンをBruker AXS社製解析ソフトTOPASを用いてFundamental Parameter法(FP法)で解析する。そして、結晶子径の算出には、Scherrerの式に基づいたSingle Profile Fitting法(SPF法)を用いることができる。なお、このSPF法の計算に用いるk値は1.0とすることができる。結晶子径は、X線回折の回折ピーク毎に算出されるが、本明細書においては、最大強度となるメインピークから算出された結晶子径を用いることとする。例えば、YSZやGDCは(111)面の回折ピークから算出された結晶子径を用いる。」 (3)そうすると、上記(1)のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」及び「内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」の取得方法が具体的に特定されているわけではないものの、上記(2)に摘記した本件明細書の【0028】~【0030】の記載を参酌すれば、上記「外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」及び「内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」が、ここに記載された取得方法により「外周部」及び「内側部」でそれぞれ取得された「結晶子径」を意味することは、当業者であれば明確に把握できるといえる。 (4)したがって、本件特許発明1~2において、どのような測定方法で外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径と、内側部に含まれる当該イオン伝導性材料の結晶子径を比較すべきであるか不明確であるとはいえない。 (5)また、測定誤差や製造誤差が存在することに起因して、特定の電気化学セルがその製造意図とは異なって上記発明特定事項Eを充足するものと判定されたり、逆に上記発明特定事項Eを充足しないものと判定される可能性があることは否定できないものの、一方で、本件明細書の【0028】~【0030】の記載を参酌すれば、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された「外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」及び「内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径」の意味を当業者が(製造意図とは無関係に)明確に把握できるといえることは、上記(3)において検討したとおりであるから、測定誤差や製造誤差に起因する上述の可能性があるからといって、そのことによって、特許を受けようとする発明が不明確になっているとはいえない。そして、本件特許発明1~2は、製造ばらつきによるものか、本件明細書の【0034】に記載された製造方法によるものかにかかわらず、「前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい」との発明特定事項を充足するものを包含するものであり、明確である。 (6)さらに、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい」とは、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」と「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」との差が負の値(ゼロ未満)である、又は、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」と「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」との比が1未満であると言い換えることができるから、本件特許発明1~2について、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」と、「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」との差や比といった具体的な指標が規定されていないとはいえない。 (7)申立理由1-3(明確性)及び申立理由2-3(明確性)についてのまとめ よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由1-3(明確性)及び申立理由2-3(明確性)によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1-1(進歩性)について (1)甲1-1の記載事項 甲1-1には、「塗料組成物の製造方法、イットリア安定化ジルコニア層、電気化学素子、電気化学モジュール、電気化学装置、エネルギーシステム、固体酸化物形燃料電池及び固体酸化物電解セル」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(下線は、当審が付したものである。以下同様。)。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は、各種部材の表面に塗装によりイットリア安定化ジルコニア層を形成することができる塗料組成物の製造方法に関するとともに、イットリア安定化ジルコニア層を備える各種機能部材に関する。」 イ 「[0011] 本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ジルコニウムアルコキシド及びイットリウム化合物を出発原料として簡便な方法で低コストに成膜可能であり、かつ、緻密なイットリア安定化ジルコニア層も得られる塗料組成物を提供することにある。」 ウ 「[0118]〔イットリア安定化ジルコニア層の使用形態〕 以下、図15~図18を参照しながら、これまで説明してきたイットリア安定化ジルコニア層を電気化学素子Eの形成に使用し、さらには、この電気化学素子Eを備えて構成される固体酸化物形燃料電池について説明する。 [0119] 電気化学素子Eは、例えば、水素を含む燃料ガスと空気の供給を受けて発電する固体酸化物形燃料電池の構成要素として用いられる。 なお以下、電気化学素子Eに関連する説明にあたり層の位置関係などを表す際、その位置表記の際の基準層を電解質層4とし、電解質層4から見て対極電極層6の側を「上」または「上側」(図15の上側)と、電極層2の側を「下」または「下側」という場合がある。また、金属基板1における電極層2が形成されている側(図15の上側)の面を「表側」、反対側(図15の下側)の面を「裏側」という場合がある。 [0120](電気化学素子) 電気化学素子Eは、図15に示される通り、金属基板1(金属支持体の一例)と、金属基板1の上に形成された電極層2と、電極層2の上に形成された中間層3と、中間層3の上に形成された電解質層4とを有する。そして電気化学素子Eは、更に、電解質層4の上に形成された反応防止層5と、反応防止層5の上に形成された対極電極層6とを有する。つまり対極電極層6は電解質層4の上に形成され、反応防止層5は電解質層4と対極電極層6との間に形成されている。電極層2及び対極電極層6は多孔質であり、電解質層4は緻密である。 [0121] これまでも説明してきたように、電気化学素子Eを構成する各層に関して、その主要な素子要素は、電解質層4、これを挟んで設けられる電極層2及び対極電極層6であり、これら3層を設けることで電気化学素子Eとして作動させることができる。 [0122](金属基板) 金属基板1は、電極層2、中間層3および電解質層4等を支持して電気化学素子Eの強度を保つ支持体としての役割を担う。この金属基板として板状の金属基板1が用いるが、金属支持体としては他の形状、例えば箱状、円筒状、円盤状などの形状も可能である。 なお、金属基板1は、支持体として電気化学素子Eを形成するのに充分な強度を有すれば良く、例えば、0.1mm~2mm程度、好ましくは0.1mm~1mm程度、より好ましくは0.1mm~0.5mm程度の厚みのものを用いることができる。 [0123] 金属基板1は、表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の貫通孔1aを有する。なお、例えば、貫通孔1aは、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工などにより、金属基板1に設けることができる。貫通孔1aは、金属基板1の裏側の面から表側の面へ気体を透過させる機能を有する。金属基板1に気体透過性を持たせるために、多孔質金属を用いることも可能である。例えば、金属基板1は、焼結金属や発泡金属等を用いることもできる。金属基板材料としては、フェライト系ステンレス材(Fe-Cr系合金の一例)を用いる。さらに図15にも示すように、この金属基板1の外面(貫通孔1aの表面も含む)に被膜層1bを形成しても良い。なお、この被膜層1bは金属酸化物の層とすることができる。例えば、Fe-Cr系合金にCoコーティング処理した後に酸化処理を行って、金属酸化物の層を形成させることができる。 [0124] 金属基板1の材料としてFe-Cr系合金を用いると、この材料が、電極層2や電解質層4の材料として用いられるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア、CGOとも呼ばれる)等と熱膨張係数が近い。結果、低温と高温の温度サイクルが繰り返された場合も電気化学素子Eがダメージを受けにくい。よって、長期耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。 [0125](電極層) 電極層2は、図15に示すように、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。貫通孔1aが設けられた領域の全体が、電極層2に覆われている。つまり、貫通孔1aは金属基板1における電極層2が形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔1aが電極層2に面して設けられている。 [0126] 電極層2の材料としては、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO2、Cu-CeO2などの複合材を用いることができる。これらの例では、YSZ、GDC、CeO2を複合材の骨材と呼ぶことができる。なお、電極層2は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な電極層2が得られる。そのため、金属基板1を傷めることなく、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子を実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。 [0127] 電極層2は、気体透過性を持たせるため、その内部および表面に複数の細孔を有する。すなわち電極層2は、多孔質な層として形成される。電極層2は、例えば、その緻密度が30%以上80%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。なお緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-空孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。 [0128](中間層) 中間層3は、図15に示すように、電極層2を覆った状態で、電極層2の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な中間層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。中間層3の材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。 [0129] 中間層3は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに中間層3が得られる。そのため、金属基板1を傷めることなく、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。 [0130] 中間層3としては、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有することが好ましい。また、酸素イオン(酸化物イオン)と電子との混合伝導性を有すると更に好ましい。これらの性質を有する中間層3は、電気化学素子Eへの適用に適している。 [0131](電解質層) 電解質層4は、図15に示すように、電極層2および中間層3を覆った状態で、中間層3の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成することもできる。詳しくは電解質層4は、中間層3の上と金属基板1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層4を金属基板1に接合することで、電気化学素子全体として堅牢性に優れたものとすることができる。 また電解質層4は、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に設けられる。つまり、貫通孔1aは金属基板1における電解質層4が形成された領域の内側に形成されている。 [0132] また電解質層4の周囲においては、電極層2および中間層3からのガスのリークを抑制することができる。説明すると、電気化学素子EをSOFCの構成要素として用いる場合、SOFCの作動時には、金属基板1の裏側から貫通孔1aを通じて電極層2へガスが供給される。電解質層4が金属基板1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。なお、本実施形態では電解質層4によって電極層2の周囲をすべて覆っているが、電極層2および中間層3の上部に電解質層4を設け、周囲にガスケット等を設ける構成としてもよい。 [0133] 電解質層4の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等を用いることができる。特にジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。電解質層4をジルコニア系セラミックスとすると、電気化学素子Eを用いたSOFCの稼働温度をセリア系セラミックスに比べて高くすることができる。例えば電気化学素子EをSOFCに用いる場合、電解質層4の材料としてYSZのような650℃程度以上の高温域でも高い電解質性能を発揮できる材料を用い、システムの原燃料に都市ガスやLPG等の炭化水素系の原燃料を用い、原燃料を水蒸気改質等によってSOFCのアノードガスとするシステム構成とすると、SOFCのセルスタックで生じる熱を原燃料ガスの改質に用いる高効率なSOFCシステムを構築することができる。 [0134] 電解質層4は、低温焼成法(1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)により形成することが好ましいが、例えば、液状組成物をエアースプレー法、バーコート法、ディスペンサ法、刷毛塗り、へら塗りで塗装し、1100℃以下の温度域で焼成処理を施すことで形成できる。また、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層4が得られる。そのため、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法やスプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層が低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。 [0135] 電解質層4は、アノードガスやカソードガスのガスリークを遮蔽し、かつ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層4の緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層4は、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層4が、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層4の一部に含まれていると、電解質層が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層4を形成しやすくできるからである。 [0136](反応防止層) 反応防止層5は、電解質層4の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。反応防止層5の材料としては、電解質層4の成分と対極電極層6の成分との間の反応を防止できる材料であれば良い。例えばセリア系材料等が用いられる。反応防止層5を電解質層4と対極電極層6との間に導入することにより、対極電極層6の構成材料と電解質層4の構成材料との反応が効果的に抑制され、電気化学素子Eの性能の長期安定性を向上できる。反応防止層5の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。 [0137](対極電極層) 対極電極層6は、電解質層4もしくは反応防止層5の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な対極電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。対極電極層6の材料としては、例えば、LSCF、LSM(ランタンストロンチウムマンガネート)等の複合酸化物、セリア系酸化物およびこれらの混合物を用いることができる。特に対極電極層6が、La、Sr、Sm、Mn、CoおよびFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成される対極電極層6は、カソードとして機能する。 [0138] なお、対極電極層6の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法や、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。 [0139] 以上説明したように、本発明に係る電気化学素子Eにおいては、電解質層4に、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)を採用できる。緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層4を得るという利点から、本発明に係る塗料組成物b2を使用して電解質層4を形成することができる。 また、別実施形態として、本願の塗料組成物b2を硬化させたイットリア安定化ジルコニア層を電極層2や中間層3の一部(複合材料の一部構成材)に用いることもできる。さらに電解質層4と反応防止層5の間に別途中間層(図外)を挿入する場合もあり、本願の塗料組成物b2を硬化させたイットリア安定化ジルコニアを、この中間層の一部に使用することもできる。」 エ 「 [図:0001415319000001.jpg] 」 (2)甲1-1に記載された発明 ア 上記(1)エに摘記した図15の電気化学素子Eからは、その電解質層4が、電極層2の上に形成された領域と、金属基板1のうち電極層2によって覆われていない部分の上に形成された領域とをそれぞれ有していることが見て取れる。 イ そうすると、上記(1)に摘記した甲1-1の記載事項を総合勘案し、特に、図15に示された電気化学素子Eに着目すると、甲1-1には、次の発明が記載されていると認められる。 「金属基板1(金属支持体の一例)と、金属基板1の上に形成された電極層2と、電極層2の上に形成された中間層3と、中間層3の上に形成された電解質層4とを有し、更に、電解質層4の上に形成された反応防止層5と、反応防止層5の上に形成された対極電極層6とを有する電気化学素子Eであって、 金属基板1は、電極層2、中間層3および電解質層4等を支持して電気化学素子Eの強度を保つ支持体としての役割を担うものであり、 金属基板1は、金属基板1の裏側の面から表側の面へ気体を通過させる機能を有し、表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の貫通孔1aを有するものであり、 電極層2は、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けられており、 電解質層4は、電極層2の上に形成された領域と、金属基板1のうち電極層2によって覆われていない部分の上に形成された領域とをそれぞれ有しており、電極層2および中間層3を覆った状態で、中間層3の上に薄層の状態で形成されており、電解質層4を金属基板1に接合することで、電気化学素子全体として堅牢性に優れたものとすることができ、また、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に設けられ、電解質層4の周囲においては、電極層2および中間層3からのガスのリークを抑制することができるものであり、 電解質層4の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等を用いることができる、 電気化学素子E。」(以下「甲1-1発明」という。) (3)甲1-3の記載事項 甲1-3には、「磁性複合体」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 ア 「【請求項1】 金属基材と、前記金属基材の表面上に設けられたフェライト層と、を備えた磁性複合体であって、 前記金属基材は、その厚さ(dM)が0.001μm以上であり、 前記フェライト層は、その厚さ(dF)が2.0μm以上であり、スピネル型フェライトを主成分とし、X線回折分析における(311)面の積分強度(I311)に対する(222)面の積分強度(I222)の比(I222/I311)が0.00以上0.03以下である、磁性複合体。」 イ 「【0012】 本発明者らは、このような問題点に鑑みて、鋭意検討を行った。その結果、金属基材とフェライト層とを備えた磁性複合体において、フェライト層の結晶状態が重要であり、これを制御することで、緻密で膜厚が比較的厚く、磁気特性及び電気特性、耐熱性に優れ、さらに密着性が良好なフェライト層を得ることができるとの知見を得た。 【0013】 本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、緻密で膜厚が比較的厚く、磁気特性(500MHz以上の高い周波数においてtanδが小さく)及び電気特性(金属基材の影響を受けることなく表面抵抗が高い)、耐熱性に優れ、さらに密着性が良好なフェライト層を備える磁性複合体の提供を課題とする。」 ウ 「【0031】 本実施形態のフェライト層は、X線回折(XRD)分析における(311)面の積分強度(I311)に対する(222)面の積分強度(I222)の比(I222/I311)が0.00以上0.03以下(0.00≦I222/I311≦0.03)である。すなわちフェライト層をX線回折法で分析すると、X線回折プロファイルにおいて、スピネル相の(222)面に基づく回折ピークが殆ど観測されない。これはフェライト層を構成する結晶粒子が微結晶から構成されるためである。本実施形態のフェライト層の結晶粒子は、磁性複合体製造時に塑性変形を受けている。そのため結晶子径が小さいとともに、格子定数の分布が広い。その結果、XRDピークがブロードになり、(222)回折ピークが観測されなくなる。I222/I311は、好ましくは0.02以下、より好ましくは0.01以下である。これに対して、一般のスピネル型フェライト材料は、多結晶状態であっても結晶性が高い。そのため(222)面回折ピークが比較的強く観測される。具体的には、XRDピーク強度比(I222/I311)は0.04~0.05(4~5%)程度である。 【0032】 XRDピーク強度比(I222/I311)の小さい本実施形態のフェライト層は、緻密であるという特徴がある。塑性変形を受けた結晶粒子は密に充填されやすいためである。また本実施形態のフェライト層は、金属基材との密着性に優れるという効果がある。結晶粒子が塑性変形を受けることで、金属基材との接触面積が増大しているためである。」 (4)甲1-4の記載事項 甲1-4には、「蛍光体、波長変換素子、光源装置およびプロジェクター」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 ア 「【0005】 しかし、上記特許文献2の蛍光体は、複数の気孔を有していることから、蛍光体粒子の熱伝導率と比べると、蛍光体の熱伝導率は低い。そのため、励起光として高強度のレーザー光が照射されると、蓄熱してしまい、蛍光体粒子の発光効率が低下する。さらに、蛍光体は気孔が多いほど割れやすいため。熱応力により蛍光体が割れる可能性がある。たとえば、高強度の励起光を照射すると、面内温度差によって大きな熱応力が発生する。また、蛍光体を点光源として利用するために、励起光を狭い領域に集束させて照射すると、励起光の照射位置では蛍光体は高温となり、大きな熱応力が発生する。 【0006】 複数の気孔を有する蛍光体を、例えば研磨によって一定の厚さの蛍光体層に加工した場合、蛍光体層の表面に気孔が露出することが避けられない。そのため、蛍光体層の表面には、気孔に起因する「くぼみ」が存在している。特許文献1に記載された光源装置において、蛍光体層の表面には、光の利用効率を向上させるために誘電体多層膜等の光学機能層が設けられることがある。しかし、表面にくぼみを有している特許文献2の蛍光体層に光学機能層を形成する場合、くぼみの部分では意図した状態で光学機能層を形成することが困難であり、意図した特性の光学機能層を形成することが困難である。 【0007】 一方で気孔は、蛍光体内部で発せられた蛍光を散乱する機能を有している。蛍光体内部における光散乱機能は、蛍光体内部で発せられた蛍光の取出し効率を高めて蛍光を効率的に利用するために必要である。気孔を減らすと蛍光体内の散乱源が減少するため、蛍光の利用効率が低下するだけでなく、蛍光の射出領域が拡大して、後段の光学系による蛍光の利用効率が低下する。 【0008】 また、蛍光体の量子収率を向上させることが望まれている。 【0009】 本発明は、上記の課題の少なくとも一つが解決された蛍光体を提供することを目的とする。また、本発明は、上述のような蛍光体を有する、波長変換素子、光源装置およびプロジェクターを提供することをあわせて目的とする。」 イ 「【0030】 第8態様において、前記第1結晶子は、Ce:Y3Al5O12を含み、前記第2結晶子は、YAlO3を含んでもよい。 YAlO3(以下、YAP)が含まれる焼結体では、YAPを含まない場合と比較して、焼結体を製造する際、第1結晶子および第2結晶子の結晶子径が小さくなる傾向にある。焼結体は、焼結体を構成する結晶子の結晶子径が小さいと、曲げ強度が高い。そのため、上記構成によれば、熱応力による破損が起こりにくい。」 (5)甲1-5の記載事項 甲1-5には、「耐熱性に優れたダイヤモンド粒子」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 ア 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、金属、合金または酸化物、窒化物、炭化物を被覆した、耐熱性に優れるダイヤモンド粒子に関する。」 イ 「【0007】 【問題点を解決するための手段】本発明は、以上のような問題点を解決すべく案出されたものであり、請求項1あるいは2に示すような物質を、スパッタリング法等の物理蒸着法によって被覆する。これにより、ダイヤモンド粒子の黒鉛化および熱分解等を抑制しつつ、ダイヤモンド粒子個々の表面に実質的に連続した被覆層を形成するとともに、この被覆層の結晶子径を特定することによって、皮膜剥離を抑制できることを見いだし、このような発明をもって、耐熱性に優れたダイヤモンド粒子を提供することを目的とする。」 ウ 「【0010】さらに、表面被覆層は通常蒸着時の熱歪みが残留しており、これが原因で皮膜剥離を起こしやすい。しかし、その結晶子径が200nm以下にある時、熱応力等の内部歪みによる剥離を起こさないことを見いだした。結晶子径が小さくなる(結晶粒が微細化する)と結晶粒界によるすべりが起きるため、導電層中の熱応力を緩和できるに十分な変形能を有する。発明者らは、このために十分な結晶子径が、シェラーの式から計算される結晶子径で200nm以下が必要であることを見いだした。」 (6)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲1-1発明との対比 本件特許発明1と甲1-1発明とを対比する。 (ア)甲1-1発明の「金属基板1の裏側の面から表側の面へ気体を通過させる機能を有し、表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の貫通孔1aを有する」「金属基板1」は、「(金属支持体の一例)」であり、「電極層2、中間層3および電解質層4等を支持して電気化学素子Eの強度を保つ支持体としての役割を担うもの」であるから、本件特許発明1の「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体」に相当する。 (イ)甲1-1発明の「金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けられて」いる「電極層2」は、本件特許発明1の「前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層」に相当する。 (ウ)甲1-1発明の「反応防止層5の上に形成された対極電極層6」は、本件特許発明1の「第2電極層」に相当し、甲1-1発明の「電極層2の上に形成された中間層3」「の上に形成され」、さらにその上に反応防止層5を介して対極電極層6が形成される「電解質層4」は、本件特許発明1の「前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層」に相当する。 (エ)上記(イ)、(ウ)を考慮すれば、甲1-1発明における「電極層2」、「電解質層4」及び「対極電極層6」を含む構成は、本件特許発明1の「セル本体部」に相当する。 (オ)甲1-1発明の「電気化学素子E」は、本件特許発明1の「電気化学セル」に相当する。 (カ)甲1-1発明の「電解質層4」が「電極層2の上に形成された領域と、金属基板1のうち電極層2によって覆われていない部分の上に形成された領域とをそれぞれ有して」いることは、本件特許発明1の「前記電解質層は、前記第1電極層上に配置される内側部と、前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域上に配置される外周部と、を有」することに相当する。 (キ)本件明細書の【0021】の「電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密体である。酸化物イオン伝導性材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)、及びこれらの複合材料が挙げられる。」との記載や、本願出願時の技術常識からすると、甲1-1発明の「YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等」の材料を用いることができる「電解質層4」と、本件特許発明1の「電解質層」とは、「前記内側部及び前記外周部それぞれは、所定のイオン伝導性材料を含」む点で共通する。 (ク)そうすると、本件特許発明1と甲1-1発明とは、 「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、 前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、 を備え、 前記電解質層は、 前記第1電極層上に配置される内側部と、 前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域上に配置される外周部と、 を有し、 前記内側部及び前記外周部それぞれは、所定のイオン伝導性材料を含む、 電気化学セル。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 電解質層に含まれる所定のイオン伝導性材料の結晶子径について、本件特許発明1では、「前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい」との関係を有している(発明特定事項E)のに対して、甲1-1発明では、そのような関係を有しているか否か不明である点。 イ 相違点についての判断 そこで、上記相違点1について、以下検討する。 (ア)本件明細書の【0026】の以下の記載によれば、本件特許発明1において上記相違点1に係る発明特定事項Eを備えることは、「外周部72に塑性を付与することができ」、「金属支持体20との熱膨張係数差に起因する熱応力が外周部72に繰り返しかかったとしても、熱応力を外周部72の内部で吸収することができるため、外周部72に割れ(クラック)が生じることを抑制できる」との技術的意義を有するものと認められる。 「【0026】 内側部71及び外周部72それぞれは、同じ酸化物イオン伝導性材料(本発明に係る「所定のイオン伝導性材料」)を含む。外周部72に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径は、内側部71に含まれる酸化物イオン伝導性材料の結晶子径より小さい。このように、外周部72において酸化物イオン伝導性材料の結晶子径を相対的に小さくすることによって、外周部72に塑性を付与することができる。従って、金属支持体20との熱膨張係数差に起因する熱応力が外周部72に繰り返しかかったとしても、熱応力を外周部72の内部で吸収することができるため、外周部72に割れ(クラック)が生じることを抑制できる。」 (イ)一方、上記(1)に摘記した甲1-1の記載事項を参照しても、電解質層4の結晶子径に注目した記載は見当たらないから、甲1-1発明において、上記(ア)のとおりの技術的意義を有する上記相違点1に係る発明特定事項Eを備えることが、単なる設計的事項であるとはいえず、また、そのようにする動機付けがあるともいえない。 (ウ)また、上記(3)に摘記した甲1-3には、フェライト層を備えた磁性複合体における結晶子径と塑性変形との関係について、上記(4)に摘記した甲1-4には、蛍光体を構成する焼結体における結晶子径と曲げ強度との関係について、上記(5)に摘記した甲1-5には、耐熱性に優れるダイヤモンド粒子の金属から成る被覆層の結晶子径と変形能との関係について、それぞれ記載されているものの、これらは電気化学素子における電解質層に関するものではなく、電解質層に含まれる所定のイオン伝導性材料の結晶子径について、「前記外周部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径は、前記内側部に含まれる前記イオン伝導性材料の結晶子径より小さい」との関係を有することについて示唆するものではないから、甲1-3~甲1-5の記載を参照しても、甲1-1発明において、上記相違点1に係る発明特定事項Eを備えようとする動機付けがあるとはいえない。 (エ)以上によれば、甲1-1発明において、上記相違点1に係る発明特定事項Eを備えさせることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 ウ 小括 したがって、本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-1発明に基いて、又は甲1-1発明及び甲1-3~甲1-5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記(6)ウのとおり、本件特許発明1が、甲1-1発明に基いて、又は甲1-1発明及び甲1-3~甲1-5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件特許発明2は、甲1-1発明に基いて、又は甲1-1発明及び甲1-3~甲1-5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (8)申立理由1-1(進歩性)についてのまとめ よって、本件特許発明1~2は、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由1-2(サポート要件)及び申立理由2-2(サポート要件)について (1)本件明細書の【0004】、【0005】の記載からすると、本件特許発明が解決しようとする課題は、電解質の外周部に金属支持体との熱膨張係数差に起因する熱応力が繰り返しかかることによって割れが生じることを抑制可能な電気化学セルを提供することにあると認められる。 (2)そして、本件明細書の【0010】~【0078】及び図1~図5(特に、上記2(6)イ(ア)に摘記した【0026】)の記載によれば、上記(1)の課題は、主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、主面上に形成され上記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、上記第1電極層及び上記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部とを備え、上記電解質層が上記第1電極層上に配置される内側部と、上記主面のうち上記第1電極層から露出する領域上に配置される外周部とを有し、上記内側部及び上記外周部それぞれは、所定のイオン伝導性材料を含む電気化学セルについて、さらに外周部に含まれる上記イオン伝導性材料の結晶子径を内側部に含まれる上記イオン伝導性材料の結晶子径より小さいものとすることで解決できることを、当業者であれば認識できるといえる。 (3)一方、本件特許発明1~2は、主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、主面上に形成され上記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、上記第1電極層及び上記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部とを備え、上記電解質層が上記第1電極層上に配置される内側部と、上記主面のうち上記第1電極層から露出する領域上に配置される外周部とを有し、上記内側部及び上記外周部それぞれは、所定のイオン伝導性材料を含む電気化学セルについて、さらに外周部に含まれる上記イオン伝導性材料の結晶子径が内側部に含まれる上記イオン伝導性材料の結晶子径より小さいものであることを発明特定事項として含むものでるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。 (4)この点について、申立人1は、本件特許発明1~2が、 ア 電解質層の熱膨張係数と金属支持体の熱膨張係数との差が無い態様、 イ 複数種のイオン伝導性材料を含み、当該複数種のイオン伝導性材料のうちの1つのイオン伝導性材料のみが上記発明特定事項Eを充足し、当該複数種のイオン伝導性材料のうちの他のイオン伝導性材料は上記発明特定事項Eを充足しない態様、 ウ 外周部が、塑性を減ずる作用を有する、イオン伝導性材料以外の材料を含む態様 を包含するものであり、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであると主張している(上記第3の1(2)ア参照。)。 (5)そこで、上記(4)の主張について検討するに、上記(4)アについては、電解質層を構成する材料(本件明細書の【0021】)と金属支持体を構成する材料(本件明細書の【0049】~【0051】)からすると、「電解質層の熱膨張係数と金属支持体の熱膨張係数との差」があるのが通常であり、差が無い態様は通常は想定されず、仮に差が無い態様を想定するとしても、「電解質層の熱膨張係数と金属支持体の熱膨張係数との差が無い態様」であれば、そもそも電解質の外周部に金属支持体との熱膨張係数差に起因する熱応力が繰り返しかかることによって割れが生じる可能性は極めて低く、上記(1)の課題が解決できると解することもできるし、上記(4)イ、ウのように、電解質層に上記発明特定事項Eを充足しない材料が含まれても、上記発明特定事項Eを充足する所定のイオン伝導性材料に着目すれば、その分だけ電解質層に割れが生じることは抑制されると評価できるから、いずれにしても、本件特許発明1~2が上記(4)ア~ウの態様を包含するものであるからといって、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるとはいえない。 したがって、上記(4)の主張は採用しない。 (6)また、申立人1は、本件明細書では、本件特許発明の作用効果が、本件特許発明の課題解決手段によって実現されるものであることを裏付けるためのデータやメカニズムについての記載がされていないため、出願時の技術常識に照らしても、上記発明特定事項Eの構成によって本件特許発明の課題を解決することができると当業者が認識することができないから、本件特許発明1~2は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであると主張している(上記第3の1(2)イ参照。)。 (7)そこで、上記(6)の主張について検討するに、確かに、本件明細書には、本件特許発明1~2を実施した具体例(実施例)の記載はないものの、甲1-5の【0010】の記載(上記1(5)参照。)等を考慮すれば、一般に、結晶子径と変形能(塑性)との間に何らかの因果関係が存在することは理解できるから、そのことを前提に本件明細書の【0026】の記載(上記2(6)イ(ア)参照。)を参照すれば、上記(2)において検討したとおり、本件特許発明1~2が上記発明特定事項Eを備えることにより上記(1)の課題が解決できることを、当業者であれば認識できるといえる。 したがって、本件特許発明1~2が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるとはいえないから、上記(6)の主張は採用しない。 (8)さらに、申立人1は、本件特許発明の本質は、外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径を内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径よりも相対的に小さくすることではなく、外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径の絶対値を小さくすることであることを根拠にして、その点が特定されていない本件特許発明1~2は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであると主張している(上記第3の1(2)ウ参照。)。 (9)そこで、上記(8)の主張について検討する。 ア 本件明細書の記載によれば、本件特許発明は、金属支持体に直接接続されている電解質の外周部には、金属支持体との熱膨張係数差に起因する熱応力が繰り返しかかることによって割れが生じやすい(本件明細書の【0004】、【0005】参照。)ことから、電解質層の外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径を内側部に含まれるものに比べて相対的に小さいものとすることで外周部に塑性を付与し、外周部における熱応力を内部で吸収することで割れが生じることを抑制できるとの技術思想に基づくものであるといえる。 イ そして、外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径が内側部に含まれる当該イオン伝導性材料の結晶子径と同じ又は相対的に大きい態様との比較において、本件特許発明1~2が、外周部に塑性を付与することができ、外周部における熱応力を内部で吸収することで割れが生じることを抑制できるものであることは十分に理解できるといえるから、外周部における上記結晶子径の絶対値が特定されていないからといって、本件特許発明1~2が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるとはいえない。 ウ したがって、上記(8)の主張は採用しない。 (10)加えて、申立人2は、 ア 本件明細書には、上記発明特定事項Eを備えることによりなぜ電解質に割れが生じることを抑制できるのかに関する具体的かつ明確な説明は記載されておらず、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」や「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」を所定の数値範囲とすることにより電解質に割れが生じることを抑制できるのかに関する具体的かつ明確な説明も記載されていないこと、 イ 本件明細書には、「外周部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」が「内側部に含まれるイオン伝導性材料の結晶子径」よりどれだけ小さければよいのかについて、両者の差や比といった具体的な指標が記載されていないこと、 ウ 本件明細書には、実施例が記載されておらず、上記発明特定事項Eを備えた電解質の具体例や、電解質の割れを抑制するという作用効果を支持する試験結果の開示が全くされていないこと、 を根拠として、本件特許発明1~2について、上記発明特定事項Eを備えることにより本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識することはできない旨主張している(上記第3の2(2)参照。)。 (11)そこで、上記(10)の主張について検討するに、上記(10)ア、ウの点については、上記(7)において検討したのと同様であり、また、上記(10)イの点については、上記1(6)において検討したとおりであるから、上記(10)の主張は、いずれの点についても、根拠を欠くものと言わざるを得ず、採用しない。 (12)申立理由1-2(サポート要件)及び申立理由2-2(サポート要件)についてのまとめ よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由1-2(サポート要件)及び申立理由2-2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由2-1(実施可能要件)について (1)確かに、本件明細書には、本件特許発明1~2について、具体的に使用されたイオン伝導性材料の粒子径や粒度分布に関する情報、電気化学セルとして使用する際の電気的性能を判断するための具体的な手法や数値、具体的な材料の種類や使用量、焼結時の温度や焼成時間、基板の加熱温度や成膜条件等の情報が記載されていない。 (2)しかしながら、本件明細書の【0034】の以下の記載を参照すれば、採用した電解質層の形成方法に応じて各製造条件を調整することにより、外周部と内側部のイオン伝導性材料の結晶子径を調整することは、当業者にとって十分可能であるといえる。 「【0034】 電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。焼成法やスプレーコーティング法のように原料粉末をもとに電解質層7を形成するプロセスでは、原料の仮焼温度を変えることで結晶子径の異なる材料を作り分けたうえで、各材料を塗り分けることによって内側部71及び外周部72を形成することができる。PVD法やCVD法のようにイオンの形態で電解質層7を形成するプロセスでは、内側部71及び外周部72それぞれを形成する際の基板の加熱温度や成膜条件を変えることで内側部71及び外周部72の結晶子径を調整することができる。」 (3)また、本願出願時の技術常識を考慮すれば、本件明細書の記載を参照しつつ、電気化学セルとして十分動作するものを製造し、使用することも十分可能であるといえる。 (4)そうすると、本件明細書の記載は、本件特許発明1~2に係る「電気化学セル」について、その物を作れ、使用できるように記載されたものといえる。 (5)申立理由2-1(実施可能要件)についてのまとめ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由2-1(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人1、2による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700360

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