特許異議申立
2024-700330
電気化学セル
- 審判番号
- 2024-700330
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-150109
- 登録番号
- 7394189
- 請求日
- 2024年04月10日
- 審決日
- 2024年09月30日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本碍子株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 【異議申立人】亀崎 伸宏
- 【異議申立人】西内 大生
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 井上 猛
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.121-Y (C25B) / P1651.537-Y (C25B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7394189号発明「電気化学セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7394189号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7394189号(請求項の数3。以下、「本件特許」という。)は、令和4年9月21日を出願日とする特許出願(特願2022-150109号)に係るものであって、令和5年11月29日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和5年12月7日である。)。
その後、令和6年4月10日に、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、特許異議申立人である亀崎伸宏(以下、「申立人A」という。)により、特許異議の申立て(以下、「申立てA」という。)がされ、同年5月13日に手続補正書(方式)が提出された。また、令和6年6月6日に、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、特許異議申立人である西内大生(以下、「申立人B」という。)により、特許異議の申立て(以下、「申立てB」という。)がされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、
前記第1電極層を覆う内側部と、
前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を前記主面の先端まで覆う外側部と、
を有し、
前記内側部は、前記断面において、
前記外側部に連なり、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離までの中間部分と、
前記中間部分に連なり、前記面方向において前記第1電極層の先端から前記所定距離以上離れた中央部分と、
を含み、
前記中間部分の平均厚みは、前記中央部分の平均厚みより小さく、
前記中間部分の平均厚みは、前記面方向において前記中間部分を4等分する3か所における厚みの平均値であり、
前記中央部分の平均厚みは、前記内側部のうち前記面方向において前記中間部分の前記外側部と反対側の端から前記所定距離までの部分を4等分する3か所における厚みの平均値である、
電気化学セル。
【請求項2】
前記中間部分の平均厚みは、前記外側部の平均厚みより小さく、
前記中間部分の平均厚みは、前記面方向において前記中間部分を4等分する3か所における厚みの平均値であり、
前記外側部の平均厚みは、前記面方向において前記外側部を4等分する3か所における厚みの平均値である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記所定距離は、前記金属支持体の厚みの2分の1である、
請求項1に記載の電気化学セル。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
1 申立てAについて
本件特許の請求項1~3に係る特許は、下記(1)~(4)のとおり、特許法113条2号及び4号に該当する(証拠方法は下記(5)を参照。以下、申立人Aが提出した甲第1号証等を単に「甲A1」等という。)。
(1)申立理由1-1(進歩性)
本件発明1、3は、甲A1に記載された発明並びに甲A3及び甲A4に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(2)申立理由1-2(進歩性)
本件発明1~3は、甲A2に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(3)申立理由2(サポート要件)
本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(4)申立理由3(明確性要件)
本件発明1、2については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(5)証拠方法
・甲A1 国際公開第2018/216159号
・甲A2 特開2019-220492号公報
・甲A3 特表2018-508952号公報
・甲A4 特開2021-82560号公報
2 申立てBについて
本件特許の請求項1~3に係る特許は、下記(1)~(3)のとおり、特許法113条2号及び4号に該当する(証拠方法は下記(4)を参照。以下、申立人Bが提出した甲第1号証等を単に「甲B1」等という。)。
(1)申立理由4(進歩性)
本件発明1~3は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(2)申立理由5(サポート要件)
本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(3)申立理由6(明確性要件)
本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(4)証拠方法
・甲B1 特開2014-116100号公報
・甲B2 特開2019-3883号公報
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1-1(進歩性)
(1)甲A1に記載された発明
甲A1には、燃料電池セルについて記載されているところ、第1の実施形態([0010]~[0049]、図1~5)を前提とした第2の実施形態([0050]~[0068]、図6~8)について、アノード電極層(燃料極層)11の外周縁部113は、外端側に向かって漸次厚みが薄くなる部分113Bを有していることが記載され([0051])、また、変形例([0066]~[0068])である図7からは、さらに外端側では、電解質層13は、金属製の支持板2の表面を覆っていることが見て取れる。
上記記載等を含む甲A1の記載(請求項1~11、[0010]~[0068]、図1~8)によれば、特に、請求項1、3、6、8、[0011]、[0013]、[0019]、[0021]、[0028]、[0044]、[0051]の記載と、図7に示される変形例に着目すると、甲A1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「下側から、アノード電極層(燃料極層)11、固体電解質からなる電解質層13、及びカソード電極層(空気極層)15が順に積層された構造を有する電池構造体1と、
電池構造体1のアノード電極層(燃料極層)11側に配置され、電池構造体1を支持し、焼結金属体や発泡金属体などの多孔質金属部材からなる金属製の支持板2と、
電池構造体1及び金属製の支持板2との間にガス流路を形成する一対のセパレータ3,3と、
を備えた、燃料電池セルFCであって、
一方のセパレータ3とカソード電極層(空気極層)15との間に、カソードガス(空気)を流通させるガス流路を有し、他方のセパレータ3とアノード電極層(燃料極層)11及び支持板2との間に、アノードガス(燃料ガス)を流通させるガス流路を有しており、
アノード電極層(燃料極層)11は、中央に配置され、かつ、電解質層13の熱膨張率よりも熱膨張率が大きい電極反応部111と、電極反応部111の外周に電極反応部111と隣接して配置され、かつ、電極反応部111の熱膨張率よりも熱膨張率が小さい外周縁部113とを有し、
外周縁部113の厚みが、少なくとも外周縁部113と電極反応部111の境界B近傍で、電極反応部111の厚みと同じであり、外周縁部113は、外端側に向かって漸次厚みが薄くなる部分113Bを有しており、さらに外端側では、電解質層13は、金属製の支持板2の表面を覆っている、燃料電池セルFC。」(以下、「甲A1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
(ア)甲A1発明における「金属製の支持板2」は、本件発明1における「金属支持体」に相当する。
(イ)甲A1発明における「金属製の支持板2」は、「電池構造体1のアノード電極層(燃料極層)11側に配置され」、「焼結金属体や発泡金属体などの多孔質金属部材からなる」ものであるところ、技術常識に照らして、多孔質を構成する各孔は、金属製の支持板2の内部及び表面に形成されたものであって、他方のセパレータ3とアノード電極層(燃料極層)11及び支持板2との間のガス流路を流通するアノードガス(燃料ガス)をアノード電極層(燃料極層)11に供給するためのものと解される。
そうすると、上記(ア)を踏まえると、甲A1発明における「電池構造体1のアノード電極層(燃料極層)11側に配置され」、「焼結金属体や発泡金属体などの多孔質金属部材からなる金属製の支持板2」は、本件発明1における「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体」に相当する。
(ウ)甲A1発明における「アノード電極層(燃料極層)11」、「カソード電極層(空気極層)15」、「固体電解質からなる電解質層13」、「電池構造体1」は、それぞれ、本件発明1における「第1電極層」、「第2電極層」と、「電解質層」、「セル本体部」に相当する。
(エ)甲A1発明における「下側から、アノード電極層(燃料極層)11、固体電解質からなる電解質層13、及びカソード電極層(空気極層)15が順に積層された構造を有する電池構造体1」は、電池構造体1のアノード電極層(燃料極層)11側に配置された金属製の支持板2によって支持されていることから、金属製の支持板2の表面に形成された多数の孔は、アノード電極層(燃料極層)11によって覆われていると認められる。
そうすると、上記(イ)、(ウ)を踏まえると、甲A1発明における「下側から、アノード電極層(燃料極層)11、固体電解質からなる電解質層13、及びカソード電極層(空気極層)15が順に積層された構造を有する電池構造体1」は、本件発明1における「前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部」に相当する。
(オ)a(a)甲A1発明における「電解質層13」は、「アノード電極層(燃料極層)11」の上に「積層」されているところ、図7も参照すると、電解質層13は、アノード電極層(燃料極層)11の中央に配置された電極反応部111を覆っているとともに、電極反応部111の外周に電極反応部111と隣接して配置された外周縁部113を覆っていることから、電解質層13は、アノード電極層(燃料極層)11を覆う(下記(b)との関係で相対的に内側の)部分を有しているといえる。
(b)また、甲A1発明においては、「外周縁部113の厚みが、少なくとも外周縁部113と電極反応部111の境界B近傍で、電極反応部111の厚みと同じであり、外周縁部113は、外端側に向かって漸次厚みが薄くなる部分113Bを有しており、さらに外端側では、電解質層13は、金属製の支持板2の表面を覆っている」ところ、図7も参照すると、電解質層13は、金属製の支持板2の表面のうちアノード電極層(燃料極層)11から露出する領域を覆う(上記(a)との関係で相対的に外側の)部分を有しているといえる。
b(a)以上によれば、甲A1発明において、「電解質層13」が、「アノード電極層(燃料極層)11」の上に「積層」されていることは、本件発明1において、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、前記第1電極層を覆う内側部」を「有し」ていることに相当する。
(b)また、甲A1発明において、「外周縁部113の厚みが、少なくとも外周縁部113と電極反応部111の境界B近傍で、電極反応部111の厚みと同じであり、外周縁部113は、外端側に向かって漸次厚みが薄くなる部分113Bを有しており、さらに外端側では、電解質層13は、金属製の支持板2の表面を覆っている」ことと、本件発明1において、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、」「前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を前記主面の先端まで覆う外側部」を「有し」ていることとは、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、」「前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を」「覆う外側部」を「有し」ている限りにおいて共通する。
(カ)上記(オ)の検討を踏まえると、甲A1発明の電解質層13における、アノード電極層(燃料極層)11を覆う(相対的に内側の)部分のうち、外周縁部113を覆う部分は、本件発明1における「前記断面において、前記外側部に連なり、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離までの中間部分」に相当する。
また、同様に、甲A1発明の電解質層13における、アノード電極層(燃料極層)11を覆う(相対的に内側の)部分のうち、電極反応部111を覆う部分は、本件発明1における「前記断面において」、「前記中間部分に連なり、前記面方向において前記第1電極層の先端から前記所定距離以上離れた中央部分」に相当する。
(キ)甲A1発明における「燃料電池セルFC」は、本件発明1における「電気化学セル」に相当する。
(ク)以上によれば、本件発明1と甲A1発明とは、
「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、
前記第1電極層を覆う内側部と、
前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を覆う外側部と、
を有し、
前記内側部は、前記断面において、
前記外側部に連なり、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離までの中間部分と、
前記中間部分に連なり、前記面方向において前記第1電極層の先端から前記所定距離以上離れた中央部分と、
を含む、
電気化学セル。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点A1-1
金属支持体の主面のうち第1電極層から露出する領域を覆う電解質層の外側部が、本件発明1では、「主面の先端まで」覆うものであるのに対して、甲A1発明では、「主面の先端まで」覆うものであるかどうか不明である点。
・相違点A1-2
本件発明1では、「前記中間部分の平均厚みは、前記中央部分の平均厚みより小さく」、「前記中間部分の平均厚みは、前記面方向において前記中間部分を4等分する3か所における厚みの平均値であり、前記中央部分の平均厚みは、前記内側部のうち前記面方向において前記中間部分の前記外側部と反対側の端から前記所定距離までの部分を4等分する3か所における厚みの平均値である」のに対して、甲A1発明では、上記のような「中間部分の平均厚み」(外周縁部113を覆う部分の平均厚み)が上記のような「中央部分の平均厚み」(電極反応部111を覆う部分の平均厚み)より「小さ」いかどうか不明である点。
イ 相違点A1-2の検討
事案に鑑み、相違点A1-2について検討する。
(ア)まず、相違点A1-2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲A1には、電解質層13における、アノード電極層(燃料極層)11を覆う(相対的に内側の)部分のうち、外周縁部113を覆う部分と電極反応部111を覆う部分のそれぞれの平均厚みについては、何ら記載されておらず、また、外周縁部113を覆う部分の平均厚みが電極反応部111を覆う部分の平均厚みより小さいことについても、記載されていない。さらに、甲A1発明に係る燃料電池セルFCにおいて、外周縁部113を覆う部分の平均厚みが電極反応部111を覆う部分の平均厚みより小さいことが技術常識であるともいえない。
b なお、以上においては、電解質層13における、アノード電極層(燃料極層)11を覆う(相対的に内側の)部分のうち、外周縁部113を覆う部分を本件発明1の「中間部分」に相当するものとし、電極反応部111を覆う部分を本件発明1の「中央部分」に相当するものと解して、それぞれの平均厚みについて検討した。
しかしながら、外周縁部113を覆う部分と電極反応部111を覆う部分との境界(図7参照)よりも右側(外端側)又は左側(中央側)に新たな境界を設け、その新たな境界よりも右側の部分を本件発明1の「中間部分」に相当するものとし、その新たな境界よりも左側の部分を本件発明1の「中央部分」に相当するものと解したとしても、以上で述べたことは同様に当てはまるといえる。
c 申立人Aは、一般に、電解質層の厚みは、厳密に一定であることはあり得ず、製造ばらつき等により部位ごとに異なるため、甲A1発明に係る燃料電池セルFCは、少なくとも1つの断面において、中間部分の平均厚みは中央部分の平均厚みより小さいとの構成を備えている蓋然性が高いと主張する。
しかしながら、申立人Aの主張を前提としても、甲A1発明に係る燃料電池セルFCにおいて、実際に、外周縁部113を覆う部分の平均厚みが電極反応部111を覆う部分の平均厚みより小さいとの構成を備えている断面が必ず存在しているかどうかは、不明である。
また、甲A1には、電解質層の製造方法について、一般的な説明として、まず、金属製の支持板としての多孔質金属基板上に、アノード電極層形成用スラリーをスクリーン印刷で塗布して、アノード塗布層を形成し、次に、アノード塗布層上に、電解質層形成スラリーを塗布して、電解質塗布層を形成し、さらに、水素雰囲気などの還元雰囲気下、1000℃で焼成することにより、多孔質基板上に、アノード電極層と電解質層とを形成することが記載されている([0149]~[0151])ものの、その詳細な製造条件等は不明であり、実際に、申立人Aが主張するような製造ばらつきが存在するかどうかは不明である。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
d 以上によれば、相違点A1-2は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点A1-2の容易想到性について検討する。
a 上記(ア)で述べたとおり、甲A1には、電解質層13における、アノード電極層(燃料極層)11を覆う(相対的に内側の)部分のうち、外周縁部113を覆う部分と電極反応部111を覆う部分のそれぞれの平均厚みについては、何ら記載されておらず、また、外周縁部113を覆う部分の平均厚みが電極反応部111を覆う部分の平均厚みより小さいことについても、記載されていない。さらに、甲A1発明に係る燃料電池セルFCにおいて、外周縁部113を覆う部分の平均厚みが電極反応部111を覆う部分の平均厚みより小さいことが技術常識であるともいえない。甲A1には、甲A1発明において、相違点A1-2に係る発明特定事項を備えさせることを動機付ける記載は見当たらない。
また、甲A3、甲A4にも、相違点A1-2に係る発明特定事項について具体的に説明する記載はないから、甲A3、甲A4の記載を考慮したとしても、甲A1発明において、相違点A1-2に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえない。
なお、上記(ア)bで述べたことは、相違点A1-2の容易想到性についての検討においても、同様である。
b 申立人Aは、甲A4の図3には、中間部分の平均厚みが中央部分の平均厚みより小さいことが記載されているため、甲A1発明において、甲A4記載事項を参照して、相違点A1-2に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことであると主張する。
しかしながら、甲A4の図3は、実施例1のハーフセルの断面のSEM像(【0014】)であって、電解質層/アノード層の界面の凹凸の状態を評価するためのものにすぎず(【0067】、【0068】)、相違点A1-2に係る発明特定事項について具体的に説明するものではないから、甲A1発明において、相違点A1-2に係る発明特定事項を備えさせることを動機付けるものとはいえない。そして、このことは、仮に、甲A4の図3に示される電解質層の厚みを実測することにより、同図3から中間部分の平均厚みが中央部分の平均厚みより小さいことが読み取れたとしても、変わるものではない。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
c 以上によれば、甲A1発明において、相違点A1-2に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
したがって、相違点A1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1に記載された発明並びに甲A3及び甲A4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲A1に記載された発明並びに甲A3及び甲A4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3についても同様に、甲A1に記載された発明並びに甲A3及び甲A4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、3は、甲A1に記載された発明並びに甲A3及び甲A4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2(進歩性)
(1)甲A2に記載された発明
甲A2の記載(請求項1、10、【0038】~【0062】、図1、2)によれば、特に、請求項1に記載の電気化学素子を引用する請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池セル(【0039】、【0041】、【0044】、【0045】、【0049】、【0056】、【0061】、図1、図2)に着目すると、甲A2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「複数の貫通孔を有する金属基板と、
前記金属基板の表側の面に設けられた電極層と、
前記電極層の上に設けられた電解質層とを有する電気化学素子であって、
前記貫通孔は前記金属基板の表側の面と裏側の面とを貫通して設けられ、
前記電極層は前記金属基板の前記貫通孔が設けられた領域より広い領域に設けられ、
前記電解質層は、前記電極層を被覆する第1部分と、前記金属基板の表側の面に接触する第2部分とを有し、
前記電極層は、前記金属基板に隣接する下方部位に比べ、前記電解質層に隣接する上方部位の強度が高い電気化学素子
の前記電解質層の上に前記電極層の対極となる対極電極層を設けた固体酸化物形燃料電池セル。」(以下、「甲A2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A2発明とを対比する。
(ア)甲A2発明における「金属基板」は、「金属基板の表側の面と裏側の面とを貫通して設けられ」た、「複数の貫通孔を有する」ものであるところ、甲A2の記載によれば、上記金属基板は、「電極層3と電解質層4とを支持して電気化学素子1の強度を保つ役割を担う」(【0040】)ものであるから、金属支持体であるといえ、また、上記貫通孔は、「金属基板2の裏側の面から表側の面へ気体を透過させる機能を有する」(甲A2【0041】)ものであるから、気体の供給孔であるともいえる。
そうすると、甲A2発明における「金属基板の表側の面と裏側の面とを貫通して設けられ」た、「複数の貫通孔を有する」「金属基板」は、本件発明1における「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体」に相当する。
(イ)甲A2発明における「電極層」、「対極電極層」、「電解質層」は、それぞれ、本件発明1における「第1電極層」、「第2電極層」、「電解質層」に相当する。
(ウ)甲A2発明における「電気化学素子」は、「金属基板の表側の面に設けられた電極層」と、「電極層の上に設けられた電解質層」を有するものであり、さらに、その「電解質層の上に前記電極層の対極となる対極電極層を設け」ることによって、「固体酸化物形燃料電池セル」としたものである。また、上記電極層は、「金属基板の前記貫通孔が設けられた領域より広い領域に設けられ」いることから、図2も参照すると、金属基板が有する複数の貫通孔を覆っているといえる。
そうすると、上記電気化学素子を構成する、「金属基板の表側の面に設けられ」、「金属基板の前記貫通孔が設けられた領域より広い領域に設けられ」た「電極層」と、「電極層の上に設けられた電解質層」と、その「電解質層の上に」「設け」られた、「電極層の対極となる対極電極層」をひとまとまりとしたものが、本件発明1における、金属支持体の「主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部」に相当する。
(エ)甲A2発明において、「電解質層」が「前記電極層を被覆する第1部分」を有していることは、図2も参照すると、本件発明1において、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、前記第1電極層を覆う内側部」を「有し」ていることに相当する。
また、甲A2発明において、「電解質層」が「前記金属基板の表側の面に接触する第2部分」を有していることと、本件発明1において、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において」、「前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を前記主面の先端まで覆う外側部」を「有し」ていることとは、図2も参照すると、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、」「前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を」「覆う外側部」を「有し」ている限りにおいて共通する。
(オ)甲A2発明における「電解質層」が有する「電極層を被覆する第1部分」は、図2を参照すると、同「金属基板の表側の面に接触する第2部分」に連なり、電極層の左右の両端(先端)のそれぞれから所定距離までの部分(以下、「部分α」という。)と、その部分αに連なり、電極層の左右の両端(先端)のそれぞれから所定距離以上離れた部分(以下、「部分β」という。)を含むものであることが見て取れる。
そうすると、甲A2発明において、「電解質層」が有する「電極層を被覆する第1部分」が、同「金属基板の表側の面に接触する第2部分」に連なり、電極層の左右の両端(先端)のそれぞれから所定距離までの部分である部分αを含むことは、本件発明1において、「内側部は、前記断面において、前記外側部に連なり、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離までの中間部分」を「含」むことに相当する。
また、甲A2発明において、「電解質層」が有する「電極層を被覆する第1部分」が、部分αに連なり、電極層の左右の両端(先端)のそれぞれから所定距離以上離れた部分である部分βを含むことは、本件発明1において、「内側部は、前記断面において」、「前記中間部分に連なり、前記面方向において前記第1電極層の先端から前記所定距離以上離れた中央部分」を「含」むことに相当する。
(カ)甲A2発明における「固体酸化物形燃料電池セル」は、本件発明1における「電気化学セル」に相当する。
(キ)以上によれば、本件発明1と甲A2発明とは、
「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、
前記第1電極層を覆う内側部と、
前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を覆う外側部と、
を有し、
前記内側部は、前記断面において、
前記外側部に連なり、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離までの中間部分と、
前記中間部分に連なり、前記面方向において前記第1電極層の先端から前記所定距離以上離れた中央部分と、
を含む、
電気化学セル。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点A2-1
金属支持体の主面のうち第1電極層から露出する領域を覆う電解質層の外側部が、本件発明1では、「主面の先端まで」覆うものであるのに対して、甲A2発明では、「主面の先端まで」覆うものではない点。
・相違点A2-2
本件発明1では、「前記中間部分の平均厚みは、前記中央部分の平均厚みより小さく」、「前記中間部分の平均厚みは、前記面方向において前記中間部分を4等分する3か所における厚みの平均値であり、前記中央部分の平均厚みは、前記内側部のうち前記面方向において前記中間部分の前記外側部と反対側の端から前記所定距離までの部分を4等分する3か所における厚みの平均値である」のに対して、甲A2発明では、上記のような「中間部分の平均厚み」(部分αの平均厚み)が上記のような「中央部分の平均厚み」(部分βの平均厚み)より「小さ」いかどうか不明である点。
イ 相違点A2-2の検討
事案に鑑み、相違点A2-2について検討する。
(ア)まず、相違点A2-2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲A2には、電解質層における電極層を被覆する第1部分のうち、部分αと部分βのそれぞれの平均厚みについては、何ら記載されておらず、また、部分αの平均厚みが部分βの平均厚みより小さいことについても、記載されていない。さらに、甲A2発明に係る固体酸化物形燃料電池セルにおいて、部分αの平均厚みが部分βの平均厚みより小さいことが技術常識であるともいえない。
b(a)申立人Aは、一般に、電解質層の厚みは、厳密に一定であることはあり得ず、製造ばらつき等により部位ごとに異なるため、甲A2発明に係る固体酸化物形燃料電池セルは、少なくとも1つの断面において、中間部分の平均厚みは中央部分の平均厚みより小さいとの構成を備えている蓋然性が高いと主張する。
しかしながら、申立人Aの主張を前提としても、甲A2発明に係る固体酸化物形燃料電池セルにおいて、実際に、部分αの平均厚みが部分βの平均厚みより小さいとの構成を備えている断面が必ず存在しているかどうかは不明である。
また、甲A2発明は、甲A2の請求項1に記載の電気化学素子を引用する請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池セルに着目して認定したものであるところ、甲A2には、請求項1に記載の電気化学素子の製造方法について、金属基板の表側の面の貫通孔が設けられた領域より広い領域に電極層を形成した後、電極層の上と金属基板の表側の面の上とにわたって電解質材料を付着させて、電極層を被覆する第1部分と金属基板の表側の面に接触する第2部分とを有する電解質層を形成することが記載され(請求項11、【0079】)、また、電解質層は、低温焼成法(例えば1400℃等の高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やエアロゾルデポジション法、溶射法(スプレーコート法)などにより形成することが好ましいことが記載されている(【0059】、【0080】)ものの、その詳細な製造条件等は不明であり、実際に、申立人Aが主張するような製造ばらつきが存在するかどうかは不明である。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
(b)また、申立人Aは、本件明細書における電解質層の製造方法(【0028】)と甲A2における電解質層の製造方法(【0080】)は同様の方法であるから、甲A2発明に係る固体酸化物形燃料電池セルは、中間部分の平均厚みが中央部分の平均厚みより小さいとの構成を備えている蓋然性が高いと主張する。
しかしながら、両者の電解質層の製造方法が同様の方法であるとしても、実際に、部分αの平均厚みが部分βの平均厚みより小さいかどうかは不明である。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
c 以上によれば、相違点A2-2は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点A2-2の容易想到性について検討する。
a 上記(ア)で述べたとおり、甲A2には、電解質層における電極層を被覆する第1部分のうち、部分αと部分βのそれぞれの平均厚みについては、何ら記載されておらず、また、部分αの平均厚みが部分βの平均厚みより小さいことについても、記載されていない。さらに、甲A2発明に係る固体酸化物形燃料電池セルにおいて、部分αの平均厚みが部分βの平均厚みより小さいことが技術常識であるともいえない。甲A2には、甲A2発明において、相違点A2-2に係る発明特定事項を備えさせることを動機付ける記載は見当たらない。
また、甲A3にも、相違点A2-2に係る発明特定事項について具体的に説明する記載はないから、甲A3の記載を考慮したとしても、甲A2発明において、相違点A2-2に係る発明特定事項を備えさせることが動機付けられるとはいえない。
b 以上によれば、甲A2発明において、相違点A2-2に係る発明特定事項を備えさせることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
したがって、相違点A2-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A2に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲A2に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に、甲A2に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲A2に記載された発明及び甲A3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由4(進歩性)
(1)甲B1に記載された発明
甲B1の記載(請求項1、【0014】~【0020】、【0025】~【0039】、図1~4)によれば、特に、請求項1、【0014】、【0016】、【0020】、【0026】、【0028】~【0030】、図2に着目すると、甲B1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「円筒形状の基体管103の外周面上に、基体管の軸方向に沿って、燃料極109と固体電解質膜111と空気極113とを積層して形成された複数の燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極109とを電気的に接続し、隣り合う燃料電池セル105同士を直列に接続するインターコネクタ107とを備える燃料電池であって、
基体管103は、CaO安定化ZrO2(CSZ)、又はY2O3安定化ZrO2(YSZ)、又はMgAl2O4からなる多孔質材料からなり、
基体管103は、燃料電池セル105とインターコネクタ107とを支持するとともに、基体管103の内周面に供給される燃料ガスを基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される燃料極109に拡散させるものであり、
一の燃料電池セル105内でインターコネクタ107と燃料極109とが接触する側の端部Aにおいて、燃料極109aの端部が略直線状の傾斜となる傾斜部123aを有し、
燃料極109aの平坦部121a上に形成される固体電解質膜111aの膜厚は20~60μmであり、
燃料極109aの傾斜部123aに形成される固体電解質膜111aの膜厚は、平坦部121aの膜厚よりも薄くなるが、燃料極109aの傾斜部123aにおける固体電解質膜111aの膜厚を10μm以上確保し、
燃料極109aの末端127aでは、基体管103に接するように固体電解質膜111aが直接形成される、燃料電池。」(以下、「甲B1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B1発明とを対比する。
(ア)甲B1発明における「円筒形状の基体管103」は、「CaO安定化ZrO2(CSZ)、又はY2O3安定化ZrO2(YSZ)、又はMgAl2O4からなる多孔質材料からな」るものであるところ、技術常識に照らして、多孔質を構成する各孔は、基体管103の内部及び表面に形成されたものと解される。
そうすると、甲B1発明における「CaO安定化ZrO2(CSZ)、又はY2O3安定化ZrO2(YSZ)、又はMgAl2O4からなる多孔質材料からなり」、「燃料電池セル105とインターコネクタ107とを支持するとともに、基体管103の内周面に供給される燃料ガスを基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される燃料極109に拡散させるものであ」る「円筒形状の基体管103」と、本件発明1における「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体」とは、「主面に形成された複数の供給孔を有する」「支持体」である限りで共通する。
(イ)甲B1発明における「燃料極109」、「空気極113」、「固体電解質膜111」、「燃料電池セル105」は、それぞれ、本件発明1における「第1電極層」、「第2電極層」、「電解質層」、「セル本体部」に相当する。
(ウ)甲B1発明における「燃料電池」は、「円筒形状の基体管103の外周面上に」、「燃料極109と固体電解質膜111と空気極113とを積層して形成された」「燃料電池セル105」備えるものであることから、円筒形状の基体管103の表面に形成された多数の孔は、燃料極109によって覆われていると認められる。
そうすると、上記(ア)、(イ)を踏まえると、甲B1発明における「円筒形状の基体管103の外周面上に」、「燃料極109と固体電解質膜111と空気極113とを積層して形成された」「燃料電池セル105」は、本件発明1における「前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部」に相当する。
(エ)甲B1発明において、「固体電解質膜111a」が、「燃料極109aの平坦部121a上に形成される」部分と、「燃料極109aの傾斜部123aに形成される」部分を有していることは、図2も参照すると、本件発明1において、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、前記第1電極層を覆う内側部」を「有し」ていることに相当する。
また、甲B1発明において、「固体電解質膜111a」が「燃料極109aの末端127aでは、基体管103に接するように」「直接形成される」部分を有していることと、本件発明1において、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において」、「前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を前記主面の先端まで覆う外側部」を「有し」ていることとは、図2も参照すると、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、」「前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を」「覆う外側部」を「有し」ている限りにおいて共通する。
(オ)上記(エ)の検討を踏まえると、甲B1発明における「固体電解質膜111a」が「燃料極109aの傾斜部123aに形成される」部分は、本件発明1における「前記断面において、前記外側部に連なり、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離までの中間部分」に相当する。
また、同様に、甲B1発明における「固体電解質膜111a」が「燃料極109aの平坦部121a上に形成される」部分は、本件発明1における「前記断面において」、「前記中間部分に連なり、前記面方向において前記第1電極層の先端から前記所定距離以上離れた中央部分」に相当する。
(カ)甲B1発明における「燃料電池」は、本件発明1における「電気化学セル」に相当する。
(キ)以上によれば、本件発明1と甲B1発明とは、
「主面に形成された複数の供給孔を有する支持体と、
前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、
前記第1電極層を覆う内側部と、
前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を覆う外側部と、
を有し、
前記内側部は、前記断面において、
前記外側部に連なり、前記主面に平行な面方向において前記第1電極層の先端から所定距離までの中間部分と、
前記中間部分に連なり、前記面方向において前記第1電極層の先端から前記所定距離以上離れた中央部分と、
を含む、
電気化学セル。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点B1-1
支持体の主面のうち第1電極層から露出する領域を覆う電解質層の外側部が、本件発明1では、「主面の先端まで」覆うものであるのに対して、甲B1発明では、「主面の先端まで」覆うものであるかどうか不明である点。
・相違点B1-2
本件発明1では、「前記中間部分の平均厚みは、前記中央部分の平均厚みより小さく」、「前記中間部分の平均厚みは、前記面方向において前記中間部分を4等分する3か所における厚みの平均値であり、前記中央部分の平均厚みは、前記内側部のうち前記面方向において前記中間部分の前記外側部と反対側の端から前記所定距離までの部分を4等分する3か所における厚みの平均値である」のに対して、甲B1発明では、「燃料極109aの平坦部121a上に形成される固体電解質膜111aの膜厚は20~60μmであり」、「燃料極109aの傾斜部123aに形成される固体電解質膜111aの膜厚は、平坦部121aの膜厚よりも薄くなるが、燃料極109aの傾斜部123aにおける固体電解質膜111aの膜厚を10μm以上確保」するものであるものの、上記のような「中間部分の平均厚み」(傾斜部123aに形成される固体電解質膜111aの平均厚み)が上記のような「中央部分の平均厚み」(平坦部121a上に形成される固体電解質膜111aの平均厚み)より「小さ」いかどうか不明である点。
・相違点B1-3
支持体が、本件発明1では、「金属」支持体であるのに対して、甲B1発明では、「CaO安定化ZrO2(CSZ)、又はY2O3安定化ZrO2(YSZ)、又はMgAl2O4からなる」基体管103である点。
イ 相違点B1-3の検討
事案に鑑み、相違点B1-3について検討する。
(ア)まず、相違点B1-3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 本件明細書の記載(【0043】、【0044】)によれば、本件発明1の「金属支持体」は、金属材料、例えばCrを含有する合金材料によって構成されるものであり、TiやZrを含有してもよく、TiをTiO2として含有してもよく、ZrをZrO2として含有してもよいものであるから、少なくとも金属材料を含むものといえる。
b 一方、甲B1発明の基体管103は、「CaO安定化ZrO2(CSZ)、又はY2O3安定化ZrO2(YSZ)、又はMgAl2O4からなる」ものであり、本件発明1のように、金属材料を含むものとはいえない。
甲B1には、基体管103について、金属材料を含むものを使用できることについては、何ら記載されていない。甲B1発明の基体管103において、金属材料を含むものを使用できることが技術常識であるともいえない(下記(イ)bで述べるとおり、むしろ金属材料を含むものを使用することは、阻害されている。)。
c 以上によれば、相違点B1-3は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点B1-3の容易想到性について検討する。
a 上記(ア)で述べたとおり、甲B1には、基体管103について、金属材料を含むものを使用できることについては、何ら記載されていない。甲B1発明の基体管103において、金属材料を含むものを使用できることが技術常識であるともいえない。甲B1には、甲B1発明において、基体管103として金属材料を含むものを使用することを動機付ける記載は見当たらない。
b また、甲B1発明に係る燃料電池は、「円筒形状の基体管103の外周面上に、基体管の軸方向に沿って」、「複数の燃料電池セル105」を備えるものであって、「インターコネクタ107」によって、「隣り合う燃料電池セル105の、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極109とを電気的に接続し、隣り合う燃料電池セル105同士を直列に接続する」ものである。
仮に、甲B2の記載等を考慮し、基体管103として金属材料を含むものを使用したとすると、隣り合う燃料電池セル105同士が短絡してしまい、上記のような直列の接続が不可能となることは、当業者にとって明らかである。
そうすると、甲B1発明において、基体管103として金属材料を含むものを使用することは、むしろ阻害されているといえる。
c この点、申立人Bは、甲B2には、金属支持体を備える電気化学反応単セルは、甲B2にも記載されるように周知技術であるから、甲B1発明において、基体管を金属支持体に変更することは、当業者が容易に想到できたものであり、それによる顕著な作用効果を奏するものでもないと主張する。
しかしながら、甲B1発明において、基体管103として金属材料を含むものを使用する動機付けはなく、むしろ阻害されていることは、上記a、bのとおりである。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
d 以上によれば、甲B1発明において、基体管103として金属材料を含むものを使用することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
したがって、相違点B1-1、B1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由2(サポート要件)、申立理由5(サポート要件)
(1)本件発明1~3について
ア 本件明細書の記載(【0002】~【0005】)によれば、本件発明1~3が解決しようとする課題は、「剛性を向上可能な電気化学セルを提供すること」であると認められる。
イ 本件明細書には、上記アの課題に関し、以下の記載がある。
「図3に示すように、電解質層7は、内側部71及び外側部72を有する。」(【0052】)
「内側部71は、水素極層6の表面を覆う。外側部72は、金属支持体20の第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆う。略全部を覆うとは、外側部72が第1主面20Sの先端P20まで覆っていることを意味する。」(【0053】)
「このように、外側部72が第1主面20Sのうち水素極層6から露出する領域の略全部を覆っていることによって、金属支持体20の剛性だけでなく緻密質な電解質層7の剛性をも電解セル1の外側部に付与することができる。従って、電解セル1全体の剛性を向上させることができる。」(【0069】)
ウ 上記イの記載を含む本件明細書の記載及び図面(【0006】~【0011】、【0016】、【0017】、【0023】、【0024】、【0033】、【0038】~【0040】、【00516】~【0053】、【0068】、【0069】、図2、図3)によれば、上記アの課題は、「主面に形成された複数の供給孔を有する金属支持体と、前記主面上に形成され前記複数の供給孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、を備え」る、電気化学セルにおいて、「前記電解質層は、前記主面に垂直な断面において、前記第1電極層を覆う内側部と、前記主面のうち前記第1電極層から露出する領域を前記主面の先端まで覆う外側部と、を有」するとの要件を備えることによって、解決できることが理解できる。
エ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記ウの要件を備えた本件発明1~3は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって、本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
(2)申立人A、Bの主張について
ア 申立人Aは、本件明細書の【0070】の記載を参照すると、本件発明1~3が解決しようとする課題は、第1電極層のうち電解質層の中間部分と接触する端部にクラックが発生することを防止することであるとの認識を前提として、本件発明1~3が、「第1電極層と中央部分の内部に生じる膜厚方向の温度分布に比べて、第1電極層と中間部分の内部に生じる膜厚方向の温度分布を低減でき、第1電極層と中間部分の間の熱応力が小さくなる」という作用効果を奏しない(すなわち、課題を解決できない)態様を含んでいると主張する。
しかしながら、本件発明1~3が解決しようとする課題は、上記(1)アのとおり、「剛性を向上可能な電気化学セルを提供すること」であると認められるから、上記主張は、その前提において失当である。
よって、申立人Aの主張は採用できない。
イ 申立人Bは、本件明細書の【0070】の記載に基づいて、本件発明1~3は、「水素極層と中間部分の間の熱応力が小さくなるため、水素極層のうち中間部分と接触する端部にクラックが発生することを抑制できること」という作用効果を奏することができない構成を含むと主張する。
上記主張は、要するに、本件発明1~3が解決しようとする課題が、第1電極層のうち電解質層の中間部分と接触する端部にクラックが発生することを防止することであるとの認識を前提とするものと解されるから、上記アで述べたのと同様の理由により、その前提において失当である。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、申立理由2(サポート要件)、申立理由5(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由3(明確性要件)、申立理由6(明確性要件)
(1)申立人A、Bの主張について
ア 申立人Aは、本件発明1、2は、「所定距離」を限定するものではないため、文言上、以下の図に示される態様のように「所定距離」を設定することが可能であるが、本件明細書を考慮しても、このような態様まで含むのか否か理解できないから、本件発明1、2は、第1電極層の先端からどれだけ離れた部分までを中央部分として特定すべきであるか不明確であると主張する。
[図:0001416488000001.jpg]
しかしながら、本件発明1、2における電解質層は、金属支持体の主面上に形成され複数の供給孔を覆う第1電極層を覆う内側部と、金属支持体の主面のうち第1電極層から露出する領域を主面の先端まで覆う外側部とを有するものであり、内側部のうち中間部分は、第1電極層の先端から「所定距離」までの部分であり、同中央部分は、第1電極層の先端から「所定距離」以上離れた部分である。
そして、外側部は電解質層の両端に存在し、内側部はその外側部の間に挟まれた部分に存在するから、中間部分も電解質層の両側に存在し、中央部分はその中間部分の間に挟まれた部分に存在することになる。また、中央部分の平均厚みは、中間部分の端(中間部分との境界)から「所定距離」までの部分を対象として測定されるものであるから、「所定距離」は中央部分の長さを超えることはない。
そうすると、中間部分は電解質層の両側に存在し、中央部分はその中間部分の間に挟まれた部分に存在すること、「所定距離」(すなわち、中間部分の長さ)は中央部分の長さを超えることはないことを考慮すれば、「所定距離」は、内側部(第1電極層)の長さの3分の1以下となるといえるから、本件発明1、2は、申立人Aが主張するような態様を包含するものとはいえない。
よって、申立人Aの主張は、その前提を欠くものであるから、採用できない。
イ 申立人Bは、本件発明1~3は、電解質層における中央部分の平均厚みと中間部分の平均厚みとの大小関係を規定しているのみであり、両平均厚みのそれぞれの数値範囲や、両平均厚みの差分値が規定されていないため、本件発明1~3は、中央部分及び中間部分を同じ厚み(目標厚み)に形成しようとしたにもかかわらず、製造時の誤差や計測時の誤差の影響等により、目標厚みに対して乖離した厚みとなった電解質層を包含する可能性があり、発明の外延が不明確であると主張する。
しかしながら、本件発明1~3は、中央部分の平均厚みと中間部分の平均厚みとの大小関係を特定する発明であるから、目標厚みとの乖離の有無にかかわらず、当該大小関係を満たすものを包含するものであり、その外延は明確である。本件発明1~3において、中央部分の平均厚みと中間部分の平均厚みのそれぞれの数値範囲や、両平均厚みの差分値が特定されていないからといって、発明が不明確になるものではない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
(2)まとめ
したがって、申立理由3(明確性要件)、申立理由6(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700330