特許異議申立
2024-700338
固形洗浄剤、該固形洗浄剤を用いた洗浄方法、及び固形洗浄剤の発泡性を向上させる方法
- 審判番号
- 2024-700338
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-166528
- 登録番号
- 7364397
- 請求日
- 2024年04月12日
- 審決日
- 2025年04月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アース製薬株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】金田 綾香
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 光本 美奈子
- 審判官 弘實 由美子
- 分類
- P1651.113-YAA(C11D) / P1651.537-YAA(C11D) / P1651.16 -YAA(C11D) / P1651.536-YAA(C11D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7364397号発明「固形洗浄剤、該固形洗浄剤を用いた洗浄方法、及び固形洗浄剤の発泡性を向上させる方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7364397号発明の特許請求の範囲を、訂正明細書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
特許第7364397号の請求項1~4、6に係る特許を維持する。
特許第7364397号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7364397号(以下「本件特許」という。)の出願(特願2019-166528号)は、令和元年9月12日(優先権主張 令和元年5月23日)の出願であって、令和5年10月10日に特許権の設定登録がされ(請求項の数 6)、同年同月18日に特許掲載公報が発行された後、令和6年4月12日に、特許異議申立人である金田綾香(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~6に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、その後の手続きの経緯は、以下のとおりである。
令和6年 7月30日付け:取消理由通知
同年 9月27日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年11月15日 :訂正請求書の手続補正書(特許権者)
同年11月27日付け:通知書(申立人宛て)
同年12月25日 :意見書(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年11月15日の手続補正書により補正された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、次の訂正事項を含む。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムであり、前記有機酸がクエン酸であり、前記炭酸水素ナトリウムを8質量%以上含み、」との記載を追加する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に「前記炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムであり、前記有機酸がクエン酸であり、前記炭酸水素ナトリウムを8質量%以上含み、」との記載を追加する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用することから、訂正事項1は一群の請求項についてなされたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明における固形洗浄剤の成分をより具体的に特定し、かつ、炭酸水素ナトリウムの含有量を規定するものであるから、特許請求の範の減縮を目的とするものである。このように、成分をより具体的に規定し、かつ、前記炭酸水素ナトリウムの含有量を規定する訂正事項1は、カテゴリーや対象目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
訂正事項1は、段落【0014】、【0016】及び実施例1~22に基づき、訂正前の炭酸塩及び炭酸水素塩が、それぞれ、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムであることを特定し、段落【0023】及び実施例1~22に基づき、訂正前の有機酸がクエン酸であることを特定し、段落【0021】の記載に基づき、炭酸水素ナトリウムを8質量%以上含むことを特定するものであるから、何ら新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~4についても同様である。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項6に「前記炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムであり、前記有機酸がクエン酸であり、前記炭酸水素ナトリウムを8質量%以上含み、」との記載を追加するものであるから、前記(1)で検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~6について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~6に係る訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項のいわゆる独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、6について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、本件訂正により、請求項5は削除された。
【請求項1】
水又は水溶液に投入して発泡させて使用する、トイレ便器に用いるための固形洗浄剤であって、
炭酸塩と炭酸水素塩とを含む発泡剤、有機酸、界面活性剤及び増粘剤を含有し、
前記発泡剤に対する前記有機酸の質量比(有機酸/発泡剤)が1.0~2.5であり、
前記炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムであり、前記有機酸がクエン酸であり、
前記炭酸水素ナトリウムを8質量%以上含み、前記増粘剤を0.1~3.0質量%含むことを特徴とする固形洗浄剤。
【請求項2】
前記有機酸中、粒子径150μm未満の有機酸を40質量%以下の範囲、且つ粒子径150μm以上300μm未満の有機酸を25質量%以上100質量%未満の範囲で含むことを特徴とする請求項1に記載の固形洗浄剤。
【請求項3】
前記固形洗浄剤の剤型が、粉末状、粒状及び顆粒状からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載の固形洗浄剤。
【請求項4】
水溜りを有するトイレ便器の前記水溜りとの接触面を洗浄する洗浄方法であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載の固形洗浄剤を前記水溜りに投入して発泡させた泡により洗浄することを特徴とする洗浄方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
トイレ便器に用いるための固形洗浄剤を水温15℃以下の低温の水溜りを有するトイレ便器の前記水溜りに投入して発泡させた際の発泡量を向上させる方法であって、
前記固形洗浄剤に、炭酸塩と炭酸水素塩とを含む発泡剤、有機酸、界面活性剤及び増粘剤を含有させ、前記発泡剤に対する前記有機酸の質量比(有機酸/発泡剤)を1.0~2.5とし、前記炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムであり、前記有機酸がクエン酸であり、前記炭酸水素ナトリウムの含有量を8質量%以上とし、かつ前記増粘剤の含有量を0.1~3.0質量%とすることを特徴とする低温時における固形洗浄剤の発泡量を向上させる方法。
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は、次のとおりである。
以下、申立人が提出した甲第1号証等の証拠を、甲1等ともいう。
1 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
請求項1~6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 申立理由2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
請求項1~6に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲3~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
3 申立理由3(拡大先願)
請求項1、3~6に係る発明は、甲6に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許の請求項1、3~6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
請求項1~6に係る特許は、以下の理由から、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(1)本件発明1~6には、固体洗浄剤の投入量、水溶液中の濃度、界面活性剤をオレフィンスルホン酸塩とすること、及び、発泡剤の水に対する投入量が特定されていない。
(2)本件発明2は、有機酸の種類、粒子系の定義及び測定方法が規定されていない。
5 申立理由5(サポート要件)
請求項1~6に係る特許は、下記の理由から、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(1)本件発明1~6には、固体洗浄剤の投入量、水溶液中の濃度、界面活性剤をオレフィンスルホン酸塩とすること、及び、発泡剤の水に対する投入量が特定されていないため、課題を解決するための手段が反映されていない。
(2)本件発明2は、有機酸の種類、粒子系の定義及び測定方法が規定されていないため、課題を解決するための手段が反映されていない。
(3)本件明細書の実施例では、界面活性剤がα-オレフィンスルホン酸ナトリウムではない場合における、有機酸/発泡剤の値は「1.29~1.44」の極めて狭い範囲でのみ結果が示されているから、有機酸/発泡剤が1.0~2.5の全範囲において本件発明の課題が解決できるか否かは不明である。
(4)本件明細書の実施例では、増粘剤の含有量は0.26質量%以上0.32質量%の極めて狭い数値範囲の例のみが示されているから、増粘剤の含有量が0.1~3.0質量%の全範囲において本件発明の課題が解決できるか否かは不明である。
(5)本件明細書の実施例の多くは、泡を便器ボウルの縁裏まで到達させるという本件発明の効果を満たさない。
6 申立理由6(明確性要件)
請求項2に係る特許は、以下の理由から、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
請求項2で特定される粒子径を有する有機酸の入手方法や調整方法、及び、粒子径の定義や測定方法が不明である。
7 証拠方法
甲第1号証:特開2015-67589号公報
甲第2号証:特開昭62-30198号公報
甲第3号証:特開2018-16676号公報
甲第4号証:特表2018-507954号公報
甲第5号証:特開2018-24875号公報
甲第6号証:特開2020-2295号公報
甲第7号証:水溶性PVOHフィルム「ハイセロン」、大久保正憲および平井香、日本本プラスチック工業連盟誌、第61巻、第7号、2010
甲第8号証:化学大辞典8 縮刷版 1964年2月15日 共立出版株式会社発行
第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許に対して、当審が令和6年7月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次の(1)~(2)のとおりである。
(1)取消理由1(進歩性)について(前記第4 1に対応)
本件特許の請求項1~4及び6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲3及び甲5に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備なため、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
ア 「前記発泡剤に対する前記有機酸の質量比(有機酸/発泡剤)」が「クエン酸/(炭酸ナトリウム+炭酸水素ナトリウム)」以外の質量比であることをも包含する請求項1~6に係る発明は、課題を解決するものとはいえないから、本件発明1~6は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
イ トイレ便器の便器ボウルの縁裏まで泡が到達することが、本件明細書の発明の詳細な説明に開示されていたとはいえないから、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
2 甲号証の記載
以下、下線は合議体による。
(1)甲1の記載
「【0007】
本発明は、発泡性を有しながらも耐吸湿性、耐潮解性が向上された義歯洗浄剤を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねていたところ、発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量を8重量%以下とし、更に、炭酸塩とクエン酸とを組み合わせることによって、所望の発泡性を発揮させながらも、義歯洗浄剤の耐吸湿性、耐潮解性を著しく向上できることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねた結果完成されたものであり、以下に掲げるものである。
【0016】
本発明の義歯洗浄用発泡組成物において発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量は、該組成物中8重量%以下であり、本発明の効果が獲得される限り制限されない。発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量として、義歯洗浄用発泡組成物中に好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは炭酸水素塩は実質的に含有されない。ここで、実質的に含有されないとは本発明の効果に影響を与えない程度に含有されていてもよく、本発明の義歯洗浄用発泡組成物中の発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量が、該組成物中0~1重量%、好ましくは0~0.1重量%が例示される。」
「【0048】
本発明の義歯洗浄用発泡組成物は、目的に応じて任意の形態とすればよい。本発明の義歯洗浄用発泡組成物の形態として、錠剤、粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤等の固形状が例示される。本発明の義歯洗浄用発泡組成物の大きさや形状も、本発明の効果が得られる限り任意に設定すればよい。」
「【0060】
実施例1及び2ならびに比較例1の各組成物について、発泡力を評価した。具体的には、25℃の水75mlを入れた200ml容メスシリンダーに、得られた組成物1錠を静かに投入し、投入5分後の泡の上端と下端をメスシリンダーにマークし、泡の体積を測定した。泡の体積が5ml以上を◎、3ml以上を○、2ml以上を△、2ml未満を×とした。該泡の体積は、発泡剤による二酸化炭素の発生が多ければ増加し、少なければ減少するため、義歯洗浄用発泡組成物の発泡性を定量的に評価することができる。・・・
【0063】
各組成物について試験を3回行った。
・・・
【0065】
【表1】
[図:0001425731000001.jpg]
【0066】・・・実施例1及び2では、良好な発泡力も認められた。」
「【0073】
処方例
以下、処方例に示す組成に従って各成分を混合し、試験例1同様の方法により、錠剤形態の義歯洗浄用発泡組成物を作製したところ、いずれの義歯洗浄用発泡組成物においても耐吸湿性及び耐潮解性に優れ、十分な発泡力が奏された。
【0074】
【表3】
[図:0001425731000002.jpg]
」
(2)甲3の記載
「【背景技術】
【0002】
従来、発泡剤を配合した発泡性洗浄剤は、界面活性剤による化学的洗浄力と発泡作用による物理的洗浄力との相互作用によって優れた洗浄作用を発揮できるため、義歯、メガネ、排水管、シンク、洗濯槽、トイレ、浴槽、ステンレスボトル等の洗浄に広く使用されている。また、発泡性洗浄剤は、錠剤、顆粒剤等の様々な固形状形態に製剤化して提供されているが、これらの形態の中でも、錠剤は、取扱いが容易であり、消費者に広く受け入れられている。」
「【0053】
[剤型・物性]
本発明の発泡性固形状洗浄剤の剤型については、固形状であることを限度として特に制限されないが、例えば、錠剤状、顆粒状が挙げられる。とりわけ、錠剤状の発泡性固形状洗浄剤は、包装時、輸送時、使用時(携帯時)等に割れ・欠け等が生じ易く、高い硬度を有していることが望まれる剤型であることを踏まえると、本発明の発泡性固形状洗浄剤の剤型の好適な例として、錠剤状が挙げられる。」
「【0056】
[洗浄対象・使用方法]
本発明の発泡性固形状洗浄剤の洗浄対象については、特に制限されないが、例えば、義歯、メガネ、排水管、シンク、洗濯槽、浴槽、トイレ、ステンレスボトル等が挙げられる。これらの洗浄対象の中でも、好ましくは義歯である。
【0057】
本発明の発泡性固形状洗浄剤の使用方法は、従来の発泡性固形状洗浄剤の場合と同様である。例えば、義歯やメガネを洗浄対象にする場合であれば、本発明の発泡性固形状洗浄剤を添加した水に、洗浄対象を浸漬させればよい。また、排水管、シンク、洗濯槽、浴槽、トイレ、ステンレスボトル等を洗浄対象にする場合であれば、当該洗浄対象に対して本発明の発泡性固形状洗浄剤を入れ、当該洗浄対象に対して流水又は貯水すればよい。」
「【0075】
【表1】
[図:0001425731000003.jpg]
・・・
【0080】
【表2】
[図:0001425731000004.jpg]
」
(3)甲5の記載
「【請求項3】
水溜りを有する洗浄対象物の前記水溜りとの接触面を洗浄する洗浄方法であって、
水又は水溶液と接触することにより発泡する固形洗浄剤を前記水溜りに投入して発泡させた泡により洗浄し、
前記固形洗浄剤が、炭酸塩及び炭酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の発泡剤、有機酸、界面活性剤並びに増粘剤を含有し、前記水又は水溶液に溶解した時の炭酸ガス濃度が200ppm以上である
ことを特徴とする洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄対象物がトイレ便器であり、前記泡を前記トイレ便器の便器ボウルの縁裏まで到達させることを特徴とする請求項3に記載の洗浄方法。」
「【0005】
しかしながら、種々の取り組みがなされているにも拘わらず、従来の洗浄剤の発泡量は未だ少なく、また、発泡持続時間も短く、所望の洗浄効果を得るには至っていない。特に水洗トイレの便器ボウル部の洗浄においては貯水部や喫水面だけでなく喫水面の上部や便器ボウル部の縁裏まで洗浄することが望まれるが、従来の洗浄剤の発泡量では便器ボウル部の縁裏まで泡を到達させることができず、また、泡も短時間で消えてしまうため、高い洗浄力を保持することができない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、発泡量を多くさせ、且つ発泡持続時間を長くすることのできる固形洗浄剤及び該固形洗浄剤を用いた洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、発泡剤、有機酸及び界面活性剤を含む固形洗浄剤に、更に増粘剤を配合し、固形洗浄剤が水又は水溶液に溶解した時の炭酸ガスの濃度が特定値以上となるように構成した固形洗浄剤が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0035】
本発明の固形洗浄剤の剤型としては特に限定されないが、例えば、粉末剤、粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、分包剤等を挙げることができる。固形洗浄剤に配合される各成分は、固形状であることが好ましく、粉末状、粒状、顆粒状等に成形した各成分を混合した混合物からなる固形洗浄剤がより好ましい。これらの剤型を得るためには、公知の製造方法に従えばよい。」
「【0048】
【表2】
[図:0001425731000005.jpg]
【0049】
表2及び図2の結果から、有機酸としてリンゴ酸を用いた場合、いずれの例においても縁裏までの距離が6cm以下となるまで発泡させることができることがわかった。中でも、300μm以下の平均粒子径を有する例5~8は縁裏までの距離が4cm以下となるまで発泡し、中でも例6は便器ボウルの縁裏となる箇所まで充分な発泡性を有することがわかった。
【0050】
<試験例3>
表3に示す処方に従い各成分を混合し、固形洗浄剤(例10~12)を作製した。
得られた固形洗浄剤を用いて、試験例1と同様に発泡試験を行った。発泡性の評価結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
[図:0001425731000006.jpg]
」
3 取消理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
前記2(1)処方例3(【0073】【0074】【表3】)の記載から、甲1には、
「クエン酸7重量%、炭酸水素ナトリウム6重量%、炭酸ナトリウム1.2重量%、フマル酸6重量%、過硫酸水素カリウム12.9重量%、硫酸水素カリウム6.9重量%、硫酸カリウム9.6重量%、炭酸マグネシウム0.6重量%、シリカ1.5重量%、ソルビトール43.8重量%、ステアリン酸マグネシウム0.5重量%、香料1重量%、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム1重量%、ラウリル硫酸ナトリウム1重量%、及び、ポリエチレングリコール6000を1重量%含む、錠剤形態の義歯洗浄用発泡組成物。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「ラウリル硫酸ナトリウム」及び「ポリエチレングリコール6000」はそれぞれ、本件発明1の「界面活性剤」及び「増粘剤」に相当する。甲1発明は「ポリエチレングリコール6000」を1重量%含むことから、本件発明1の「増粘剤を0.1~3.0質量%含む」を充足する。
甲1発明の「炭酸水素ナトリウム」と「炭酸ナトリウム」は、本件発明1の「発泡剤」に相当し、「クエン酸7重量%、炭酸水素ナトリウム6重量%、炭酸ナトリウム1.2重量%、フマル酸6重量%」を「含む」甲1発明の「組成物」の「発泡剤に対する有機酸の質量比(有機酸/発泡剤)」は、(6+7.2)/7=約0.97である。
また、甲1発明の「錠剤形態の義洗浄用発泡組成物」は、水に投入して発泡させて使用するものであることは明らかであるから、本件発明1の「水又は水溶液に投入して発泡させて使用する、トイレ便器に用いるための固形洗浄剤」と、「水又は水溶液に投入して発泡させて使用する、固形洗浄剤」である点で共通するものである。
したがって、両者は、
「水又は水溶液に投入して発泡させて使用する」「固形洗浄剤であって、
炭酸塩と炭酸水素塩とを含む発泡剤、有機酸、界面活性剤及び増粘剤を含有し、」
「前記炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、前記炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムであり、前記有機酸がクエン酸を含み、
前記増粘剤を0.1~3.0質量%含むことを特徴とする固形洗浄剤。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、有機酸がクエン酸であり、炭酸水素ナトリウムを8質量%以上含み、発泡剤に対する有機酸の質量比(有機酸/発泡剤)が1.0~2.5であるのに対し、甲1発明は、有機酸がクエン酸とフマル酸であり、炭酸水素ナトリウムを6重量%含有し、発泡剤に対する有機酸の質量比(有機酸/発泡剤)が0.97である点。
<相違点2>
本件発明1は、固形洗浄剤が「トイレ便器に用いるための」ものであるのに対し、甲1発明は「義歯」洗浄用である点。
イ 判断
(ア) 相違点1について
前記2(1)のとおり、甲1には「発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量を8重量%以下とし、更に、炭酸塩とクエン酸とを組み合わせることによって、所望の発泡性を発揮させながらも、義歯洗浄剤の耐吸湿性、耐潮解性を著しく向上できることを見出した。」と記載され(【0008】)、「本発明の義歯洗浄用発泡組成物において発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量は、該組成物中8重量%以下であり、本発明の効果が獲得される限り制限されない。発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量として、義歯洗浄用発泡組成物中に好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは炭酸水素塩は実質的に含有されない。」(【0016】)と記載されている。
甲1は、義歯洗浄剤の耐吸湿性、耐潮解性を著しく向上させることを解決しようとする課題とするものであり、炭酸水素塩の含有量を8重量%以下、更に好ましくは実質的に含有されないものとすることを記載するものである。甲1の「8重量%以下」との特定は、「8重量%」という1点において本件発明1と重複するものであるが、炭酸水素ナトリウム塩を6重量%含む甲1発明について、甲1の記載に基づいて炭酸水素ナトリウム塩の含有量を8重量%以上とすることを当業者が容易に想起したとはいえない。
また、甲1には、甲1発明において有機酸をクエン酸のみとし、炭酸水素ナトリウム塩と炭酸ナトリウムに対するクエン酸の質量比を1.0~2.5とすることは記載されておらず、そのような組成とすることを示唆する記載もない。甲3及びその他いずれの証拠も、甲1発明において、有機酸をクエン酸のみとし、炭酸水素ナトリウム塩と炭酸ナトリウムに対するクエン酸の質量比を1.0~2.5とすることを記載ないし示唆するものではない。
そして、本件明細書には、本件発明1の特定事項を満たす実施例14の組成物は、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムのみを含む比較例1、2と比較して、水温が10℃と25℃の双方において泡立ちが優れていること、及び、本件発明1の特定事項を満たす実施例22は、有機酸/(炭酸ナトリウム+炭酸水素ナトリウム)が0.96及び3.00である比較例3及び4と比較して、水温が10℃と25℃の双方において泡立ちが優れていることが記載されており、本件発明1の構成により奏される効果を当業者が予測し得たということもできない。
(イ) 甲1の記載について
甲1(【0073】【0074】【表3】)には、甲1発明に加えて以下の処方例も記載されている。
「処方例4
クエン酸7重量%、炭酸水素ナトリウム6重量%、炭酸ナトリウム2重量%、フマル酸6重量%、過硫酸水素カリウム12.9重量%、硫酸水素カリウム6.9重量%、硫酸カリウム9.6重量%、炭酸マグネシウム0.6重量%、シリカ1.5重量%、ソルビトール43重量%、ステアリン酸マグネシウム0.5重量%、香料1重量%、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム1重量%、ラウリル硫酸ナトリウム1重量%、及び、ポリエチレングリコール6000を0.6重量%含む、錠剤形態の義歯洗浄用発泡組成物。」(以下「甲1発明2」という。)
甲1発明2も甲1発明同様「炭酸水素ナトリウム」を「6重量%」含み、「フマル酸」を6重量%含むものであるから、前記(ア)同様の理由から、甲1発明2及び甲3の記載に基づいて当業者が本件発明1を容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1及び甲3の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3)本件発明2~4及び6について
本件発明2~4は、本件発明1にさらに特定事項を付加するものであるから、前記(2)と同様の理由から、甲1に記載された発明及び甲1、甲3及び甲5の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
本件発明6は、本件発明1同様に、有機酸がクエン酸であり、炭酸水素ナトリウムを8質量%以上含み、発泡剤に対する有機酸の質量比(有機酸/発泡剤)が1.0~2.5であることを特定事項とするものであるから、前記3と同様の理由から、甲1に記載された発明及び甲1、甲3及び甲5の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(4)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、令和6年12月25日提出の意見書において、以下のとおり主張する。
(ア) 甲1には、義歯洗浄用発泡組成物がクエン酸を含有すること、及び、炭酸水素ナトリウムを8重量%以下とすること(請求項1、【0008】)が記載されている。甲1の請求項2~4の記載に基づき、たとえば、甲1で炭酸水素塩の含有量を8重量%とした上で、炭酸塩の含有量を0.5~4重量%、クエン酸の含有量を8.5~12重量%に調整した場合に、有機酸/発泡剤が1.0~2.5を満たす。
(イ) 特許権者は、炭酸水素塩の含有量が8質量%以下であることが特定される甲1に対し、炭酸化合物(発泡剤)を20重量%(以上)含有する発泡性固形洗浄剤が開示される甲3または甲5を組み合わせる動機付けはないと主張するが、甲3には炭酸化合物に炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウム(合議体注:炭酸水素ナトリウムの誤記と思われる)の両方が含まれる場合の炭酸水素ナトリウムの含有量については何ら記載されておらず、この点は甲5も同じであるから、特許権者の上記主張は失当である。
(ウ) 甲1の義歯洗浄剤からトイレの洗浄への用途変更に伴い、発泡剤の含有量について甲1に記載の数値範囲よりも広い範囲を含めて試行することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
イ 検討
(ア) 前記ア(ア)の主張について
甲1の請求項2~4には、「クエン酸及び/またはその塩1重量部に対して炭酸塩を0.1~50重量部含有する」、「クエン酸及び/またはその塩の含有量が1~12重量%である」及び「炭酸塩の含有量が0.5~50重量%である」と記載されるにすぎず、甲1の記載に接した当業者が、申立人が例示する組成の組み合わせとすることを想起したとはいえない。
(イ) 前記ア(イ)の主張について
前記(2)のとおり、甲1には「発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量を8重量%以下とし、更に、炭酸塩とクエン酸とを組み合わせることによって、所望の発泡性を発揮させながらも、義歯洗浄剤の耐吸湿性、耐潮解性を著しく向上できることを見出した。」と記載され(【0008】)、「本発明の義歯洗浄用発泡組成物において発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量は、該組成物中8重量%以下であり、本発明の効果が獲得される限り制限されない。発泡剤として含有される炭酸水素塩の含有量として、義歯洗浄用発泡組成物中に好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは炭酸水素塩は実質的に含有されない。」(【0016】)と記載されている。
甲1は、義歯洗浄剤の耐吸湿性、耐潮解性を著しく向上させることを解決しようとする課題とするものであり、炭酸水素塩の含有量を8重量%以下、更に好ましくは実質的に含有されないものとすることを記載するものであるから、甲1の記載に接した当業者が甲3及び甲5の記載をもって、炭酸水素ナトリウムの含有量を20重量%(以上)とすることを動機付けられたとはいえない。
(ウ) 前記ア(ウ)の主張について
甲1には前記(イ)の記載がなされており、義歯にかえてトイレを洗浄するために使用することを記載ないし示唆するものでもないから、申立人の主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~4及び6は、甲1に記載された発明、並びに、甲1、甲3及び甲5の記載等に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
4 理由2(サポート要件)について
(1) 前提
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件発明の課題について
本件明細書の【0006】の記載から、本件発明は、水温が低い、具体的に15℃以下の低温の水に対して使用した場合であっても、発泡量が低下することなく多くの泡を発生させることのできる固形洗浄剤の提供を解決しようとする課題とするものであると認められる。
(3) 検討
本件明細書の【表1】~【表3】には、有機酸としてクエン酸を用いた実施例1~22と比較例1~3と、有機酸としてリンゴ酸を用いた比較例4及び5が記載されている。本件明細書の【0013】に「発泡剤は、水中で後述の有機酸と反応して炭酸ガスを発生させる成分である。」と記載されるように、発泡剤と反応させる有機酸のモル濃度や価数等が発泡に影響することは本願出願時の技術常識から明らかであるところ、前記本件明細書の【表1】~【表3】の実施例及び「有機酸/(炭酸ナトリウム+炭酸水素ナトリウム)」との記載から、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の特定事項を満たす組成物が、前記(2)の課題を解決することが開示されていると認められる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
本件発明2~4及び6も同様の理由から、発明の詳細な説明に記載された発明である。
第6 取消理由で採用しなかった申立理由について
1 申立理由2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について
甲2の2頁右下欄下から4行~3頁左上欄11行には、「炭酸塩としては、例えば・・・炭酸ナトリウム、・・・炭酸水素ナトリウム・・・などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。」と記載されるものの、具体的には実施例として、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、または、炭酸ナトリウムをそれぞれ単独で配合したものが記載されるのみである。また、甲2の請求項1には「炭酸塩と水溶性固体酸との重量比が0.25:1ないし4:1の範囲」との記載があるが、これらの記載及び甲3~5及び甲1の記載をもって、甲2に基づき、炭酸水素ナトリウム8質量%以上と炭酸ナトリウムを含み、クエン酸/発泡剤の質量比を1.0~2.5とすることを当業者が容易に想起したとはいえない。
そして、本件明細書の比較例1及び2と実施例14を対比すると、本件明細書には、炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの両方を用いることにより、泡立ちが改善したことが記載されており、このような効果は、当業者が予測しえたともいえない。
したがって、申立理由2は採用できない。
2 申立理由3(拡大先願)について
甲6には、実施例として、無水クエン酸37.33重量%と炭酸水素ナトリウム48.97%とαオレフィンスルホン酸ナトリウムとラウリルスルホ酢酸ナトリウムとジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含み、ポリビニルアルコール製の水溶性フィルムを袋状に加工した水溶性包装材に収納された発泡性洗浄剤が記載されている。当該実施例の有機酸/発泡剤の質量比は、約0.76であるから1.0~2.5の範囲外である。
甲6の【0056】の「本発明で使用される洗浄組成物は、前述する成分に加えて、炭酸塩、及び/又は炭酸水素塩と炭酸塩の複塩(「(F)成分」と表記することもある)が含まれていてもよい。炭酸塩、及び/又は炭酸水素塩と炭酸塩の複塩を含むことにより、発泡量の更なる増大を図ることができる。」との記載をもって、甲6に、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを組み合わせ、クエン酸/発泡剤の質量比が1.0~2.5である組成物の発明が記載されていたとはいえない。また、甲1の「収納された発泡性洗浄剤」との記載から水溶性包装材が「固体洗浄剤」に相当するとも、包装材で用いられるヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性フィルムが「固形洗浄剤」に「含有」されるものともいえない。
したがって、申立理由3は採用できない。
3 申立理由4(実施可能要件違反)について
(1)本件発明1~3は固形洗浄剤という物の発明である。固体洗浄剤の投入量、水溶液中の濃度、及び、界面活性剤をオレフィンスルホン酸塩とすることが特定されていなくとも、当業者は本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本件発明1~3の固形洗浄剤を製造し、使用できると認められる。
本件発明1~3の固形洗浄剤を使用する洗浄方法に係る本件発明4も、固体洗浄剤の投入量、水溶液中の濃度、及び、界面活性剤をオレフィンスルホン酸塩とすることが特定されていなくとも、当業者は本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて実施できると認められる。
さらに、低温時における固形洗浄剤の発泡量を向上させる方法に係る本件発明6について、本件明細書の段落【0030】~【0034】には、界面活性剤として様々なものを配合でき、含有量が少なすぎると泡の発生が少なく、発泡持続時間も短くなることが記載され、実施例としてα―オレフィンスルホン酸以外の界面活性剤を使用することも記載されていることから、本件発明6も、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて実施できると認められる。
(2)本件明細書の段落【0024】には、有機酸の粒子径は特に限定されないが、水中での溶解性及び発泡性の観点から、使用する有機酸によって適切な粒子径を選択して使用できることが記載されていることから、本件明細書の記載に接した当業者は、溶解性や発泡性を考慮して適切な粒子径の有機酸であるクエン酸を使用できると認められることから、本件発明2にクエン酸の粒子系の定義及び測定方法が規定されていないことをもって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないということはできない。
したがって、申立理由4も採用できない。
4 申立理由5(サポート要件違反)について
本件発明1~4及び6が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、前記第5 2において検討したとおりである。
(1)本件明細書の段落【0030】~【0034】には、界面活性剤として様々なものを配合でき、含有量が少なすぎると泡の発生が少なく、発泡持続時間も短くなることが記載され、実施例としてα―オレフィンスルホン酸以外の界面活性剤を使用することも記載されていることから、本件発明1~4及び6において界面活性剤の種類等が特定されていないことをもって、本件発明1~4及び6がサポート要件を満たさないとはいえない。
(2)本件明細書の段落【0024】に、有機酸の粒子径は特に限定されないが、水中での溶解性及び発泡性の観点から、使用する有機酸によって適切な粒子径を選択して使用できることが記載されていることを踏まえると、本件発明2に有機酸であるクエン酸について、粒子系の定義及び測定方法が規定されていないことをもって、本件発明2はサポート要件を満たさないともいえない。
(3)本件明細書の段落【0028】には、有機酸を発泡剤と同量かそれよりも多く含有させることにより、十分な発泡量を保ちつつ、水温が15℃以下の水で使用した場合でも、発泡量が低下することがないこと、及び、有機酸/発泡剤が2.5以下であると、pHを3.0~8.0の範囲に保ち、発泡剤を効率良く溶解させることができることが記載され、実施例として1.29~1.44以外の比率のものも記載されていることから、有機酸/発泡剤が1.0~2.5であることをもって、本件発明1~4及び6は、発明の課題を解決できないとはいえない。
(4)本件明細書の段落【0037】には、増粘剤は泡を安定化させることが記載されており、当該性質は本願出願時の技術常識であることからも、実施例で配合された増粘剤の含有量が一定の数値範囲であったことをもって、本件発明1~4及び6が本件発明の課題を解決できないとはいえない。
(5)泡を便器ボウルの縁裏まで到達させることを特定事項とする本件発明5は削除されたため、前記第4 5(5)の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、申立理由5も採用できない。
5 申立理由6(明確性要件)について
請求項2で特定される粒子径を有する有機酸の入手方法や調整方法が不明なことをもって、本件発明2の記載が不明確とはいえない。
また、粒子径はその定義や測定方法によらず常に完全に一致するものではないとしても、本件明細書の段落【0024】に、有機酸の粒子径は特に限定されないが、水中での溶解性及び発泡性の観点から、使用する有機酸によって適切な粒子径を選択して使用できると記載されるように、本件発明2の有機酸の粒子径の厳密な数値範囲が本件発明2において技術的意義において重要といった事情も認められないことから、有機酸の粒子径の厳密な定義や測定方法が特定されていないことをもって、本件発明2は、第三者に不測の不利益をもたらす程不明確ということはできない。
したがって、申立理由6も採用できない。
6 小括
以上のとおりであるから、申立人の前記主張はいずれも採用できない。
第7 むすび
前記第5及び第6のとおり、本件特許の請求項1~4及び6に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1~4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項5は削除され、請求項5に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700338