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特許訂正審判

2024-390013

緑化土嚢袋、それを用いた緑化土嚢の形成方法並びに土留および緑化の方法

審判番号
2024-390013
法域
特許
審判種別
訂正審判(訂正の審決)
出願番号
特願2015-025196
登録番号
6625327
請求日
2024年01月30日
審決日
2024年05月13日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【請求人】日本植生 株式会社
  • 【請求人代理人】藤本 英夫
  • 【請求人代理人】西村 幸城
  • 【請求人】株式会社 テザック
  • 【請求人代理人】藤本 英夫
  • 【請求人代理人】西村 幸城
審判長/審判官
  • 審判長 居島 一仁
  • 審判官 有家 秀郎
  • 審判官 土屋 真理子
分類
P141 .841-Y (E02D) / P141 .851-Y (E02D) / P141 .856-Y (E02D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第126条、特許法第29条、特許法第2条、特許法第30条、特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6625327号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第6625327号の特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6625327号の請求項1ないし5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成26年5月12日(以下、「優先日」という。)に出願された特願2014-98240号(以下、「先の出願」という。)を基礎として優先権を主張(以下、「優先権主張」という。)し、平成27年2月12日に出願されたものである。 先の出願及び本件出願は、特許法30条2項に係る新規性の喪失の例外の規定を受けようとする特許出願であり、平成26年4月23日に日本植生株式会社のウェブサイトで行われた公開(以下、「ウェブサイトにおける公開」という。)、及び、平成26年4月17日に第50回国土環境緑化協会合同支部総会で行われた公開(以下、「合同支部総会における公開」という。)について、証明書が提出されている。なお、上記証明書には、合同支部総会における公開の開催場所として、「日本植生株式会社総合研究圃場」と記載されている。 本件特許について、令和元年12月6日に、その特許権の設定登録がなされ、その際に上記優先権主張が認められるとともに、上記ウェブサイトにおける公開及び上記合同支部総会における公開について、新規性の喪失の例外の規定の適用が認められている。 その後、令和6年1月30日に訂正審判の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年3月4日に上申書が提出された。 第2 訂正請求の趣旨 特許第6625327号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。 第3 訂正事項 本件訂正審判の請求に係る訂正事項は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 [訂正事項1] 特許請求の範囲の請求項1に「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された袋本体」とあるのを、「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された側面部と、円形または矩形の底部とを備える袋本体」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する)。 [訂正事項2] 特許請求の範囲の請求項1に「内部に土砂を投入することにより自立可能な土嚢を形成できるように構成され、」とあるのを、「開口部から内部に土砂を投入することにより、前記開口部に対向する前記底部を下面として自立可能な土嚢を形成できるように構成され、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する)。 第4 当審の判断 1 訂正事項1について (1)訂正の目的について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明における、「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された袋本体」について、「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された側面部と、円形または矩形の底部とを備える袋本体」であることを限定する、訂正事項である。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法126条1項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)新規事項の追加の有無について 願書に添付した明細書の段落【0009】には、「袋本体は例えば円形又は矩形の底部と、この底部の外周に連設された側面部を有する形状であり、」と記載されている。また、願書に添付した明細書の段落【0025】には、「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて袋状に縫合して形成された袋本体3と、」と記載され、段落【0026】には、「前記袋本体3は、例えば、フラットヤーンクロス等の強度の高い合成樹脂製の布材からなる直径1.1mの略円形の底部10と、この底部10の外周10aに縫合されることにより高さ1.1mの円筒状の側面部を形成する袋用ネット11と、」と記載されている。 そうすると、「袋本体」が「円形又は矩形の底部」と「側面部」とを備え、「側面部」が「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネット」で「形成」されることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法126条5項の規定に適合する。 (3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1に係る訂正は、上記(1)に示したとおり、訂正前の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明について減縮を行うものであり、各発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法126条6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 訂正事項1に係る訂正により、請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明は減縮が行われているところ、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法126条7項に規定する、いわゆる独立特許要件を満たすか否かについては、請求項1について訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正がされていることも踏まえて、後記3において判断する。 2 訂正事項2について (1)訂正の目的について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明における「緑化土嚢袋」が、「内部に土砂を投入することにより自立可能な土嚢を形成できるように構成され」ている点について、「内部に土砂を投入する」のは「開口部から」であることを限定するとともに、上記「土砂を投入」することにより「自立可能」となる際には、「前記開口部に対向する前記底部を下面として」自立可能となることを限定する、訂正事項である。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法126条1項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)新規事項の追加の有無について 願書に添付した明細書の段落【0029】には、「図2において、20は緑化土嚢袋1の開口部1aを広げて吊り下げた状態で保持する平面視略コ字状の支持枠、21はこの支持枠20の開いた側から土砂22を投入する油圧ショベルなどの重機」と記載されており、「緑化土嚢袋」への「土砂」の「投入」が行われるのが、支持枠により広げて吊り下げられた「開口部」からであることは、願書に添付された明細書等に記載された事項である。 また、上記段落【0029】の記載のように、「緑化土嚢袋1の開口部1aを広げて吊り下げた状態」で「土砂を投入」することにより、「緑化土嚢袋1」が自立可能となる際の姿勢が、「開口部1a」に対向する「底部10」を下面とした姿勢となることは、願書に添付した図面の【図2】及び【図3】から、看取される事項である。 そうすると、訂正事項2により限定された構成は、願書に添付した明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 よって、訂正事項2に係る訂正は、特許法126条5項の規定に適合する。 (3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項2に係る訂正は、上記(1)に示したとおり、訂正前の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明について減縮を行うものであり、各発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法126条6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 訂正事項2に係る訂正により、請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明は減縮が行われているところ、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法126条7項に規定する、いわゆる独立特許要件を満たすか否かについては、請求項1について訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正がされていることも踏まえて、後記3において判断する。 3 本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明の独立特許要件について (1)本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明 上記1(1)及び2(1)のとおり、請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明は、訂正事項1及び訂正事項2により、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされているから、本件訂正が認められるか否かを判断するうえでは、本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、上記1(4)及び2(4)のとおり、特許法126条7項に規定するいわゆる独立特許要件を満たすか否かを、判断することとなる。 本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、訂正請求書に添付した特許請求の範囲における請求項1ないし5の記載により特定されるものであり、その構成は以下のとおりである。 <本件訂正発明1> A 植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された側面部と、円形または矩形の底部とを備える袋本体、および、 B 植物が通芽可能な目合いを有する基材ネットまたは基材ネットと植物の通芽が可能なシートからなり前記袋本体の内側面に沿うように配置させた基布の内側面に植物種子を分散保持させた植生シートを備えるとともに、 C 前記袋本体は吊り上げ用の吊りベルトを備え、 D 開口部から内部に土砂を投入することにより、前記開口部に対向する前記底部を下面として自立可能な土嚢を形成できるように構成され、 E 前記植生シートは袋本体の開口縁部においてのみ、脱落可能に固定してある F ことを特徴とする緑化土嚢袋。 <本件訂正発明2> G 前記植生シートは、植物種子の内側面を覆うように植物が通根可能な保護シートを固着してなる H 請求項1に記載の緑化土嚢袋。 <本件訂正発明3> I 請求項1または請求項2に記載の緑化土嚢袋を用いた緑化土嚢の形成方法であって、 J 重機を用いて土砂を投入する際に、前記植生シートに過大な力がかかるときには、袋本体の開口縁部においてのみ脱落可能に固定してある固定箇所から植生シートが脱落し、それにより植生シートの捩れや皺等による変形が生じにくくなることを特徴とする K 緑化土嚢の形成方法。 <本件訂正発明4> L 請求項1または請求項2に記載の緑化土嚢袋を用いた緑化土嚢の形成方法、あるいは請求項3に記載の緑化土嚢の形成方法であって、 M 土砂の投入が完了した後、前記袋本体に固定した前記植生シートとは別の植生シートを当該袋本体の開口部に被せることを特徴とする N 緑化土嚢の形成方法。 <本件訂正発明5> O 請求項1~請求項2のいずれか一項に記載の緑化土嚢袋を用いて形成された緑化土嚢、または請求項3~請求項4のいずれか一項に記載の緑化土嚢の形成方法により形成された緑化土嚢を、 P 吊ベルトを介して吊り上げて法面の所定の位置または河川堤防の所定の位置に設置することを特徴とする Q 土留および緑化の方法。 上記構成AないしQの分説は当審において付し、本件訂正発明1及び2における上記構成AないしHの分説については、後記別件侵害訴訟における原告及び被告の主張中で、本件訂正前の請求項1及び2における構成について用いられた構成「3A」ないし「3H」の分説と、アルファベットの部分を整合させた。 なお、上記構成A及び構成Dは、訂正事項1及び訂正事項2により、本件訂正前の構成「3A」及び構成「3D」から限定された構成であり、構成B、構成C及び構成E~Qは、本件訂正の前後において変更がない。 (2)別件侵害訴訟における無効の抗弁の概要 本件特許に関し、大阪地方裁判所において意匠権等侵害差止請求事件(令和5年(ワ)第2668号)(以下、「別件侵害訴訟」という。)が係属中であり、別件侵害訴訟においては、本件特許について、特許無効の抗弁がされている。 審判請求人により令和6年3月4日に提出された上申書(以下、「上申書」という。)に添付された、別件侵害訴訟における原告及び被告の準備書面の抜粋、及び関連する証拠によれば、本件特許について、特許無効の抗弁の理由は、概略、次のものである。 なお、上申書に添付して提出された別件侵害訴訟における証拠について、「乙第3号証」等の表記を、以下ではそのまま用いる。 ア 無効の抗弁の理由1 特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」による、新規性欠如 イ 無効の抗弁の理由2 乙第3号証(特開2006-45889号公報)を主たる引用例とした進歩性欠如 ウ 無効の抗弁の理由3 サポート要件違反 エ 無効の抗弁の理由4 特許権者の土嚢袋「メデルF」を主たる引用例とした進歩性欠如 そこで、本件訂正発明1ないし5が独立特許要件を満たすかに関し、別件侵害訴訟における無効の抗弁の理由1ないし4を考慮した際に、本件訂正発明1ないし5が独立特許要件を満たさないこととなるか否かを、以下において判断する。 (3)無効の抗弁の理由1について ア 無効の抗弁の理由1の概要 別件侵害訴訟における無効の抗弁の理由1の概要は、次のものである(別件侵害訴訟における被告準備書面(2)の第4頁-第35頁、及び被告準備書面(4)の第4頁-第17頁における、「無効理由1」に関する主張)。 (ア)「メガ・メデル」の構成 特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」は、本件特許の請求項1及び請求項2に係る構成を充足する(上記被告準備書面(2)の13頁-第21頁「4 「メガ・メデル」が本件特許発明の実施品に当たること」)。 (イ)「メガ・メデル」の販売、公表、施工、及び営業活動 a 「メガ・メデル」の販売 特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」は、乙第1号証の新聞記事における「4月の発売以来」という記載、乙第23号証の「いさぼう工法ニュース」における「4月の発売以後」という記載、及び、乙第12号証における平成26年4月23日付けの特許権者のWebサイトにおける告知の内容より、遅くとも本件特許出願の優先日前の平成26年4月23日には販売の開始がされている。そして、上記「メガ・メデル」の販売については、新規性の喪失の例外の規定の適用が申請されていない(上記被告準備書面(2)の第5頁-第8頁「ア 「メガ・メデル」の販売開始」及び「エ 平成26年4月23日付けの原告Webサイトにおける「メガ・メデル」販売開始の告知」)。 b 「メガ・メデル」の公表 乙第11号証の新聞記事に示されるとおり、本件特許出願の優先日前の平成26年4月17日に、特許権者の総合研究圃場がマスコミ関係者に公表されており、特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」についても、同総合研究圃場の公表により、公開され公知となっている可能性が高い。そして、かかるマスコミ関係者への公表については、新規性の喪失の例外の規定の適用が申請されていない(上記被告準備書面(2)の第7頁-第8頁「ウ 平成26年4月17日付けのマスコミ関係者への公表」)。 c 「メガ・メデル」の施工、及び施工前の営業活動 特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」について、被告代理人が確認することができた最先の施工時期である、島根県における施工時期は平成26年5月であり、本件特許出願の優先日である平成26年5月12日との先後関係は明らかでない。しかし、島根県の施工業者が「メガ・メデル」の採用を決定し施工する前に、特許権者の新製品である「メガ・メデル」について売り込みを行っていることは、営業活動としてごく当然のことであるから、特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」は、本件特許の優先日前に、公知となっていた、又は公然と実施されていたものである(上記被告準備書面(2)の第13頁「(3)小括(「メガ・メデル」が本件特許出願の優先日以前に公知となっていたこと、又は公然と実施されていたこと」)。 (ウ)小括 上記(ア)及び(イ)より、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許法29条1項1号又は2号に該当する。 イ 無効の抗弁の理由1により、本件訂正発明1が独立特許要件を満たさないこととなるか否か (ア)「メガ・メデル」の構成 別件侵害訴訟における原告準備書面(6)の第15頁第12行~第15行には、次のとおり記載されている。 「第2 無効理由1について 1 訂正後の本件特許発明と無効理由1の関係について 島根県での施工実績(乙17の1)に用いられた原告土嚢袋が、訂正後の本件特許発明の実施品であることについては争わない。」 上記記載より、特許権者は、特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」が本件訂正発明1の構成AないしFに相当する構成を有することを認めているから、当該「メガ・メデル」の構成の認定はできないものの(関連証拠が提出されていないため。)、以下検討する。 (イ)「メガ・メデル」の販売、公表、施工、及び営業活動 a 「メガ・メデル」の販売 「メガ・メデル」の販売に関し、特許権者が主張する最初の販売は、甲第45号証の「納品書」に示される2014年5月16日であって(上記別件侵害訴訟における原告準備書面(4)第3頁-第5頁「(1)乙17の1の原告土嚢袋の販売日(出荷日)について」)、本件特許出願の優先日である平成26年5月12日より後である。 乙第1号証の新聞記事、及び乙第23号証の「いさぼう工法ニュース」は、「メガ・メデル」に関し「4月の発売」という記載を有するにとどまり、「メガ・メデル」について、平成26年4月に実際に販売がされて、特許法2条3項1号にいう「譲渡」がされた状態となったことを示すものではない。また、上申書に添付されたその余の証拠を検討しても、「メガ・メデル」について、優先日前に実際に販売がされ、特許法2条3項1号にいう「譲渡」がされた状態となったことを示す客観的な証拠はない。 実際の販売に先立つ、販売の申出について検討すると、平成26年4月23日付けの特許権者のWebサイトによる販売の告知等については、特許法30条2項に係る新規性の喪失の例外の適用が認められたウェブサイトにおける公開であるから、当該ウェブサイトにおける公開によって、「メガ・メデル」が有する構成に関し、本件訂正発明1が特許法29条1項各号に該当するものではない。 そして、上申書に添付されたその余の証拠を検討しても、上記ウェブサイトにおける公開とは別途に、「メガ・メデル」について、特許法2条3項1号にいう「譲渡等の申出」に当たる販売の申出が、本件訂正発明1の構成AないしFに相当する具体的構成を示す形で、優先日前に実際に行われたことを示す客観的な証拠はない。 b 「メガ・メデル」の公表 乙第11号証の新聞記事で言及される、平成26年4月17日に行われた特許権者の総合研究圃場の公開は、特許法30条2項の適用が認められた合同支部総会における公開と、日付及び開催場所が一致しているから、同合同支部総会における公開によって、「メガ・メデル」が有する構成に関し、本件訂正発明1が特許法29条1項各号に該当するものではない。 乙第11号証自体は、上記合同支部総会の翌日の新聞記事であるところ、「メガ・メデル」が有する構成等を具体的に示すものではないから、乙第11号証によって「メガ・メデル」の構成が優先日前に公表されたこととはならない。 そして、上申書に添付されたその余の証拠を検討しても、上記合同支部総会による公開、及び上記aで言及した上記ウェブサイトによる公開とは別途に、「メガ・メデル」について、本件訂正発明1の構成AないしFに相当する「メガ・メデル」の具体的構成を示す形で、優先日前に公開または公表がされたことを示す客観的な証拠はない。 c 「メガ・メデル」の施工、及び施工前の営業活動 「メガ・メデル」の施工に関し、特許権者が主張する実際の施工日は、平成26年6月3日であって(上記別件侵害訴訟における原告準備書面(4)第3頁-第5頁「(1)乙17の1の原告土嚢袋の販売日(出荷日)について」)、本件特許出願の優先日である平成26年5月12日より後であるところ、上申書に添付された証拠を検討しても、「メガ・メデル」について、優先日前に実際に施工が行われたことを示す客観的な証拠はない。 「メガ・メデル」に関し、施工前の営業活動として、特許法2条3項1号にいう「譲渡等の申出」に当たる営業活動が、上記aに検討した上記ウェブサイトによる公開、及び上記bに検討した上記合同支部総会による公開とは別途に、本件訂正発明1の構成AないしFに相当する具体的構成を示す形で、実際に優先日前に行われたことを示す客観的な証拠はない。 (ウ)小括 上記(イ)のとおり、「メガ・メデル」の構成のいかんにかかわらず、本件訂正発明1について、特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」によって、特許法第29条1項1号又は2号に該当するということはできない。 したがって、本件訂正発明1は、無効の抗弁の理由1によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 ウ 無効の抗弁の理由1により、本件訂正発明2ないし5が独立特許要件を満たさないこととなるか否か 本件訂正発明2ないし5のいずれも、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」の発明であるか、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」を用いることを要する方法の発明であるところ、上記イで判断したとおり、本件訂正発明1は無効の抗弁の理由1に係る特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」によって新規性が否定されるものではないから、本件訂正発明2ないし5についても、特許権者の土嚢袋「メガ・メデル」によって新規性が否定されるものではない。 したがって、本件訂正発明2ないし5は、無効の抗弁の理由1によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 (4)無効の抗弁の理由2について ア 無効の抗弁の理由2の概要 別件侵害訴訟における無効の抗弁の理由2は、次のものである(別件侵害訴訟における被告準備書面(2)の第22頁-第35頁、及び被告準備書面(4)の第21頁-第35頁における「無効理由2」に関する主張)。 本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された以下の刊行物1乃至4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許法第29条2項の規定により、特許を受けることができない。 <刊行物一覧> 刊行物1: 特開2006-45889号公報(乙第3号証) 刊行物2: 特開2013-11075号公報(乙第32号証) 刊行物3: 特開平8-56479号公報(乙第33号証) 刊行物4: 実願昭51-64289号(実開昭52-154004号)のマイクロフィルム(甲第22号証) (上記刊行物4について、別件侵害訴訟における被告準備書面(2)の第22頁には、「刊行物4: 実開昭52-154004号公報(甲22)」と表記されているが、甲第22号証として提出された刊行物は実用新案のマイクロフィルムの全文であるから、当審において表記を修正した。) なお、上記刊行物4を補助する技術常識として、特許権者の土嚢袋「メデルF」が挙げられており、特許権者は「メデルF」が本件特許の優先日前に販売されたことを認めている(別件侵害訴訟における被告準備書面(4)の第21頁-第35頁、及び、原告準備書面(6)の第1頁下から4行「メデルFが本件特許出願の優先日以前に販売されたことは認める。」)。 イ 無効の抗弁の理由2により、本件訂正発明1が独立特許要件を満たさないこととなるか否か (ア)刊行物等について a 刊行物1 (a)刊行物1の記載 刊行物1には、次の記載及び図示がある(下線は、当審において付した。以下、同様。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、法面を構築する際に使用される土嚢用袋に関するもので、法面を形成する土嚢の正面部にメッシュ生地を用いたことを特長とするものである。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 以上のことから、本発明が解決しようとする課題は、法面を形成する土嚢用袋自体に、法面の植生を促進するような構造を具えさせることにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 そこで本発明は、上記の課題を解決するために、底面部の周縁上に、正面部、背面部、左右の両側面部との四周面部を一連に連続させて、中空の立方体形状に形成した法面構築用の土嚢用袋において、上記正面部を形成する生地に、織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地を用いたことを特徴とする土嚢用袋を提供するものである。 【0007】 上記のように形成した本発明の土嚢用袋は、例えば、2枚の薄い不織布のような基材の間に種子と肥料と好ましくは若干の耕土を挟んで、この基材を正面部の裏面に添わせて袋内に然るべき土壌を収容した後、メッシュ生地で形成されている正面部を表側に向けて法面の横方向と縦方向とに積み並べ、積み重ねるように使用する。 メッシュ生地で形成されている正面部は、他側面部に比べて通水性、通気性とに優れているので植物の育成に好適する法面を形成する。 【発明の効果】 【0008】 本発明に係る土嚢用袋は、正面部を織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地で形成したので、袋内に収容する土壌が搬送の途中とか構築の際に該正面部から袋外にこぼれ落ちることを防止できる。 なお、上面は開放されているので、本発明に係る土嚢を図7に示すように、法面Nに沿って斜めに上下に積み重ねた場合に、上段の袋の底部1との間に下段の袋の上面が前にでて、僅かに露呈する袋の上面からも植物の発芽と育成が促進されることになるが、当該部分の形成については、本発明に係る土嚢の使用例であって発明の構成要件には含まれない。また、前記従来例のようにして袋の口を閉鎖する構造にするか否かは任意である。 【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 底面部の周縁上に、正面部、背面部、左右の両側面部とからなる四周面部を一連に連続させて、中空の立方体形状に形成した法面構築用の土嚢用袋であって、上記正面部を形成する生地に、織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地を用いたことを特徴とする土嚢用袋。 【実施例】 【0010】 図面は本発明の実施例を示すもので、図1は、本発明に係る土嚢用袋の実施例1の斜視図、図2は、底部周辺と側面と底面とに備える補強ベルトの数を増減させた実施例2の正面図、図3は、実施例2の背面図、図4は、実施例2の平面図、図5は、実施例2の側面図、図6は、実施例2の底面図、図7は、本発明に係る土嚢用袋を用いた施工の一例を示す模示図である。 【0011】 実施例1、実施例2において、1は正方形に裁断された底面部、2は正面部、3は正面部2に対向する背面部、4は正面部2と背面部3を連続する左右の両側面部である。 この土嚢用袋5は、底面部1の周縁上に上記四周面2、3、4を一連に連続させて、中空の立方体形状に形成されている。 【0012】 正面部2を形成する生地には、織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地が用いられ、その他の部分には、丈夫で目の詰んだ通常の布地が用いられている。 正面部2を形成するメッシュの大きさは、2~3mm角を多少上回るか下回っても良いが、袋内に収容する土壌がこぼれ落ちない程度で、かつ、通水性と通気性を具えた大きさが好ましい。 【0013】 なお図中、5は、互いに適宜の間隔を有して底面部1、四周面部2、3、4に縫い付けた補強ベルト、6は、底面部1、左右の両側面部3、4に縫い付けられて上部に環状を形成する2本の吊下げベルト、5’は、吊下げベルト6の補強布、7は、底面部1の四辺と、四周面部2、3、4をそれぞれ縫合する縫合線である。この実施例において、各部の縁辺に施す縫合には通称でいう拝み縫を採用している。」 【図1】 「 [図:0001413270000001.jpg] 」 【図7】 「 [図:0001413270000002.jpg] 」 (b)刊行物1に記載された発明 上記(a)より、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が、記載されている。なお、各構成に関連する段落番号を、括弧書きで付した。 <刊行物1発明> 正方形に裁断された底面部の周縁上に、正面部、正面部に対向する背面部、正面部と背面部を連続する左右の両側面部からなる四周面部を一連に連続させて、中空の立方体形状に形成した法面構築用の土嚢用袋であって、(段落【0009】、【0011】) 正面部を形成する生地には、織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地が用いられ、その他の部分には、丈夫で目の詰んだ通常の布地が用いられ、(段落【0012】) メッシュ生地で形成されている正面部は、他側面部に比べて通水性、通気性とに優れているので植物の育成に好適する法面を形成し、(段落【0007】) 正面部を織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地で形成したので、袋内に収容する土壌が搬送の途中とか構築の際に該正面部から袋外にこぼれ落ちることを防止でき、(段落【0008】) 底面部、左右の両側面部に縫い付けられて上部に環状を形成する2本の吊下げベルトを有し、(段落【0013】) 上面は開放されていて、袋の口を閉鎖する構造にするか否かは任意であり、(段落【0008】) 2枚の薄い不織布のような基材の間に種子と肥料と好ましくは若干の耕土を挟んで、この基材を正面部の裏面に添わせて袋内に然るべき土壌を収容した後、メッシュ生地で形成されている正面部を表側に向けて法面の横方向と縦方向とに積み並べ、積み重ねるように使用し、(段落【0007】) 法面に沿って斜めに上下に積み重ねた場合に、上段の袋の底部との間に下段の袋の上面が前にでる、(段落【0008】) 種子を挟んだ2枚の薄い不織布の基材を正面部の裏面に添わせた、土嚢用袋。(段落【0007】) b 刊行物2 刊行物2には、次の記載及び図示がある。 「【0027】 保護シート10は、図1に示すように、上部植生用紙16の上にネット18又はわら(図示せず)を配置してもよい。このネット18又はわらは、接着剤によって上部植生用紙16に接着してもよい。ネットが熱可塑性材料で形成されている場合、ヒートローラ又はホットエアを用いてネットを部分的に溶融して接着してもよい。 【0028】 ネット18は、植物の生育を妨げない程度の目合いサイズを有することが好ましい。具体的には、縦・横8~25mmの目合いを有するネットが使用される。また、ネット18の材料は、安価で比較的耐候性の高いポリエチレンを使用することが望ましい。」 「【0033】 図2は、図1に示す保護シート10において、下部不織布12と下部植生用紙17との間に植生材料を収容した、本発明に係る植生体20を示す。この植生体20に含まれる植生材料は、種子21、肥料22、土壌改良材23の少なくとも一つである。また、肥料、土壌改良材の少なくとも一つを、不織布11、12の間に配置することも可能である。」 【図2】 「 [図:0001413270000003.jpg] 」 c 刊行物3 刊行物3には、次の記載及び図示がある。 「【0012】 【実施例】以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。図1は本発明に係る植生体1の部分断面図で、この植生体1において、最上部の被覆材2は、公知の合成樹脂ネット、わらむしろ、天然繊維の網などである。被覆材2の下には、レーヨン、麻、木綿、ウール、絹など微生物に分解される繊維からなるウェブ3、又は紙、パルプにピートモスあるいはバークを混抄した薄層シート、不織布など分解性繊維のシート3’が配置されている。ここで、ウェブ3とは、カード機によって、繊維塊を櫛けずり、繊維にある程度方向性を持たせた薄綿状のものをいう。上記ウェブ3あるいはシート3’は、レーヨンに、分解速度が遅く、湿潤時の見かけ体積変化の小さい未脱脂木綿を混合するというように、微生物に分解される繊維同士を混合して形成してもよい。 【0013】ウェブ3又はシート3’の下面には、少なくとも種子4、肥料5を含む植生材6が、水崩壊性あるいは分解性のホットメルト接着剤からなる被覆層7によって被覆し固定されている。上記植生材6には、植生体1を敷設する現場の条件に応じて適宜、有機質あるいは無機質の土壌改良材や、高吸水性樹脂など保水材を加えてもよい。水崩壊性あるいは分解性のホットメルト接着剤としては、ゼラチン、水溶性のPVAなどを含み、水によって形状が崩れるもの、あるいはポリカプロラクトン、でんぷんなどを原料とする微生物によって分解されるものが好ましい。また、被覆層7は、細長い繊維が絡み合った状態の綿菓子状の薄い層である。従って、植生体1が現場に施工され、降雨によってホットメルト接着剤が崩壊するか、もしくは現場土壌の微生物によってホットメルト接着剤が分解され、種子4は、支障なく発芽生育することができる。」 【図1】 「 [図:0001413270000004.jpg] 」 d 刊行物4 刊行物4には、次の記載及び図示がある。 「3.考案の詳細な説明 本考案は堤防等に敷設する土嚢用袋の改良に係り、その目的とするところは芝生の形成を容易ならしめんとするものである。 以下本考案の一例を図面に基いて説明すれば、(1)は袋主体であり、この袋主体は黄麻を素材として織成されたシートを裁断縫成したものである。 袋主体(1)の一面側にはその内面全面に植生帯(2)が縫着されている。(3)は縫着筋である。 植生帯(2)は柔軟な不織布(a)内に芝生の種子(b)が固定されているものである。 本考案は上記せる如き構成であり、その使用は袋主体(1)内に土を投入し袋口を閉じて土嚢とし之を堤防等の所要面に敷設するのである。 然るときは植生帯の芝生種子が水分を吸収して発芽を良好ならしめると共に芝生種子の流出が有効に防止されるのみならず、袋主体(1)は黄麻よりなるため早期に腐食して芝生の育成を良好ならしめ得るという効果がある。」 「4.図面の簡単な説明 第1図は本考案に係る袋の一部切欠正面図、第2図は同上の縦断側面図であり、第3図は同上要部の拡大縦断側面図である。」 第1図 「 [図:0001413270000005.jpg] 」 第2図 「 [図:0001413270000006.jpg] 」 (イ)対比 本件訂正発明1と、刊行物1発明とを、対比する。 刊行物1発明における「正面部、正面部に対向する背面部、正面部と背面部を連続する左右の両側面部からなる四周面部」、「正方形に裁断された底面部」、及び「中空の立方体形状に形成した法面構築用の土嚢用袋」は、本件訂正発明1における「側面部」、「円形または矩形の底部」、及び「袋本体」に、それぞれ相当する。 刊行物1発明において、「2枚の薄い不織布のような基材の間に種子と肥料と好ましくは若干の耕土を挟んで、この基材を正面部の裏面に添わせ」た「2枚」の「基材」のうち、土嚢用袋の「正面部の裏面」側の「基材」は、「種子」の芽が「薄い不織布」を通過可能であることが明らかであることを踏まえると、本件訂正発明1において、「植物の通芽が可能なシートからなり前記袋本体の内側面に沿うように配置させた基布」に、相当する。 刊行物1発明において、「2枚の薄い不織布のような基材の間」に、「肥料と好ましくは若干の耕土」とともに「種子」が「挟」まれる構成は、「2枚」の「基材」のうち土嚢用袋の「正面部の裏面」側の「基材」に対して、内側面に種子が位置して、保持されることが明らかであるから、本件訂正発明1において、「基布の内側面に植物種子」が「保持」される構成に、相当する。 刊行物1発明において、「メッシュ生地で形成されている正面部」により「植物の育成に好適する法面を形成」するうえで、「正面部の裏面に添わせ」た「2枚の薄い不織布のような基材の間」に「挟」んだ「種子」は、正面部のうち底部等の特定の箇所のみに集中しては不都合であるため、「種子」を分散させて「挟」んでいることが明らかであるから、本件訂正発明1において、「植物種子」が「分散」保持される構成に、相当する。 刊行物1発明において、「種子と肥料と好ましくは若干の耕土を挟」んだ「2枚の薄い不織布のような基材」は、種子から植物を生育させることに役立つシート状の部材であるから、本件訂正発明1において、「植生シート」に、相当する。 刊行物1発明において、「土嚢用袋」の「底面部、左右の両側面部に縫い付けられて上部に環状を形成する2本の吊下げベルト」を備える構成は、本件訂正発明1において、「袋本体は吊り上げ用の吊りベルトを備え」る構成に、相当する。 刊行物1発明において、「中空の立方体形状に形成した法面構築用の土嚢用袋」について、「上面は開放されていて、袋の口を閉鎖する構造にするか否かは任意であ」ることは、「袋内に然るべき土壌を収容」する際に、「上面」の「袋の口」から「土壌を収容」することが明らかであるから、本件訂正発明1において、「開口部から内部に土砂を投入する」構成に、相当する。 刊行物1発明において、「袋内に然るべき土壌を収容した後」の「土嚢用袋」が、「法面の横方向と縦方向とに積み並べ、積み重ねるように使用」でき、「斜めに上下に積み重ねた場合に、上段の袋の底部との間に下段の袋の上面が前にでる」ことは、「土壌を収容」することにより、「立方体形状に形成」した「土嚢用袋」が、「開放されていて、袋の口を閉鎖する構造にするか否かは任意」である「上面」を上とし、「正方形に裁断された底面部」を下として、自立可能となることが明らかであるから、本件訂正発明1において、「土砂を投入することにより、前記開口部に対向する前記底部を下面として自立可能な土嚢を形成できる」構成に、相当する。 刊行物1発明において、「種子を挟んだ2枚の薄い不織布の基材を正面部の裏面に添わせた、土嚢用袋」は、本件訂正発明1において、「緑化土嚢袋」に、相当する。 以上を整理すると、本件訂正発明1と刊行物発明1とは、以下の相違点1ないし3において相違し、その余の点で一致する。 <相違点1> 構成Aに関し、 本件訂正発明1においては、「袋本体」の「側面部」について、「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された側面部」と特定されているのに対し、 刊行物1発明においては、「土嚢用袋」の「四周面部」について、「正面部を形成する生地には、織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地が用いられ、その他の部分には、丈夫で目の詰んだ通常の布地が用いられ」ている点。 <相違点2> 構成Bに関し、 本件訂正発明1においては、「袋本体の内側面に沿うように配置させた基布」について、「植物が通芽可能な目合いを有する基材ネットまたは基材ネットと植物の通芽が可能なシートからなり」と特定されているのに対し、 刊行物1発明においては、「薄い不織布のような基材」である点。 <相違点3> 構成Eに関し、 本件訂正発明1においては、「前記植生シートは袋本体の開口縁部においてのみ、脱落可能に固定してある」のに対し、 刊行物1発明においては、そのように特定されていない点。 (ウ)相違点についての判断 上記相違点1について判断する。 相違点1に係る本件訂正発明1の構成に関し、本件明細書の段落【0026】に「例えば、フラットヤーンクロス等の強度の高い合成樹脂製の布材からなる直径1.1mの略円形の底部10と、この底部10の外周10aに縫合されることにより高さ1.1mの円筒状の側面部を形成する袋用ネット11と、」と記載されていること、及び、【図1】において「底面部10」と筒状の「袋用ネット11」とによって「袋本体3」が構成されていることを踏まえると、本件訂正発明1における「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された側面部と、円形または矩形の底部とを備える袋本体」という構成は、「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える」ネットが、「袋用ネット」として、「袋本体」の全周に渡って「側面部」を形成する構成と、理解することが自然である。 これに対し、刊行物1発明は、「底面部」と「四周面部」とを有する「法面構築用の土嚢用袋」について、「四周面部」のうちの「正面部」によって、「植物の育成に好適する法面を形成」する思想の下に、「正面部を形成する生地」には「織物繊維でほぼ2~3mm角に織ったメッシュ生地」を用いる一方、「その他の部分には、丈夫で目の詰んだ通常の布地」を用いることによって、「メッシュ生地で形成されている正面部は、他側面部に比べて通水性、通気性とに優れている」ようにしたものと、理解することが妥当である。刊行物1発明において、「2枚の薄い不織布のような基材の間に種子と肥料と好ましくは若干の耕土を挟んで、この基材を正面部の裏面に添わせて袋内に然るべき土壌を収容した後、メッシュ生地で形成されている正面部を表側に向けて法面の横方向と縦方向とに積み並べ、積み重ねるように使用」することも、上記の理解と整合する。 そうすると、刊行物1発明において、「四周面部」そのものを「正面部」と同様の「メッシュ生地」で形成し、もって上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、動機付けがない。 この点に関し、刊行物2及び刊行物3は、植物の種子を固定したシートに関するものであって、「底面部」と「四周面部」とを有する刊行物1発明において「正面部」と「他側面部」とに異なる素材を用いた構成を、変更すべきことを、開示あるいは示唆するものではない。 また、刊行物4は、「黄麻を素材として織成されたシートを裁断縫成」した「袋主体(1)」を開示するが、第1図及び第2図の図示、並びに「袋口を閉じて土嚢として之を堤防等の所要面に敷設するのである。」との記載を踏まえると、底面部を有さず寝かせた姿勢で敷設される袋体について、1枚のシートを二つ折りにして下辺と1側辺とを縫成することを示すものであって、「底面部」と「四周面部」とを有する刊行物1発明において「正面部」と「他側面部」とに異なる素材を用いた構成を、変更すべきことを、開示あるいは示唆するものではない。 なお、刊行物4に関する技術常識として言及される、特許権者の土嚢袋「メデルF」に関し、別件侵害訴訟において、被告は、「原告の植生土嚢袋である「メデルF」は、裁断したポリエチレン製の緑色のネットを二つ折りし、左縦縁及び底縁を縫製して製造されている(乙45、乙46、乙52)。」と主張し(別件侵害訴訟の被告準備書面(4)第41頁下から9行-下から7行)、特許権者は、「メデルFは、甲21「メデルF」や乙48「緑の国づくり」37頁に記載されているように、ポリエチレン製のネット生地を幅40cm・長さ60cmの2枚の長方形に裁断して縫製した扁平な袋形状であり、底部や奥行き寸法(マチ)を有せず、吊り上げ用の吊りベルトも有しない従来の小型の土嚢である。」と主張している(別件侵害訴訟の原告準備書面(6)第3頁第16行-第20行)。上記双方の主張からみて、「メデルF」は、刊行物4と同様に、底面部を有さない扁平な袋体に関するものと認められるから、「底面部」と「四周面部」とを有する刊行物1発明において「正面部」と「他側面部」とに異なる素材を用いた構成を、変更すべきことを、開示あるいは示唆するものではない。 そして、本件訂正発明1は、上記相違点1に係る構成により、「四周面部」のうち「正面部」のみに「メッシュ生地」を用い「その他の部分には、丈夫で目の詰んだ通常の布地」を用いた刊行物1発明に比較して、段落【0021】に記載される「前記植生シートは施工後に表となる面に配置され、下および裏となる面には配置しないことが好ましい。すなわち、植生シートを効率よく土嚢の表面に配置させて、無駄なく土嚢の緑化を図ることができる。また、袋本体内に土砂を投入する際も植生シートを設ける部分が小さいほど作業効率が良くなる。」という「植生シート」について、配置の自由度が高まるという効果、及び、段落【0025】に記載される「植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて袋状に縫合して形成された袋本体3」の構成が簡易となるという効果を奏すると、理解される。また、本件訂正発明1は、上記相違点1に係る構成により、段落【0038】に記載される「本実施形態の緑化土嚢2は施工後現地に放置するだけで、緑化土嚢2の表面および上面の至る所から植物24が成長し、緑化土嚢2を用いた施工現地の緑化を図ることができ、この植物24が成長することにより景観が良くなる。なお、成長した植物24の根が緑化土嚢2の内部に張り延されることにより、その植物の根によって土砂22の流出を防止できる。さらにその根が現地の地中に張り延されることにより、さらなる安定性の向上を期待することができる。」という効果を奏すると、理解される。 したがって、刊行物1発明において上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成をとることは、刊行物2ないし4、及び、本件優先日前に販売された特許権者の土嚢袋「メデルF」を考慮しても、当業者にとって容易に想到できたものではない。 上記相違点1が想到容易でないから、上記相違点2及び相違点3について判断するまでもなく、本件訂正発明1は、刊行物1発明、及び、刊行物2ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。 したがって、本件訂正発明1は、無効の抗弁の理由1によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 ウ 無効の抗弁の理由2により、本件訂正発明2ないし5が独立特許要件を満たさないこととなるか否か 本件訂正発明2ないし5のいずれも、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」の発明であるか、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」を用いることを要する方法の発明であるところ、上記イで判断したとおり、本件訂正発明1は無効の抗弁の理由2によって進歩性が否定されるものではないから、本件訂正発明2ないし5についても、無効の抗弁の理由2によって進歩性が否定されるものではない。 したがって、本件訂正発明2ないし5は、無効の抗弁の理由2によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 (5)無効の抗弁の理由3について ア 無効の抗弁の理由3の概要 別件侵害訴訟における無効の抗弁の理由3は、次のものである(別件侵害訴訟における被告準備書面(2)の第35頁-第38頁、及び被告準備書面(4)の第36頁-第39頁における「無効理由3」に関する主張)。 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「前記植生シートは袋本体の開口縁部においてのみ、脱落可能に固定してある」と記載されており、当該構成による作用効果は、本件特許明細書の段落【0015】、【0019】、【0042】及び【0043】の記載から、土砂投入時に礫などの偏りや挟み込みなどによって植生シートに過大な引っ張り力が作用したとき、例えば2kN/m以上の引っ張り力が作用したときに、植生シートに裂け目が発生し、またはステープルが袋本体から外れることにより植生シートが袋本体から脱落し、これにより、植生シートの捩れや皺等による変形が生じにくく、袋本体が歪んで外観が悪くなることを防止できることにある。 しかしながら、固定されたある物と別の物との間に固定強度以上の力が作用すれば、固定が破壊されて脱落することは当然であるところ、例えば土砂投入時にはおよそ作用しえないほどの大きな引っ張り力が作用するような特殊な条件下においてのみ植生シートが脱落可能であっては、上述した作用効果は得られるはずもないから、特許請求の範囲における単に「脱落可能に固定してある」との記載だけでは、本件特許発明の課題を解決する手段の記載として不十分である。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているため、特許法36条6項1号の規定に適合しない。 イ 無効の抗弁の理由3により、本件訂正発明1が独立特許要件を満たさないこととなるか否か (ア)判断基準 特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定するサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 以下、上記の判断基準に基づいて、判断する。 (イ)解決しようとする課題 本件明細書の段落【0007】の記載より、本件明細書において解決しようとする課題は、「容易に大型の土嚢を能率良く形成することができ、早急に土塁や土留めを形成できると共に、長期的には施工後の緑化を図ることができ、さらには積み上げた土嚢の安定化を図ることができる緑化土嚢袋とその緑化土嚢袋を用いた緑化土嚢の形成方法を提供すること、さらには土留および緑化の方法を提供すること」であると、認められる。 (ウ)課題を解決できると認識できるか否か 本件訂正発明1に係る「緑化土嚢袋」は、構成Aないし構成D及び構成Fを備えることにより、「側面部」と「底部」とを有し「開口部」から「土砂を投入」することで「底部を下面として自立可能な土嚢を形成できる」こと、「袋本体」の「側面部」を形成する「袋用ネット」が「植物が通芽可能な目合い」を有し、「袋本体」の「内側面」に「植生シート」が配置されること、「吊りベルト」を備えることから、上記(イ)に認定した、「容易に大型の土嚢を能率良く形成することができ、早急に土塁や土留めを形成できると共に、長期的には施工後の緑化を図ることができ、さらには積み上げた土嚢の安定化を図ることができる」という課題を解決することができると、理解される。 本件訂正発明1が有する構成のうち、上記アの無効の抗弁の理由3で言及される構成Eについて、以下に判断する。 本件訂正発明1の構成Eのうち、「植生シートは袋本体の開口縁部においてのみ」固定してある構成は、構成A及び構成Dを踏まえると「開口部から内部に土砂を投入することにより、前記開口部に対向する前記底部を下面として自立可能な土嚢を形成できるように構成され」る「袋本体」に対して、「植生シート」を固定する箇所を、「袋本体の開口縁部」のみと特定するもので、しかも、開口縁部への固定が容易であることは明らかであるから、上記(イ)に認定した課題のうち、「容易に大型の土嚢を能率良く形成することができ、早急に土塁や土留めを形成できる」という課題の解決に役立つ構成であると、理解することができる。 本件訂正発明1の構成Eのうち、「植生シート」が「脱落可能に」固定してある構成は、構成A、構成B及び構成Dを踏まえると、「土砂を投入するのに必要な強度を備える袋用ネットを用いて形成された側面部」を備える「袋本体」の「内側面に沿うように配置させた」「植生シート」について、「開口部から内部に土砂を投入する」ことを前提として、「土砂を投入するのに必要な強度」を備える「袋本体」から「脱落可能」であることを特定するものである。そうすると、構成Eのうち「植生シート」が「脱落可能に」固定してある構成は、植生シートに過大な力が加わると、植生シートが袋本体の開口縁部から脱落することにより、土砂が袋本体内に均等に収まるように移動し、緑化土嚢袋に植生シートの捩れや引っ張りによる皺が現われることを防止する。このようにして、当該構成は、土嚢を容易に能率良く形成し、かつ、土嚢の安定化にも資すると、理解される。なお、 「脱落」が生じる際の力の値については、かかる課題解決原理を踏まえて、当業者において、適宜設定されるものである。 以上より、本件訂正発明1は、「緑化土嚢袋」として構成Aないし構成D及び構成Fを備えることで、上記(イ)に認定した課題を解決することができると理解され、構成Eについても、上記(イ)に認定した課題の解決に役立つと理解される構成が付加されたとものであるから、構成Aないし構成Fの全体を考慮しても、上記(イ)に認定した課題を解決することができると理解されるものである。 したがって、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 よって、本件訂正発明1は、無効の抗弁の理由3によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 ウ 無効の抗弁の理由3により、本件訂正発明2ないし5が独立特許要件を満たさないこととなるか否か 本件訂正発明2ないし5のいずれも、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」の発明であるか、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」を用いることを要する方法の発明であるところ、上記イで判断したとおり、本件訂正発明1の構成により、本件明細書において解決しようとする課題は解決できると認識されるから、本件訂正発明2ないし5についても、解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものである。 したがって、本件訂正発明2ないし5は、無効の抗弁の理由3によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 (6)無効の抗弁の理由4について ア 無効の抗弁の理由4の概要 別件侵害訴訟における無効の抗弁の理由4は、次のものである(別件侵害訴訟における被告準備書面(4)の第17頁-第21頁における「第3 メデルF(乙45)について」、及び第40頁-第44頁における「無効理由4」に関する主張)。 (ア)優先日前の販売 特許権者の植生土嚢袋「メデルF」は、本件特許出願の優先日(平成26年5月12日)以前に販売されている(別件侵害訴訟における被告準備書面(4)の第18頁第22行-第23行)。 (イ)「メデルF」の構成 本件特許の請求項1及び2に係る発明と関連する構成として、「メデルF」は、次の構成を有する。 (請求項1関係) 3A” 植物が通芽可能な目合いを有し土砂を投入するのに必要な強度を備えるポリエチレン製の緑色のネットを用いて形成された袋主体、および、 3B” 植物が通芽可能な目合いを有するネット上に張り巡らされた糸と植物の通芽が可能な紙のような物からなり前記袋主体の内側面に沿うように配置させた、ネット上に張り巡らされた糸と紙のような物の内側面に植物種子を分散保持させた植生シートを備えるとともに、 3D” 内部に土砂を投入することにより自立可能な土嚢を形成できるように構成され、 3E” 前記植生シートは袋本体の開口縁部においてのみ、両面テープのような物により手で剥がすことができる強度で固定してある 3F” ことを特徴とする緑化土嚢袋。 (請求項2関係) 3G” 前記植生シートは、植物種子の内側面を覆うように植物が通根可能か紙のような物を固着してなる 3H” 前記緑化土嚢袋。 (別件侵害訴訟における被告準備書面(4)の第20頁第6行-第23行、第40頁第1行-第41頁第5行) (ウ)請求項1及び2に係る発明との対比 「メデルF」が有する構成3A”、3B”、3D”、3E”、3F”、3G”及び3H”は、本件特許の請求項1及び2が有する構成のうち、「前記袋本体は吊り上げ用の吊りベルトを備え、」という構成Cを別として、その余の構成において一致する。 両者の相違点は、本件特許の請求項1及び2に係る発明は「袋本体は吊り上げ用の吊りベルトを備え」るのに対し、「メデルF」は吊り上げ用の吊りベルトを有さない点である。 (別件侵害訴訟における被告準備書面(4)の第41頁第6行-第43頁第16行) (エ)相違点の容易想到性 刊行物1(乙第3号証)には、土嚢袋に吊りベルトを設ける構成が開示されており、大型の土嚢袋に吊り上げ用の吊りベルトを備えることは、技術常識であるから、上記(ウ)の相違点は、刊行物1に記載された発明に基づいて、想到容易である。 したがって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、「メデルF」及び刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (別件侵害訴訟における被告準備書面(4)の第43頁第17行-第44頁第18行) イ 無効の抗弁の理由4により、本件訂正発明1が独立特許要件を満たさないこととなるか否か (ア)優先日前の販売 別件侵害訴訟における原告準備書面(6)の第1頁下から4行に、「メデルFが本件特許出願の優先日以前に販売されたことは認める。」と記載されているとおり、特許権者は「メデルF」が本件特許の優先日前に販売されたことを認めているから、当該販売事実の認定はできないものの(関連証拠が提出されていないため。)、以下、双方の主張が一致する点を中心に構成についても検討し、参考としての対比・判断を示すこととする。 (イ)「メデルF」の構成、及び「メデルF」の販売により公然実施され公知となった発明 特許権者は、「メデルF」が構成3A”、3B”、3E”、3F”、3G”及び3H”を有することを認めている(別件侵害訴訟における原告準備書面(6)の第1頁下から4行-同頁最終行)。 特許権者は、「メデルF」が構成3D”を有することについては、争っている(別件侵害訴訟における原告準備書面(6)の第2頁第1行-第3行)。 「メデルF」の構成に関し、別件侵害訴訟において、被告は、「原告の植生土嚢袋である「メデルF」は、裁断したポリエチレン製の緑色のネットを二つ折りし、左縦縁及び底縁を縫製して製造されている(乙45、乙46、乙52)。」と主張している(別件侵害訴訟の被告準備書面(4)第41頁下から9行-下から7行)。また、特許権者は、「メデルFは、甲21「メデルF」や乙48「緑の国づくり」37頁に記載されているように、ポリエチレン製のネット生地を幅40cm・長さ60cmの2枚の長方形に裁断して縫製した扁平な袋形状であり、底部や奥行き寸法(マチ)を有せず、吊り上げ用の吊りベルトも有しない従来の小型の土嚢である。」と主張している(別件侵害訴訟の原告準備書面(6)第3頁第16行-第20行)。 上記双方の主張からみて、「メデルF」は、底面部を有さない扁平な袋体であると認められ、土砂の投入によって自立可能となるかは不明であるから、「メデルF」が構成3D”を有するとは認められない。 以上より、「メデルF」は、上記ア(イ)に示される構成のうち、構成3A”、3B”、3E”、3F”、3G”及び3H”を有すると、認めることができる。 そして、「メデルF」が有する構成3A”、3B”、3E”、3F”、3G”及び3H”は、販売された「メデルF」を購入した者にとって、当該「メデルF」の構造から認識可能な構成であるから、構成3A”、3B”、3E”、3F”、3G”及び3H”を有する発明(以下、「メデルF発明」という。)は、本件特許の優先日前における「メデルF」の販売により、特許法29条1項1号及び2号に掲げる発明となったものである。 (ウ)対比 メデルF発明の構成3A”と、本件訂正発明1の構成Aとは、構成Aのうち本件訂正によって限定された構成を別として、一致する。 メデルF発明の構成3B”は、本件訂正発明1の構成Bに、相当する。 メデルF発明の構成3F”は、本件訂正発明1の構成Fに、相当する。 なお、上記構成3A”、3B”及び3F”の一致または相当関係については、特許権者も認めている(別件侵害訴訟における原告準備書面(6)の第2頁第6行-第7行) メデルF発明の構成3E”に関し、特許権者は、次のように、本件訂正発明1の構成E(本件訂正前の構成「3E」)には相当しない旨を、主張している。 「また、メデルFが本件特許発明の構成要件3Eに対応する構成を有することも否認する。メデルFは本件特許発明にかかる「自立可能」な大型の土嚢ではないため、メデルFを用いて土嚢を作製する際は、人が手作業で土砂を投入するのが通常であり、重機を用いて土砂を投入することは想定されていない。また、メデルFに投入される土砂の重量も「自立可能」な大型の土嚢に比べて非常に小さい。そのため、メデルFが構成3E”を有しているとしても、メデルFにおいて、土砂を投入する際に、植生シートに過大な力がかかるという状況は生じない。 本件特許発明の構成要件3Eの「脱落可能」について、本件特許明細書に記載された実施例には、重機を用いて土砂を投入する際に、植生シートに過大な引っ張り力(例えば2kN/m以上の引っ張り力など)が掛かった場合に植生シートが袋本体から外れること(甲2の3【0043】)が記載されているところ、メデルFではそのような状況は生じない。したがって、「メデルF」の構成3E”は、本件特許発明の構成要件3Eの「脱落可能」という構成に対応するものではない。」(別件侵害訴訟における原告準備書面(6)の第2頁第15行-第29行)。 しかしながら、特許権者が認めるメデルF発明の構成3E”は、「前記植生シートは袋本体の開口縁部においてのみ、両面テープのような物により手で剥がすことができる強度で固定してある」構成であるところ、「両面テープのような物により手で剥がすことができる強度で固定」されたシートは、土砂の投入時も含めて、「手で剥がすことができる強度」以上の力が掛かった場合には外れ得ることが明らかであるから、特許権者の上記主張を考慮しても、メデルF発明の構成3E”により特定される固定強度は、本件訂正発明1の構成Eにおいて「脱落可能に固定してある」と特定される固定強度と、相違するものではない。また、メデルF発明の構成3E”における「袋本体の開口縁部においてのみ」という固定箇所の特定も、本件訂正発明1の構成Eにおける「前記植生シートは袋本体の開口縁部においてのみ」という固定箇所の特定と、相違するものではない。 したがって、メデルF発明の構成3E”は、本件訂正発明1の構成Eに、相当する。 以上より、本件訂正発明1とメデルF発明とは、構成Aのうち本件訂正によって限定された構成を別とした構成、構成B、構成E、及び構成Fにおいて一致し、以下の点で相違する。 <相違点4> 構成A及び構成Dに関し、 本件訂正発明1においては、「袋本体」が「側面部と、円形または矩形の底部とを備える」ものであり、「開口部から内部に土砂を投入することにより、前記開口部に対向する前記底部を下面として自立可能な土嚢を形成できるように構成され」るのに対し、 メデルF発明においては、「側面部と、円形または矩形の底部と」を備えておらず、「開口部から内部に土砂を投入することにより、前記開口部に対向する前記底部を下面として自立可能な土嚢を形成できるように構成され」ていない点。 <相違点5> 構成Cに関し、 本件訂正発明1においては、「前記袋本体は吊り上げ用の吊りベルトを備え」ると特定されているのに対し、 メデルF発明においては、「吊り上げ用の吊りベルト」を有さない点。 (エ)相違点についての判断 上記相違点4について判断する。 上記(イ)に示したように、「メデルF」は、底面部を有さない扁平な袋体であると認められるところ、底面部を有さない扁平な袋状の緑化土嚢袋であるメデルF発明において、底面部と側面部とを有し、土砂を投入することによって底面部を下面として自立可能なものへと、土嚢袋の基本構成を変更すべき動機付けはない。 刊行物1には、上記(4)イ(ア)a(b)に認定した刊行物1発明が記載されており、刊行物1発明に係る土嚢用袋は、上記(4)イ(イ)に対比したとおり、本件訂正発明1において「袋本体」が「円形または矩形の底部」と「側面部」とを備える構成、及び、「開口部から土砂を投入することにより、前記開口部に対向する前記底部を下面として自立可能な土嚢を形成できる」構成に相当する構成に、相当する構成を有している。 しかしながら、上述したとおり、底面部を有さない扁平な袋状の緑化土嚢袋であるメデルF発明において、土嚢袋の基本構成を変更すべき動機付けはないから、刊行物1発明が有する上記構成を採用し、もって上記相違点4に係る本件訂正発明1の構成に至ることが、想到容易ということはできない。 刊行物1発明に限らず、大型の土嚢袋の存在自体が、技術常識であるとしても、メデルF発明において土嚢袋の基本構成を変更すべき動機付けがないことに変わりはないから、上記の判断を変更すべき事情はない。 したがって、メデルF発明において、相違点4に係る本件訂正発明1の構成に至ることは、刊行物1発明、及び、大型の土嚢袋が存在するという技術常識を考慮しても、当業者にとって容易に想到できた事項とはいえない。 上記相違点4が想到容易でないから、上記相違点5について判断するまでもなく、本件訂正発明1は、メデルF発明、及び、刊行物1発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。 よって、本件訂正発明1は、無効の抗弁の理由4によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 ウ 無効の抗弁の理由4により、本件訂正発明2ないし5が独立特許要件を満たさないこととなるか否か 本件訂正発明2ないし5のいずれも、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」の発明であるか、本件訂正発明1の構成を備える「緑化土嚢袋」を用いることを要する方法の発明であるところ、上記イで判断したとおり、本件訂正発明1は無効の抗弁の理由4によって進歩性が否定されるものではないから、本件訂正発明2ないし5についても、無効の抗弁の理由4によって進歩性が否定されるものではない。 したがって、本件訂正発明2ないし5は、無効の抗弁の理由4によって、独立特許要件を満たさないこととなるものではない。 (7)独立特許要件のまとめ 上記(3)ないし(6)のとおり、本件訂正発明1ないし5は、別件侵害訴訟における無効の抗弁の理由1ないし4を考慮しても、独立特許要件を満たさないものではない。 また、その他に本件訂正発明1ないし5について、独立特許要件を満たさないとする理由を発見しない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法126条1項ただし書1項に規定された事項を目的とし、同条第5ないし7項の規定に適合するものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-390013

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